本開示の理解を容易にするために、ここで使用される用語の以下の定義が提供される。
用語「対立遺伝子特異的プライマー」又は「ASプライマー」は、標的配列の2つ以上の変種にハイブリダイズしてもよいが、標的配列の変種を区別することができるプライマーを指し、従って、プライマーが1つの特定の変種にハイブリダイズした場合のみ、適切な条件下で核酸ポリメラーゼによるプライマーの効率的な伸長が起きる。標的配列の他の変種では、伸長はあまり効率的ではないか非効率的である。
用語「アンプリコン」は、ポリメラーゼ連鎖反応の生成物として形成される核酸を指す。
用語「共通プライマー」は、対立遺伝子特異的プライマーを含む、プライマー対中の第2のプライマーを指す。共通プライマーは対立遺伝子特異的ではなく、すなわち、対立遺伝子特異的が区別する標的配列の変種間を区別しない。
用語「相補的」又は「相補性」は、ワトソン−クリック塩基対合則によって関係づけられるポリヌクレオチドの逆平行鎖に関連して使用される。相補的な核酸鎖は、標準的なハイブリダイゼーション条件下で2本鎖を形成することができる。用語「完全に相補的」又は「100%相補的」は、逆平行鎖間のすべての塩基のワトソンクリック対合を有する相補的な配列を指し、従ってポリヌクレオチド2本鎖内のいずれの2つの塩基間にもミスマッチが存在しないことを指す。用語「部分的に相補的」又は「不完全に相補的」は、100%未満の完全性である逆平行ポリヌクレオチド鎖間の塩基の整列を指す(例えば、ポリヌクレオチド2本鎖内に少なくとも1つのミスマッチ又は一致しない塩基が存在する)。より小さい核酸鎖(例えばオリゴヌクレオチド)が、より大きな核酸(例えば、遺伝子又はゲノム)中の領域(部位)に相補的であってよい。標準的なハイブリダイゼーション条件下では、完全な相補性が存在しない場合も逆平行鎖間に2本鎖が形成される。しかし、部分的に相補的な鎖間の2本鎖は、一般に完全に相補的な鎖間の2本鎖よりも不安定である。
核酸増幅アッセイの文脈における「増殖曲線」は、独立変数が増幅サイクルの数であり、従属変数が、各増幅サイクルで測定される増幅依存性の測定可能なパラメータである、関数のグラフである。典型的には増幅依存性の測定可能なパラメータは、ハイブリダイゼーションにより、又は核酸ポリメラーゼのヌクレアーゼ活性によるプローブの加水分解時に、プローブから放出される蛍光の量である(Holland et al., (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. 88:7276-7280、及び米国特許第5,210,015号を参照)。典型的なポリメラーゼ連鎖反応では、増殖曲線は指数増殖の部分を含み、その後に平坦部分が続く。増殖曲線は典型的には、測定可能なパラメータの所定の大きさが達成されるサイクル数である「サイクル閾値」又は「Ct」値によって特徴付けられる。より小さい又は「より早い」Ct値はより迅速な増幅を表し、一方、より高い又は「より後の」Ct値は遅い増幅を表す。
用語「相同性」及び「相同性領域」は、2つの核酸が少なくとも部分的相補性を共有する領域(部位)を指す。相同性領域は、配列の一部のみにまたがっていてもよい。例えば、オリゴヌクレオチドの一部のみがゲノム中の部位に相同的でもよい。オリゴヌクレオチドの異なる部分が、ゲノム中のいくつかの異なる部位に対して相同的で、一方、全オリゴヌクレオチドが、ゲノム中の別の部位に対して相同的であってもよい。任意の部分的に相補的な核酸配列のように、2つの配列が整列される場合、相同性領域は1つ又はそれ以上のミスマッチ及びギャップを含んでよい。より小さい核酸鎖(例えばオリゴヌクレオチド)は、より大きな核酸(例えば、遺伝子又はゲノム)中の領域(部位)に相同的でもよい。2つの配列間の用語「相同性の程度」は、配列間の同一性の程度を指す。同一性の程度は一般に、ヌクレオチドの総数に対する相同性領域中のミスマッチヌクレオチドの比率(パーセントで示される)として表される。例えば、2つのミスマッチを有する標的ゲノム中の相同性領域(部位)にハイブリダイズする20塩基のオリゴヌクレオチドは、その領域に対して90%の同一性を有すると言われる。用語「標的ゲノムに対する相同性の程度」は、標的ゲノム中に存在するオリゴヌクレオチドに対する相同性領域の数と同一性パーセントの尺度である。相同性の程度の高いオリゴヌクレオチドは、標的ゲノムを通して高い割合の同一性を有する相同性領域を有し、相同性の程度の低い領域は、その標的ゲノム中に同一性の割合が低い、より少ない相同性領域を有するであろう。
用語「ハイブリダイズした」及び「ハイブリダイゼーション」は、2つの少なくとも部分的に相補的な(本明細書で定義されるように)核酸鎖間の塩基対合相互作用を指し、これは2本鎖の生成に至る。ハイブリダイゼーションを達成するために、2つの核酸がその全長にわたって100%の相補性を有することは必須ではない。より小さい核酸鎖(例えばオリゴヌクレオチド)は、より大きな核酸(例えば、遺伝子又はゲノム)中の領域(部位)にハイブリダイズすることができるであろう。
標的ゲノムの領域に相同的なサプレッサーオリゴヌクレオチドに関連する用語「複数の相同性領域」は、オリゴヌクレオチドの抑制性を支持するのに充分な、標的ゲノム中のそのような領域の数を記載するために使用される。一般に「複数」は、2つ以上、例えば2、3、20、30、200、300、2000、3000などを意味し、その間のすべての整数を意味する。しかし、標的ゲノムの複雑さに依存して充分な数は変化し、すなわち、あまり複雑ではないゲノムでは、抑制現象が起きるのにより小さい数で充分であり、一方、より複雑なゲノムではより大きな数が必要であろう。
用語「核酸」、「オリゴヌクレオチド」、及び「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボ核酸(又はリボ核酸)のポリマーを説明するために同義で使用され、プライマー、プローブ、種々の生物のゲノムDNAもしくはRNA、及びゲノムDNAもしくはRNAのフラグメント、並びに他の遺伝子要素、例えばプラスミド、コスミドなどを含む。これらの用語は長さによっては限定されず、ポリデオキシリボヌクレオチド(2−デオキシ−D−リボースを含有する)、ポリリボヌクレオチド(D−リボースを含有する)、及びプリンもしくはピリミジン塩基の任意の他のN−グリコシド、又は修飾プリンもしくはピリミジン塩基のポリマーに一般的である。これらの用語は、2本鎖核酸及び1本鎖核酸を含む。核酸は、天然に存在するホスホジエステル結合又は修飾結合(特に限定されないが、チオエステル結合を含む)を含むことができる。同様に核酸は、5つの生物学的に存在する塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシン、及びウラシル)又は他の修飾された非標準的な又は誘導体化された塩基成分を含むことができる。
用語「ポリヌクレオチド」と「オリゴヌクレオチド」は同義に使用される。「オリゴヌクレオチド」は、時に、より短いポリヌクレオチドを記載するために使用される用語である。オリゴヌクレオチドは、少なくとも6ヌクレオチドで最大100ヌクレオチドからなる。
