JP6198141B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐欠損性を備える表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が知られており、この被覆工具は、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工に用いられている。
そこで、上記特許文献3に記載される被覆工具において、その上部層と下部層との界面に着目して、空孔の適正な分布形態についてさらに研究を進めたところ、特許文献3に記載されるような硬質被覆層の空孔分布形態に加えて、上部層と下部層の界面に接して、所定孔径かつ所定密度の空孔を形成することにより、切れ刃がより高熱に曝される合金工具鋼、耐熱鋼等の高速断続切削加工に供した場合であっても、すぐれた熱的・機械的な衝撃吸収性を備え、長期の使用にわたってすぐれた耐チッピング性、耐欠損性を発揮することを見出したのである。
「(1)炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層が下部層と上部層とからなり、
(a)前記下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)前記上部層は、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層であり、
(c)前記下部層と上部層との界面近傍の下部層中に、孔径2〜70nmの微小空孔を有する微小空孔富裕層が存在し、該微小空孔富裕層が0.1〜1μmの層厚を有し、
(d)前記下部層と上部層との界面に接して、界面の単位長さ当たり1〜3個/μmの空孔密度で孔径90〜150nmの空孔を形成したことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記下部層中に存在する微小空孔の孔径分布がバイモーダルな分布をとることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記微小空孔の孔径分布の第1ピークが2〜10nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第1ピークにおける微小空孔数密度が200〜500個/μm2であって、第2ピークが20〜50nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第2ピークにおける微小空孔数密度が10〜50個/μm2であることを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなる下部層は、通常の化学蒸着条件で形成することができ、それ自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体とAl2O3層からなる上部層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方、その合計平均層厚が20μmを越えると、チッピングを発生しやすくなることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
上部層を構成するAl2O3層が、高温硬さと耐熱性を備えることは既に良く知られているが、その平均層厚が1μm未満では、長期の使用にわたっての耐摩耗性を確保することができず、一方、その平均層厚が25μmを越えるとAl2O3結晶粒が粗大化し易くなり、その結果、高温硬さ、高温強度の低下に加え、高速断続切削加工時の耐チッピング性、耐欠損性が低下するようになることから、その平均層厚を1〜25μmと定めた。
図1に示すように、本発明のTi化合物層で構成された下部層とAl2O3層で構成された上部層との界面近傍の下部層中に孔径2〜70nmの微小空孔を有する微小空孔富裕層が存在している下部層は、切れ刃が高温に曝され、しかも、機械的・熱的衝撃を受ける高速断続切削加工においても、すぐれた高温強度、高温硬さを備え、同時に、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性を発揮する。さらに、該微小空孔富裕層の微小空孔の孔径を2nmから70nmにわたって均一に分布させるのではなく、バイモーダルな分布(双峰分布)をとることにより、より高い耐チッピング性、耐欠損性を発揮する。
本発明の微小空孔富裕層は、通常の化学蒸着条件で成膜した下部層の表面を次の2つの条件によるエッチングを施すことによって形成することができる。
下部層成膜用の反応ガスの導入と、以下の2つ条件によるエッチングを交互に行うことにより、下部層と上部層との界面近傍の下部層中に所定の孔径分布を有する微小空孔富裕層が形成される。
(A条件)
反応ガス組成(容量%):
SF6:5〜10%,
H2:残
反応雰囲気温度:800〜950℃、
反応雰囲気圧力: 4〜9kPa、
の条件で5〜30分間SF6エッチングを行う。
(B条件)
反応ガス組成(容量%):
SF6:5〜10%,
H2:残
反応雰囲気温度:1000〜1050℃、
反応雰囲気圧力: 13〜27kPa、
の条件で4〜30分間SF6エッチングを行う。
