作業車両の一例としてトラクタにおける実施例を以下に説明する。なお、本明細書において作業車両の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向を前、後進方向を後という。
トラクタ1は、図1に示すように、機体の前後部に前輪2,2と後輪3,3を備え、機体の前部に搭載したエンジン5のエンジン出力軸20の回転をミッションケース8内の変速装置によって適宜減速して、これら前輪2,2と後輪3,3に伝えるように構成している。後輪3,3については、クローラでもよい。
機体中央でのハンドルポスト6にはステアリングハンドル7が設けられ、その後方にはシート9が設けられている。ステアリングハンドル7の下方左側には、機体の進行方向を前進方向と後進方向に切り換える前後進レバー10が設けられている。この前後進レバー10を前側にシフトすると機体は前進し、後側へシフトすると後進する構成である。前後進レバー10は、ステアリングハンドル7を把持したまま指先で操作できる構成としている。
このため、ハンドルポスト6から突出した前後進レバー10の突出部10a(図7)は、屈折部10bを有して上方へ向かい把持部10cを有している。このため、把持部10c部分は、ステアリングハンドル7を把持したままの状態で、指先で操作できる。前後進レバー10を少し引き上げて前方へ移動させると前進位置となり、前後進レバー10を少し引き上げて後方へ移動させると後進位置となる。
また、ハンドルポスト6を挟んで前後進レバー10の反対側にはエンジン回転数を調節するアクセルレバー11が設けられ、またステップフロア13の右コーナー部には、同様にエンジン回転数を調節するアクセルペダル18と、左右の後輪3,3のそれぞれに設けるブレーキ135L、135R(図2)を作動させる左ブレーキペダル19Lと右ブレーキペダル19Rが設けられている。
左ブレーキペダル19Lと右ブレーキペダル19Rを一体的に連結するブレーキ連結杆94を設け、このブレーキ連結杆94で連結した状態で左ブレーキペダル19Lか右ブレーキペダル19Rのどちらかを踏み込むとトラクタ1の走行が停止するが、その停止制御については後述する。
ブレーキ連結杆94を非連結の状態にすると、左ブレーキペダル19Lと右ブレーキペダル19Rは独立して使用可能となり、圃場内での旋回時に旋回内側のブレーキペダル19L又は19Rを踏み込み操作することで、旋回半径を小さくして旋回できる(手動のブレーキターン)。
ハンドルポスト6を挟んで左ブレーキペダル19Lと右ブレーキペダル19Rの反対側には、クラッチペダル1002を設けている。
ハンドルポスト6上部のステアリングハンドル7の前側に図6に示すフロントメータパネル16が設けられており、このフロントメータパネル16の中央部に液晶表示部1001を設けている。液晶表示部1001の左側にタコメータ136を設け、液晶表示部1001の右側に表示灯パネル145を設けている。
エンジン回転数がタコメータ136に表示され、表示灯パネル145にノークラ表示灯146と低圧警告灯147を設けている。また、図7のように、ハンドルポスト6の左下部にノークラッチ設定スイッチ126を設けている。このノークラッチ設定スイッチ126の右側には表示切換スイッチ1000を設けており、この表示切換スイッチ1000を押し操作する毎に、前記液晶表示部1001に表示される内容が切り換わる構成としている。
また、一速から八速まで変速する主変速レバー14はシート9の左前側部にあり、超低速、低速、中速、高速の四段及び中立のいずれかの位置を選択できる副変速レバー(変速操作手段)15はその後方にあり、さらにその右側に四段に変速するPTO変速レバー12を設けている。トラクタ1の機体後部には、ロータリ作業機17を装着して、ミッションケース8から後方へ突出するPTO出力軸111で駆動するようにしている。
図2は、ミッションケース8内の変速装置の動力伝動機構を示す伝動線図で、エンジン5から前輪2と後輪3及びロータリ作業機17へのPTO出力軸111への変速伝動機構を説明する。
エンジン5のエンジン出力軸20の回転がミッションケース8内のミッション入力軸21に伝動される。このミッション入力軸21に固着の第一入力ギヤ22と第二入力ギヤ23がそれぞれ第一高・低クラッチ24の第一低速ギヤ26と第二高・低クラッチ25の第二低速ギヤ27及び第一高・低クラッチ24の第一高速ギヤ30と第二高・低クラッチ25の第二高速ギヤ31に噛み合って回転を伝動している。
そして、第一高・低クラッチ24を第一低速ギヤ26側に繋ぐと第一低速ギヤ26から第一クラッチ軸28に伝動され、第一高速ギヤ30側に繋ぐと第一高速ギヤ30から第一クラッチ軸28に伝動され、第二高・低クラッチ25を第二低速ギヤ27側に繋ぐと第二低速ギヤ27から第二クラッチ軸29に伝動され、第二高速ギヤ31側に繋ぐと第二高速ギヤ31から第二クラッチ軸29に伝動される。
第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25は同一の油圧多板クラッチで、それぞれミッション入力軸21の回転を同一減速比で高・低の二段に減速して第一クラッチ軸28と第二クラッチ軸29に伝動することになる。
また、図4に示すように、第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25は、潤滑オイルに浸かり、その第一クラッチ軸28と第二クラッチ軸29が潤滑オイルの液面OLより若干上に位置している。
更に、図3に示すように、第一クラッチ軸28と第二クラッチ軸29をミッションケース8に支持する前仕切壁181に形成した肉盛部181aにケースの左右開口部側からドリルで加工した給油孔8bを設けて、この給油孔8bから第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25の軸に給油している。
また、図5に示すように、第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25は、ミッションケース8の下り傾斜部8cの下部で、左右に配置している。
図2に示す第一クラッチ軸28に固着の第一ギヤ113が低速伝動軸34に固着の第二ギヤ35と噛み合って減速して伝動され、第二クラッチ軸29に固着の第三ギヤ149が高速伝動軸32に固着の第四ギヤ33と噛み合って増速して伝動される。
ここまでの変速伝動で、低速伝動軸34が低速で二段に、高速伝動軸32が高速で二段にそれぞれ変速されることで、計四段に変速されることになる。
そして、低速伝動軸34と高速伝動軸32の回転がそれぞれ第一シンクロチェンジ42と第二シンクロチェンジ36に伝動され、第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ小ギヤ43と第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ小ギヤ37が第一伝動軸39の第五ギヤ40と噛み合い、第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ大ギヤ44と第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ大ギヤ38が第一伝動軸39の第六ギヤ41と噛み合って伝動する。
第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ小ギヤ43と第一シンクロギヤ大44及び第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ小ギヤ37と第二シンクロ大ギヤ38は、全く同一のギヤで、低速伝動軸34が低速回転し高速伝動軸32が高速回転しているので、第一シンクロチェンジ42を切換えると低速でさらに二段に変速され、第二シンクロチェンジ36を切換えると高速でさらに二段に変速される。即ち、ミッション入力軸21の回転が第一伝動軸39で低速四段と高速四段に変速されることになる。
