本発明は、植物バイオテクノロジーの分野に関する。特に、本発明は、非組織多層細胞パックの形での植物細胞材料の発生及び培養、及び所望の生成物の蓄積又は採取のためのその使用に関する。
過去数十年の間、多大な努力が、天然タンパク質又は非相同タンパク質及び二次代謝物の蓄積及び採取のための植物を基礎とするシステムの確立及び培養に捧げられている。その文献は、培地中に分泌された、又は細胞、組織、細胞小器官もしくはさらに全植物又はそれらの部分から単離された、種々の所望の物質を製造するための植物を基礎とするシステムの有用性を証明する、莫大な量の証拠材料を提供する。同様に、安定して又は一時的に形質転換させた植物材料の確立を確実にする、広範囲の形質転換プロトコルが存在する。しかしながら、確かで、比較的費用が安く、早い技術のために、植物細胞から高い収率の所望の生成物を得る要求がまだある。
本発明は、従って、特に、培養及び続く生成物の取り出し、抽出、及び精製を含むプロセス中の大きい体積の培地を取り扱う必要性に関連して、植物細胞懸濁培養液からの細胞を使用し、かつ先行技術の問題を克服する高レベルの所望の天然又は組換え生成物をもたらすための植物を基礎とするシステムの提供に関する。
従って、本発明は、天然又は組換えタンパク質及び代謝物質の発現又は発生、及び生産宿主として一般に確立された植物細胞懸濁培養液に由来する特定の植物細胞材料の使用に関する。
完全な植物又は少なくとも完全で分化した植物組織の使用に基づいた、多くの近年使用されている及び開発されたシステムに反して、懸濁細胞の使用は、均一な材料を、制御した、無菌の及び抑制した条件下で再現性良く製造できる利点を有する。
現在、植物において組換えタンパク質を発現するための2つの主なストラテジー、すなわち(i)安定なトランスジェニック植物又は懸濁細胞系列の発生、又は(ii)植物発現宿主(植物、組織又は細胞)を、細菌(例えばアグロバクテリウム)、ウイルス(例えばタバコモザイクウイルス、ジャガイモウイルスX/Y、ササゲモザイクウイルス、及び他の多くのもの)、もしくは双方の組合せ(例えばマグニフェクション(magnifection))の感染後の、宿主に非相同遺伝子情報(DNA又はRNA)を発現させるための、非相同遺伝子の一過的発現、がある。
本発明は、安定した形質転換させた植物細胞材料の使用も含むが、一過的発現のためのシステムは、スピードの利点(遺伝子から生成物、市場に出るまでの時間、緊急状態応答)及び典型的に安定して形質転換させたトランスジェニック植物又はそれらの一部、例えば細胞において得られるものよりも非常に高い蓄積レベルを達成する可能性を有する。
好ましい一実施態様に従って、本発明は、従って、植物懸濁培養に対して固有の利点と、一過的発現システムの利点とを組み合わせる。
アグロバクテリアの植物懸濁培養液への添加、続く懸濁液中での植物細胞及び該バクテリアのさらなる培養は、既に試されており、かつ公表(US 6,740,526号B1を参照)されているが、記載されているアプローチは、低い形質転換効率が欠点である。さらに、アグロバクテリアは、細菌を殺すための抗生物質の使用又は成長を抑制するための栄養要求性菌株の使用のような有効手段でない限り、植物懸濁細胞を急速に過成長する。他は、植物懸濁細胞上で同時培養させた細菌の直接有害作用(細胞死、過敏感反応)を記載している。結果として、それらは、現在、完全な植物又は組織のアグロインフィルトレーション(Agroinfiltration)/ウイルス感染に対する効率的な耐性と、植物懸濁培養の利点とを組み合わせる、及び有利にはGMPに従った製造を確立するために多くの利点がある無菌の制御した条件下での均一なバイオマスの製造を可能にする植物を基礎とする製造は存在しない。前記のように、US 6,740,526号B1において開示されているような同時発酵のアプローチは、低い形質転換効率及び付随する細菌の過成長が欠点である一方で、葉を基礎とするシステムは、高い形質転換効率を実現するが、しかしながら、アップスケールに関する問題に遭遇し、最初のバイオマス製造についての低い空時収率の欠点があり、かつ植物バイオマス製造のために制御された、しかし無菌性の条件に依存する。微生物システムと比較して高い製造費用は、これらのシステムが、生物学的製剤のための製造システムとして普及した関心及び使用を得られない主な理由である。結果として、研究及び開発は、より特殊な適用を目的としており、その際、速度と製造の強さの組み合わせた利点、すなわち緊急状態応答(例えば、Fluワクチン、新生の疾患、個人化医療等)が重要である。これらの問題、及びあらゆる与えられた植物宿主材料の遺伝背景を操作するための改良した方法の提供が、本発明によって扱われ、かつ解決される。
本発明に従って、培地不足の、多孔質構造の及び非組織の多層細胞パックの形での植物細胞材料の発生のための、及び該細胞パックの続く維持のための方法を提供し、その際、該方法は、(i)植物細胞懸濁培養液から細胞を分離することによって多孔質構造を有する細胞パックを提供する工程、ここで細胞パックによって含まれる液体の含有率は、1cm3あたり0.1〜0.9g(湿潤細胞質量)、有利には0.2〜0.85g(湿潤細胞質量)、最も有利には0.4〜0.8g(湿潤細胞質量)の細胞パック密度に相当するまで低減され、かつ調整され、これによって培地不足の及び多孔質構造の性質の前記細胞パックを得て、並びに(ii)前記培地不足の及び多孔質構造の細胞パックを、液体でない環境中で、厳しい乾燥から植物材料を防ぐために十分な湿度、すなわち50〜100%の相対湿度を提供する間に前記細胞パックの多孔質構造を維持又は回復する条件下でインキュベート又は培養する工程、を含む。
当業者によって認められているように、組織内の細胞は、典型的に、密接なつながりを有し、通常区別され、かつしばしば特定の形態及び局在化した細胞を示す。さらに、組織内の細胞は、通常、互いに関連して特徴的な方向性を有する。
対称的に、本発明による細胞パックは、植物細胞懸濁培養液から生じる。植物細胞倍懸濁培養液の特定の特性は、個々の細胞又はいくつかの細胞のアグリゲートが、互いに関連して移動し又は移動可能であり、かつ高い組織化レベルを呈さないことである。
結果として、本発明による細胞パックは、互いに特定の関連する方向付けを有さない個々の細胞及び細胞クラスターを含む。これらの細胞は、得られたコングロマリットが、著しい空隙を有する三次元の多孔質構造中に詰められる方法で製造される。細胞パックの密度と空隙の存在との明確な関係がある。空隙は、いくつかの理由のため重要である。第一に、空隙は、十分なガス交換が可能であり、その結果十分な量の酸素を、細胞に容易に供給することができる。第二に、空隙は、一時的に及び容易に、再度液体で満たすことができる。かかる一時的な処理を、種々の作用剤と細胞パックの全ての細胞とを近く接触させるために使用してよく、それによって遺伝子形質転換、生物形質転換、細胞パックの溶出又は洗浄による生成物回収、基質の適用又は診断目的のための解析(例えば、細胞パックを基礎とする免疫アッセイ)のための効率的な方法を提供する。これらの処理が、一時的なだけであり、かつ細胞パックの多孔質構造が、再構築され、細胞パックの密度が、続くインキュベート工程中に高い生存率を確実にすることを裏付けることが重要である。細胞パックの多孔質の性質によって、湿度は、細胞/空隙の境界でガス層と接している高い表面積のために、細胞パックを乾燥から避けるために十分に高いことがある適用においてさらに重要である。
特に、本発明による方法の好ましい一実施態様は、(i)植物細胞懸濁液を、有利には制御した及び/又は無菌の条件下で、均一な植物バイオマスの提供のために培養する、第一の培養工程、(ii)1cm3あたり0.1〜0.9g(湿潤細胞質量)、有利には0.2〜0.85g(湿潤細胞質量)、最も有利には0.4〜0.8g(湿潤細胞質量)の密度を有する多孔質細胞パックを生じさせる方法で、液体培地を植物細胞から分離する、分離工程、並びに(iii)細胞パックを、液体でない環境中で制御した条件(上記を参照)下で、少なくとも別の日までさらに培養する、第二の培養工程を含む。実際の状況及び専門家の意図に依存して、この第二の培養工程を、数日間実施してよい。
典型的に、第二の培養工程を、2〜7日間、有利には3〜5日間実施する。
全ての最新の技術水準の培養方法において、植物細胞材料を、直接又は間接的(多孔質支持体又は膜媒介)に、培地を含む栄養物と連続的に、すなわちほとんどの時間接触させる。連続の培地接触は、細胞が1つの培地から他に移される場合に、簡単に(すなわち、短時間)だけ中断される。細胞を濾過又は洗浄して、“古い”培地を取り除いてよいが、しかし素早く新たな培地に移す。
先行技術と対称的に、この培養工程は、細胞の生存率を維持し、かつ低減させた又は最小の細胞成長及び細胞分裂で生成物蓄積を促進する条件下で実施する。これは、湿潤環境下で、有利には構成成分又は栄養素が、細胞パック中に拡散する液体又はゲル状の成長培地と接触せずに、パックした細胞を通気させたウェルを培養することによって得られた(US2002/092037号A1;WO2005/103271号A1)。先行技術において、細胞の薄層は、細胞に栄養素を供給するために培地上に置いた支持膜上に置かれ、又はスポットされる。しかしながら、成長培地上の細胞層の培養は、少量のみのバイオマスを培地との接触の要求によって処理する欠点を有する。対称的に、本発明の細胞パック法は、支持培地に依存せず、スケーラブルであり、かつ従って産業適用に適している。従って、前記インキュベーション又は培養工程(ii)を、非液体環境で、有利には(液体の又はゲル−固体化した)維持培地又は成長培地に任意に接触して培地不足の及び多孔質構造の細胞パックを置くことなしに、実施する。
本発明による方法の好ましい一実施態様に従って、第二の培養工程を、数週間又は1ヶ月間実施する。かかる場合において、培養条件は、細胞の生存率を維持するために改質されていてよい。これは、例えば、一時的に(すなわち、3時間までの、有利には1時間までの時間)、細胞バックに栄養素を提供することによって、及び/又はインキュベート温度を下げることによって達せられる。
先行技術において、懸濁培養液を使用して、培養によって含まれる細胞を有さずに残る、又は培養液中に分泌された所望の生成物を蓄積する。製造期間を超える場合に、細胞は、蓄積された生成物を採取するために破壊し、又は処分する。懸濁液中で安定して形質転換させた、すなわち液体培地中に浸した植物細胞を使用して、種々の治療用組換えタンパク質の広範なスペクトルをもたらす(S. Hellwig et al., “Plant cell cultures for the production of recombinant proteins”, Nature Biotechnol 22: 1415−1422, 2004)。
本発明に従って、懸濁培地によって含まれる細胞を使用して、培地不足の非組織植物細胞材料を、前記のように特定の密度を有することによってさらに定義された多孔質構造の細胞パックの形で生じる。場合により使用者が定義した形状で提供されてよいこの細胞パックは、液体培地中で成長させた未分化植物細胞からなる人工的に生じた多層細胞コングロマリット又は細胞ケークと見なしてよい。源となる細胞は、安定して及び/又は一過的に形質転換されたトランスジェニック細胞、成熟細胞、又は所望の生成物を蓄積できる野生型(天然)細胞であってよい。ほとんどの周囲の液体培地を取り除く間に細胞パックの構造中に細胞懸濁液を導入することによって、三次元の多孔質植物細胞材料を生じる。濾過技術、例えば真空濾過、圧力濾過、及びフィルターを介した遠心分離を実施するが、液体培地は、前記細胞パック密度を確実にする限り、当業者に公知の他の方法(例えば食品産業において使用されるセパレーター、連続遠心分離)によって取り出されてもよい。細胞パックによって含まれる個々の細胞又は細胞クラスター間の空隙の確立、維持及び/又は再建は、第二の培養段階中のパックした植物細胞材料の生存率及び生産性のための重要な因子である良好な通気(ガス交換)を保証する細胞パックの多孔質構造を提供する。本発明の記載内容において、この培養条件は、固形化(ゲル化)又は液体培地上で、懸濁液中で、又は前記のように必要な通気を妨害してよいあらゆる液体環境に接して、細胞パックを培養することを含まない。前記培養を、実質的に、該細胞パックによって含まれるそれぞれの細胞を覆うあらゆる培地又は細胞の不在で実施するために、十分な相対湿度を確実にするべきである。当業者によって認識されるように、細胞パックの密度(1cm3あたりのg(湿潤細胞質量))、液体含有率及び通気(十分な量及び体積での空隙の構築によって提供される)の厳しい相互関係がある。しかしながら、以下でより詳細に説明されるように、通気した細胞パックを、(一時的に)少ない体積の形質転換ベクター又は制限されることなく栄養素、基質、ホルモン、酵素、代謝物及び前駆体を含む物質と接触することによって処理してよい。本記載内容において、一時的には、長時間(すなわち数週間又は数ヶ月間)のインキュベーションの課程における栄養素の提供を含むこれらの処理を、液体培地を再度取り出し、かつ多孔質細胞パックの空隙を再構築して、本明細書において定義した細胞パック密度を得る前に、短期間(3時間まで、有利には1時間まで)のみ実施することを意味する。
従って、本発明による方法は、場合により、生物、化学物質及び/又は生物学的物質又は分子をそれぞれ含むガス、蒸気、ミスト、ダスト、及び/又はアエロゾル等の存在で細胞パックを培養することを含む。
好ましい一実施態様に従って、細胞懸濁培地によって含まれる細胞は、天然(例えば野生型)の細胞、又は第二の培養工程を実施する前に、有利には機能性プロモーターに操作可能に連結される少なくとも1つの非相同核酸配列を含む少なくとも1つの発現ベクターで形質転換された、トランスジェニックでない細胞であり、その際該少なくとも1つの非相同核酸配列は、本発明による方法の工程(ii)において蓄積及び採取される所望の生成物をコードする。
