次に、本発明の実施の形態を説明する。
〔遮水壁構築用の薬剤〕
本形態の薬剤は、例えば、掘削装置などを用いて対象地盤を掘削し、この掘削により形成された当該地盤中の土砂に薬剤を供給し、撹拌して遮水壁を構築する際に、当該薬剤として用いられるものであり、スメクタイトを含む粘土鉱物(以下、単に「粘土鉱物」ともいう。)が配合された薬剤である。
本形態において、処理の対象となる地盤は、特に限定されない。ただし、対象地盤が、例えば、海岸域や、海上、産業廃棄物処分用地、又はこれらの跡地などの海水や汚染水などの電解質が溶けた水分を含む地盤であると、本発明による効果がいかんなく発揮される。また、スメクタイトとは、モンモリロナイトとよく似た結晶構造及び特性を示す鉱物のグループであり、例えば、モンモリロナイトのほか、バイデライトやノントロナイト、サボナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイトなどを例示することができる。モンモリロナイトを含む粘土鉱物としては、例えば、ベントナイトなどが存在する。
本形態の薬剤は、炭酸ソーダとともに、珪酸ナトリウム(水ガラス)や珪酸カリウム等の珪酸アルカリが配合され、また、必要に応じて苛性ソーダが配合される。もっとも、この苛性ソーダの配合量を減らすことがと好ましいのは、前述したとおりである。
ここで、対象地盤が電解質の溶けた水分を含むと、この電解質が粘土鉱物に作用して、脱水量の増加(膨潤作用の阻害)を招く。この脱水量の増加により、構築された遮水壁の遮水性が低下する。しかしながら、炭酸ソーダとともに、珪酸ナトリウム等の珪酸アルカリが配合され、必要に応じて苛性ソーダが配合された薬剤を用いると、電解質が本形態の薬剤と接触して不溶化され、粘土鉱物に接触し難くなり、脱水量の増加を抑えることができる。
以上の粘土鉱物に作用する電解質としては、例えば、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンが存在する。そして、電解質が粘土鉱物に作用しないようにするためには、当該イオンが粘土鉱物に接触するのを阻止するのが好適であり、この阻止の方法としては、当該イオン自体を不活性化してしまう方法が考えられる。
なお、例えば、海水1リットルには、金属化合物である「塩(えん)」が約34g溶けている(海水の塩分濃度は約3.4%)。そのうち食塩とも呼ばれている塩化ナトリウム(NaCl)は77.9%(25g)であり、順に塩化マグネシウム(MgCl2)9.6%、硫酸マグネシウム(MgSO4)6.1%、硫酸カルシウム(CaSO4)4.0%、塩化カリウム(KCl)2.1%、その他0.3%であり、塩素イオン(Cl-)18.98g/L、硫酸イオン(SO4 2-)2.65g/L、ナトリウムイオン(Na+)10.56g/L、カリウムイオン(K+)0.38g/L、マグネシウムイオン(Mg2+)1.27g/L、カルシウムイオン(Ca2+)0.4g/Lとなる。これらのイオン(電解質)のうち、粘土鉱物を用いて構築した遮水壁に最も影響を与えるのは、マグネシウムイオンである。
[炭酸ソーダ]
電解質たるカルシウムイオン、マグネシウムイオンが溶けた海水に炭酸ソーダを供給すると、次の反応を示す。
Na2CO3 + Ca2+,Mg2+ → CaCO3,MgCO3 + 2Na+
そして、CaCO3は、溶解度が0.0015g/水100g(25℃)と極めて小さいため、炭酸ソーダの供給によって、カルシウムイオンの大部分が不活性化される。
[苛性ソーダ]
電解質たるカルシウムイオン、マグネシウムイオンが溶けた海水に苛性ソーダを供給すると、次の反応を示す。
NaOH + Ca2+,Mg2+ → Ca(OH)2,Mg(OH)2 + 2Na+
そして、Mg(OH)2は、溶解度が0.0009g/水100g(17℃)と極めて小さいため、苛性ソーダの供給によって、マグネシウムイオンの大部分が不活性化される。
[炭酸ソーダ及び苛性ソーダ]
MgCO3は、溶解度が0.1518g/水100g(19℃)であり、また、Ca(OH)2は、溶解度が0.185(0℃)であり、いずれも溶解度が相対的に大きい。したがって、炭酸ソーダ及び苛性ソーダの両方を使用した方が、より好ましく、当初、炭酸ソーダ及び苛性ソーダの両方が配合された薬剤を開発した。
なお、参考として、表1に、海水に対して炭酸ソーダ及び苛性ソーダを供給した場合のマグネシウムイオン及びカルシウムイオンの濃度を示す。
[珪酸ナトリウム等の珪酸アルカリ]
しかしながら、前述したように苛性ソーダの配合量は、減らすのが好ましい。そこで、本発明者らは、さまざまな試験・検討を行い、結果、炭酸ソーダとともに、珪酸ナトリウム等の珪酸アルカリを配合し、この珪酸アルカリ配合による効果によって、苛性ソーダの配合量を減らせることを知見した。以下、珪酸アルカリが珪酸ナトリウムである場合を例に説明する。
(珪酸ナトリウム配合による物理的効果)
電解質たるアルカリ土類金属イオン(カルシウムイオン、マグネシウムイオン等)が溶けた海水に、珪酸ナトリウムを供給すると、海水中の塩分による塩析効果によって、珪酸ゲルが生成し遮水壁中の間隙に充填されて、目止め機能を発揮するため、構築された遮水壁の遮水性が向上する。
