(第1実施形態)
以下、本発明にかかる多重巻線回転機の制御装置を車載主機としてエンジンを備える車両に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、モータ10は、3相2重巻線回転機であり、具体的には、巻線界磁型同期モータである。本実施形態では、モータ10として、スタータ及びオルタネータ(発電機)の機能を統合したISG(Integrated Starter Generator)を想定している。モータ10を構成するロータ12は、界磁巻線11を備え、また、エンジン16のクランク軸16aと動力伝達が可能とされている。本実施形態において、ロータ12は、ベルト14を介してクランク軸16aに連結されている。
モータ10のステータには、2つの巻線群(以下、第1巻線群10a、第2巻線群10b)が巻回されている。第1,第2巻線群10a,10bに対して、ロータ12が共通とされている。第1巻線群10a及び第2巻線群10bのそれぞれは、異なる中性点を有する3相巻線からなる。
モータ10には、第1巻線群10a及び第2巻線群10bのそれぞれに対応した2つのインバータ(以下、第1インバータINV1、第2インバータINV2)が電気的に接続されている。詳しくは、第1巻線群10aには、第1インバータINV1が接続され、第2巻線群10bには、第2インバータINV2が接続されている。第1インバータINV1及び第2インバータINV2のそれぞれには、共通の直流電源であるバッテリ18が並列接続されている。ちなみに、本実施形態において、各インバータINV1,INV2が「電力変換回路」に相当する。
なお、本実施形態では、第1巻線群10aを構成する巻線のそれぞれのターン数N1と、第2巻線群10bを構成する巻線のターン数N2とを等しく設定している。
第1インバータINV1は、第1のU,V,W相高電位側スイッチSUp1,SVp1,SWp1と、第1のU,V,W相低電位側スイッチSUn1,SVn1,SWn1との直列接続体を3組備えている。U,V,W相における上記直列接続体の接続点は、第1巻線群10aのU,V,W相の端子に接続されている。本実施形態では、各スイッチSUp1〜SWn1として、NチャネルMOSFETを用いている。そして、各スイッチSUp1〜SWn1にはそれぞれ、第1のU,V,W相高電位側ダイオードDUp1〜DWn1が逆並列に接続されている。なお、各ダイオードDUp1〜DWn1は、各スイッチSUp1〜SWn1のボディーダイオードであってもよい。
第2インバータINV2は、第1インバータINV1と同様に、第2のU,V,W相高電位側スイッチSUp2,SVp2,SWp2と、第2のU,V,W相低電位側スイッチSUn2,SVn2,SWn2との直列接続体を3組備えている。U,V,W相における上記直列接続体の接続点は、第2巻線群10bのU,V,W相の端子に接続されている。本実施形態では、本実施形態では、各スイッチSUp2〜SWn2として、NチャネルMOSFETを用いている。そして、各スイッチSUp2〜SWn2にはそれぞれ、第2のU,V,W相低電位側ダイオードDUp2〜DWn2が逆並列に接続されている。なお、各ダイオードDUp2〜DWn2は、各スイッチSUp2〜SWn2のボディーダイオードであってもよい。
第1,第2インバータINV1,INV2の高電位側の端子(各高電位側スイッチのドレイン側の端子)には、バッテリ18の正極端子が接続され、低電位側の端子(各低電位側スイッチのソース側の端子)には、バッテリ18の負極端子が接続されている。また、第1,第2インバータINV1,INV2の高電位側の端子には、車載機器の正極端子が接続され、低電位側の端子には、車載機器の負極端子が接続されている。本実施形態では、車載機器として、ハンドル操作をアシストするための電動パワーステアリング装置20を例示している。電動パワーステアリング装置20は、発電機としてのモータ10及びバッテリ18のうち少なくとも一方を電力供給源として駆動されるものとする。
本実施形態にかかる制御システムは、回転角センサ22(「回転角取得手段」に相当)、電圧センサ24、第1V,W相電流センサ26a,26b、及び第2V,W相電流センサ28a,28bを備えている。回転角センサ22は、モータ10の回転角(電気角θ)を検出する回転角検出手段である。電圧センサ24は、第1,第2インバータINV1,INV2の電源電圧(入力電圧ともいう)を検出する。第1V,W相電流センサ26a,26bは、第1巻線群10aのV相,W相電流(固定座標系における第1巻線群10aに流れる電流)を検出し、第2V,W相電流センサ28a,28bは、第2巻線群10bのV相,W相電流を検出する。なお、第1V,W相電流センサ26a,26bや第2V,W相電流センサ28a,28bとしては、例えば、カレントトランスや抵抗器を備えるものを用いることができる。また、回転角センサ22としては、例えばレゾルバを用いることができる。