本明細書において使用される“形質転換”の用語は、あらゆる核酸又は核酸類似体の植物細胞中への導入に関する。形質転換後に、核酸を、宿主細胞のゲノム中に安定して統合してよい。代わりに、導入した核酸を、ゲノム中に統合しなくてもよく、かつサイトゾル中で又は核中で又はあらゆる細胞オルガネラ中でその効果を発揮してよい。
核酸は、自主的な複製要素、例えばビロイド、ウイルスもしくは分解したウイルス、又は1つより多くのウイルスからの必要な要素の組合せであってよい。代わりに、導入した核酸は、自主的な複製要素、例えばビロイド、ウイルス又は分解したウイルスの構成成分だけであってよい。他の構成成分を、宿主細胞によって、又はトランスジェニック宿主細胞によって提供/補足してよい。
本明細書において使用される“非相同”の用語は、問題のヌクレオチドが、遺伝子工学を使用することによって植物細胞中に導入されることを示す。非相同遺伝子は、内因性当量遺伝子、すなわち通常同一又は同様の機能を果たすものから関心のあるタンパク質の発現を増加させてよく、又は挿入した配列が、追加の内因性遺伝子又は他の配列であってよい。他の可能性は、核酸配列について、それ又は非相同が天然に見いだせる培養した標的細胞内に置かれるべきであり、しかしその際、核酸配列は、細胞、又はそのタイプもしくは種又は植物の多様性、例えば発現を制御するための1つ以上の調節配列、例えばプロモーター配列に操作的に連結した細胞内で天然に生じない核酸に連結及び/又は隣接させる。さらに他の可能性は、核酸配列について、アンチセンス及び/又はサイレンシング(所望の生成物が得られる結果である)によって存在する遺伝子のサイレンシングを誘発することである。他の可能性は、調節機能を有する核酸、例えばmiRNA(所望の生成物)についてである。さらに他の可能性は、リボザイム又はアプタマーである核酸(所望の生成物)についてである。
“ベクター”は、特に、自己感染性又は移動可能であってよい又は自己感染性又は移動可能であってはならない、及び原核細胞宿主又は真核細胞宿主を形質転換でき、染色体外に存在するあらゆるプラスミド、コスミド、ファージ又はウイルスベクター(例えば複製の起源を有する自発的に複製するプラスミド)を含むと定義される。
“発現ベクター”は、核酸が、適切なプロモーター又は宿主細胞における転写のための他の調節要素、例えば微生物又は植物細胞の制御下であり、かつ操作的にそれらに連結しているベクターを言う。ベクターは、多数の宿主における機能がある二機能性発現ベクターであってよい。ゲノム又はサブゲノムDNAの場合において、これは、それ自身のプロモーター又は他の調節要素を含んでよく、cDNAの場合において、これは、適切なプロモーターの制御下であってよく、又は宿主細胞における発現のための他の調節要素であってよい。“操作的に連結した”は、同一の核酸分子の一部として結合されること、安定に配置されること、及びプロモーターから開始される転写のために方向付けられることを意味する。
“生物学的ベクター”は、植物宿主細胞を形質転換できる、すなわち核酸を植物細胞中に導入できるあらゆる微生物又はウイルスである。“生物学的ベクター”についての例は、感染性微生物、例えば、アグロバクテリウム、ラジオバクター及びリゾビウムに属するもの、又はウイルス、例えばタバコモザイクウイルス、ジャガイモウイルスx及びササゲモザイクウイルスである。より詳述すれば、A.ツメファシエンス(A. tumefaciens)が、“生物学的ベクター”である。
細胞の形質転換のために、生物学的ベクター又は遺伝子情報を含む種々の生物学的ベクターの懸濁液を、前記で概説したように生じた細胞パックに適用する。ベクターは、植物細胞に感染し、かつ遺伝子情報を伝達する。細胞パックの形での植物細胞材料のスポンジ構造によって、ベクターは、単に必須である完全な葉又は植物における細胞を得るために必要である特別な処理、例えば注入又は真空濾過なしに毛管力によって、個々の標的細胞へのアクセスを得ることができる。また、細胞パックの自由な及び多孔質の性質は、ベクターにアクセス可能な大きい表面積をもたらし、かつ従って、高い形質転換効率を可能にする。これは、カルス材料及び分化した植物組織とは異なり、細胞は、細胞表面にベクターの制限したアクセスをもたらし、かつ従ってより低い形質転換効率及び生成物蓄積をもたらす非常に厳しい細胞間の接触を有する。典型的に、細胞パック内の50%より多くの細胞が形質転換され、先行技術におけるよりも実質的に高い。形質転換効率についての詳細なデータが、米国特許号6,740,526B1において報告されていない一方で、それらに開示された方法は、本発明による細胞パック法より劣る(例えば実施例1、図6C、6Dを参照)。この発見は、10〜100倍高い抗体収率が得られたこと(例えば実施例1を参照)を観察することによってさらに支持される。ベクター懸濁液は、例えば、単純な滴下又は噴霧によって容易に適用できる。しかしながら、大きな及び/又は厚い細胞パック及びある使用者が定義した形状は、本明細書において定義したような所望の細胞パック密度を得るために、真空又は圧力を補助する適用、及び生物学的ベクター懸濁液の取り出しを要求してよい。真空に関連する葉組織の浸透と対称的に、記載された方法は、過剰な生物学的ベクター懸濁液を取り出し、そして再利用でき、及び細胞パックの多孔質の性質を直ちに再構築できる利点を有する。浸透した葉の生存率は、細胞間の空間中でガス相を戻すための過剰な液体の取り出し及び/又は除去に強く依存する。制御することが困難であるために、真空に関連する葉組織の浸透は、より高い生存率及び失敗率に苦しむ。好ましい実施態様は、ベクター懸濁液を細胞パックに適用することであり、これは、取り扱い、自動操作、閉じ込め、アップスケーリング及び廃棄物製造及び除去に関するいくつかの実質的な利点を有する。代わりに、植物細胞の懸濁液を、細胞パックを形成する前にベクター懸濁液と混合することができる。空隙の保持及び生物学的ベクター、例えばアグロバクテリウムで浸透させた細胞パックの培地不足の培養は、微生物ベクターがそれらの過成長によって植物細胞を破壊しないことを確実にする。
生物学的ベクター懸濁液の代わりに、核酸又は核酸類似体を含む溶液、又は核酸で被覆したもしくは核酸を含有する粒子の懸濁液又はエマルションを使用することができる。
生物学的ベクターの適用後に、細胞パックを、一定の時間、制御した条件下でインキュベート又は培養して、植物細胞パックに、個々の細胞又は細胞クラスター間の空隙を再建することによってその多孔質構造を再構築させ、かつ植物細胞に組換えタンパク質を発現させ、従って所望の生成物を蓄積させる。インキュベート条件(例えば、時間、温度、湿度、光強度)は、特定の所望の生成物の合成を有利にするために容易に調整することができる。細胞パックを支持するために特別な装置を必要とせず、それらを維持するための低価格の使い捨てプラスチックトレイで十分である。培養の第一の期間中に、空隙を、生物学的ベクターで適用した液体の蒸発及び吸収によって再構築する。代わりに、空隙を、真空又は圧力に関連する方法によって過剰な液体を取り出すことによって再構築してよい。培養を完了した後に、細胞パックを採取し、そしてその生成物を、当業者に公知の適した精製方法を適用することによってバイオマスから分離/単離する。解析又は診断が所望の生成物であることを意味する場合に、採取を、インキュベート/培養の期間中に実施してもよい。全体の方法を自動化することができ、かつ容易にスケールアップ又はスケールダウンすることができる。容易な設定及び複雑な方法の欠如によって、GMP要求及び/又は高いスループット適用及び/又は工業的なラージスケールの製造を満たすためのこの高く制御した方法を設計することが可能である。
前記方法は、ヒト、動物及び/環境に対して毒性がある生成物に特に適してよく、それというのも全体の方法は、完全な抑制下で実施することができ、従って高い生物安全性を提供するからである。これは、製造プロセスにおいて使用した化合物、ベクター及び/又は核酸についても適用する。
本明細書において使用される“採取した”の用語は、所望の生成物の発現及び蓄積に基づくあらゆる作用を含むと解されるべきである。前記のような所望の生成物の分離/単離を含む採取に加えて、採取は、一般に、自然に又は組換えて蓄積した所望の生成物に基づくあらゆる診断又は解析結果を安全にすることにも関連する。これらの場合に、所望の生成物自体の分離/単離を省略してよいことは、当業者に明らかである。
代わりに、細胞パックを、所望の生成物(例えば組換えタンパク質、代謝物)の製造を、例えば複製システムの構成要素もしくは代謝経路を提供することによって、又はある宿主因子を下方制御することによって、増加するために、トランスジェニック細胞を含む懸濁培養液から生じることもできる。
他の態様に従って、本発明は、本明細書において開示された本発明による方法によって得た又は得られる、1cm3あたり0.1〜0.9g(湿潤細胞質量)、有利には0.2〜0.85g(湿潤細胞質量)、及び最も有利には0.4〜0.8g(湿潤細胞質量)の密度を有する培地不足の、多孔質構造の及び非組織の多層細胞パックの形で植物細胞材料を提供する。言い換えれば、本発明は、1cm3あたり0.1〜0.9g(湿潤細胞質量)、有利には0.2〜0.85g(湿潤細胞質量)、及び最も有利には0.4〜0.8g(湿潤細胞質量)の密度を有する培地不足の、多孔質構造の及び非組織の多層細胞パックの形で植物細胞材料を提供する。
前記細胞パックを、組換え及び/又は内因性(天然の)タンパク質又は代謝物の製造のために、ベクター懸濁液に加えて又はベクター懸濁液の代わりに、前駆体、誘発物質、ホルモン、安定剤(例えば相溶性溶質)、阻害剤、RNA/siRNA分子、シグナル化合物、酵素(例えばペクチナーゼ)、及び/又は誘導因子の存在で、処理又は培養してもよい。
本発明の特定の一実施態様において、適用された物質は、細胞パック中で含まれる未分化細胞の分化を誘発する。これは、例えば、ホルモン又は定義したホルモンの組合せの適用によって、又は転写因子のための遺伝子を有する細胞の形質転換によって得られてよい。
細胞パックを、ベクター懸濁液、核酸溶液又は前記物質のあらゆる系列及び/又は組合せを使用して繰り返し処理してよい。これは、本発明の方法が、実質的に、細胞パックの多孔質の性質が維持され、かつ空隙がそれぞれの処理後に保持される限り、反復してよい。特に、これは、種々の核酸で細胞パックの細胞を同時に形質転換するために、種々のベクター懸濁液の混合物の使用も含む。
細胞パックは、1つ以上の異なる種の細胞及び/又は異なるクローン及び/又は異なるトランスジェニック及び/又はトランスジェニックでない細胞系列を含んでもよい。さらに、非相同細胞パックは、実質的に他の細胞、例えば酵母、菌、動物及びヒト細胞を同時培養するための多孔質支持体として植物細胞を使用する、種々の種又はさらに界から細胞からの細胞を含んでもよい。
本発明の他の好ましい実施態様において、多孔質細胞パックを、同時培養した生物の成長及び/又は生存率を評価するアッセイのための極めて再現性のある及び均一な支持体として使用し、その際該評価は、所望の生成物を示すことを意味する。有利には、細胞パックを、同時培養した生物に対するそれらの活性について細胞パックによって製造された分子(代謝物、ペプチド及び/又はタンパク質)を試験及び/又はスクリーニングするために使用する。かかるアッセイは、一般的に、次の工程(1)本発明による多孔質細胞パックを生じること、(2)化合物、ベクター及び/又は核酸を該細胞パックに添加し、そして場合により該細胞パックを適した時間インキュベートすること、(3)該多孔質細胞パックの選択した範囲に第二の成分を植え付けること、(4)植え付けた多孔質細胞パックを、第二の生物を成長させることができる条件下でインキュベートすること、並びに(5)第二の生物に対して細胞パック中で合成した生成物の効果(所望の生成物)、例えば、成長及び/又は生存率を、適したインキュベート時間後に評価すること、を含む。第二の工程は、例えばトランスジェニック懸濁細胞系列を使用する場合に省略してよい。
従って、本発明は、解析又は診断目的のために、本明細書において開示された方法によって得た又は得られた、及び/又は前記で定義した密度を有する植物細胞材料を使用することを提供する。例えば、細胞パックによって含まれる細胞を、生物の、又は解析又は診断されるべき物質の存在でインキュベートしてよい。従って、本発明は、本明細書において開示されている培地不足の多孔質及び非組織の多層細胞パックの形で植物細胞材料を含む診断又は解析ツールも提供する。
従って、当業者は、本発明による細胞パックを、細胞パックと接触させる(“処理”)試料における検出解析のためにも使用できることを容易に評価できる。さらに、興味深い分析物を含む試料での細胞パックの処理を、一時的に、すなわち短時間(3時間まで)の範囲内でのみ実施する。処理後に、空隙を再び再構築させ、すなわち細胞パックの対応する密度及び多孔性を回復させる。そして、細胞パックを、あらゆる液体の又はゲル化/固体化した培養液(影響物の供給)との連続接触なしでインキュベートする。試料中に存在する分析物は、シグナル導入、遺伝子発現、又は細胞パックの測定可能な変化又はそれによって含まれる細胞の操作を導くあらゆる他の事象を誘発してよい。測定可能な変化又は操作は、制限されることなく、蛍光で報告されるタンパク質、蛍光報告分子、酵素、細胞死を導く変化、自己蛍光の発生、細胞パックを分析すること又は細胞パック中もしくは溶出物中で直接検出できるシグナルを生じる追加の試薬での細胞パックのインキュベートによって示されてよい物理学的又は形態学的変化、抽出物、又は細胞パックに由来する他の試料を含む。安定なトランスジェニック細胞及び一過的に形質転換した細胞を含む、野生型の植物細胞と遺伝子操作した植物細胞との双方を使用してよい。特に、後者は、野生型細胞から生じた細胞パックの先の形質転換処理によって得られてよい。
