図面を参照して、本実施形態に係る排気ガス浄化装置を搭載するディーゼルエンジン1を説明する。ディーゼルエンジン(以下、エンジン)1は、駆動機構100に接続されている。駆動機構100は、エンジン1によって駆動される走行装置および/または作業装置を示している。エンジン1および駆動機構100は、例えば、バックホーまたはトラクターのような作業車両に搭載される。
図1は、本実施形態に係るエンジン1の構成を示す図である。エンジン1は、吸気経路2、吸気スロットル弁3、シリンダブロック4、排気経路5、排気スロットル弁6、フィルタユニット7、EGR管8、EGRスロットル弁9、過給機10、クランク軸11、および燃料噴射装置13を備えている。
エンジン1は4気筒であり、シリンダブロック4は4つの燃焼室12を有している。吸気経路2は、外部に開放されている吸気管2aと、吸気管2aを4つの燃焼室12に接続する吸気マニホールド2bとからなっている。外気(吸気ガス)は、吸気経路2を介して燃焼室12に導入される。吸気スロットル弁3は、吸気管2a上に配置されており、吸気経路2の開度を変更する。排気経路5は、外部に開放されている排気管5aと、4つの燃焼室12を排気管5aに接続する排気マニホールド5bとからなっている。排気ガスは、排気経路5を介して燃焼室12から大気中に排出される。排気スロットル弁6は、排気管5a上に設けられており、排気経路5の開度を変更する。EGR管(EGR経路)8は、排気経路5を吸気経路2に接続している。排気ガスの一部は、EGR管8を介して吸気経路2に導入され、吸気ガスに合流する。EGRスロットル弁9はEGR管8上に設けられており、EGR管8の開度を変更する。後述のEGRクーラー24(図2)は、EGRスロットル弁9の下流側で、EGR管8上に設けられている。過給機10は、排気管5a上に配置されている排気タービン10aと、吸気管2a上に配置されている圧縮機10bとを備えている。燃料噴射装置13は、コモンレール方式を採用しており、燃料噴射パターンにしたがって、各燃焼室12に燃料を供給する。
フィルタユニット7は、排気経路5上に設けられている。フィルタユニット7は、ディーゼル微粒子捕集フィルタであり、酸化触媒18およびフィルタ19を備えている。酸化触媒18は、排気経路5内でフィルタ19の上流側に配置されている。排気ガスが排気経路5に沿って排出されるとき、排気ガスは酸化触媒18を通過した後、フィルタ19を通過する。排気ガス中に含まれるPM(粒子状物質)は、フィルタ19に捕捉される。
ECU(制御装置)50は、エンジン1の運転に関係する各種装置を制御するように構成されている。
回転速度入力装置14は、目標回転速度を指定するための操作機器である。本実施形態では、回転速度入力装置14は、エンジン1の運転状態を変更するアクセルレバー群を示している。
警告装置15は、オペレータへの各種の警告を実行する。本実施形態では、警告装置15は、複数の異なる警告を表示できる多数のランプ群から構成されている。
ステーショナリ再生ボタン16は、手動の入力操作によって、制御モードをステーショナリ再生モードに変更する指令(ステーショナリ再生モード指令)を発生させる入力装置である。ステーショナリ再生ボタン16は押しボタンであり、指令「有」の状態と、指令「無」の状態とを指定できる。制御モードの内容は、後述する。
図1において、エンジン1は、環境温度センサ31、吸気温度センサ32、初期排気温度センサ33、触媒入口温度センサ34、フィルタ入口温度センサ35、およびEGR温度センサ36を備えている。環境温度センサ31は、圧縮機10bおよび出口8bの上流側で、吸気経路2内の吸気ガスの温度(環境温度)を検出する。吸気温度センサ32は、圧縮機10bおよびEGR管8の出口8bの下流側で、吸気経路2内の吸気ガスの温度(吸気温度)を検出する。初期排気温度センサ33は、排気スロットル弁6、排気タービン10a、およびEGR管8の入口8aの上流側で、排気経路5内の排気ガスの温度(初期排気温度)を検出する。触媒入口温度センサ34は、排気スロットル弁6および排気タービン10aの下流側かつ酸化触媒18の上流側で、排気経路5内の排気ガスの温度(触媒入口温度)を検出する。フィルタ入口温度センサ35は、酸化触媒18の下流側かつフィルタ19の上流側で、排気経路5内の排気ガスの温度(フィルタ入口温度)を検出する。EGR温度センサ36は、EGRクーラー24およびEGRスロットル弁9の下流側で、EGR管8内の排気ガスの温度(EGR温度)を検出する。
図1において、エンジン1は、差圧センサ40、大気圧センサ41、吸気圧力センサ42、および初期排気圧力センサ43を備えている。差圧センサ40は、フィルタ入口圧力センサ40a、およびフィルタ出口圧力センサ40bを備えている。フィルタ入口圧力センサ40aは、酸化触媒18の下流側かつフィルタ19の上流側で、排気経路5内の圧力を検出する。フィルタ出口圧力センサ40bは、フィルタ19の下流側で、排気経路5内の圧力を検出する。差圧センサ40は、フィルタ入口圧力センサ40aおよびフィルタ出口圧力センサ40bによる検出情報に基づいて、フィルタ19の両側間の差圧を検出する。大気圧センサ41は、エンジン1の外部における圧力(大気圧)を検出する。吸気圧力センサ42は、圧縮機10bおよびEGR管8の出口8bの下流側で、吸気経路2内の吸気ガスの圧力(吸気圧力)を検出する。初期排気圧力センサ43は、排気スロットル弁6、排気タービン10a、およびEGR管8の入口8aの上流側で、排気経路5内の排気ガスの圧力(初期排気圧力)を検出する。