用語「1次配列」は、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド中のヌクレオチドの配列を指す。例えば窒素性塩基修飾、糖修飾、又は他の骨格修飾などのヌクレオチド修飾は、一次配列の一部ではない。オリゴヌクレオチドに結合した発色団などの標識物もまた、一次配列の一部ではない。すなわち、2つのオリゴヌクレオチドは同じ一次配列を共有するが、修飾や標識物に関して異なることができる。
用語「プライマー」は、標的核酸中の配列にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを指し、合成に適した条件下で核酸の相補鎖に沿って合成の開始点として作用することができる。プライマー伸長が起きるのに、完全な相補性は必要ではない。しかし、完全な相補的性を有するプライマー(特に3’末端の近く)は、ミスマッチ(特に3’末端の又はその近くのミスマッチ)を有するプライマーより効率的に伸長されるであろう。
用語「プローブ」は、標的核酸中の配列とハイブリダイズし、検出可能に標識し得るオリゴヌクレオチドを指す。プローブは、修飾、例えばプローブを核酸ポリメラーゼによって伸長しないようにする3’末端の修飾、又は1つ又はそれ以上の発色団による修飾を有することができる。同じ配列を有するオリゴヌクレオチドは、あるアッセイではプライマーとして機能し、異なるアッセイではプローブとして機能してもよい。
用語「目的の領域」は、そこからサプレッサーオリゴヌクレオチドが設計される標的ゲノムの領域を指す。
用語「試料」は、核酸を含有するか又は含有すると推定される任意の組成物を指す。これは、ある個体からの組織又は液体の試料を含む。例えば、皮膚、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、滑液、尿、涙、血液細胞、器官及び腫瘍、個体から採取した細胞から樹立されたインビトロ培養物の試料、ホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPET)を含む試料、及びそこから単離される核酸の試料。
用語「サプレッサーオリゴヌクレオチド」は、PCR混合物中に存在する場合、非標的配列の増幅を抑制するか又は検出可能に低減するオリゴヌクレオチドを指す。いくつかの例では、サプレッサーオリゴヌクレオチドは、対立遺伝子特異的PCR中の非標的配列の指数関数的増幅を検出可能に低減する。サプレッサーオリゴヌクレオチドは、標的配列の増幅のためのプライマーとして機能することを含む追加の機能を、任意に有してもよい。
「鋳型」又は「標的」は、増幅すべき、検出すべき、又はその両方である核酸を指す。標的又は鋳型は、そこにプライマー又はプローブがハイブリダイズする配列である。鋳型核酸は、微生物、複雑な生物学的混合物、組織、体液、血清、保存された生物学的試料、環境分離株、インビトロ調製物などを含む基本的に任意の供給源から誘導することができる。鋳型又は標的は、核酸分子の全部又は一部を構成してもよい。
用語「標的生物」は、その核酸試料が分析されている生物を指す。標的生物のゲノムは、「標的ゲノム」と呼ばれる。
用語「標的配列」は、増幅が所望される標的生物の配列を指す。用語「非標的配列」は、その増幅が所望ではなくかつ避けるべき別の配列を指す。対立遺伝子特異的PCRの文脈において、関心の非標的配列は、多くの場合、標的配列の非常に類似した変種である。望まれていないが、非標的配列は時に、標的配列と一緒に対立遺伝子特異的PCRによって増幅されるが、より低い効率で増幅される。
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、はるかに多い数の他の配列の中で、標的核酸配列を特異的に増幅することができる。対立遺伝子特異的PCR(AS−PCR)は、1つのヌクレオチドしか異ならない配列間を区別することができる方法である。PCR及びAS−PCRの感受性と特異性は、核酸の標的変種が、はるかに多い量の非標的変種と無関係の配列の存在下でさえ、選択的に増幅されることができるようなものである。理想的には、非標的核酸は決して検出可能なレベルまで増幅されない。しかし、PCR及びAS−PCRの感受性は、「ブレイクスルー増幅」と呼ばれる現象により挑戦され、これは、PCRの後期サイクル中の非標的核酸配列の検出可能な増幅である。
対立遺伝子特異的PCRを実施する場合、本発明者は、いくつかのオリゴヌクレオチド(最初はプライマーとして使用される)がAS−PCRアッセイ中に存在する場合、ブレイクスルー増幅を顕著に低減することを発見した(実施例1、図1)。これらのサプレッサーオリゴヌクレオチドをさらに調べると、最も驚くべきことに、このオリゴヌクレオチドは、無関係の標的(すなわち、抑制オリゴヌクレオチドと相補性の領域が無い標的)に対して同じ作用を示すことが発見された(実施例2、図2、実施例3、図3、及び実施例4、図4)。従って本発明者は、PCR及びAS−PCRアッセイを改善するために、このようなオリゴヌクレオチドを設計し使用する方法を考案した。
理論に拘束されるつもりはないが、本発明者は、ブレイクスルー増幅が普通に発生する時に、ブレイクスルー抑制の機構の1つが、増幅の後期サイクルでPCR試薬を隔離しているかも知れないと仮定した。PCRの後期サイクルでは、一部には、変性したアンプリコンの1本鎖へのプライマーのアニーリングより、2本鎖アンプリコンの再アニーリングが動力学的に優先されるため、標的配列の増幅が停止する(プラトーに達する)。この段階で、過剰のプライマーは、非標的配列にハイブリダイズしたミスマッチプライマーの延長を含む、あまり特異的ではない(従って効率の低い)ブレイクスルー増幅のために利用可能になる。しかし、ミスマッチプライマー伸長の熱力学的パラメータは好ましくない。従って、ミスマッチプライマーの伸長は、ヌクレオチドや核酸ポリメラーゼのような成分の枯渇又は隔離に大きく影響される。サプレッサーオリゴヌクレオチドの性質は、ゲノム中の別の場所での線形プライマー伸長を可能にし、及び(任意に)ゲノム中の別の場所で追加のアンプリコンの指数関数的な生成を可能にする。これらの外部の反応は、ほぼ間違いなくあまり効率的ではないが、重要な試薬を隔離し、これらの試薬を必要とするブレイクスルー増幅を阻害する。
この仮説を検定するために、本発明者は、実施例5に記載の実験を行った。この実施例では、複数の線形伸長反応を開始させることができる改変したプライマー/標的の組合せの存在下で、そのブレイクスルー増幅について知られているAS−PCRアッセイ(図5A)を行った。この複数の線形伸長反応は、ある程度の枯渇効果を生成し、ブレイクスルー増幅を抑制すると予測された。実際に、ブレイクスルー増幅のある程度の抑制が観察された(図5B)。
