我が国の国土は、山地が多く、平地が少ない。そして、その67%が森林であり、世界の国の森林率の平均が凡そ30%であることを考えると、きわめて森林に恵まれた国土であるということができる。しかも、降水量が豊富で、温暖湿潤な気候であるため、木が良く育つ良好な環境にある。
しかし、他方で、山の標高が高いことや降水量が多いことに起因して、地滑りや崩壊、落石、土石流などの森林斜面における災害が多いのも特徴である。これらの災害は、麓に住む住民に危険をもたらし、また斜面に設置した道路や鉄塔などの構造物の倒壊を招く。
本来、適切な森林土壌には雨水を浸透させて貯水する機能があり、それにより水源を保つ役割や、木々が地面に根を張ることによって地力を高め、地滑り、崩壊、落石などの土砂災害を防ぐ耐水機能を有している。
土壌中には大小さまざまの孔隙があり、粗い孔隙は雨水を浸透させて一時的に貯留するとともに、重力水の通路となり、地下水を涵養する。また、微細な孔隙は毛管として雨水を貯留し、木々への水分補給の役割を担う。
このような土壌の孔隙による雨水浸透貯留機能は、雨水を直接地表に流出させず、土壌の中を時間をかけて流下し、やがて小川に流出させる。これにより豪雨などの大量の雨水による洪水のピークを小さくする洪水緩和機能が実現される一方、河川の低水量状態が維持されている。
しかし、鉄塔や山岳道路などの人工的な構造物が設置された斜面、手入れが行き届いていない痩せた斜面、木々が伐採された斜面などでは、上記のような耐水機能が低下あるいは消滅するので、表層水が発生して土壌が流れやすくなり、地滑り、崩壊、落石などの土砂災害が起こりやすくなる。
もちろん、これまで、このような斜面における土砂災害を未然に防ぐために、種々の対策工事が採用されてきた。
たとえば地滑りは、破砕帯などの地盤強度の低下しやすい地層(弱層)の上部土塊が、地下水などの影響を受けて、ゆっくりと移動する現象である。そこで、そのような地滑り面の位置や規模、地下水位、移動状況などの概要を、事前に把握することができた場合には、地滑り対策工法として、次のような抑制工や抑止工が採用されてきた。
抑制工は、地形や地下水の状況などの自然条件を変化させることによって、地滑り運動を停止または緩和させる工法であり、滑りそうな山塊を事前に除去し(排土工)、また斜面中に排水路を設けて地滑りの原因となる地下水の影響を緩和する(地下水排除工)。すなわち、この工法は、地滑り運動力と地滑り抵抗力のバランスを改善して、地滑り運動自体を停止または緩和させようとするものである。
他方、抑止工は、地滑り運動の一部又は全部を所定の構造物を用いて止める工法であり、たとえば移動土塊部分に巨大な杭を打ち込み、その抵抗力で地滑り活動そのものを抑え込む。すなわち、この工法は、地滑り運動を阻止できるだけの構造物を設けて、その物理的な抑止力により地滑り運動を阻止しようとするものである。
これら抑制工と抑止工は、必要に応じ、相互に関連する一連の工事として合理的に組み合わせて施工される。このような抑制工と抑止工を組み合わせた地滑り対策工の例としては、大和川流域の亀の瀬の工事が有名である(必要なら、大和川河川工事事務所のホームページを参照)。
しかし、このような抑制工や抑止工は工事自体が大がかりなものであり、コストも大きくなるため、送電用鉄塔の建設地などの搬入路の無い山岳地では、施工面や費用的にも適した対策工とは言えない。
土石流や落石などの斜面崩壊発生に対応する比較的容易な対策工事としては、砂防堰堤の設置や落石防護ネットの設置などがある。
しかし、この砂防堰堤の設置や落石防護ネットの設置は、対象土壌内部における耐水機能を向上させるものではなく、あくまでも斜面崩壊の発生を前提として、それらを外部的に受け止め、また下方に落下させないようにするだけのものであり、構造的に耐水機能を復活させて斜面崩壊そのものを発生させないようにすることはできない。
一般に山岳部に設置される送電用の鉄塔(山岳鉄塔)は、できるだけ地滑りや崩壊が生じにくい地力の高い尾根部分に建設される。したがって、そこが木々の根が十分に張った本来の適切な森林土壌斜面であって、適切な保水機能、洪水緩和機能、水分循環機能等の耐水機能があり、適切に水分循環が行われている所であるかぎり、それほど地滑りや斜面崩壊の心配をする必要はない。
しかし、送電用鉄塔などの建設は、木々を伐採し、地盤を掘削して、切土・盛土をして森林土壌本来の耐水機能を喪失させてしまう。また、通常送電用の鉄塔は所定の幅の鉄板を組み合わせて構築されており、しかも、その高さは数十メートルから百数十メートルに及ぶ。したがって、降雨時における鉄塔は雨水の集積体(2〜3倍の降雨強度に匹敵)となり、鉄塔部分で集められた大量の雨水は当該鉄塔を介してそのまま鉄塔敷地内に流下し、鉄塔敷地の地盤中に浸透する。そして、これが継続的に繰り返されることにより、次第に敷地部の地盤中の細粒分が流出し、空隙が多くなって地力が低下する。
その結果、敷地部および敷地部周辺の土砂崩壊を引き起こし、鉄塔が倒壊するとともに、崩壊した土砂が斜面下方まで流れ落ち、山林、田畑、道路、人家に影響を与えることにもなる。
また、尾根ではなく斜面に建設された送電用鉄塔では、敷地部の基礎本体に変状が生じる前に付帯設備の土留め工部分に変状が出る場合が多いが、その後、同様に敷地部の周辺部分が洗掘されて、やはり土砂崩壊を招来する。
従来、このような送電用鉄塔特有の問題を解決する第1の従来例として、例えば鉄塔支柱間のブレース材(斜め部材)が交差する部分に箱形の集水容器を設け、該集水容器で集めた雨水をパイプ部材を介して支柱部分に誘導することによって、降雨時において鉄塔部分に集中する雨水の流下速度を抑制するようにした提案がなされている(第1の先行技術文献として、特許文献1の構成を参照)。
このような構成によると、一応鉄塔敷地内に流れ落ちる雨水の流下速度を抑制することができる。しかし、同構成の場合、それは鉄塔部に集中する雨水の量の一部にしかすぎず、鉄塔部分に集められた雨水の全ての流下速度が抑制されるわけではない。したがって、所定量以上の大きな降水量の場合には、有効に機能しない。
しかも、一応流速が抑制されるとはいえ、鉄塔部に集中する雨水の全てを敷地内に流してしまう点では従来のものと変りがなく、集水容器に集められた一部の雨水の流速を抑制したところで、斜面崩壊の防止に殆ど実効はないと考えられる。
このような事情に鑑み、さらに上記送電用鉄塔の上下方向所要の部位に複数のフェンス状の雨水滴下装置を設けて、降雨時において鉄塔部分に集中する雨水を段階的に集めるとともに、それら複数の雨水滴下装置で集めた雨水を敷地外の適切な場所へ排水する排水装置を設けることによって、大量の雨水が鉄塔敷地内に流れ落ちないようにした提案もなされている(第2の先行技術文献として、特許文献2の構成を参照)。
