次に、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は、検査システム10の構成の概略を示す構成図である。本実施形態の検査システム10は、航空機機体の主翼100において部材同士を締結するファスナ110の装着状態を自動で検査するためのシステムであり、各種検査機器が搭載された検査ロボット20と、検査ロボット20の駆動制御や各種検査機器の制御を行うロボットコントローラ40と、システム全体の制御や検査処理を行う検査処理装置60とを備える。ここで、図2は、検査ロボット20に搭載される検査ユニット30の構成の概略を示す説明図であり、図3は、ファスナ110と検査機器との位置関係を示す説明図である。
ここで、航空機機体の主翼100は、詳細な図示は省略するが、主翼100の骨組みを構成する複数のスパーやリブなどの構造部材102に外板104(主翼パネル)を貼り付けた周知の構成である。これらの構造部材102や外板104には、炭素繊維と樹脂との複合材料やアルミニウム合金などの金属材料が用いられ、締結部材であるファスナ110を打ち込むために、外板104と構造部材102とを貫通する貫通孔が形成されている。ファスナ110は、図3に示すように、皿状の頭部112aと軸部112bとを有する本体112と、ナット114とにより構成されている。このファスナ110は、外板104に形成された皿もみ状の貫通孔104aから専用工具を用いて打ち込まれ、構造部材102から突出した軸部112bの図示しないネジ溝にナット114が締め付けられる。これにより、ファスナ110が主翼100に装着される装着状態となり、構造部材102と外板104とを締結する。
このファスナ110は、装着状態で、頭部112aが貫通孔104aに埋め込まれており、外板104の表面に対する頭部112aの表面(貫通孔104aから露出する露出面)のファスナ深さD(埋め込み量)は、例えば0.5mmが適正値となっている。なお、いわゆるジャンボジェット機などの大型航空機の主翼100には、1機当り(両翼)に数万本(例えば約8万本)ものファスナ110が使用される。このファスナ110は、主翼100がその機能を発揮して安全な航行をするために、斜めに傾いて打ち込まれることなどがなく確実に装着されている必要がある。このため、ファスナ110の装着状態の検査は欠かせないものであり、ファスナ深さDが基準範囲内(例えば0.5mm+0.153mm,−0.229mmなど)にあるか否かの検査が行われる。なお、本実施形態の検査システム10では、図1に示すように、図示しないクレーンのフック120に主翼100が吊り下げられた状態で検査を行うが、主翼100を架台に立て掛けた状態や架台に横たえた状態で検査を行ってもよいし、航空機機体に主翼100が取り付けられた状態(主翼だけでなく完成品の状態)で検査を行ってもよい。
検査ロボット20は、複数(例えば6軸)の駆動軸を有する周知の垂直多関節ロボット(例えば、三菱電機株式会社製のRV12SQや株式会社デンソー製のVM−6083Gなど)として構成されている。この検査ロボット20は、ベース20aが図1中のX軸方向に沿って敷かれたレール31上を走行する台車32に搭載されて、X軸方向への走行移動も可能となっている。即ち、検査ロボット20は、ロボット自体が有する複数(6軸)の駆動に加えて、X軸方向への1軸の走行移動が可能となっている。これにより、主翼100の全長にわたる広い検査範囲で、ファスナ110の装着状態を効率よく検査することができる。この検査ロボット20は、複数のアームのうち最もベース20aから離れた位置にあるアーム21の先端に、検査ユニット30を取り付け可能な機器取付部21aが設けられており、この機器取付部21aを所望の位置に所望の向きで移動させるよう制御される。機器取付部21aには、矩形状の第1プレート22が固定されており、その第1プレート22の四隅から垂直方向に延びる4本のロッド23を介して矩形状の第2プレート24が固定されている。第2プレート24は、第1プレート22よりも一回り大きく形成されており、機器取付部21aの中心軸と同軸の貫通孔24aが形成されている。なお、これらの第1プレート22やロッド23、第2プレート24は、素材にアルミニウムを用いて重量の軽減を図っている。
