JP6184252B2 - 利水および治水システムならびにその製造方法 - Google Patents

利水および治水システムならびにその製造方法 Download PDF

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Description

本技術は、運河、河川、用水路、遊水池、農業用溜池、貯水池、湖沼などの、天空から降った水が流れたり湛水したりして、雨水や雪解け水、ダムからの放水などで一時的に増水する場所(以下、「水域」と称する。)における利水および治水システムならびにその製造方法に関する。なお、本明細書において、運河、河川、用水路などの、水の流れのあるものを「流路」と称し、遊水池、農業用溜池、貯水池、湖沼などの、水の流れのほとんどないものを「湛水域」と称する。
近年、河川の流域の都市化や開発による耕作地の減少により流域の保水機能が低下し、集中豪雨で降った雨水が以前に増して早く河川等に流出するようになってきている。そのため、集中豪雨による雨水と共に市街地の排水路の完備による集中排水が、河川等の水量のピークを一時的に上昇させて治水安全度を低下させる事態が生じており、さらに、農業用水、生活飲料用水、工業用水など各種用水として、有効利用されることなく海に流出させる事態も生じている。これらは、水資源確保の点からも大きな問題となっている。また、世界的な規模で発生している異常気象により、世界中の多くの国で異常出水と異常渇水が偏在して頻発しており、この異常出水と異常渇水に対する有効な対策が求められている。
この問題の対策として、河川の流量調整のため、河川の上流域にダム、河川の流域や隣接する地域に遊水池などを築造することが行われている。しかし、このような従来の河川等の水量調整は、地表水の貯留であるので、土地利用上の制約(貯水量を大きくするにはより広大な面積を必要とする等)があり、調整容量の絶対量に自ずと限界がある。また、ダムにおいては、放流管理の運用が難しく、下流河川の破堤などの災害が起こった場合は、その運用法がいつも厳しい批判に晒される。この様な事情と公共事業削減の要請から、近年では、新たなダム建設が難しくなっている。
一方、開渠や暗渠による排水を利用した土地の保水性又は排水性の改良も行われている。暗渠は、たとえば、地中にパイプを埋設することにより形成されたり、地中に溝状部または層状部を形成し、そこに砂利を敷設することにより形成されたりする。暗渠では、孔あきパイプが利用されることがある。この場合、降雨時の余剰な地下浸透水が、地中に埋設した孔あきパイプ内に導入され、導入された余剰水が孔あきパイプを介して河川などに排水される。このタイプの暗渠では、土壌が吸収しきれない余剰の水分を地中から排除することにより土壌の水分を適度に保つことができる。
また、撒水の手間を軽減するものとして、下記の特許文献1に示す保水パイプが提案されている。この保水パイプは、土壌中に埋設され、降雨時に土壌中の余剰の地下浸透水を、このパイプ内に保水し、この保水した水分を乾燥時に土壌中に放出するようになっている。この保水パイプは、透水性パイプ本体と、その内部に内蔵された吸水性材料とからなっている。透水性パイプ本体は、ポリエチレン等からなる複数の細幅偏平糸条物を網目状に配置し、交差部分を互いに溶着することにより得られる帯状ネットを螺旋状に巻回してパイプ状としたものである。この透水性パイプ本体は、さらに、パイプ状にした帯状ネットの外周面に沿って、合成樹脂からなる長尺の補強条体を螺旋状に巻回し、パイプ状にした帯状ネットに融着して構成されている。透水性パイプ本体の内部に内蔵された吸水性材料は、吸水性合成樹脂を適宜スポンジ状物に抱接させたものである。
特許文献1に記載の保水パイプでは、保水パイプの内部に吸水性材料が内蔵されているので、この保水パイプを土壌中に埋設しておくことで降雨時に土壌中に浸透した余剰の地中浸透水が、透水性パイプ本体を通してパイプ内部に入り込む。そして、パイプ内部に入り込んだ水が、該透水性パイプ本体内の吸水性材料に短時間で吸収される。降雨のない乾期には、一旦保水パイプの内部の吸水性材料に吸収された水が透水性パイプ本体内から土壌中に放出され、土壌中に適度な水分が補給される。