本発明による細胞パックは、異なる種類の操作を高く受けることができる。懸濁液中の細胞又はプロトプラストと対称的に、細胞パック中の細胞密度はより高い。従って、化合物(例えば代謝生成物のための誘導因子)を、より経済的に、同一の有効濃度を得るために要求される低量で適用してよい。さらに、生物変換/生物形質転換のために極めて有用である高く濃縮した物質の適用が可能である。未処理の植物、植物組織及び/又はカルスと比較した利点は、細胞パックの多孔質及び毛羽だった構造によって、及びその緩い細胞接触によって、より高くアクセス可能な細胞表面積である。懸濁液クラスターと未処理の植物組織物質との比較は、より容易に及び効率的に細胞パックに適用でき、かつ細胞パックから取り出すこともできる。例えば、前駆体又は毒性化合物を、短時間だけ適用してよく、かつパルスチェイス実験を実施してよい。誘発物質を、最適な遺伝子発現のさらなる精製を可能にするより制御された及び適切に定義された方法で、及び多の生成物蓄積条件を適用してよい。前駆体及び基質の系列を適用して、続いて完全な変換を得て、そして代謝経路を毎核にしてよい。さらに、蓄積した分泌された生成物を、細胞パックを適した緩衝液で簡単に洗浄することによって採取してよい。興味深いことに、これは、生成物の繰り返しの取り出し(“ミルキング”)を可能にして、生成物分解及び/又はフィードバック阻害を避ける。このストラテジーは、宿主細胞に対する有害な効果を妨げる及び/又は減少させるために有用であってもよく、それによって生産性は最大化する。
栄養素(例えば、アンモニア、カルボン酸、二酸化硫黄、硫化水素、ホスフィン及び有機アミン)を含む揮発性物質の細胞パックへの提供は、最新の確立されたシステムに対していくつかの利点も有する。ガス状の形でのかかる物質の提供は、懸濁細胞培養液について得ることが難しい。ガスは、最初に、溶液の形で溶解されるべき、溶解性及び輸送によって制限される方法を要求する。未処理の植物及び植物組織を使用する場合に、再度の輸送が問題となり、しかしさらにより重要な、非常に大きいインキュベート体積を、使用及び制御するために要求する。これが小さいスケールに対する研究目的のために行われる一方で、ラージスケールの工業適用は、一般に高価すぎる。さらに、生成物自体が揮発性化合物である場合に、空気圧力の制御を、生成物を蓄積及び/又は採取するために使用してよい。ここで、懸濁細胞培養液と比較してより高い細胞密度(すなわち体積あたりの細胞)及び使用者が定義した形状及び形態の可能性は、あらゆる現在存在する製造システムで可能ではない遺伝子工学のプロセスのための特有の可能性、例えば低い圧力の培養を提供する。従って、本発明は、これらのタイプの適用のための経済的な及びスケーラブルな方法を提供する。
代わりに、溶解した化合物を、エアロゾル及び/又はミスト及び/又は蒸気の形で多孔質細胞パックに導入してよい。この導入形式は、懸濁細胞のために可能ではない。未処理の植物のために使用できるが、しかしながら、大部分の適用された化合物は、高い投与量、体積及び処理数を要求し、その標的に近づけない。クチクラを介した化合物の取り込みは、非常に制限され、気孔を介した導入を要求する。従って、かかる適用は、極めて有効な化合物に限定される。ここで、本発明は、細胞パックに著しい量でほとんどあらゆる化合物を効率的に提供する方法を提供する。
アップスケールを、並列化によって、すなわち必要数の細胞パックを簡単に生じることによって、容易に実施してよい。代わりに、アップスケールを、適した次元の大きい細胞パック又はシート、カラム又は同様の3D構造を使用することによって行ってもよい。
細胞パックの垂直サイズは、細胞パックの底部での細胞に作用する力及び孔の得られる圧縮によってのみ制限される。この問題は、しかしながら、中間支持体を使用することによって扱われてよい。従って、本発明による細胞パックの典型的な垂直サイズは、数mm、すなわち3〜5mmから、数cm、すなわち3〜15cm、又はそれ以上の範囲である。水平サイズは制限されない。10mm3〜10m3の寸法が可能である。十分な通気/ガス交換は、例えば適切な酸素及び二酸化炭素レベルを維持するために確実にする必要がある。揮発性の一次及び二次代謝物の蓄積も制御される必要があり、例えば高レベルのエチレンが、細胞について有害でありうるからである。少ない厚さ(約3〜5cm)の細胞パックについて、拡散によるガス交換は、通常十分である。厚い細胞パックは、活性のある通気及び/又は追加の空気チャネルの導入を要求してよい。この点で、本発明は、特有の溶液を提供し、それというのも懸濁細胞を、実質的にあらゆる使用者の定義した形状に固めることができるからである。
好ましい一実施態様に従って、所望の生成物は、内因性(すなわち天然の)及び非相同タンパク質又はポリペプチド、二次代謝物、マーカー、及び解析/診断結果からなる群から選択される。
関心のある遺伝子は、それ自体、天然の薬剤、例えば医薬品又は獣医製品である、タンパク質をコードするものを含む。
非相同核酸は、特に細菌、真菌、植物、非植物又は動物起源の遺伝子をコードしてよい。本発明のプロセスにおいて製造されうるタンパク質は、ヘテロ二量体、例えばFSH、イムノグロブリン、融合抗体、単鎖抗体、及び他の抗体の型又は誘導体を含む。
かかるタンパク質は、制限されることなく、網膜芽細胞腫タンパク質、p53、アンギオスタチン及びレプチンを含む。同様に、本発明の方法は、哺乳動物の調節タンパク質を製造するために使用されうる。関心のある他の結果は、タンパク質、ホルモン、例えば濾胞刺激ホルモン、成長因子、サイトカイン、血清アルブミン、ヘモグロビン、コラーゲン、タウマチン、タウマチン様タンパク質、表皮成長因子、例えばVEGF、インスリン、モノマーもしくはダイマーもしくは分泌性のイムノグロブリンA、トランスフェリンもしくはトランスフェリン融合タンパク質、及びレセプター、例えばCD16、CD32、CD64、CD89、新生児Fcレセプターを含む。
当業者によって適用されるように、本発明は、多い種類の所望の生成物、例えば医薬品関連の(組換え)タンパク質(例えば、ワクチン、抗体、治療用酵素、アレルゲン及び低アレルゲン、抗菌ペプチド、生体適合性コーティング材料のための構造タンパク質、例えばエラスチン及びコラーゲン、ウイルス様粒子、タンパク質体等)、栄養価の(組換え)タンパク質(食品及び食品添加剤)、診断適用のための(組換え)タンパク質(例えば、酵素、抗体及び遺伝子操作した抗体、他の酵素又は蛍光融合タンパク質、正に制御するように使用される抗原、タンパク質アッセイのための結合リガンド)、及び技術関連の(組換え)タンパク質(例えば親和性吸着剤のための結合リガンド、高価酵素、生体触媒)を含むタンパク質並びにポリペプチドを製造することが可能である。
従って、本発明は、有利には天然の又は非相同タンパク質又はポリペプチド、二次代謝物、マーカー、及び解析/診断結果からなる群から選択される少なくとも1つの所望の生成物の製造のための方法も提供する。前記方法は、1cm3あたり0.1〜0.9g(湿潤細胞質量)、有利には0.2〜0.85g(湿潤細胞質量)、及び最も有利には0.4〜0.8g(湿潤細胞質量)の密度を有する培地不足の、多孔質構造の及び非組織の多層細胞パックを植物細胞懸濁培養液から生じること、所望の生成物の製造を誘発又は改変するために適した溶液、懸濁液及び/又はガスを適用すること、適宜、前記範囲内で細胞パックの密度を調整すること、及び相対湿度50〜100%下で細胞パックを培養して、細胞パックに所望の生成物を製造及び蓄積させることを含む。場合により、前記方法は、さらに、蓄積した所望の生成物を、細胞パックによって含まれる製造した細胞から採取又は単離することを含む。
本発明の細胞パックを基礎とするシステムは、分子進化、タンパク質工学、代謝工学及び合成生物適用等のためのスクリーニングのプラットフォームとしても適しており、使用される又は使用されることを意図した、遺伝子発現カセット、プラスミド等の最適化を可能にする。さらに、本明細書において記載された細胞パックを使用することによって、本発明は、遺伝子発現構築物及び遺伝子操作した標的タンパク質を、高いスループット、より高い再現性及び自動化可能な方法で評価するための解析方法を提供する。本発明及び前記に従って、これらの適用の標的は、第二の培養期間中に‘採取した’所望の生成物を示す情報及び結果を集めることである。
他の態様に従って、本発明は、含まれる酵素の一過性発現による翻訳後のタンパク質改質の操作について提供し、かつ従って、例えば糖タンパク質のグリコシル化パターンの改質を可能にする。さらに、内因性酵素は、サイレンシング(例えばグリコシルトランスフェラーゼ、プロテアーゼ、ユビキチンリガーゼ)によってノックダウンされて、質及び量を有効に製造できる。
さらに、本発明は、含まれる経路酵素及び/又はそれらの転写因子の一過性発現による所望の生成物としての二次代謝物の製造について提供する。生化学経路を、競合経路及び/又は異化を対応する酵素のサイレンシングにより阻害することによって操作してもよい。同様に、本発明によるシステムは、本明細書において記載されているように細胞パックを生じる及び培養することによって遺伝的に未改質(天然)の細胞クラスターから改良された代謝物質の製造によく適している。最終的に、本発明は、構成プロモーター及び/又は対応する誘発物質の存在で誘発可能なプロモーターを保持するトランスジェニック懸濁細胞系列から生じた細胞パックを培養するために使用されてもよい。
一般的な話として、非相同核酸は、当該技術において使用されるあらゆる適した方法によって発現されてよく、又はそれらは、以下のように複写又は記載してよい:
(i)例えば、関心のある非相同配列に操作的に連結したプロモーターを含む‘裸の’DNAの一過性発現;
(ii)発現ベクター、例えば複製ベクターからの発現。一般的に言うと、当業者は、良好に、ベクターを構築すること、及び一時的な組換え遺伝子発現のためのプロトコルを設定することができる。適したベクターを選択及び構築することができ、それらは、プロモーター配列、ターミネーター断片、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子及び適宜他の配列を含む適した調節配列を含む。他の詳細について、例えばMolecular Cloning: a Laboratory Manual: 2nd edition, Sambrook et al, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press or Current Protocols in Molecular Biology, Second Edition, Ausubel et al. eds . , John Wiley & Sons, 1992を参照する;
(iii)統合していないベクターからの発現;
(iv)提供されたT−DNAからの発現。
これらのカテゴリーは、例えば統合されていないベクターが発現ベクター等であってもよいために、互いに矛盾しない。
かかる発現を得るための方法は、本明細書において他で議論されている。
構築物を、強いプロモーターを有し、構築物がゲノム中に統合されている安定な形質転換体を選択する場合に生じてよい固有の中程度の作用を有さない、比較的高いコピー数で導入してよい。結果として、製造されたタンパク質のレベル及び濃度は、先行技術の植物細胞を基礎とするシステム(トランスジェニック懸濁クラスター又は懸濁液中での一過性発現)におけるタンパク質製造のための方法の使用によって得られたものよりも遥かに多くてよい。
従って、本発明の一態様において、プロモーターに操作的に連結された標的核酸配列を含む導入された核酸構築物からの転写によって生じた標的タンパク質をコードするmRNAを生じることができる一時的に形質転換した植物細胞の使用が開示されている。
“導入された核酸”は、従って、DNA配列の安定な導入遺伝子発現に関連する通常のレベルのタンパク質製造に関連する高いレベルで細胞外タンパク質の製造を高めることができる構築物の形で提供されたDNA配列として、非相同核酸配列を含む。
従って、本発明の好ましい一態様において、植物細胞パックにおける非相同ヌクレオチド配列の発現を得るための方法が開示されており、該方法は、標的細胞中で、少なくとも非相同ヌクレオチド配列を含む第一の核酸配列を導入する工程を含む。
一実施態様において、少なくとも細胞外非相同タンパク質を生じる方法が提供され、該方法は以下の工程を含む:
(i)細胞パックによって含まれる標的細胞中に、非相同タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有する第一の核酸を一時的に導入する工程、
(ii)一定時間、適した培養条件を提供することによって非相同タンパク質の核酸からの発現を生じる又は可能にする工程、及び
(iii)蓄積した非相同タンパク質を製造した細胞から採取する工程。
単離は、全体の従来の方法によってよく、かつ部分的な又は完全な精製を必要としてよいか、又は精製しなくてよい。
細胞パック培養のための時間は、細胞材料が生存したままであるあらゆる時間まで又はそれを超えてよく、又は生成物で満たされるまでであってよく、一般に、約1〜10日、より有利には約1〜6日であることが好ましくてよい。
当然、当業者は、1つ以上の遺伝子を、構築物中で又はそれぞれ構築物を使用してよいことを認識している。多数のベクター(それぞれ、好ましい非相同タンパク質をコードする1つ以上のヌクレオチド配列を含む)を、前記のように又は他で標的細胞中に導入してよい。これは、例えば酵素の多数のサブユニット、又は例えば生化学経路の多数の酵素を製造するために有用であってよい。これは、例えば生成物及び/又はマーカーの発現及び/又は同一の又は異なるタイプの多数の生成物の製造の翻訳後の改質のための非相同酵素をサイレンシングする及び/又はノックインするsiRNA媒介遺伝子によって、内因性遺伝子を同時ノックダウンするために有用であってもよい。
