JP6201704B2 - 不定形耐火物プレキャスト構造体及びその製造方法 - Google Patents

不定形耐火物プレキャスト構造体及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、製鉄をはじめとする金属の溶融精錬、廃棄物処理、ガラスやセメントの製造等の高温プロセスにて使用される不定形耐火物プレキャスト構造体及びその製造方法に関する。
耐火物は、稼動面と背面との間に、数百〜1000℃超の温度差がある状態で使用されるため、稼動面と背面との間の熱膨張量の差により、使用中大きな応力を受けている。また、室温にて耐火物を築造した窯炉では、1000℃超の高温域まで昇温し、上記プロセスに使用した後、冷却して耐火物の補修等を行う、というサイクルが繰り返し行われているため、耐火物は、このような温度の昇降に伴う熱膨張の収縮による応力も受けることになる。
上記した耐火物としてれんがを用いる場合、隣り合うれんが間に形成する目地が、れんがの膨張を吸収する膨張代の役割を果たすため、れんがが受ける応力が緩和される。
なお、円筒形の窯炉(例えば転炉等)では、その内張り耐火物として、稼動面よりも背面の寸法が大きい、いわゆるセリ付き形状(平面視して扇状)のれんがを使用しているが、周方向に隣り合うれんが同士が競り合うため、窯炉の冷却時にれんがが熱収縮したとしても、れんがが崩落することはほとんどない。また、平面構造の窯炉(例えば、熱延加熱炉)では、鉄皮等の構造体と、その表面に設置するれんがとの間を、引張り金物や吊り金物で結び付けることにより、れんがの崩落を防いでいる。
また、不定形耐火物(キャスタブル耐火物ともいう)は、れんがに比較して可縮性が高いため、熱膨張収縮による応力が比較的小さくなる。
この不定形耐火物を円筒形の窯炉(例えば溶鋼鍋等)の内張り耐火物に使用する場合、その周方向に膨張代を設置しないことが多いが、稼動面の周長よりも背面の周長の方が長いことから、窯炉の冷却時に不定形耐火物が熱収縮しても崩落することはない。また、不定形耐火物を平面構造の窯炉(例えば熱延加熱炉)に、現地で流し込み等の施工を行って用いる場合、耐火物に対して数十〜百数十cm毎にスコアラインと呼ばれる切れ目を入れ、膨張代の役割を担わせる場合が多い。
なお、鉄皮等の構造体の表面に不定形耐火物を設置する場合、構造体と不定形耐火物との間を、スタッド金物で結び付けることにより、耐火物の崩落を防いでいる。
更に、不定形耐火物を予め所定の形状に成形し、養生硬化と乾燥を行ったプレキャストブロック(不定形耐火物プレキャスト構造体)がある。
プレキャストブロックは、不定形耐火物を現地で流し込み施工する場合と比較して、不定形耐火物の流動性よりも施工体品質を優先した水分量等の混練条件の設定が容易であり、また充分な養生硬化時間と乾燥時間の設定も容易である。このため、不定形耐火物を現地で流し込み施工する場合より、高強度高耐用の施工体を製造可能である。
また、プレキャストブロックは、前記したれんがと比較して単体寸法が大きい施工体が作製可能であるため、例えば、製鉄プロセスの溶鋼鍋の湯当りブロックや羽口ブロック、連続鋳造用タンディッシュの堰ブロック、アーク式電気炉の天井電極孔周りのブロック等に、使用されている。
上記したように、プレキャストブロックは、れんがに迫る高強度高耐用であり、かつ単体寸法が大きな施工体が製造可能であるため、鉄皮等の構造物に頼ることなく自立する必要がある耐火物、例えば、製鉄プロセスの連続鋳造用タンディッシュの堰やアーク式電気炉の天井電極孔周りのブロック等に使用されている。
このように、これらの施工体は耐火物で構成されているため、温度の昇降に伴う熱膨張による亀裂、即ち熱スポールが不可避的に発生する。しかし、施工体は、上記したように、鉄皮等に頼ることなく自立する必要があるため、当然ながら、スタッド金物を用いて鉄皮に結び付けることはできない。
そこで、プレキャストブロックの耐スポール性を向上させる技術として、例えば、特許文献1に、長さの異なる金属ファイバーを特定の割合で組合わせ、これを不定形耐火物に添加することで、耐スポール性の向上を図る技術が開示されている。