ある態様において本発明は、増幅反応、例えばPCR又は対立遺伝子特異的PCR(AS−PCR)において、非標的配列の増幅を抑制するためのサプレッサーオリゴヌクレオチドである。サプレッサーオリゴヌクレオチドは、標的生物のゲノム中の複数の部位に対して相同的である。標的ゲノム中のこれらの部位は、サプレッサーオリゴヌクレオチドとの相同性領域を含む。ある態様において、サプレッサーオリゴヌクレオチドと標的ゲノムの間の相同性領域は、少なくとも75%の同一性を有する。ある態様において相同性領域は、少なくとも15塩基対の長さである。しかし、いくつかの配列(例えば、GCリッチ配列)について、75%未満の同一性を有するより短い相同性領域は、満足できる結果を与えることがある。実施例6、図6で証明されるように、一般に、相同性領域のそれぞれにおいて同一性が高いほど、抑制作用は良好である。さらに別の態様において、オリゴヌクレオチドの3’末端の最後の4塩基対内で、相同性領域は2以下のミスマッチを含む。ある態様において、この少なくとも1つの相同性領域は少なくとも15塩基対の長さであり、又は/及びサプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがり、又は/及び3’末端から4ヌクレオチド以内に2以下のミスマッチを含む。ある態様において、この少なくとも1つの相同性領域は、サプレッサーオリゴヌクレオチド及び標的ゲノムと少なくとも75%の同一性である相同性を有する以外に、以下の特性:少なくとも15塩基対の長さである;サプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがる;3’末端から4ヌクレオチド以内で2以下のミスマッチを含む、の1つ以上を含む。別の態様において、サプレッサーオリゴヌクレオチドは、配列番号1〜5を有する核酸配列を含むか又はこれらからなる(表1を参照)。
サプレッサーオリゴヌクレオチドは、標的配列の増幅及び検出の最小の妨害を引き起こすことが望ましい。サプレッサーオリゴヌクレオチドが追加の(非標的)アンプリコンを生成することができる場合、これらの追加のアンプリコンは検出され、従って標的配列の検出を妨害し得る。サプレッサーオリゴヌクレオチドによるこれらのアンプリコンの生成は避けることが好ましい。この態様の変形態様では、サプレッサーオリゴヌクレオチドは追加の特性を有する:これは追加のアンプリコンを生成することができない。PCRアンプリコンは、前進プライマーと逆進プライマーがの両方が存在している場合のみ、指数関数的に生成される。従って、オリゴヌクレオチドは、同じ核酸の相補鎖上の配列にハイブリダイズすることができる別のオリゴヌクレオチド(自身を含む)と対になっている場合には、アンプリコンの指数関数的な合成を開始することができる(前記配列は、第一のオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション部位から約1000塩基対を超えない位置にある)。いくつかの例では、例えば、前進性の高い核酸ポリメラーゼ(例えば米国特許第7,855,055号を参照)が使用される場合、1000塩基対よりも長い非標的アンプリコンを生成することもでき、標的核酸の増幅と検出を妨害することができる。従って、前進性の高いポリメラーゼが使用される場合は、潜在的なサプレッサーオリゴヌクレオチドは1000塩基対よりも高い上限値に基づいて排除されることがある。その場合、より多くの潜在的なサプレッサーオリゴヌクレオチドが排除されるであろう。一方、断片化された核酸(例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋組織FFPETから単離された核酸)では、より長いアンプリコンは可能ではなく、潜在的なサプレッサーオリゴヌクレオチドは、1000塩基対よりも短い制限に基づいて、排除されることがある。その場合、より少ない潜在的なサプレッサーオリゴヌクレオチドが排除されるであろう。本発明によれば、いくつかの態様において、オリゴヌクレオチドは、標的ゲノムの相補鎖の上に少なくとも2つの相同性領域を有する場合、サプレッサーオリゴヌクレオチドとして使用されず、ここで、この領域は、オリゴヌクレオチドと標的ゲノム配列との間に少なくとも75%の同一性を有し、前記相同性領域は、約1000未満の塩基対により分離されている。
サプレッサーオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドを調製するための任意の適切な方法により、通常は市販の試薬と装置を使用する化学合成により、調製することができる。あるいは、オリゴヌクレオチドは市販品を購入することができる。オリゴヌクレオチドを合成する方法は、当該分野で公知である(例えば、Narang et al., Meth. Enzymol. 68:90-99, 1979; Brown et al., Meth. Enzymol. 68:109-151, 1979; Beaucage et al., Tetrahedron Lett. 22:1859-1862, 1981; 又は米国特許第4,458,066号を参照)。
本態様の変形において、本発明は、配列番号1〜5のサプレッサーオリゴヌクレオチドを含む。
別の態様において本発明は、増幅反応、例えばPCR又は対立遺伝子特異的PCR(AS−PCR)における非標的配列の増幅を抑制するためのサプレッサーオリゴヌクレオチドを設計する方法である。本発明のサプレッサーオリゴヌクレオチドを設計する方法は、配列整列アルゴリズムに依存する。ある態様において、本発明のオリゴヌクレオチド設計法は、配列整列ソフトウェアを使用する。そのようなソフトウェアは広く入手可能であり、多くの場合、無償で公に利用できる。例えば、米国国立衛生研究所は、そのウェブサイトからBLAST(登録商標)(Basic Local Alignment Search Tool)ソフトウェアパッケージを無償で利用できるようにしている。本発明はBLAST(登録商標)に限定されず、BLAST(登録商標)は適切なソフトウェアパッケージの単なる例である。対になった配列整列ソフトウェアの他の例は、ACANA(Huang et al. (2006) Accurate anchoring alignment of divergent sequences. Bioinformatics 22:29-34)、Bioconductor(Fred Hutchinson Cancer Research Centerにより無償で配布されているオープンソースソフトウェア)、FEAST(University of Waterloo, Canada、により無償で配布されているソフトウェアパッケージ)、FASTA(University of Virginiaにより無償で配布されているソフトウェアパッケージ)REPuter、(Kurtz et al. (2001) REPuter: The Manifold Applications of Repeat Analysis on a Genomic Scale, Nucleic Acids Res., 29(22):4633-4642)、SWIFT BALSAM(BAsic fiLter for Semigobal non-gapped AlignMent search)(Rasmussen et al. (2006) Efficient q-Gram Filters for Finding All epsilon-Matches over a Given Length, J. Comp. Biol. 13(2), 296-308)を含む。従って、ある態様において、本発明のサプレッサーオリゴヌクレオチドを設計する方法で使用される配列整列アルゴリズムは、Basic Local Alignment Search Tool、Smith-Waterman process、ACANA、Bioconductor,FEAST、FASTA、REPuter、及びSWIFT BALSAMから選択される。