図1において、エンジン1は、回転速度センサ51を備えている。回転速度センサ51は、クランク軸11の回転速度(エンジン回転速度)を検出する。
図2は、エンジン1の冷却水回路20の構成を示す図である。冷却水回路20は、水経路21、水ポンプ22、水ジャケット23、EGRクーラー24、およびラジエータ25を備えている。水ポンプ22は水経路21に沿ってエンジン1の冷却水を流す。水ジャケット23はシリンダブロック4内に形成されている。また、エンジン1は、水温センサ26を備えている。水温センサ26は、水ジャケット23の下流側かつラジエータ25の上流側で水経路21を流れる冷却水の温度(冷却水温度)を検出する。
堆積量の推定方法を説明する。堆積量は、フィルタ19に堆積しているPMの量を示している。ECU50は、2通りの推定方法に基づいて、堆積量を推定できる。2通りの推定方法は、計算式推定方法および差圧式推定方法である。
計算式推定方法は、エンジンの運転条件に基づいて、堆積量を推定する方法である。計算式推定方法では、エンジンの運転条件に基づいてPM排出量およびPM再生量が推定され、得られたPM排出量およびPM再生量に基づいて堆積量が推定される。PM排出量は、単位時間において、エンジン1から排出されるPMの量を示している。PM再生量は、単位時間において、再生によりフィルタ19から除去されるPMの量を示している。堆積量は、PM排出量からPM再生量を減じることによって得られる。PM排出量およびPM再生量は、いずれも、エンジンの運転条件に基づいて推定される。PM排出量は基本的にエンジン回転速度および1サイクルの総噴射量に基づいて推定される。PM再生量は排気ガスの流量およびフィルタ入口温度センサ35によって検出されるフィルタ入口温度に基づいて推定される。エンジンの運転条件は、温度センサ31−36によって検出される温度群、圧力センサ41−45によって検出される圧力群、回転速度センサ51によって検出されるエンジン回転速度、および燃料噴射装置13から噴射される総噴射量に基づいて、特定される。
差圧式推定方法は、フィルタ19の両側間の差圧に基づいて、堆積量を推定する方法である。堆積量が増加するにつれてフィルタ19の目詰まりが増加し、フィルタ19の差圧が大きくなる。逆に、堆積量が低下するにつれてフィルタ19の差圧が小さくなる。つまり、差圧式推定方法は、差圧と堆積量との間の相関関係を利用して、堆積量を推定する。なお、厳密には、堆積量は、差圧センサ40によって得られる差圧に、排気ガスの流量による補正を加えることによって得られている。排気ガスの流量は、エンジンの運転条件に基づいて推定される。
図3から図7を参照して、フィルタ19の再生を説明する。以下において、各種の温度(℃)および堆積量(g/L)の数値が列挙されているが、これらの数値は本実施形態において用いられた一例としての数値にすぎない。なお、堆積量の単位g/Lは、単位体積あたりのPMの重量を示している。
フィルタ19の再生は、酸素によるPMの燃焼および二酸化窒素によるPMの酸化によって、行われる。燃焼または酸化により、フィルタ19に堆積したPMが除去される。酸素によるPMの燃焼は、PMの自己着火による燃焼を示している。自己着火は、PMの温度がPMの燃焼温度(400℃)を超える場合に発生する。二酸化窒素はPMに対して酸化剤として機能する。酸化触媒18の温度が所定の活性化温度(300℃)を超えると、酸化触媒18が活性化し、排気ガス中の窒素酸化物から高活性な二酸化窒素が生成される。フィルタ19は酸化触媒18の下流側に設けられているので、酸化触媒18の周辺で生成された二酸化窒素がフィルタ19を通過する。このため、フィルタ19に堆積したPMが酸化され、除去される。なお、触媒入口温度が高温(550℃)以上になると、二酸化窒素が生成されなくなるため、酸素による燃焼のみによって再生が行われる。
触媒入口温度が活性化温度よりも低い場合、二酸化窒素による酸化および酸素による燃焼は発生しない。このため、エンジン1は、触媒入口温度を高めるために、排気絞りおよび燃料噴射パターンの変更を利用する。
図3は、燃料噴射パターンの一例を示す図である。図3において、横軸は噴射時期を示しており、縦軸は噴射量を示している。燃料噴射パターンは、噴射時期および噴射量によって規定された燃料噴射の形態を示している。図3に示される燃料噴射パターンは、プレ噴射、メイン噴射、アフタ噴射、およびポスト噴射を含んでいる。メイン噴射の噴射期間は上死点(TDC)を含んでいる。プレ噴射は、着火性確保のために実行される。メイン噴射は、主燃焼のために実行される。アフタ噴射は触媒入口温度を上昇させるために実行され、ポスト噴射はフィルタ入口温度を上昇させるために実行される。
吸気スロットル弁3に吸気絞りを実行させることにより、エンジン1に掛かる負荷が増大するので、燃料の噴射量(メイン噴射量)が増大する。この結果、触媒入口温度が上昇する。また、燃料噴射装置13に実行させる燃料噴射パターンを変更することにより、トルクを増大させることなく、燃料の総噴射量を増やすことができる。具体的には、メイン噴射のリタードおよび/またはアフタ噴射の使用が行われる。この結果、フィルタ入口温度が上昇する。その上ポスト噴射を含むように燃料噴射パターンが設定されると、更に燃料の総噴射量が増大する。この場合、ポスト噴射で供給された燃料が酸化触媒18で燃焼し、フィルタ入口温度が触媒入口温度に対して大きく上昇する。