図2に、前記のエッチング条件を用いて形成された本発明の下部層と上部層との界面近傍の下部層中の微小空孔富裕層に形成された微小空孔の孔径分布図を示す。
図2に示されるように、本発明の下部層と上部層との界面近傍の下部層中の微小空孔富裕層には、孔径2〜70nmの微小空孔が存在しているが、その孔径分布は、第1ピークが2〜10nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第1ピークにおける微小空孔数密度が200〜500個/μm2であって、第2ピークが20〜50nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第2ピークにおける微小空孔数密度が10〜50個/μm2である形態のバイモーダルな分布をとっている。
また、本発明で、下部層と上部層との界面近傍の下部層中の微小空孔富裕層の層厚を0.1〜1μmの範囲内と定めたのは、0.1μm未満では、微小空孔による衝撃緩和効果が十分に期待できず、一方、1μmを超えると、界面近傍の靭性が低下し、耐チッピング性、耐欠損性向上という効果が十分に発揮されないという理由による。
下部層と上部層との界面近傍の下部層中には、前述の微小空孔富裕層を形成して衝撃緩和作用により、耐チッピング性、耐欠損性の向上を図ったが、これに加えて、本発明では、下部層と上部層との界面に接して、界面の単位長さ当たり1〜3個/μmの空孔密度で孔径90〜150nmの空孔を形成することによって、衝撃緩和効果をさらに向上させることができる。
即ち、切削時に切れ刃に作用する断続的・衝撃的な高負荷によって、硬質被覆層の上部層にはクラックが発生するが、このクラックが伝播進展した場合においても、この空孔でクラックの進展を停止させ、その結果、下部層にまでクラックが伝播進展することが抑制されることによって耐チッピング性、耐欠損性がさらに向上する。
また、下部層と上部層との界面に接して形成された空孔は、界面における残留応力をも緩和することによって、より一層、耐チッピング性、耐欠損性が向上する。
本発明において、空孔密度が界面の単位長さ当たり1個/μm未満、空孔の孔径が90nm未満では、衝撃緩和効果、残留応力緩和効果が少なく、一方、空孔密度が3個/μmを超える場合、あるいは、空孔の孔径が150nmを超える場合には、界面剥離を生じやすくなるので、本発明では、界面の単位長さ当たりの空孔密度を1〜3個/μmと定め、また、空孔の孔径を90〜150nmと定めた。
ここで、空孔の孔径とは、被覆工具を下部層と上部層の界面を含む縦断面で観察した場合に、界面に接して形成されている空孔の最大幅をいう。
下部層と上部層の界面に接した空孔の形成は、下部層として、前述の微小空孔富裕層を有する下部層を形成した後、例えば、以下の(C条件)、(D条件)により下部層を処理し、次いで、通常のAl2O3形成条件で蒸着することによって、下部層と上部層の界面に接した空孔を有する上部層を形成することができる。
(C条件)
反応ガス組成(容量%):
TiCl4:0.8〜1.5%,
C2H4:0.8〜2.0%
CO:3.0〜5.0%
HCl:0.05〜0.1%
H2:残
反応雰囲気温度:800〜850℃、
反応雰囲気圧力: 53〜67kPa、
の条件で10〜15分間の処理を行う。
(D条件)
反応ガス組成(容量%):
AlCl3:3.5〜4.5%,
HCl:2.0〜3.0%
H2:残
反応雰囲気温度:1200〜1300℃、
反応雰囲気圧力: 3〜5kPa、
の条件で5〜15分間の処理を行う。
上記(C条件)による処理を行った後、(D条件)による処理を行うことで、反応ガス組成中のAlCl3が、すでに基体上に被覆された膜中のO(酸素原子)を吸い上げ、自らはAl2O3となり基体上に被覆し、さらにその後、通常のAl2O3蒸着条件で成膜することによって、下部層と上部層の界面に接して所定の空孔が形成された上部層を成膜することができる。
図1に、下部層と上部層との界面近傍の下部層中に所定の微小空孔富裕層が形成された下部層と、下部層と上部層の界面に接して所定の空孔が形成された上部層からなる本発明被覆工具の硬質被覆層の縦断面模式図を示す。
粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120408のインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜eを形成した。
(a)硬質被覆層の下部層として、表3に示される条件でTi化合物層を蒸着形成する。
(b)次いで、(a)のTi化合物層成膜を停止し、表4に示されるA条件によるSF6エッチングを所定時間行い、さらに(a)の成膜工程を再度行ない、再度停止した後に表4に示されるB条件によるSF6エッチングを所定時間行い、さらに(a)の成膜工程を再度行なう。
(c)前記(b)の工程を表4に示される所定回数繰り返し行い微小空孔富裕層を形成し、表6に示される目標層厚でTi化合物層を蒸着形成する。
(d)次いで、表5に示されるC条件により、下部層の表面を所定時間処理し、引き続き、表5に示されるD条件で所定時間処理する。
(e)次いで、硬質被覆層の上部層として、表3に示される条件で所定の層厚のAl2O3層を蒸着形成する。
