JP6198141B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐欠損性を備える表面被覆切削工具 - Google Patents

硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐欠損性を備える表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

本発明は、高熱発生を伴うとともに、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する合金工具鋼、耐熱鋼等の高速断続切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐欠損性を備えることにより、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された酸化アルミニウム(以下、Alで示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が知られており、この被覆工具は、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工に用いられている。
ただ、このような被覆工具は、切れ刃に大きな負荷がかかる切削条件では、チッピング、欠損等を発生しやすく、工具寿命が短命であるという問題があるため、これを解消するために、従来からいくつかの提案がなされている。
例えば、特許文献1には、工具基体の表面に、Ti化合物からなる下部層、酸化アルミニウムからなる上部層、窒化チタンからなる表面層を形成した被覆工具において、上部層に5〜30%の空孔を形成することで、炭素鋼、合金鋼、鋳鉄の断続重切削加工における耐チッピング性を改善することが提案されている。
また、特許文献2には、工具基体の表面に、Ti化合物層からなる下部層と酸化アルミニウム層からなる上部層を形成した被覆工具において、下部層の層厚方向に0.1μmの厚み幅間隔で、各厚み幅領域に存在する孔径2〜30nmの空孔の空孔密度を測定した場合に、空孔密度が200〜500個/μmの厚み幅領域と、空孔密度が0〜20個/μmの厚み幅領域とを、下部層の層厚方向に沿って、交互に少なくとも複数領域形成される空孔分布形態を形成するで、炭素鋼、合金鋼、ダクタイルの高速断続切削加工における耐チッピング性、耐欠損性を改善することが提案されている。
さらに、特許文献3には、工具基体の表面に、Ti化合物層からなる下部層と酸化アルミニウム層からなる上部層を形成した被覆工具において、下部層と上部層との界面近傍の下部層中に孔径2〜70nmの微小空孔を有する微小空孔富裕層を形成し、該微小空孔富裕層の層厚を0.1〜1μmとすることによって、炭素鋼、合金鋼、鋳鉄の高速断続切削加工における耐チッピング、耐欠損性を改善することが提案されている。
特開2003−19603号公報 特開2012−187659号公報 特開2013−126709号公報
近年の切削加工における省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、被覆工具は一段と過酷な条件下で使用されるようになってきているが、例えば、前記特許文献1〜3に示される被覆工具においては、炭素鋼、合金鋼、鋳鉄の断続切削加工においてはすぐれた耐チッピング性、耐欠損性を示すが、これを、高熱発生を伴うとともに、より一段と切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する合金工具鋼、耐熱鋼等の高速断続切削加工に用いた場合には、上部層の耐機械的衝撃性、耐熱的衝撃性が未だ十分とはいえず、切削加工時の高負荷によって切れ刃にチッピング、欠損が発生し、これを原因として工具寿命に至る場合があり、より一段と耐チッピング性、耐欠損性にすぐれた被覆工具が求められている。
そこで、本発明者らは、前述のような観点から、高熱発生を伴い、かつ、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する合金工具鋼、耐熱鋼等の高速断続切削加工に用いた場合であっても、硬質被覆層がすぐれた熱的・機械的な衝撃吸収性を備え、その結果、長期の使用にわたってすぐれた耐チッピング性、耐欠損性を発揮する被覆工具について鋭意研究を行った。
即ち、特許文献3に示される被覆工具においては、上部層と下部層との界面近傍の下部層中に孔径2〜70nmの微小空孔を有する微小空孔富裕層を形成し、該微小空孔富裕層を所定の層厚と定め、さらに、微小空孔の孔径分布の第1ピークが2〜10nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第1ピークにおける微小空孔数密度が200〜500個/μmであって、第2ピークが20〜50nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第2ピークにおける微小空孔数密度が10〜50個/μmであるような微小空孔のバイモーダルな孔径分布を形成することによって、Al層の高温強度と高温硬さの低下を招くことなく、機械的、熱的な耐衝撃性の向上を図っていた。