図4は、制御モードの一覧表を示す図である。エンジン1は、6つの可能な制御モードを備えている。6つの制御モードは、自己再生モード、アシスト再生モード、リセット再生モード、ステーショナリ待機モード、ステーショナリ再生モード、およびメンテナンス待機モードからなっている。エンジン1が起動されているとき、6つの制御モードのうちのいずれか1つが選択されており、選択された制御モードに基づいてECU50はエンジン1を制御する。これらの制御モードのそれぞれについて、制御条件、開始条件、および終了条件が設定されている。制御条件は、燃料噴射パターンの構成、吸気絞りの絞り量、および目標回転速度の構成からなっている。燃料噴射パターンの構成は、プレ噴射、メイン噴射、アフタ噴射、およびポスト噴射の有無、ならびに、これらの噴射の噴射量および噴射時期を示している。目標回転速度の構成は、目標回転速度の有無およびその大きさを示している。
自己再生モードは、フィルタ19を再生するための特別な制御を実行しない制御モードである。自己再生モードでは、通常運転が実行される。図3に示されるように、自己再生モードにおける燃料噴射パターンは、プレ噴射およびメイン噴射からなっている。通常運転(自己再生モード)中に触媒入口温度が活性化温度よりも高くなれば、フィルタ19の再生が自動的に行われる。
アシスト再生モードは、ポスト噴射を使用することなくフィルタ19を再生するための制御モードである。アシスト再生モードでは、触媒入口温度を上昇させるように燃料噴射パターンが設定され、かつ吸気絞りが使用される。図3に示されるように、アシスト再生モードにおける燃料噴射パターンは、プレ噴射、メイン噴射、およびアフタ噴射からなっている。また、アシスト再生モードにおけるメイン噴射の噴射時期は、自己再生モードにおけるメイン噴射の噴射時期よりも遅延している。メイン噴射の噴射時期の遅延およびアフタ噴射の使用は、トルク発生に寄与する燃料量の割合を低下させ、温度上昇に寄与する燃料量の割合を増大させる。また、吸気絞りは、エンジン1に掛かる負荷を増大させるので、メイン噴射量を増大させる。図3に示されるように、メイン噴射は、圧縮行程および膨張行程に実行される。つまり、アシスト再生モードでは、圧縮行程および膨張行程における総噴射量が増加されている。このため、触媒入口温度が上昇する。
アシスト再生モードは、活性化温度よりも高く燃焼温度よりも低いアシスト目標温度(350℃)に触媒入口温度を到達させることを目的としている。触媒入口温度が活性化温度に到達すると、フィルタ19が緩やかに再生される。しかし、アシスト再生モードでは作業の実行が許可されており、回転速度の変動が想定される。回転速度が変動するとメイン噴射量も変動し、触媒入口温度も変動する。このため、回転速度が低く保たれている場合、触媒入口温度がアシスト目標温度に到達しない。
リセット再生モードは、ポスト噴射を使用してフィルタ19を急速に再生するための制御モードである。リセット再生モードでは、フィルタ入口温度を上昇させるように燃料噴射パターンが設定され、かつ吸気絞りが使用される。図3に示されるように、リセット再生モードにおける燃料噴射パターンは、プレ噴射、メイン噴射、アフタ噴射、およびポスト噴射からなっている。つまり、リセット再生モードにおける制御条件は、アシスト再生モードにおける制御条件に加えて、ポスト噴射の使用を含んでいる。触媒入口温度が活性化温度を超えているときにポスト噴射が実行されると、酸化触媒18で燃料が燃焼する。この結果、排気ガスが更に加熱され、フィルタ入口温度が更に上昇する。
リセット再生モードは、堆積量がほとんどゼロになるように、燃焼温度よりも高いリセット目標温度(600℃)にフィルタ入口温度を到達させることを目的としている。フィルタ入口温度がリセット目標温度(600℃)に到達すると、フィルタ19が比較的短時間で再生される。しかし、リセット再生モードでも作業の実行が許可されており、回転速度の変動が想定される。このため、回転速度が低く保たれている場合、フィルタ入口温度がリセット目標温度に到達しない。
自己再生モード、アシスト再生モード、およびリセット再生モードでは、上述したように回転速度が固定されていないため、触媒入口温度またはフィルタ入口温度が良好に上昇しない場合がある。このような場合、フィルタ19の再生が良好に行われない。このため、フィルタ19の再生が確実に行われるように、ステーショナリ再生モードが設けられている。
ステーショナリ再生モードは、回転速度を所定回転速度に維持しかつポスト噴射を使用して、フィルタ19を急速に再生するための制御モードである。ステーショナリ再生モードでは、フィルタ入口温度を上昇させるように燃料噴射パターンが設定され、吸気絞りが使用され、かつ目標回転速度が所定回転速度に維持される。つまり、ステーショナリ再生モードでは、リセット再生モードにおいて実行される制御に加えて、回転速度が固定されている。所定回転速度は、本実施形態では2200rpmである。ステーショナリ再生モードの制御条件は、フィルタ入口温度が燃焼温度(400℃)よりも高いステーショナリ目標温度(600℃)に到達するように、設定されている。本実施形態では、ステーショナリ目標温度は、リセット目標温度に等しい。