しかしながら、数百〜1000℃超の温度差を受ける用途に使用され、かつ脆性材料である耐火物において、亀裂の発生をゼロに抑えることは不可能である。
また、プレキャストブロックは、それぞれの用途に即した形状に設計され、実炉にて所定の位置に設置されているため、寿命を律速するような割損は、概ね似通った位置に発生する。しかし、不定形耐火物と金属ファイバーは、共に混練機に投入されて混練されることから明白なように、金属ファイバーを亀裂に対して効率的に配向させることは不可能である。このため、現実的には、発生した亀裂を、少数の金属ファイバーの引張強度で支えることになるが、断面径が0.2〜1.5mm程度の細い金属ファイバーでは、割損の発生によって、容易に破断されたり引き抜かれたりしてしまう。
更に、発生した亀裂から高温の炉内雰囲気ガスが侵入してくるため、上記した径の細い金属ファイバーでは、酸化又は溶融により容易に損傷してしまう。このため、一度亀裂が発生すると、亀裂によって分断された部分が施工体から剥離しないように、金属ファイバーで引張って保持し続けることは不可能である。また、誘導加熱式やプラズマ加熱式のタンディッシュやアーク式電気炉のように、金属ファイバーを使用できない部位や、添加の上限が外掛け1〜2質量%程度に制約される部位もある。
この問題を解決するため、特許文献2には、1200℃の温度の下で引張強度が70MPa以上の無機質繊維のヤーンを、樹脂で表面コーティングして35mmに切断したチョップド品とした上で、耐火物原料100質量部に対して2質量部以上添加する技術が開示されている。
しかしながら、ヤーンを樹脂で表面コーティングする目的は、不定形耐火物の混練時にヤーンが散けて綿埃状に偏析することを防止することにある。このため、当該ヤーンは、特許文献1に記載の金属ファイバーと同程度の長さと断面径を持つ、いわゆるチョップド品であり、このチョップド品を不定形耐火物と共に混練機に投入して混練している。
従って、ヤーンを亀裂に対して効率的に配向させることは不可能であるため、前記した特許文献1と同様、発生した亀裂を少数のヤーンの引張強度で支えることになり、その結果、金属ファイバーと同程度の細いヤーンでは、発生した亀裂によって容易に破断されてしまう。
そこで、無機質繊維を有効に活用する技術として、特許文献3には、直径1〜10mm、長さ10mm以上の無機質繊維からなる棒状成形体を用いる技術が開示されている。
棒状成形体は無機質繊維を樹脂等のバインダーを用いて成形したものであり、これにより、耐火物の中に棒状成形体を埋設する際に、この棒状成形体をたるませることなく、目的とする位置に所定の形状で設置することができる。また、無機質繊維の棒状成形体は引張強度が高いため、耐火物が補強されて亀裂が発生しにくくなり、たとえ耐火物に亀裂が入っても、棒状成形体の引抜き抵抗によって破壊を抑制できる。
特開平8−268767号公報 特開2008−303102号公報 特開2004−2171号公報
しかしながら、特許文献3の技術には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
上記した棒状成形体は、無機質繊維をロープ状に撚り合わせたり、また編み込んだりしたものに、樹脂等のバインダーを塗布し含浸させて作製するため、棒状成形体を構成する無機質繊維の表面の凹凸が均されてしまい、棒状成形体の表面に対する耐火物の噛み込みが少なくなって、棒状成形体の引抜き抵抗が低下してしまう。これは、棒状成形体に塗布する樹脂として、400℃以上の温度域で焼失や溶融軟化しないフェノール樹脂を用いているため、耐火物を前記した高温域で使用しても、棒状成形体の表面の凹凸が均された状態を維持していることによる。