そして、特許文献3に示される被覆工具は、炭素鋼、合金鋼、鋳鉄の高速断続切削加工に使用した場合には、満足できる耐チッピング、耐欠損性を発揮するが、これを、合金工具鋼、耐熱鋼等の高速断続切削加工に使用した場合には、切れ刃がより高熱に曝されるため、特許文献3に記載されるような硬質被覆層構造では、十分な耐チッピング性、耐欠損性が発揮されるとはいえなかった。
そこで、上記特許文献3に記載される被覆工具において、その上部層と下部層との界面に着目して、空孔の適正な分布形態についてさらに研究を進めたところ、特許文献3に記載されるような硬質被覆層の空孔分布形態に加えて、上部層と下部層の界面に接して、所定孔径かつ所定密度の空孔を形成することにより、切れ刃がより高熱に曝される合金工具鋼、耐熱鋼等の高速断続切削加工に供した場合であっても、すぐれた熱的・機械的な衝撃吸収性を備え、長期の使用にわたってすぐれた耐チッピング性、耐欠損性を発揮することを見出したのである。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層が下部層と上部層とからなり、
(a)前記下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)前記上部層は、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層であり、
(c)前記下部層と上部層との界面近傍の下部層中に、孔径2〜70nmの微小空孔を有する微小空孔富裕層が存在し、該微小空孔富裕層が0.1〜1μmの層厚を有し、
(d)前記下部層と上部層との界面に接して、界面の単位長さ当たり1〜3個/μmの空孔密度で孔径90〜150nmの空孔を形成したことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記下部層中に存在する微小空孔の孔径分布がバイモーダルな分布をとることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記微小空孔の孔径分布の第1ピークが2〜10nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第1ピークにおける微小空孔数密度が200〜500個/μmであって、第2ピークが20〜50nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第2ピークにおける微小空孔数密度が10〜50個/μmであることを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
本発明について、以下に詳細に説明する。
下部層のTi化合物層:
Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなる下部層は、通常の化学蒸着条件で形成することができ、それ自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体とAl層からなる上部層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方、その合計平均層厚が20μmを越えると、チッピングを発生しやすくなることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
上部層のAl層:
上部層を構成するAl層が、高温硬さと耐熱性を備えることは既に良く知られているが、その平均層厚が1μm未満では、長期の使用にわたっての耐摩耗性を確保することができず、一方、その平均層厚が25μmを越えるとAl結晶粒が粗大化し易くなり、その結果、高温硬さ、高温強度の低下に加え、高速断続切削加工時の耐チッピング性、耐欠損性が低下するようになることから、その平均層厚を1〜25μmと定めた。
下部層と上部層との界面近傍の下部層中に設けた微小空孔富裕層:
図1に示すように、本発明のTi化合物層で構成された下部層とAl層で構成された上部層との界面近傍の下部層中に孔径2〜70nmの微小空孔を有する微小空孔富裕層が存在している下部層は、切れ刃が高温に曝され、しかも、機械的・熱的衝撃を受ける高速断続切削加工においても、すぐれた高温強度、高温硬さを備え、同時に、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性を発揮する。さらに、該微小空孔富裕層の微小空孔の孔径を2nmから70nmにわたって均一に分布させるのではなく、バイモーダルな分布(双峰分布)をとることにより、より高い耐チッピング性、耐欠損性を発揮する。
微小空孔富裕層の形成:
本発明の微小空孔富裕層は、通常の化学蒸着条件で成膜した下部層の表面を次の2つの条件によるエッチングを施すことによって形成することができる。
下部層成膜用の反応ガスの導入と、以下の2つ条件によるエッチングを交互に行うことにより、下部層と上部層との界面近傍の下部層中に所定の孔径分布を有する微小空孔富裕層が形成される。
(A条件)
反応ガス組成(容量%):
SF:5〜10%,
:残
反応雰囲気温度:800〜950℃、
反応雰囲気圧力: 4〜9kPa、
の条件で5〜30分間SFエッチングを行う。
(B条件)
反応ガス組成(容量%):
SF:5〜10%,
:残
反応雰囲気温度:1000〜1050℃、
反応雰囲気圧力: 13〜27kPa、
の条件で4〜30分間SFエッチングを行う。
微小空孔富裕層の孔径分布形態:
図2に、前記のエッチング条件を用いて形成された本発明の下部層と上部層との界面近傍の下部層中の微小空孔富裕層に形成された微小空孔の孔径分布図を示す。