フィルタ入口温度が高くなると、堆積量が減少する速度が増大する。ただし、フィルタ入口温度が高くなりすぎると、フィルタ19が溶けたり、割れてしまう虞がある。このため、ステーショナリ再生モードの実行時間が短時間である所定時間H5a(30分)になるように、ステーショナリ目標温度(600℃)の高さが設定されている。同様に、リセット再生モードの実行時間も短時間である所定時間H3a(30分)になるように、リセット目標温度の高さも設定されている。
ステーショナリ待機モードは、ステーショナリ再生モードの実行を待機するための制御モードである。自己再生モード、アシスト再生モード、およびリセット再生モードで、フィルタ19の再生が良好に行われない場合、上述したようにステーショナリ再生モードを実行する必要がある。しかしながら、ステーショナリ再生モードでは回転速度が所定回転速度に保たれる。作業中に突然ステーショナリ再生モードが実行されることは、急激な回転速度の変動を招くため、好ましくない。このため、オペレータからの指令を待機するために、ステーショナリ待機モードが設けられている。ステーショナリ待機モードでは、ECU50は、ステーショナリ警告を発するように、警告装置15を作動させる。ステーショナリ警告は、オペレータにステーショナリ再生モードの実行を促す警告である。ECU50は、具体的には警告ランプを点灯させる。オペレータはステーショナリ警告を受けると、作業を中止し、必要に応じてエンジン1を搭載する作業車両を作業場所から別の場所に移動させる。その後、オペレータは、ステーショナリ再生ボタン16を介してステーショナリ再生指示を入力する。ステーショナリ再生指示が入力されると、ステーショナリ再生モードが開始される。
EGR(排気再循環)は、自己再生モードでは使用可能である。一方、アシスト再生モード、リセット再生モード、およびステーショナリ再生モードでは、EGRは使用されない。これらの制御モードでは総噴射量が増量されており、未燃炭化水素の発生量も増加する。つまり、未燃炭化水素がEGR管8に付着するのを防止するために、これらの制御モードではEGRが使用されない。
図5は、自己再生領域、再生可能領域、および再生不可能領域を示す図である。図5において、横軸はエンジン1の回転速度を示しており、縦軸は負荷(トルク)を示している。図5にエンジン1の出力特性カーブが描かれており、この出力特性カーブ内の領域が、自己再生領域、再生可能領域、および再生不可能領域に分割されている。第1境界線L1は、自己再生領域と再生可能領域との境界を示している。第2境界線L2は、再生可能領域と再生不可能領域との境界を示している。第1境界線L1は、通常運転における触媒入口温度が活性化温度(300℃)であるときの回転速度−トルクカーブを示している。つまり、自己再生領域は、触媒入口温度が活性化温度以上である領域を示している。回転速度およびトルクが自己再生領域内にあるとき、特別な制御を行うことなくフィルタ19が再生されている。つまり、自己再生領域は、自己再生モードにおいて必ずフィルタ19が再生される領域を示している。第2境界線L2は、通常運転における触媒入口温度が再生限界温度にあるときの回転速度−トルクカーブを示している。リセット再生モードの実行により触媒入口温度が上昇する。しかし、通常運転における触媒入口温度が低すぎるとリセット再生モードが実行されても触媒入口温度が活性化温度に到達しない。再生限界温度は、活性化温度に到達可能な触媒入口温度の下限値を示している。再生可能領域は、触媒入口温度が活性化温度より低く、再生限界温度以上である領域を示している。回転速度およびトルクが再生可能領域内にあるとき、アシスト再生モードまたはリセット再生モードが実行されれば、フィルタ19の再生が可能である。再生不可能領域は、触媒入口温度が再生限界温度よりも低い領域を示している。回転速度およびトルクが再生不可能領域内にあるとき、アシスト再生モードおよびリセット再生モードのいずれが実行されても、フィルタ19の再生は不可能である。
ステーショナリ再生モードでは、回転速度が所定回転速度R0に維持される。図5において、回転速度が所定回転速度R0以上である場合、再生不可能領域は存在しない。このため、ステーショナリ再生モードでは、触媒入口温度が必ず活性化温度に到達し、フィルタ19の再生が必ず行われる。所定回転速度R0は、図5に示されるような実験的に得られた出力特性カーブに基づいて特定される。
図6を参照して、制御モードの変更に応じた堆積量の時間変化の一例を説明する。図6は、堆積量の時間変化の一例を示す図である。図6において、横軸はエンジン1の連続運転時間(hr)であり、縦軸は堆積量(g/L)である。なお、説明の便宜を考慮して制御の遅れによる時間差は無視している。
時刻T0から時刻T1まで、自己再生モード(通常運転)が実行されており、堆積量が増加している。時刻T1に堆積量がアシストしきい値A2(8g/L)に到達しており、制御モードが自己再生モードからアシスト再生モードに変更される。堆積量がアシストしきい値A2以上になることは、アシスト再生モードの開始条件の1つである。時刻T1から時刻T2まで、アシスト再生モードの制御により、堆積量が減少している。時刻T2に堆積量が許容しきい値A1(6g/L)に到達しており、制御モードがアシスト再生モードから自己再生モードに変更される。堆積量が許容しきい値A1よりも小さくなることは、自己再生モードの開始条件の1つである。時刻T2から時刻T3まで自己再生モードが実行されており、堆積量が増加する。また、時刻T3から時刻T4までアシスト再生モードが実行されており、堆積量が減少する。このように、基本的には、自己再生モードおよびアシスト再生モードが交互に繰り返し実行される。この結果、堆積量の増大が抑制される。