第一シンクロチェンジ42と第二シンクロチェンジ36はシフタステーとシフタをサブ組付けしてミッションケース8内に収められ、その変速操作部のケース開口部がケースの左右側面に設けられ、ミッションケース8の潤滑オイルの液面OLよりも上側に設けられる。
ここまでの主変速部150で、主変速レバー14の基部に設けた主変速レバー位置センサ171(図8)により、操縦者が操作する主変速レバー14の変速位置を読み取って、コントローラ(制御装置)120で自動的に高・低油圧多板クラッチ24,25と第一・第二シンクロチェンジ36,42を制御して低速四段と高速四段まで変速(八段変速)される。また、ミッションケース8内で、第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25が左右に配置され、その下側に第一シンクロチェンジ42を装着する低速伝動軸34と第二シンクロチェンジ36を装着する高速伝動軸32が左右に配置されることで、ミッションケース8の左右幅が狭く高さの低いコンパクトな構成となる。
さらに、第一伝動軸39は第二伝動軸45に軸連結によって連結されている。この第二伝動軸45には、第七ギヤ46と第八ギヤ47が固着され、第七ギヤ46が正転クラッチギヤ49と噛み合い、第八ギヤ47が逆転ギヤ51と噛み合い、逆転ギヤ51が前後進クラッチ48の逆転クラッチギヤ50と噛み合っている。
従って、前後進クラッチ48の前進クラッチ48aを接続して正転クラッチギヤ49に繋ぐと、正転状態(前進)で前後進クラッチ48に連結の副変速軸53に伝動され、前後進クラッチ48の後進クラッチ48bを接続して逆転クラッチギヤ50に繋ぐと、逆転状態(後進)で副変速軸53に伝動される。正転と逆転では減速比が異なり、逆転の方が低速になる。前後進レバー10を前進位置にすると、前進クラッチ48aが接続され、前後進レバー10を後進位置にすると、後進クラッチ48bが接続される。
また、前後進クラッチ48の支持軸をミッションケース8に支持する後仕切壁182に形成した肉盛部182aにケースのケース外側からドリルで加工した給油孔182bを設けて、この給油孔182bから前後進クラッチ48の支持軸に給油している。
なお、前輪増速クラッチ79やPTOメインクラッチ97への給油孔もミッションケース8の内側に設けた肉盛部に形成している。
次に、副変速部154について説明する。
副変速軸53には第九ギヤ54と第十ギヤ55が固着され、それぞれ第三シンクロチェンジ58の第三シンクロ大ギヤ56と第三シンクロ小ギヤ59に噛み合っている。従って、第三シンクロチェンジ58を第三シンクロ大ギヤ56側に繋ぐと第九ギヤ54から第三シンクロ大ギヤ56に伝動した回転で第五伝動軸60が増速して高速で駆動され、第三シンクロチェンジ58を第三シンクロ小ギヤ59側に繋ぐと第十ギヤ55から第三シンクロ小ギヤ59に伝動した回転で第五伝動軸60が減速して中速で駆動される。
さらに、第三シンクロチェンジ58の第三シンクロ小ギヤ59側には第十一ギヤ57を固着して、第四シンクロチェンジ71の第四シンクロ小ギヤ69と噛み合っている。そして、第四シンクロ小ギヤ69側には第十五ギヤ70を固着し、この第十五ギヤ70が第二筒軸114の第十七ギヤ75と噛み合って第二筒軸114に固着の第十八ギヤ76から第四シンクロ大ギヤ72に伝動している。第四シンクロチェンジ71を装着した第一筒軸73には、第十六ギヤ74を固着している。
従って、第三シンクロチェンジ58を中立にすると、第十ギヤ55の回転が第三シンクロ小ギヤ59に伝動され、第三シンクロ小ギヤ59側に固着の第十一ギヤ57から第四シンクロ小ギヤ69に伝動される。
この状態で、第四シンクロチェンジ71を第四シンクロ小ギヤ69側に繋ぐと、第四シンクロ小ギヤ69の回転が第十六ギヤ74の回転となって低速となり、第四シンクロチェンジ71を第四シンクロ大ギヤ72側に繋ぐと第四シンクロ小ギヤ69の回転が第十五ギヤ70から第十七ギヤ75と第十八ギヤ76と第四シンクロ大ギヤ72に伝動されて第十六ギヤ74が極低速となる。
なお、第三シンクロチェンジ58を第三シンクロ大ギヤ56側或いは第三シンクロ小ギヤ59側に繋ぐ場合には、第四シンクロチェンジ71を中立にしておく。
従って、主変速部150で変速された副変速軸53の低速四段と高速四段が、副変速部154で四段に変速されることで、低速十六段と高速十六段に変速(合計32段)されることになる。これにより、前記前後進クラッチ48を切り換えることで、前進32段、後進32段の変速段となる。変速段については後述する。
さらに、第十六ギヤ74は前記第五伝動軸60に固着の第十二ギヤ61と噛み合って第五伝動軸60を駆動する。この第五伝動軸60の軸端に固着の第一ベベルギヤ62がリアベベルケース64の第二ベベルギヤ63と噛み合っていて、リアベベルケース64のベベル出力軸65から第十三ギヤ66と第十四ギヤ67を介して後輪出力軸68を回転して後輪3を駆動する。左右の後輪出力軸68には右ブレーキペダル19Rと左ブレーキペダル19Lでそれぞれ作動するブレーキ135(左ブレーキ135L、右ブレーキ135R)を設けている。
また、第五伝動軸60には第二十一ギヤ117が固着され、副変速軸53に軸支された第二筒軸119に固着の第二十二ギヤ118と第二十二ギヤ148を介して第一前輪駆動軸78の第十九ギヤ77に伝動して、前記第十六ギヤ74の低速十六段と高速十六段の回転が第一前輪駆動軸78に伝動されている。
この第一前輪駆動軸78から前輪増速クラッチ79を介して第二前輪駆動軸84に伝動し、第三前輪駆動軸85と第四前輪駆動軸86と前輪駆動ベベル軸87に引き継いで伝動し、前輪駆動ベベル軸87の軸端に固着の第一前ベベルギヤ88が前ベベルケース89の第二前ベベルギヤ115と噛み合っていて、前ベベルケース89の前ベベル出力軸90から第一前ベベルギヤ組91と前縦軸116と第二前ベベルギヤ組92を介して前輪出力軸93を回転して前輪2を駆動する。
前輪増速クラッチ79の増速クラッチ79bを接続すると、第一増速クラッチギヤ82、第一増速ギヤ83、第二増速ギヤ81、第二増速クラッチギヤ80、第二前輪駆動軸84と伝動されていき、この流れは後輪3に対して前輪2を増速する伝動となる。前輪増速クラッチ79の4WDクラッチ79aを接続すると、第一増速クラッチギヤ82の回転は、同軸芯の第二前輪駆動軸84に伝動される。
この流れは前輪2を後輪3と同じ速度にする4WD駆動となる。前記増速クラッチ79bと4WDクラッチ79aのいずれも接続しない場合は、後輪駆動のみの2WD走行となる。
副変速レバー位置センサ(変速操作位置検出手段)134(副変速レバー15の基部に設けられる)が副変速レバー15の変速位置を読み取って、コントローラ120(図8)で自動的に第三シンクロチェンジ58と第四シンクロチェンジ71を制御して変速される。 また、第四シンクロチェンジ71を装着した第一筒軸73は、第三シンクロチェンジ58を装着した第五伝動軸60の下側に配置されており、ミッションケース8の長さを短く出来る。第三シンクロチェンジ58と第四シンクロチェンジ71については、副変速レバー15とリンク機構等で接続してメカチェンジ機構に構成してもよい。メカチェンジ機構はシンクロ無しで、一旦停車しないと変速できない構成である。
次に、PTO出力軸111の伝動経路を説明する。
前記第二入力ギヤ23にPTOメインクラッチ97のメインクラッチギヤ96を噛み合わせて、PTOメインクラッチ97で動力の断続を行うようにしている。このPTOメインクラッチ97は、図5に示すように、第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25の下側に位置して、ミッションケース8の内部に溜まる潤滑オイルで冷却・潤滑される。
PTOメインクラッチ97を装着した第一PTO軸95には、次のように、PTO変速部157が設けられている。