また、無機質繊維にバインダーを塗布し含浸させた後、これをダイス等に通して引き抜くことで、無機質繊維の内部と表面から余分なバインダーを取り除くことも可能である。しかし、この加工によって無機質繊維の表面が平坦化されてしまうため、やはり引抜き抵抗は低下してしまうという欠点があった。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、亀裂の発生は不可避であるものの、たとえ亀裂が発生しても、致命的な折損や脱落に至り難くすることで、実用上の寿命を延長することが可能な不定形耐火物プレキャスト構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
前記目的に沿う第1の発明に係る不定形耐火物プレキャスト構造体は、不定形耐火物と、該不定形耐火物の内部に埋設され、無機質長繊維で形成される1本又は複数本の耐熱性繊維ロープとを有する不定形耐火物プレキャスト構造体であって、
前記不定形耐火物の気孔率を10体積%以上30体積%以下とし、前記耐熱性繊維ロープの両端部に、該耐熱性繊維ロープの外径の2倍以上の幅を有する結び目を設けた。
第1の発明に係る不定形耐火物プレキャスト構造体において、前記耐熱性繊維ロープは、400℃未満の温度域で焼失又は溶融軟化する硬化材で硬化されていることが好ましい。
前記目的に沿う第2の発明に係る不定形耐火物プレキャスト構造体の製造方法は、第1の発明に係る不定形耐火物プレキャスト構造体の製造方法であって、型枠内に、両端部に前記結び目を設けた前記耐熱性繊維ロープを配置した後、前記不定形耐火物を流し込み、該不定形耐火物を硬化させて前記型枠から取り出す。
第2の発明に係る不定形耐火物プレキャスト構造体の製造方法において、前記耐熱性繊維ロープは、400℃未満の温度域で焼失又は溶融軟化する硬化材を用いて予め硬化させ、前記型枠内に配置することが好ましい。
第1の発明に係る不定形耐火物プレキャスト構造体、及び第2の発明に係る不定形耐火物プレキャスト構造体の製造方法は、不定形耐火物の気孔率を10〜30体積%とし、耐熱性繊維ロープの両端部に結び目を設けているので、不定形耐火物に対する耐熱性繊維ロープの引抜き抵抗を向上させることができる。
これにより、たとえ不定形耐火物プレキャスト構造体の不定形耐火物に亀裂が発生したとしても、不定形耐火物には、折損や脱落等の致命的な損傷が発生し難くなるので、構造体の実用上の寿命を延長できる。
また、耐熱性繊維ロープが、400℃未満の温度域で焼失又は溶融軟化する硬化材で硬化されている場合、不定形耐火物プレキャスト構造体の製造の際に、柔軟性を有する耐熱性繊維ロープの形状を所定の形状に維持し易くなり、またこの耐熱性繊維ロープを所定の位置に配置し易くなる。なお、不定形耐火物プレキャスト構造体の使用にあっては、硬化材が焼失又は溶融軟化するため、耐熱性繊維ロープの柔軟性が回復して、不定形耐火物に対する耐熱性繊維ロープの引抜き抵抗を向上させることができる。
本発明の一実施の形態に係る不定形耐火物プレキャスト構造体の説明図である。 (A)〜(D)はそれぞれ同不定形耐火物プレキャスト構造体に用いる耐熱性繊維ロープに設ける結び目の説明図である。 (A)は試片の斜視図、(B)は比較例の補強材の配置状況を示す説明図、(C)は実施例の補強材の配置状況を示す説明図である。
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る不定形耐火物プレキャスト構造体(以下、単に構造体ともいう)10は、不定形耐火物(以下、単に耐火物ともいう)11と、この不定形耐火物11の内部に埋設される耐熱性繊維ロープ(以下、単にロープともいう)12とを有し、不定形耐火物11の気孔率を10体積%以上30体積%以下とし、耐熱性繊維ロープ12の両端部に結び目13、14を設けたものである。以下、詳しく説明する。
不定形耐火物プレキャスト構造体10は、製鉄をはじめとする金属の溶融精錬、廃棄物処理、ガラスやセメントの製造等の高温プロセスで使用可能なものである。なお、構造体の形状は特に限定されるものではなく、使用用途に応じて種々変更でき、また、構造体の大きさは、最大幅が例えば0.5m以上2.5m以下程度である。