(珪酸ナトリウム配合による化学的効果)
電解質たるアルカリ土類金属イオン(カルシウムイオン、マグネシウムイオン等)が溶けた海水に、珪酸ナトリウムを供給すると、次の反応を示す。
Na2O・nSiO2 + Ca2+,Mg2+ → CaO・nSiO2↓,MgO・nSiO2↓ + 2Na+
そして、MgO・nSiO2は不溶であり、また、CaO・nSiO2は溶解度が0.0095g/水100g(17℃)と極めて小さいため、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの大部分が不活性化されることになる。しかも、珪酸ナトリウム由来のナトリウムイオン(アルカリイオン)によって、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンを水酸化物として不溶化させ、前述した炭酸ソーダ及び苛性ソーダの両方の作用効果を奏するため、粘土鉱物の脱水量増加、遮水性低下を防止するに極めて優れる。
ここで、当初は、供給する珪酸ナトリウムのモル比(SiO2/Na2O)を小さくすると、上記化学的効果が大きくなり、他方、供給する珪酸ナトリウムのモル比を大きくすると、上記物理的効果が大きくなると推定された。しかしながら、本発明者らが、詳細な試験・検討を行ったところ、好ましいとされる珪酸ナトリウムのモル比は、土砂に対する苛性ソーダの供給量によって変化することが知見された。
具体的には、土砂に対する苛性ソーダの供給量が0kg/m3以上0.4kg/m3未満の場合は、モル比2.0以上、好ましくはモル比3.1〜5.0、土砂に対する苛性ソーダの供給量が0.4kg/m3以上1.1kg/m3未満の場合は、モル比2.6以上、好ましくは2.6〜5.0、土砂に対する苛性ソーダの供給量が1.1kg/m3以上1.9kg/m3以下の場合は、モル比3.3以上、好ましくはモル比3.6〜5.0である。
珪酸ナトリウムのモル比が上記下限値以上であると、珪酸ナトリウム配合による効果が確実に奏せられ、苛性ソーダの配合量をより減らすことができる。また、珪酸ナトリウムのモル比が上記好ましいとされる範囲の下限値以上であると、珪酸ナトリウムを配合することなしに苛性ソーダを配合した場合において最も遮水性が高くなる場合を上回る遮水性の遮水壁を構築することができる。他方、モル比5を超える珪酸ナトリウムは不安定であり、実用性が低下するため、珪酸ナトリウムのモル比は、上記のとおり5.0以下であるのが好ましい。
苛性ソーダの供給量が1.9kg/m3を超えると、土砂やその周辺地盤に与える影響が大きくなるため、苛性ソーダの供給量は、1.9kg/m3以下にするのが好ましい。
一方、珪酸ナトリウムは、配合量が少な過ぎると以上の効果が奏せられず、他方、配合量が多過ぎると土砂の粘度が高くなって撹拌効率が低下する。したがって、珪酸ナトリウムの配合量は、SiO2換算で、1〜20kg/m3とするのが好ましく、1〜10kg/m3するのがより好ましい。
[コロイダルシリカ]
本形態の薬剤は、炭酸ソーダや珪酸アルカリとともにコロイダルシリカを配合しても好ましいものとなる。コロイダルシリカを配合すると、下記に示す効果によって、構築される遮水壁の遮水性が向上する。しかも、コロイダルシリカは、薬剤や土砂の粘度増加を招かないため、施工面で有利である。
(コロイダルシリカの化学的効果及び物理的効果)
珪酸ナトリウム等の珪酸アルカリと比べて、コロイダルシリカはアルカリ度が低い。コロイダルシリカを配合した場合は、珪酸ナトリウムを配合した場合と比べて、アルカリによるアルカリ土類金属イオン(マグネシウムイオン、カルシウムイオン等)の不溶化効果が小さい。また、珪酸のコロイド粒子は珪酸ナトリウム中の珪酸よりも反応が緩慢なため、アルカリ土類金属イオンとの反応性も低いと考えられる。しかしながら、塩析によってコロイド粒子が凝集するため、物理的効果は期待することができる。また、アルカリ度が低いと薬剤や土砂の粘度を増加させにくく、施工面で有利である。
また、本発明者らが、詳細な試験・検討を行ったところ、コロイダルシリカは、平均粒径及び土砂に対する苛性ソーダの供給量によって効果の程度が変化することが知見された。具体的には、土砂に対する苛性ソーダの供給量が0〜1.9kg/m3である場合においては、コロイダルシリカの平均粒径が8〜38nmであれば、確実にコロイダルシリカ配合による作用効果が奏せられることが知見された。
もっとも、コロイダルシリカは、粒径が小さ過ぎても、大き過ぎても以上の効果が奏せられず、また、配合量が多過ぎると不経済となる。したがって、コロイダルシリカの配合量は、SiO2換算で、0.5〜10kg/m3とするのが好ましく、0.5〜5kg/m3とするのがより好ましい。
[その他]
以上のほか、本形態の遮水壁構築用の薬剤には、Na型ゼオライトを配合するのも、好ましい形態である。ゼオライトは、陽イオン交換能(CEC)が高い。例えば、前田建設工業の人工ゼオライトのCECは、200cmol/kg以上である。したがって、ゼオライトを配合すると、アルカリ土類金属イオンを吸着、除去できると考えられ、構築される遮水壁の遮水性が低下するのを阻止することができる。