上記第2の先行技術文献である特許文献2の構成によれば、複数の雨水滴下装置で集めた雨水を排水装置により敷地外に排水するようになっているので、一応集水し、排水することができた雨水量分だけは、鉄塔敷地内に浸透する雨水の量を減少させることができる。
しかし、同構成の場合にも、やはり集水し、敷地外に排水できる雨水の量は限られており、降水量が多い場合には殆ど実効がない。また、敷地部周辺の雨水量を減らすことはできないので、敷地部周辺における洪水緩和機能を実現することは難しい。そのため、敷地周辺地盤の洗掘や土砂崩壊を防ぐことは難しい。
また、上記第1、第2の先行技術文献の構成の場合、何れの場合にも鉄塔敷地および鉄塔敷地周辺の土壌部分は、当該鉄塔の建設により人工的に改変されており、本来の森林土壌における耐水機能が失われているにもかかわらず、その耐水機能の回復、向上については何らの対策が施されていない。したがって、本質的な土壌崩壊対策にはなっていない。
このような事情は、鉄塔や山岳道路などの人工的な構造物が設置された斜面以外の、たとえば手入れが行き届いていない痩せた斜面や木々が伐採された斜面などの場合にも同様であり、耐水機能が低下あるいは消滅しているので、表層水が発生して土壌が流れやすくなり、地滑り、崩壊、落石などの土砂災害が起こりやすい状態にある。
この出願の発明は、以上のような事情に基づいてなされたもので、上述のような森林土壌本来の耐水機能が失われた森林斜面等の自然斜面に対して、現地発生土等を利用することにより、人工的に、雨水の深部への浸透を防止する雨水浸透防止機能、雨水を一時的に貯留する雨水保持機能、雨水を広く分流させる分流機能、分流されて流量が低下した雨水の外部への流出量を調節する雨水流出量調節機能等を有する保護構造を形成し、それにより本来の森林土壌に近い耐水機能を回復させることによって、大きなコストをかけることなく、当該自然斜面における雨水による表面侵食、地滑り、崩落、土石流等の発生を効果的に防止できるようにした森林斜面の保護構造を提供することを目的とするものである。
この出願の発明は、上記の課題を解決するために、次のような課題解決手段を備えて構成されている。
(1)第1の課題解決手段
この出願の発明の第1の課題解決手段は、耐水機能が失われた森林土壌等の自然斜面の耐水機能を回復させる自然斜面の保護構造であって、保護すべき自然斜面の底部に設けられ、土壌深部への雨水の浸透を抑制する低透水層と、該低透水層の上部側に在って、降雨時の雨水を一時的に貯留する上流側より下流側ほど上記低透水層面から上方への高さが高くなる雨水保持層と、該雨水保持層の下流側に在って当該斜面の等高線に沿うように配設され、当該雨水保持層に貯留されている雨水を堰き止めながら、当該雨水保持層の左右両端側に分流させる、当該雨水保持層の上面よりも高さが高い雨水分流壁と、上記雨水保持層の両端側に在って、上記雨水保持層と同様に上流側より下流側ほど上記低透水層面から上方への高さが高くなり、上記雨水保持層に貯留された雨水を堰き止める上記雨水保持層の上面よりも高さが高いが上記雨水分流壁の上面よりは高さが低い左右一対の袖堤と、該左右一対の袖堤の底部に在って、上記雨水保持層の左右両端側からの雨水を所定の時間をかけて外部に流出させる雨水流出量調節層とからなり、上記低透水層、雨水分流壁、左右一対の袖堤、雨水流出量調節層の各々がセメントを貧配合した当該斜面の現地発生土により形成されているとともに、上記雨水保持層が吸水性が高く、間隙の多い雨水保持材よりなり、上記雨水保持層、雨水分流壁、左右一対の袖堤、雨水流出量調節層を一組として、上記低透水層の上部側から下部側にかけて、相互に独立した状態で複数段配置したことを特徴としている。
このような構成によれば、当該保護すべき自然斜面上に降った雨水は、まず当該斜面の等高線に沿って水平方向に延びる堰堤機能を有する雨水分流壁により下流側を堰き止められるとともに、左右両端側を一対の袖堤によって堰止められ、それら雨水分流壁および左右一対の袖堤の内側に在って上方から下方に順次高さ位置を異にして設けられている、吸水性が高く、間隙の多い雨水保持材よりなる相互に独立した複数段の雨水保持層の各層に浸透して、外部に流されることなく一時的に貯留される。
しかも、同複数段の雨水保持層は、それぞれ上流側より下流側ほど低透水層面から上方への高さが高くなっており、同じく上流側より下流側ほど低透水層面から上方への高さが高くなっている左右一対の袖堤によって両側が堰き止められて、上記雨水分流壁と共に略断面三角形状の容積の大きな貯水空間を形成しており、同空間内に吸水性が高く、間隙の多い雨水保持材よりなる雨水保持層が設けられている。
したがって、雨水保持層の雨水保持容積も十分に大きなものとなり、十分な量の雨水を所定の時間内確実に貯留することが可能となる。
これら相互に独立した複数段の雨水保持層は、それぞれ当該保護すべき斜面の地形、広さ、傾斜角度、当該地域の降水量の多さ等を考慮して、その容積量や形状、段数が適切に決められている。
これにより、降雨時の洪水量(ピーク量)を有効に緩和させることができ、有効な洪水緩和機能を実現することができる。
また、この場合、当該保護すべき自然斜面土壌の底部側、換言すると、上記雨水保持層の底部側には、上記雨水保持層に貯留された雨水を深部に浸透させにくい低透水層が設けられていることから、該低透水層による雨水浸透防止機能によって土壌深部に対する雨水の浸透を防止することができる。
したがって、雨水保持層の雨水貯留機能がより向上するとともに、保護すべき斜面の深部への雨水の浸透が防止され、浸透水圧の発生が無くなるので、地滑り等が生じにくくなる。
しかも、そのような雨水貯留機能を有する雨水保持層の傾斜方向下部側(雨水保持層および袖堤の前端側)には、上記のようにして貯留された雨水を水平方向左右に広く分流させながら、左右両端側の各袖堤底部の雨水流出量調節層を介して徐々に外部に流出させる堰堤構造の雨水分流壁が設けられている。
この雨水分流壁は、その上端面部分が当該斜面の等高線に沿って水平方向に延びるように配設され、その高さが上記雨水保持層の上面よりも高くなるように上記低透水層面から上方に伸びて設けられている。
そして、この雨水分流壁は、上記降雨量に応じて上記雨水保持層に浸透貯留される大量の雨水を、水平方向の等高線に沿って左右の袖堤方向に均等に分流し、左右一対の袖堤底部の雨水流出量調節層から、ゆっくりと時間をかけながら外部に流出させる導流堤として作用し、雨水の流下時間を遅延させて、上記雨水保持層の雨水貯留機能、同雨水貯留機能による洪水緩和機能が継続的に維持されるようにする。
これらの結果、降雨時において保護すべき斜面に集中する大量の雨水を、当該保護すべき斜面を侵食させることなく、その流出量を調節しながら緩やかに側方に流すことができる。