時刻T5は、時刻T4よりも後の時刻を示している。時刻T5から時刻T6まで自己再生モードが実行されており、堆積量が増加している。時刻T6に連続運転時間が許容連続時間Hd(100時間)に到達しており、制御モードが自己再生モードからリセット再生モードに変更される。連続運転時間が許容連続時間Hdを超えることは、リセット再生モードの開始条件の1つである。時刻T6から時刻T7までリセット再生モードが実行されており、堆積量が大きく減少し、ほとんどゼロになっている。リセット再生モードが終了すると、連続運転時間が0時間にリセットされる。時刻T0および時刻T6は、連続運転時間が0時間の時刻を示している。
時刻T8は、時刻T7よりも後の時刻を示している。時刻T8から時刻T9まで制御モードが自己再生モードに保たれており、堆積量が増加している。時刻T9に堆積量がアシストしきい値A2(8g/L)に到達しており、制御モードが自己再生モードからアシスト再生モードに変更される。時刻T9から時刻T10まで制御モードがアシスト再生モードに保たれている。しかし、アシスト再生モードが実行されているにも拘わらず、堆積量が増加している。上述したように、例えば回転速度が低い場合にこのような状況が発生する。このため、時刻T10に、堆積量がステーショナリしきい値A3(10g/L)に到達しており、制御モードがアシスト再生モードからステーショナリ待機モードに変更される。ステーショナリ待機モードでは、ステーショナリ警告が発せられている。オペレータは、ステーショナリ警告に応じて、ステーショナリ再生モードを実行させるために例えば作業の中止を決定する。時刻T11に、ステーショナリ再生モード指令が手動で入力されており、制御モードがステーショナリ待機モードからステーショナリ再生モードに変更される。時刻T11から時刻T12までステーショナリ再生モードが実行されており、堆積量が大きく減少し、許容しきい値A1(6g/L)よりも小さくなっている。
次に、メンテナンス待機モードを説明する。制御モードがステーショナリ再生モードに変更されれば、通常、フィルタ19の再生は確実に行われる。しかし、ステーショナリ再生モードへの変更は手動により行われる。このため、ステーショナリ再生モードが実行されないまま、エンジン1の駆動が継続すると、堆積量が過剰になってしまう。堆積量が過剰になっているときにリセット再生モードまたはステーショナリ再生モードが実行されると、フィルタ19上のPMが連鎖的に燃焼する虞がある。以下、この連鎖的な燃焼を、急激な再生と呼ぶ。急激な再生に伴って高熱が発生するため、その高熱によりフィルタ19が溶けてしまう、あるいは割れてしまう虞がある。そこで、過剰な堆積の発生時にフィルタ19の再生を禁止するための制御モードとして、メンテナンス待機モードが設けられている。
堆積量がメンテナンスしきい値を超えている場合、制御モードがメンテナンス待機モードに変更される。メンテナンスしきい値A4(12g/L)は、アシストしきい値A2(8g/L)およびステーショナリしきい値A3(10g/L)よりも大きな値である。ステーショナリ待機モードと同様に、オペレータからの指令を待機するために、メンテナンス待機モードが設けられている。メンテナンス待機モードでは、ECU50は、メンテナンス警告を発するように、警告装置15を作動させる。メンテナンス警告は、オペレータにエンジン1のメンテナンスの実行を促す警告である。ECU50は、具体的には警告ランプを点灯させる。オペレータはメンテナンス警告を受けると、必要に応じてエンジン1を搭載する作業車両を作業場所から別の場所に移動させ、エンジン1の駆動を停止させる。
図7は、制御モードの遷移を示すフロー図である。図7において、ECU50は、制御モードとして、自己再生モードM1、アシスト再生モードM2、リセット再生モードM3、ステーショナリ待機モードM4、ステーショナリ再生モードM5、およびメンテナンス待機モードM6のいずれか1つを選択する。各制御モードは、所定の開始条件が満たされると開始され、所定の終了条件が満たされると終了し、別の制御モードに移行する。基本的には、堆積量の増加または減少に伴って、制御モードの遷移が発生する。
図7において、実線および破線の矢印で示される条件は、堆積量の判定条件を含んでいる。堆積量の推定は、上述したように、計算式推定方法および差圧式推定方法に基づいて行われる。堆積量が増加すると差圧式推定方法による推定の精度は低下するため、堆積量が比較的大きい場合には差圧式推定方法は用いられない。一方、堆積量が比較的小さい場合には、計算式推定方法および差圧式推定方法の双方が用いられる。実線の矢印は、計算式推定方法および差圧式推定方法の双方が用いられる場合を示している。破線の矢印は、計算式推定方法のみが用いられる場合を示している。また、二点鎖線の矢印で示される条件は、堆積量以外の判定条件を示している。
エンジン1が起動されたとき、まず、自己再生モードM1が制御モードとして選択される。