ある態様において本発明の方法は、標的ゲノムと相同性の複数の領域を有することを特徴とするオリゴヌクレオチドを選択するための配列整列アルゴリズムの使用を含む。ある態様においてこの方法は、サプレッサーと標的ゲノムとの間の相同性領域が少なくとも75%の同一性であるオリゴヌクレオチドを選択するために、配列整列アルゴリズムを使用する。ある態様においてこの方法は、相同性領域が少なくとも15塩基対の長さであるオリゴヌクレオチドを選択するために、配列整列アルゴリズムを使用する。さらに別の態様においてこの方法は、相同性領域がオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがるオリゴヌクレオチドを選択するために、配列整列アルゴリズムを使用する。さらに別の態様においてこの方法は、オリゴヌクレオチドの3’末端の最後の4塩基対内で2以下のミスマッチを含むオリゴヌクレオチドを選択するために、配列整列アルゴリズムを使用する。ある態様において、少なくとも1つの相同性領域は、少なくとも15塩基対の長さであるか、又は/及びサプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがり、又は/及び3’末端からの最後の4ヌクレオチド内で相同性領域が2以下のミスマッチを含む。ある態様において、少なくとも1つの相同性領域は、サプレッサーオリゴヌクレオチドと標的ゲノムの間の相同性が少なくとも75%の同一性を有する以外に、1つ又はそれ以上の以下の特性:少なくとも15塩基対の長さである;サプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがる;3’末端からの最後の4ヌクレオチド内で2以下のミスマッチを含む、を有する。本態様の変形では、本発明の方法は、オリゴヌクレオチドが標的ゲノムの相補鎖上に少なくとも2つの相同性領域を有する場合、サプレッサーオリゴヌクレオチドとしての使用からオリゴヌクレオチドを排除するための配列整列の使用を含み、ここでこの領域は、オリゴヌクレオチドと標的ゲノム配列との間に少なくとも75%の同一性を有し、この相同性領域は、約1000未満の塩基対により分離されている。
本発明のある態様において、サプレッサーオリゴヌクレオチドは、ユーザーにより選択される目的の領域から得られる。目的の領域は、標的配列を含むか又はこれに隣接してもよく、又はゲノムに無関係の領域でもよい。目的の領域のサイズについていは制限は無いが、一般に、より大きな領域は、サプレッサーオリゴヌクレオチドの設計についてより多くの選択肢を与えることができる。一般に、目的の領域は、サプレッサーオリゴヌクレオチドについて所望の特徴のいくつかのを有するはずである。本方法のいくつかの態様では、目的の領域は、少なくとも75%の同一性を有し少なくとも15ヌクレオチドの長さである標的ゲノムと、複数の相同性領域を含む。
ある態様において本発明の方法は、配列整列アルゴリズムを使用して行われる以下の工程:
(a)1つ又はそれ以上の目的の領域を同定する;
(b)目的の領域を検索物として使用して標的ゲノム配列の検索を行って、目的の領域と標的ゲノムとの相同性領域を同定する;
(c)標的ゲノムと最も多くの相同性領域を有する、目的の領域の部分を選択する;
(d)工程(c)で選択される部分中の1つ又はそれ以上のオリゴヌクレオチドを設計する;
(e)工程(d)で設計されたオリゴヌクレオチドを用いて標的ゲノムの検索を行って、標的ゲノムと最大数の相同性領域を有し、以下の基準:少なくとも75%の同一性と、オリゴヌクレオチドの3’末端領域内に2以下のミスマッチの存在、の1つ又は両方を満足するオリゴヌクレオチドを同定する;
(f)任意に、工程(d)で設計されたオリゴヌクレオチドを用いて標的ゲノムの検索を行って、標的ゲノム配列の相補鎖上に位置し、約1000未満の塩基対により分離されている、少なくとも2つの相同性領域を有するオリゴヌクレオチドを同定し排除する、
を含む。
一般に、目的の領域と、工程(e)で同定され、任意に非標的アンプリコン(f)を生成することができないとして選択された、最も多くの相同性領域を有するオリゴヌクレオチドとが選択される。しかし、過剰な数の相同性領域は、全体としてはアッセイに有害となることがある。例えば、標的ゲノム中の反復性の高い要素と相同性のオリゴヌクレオチドは、過剰な数のプライマー伸長を開始し、これが反応を圧倒するであろう。例えば、Kazazian, H (2004) Mobile Elements: Drivers of Genome Evolution, Science 303 (5664): 1626-1632を参照(Alu反復性要素はヒトゲノムの11%を構成し、すなわちゲノム全体を通して約2×108回出現する)。
実施例6は、本方法の応用を示す。図7は、BLAST(登録商標)を使用して行われた工程(a)〜(c)の例示である。図8は、BLAST(登録商標)を使用して行われた工程(d)〜(e)の例示である。
プライマーをうまく伸長させるために、プライマーは標的配列と少なくとも部分的な相補性を有することが必要である。一般に3’末端での相補性は、プライマーの5’末端での相補性より重要である(Innis et al. Eds. PCR Protocols, (1990) Academic Press, Chapter 1, pp. 9-11)。従って本発明は、表1に開示されたオリゴヌクレオチド、並びに5’末端変種を有するこれらのオリゴヌクレオチドの変種を包含する。