その場合において、上記左右一対の袖堤の上面の高さは、上記雨水保持層の上面よりも高いが、上記雨水分流壁の上面よりは低く形成されている。そのため、雨水流出量調節層での雨水流出量の調節が可能な範囲で、より多くの雨水を貯留できるとともに、同雨水流出量の調節可能範囲を超えた雨水流入時の左右両端側側袖堤上面からの外部への溢流を可能とすることができ、豪雨時にも確実に分流機能を維持することができる。
そして、これらの作用が、上記雨水保持層、雨水分流壁、袖堤、雨水流出量調節層を一組として、複数段に分割構成された(すなわち、分割され、相互に独立した状態で設置された)各段で独立に実現されるようになるので、より保護すべき森林斜面に対する降雨時の負荷が小さくなる。
また、この出願の発明の第1の課題解決手段では、上記の場合において、上記低透水層、雨水分流壁、左右一対の袖堤、雨水流出量調節層の各々が、セメントを貧配合した当該斜面の現地発生土により形成されている。
山岳部の自然斜面には、油圧ショベルなどの大型の建機(重機)を搬入できない。また、工事用の各種資材の搬入も困難である。さらに、当該斜面にコンクリート構造物を設置する場合、施工業者にはコンクリート工事としての厳格な施工計画書の作成が求められる。
ところが、上記低透水層、雨水分流壁、左右一対の袖堤、雨水流出量調節層の各々を、セメントを貧配合した当該斜面の現地発生土により形成すると、たとえば当該斜面の土壌を簡易な掘削手段で所定の深さ掘削し、同掘削によって生じた埋め戻し土に対してセメントを貧配合するとともに、必要な量の水を加え、高スランプ状態の土にしたうえで敷設し、所定の時間を置いて固結させることにより、耐水性、耐久性のある好適な改良土(安定処理土)とすることができ、これを利用して、上記低透水層、雨水分流壁、袖堤、雨水流出量調節層の各々を容易に形成することができる。
その結果、特別な建機(重機)も要らず、各種の資材を搬送する必要もなくなる。そして、広い斜面に対しても、低コストに適用することができる。しかも、セメントを貧配合した現地発生土による構造物は、あくまでも改良土による構造物であり、コンクリート構造物とは見なされないために、コンクリート工事のような厳格な施工計画書の提出も必要でなくなる。したがって、作業効率が大きく向上する。
(2)第2の課題解決手段
この出願の発明の第2の課題解決手段は、上記第1の課題解決手段の構成において、雨水分流壁および袖堤の上面には、雨滴落下による表面浸食を防止するための保護層が設けられていることを特徴としている。
上記第1の課題解決手段の構成では、当該保護すべき自然斜面上に降った雨水は、まず当該斜面の等高線に沿って水平方向に延びる堰堤機能を有する雨水分流壁により下流側を堰き止められるとともに、左右両端側を一対の袖堤によって堰止められ、上方から下方に順次高さ位置を異にして設けられている複数段の雨水保持層の各層に浸透して一時的に貯留される。
これら複数段の雨水保持層は、それぞれ当該保護すべき斜面の地形、広さ、傾斜角度、当該地域の降水量の多さ等を考慮して、その容積量や形状、段数が適切に決められている。それにより、降雨時の洪水量(ピーク量)を有効に緩和させることができ、洪水緩和機能を実現することができる。
しかし、時間の経過により、上記雨水分流壁や袖堤の上面は多量の雨滴の落下によって侵食されやすくなり、徐々にではあるが、堰体としての機能が低下する恐れがある。この傾向は、上記のように、雨水分流壁および左右一対の袖堤が、セメントを貧配合した当該斜面の現地発生土を利用して形成されており、保護すべき自然斜面が後述するような鉄塔の建設用敷地である場合などに顕著となる。
雨水分流壁および左右一対の袖堤が、セメントを貧配合した当該斜面の現地発生土を利用して形成されている場合、固結した改良土(安定処理土)であるとは言っても、長期に亘って風雨にさらされる以上、一所定の劣化が避けられない。それに加えて、当該斜面が鉄塔の建設用敷地である場合、建設された鉄塔自体が降雨時における雨水の集積体となり、敷地内には多量の雨水が集中的に供給されることになる。
したがって、そのような場合、同敷地部分を、上述のような低透水層、雨水保持層、雨水分流壁、左右一対の袖堤、雨水流出量調節層よりなる耐水性の高い保護構造に形成したとしても、上記堰体である雨水分流壁や袖堤の上面は、多量の雨滴の落下によって相当に侵食されやすくなる。
そこで、この出願の発明の第2の課題解決手段では、上記第1の課題解決手段のように、雨水分流壁および袖堤が、セメントを貧配合した当該斜面の現地発生土で形成されており、また保護すべき自然斜面が鉄塔の建設用敷地などである場合には、それら雨水分流壁や袖堤の上面に、雨滴落下による表面浸食を防止するための保護層を設けて、その耐久性を向上させるようにする。
この場合、同保護層の形成には、たとえば現地の斜面で入手可能な割栗石層の布設などのキャップロック構造が採用される。
(3)第3の課題解決手段
この出願の発明の第3の課題解決手段は、上記第1または第2の課題解決手段の構成において、保護すべき自然斜面が鉄塔等の建設用敷地であることを特徴としている。
保護すべき自然斜面が鉄塔等の建設用敷地である場合、上述したように、当該斜面が鉄塔の建設により、人工的に改変されており、地力が低下している。しかも、建設された鉄塔等の構造物自体が降雨時における雨の集積体となり、敷地内には多量の雨水が集中的に供給される。したがって、同部分には、特に高い耐水性が求められる。
そこで、そのような改変が行なわれている鉄塔等の建設用敷地に対して、人工的に、上記第1の課題解決手段のような、雨水の深部への浸透を防止する雨水浸透防止機能、雨水を一時的に貯留する雨水保持機能、雨水を広く分流させる雨水分流機能、雨水保持層からの雨水の流出量を調節する雨水流出量調節機能等を付与すると、森林土壌本来の耐水機能を復元することができ、洪水のピーク量を緩和し、当該自然斜面における雨水による表面侵食、地滑り、崩落、土石流等を有効に防止することが可能となる。
また、このように保護すべき自然斜面が鉄塔等の建設用敷地である場合において、上記第2の課題解決手段のように、雨水分流壁や袖堤の上面に雨滴落下による表面浸食を防止するための保護層を設けると、それらの耐久性を有効に向上させることができる。
(4)第4の課題解決手段
この出願の発明の第4の課題解決手段は、上記第1または第2の課題解決手段の構成において、保護すべき自然斜面が、手入れの行き届いていない森林斜面または木々が伐採された森林斜面であることを特徴としている。
保護すべき自然斜面が、手入れの行き届いていない森林斜面または木々が伐採された森林斜面である場合、上述したように、本来の森林土壌における地力、耐水機能が低下し、雨水による表面浸食や地滑り、崩落等が生じやすくなっている。
