以下、本発明の実施形態について説明する。まず、気泡シールド工法に用いられるシールドマシンの概略、及び起泡材の概略について説明する。
図1(a)に示すように、本工法に用いられるシールドマシン1は、スキンプレート2と、隔壁3と、カッター4と、カッターモータ5と、気泡注入管6と、スクリューコンベア7と、土圧センサ8と、ベルトコンベア9と、消泡剤散布部10とを備えている。
スキンプレート2は、シールドマシン1の外殻部となる鋼製の筒状部材である。隔壁3は、スキンプレート2に設けられており、スキンプレート2の前側部分にチャンバー11を区画する。カッター4は、回転によって地中を掘削する部分であり、スキンプレート2よりも前方に配設されている。カッターモータ5は、カッター4を回転させるための駆動源であり、隔壁3の後側に設けられている。カッターモータ5の駆動力は支持アーム12を介してカッター4に伝達される。
気泡注入管6は、起泡材が発泡装置(図示せず)で発泡されることで得られたシェービングクリーム状の微細気泡を案内する部材である。気泡注入管6の先端はカッター4の前方に位置しているため、案内された微細気泡は切羽に向けて注入される。また、微細気泡はチャンバー11に注入してもよい。カッター4で掘削された掘削土は、このカッター4の回転によって気泡と混合されることで流動性が高められ、チャンバー11に流入する。そして、チャンバー11では、微細気泡の存在によって壁面への掘削土の付着が抑制される。また、土粒子同士の間に微細気泡が入り込むので、止水性も高められる。
スクリューコンベア7は、チャンバー11に流入した掘削土を後側に排出する装置である。土圧センサ8は、チャンバー11に流入した掘削土の圧力を測定する部材である。この土圧センサ8で測定された掘削土の圧力に応じて、シールドマシン1の推進力やスクリューコンベア7による掘削土の排出量が調整される。
ベルトコンベア9は、スクリューコンベア7から排出された土砂Xを立坑側へ移送する装置であり、消泡剤散布部10は、スクリューコンベア7で移送されている土砂Xに消泡剤を散布する装置である。スクリューコンベア7から排出された土砂Xには微細気泡が混合されているが、消泡剤の散布によって気泡を消すことができる。
微細気泡の基となる起泡材は、例えば図1(b)に示すように、気泡剤を主成分として含有するとともに増粘剤が添加されている。そして、ホウ酸塩等のゲル化剤は含まれていない。
気泡剤は、気泡の基となる成分であり、界面活性剤が用いられる。本実施形態では、この気泡剤としてアルファオレフィンスルホン酸塩(AOS)が用いられる。このAOSは、陰イオン界面活性剤であり、気泡剤として広く用いられている。増粘剤は、気泡を安定強化するための薬剤である。この実施形態では、砂礫地盤の掘削時において増粘剤としてキサンタンガムを用い、起泡材におけるキサンタンガム濃度を0.3%以上にすることを主要な特徴としている(詳細は後述する)。また、増粘剤にキサンタンガムを用いたことに伴い、消泡剤には塩化第二鉄水溶液を用いている。なお、塩化第二鉄水溶液以外にも、3価の鉄塩を含有する水溶液であれば消泡剤として用いることができる(詳細は後述する)。
ここで、キサンタンガムについて説明する。キサンタンガムは、微生物(Xanthomonas campestris)が菌体外に産出する多糖類であり、次式に示す一次構造をしている。すなわち、主鎖はβ−1,4結合したD−グルコースである。側鎖は、主鎖のD−グルコース残基1つおきにD−マンノース2分子とD−グルクロン酸が結合したものである。なお、側鎖の末端にあるD−マンノースは、ピルビン酸塩になっている場合があり、主鎖に結合したD−マンノースのC−6位はアセチル化されている場合がある。
キサンタンガムは、主鎖に対する側鎖の割合が大きく、この側鎖に含まれるカルボキシル基とピルビン酸に由来するマイナス荷電の非常に強い多糖類である。キサンタンガムは1〜100℃の水に可溶であり、冷水、常温下においても溶解することが可能である。1%水溶液におけるpHは5.0〜8.5と弱酸性から弱アルカリ性を示す。このキサンタンガムは、微生物の栄養源となり難いことから、起泡材の腐敗を抑制できる。さらに、キサンタンガムの水溶液は、静置状態での粘度は高いが、流動状態での粘度は比較的小さくなることから、ポンプ圧送に有利である。