特に、本発明の効果、即ち致命的な折損や脱落に至り難くすることで実用上の寿命を延長すること、を考慮すれば、構造体10を、亀裂の発生により耐火物が崩落して初期形状(施工時の形状)を維持できなくなる部位(即ち、初期形状を維持する必要がある部位)に適用することが好ましい。このような部位としては、例えば、製鉄プロセスの連続鋳造用タンディッシュの堰やアーク式電気炉の天井電極孔周りのブロック等がある。
不定形耐火物11は、気孔率が10体積%以上30体積%以下の耐火物であれば、特に限定されるものではない。なお、耐火物の材質としては、例えば、Al−SiO系や、Al−MgO系、Al系等、がある。
ここで、不定形耐火物の気孔率を10体積%以上としたのは、気孔率が10体積%未満の耐火物は、現時点では実用品として製造不可能であることによる。一方、耐火物の気孔率が30体積%超の場合、耐火物そのものの強度が不足するため、耐熱性繊維ロープに引張り応力がかかると、ロープ周囲の耐火物が崩壊してゆくので、ロープの結び目による引っ掛かりが弱まり、ロープ埋設による補強効果が不明瞭になる。
従って、不定形耐火物11の気孔率を10体積%以上30体積%以下としたが、耐熱性繊維ロープ12による補強効果を更に高めるため、上限を25体積%、更には22体積%とすることが好ましい。
耐熱性繊維ロープ12は、無機質長繊維で形成されている。
ここで、耐熱性繊維とは、耐熱性を有する繊維(無機質長繊維)のことであり、構成される化学成分(材質)が、例えば、Al質、SiO質、Al−SiO質、Al−SiO−B質のうち、いずれか1種又は2種以上である、長繊維(連続繊維)のことである。
この耐熱性繊維は、金属製支持材では強度の低下を生じるような環境下(例えば、600℃以上、更には1000℃以上の高温下)でも、耐熱性と強度を有するものであるが、耐熱性繊維が上記の化学成分で構成されていれば、このような耐熱条件を満たすことから、好ましい。
上記した材質のうち、特に、Al−SiO質は、耐高温性やコストパフォーマンス等に優れるので、より好ましい。
このAl−SiO質の中でも、Alが72質量%、SiOが28質量%の組成の耐熱性繊維は、入手が容易でコストパフォーマンスもよい。また、Alが90質量%、SiOが10質量%の組成の耐熱性繊維は、より耐熱性に優れている。
なお、他の材質でも、無機質長繊維でロープ状にすることができる耐熱性繊維を用いて耐熱性繊維ロープを製造すれば、このロープをあまり高温にならないような箇所に使用することも可能である。例えば、炭素繊維や、Al−SiO−CaO質、CaO−SiO質等の繊維が適用可能である。
従来の無機質の材料、即ちセラミックス材料は、金属材料に比較して脆性破壊し易いため、構造体の補強材として使用する場合、大粗粒として添加する以外の方法では、使い難い材料であった。
一方、上記した無機質長繊維を用いた耐熱性繊維ロープは柔軟性があり、屈曲させても脆性破壊し難く、切断し難い。このため、耐熱性繊維ロープを不定形耐火物内に埋設して使用する場合、耐火物が温度の昇降に伴って熱膨張収縮により変形しても、ロープはその変形に追随して柔軟に動くため、耐火物の強度に悪影響を及ぼし難い。また、耐熱性繊維ロープの熱膨張率は、金属ファイバーやスタッド金物と比較して、不定形耐火物の熱膨張率に近いため、熱膨張率の差に起因した耐火物の破損も起こり難い。
従って、耐熱性繊維ロープ12は金属製補強材と異なり、耐熱性繊維ロープ12を補強材として不定形耐火物11内に埋設すると、補強効果のみを享受することが可能となる。
耐熱性繊維ロープ12に使用する耐熱性繊維は、複数本まとめて撚ってヤーンとすることができ、更に、当該ヤーンを複数束ねて組紐加工し、ロープ状に加工できることが必要である。なお、ヤーンとしては、例えば、0.5〜3mm程度の径を有するものを使用でき、また耐熱性繊維ロープ12としては、例えば、3〜15mm程度の径を有するものを使用できる。
これにより、耐熱性繊維ロープ12を製造できる。