ゼオライトの配合量は、通常5〜50kg/m3、好ましくは10〜30kg/m3である。
また、本形態の遮水壁構築用の薬剤には、シリカフュームを配合するのも、好ましい形態である。シリカフュームは、フェロシリコン、電融ジルコニア、金属シリコンの製造時に発生する平均粒径0.1〜0.3μmと非常に細かい球状のシリカ微粒子である。シリカフュームを配合すると、当該シリカフュームが遮水壁中の間隙に充填された状態になるため、目止め機能が発揮されて遮水壁の遮水性が向上する。また、当該シリカフュームの充填により、粘土鉱物に対する電解質の接触量が減るため、粘土鉱物の脱水量増加、遮水壁の遮水性低下が抑えられる。このように、シリカフュームの配合により、珪酸ナトリウムを配合した場合の物理的効果(目止め効果等)と同様の効果が得られる。
なお、珪酸ナトリウムやシリカフュームと同様に目止め効果を有する材料としては、例えば、カオリン、微粉炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、シリカフラワー、珪酸カルシウム等や、水に溶けて目詰め効果を発揮するセルロース系のパルプ、繊維系等を挙げることができる。ただし、珪酸ナトリウムやシリカフュームは、無機物質であり、微生物等による分解を受けず、耐久性がある材料であるため、珪酸ナトリウムやシリカフュームによる方が好ましい。
さらに、本形態の遮水壁構築用の薬剤には、吸水ポリマーを配合するのも、好ましい形態である。吸水ポリマーは、例えば、おむつ等の吸水材料として使用されているポリアクリル酸系の高吸水型樹脂などからなる。吸水ポリマーを配合すると、当該吸水ポリマーが水を吸収して体積が膨張することによる圧密効果と吸水後のゼリー状の軟体物質により粘土鉱物粒子間の空隙を埋める目詰め効果が発揮されるため遮水性が向上し、また、前述シリカフュームと同様、粘土鉱物に対する電解質の接触量減少による粘土鉱物の脱水量増加及び遮水壁の遮水性低下が抑えられる。
〔遮水壁の構築方法〕
次に、本形態の遮水壁の構築方法について、説明する。
本形態の遮水壁構築用の薬剤を用いて、遮水壁を構築するにあたっては、例えば、掘削装置などを用いて対象地盤を掘削し、この掘削により形成された当該地盤中の土砂に本形態の薬剤を供給し、撹拌して遮水壁を構築する形態が考えられる。
ただし、対象となる地盤がシルト層、粘土層などであり、粘性が高い場合においては、対象地盤の掘削により形成された当該地盤中の土砂に、第1の撹拌剤を供給して先行撹拌をし、この先行撹拌をした土砂に、第2の撹拌剤を供給して後行撹拌をし、この後行撹拌をした土砂を遮水壁とするというように、撹拌を2段階に分け、かつ、第1の撹拌剤として前述した本形態の薬剤を用い、第2の撹拌剤としてスメクタイトを含む粘土鉱物の粉体を用いるのが好ましい。
対象地盤の粘性が高い場合においては、第1の撹拌剤たる本形態の薬剤に配合される粘土鉱物の量を減らし、第2の撹拌剤として減らした分の粘土鉱物を供給することで、薬剤や土砂の粘度が高くなりすぎて、撹拌効率が低下するのを防ぐことができる。
このような観点から、地下水に電解質を含む地盤での粘土鉱物の供給量は、第1の撹拌剤たる本形態の薬剤の構成成分として、土砂に対して3〜50kg/m3とするのが好ましく、3〜20kg/m3とするのがより好ましい。また、第2の撹拌剤としての粘土鉱物の供給量は、土砂に対して20〜300kg/m3とするのが好ましく、50〜260kg/m3とするのがより好ましい。
また、先行撹拌をした土砂に、粘土鉱物を供給して後行撹拌をするにおいては、当該粘土鉱物を懸濁液の状態ではなく粉体の状態で供給するのが好ましい。粉体の状態で供給すると、土砂の粘度上昇が遅延し、撹拌効率が向上する。結果、構築される遮水壁の性状が均一化し、遮水性の低下が防止される。また、粉体の状態で供給すると、土砂に供給される水の量が減るため、排泥量が減少するとの利点もある。
ここで、「粉体」とは、固体が粒子になって多数集合している状態である。したがって、1つ1つの固体の大きさは特に限定されないが、通常40メッシュ〜350メッシュ、好ましくは経済性も考慮して200メッシュ〜320メッシュである。さらに、粘土鉱物の膨潤度が16mL/2g以上であると好ましく、20mL/2g以上であるとより好ましい。
一方、対象となる地盤が砂礫層、砂層などであり、粘性がそれほど高くないにも関わらず、水分を多く含む場合は、対象地盤の掘削により形成された当該地盤中の土砂に、第1の撹拌剤を供給して先行撹拌をし、この先行撹拌をした土砂に、第2の撹拌剤を供給して後行撹拌をし、この後行撹拌をした土砂を遮水壁とするというように、撹拌を2段階に分け、かつ、第1の撹拌剤及び第2の撹拌剤のいずれとしても、本形態の遮水壁構築用の薬剤の粉体を用いると好ましいものとなる。