このキサンタンガムの有用性を確認すべく、気泡混合土におけるスランプ試験、及び、気泡混合土における透水試験を行った。また、増粘剤水溶液の経時安定性試験(保存前後の粘度評価)、及び、微細気泡に対する消泡試験を行った。以下、これらの試験結果について説明する。
まず、気泡混合土におけるスランプ試験について説明する。このスランプ試験は、増粘剤にキサンタンガムを用いて作製した本実施形態の微細気泡について、土砂を一体にまとめ上げる能力を確認すべく行った。このスランプ試験では、図2から図8に示すサンプル1〜14を作製して試験を行った。なお、これらのサンプル1〜14における増粘剤は、キサンタンガムとグァガムを用いた。そして、キサンタンガムは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社のビストップ(登録商標)D−4120K(キサンタンガム30%含有品)を用いた。また、グァガムは、株式会社立花マテリアルから販売されているものを用いた。
ここで、サンプル1〜7は試料土として砂質土を用いたものであり、サンプル8〜13は試料土として砂礫土を用いたものである。これらのサンプル1〜13のうち、サンプル1〜3、8〜11は増粘剤としてキサンタンガムを用いた実施例であり、他のサンプルは増粘剤としてグァガムを用いた比較例である。
なお、図21に示すように、本実施形態における砂質土とは、前述の非特許文献1で定義される領域III(中砂層から粗砂層)に属するものである。同様に、本実施形態における砂礫土とは、この文献で定義される領域IV(中砂層から粗礫層)に属するものである。そして、何れの土砂も礫分を含んでいる。例えば、領域IIIでは細礫分や中礫分が比較的多く含まれ、領域IVでは中礫分〜粗礫分が比較的多く含まれている。
図2から図8に示すように、起泡材の主成分である気泡剤は、何れのサンプルでもAOSを用いており、0.15重量%となる量を水道水に添加した。そして、各サンプルは、増粘剤濃度や気泡添加量が個別に定められている。以下、サンプル毎に説明する。
図2に示すように、サンプル1は、水道水に対するキサンタンガム濃度を0.15重量%とし、約5倍(4.9倍)発泡の微細気泡を砂質土容積の10%添加したものである。サンプル2は、サンプル1と同じ微細気泡を砂質土容積の20%添加したものである。また、図3に示すように、サンプル3は、水道水に対するキサンタンガム濃度を0.3重量%とし、約5倍(4.8倍)発泡の微細気泡を砂質土容積の10%添加したものである。
図4に示すように、サンプル4は、水道水に対するグァガム濃度を0.50重量%とし、約5倍(5.1倍)発泡の微細気泡を砂質土容積の20%添加したものである。サンプル5は、サンプル4と同じ微細気泡を砂質土容積の30%添加したものである。また、図5に示すように、サンプル6は、水道水に対するグァガム濃度を1.00重量%とし、約5倍(5.2倍)発泡の微細気泡を砂質土容積の20%添加したものである。サンプル7は、サンプル6と同じ微細気泡を砂質土容積の30%添加したものである。
図6に示すように、サンプル8は、水道水に対するキサンタンガム濃度を0.3重量%とし、約5倍(5.2倍)発泡の微細気泡を砂礫土容積の20%添加したものである。また、サンプル9は、水道水に対するキサンタンガム濃度を0.6重量%とし、約5倍(4.9倍)発泡の微細気泡を砂礫土容積の20%添加したものである。また、図7に示すように、サンプル10は、水道水に対するキサンタンガム濃度を0.9重量%とし、約5倍(4.4倍)発泡の微細気泡を砂礫土容積の20%添加したものである。サンプル11は、水道水に対するキサンタンガム濃度を1.2重量%とし、約5倍(4.3倍)発泡の微細気泡を砂礫土容積の20%添加したものである。
図8に示すように、サンプル12は、水道水に対するグァガム濃度を1.00重量%とし、約5倍(4.7倍)発泡の微細気泡を砂礫土容積の30%添加したものである。また、サンプル13は、サンプル12と同じ微細気泡を砂礫土容積の40%添加したものである。