上記各種センサの検出値は、制御装置30に取り込まれる。制御装置30は、中央処理装置(CPU)やメモリを備え、メモリに格納されたプログラムをCPUにて実行するソフトウェア処理手段である。制御装置30は、モータ10の制御量(出力トルク)をその目標値(目標トルクTrq*)に制御すべく、これら各種センサの検出値に基づき、第1インバータINV1及び第2インバータINV2を操作する操作信号を生成して出力する。詳しくは、制御装置30は、目標トルクTrq*を実現するための指令電流とモータ10の第1,第2巻線群10a,10bに流れる電流とが一致するように、各スイッチSUp1〜SWn1,SUp2〜SWn2をオンオフ操作する。本実施形態では、第1巻線群10a及び第2巻線群10bのそれぞれについて独立したベクトル制御を行う。なお、図1には、第1インバータINV1の各スイッチSUp1〜SWn1を操作する信号を第1操作信号gUp1〜gWn1として示し、第2インバータINV2の各スイッチSUp2〜SWn2を操作する信号を第2操作信号gUp2〜gWn2として示している。
続いて、上記ベクトル制御に関する処理について説明する。指令電流算出部31は、目標トルクTrq*に基づき、第1巻線群10a及び第2巻線群10bのそれぞれに対応する回転座標系(dq座標系)の電流指令値であるd,q軸指令電流を算出する。本実施形態では、第1巻線群10aに対応するこれら指令電流を、第1のd軸指令電流id1*及び第1のq軸指令電流iq1*と称すこととする。また、第2巻線群10bに対応するこれら指令電流を、第2のd軸指令電流id2*及び第2のq軸指令電流iq2*と称すこととする。
第1の2相変換部32aは、回転角センサ22によって検出された電気角θと、第1V,W相電流センサ26a,26bによって検出されたV相電流iV1,W相電流iW1とに基づき、第1巻線群10aに対応する固定座標系におけるU,V,W相電流を、回転座標系における第1のd軸電流id1rと、第1のq軸電流iq1rとに変換する。第2の2相変換部32bは、電気角θと、第2V,W相電流センサ28a,28bによって検出されたV相電流iV2,W相電流iW2とに基づき、第2巻線群10bに対応する固定座標系におけるU,V,W相電流を、回転座標系における第2のd軸電流id2rと、第2のq軸電流iq2rとに変換する。
各指令電流id1*,iq1*,id2*,iq2*、各d軸電流id1r,id2r、各q軸電流iq1r,iq2r、及び電気角θは、指令電圧算出部33に入力される。指令電圧算出部33は、これら入力値に基づき、回転座標系における第1のd,q軸指令電圧Vd1*,Vq1*と、回転座標系における第2のd,q軸指令電圧Vd2*,Vq2*とを算出する。なお、指令電圧算出部33については、後に詳述する。
第1の3相変換部34aは、電気角θに基づき、指令電圧算出部33から出力された第1のd軸指令電圧Vd1*及び第1のq軸指令電圧Vq1*を固定座標系における3相の指令電圧VU1*,VV1*,VW1*に変換する。これら指令電圧VU1*,VV1*,VW1*は、第1のd,q軸電流id1r,iq1rを第1のd,q軸指令電流id1*,iq1*にフィードバック制御するための操作量となる。第2の3相変換部34bは、電気角θに基づき、指令電圧算出部33から出力された第2のd軸指令電圧Vd2*及び第2のq軸指令電圧Vq2*を固定座標系における3相の指令電圧VU2*,VV2*,VW2*に変換する。
第1の操作部35a(「操作手段」に相当)は、第1インバータINV1の各相電圧を指令電圧VU1*,VV1*,VW1*とするための第1操作信号gUp1〜gWn1を生成する。本実施形態では、電圧センサ24によって検出された電源電圧VDCにて指令電圧VU1*,VV1*,VW1*を規格化したものと、キャリア(例えば三角波信号)との大小比較に基づく三角波PWM処理によって第1操作信号gUp1〜gWn1を生成する。第1の操作部35aは、生成された第1操作信号gUp1〜gWn1を第1インバータINV1に出力する。これにより、第1巻線群10aのU,V、W相には、電気角で互いに位相が120度ずれた正弦波状の電圧が印加され、電気角で互いに位相が120度ずれた正弦波状の電流が流れることとなる。
第2の操作部35b(「操作手段」に相当)は、第2インバータINV2の各相電圧を指令電圧VU2*,VV2*,VW2*とするための第2操作信号gUp2〜gWn2を生成する。本実施形態では、電圧センサ24によって検出された電源電圧VDCにて指令電圧VU2*,VV2*,VW2*を規格化したものと、キャリアとの大小比較に基づく三角波PWM処理によって第2操作信号gUp2〜gWn2を生成する。第2の操作部35bは、生成された第2操作信号を第2インバータINV2に出力する。これにより、第2巻線群10bのU,V、W相のそれぞれには、電気角で互いに位相が120度ずれた正弦波状の電流が流れることとなる。
なお、界磁巻線11に流れる界磁電流は、制御装置30の備える界磁回路36によって制御される。