なお、上記した組紐加工の種類としては、8打ち、16打ち、金剛打ち等が挙げられるが、特にその種類が限定されることはない。また、耐熱性繊維ロープは、スリーブ等の中空形状でもよいが、好ましくは、ロープ内の空間ができるだけ少ないものがよい。
耐熱性繊維ロープが不定形耐火物内で補強材としての強度を発揮するには、前記したように、ロープの材質として長繊維を用いることが必須である。一方、短繊維を使用した場合でも、ロープ形状に組紐加工することは可能ではあるが、繊維が絡み合っているだけで容易に引き抜けるため、補強材としての機能を果たさない。
なお、長繊維の使用にあたり、補強材として必要な引張強度の調整は、前記したロープの径を変化させることで可能である。
ここで、長繊維とは、繊維長がm(メートル)オーダー以上(通常はkm(キロメートル)オーダー以上が多い)のものであり、繊維長が1〜50mm程度である短繊維とは容易に区別される。
耐熱性繊維ロープ12の両端部に設ける結び目13、14とは、ロープ12を結び合わせることにより生じた瘤状(コブ状)の部位のことである。なお、耐熱性繊維ロープ12の端部とは、例えば、結び目を設けた耐熱性繊維ロープの全長を100%とした場合に、その端面から、ロープの中央へ向けて10%までの範囲を意味する。
結び目は、一般的に、元のロープ(ロープ自体)の外径の2倍以上の幅をもつ瘤状の外観を呈することとなり、これがロープ周囲の耐火物に噛み込むため、使用にあっては、ロープが耐火物から引き抜かれ難くなる。
従って、耐熱性繊維ロープ12を不定形耐火物11に埋め込むことによる補強効果を最大限享受できる。
ここで、耐熱性繊維ロープ12に結び目13、14を設ける方法を、図2(A)〜(D)を参照しながら説明する。
結び目は、止め結び(overhand knot:図2(A))、固め止め結び(double overhand knot:図2(B))、8の字結び(figure eight knot:図2(C))等の、瘤を作るような結び方により設けることが好適である。また、もやい結び(bowline knot:図2(D))のように、環状部もしくは分岐点を形成する結び方の場合、環状部及び分岐部と、結び目の瘤との両方が、ロープの引抜き防止機能を果たすことになり好適である。
なお、結び目は、少なくとも耐熱性繊維ロープの両端部に設けられていれば、ロープの長手方向途中位置の1箇所又は複数箇所(例えば、ロープの長手方向中程に1箇所)に、更に追加しても構わない。
耐熱性繊維ロープ12の長さは、特に制限を設けないが、亀裂の発生状況を予想して、その予想される亀裂面を跨いでロープを設置しなければならないことから、予想のズレ等を考えると、最低長さが概ね0.2m程度と思われる。
一方、最大長さは、ロープを埋設する構造体の外観寸法(最大幅が0.5m以上2.5m以下程度)と同等でよい。即ち、幅1.5mの構造体の幅方向にロープを埋設する場合、ロープの長さを1.5mとすればよい。
本発明者らの知見では、耐熱性繊維ロープを不定形耐火物に埋設して構造体を製造するに際し、不定形耐火物の流動によってロープを屈曲させる場合、ロープの最大長さを構造体の外観寸法の120%程度としても、構造体内に十分に埋設することができる。
なお、不定形耐火物プレキャスト構造体10の製造に際し、耐熱性繊維ロープ12を型枠内に設置するとき、ロープ12は柔らかいことから動くため、所定の位置に所定の形状で設置することが困難な場合がある。このため、樹脂や塗料、糊等の有機物を、耐熱性繊維ロープに塗布又は浸潤させ、ロープを硬化させた状態にしてもよい。
この硬化材としては、上述した樹脂や塗料、糊等の有機物のように、400℃未満(好ましくは350℃以下)の低温の温度域で消失する物質や溶融し軟化する物質が適当である。これは、不定形耐火物プレキャスト構造体の使用時の温度域、即ち400℃以上1000℃以下、更には1000℃超の温度域において、耐熱性繊維ロープの柔軟性を回復させるためである。このため、硬化材の下限温度については特に規定していないが、室温で(ロープを型枠内に配置するときに)耐熱性繊維ロープの位置や形状を固定できればよいので、例えば40℃(更には50℃)程度である。