以上の各サンプルは、次の手順で作製した。所定量(本実施形態では12kg)の試験土を準備するとともに、気泡剤と増粘剤と水に溶解させて起泡材を作製した。作製した気泡剤を、容積が5倍程度となるように発泡させて微細気泡を得た。得られた微細気泡を前述の添加量だけ取り分け、速やかに試料土に添加して混ぜ合わせた。微細気泡が試料土に対して均一に混ざったならば、直ちにスランプ試験を行った。スランプ試験は、JIS A 1101「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠して行った。
以下、試験結果について説明する。まず、砂質土の試験結果(サンプル1〜7)について説明する。この試験では、スランプ値が10cmから20cmの範囲に入っているサンプルを、土砂を纏める能力を有しているとして好適と判定した。また、スランプコーンを外した状態における試料土の性状(流動性、まとまり感)を観察した。
図2に示すように、サンプル1(キサンタンガム0.15%,気泡10%添加)に関し、スランプ値は12.0cmであった。そして、試料土には流動性及び土砂を纏める力が感じられた。また、試料土の底面から離水が認められたが、スランプは釣り鐘型となった。サンプル2(キサンタンガム0.15%,気泡20%添加)に関し、スランプ値は18.5cmであった。試料土に流動性が感じられたが、土砂を纏める力は弱いと感じられた。また、スランプは若干流れ気味であった。これは、気泡の添加量が多いことに起因すると考えられた。
図3に示すように、サンプル3(キサンタンガム0.3%,気泡10%添加)に関し、スランプ値は13.0cmであった。試料土には流動性、粘性、及び、土砂を纏める力が感じられた。そして、スランプは釣り鐘型に近い形状となった。
図4に示すように、サンプル4(グァガム0.50%,気泡20%添加)に関し、スランプ値は1.0cmであった。試料土に流動性は感じられず、パサつく感じがあった。そして、試料土の底面から離水が認められ、かつ、スランプは直立状態であった。すなわち、試料土はスランプコーンの形状を保ったまま直立していた。サンプル5(グァガム0.50%,気泡30%添加)に関し、スランプ値は20.0cmであった。試料土に流動性が感じられ、多少のまとまり感があったものの、パサつく感じが強かった。そして、スランプは流れる感じが強かった。
図5に示すように、サンプル6(グァガム1.00%,気泡20%添加)に関し、スランプ値は0.5cmであった。試料土には、多少のまとまり感あるものの流動性は感じられず、試料土はスランプコーンの形状を保ったまま直立していた。サンプル7(グァガム1.00%,気泡30%添加)に関し、スランプ値は17.5cmであった。試料土には流動性、及び、土砂を纏める力が感じられた。そして、スランプは形を維持しようとしていた。しかしながら、キサンタンガムを用いた各サンプルと比較した場合、気泡添加量を増やさねばならず、かつ、増粘剤濃度を高めなければならない点で劣っていた。
次に、砂礫土の試験結果(サンプル8〜13)について説明する。この試験でも、スランプ値が10cmから20cmの範囲に入っているサンプルを好適と判定し、スランプコーンを外した状態における試料土の性状(流動性、まとまり感)を観察した。
図6に示すように、サンプル8(キサンタンガム0.3%,気泡20%添加)に関し、スランプ値は17.0cmであった。試料土には流動性は感じられたが、土砂を纏める力は非常に弱いと感じられた。このサンプル8では、スランプの流れ出しが認められた。サンプル9(キサンタンガム0.6%,気泡20%添加)に関し、スランプ値は11.5cmであった。試料土には流動性と土砂を纏める力が感じられた。流動性に関しては、若干重めの(挙動が遅い)感じがあった。スランプは形を維持しようとし、肩部からの崩れ落ちが認められた。
図7に示すように、サンプル10(キサンタンガム0.9%,気泡20%添加)に関し、スランプ値は17.0cmであった。試料土には流動性が感じられ、かつ、土砂を纏める力が非常に強いと感じられた。さらに、スランプは形を維持していた。サンプル11(キサンタンガム1.2%,気泡20%添加)に関し、スランプ値は15.0cmであった。試料土には流動性が感じられ、かつ、もちもちしており土砂を纏める力が感じられた。スランプは釣り鐘型となり、肩部からの流れ出しが認められた。