即ち第一PTO軸95に、第一PTOギヤ98と第二PTOギヤ99と第五シンクロチェンジ151の第五シンクロ小ギヤ100と第五シンクロ大ギヤ101を装着し、第二PTO軸104に第二十ギヤ102と第二十三ギヤ152と第二十一ギヤ103と第二十四ギヤ153を固着し、カウンタ軸106にPTO逆転ギヤ105を軸支している。
第一PTOギヤ98をスライドして第二十ギヤ102に噛み合わせると第三PTO軸107が二速になり、第一PTOギヤ98をスライドして第二PTOギヤ99に係合すると第一PTO軸95の回転が第二PTOギヤ99と第二十三ギヤ152を介して第三PTO軸107に伝わって四速となり、第五シンクロチェンジ151を第五シンクロ小ギヤ100に繋ぐと第五シンクロ小ギヤ100から第二十一ギヤ103に伝動して一速となり、第五シンクロチェンジ151を第五シンクロ大ギヤ101に繋ぐと第五シンクロ大ギヤ101から第二十四ギヤ153に伝動して三速となり、PTO逆転ギヤ105を第一PTOギヤ98と第二十ギヤ102に噛み合わせると第一PTO軸95の回転が第一PTOギヤ98からPTO逆転ギヤ105を経て第二十ギヤ102に伝動されて第三PTO軸107に伝わって逆回転となる。
また、図5に示すように、第一PTOギヤ98と第二PTOギヤ99と第五シンクロチェンジ151は、前記第一高・低クラッチ24及び第二高・低クラッチ25と第一シンクロチェンジ42及び第二シンクロチェンジ36の間で、下側に配置している。
第三PTO軸107の回転は、第四PTO軸156を介して第五PTO軸108に伝動し、第一PTO出力ギヤ109から第二PTO出力ギヤ110への伝動で更に減速してPTO出力軸111を駆動する。
図4に示すように、ミッションケース8の左右中央にミッション入力軸21と第四前輪駆動軸86が位置し、第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25、高速伝動軸32と低速伝動軸34及び第四PTO軸156と副変速軸53が左右対称位置に配置している。
また、第四PTO軸156と副変速軸53と第四前輪駆動軸86は、ミッションケース8の内部下方位置で正面視略二等辺三角形の配置となっている。
図8には、ミッションケース8内の変速を制御する自動制御の制御ブロック図を示す。コントローラ120への制御データの入力は、エンジン回転センサ112からのエンジン回転数と、クラッチペダルセンサ121からのオン・オフ信号と、車速センサ122からの走行速度と、右ブレーキ操作位置センサ123Rのセンサ信号と、左ブレーキ操作位置センサ123Lのセンサ信号と、前後進レバー位置センサ124の切換信号と、ブレーキ連結検出スイッチ125のオン・オフ信号と、ノークラッチ設定スイッチ126のオン・オフ信号と、副変速レバー位置センサ134からの副変速レバー15の変速位置と、主変速レバー位置センサ171からの主変速レバー14の変速位置などである。車速センサ122は、ミッションケース8に取り付けられており、車速が検出可能な軸の回転数をピックアップする構成としている。
コントローラ120からの制御出力は、前後進クラッチ48を切り替える切替弁である前進ソレノイド127又は後進ソレノイド128への作動信号と、前後進クラッチ48の油圧を昇圧するための前後進昇圧ソレノイド170への作動信号、ブレーキ比例ソレノイド129への作動信号と、右ブレーキソレノイド130Rと左ブレーキソレノイド130Lへの作動信号と、第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25と第一シンクロチェンジ42〜第四シンクロチェンジ71への作動信号などである。左右のブレーキペダル19L、19Rの操作により、ブレーキ比例ソレノイド129を作動させて右ブレーキソレノイド130R又は左ブレーキソレノイド130L、又は右ブレーキソレノイド130Rと左ブレーキソレノイド130Lの両方を作動させる。
次に、制動制御について説明する。
前記のように、左ブレーキペダル19Lと右ブレーキペダル19Rは、それぞれを踏み込むことで踏み込んだ側のブレーキ135(135L又は135R)を作動させてその作動側へ旋回する。
そして、左ブレーキペダル19Lと右ブレーキペダル19Rをブレーキ連結杆94で連結したことをブレーキ連結検出スイッチ(センサ)125が検出し、ノークラッチ設定スイッチ126をオンしたことを検出すると、「ノークラッチブレーキ作動状態」となる。この状態で、表示灯パネル145のノークラ表示灯146(図6)が点灯する。また、ブレーキ連結検出スイッチ125が非連結状態のときは、ノークラ表示灯146が点滅して「ノークラッチブレーキ作動状態」が機能していないことを知らせる。「ノークラッチブレーキ作動状態」とは、クラッチペダル1002を踏まなくても左右のブレーキペダル19L、19Rの操作だけで機体の停止と発進ができるトラクタの操作態様である。
また、メインキースイッチ167(図1)を停止にしても、ノークラッチ設定スイッチ126がオンの場合はオン状態と記憶しているので、再びメインキースイッチ167を入りにすると「ノークラッチブレーキ作動状態」となり、ノークラ表示灯146が点灯する。このとき、ブレーキ連結検出スイッチ125が非連結状態のときは、ノークラ表示灯146が点滅する。
そして、本実施形態のトラクタでは、トラクタの走行中において、ノークラッチブレーキ作動状態(ノークラ表示灯146の点灯時)で右ブレーキペダル19Rか左ブレーキペダル19Lを踏み込んで、即ち、左右のブレーキペダル19L、19Rが同時に踏み込まれると、ブレーキペダル19L、19Rの踏力をブレーキ操作力センサ160L、160Rで検出し、この踏力が規定以上の場合に、前後進クラッチ48の前進クラッチ48a又は後進クラッチ48bの選択されている側のクラッチが全圧から規定の低圧状態(以下、この時の規定の低圧を半クラッチ圧と言い、規定の低圧状態を半クラッチ状態と言う)となる(クラッチ圧低下機能)。
「ノークラッチブレーキ作動状態」が機能していない場合は、ブレーキペダル19を踏んで後輪3にブレーキ135を掛け、クラッチペダル1002を踏んでエンジン5からの動力を完全に切断して停車する。クラッチペダル1002を踏まないとエンストしてしまうからである。
「ノークラッチブレーキ作動状態」の場合は、ブレーキペダル19L、19Rの操作により後輪3、3にブレーキ135を作動させることで機体は停車する。このとき、同時にクラッチの接続作動圧を全圧から低下させ、規定の低圧にする。低下させないとエンストする。停車時に規定の低圧にすることで、以下の効果を奏する。
まず、再発進時に速やかに走行を開始できる。そして、平坦路ではブレーキペダル19を離すのみで(アクセルペダル18は踏まない)超低速で走行を開始する。また、登り坂ではブレーキペダル19を離すと(アクセルペダル18は踏まない)、急傾斜では若干後進するものの、そうでない場合は後進しない。従って、坂道発進が容易となる。
図9には、左ブレーキペダル19Lの側面図を示す。尚、右ブレーキペダル19Rでも同様の図となる。
左右のブレーキペダル19L、19Rの足載せ部19aL、19aRにそれぞれブレーキ操作力センサ160(左ブレーキ操作力センサ160L、右ブレーキ操作力センサ160R)を設け、ブレーキ開放状態からブレーキペダル19L、19Rを踏み込み、ブレーキ操作力センサ160L、160Rにより規定以上の踏力が検出されると、前後進クラッチ48の接続作動圧を規定の圧力に低下させるように、コントローラ120から前後進昇圧ソレノイド170に制御出力がされる。このときのフローチャートを図10に示す。
本構成により、足載せ部19aL、19aRに設けたブレーキ操作力センサ160L、160Rによって実際の踏み力を直に測定できるため、ブレーキ操作していること自体、即ち作業者が意図的にブレーキ操作していることを検出でき、作業者の要望通りに半クラッチの作動圧力とする制御が確実にできる。