そこで、そのような耐水機能が低下している森林斜面に対して、人工的に、上記同様の雨水の深部への浸透を防止する雨水浸透防止機能、雨水を一時的に貯留する雨水保持機能、雨水を広く分流させる雨水分流機能、雨水保持層からの雨水の流出量を調節する雨水流出量調節機能等を付与すると、森林土壌本来の耐水機能を復元することができ、洪水のピーク量を緩和し、当該斜面における雨水による表面侵食、地滑り、崩落、土石流等を有効に防止することが可能となる。
以上の結果、この出願の発明によれば、人工的改変、手入れ放置、森林伐採等によって、森林土壌本来の耐水性が低下し、地力が低下している森林斜面等自然斜面の耐水性を有効に復元させ、また地力の経時的劣化の進行を効果的に抑制することが可能となる。
しかも、従来の抑制工や抑止工などの大掛かりな工事作業を必要とすることなく、現地発生土と貧配合のセメントを用いた比較的安価な現場作業で、当該斜面の地滑りや、崩落、土石流等を効果的に抑制、予防することが可能となる。
以下、この出願の発明を実施するための第1の実施の形態、第2の実施の形態について、添付の図1〜図7、図8〜図11の構成を参照して、それぞれ詳細に説明する。
これら第1、第2の実施の形態の構成の前提となる、この出願の発明の目的は、すでに述べたように、人工的改変、手入れ放置、森林伐採などによって本来の森林土壌における地力、耐水機能が低下し、雨水による表面浸食や地滑り、崩落等が生じやすくなった森林斜面等の自然斜面に対して、人工的に本来の森林土壌におけるのと同様の耐水機能を付与して、雨水による表面浸食や地滑り、崩落等を生ぜしめないようにした森林斜面等の自然斜面の保護構造に関するものであり、より具体的には、上記本来の耐水機能が失われた森林斜面等の自然斜面に対して、人工的に、雨水の深部への浸透を防止する雨水浸透防止機能、雨水を一時的に貯留する雨水保持機能、雨水を広く分流させる雨水分流機能、雨水保持層からの雨水の流出量を調節する雨水流出量調節機能等を付与し、森林土壌本来の耐水機能を復元することによって洪水のピーク量を緩和し、当該自然斜面における雨水による表面侵食、地滑り、崩落等を防止し得るようにした自然斜面の保護構造を提供しようとする点にある。
(この出願の発明を実施するための第1の実施の形態の構成について)
上記の目的を達成するために、まず、この出願の発明を実施するための第1の実施の形態では、例えば図1〜図6に示すような構成が採用されている。この第1の実施の形態の場合、森林土壌本来の耐水機能が失われた森林斜面等の自然斜面として、例えば送電用の鉄塔を建設するために森林の木々の一部を伐採した送電用鉄塔建設用の敷地Aが選ばれており、同敷地Aに対して森林土壌本来の耐水機能を付与する森林斜面の保護構造が採用されていることが特徴である。
この送電用鉄塔の建設を前提とする森林斜面の保護構造では、当該保護すべき森林斜面の底部全体に亘って設けられ、土壌深部への雨水の浸透を抑制する低透水層1と、該低透水層1の上部にあって、浸透した雨水を一時的に貯留する雨水保持層2と、該雨水保持層2に貯留されている雨水を左右両側に広く分流させる堰堤構造の雨水分流壁3と、上記雨水保持層2の左右両側に設けられ、下流側端部を雨水分流壁3に一体に連接された同じく堰堤構造の左右一対の袖堤4,4と、該左右一対の袖堤4,4の底部下流端に設けられた雨水流出量調節層4a,4aとを備え、上記雨水保持層2、雨水分流壁3、袖堤4,4、雨水流出量調節層4a,4aを、上記保護すべき森林斜面の周面方向等高線に沿って延びる形で、上記低透水層1の上面側に上部側から下部側にかけて、相互に独立した状態で複数段(図示の例では11段:図1および図2参照)設けて構成されている。
上記雨水保持層2、2・・の左右両側に設けられた左右一対の袖堤4,4、4,4・・は、上段側の堰堤構造の雨水分流壁3、3・・の下端部位置から下段側の堰堤構造の雨水分流壁3,3・・の上端部位置より少し低い位置までの間に亘る高さの側面三角形状の堰堤となっており、それによって上記雨水保持層2、2・・は、その前面側が雨水分流壁3、3・・によって、また左右両端側が当該袖堤4,4、4,4・・によって、それぞれ堰き止められ、降雨時の雨水が所定量貯留されるようになっている。
また、上記袖堤4,4、4,4・・底部の下流端部分の一部は、所望の大きさの三角形状に切り欠かれ、同切除された空間部分に上述した雨水流出量調節層4a,4aが設けられている。
この実施の形態の場合、上記低透水層1は、上記送電用鉄塔建設用の敷地A内の斜面の土壌を所定の深さ掘削することによって設置される。より具体的には、同掘削によって生じた埋め戻し土に、所定量(貧配合の少なめ)のセメントと多めの水を混合して高スランプ状態の土にして敷地内に敷設し、所定の時間を置いて固結した改良土(安定処理土)にすることにより、雨水が浸透しにくい構成のものに形成されている。
埋め戻し土を用いて低透水層1を形成する方法としては、埋め戻し土を突き固める方法もあるが、このような方法の場合、突き固めに建機(重機)を必要とし、突き固め作業自体にも大きな労力が必要になる。したがって、山岳部の傾斜地で、それらの作業を行うことは一般に困難である。また、同方法により形成した低透水層の場合、突き固め作業が不十分、不均一であった場合に、鉄塔の脚部周りから雨水が浸透し、鉄塔基礎の不等沈下が発生しやすい。
ところが、上記のようにセメントと水の化学的な硬化作用を利用して低透水性の安定処理土を形成するようにすると、特別な建機(重機)も要らず、作業も容易であることから、山岳部の傾斜面でも楽に実現することができる。しかも、全体に亘って、比較的均一な低透水性層を形成することができるので、鉄塔の脚部周りから雨水が浸透し、鉄塔基礎の不等沈下が発生するようなこともない。
この場合、上記低透水層1の厚さは、基本的には上記掘削によって生じた埋め戻し土の量によって制約されるが、その設置深度は計画降水量、雨水保持材の吸水率・空隙率、分流堰である雨水分流壁3、3・・、止水壁である袖堤4,4、4,4・・の高さなどを考慮して決められる。上記のような傾斜地での施工作業の容易さを考えると、1メートル程度以内の深度が適切である。
また、上記送電用鉄塔建設用の敷地Aは、一般に維持管理に必要な程度の最小面積しかなく、そこに前述のような大量の雨水が集中する。したがって、上記低透水層1は、そのような大量の雨水をも通さないだけの低い透水性のものに形成される。それにより、敷地Aの表層部に有効な低透水層が形成され、仮に大量の雨水が敷地Aに集中しても、同層以深へは浸透せず、側方流として人工改変の無い安定した斜面部分に流されることになる。また、その結果、上記低透水層1は、雨水保持層2の雨水貯留底板として機能することになる。
このように、低透水層1を、施工現場で得られる現地発生土である埋め戻し土を利用して形成するようにすると、特別な材料の搬入が必要でなく、現場で容易に調達できるので、低コストに形成することができる。