特開平7−170866号公報
本技術は、地中に効率良く水を貯留することを可能とする利水および治水システムならびにその製造方法を提供することを目的とする。
本技術の利水および治水システムの製造方法は、以下の手順(A)(B)を含む。
(A)河川の上流から引いた用水路に隣接する土壌中であって、かつ、その土壌中の地下水の渇水時水位と増水時水位との間の位置に、多孔管を埋設すると共に、多孔管と、用水路とを互いに連結する中継管を埋設すること
(B)用水路の水位が年間を通じて増水時水位よりも高くなるように、用水路の底面位置、ならびに用水路の水を保持する構造物の材料および壁の高さを調整すること
本技術の利水および治水システムの製造方法では、多孔管が、河川の上流から引いた用水路に隣接する土壌中であって、かつ土壌中の地下水の渇水時水位と増水時水位との間の位置に埋設される。これにより、例えば、用水路の水位が上昇して用水路の水が中継管を介して多孔管に流入すると、多孔管内の空気が水と置き換わって多孔管の外(つまり、地中)に押し出され、多孔管内に水が充填される。その結果、多孔管内から地中へと水が浸透し貯留される。
水を貯留できる地中空間は土粒子の間隙が水で充満されていない不飽和土の部分である。この不飽和土中への水の浸透は、上から下向きに比べて下から上向きの方が遥かに容易で効率的である。これは次の事情による。不飽和土中の浸透では、固く堆積した土壌の土粒子間隙で水と空気が入れ替わる必要がある。しかし、上から下への水の浸透の場合にはこの交換が起こりにくい。その一方で、下から上への水の浸透の場合には下から供給された水が単純に土粒子間隙中の空気を上へと押し上げるだけであるので、この交換が容易に起こる。そのため、不飽和土中への水の浸透は、上から下向きに比べて下から上向きの方が遥かに容易で効率的なのである。また、土壌中の多孔管から加圧状態で水を土壌中に圧入すると、過剰間隙圧のため多孔管より上方の土壌の土粒子間隙が若干ではあるが拡がる要素がある。このように、土壌の下方向に向かう下向き浸透に比べて、土壌の上方に向かう上向き浸透の方が、地中での水の浸透能力が大きい。
本技術では、上向き浸透をさらに強化するために、多孔管が、土壌中の地下水の渇水時水位と増水時水位との間の位置に埋設される。例えば、地下水が渇水時水位となっているときに、地下水の渇水時水位と増水時水位との間の位置に多孔管を埋設しておいたとする。このとき、例えば、用水路の水が中継管を介して多孔管に流入し、水が多孔管内から地中へ浸透し始め、地中に貯留され始めると、地下水の現水位が渇水時水位から上昇し、多孔管が地下水に埋没する。その結果、多孔管の周囲の土砂粒子間隙が水で飽和した状態となり、この部分の土壌中には、地下水位による静水圧が生じる。さらに、多孔管内には用水路の水位による水の圧力によって、多孔管内は加圧状態になるので、多孔管の内部から多孔管の上方の土壌中の空間において過剰間隙水圧が生じる。この過剰間隙水圧が多孔管から土壌中の上方に向かって減少し、ピエゾ水頭も同様に多孔管から土壌の上方向に向かって減少する。この過剰間隙水圧の上方向の減少が上向き浸透に寄与する。
本技術の利水および治水システムは、河川の上流から引いた用水路に隣接する土壌中に埋設された多孔管と、土壌中に埋設され、多孔管と、用水路とを互いに連結する中継管とを備えている。用水路から多孔管への水の供給が停止している期間で、土壌中の地下水の水位が最低となったときの水位を渇水時水位とし、土壌中の地下水の水位が最高となったときの水位を増水時水位とする。このとき、多孔管は、渇水時水位と増水時水位との間の位置に埋設されている。さらに、用水路の水位が年間を通じて増水時水位よりも高くなるように、用水路の底面位置、ならびに用水路の水を保持する構造物の材料および壁の高さが調整されている。