第1プレート22には、L字型の取付部材25が取り付けられ、この取付部材25に画素数が数百万画素(例えば、200万画素)程度のカメラ26が取り付けられている。このカメラ26は、光軸が機器取付部21aの中心軸と同軸で、レンズ26aが第2プレート24の貫通孔24aを貫通するように配置されている。
第2プレート24には、第1プレート22と反対側の面に、発光源であるLEDがリング状に配置されたリングライト27が取り付けられている。このリングライト27は、リングの中心が貫通孔24aと同軸となるように配置されている。なお、貫通孔24aを貫通するカメラ26のレンズ26aは、リングライト27内に収まっている。
また、第2プレート24には、リングライト27の周りに、周方向に90度の間隔をもって2つの取付部材28が取り付けられており、各取付部材28にそれぞれレーザ変位センサ29が取り付けられている。なお、図3では、図示の都合上、取付部材28やレーザ変位センサ29を1つだけ図示した。このように、本実施形態の検査ユニット30は、カメラ26と、リングライト27と、レーザ変位センサ29とを有するユニットとして構成されている。レーザ変位センサ29は、レーザ光を検査面(検査箇所である外板104の表面)に照射すると共に検査面で拡散反射した反射光を三角測距方式により受光して、検査面の凹凸変位量(位置や形状の変化)をライン状に検出可能な2次元変位センサであり、例えば、キーエンス株式会社製の型番LJ−G080などが用いられる。この2つのレーザ変位センサ29は、検査面から所定の距離L0(型番LJ−G080の仕様では80mm)だけ離れた状態で検査面に向けてレーザ光を発光したときに、検査面上でレーザ光が交差すると共にその交差の中心位置が機器取付部21aの中心軸上の位置(レーザ光が照射される計測範囲の中心位置がカメラ26の光軸上の位置)となっている。このようにするために、レーザ変位センサ29は、レーザ光の光軸が、カメラ26の光軸に対して所定角度A(図3参照)だけ傾いた状態で取付部材28に取り付けられており、本実施形態では、その所定角度Aを約20度とした。また、レーザ変位センサ29は、周方向に90度の間隔をもって2つ取り付けられるため、レーザ変位センサ29から発光されるレーザ光は、検査面上で略直交することになる(図2参照)。このため、レーザ変位センサ29により、検査面において、所定方向と、その所定方向に直交する方向との2方向の凹凸変位量を検出することができる。本実施形態では、外板104の表面に対し、図1中X方向と、Y方向との2方向の凹凸変位量を検出可能となるように、機器取付部21aの位置決めを行う。
ロボットコントローラ40は、図示しないCPUやROM、RAM、各種インターフェースなどにより構成されており、その機能ブロックとしては、図1に示すように、ロボット20(ロボットコントローラ40)の全体を制御する主制御部41と、ロボット20の各部(アーム21など)の駆動を制御する駆動制御部42と、カメラ26やリングライト27を制御するカメラ制御部43と、レーザ変位センサ29を制御するセンサ制御部44と、ロボット20の駆動に必要なデータやプログラムなどを記憶する記憶部45と、表示パネル48の表示を制御したり各種操作ボタン49になされた操作を受け付けたりする表示操作制御部46と、検査処理装置60と通信するための通信制御部47とを備える。
主制御部41は、主翼100におけるファスナ110の装着位置情報を入力し、入力した装着位置情報に基づいてロボット20の駆動制御用(機器取付部21aに取り付けられる検査ユニット30の移動制御用)の位置情報を生成し、生成した位置情報を記憶部45に記憶する。なお、駆動制御用の位置情報としては、例えば、機器取付部21aのXYZ座標における位置およびその位置における向きなどの情報が定められる。ここで、本実施形態のロボットコントローラ40(主制御部41)は、2点を通る直線上の所定位置に機器取付部21aの中心が位置するように駆動制御用の位置情報を生成可能な仕様となっている。このため、例えば、ファスナ110の装着位置情報として、図3に示すように、ファスナ110の頭部112aの表面(貫通孔104aからの露出面)の中心位置Pと、軸部112bの軸端面の中心位置Qとを入力すると、この中心位置P、Qを通る直線S上の位置であって、且つ、中心位置Pから所定距離Lだけ離れた位置となるように、駆動制御用の位置情報を生成することができる。この駆動制御用の位置情報を、以下、検査位置情報とする。なお、所定距離Lは、機器取付部21aの第1プレート22の取付面からレーザ変位センサ29の発受光部までの距離に、レーザ変位センサ29の発受光部から外板104の表面(あるいはファスナ110の頭部112aの表面)までの距離L0(例えば、80mm)を加えた距離(例えば、150mmや200mmなど)に定められる。