次に、図2を用いて、モータ10の電流制御系について更に説明する。図2は、電流制御系のブロック図であり、特に、指令電圧算出部33における処理を示す図である。このブロック図は、下式(eq1)にて表される回転座標系における第1巻線群10a及び第2巻線群10bの電圧方程式に基づくものである。
ここで、上式(eq1)において、「R1,R2」は第1,第2巻線群10a,10bの電機子巻線抵抗を示し、「Ld1,Lq1」は第1巻線群10aのd,q軸インダクタンスを示し、「Ld2,Lq2」は第2巻線群10bのd,q軸インダクタンスを示す。「Md,Mq」は第1,第2巻線群10a,10bの間のd,q軸相互インダクタンスを示し、「p」はラプラス変換における微分演算子を示す。「Lf」は界磁巻線11のインダクタンスを示し、「if」は界磁電流を示す。なお、図2では、外乱としての誘起電圧及び電機子反作用による電圧の図示を省略している。
まず、モータ10内部に関する伝達関数について説明する。第1のd軸干渉部47aは、後述する第1のd軸フィードバック制御器46から出力された第1のd軸指令電圧Vd1*に、モータ10の電気角速度ω(回転速度)に比例した干渉電圧(以下、第1のd軸速度干渉電圧)を加算する。第1のd軸速度干渉電圧は、電気角速度ω及びq軸相互インダクタンスMqからなる伝達関数47b「ω×Mq」に、第2巻線群10bに実際に流れる第2のq軸電流iq2を入力することで算出される。第2のd軸干渉部47cは、第1のd軸干渉部47aの出力値から、第2のd軸電流id2の微分値に比例した干渉電圧(以下、第1のd軸微分干渉電圧)を減算する。第1のd軸微分干渉電圧は、d軸相互インダクタンスMd及び微分演算子sからなる伝達関数47d「Md×s」に、第2巻線群10bに実際に流れる第2のd軸電流id2を入力することで算出される。なお、第2のd軸干渉部47cの出力値がモータ10のd軸に関する伝達関数47e「1/(Ld1×s+R1)」に入力されることで、この伝達関数47eから第1のd軸電流id1が出力される。
一方、第3のd軸干渉部57aは、後述する第2のd軸フィードバック制御器56から出力された第2のd軸指令電圧Vd2*に、電気角速度ωに比例した干渉電圧(以下、第2のd軸速度干渉電圧)を加算する。第2のd軸速度干渉電圧は、電気角速度ω及びq軸相互インダクタンスMqからなる伝達関数57b「ω×Mq」に第1のq軸電流iq1を入力することで算出される。第4のd軸干渉部57cは、第3のd軸干渉部57aの出力値から第1のd軸電流id1の微分値に比例した干渉電圧(以下、第2のd軸微分干渉電圧)を減算する。第2のd軸微分干渉電圧は、d軸相互インダクタンスMd及び微分演算子sからなる伝達関数57d「Md×s」に第1のd軸電流id1を入力することで算出される。なお、第4のd軸干渉部57cの出力値がモータ10のd軸に関する伝達関数57e「1/(Ld2×s+R2)」に入力されることで、この伝達関数57eから第2のd軸電流id2が出力される。
ちなみに、モータ10内部のq軸に関する伝達関数も、上述したd軸に関する伝達関数と同様である。図2には、第1のd軸干渉部47a、伝達関数47b、第2のd軸干渉部47c及び伝達関数47d,47eに対応するq軸に関する伝達関数として、第1のq軸干渉部67a、伝達関数67b、第2のq軸干渉部67c及び伝達関数67d,67eを図示した。また、第3のd軸干渉部57a、伝達関数57b、第4のd軸干渉部57c及び伝達関数57d,57eに対応するq軸の伝達関数として、第3のq軸干渉部77a、伝達関数77b、第4のq軸干渉部77c及び伝達関数77d,77eを図示した。ここでは、q軸について、第1,第2のd軸速度干渉電圧及び第1,第2のd軸微分干渉電圧に相当するものを、第1,第2のq軸速度干渉電圧及び第1,第2のq軸微分干渉電圧と称すこととする。
以上説明したように、2重巻線モータでは、第1,第2のd軸速度干渉電圧、第1,第2のd軸微分干渉電圧、第1,第2のq軸速度干渉電圧及び第1,第2のq軸微分干渉電圧が電流制御系に対して外乱として作用する。特に、本実施形態では、モータ10が車両に搭載されることから、モータ10の使用回転速度領域が広い。このため、モータ10の回転速度が高くなったり、モータ10の回転加速度(速度変化レート)が高くなったりすることで、上記外乱のうち速度干渉電圧によって電流制御系の応答性が過度に低下する懸念がある。
こうした問題に対処するには、例えば、各フィードバック制御部のゲインを高めることも考えられる。ただし、この場合、車載式のセンサに混入するノイズ等により、ゲインを高める度合いが制約され、電流制御系の応答性の低下を回避できない懸念がある。このため、本実施形態では、速度干渉電圧の影響を抑制すべく、以下に説明する非干渉化制御を行う。