本技術の利水および治水システムでは、多孔管が、河川の上流から引いた用水路に隣接する土壌中に埋設されている。多孔管は、さらに、用水路から多孔管への水の供給が停止している期間の渇水時水位と増水時水位との間の位置に埋設されている。これにより、例えば、用水路の水位が上昇して、用水路の水が中継管を介して多孔管に流入し、多孔管内が水で充満すると、用水路の水位による水の圧力によって多孔管内は加圧状態になる。このとき、多孔管の周囲の地下水位が多孔管の位置より高くなっている場合には、多孔管の内部から多孔管の上方の土壌中の空間において過剰間隙水圧が生じる。この過剰間隙水圧は多孔管から土壌中の上方に向かって減少し、ピエゾ水頭も同様に多孔管から土壌の上方向に向かって減少する。この過剰間隙水圧の上向きの減少が上向き浸透に寄与する。

本技術の利水および治水システムならびにその製造方法では、上向き浸透に寄与する過剰間隙水圧が発生するようにしたので、地中に効率良く水を貯留することができる。
本技術による一実施の形態に係る利水および治水システムの断面構成の一例を表す図である。 図1の利水および治水システムの上面構成の一例を表す図である。 図1の利水および治水システムの製造手順の一例を表す図である。 図3に続く手順の一例を表す図である。 図1の利水および治水システムの作用の一例を説明する図である。 図5に続く作用の一例を説明する図である。 図6に続く作用の一例を説明する図である。 図7の作用をポテンシャルエネルギーで説明する図である。 図1の利水および治水システムの断面構成の一変形例を表す図である。 実験例に係る利水および治水システムの斜視構成を表す図である。 図10の利水および治水システムの正面構成を表す図である。 図10の利水および治水システムの上面構成を表す図である。 図10の利水および治水システムの右側面構成を表す図である。 図10の利水および治水システムに用いた砂試料の粒度分布を表す図である。 高低差80cmのときの、各観測井における水位の上昇量を表す図である。 高低差45cmのときの、各観測井における水位の上昇量を表す図である。 高低差20cmのときの、各観測井における水位の上昇量を表す図である。 高低差80cmのときの、各観測井における水位上昇速度の時間変化を表す図である。 高低差45cmのときの、各観測井における水位上昇速度の時間変化を表す図である。 高低差20cmのときの、各観測井における水位上昇速度の時間変化を表す図である。
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態
2.変形例
3.実験例
<1.実施の形態>
[構成]
図1は、本技術の一実施の形態に係る利水および治水システム1の断面構成の一例を表したものである。図2は、図1の利水および治水システム1の上面構成の一例を表したものである。利水および治水システム1は、河川200の上流から引いた用水路100に接続されたものであり、用水路100に隣接する平坦な土地の土壌中に埋設されている。利水および治水システム1は、例えば、用水路100の片側の平坦な土地の土壌中に埋設されている。利水および治水システム1は、例えば、用水路100と、河川200との間の平坦な土地の土壌(例えば、緑地300)中に埋設されている。なお、利水および治水システム1は、用水路100の両側の平坦な土地の土壌中に埋設されていてもよい。
利水および治水システム1は、平坦な緑地300に埋設された多孔管10および中継管20を備えている。利水および治水システム1は、さらに、中継管20の中途もしくは先端に設けられた止水弁30と、止水弁30の周囲に、緑地300の地表まで延在する空隙を形成する管理用の孔40とを備えている。なお、利水および治水システム1において、止水弁30および孔40が省略されていてもよい。
