JP6172605B2 - 無機化合物の製造方法 - Google Patents
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Description
このため、高エネルギ物質として硝酸ヒドラジンを使用した場合、反応の際の雰囲気(密閉容器内の雰囲気)が酸素雰囲気となり、その酸素からの反応により反応副生成物(例えば硫酸バリウム)が生成されてしまう。こうした反応副生成物が無機化合物に含まれていると、EL素子作製時における成膜処理(蒸着等)が不安定になり、無機EL素子の生産性が低下する。
まず、本発明の無機化合物の製造方法を実現する製造装置について図1を参照して説明する。
化合物半導体としては、硫化亜鉛(ZnS)、酸化亜鉛(ZnO)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、硫化カドミウム(Cds)、セレン化カドミウム(CdSe)、酸化ストロンチウム(SrO)、硫化ストロンチウム(SrS)、セレン化ストロンチウム(SeSr)、テルル化ストロンチウム(SrTe)などのII-VI族化合物半導体を挙げることができる。本発明の実施例では、化合物半導体として、硫化亜鉛(ZnS)を用いる。
賦活剤は、上記化合物半導体にドーピングすることで発光中心となるものである。賦活剤としては、マンガン、銅、銀、金、イリジウム、イットリウム、ユーロピウム、プラセオジウム、テルビウムなどを挙げることができる。本発明の実施例では、賦活剤として、硫酸マンガン(MnSO4)、塩化イリジウム(IrCl3)を用いる。
焼結助剤は、融点を有する無機化合物であって、溶融することで上記賦活剤のドーピングを速やかに行うとともに、蛍光体母材の粒成長を促して結晶性の向上を促進するものである。焼結助剤としては、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カドミウム(CdO)などの酸化物、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化リチウム(LiCl)などのアルカリ金属ハロゲン化物、塩化マグネシウム(MgCl2)、フッ化バリウム(BaF2)などのアルカリ土類金属ハロゲン化物を挙げることができる。本発明の実施例では、焼結助剤として、酸化亜鉛(ZnO)、フッ化バリウム(BaF2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化ナトリウム(NaCl)を用いる。
上述したように、高エネルギ物質として硝酸ヒドラジンを用いて無機組成物の加熱処理(ドーピング処理)を行うと、TNTを用いた場合よりも発光強度が高い蛍光体を作製することができる(後述する[実施例]及び[比較例]参照)。しかしながら、高エネルギ物質として硝酸ヒドラジンのみを使用した場合、反応の際の雰囲気(密閉容器内の雰囲気)が酸素雰囲気となるため、反応副生成物(硫酸バリウム)が生成されてしまう(下記の生成メカニズム参照)。そこで、本発明では、硝酸ヒドラジンに飽水ヒドラジンを混合し、その硝酸ヒドラジンと飽水ヒドラジンとの混合比を選択することで、高エネルギ物質の酸素バランス(OB)をマイナスにして、加熱処理時における密閉容器1内を還元雰囲気にする。
上記したように、硝酸ヒドラジンは分解時において酸素が生成されるので、その酸素から下記のような反応が起こり、硫酸バリウム(BaSO4)が生成される。なお、硫酸バリウムは水に不溶であるため、水洗い処理では除去することはできない。
BaF2+SO4 2- ⇒BaSO4↓+2F-
[高エネルギ物質の酸素バランス]
次に、高エネルギ物質の酸素バランスについて説明する。
なお、化合物CaHbNcOdの酸素バランス(OB)は一般的に下記の式によって求められる。
ただし、a=炭素、b=水素、c=窒素、d=酸素、対象物の分子量(HN=95.06、HH=50.06)
ここで、硝酸ヒドラジンと飽水ヒドラジンとを混合した高エネルギ物質(HN/HH)において、硝酸ヒドラジンの重量比をX重量%とすると、その硝酸ヒドラジンがX重量%である場合の高エネルギ物質の酸素バランス(OB)は、
OB=+8.4×(X/100)+(−63.9)×{(100−X)/100)} ・・(1)
と表すことができる。このように高エネルギ物質(HN/HH)の酸素バランスは硝酸ヒドラジンの重量比(HN重量比)に比例する。そのHN重量比(重量%)と酸素バランスとの関係をグラフで表すと、図2に示すような直線のグラフとなる。
<原材料M>
化合物半導体として硫化亜鉛(ZnS)を用いる。また、賦活剤として、硫酸マンガン(MnSO4)、塩化イリジウム(IrCl3)、焼結助剤として、酸化亜鉛(ZnO)、フッ化バリウム(BaF2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化ナトリウム(NaCl)を用いる。そして、これらZnS、MnSO4、ZnO、BaF2、MgCl2、IrCl3、NaClを、下記の表1に示す重量%で混合したものを原材料Mとした。
硝酸ヒドラジン63.5重量%と、飽水ヒドラジン36.5重量%とを混合したもの(HN/HH)を高エネルギ物質Eとした。
上記した重量比(重量%)で混合した原材料M:68.0gと、高エネルギ物質E:20gとを、図1に示す密閉容器1内に封入し、その密閉容器1を加熱炉2内に収容した状態で、ガスバーナ3により密閉容器1を加熱し当該密閉容器1内の高エネルギ物質Eを熱分解させる処理(ドーピング処理)を行って無機化合物(青色蛍光体)を作製した。加熱は密閉容器1内の温度が約200℃になるまで加熱し続け、反応の終了は密閉容器1内部の圧力の上昇をモニターすることで確認を行った。次に、密閉容器1の冷却及びガス抜きを行い、その後に無機化合物を密閉容器1から取り出して水洗浄を行った。