第1のd軸電流偏差算出器40は、第1の2相変換部32aから出力された第1のd軸電流id1rと第1のd軸指令電流id1*(「第1指令電流」に相当)との偏差である第1のd軸電流偏差Δid1を算出する。第1のd軸電圧偏差算出器41は、第1のd軸電流偏差Δid1に伝達関数「Ld1×s+R1」を乗算することで、第1のd軸電圧偏差ΔVd1(「基本電圧」に相当)を算出する。ここで、上記伝達関数「Ld1×s+R1」は、第1巻線群10aのdq座標系におけるインピーダンスに相当する。第1のd軸電圧偏差ΔVd1は、第1のd軸電流id1rを第1のd軸指令電流id1*にフィードバック制御するための第1巻線群10aにおけるd軸電圧の過不足分に相当する。速度算出器42(「速度算出手段」に相当)は、回転角センサ22によって検出された電気角θを時間微分することで電気角速度ωを算出する。電気角速度ωは、各速度干渉電圧算出器44,54,64,74に直接入力される。
第2のq軸電流偏差算出器43は、第2の2相変換部32bから出力された第2のq軸電流iq2rと第2のq軸指令電流iq2*(「第2指令電流」に相当)との偏差である第2のq軸電流偏差Δiq2を算出する。第1のd軸速度干渉電圧算出器44は、速度算出器42によって算出された電気角速度ωと、第2のq軸電流偏差Δiq2とを入力として、第1のd軸速度干渉電圧を算出する。詳しくは、第2のq軸電流偏差Δiq2とq軸相互インダクタンスMqとの乗算値に、電気角速度ωを乗算することで第1のd軸速度干渉電圧を算出する。第1のd軸速度電圧補償器45は、第1のd軸電圧偏差算出器41から出力された第1のd軸電圧偏差ΔVd1から第1のd軸速度干渉電圧を減算することで、第1のd軸電圧偏差ΔVd1を補償する。すなわち、第1,第2巻線群10a,10bのうち電圧偏差の算出対象とする第1巻線群10aに生じる第1のd軸速度干渉電圧で第1のd軸電圧偏差ΔVd1を補償する。
第1のd軸フィードバック制御器46は、積分器を備えている。第1のd軸速度電圧補償器45の出力値を入力とする積分器における積分動作により、第1のd軸指令電圧Vd1*を算出する。第1のd軸指令電圧Vd1*は、第1のd軸電流id1rを第1のd軸指令電流id1*にフィードバック制御するための操作量となる。なお、図2では、フィードバック制御で用いる積分器の積分ゲインを「Ki」で示している。
第2のd軸電流偏差算出器50は、第2の2相変換部32bから出力された第2のd軸電流id2rと第2のd軸指令電流id2*(「第1指令電流」に相当)との偏差である第2のd軸電流偏差Δid2を算出する。第2のd軸電圧偏差算出器51は、第2のd軸電流偏差Δid2に伝達関数「Ld2×s+R2」を乗算することで、第2のd軸電圧偏差ΔVd2(「基本電圧」に相当)を算出する。ここで、上記伝達関数「Ld2×s+R2」は、第2巻線群10bのdq座標系におけるインピーダンスに相当する。
第1のq軸電流偏差算出器53は、第1の2相変換部32aから出力された第1のq軸電流iq1rと第1のq軸指令電流i12*(「第2指令電流」に相当)との偏差である第1のq軸電流偏差Δiq1を算出する。第2のd軸速度干渉電圧算出器54は、電気角速度ωと、第1のq軸電流偏差Δiq1とを入力として、第2のd軸速度干渉電圧を算出する。詳しくは、第1のq軸電流偏差Δiq1とq軸相互インダクタンスMqとの乗算値に、電気角速度ωを乗算することで第2のd軸速度干渉電圧を算出する。第2のd軸速度電圧補償器55は、第2のd軸電圧偏差算出器51から出力された第2のd軸電圧偏差ΔVd2から第2のd軸速度干渉電圧を減算することで、第2のd軸電圧偏差ΔVd2を補償する。第2のd軸フィードバック制御器56は、積分器を備えている。第2のd軸速度電圧補償器55の出力値を入力とする積分器における積分動作により、第2のd軸指令電圧Vd2*を算出する。第2のd軸指令電圧Vd2*は、第2のd軸電流id2rを第2のd軸指令電流id2*にフィードバック制御するための操作量となる。
第1のq軸電圧偏差算出器61は、第1のq軸電流偏差算出器53によって算出された第1のq軸電流偏差Δiq1に伝達関数「Lq1×s+R1」を乗算することで、第1のq軸電圧偏差ΔVq1(「基本電圧」に相当)を算出する。第1のq軸速度干渉電圧算出器64は、第2のd軸電流偏差算出器50によって算出された第2のd軸電流偏差Δid2とd軸相互インダクタンスMdとの乗算値に、電気角速度ωを乗算することで第1のq軸速度干渉電圧を算出する。第1のq軸速度電圧補償器65は、第1のq軸電圧偏差ΔVq1と第1のq軸速度干渉電圧とを加算することで、第1のq軸電圧偏差ΔVq1を補償する。第1のq軸フィードバック制御器66は、第1のq軸速度電圧補償器65の出力値を入力とする積分器における積分動作により、第1のq軸指令電圧Vq1*を算出する。第1のq軸指令電圧Vq1*は、第1のq軸電流iq1rを第1のq軸指令電流iq1*にフィードバック制御するための操作量となる。
第2のq軸電圧偏差算出器71は、第2のq軸電流偏差算出器43によって算出された第2のq軸電流偏差Δiq2に伝達関数「Lq2×s+R2」を乗算することで、第2のq軸電圧偏差ΔVq2(「基本電圧」に相当)を算出する。第2のq軸速度干渉電圧算出器74は、第1のd軸電流偏差算出器40によって算出された第1のd軸電流偏差Δid1とd軸相互インダクタンスMdとの乗算値に、電気角速度ωを乗算することで第2のq軸速度干渉電圧を算出する。第2のq軸速度電圧補償器75は、第2のq軸電圧偏差ΔVq2と第2のq軸速度干渉電圧とを加算することで、第2のq軸電圧偏差ΔVq2を補償する。第2のq軸フィードバック制御器76は、第2のq軸速度電圧補償器75の出力値を入力とする積分器における積分動作により、第2のq軸指令電圧Vq2*を算出する。第2のq軸指令電圧Vq2*は、第2のq軸電流iq2rを第2のq軸指令電流iq2*にフィードバック制御するための操作量となる。