以下の実施例で示されているように、この方法で導入される場合に、非相同配列の一過性発現は、正確な方法及び使用される材料に依存して、一般に数日である第二のインキュベート期間の課程にわたって、高いレベルの標的ポリペプチドを得ることができる。本明細書において記載されているような本発明の方法を使用することによって、非相同ポリペプチドの蓄積が得られる。
従って、細胞パックによって含まれる細胞における一過性発現は、以前に、適していない、例えば不安定な、すなわち製造した細胞内で蓄積された一時的に発現させたタンパク質又はポリペプチド配列の発現に依存していると考えられていてよい、多くの状況における有用なツールを示す。
前記方法は、高レベルの発現を要求するが、しかしウイルス性の構築物(植物‘感染’のための要求を有する)又は安定なトランスジェニック植物が望ましくない、例えば急速なアッセイが重要であり、又は問題の配列が、致命的な又は望ましくないフェノタイプを付与する適用において、特に有用である。
レポーターは、あらゆる検出可能タンパク質、例えば当該技術において通常使用されるマーカー遺伝子、例えばGUS、蛍光タンパク質、例えばGFP又はDsRed、ルシフェラーゼ等であってよい。有利には、レポーターは、非侵襲的マーカー、例えばDsRed又はルシフェラーゼである。本発明の他の一態様において、本明細書において記載された本発明の方法によって得た又は得られる培地不足の非組織多層細胞パックの形での植物細胞材料を、解析目的のために使用する。例えば、細胞パックによって含まれる細胞を、解析されるべき物質の存在でインキュベートしてよい。例えば、誘導性プロモーターに操作的に連結したスクリーニング可能なマーカー遺伝子(GFP、DsRed、ルシフェラーゼ、GUS、分泌されたアルカリ性ホスファターゼ、又は細胞内に検出可能な化合物を製造できる酵素)を含むトランスジェニック懸濁細胞系列から生じた細胞パックを、試験試料中で誘発物質を検出するために使用してよい。代わりに、誘発可能なレポーター遺伝子発現構築物を、第一の工程で野生型(トランスジェニックでない)懸濁細胞系列から生じた細胞パック中に形質転換してよく、そして試験試料を第二工程で解析する。有利には、1〜5日のインキュベート時間を、2つの工程の間に実施する。そして、液体試験試料の適した体積又は非液体試験試料の液体抽出物を、パックした細胞に適用する。この工程で、細胞パックの多孔質構造を、試験試料の体積と、細胞パックの質量との適した割合を使用することによって、又は適した接触時間後の試験試料の過剰な液体を取り出すことによって維持することを確実にすることが重要である。適した接触時間は、1分〜2時間、有利には5分〜1時間、より有利には10〜30分である。液体試験試料の適した体積は、細胞パック1グラムあたり0.75mlまで、有利には細胞パック1グラムあたり0.5ml、より有利には細胞パック1グラムあたり0.4mlである。
含まれるプロモーターの例は、制限されることなく、エストロゲンを誘導可能なプロモーター、エタノールを誘導可能なプロモーター、糖を誘導可能なプロモーターを含む。当業者は、リプレセッサー及び機能低下を使用する遺伝子回路を、等しく使用することができることも理解している。例えば、tet−リプレッサーにテトラサイクリンを結合することは、テトラサイクリンプロモーターの抑制解除を導く。
好ましい一実施態様に従って、本発明は、操作の容易性、高い形質転換効率、及び核酸及び/又は化合物を細胞パックの細胞中に提供するための多数の可能性のために、組換え事象を研究及び最適化するために非常に有用である方法を提供する。
当業者によって認識されるように、本発明による細胞パックは、葉を基礎とする一時的なシステム、液体培養液、野生型及び/又は安定なトランスジェニック懸濁培養液中での一時的なシステム、及び野生型及び/又はトランスジェニックな全体の植物又はそれらの一部に対して優れている。
本発明と対称的に、葉を基礎とする一過性発現システムは、異なる細胞タイプ(異種)からなる分化した植物組織を使用するが、一方で懸濁細胞は、脱分化又は未分化であることが公知である。葉を基礎とするシステムと比較して、本発明は、以下の利点を提供する:
・バイオマス製造の要求のための成長設備を消費する空間がない;
・外の気候条件に依存しない;
・植物病原体の感染のリスクがない;
・多量のより高い均一なバイオマスの急速な供給 − これは、医薬品生成物のために特に重要なことである(調節の関心を減らす);
・バイオマスの採取が非常に容易である(特別な採取装置を要求しない);
・凍結及び/乾燥による保存が、低い体積のバイオマス比により容易である;
・バイオマスの容易なプロセス及び生成物の容易な精製(少ないリグニン、少ない繊維、少ない宿主タンパク質、少ない顔料);
・バイオマスが高く制御された無菌の条件下で製造される(調節の関心を減らす);
・全体の植物と比較した速度の利点、バイオマスの容易なスケールアップ(0.1lの出発培養液が、15日でスケールアップして、1000lの懸濁培養液中で100kgのバイオマスを提供できる;5d 2.5l −> 5d 50l −> 5d 1000l);
・良好な空時収率/空間利用(1m2あたりのバイオマス;製造及びインキュベートは、通常、細胞パックを密にスタックすることを可能にする照明を要求しない);
・低体積の生物学的ベクター懸濁液を、同一量のバイオマスを感染するために要求する(タンク浸潤と比較して少ない“ゴミ”);
・葉及び植物を基礎とする方法でよりも容易な完全な抑制の実施;
・細菌又はウイルスの適用が、“細胞パック”法で容易である;
・個々の細胞において誘引された意図的でない転写後のサイレンシングが、原形質連絡によって連結されたいくつかの近い細胞に限られ、かつ全身に広がらない;
・追加の化学化合物(例えば、誘導因子、誘発物質、ホルモン又は代謝物製造のための前駆体)を、より容易に及びより経済的に適用することができる;
・パックした細胞から分泌されたタンパク質のみを溶出する可能性(少ない宿主タンパク質、完全に加工された分泌されたタンパク質のみにアクセス);
・汚染によって危険な生成物も製造できる(高い生物安全性レベル);
・高いスループットスクリーニングの可能性(マルチウェルフィルタープレート);
・より適応性のある使用者が定義したサイズ及び形状を実現できる;
・より自動化を受け入れられる;
・高いスループットスクリーニング及び実験設計のアプローチを可能にする、植物病原体又は他の生物の標準化した成長アッセイのために使用されてよい極めて均一な植物細胞材料;
・単一の形式で、同時及び/順次に、種々の方法、技術及び操作工程を容易に組み合わせる可能性。
液体培地中での一時的なシステムと比較した利点を、以下のように要約できる:
・生体反応で懸濁培地(フラスコ撹拌又は発酵槽)と、又は固体培地上で成長したカルスと比較して一時的に提供された導入遺伝子の増加させた発現;
・植物細胞(抗菌剤、栄養要求株)の過剰成長を避けるために細菌成長を制御又は抑制する必要がない;
・“細胞パック”の使用が、生体反応抑制と比較して植物細胞の割合がより高いアグロバクテリアにする;
・細胞パック中の細胞を撹拌しないため、より密接なベクターと細胞の接触をもたらし、それらを剪断しない;
・第二培養過程又は期間において高く濃縮したバイオマスによって、低量の高価な化合物を要求する(例えば誘発物質(アセトシリンゴン)、ホルモン、代謝生成物のための前駆体等);
・第二の培養過程が、植物細胞の製造のために使用される生体反応の外で生じる。これは、例えば、懸濁細胞の一定の供給を保証するために第一の培養過程における連続発酵ストラテジーの使用を可能にする。これは、比較的高価な生体反応物の良好な及びより経済的な利用をもたらし、高い能力を可能にする;
・細胞パックの多孔質構造によって、酸素供給の制限がほとんど重要でない。
トランスジェニック植物の使用と比較して、本発明によるシステムは、所望の生成物をより急速に回収することができ、かつ環境の関心又はリスクを有さない完全な抑制を提供し、食品鎖と混合しないことを確実にする。
安定なトランスジェニック懸濁細胞の使用と比較して、本発明は、遺伝子から生成物までの高いスピード、より高い生産性、及び安定に形質転換させた細胞系列の再建を妨害してよい毒性生成物の製造の可能性について提供する。
本発明は、さらに、次の制限のない図及び実施例に関連して記載される。本発明の他の実施態様は、これらの権利において当業者に見いだせる。
図1は、種々の標的シグナルを有する種々の蛍光タンパク質の配列を含むpTRA、pUTA及びTRBO系列を基礎とする発現ベクターからのT−DNAを示す。(A)分泌されたDsRedの発現のためのpTRAc rfp−AH、(B)ERを保持するDsRedの発現のためのpTRAc rfp−ERH、(C)サイトゾルDsRedの発現のためのpTRAc rfp−H、(D)色素体を標的とするDsRedの発現のためのpTRAc rTPrfp−H、(E)タンパク質体を標的とするDsRedの発現のためのpTRAkc glyDS−zenH、(F)色素体を標的とするGFPの発現のためのpTRAc rTPgfp、(G)色素体を標的とするDsRedの発現のためのpUTA TPrfp、(H)タバコモザイクウイルスレプリコンを使用するサイトゾルGFPの発現のためのTRBO−G。pTRAのベクター骨格は、pPAに基づく(GenBank AY027531)。pUTAのベクター骨格は、RK2oriからの宿主株依存プラスミド複製のための複製開始タンパク質trfAを含む。TRBOの骨格は、pCB301から起こる(GenBank AF139061)。LB及びRB、T−DNAの左端及び右端;SAR、足場付着領域;P及びpA、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35S遺伝子の重複したエンハンサー及びターミネーターを有する35S−プロモーター;CHS、カルコン合成遺伝子(P. hortense)からの5’−UTR;TL、タバコエッチウイルス(TEV)の5’−UTR;SP、ムリンmAb24のコドンを最適化したシグナルペプチド;TP、H. vulgareからのGBSSIの輸送ペプチド;rTP、S. tuberosumからのGBSSIの輸送ペプチド;DsRed、Discosoma sp.からの赤色蛍光タンパク質;glyDs、N−グリコシル化部位を有するDsRed変異体;zen、トウモロコシからのガンマ−ゼインのN−末端;GFP、オワンクラゲ(S65C突然変異体、サイクル3の突然変異体)からの緑色蛍光タンパク質;RK2 ori、複製の広い宿主範囲のori;bla、ベータ−ラクタマーゼ遺伝子;ColE1ori、複製のori(大腸菌);His6、ヒスチジンタグ;KDEL、ERを保持したタグ;RBS、リボソーム結合部位;Pnos及びpAnos、ノパリンシンターゼのプロモーター及びターミネーター;npt II、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子;リプリカーゼ、タバコモザイクウイルス(TMV)126K/183Kタンパク質;MP、TMV移動タンパク質;Rib、リボザイム。
図2は、種々の抗体の配列を含むpTRA系列の発現ベクターのT−DNA領域を示す。(A)2G12抗体重鎖、2G12抗体軽鎖及び色素体を標的とするDsRedの同時発現のためのpTRAp 2G12F−Ds;(B)ERを保持した2G12抗体重鎖、ERを保持した2G12抗体軽鎖及び色素体を標的とするDsRedの同時発現のためのpTRAp 2G12F−Ds;(C)M12抗体重鎖、M12抗体軽鎖及びERを保持するDsRedの同時発現のためのpTRAk MTAD。SPg、ヒトIgガンマ鎖のシグナルペプチド;2G12HC、ヒト抗−HIV−1 gp120 Ig 2G12ガンマ重鎖;SPk、ヒトIgカッパ鎖のシグナルペプチド;2G12LCF、ヒト抗−HIV−1 gp120 Ig 2G12カッパ軽鎖;pat、ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ;M12HC、ヒトIg M12ガンマ重鎖;M12LC、ヒトIg M12ラムダ軽鎖、(図1も参照)。
図3は、種々のターゲティングシグナルを有するトリプトファンデカルボキシラーゼの配列を含むpSS系列を基礎とする発現ベクターのT−DNAを図示する(S. Di Fiore et al . , “Targeting tryptophan decarboxylase to selected subcellular compartments of tobacco plants affects enzyme stability and in vivo function and leads to a lesion−mimic phenotype”, Plant Physiol 129: 1160−1169, 2002)。ベクター骨格は、pPCV002に由来する。(A)サイトゾルのトリプトファンデカルボキシラーゼ(TDC)の発現のためのpT−CYT;(B)色素体を標的とするTDCの発現のためのpT−CHL。Ω、タバコモザイクウイルスの5’−UTR;タグ、c−myc/His6タグ;pAocsmオクトピンシンターゼのターミネーター(図1、2も参照)。
図4は、マラリア原虫(Plasmodium falciparum)3D7メロゾイト表面タンパク質1(GenBank XM_00135213)の断片を含むpTRAkc Msp1(383319)ERH−Dsを発現するT−DNAを図示する。