図8に示すように、サンプル12(グァガム1.00%,気泡30%添加)に関し、スランプ値は15.5cmであった。試料土に流動性は感じられたが、土砂を纏める力は弱いと感じられた。スランプは形を維持しようとするが、肩部からの崩れ落ちが認められた。サンプル13(グァガム1.00%,気泡40%添加)に関し、スランプ値は19.0cmであった。試料土に強い流動性が感じられ、添加量過多であることを伺わせた。土砂を纏める力は若干感じられたが、スランプは流れる感じが強かった。これらのサンプル12、13では、気泡添加量を増やさねばならない点で、キサンタンガムを用いた各サンプルよりも劣っていた。
以上のスランプ試験について考察する。砂質土に関し、増粘剤としてキサンタンガムを用いる場合、グァガムを用いる場合よりも低い濃度において、高い流動性と土砂の纏まり感が得られるといえる。図9及び図10は、上記サンプル1〜7の他、同様の手順で行った他のサンプルのスランプ値を気泡添加量で整理した結果である。この試験結果より、起泡材におけるキサンタンガム添加量を0.15〜0.3重量%に定めることで、グァガム添加量を0.5重量%に定めた場合よりも良好なスランプ性能が得られることが判った。そして、増粘剤としてキサンタンガムを用いた場合、土砂の纏まり感が得やすく、適した流動性を与えられる点で、グァガムを用いるよりも有利であることが判った。
また、増粘剤としてキサンタンガムを用いることで、グァガムでは適用が困難であった砂礫土についても、流動性と土砂の纏まり感が得られることが判った。図11は、キサンタンガムの気泡添加量20%としたサンプル9〜11の他、気泡添加量を異ならせた他のサンプルのスランプ値を加えた結果である。この試験結果より、起泡材におけるキサンタンガム添加量を0.6〜1.2重量%に、気泡添加量を10〜20%に定めることで、砂礫土に対して適した流動性を付与できることが判った。
さらに、砂質土と砂礫土の結果を総合すると、掘削中の地盤が砂質土から砂礫土に、或いは、砂礫土から砂質土に変化したとしても、起泡材におけるキサンタンガム添加量を0.15〜1.2重量%の範囲で変化させることで、増粘剤の種類の変更やホウ砂溶液用に別の配管を設置するような手間、コストをかけずとも掘削された土砂について適切な流動性を付与できることが判った。
ところで、前述のスランプ試験は、主として掘削された土砂の流動性や纏まり感を評価する試験であり、止水性を評価するものではない。そこで、微細気泡の止水性を評価すべく透水試験を行った。以下、この透水試験について説明する。
図12に示すように、この透水試験では、ケース1〜4からなる4つのケースに対して試験を行った。各ケースの試験において、試験土は砂礫土(図21の領域IVに属するもの)を用いた。気泡剤は、スランプ試験と同じくAOSを用い、水道水に対して0.15重量%となる量を添加した。
ケース1は比較例であり、増粘剤としてグァガムを用い、水道水に対して1重量%となる量を添加した。ケース2〜4は実施例であり、増粘剤としてキサンタンガムを用いた。そして、ケース2では、0.3重量%となる量を水道水に添加した。同様に、ケース3では0.6重量%となる量を、ケース4では1.2重量%となる量を、それぞれ水道水に添加した。なお、各ケースにおける起泡材の発泡倍率は、容積で5倍程度(ケース1,4=4.9倍,ケース2,3=5.0倍)とした。また、微細気泡の試験土への添加割合は、30%とした。
各ケースのサンプルは、次の手順で作製した。所定量(本実施形態では12kg)の試験土を準備するとともに、気泡剤と増粘剤と水に溶解させて起泡材を作製した。作製した起泡材を発泡させて微細気泡を得た。得られた微細気泡を規定量取り分け、速やかに試料土に添加して混ぜ合わせた。微細気泡が試料土に対して均一に混ざったならば、直ちに透水試験を行った。
透水試験は、図13(a)に示す試験装置を用いて行った。この試験装置は、透水カラム21とメスシリンダー22とを有している。そして、透水カラム21の底部にシリコンチューブ23の上端を接続し、シリコンチューブ23の下端をメスシリンダー22の内側空間に導いている。透水カラム21は、気泡混合土が充填される容器であり、図13(b)に示すように、直径20cmの有底円筒状の透明部材である。メスシリンダー22は、シリコンチューブ23を通じて案内される水を貯留して計量する。