自己再生モードM1において条件C1が満たされる場合、制御モードが自己再生モードM1からアシスト再生モードM2に変更される。条件C1は「堆積量≧アシストしきい値A2(8g/L)」である。アシスト再生モードM2において条件C2または条件C3が満たされる場合、制御モードは、アシスト再生モードM2から自己再生モードM1に変更される。条件C2は「アシスト再生モードM2の実行時間≧所定時間H2a(30分)」である。条件C3は、「堆積量<許容しきい値A1(6g/L)」である。
自己再生モードM1において条件C4が満たされる場合、制御モードが自己再生モードM1からリセット再生モードM3に変更される。条件C4は「連続運転時間≧許容連続時間Hd(100時間)」である。アシスト再生モードM2において条件C5または条件C6が満たされる場合、制御モードがアシスト再生モードM2からリセット再生モードM3に変更される。条件C5は「連続運転時間≧許容連続時間Hd(100時間)」である。条件C6は「堆積量≧アシストしきい値A2(8g/L)、かつアシスト再生モードM2の実行時間≧所定時間H2c(10分)」である。また、リセット再生モードM3において条件C7または条件C8が満たされる場合、制御モードがリセット再生モードM3から自己再生モードM1に変更される。条件C7は「リセット再生モードの有効時間≧所定時間H3b(25分)」である。リセット再生モードM3の有効時間は、リセット再生モードM3の実行中にフィルタ入口温度がリセット目標温度(600℃)以上に保たれる時間を示している。ECU50は、フィルタ入口温度センサ35の検出情報に基づいて、有効時間を計測する。条件C8は「リセット再生モードの実行時間≧所定時間H3a(30分)」である。
アシスト再生モードM2において条件C9が満たされる場合、制御モードがアシスト再生モードM2からステーショナリ待機モードM4に変更される。条件C9は「堆積量≧ステーショナリしきい値A3(10g/L)」である。リセット再生モードM3において条件C10または条件C11が満たされる場合、制御モードがリセット再生モードM3からステーショナリ待機モードM4に変更される。条件C10は「堆積量≧ステーショナリしきい値A3(10g/L)」である。条件C11は「堆積量≧アシストしきい値A2(8g/L)、かつリセット再生モードの実行時間≧所定時間H3c(10分)」である。
ステーショナリ待機モードM4において条件C12が満たされる場合、制御モードはステーショナリ待機モードM4からステーショナリ再生モードM5に変更される。条件C12は「ステーショナリ再生モード指令:有」であり、オペレータによってステーショナリ再生ボタン16を介してステーショナリ再生指示が入力されることを示している。
ステーショナリ再生モードM5において条件C13または条件C14が満たされる場合、制御モードはステーショナリ再生モードM5から自己再生モードM1に変更される。条件C13は「ステーショナリ再生モードM5の有効時間≧所定時間H5b(25分)」である。ステーショナリ再生モードM5の有効時間は、ステーショナリ再生モードM5においてフィルタ入口温度がステーショナリ目標温度(600℃)以上に保たれる時間を示している。条件C14は「ステーショナリ再生モードM5の実行時間≧所定時間H5a(30分)」である。なお、ステーショナリ再生モードM5では回転速度が所定回転速度(2200rpm)に保たれているため、外気温度が特別に低い場合などを除き、条件C13が満たされる。
ステーショナリ待機モードM4において条件C15または条件C16が満たされる場合、制御モードはステーショナリ待機モードM4からメンテナンス待機モードM6に変更される。条件C15は「ステーショナリ待機モードM4の実行時間≧所定時間H4a(10時間)」である。条件C16は「堆積量≧リカバリしきい値A4(12g/L)」である。また、ステーショナリ再生モードM5において条件C17が満たされる場合、制御モードはステーショナリ再生モードM5からメンテナンス待機モードM6に変更される。条件C17は「堆積量≧アシストしきい値A2(8g/L)、かつステーショナリ再生モードの実行時間≧所定時間H5a(30分)」である。
図8は、再生要求に基づいて実行される処理フローを示すフロー図である。図8のフロー図に含まれる各処理(ステップ)は、ECU50が実行する処理である。ステップS1はエンジン1の始動を示している。ステップS1の次にステップS2が実行される。ステップS2では、再生要求が発生しているか否かが判定される。再生要求は、上述の各再生モードの開始条件が満たされると発生し、各再生モードの終了条件が満たされると消失する。再生要求は、開始条件が満たされている再生モードの実行をECU50に求める。例えば、アシスト再生モードの開始条件が満たされる場合、アシスト再生モードの実行を求める再生要求が発生する。同様に、リセット再生モードの実行を求める再生要求や、ステーショナリ再生モードの実行を求める再生要求も存在する。再生要求が発生している場合、ステップS3が実行され、再生要求が発生していない場合、ステップS4が実行される。