図5は、白色光(A)下で、及びDsRed蛍光の視覚化のための緑色の励起光(B)下での、ヒト抗体(2G12)の重鎖及び軽鎖についての発現カセット、及び色素体を標的とした赤色蛍光タンパク質(DsRed)についての発現カセットを含むアグロバクテリウムでの感染の5日後のBY−2細胞の巨視的写真を示す。頂部:浸潤した “細胞パック”。底部:最終OD0.05(左)及び最終OD0.1(右)でアグロバクテリウムでの同時培養から採取した懸濁細胞。
図6は、それぞれ、白色光(A、B)下で、及びDsRed蛍光の視覚化のための緑色の励起光(C、D)下での、ヒト抗体(2G12)の重鎖及び軽鎖についての発現カセット、及び色素体を標的とした赤色蛍光タンパク質(DsRed)についての発現カセットを含むアグロバクテリウムでの感染の5日後のBY−2細胞の巨視的写真を示す。アグロ感染させた“細胞パック”からの細胞(A、C)。最終OD0.1でのアグロバクテリウムでの同時培養からの懸濁細胞(B、D)。
図7は、白色光(A)下で、及びDsRed蛍光の視覚化のための緑色の励起光(B)下での、マラリア原虫Mspl断片(p38−p33−p19)のための発現カセット、及び色素体を標的としたDsRedについての発現カセットを含むアグロバクテリアの感染の6日後のBY−2細胞パックの写真を示す。異なる光学密度(1、0.5、0.25、0.125、0.0625)をペトリ皿上で示す(A)。(C)は、点プロットによって、マラリア原虫からのMspl−p19の免疫検出を示す。
図8は、異なるアグロバクテリウム株を、白色光下で(A)、GFPフィルターセットで(B)、及びDsRedフィルターセットで(C)細胞上に点在させた4日後のフラットBY−2細胞パックの写真を示す。(1−3)pTRBO−Gで形質転換したEHA105アグロバクテリアの3つのクローン、(4−6)pTRBO−Gで形質転換したGV22605アグロバクテリアの3つのクローン、(7)pUTA−TPrfpを含有するEHA105、(8)pUTA−TPrfpを含有するGV3101::pMP90RK及びpTRA−rTPgfpを含有する(+)正に制御GV3101::pMP90RK。
図9は、アグロ感染の5日後の細胞パックにおける異なる標的とした蛍光タンパク質の蓄積を示す。ミクロカラム中での0.3g(生体重)の細胞パック(A)及び14mlカラム中で3gの細胞パック(B)を、一時的に形質転換した。(1)色素体を標的とするGFP、(2)形質転換していない細胞、(3)分泌されたDsRed、(4)ERを保持したDsRed、(5)サイトゾルDsRed、(6)色素体を標的とするDsRed、(7)タンパク質体を標的とするDsRed、(8)ERを保持したDsRed及び色素体を標的とするGFPでの同時形質転換。写真を、白色光で(左)、DsRedフィルターセットで(中央)、及びGFPフィルターセットで(右)撮った。DsRedの抽出された量を(C)において示す。
図10は、一時的にDsRedを発現する種々の寸法のカラムにおけるBY−2細胞パックの写真を示す。(A)白色光下で、(B)DsRedフィルターセットで。
図11は、それぞれ一時的に発現したDsRed及び2G12の発現に対する通気条件の影響を示す。(A、B)は、カラムにおける(A)白色光下での、(B)DsRedフィルターセットでの別々に通気した細胞パックの写真を示す。(C)は、アグロ感染の140時間後のBY−2細胞をパックしたカラムにおけるDsRedと2G12の蓄積レベルを示す。細胞パックの質量損失を、以下のチャートで示す。
図12は、トランスジェニックアグロバクテリウムでの浸透の5日後の細胞をパックしたカラムの合計抽出物及び溶出物のクーマシー染色したSDS−PAGEを示す。(A)分泌したM12抗体又はDsRedを形成するタンパク質体(対照)についての発現構築物での感染。(B)分泌した又はERを保持したDsRedについての発現構築物での感染。ゲル上での抽出物試料は、約10mgの新しい細胞の質量(FCW)に対応し、ゲル上の溶出物試料は、約20mgのFCWからの溶出物に対応する。
別々に標的としたトリプトファンデカルボキシラーゼ又はGFPでのアグロ感染後の種々の時点で一時的に形質転換させたパックした細胞におけるトリプタミン蓄積を示す。追加のトリプトファン(trp)を、アグロ感染の18時間後に添加した。
図14は、分泌したDsRed(rAH)又はERを保持したDsRed(rERH)のための植物発現ベクターを含有するアグロバクテリアでの浸透の4日後の別々に前培養した懸濁培養液から生じたニチニチソウ(Catharanthus roseus)細胞パックの写真を示す。写真を、白色光下で(A)及びDsRedフィルターセットで(B)撮った。懸濁細胞を、MS67培地中で、又はBY−2培地中でそれぞれ成長させた。
図15は、種々のアスペルギルス種奉仕をパック上に点在させた11日後のBy02細胞パックの写真を示す。(A)A.ニガー(A.niger)、(B)A.ニデュランス(A.nidulans)、(C)A.フラーブス(A.flavus)、(D)A.パラシティカス(A.parasiticus)。
図16は、5日後のBY−2野生型懸濁培養液から生じた細胞wpパックした4日後のカラムの(1)、及び9日後のBY−2野生型懸濁培養液に対応する培養液の、溶出物のクーマシー染色したSDS−PAGEを示す。
実施例1
細胞パックにおける一過性発現と、懸濁液における一過性発現との比較
本発明による細胞パックにおける一時的な組換えタンパク質製造を評価するために、アグロバクテリウムで浸透させた細胞パックにおけるDsRed及び抗体2G12の一過性発現を、液体培地中でアグロバクテリウムで懸濁細胞を同時培養する先行技術の方法と比較した。
同一のT−DNAに対して、ヒト抗体(2G12)の重鎖及び軽鎖についての発現カセット、及び色素体を標的とした赤色蛍光タンパク質(DsRed)についての発現カセットを含む、二成分ベクターpTRAp−2G12FER−Dsを有する組換えアグロバクテリウム(株GV3101::pMP90RK)を使用した。2G12遺伝子の双方は、抗体のER保持のためのKDEL配列を含む(図2B)。KDEL配列を、抗体の分泌を避けるために計画的に使用して、細胞パック及び懸濁細胞の直接比較を可能にした。
一時的な形質転換のためのアグロバクテリウム株を以下のように製造した。培養を、5mlのYEB培地(5g/lの牛肉エキス、1g/lの酵母エキス、5g/lのペプトン、0.5g/lのMgSO4、pH7.4、50mg/lのカルベニシリン及び25mg/lのカナマイシンで補った)中で50μl摂取することによってグリセロールスストックから開始した。細菌培養液を、3日間26℃で、約5の光学密度(OD)まで成長させた。細菌を、遠心分離によってペレット化し、そしてOD1まで浸透培地(50g/lのスクロース、2g/lのグルコース、0.5g/lのFertye 2 Mega(Planta Dungemittel, Germany)、pH5.3、200μMのアセトシリンゴンで補った)で再懸濁した。そして細菌懸濁液を適用前に22℃で1時間インキュベートした。
タバコL. cv.bright yellow 2(BY−2)の細胞を、液体培地(3%スクロース、4.3g/Lのurashige及びSkoog塩、100mg/Lのイノシトール、1mg/Lのチアミン、2mg/Lの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、200mg/LのKH2PO4、pH5.6)中で、暗所で、回転攪拌機(180rpm)で、26℃で培養した。細胞を、4%接種源を使用して新たな培地中に毎週継代培養した。
植物細胞及びアグロバクテリウムを、滅菌装置を使用して無菌条件下で取り扱った。4日後の400mlのBY−2懸濁培養液の50mlアリコートを、5.5cmの直径のセルロースフィルター(MN615)を備えた75mlのBuchner漏斗中に注ぎ、そして培地を、真空(1分間約500mbar)を適用することによって完全に取り出した。得られた細胞パックを、ペトリ皿中に移し、新しい細胞の質量(FCW)を測定した(質量=4.5g、直径=5.5cm、高さ=0.3cm、密度=0.63g/cm3)。そして、OD1の2.5mlのアグロバクテリウム懸濁液(細胞パック1グラムあたり0.55ml)を、均一に細胞パック上に滴下して、完全な浸透をもたらした。適用した液体の量を、細胞パックが均等に湿るが、しかし完全に浸されていないように調節して、空隙の早い回復を可能にした。アグロ浸透した細胞パックを、5日間26℃で及び95%の相対湿度(RH)で暗所で培養した。
同時培養のために、OD1の2.5mlの及び5mlのアグロバクテリウムを50mlのBY−2懸濁培養液に添加し、細胞パックとして同一及び二重のアグロバクテリウムと植物細胞の割合を得た。
同時培養培養液を、回転攪拌機上で180rpmで26℃で暗所で培養した。同時培養培養液からのBY−2細胞を、真空濾過によって、5日後に採取し、そして得られた細胞パックを、ペトリ皿に移した。双方の試験からの細胞を、DsRed発現のための赤色放射フィルターを介して緑色励起光下で巨視的に検査した(図5)。本発明によって製造したアグロ感染した細胞パックにおいて、赤色の蛍光が明らかに見えた。著しく、懸濁液中でアグロバクテリウムで同時発現した細胞において赤色蛍光は見えなかった。細胞の顕微鏡解析は、非常に高い感染率及び細胞あたりの高いDsRed発現を、懸濁液中での同時培養の先行技術の方法と比較して、本発明による細胞パック方法で得たことを明らかに示す(図6)。
可溶性タンパク質を、双方のアプローチ及びDsRedから抽出し、そして抗体蓄積を同定した。簡単に、細胞を、超音波破砕(Bandelin, Sonopuls、間隔0.9秒、40W、2×30秒)によって、2容量(w/v)抽出緩衝液((50mMのリン酸カリウム、500mMのNaCl、10mMの亜硫酸水素ナトリウム、pH7.5)中で均質化した。細胞デブリを、遠心分離(15分、13000g、4℃)によってペレット化し、その透明な上澄みをさらなる解析のためにしようした。DsRedを、抽出した可溶性タンパク質の蛍光(励起530±12.5nm;放出590±17.5nm)を測定することにより同定した。抗体定量化を、CM5センサーチップに結合したタンパク質Aを有するBIACORETMT200装置を使用して表面プラズモン共鳴分光法によって実施した(T. Holland et al . , “Optimal nitrogen supply as a key to increased and sustained production of a monoclonal full−size antibody in BY−2 suspension culture”, Biotechnol Bioeng 107: 278−289, 2010において記載されている)。
DsRed又は2G12抗体のどちらも、同時培養した懸濁細胞に由来する抽出物中で検出されなかった。対照的に、アグロ感染させた細胞パックに由来する抽出物は、FCW1グラムあたり55μgのDsRed及び47μgの2G12抗体を含んだ。
この実施例は、本発明による細胞パックを使用して、実質的に高い収率の組換えタンパク質を、懸濁培養と比較して、細胞パック中で組換えアグロバクテリアでの同時培養後の一過性発現によって得ることができることを示す。さらに、この実施例は、明らかに、細胞パックにおけるより高い生産性が、実質的に高い形質転換効率(典型的に50%〜80%)に及び細胞内でのより高い生成物蓄積によることを証明する。
実施例2
細胞パックにおけるマラリア原虫抗原の一過性発現
細胞パックがマラリア抗原の製造のために使用できるかどうか試験するために、マラリア原虫の種々のタンパク質を一時的に製造した。
マラリア原虫からのMspl(p38、p33及びp19)のERを保持したカルボキシ末端断片のための発現カセット及び色素体を標的とするDsRedのための第二の発現カセットを有する二成分ベクターを含む組換えアグロバクテリウム株(図4)。細菌を成長させ、そして実施例1において記載したように製造した。アグロバクテリウム浸透懸濁を、植物細胞の感染前にOD1〜OD0.0625まで系列希釈した。
3日後のBY−2懸濁培養液を使用して、実施例1において記載されたように細胞パックを生じた。細胞パックを、5mm×5mm×10mmの小片に裁断した(図7A)。6個の小片を、ペトリ皿中に移し、そして滴下して浸透させて、種々の光学密度のアグロバクテリウム懸濁液で飽和した(細胞パックあたり約150μl)。負の対照を、浸透培地のみで浸透させた(図7)。20℃で及び95%のRHでのインキュベートの6日後に、パックの小片を、DsRed蛍光及び抗原発現について解析した。DsRedを、赤色放射フィルターを介して緑色励起光下で巨視的に観察した(図7B)。マラリア原虫タンパク質の検出のために、可溶性タンパク質を、実施例1において記載したように抽出し、そしてそれぞれの抽出物のアリコートを、ニトロセルロース膜上に点在させた。マラリア原虫タンパク質の存在を、p19領域に対するモノクローナル抗体5.2及びAP共役二次抗体を使用する免疫検出によって、続いて、NBT/BCIP(ニトロブルーテトラゾリウム/5−ブロモ−4−クロロ−3’−インドリホスフェート)でインキュベートすることによって可視化した。
強いDsRed蛍光を、全ての感染させた細胞パック中で検出した(図7B)。蛍光強度における少ない差のみが、OD1のアグロバクテリウム濃度で浸透させた細胞パックと、OD0.0625の10倍より多く希釈したアグロバクテリウム懸濁液で浸透させた細胞パックとで検出された。全ての浸透させた細胞パックにおける同時発現させたマラリア原虫タンパク質の明らかな免疫学的検出は、アグロバクテリウムの10倍希釈にも反映されなかった(図7C)。最も高い蓄積レベルを、OD1のアグロバクテリウム懸濁液での浸透によって得た。