この透水試験では、前述の手順で作製された気泡混合土を、深さ20cmとなるように敷き詰めた。次に、敷き詰めた気泡混合土の上から深さ10cmとなる量の水を投入し、2Lの水がメスシリンダー22に貯留されるまでの経過時間(2L通過時間)を計測した。そして、計測された2L通過時間から透水係数を算出した。
試験結果を図12に示す。比較例のケース1(グァガム1%)では、2L通過時間が2837s、透水係数が1.50×10−3cm/sであった。これに対し、実施例のケース2(キサンタンガム0.3%)では2L通過時間が5967s、透水係数が7.11×10−4cm/s、ケース3(キサンタンガム0.3%)では2L通過時間が18820s、透水係数が2.26×10−4cm/sであった。
これらのケース1〜3では、図14(a)に示すように、透水試験開始前において気泡混合土Mは密に充填されていたが、図14(b)に示すように、試験終了時における気泡混合土Mには水みちRが形成されていた。この水みちRは、試験終了直前に形成されたものであり、水みちRが形成されるまでは気泡混合土Mによる止水性が保たれていた。そして、ケース1とケース2,3とを比較すると、ケース2,3の気泡混合土は、ケース1の気泡混合土よりも透水係数が1桁小さくなっており、十分に高い止水性を有することが理解できる。これは、増粘剤としてキサンタンガムを用いると、ゲルを形成しないにも関わらず、得られた微細起泡が従来のゲル化気泡に近い特性を有し、更には従来のゲル化気泡よりも優れた物性(止水性、まとまり感、流動性等)を有するためと考えられる。
また、実施例のケース4(キサンタンガム1.2%)では、試験開始から9000sが経過しても水の通過量が2Lに届かず、55ccであった。このため、9000sと55ccとを用いて透水係数を求めた。その結果、透水係数は1.30×10−5cm/sであり、ケース2,3の気泡混合土よりも透水係数がさらに小さくなっていた。このことから、キサンタンガムの添加量を増やすことで微細気泡の強度が一層高められるといえる。その結果、ケース4の気泡混合土では十分に高い止水性が得られたと解される。
以上の透水試験について考察する。増粘剤としてキサンタンガムを用いたケース2〜4では、増粘剤としてグァガムを用いたケース1よりも十分に高い止水性を発揮することが確認された。これは、増粘剤としてキサンタンガムを用いると、前述したように、ゲルを形成しないにも関わらず、得られた微細起泡が従来のゲル化気泡に近い特性を有するためと考えられる。
この透水試験において、ケース2はキサンタンガムの添加量が最も少なく、水道水に対して0.3重量%であった。このため、起泡材の増粘剤としてキサンタンガムを用いた場合、その添加量を少なくとも0.3重量%以上に定めることで十分な止水性が得られ、噴発を防止できると考えられる。また、礫分の割合が増えた場合には、キサンタンガムの添加量を増やすことで、噴発防止に必要な止水性が得られると考えられる。
次に、増粘剤水溶液の経時安定性試験について説明する。この安定性試験は、実際の工事現場での起泡材の保存性を評価すべく行ったものである。この安定性試験では、通常、土壌菌が付着している工事現場用の溶解設備での製液、貯留を想定し、キサンタンガム0.3%、グァガム1%を溶解した水道水(増粘液)に対し、一般的な土壌菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC3899)を、植菌量4.3×10個/mLとなるよう添加した。そして、土壌菌添加後の増粘液を20℃及び30℃の温度雰囲気下で72時間保管し、粘度を測定するともに性状を評価した。
粘度の測定結果について説明する。図15(a)に示すように、土壌菌添加直後(初発)における増粘液の粘度は、グァガムが8200mPa・sであり、キサンタンガムが1900mPa・sであった。そして、72時間保管後における増粘液の粘度は、20℃保管のグァガム増粘液が5800mPa・sであり、キサンタンガム増粘液が1890mPa・sであった。また、30℃保管のグァガム増粘液が100mPa・sであり、キサンタンガム増粘液が1850mPa・sであった。