多孔管10は、土壌中の地下水の渇水時水位LWLと増水時水位HWLとの間の位置に埋設されている。多孔管10は、増水時水位HWLよりも渇水時水位LWL寄りの位置に埋設されていることが好ましく、渇水時水位LWLに近接して埋設されていることがより好ましい。より具体的には、多孔管10は、利水および治水システム1を稼働しない状態での年間平均地下水位よりも低い位置に埋設されていることが好ましい。渇水期に施工して多孔管10を渇水時水位LWLに近接して配置した場合、渇水期を除く長期の間において河川200の水位が多孔管10より高くなるので、その期間の地下水位(現水位CWL)が常に多孔管10の位置よりも上方に位置するようになる。図1には、多孔管10が現水位CWLよりも低い位置に埋設されている様子が例示されている。多孔管10は、例えば、地表面と平行となるように埋設されている。なお、多孔管10が、地表面に対して傾むけて埋設されていてもよい。いずれにおいても、多孔管10全体が、土壌中の地下水の渇水時水位LWLと増水時水位HWLとの間の位置に埋設されている。
ここで、渇水時水位LWLは、用水路100から多孔管10への水の供給が停止している期間に土壌中の地下水の水位が最低となったときの水位に相当する。渇水時水位LWLは、用水路100から多孔管10への水の供給が停止してから1年以上経過しているときの最低水位であることが好ましい。渇水時水位LWLは、利水および治水システム1を施工する前もしくは利水および治水システム1を稼働したことのないときの土壌中の地下水の最低水位に相当する。増水時水位HWLは、用水路100から多孔管10への水の供給が停止している期間に土壌中の地下水の水位が最高となったときの水位に相当する。増水時水位HWLは、用水路100から多孔管10への水の供給が停止してから1年以上経過しているときの最高水位であることが好ましい。増水時水位HWLは、利水および治水システム1を施工する前もしくは利水および治水システム1を稼働したことのないときの土壌中の地下水の最高水位に相当する。現水位CWLは、利水および治水システム1稼働開始後の実際の地下水位である。なお、土壌(例えば、緑地300)中の地下水の水位の変動と、土壌(例えば、緑地300)に隣接する河川200の水位の変動との間には、相関関係がある。
多孔管10は、多孔管10内の水(用水路100からの流入水)が地中に漏えいする構造となっている。多孔管10は、例えば、所定の方向に延在する管の周面に多数の孔11が設けられた構造となっている。多孔管10は、例えば、図2に示したように、用水路100に沿って延在している。なお、多孔管10の延在方向は、図2に示した方向に限定されない。多孔管10は、例えば、多孔のコンクリート管、または、多孔の鋼管などで構成されている。多孔管10は、軽量化及び耐蝕性等の観点から、多孔の硬質樹脂管で構成されていてもよい。硬質樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニルやポリエチレンなどが挙げられる。
孔11の開口径は、多孔管10内への土砂の流入を防ぐ観点から、直径2mm以下となっていることが好ましく、直径0.5mm以下となっていることがより好ましい。多数の孔11は、多孔管10の周面において偏在していてもよい。特に、多数の孔11が多孔管10の底面側に偏在している場合には、孔11からの土砂の流入を比較的防ぎ易いので、孔11が、例えば、直径1〜5cmの円形となっていてもよく、また、例えば、長手方向の内径が2〜10cmで、短手方向の内径が1〜2cmのスリット状または楕円状となっていてもよい。
中継管20は、用水路100の水を多孔管10に導入するためのものであり、用水路100および多孔管10に接続されている。中継管20は、例えば、多孔管10側の端部(いわゆる取水口)の位置が用水路100側の端部の位置よりも低くなるように、地中に埋設されている。中継管20の取水口は、用水路100の水位100Aの、渇水時水位と増水時水位との間の位置に配置されている。