また、ブレーキペダル19L、19Rの基部側にはブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作を検出するブレーキ操作位置センサ123(右ブレーキ操作位置センサ123R、左ブレーキ操作位置センサ123L)を設けている。右ブレーキ操作位置センサ123Rと左ブレーキ操作位置センサ123Lは、ポテンショメータなどの変位センサ又はスイッチセンサなどのオン・オフ式のセンサでアナログ量を検出するもので良い。
例えば、右ブレーキ操作位置センサ123Rと左ブレーキ操作位置センサ123Lは、各ブレーキアーム19bL、19bRの基部(回動軸)に設けたポテンショメータによってストローク量を検出するストロークセンサとし、ブレーキペダル19L、19Rを踏み込んで一定以上のストローク量がブレーキ操作位置センサ123R、123Rによって検出されると(ブレーキ135の入り操作を検出する)、そのセンサ信号がコントローラ120に入力されることによって右ブレーキソレノイド130Rと左ブレーキソレノイド130Lとブレーキ比例ソレノイド129に作動信号が出力され、ブレーキ135L、135Rが作動する。
尚、ブレーキペダル19L、19Rのブレーキ135L、135Rの入切操作を検出するブレーキスイッチ(センサ)163をブレーキ操作位置センサ123R、123Lとは別にブレーキペダル19L、19Rの回動範囲の遊び付近に設け、ブレーキペダル19L、19Rが回動して接触するとブレーキスイッチ163がオンして、ブレーキランプ165が点灯し、ブレーキ135L、135Rが作動する構成としても良い。
例えば、前記ノークラッチブレーキ作動状態でのブレーキペダル19L、19Rの踏み込みによる半クラッチ状態の条件として、ブレーキ操作力センサ160L、160Rによって検出される踏力ではなく、ブレーキ操作位置センサ123R、123Lによって検出されるブレーキペダル19L、19Rのストローク量のみを条件とすることも考えられる。
しかし、この場合、ブレーキペダル19L、19Rは経年劣化によって遊びが変化するため、遊びが大きくなるとブレーキ自体が作用するところまで踏み込まれたかどうかが不明となる。また、遊びが小さくなると作業者が意図的にブレーキ操作をしていない場合でも、単にブレーキペダルに足を載せているだけで半クラッチ状態となったりクラッチが入り切りされたりする事態が生じてしまい、クラッチの寿命が短くなってしまう。この場合に遊びを調整することで検出精度を高められるが、使用後の調整が必要となってしまう。
更に、作業者の操作フィーリングとブレーキ操作位置センサ123R、123Lによって検出されるストローク量とが合致しなくなって、作業者がブレーキペダル19L、19Rを意図的に踏み込んでいても、機体の停止動作と作業者の操作フィーリングとが合わなくなってくることもある。
そこで、ブレーキ操作位置センサ123R、123Lによるブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作を検出するよりも、ブレーキ操作力センサ160L、160Rによって検出されるブレーキペダル19L、19Rの踏力を、半クラッチ状態とする条件及びブレーキを強く作動させる条件とすることで、作業者の操作フィーリングを損なうことなく機体を減速して停車させ、停車時に半クラッチ状態にすることができる。ブレーキペダル19L、19Rに設けられるブレーキ操作力センサ160L、160Rは、経年変化による遊び量の変化を生じないので、作業者の操作フィーリングを損なうことがない。
ブレーキペダル19L、19Rが踏まれることで、ブレーキ135を強く作動させると共にクラッチ圧を低下させる。このクラッチ圧は目標とするクラッチ圧であり、停車時のクラッチ圧である。これにより停車時に半クラッチ圧となる。
尚、ブレーキ操作力センサ160L、160Rによって規定以上の踏力が検出された場合に加えて、ブレーキ操作位置センサ123R、123Lによってブレーキ135の入り操作が検出されたり、ブレーキスイッチ163がオンすることを、半クラッチ状態の条件としても良い。これにより、ブレーキペダル19L、19Rが間違いなく踏まれたときにクラッチ圧低下機能を作動させるので、ブレーキ作動と半クラッチ状態とを同期させることができる。
ブレーキペダル19L、19Rを踏み込んで一定以上のストローク量が検出されるとブレーキ135L、135Rが作動する。そして、この場合に、ブレーキ操作力センサ160L、160Rにより規定以上の踏力による踏み込みが検出されると、前進クラッチ48a又は後進クラッチ48bの選択されている側のクラッチ圧が規定の低圧(半クラッチ状態)となる機能(クラッチ圧低下有効機能)をコントローラ120に設ける構成とする。このときのフローチャートを図11に示す。
ブレーキペダル19L、19Rの足載せ部19aL、19aRの下部に農具などの道具や部材があると、作業者がブレーキペダル19L、19Rを踏んでも道具が障害となってブレーキペダル19L、19R自体はほとんど動かないのに規定以上の踏力が出てしまうことがある。
本構成により、ブレーキ操作力センサ160L、160Rによって検出されるブレーキペダル19L、19Rの踏力のみならず、ブレーキ操作位置センサ123R、123Lによって検出されるブレーキペダル19L、19Rの入り操作又はブレーキスイッチ163のオンも半クラッチ状態の条件とすることで、ブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作の検出がより確実になる。
そして、ブレーキペダル19L、19Rを踏むと、クラッチ圧を、規定の低圧である目標圧に向かって低下を開始させ、後輪3,3にブレーキ135を強く作動させて減速して機体が停車する。機体が停車時においては、目標圧に保持されて半クラッチ状態が続く。
この低圧停止状態は長く続けると(約2分)油温が高くなるので、前記低圧警告灯147の点灯状態を点滅状態にして操縦者に知らせると良い。油温は油圧回路内に設けた油温センサ172によって検出される。
このときは、クラッチペダル1002を踏み込み操作すると、又は、前後進レバー10を中立位置にすると、前後進クラッチ48の前進クラッチ48a又は後進クラッチ48bの選択されている側のクラッチの低圧状態が解除されて、半クラッチ状態から完全な中立状態となる。このとき、ノークラ表示灯146は消灯する。これにより、油温の上昇を抑制できる。
「ノークラッチブレーキ作動状態」で機体が停止中において、再び発進するためには、ブレーキペダル19L、19Rから足を離してブレーキペダル19L、19Rを開放状態にすると、先ず前記低圧停止状態(半クラッチ)の状態で動力伝達されるので、レンスポンスが良くてスムーズに発進を開始する。その後、圧力が少しずつ昇圧されていき、規定時間後に完全にクラッチが接続される。早めに加速したいときには、アクセルペダル18を踏んでエンジン回転数を上昇させることで、急加速ができる。
初期状態での発進時において、副変速レバー15の変速位置が中立位置のときは、ノークラッチ設定スイッチ126をオンしてブレーキペダル19L、19Rを踏み込み操作する。尚、上述のように、ブレーキ連結杆94でブレーキペダル19L、19Rを連結していないと、「ノークラッチブレーキ作動状態」とはならない。そして、クラッチペダル1002を踏み込んでクラッチを切り、副変速レバー15を変速操作する。また、主変速レバー14も変速操作する。その後、前後進レバー10を前進又は後進に操作する。そして、クラッチペダル1002から足を離してクラッチペダル1002を開放状態とする。そして、ブレーキペダル19L、19Rの踏み込みを緩くしていき、足を離すとブレーキ135が切りとなってトラクタが発進する。