対象地盤の粘性がそれほど高くない場合において、地盤中の土砂に、第1の撹拌剤として水などを供給し先行撹拌をすると、当該掘削によって形成された掘削孔や掘削溝などの安定性が損なわれ、地盤の崩壊が生じるおそれがある。しかしながら、第1の撹拌剤として本形態の薬剤を供給し先行撹拌すると、かかるおそれがない。また、当該薬剤を懸濁液の状態ではなく粉体の状態で供給すると、掘削孔や掘削溝などが安定し、撹拌効率が向上する。結果、構築される遮水壁の性状が均一化し、遮水性の低下が抑制される。また、粉体の状態で供給すると、土砂に供給される水の量が減るため、排泥量が減少するとの利点もある。当該薬剤自体の利点は、前述したとおりである。
一方、対象地盤の粘性がそれほど高くない場合において、構築する遮水壁を、地盤と同程度の強度とするためには、粘土鉱物の配合割合を多くする必要がある。しかしながら、粘土鉱物は水と接触すると粘性が高くなるため、一度に多量の粘土鉱物(薬剤)を供給すると、アースオーガー機などを使用した機械撹拌による撹拌効率が悪くなるとの問題がある。しかしながら、撹拌を2段階に分け、薬剤の供給も2回に分けると、かかる撹拌効率の低下が防止される。なお、第2の撹拌剤としても、本形態の薬剤の粉体を用いると好ましいのは、第1の撹拌剤として用いる場合と、同様である。
さらに、以上において、本形態の薬剤を供給するに際しては、当該薬剤の構成成分である珪酸ナトリウム等の珪酸アルカリを他の構成成分とは別経路で搬送し、地盤中において珪酸アルカリを他の構成成分と混合するのが好ましい。これにより、薬剤を送る過程で、当該薬剤がゲル化するのを防止することができる。
〔その他〕
本形態の遮水壁の構築方法は、粘土鉱物と炭酸ソーダ、苛性ソーダ、珪酸ナトリウムなどと(以下、粘土鉱物以外の材料(構成成分)をイオン遮蔽剤ともいう。)が配合された薬剤を対象地盤に供給するものであるが、粘土鉱物及びイオン遮蔽剤の混合を、対象地盤への搬送に先立って行うか、対象地盤への搬送後、当該対象地盤中において行うかは、特に限定されない。
ただし、イオン遮蔽剤の対象地盤への搬送を、粘土鉱物の搬送と同時あるいは搬送後に行い、両者が対象地盤中において混合され、もって各種構成成分が配合された薬剤が対象地盤に供給されたといえる形態にすると、より好ましいものとなる。以下、この点を、図1を参照しながら、詳しく説明する。なお、以下で説明する混合方法は、薬剤を1回的に供給する場合に限定されず、例えば、供給を2回に分け、先行撹拌や後行撹拌において供給する場合にも適用可能である。
図1の(1)及び(2)に示すように、イオン遮蔽剤Aの対象地盤への搬送方法としては、粘土鉱物Bの搬送と同時に行う方法(以下、単に「同時に行う方法」ともいう。)と、図1の(3)に示すように、粘土鉱物Bの搬送とは異なる時期に(時間差を付けて)行う方法(以下、単に「時間差を付けて行う方法」ともいう。)と、がある。なお、図1中の記載は、横方向を時間軸とするものであり、紙面右側に向かうに従って、時が進行することを意味する。
また、前者の「同時に行う方法」としては、図1の(1)に示すように、イオン遮蔽剤Aと粘土鉱物Bとをあらかじめ混合し、この混合状態(薬剤の状態)で搬送する方法のほか、図1の(2)に示すように、イオン遮蔽剤Aと粘土鉱物Bとをあらかじめ混合せず、別系統で搬送しつつ、搬送のタイミングは同時とし、対象地盤中において混合し、各種構成成分が配合された薬剤として対象地盤に供給する方法もある。しかしながら、イオン遮蔽剤Aと粘土鉱物Bとを同時に搬送すると、イオン遮蔽剤の種類等によっては、粘土鉱物Bの粘度が増加してしまい、撹拌効率が低下するおそれがある。したがって、このような観点からは、あらかじめ混合して搬送する方法(図1の(1)の方法)よりも、別系統で同時に搬送する方法(図1の(2)の方法)の方が好ましく、時間差を付けて搬送する方法(図1の(3)の方法)の方がより好ましい。この点、あらかじめ混合して搬送する方法(図1の(1)の方法)においても、イオン遮蔽剤A及び粘土鉱物Bの混合物に、分散剤等を添加して粘度の増加を抑えることができるが、薬液コストが増加するとの不利益を有する。
この点、本発明者らが試験したところによると、以下のような結果が得られた。
まず、10%濃度のベントナイトの粘度を、500/500mLファンネル粘度計で測定すると、48.1秒となる。そこに、イオン遮蔽剤たるソーダ灰(炭酸ナトリウム)を3kg/m3投入すると粘度が65.3秒となり、ソーダ灰の投入によって粘度が増加したことが分かる。また、更に分散剤(Super Slurry B、三洋化成(株)社製、ポリカルボン酸系の高性能分散剤)を10kg/m3投入すると粘度が44.3秒となり、分散剤の投入によって粘度が低下したことが分かる。
分散剤としては、本試験で使用したポリカルボン酸系の高性能分散剤を用いると好ましいが、現場の土質性状によっては、例えば、アロンAKフロー(AKテクノ株式会社製、ポリカルボン酸塩系)、サンコーポールDE(三興コロイド化学株式会社製)、ニトロフミン酸ソーダ、トリポリ燐酸ソーダなどを用いることもできる。