もちろん、現地の土質は一定ではない。したがって、予め現地の土壌資料を調達して、土質試験を行い、土の基本的な性質を知って、セメントの配合設計、それによる改良土の透水性を把握しておくことが好ましい。
また、現地の土壌では細粒分が不足する場合もある。そのような場合には、やはり山岳部への搬入が容易な、軽量、かつ細粒である石炭灰を混合することもできる。そのようにすると、容易に耐久性の長い低透水層を形成することができる。
また、それらの混合は、山岳部への搬入が容易で、簡易な掘削手段としても利用される小型の農業用耕耘機等を用いて容易に実現することができる。
このようにして形成された上記低透水層1は、全体として上記送電用鉄塔建設用の敷地Aの傾斜周面およびその勾配に沿った所定の厚さのものに形成されているが、特に上記雨水分流壁3、3・・の設置部では、その設置が容易となるように傾斜面ではなく、所定の幅の水平面部1a、1a・・を形成している。そして、この水平面部1a、1a・・上に、上記のような堰堤構造の雨水分流壁3,3・・の底部3c、3c・・が設置一体化される。また、袖堤4,4、4,4・・は、同雨水分流壁3,3・・と上記低透水層1との間の谷部に位置して設置一体化される。
次に、上記雨水保持層2、2・・の雨水保持材としては、例えば一例として所定の粒径のフライアッシュ・ストーン(火力発電所から出る副産物であるフライアッシュを主材料とした人工造粒材)が採用されており、該フライアッシュ・ストーンを例えば図3に示すように、上記袖堤4,4、4,4・・の上端よりも所定寸法aだけ低い位置まで充填して雨水保持層2、2・・を形成している。該充填されたフライアッシュ・ストーンは、その表面部の飛散を防止するために、所定の圧力で転圧して締め固められている。この場合、上記のようにフライアッシュ・ストーンを上記袖堤4,4、4,4・・の上端よりも所定寸法aだけ低い位置までしか充填しないのは、雨水保持層2内の実質的な雨水保持空間を可能な限り大きく確保し、ゲリラ豪雨時等の大量雨水に対応して貯留できる雨水量を少しでも多くするためである。
この場合、上記雨水保持材としては、上記のようなフライアッシュ・ストーンのほかにも、同様に山岳部への搬入が容易な、たとえば製紙工場から出る製紙スラッジ焼却灰を主原料として造粒したものの採用も可能である。
これらの各材料は、何れも吸水率が高く、間隙も多いので、貯水機能に優れている。また、軽量で施工性も良い。
このように敷地A内の上部から下部にかけて、複数段の雨水保持層2,2・・を設けるとともに、該複数の雨水保持層2,2・・を吸水性が高く、間隙の多い雨水保持材により構成すると、敷地A内に集中して流れ込む大量の雨水が、袖堤4,4、4,4・・と雨水分流壁3、3・・に囲まれた雨水貯留層である雨水保持層2、2・・部分に順々に流入、浸透して行き、同雨水保持層2、2・・部分の雨水保持材に吸水されるとともに、雨水保持材間の間隙部分に貯留されてゆく。
この結果、上下方向各段の雨水保持層2、2・・の雨水保持容量に応じて、洪水のピーク流量を低下させ、洪水の総流出量を減らすことができるようになる。すなわち、洪水緩和機能を実現することができる。しかし、この場合、各段の雨水保持層2、2・・の雨水吸水性能や保持容量には限界があり、それに頼るだけでは、洪水のピーク流量を低下させるのには限界があり、すぐに飽和してしまう。また、貯留された雨水を排出処理することができない。
そこで、次に上記雨水保持層2、2・・の前面部側(下流側)には、上記のように敷地Aの周面形状と幅に応じて左右等高線方向に延びる雨水分流壁3、3・・が設けられており、この雨水分流壁3、3・・は、上記雨水保持層2、2・・部分に貯留される雨水を堰き止める止水壁として機能するととともに、降雨時間の経過によって、上記雨水保持層2、2・・内に次第に増量してくる雨水を上記雨水保持層2,2・・の左右両端側袖堤4,4、4,4・・方向に広く、かつ均等に分流させる分流手段として作用する。
換言すると、同雨水分流壁3、3・・は、上記雨水保持層2、2・・内を底部傾斜面に沿って下流側(前部側)に流れようとする雨水を受け止めて、それとは直交する左右両側水平方向に流れの方向を変える水系変更機能を有する。
そして、上記左右両方向に分流された上記雨水保持層2,2・・内の雨水は、同左右両端側に在る袖堤4,4、4,4・・底部の上記雨水流出量調節層4a,4a、4a,4a・・を通して流量を絞られながら外部側方に流出し、側方流となって上記低透水層1の上面を緩やかに流下する。
このように、上記雨水保持層2、2・・内に貯留された雨水は、上記雨水分流壁3、3・・により左右に広く分流、分散されるとともに、上記雨水流出量調節層4a,4a、4a,4a・・により外部への流出量が適切に絞られながら流出する。この結果、これら分流および流量調整作用による流下速度遅延効果と相俟って、上記雨水保持層2、2・・の雨水貯留機能、および雨水貯留機能による洪水のピーク流量低減作用が、その保持容量に制約されることなく継続的なものとなり、長時間にわたって洪水の総流出量を減らすことができるようになる。この結果、上記洪水緩和機能が向上する。
この雨水分流壁3、3・・は、たとえば図3および図5に示されるように、上下方向に所定の高さを有する断面台形状の堰堤(前面側法面3aは末広がりの傾斜面、雨水保持層2側法面3bは垂直面)により構成されており、その背面側(雨水保持層2側)両脇に、図1および図4に示されるように、上記堰堤構造の袖堤4,4、4,4・・を備えている。
そして、これら前部、左右3組の堰堤によって、上記雨水保持層2、2・・の前面側および左右両側を囲繞し、また下部側低透水層1の水平面部1a、1a・・の前面側下部によって背面側を囲繞することによって、上記底部側低透水層1の上部に、図3に示すような断面三角形状の貯水層空間を形成している。そして、この貯水層空間内に上記のように雨水保持材が充填されて、雨水保持層2、2・・が形成されている。
この雨水分流壁3、3・・や上記袖堤4,4、4,4・・も、上記底部側の低透水層1と同様に上記雨水保持層2、2・・に貯留されている雨水を透過させない低透水性の機能が必要であるため、上記低透水層1と同様に当該敷地A内の掘削土壌の埋め戻し用の土を使い、それに必要な量(貧配合)のセメントと多めの水を混合して安定処理土(改良土)とした低透水性構造の堰堤を形成している。
また、上記袖堤4,4、4,4・・底部の雨水流出層4a,4a、4a,4a・・は、上記蓄層された所定粒径の雨水保持材を流出させない間隙径の礫層よりなり、比較的透水性の高い構造に形成されている。そして、その断面積は、基本的に上記雨水保持層2、2・・の雨水貯留容積に対応(比例)した大きさに設定されており、また脚部10a〜10dが設置されている雨水保持層2に対応したものでは、その単位時間当たりの雨水侵入量が多くなる分だけ大きく設定されている。