図12(A)には、ブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作に伴うブレーキ操作位置センサ123の電圧とブレーキ操作力センサ160の電圧との関係を示す。また、図12(B)にはブレーキペダル19L、19Rの操作とクラッチ圧力との関係を示す。これらの図は共に横軸はブレーキ操作位置と操作方向を示しており、図12(A)の左側の縦軸はブレーキ操作位置センサ123の電圧(細線A)を、右側の縦軸はブレーキ操作力センサ160の電圧(太線B)を示している。また、クラッチ圧力は、前進クラッチ48aの接続作動圧を示している。尚、図12(A)において、縦軸のレンジは左右でそれぞれ異なるため、細線Aと太線Bの交点の位置などは、書き方によって異なる。
ブレーキペダル19L、19Rを開放状態から徐々に踏み込んでいくと、まず操作位置Cとなり遊び部分に入るが(図9も参照)、このときブレーキ操作位置センサ123の電圧は徐々に下がっていくものの、ブレーキ操作力センサ160の電圧はほとんど変化しない。そして遊び部分のD位置を超えE位置に達すると、ブレーキ操作位置センサ123の電圧が一定のストローク量に相当する値となって、ブレーキスイッチ163がオンし、ブレーキ比例ソレノイド129等に信号が出力されてブレーキ135L、135Rが作動し始める。この時ブレーキ135が効き始めるものの、ほとんど減速しない。ブレーキ力はブレーキ操作位置センサ123の電圧が低くなるほど強くなる。尚、通常のポテンショメータなどの変位センサは、0V〜5Vの範囲で検出するが、開放時を0Vとしても良いし、開放時を5Vとしても良い。開放時を5Vにすると、踏み込んでいくほど電圧値は低くなる。
細線Aはブレーキ操作位置センサ123のセットによる変化値であるため、比例的に変化する。一方、太線Bはブレーキ操作力センサ160により実際の踏み力を検出するラインである。従って、細線Aは固定されるが、太線Bは人の踏み方であるため、作業者により異なり、多少ずれる。
ブレーキペダル19L、19Rを更に踏み込んでF位置(図9では図示省略)に達すると、この位置から急激にブレーキ操作力センサ160の電圧が低下する。F位置では、作業者が本気でブレーキペダル19L、19Rを踏み始めているが、誤操作防止のために、コントローラ120はその本気度を見極め、ほんの少し待ってから(G位置になってから)ブレーキ踏力有りを認識している。尚、F位置とG位置を同じにしても良い。
ブレーキ操作力センサ160L、160Rによって検出されるブレーキペダル19L、19Rの踏力が規定以上に達すると、後輪3,3へのブレーキ力を強くして減速させ、同時に前進クラッチ48aのクラッチ圧が全圧から低下を開始する。そして機体が停車して半クラッチ状態となる(クラッチ圧低下機能)。この規定踏力としては、開放時の電圧とG位置における電圧の電圧差K1として測定しても良いし、単にG位置におけるブレーキ操作力センサ160の電圧値を測定しても良い。また、ブレーキ操作位置センサ123の電圧から、一定以上のストローク量Sに達してブレーキスイッチ163がオンすることを半クラッチ状態となる条件としても良い(クラッチ圧低下有効機能)。
G位置は、エンジンストップを起こす位置よりも手前(ブレーキ開放側)に設定する。
図12(B)について、前記G位置になると、クラッチ圧は全圧P1から目標圧である半クラッチ圧P3に向かって一気に圧力を下げ(P2)、半クラッチ圧P3にして保持する。この停車時に保持される半クラッチ圧P3は、変速段毎に異ならせる構成とする。即ち、図13に示すように、具体的には副変速の変速位置で異ならせている。副変速が超低速ではP3a(kpa)、低速ではP3b(kpa)、中速ではP3c(kpa)、高速ではP3d(kpa)としており、P3a(kpa)が一番低い圧力で、P3d(kpa)が一番高い圧力である。
このように、副変速レバー15の変速位置が高速側になるほど停車時の半クラッチ圧を高くしておくことで、再発進時に早めに全圧となり、作業者の意図通り速やかに設定変速段の速度にすることができる。
そして、図12(B)に示すように、半クラッチ状態になった後、再びブレーキペダル操作範囲の最大位置Hから踏力を減少させて開放位置に戻すと、ブレーキペダル19L、19Rの動きをA線で検出し、ブレーキペダル19L、19Rの動きに連動して半クラッチ状態(半クラッチ圧)から、点線Tで示すように通常の接続圧力(全圧)に向けて少しずつ昇圧されていく。また、下記のように、ブレーキ操作力センサ160L、160Rによる昇圧でも良い。
踏込み側では、踏み込み状態を維持するために大きな踏み力が作用している。ところが、ブレーキペダル19L、19Rを開放へ向かわせる場合には、開放側へ自動で戻るブレーキペダル19L、19Rを足で押さえるだけであるため、踏み力は一気に下がり、図14のZ線のようになる。Z1の位置になると、昇圧を開始する。
従来はブレーキペダル19L、19Rから足を離してブレーキスイッチ163がオフしたときに、昇圧を開始していたが、この場合は坂道等の発進で車体が下がってしまうこともある。しかし、ブレーキペダル19L、19Rから足を離す前やブレーキ135が入りの状態でも、ブレーキ操作力センサ160L、160Rによって検出される踏力が規定未満になるとブレーキペダル19L、19Rが開放側に作動する前に昇圧を開始することで(クラッチ圧昇圧機能)、坂道等の発進で車体が下がることなくスムーズな発進ができる。また、前記半クラッチ圧P3があることから坂道等の発進での車体の下がりを防止できる。
そして、再発進時における圧力上昇は、点線Tで示しているように勾配をつけることで、クラッチが全圧P1になるときのショックを抑制できる。尚、昇圧時のP1と降圧時のP1は、図示例では見やすいように若干離しているが、設計上同じである。
本構成により、ブレーキ135が入り時の足を離す前から早めにクラッチ圧を昇圧させることで操作性や走行性を確保できる。
「ノークラッチブレーキ作動状態」において、ブレーキペダル19L、19Rが踏まれているとき、クラッチペダル1002を踏み込み操作すると、「ノークラッチブレーキ作動状態」は機能しなくなる。
そして、「ノークラッチブレーキ作動状態」において、ブレーキペダル19L、19Rとクラッチペダル1002の両方が踏み込み操作されているときにおいて、ノークラッチ設定スイッチ126を押し操作すると、「ノークラッチブレーキ作動状態」は解除されて機能しなくなる。
また、「ノークラッチブレーキ作動状態」において、ブレーキペダル19L、19Rとクラッチペダル1002の両方が踏み込み操作されていないときにおいて、ノークラッチ設定スイッチ126を押し操作すると、「ノークラッチブレーキ作動状態」は解除されて機能しなくなる。更に、「ノークラッチブレーキ作動状態」において、ブレーキペダル19L、19Rを踏み込んで停止していないときにおいて、ブレーキ連結検出スイッチ125が非連結状態になると、「ノークラッチブレーキ作動状態」の機能は一時中断する。尚、この「一時中断する」とは、一旦解除することであるが、コントローラ125内ではノークラッチ設定スイッチ126の入り状態が有効(生きている)なため、左右のブレーキペダル19L、19Rを連結すると再びノークラッチブレーキ作動状態となるという意味である。
また、「ノークラッチブレーキ作動状態」において、ブレーキペダル19L、19Rを踏み込んで停止しているときに、ブレーキ連結検出スイッチ125が非連結状態になっても「ノークラッチブレーキ作動状態」の機能は一時中断しない構成とする。その後、ブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作が開放されると、「ノークラッチブレーキ作動状態」の機能を一時中断する構成とする。ただし、ブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作が開放されるときに、ブレーキ連結検出スイッチ125が再び連結状態になると、「ノークラッチブレーキ作動状態」が有効になる構成とする。