ある態様において本発明は、標的生物のゲノム配列中の複数の部位に相同的なサプレッサーオリゴヌクレオチドの存在下で、増幅、例えばAS−PCRを実施することを含む増幅反応、例えばPCR又は対立遺伝子特異的PCR(AS−PCR)における非標的配列の増幅を抑制又は低減するための方法である。ある態様において、サプレッサーオリゴヌクレオチドと標的ゲノム間の相同性領域は少なくとも75%の同一性を有する。ある態様において、相同性領域は少なくとも15塩基対合の長さである。さらに別の態様において、相同性領域は、サプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがる。さらに別の態様において、オリゴヌクレオチドの3’末端の最後の4塩基対内で、相同性領域は2以下のミスマッチを含む。ある態様において、少なくとも1つの相同性領域は、少なくとも15塩基対の長さであるか、又は/及び、サプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがり、又は/及び3’末端から4ヌクレオチド内に2以下のミスマッチを含む。ある態様において、少なくとも1つの相同性領域は、サプレッサーオリゴヌクレオチドと標的ゲノム間に少なくとも75%の同一性の相同性を有する以外に、1つ又はそれ以上の以下の特性:少なくとも15塩基対の長さである;サプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがる;3’末端の最後の4ヌクレオチド内で2以下のミスマッチを含む、を有する。さらに別の態様において、オリゴヌクレオチドが標的ゲノムの相補鎖上に少なくとも2つの相同性領域を有する場合、オリゴヌクレオチドはサプレッサーオリゴヌクレオチドとして使用されず、ここでこの相同性領域は、オリゴヌクレオチドと標的ゲノム配列との間に少なくとも75%の同一性を有し、この相同性領域は、約1000未満の塩基対により分離されている。本態様の変形において、本方法は、配列番号1〜5を有する核酸配列を含むか又はこれらからなるサプレッサーオリゴヌクレオチドの使用を含む。
本発明の方法は、従来のPCR並びに対立遺伝子特異的PCRに適用可能である。対立遺伝子特異的PCRは、プライマーが、標的配列を増幅するが他の密接に関連した配列の増幅を避けるように設計された、PCRの変種である。対立遺伝子特異的PCRは、例えば米国特許第6,627,402号に記載されている。対立遺伝子特異的PCRでは、プライマーの少なくとも1つは、標的配列と配列相補性を有するが非標的配列とはミスマッチを有する識別性プライマーである。典型的には、プライマー中の識別性ヌクレオチド、すなわち標的配列とのみ一致するヌクレオチドは、3’末端ヌクレオチドである。プライマーが標的配列と完全には相補的ではない場合でも、これは、非標的配列と比較して、標的配列と高度の相補性を含む。対立遺伝子特異的プライマーの設計及び核酸増幅用のプライマーを最適化するための一般的方法は、例えばPCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Innis et al., eds., (1990) Academic Pressに記載されている。
典型的にはプライマーは、A、C、G、及びTヌクレオチドからなる合成オリゴヌクレオチドである。しかし、通常は核酸中には見出されない従来とは異なる塩基ヌクレオチドを使用することもできる。例えば、いくつかの修飾塩基は、増幅の特異性を上昇させることが知られており、例えば米国特許第6,001,011号を参照されたい。 Innis et al. (前出)もまた、PCRに使用するための核酸ポリメラーゼを選択する場合のガイドを含む。熱安定性DNAポリメラーゼの例は、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)、,サーマス・カルドフィルス(Thermus caldophilus)、サーマス種(Thermus sp. )Z05(例えば、米国特許第5,674,738号を参照)、サーマス・アクアチカス(Thermus aquaticus)、サーマス・フラブス(Thermus flavus)、サーマス・フィリホルミス(Thermus filiformis)、サーマス種(Thermus sp.)sps17、デイノコッカス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)、Hot Spring family B/clone 7、バシラス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、バシラス・カルドテナクス(Bacillus caldotenax)、サーモトガ・マリチマ(Thermotoga maritima)、サーモトガ・ネアポリタナ(Thermotoga neapolitana)、及びサーモシホ・アフリカヌス(Thermosipho africanus)由来のものを含む。
増幅生成物の検出は、当該分野で公知の任意の方法により行うことができる。これらの検出法は、標識プライマーやプローブ並びに種々の核酸結合色素の使用を含む。検出手段は、標的配列の変種に特異的であるか、又は標的配列のすべての変種もしくはすべての2本鎖DNAに特異的でもよい。増幅生成物は、増幅が完了した後に、例えば非標識生成物のゲル電気泳動と核酸結合色素によるゲルの染色により検出してもよい。あるいは、増幅生成物は、合成中の取り込みにより、又は標識プライマーにより、放射活性標識物もしくは化学標識物を有してもよい。電気泳動後又はその最中に、標識された増幅生成物は、当該分野で公知の適切な放射性もしくは化学的手段を用いて検出してもよい。電気泳動後、生成物はまた、当該分野で公知の任意の1つの方法により標識された標的特異的プローブを用いて検出してもよい。標識プローブはまた、電気泳動無しで、すなわち「ドットブロット」アッセイなどで、標的に適用してもよい。
ある態様において、増幅生成物の存在は、均一アッセイ(すなわち、発生中の生成物が増幅サイクル中に検出され、増幅後の操作が不要なアッセイ)で検出してもよい。ヌクレアーゼプローブを使用する均一系増幅アッセイは、米国特許第5,210,015号に記載されている。核酸インターカレート色素を使用する均一系増幅アッセイは、米国特許第5,871,908号及び6,569,627号に記載されている。均一アッセイはまた、伸長産物へのプローブのハイブリダイゼーションがプローブの酵素的消化と生じる蛍光の検出とを与える、1つ又はそれ以上の蛍光性プローブを使用してもよい(TaqMan(登録商標)probe method, Holland et al. (19919 P.N.A.S. USA 88:7276-7280)。他の方法は、2つの相互作用性蛍光色素で標識された2つのプローブを使用する。このようなプローブの例としては、「分子ビーコン」プローブ(Tyagi et al., (1996) Nat. Biotechnol., 14:303-308)、又は蛍光標識ヌクレアーゼプローブ(Livak et al., (1995) PCR Meth. Appl., 4:357-362)がある。
均一アッセイでは、反応は、各PCRサイクルでプローブの蛍光の上昇を示す増殖曲線により特徴付けられる(Holland et al., (前出)、及び米国特許第5,210,015号を参照)。各増殖曲線は、「サイクル閾値」又は「Ct」値によって特徴付けられる。より低いCt値は、増幅のより迅速な完了を表し、一方、より高いCt値は、増幅のより遅い完了を表す。より低いCt値はまた、標的核酸のより大きな初期投入を示し、より高いCt値は、より少ない初期投入量を示す。しかし対立遺伝子特異的PCRの場合、より低いCt値は効率的な増幅を示す。ブレイクスルー増幅中に、大量の非標的配列の存在にもかかわらず、非標的配列は非常に高いCt値を与える。高いCt値は、非標的核酸の非常に非効率的な増幅を反映する。