上記堰堤構造の雨水分流壁3、3・・および袖堤4,4、4,4・・の上端面3d、3d・・、4d,4d、4d,4d・・には、さらに、それぞれ鉄塔部で集められた多量の雨滴の落下による浸食を防止するために、キャップロック(帽子岩)と同じ機能を果たすように、保護層として、所定の粒径の割栗石5、5・・、5,5・・を所定の厚さで布設している。これにより、降雨時の雨滴強度を軽減することができるとともに、雨水分流壁3、3・・および袖堤4,4、4,4・・上端面の雨滴による侵食、変形が防止される。
また、上記雨水分流壁3、3・・の上端面3d、3d・・は、例えば図5に示すように、その前面側法面3a、3a・・の上端側から雨水保持層2、2・・側法面3b、3b・・の上端側にかけて所定の下り傾斜角θ(θ=3〜5度程度)を有して構成されている。なお、図5中のHは水平線を示す。
そして、それにより上記雨水分流壁3、3・・の上端面3d、3d・・部分からの雨水が傾斜面である前面側法面3a、3a・・を流れて、同法面3a、3a・・を侵食することがないようにしている。この結果、上記雨水分流壁3、3・・の耐久性がアップする。
この場合、上記袖堤4,4、4,4・・の高さは、上記雨水分流壁3、3・・の高さよりも所定寸法bだけ低く形成されており、それにより特に降雨量が多い時の越流(袖堤4,4上部から左右外方への分流)を可能にしている。
また、上記雨水保持層2、2・・を形成する雨水保持材の高さ(上面位置)は、すでに述べたように、上記袖堤4,4、4,4・・の上端面4d,4d、4d,4d・・よりも所定の寸法aだけ低い高さに設定されている。そして、それにより、豪雨時などの特に降雨量が多い時に対応して、より多くの雨水を貯留し得るように対策されている。
そして、以上のように構成された複数の雨水保持層2、2・・は、例えば図1および図2に示されるように、当該送電用鉄塔建設用の敷地Aがある尾根の等高線L、L・・に沿って、所定の間隔で設置され、対角線が上下方向となるようにレイアウトされた正方形状の敷地部の左右方向の幅寸法に合わせた所定の左右方向の長さで設置されている。
そして、そのように設置された当該保護構造部内の上記雨水保持層2、2・・部分に位置して送電用鉄塔の4本の脚部取付台10a〜10dが地中深く埋設される形で設置されている。
この脚部取付台10a〜10dは、例えばコンクリート部材として構成されており、図6に示すように、地中に埋設される下端側に逆T字形の係止部11a、地上に出る上端側に送電用鉄塔の脚部14a〜14dの取り付け部11bを備えた、全体として逆T字形の取付台本体11を中心として構成されている。そして、上記係止部11a側を上記雨水保持層2および低透水層1を貫通させて地中部13中に深く埋設する一方、上記部取付部11b側を上記雨水保持層2の上面から所定寸法上方に突出させた状態で強固に固定されている。
この場合、そのままの状態では、上端側脚部取付部11bの外周面を伝わって、降雨時の雨水および雨水保持層2中に保持されている雨水が地中部13側に侵入してしまい、上記取付台本体11の周囲を侵食して、上記脚部取付台10a〜10dの支持状態を不安定にしてしまう。
そこで、この実施の形態では、上記取付台本体11上部側の上記雨水保持層2、2・・に対応する部分に、図6に示すような、上記取付台本体11の上部部分の外径よりも所定寸法以上大径のリング状のリブ12,12,12を所定の間隔で設けるとともに、同部分に対応する上記低透水層1の一部を上記雨水保持層2の上面部分まで同一面レベル(又は少し高く)に盛り上げて、上記リング状の3本のリブ12,12,12をシール性良く囲繞する囲繞部1bを設け、同囲繞部1bと3本のリブ12,12,12で雨水に対する止水構造(シール部)を形成することによって、上記埋設部側への雨水の侵入を防止するようにしている。
そして、このような構造の上記脚部取付台10a〜10dの上端側脚部取付部11bに対して、上記送電用鉄塔の脚部14a〜14dがそれぞれ取り付けられて、最終的に送電用鉄塔が建てられる。
このような構成によれば、送電用の鉄塔建設用の敷地Aである保護すべき自然斜面の表層部が、その底部側全体にあって当該土壌深部への雨水の浸透を抑制する低透水層1と、該低透水層1の上面部側にあって当該斜面の水平方向に延び、降雨時の雨水を一時的に貯留する複数の雨水保持層2,2・・と、該複数の雨水保持層2,2・・を上記低透水層1の上部側から下部側に順次高さ位置を変えて支持し、上記雨水保持層2,2・・部分に貯留されている雨水を左右両方向に均等に分流させる雨水分流壁3、3・・と、上記雨水保持層2、2・・の左右両端側に設けられた袖堤4,4、4,4・・と、該袖堤4,4,4,4・・の底部に在って、上記雨水分流壁3、3・・により左右両方向に分流された雨水保持層2、2・・内の雨水を徐々に外部に流出させる雨水流出量調節層4a,4a、4a,4a・・とから構成されることになる。
その結果、当該保護すべき森林斜面の敷地Aに降った雨水は、まず、当該斜面の水平方向に延びる堰堤構造の雨水分流壁3、3・・により堰止められ、上方から下方に順次高さ位置を異にして設けられている複数段の雨水保持層2、2・・部分に浸透、吸水されて一時的に貯留される。
他方、上記雨水保持層2、2・・に貯留される雨水は、そこに留まるわけではなく、上記雨水分流壁3、3・・の雨水保持層2、2・・側の法面(堰面)3b、3b・・により、上記雨水保持層2、2・・の左右両端側に設けられている上記袖堤4,4、4,4・・方向に均等に分流され、当該袖堤4,4,4,4・・の底部に設けられている上記雨水流出量調節層4a,4a、4a,4a・・を介して外部に流出することにより、その流出量が抑制され、所定の時間をかけて徐々に外部に流出する。これにより、上記雨水保持層2、2・・の雨水貯留機能が飽和することなく、継続的に維持される。
すなわち、上記雨水保持層2、2・・は、その雨水保持材による吸水性能、容積値に基づく固定的な雨水貯留機能が、上記雨水分流壁3、3・・による分流機能、および袖堤4,4,4,4・・底部の上記雨水流出量調節層4a,4a、4a,4a・・による雨水流出量調節機能(絞り作用)と組み合わされることによって、その吸水性能、容積値に制約されることなく、所定の時定数を持った継続的な雨水貯留手段として機能するようになる。
そして、上記袖堤4,4、4,4・・底部の雨水流出量調節層4a,4a、4a,4a・・部分から外部に流出せしめられた雨水は、当該袖堤4,4,4,4・・外側の低透水層1の上面を側流となってゆっくりと下方に流れてゆく。したがって、その流量は小さく、また流速も低いので、当該敷地Aより下方の斜面部分を侵食する恐れも小さい。
しかも、これらの作用が、上記複数段(11段)の雨水保持層2,2・・の各段の雨水保持層2、2・・部分で全く同様に実現されるので、全体としては相当量の大量の雨水の処理が可能となる。