「ノークラッチブレーキ作動状態」の機能を一時中断しているときにおいて、ノークラッチ設定スイッチ126を押し操作すると、「ノークラッチブレーキ作動状態」の機能は維持する。通常、ノークラッチ設定スイッチ126を押し操作の繰り返しで「ノークラッチブレーキ作動状態」が有効となったり無効となったりする。しかし、前記のように、左右のブレーキペダル19L、19Rを非連結とすると一時中断となり機能しないが、コントローラ125内ではノークラッチ設定スイッチ126の入り状態が有効(有効ではあるが機能しない)となっており、このような状態のときはノークラッチ設定スイッチ126を押しても無効とならない。このような場合は、左右のブレーキペダルを再連結してからノークラッチ設定スイッチ126を押すことで、「ノークラッチブレーキ作動状態」は無効となる。
ノークラ表示灯146は、「ノークラッチブレーキ作動状態」の機能が入り(有効)で、ブレーキペダル19L、19Rで停止していないときに点灯する。ブレーキペダル19L、19Rで停止すると点滅する。また、「ノークラッチブレーキ作動状態」機能が切り、又は、「ノークラッチブレーキ作動状態」機能が一時中断しているときにおいては、消灯する。低圧警告灯147は、「ノークラッチブレーキ作動状態」の機能が入りで、ブレーキペダル19L、19Rで停止すると点滅する。ブレーキペダル19L、19Rの停止状態が2分間以上継続すると、高速で点滅することで、「ノークラッチブレーキ作動状態」で機体の停止を長く続けないように警告し、他の状態では消灯する。
そして、ノークラッチブレーキ作動状態でのクラッチ圧低下機能又はクラッチ圧低下有効機能による前後進クラッチ48の半クラッチ圧は、上述したが、副変速レバー15の変速位置や主変速レバー14の変速位置に応じて、変更すると良い。副変速レバー15の変速位置は副変速レバー位置センサ134で読み込み、主変速レバー14の変速位置は主変速レバー位置センサ171で読み込む。上述のように、主変速部150で変速された副変速軸53の低速四段と高速四段が、副変速部154で四段に変速されることで、低速十六段と高速十六段に変速(合計32段)される。図13には、これら32段の変速段における圧力目標値を示す。
図13に示すように、副変速レバー15の変速位置は中立以外に超低速、低速、中速、高速(路上走行)の4種類であり、即ち4段の変速段がある。そして各変速段における圧力目標値(コントローラ120のメモリに保存されている)を、例えば超低速ではP3aとして140kPa、低速ではP3bとして180kPa、中速ではP3cとして210kPa、高速ではP3dとして250kPaと段階的に設定する。即ち、前後進クラッチ48の半クラッチ圧は減速比が大きいほど低くし、副変速が高速になるほど半クラッチ圧を高めにすることで、再び発進するときにスムーズに発進できる。
従って、コントローラ120によって、副変速レバー15の変速位置に応じた規定の圧力に前後進クラッチ48の接続作動圧を低下させることで(クラッチ圧変速段低下機能)、走行停止の際には規定のトルクによる駆動とブレーキ制動力により急停車をすることなく停止できる。半クラッチの作動圧力は、前記超低速では140kPa、低速では180kPa、中速では210kPa、高速低速では250kPaである。半クラッチではあるものの、下流側に動力を伝達するトルクはあり、このトルクが作用していることで、急停車を抑制できる。
この制御は、前後進クラッチ48の前進側と後進側の両方に圧力センサ(前進側センサ173、後進側センサ174)が装着されている場合は、それぞれの圧力センサ173、174で行い、いずれか一方(後進側)に圧力センサがない場合は、いずれか他方(前進側)の圧力センサの最新値で制御を行う構成としてもよい。これにより、廉価な構成となる。
また、エンジン5の回転数に応じて発生する前後進クラッチ48の遠心力に基づき、ノークラッチブレーキ作動状態での前後進クラッチ48の半クラッチ圧を更に低圧側に補正すると良い。前後進クラッチ48は、入力軸190,191(図2、前進側は歯車48と一体の軸190で、後進側は歯車50と一体の軸191)の回転により発生する遠心力により前後進クラッチ48内のオイルがピストン178F又は178R(図3)に推力を与える。これにより油圧押し付け圧力で発生する入力軸190,191のトルクに遠心力による推力が加算された力で動力伝達トルクが発生する。従って、遠心力の分、前後進クラッチ48の多板を押しつける力が大きくなってしまう。
そこで、ブレーキペダル19L、19Rの操作と連動して半クラッチ状態となる前後進油圧クラッチ48に関して、ノークラッチブレーキ作動状態における半クラッチ圧から、エンジン回転数(又は入力軸の回転数)に応じた遠心力分の圧力Jを差し引いて補正する構成とする。半クラッチ圧に遠心力を考慮して補正された圧力を、本明細書では遠心力補正圧力と言う。
半クラッチ状態では後車軸側からのブレーキ制動力により、前後進クラッチ48の入力軸190,191は、滑りながら回転している。この回転により前後進クラッチ48内のピストン178F又は178Rも回転しており、前記遠心力による推力により、内部のオイルによる回転に応じた規定の推力が発生している。この推力によって制御圧力を上回るピストン押しつけ圧力となり動力伝達トルクが比例して大きくなるため、前後進クラッチ48の入力回転に応じた遠心力による圧力補正を行う必要がある。
即ち、入力軸190,191の回転数は大きい(回転が速い)ほど、推力が高くなるので油圧バルブの出力を下げて半クラッチ圧を低く補正することで、遠心力分(前記圧力J)を差し引いた遠心力補正圧力に制御する。ここで、実際には圧力Jが掛かっているため、正規の目標とされるクラッチ圧にすることができる。
尚、エンジン回転センサ112や入力軸回転センサ180等の異常や、システム上、エンジン回転センサ112や入力軸回転センサ180等を配置していないなど、上記遠心力の影響による圧力補正ができない場合は、半クラッチ圧では機体の停止状態を保持できないおそれがある。そこで、ブレーキ操作力センサ160L、160Rで検出される踏力が大きい場合は(例えば、図12(A)のB1)、半クラッチ圧を、余裕を持ってBからB2分だけ低めに設定し、前輪2,2と後輪3,3への駆動力を低減させることで、機体の停止状態を保持できる。停車時の保持圧力が高くなりすぎると、車体が動きはじめる可能性があるため、これを防止する。本実施例では、太線BのときにP3となるため、比例計算でB2下がった分をP3からマイナスする。実際の踏み力は太線Bであるため、計算上一時的にBを利用する。
また、副変速レバー15の変速位置や主変速レバー14の変速位置に応じて、半クラッチ圧を変更する場合も、副変速レバー15の各変速段における圧力目標値を、それぞれ低い圧力に設定すると良い。例えば、それぞれ5〜6%程度、低い圧力に設定すると良い。
また、遠心力補正圧力を副変速レバー15の各変速段に応じて変更しても良い。具体的には、ブレーキ操作力センサ160L、160Rにより規定以上の踏力が検出されると、前後進クラッチ48の接続作動圧を副変速レバー15の各変速段における圧力目標値(図13)よりも、高速側ほど低めの圧力に低下させるような構成とする。
即ち、入力軸190,191の回転数が大きいほど、半クラッチ圧を、副変速レバー15の各変速段における圧力目標値よりも低めの圧力に低下させる。例えば、図13に示した各変速段の数値配分値に応じて、引く分もそれぞれ同じ比で配分して引き、即ち圧力目標値よりも高速側ほど低めに設定する。
遠心力の影響は、入力軸190,191の回転数が高いほど大きくなるため、半クラッチ圧を高速側ほど低めに設定することで、ブレーキペダル19L、19Rの踏力の上昇を防止できる。従って、作業者の操作フィーリングも良好となる。
そして、この副変速レバー15の各変速段における、圧力目標値よりも低く設定した遠心力補正圧力に前後進クラッチ48の接続作動圧を低下させる制御は、以下のような方法によって行うことができる。