一方、後者の「時間差を付けて行う方法」としては、図1の(3)に示すように、イオン遮蔽剤Aの搬送を、粘土鉱物Bの搬送後に行う方法と、図示はしないが、イオン遮蔽剤Aの搬送を、粘土鉱物Bの搬送前に行う方法とがある。これらいずれの方法によっても粘度の増加を抑えることができるが、イオン遮蔽剤Aの搬送を粘土鉱物Bの搬送前に行うと、地盤中においてイオン遮蔽剤Aが必要以上に拡散してしまうおそれがある。これに対し、イオン遮蔽剤Aの搬送を粘土鉱物Bの搬送後に行うと、当該粘土鉱物Bの搬送によってほどよく粘度が上昇した土砂に対してイオン遮蔽剤Aを搬送することになり、イオン遮蔽剤Aが必要以上に拡散してしまうおそれがなくなるため、粘土鉱物Bとイオン遮蔽剤Aとの配合割合が期待通りのものとなり、イオン遮蔽剤Aの搬送は、粘土鉱物Bの搬送後に行う方が好ましい。
ところで、以上では、イオン遮蔽剤を1回で搬送する形態を例に説明したが、イオン遮蔽剤は、2回、3回、4回又はそれ以上の複数回に分けて搬送することもできる。イオン遮蔽剤を複数回に分けて搬送する場合も、以上で説明した1回で搬送する場合と同様に搬送することができる。以下では、2種類のイオン遮蔽剤(例えば、炭酸ソーダ及び珪酸ナトリウム)を搬送する場合を例に説明する。
2種類のイオン遮蔽剤を供給する場合、イオン遮蔽剤と粘土鉱物とを同時に搬送する方法としては、例えば、図1の(4)に示すように、2種類のイオン遮蔽剤A1,A2と粘土鉱物Bとをあらかじめ混合して各種構成成分が配合された薬剤とし、この薬剤の状態で搬送し供給する方法のほか、図1の(5)に示すように、2種類のイオン遮蔽剤A1,A2と粘土鉱物Bとをあらかじめ混合せず、別系統で搬送しつつ、この搬送のタイミングは同時とする方法もある。
また、イオン遮蔽剤と粘土鉱物とを時間差を付けて搬送する方法としては、例えば、図1の(6)に示すように、2種類のイオン遮蔽剤A1,A2をあらかじめ混合し、この混合物の搬送を粘土鉱物Bの搬送後に行う方法、図1の(7)に示すように、2種類のイオン遮蔽剤A1,A2をあらかじめ混合せず別系統で搬送し、それぞれの搬送を粘土鉱物Bの搬送後に順に行う方法などがある。
また、2種類のイオン遮蔽剤を搬送する場合においては、図1の(8)に示すように、2種類のイオン遮蔽剤A1,A2のうち一方のイオン遮蔽剤A1はあらかじめ粘土鉱物Bと混合し、この混合状態で搬送し、その後、他方のイオン遮蔽剤A2を搬送する方法がある。この方法は、イオン遮蔽剤と粘土鉱物とを同時に搬送する方法と、イオン遮蔽剤と粘土鉱物とを時間差を付けて搬送する方法とを組み合わせた方法であり、両者を同時に搬送する方法にも、時間差を付けて搬送する方法にも該当する。この方法は、搬送系統が複雑になるというデメリットを有するが、反面、例えば、粘土鉱物の粘度をそれほど増加させない例えば炭酸ナトリウム、コロイダルシリカ等のイオン遮蔽剤を粘土鉱物と同時に搬送し、イオン遮蔽効果の大きい例えば珪酸ナトリウム等のイオン遮蔽剤を粘土鉱物の搬送後に搬送するなど、イオン遮蔽剤の性質を考慮した好適な搬送方法を採用することができる。
ところで、本形態においては、薬剤として、炭酸ソーダ、必要に応じて苛性ソーダを配合するものであるが、苛性ソーダを配合する場合においては、これらの搬送を、図1の(7)に示すように、粘土鉱物Bの搬送後に、炭酸ソーダ(A1)、苛性ソーダ(A2)の順に行うと、より好ましいものとなる。イオン遮蔽剤として、炭酸ソーダ及び苛性ソーダを用いると、炭酸ソーダによって電解質たるカルシウムイオンが不溶化(不活性化)され、苛性ソーダによって電解質たるマグネシウムイオンが不溶化される。したがって、粘土鉱物に対する電解質の接触が効果的に阻止される。また、炭酸ソーダ及び苛性ソーダの搬送を、粘土鉱物の搬送後に行うことにより、粘土鉱物の粘度増加が抑えられる。
次に、本発明による作用効果を、各種試験結果に基づいて明らかにする。
〔試験1〕
珪酸ナトリウムを配合することによって、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等を不活性化することができ、また、二酸化珪素(SiO2)の間詰め機能(目止め機能)によって透水係数が向上(遮水性が向上)することを明らかにするために、試験を行った。
この試験は、2倍希釈海水飽和地盤を想定し、間隙水を2倍希釈海水とした試料土に対して、ベントナイト100kg/m3(総ベントナイト量100kg/m3のうち、10%濃度掘削液(ベントナイト懸濁液)を100L、粉末ベントナイトを90kg/m3とした。)、炭酸ソーダ(Na2CO3)3kg/m3、苛性ソーダ(添加量は、0kg/m3,0.75kg/m3,1.5kg/m3の3パターンとした。)、珪酸ナトリウム系材料(珪酸ナトリウム3種類:モル比(M.R.)=2,3,4、粉末珪酸2種類:メタ珪酸ソーダ,オルト珪酸ソーダ)を添加した。この珪酸ナトリウム系材料の添加量は、二酸化珪素の間詰め機能に着目し、モル比3の珪酸ナトリウム(3号珪酸ナトリウム(3号水ガラス))20L/m3中の二酸化珪素量と同一となるようにした。
以上の添加は、試料土に対して、2倍希釈海水、掘削液(ベントナイト懸濁液)、炭酸ソーダ等の各種添加剤、粉末ベントナイトの順に行った。試験結果は、表2に示した。なお、透水試験は、テーブルフロー値130以下の試験例についてのみ、変水位法で行った。