さらに別の態様において本発明は、非標的配列の増幅が低下している増幅反応(例えばPCR又はAS−PCR)を実施するのに必要な試薬を含むキットである。試薬は、少なくとも、標的ゲノムと複数の相同性領域を有することを特徴とするサプレッサーオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの態様では、少なくとも一つの相同性領域は、少なくとも15塩基対の長さであり、又は/及びサプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがり、又は/及び3’末端から4ヌクレオチド内に2以下のミスマッチを含む。いくつかの態様では、少なくとも1つの相同性領域は、サプレッサーオリゴヌクレオチドと標的ゲノム間に少なくとも75%の同一性の相同性を有する以外に、1つ又はそれ以上の以下の特性:少なくとも15塩基対の長さである;サプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがる;3’末端の最後の4ヌクレオチド内で2以下のミスマッチを含む、を有する。さらに別の態様において、オリゴヌクレオチドが標的ゲノムの相補鎖上に少なくとも2つの相同性領域を有する場合、オリゴヌクレオチドはサプレッサーオリゴヌクレオチドとしてキット内に含まれず、ここでこの相同性領域は、オリゴヌクレオチドと標的ゲノム配列との間に少なくとも75%の同一性を有し、この相同性領域は、約1000未満の塩基対により分離されている。本態様の変形において、本方法は、サプレッサーオリゴヌクレオチドは配列番号1〜5の核酸配列を含むか又はこれらからなる。
ある態様においてキットは、サプレッサーオリゴヌクレオチド以外に、1つ又はそれ以上の対立遺伝子特異的プライマー、1つ又はそれ以上の対応する共通プライマー、及び任意に1つ又はそれ以上のプローブからなる群から選択される少なくとも1つの他の試薬を含む。キットはさらに、増幅及び検出アッセイの実施に必要な試薬、例えばヌクレオシド3リン酸、少なくとも1つの核酸ポリメラーゼ、又は/及びポリメラーゼの機能に必要な緩衝液を含んでよい。ある態様において、プローブは検出可能に標識される。そのような態様において、キットは標識物を検出するための試薬を含んでよい。任意にキットはまた、PCRの実施を増強する試薬(混入を低減するためのdUTP及びウラシル−N−グリコシレート(UNG)、及び特異性を改善するためのベタイン)を含んでよい。
さらに別の態様において本発明は、非標的配列の増幅が低下している増幅反応(例えばPCR又は対立遺伝子特異的PCR)を実施するための反応混合物である。この混合物は、少なくとも、標的ゲノムと相同性の複数の領域を有することを特徴とするサプレッサーオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの態様では、相同性領域は、1つ又はそれ以上の以下の特性:サプレッサーオリゴヌクレオチドと標的ゲノム配列間に少なくとも75%の同一性を有する;少なくとも15塩基対の長さである;サプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがる;及びオリゴヌクレオチドの3’末端から最後の4塩基対内で、相同性領域は2以下のミスマッチを含む、を有する。ある態様では、少なくとも1つの相同性領域は、少なくとも15塩基対の長さであるか、又は/及びサプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがり、又は/及び3’末端から最後の4ヌクレオチド内に2以下のミスマッチを含む。ある態様において、少なくとも1つの相同性領域は、サプレッサーオリゴヌクレオチドと標的ゲノム間に少なくとも75%の同一性の相同性を有する以外に、1つ又はそれ以上の以下の特性:少なくとも15塩基対の長さである;サプレッサーオリゴヌクレオチドの3’末端にまたがる;3’末端からの4ヌクレオチド内に2以下のミスマッチを含む、を有する。ある態様において、この混合物は、サプレッサーオリゴヌクレオチド以外に、1つ又はそれ以上の対立遺伝子特異的プライマー、1つ又はそれ以上の対応する共通プライマー、及び任意に1つ又はそれ以上のプローブを含んでよい。ある態様において、この反応混合物はさらに、ヌクレオシド3リン酸、少なくとも1つの核酸ポリメラーゼ、又は/及びポリメラーゼの機能に必要な緩衝液を含んでよい。さらに別の態様において、オリゴヌクレオチドが標的ゲノムの相補鎖上に少なくとも2つの相同性領域を有する場合、オリゴヌクレオチドはサプレッサーオリゴヌクレオチドとして反応混合物内に含まれず、ここでこの相同性領域は、オリゴヌクレオチドと標的ゲノム配列との間に少なくとも75%の同一性を有し、この相同性領域は、約1000未満の塩基対により分離されている。本態様の変形において、サプレッサーオリゴヌクレオチドは、配列番号1〜5を有する核酸配列を含むか又はこれらからなる。
実施例1
PCRプライマーによるブレイクスルー増幅の抑制
この例では、ブレイクスルー増幅の抑制が、ヒトNRAS遺伝子のコドン12中のAS−PCR標的化変異において観察された。実施例1で使用されたプライマーとプローブは、表2に示される。配列番号6〜23から選択される上流プライマーは、ヒトNRAS遺伝子のエクソン2中のアミノ酸変化G12A、G12C、G12D、G12R、G12S、及びG12Vに対応する変異35G>C、34G>T、35G>A、34G>C、34G>A、及び35G>Tの1つに一致し、野生型配列とはミスマッチしていた。配列番号24〜26から選択される下流プライマーは、ヒトNRAS遺伝子のエクソン2の変異体と野生型配列の間で共通しており、検出プローブは配列番号27〜29から選択される。
標準的PCR混合物は、ヌクレオシド3リン酸(dUTPを含む)、DNAポリメラーゼ、0.1μMずつの選択的プライマー、0.1〜0.7μMの共通プライマー、検出プローブ、標的DNA(100コピーの変異体プラスミドを有する9900コピーの野生型K562細胞株、又は10,000コピーの野生型細胞株DNA、又は10,000コピーのNRAS野生型エクソン2又は3プラスミド)、及びウラシル−N−グリコシラーゼを含んだ。増幅と分析は、Roche LightCycler(登録商標)480 装置(Roche Applied Science, Indianapolis, Ind.)を使用して行われた。以下の温度プロフィール:95℃(10秒)〜62℃(30秒)を2サイクルの後に、93℃(10秒)〜62℃(30秒)のサイクリングを55回、が使用された。蛍光データは、55サイクルプログラムの各62℃工程の最初に採取された。