そして、図15(b)に示すように、初発粘度を100%とした72時間保管後における各増粘液の粘度比率は、20℃保管のキサンタンガム増粘液が99.4%、30℃保管のキサンタンガム増粘液が97.3%であるのに対し、20℃保管のグァガム増粘液が70.7%、30℃保管のグァガム増粘液が1.2%であった。加えて、20℃保管のグァガム増粘液では腐敗臭が発生しており、30℃保管のグァガム増粘液では強烈な腐敗臭が発生していた。一方、キサンタンガム増粘液については、腐敗臭の発生は認められなかった。
以上の結果より、増粘液における粘度低下と腐敗臭の発生には因果関係が認められ、グァガム増粘液では微生物の繁殖によって増粘液の粘度低下が生じていると解される。一方、キサンタンガム増粘液では微生物は繁殖し難いことが確認された。このため、増粘剤としてキサンタンガムを用いると、起泡材の作り置きが可能になり、気泡シールド工法における作業性を向上させることができる。
次に、微細気泡に対する消泡試験について説明する。詳細は後述するが、増粘剤としてキサンタンガムを用いて作製された微細気泡は、既存の消泡剤を用いても消泡され難いという特性があった。そこで、キサンタンガム増粘剤を用いて作製された微細気泡の消泡剤を得る目的で、この消泡試験を行った。
前述したように、キサンタンガムはマイナス荷電の強い多糖類であり、多価金属塩を加えることでゲル化することが知られている。本知見から、ゲルを形成する多価金属塩含量を更に上回る量の多価金属塩を添加することで、キサンタンガムに凝集が生じて、消泡されると考えた。
最初に、代表的な鉄塩である塩化第二鉄、硫酸第一鉄、及び、硫酸第二鉄を用い、これらの水溶液を消泡剤として試験を行った。塩化第二鉄水溶液は、水溶液中の鉄含有率が12.8重量%となるように塩化第二鉄を水道水に溶解して作製した。硫酸第一鉄水溶液は、水溶液中の鉄含有率が5.5重量%となるように硫酸第一鉄を水道水に溶解して作製した。硫酸第二鉄水溶液は、水溶液中の鉄含有率が11重量%となるように硫酸第二鉄を水道水に溶解して作製した。
これらの水溶液を原液(100%溶液)とし、1%希釈液から原液まで希釈率を段階的に変化させて消泡剤を作製した。今回の試験では、気泡剤としてAOSを用い、増粘剤としてキサンタンガムを用いて起泡材を作製した。AOS濃度(添加量)は0.15重量%とし、キサンタンガム濃度は、0.3%と1.2%の2種類とした。そして、各起泡材100mLを500mLビーカーに投入し、約5倍に発泡させて試験に用いた。すなわち、発泡で得られた微細気泡に対して所定量の消泡剤を投入し、攪拌及び観察を行った。ここで、消泡剤の使用量は10mLとした。これは、シールド工法における消泡剤の使用量が、起泡材量の10%に定められていることによる。
最初に、キサンタンガム濃度0.3%の試験結果について説明する。この試験では、消泡剤として塩化第二鉄水溶液と硫酸第一鉄水溶液を用いた。
図16及び図17に示すように、消泡剤として塩化第二鉄水溶液を用いた上段のケースでは、希釈率5〜50%のそれぞれにおいて、泡状部分の容積が減少し、ビーカーの底部に液体が溜まっていることが確認された。このことから、消泡剤の添加によって固形分の凝集が生じ、分離された液体分がビーカーの底部に溜まったものと考えられた。そして、図16及び図17における上段左端の写真に示すように、気泡の高さは500mLビーカーの4割程度の高さとなっている。消泡前の気泡容積は約500mLであったことから、消泡剤の添加によって6割程度の気泡が消滅したといえる。
一方、消泡剤として硫酸第一鉄水溶液を用いた下段のケースでは、図16及び図17における下段の写真に示すように、気泡容積は半分程度にしているものの、液体分の分離は確認できなかった。これは、原液を使った実験でも同じであった。このことから、同じ鉄塩であっても、塩化第二鉄の方が硫酸第一鉄よりも高い消泡効果を示すことが判った。
次に、キサンタンガム濃度1.2%の試験結果について説明する。この試験では、消泡剤として塩化第二鉄水溶液、硫酸第一鉄水溶液、硫酸第二鉄水溶液を用いた。