ここで、上記した耐熱性繊維ロープ12の設置位置及び形状について説明する。
耐熱性繊維ロープの設置位置としては、亀裂進展による割損発生時に不定形耐火物プレキャスト構造体の寿命律速部位となる位置を選べばよい。また、耐熱性繊維ロープの形状は、想定される亀裂を跨ぐような方向に、ロープが配向するような形状を選べばよい。
従って、当然のことながら、上記した「亀裂進展による割損発生時に不定形耐火物プレキャスト構造体の寿命律速部位となる位置」は、対象となる不定形耐火物プレキャスト構造体の形状や材質、この構造体が設置される炉の形状や操業温度等の各種条件に応じた位置となる。
例えば、特開2013−94796号公報、特開2013−86147号公報、特開2013−35001号公報、特開2012−20315号公報、特開2012−6025号公報等に記載の一連の発明では、庇状部を有する下堰、即ちL字状を上下反転させたような断面形状を持つ下堰をタンディッシュ内に設置する技術が公開されている。この下堰では、概略90°で屈曲した部分に応力が集中して亀裂が誘発されることになるため、亀裂が進展し易い方向は、概略135°の方向となる。
従って、予想される亀裂面に対して垂直方向に、かつこの亀裂面を跨ぐように、耐熱性繊維ロープを配置することが望ましい。
ここで、亀裂の発生場所は、例えば、過去に亀裂が発生した場所の実績データや、構造物の形状から応力がかかる場所を数値解析により、想定できるため、これらのデータを用いて耐熱性繊維ロープの設置位置と形状を決定することが好ましい。
また、使用する耐熱性繊維ロープの本数は、対象となる不定形耐火物プレキャスト構造体の形状や材質、この構造体が設置される炉の形状や操業温度等の各種条件に応じて選択でき、1本でもよく、また2本以上の複数本でもよい。
なお、耐熱性繊維ロープを複数本使用する場合は、各ロープを間隔を有して配置することができ、このとき各ロープの配置は、平行でもよく、またランダムでもよい。また、複数のロープ同士を、その長手方向途中位置で結び付けて使用することもできる。
続いて、本発明の一実施の形態に係る不定形耐火物プレキャスト構造体の製造方法について、図1を参照しながら説明する。
まず、両端部に結び目13、14を設けた耐熱性繊維ロープ12を、不定形耐火物11内の所定の位置に、所定の形状で設置できるように、不定形耐火物11を流し込む前の型枠内に仮固定する。なお、耐熱性繊維ロープ12は、前記したように、硬化材を、予め塗布又は浸潤させて硬化させ、被覆させておいてもよい。
ここで、耐熱性繊維ロープの仮固定は、型枠内の所定の位置にφ1〜3mm程度の貫通孔を形成しておき、この貫通孔に、ロープの両端部に取り付けた木綿や化繊の糸、又は針金等を通し、これらを用いてロープを引っ張ることにより実施できる。なお、ロープを複数本使用する場合は、前後左右に隣り合うロープを、上記した糸や針金等により引っ張り合うことで、ロープ相互の位置関係を実質的に固定することも可能である。また、複数のロープ同士を結び合わせる等の手段により、分岐点やループを設ける等の手法も駆使することで、ロープの屈曲や分岐等の形状を作り込むことも可能である。
この耐熱性繊維ロープ12が仮固定された型枠内に、混練した不定形耐火物11を流し込む。そして、型枠内の不定形耐火物11を、養生し硬化させた後、型枠から取り出し、更に乾燥炉等で乾燥処理する。得られた不定形耐火物プレキャスト構造体10は、目的の場所に取り付けて使用する。
上記のように、耐熱性繊維ロープ12の両端部に結び目13、14を形成したものを型枠内の所定の位置に仮固定し、これに不定形耐火物11を流し込んで不定形耐火物プレキャスト構造体10を成形すると、構造体10は、ロープ12の結び目13、14による凹凸に、耐火物11が噛み合うように形成されるため、ロープ12が耐火物11から滑って引き抜かれるおそれが少なくなり、互いの位置関係を確実に固定できる。
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、不定形耐火物プレキャスト構造体の試片として、図3(A)に示す形状の並型れんが(230mm×114mm×65mm)を作製した。