表2からは、モル比の大きい珪酸ナトリウムほど遮水性能に寄与し、透水係数が小さくなる傾向がみられる。この点、珪酸ソーダの溶液は、種々の量の珪酸イオンモノマー、ポリ珪酸イオン、コロイド状珪酸イオンミセルなどを含み、これらのタイプ、分布、イオン及びミセルの大きさなどは、珪酸ソーダの種類、つまりモル比(SiO2/Na2O)及び濃度に依存することが知られている。モル比が1(メタ珪酸ソーダ)あるいは、それよりモル比の低いものについては、主として珪酸イオンモノマーが存在し、高モル比の溶液については、珪酸イオンモノマーのほかにダイマー(二量体)さらにポリ珪酸イオンミセルが含まれる。このポリ珪酸イオンミセルの濃度は、モル比が高くなるにつれて増加する。このことから、モル比が小さいほど試料土中で生成したシリカ化合物の粒子は小さくなり、遮水性に寄与しにくくなると考えられる。他方、モル比が大きいほどポリ珪酸イオンミセルが増加し、生成物は非晶質でポリマー構造的要素が大きくなるため、試料土の空隙を埋め、テーブルフロー値を小さくし、遮水性も高めると考えられる。
もっとも、3号珪酸ナトリウム(モル比3の珪酸ナトリウム)では、苛性ソーダとの併用による相乗効果が見られたが、特殊珪酸ナトリウム(モル比4の珪酸ナトリウム)では、併用しなくても苛性ソーダを添加した場合以上の遮水性能が見られ、反対に苛性ソーダを併用することにより、遮水性が悪くなる傾向が見られた。これは、苛性ソーダを併用すると、苛性ソーダの一部が高モル比の珪酸ナトリウムと反応してしまい、珪酸ナトリウムのモル比が小さくなるために遮水性能が低下したためであると考えられる。
さらに、粉末珪酸系は、添加することによりテーブルフロー値(T.F)が大きくなった。このテーブルフロー値は、苛性ソーダの添加量が増えるほど大きくなり、また、メタ珪酸ソーダよりもオルト珪酸ソーダの方がその傾向は大きかった。メタ珪酸ソーダ及びオルト珪酸ソーダのモル比は1以下であり、水中に溶解したものは主として珪酸イオンモノマーであると考えられる。この珪酸イオンモノマーは反応性に富むため、モンモリロナイト中のアルミニウム(Al)成分等と反応し、粉体ベントナイトの膨潤を阻害した可能性がある。
以上の結果を踏まえて、本発明者らは、視点を変え、苛性ソーダの添加量、珪酸ナトリウムの種類(モル比)及び透水係数の関係を考察することとし、結果を表3に示し、これを図2にグラフ化した。
図2において、白丸をつなぐライン(以下「珪酸ナトリウム無添加ライン」という。)は、珪酸ナトリウム無添加の場合(前述のように炭酸ソーダは3kg/m3添加している。)の苛性ソーダ添加量と透水係数との関係を示している。同様に黒丸をつなぐライン(以下「2号珪酸ナトリウムライン」という。)は、2号珪酸ナトリウム(モル比2)を添加した場合の苛性ソーダ添加量と透水係数との関係を、黒三角をつなぐライン(以下「3号珪酸ナトリウムライン」という。)は、3号珪酸ナトリウム(モル比3)を添加した場合の苛性ソーダ添加量と透水係数との関係を、黒四角をつなぐライン(以下「特殊珪酸ナトリウムライン」という。)は、特殊珪酸ナトリウム(モル比4)を添加した場合の苛性ソーダ添加量と透水係数との関係を、それぞれ示している。
図2においては、苛性ソーダの添加に変えて珪酸ナトリウムを添加した場合に透水係数が小さくなっており、このことから苛性ソーダを無添加にすることや、減らすことができるのが分かる。
一方、このように苛性ソーダの添加量を減らさずに同一とする場合は、2号珪酸ナトリウムライン、3号珪酸ナトリウムライン、特殊珪酸ナトリウムラインが珪酸ナトリウム無添加ラインよりも下方である範囲(場合)において、珪酸ナトリウム添加による遮水性向上効果が奏せられると考えられる。そこで、図3に苛性ソーダの添加量ごとの珪酸ナトリウムのモル比と透水係数との関係を明らかにするグラフを示した。
図3において、黒丸をつなぐライン(以下「苛性ソーダ無添加ライン」という。)は、苛性ソーダの添加量を0kg/m3とした場合の珪酸ナトリウムのモル比と透水係数との関係を、黒三角をつなぐライン(以下「苛性ソーダ0.75ライン」という。)は、苛性ソーダの添加量を0.75kg/m3とした場合の珪酸ナトリウムのモル比と透水係数との関係を、黒四角をつなぐライン(以下「苛性ソーダ1.5ライン」という。)は、苛性ソーダの添加量を1.5kg/m3とした場合の珪酸ナトリウムのモル比と透水係数との関係を、それぞれ示している。また、水平方向に延びる一番上のライン(以下「珪酸ナトリウム・苛性ソーダ無添加ライン」という。)は、珪酸ナトリウム及び苛性ソーダ無添加の場合の透水係数を、水平方向に延びる一番下のライン(以下「珪酸ナトリウム無添加・苛性ソーダ0.75ライン」という。)は、珪酸ナトリウム無添加、苛性ソーダ0.75kg/m3添加の場合の透水係数を、水平方向に延びる上下方向中央のライン(以下「珪酸ナトリウム無添加・苛性ソーダ1.5ライン」という。)は、珪酸ナトリウム無添加、苛性ソーダ1.5kg/m3添加の場合の透水係数を、それぞれ示している。
図3によると、苛性ソーダの添加量を0kg/m3とする場合は、苛性ソーダ無添加ラインが珪酸ナトリウム・苛性ソーダ無添加ラインよりも全ての範囲において下方にあるため、常に珪酸ナトリウム添加による遮水性向上効果が認めら、したがって、珪酸ナトリウムのモル比が、例えば2.0以上であれば遮水性向上効果が奏せられると考えられる。