図2に示されるように、本発明の下部層と上部層との界面近傍の下部層中の微小空孔富裕層には、孔径2〜70nmの微小空孔が存在しているが、その孔径分布は、第1ピークが2〜10nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第1ピークにおける微小空孔数密度が200〜500個/μmであって、第2ピークが20〜50nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第2ピークにおける微小空孔数密度が10〜50個/μmである形態のバイモーダルな分布をとっている。
本発明で、微小空孔の孔径分布において、孔径2〜10nmである小さな微小空孔の第1ピークを200〜500個/μmの範囲内と定めたのは、孔径2〜10nmである小さな微小空孔の孔径分布における第1ピークが200個/μm未満であるとAlの核生成数向上という効果が十分に発揮しえなくなり、一方、500個/μmを超えると空隙率が高くなりすぎ、下部層と上部層との界面近傍の脆化とともに耐摩耗性の低下が生じるからである。
また、微小空孔の孔径分布において、孔径20〜50nmである大きな微小空孔の第2ピークを10〜50個/μmの範囲内と定めたのは、10個/μm以下あるいは50個/μmを超える範囲では、熱的および機械的衝撃を吸収緩和するという効果が十分に発揮しえなくなり、耐チッピング性、耐欠損性向上という効果が十分に発揮されないという理由による。
また、本発明で、微小空孔の孔径を2〜70nmと定めたのは、下部層と上部層との界面近傍の下部層中の微小空孔富裕層に形成される空孔の孔径が2nm未満では、衝撃緩和効果が期待できず、一方、孔径が70nmを超えると、下部層の靭性低下が大きくなるためであり、下部層の高温強度、高温硬さを維持しつつ、断続的・衝撃的負荷に対する衝撃緩和効果を保持するためには、下部層と上部層との界面近傍の下部層内部に形成される微小空孔の孔径は2〜70nmでなければならない。
また、本発明で、下部層と上部層との界面近傍の下部層中の微小空孔富裕層の層厚を0.1〜1μmの範囲内と定めたのは、0.1μm未満では、微小空孔による衝撃緩和効果が十分に期待できず、一方、1μmを超えると、界面近傍の靭性が低下し、耐チッピング性、耐欠損性向上という効果が十分に発揮されないという理由による。
下部層と上部層の界面に接した空孔:
下部層と上部層との界面近傍の下部層中には、前述の微小空孔富裕層を形成して衝撃緩和作用により、耐チッピング性、耐欠損性の向上を図ったが、これに加えて、本発明では、下部層と上部層との界面に接して、界面の単位長さ当たり1〜3個/μmの空孔密度で孔径90〜150nmの空孔を形成することによって、衝撃緩和効果をさらに向上させることができる。
即ち、切削時に切れ刃に作用する断続的・衝撃的な高負荷によって、硬質被覆層の上部層にはクラックが発生するが、このクラックが伝播進展した場合においても、この空孔でクラックの進展を停止させ、その結果、下部層にまでクラックが伝播進展することが抑制されることによって耐チッピング性、耐欠損性がさらに向上する。
また、下部層と上部層との界面に接して形成された空孔は、界面における残留応力をも緩和することによって、より一層、耐チッピング性、耐欠損性が向上する。
本発明において、空孔密度が界面の単位長さ当たり1個/μm未満、空孔の孔径が90nm未満では、衝撃緩和効果、残留応力緩和効果が少なく、一方、空孔密度が3個/μmを超える場合、あるいは、空孔の孔径が150nmを超える場合には、界面剥離を生じやすくなるので、本発明では、界面の単位長さ当たりの空孔密度を1〜3個/μmと定め、また、空孔の孔径を90〜150nmと定めた。
ここで、空孔の孔径とは、被覆工具を下部層と上部層の界面を含む縦断面で観察した場合に、界面に接して形成されている空孔の最大幅をいう。
下部層と上部層の界面に接した空孔の形成法:
下部層と上部層の界面に接した空孔の形成は、下部層として、前述の微小空孔富裕層を有する下部層を形成した後、例えば、以下の(C条件)、(D条件)により下部層を処理し、次いで、通常のAl形成条件で蒸着することによって、下部層と上部層の界面に接した空孔を有する上部層を形成することができる。
(C条件)
反応ガス組成(容量%):
TiCl:0.8〜1.5%,
:0.8〜2.0%
CO:3.0〜5.0%
HCl:0.05〜0.1%
:残
反応雰囲気温度:800〜850℃、
反応雰囲気圧力: 53〜67kPa、
の条件で10〜15分間の処理を行う。
(D条件)
反応ガス組成(容量%):
AlCl:3.5〜4.5%,
HCl:2.0〜3.0%
:残
反応雰囲気温度:1200〜1300℃、
反応雰囲気圧力: 3〜5kPa、
の条件で5〜15分間の処理を行う。
上記(C条件)による処理を行った後、(D条件)による処理を行うことで、反応ガス組成中のAlClが、すでに基体上に被覆された膜中のO(酸素原子)を吸い上げ、自らはAlとなり基体上に被覆し、さらにその後、通常のAl蒸着条件で成膜することによって、下部層と上部層の界面に接して所定の空孔が形成された上部層を成膜することができる。
図1に、下部層と上部層との界面近傍の下部層中に所定の微小空孔富裕層が形成された下部層と、下部層と上部層の界面に接して所定の空孔が形成された上部層からなる本発明被覆工具の硬質被覆層の縦断面模式図を示す。