ステップS3では、エンジン1の運転モードが再生運転モードに移行し、ステップS4では、エンジン1の運転モードが通常運転モードに移行する。運転モードは、通常運転モードおよび再生運転モードのいずれか一方を取る。通常運転モードは、再生要求が発生していない運転モードであり、再生運転モードは、再生要求が発生している運転モードである。運転モードが通常運転モードにあるとき、制御モードは、自己再生モード、ステーショナリ待機モード、およびメンテナンス待機モードのいずれか1つに保たれている。一方、運転モードが再生運転モードにあるとき、制御モードは、自己再生モード、アシスト再生モード、リセット再生モード、およびステーショナリ再生モードのいずれか1つに保たれている。このため、自己再生モードは、通常運転モードおよび再生運転モードのどちらにも発生しうる。
ステップS3において、運転モードは通常運転モードから再生運転モードへ移行する。ステップS3の段階では、制御モードは自己再生モードに保たれている。
ステップS3で運転モードが再生運転モードに移行すると、吸気温度の判定が行われ(ステップS5、S6)、吸気温度の判定に基づいて、排気スロットル弁6の可変制御が実行される(ステップS7−S9)。これらを順に説明する。まず、ステップS3の後に、ステップS5が実行される。ステップS5では、吸気温度が低温しきい値(−20℃)よりも低いか否かが判定される。吸気温度が−20℃よりも低い場合、ステップS7が実行される。吸気温度が−20℃以上の温度である場合、ステップS6が実行される。ステップS6では、吸気温度が高温しきい値(25℃)よりも低いか否かが判定される。吸気温度が25℃よりも低い場合、ステップS8が実行される。吸気温度が25℃以上の温度である場合、ステップS9が実行される。
ステップS7が実行される場合は、吸気温度が第1温度範囲内にある場合である。第1温度範囲は、低温しきい値(−20℃)よりも低い温度の範囲を指している。ステップS8が実行される場合は、吸気温度が第2温度範囲内にある場合である。第2温度範囲は、低温しきい値(−20℃)から高温しきい値(25℃)までの温度の範囲を指している。ステップS9が実行される場合は、吸気温度が第3温度範囲内にある場合である。第3温度範囲は、高温しきい値(25℃)以上の温度の範囲を指している。
ステップS7−S9では、開度マップに基づく排気経路の開度の可変制御が開始される。ステップS7−S9のそれぞれで、異なる開度マップに基づく制御が開始される。ステップS7では、第1開度マップに基づいて排気スロットル弁6が可変に制御される。ステップS8では、第2開度マップに基づいて排気スロットル弁6が可変に制御される。ステップS9では、第3開度マップに基づいて排気スロットル弁6が可変に制御される。ECU50は、第1、第2、第3開度マップを記憶している。
図9は、第2開度マップの一例を示す図である。図9において、横軸はエンジン1の回転速度を示しており、縦軸は1サイクルにおける総噴射量を示している。図9に描かれる曲線は、等開度線、すなわち同一の開度に対応する回転速度および総噴射量を要素とする2次元座標の集合である。開度マップは、エンジン1の回転速度、総噴射量、および開度の対応関係を示している。第2開度マップは、総噴射量が減少するにつれて開度が小さくなるように設定されている。排気経路5の開度が小さくなるとエンジン1に掛かる負荷が増大し、回転速度を一定に保つように制御されている場合、総噴射量の増大を招く。つまり、第2開度マップは、総噴射量の減少に応じて総噴射量を増大させるように、設定されている。
第1、第3開度マップも、第2開度マップと同様に作成されている。第1、第2、第3開度マップはいずれも、総噴射量の減少に応じて総噴射量を増大させるように、設定されている。
また、第1、第2、第3開度マップは、吸気温度が低くなるにつれて排気経路5の開度が小さくなるように、設定されている。同一回転速度及び同一噴射量において、第1開度マップの開度は第2開度マップの開度よりも小さく、第3開度マップの開度は第2開度マップの開度よりも大きい。吸気温度が低下すると初期排気温度も低下するが、これに応じて開度が小さくされるとエンジン1に負荷が掛かり、燃料噴射量が増大する。この結果、初期排気温度が上昇する。外気温度による初期排気温度の低下が、開度の制御により防止される。
再び図8を参照する。ステップS5−S6において、ECU50は、吸気温度に対応する開度マップを、第1、第2、第3開度マップの中から選択する。ステップS7−S9において、ECU50は、選択された開度マップに基づいて、排気経路5の開度が回転速度センサ51で得られた回転速度および自らが設定した総噴射量に対応するように、排気スロットル弁6を制御する。
ステップS7−S9のいずれかが完了すると、ステップS10が実行される。ステップS10では、冷却水温度が暖機水温(60℃)以上であるか否かが判定される。暖機水温は、エンジン1が暖機状態にあるとみなされるときの冷却水温度であり、本実施形態では60℃である。冷却水温度が60℃より低い場合、ステップS3が再度実行され、冷却水温度が60℃以上である場合、ステップS11が実行される。
冷却水温度が60℃を超えるまで、ステップS5−S10が繰り返し実行される。ステップS11が実行されることなくステップS5−S10が繰り返し実行されている間、制御モードは自己再生モードに保たれている。冷却水温度が60℃より低い間は、排気スロットル弁6の可変制御のみが実行され、燃料噴射制御及び吸気スロットル弁3の制御は行われない。これは、例えば、始動直後のようにエンジン1が冷態状態にあるときに再生要求が発生し、その再生要求に対応する再生モードの実行を待機しながら自己再生モードが実行されている状況を指している。