一つ目の方法は、算出した推力より、半クラッチ圧から差し引く圧力Jを計算するものである。遠心力Yは入力軸190,191の回転数(X)から得られる。Yは設計値Y0に対して5〜6%高くなると問題となる。この5〜6%はXから計算で得られる。前後進クラッチ48への停車時の入力回転数は、その伝動上流側の主変速部150の変速段により異なる。
また、停車時は、エンジンはアイドリング回転数にするが、作業者がきちんとアイドリング位置にしない可能性もある。このように、前後進クラッチ48への入力回転数は変化するため、変化する毎に遠心力を計算して差し引く構成である。このように補正することで、補正圧力の精度を高めることができる。
また、二つ目の方法は、正確に遠心力Yを求めるのではなく、前後進クラッチ48のピストン178F又は178Rの断面積と入力回転数Xから規定の倍率を決めて、その分を差し引く方法である。半クラッチ圧から差し引く圧力Jを、前後進クラッチ48の入力軸190,191の回転数(X)とその比例係数(α)より算出する。例えば、入力軸190,191の回転数Xが2000(rpm)の場合の圧力J2を予め求めておき、入力軸190,191の回転数Xが3000(rpm)の場合の圧力J3は、J2の1.5α倍、4000(rpm)の場合の圧力J4はJ2の2α倍という簡単な比例計算から求める方法である。この場合も上記一つ目の方法と同様の効果を奏する。
一方、ブレーキペダル19L、19Rを踏むと車速が減速し、最終的に車速ゼロとなり、目標圧の半クラッチ圧P3(図12(B))となるが、途中から車速の変化が無くなる(減速しない)ときには、とりあえず半クラッチ圧の目標圧P3を低くするという構成でも良い(クラッチ圧速度低下機能)。
ブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作を開始してから、車速センサ122から検出される速度が減速側に変化しているときは、目標圧P3のままで、停車時もP3を維持する。しかし、実際は減速しているにもかかわらず、車速センサ122の異常等で減速が検知されない場合は、半クラッチ圧をP3よりも低くする。
即ち、ブレーキペダル19L、19Rを踏むと、半クラッチ圧P3になる前に、車速の変化を判断して、減速信号が入ってこない場合は、圧力P4(<P3)を目標値としてP4に向かって下げる。この時のフローを図15に示す。
ブレーキ操作位置センサ電圧(細線A)がE位置に達して(ブレーキスイッチ163オン)、ブレーキ操作が検出され、ブレーキ操作力センサ160L、160Rにより規定以上の踏力が検出されると、クラッチ圧を目標圧P3に低下させるが、この時車速センサ122から検出される車速が規定以下でない場合は、P4まで低下させる。
例えば、1.0秒〜1.5秒の間に減速信号が認識されず規定の車速とならない場合(ブレーキを踏む時点の車速が異なるため、ブレーキを踏んだ時点の車速から5%程度の車速減速を認識できない場合)、半クラッチ圧をP3の半分以下にする。
本来は、ブレーキペダル19L、19Rが踏み込まれると車速がゼロになるはずであるが、高齢者のような踏み力の弱い作業者の場合はブレーキペダル19L、19Rを踏んでいてもブレーキ力が弱く、停車しないこともあり得る。また、車速センサ122の異常等で実際には車速が減速しているにもかかわらず、車速を認識できず減速を確認できない場合もあり得る。しかし、本構成により、このような場合でも確実に停車できるため、安全性や作業性に優れる。
また、複雑なクラッチ圧のコントロールシステムを配置しない制御の場合は、踏力と車速のみで着実に適度なブレーキ力で停車できる。
また、ブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作の途中から車速の減速側の変化率が無くなると、目標圧P3を低くするという構成でも良い(クラッチ圧減速度低下機能)。
ブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作を開始してから、車速センサ122の異常等で規定の減速度(減速率)が検知されない場合、例えば、1.0秒〜1.5秒の間に減速信号が認識されても車速の減速度(マイナス方向の加速度)が規定の減速度よりも小さい場合(ブレーキを踏む時点の減速度が異なるため、ブレーキを踏んだ時点の減速度から5%程度の減速度を認識できない場合)、半クラッチ圧をP3の半分以下にする。この時のフローを図16に示す。
ブレーキ操作位置センサ電圧(細線A)がE位置に達して(ブレーキスイッチ163オン)ブレーキ操作が検出され、ブレーキ操作力センサ160L、160Rにより規定以上の踏力が検出されると、クラッチ圧を目標圧P3に低下させるが、この時車速センサ122から検出される減速度が規定以上でない場合は、P4まで低下させる。
本構成によって、減速率によっても半クラッチ圧を更に低圧側に補正することで確実に停車できるため、安全性や作業性に優れる。
そして、クラッチ圧速度低下機能やクラッチ圧減速度低下機能によって、半クラッチ圧がP3やP4に低下した後、ブレーキペダル19L、19Rの踏力を減少させると、ブレーキ操作力センサ160L、160Rによる規定踏力未満となって、通常の接続圧力に向けて少しずつ昇圧されていく(図12(B))。また、ブレーキペダル19L、19Rの動きをA線で検出する、ブレーキ操作位置センサ123R、123Rによる昇圧でも良い。
そして、このクラッチ圧減速度低下機能による、車速の減速度を半クラッチ圧の補正の要件とする場合、即ち、減速側の変化率が規定の減速度よりも小さい場合は、半クラッチ圧をP3よりも低圧側に補正する場合に、前述の副変速レバー15の変速位置や主変速レバー14の変速位置に応じて、半クラッチ圧を変更する構成を採用しても良い。この場合は、副変速レバー15の各変速段における減速度の閾値が、低速側ほど大きくなるように設定する。即ち、減速側の変化率が規定の減速度よりも小さい場合において、変化率(規定の減速加速度)の基準は、減速比で変えるというものである。そして、この規定の減速加速度がない場合は、P3の値を低くする。
そして、この補正は、先と同じように、圧力目標値(図13)よりも高速側ほど低めの圧力に低下させるような構成とすると良い。
また、前記クラッチ圧低下機能に関し、ブレーキ135の入り操作又はブレーキスイッチ163のオン後に、ブレーキペダル19L、19Rの踏み込みが弱く、その操作位置がほとんど変動しなくても、ブレーキペダル19L、19Rの踏力が規定以上であると、半クラッチ状態とすると良い。即ち、トラブルや劣化、ガタの発生でブレーキペダル19L、19Rの変化量を検出できない場合である。例えば、遊びの範囲を超えて踏んだにもかかわらず、不具合でブレーキ操作位置センサ123R、123Rからのセンサ信号が入力されなかったり、センサ値が断続的になったり、安定しなかったりすると、クラッチ圧をP3にするという構成である。
このように、ブレーキ135入り後のブレーキ操作位置センサ123L、123Rから検出されるストロークの変化量が検出されない場合でも、ブレーキペダル19L、19Rの踏力が規定以上であると、目標とする圧力を一律にP3とし、停車時の保持圧も一律にP3とする(小ストローククラッチ圧低下機能)。本明細書中、以後の構成は、この場合の制御について述べている。
前記ストロークの変化量が検出されないとする判定基準としては、E位置とする。ここで、ブレーキ操作位置センサ123L、123Rからのセンサ信号が安定しない場合は、センサ異常としてセンサに頼らずに、前述のように一律に制御する。又は、E位置よりも以前(開放側)を基準とし、ブレーキペダル19L、19Rの踏み込みによりブレーキ操作位置センサ123L、123Rからのセンサ値が低下するものの、途中で入力されなくなったり、低下しなくなったり、安定しなかったりした場合に一律にP3としても良い。