図18及び図19に示すように、消泡剤として塩化第二鉄水溶液を用いた上段のケース、及び、硫酸第二鉄水溶液を用いた下段のケースでは、希釈率5〜50%のそれぞれにおいて、泡状部分の容積が減少し、ビーカーの底部に液体が溜まっていることが確認された。このことから、キサンタンガム濃度を高めた微細気泡であっても、これらの消泡剤であれば十分に消泡できると考えられた。
一方、消泡剤として硫酸第一鉄水溶液を用いた中段のケースでは、気泡の高さが最大で3割程度しか減少しなかった。このことから、硫酸第一鉄水溶液は、キサンタンガム濃度を高めた微細気泡に対する消泡剤としては、効果が少ないと考えられた。このように、硫酸第一鉄水溶液と硫酸第二鉄水溶液とで、効果に違いが見られた理由としては、鉄の価数にあると考えられた。これは、キサンタンガムはマイナス荷電の強い多糖類であることから、プラス荷電の強い鉄塩の方が反応し易いと解されるためである。すなわち、プラス荷電の強い鉄塩の方が高い消泡性能を有しているといえる。
また、比較例として、前述した2種類の起泡材(キサンタンガム濃度0.3%,1.2%)で作製された微細気泡に対し、既存の消泡剤を用いて消泡試験を行った。ここで、既存の消泡剤としては、OK−01(シリコンオイル),OK−02(セルラーゼ),OK−03(マンナーゼ)を用いた。加えて、既存の消泡剤における有効性を確認すべく、シールド工法技術協会が指定するAタイプ気泡をOK−01で消泡する試験も行った。
図20に示すように、増粘剤としてキサンタンガムを用いて作製した微細気泡は、既存の消泡剤で消滅させることは困難であることが判った。なお、この試験で用いたOK−01は、Aタイプ気泡を完全に消泡できていることから、品質に問題はないといえる。
消泡試験の結果について考察する。増粘剤としてキサンタンガムを用いて作製された微細気泡は、多価金属塩と反応することで凝集し、消泡されると考えられる。このため、鉄塩以外の金属塩(例えば、銅、亜鉛、アルミニウムの塩化物、硫酸塩、硝酸塩)であっても、微細気泡の消泡剤に使用できると考えられる。さらに、2価の金属塩よりも3価の金属塩の方が良好な消泡性が得られる。なお、金属塩に関しては、土壌への混合した際の環境負荷や消泡性を考えると、鉄塩やアルミニウム塩が好ましいといえる。そして、消泡剤として塩化第二鉄水溶液を用いると、消泡後の土砂の有効利用が容易である。
ここで、前述のスランプ試験、透水試験、経時安定性試験、及び、消泡試験の試験結果を総括する。起泡材の増粘剤としてキサンタンガムを用いる場合、図21の領域IIから領域IVに属する地盤に対し、キサンタンガムの添加量を増減することで対応できると考えられる。
例えば、図21の領域IIに属する地盤に対しては、水道水に対して0.15重量%かそれ以下の少ない添加量であっても、流動性を高めることができ、土砂を纏めることができる。そして、領域IIIに属する地盤に対しては、水道水に対して0.3から0.9重量%程度の添加量にすることで、流動性を高めることができ、土砂を纏めることができる。加えて、礫分の割合が増えることで問題となる、地下水流入に起因する噴発についても防止できる。さらに、領域IVに属する地盤に対しては、水道水に対して0.9重量%以上の添加量にすることで、同様の作用効果が得られる。さらに、起泡材の作り置きが可能となり、工事の効率化にも有用である。
このように、掘削土砂に含まれる礫分が多くなる程にキサンタンガムの添加量を増やし、少なくなる程に添加量を減らすことで、領域IIから領域IVに属する地盤に対して、気泡シールド工法による掘削を行うことができる。その際に必要な作業は、キサンタンガムの添加量を調整するだけであるため、気泡シールド工法の作業効率を向上させることができる。
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。
例えば、気泡剤に関し、他の種類の界面活性剤を用いてもよい。例えば、アルキル硫酸塩(AS)、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩(AES)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)を用いてもよい。