ステップS11では、冷却水温度が60℃を超えているため、ECU50は、燃料噴射制御および吸気スロットル弁3の制御を開始する。ここで、排気スロットル弁6の可変制御は、既に開始されている。このため、ステップS11で、再生要求に対応する再生モードが開始される。燃料噴射制御では、再生モードに対応する燃料噴射パターンが設定される。吸気スロットル弁3の制御では、吸気経路2の開度が通常運転における開度よりも小さくされる。排気スロットル弁6の可変制御では、上述したように排気経路5の開度が可変に制御される。
ステップS11の後に、ステップS12が実行される。ステップS11では、再生要求に対応する再生モードが終了しているか否かが判定される。再生モードが終了している場合、ステップS4が実行され、再生モードが終了していない場合、ステップS5が実行される。再生モードが終了するまで、ステップS5、S7、S10−S12が繰り返し実行され、運転モードが再生運転モードに保たれる。
ステップS4では、運転モードが通常運転モードに移行する。通常運転モードでは、制御モードが基本的に自己再生モードに変更される。なお、堆積量の大きさや再生モードの実行時間などに応じて、制御モードが、自己再生モードの代わりに、ステーショナリ待機モードまたはメンテナンス待機モードに変更される場合もある。ステップS4の後に、再びステップS2が実行される。再生要求が発生しない限り、ステップS2、S4が繰り返し実行され、運転モードが通常運転モードに保たれる。
図8に示される処理フローにおいて、排気経路5の開度は常に可変に制御されている。つまり、フィルタ19の再生要求が発生しているときにアイドル運転および非アイドル運転のどちらが実行されていても、排気経路5の開度が可変に制御される。なお、非アイドル運転は、アイドル運転ではない運転を示している。
本実施形態に係る排気ガス浄化装置は、次の構成により、次の効果を有している。
(1)本実施形態に係る排気ガス浄化装置は、エンジン1の排気経路5内に配置されている酸化触媒18およびフィルタ19と、前記排気経路5の開度を変更する排気スロットル弁6と、前記排気スロットル弁6を制御するように構成されている制御装置(ECU50)と、を備えている。前記フィルタ19の再生要求が発生した場合、吸気温度が低くなるにつれて前記排気経路5の前記開度が小さくされる。前記フィルタ19の再生要求が発生しているときにアイドル運転および非アイドル運転のどちらが実行されていても、前記排気経路5の開度が可変に制御される。
吸気温度が低くなるにつれて排気経路5の開度が小さくなるので、外気温度が高い環境では初期排気温度の上昇が抑制され、外気温度が低い環境では初期排気温度の上昇が促進される。このため、本実施形態に係る排気ガス浄化装置は、外気温度による初期排気温度の変動を抑制できる。
(2)本実施形態に係る排気ガス浄化装置は、燃料噴射パターンにしたがって燃料を噴射する燃料噴射装置を備えている。前記制御装置(ECU50)は、前記燃料噴射パターンを設定するように構成されている。前記フィルタ19の再生要求が発生しかつ前記エンジン1の冷却水温度が暖機水温以上であるとき、昇温パターンが設定される。前記昇温パターンは、圧縮行程および膨張行程における総噴射量が増やされている前記燃料噴射パターンである。前記暖機水温は、前記エンジン1が暖機状態にあるとみなされるときの前記冷却水温度であり、アイドル運転が継続することによって前記冷却水温度が収束するアイドル水温よりも所定温度幅だけ高い。
エンジン1が暖態状態になると、フィルタ19を再生するために、燃料の総噴射量が、通常運転における総噴射量よりも増加される。つまり、不完全燃焼を発生させやすい冷態状態では、フィルタ19を再生するための燃料の噴射が抑制されている。このため、本実施形態に係る排気ガス浄化装置は、未燃炭化水素の放出を防止しながら、フィルタ19の再生を実行できる。
(3)前記排気経路5の前記開度は、前記総噴射量が減少するにつれて小さくされる。
総噴射量が減少する初期排気温度の低下時に、開度を小さくすることによって総噴射量を増大させるようにエンジン1に負荷が加えられる。このため、本実施形態に係る排気ガス浄化装置は、初期排気温度の上昇速度を高めることができる。
(4)前記制御装置(ECU50)は、対応する吸気温度の範囲が異なる複数の開度マップ(第1、第2、第3開度マップ)を記憶している。前記複数の開度マップのそれぞれは、前記エンジンの回転速度、前記総噴射量、及び前記排気経路5の前記開度の対応関係を示している。前記複数の開度マップの中から前記吸気温度に対応する前記開度マップが選択され、選択された前記開度マップに基づいて、前記排気経路5の前記開度は、前記回転速度及び前記総噴射量に対応する開度に変更される。
開度マップに基づいて、吸気温度が低くなるにつれて前記排気経路5の前記開度が小さくされる。このため、本実施形態に係る排気ガス浄化装置は、吸気温度に対応する制御を、制御に要する負荷を増大させることなく実現できる。
本実施形態に係るエンジン1は、次の変形を採用できる。
エンジン1において、過給機10およびEGR装置(EGR管8、EGRスロットル弁9、EGRクーラー24)は、必須の構成要素ではない。エンジン1は、過給機10および/またはEGR装置を備えていなくても良い。エンジン1が過給機10および/またはEGR装置を備えていない場合、吸気温度は環境温度に概ね等しく、初期排気温度は触媒入口温度に概ね等しい。