ここで、上記複数段の雨水保持層2,2・・は、それぞれ当該保護すべき斜面の地形、広さ、傾斜角度、当該地域の降水量の多さ等を考慮して、その容積量や形状、段数が決められる。
例えば図1の場合で言うと、脚部取付台が10b、10dと2本ある上から7段目の雨水保持層2部分は、最も雨水の集積量が大きいが、その分雨水保持層2の容積量も大きくなっており(横方向に長い)、有効に対応し得るように設計されている。
もちろん、これら脚部取付台10a〜10dのレイアウトや雨水保持層2の容積設定は、鉄塔建設地の尾根の形状、隣接する他の鉄塔との連係の関係などから種々の制約を受けるが、それらの制約の中でも可能な限り有効な雨水流出量低減効果が得られるように設計される。
これらの構成の結果、上記雨水保持層2、2・・が継続的、かつ有効な洪水緩和手段として作用するようになり、送電用鉄塔建設用敷地Aの降雨時の洪水量(ピーク量)を緩和させることができる。
また、この場合、当該保護すべき森林斜面土壌の底部側、換言すると、上記雨水保持層2,2・・の底部側には、上記雨水保持層2,2・・に貯留された雨水を深部に浸透させにくい低透水層1が設けられていることから、該低透水層1による雨水浸透防止機能によって土壌深部に対する雨水の浸透を防止することができる。
したがって、上記雨水保持層2,2・・の雨水貯留機能が向上するとともに、保護すべき斜面の深部への雨水の浸透が防止され、地滑り等が生じにくくなる。
保護すべき斜面が、上記のような送電用鉄塔の建設用敷地Aである場合、建設された鉄塔自体が降雨時における雨の集積体となり、敷地A内には多量の雨水が集中的に供給される。したがって、特に高い耐水性が求められる。そのため、上述のような耐水性の高い斜面保護構造は特に有効となる。
また、送電用の鉄塔の場合、上記のように敷地A内に多量の雨水が集中的に供給される関係で、大量の雨滴が生じ、上記保護構造における雨水分流壁3、3・・や袖堤4,4、4,4・・の上端面3d,3d・・、4d,4d、4d,4d・・が侵食され、耐久性上の問題が生じる。
そこで、この実施の形態の場合、上記雨水分流壁3,3・・および袖堤4,4、4,4・・の上端面3d,3d・・、4d,4d、4d,4d・・には、それぞれ雨滴の落下による表面浸食を防止するための保護層として割栗石層5、5・・、5,5、5,5・・がキャップロック構造に設けられている。
これらの結果、以上の構成によれば、送電用鉄塔の建設という人工的構造物の設置によって、森林土壌本来の耐水機能が低下し、地力が低下した森林斜面の耐水機能を回復させ、地力を向上させることが可能となる。
その結果、従来のような表層水の発生が防止されるようになり、表層水による地滑り、斜面崩壊、落石、土石流などの土砂災害の発生を防止することが可能となる。
しかも、従来の抑制工や抑止工などの大掛かりな工事作業を要することなく、山岳部においても、現地で調達可能な埋め戻し土や搬入の容易なフライアッシュ、セメントなどの安価な材料を用いて、比較的簡単に有効な森林斜面の保護構造を実現することが可能となる。その結果、広い斜面に対しても、低コストに施工することができる。
さらに、上記送電用鉄塔等の建設用敷地A内にコンクリート構造物を設置する場合、施工業者は「コンクリート工事」としての厳格な施工計画書を作成しなければならず、その作成には相当に手間がかかる。
ところが、以上の構成では、上記のように、低透水層1、雨水分流壁3、左右一対の袖堤4,4、雨水流出量調節層4a,4aの各々が、セメントを貧配合した当該斜面の現地発生土を利用して形成されるようになっている。このようなセメントを貧配合した現地発生土による構造物は、あくまでも改良土による構造物であり、コンクリート構造物とは見なされない。
したがって、施工業者は、コンクリート工事施工計画書に比べて遥かに簡単な施工計画書の作成で足りるようになる。その結果、施工作業がスムーズで、工事期間も短くて済む。
なお、以上の説明では、建設すべき鉄塔として、送電用の鉄塔の場合を一例として説明したが、本願発明の適用対象は、これに限られるものではなく、たとえば通信線用の鉄塔、電波の送信および受信アンテナ用の鉄塔、電波中継用の反射板、その他各種の山岳用構造物の建設用敷地にも全く同様に適用することができるものであることは言うまでもない。
(第1の実施の形態の構成の変形例)
以上の実施の形態1の構成では、鉄塔を設置すべき斜面が比較的左右方向に広い周面の場合について説明したが、例えば鉄塔10設置用の斜面が比較的周面幅の狭い尾根部であるような場合には、例えば図7に示すように、雨水保持層2、2・・、雨水分流壁3、3・・等を当該尾根の周面の等高線に沿った曲率の小さい円弧形状の構造として、左右に同様の袖堤4,4、4,4・・等を設ける構造とすることもできる。このような構造にした場合にも、上述の実施の形態1の構成の場合と全く同様の作用効果を得ることができる。
(この出願の発明を実施するための第2の実施の形態の構成について)
以上の第1の実施の形態の構成では、本願発明の保護構造を施工すべき自然斜面(保護すべき自然斜面)の一例として、送電用鉄塔を建設する森林斜面(敷地)Aを対象として説明したが、本願発明の保護構造を施工すべき自然斜面は、これに限られるものではなく、同様の人工的な構造物である山岳道路等が設けられた他の森林斜面に適用しても同様の作用効果を得ることができる。
また、そのような人工的構造物が設けられていない森林斜面でも、例えば手入れの行き届いていない痩せた森林斜面や木々が伐採されて耐水機能が低下した森林斜面などの、土砂災害が起きやすくなっている森林斜面に対しても、全く同様に適用することができる。そして、それにより、表層水の発生を防止して、表層水による土壌の流出、地滑り、崩壊、落石、土石流などを有効に防止することができる。そして、このような手入れの行き届いていない痩せた森林斜面や木々が伐採されて耐水機能が低下した森林斜面などの土砂災害が起きやすくなっている森林斜面の中でも、それらが都市近郊に位置する場合や、麓に集落がある場合などには、特に有効な対策が求められている。
このような手入れの行き届いていない痩せた森林斜面や木々が伐採されて耐水機能が低下した森林斜面などの土砂災害が起きやすい森林斜面に対して上記保護構造を適用する場合、上記の鉄塔建設用敷地などとは異なり、その斜面面積が非常に広いのが通常である。したがって、そのような場合には、当然ながら上述の図1〜図5の構造の保護構造体を同広い斜面面積に合わせて大きく形成する必要がある。そして、そのようにすることも勿論可能である。しかし、実際の斜面には、広い所や狭い所もあり、雨水排水域としての多くの谷部があるので、起伏状態が一様ではない。