なお、本実施形態において、各電圧偏差算出器41,51,61,71が「基本電圧算出手段」に相当する。また、本実施形態において、各速度干渉電圧算出器44,54,64,74が「速度干渉電圧算出手段」に相当する。さらに、本実施形態において、各速度電圧補償器45,55,65,75が「補償手段」に相当する。加えて、本実施形態において、各フィードバック制御器46,56,66,76が「指令電圧算出手段」に相当する。
次に、図3及び図4を用いて、本実施形態にかかる非干渉制御の効果を説明する。まず、図3を用いて、上記非干渉化制御による電流制御系の応答性の向上効果について説明する。図3は、目標トルクTrq*をステップ状に変化させた場合の実際の出力トルクTrの推移を示す。図3(a)は関連技術に対応する図であり、図3(b)は本実施形態に対応する図である。なお、関連技術とは、上記特許文献1に記載された技術のことである。また、図3(a),(b)において、「VL1」によって縦軸スケールが互いに同一であることを示し、「HL1」によって横軸スケールが互いに同一であることを示している。
図示されるように、本実施形態にかかる非干渉化制御によれば、関連技術と比較して、時定数を大きく短縮させることができる。このため、電流制御系の応答性を好適に向上させることができる。なお、図3では、回転速度が一定とされる状況下におけるステップ応答である。このため、本実施形態の先の図2に示す構成において、速度算出器42と各速度干渉電圧算出器44,54,64,74との間にローパスフィルタが設けられる場合であっても、ローパスフィルタによる遅れの影響はない。
続いて、図4に、目標トルクTrq*が一定とされる状況下、モータ10の回転速度を1000rpmから20000rpmまでランプ状に変化させた場合の出力トルクTrの推移を示す。ここで、図4(a)は関連技術に対応し、図4(c)は本実施形態に対応している。図4(b)は、本実施形態の先の図2に示す構成において、速度算出器42と各速度干渉電圧算出器44,54,64,74との間にローパスフィルタを設けた構成に対応している。また、図4(a)〜(c)において、「VL2」によって縦軸スケールが互いに同一であることを示し、「HL2」によって横軸スケールが互いに同一であることを示している。
図4(a)に示すように、関連技術では、回転速度を20000rpmに向かって上昇させていく途中において、実際のトルクTrの制御性が大きく低下し、出力トルクTrと目標トルクTrq*とのずれであるトルク誤差が増大している。これは、関連技術では指令電圧が速度干渉電圧で補償されておらず、回転速度が高くなることによって速度干渉電圧がトルク制御に及ぼす影響が大きくなるためである。
これに対し、図4(b)に示す例では、関連技術と比較してトルク誤差を大きく低減させることができる。ただし、ローパスフィルタの設置により、回転速度が1000rpmから上昇し始めた直後においてトルク誤差が一時的に増大する。ここで、本実施形態によれば、ローパスフィルタを設置していないため、図4(c)に示すように、回転速度の上昇開始直後においても、トルク誤差が一時的に増大しない。
このように、本実施形態では、速度算出器42と各速度干渉電圧算出器44,54,64,74との間にローパスフィルタを設けない構成としている。これは、電流制御系の応答性をさらに向上させるためである。つまり、回転角センサ22の検出値に速度算出器42において微分演算を施すことによって算出された電気角速度ωには、高周波ノイズ成分が含まれる。このため、算出された電気角速度ωが各速度干渉電圧算出器44,54,64,74に入力される前に、電気角速度ωにローパスフィルタ処理を施すことで、電気角速度ωから高周波ノイズ成分を除去することも考えられる。ただし、ローパスフィルタ処理を施すと、算出された電気角速度ωに遅れが生じる。このため、ローパスフィルタ処理を施すことは、速度干渉電圧の算出精度の低下につながる。その結果、回転速度変化時における電流制御性を低下させ、ひいてはトルクの制御性を低下させる懸念がある。