ブレーキ135入り後のブレーキ操作位置センサ123L、123Rから検出されるストロークの変化量が検出されない場合、ブレーキ操作力センサ160L、160Rによって踏力を検出するため、ブレーキ操作していること自体、即ち作業者が意図的にブレーキ操作していることを検出でき、半クラッチの作動圧力とする制御が確実にできる。また、ブレーキ135入り後のストローク量の変化量は少なくても、ブレーキ135L、135Rが作動するための一定以上のストローク量はあるため、ある程度の踏み込み量があれば、停車させることで安全性及び操作性も確保できる。
また、この場合も、前後進クラッチ48の半クラッチ圧は、副変速レバー15の変速位置や主変速レバー14の変速位置に応じて、変更すると良い。
図13に示すように、副変速レバー15の変速位置は中立以外に超低速、低速、中速、高速(路上走行)の4種類であり、即ち4段の変速段がある。そして各変速段における圧力目標値を、例えば超低速では140kPa、低速では180kPa、中速では210kPa、高速低速では250kPaと段階的に設定する。各変速段における圧力目標値を、副変速が高速になるほど高めにすることで、再び発進するときにスムーズに発進できる。
従って、コントローラ120によって、副変速レバー15の変速位置に応じた規定の圧力に前後進クラッチ48の接続作動圧を低下させることで(クラッチ圧変速段低下機能)、走行停止の際には規定のトルクによる駆動とブレーキ制動力により急停車をすることなく停止できる。
また、この場合も、上述のように、エンジン5の回転数に応じて発生する前後進クラッチ48の遠心力に基づき、ノークラッチブレーキ作動状態での前後進クラッチ48の半クラッチ圧を更に低圧側に補正(遠心力補正圧力)すると良い。
前記遠心力による推力により、内部のオイルによる回転に応じた規定の推力が発生している。この推力によって制御圧力を上回るピストン押しつけ圧力となり動力伝達トルクが比例して大きくなるため、前後進クラッチ48の入力回転に応じた圧力補正を行う必要がある。入力軸190,191の回転数は大きい(回転が速い)ほど、推力が高くなるので油圧バルブの出力を下げて半クラッチ圧を低く補正することで、遠心力分を差し引いたクラッチ圧にすることができる。
また、この遠心力による補正を行う際に、前後進クラッチ48の接続作動圧を副変速レバー15の各変速段における圧力目標値よりも、高速側ほど低めの圧力に低下させるような構成としても良い。
即ち、入力軸190,191の回転数が大きいほど、半クラッチ圧を、副変速レバー15の各変速段における圧力目標値よりも低めの圧力に低下させる。例えば、図13に示した各変速段の数値配分値に応じて、引く分もそれぞれ同じ比で配分して引き、即ち先の圧力目標値よりも高速側ほど低めに設定する。
遠心力の影響は、入力軸190,191の回転数が高いほど大きくなるため、半クラッチ圧を高速側ほど低めに設定することで、ブレーキペダル19L、19Rの踏力の上昇を防止できる。従って、作業者の操作フィーリングも良好となる。
そして、この副変速レバー15の各変速段における、圧力目標値よりも低く設定した遠心力補正圧力に前後進クラッチ48の接続作動圧を低下させる制御は、上述のように、一つ目の方法として、算出した推力より、半クラッチ圧から差し引く圧力Jを計算するものである。遠心力Yは入力軸190,191の回転数(X)から得られる。Yは設計値Y0に対して5〜6%高くなると問題となる。この5〜6%はXから計算で得られる。このように補正することで、補正圧力の精度を高めることができる。
また、二つ目の方法は、上述のように、正確に遠心力Yを求めるのではなく、前後進クラッチ48のピストン178F又は178Rの断面積と入力回転数Xから規定の倍率を決めて、その分を差し引く方法である。半クラッチ圧から差し引く圧力Jを、前後進クラッチ48の入力軸190,191の回転数(X)とその比例係数(α)より算出する。例えば、入力軸190,191の回転数Xが2000(rpm)の場合の圧力J2を予め求めておき、入力軸190,191の回転数Xが3000(rpm)の場合の圧力J3は、J2の1.5α倍、4000(rpm)の場合の圧力J4はJ2の2α倍という簡単な比例計算から求める方法である。この場合も上記一つ目の方法と同様の効果を奏する。
また、小ストローククラッチ圧低下機能においても、図15及び図16の制御を行う構成でも良い。
即ち、ブレーキペダル19L、19R操作により、E位置に達して(ブレーキスイッチ163オン)ブレーキ操作が検出されても、ブレーキ操作位置センサ123L、123Rから検出されるストロークの変化量が検出されない場合に、ブレーキペダル19L、19Rの踏力が規定以上で車速センサ122から検出される速度が減速側に変化しているときは、目標圧P3のままで、停車時もP3を維持するが、実際は減速しているにもかかわらず、車速センサ122の異常等で減速が検知されない場合は、半クラッチ圧をP3よりも低くする。即ち、ブレーキペダル19L、19Rを踏むと、半クラッチ圧P3になる前に、車速の変化を判断して、減速信号が入ってこない場合は、P4(<P3)を目標値としてP4に向かって下げる。
本来は、ブレーキペダル19L、19Rが踏み込まれると車速がゼロになるはずであるが、高齢者のような踏み力の弱い作業者の場合はブレーキペダル19L、19Rを踏んでいてもブレーキ力が弱く、停車しないこともあり得る。また、車速センサ122の異常等で実際には車速が減速しているにもかかわらず、車速を認識できず減速を確認できない場合もあり得る。しかし、本構成により、このような場合でも確実に停車できるため、安全性や作業性に優れる。
また、規定の車速ではなく、ブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作の途中から車速の(減速側の)変化率が無くなると、目標圧P3を低くするという構成でも良い。
ブレーキペダル19L、19Rの踏み込み操作を開始してから、車速センサ122の異常等で規定の減速度(減速率)が検知されない場合、例えば、1.0秒〜1.5秒の間に減速信号が認識されても車速の減速度(マイナス方向の加速度)が規定の減速度よりも小さい場合(ブレーキを踏む時点の減速度が異なるため、ブレーキを踏んだ時点の減速度から5%程度の減速度を認識できない場合)は半クラッチ圧をP3の半分以下にする。
本構成によって、減速率によっても半クラッチ圧を更に低圧側に補正することで確実に停車できるため、安全性や作業性に優れる。
そして、このクラッチ圧減速度低下機能による、車速の減速度を半クラッチ圧の補正の要件とする場合、即ち、減速側の変化率が規定の減速度よりも小さい場合は、半クラッチ圧をP3よりも低圧側に補正する場合に、前述の副変速レバー15の変速位置や主変速レバー14の変速位置に応じて、半クラッチ圧を変更する構成を採用しても良い。
この場合は、先と同じように副変速レバー15の各変速段における減速度の閾値が、低速側ほど大きくなるように設定する。
そして、この補正は、先と同じように高速側ほど低めの圧力に低下させるような構成とすると良い。
そして、小ストローククラッチ圧低下機能により半クラッチ状態となった後、再びブレーキペダル操作範囲の最大位置Hから踏力を減少させて開放位置に戻すと、ブレーキペダル19L、19Rの動きをA線で検出するので、ブレーキペダル19L、19Rの動きに連動して半クラッチ状態(半クラッチ圧)から、通常の接続圧力(全圧)に向けて少しずつ昇圧されていく。また、上記のように、ブレーキ操作力センサ160L、160Rによる昇圧でも良い。
ブレーキペダル19L、19Rが開放側にある程度戻って、ブレーキスイッチ163がオフしたときに昇圧を開始すると、坂道等の発進で車体が下がってしまうこともあるが、ブレーキペダル19L、19Rが一定の操作位置から開放側に移動を始めるとブレーキ135が入りであっても徐々に昇圧を開始することで、坂道等の発進で車体が下がることなくスムーズな発進ができ、操作性や走行性を確保できる。