追加の実験において、マラリア原虫(Pfsp25のみ、及びDsRedとの融合で;及びいくつかの異なるマラリアタンパク質からのドメインからなる他の融合タンパク質)からの他のタンパク質を、異なるBY−2細胞パック形成体でうまく発現させた(データで示されていない)。この実施例は、細胞パックを低量のアグロバクテリアで浸透させた場合にであっても、組換えタンパク質の蓄積が高いことを示す。本発明は、従って、ラージスケールでの工業適用のために等に重要であるより経済的な製造のための方法を提供する。これは、異なるマラリアタンパク質を、効率的に発現し、製造できること、及び開示された方法が、一般に、マラリアワクチン及び他の感染症に対するワクチンの開発及び製造に適していることも示す。
実施例3
スクリーニング適用のための細胞パックの使用
細胞パックが非常に均質であるために、細胞パックはスクリーニング目的のためにも理想的である。従って、このことを、この実施例において、使用したアグロバクテリウム株及び種々の発現ベクターの一時的な生成物蓄積に対する影響を評価することによって証明した。2つの異なる発現ベクターを使用した。色素体を標的とするDsRedを動かす35Sプロモーターを含有する二成分ベクターpUTA−TPrfp、及びタバコモザイクウイルス(TMV)のcDNAを動かす35Sプロモーターを含有する二成分ベクターpTRBO−Gであり、外被タンパク質配列をGFPによって置換する図1H)(J. A. Lindbo, “TRBO : a high−efficiency tobaco mosaic virus RNA−based overexpression vector”, Plant Phys 145: 1232−1240, 2007)。それぞれのベクターを、2つの異なるアグロバクテリウム株中に導入した。標準ベクターpUTA−TPrfpを、GV3101::pP90RK及びEHA105中に導入し、ウイルス性ベクターpTRBO−Gを、GV2260及びEHA105中に導入した(R. Helens et al., “A guide to Agrobacterium binary Ti vectors”, TIBS 5: 446−451, 2000)。
GV3101::pMP90RKにおけるpTRA−rTPgfpを正の対照として使用した(図1F)。GV−pUTA−TPrfp、EHA−pUTA−TPrfp及びGV−pTRA−rTPgfpの液体培養液をグリセロールストックから開始した。GV−pTRBO−G及びEHA−pTRBO−G培養のために、プラスミドDNAを有する新たに製造した電気的形質転換を、それぞれの株について接種した。アグロバクテリウム株を、標準条件(実施例1)下でGV−pUTA−TPrfp、GV−pTRBO−G及びGV−pTRA−rTPgfpについて50mg/lのカルベニシリン及び25mg/lのカナマイシン、EHA−pUTA−TPrfpについて50mg/lのカルベニシリン、及びEHA−pTRBO−Gについて25mg/lのカナマイシンで成長させた。3日後に、細菌を、遠心分離によってペレット化し、そして浸透培地でOD1まで再懸濁した。細菌懸濁液を適用前に22℃で3時間インキュベートした。細胞パック(質量=4g、直径=5.5cm、高さ=0.3cm、密度=0.56g/cm3)を、標準条件(実施例1)下で25mlの成長させた5日後のBY−2培養液を使用して生じた。細胞パックを、ペトリ皿に逆さまに置き、そして40μlのそれぞれのアグロバクテリウム懸濁液を平滑表面上に点在させた。浸透させた細胞パックを、26℃で95%RHでインキュベートした。4日後に、細胞パックをGFP発現のための緑色フィルターを介して青色励起光下で(図8B)、及びDsRed発現のための赤色フィルターを介して緑色励起光下で(図8C)検査した。ウイルス性ベクターでの及び標準二成分ベクターでの蛍光タンパク質発現は、EHA105を、発現構築物を植物細胞中に移植するために使用した場合に、明らかに低い効率であった。この結果をカラムにおける3gの細胞パックの感染によって、及び、同一のアグロバクテリウム懸濁液でのベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の葉の一過性形質転換によって確認した(示されていない)。この扱いが簡単であるスモールスケールの“アグロドット(agro−dot)”法を、標的タンパク質発現に影響しうる他のパラメータ(例えば、アグロバクテリアの成長条件及び前処理、感染した細胞パックの浸透培地組成物又は培養条件)を評価するためにも使用できる。何百もの試料を、技術的装置を要求せずに平行して解析でき、400mlのBY−2培養液を有する1Lの撹拌フラスコは、5日で4gの細胞パックの16倍の材料を提供し、11日後の400ml培養液から30個の細胞パックを生じてよい。
実施例4
カラムでの細胞パックにおける一過性発現
カラムで、細胞パックを生じ、浸透し、かつ維持することができるかどうかを試験するために、いくつかの試験を実施した。この実施例において、異なる標的の赤色蛍光タンパク質DsRed及び緑色蛍光タンパク質GFPを、パックした細胞の形成体をカラムで一時的に発現させた。
分泌されたDsRed(図1A)、ERを保持したDsRed(図1B)、サイトゾルDsRed(図1C)、色素体を標的とするDsRed(図1D)、タンパク質体を標的とするDsRed(図1E)、及び色素体を標的とするGFP(図1F)のための二成分発現ベクターを有する異なるアグロバクテリウム株を使用した。アグロ感染のためのアグロバクテリウム懸濁液を、実施例1において記載したように製造した。適用前に、細菌懸濁液を適用前に22℃で5時間インキュベートした。同時感染実験のために、OD1の2つのアグロバクテリウム株(それぞれERを保持したDsRed及び色素体を標的とするDsRedを含む)を混合して、それぞれの株についてOD0.5を得た。
標準条件(実施例1)下で成長させた11日後のBY−2懸濁細胞を使用して、2つの異なるタイプの滅菌ポリプロピレンカラム中で細胞パックを生じた。0.7mlの体積を有するミクロスピンカラム(Receiver Column 20 μm、MACHEREY−NAGEL、Germany、図8A)及び14mlの体積を有するミディカラム(QIAGEN−tip 100 column、QIAGEN、Germany、図9B)(双方とも20μmポリエチレンフィルターフリットで満たした)を使用した。細胞パックを、バキュームに連結したカラム中に懸濁培養液を注ぐことによって生じた。培地を真空濾過によって完全に取り出した後に、得られた細胞パックの寸法を測定した。1mlの懸濁培養液を、ミクロカラムのために使用して、直径0.68cm、高さ1.5cm及び密度0.54g/cm3を有する0.3g(質量)の細胞パックを得た。ミディカラム中で10mlの懸濁液から生じた細胞パックは、質量3g、直径1.4cm、高さ3.6cm、及び密度0.54g/cm3を有した。
細胞パックを、細胞パック上にアグロバクテリウム懸濁液をピペット添加することによってカラム中で浸透させた(細胞パック1グラムあたり1ml)。完全な浸透を得るために、短い真空を、最初の液体液滴がカラムから離れるまで、しかし懸濁液で覆われた細胞パックの頂部を残して、適用した。30分間22℃で浸透させた細胞パックをインキュベートした後に、空隙を再構築するためにカラムに真空を適用することによって残った液体を完全に取り出した。適用した液体の取り出しを、細胞をパックした処理したカラムの質量を測定することによって調整した。続くインキュベート工程中の細胞の高い生存率を確実にするために、細胞パック又は細胞によって取り込まれた液体による質量増加は、有利には、例えば細胞パックの本来の新しい細胞の質量(FCW)の15%を超えるべきでない。細胞パックを、26℃で及び92%の相対湿度でカラム中で培養した。アグロ感染の2日後に、合計の可溶性タンパク質を、実施例1において記載されたように細胞パックから抽出した。
蛍光タンパク質発現は、全ての浸透させた細胞パックにおいて巨視的に検出でき(図9)、細胞パックにおける細胞の種々の区画を、組換えタンパク質製造のために使用できることを示した。細胞パックは、細胞パックのそれぞれの範囲へのアグロバクテリアの効率的な提供を示す均質な蛍光を示した。標的区画に依存して、蓄積レベルにおける明らかな佐が観察され、色素体を標的とするDsRedについて約40μg/g(FCW)から、サイトゾルDsRedについて約160μg/g(FCW)までの範囲であった。タンパク質体を標的とするDsRedは、in vivoで高い蛍光を示したが、しかしタンパク質体の不溶性によって抽出できなかった。DsRed及びGFPの刺激性発現(図9A8及び9B8)は、2つの別々のアグロバクテリウム株での同時感染が可能であることを示した。ミクロカラムにおいて0.3g又は14mlカラムにおいて3gの細胞パックサイズは、発現レベルに影響しなかった。従って、ミクロ細胞パックが、例えば、ラージスケール製造のための最適なパラメータを決定するため、異なる発現構築物を評価するため、又は代謝経路を開発及び研究するためのスクリーニング及び解析目的のために非常に有用であることを把握する。細胞パックの高い均質性によって、細胞パックは、特に、統計学的設計及び多変量実験のために有用である。高いスループット解析のために、自動化システムと相容性である96ウェルのフィルタープレートを使用できる(例えば、レシーバープレート20μm、Chromabond(登録商標)MULTI 96フィルタープレート、双方ともMACHEREY−NAGEL社製、Germany)。これらのフィルタープレートのウェルは、この実施例において細胞の発生及び浸透のために使用されるミクロカラムに類似する。96ウェルプレートにおける懸濁培養液中の高いスループット解析と比較して、ミクロ細胞パックは、一過性発現がより効率的であり(実施例1を参照)、かつよりバイオマスが解析のために使用できる利点を有する。前記で使用したカラムに加えて、大きいカラムも試験した(図10)。DsRed発現を、70mlカラム(GenEluteTM HP Plasmid Midiprep Kitフィルターシリンジ、SIGMA、USA)での12gの細胞パック(直径2.8cm、高さ3.5cm)における、及び150mlカラム(Chromabond(登録商標)ポリプロピレンカラム150ml、MACHEREY−NAGEL、Germany)での87gの細胞パック(直径3.7cm、高さ11cm)におけるアグロ感染の4日後に観察した。12gの細胞パックを、4日後のBY−2懸濁培養液から生じ、色素体を標的とするDsRedについての発現構築物を有するアグロバクテリウムで浸透した(図2B)。87gの細胞パックを、11日後の培養液から生じ、ERを保持したDsRedについての発現構築物を有するアグロバクテリウムで浸透した(図1B)。前記の標準方法に対する差は、87gの細胞パックを、OD0.25のアグロバクテリウム懸濁液で浸透させたことだけであった。細胞パックの密度の決定、空隙を再構築するために十分な液体を取り出す確証を、秤量によって得た。種々の試験は、種々の時期の、すなわち継代培養の数日後の細胞は、本発明による細胞パックを生じるために適していることも示した。さらに細胞パックの種々の形状及びサイズも可能である。この実施例は、滅菌及び抑制した条件下でより大きい細胞パックも形質転換及びインキュベートすることができることを示す。これは、一般に滅菌でない葉を基礎とするシステムと対照的である。
実施例5
一時的なタンパク質製造に対する増加した通気の効果
形質転換したパックした細胞の性能に対する通気の影響を調べるために、種々の設定で試験した:(1)活発に通気した細胞パック、(2)消極的に通気した細胞パック、(3)中心空気チャネルを有する細胞パック、(4)有孔カラムにおける細胞パック(図11A)。
二成分ベクターpTRAp−2G12FER−Ds(図2B)を有するアグロバクテリウム株を、標準条件下で成長させ、そして実施例1に記載されているように製造した。
標準条件下で成長させた4.5日後のBY−2懸濁細胞を使用して、14mlのミディカラム中で細胞パックを生じた(実施例4)。実験1、2、4において、固体細胞パックを生じ、有孔カラムをパラフィルム(登録商標)でシールした。実験3において、2.5mmの直径を有するプラスチック棒を、カラムの中心に置いた。細胞パックは、直径1.4cm及び質量2.1〜2.5g、高さ2.5〜2.7cm、及び密度約0.57g/cm3を有した。アグロバクテリウム懸濁液での浸透及び液体の取り出し後に(実施例4)、カラム3からの棒及びカラム4からのパラフィルム(登録商標)を取り出して、それぞれ、中心空気チャネルを有する細胞パック、及び外側から追加の空気供給を有する細胞パックを得た。カラムを、92%RHを有するインキュベーターで26℃で培養した。カラム1を、インキュベーターの内側に26℃及び92%RHの空気での供給に配置された空気ポンプに連結した。ポンプは、50l/時間の容量を有し、定期的なポンピング(15分でオン、45分でオフ)に設定された。アグロ感染の6日後に、細胞パックの質量を測定し、そして可溶性タンパク質を細胞パックから抽出し、そしてDsRed及び2G12抗体発現について解析した(実施例1において記載されている)。細胞パックの種々の質量損失のために、DsRed及び抗体2G12の量を、インキュベーターでの培養の開始時点のFCWに基づいて算出した(図11C)。結果は、強制的な通気(図11C1)又は増加させた表面(図11C4)を介した蒸発による湿分の損失は、パックした細胞の生産性にたいして負の影響を有することを示す。色素体を標的とするDsRedの蓄積及びERを保持した抗体の蓄積の双方を20%未満の質量損失を示す細胞で減らす。従って、細胞パックの乾燥を最少化する培養条件を使用する必要がある(例えば、相対湿度を高めることによって、又は細胞パックを吸湿することによって)。一方で、結果は、この寸法で通気が十分であり、良好な酸素供給及びガス交換についての測定が必要ないことを示す。