また、同じく走査型電子顕微鏡(倍率50000倍)を用いて複数視野にわたって観察したところ、いずれも、図1の縦断面模式図に示されるように、下部層と上部層との界面に接して空孔が形成されていることが確認された。
さらに、前記本発明被覆工具1〜15の下部層と上部層との界面近傍の下部層中の微小空孔富裕層について、走査型電子顕微鏡(倍率50000倍)及び透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いて界面に沿って長さ10μmに亘って複数視野観察し、それぞれの視野について微小空孔を観察したところ、図2に示した孔径分布図に示される孔径分布形態が確認された。
また、前記本発明被覆工具1〜15の下部層と上部層との界面に接して形成されている空孔について、走査型電子顕微鏡(倍率50000倍)及び透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いて界面に沿って長さ10μmに亘って複数視野観察し、それぞれの視野について空孔の孔径及び空孔密度を測定した。
次いで、硬質被覆層の上部層として、表3に示される条件かつ表6に示される目標層厚でAl2O3層からなる上部層を蒸着形成することにより、表6に示される下部層及び表6に示される目標層厚の上部層(Al2O3層)からなる硬質被覆層を蒸着形成した表8に示される比較被覆工具1〜10を作製した。
次いで、硬質被覆層の上部層として、表3に示される条件かつ表6に示される目標層厚でAl2O3層からなる上部層を蒸着形成することにより、表6に示される下部層、表8に示される下部層と上部層との界面近傍の下部層中に孔径分布がバイモーダルな分布をとる微小空孔富裕層および表6に示される目標層厚の上部層(Al2O3層)からなる硬質被覆層を蒸着形成した表8に示される比較被覆工具11〜15を作製した。
つまり、比較被覆工具1〜10は、前記(b)、(c)、(d)の工程を行っていない点、また、比較被覆工具11〜15は、前記(d)の工程を行っていない点で、それぞれ、本発明被覆工具とその製造方法が相違している。
被削材:JIS・SKD11の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、、
切削速度:350m/min.、
切り込み:1.8mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:15分、
の条件(切削条件1という)での合金工具鋼の乾式高速断続切削加工試験、
被削材:JIS・SKD61の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、、
切削速度:300m/min.、
切り込み:2.0mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:20分、
の条件(切削条件2という)での合金工具鋼の湿式高速断続切削加工試験、
被削材:JIS・SUH330の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、、
切削速度:370m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.4mm/rev.、
切削時間:18分、
の条件(切削条件3という)での耐熱鋼の湿式高速断続切削加工試験、
を行い、逃げ面摩耗幅(mm)を測定した。
表9に、その結果を示す。
Claims (3)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層が下部層と上部層とからなり、
(a)前記下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)前記上部層は、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層であり、
(c)前記下部層と上部層との界面近傍の下部層中に、孔径2〜70nmの微小空孔を有する微小空孔富裕層が存在し、該微小空孔富裕層が0.1〜1μmの層厚を有し、
(d)前記下部層と上部層との界面に接して、界面の単位長さ当たり1〜3個/μmの空孔密度で孔径90〜150nmの空孔を形成したことを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記下部層中に存在する微小空孔の孔径分布がバイモーダルな分布をとることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 前記微小空孔の孔径分布の第1ピークが2〜10nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第1ピークにおける微小空孔数密度が200〜500個/μm2であって、第2ピークが20〜50nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第2ピークにおける微小空孔数密度が10〜50個/μm2であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
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