中継管20は、多孔管10と同様に、周面に多数の孔を有する構造となっていてもよいし、周面に孔の無い構造となっていてもよい。中継管20は、例えば、多孔管10と同じ材料で構成されており、例えば、コンクリート、鋼、硬質樹脂などで構成されている。中継管20は、多孔管10と異なる材料で構成されていてもよい。
止水弁30は、用水路100からの多孔管10への水の供給を制御するものである。止水弁30は、例えば、当該止水弁30を閉めることにより中継管20を遮断し、当該止水弁30を開けることにより中継管20を開通するようになっている。孔40は、止水弁30を緑地300の地上側から操作することができるようにするために設けられたものである。
用水路100の水位100Aが年間を通じて多孔管10の埋設位置よりも高くなるように、用水路100の底面位置、ならびに用水路100の水を保持する構造物の材料および壁の高さが調整されている。これにより、用水路100の水位100Aと、多孔管10の埋設位置とに高低差が生じるので、用水路100から流入した水で多孔管10が充填されたときに、その高低差に応じた過剰間隙水圧(後述)が発生する。過剰間隙水圧は、地中の水圧の静水圧からの超過圧力であり、浸透流の原動力となるものである。用水路100の水位100Aが年間を通じて増水時水位HWLよりも高くなるように、用水路100の底面位置、ならびに用水路100の水を保持する構造物の材料および壁の高さが調整されていることが好ましい。このようにした場合には、多孔管10が増水時水位HWLの近傍に埋設されている場合であっても、上述の過剰間隙水圧が発生する。また、多孔管10が渇水時水位LWLの近傍に埋設されている場合には、多孔管10が増水時水位HWLの近傍に埋設されている場合と比べて、上述の過剰間隙水圧が大きくなる。用水路100の構造物は、透水性が低くなるように構成されており、例えば、コンクリートで構成されている。
[製造方法]
次に、利水および治水システム1の製造方法の一例について説明する。図3は、利水および治水システム1の製造手順の一例を表したものである。図4は、図3に続く手順の一例を表したものである。
まず、用水路100の水位100Aが年間を通じて多孔管10の埋設予定位置よりも高くなるように、用水路100の底面位置、ならびに用水路100の水を保持する構造物の材料および壁の高さを調整しておく。このとき、用水路100の水位100Aが年間を通じて増水時水位HWLよりも高くなるように、用水路100の底面位置、ならびに用水路100の水を保持する構造物の材料および壁の高さを調整しておくことが好ましい。
次に、多孔管10を埋設する箇所に溝50を形成する(図3)。溝50の深さを、多孔管10の埋設予定深さに応じて設定する。具体的には、溝50の底面が渇水時水位LWLと増水時水位HWLとの間の位置となるように溝50を形成する。このとき、溝50の底面が増水時水位HWLよりも渇水時水位LWL寄りの位置となるように溝50を形成することが好ましく、溝50の底面が渇水時水位LWLに近接するように溝50を形成することがより好ましい。
次に、溝50の底に多孔管10を設置し、さらに、中継管20を用いて、多孔管10と用水路10とを互いに接続する(図4)。このとき、中継管20の中途または先端に止水弁30を設けておき、止水弁30を閉めておく。多孔管10の埋設深さは、溝50の深さで規定される。溝50の底面が渇水時水位LWLと増水時水位HWLとの間の位置にあるときは、多孔管10の埋設深さも、渇水時水位LWLと増水時水位HWLとの間の深さとなる。溝50の底面が増水時水位HWLよりも渇水時水位LWL寄りの位置にあるときは、多孔管10の埋設深さも、増水時水位HWLよりも渇水時水位LWL寄りの深さとなる。溝50の底面が渇水時水位LWLに近接しているときは、多孔管10の埋設深さも、渇水時水位LWLに近接した深さとなる。
次に、溝50に土砂を埋め戻すことにより、多孔管10および中継管20を埋設する。このとき、止水弁30の周囲に、孔40を形成しておく。最後に、止水弁30を開けておく。このようにして、利水および治水システム1が製造される。
[作用]