実施例6
パックした細胞から分泌された生成物の非破壊的採取
組換え分泌生タンパク質を細胞を破壊せずに溶出できるかどうか測定するために、BY−2懸濁細胞を、カラム中でパックし、そしてアグロ感染によって一時的に形質転換した。それぞれERを保持したDsRed(図2C)、分泌性DsRed(図1A)、ERを保持したDsRed(図1B)及びタンパク質体を形成するDsRed(図1E)と一緒に分泌性モノクローナル抗体M12のための発現構築物を含有する種々のアグロバクテリウム株を実験のために使用した。M12抗体(150kDa)及びDsRed(108kDa)は、大きい分泌タンパク質についての例である。ERを保持したDsRedが細胞内であるために、植物細胞をインキュベート又は溶出中に破壊させるかどうかを試験することが適した対照である。不溶性タンパク質体を形成するDsRedを、全体の細胞抽出物のための対照として使用した。
標準条件(実施例1)下で成長させた11日後のBY−2懸濁細胞を使用して、カラム中で細胞パックを生じた。10mlの懸濁培養液を、20μmのポリエチレンフィルターフリットを備えた14mlのポリプロピレンカラム(直径1.4cm、高さ9cm)中に注いだ。培地を真空濾過によって完全に取り出し、そして得られた細胞パック(質量=3g、直径=1.4cm、高さ=3.6cm、密度=0.54g/cm3)を、アグロバクテリウム懸濁液を細胞パック上にピペット添加することによってカラム内で浸透させた(細胞パック1グラムあたり1ml)。完全な浸透を得るために、短い真空を、最初の液体液滴がカラムから離れるまで、しかし懸濁液で覆われた細胞パックの頂部を残して、適用した。浸透させた細胞パックを、30分間22℃でインキュベートし、そして残りの液体を、カラムに真空を適用することによって完全に取り出して、多孔質構造を再構築した。細胞パックを、26℃で及び92%の相対湿度でカラム中で培養した。アグロ感染の5日後に、パックした細胞の200mg(FCW)の試料からの合計の可溶性タンパク質を、2容量の抽出緩衝液(50mMのリン酸カリウム、500mMのNaCl、10mMの亜硫酸水素ナトリウム、pH7.5)で抽出した。分泌したタンパク質を回収するだけのために、細胞をパックした残りのカラムを以下の抽出緩衝液で洗浄した。3mlの緩衝液をカラムに適用し、そして短時間真空で細胞パック中に吸い込んだ。30分のインキュベート後に、その緩衝液を、真空で回収し、そして再度細胞上に適用した。3回の連続洗浄工程後に、2.7mlの溶出物を回収し、続いて遠心分離によって浄化した。合計の抽出可能なタンパク質調製物及び溶出可能なタンパク質をクーマシー染色したSDS−PAGEゲル上で組換えタンパク質含有率について解析した(図12)。ゲル上で装填されたタンパク質量は、10mgの細胞パックからの合計の抽出可能なタンパク質に、及び20mgの細胞パックからの溶出可能なタンパク質に対応した。組換えタンパク質のバンドの濃さは、それぞれ抗体(図12A)について及びDsRed(図12B)についての抽出物及び溶出物とほとんど同一である。これは、双方の場合において、約50%の合計で製造された組換えタンパク質を溶出できることを意味する。しかしながら、宿主タンパク質を汚染する量は、溶出試料において低かった。
M12抗体の量を、表面プラズモン共鳴分光法によってセンサーチップに結合したタンパク質Aで同定し、DsRedの量を蛍光によって測定した。合計の製造した分泌性M12(175μg/g(FCW))の約55%(96μg/g(FCW))及び分泌性DsRed(70μg/g(FCW))の40%(28μg/g(FCW))を溶出した。溶出試料における合計の製造したERを保持したDsRed(120μg/g(FCW))の断片(1%未満)のみの存在は、細胞が、分泌されたタンパク質の培養中又は溶出中に損傷されないことを示す。
植物の葉又は植物全体の一過性形質転換の先行技術の方法を使用する場合に、分泌されたタンパク質の選択的な製造は、細胞な洗浄液を回収することによって解析的なスケールで実施できるが、ラージスケールでは実施できない。従って、ラージスケールの分泌された生成物を、全体のバイオマス抽出物から回収する必要がある。従って、宿主化合物(例えばタンパク質、代謝物、リグニン、セルロース)の所望の生成物を、複雑な混合物から精製する必要がある。特に、フェノール化合物は、下流のプロセス及び精製に関する問題がある。これに関して、本発明は、これらの問題を回避しており、それというのも分泌された生成物を、植物細胞を破壊することなく、最小の宿主化合物の汚染で、細胞パックから直接溶出できるからである。さらに、拡張性があるために、細胞パック法を、工業ラージスケールで実施することができる。最適化した溶出及び培養条件下で、パックした細胞から分泌された生成物の繰り返しの溶出は、所望の生成物の非常に高い収率をもたらすことが考えられる。
実施例7
代謝工学による新規の二次代謝物の製造
パックした細胞における新たな生合成経路を確立するために、タバコにおいて存在しない酵素トリプトファンデカルボキシラーゼ(TDC;EC4.1.1.28)を、BY−2細胞パックにおいて一時的に発現させた。
TDCは、1−トリプトファンの脱カルボキシル化によってテルペノイドインドールアルカロイド生合成経路の早い段階で触媒作用を生じて、プロトアルカロイドトリプタミンを生じるサイトゾル酵素である。トリプタミンは、治療的に関連のある二次代謝物(例えば、抗ガン薬ビンブラスチン及びニチニチソウからのビンブラスチン)の群の一般の前駆体である。所望の代謝物の収率をさらに増加するために、前駆体トリプトファンを、第二工程で、形質転換後に細胞パックに供給した。
4日後のBY−2懸濁細胞を、実施例4において記載したように14mlカラム中でパックして、密度0.58g/cm3を有する2g(FCW)の細胞パックを得た。細胞パックを、アグロ感染によって二重に一時的に形質転換した。色素体を標的とする緑色蛍光タンパク質(GFP)(図1F)、色素体を標的とするTDC(図3A)又はサイトゾルTDC(図3B)について植物発現構築物で形質転換したアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)株GV3101::pMP90RKを、標準条件(実施例1)下で成長させた。
アグロバクテリウム株を遠心分離によってペレット化し、浸透培地で再懸濁し、そしてOD1に調整した。植物細胞パック上に細菌懸濁液を適用前に22℃で4時間インキュベートした。
それぞれの細胞パックを、2mlのアグロバクテリウム懸濁液で浸透し、30分間22℃でインキュベートし、真空によって乾燥させ、そしてさらに26℃及び相対湿度92%で培養した。アグロ感染の18時間後に、細胞パックを、2mlのトリプトファン溶液(半濃縮した浸透培地中で50mM)で、又は2mlの半濃縮浸透培地で再び浸透させた。30分間26℃で浸透させた細胞パックをインキュベートした後に、溶液を真空によって完全に取り出し、そして細胞をパックしたカラムを、培養キャビネットに戻した。約250mg(FCW)の試料を、アグロ感染後の69時間、91時間及び112時間で取り、−80℃で貯蔵した。トリプタミンを抽出し、R.S. Sangwan et al . , “Direct fluorometry of phase−extracted tryptamine−based fast quantitative assay of 1−tryptophan decarboxylase from Catharanthus roseus leaf”、Anal Biochem 255: 39−46、(1998)の方法によって、最小の改質でアッセイした。
簡単に、水溶性化合物を、2容量(v/w)抽出緩衝液(50mMの硫酸カリウム、500mMのNaCl、10mMの亜硫酸水素ナトリウム、pH7.5)中で超音波破砕することによって細胞試料から抽出した。0.9ml滅菌水を0.1mlの透明な抽出液に添加した後に、2mlの5MのNaOH及び3.5mlの酢酸エチルを添加した。そのエマルションを、10秒間ボルテックスによって混合し、そして4℃で16時間相分離のために置いた。上部の有機相を、Aminco Bowman AB2ルミネセンススペクトロメーター(Spectronic Instruments、Rochester、NY)を使用することによって蛍光定量的に解析した。トリプタミン蛍光を、280nmの励起及び350nmの放射波長で、励起光及び放射光について4nmのスリット幅で測定し、光電子増倍管電圧を575Vに設定した。
検出したトリプタミンレベルは、活性TDCを、それぞれ色素体で及びサイトゾルで発現したことを示す(図13)。導入された酵素は、内因性トリプタミンを、新規の物質のトリプタミンに変換した。追加のトリプトファンを一時的なTDC発現細胞に供給することは、トリプタミンの製造における明らかな増加を導く(色素体を標的とするTDCについて5倍、サイトゾルTDCについてほぼ10倍)。
この例は、本発明による方法を代謝物の製造のために使用することができることも示す。さらに、細胞パックを、形質転換して例えば酵素(TDC)を製造できるだけでなく、物質及び/又は前駆体を、続く工程で細胞に容易に供給して生成物の収率を増加することができることを証明した。従って、本発明は、例えば繰り返しの形質転換、浸透及びインキュベート工程によって、細胞に関心のあるあらゆる物質を提供して、生成物形成(例えば、追加の植物栄養素、誘発物質、阻害物質)を最適化する可能性も含む。細胞代謝の操作は、遺伝子情報を提供する間、提供する前及び/又は提供した後に、あらゆる組合せの適した化合物及び遺伝子を適用することによって実施できる。
当業者は、野生型、突然変異させた及び/又はトランジェニックの懸濁培養液から製造した細胞パックを、形質転換なしに、すなわち種々の化合物を適用することによっても操作できることを容易に認識する。これは、特に、自然に生じる化合物の収率を、本発明による細胞パックを使用することによって、及び適した基質、ホルモン、阻害剤及び/又は前駆体をそれらに添加することによって増加できることを意味する。
実施例8
種々の植物種の懸濁培養液からの細胞パック
タバコBY−2懸濁細胞に加えて、いくつかの他の植物細胞懸濁液を使用して細胞パックを生じた。
ニチニチソウ
ニチニチソウの細胞を、MS67培地(3%スクロース、4.4g/LのMurashige及びSkoog塩、0.6mg/Lのチアミン、0.2mg/Lのキネチン、1mg/Lの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、pH5.8)中で又はBY−2培地(実施例1)中で、暗所で、回転撹拌機(180rpm)上で、26℃で培養した。細胞を、新たな培地中に毎週継代培養した(20:100)。
シロイスナズナ(Arabidopsis thaliana)
シロイスナズナの細胞を、ARA培地(3%スクロース、4.4g/LのMurashige及びSkoog塩、0.5mg/Lのナフタレン酢酸、0.1mg/Lのキネチン、pH5.7)中で、16時間光源/8時間暗所で、回転撹拌機(180rpm)上で26℃で培養した。細胞を、新たな培地中に毎週継代培養した(15:100)。
ベンサミアナタバコ
ベンサミアナタバコの細胞をBY−2培地(実施例1)中で、暗所で、回転撹拌機(180rpm)上で26℃で培養した。細胞を、新たな培地中に毎週継代培養した(20:100)。
種々の形状の細胞パックを、それぞれの懸濁培養液から製造した。実験のために、4〜5日後の培養液を使用した。種々の厚さ(0.2〜0.5cm)のクッキー状の細胞パックを、実施例1において記載されたように生じた。約2〜4cmの高さの細胞パックを、14mlミディカラム中で実施例4において記載したように製造した。植物種に依存して、種々の密度の細胞パックを得た。ニチニチソウの細胞パックの密度は典型的に0.65〜0.75g/cm3であり、シロイスナズナの細胞パックは、約0.55〜0.67g/cm3の密度を有し、かつベンサミアナタバコのパックは、約0.6〜0.7g/cm3の密度を有した。
二成分ベクターpTRAp−2G12FER−Ds(図2B)を有するアグロバクテリアで浸透したニチニチソウ、シロイスナズナ及びベンサミアナタバコの細胞パックは、巨視的に検出可能なDsRed発現を示した。抗体2G12の製造を、実施例1において記載したように表面プラズモン共鳴分光法によってそれぞれ試験した植物種について確認した。
興味深いことに、ニチニチソウ懸濁培養液について使用した培地に依存して、発現レベルにおける明らかな差を観察した。これを、MS67培地又はBY−2培地中で成長さえた細胞から生じたニチニチソウ細胞パックを2つの異なるDsRed発現構築物、pTRAc rfp−AH及びpTRAc rfp−ERH(図1A、B)で形質転換することによってさらに解析した。分泌した及びERを保持したDsRedの双方は、BY−2培地中で成長させた細胞において非常に高く蓄積した(図14)。これは、高い形質転換及び/又は高い生成物剛性を得るための前培養条件の最適化の重要性を示す。その実験は、本発明が、種々の種類からの植物細胞に適用できることを示した。
培養条件(例えば、温度、通気、撹拌速度、光組成等)及び/又は培地組成(例えば、栄養素、ホルモン、pH、伝導性、モル浸透圧濃度等)が、植物懸濁培養の形態学的及び生理学的特徴のための要因を決定することは、当業者によく知られている。それぞれの要因の変化は、続く工程における植物細胞の性能に影響しうる。これは、培養条件及び/又は培地組成を、あらゆる製造のために最適化する必要があることを意味する。出発材料の製造の最適化に加えて、浸透パラメータ(例えば、アグロバクテリウム密度、接触時間、浸透培地組成)及び細胞パックの培養条件(例えば、時間、温度、通気、供給、添加物の適用)を、あらゆる植物細胞系列のために、及びあらゆる生成物のために最適化する必要がある。