ここで、各フィードバック制御器46,56,66,76において、速度干渉電圧で補償された電圧偏差を入力とした積分動作が行われている。積分動作は、ローパスフィルタ機能も果たす。このため、速度算出器42によって算出された電気角速度ωが各速度干渉電圧算出器44,54,64,74に入力される前に、電気角速度ωにローパスフィルタ処理を施さなくても、上記積分動作によって上記高周波ノイズ成分を低減させることができる。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)各指令電圧Vd1*,Vd2*,Vq1*,Vq2*を速度干渉電圧で補償した。このため、モータ10の回転速度や速度変化レートが高い場合においても電流制御系の応答性を好適に向上させることができる。これにより、モータ10のトルク誤差を好適に低減させることができる。さらに、各速度干渉電圧の算出用に各速度干渉電圧算出器44,54,64,74に入力される電気角速度ωに、ローパスフィルタ処理が施されない構成とした。これにより、回転速度変化に対して電流制御系を安定に動作させることができる。
(2)各電圧偏差算出器41,51,61,71における各電圧偏差ΔVd1,ΔVd2,ΔVq1,ΔVq2の算出に、電動機定数である各インダクタンスLd1,Ld2,Lq1,Lq2及び各抵抗R1,R2を用いた。このため、各電圧偏差ΔVd1,ΔVd2,ΔVq1,ΔVq2を適切に算出することができる。
(3)モータ10の発電電力が供給されるバッテリ18と、モータ10及びバッテリ18の双方を電力供給源とし得る電動パワーステアリング装置20とを備える車両の制御システムに非干渉化制御を適用した。車両に搭載されるモータ10は、車両の走行中にクランク軸16aとともに連れ回されることから、モータ10の使用回転速度領域が広くなり、トルク誤差が生じやすい。ここで、例えばバッテリ18に何らかの異常が生じてバッファとしてのバッテリ18が使用不能となる場合、電動パワーステアリング装置20の電力供給源がモータ10となる。このとき、モータ10のトルク誤差が大きいと、モータ10の実際の発電電力と電動パワーステアリング装置20に供給すべき電力とのずれが大きくなることから、電動パワーステアリング装置20の動作が不安定となり得る。このため、本実施形態では、トルク誤差を低減させ、ひいてはモータ10の発電電力と上記供給すべき電力とのずれを低減できる非干渉化制御を適用するメリットが大きい。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、先の第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、速度干渉電圧に加えて、微分干渉電圧によって各指令電圧Vd1*,Vq1*,Vd2*,Vq2*を補償する。図5に、本実施形態にかかるモータ10の電流制御系のブロック図を示す。なお、図5において、先の図2に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
第1のd軸微分干渉電圧算出器48aは、第2のd軸電流偏差Δid2の時間微分を行った後、この時間微分値と、d軸相互インダクタンスMdとを乗算することで、第1のd軸微分干渉電圧を算出する。ここで、第1のd軸微分干渉電圧の算出において、第2巻線群10bが「対象巻線群」に相当する。第1のd軸微分電圧補償器48bは、第1のd軸電圧偏差算出器41から出力された第1のd軸電圧偏差ΔVd1に第1のd軸微分干渉電圧を加算することで、第1のd軸電圧偏差ΔVd1を補償する。補償された第1のd軸電圧偏差ΔVd1は、第1のd軸速度電圧補償器45に入力される。
第2のd軸微分干渉電圧算出器58aは、第1のd軸電流偏差Δid1の時間微分を行った後、この時間微分値と、d軸相互インダクタンスMdとを乗算することで、第2のd軸微分干渉電圧を算出する。ここで、第2のd軸微分干渉電圧の算出において、第1巻線群10aが「対象巻線群」に相当する。第2のd軸微分電圧補償器58bは、第2のd軸電圧偏差算出器51から出力された第2のd軸電圧偏差ΔVd2に第2のd軸微分干渉電圧を加算することで、第2のd軸電圧偏差ΔVd2を補償する。補償された第2のd軸電圧偏差ΔVd2は、第2のd軸速度電圧補償器55に入力される。
第1のq軸微分干渉電圧算出器68aは、第2のq軸電流偏差Δiq2の時間微分値と、q軸相互インダクタンスMqとを乗算することで、第1のq軸微分干渉電圧を算出する。第1のq軸微分電圧補償器68bは、第1のq軸電圧偏差算出器61から出力された第1のq軸電圧偏差ΔVq1に第1のq軸微分干渉電圧を加算することで、第1のq軸電圧偏差ΔVq1を補償する。補償された第1のq軸電圧偏差ΔVq1は、第1のq軸速度電圧補償器65に入力される。第2のq軸微分干渉電圧算出器78aは、第1のd軸電流偏差Δid1の時間微分値と、q軸相互インダクタンスMqとを乗算することで、第2のq軸微分干渉電圧を算出する。第2のq軸微分電圧補償器78bは、第2のq軸電圧偏差算出器71から出力された第2のq軸電圧偏差ΔVq2に第2のq軸微分干渉電圧を加算することで、第2のq軸電圧偏差ΔVq2を補償する。補償された第2のq軸電圧偏差ΔVq2は、第2のq軸速度電圧補償器75に入力される。
なお、本実施形態において、各微分干渉電圧算出器48a,58a,68a,78aが「微分干渉電圧算出手段」に相当する。