結果は、図1に示される。野生型ゲノムDNAの増幅は破線で示され、野生型配列を含有するプラスミドの増幅は太い実線で示され、変異型DNA(標的配列)の増幅は狭い実線で示される。この結果は、上流の変異特異的プライマーが配列番号24〜26から選択される下流のプライマーの1つと対合すると、非標的(野生型)配列のブレイクスルー増幅が検出されたことを示している。図1A(破線)を参照されたい。同じ変異特異的プライマーが、配列番号1〜5から選択された異なる下流のプライマーと対合すると、非標的(野生型)配列のブレイクスルー増幅は抑制された、図1Bを参照されたい。プラスミド中に存在する非標的配列の増幅が影響を受けず、抑制されない(太い実線)ことは、重要である。
実施例2
追加の抑制オリゴヌクレオチドによるブレイクスルー増幅の抑制
この例では、ブレイクスルー増幅の抑制が、ヒトNRAS遺伝子のコドン61中のAS−PCR標的化変異において観察された。実施例2で使用されたプライマーとプローブは、表3に示される。配列番号30〜47から選択される上流プライマーは、ヒトNRAS遺伝子のアミノ酸変化Q61Ha、Q61Hb、Q61K、Q61L、Q61P、及びQ61Rに対応する変異183A>T、183A>C、181C>A、182A>T、182A>C、182A>Gの1つに一致し、野生型配列とはミスマッチしていた。配列番号48〜50から選択される下流プライマー及び配列番号51〜53から選択される検出プローブは、NRAS遺伝子のエクソン3で変異体と野生型配列の間で共通している。配列番号1〜5から選択されるサプレッサーオリゴヌクレオチドは、この例で使用されるプライマー対により規定されるアンプリコンのいずれともハイブリダイズしない。
この例では、実施例1と同じ反応条件が使用されたが、上流プライマー及び下流プライマー以外に、配列番号1〜5から選択されたサプレッサーオリゴヌクレオチドの1つが0.1又は0.7μMで反応に加えられた。
結果は、図2に示される。野生型ゲノムDNAの増幅は破線で示され、変異型DNA(標的配列)の増幅は狭い実線で示される。この結果は、共通のプライマー及びQ61変異特異的プライマーからなるプライマー対を用いた場合、非標的配列のブレイクスルー増幅が検出されたことを示している。図2A(破線)を参照されたい。サプレッサーオリゴヌクレオチドが0.1μMで反応混合物中に存在した場合、非標的配列のブレイクスルー増幅は抑制されなかった、図2Bを参照されたい。しかし、サプレッサーオリゴヌクレオチドが反応混合物中に0.7μMで存在した場合、非標的配列のブレイクスルー増幅は抑制された。図2Cを参照されたい。この例では、すべてのプライマーが0.1μMで存在し、抑制オリゴヌクレオチドは0.1μm又は0.7μMのいずれかで存在した。
実施例3
サプレッサーオリゴヌクレオチドによる無関係な鋳型PI3KCAのブレイクスルー増幅の抑制
この例では、ブレイクスルー増幅の抑制が、ヒトPI3KCA遺伝子のコドン1049中のAS−PCR標的化突然変異で観察された。実施例3で使用されたプライマーとプローブは、表4に示される。配列番号54〜56から選択される上流プライマーは、ヒトPI3KCA遺伝子中のアミノ酸変化G1049Rに対応する変異3145G>Cに一致し、野生型配列とミスマッチしていた。配列番号57〜59から選択される下流プライマーと配列番号60と96及び61と97から選択されるプローブは、変異体配列と野生型配列の間で共通である。配列番号1〜5から選択されるサプレッサーオリゴヌクレオチド(ヒトNRAS遺伝子に特異的)は、この例で使用されたPI3KCAアンプリコンにハイブリダイズしない。
この例では、実施例1と同じ反応条件が使用されたが、上流プライマー及び下流プライマー以外に、配列番号1〜5から選択されたサプレッサーオリゴヌクレオチドの1つが1.0μMで反応に加えられた。
結果は、図3に示される。野生型ゲノムDNAの増幅は破線で示され、変異型DNA(標的配列)の増幅は狭い実線で示される。この結果は、G1049R特異的プライマーと共通プライマーからなるプライマー対を使用した場合、非標的(野生型)配列のブレイクスルー増幅が検出されたことを示している。図3A(破線)を参照されたい。反応混合物中に配列番号1〜5から選択されるサプレッサーオリゴヌクレオチドも存在した場合、非標的(野生型)配列のブレイクスルー増幅は抑制されず、標的(変異型G1049R)配列(実線)の特異的増幅に対する影響はなかった、図3Bを参照されたい。配列番号1〜5から選択された同じ抑制オリゴヌクレオチドも、PI3KCA変異1258T>C、1635G>T、1634A>G、及び1633G>Aを検出するために設計された対立遺伝子特異的PCRに加えられた。同じ傾向が観察された:標的(変異)配列の特異的増幅に対する影響は無く、非標的(野生型)配列のブレイクスルー増幅の抑制に対する影響もなかった(データは示していない)。
実施例4
サプレッサーオリゴヌクレオチドによる無関係な鋳型BRAFのブレイクスルー増幅の抑制
この例では、ヒトBRAF遺伝子のコドン469と600中のAS−PCR標的化変異で、ブレイクスルー増幅の部分的抑制が観察された。実施例4で使用されたプライマーとプローブは、表5に示される。コドン469中の変異について、上流プライマーは配列62〜70から選択された。これらのプライマーは、エクソン11中のコドン469で種々の変異に一致した。コドン600中の変異について、上流プライマーは配列番号75〜86から選択された。これらのプライマーは、エクソン15中のコドン600で種々の変異に一致した。コドン469の変異について、共通下流プライマーは配列番号71〜72から選択され、プローブは、配列番号73と98及び74と99から選択された。コドン600の変異について、下流プライマーは配列番号87〜89から選択され、プローブは配列番号90〜92から選択された。配列番号1〜5(ヒトNRAS遺伝子に特異的)から選択されるサプレッサーオリゴヌクレオチドは、この例で使用された任意のプライマー対により規定されるBRAFアンプリコンにハイブリダイズしない。
この例では、実施例3と同じ反応条件が使用された。
結果は図4に示される。野生型ゲノムDNAの増幅は破線で示され、BRAFコドン469と600標的の増幅は実線で示される。この結果は、コドン469変異と共通プライマーからなるプライマーの1つと一致するプライマーからなるプライマー対を使用した場合、非標的(野生型)配列のブレイクスルー増幅が検出されたことを示している。図4A(破線)を参照されたい。反応混合物中に配列番号1〜5から選択されるサプレッサーオリゴヌクレオチドも存在した場合、非標的(野生型)配列のブレイクスルー増幅が抑制され(点線)、変異配列の特異的増幅に対してわずかに影響があった(実線)。図4Bを参照されたい。コドン600変異と共通プライマーの1つと一致するプライマーからなるプライマー対を使用した場合、非標的(野生型)配列のブレイクスルー増幅が検出された。図4Cを参照されたい(破線)。反応混合物中に配列番号1〜5から選択されるサプレッサーオリゴヌクレオチドも存在した場合、非標的(野生型)配列のブレイクスルー増幅は部分的に抑制された。図4Dを参照されたい。BRAF系で観察された、非標的増幅の不完全な抑制と標的増幅に対するわずかな影響は、抑制現象が配列依存性であることを示唆する。