本発明の被覆工具は、硬質被覆層として、Ti化合物層からなる下部層とAl層からなる上部層を被覆形成し、かつ、下部層と上部層との界面近傍の下部層中に孔径分布がバイモーダルな分布をとる所定の微小空孔富裕層が形成されていることに加え、下部層と上部層との界面に接して所定の空孔が形成されていることにより、合金工具鋼や耐熱鋼等の高熱発生を伴い、しかも、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合でも、耐チッピング性、耐欠損性にすぐれ、その結果、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮し、被覆工具の長寿命化が達成されるものである。
本発明被覆工具の下部層と上部層との界面を含む硬質被覆層の縦断面模式図を示す。 本発明被覆工具の下部層と上部層との界面近傍の下部層中に形成される微小空孔富裕層の孔径分布図を示す。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Eをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC
粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120408のインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜eを形成した。
つぎに、これらの工具基体A〜Eおよび工具基体a〜eの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、
(a)硬質被覆層の下部層として、表3に示される条件でTi化合物層を蒸着形成する。
(b)次いで、(a)のTi化合物層成膜を停止し、表4に示されるA条件によるSFエッチングを所定時間行い、さらに(a)の成膜工程を再度行ない、再度停止した後に表4に示されるB条件によるSFエッチングを所定時間行い、さらに(a)の成膜工程を再度行なう。
(c)前記(b)の工程を表4に示される所定回数繰り返し行い微小空孔富裕層を形成し、表6に示される目標層厚でTi化合物層を蒸着形成する。
(d)次いで、表5に示されるC条件により、下部層の表面を所定時間処理し、引き続き、表5に示されるD条件で所定時間処理する。
(e)次いで、硬質被覆層の上部層として、表3に示される条件で所定の層厚のAl層を蒸着形成する。
前記(a)〜(e)によって、表6に示される下部層、表7に示される下部層と上部層との界面近傍の下部層中に孔径分布がバイモーダルな分布をとる微小空孔富裕層、同じく表7に示される下部層と上部層との界面に接する空孔、および、表5に示される目標層厚の上部層(Al層)からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより表7に示される本発明被覆工具1〜15を製造した。
前記本発明被覆工具1〜15の下部層のTi化合物層について、走査型電子顕微鏡(倍率50000倍)を用いて複数視野にわたって観察したところ、いずれも、図1に示した縦断面模式図に示される下部層と上部層との界面近傍の下部層中に微小空孔富裕層が存在する膜構造が確認された。
また、同じく走査型電子顕微鏡(倍率50000倍)を用いて複数視野にわたって観察したところ、いずれも、図1の縦断面模式図に示されるように、下部層と上部層との界面に接して空孔が形成されていることが確認された。
さらに、前記本発明被覆工具1〜15の下部層と上部層との界面近傍の下部層中の微小空孔富裕層について、走査型電子顕微鏡(倍率50000倍)及び透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いて界面に沿って長さ10μmに亘って複数視野観察し、それぞれの視野について微小空孔を観察したところ、図2に示した孔径分布図に示される孔径分布形態が確認された。
また、前記本発明被覆工具1〜15の下部層と上部層との界面に接して形成されている空孔について、走査型電子顕微鏡(倍率50000倍)及び透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いて界面に沿って長さ10μmに亘って複数視野観察し、それぞれの視野について空孔の孔径及び空孔密度を測定した。
また、比較の目的で、工具基体A〜Eおよび工具基体a〜eの表面に、表3に示される条件かつ表6に示される目標層厚で、硬質被覆層の下部層としてのTi化合物層を蒸着形成した。
次いで、硬質被覆層の上部層として、表3に示される条件かつ表6に示される目標層厚でAl層からなる上部層を蒸着形成することにより、表6に示される下部層及び表6に示される目標層厚の上部層(Al層)からなる硬質被覆層を蒸着形成した表8に示される比較被覆工具1〜10を作製した。
さらに、比較の目的で、工具基体A〜Eの表面に、表3に示される条件で、かつ、前記(a)、(b)、(c)の工程で表5に示される目標層厚の下部層を形成した。
次いで、硬質被覆層の上部層として、表3に示される条件かつ表6に示される目標層厚でAl層からなる上部層を蒸着形成することにより、表6に示される下部層、表8に示される下部層と上部層との界面近傍の下部層中に孔径分布がバイモーダルな分布をとる微小空孔富裕層および表6に示される目標層厚の上部層(Al層)からなる硬質被覆層を蒸着形成した表8に示される比較被覆工具11〜15を作製した。