ここで、本実施形態では、各微分干渉電圧算出器48a,58a,68a,78aにおいて、各電流偏差の微分演算値にローパスフィルタ処理を施していない。これは、各フィードバック制御器46,56,66,76における積分動作が、ローパスフィルタ機能を果たすことを利用したためである。このため、本実施形態によれば、各電流偏差の微分演算値にローパスフィルタ処理を施す場合と比較して、電流制御系の応答性をより向上させることができる。
続いて、図6及び図7を用いて、本実施形態にかかる非干渉化制御の効果について説明する。ここで、図6,図7は、先の図3,図4に対応している。非干渉化制御によれば、図6に示すように、電流制御系の応答性を好適に向上させることができる。また、図7に示すように、トルク誤差を低減させることもできる。ここで、図6における時定数は、先の図3における時定数よりも短い。このように、本実施形態によれば、電流制御系の応答性をさらに向上させることができる。
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、先の第2実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、微分干渉電圧の算出及び補償手法を変更する。図8に、本実施形態にかかるモータ10の電流制御系のブロック図を示す。なお、図8において、先の図5に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
第1のd軸微分干渉電圧算出器49aは、第2のd軸電流偏差Δid2、第1のd軸フィードバック制御器46における積分器の積分ゲインKi(「所定の係数」に相当)、及びd軸相互インダクタンスMdを乗算することで、第1のd軸微分干渉電圧を算出する。算出された第1のd軸微分干渉電圧は、第1のd軸指令電圧補償器49bに入力される。第1のd軸指令電圧補償器49bは、第1のd軸フィードバック制御器46によって算出された第1のd軸指令電圧に第1のd軸微分干渉電圧を加算することで、最終的な第1のd軸指令電圧Vd1*を算出する。この算出手法は、先の図5において、第1のd軸微分干渉電圧算出器48aの伝達関数「Md×s」と、第1のd軸フィードバック制御器46の伝達関数「Ki/s」との乗算値が「Ki×Md」となることに基づくものである。すなわち、伝達関数「Md×s」における微分演算と、伝達関数「Ki/s」における積分演算とがキャンセルされることとなる。
第2のd軸微分干渉電圧算出器59aは、第1のd軸電流偏差Δid1、第2のd軸フィードバック制御器56における積分器の積分ゲインKi、及びd軸相互インダクタンスMdを乗算することで、第2のd軸微分干渉電圧を算出する。算出された第2のd軸微分干渉電圧は、第2のd軸指令電圧補償器59bに入力される。第2のd軸指令電圧補償器59bは、第2のd軸フィードバック制御器56によって算出された第2のd軸指令電圧に第2のd軸微分干渉電圧を加算することで、最終的な第2のd軸指令電圧Vd2*を算出する。
なお、q軸についても、d軸と同様に微分干渉電圧を算出できる。ここで、図8には、第1,第2のd軸微分干渉電圧算出器49a,59aに相当する構成として、第1,第2のq軸微分干渉電圧算出器69a,79aを示した。また、第1,第2のd軸指令電圧補償器49b,59bに相当する構成として、第1,第2のq軸指令電圧補償器69b,79bを示した。ちなみに、本実施形態において、各微分干渉電圧算出器49a,59a,69a,79aが「微分干渉電圧算出手段」に相当する。また、本実施形態において、各指令電圧補償器49b,59b,69b,79bが「指令電圧補償手段」に相当する。
以上説明した本実施形態によれば、微分干渉電圧の算出に用いる電流偏差にローパスフィルタ処理を施す必要がない。このため、電流制御系の応答性の向上効果をより高めることができる。このため、本実施形態によれば、上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態によれば、微分演算することなく微分干渉電圧を算出できるため、制御装置30における演算負荷を低減させることもできる。
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について、先の第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、指令電圧の算出に用いる電流の取得手法を変更する。
図9に、本実施形態にかかる制御システムの全体構成を示す。なお、図9において、先の図1に示した部材と同一の部材については、便宜上、同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、各電流センサ26a,26b,28a,28bに代えて、第1,第2母線電流センサ29a,29b(「母線電流検出手段」に相当)が制御システムに備えられている。第1母線電流センサ29aは、第1の高電位側スイッチSUp1〜SWp1の高電位側(ドレイン側)とバッテリ18の正極端子とを接続する電気経路に流れる電流(第1母線電流IDC1)を検出する。第2母線電流センサ29bは、第2の高電位側スイッチSUp2〜SWp2の高電位側(ドレイン側)とバッテリ18の正極端子とを接続する電気経路に流れる電流(第2母線電流IDC2)を検出する。