次に、利水および治水システム1の作用の一例について説明する。図5〜図7は 利水および治水システム1の作用の一例を説明したものである。図5には、現水位CWLが渇水時水位LWLと等しいときの、現水位CWLと多孔管10との位置関係の一例が示されている。図8は、図7の作用をポテンシャルエネルギーで模式的に説明したものである。図8中の横軸は、大気圧を基準とするゲージ圧で表わした圧力もしくはその圧力水頭である。圧力水頭とは、ゲージ圧表示の圧力を水の単位体積重量で割ったもので、当該圧力を静水圧で底面に与える水柱の高さあるいはその圧力を静水圧で与える水面下の深さとして表したものである。図8の縦軸は、地表面からの深さである。図8の縦軸の一番上が、深さゼロ(つまり地表面)となっている。図8において、実線で示した静水圧の状態では圧力は現水位CWLより上方では大気圧で一定であり、圧力(ゲージ圧)は現水位CWLから地表面までゼロである。一方、図に点線で示した過剰間隙圧が生じた状態では圧力(ゲージ圧)は現水位CWLより高い部分と低い部分で圧力勾配が異なり、圧力勾配は現水位CWLより低い部分の方がCWLより低い部分より大きい。これは水と空気の多孔質体中での透過のし易さの違いによる。また、図の点線は模式的に直線の折れ線で示しているが実際は曲線となる。
図5に示したように、土壌(例えば緑地300)では、多数の土砂310が堆積しており、多数の土砂310の隙間には、空気330が存在している。空気330は、土壌の地表面から所定の深さまで存在しており、空気330の存在する土壌は、不飽和土と呼ばれている。不飽和土の下方では、多数の土砂310の隙間に、地下水320が充満して存在しており、多数の土砂310が地下水320に埋没している。地下水320で空隙が充満されている土壌は、飽和土と呼ばれている。
多孔管10は、埋設時には、地下水320の水位(現水位CWL)よりも上の位置に配置されている。このときの現水位CWLは、例えば、渇水時水位LWLと等しい水位となっている。なお、このときの現水位CWLが、常に渇水時水位LWLと等しい水位になっている必要はない。その後、渇水期が終了して河川200の水位が上昇し、多孔管10の高さより高くなると地下水位も多孔管10より高くなる(図6)。
ここで、地中での雨水の貯留空間は、不飽和土中の土粒子間隙である。このような不飽和土中に水を貯留する場合、地表面側から下に向けて水を供給しても、水はなかなか地中に浸透しない。これは、地中に含まれている空気(上述の空気330)と水が土粒子間隙で置換されなければならないが、密に堆積した土壌の間隙では、この置換が極めて起こり難いからである。しかし、土壌中の水(例えば多孔管10から漏れ出た水)に対して、土壌の下の方で加圧すると、水は不飽和土の土粒子間隙にある空気(上述の空気330)を上方に押しやり、空気は地表面から空気中へと容易に排出される。つまり、地中の空気は、下向き浸透より上向き浸透の方が抜け易い。従って、地中での水は、空気の抜けが良好な、土壌の上方向に浸透し易いので、土壌の下方向に向かう下向き浸透に比べて、土壌の上方に向かう上向き浸透の方が、地中での水の浸透能力が大きい。利水および治水システム1では、土壌の上方に向かう上向き浸透を利用して、水が効率良く土壌に貯留される。
利水および治水システム1では、さらに、上向き浸透をさらに強化するために、渇水期が終了して河川200の水位とともに地下水位(現水位CWL)が多孔管10の高さより高くなる位置に、多孔管10が配置されている(図7)。または、多孔管10から漏れ出た水が土壌に貯留され始め、現水位CWLが徐々に上昇したときに、多孔管10が地下水320に速やかに埋没する位置に、多孔管10が配置されている(図7)。このように、多孔管10が地下水320に埋没すると、多孔管10の周囲の土砂粒子間隙が水で飽和した状態となり、この地下水位による静水圧が生じる(図8)。