駆動制御部42は、機器取付部21aが駆動制御用の位置情報に基づく位置および向きで移動するように、検査ロボット20の各部を駆動させるサーボモータの回転角度信号や台車32を移動させるサーボモータの回転角度信号などの駆動制御信号を生成して出力する。また、駆動制御部42は、各サーボモータに取り付られたポジションセンサからのポジション信号(回転角度信号)を入力する。カメラ制御部43は、リングライト27への発光指示を伴ってカメラ26に撮影指示を出力し、カメラ26で撮影された画像を入力する。センサ制御部44は、レーザ変位センサ29にレーザ発光指示を出力し、レーザ変位センサ29で検出された凹凸変位量を入力する。なお、カメラ制御部43が入力した画像やセンサ制御部44が入力した凹凸変位量は、通信制御部47を介して検査処理装置60に出力される。
検査処理装置60は、図示しないCPUやROM、RAM、各種インターフェースなどにより構成されており、その機能ブロックとしては、図1に示すように、装置全体を制御する主制御部61と、検査ロボット20のカメラ26で撮影されて入力した画像を処理する画像処理部62と、検査ロボット20のレーザ変位センサ29で計測されて入力した凹凸変位量に基づいて検査処理を行う検査処理部63と、各種処理に必要なデータやプログラムなどを記憶する記憶部64と、ディスプレイ68の表示を制御したりキーボードやマウスなどの入力装置69になされた操作を受け付けたりする表示操作制御部65と、ロボットコントローラ40と通信するための通信制御部66とを備える。なお、記憶部64に記憶されるデータとしては、ファスナ110の装着位置(中心位置P、Q)に関する情報を含む主翼100のCADデータなどがある。
次に、こうして構成された検査システム10の動作について説明する。図4は、検査処理装置60により実行されるファスナ装着状態検査処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、検査システム10を構成する検査ロボット20やロボットコントローラ40、検査処理装置60の電源がオンされている状態で、検査処理の開始が指示されたときに実行される。
図4のファスナ装着状態検査処理が実行されると、検査処理装置60の主制御部61は、まず、ロボットコントローラ40に検査位置情報を生成させるための検査準備処理を実行する(ステップS100)。この検査準備処理では、主制御部61は、記憶部64に記憶されている主翼100のCADデータを読み出し、ロボットコントローラ40が読み取り可能な形式でファスナ110の装着位置情報に変換して、変換した装着位置情報をロボットコントローラ40に送信する。ロボットコントローラ40の制御部41は、ステップS100で送信された装着位置情報を受信すると、検査ユニット30の検査位置情報(駆動制御用の位置情報)を生成する。上述したように、検査位置情報は、ファスナ110における頭部112aの表面の中心位置Pと軸部112bの軸端面の中心位置Qとを通る直線S上の位置で、且つ、中心位置Pから所定距離Lだけ離れた位置の情報として生成される。また、この検査準備処理では、検査対象となるすべてのファスナ110のそれぞれについて、検査位置情報を生成して記憶部45に記憶する。このように、検査準備処理では、ファスナ110の装着位置情報に基づいて検査ユニット30の検査位置情報を生成することになる。