そこで、そのような場合には、例えば図8〜図11に示す第2の実施の形態の構成ように、それら斜面の起伏形状(山谷の存在)と等高線の相違に対応して、当該斜面Bを複数の領域に分割し、該領域ごとに効果的な形状および大きさの複数の保護構造体2〜4、2〜4・・・を個別に設置することによって、それら各領域ごとの雨水集中量に対応した適切な雨水保持機能、雨水分流機能、雨水流量調節機能等を実現するようにしている。
すなわち、まず図8において、符号Bは、上記手入れの行き届いていない痩せた森林斜面や木々が伐採されて耐水機能が低下した保護対象となる森林斜面(以下、単に保護斜面という)を示しており、同保護斜面Bには左右等高線方向に複数の起伏面があり、それらの間には上方側から下方側に向けて雨水排水領域となる谷部V0〜V4が形成されている。この谷部V0〜V4は、上記保護斜面Bの等高線上の最上部域(谷部Vができ始めるゼロ次元の谷部)V0部分では比較的フラットで、まだ雨水排水用の水路が形成されていない。しかし、同最上部域V0から中部域V2〜下部域V3〜最下部域V4と下降するに従って、上流側で細く、下流側に行くに従って太くなる複数本の水路W1〜W4が葉脈状に形成され、上記保護斜面Bの最下部域V4部分では、上記複数本の水路W1〜W4が相互に収束して最終的に1本の大径の合流水路W5となる水系網が形成されている。
そして、この第2の実施の形態の構成では、例えば図8に示すように、上記保護斜面Bの少なくとも斜面に雨水が浸透し始める上記谷部の最上部域(谷部Vができ始めるゼロ次元の谷部)V0から、次第に雨水の浸透量を増やし始める上部域V1〜中部域V2部分において、上記複数本の葉脈状水路W1〜W2の水路間スペースを利用して、例えば図9〜図11に示すように、上記第1の実施の形態1と同様の低透水層1,1・・を設けるとともに、その上に雨水保持層2、雨水分流壁3、袖堤4,4、雨水流出量調節層4a,4a、割栗石層5,5を備えた複数の保護構造体を必要な位置に必要な数だけ設けている。これら複数の保護構造体は、例えば図8から明らかなように、上記谷部の最上部域V0部分では、水路W1の最上流端直上に幅広のものを一つ、水路W1の最上流端左右に谷面の幅に応じた幅のものを一対と言った感じで、上記谷部の上部域V1〜中部域V2部分において、上記水系網における上流側から下流側に至る最上流側水路W1〜上流側水路W2〜中流側水路W3上流までの複数本の分岐水路間に架け亘される状態で設けて、それらの各底部にあって上流側から下流側に延びる上記低透水層1,1・・によって斜面深部への雨水の浸透を防止するとともに、雨水保持層2,2・・によって飽和状態まで雨水を貯留する。一方、雨水保持層2,2・・の雨水保持機能が飽和すると、同雨水保持層2,2・・下流側の雨水分流壁3,3・・による左右への分流作用と同雨水保持層2,2・・左右両側の袖堤4,4・・、4,4・・底部の雨水流出量調節層4a,4a・・、4a,4a・・を介した流量調節作用によって、トータルとしての雨水排出量を調節(遅延)しながら雨水を各水路W1,W1・・・、W2,W2・・・に適切に振り分けて流すようになっている。
このように、この第2の実施の形態の場合にも、上複数の保護構造体の雨水保持層2、2・・内に貯留された雨水は、上記雨水分流壁3、3・・によって左右に広く分流、分散されるとともに、上記袖堤4,4・・、4,4・・底部の雨水流出量調節層4a,4a・・、4a,4a・・により外部への流出量が適切に絞られながら流出する。この結果、これら分流および流量調整作用と相俟って、上記雨水保持層2、2・・の雨水貯留機能、および雨水貯留機能による洪水のピーク流量低減作用が、その保持容量に制約されることなく継続的なものとなり、長時間にわたって洪水の総流出量を減らすことができるようになる。この結果、上記第1の実施の形態の場合と同様に洪水緩和機能が実現される。
以上のように、この第2の実施の場合にも、上記第1の実施の形態の場合と同様に、当該保護斜面Bの土壌の底部側、すなわち上記複数の保護構造体の雨水保持層2,2・・の底部側には、図10および図11に示すように、当該雨水保持層2,2・・に貯留された雨水を深部に浸透させないようにするために、必要な幅、必要な長さの低透水層1,1・・が、上流側から下流側に延びる形で設けられている。そして、この低透水層1,1・・は、上記第1の実施形態の場合と同様に、当該保護斜面B部分の土壌(構築位置部分の土壌)を所定の深さ掘削することによって形成され、同掘削によって生じた現地発生土である埋め戻し土に所定量(貧配合で少なめ)のセメントと多めの水を混合して高スランプ状態の土にしたうえで敷設し、所定の時間を置いて固結した改良土(安定処理土)にすることにより形成される。
したがって、上記低透水層1の厚さD3は、基本的には上記掘削によって生じた埋め戻し土の量によって制約されるが、その設置深度は計画降水量、雨水保持材の吸水率・空隙率、分流堰である雨水分流壁3、3・・、止水壁である袖堤4,4、4,4・・の高さなどを考慮して決められることになる。
しかし、上記谷部の最上部域V0部分では、保護斜面Bにおける土壌の堆積層の厚さが薄く、深く掘削できないだけでなく、掘削しても多くの埋め戻し土を得ることができない。したがって、十分な厚さD3の低透水層1を形成できない問題がある。ところが、それゆえに同部分では、逆に雨水の深部への浸透量も少ない。また、浸透による土壌崩落の恐れも小さいと言える。したがって、同部分における低透水層1の厚さは、例えば図10の断面図のD3に示すように相対的に薄く形成することができ(場所によっては省略することもできる)、それでも有効な低透水層としての機能を発揮することができる。他方、それよりも下流側の上部域V1〜中部域V2部分においては、次第に斜面における土壌の堆積層の厚さが厚くなるため、例えば図11の断面図のD3に示すように、雨水の浸透度合いに応じて、それを阻止するために低透水層1の厚さを有効に厚く形成することができる。
なお、この低透水層1,1・・は、上下に段々に並ぶ幾つかの保護構造体のものについて相互に連続する一体のものとして形成しても良いし、それぞれの保護構造体について個別に形成するようにしても良い。これらの選択も、施工場所の地形に応じて最適な施工形態が選ばれる。
また、この第2の実施の形態の場合、雨水保持層2、雨水分流壁3、袖堤4,4、雨水流出量調節層4a,4a、割栗石層5,5よりなる上記複数の保護構造体の左右方向の幅D1や前後方向の長さD2(図9の構成を参照)、また分流壁3,3・・や袖堤4,4・・、4,4・・の高さ、雨水保持層2,2・・の容積などは、上記計画降水量を考慮し、図8中の構築位置(雨水負担能力など)に応じて有効な能力のものに形成される。その他の構成は、基本的に上記第1の実施の形態のものと全く同様であり、同様の作用効果を奏する。
これらの結果、同構成の場合にも、上記第1の実施の形態の場合と同様に、有効に従来のような表層水の発生が防止されるようになり、表層水による地滑り、斜面崩壊、落石、土石流などの土砂災害の発生を防止することが可能となる。