さらに、多孔管10は流入水12で満たされるので、多孔管10内に流入する水の圧力によって、多孔管10内は加圧状態になる。その結果、多孔管10の内部から、その上方にかけての局所的な空間において、過剰間隙水圧が生じる(図8)。この過剰間隙水圧によって、ピエゾ水頭が多孔管10から、土壌中の上方に行くほど小さくなる。この過剰間隙水圧の上向きの減少が、上向き浸透に寄与する。なお、過剰間隙水圧が生じることにより、現水位CLWよりも上方の土壌内には、地表面に向かうにつれて減少し大気圧に近づく圧力勾配を持つ空気圧が生じる。この空気圧の勾配は、土壌内の空気の上向き浸透を作る意味で上向き浸透に寄与している。利水および治水システム1では、不飽和土壌の中の空気と水との交換という性質だけでなく、過剰間隙水圧をも利用した上向き浸透流Fuによっても、水が効率良く土壌に貯留される(図7)。
[効果]
次に、利水および治水システム1の効果について説明する。利水および治水システム1では、多孔管10が、用水路100に隣接する平坦な土壌(例えば緑地300)中に埋設されている。多孔管10は、さらに、用水路100から多孔管10への水の供給が停止している期間の渇水時水位LWLと増水時水位HWLとの間の位置に埋設されている。これにより、例えば、渇水期が終了して河川200の水位とともに地下水位(現水位CWL)が多孔管10の高さより高くなったとする。このとき、用水路100の水位100Aが上昇していて、この状態で止水弁30を開き、用水路100の水が中継管20を介して多孔管10に流入すると、用水路100の水位100Aによる水の圧力によって、多孔管10内は加圧状態になる。その結果、多孔管10の内部から、多孔管10の上方の土壌中の空間において、過剰間隙水圧が生じる。この過剰間隙水圧は多孔管10から土壌中の上方に向かって減少し、ピエゾ水頭も同様に多孔管10から土壌の上方向に向かって減少する。この過剰間隙水圧の上向きの減少が上向き浸透に寄与する。その結果、地中に効率良く水を貯留することができる。
<2.変形例>
以下に、上記実施の形態の利水および治水システム1の変形例について説明する。なお、以下では、上記実施の形態の利水および治水システム1と共通する構成要素に対しては、同一の符号が付与される。さらに、上記実施の形態の利水および治水システム1と共通する構成要素についての説明は、適宜、省略されるものとする。
上記実施の形態において、中継管20の取水口にフィルタ60が設けられていてもよい。このとき、中継管20の取水口が用水路100の底の方を向いていることが好ましい。このようにした場合には、用水路100の水は、下から上に向かってフィルタ60を通過するので、流水中に混入した土粒子によるフィルタ60の目詰まりを生じにくくすることができる。
また、上記実施の形態では、中継管20が用水路100に連結されていたが、流路または湛水域などを含む多種多様な水域に連結されていてもよい。また、上記実施の形態では、多孔管10の直下には、特段の構造物が意図的に設けられていなかったが、利水および治水システム1は、多孔管10から漏れ出た水を受ける樋状体を備えていてもよい。この樋状体は、桶状体に水を満たしたときに、多孔管10を半分以上水没させることの可能な大きさとなっている。
また、上記実施の形態では、利水および治水システム1の施工された土壌(例えば、緑地300)中の地下水の水位の変動に寄与する河川200が存在していたが、そのような河川200が存在していなくてもかまわない。
<3.実験例>
以下、上記実施の形態およびその変形例(以下、「上記実施の形態等」と称する。)で説明した利水および治水システム1の実験例について説明する。図10は、鉄板模型の実験装置の外観写真である。図11Aは、この実験装置の正面図であり、図11Bは、この実験装置の平面図であり、図11Cは、この実験装置の右側面図である。