実施例5
線形プライマー伸長反応によるブレイクスルー増幅の抑制
この例では、NRAS鋳型のブレイクスルー増幅の抑制が、M13鋳型と一連のM13特異的プライマーの存在下で観察された。AS−PCRは、ヒトNRAS遺伝子のコドン12と61中の変異を標的とした。実施例5で使用されたM13プライマーは表6に示される。NRAS標的について、上流プライマーは配列番号30〜47から選択された。これらのプライマーは、ヒトNRAS遺伝子のアミノ酸変化Q61Ha、Q61Hb、Q61K、Q61L、Q61P、及びQ61Rに対応する変異183A>T、183A>C、181C>A、182A>T、182A>C、182A>Gの1つに一致し、野生型配列とはミスマッチしていた。配列番号48〜50から選択される下流プライマー及び配列番号51〜53から選択されるプローブは、ヒトNRAS遺伝子のエクソン3の変異体と野生型配列の間で共通している。配列番号6〜23から選択される上流プライマーは、ヒトNRAS遺伝子のエクソン2中の変異35G>C、34G>T、35G>A、34G>C、34G>A、及び35G>Tの1つに一致し、野生型配列とはミスマッチしていた。配列番号24〜26から選択される下流プライマー及び配列番号27〜29から選択される検出プローブは、ヒトNRAS遺伝子中のエクソン2の変異体と野生型配列の間で共通している。反応混合物はまた、ウイルス鋳型の線形増幅を確実にするために、バクテリオファージM13の1本鎖環状DNAと、同じ方向を向いた3つのプライマー(配列番号93〜95、表6)とを含有した。
この例では、実施例1と同じ反応条件が使用されたが、M131本鎖バクテリオファージ鋳型は10,000コピー/反応で加えられ、プライマー(配列番号63〜65)は、それぞれ0.033μMの等モルで総濃度が0.1μMになるように加えられた。
結果は、図5に示される。野生型ゲノムDNAの増幅は破線で示され、NRASコドン12又はコドン61変異体標的は実線で示される。この結果は、コドン61中の変異と共通プライマーとの1つと一致する対立遺伝子特異的プライマーからなるプライマー対を使用した場合、非標的(野生型)NRAS配列のブレイクスルー増幅が検出されたことを示している。図5A(破線)を参照されたい。反応混合物中にM13DNAとM13DNAの線形増幅を可能にする3つのプライマーが反応混合物中に存在した場合も、非標的(野生型)配列のブレイクスルー増幅は抑制された。図5Bを参照されたい。比較して、コドン12中の変異と共通プライマーの1つと一致する対立遺伝子特異的プライマーからなるプライマー対を使用した場合、非標的(野生型)NRAS配列のブレイクスルー増幅が検出された。図5Cを参照されたい(破線)。このブレイクスルー増幅は、M13DNAと線形増幅を可能にする3つのプライマーにより、抑制されなかった。図5Dを参照されたい。
実施例6
標的ゲノムに対して異なる程度の相同性を有するサプレッサーオリゴヌクレオチドによるブレイクスルー抑制
この例では、いくつかのサプレッサーオリゴヌクレオチドによるブレイクスルー増幅の抑制が、ヒトNRAS遺伝子のコドン12中のAS−PCR標的化変異で観察された。上流プライマーは配列番号6〜23から選択され、プライマーは、ヒトNRAS遺伝子のコドン12変異(アミノ酸変化G12A、G12C、G12D、G12R、G12S、及びG12Vに対応する35G>C、34G>T、35G>A、34G>C、34G>A、及び35G>T)の1つに一致し、野生型配列とはミスマッチしていた。上流プライマーは、ブレイクスルー増幅のサプレッサーとして作用する異なる下流プライマーと対合した。配列番号1〜5及び配列番号24〜26から選択される下流プライマーは、標的ゲノムと、異なる程度の相同性(本発明の方法に従って測定して、低、中、及び高相同性)を有する(実施例8及び図8を参照)。
この例では、実施例1と同じ反応条件が使用された。低、中、及び高相同性を有するサプレッサーオリゴヌクレオチドは0.1μMで使用された。
結果は、図6に示される。野生型ゲノムDNAの増幅は破線で示され、NRASコドン12標的の増幅は実線で示される。この結果は、本発明の方法により測定して標的ゲノムと最も高い程度の相同性を有する下流プライマー(配列番号1)が、最も高レベルの抑制(図6Cを参照)を与え示し、中程度の相同性を有する下流プライマー(配列番号2〜5)が、より低レベルの抑制を与えた(図6Bを参照)ことを示し、中程度の相同性を有する下流プライマー(配列番号2〜5)は、低レベルの抑制を与えた。図6Bを参照されたい。最も低い程度の相同性を有する下流プライマー(配列番号24〜26)は、野生型ブレイクスルー増幅に対して何の影響も無く、抑制を示さなかった(図6Aを参照)。抑制オリゴヌクレオチド(配列番号1〜5)は異なる程度の抑制を有するが、Ctにより測定される特異的増幅に対して負の影響が無かったことも、重要である。
実施例7
目的の領域内の相同性領域の選択
この例では、サプレッサーオリゴヌクレオチドを設計するための目的の領域としてヒトNRAS遺伝子が選択された。アルゴリズム「blastn」を使用して「ある程度同様の配列」を見つける選択肢を選択する緩和された条件下で、NRAS遺伝子のエクソン2からの488塩基対領域が、ヒトゲノム配列と比較すべき検索配列として使用された。図7は、この検索が、検索配列のヌクレオチド180〜270及び360〜450により定義される部分中の複数の相同性領域を明らかにすることを示す。これらの配列は、サプレッサーオリゴヌクレオチドの設計のための目的の領域として選択された。
実施例8
目的の領域からのサプレッサーオリゴヌクレオチドの選択
この例では、本発明により与えられる基準を満足するヒトゲノム中の相同性領域を決定するために、目的の領域からいくつかのオリゴヌクレオチドが設計され、BLAST(登録商標)分析にかけられた。図8は、反応中のブレイクスルー増幅を抑制するための、各オリゴヌクレオチドのパラメータと実際の能力とを示す。これらのパラメータは、列「nMer」のオリゴヌクレオチドの長さを含む。列「全ヒット数」は、プログラムBlantnが見つけることができたオリゴヌクレオチドと標的遺伝子との「Blastヒット」の総数である。プログラムの厳密性は、「やや類似の配列」に設定された。列「基準を満たすヒット」において、これは75%の同一性と3’末端で2未満のミスマッチの判断基準を満たすヒットの総数である。列「相同性の程度」は、以下:1つのみのヒットが、本発明により与えられた基準を満たす場合、標的ゲノムとの相同性の程度は「低い」と言われ、10又はそれ以下のヒットが基準を満たす場合、相同性の程度は「中程度」と言われ、10を超えるヒットが基準を満たす場合、相同性の程度は「高い」と言われる、のように割り当てられる値を含む。最後に、列「ブレイクスルー」は、オリゴヌクレオチドの存在下で、ブレイクスルー増幅が観察されたか否かを示す。