なお、上記試片の作製に用いた不定形耐火物は、気孔率を種々変更したアルミナ−シリカ(Al−SiO)系とアルミナ−マグネシア(Al−MgO)系のものである。具体的には、気孔率約11体積%のアルミナ−シリカ系(ケース1)、気孔率約20体積%のアルミナ−シリカ系(ケース2)、気孔率約28体積%のアルミナ−マグネシア系(ケース3)、及び、気孔率約32体積%のアルミナ−マグネシア系(ケース4)である。
また、試片は、補強材を使用しないもの、補強材としてアルミナ−シリカ質(Al:72質量%、SiO:28質量%)の長繊維を用いたチョップド品(長繊維チョップド品)を埋設したもの、補強材として上記長繊維を用いた耐熱性繊維ロープ(長繊維ロープ)を埋設したもの、についてそれぞれ作製した。
ここで、チョップド品とは、直径が0.5mm、長さが35mmのものである。
また、耐熱性繊維ロープには、直径が5mmで、その片側端部の1箇所のみに結び目を設けたもの(図3(B)参照)と、その両端部にそれぞれ結び目を設けたもの(図3(C)参照)を使用した。なお、耐熱性繊維ロープは、結び目を設けた状態での長さ(全長)が210mmであり、結び目は、ロープの端面から21mmまでの範囲(ロープ長さの10%以内)に配置されている。
上記したチョップド品を補強材として用いる場合、まず、補強材を前記した不定形耐火物と共に混練機に投入して混練し、この混練物を型枠内に流し込み、養生して硬化させ、これを型枠から取り出して110℃で24時間乾燥させた。次に、ダイヤモンドディスク(φ30mm、厚0.3mm)を用いて、乾燥物に所定の位置に深さ約10mmのノッチ(図3(B)の点線)を刻み込んだ。
なお、補強材は、不定形耐火物との混練前に、予めポリウレタン樹脂(ポリウレタンニス:400℃未満の温度域で焼失)を塗布し含浸させ、乾燥させておいた。
これにより、試片を得た。
また、上記した耐熱性繊維ロープを補強材として用いる場合、まず、図3(B)、(C)に示すように、試験片の長手方向(230mmの方向)に計6本の補強材が位置するように、補強材を型枠内に事前に設置した。なお、補強材の事前設置にあたっては、型枠の該当部位に1mmの貫通孔を開け、ここにナイロン糸を通し、これを用いて補強材の両端を引っ張ることにより、補強材を型枠内に仮固定した。
次に、補強材を仮固定した型枠内に前記した不定形耐火物を流し込み、養生して硬化させ、これを型枠から取り出して110℃で24時間乾燥した後、上記ダイヤモンドディスクを用いて、所定の位置に深さ約10mmのノッチ(図3(B)、(C)の点線)を刻み込んだ。
なお、補強材は、上記アルミナ−シリカ質の長繊維をヤーンとし、これを金剛打ちで組紐加工して得たものである。この補強材は、常温での引張強度が50MPaで、1200℃で5時間焼成後の引張強度が40MPaであった。
また、補強材は、型枠内への仮固定前に、その片側端部又は両端部に、止め結び(図2(A)参照)による結び目を形成して直線状とした状態で、ポリウレタン樹脂(ポリウレタンニス:400℃未満の温度域で焼失)、又は水ガラスを、含浸し乾燥させておいた。
これにより、試片を得た。
これらの試片を用いて、JIS R2657(1995年)「耐火れんが及び耐火断熱れんがのスポーリング試験方法」に準じて、1200℃での空冷法によるスポーリング試験を行った。
上記した各試験条件と試験結果を、表1〜表4にそれぞれ示す。
ここで、試験結果は、ノッチを入れた先側部分の耐火物(図3(B)、(C)の右側部分)が脱落するまでの加熱サイクル数を示しており、この加熱サイクル数が10回以上の場合を合格とした。なお、加熱サイクル数とは、加熱と冷却を1サイクルとした場合の繰り返し回数であり、耐火物が脱落したという判断は、試片の加熱面(図3(B)、(C)の右側端面)の面積の1/2が脱落した時点で行った。
Figure 0006201704