一方、苛性ソーダの添加量を0.75kg/m3とする場合は、苛性ソーダ0.75ラインと珪酸ナトリウム無添加・苛性ソーダ0.75ラインとが交差しており、例えば、モル比3及びモル比4の場合の苛性ソーダ0.75ラインは珪酸ナトリウム無添加・苛性ソーダ0.75ラインよりも下方にあるが、モル比2の場合の苛性ソーダ0.75ラインは珪酸ナトリウム無添加・苛性ソーダ0.75ラインよりも上方にある。そして、図3によると、モル比2.6の珪酸ナトリウムを添加した場合と珪酸ナトリウム無添加の場合とが、同等の透水係数になると推測される。したがって、苛性ソーダの添加量を0.75kg/m3とした場合は、添加する珪酸ナトリウムのモル比が2.6以上であれば透水係数が向上することが分かる。
さらに、苛性ソーダの添加量を1.5kg/m3とする場合は、苛性ソーダ1.5ラインと珪酸ナトリウム無添加・苛性ソーダ1.5ラインとが交差しており、例えば、モル比4の場合の苛性ソーダ1.5ラインは珪酸ナトリウム無添加・苛性ソーダ1.5ラインよりも下方にあるが、モル比2及びモル比3の場合の苛性ソーダ1.5ラインは珪酸ナトリウム無添加・苛性ソーダ1.5ラインよりも上方にある。そして、図3によると、モル比3.3の珪酸ナトリウムを添加した場合と珪酸ナトリウム無添加の場合とが、同等の透水係数になると推測される。したがって、苛性ソーダの添加量を1.5kg/m3とした場合は、添加する珪酸ナトリウムのモル比が3.3以上であれば透水係数が向上することが分かる。
また、図2によると、珪酸ナトリウム無添加の場合においては、苛性ソーダの添加量を0.75kg/m3とした場合が最も透水係数が小さくなり、その透水係数は1.6×10-7cm/secである。したがって、図3における珪酸ナトリウム無添加・苛性ソーダ0.75ラインよりも下方の範囲においては、苛性ソーダの添加によっては得られない遮水性向上効果を期待できることが分かる。
このような観点から、図3を考察すると、苛性ソーダの添加量を0kg/m3とする場合は、珪酸ナトリウムのモル比が3.1以上、苛性ソーダの添加量を0.75kg/m3とする場合は、珪酸ナトリウムのモル比が2.6以上、苛性ソーダの添加量を1.5kg/m3とする場合は、珪酸ナトリウムのモル比が3.6以上であると好ましいと推測される。
〔試験2〕
コロイダルシリカを混合することによって、二酸化珪素(SiO2)のコロイダル粒子による間詰め機能(目止め機能)によって透水係数が小さくなる(遮水性が向上)ことを明らかにするために、試験を行った。
この試験は、2倍希釈海水飽和地盤を想定し、間隙水を2倍希釈海水とした試料土に対して、ベントナイト100kg/m3(総ベントナイト量100kg/m3のうち、10%濃度掘削液(ベントナイト懸濁液)を100L、粉末ベントナイトを90kg/m3とした。)、炭酸ソーダ(Na2CO3)3kg/m3、苛性ソーダ(添加量は、0kg/m3,0.75kg/m3,1.5kg/m3の3パターンとした。)、コロイダルシリカ(3種類:粒径4〜6nm、10〜20nm、40〜50nm)を添加した。このコロイダルシリカの添加量は、二酸化珪素の間詰め機能に着目し、3種類のコロイダルシリカ中の二酸化珪素量が同一となるようにした。
以上の添加は、試料土に対して、2倍希釈海水、掘削液(ベントナイト懸濁液)、炭酸ソーダ等の各種添加剤、粉末ベントナイトの順に行った。試験結果は、表4に示した。なお、透水試験は、テーブルフロー値130以下の試験例についてのみ、変水位法で行った。
表4からは、粒径10〜20nmのコロイダルシリカの透水係数が小さくなる傾向がみられる。これは、砂(試料土)とベントナイトとの混合物中の間隙の大きさに対して、粒径4〜6nmのシリカ粒子は小さくて通過し易くなり間詰め機能が低下し、他方、粒径40〜50nmのシリカ粒子は大きくて隙間を塞ぎにくくなるためではないかと考えられる。このことから、薬剤に配合するコロイダルシリカは、好ましくは粒径8〜38nm、より好ましくは10〜20nmであると考えた。
もっとも、各種粒径のコロイダルシリカは、苛性ソーダ併用による影響を受けているのではないかと考えられる。そこで、本発明者らは、視点を変え、苛性ソーダの添加量、コロイダルシリカの種類(平均粒径)及び透水係数の関係を考察することとし、結果を表5に示し、これを図4にグラフ化した。なお、平均粒径は中央値である。
図4において、白丸をつなぐライン(以下「コロイダルシリカ無添加ライン」という。)は、コロイダルシリカ無添加の場合(前述のように炭酸ソーダは3kg/m3添加している。)の苛性ソーダ添加量と透水係数との関係を示している。同様に黒丸をつなぐライン(以下「5nmコロイダルシリカライン」という。)は、平均粒径5nmのコロイダルシリカを添加した場合の苛性ソーダ添加量と透水係数との関係を、黒三角をつなぐライン(以下「15nmコロイダルシリカライン」という。)は、平均粒径15nmのコロイダルシリカを添加した場合の苛性ソーダ添加量と透水係数との関係を、黒四角をつなぐライン(以下「45nmコロイダルシリカライン」という。)は、平均粒径45nmのコロイダルシリカを添加した場合の苛性ソーダ添加量と透水係数との関係を、それぞれ示している。