砂試料を収容する実験装置の内寸を、横185cm、奥行き50cm、高さ50cmとした。砂試料には、図12に示した粒度分布を有する硅砂(3号)を用い、砂層の敷厚を、25cmとした。実験装置の右端には、高さ10.5cmの不透過の堰を設け、その上部には、透過性のメッシュパネルを設置して、砂層を支える構造とした。砂層中に埋設した孔径100μmの多孔パイプと、ヘッドタンクとを、ビニルチューブで互いに連結し、ヘッドタンクの水を多孔パイプに流入させ、実験装置内に浸透流を発生させた。ヘッドタンクには余水吐を設け、余剰水をオーバーフローさせることで、ヘッドタンクの水位を一定に保った。砂層には、傾斜マノメーターに連結された8個の観測井(No.1〜No.8)を設置し、各観測井における水位変化を計測した。観測井には、孔径500μmの多孔パイプを用いた。実験装置の右端からの流出水を約1分間隔で採水し、重量計測により浸透流量を求めた。
本実験では、ヘッドタンクの水面位置を変化させ、複数例の実験を行った。具体的には、ヘッドタンクの水面と砂層中に埋設した多孔パイプ上端との高低差を80cm(Case−1)、45cm(Case−2)、20cm(Case−3)とした3つの例の実験を行った。その結果、得られたデータを図13A、図13B、図13C、図14A、図14B、図14Cに示した。図13Aは、高低差80cmのときの、各観測井における水位の上昇量を表したものである。図13Bは、高低差45cmのときの、各観測井における水位の上昇量を表したものである。図13Cは、高低差20cmのときの、各観測井における水位の上昇量を表したものである。図14Aは、高低差80cmのときの、各観測井における水位上昇速度の時間変化を表したものである。図14Bは、高低差45cmのときの、各観測井における水位上昇速度の時間変化を表したものである。図14Cは、高低差20cmのときの、各観測井における水位上昇速度の時間変化を表したものである。これらの図から、高低差が大きいほど、過剰間隙水圧による上向き浸透が大きくなることがわかる。
1…利水および治水システム、10…多孔管、11,40…孔、12…流入水、20…中継管、30…止水弁、50…溝、60…フィルタ、100…用水路、100A…水位、200…河川、300…緑地、310…土砂、320…地下水、330…空気、CWL…現水位、Fu…上向き浸透流、LWL…渇水時水位、HWL…増水時水位。

Claims (5)

  1. 河川の上流から引いた用水路に隣接する土壌中であって、かつ前記土壌中の地下水の渇水時水位と増水時水位との間の位置に、多孔管を埋設すると共に、前記多孔管と、前記用水路とを互いに連結する中継管を埋設し、
    前記用水路の水位が年間を通じて前記増水時水位よりも高くなるように、前記用水路の底面位置、ならびに前記用水路の水を保持する構造物の材料および壁の高さを調整する
    利水および治水システムの製造方法。
  2. 前記増水時水位よりも前記渇水時水位寄りの位置に前記多孔管を埋設する
    請求項1に記載の利水および治水システムの製造方法。
  3. 河川の上流から引いた用水路に隣接する土壌中に埋設された多孔管と、
    前記土壌に埋設され、前記多孔管と、前記用水路とを互いに連結する中継管と、
    を備え、
    前記用水路からの前記多孔管への水の供給が停止している期間に、前記土壌中の地下水の水位が最低となったときの水位を渇水時水位とし、前記土壌中の地下水の水位が最高となったときの水位を増水時水位とすると、
    前記多孔管は、前記渇水時水位と前記増水時水位との間の位置に埋設されており、
    前記用水路の水位が年間を通じて前記増水時水位よりも高くなるように、前記用水路の底面位置、ならびに前記用水路の水を保持する構造物の材料および壁の高さが調整されている
    利水および治水システム。
  4. 前記多孔管は、前記増水時水位よりも前記渇水時水位寄りの位置に埋設されている
    請求項3に記載の利水および治水システム。
  5. 前記中継管の中途もしくは先端に配置された止水弁をさらに備えた
    請求項または請求項に記載の利水および治水システム。
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