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表1〜表4から明らかなように、不定形耐火物の気孔率を10体積%以上30体積%以下とし、両端部に結び目を設けた長繊維ロープを補強材として使用することで(実施例X−1、実施例X−2:Xは1〜3)、耐火物脱落までの加熱サイクル数10回以上を達成できた。
なお、不定形耐火物の気孔率が30体積%を超えた場合(比較例4−4)、両端部に結び目を設けた長繊維ロープを補強材として使用しても、耐火物脱落までの加熱サイクル数は10回未満となった。これは、耐火物の気孔率が高くなることで、耐火物そのものの強度が不足したため、ロープに引張り応力がかかってロープ周囲の耐火物が崩壊し、ロープの結び目による引っ掛かりが弱まったことによる。
また、補強材として長繊維チョップド品を使用した場合(比較例X−2:Xは1〜4)、長繊維チョップド品を亀裂に対して効率的に配向させることが不可能であったため、加熱サイクル数は10回未満であった。
そして、補強材として片側1箇所に結び目を設けた長繊維ロープを使用した場合(比較例X−3:Xは1〜4)、片側のみしか結び目を設けていないため、結び目による引抜き抵抗が十分に得られず、加熱サイクル数は10回未満であった。
なお、補強材を使用しない場合(比較例X−1:Xは1〜4)は、当然のことながら、補強材の効果が得られないため、加熱サイクル数は他の比較例よりも少なかった。
また、表1〜表3に示すように、硬化材として400℃未満の温度域で焼失するポリウレタン樹脂を使用した場合(実施例X−1:Xは1〜3)、上記温度域で焼失又は溶融軟化しない水ガラスを使用した場合(実施例X−2:Xは1〜3)と比較して、加熱サイクル数を更に高めることができた。これは、試片を加熱した際に、400℃以上の温度域において、ポリウレタン樹脂が焼失し、長繊維ロープの柔軟性が回復して、不定形耐火物に対する長繊維ロープの引抜き抵抗が向上したためである。
以上のことから、本発明の不定形耐火物プレキャスト構造体及びその製造方法を用いることで、亀裂の発生は不可避であるものの、たとえ亀裂が発生しても、致命的な折損や脱落に至り難くすることで、実用上の寿命を延長することができることを確認できた。
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の不定形耐火物プレキャスト構造体及びその製造方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
10:不定形耐火物プレキャスト構造体、11:不定形耐火物、12:耐熱性繊維ロープ、13、14:結び目

Claims (4)

  1. 不定形耐火物と、該不定形耐火物の内部に埋設され、無機質長繊維で形成される1本又は複数本の耐熱性繊維ロープとを有する不定形耐火物プレキャスト構造体であって、
    前記不定形耐火物の気孔率を10体積%以上30体積%以下とし、前記耐熱性繊維ロープの両端部に、該耐熱性繊維ロープの外径の2倍以上の幅を有する結び目を設けたことを特徴とする不定形耐火物プレキャスト構造体。
  2. 請求項1記載の不定形耐火物プレキャスト構造体において、前記耐熱性繊維ロープは、400℃未満の温度域で焼失又は溶融軟化する硬化材で硬化されていることを特徴とする不定形耐火物プレキャスト構造体。
  3. 請求項1記載の不定形耐火物プレキャスト構造体の製造方法であって、型枠内に、両端部に前記結び目を設けた前記耐熱性繊維ロープを配置した後、前記不定形耐火物を流し込み、該不定形耐火物を硬化させて前記型枠から取り出すことを特徴とする不定形耐火物プレキャスト構造体の製造方法。
  4. 請求項3記載の不定形耐火物プレキャスト構造体の製造方法において、前記耐熱性繊維ロープは、400℃未満の温度域で焼失又は溶融軟化する硬化材を用いて予め硬化させ、前記型枠内に配置することを特徴とする不定形耐火物プレキャスト構造体の製造方法。
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