図4においては、苛性ソーダの添加に変えて平均粒径15nm、45nmのコロイダルシリカを添加した場合に透水係数が小さくなっており、コロイダルシリカの添加によって、苛性ソーダを無添加にすることや、減らすことができるのが分かる。
一方、このように苛性ソーダの添加量を減らさずに同一とする場合は、15nmコロイダルシリカライン及び45nmコロイダルシリカラインがコロイダルシカリ無添加ラインよりも下方である範囲(場合)において、コロイダルシリカ添加による遮水性向上効果が奏せられると考えられる。そこで、図5に苛性ソーダの添加量ごとのコロイダルシリカの平均粒径と透水係数との関係を明らかにするグラフを示した。
図5において、黒丸をつなぐライン(以下「苛性ソーダ無添加ライン」という。)は、苛性ソーダの添加量を0kg/m3とした場合のコロイダルシリカの平均粒径と透水係数との関係を、黒三角をつなぐライン(以下「苛性ソーダ0.75ライン」という。)は、苛性ソーダの添加量を0.75kg/m3とした場合のコロイダルシリカの平均粒径と透水係数との関係を、黒四角をつなぐライン(以下「苛性ソーダ1.5ライン」という。)は、苛性ソーダの添加量を1.5kg/m3とした場合のコロイダルシリカの平均粒径と透水係数との関係を、それぞれ示している。また、水平方向に延びる一番上のライン(以下「コロイダルシリカ・苛性ソーダ無添加ライン」という。)は、コロイダルシリカ及び苛性ソーダ無添加の場合の透水係数を、水平方向に延びる一番下のライン(以下「コロイダルシリカ無添加・苛性ソーダ0.75ライン」という。)は、コロイダルシリカ無添加、苛性ソーダ0.75kg/m3添加の場合の透水係数を、水平方向に延びる上下方向中央のライン(以下「コロイダルシリカ無添加・苛性ソーダ1.5ライン」という。)は、コロイダルシリカ無添加、苛性ソーダ1.5kg/m3添加の場合の透水係数を、それぞれ示している。
図5によると、苛性ソーダの添加量を0kg/m3とする場合は、苛性ソーダ無添加ラインとコロイダルシリカ・苛性ソーダ無添加ラインとが交差しており、例えば、平均粒径15nm及び平均粒径45nmの場合の苛性ソーダ無添加ラインはコロイダルシリカ・苛性ソーダ無添加ラインよりも下方にあるが、平均粒径5nmの場合の苛性ソーダ無添加ラインはコロイダルシリカ・苛性ソーダ無添加ラインよりも上方にある。そして、図5によると、平均粒径8nmのコロイダルシリカを添加した場合とコロイダルシリカ無添加の場合とが、同等の透水係数になると推測される。したがって、苛性ソーダを無添加とした場合は、添加するコロイダルシリカの平均粒径が8nm以上であれば透水係数が小さくなることが分かる。
一方、苛性ソーダの添加量を0.75kg/m3とする場合は、苛性ソーダ0.75ラインとコロイダルシリカ無添加・苛性ソーダ0.75ラインとが交差しており、例えば、平均粒径15nmの場合の苛性ソーダ0.75ラインはコロイダルシリカ無添加・苛性ソーダ0.75ラインよりも下方にあるが、平均粒径5nm及び平均粒径45nmの場合の苛性ソーダ0.75ラインはコロイダルシリカ無添加・苛性ソーダ0.75ラインよりも上方にある。そして、図5によると、平均粒径11nm及び平均粒径20nmのコロイダルシリカを添加した場合とコロイダルシリカ無添加の場合とが、同等の透水係数になると推測される。したがって、苛性ソーダの添加量を0.75kg/m3とした場合は、添加するコロイダルシリカの平均粒径が11〜20nmであれば透水係数が小さくなることが分かる。
さらに、苛性ソーダの添加量を1.5kg/m3とする場合は、苛性ソーダ1.5ラインとコロイダルシリカ無添加・苛性ソーダ1.5ラインとが交差しており、例えば、平均粒径15nmの場合の苛性ソーダ1.5ラインはコロイダルシリカ無添加・苛性ソーダ1.5ラインよりも下方にあるが、平均粒径5nm及び平均粒径45nmの場合の苛性ソーダ1.5ラインはコロイダルシリカ無添加・苛性ソーダ1.5ラインよりも上方にある。そして、図5によると、平均粒径8nm及び平均粒径32nmのコロイダルシリカを添加した場合とコロイダルシリカ無添加の場合とが、同等の透水係数になると推測される。したがって、苛性ソーダの添加量を1.5kg/m3とした場合は、添加するコロイダルシリカの平均粒径が8〜32nmであれば透水係数が小さくなることが分かる。
また、図4によると、コロイダルシリカ無添加の場合においては、苛性ソーダの添加量を0.75kg/m3とした場合が最も透水係数が小さくなり、その透水係数は1.6×10-7cm/secである。したがって、図5におけるコロイダルシリカ無添加・苛性ソーダ0.75ラインよりも下方の範囲においては、苛性ソーダの添加によっては得られない遮水性向上効果を期待できることが分かる。
このような観点から、図5を考察すると、苛性ソーダの添加量を0kg/m3とする場合は、コロイダルシリカの平均粒径が8nm以上、苛性ソーダの添加量を0.75kg/m3とする場合は、コロイダルシリカの平均粒径が11〜20nm、苛性ソーダの添加量を1.5kg/m3とする場合は、コロイダルシリカの平均粒径が3〜32nmであると好ましいと推測される。