実施例9
病原体の培養のための基質としてのパックした細胞の使用
3.64mlの細胞パック(質量=2g、直径=5.5cm、高さ=0.15cm、密度=0.55g/cm3)を、標準条件(実施例1)下で50mlの成長させた4日後のBY−2培養液を使用して生じた。細胞パックを、空のペトリ皿に置き、そして細胞パック(細胞パックの質量=3g;密度=0.825g/cm3)によって完全に吸収される1mlの浸透培地(50g/lのスクロース、2g/lのグルコース、0.5g/lのFerty 2 Mega(Planta Dungemittel、Germany)、pH5.3)で浸透した。この量の体積(すなわち、細胞パック2グラムあたり1ml以下)を、ペトリ皿での細胞パックのインキュベートの開始のために有利であることを見出し、それというのも空隙が数時間で再構成されるからである。これは、蒸発によって0.6g/cm3未満まで減少した細胞パックの密度の制御した測定によって確認される。重要なことに、より多い量の液体(すなわち、細胞パック2グラムあたり1mlより多い)は、極めて有害であり、それというのも、過剰な液体によって、空隙を再構築できず、細胞の生存を適切に指示するため又はさらに細胞死を妨げるためには非常に高すぎる密度を有する細胞パックをもたらすからである。
次の処理工程は、細胞パックの表面上に4つの異なるアスペルギルス種(図15:A〜D)の少ない体積の20μlの胞子懸濁液をスポットすることからなった。細胞パックを11日間インキュベートし、そして撮影した(図15)。
これは、植物細胞パックを、異なるアスペルギルス種のための成長基質として使用できることを示す。アスペルギルスを、代表として植物病原体として選択したが、代表としてヒト及び動物の病原体としても選択した。
この実施例において、細胞パックを、野生型BY2懸濁細胞から、真菌を続けて培養するために製造した。当業者は、トランスフェニック懸濁細胞を使用することもできることを認識している。特に、抗真菌ペプチド、タンパク質又は化合物を製造するトランスジェニック細胞パックを使用でき、新規の成長及び開発に対するそれらの効果を研究することができる。また、野生型細胞から生じた細胞パックは、最初に形質転換処理を受けることができ、そして真菌病原体の成長に対する生成物の影響を研究するために使用できる。当業者は、前記方法を、抗細菌化合物の影響を研究するためにも使用できることも認めている。高いスループットのスクリーニング適用のためのマルチタイタープレートにおける細胞パックの使用は、以下の実施例11において記載されており、かつこれらの実施例を組合せてよいことも明らかである。
実施例10
トランスジェニック懸濁細胞系列から生じた細胞パックから分泌された生成物の非破壊的採取
トランスジェニックBY2懸濁培養液を、ERを保持したDsRed(図2C)と一緒に分泌性モノクローナル抗体M12のための発現構築物で形質転換した後に生じた。カナマイシンを含有するプレート上での選択後に、トランスジェニックカルスを、液体培地に移して、極めて均質な検索培養液を確立した。懸濁培養液を、4%の懸濁培養液を新たな液体培地(実施例1)中に移すことによって毎週継代培養した。
5日後の懸濁培養液の懸濁細胞を、本発明による細胞パックを生じるために採取し、又は細胞を懸濁培養液中でさらに培養させた。細胞パック及び懸濁培養液の双方を、さらに4日間インキュベートした。2g(FCW)(新しい細胞の質量)の細胞パックを、14mlのポリプロピレンカラムを使用して実施例6において記載されたように製造した。さらに、空隙の構築を、液体培地を取り出して製造された細胞パックの密度を測定することによってインキュベート/培養の間、注意深く監視し、制御した。従って、26℃で細胞パックのインキュベート中に相対湿度90%を常に確実にして、細胞パック内での細胞の乾燥を防いだ。
懸濁培養液からの細胞の細胞パック(真空濾過によって培地から分離した)の400mg(FCW)の試料からの合計の可溶性タンパク質を、2容量の抽出緩衝液(50mMのリン酸カリウム、500mMのNaCl、10mMの亜硫酸水素ナトリウム、pH7.5)で抽出した。
細胞をパックしたカラムから分泌された抗体を、抽出緩衝液(実施例6)で細胞をパックしたカラムを洗浄することによって回収した。簡単に、2mlの緩衝液を2gカラムに適用し、そして短時間真空で細胞パック中に吸い込んだ。30分のインキュベート後に、その緩衝液を、真空で回収し、そして再度細胞上に適用した。3回の連続洗浄工程後に、1.6mlの溶出物を回収した。元の懸濁培地から採取した試料を、比較のために使用した。
抗体濃度を、標準としてCHO細胞において製造した精製したヒト抗体H10を使用して、タンパク質A表面(アミノカップリングによって固定されている)に対するSPRによって測定した。全ての試料を、用量反応曲線の直線範囲で解析した。DsRedを、DsRed標準を使用して蛍光によって測定した。
懸濁培養液が高い細胞バイオマスに達する事実にもかかわらず、抗体は、懸濁培養液の上清で検出されない。従って、分泌された組換え生成物の画分は0%である。M12抗体の細胞内蓄積は、トランスジェニックBY2懸濁細胞の1グラム(FCW)あたり4.02μgであった。合計収率(細胞の上清における抗体と細胞内の抗体)も、従って、1グラムあたり4.02μgであった。
対照的に、M12の高い収率は細胞パック1グラムあたり11.4μgに達し、実質的に284%の合計収率の上昇に相当する。重要なことに、細胞パックから分泌された抗体を溶出することができた。分泌された生成物の収率は、細胞パック1グラムあたり1.4μgのM12抗体であり、合計収率の12%に相当した。
この実施例は、トランスジェニック懸濁培養液から生じた細胞パックからの組換えタンパク質生成物を提供できること、及び収率が、懸濁した細胞の対照と比較して284%だけ著しく増加したことを証明する。
ERを保持したDsRedの収率は、懸濁液中の細胞と比較して細胞パックの際防虫で70%増加した(それぞれ、5.2μg/g(FCW)及び3.0μg/g(FCW))。
この実施例は、細胞パックの形でのトランスジェニック懸濁細胞のインキュベートが、下流のプロセスについて高く有益である(プロセス時間及び費用の双方における減少を含む)生成物を濃縮した方法(懸濁細胞培養液の上清と比較して)で採取することを可能にするだけでないことも明らかに説明している。
重要なことに、細胞パックは、生成物(ここで、細胞から分泌されている組換え標的タンパク質)の溶出を最大化するために細胞培養培地とは異なる緩衝液を使用することについて優れたエントリーポイントも提供し、従って、細胞パックは、懸濁細胞に対して追加の利益を提供する。懸濁培養液の上清は、細胞をパックしたカラムからの溶出物よりも非常に多い量の多糖を含んだ。低量の多糖が好ましく、それというのもゼラチン状の多糖が、下流のプロセス、例えば濾過及び限外濾過を妨げるからである。
さらに、分泌された採取した組換えタンパク質のパーセンテージは、懸濁細胞について0%から、本発明によって生じた細胞パックについて12%まで著しく増加した。
最終的に、この実施例は、細胞パックにおける全体の収率が、懸濁細胞として培養した同様の細胞と比較して著しく増加したことも説明する。
当業者は、この方法が、トランスジェニック細胞からの組換えタンパク質の製造及び/又は単離に制限されず、しかしトランスジェニックでない又はトランスジェニックの細胞において製造された二次代謝物に、又は(制限されることなく)一次代謝物、繊維、オリゴ糖及び多糖(セルロース、デンプン、ヘミセルロース、キシラン、フルクタン等)、天然ペプチド及びタンパク質、顔料、ビタミン、フレーバー、フルーツ酸、又は植物細胞のあらゆる他の生成物を含む関心のある他の生成物に等しく適用できることも、容易に認識している。
実施例11
マルチタイタープレートで生じた細胞パックの使用
細胞パックを、プレートの底部で液体を透過できるフィルターを有するマルチタイタープレート(Receiver plate 20μm(No.740686.4)、MACHEREY−NAGEL、Germany)を使用して、前記したように生じた。
野生型の(トランスジェニックでない)タバコBY2懸濁培養液からの1mlを、レシーバープレートのウェルごとに入れ、96ミクロ細胞パックを生じた。液体培地を、MACHEREY−NAGEL社(Germany)製のNucleoVac 96 Vacuum Manifoldを使用して真空によって完全に取り出した。0.2gの得られた細胞パックを、空隙の存在について顕微鏡的に解析し、そして得られた細胞パックの密度を、独立した制御装置を使用して0.7g/cm3未満まで確認した。
抗体M12(図2C)にいて又は抗体2G12(図2A)についてコードするpTRAプラスミドを運搬する組換えアグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液(OD600nm=0.1)の0.8mlを、それぞれの細胞パックに適用した。それぞれの抗体発現構築物について、32ミクロ細胞パックを浸透した。30分後に、あらゆる液体を取り出し、空隙を再構築し、そして0.7g/cm3未満の細胞パック密度を再確立した。そしてマルチタイタープレートにおける細胞パックを、25℃及び90%の相対湿度で4日間インキュベートした。そして、細胞パックを採取し、組換え抗体を抽出した(実施例1)。BiacoreT200装置(T=25℃、操作緩衝液=HBS−EP)を使用してタンパク質A表面上で表面プラズモン共鳴分光法によって、それぞれの抗体について32個の試料について、抗体濃度を測定して、平均抗体濃度及び変異係数(CV)を測定した。
抗体M12の平均収率は、細胞パック1gあたり117.8±14.4μgであり、変異係数は12.2%であった。抗体2G12の平均収率は、細胞パック1gあたり32.3±3.6μgであり、変異係数は11.1%であった。
これらは、生物学的アッセイについて優れた値であり、かつ優れた再現性及び本発明によって製造した細胞パックに依存するアッセイの堅牢性を明らかに説明する。
これは、異なるサイズ及び形態の細胞パックを、種々の適用のために使用できることも示し、この実験が、細胞パックを、高い解像度で高いスループット適用を容易にするマルチタイター形式で生じることができることを証明する。
さらに、マルチタイター形式での細胞パックを、続く定量又は解析のために、分泌された又は細胞外の生成物の溶出を含む、カラム中で生じたものと同一又は同様の方法で取り扱い及び処理することができることも明らかである。
当業者は、細胞パックを、解析目的のためにも使用できることも理解している。例えば、トランスジェニック懸濁培養液から生じた細胞パック、又は(制限されることなく)例えば細胞膜に付着した又は細胞膜中に組み込まれたセルロース結合タンパク質又は組換え抗体への抗体融合タンパク質を含む組換え抗体の遺伝子で形質転換された細胞パックを、抗体に結合する物質を含む溶液(試料)と接触させることができる。細胞パックの多孔質の性質は、ここで再度明らかに有利であり、それというのも大きい体積が、細胞パックの通過を容易にし、感受性を高めるからである。さらに、洗浄工程、緩衝液交換、及び酵素共役抗体もしくは他の検出試薬の適用も、容易に適用でき、かつ細胞パックから取り出されることが明らかである。最終工程において、測定可能な生成物中に酵素的に形質転換して基質の圧力及び濃度を明らかにした基質を適用することができる。
実施例12
野生型細胞から生じた細胞パックから回収した内因性タンパク質
5日後のBY−2野生型懸濁培養液の懸濁細胞を、細胞パックを生じるために採取し、又は細胞を懸濁培養液中でさらに培養させた。細胞パック及び懸濁培養液の双方を、さらに4日間インキュベートした。2.5g(FCW)(新しい細胞の質量)の細胞パックを、14mlのポリプロピレンカラムを使用して実施例6において記載されたように製造した。液体の取り出し後に、細胞パックを26℃で90%の相対湿度でインキュベートした。5日後のBY−2懸濁培養液を、さらに、26℃で回転攪拌機上で180rpmで培養した。4日後に、分泌したタンパク質を採取した。実施例6において記載したように2.5mlの緩衝液で細胞パックを洗浄することによって、分泌したタンパク質を細胞パックから採取した。9日後の懸濁培養液から分泌したタンパク質を、真空濾過を使用して培地から細胞を取り出すことにより採取した。溶出した又は分泌したタンパク質の25μlの試料を、クーマシー染色したSDS−PAGEゲルで解析した(図16)。この実施例は、分泌された天然のタンパク質を、本発明によって生じた及びインキュベートした細胞パックから回収することができることを示す。ゲル上のそれぞれのバンドは、種々の性質のタンパク質を示す。ゲル解析は、分泌された天然タンパク質の量及び種類が、細胞パックにおける細胞と懸濁液における細胞と異なることも示した。ある天然タンパク質の分泌は、実施的に、細胞パックの細胞において増加した(図16、矢印で示される)。
当業者は、この方法が、植物細胞からの天然タンパク質の回収に制限されず、しかし二次代謝物、一次代謝物、繊維、オリゴ糖及び多糖(セルロース、デンプン、ヘミセルロース、キシラン、フルクタン等)、天然ペプチド及びタンパク質、顔料、ビタミン、フレーバー、フルーツ酸、又は植物細胞のあらゆる他の生成物を含む関心のある他の内因性の生成物に等しく適用できることも、容易に認識している。当業者は、細胞パックを、制限されることなく、ニチニチソウ、イチイ種(Taxus spec)、ステビア・レバウディアナ(Stevia rebaudiana)、及びクソニンジン(Artemisia annua)を含む、広範な種類の植物種から選択される懸濁細胞から生じることができることを認識している。