上記した[実施例1−1]において、高エネルギ物質として硝酸ヒドラジン(20g)のみを用いたこと以外は、[実施例1−1]と同じとして無機化合物(青色蛍光体)を作製した。
上記した[実施例1−1]において、高エネルギ物質としてTNT(20g)を用いたこと以外は、[実施例1−1]と同じとして無機化合物(青色蛍光体)を作製した。
<外観検査>
上記[実施例1−1]で作製した無機化合物、上記[比較例1−1]及び[比較例1−2]の各例で作製した無機化合物について、目視にて観察したところ、[実施例1−1]及び[比較例1−1]の無機化合物は白色であり、カーボンによる汚染はなかった。一方、[比較例1−2]の無機化合物については黒色であり、カーボンによる汚染が確認できた。
図3に示すPL強度測定結果から、高エネルギ物質として硝酸ヒドラジンと飽水ヒドラジンとの混合物(HN/HH)を用いた場合(実施例1−1)、TNTを用いた場合(比較例1−2)に対して約16倍の発光強度が得られることが判る。また、硝酸ヒドラジン単体の高エネルギ物質(HN)を用いた場合(比較例1−1)、TNTを用いた場合(比較例1−2)に対して約5倍の発光強度が得られることが判る。なお、硝酸ヒドラジンに飽水ヒドラジンを混合した場合、硝酸ヒドラジン単体の場合よりも高い発光強度が得られることも判る。
図4に示すX線回折結果から判るように、上記[実施例1−1]、[比較例1−1]及び[比較例1−2]の各例で作製した全ての無機化合物において、硫化亜鉛(ZnS)のX線回折ピークが現れており、これにより、[実施例1−1]、[比較例1−1]及び[比較例1−2]の全てにおいて、ZnSをベースとした無機化合物(青色蛍光体)が作製できていることが確認できた。
上記した[実施例1−1]と同じ条件・処理で無機化合物を作製した。すなわち、高エネルギ物質として、硝酸ヒドラジン63.5重量%と飽水ヒドラジン36.5重量%とを混合したもの(HN:HH=63.5:36.5 酸素バランス=−18.0% 20g)を用いて無機化合物を作製した。このようにして作製した無機化合物[実施例2−1]のX線回折ピークを[実施例1−1]と同じ方法で測定した。そのX線回折結果を図5に示す。
上記した[実施例1−1]において、高エネルギ物質として、硝酸ヒドラジン55.0重量%と飽水ヒドラジン45.0重量%とを混合したもの(HN:HH=55.0:45.0 酸素バランス=−24.1% 20g)を用いたこと以外は、[実施例1−1]と同じとして無機化合物を作製した。このようにして作製した無機化合物[実施例2−2]のX線回折ピークを[実施例1−1]と同じ方法で測定した。そのX線回折結果を図5に示す。
上記した[実施例1−1]において、硝酸ヒドラジンの重量比が100重量%の高エネルギ物質(HN:HH=100:0 酸素バランス=+8.4% 20g)を用いたこと以外は、[実施例1−1]と同じとして無機化合物を作製した。このようにして作製した無機化合物[比較例2−1]のX線回折ピークを[実施例1−1]と同じ方法で測定した。そのX線回折結果を図5に示す。
図5に示すX線回折結果から、[比較例2−1]で作製した無機化合物(青色蛍光体)(硝酸ヒドラジン単体の高エネルギ物質(HN)を用いて作製した無機化合物)のX線回折ピークには、硫酸バリウム(BaSO4)のピーク(図5の破線矢印で示すピーク)が現れており、上記加熱処理(ドーピング処理)の際の反応副生成物である硫酸バリウムが混在していることが判る。これに対し、[実施例2−1]及び[実施例2−2]で作製した無機化合物(青色蛍光体)(高エネルギ物質(HN/HH)を用いて作製した無機化合物)のX線回折ピークには、いずれも、硫酸バリウム(BaSO4)のピークは現れておらず、硫酸バリウムが存在していないことが判る。
[比較例2−1]で作製した無機化合物(青色蛍光体)を、ITO製透明電極が形成されたガラス基板上に1000nm成膜して発光層を作製した。成膜装置にはEB蒸着装置を用いた。また、成膜条件は、蒸着チャンバ内の真空度を8×10-6Torr(1.1×10-3Pa)、ガラス基板の温度を300℃とした。そして、成膜後、発光層の結晶性の向上のために600℃の温度で1時間のアニール処理を施した。
[まとめ]
以上の実施例及び比較例から、無機組成物(化合物半導体を含有)に高温・高圧を印加する高エネルギ物質として、カーボンを含まない硝酸ヒドラジンを用いて無機化合物(無機蛍光体)を作製することにより、カーボンを含むTNTを用いた場合と比較して、無機化合物の発光強度が大幅に向上することが確認できた。
11 容器本体
12 蓋体
13 六角穴付きボルト
2 加熱炉
3 ガスバーナ
M 原材料(無機組成物)
E 高エネルギ物質
Claims (1)
- 無機EL素子の製造に用いられる無機化合物の製造方法であって、
化合物半導体である硫化亜鉛とフッ化バリウムとを含む無機組成物、及び、硝酸ヒドラジンと飽水ヒドラジンとを混合した高エネルギ物質を密閉容器内に封入した状態で、当該密閉容器内の高エネルギ物質を加熱により熱分解させる工程を有し、
前記密閉容器内に封入する前記高エネルギ物質の硝酸ヒドラジンと飽水ヒドラジンとの混合比を重量比で63.5:36.5〜55.0:45.0として当該高エネルギ物質の酸素バランスをマイナスとすることを特徴とする無機化合物の製造方法。
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