制御装置30は、第1,第2相電流推定器37a,37b(「電流推定手段」に相当)を備えている。第1相電流推定器37aは、第1母線電流センサ29aによって検出された第1母線電流IDC1と、第1の操作部35aから入力された第1インバータINV1の出力電圧ベクトルとに基づき、第1の2相変換部32aに対して、第1母線電流IDC1をU〜V相電流iU1,iV1,iW1のいずれかとして出力する。ここで、出力電圧ベクトルは、第1操作信号から定めることができる。第1相電流推定器37aは、図10に示すように、出力電圧ベクトルと、第1母線電流IDC1に対応する相電流との関係を記憶している。図10では、巻線側から各スイッチの接続点へと流れる方向の相電流を正としている。第1相電流推定器37aは、出力電圧ベクトルV0〜V7に基づき、第1母線電流IDC1が相電流iU1,iV1,iW1のいずれに相当するかを識別する。そして、第1母線電流IDC1を識別した相電流として第1の2相変換部32aに出力する。
第2相電流推定器37bは、第1相電流推定器37aと同様に、第2母線電流センサ29bによって検出された第2母線電流IDC2と、第2の操作部35bから入力された第2インバータINV2の出力電圧ベクトルとに基づき、第2の2相変換部32bに対して、第2母線電流IDC2をU〜V相電流iU2,iV2,iW2のいずれかとして出力する。
以上説明した本実施形態によれば、制御システムに設けられる電流センサの数を削減できる。このため、制御システムのコストを低減させることができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記第4実施形態において、低電位側スイッチの低電位側(ソース側)とバッテリの負極端子とを接続する電気経路に母線電流センサを設けてもよい。
・各フィードバック制御器46,56,66,76において、比例動作及び微分動作のうち少なくとも一方を加えてもよい。
・巻線界磁型同期モータとしては、先の図1に示したものに限らない。例えば、固定子巻線に流れる電流によって界磁巻線が励磁されるものであってもよい。また、同期モータとしては、巻線界磁型同期モータに限らず、他の同期モータであってもよい。こうしたモータとしては、例えば、永久磁石界磁型同期モータや、シンクロナスリラクタンスモータが挙げられる。
・「多重巻線回転電機」としては、2重巻線回転電機に限らず、N重巻線回転電機(Nは3以上の整数)であってもよい。この場合であっても、複数の巻線群のうち指令電圧の算出対象とする1つの巻線群と残余の巻線群の少なくとも1つとの間の磁気結合によって回転電機の回転速度に比例した干渉電圧が生じるなら、本発明の適用が有効である。なお、例えば、3重巻線回転電機を採用する場合、3つの巻線群のうち基本電圧の算出対象とする1つの巻線群と残余の2つの巻線群との磁気結合によって回転速度に比例した干渉電圧が上記1つの巻線群に生じるなら、3つの巻線群のそれぞれについて、ある巻線群に対応する基本電圧を残余の2つの巻線群に起因した速度干渉電圧のそれぞれで補償することとなる。
・モータの制御量としては、トルクTrq*に限らず、例えば回転速度であってもよい。また、モータの回転角としては、回転角センサによって検出されたものに限らない。例えば、モータの回転角を推定する回転角推定手段を制御装置30に備え、回転角推定手段によって推定されたものであってもよい。なお、回転角推定手段としては、例えば、オブザーバ等を利用した周知のセンサレス制御にて推定するものを用いることができる。
・上記各実施形態では、回転座標系(dq軸座標系)において基本電圧を速度干渉電圧で補償したがこれに限らず、固定座標系において補償してもよい。この場合、例えば、回転座標系において算出された速度干渉電圧を固定座標系に変換し、固定座標系に変換された速度干渉電圧で固定座標系の基本電圧を補償すればよい。
・バッテリ及び車載機器としては、上記第1の実施形態の図1に示したように、第1インバータINV1及び第2インバータINV2のそれぞれに共通に接続されるものに限らない。例えば、これらインバータINV1,INV2のそれぞれに個別に接続されるものであってもよい。この場合、第1インバータINV1に接続されたバッテリ(以下、第1バッテリ)の端子間電圧(具体的には例えば、同一の充電率(SOC)における開放端電圧)と、第2インバータINV2に接続されたバッテリ(以下、第2バッテリ)の端子間電圧とを相違させてもよい。具体的には例えば、第1バッテリの端子間電圧(例えば48V)を第2バッテリの端子間電圧(例えば12V)の4倍程度に設定してもよい。この場合、例えば、第1巻線群10aを構成する巻線のそれぞれのターン数N1を、第2巻線群10bを構成する巻線のターン数N2の4倍程度に設定すればよい。
・インバータの備えるスイッチング素子としては、NチャネルMOSFETに限らず、例えばIGBTであってもよい。