つまり、比較被覆工具1〜10は、前記(b)、(c)、(d)の工程を行っていない点、また、比較被覆工具11〜15は、前記(d)の工程を行っていない点で、それぞれ、本発明被覆工具とその製造方法が相違している。
また、本発明被覆工具1〜15および比較被覆工具1〜15の各構成層の層厚を、走査型電子顕微鏡を用いて測定したところ、いずれも表5に示される目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。



つぎに、上記本発明被覆工具1〜15および比較被覆工具1〜15について、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SKD11の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、、
切削速度:350m/min.、
切り込み:1.8mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:15分、
の条件(切削条件1という)での合金工具鋼の乾式高速断続切削加工試験、
被削材:JIS・SKD61の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、、
切削速度:300m/min.、
切り込み:2.0mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:20分、
の条件(切削条件2という)での合金工具鋼の湿式高速断続切削加工試験、
被削材:JIS・SUH330の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、、
切削速度:370m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.4mm/rev.、
切削時間:18分、
の条件(切削条件3という)での耐熱鋼の湿式高速断続切削加工試験、
を行い、逃げ面摩耗幅(mm)を測定した。
表9に、その結果を示す。
表7〜9に示される結果から、本発明被覆工具1〜15は、硬質被覆層の下部層と上部層の界面近傍の下部層中に微小空孔富裕層を有し、さらに、下部層と上部層との界面に接して所定の空孔が形成されていることにより、合金工具鋼や耐熱鋼等の高熱発生を伴い、しかも、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合でも、耐チッピング性、耐欠損性にすぐれ、その結果、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することが明らかである。
これに対して、下部層に微小空孔富裕層を有さず、さらに、下部層と上部層との界面に接した空孔を有さない比較被覆工具1〜10は、チッピング、欠損等の発生により短時間で寿命となり、また、下部層と上部層との界面に接して所定の空孔が形成されていない比較被覆工具11〜15については、チッピング、欠損等の発生は見られないものの、本発明被覆工具1〜15に比して耐摩耗性が劣ることは明らかである。
前述のように、本発明の被覆工具は、例えば、合金工具鋼、耐熱鋼等の高熱発生を伴い、かつ、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性を発揮し、使用寿命の延命化を可能とするものであるが、高速断続切削加工条件ばかりでなく、高速切削加工条件、高切込み、高送りの高速重切削加工条件等で使用することも勿論可能である。

Claims (3)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
    前記硬質被覆層が下部層と上部層とからなり、
    (a)前記下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
    (b)前記上部層は、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層であり、
    (c)前記下部層と上部層との界面近傍の下部層中に、孔径2〜70nmの微小空孔を有する微小空孔富裕層が存在し、該微小空孔富裕層が0.1〜1μmの層厚を有し、
    (d)前記下部層と上部層との界面に接して、界面の単位長さ当たり1〜3個/μmの空孔密度で孔径90〜150nmの空孔を形成したことを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記下部層中に存在する微小空孔の孔径分布がバイモーダルな分布をとることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記微小空孔の孔径分布の第1ピークが2〜10nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第1ピークにおける微小空孔数密度が200〜500個/μmであって、第2ピークが20〜50nmに存在し、孔径2nmごとに微小空孔を数えたときの第2ピークにおける微小空孔数密度が10〜50個/μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
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