こうして検査準備処理を実行すると、検査処理装置60の主制御部61は、次に、検査開始指示をロボットコントローラ40に送信し(ステップS110)、ファスナ110の検査位置で撮影された画像がロボットコントローラ40から送られてくる(受信する)のを待つ(ステップS120)。なお、検査開始指示の送信のタイミングは、ロボットコントローラ40から検査位置情報を生成(記憶)した旨の信号を受信したタイミングなどとしてもよい。ロボットコントローラ40の制御部41は、ステップS110で送信された検査開始指示を受信すると、記憶部45に記憶した検査位置情報を予め定められた検査順に従って読み出し、読み出した検査位置情報に基づく検査位置に機器取付部21a(検査ユニット30)が移動するよう検査ロボット20の駆動制御を開始する。また、ロボットコントローラ40は、検査位置に機器取付部21aが移動したことを、入力したポジション信号に基づいて検出すると、リングライト27の発光を伴ってカメラ26で検査箇所の画像を撮影して、検査処理装置60に送信する。このとき、上述したように、中心位置P、Qを通る直線S上の検査位置に機器取付部21a(検査ユニット30)が移動しているから、ファスナ110の頭部112aに正対する位置(ファスナ110が正常に埋め込まれている場合に頭部112aの表面に対して垂直方向の位置)からカメラ26で撮影した撮影画像を送信することになる。
ロボットコントローラ40からの撮影画像を受信すると、主制御部61は、受信した撮影画像を記憶部64に記憶された基準画像と比較して位置補正量を演算する(ステップS130)。ここで、撮影画像と基準画像とを比較する様子を図5に示す。図中点線が基準画像におけるファスナ110の頭部112aであり、実線が撮影画像におけるファスナ110の頭部112aである。なお、貫通孔104aの図示は省略した。ここで、受信した撮影画像からのファスナ110の頭部112aの検出は、例えば、ファスナ110の頭部112aに対応する情報を有する画素(例えば、頭部112aの色を示す階調値に近い画素)からなる領域を抽出することにより行うことができる。また、そのようにして抽出した領域の中心位置を検出し、基準画像の中心位置との位置の差分を求め、求めた差分に基づいてX方向の位置補正量ΔXとY方向の位置補正量ΔYとを算出することにより、位置補正量を演算する。上述したように、機器取付部21aが直線S上の検査位置に移動しているから、カメラ26の光軸はファスナ110の軸中心と略一致しているが、ステップS130の処理は、カメラ26の光軸とファスナ110の軸中心との誤差を修正して、レーザ変位センサ29の測定範囲の中心をファスナ110の軸中心にさらに近付けるために機器取付部21aの位置の微調整量を求めるものとなる。なお、このように、常に位置補正量(微調整量)を求めるものに限られず、求めた差分が所定の閾値以下であるか否かを判定し、閾値以下であれば位置補正量を求めない(ステップS140の処理を省略する)ものとしてもよい。この場合の所定の閾値は、検査ロボットの位置決め精度に依存する(例えば、位置決め精度が±0.1mmであれば、閾値を同じ±0.1mmに定める)ものなどとしてもよい。
こうして位置補正量を演算すると、演算した位置補正量に基づいて位置補正指示をロボットコントローラ40に送信して(ステップS140)、レーザ変位センサ29によって計測された凹凸変位量がロボットコントローラ40から送られてくる(受信する)のを待つ(ステップS150)。ロボットコントローラ40の制御部41は、ステップS140で送信された位置補正指示を受信すると、位置補正指示に含まれる位置補正量に基づいて機器取付部21a(検査ユニット30)の位置を微調整するよう検査ロボット20の駆動制御を行う。ここで、航空機においては、使用中に生じる機体の変形や歪みなどにより、CADデータ(図面)から得られる情報だけでは検査ユニット30を精度よく位置決めするのが困難となる場合があるが、カメラ26の撮影画像を用いて位置決め(位置の微調整)することにより、精度よく位置決めを行うことができる。また、ロボットコントローラ40は、位置補正量に基づく位置に機器取付部21aの位置が微調整されたことを、入力したポジション信号に基づいて検出すると、2つのレーザ変位センサ29によって2方向の凹凸変位量を計測し、計測した凹凸変位量を検査処理装置60に送信する。
ロボットコントローラ40からの凹凸変位量を受信すると、主制御部61は、受信した2方向の凹凸変位量に基づいてファスナ深さDを算出する(ステップS160)。ステップS160では、X方向の凹凸変位量に基づくX方向のファスナ深さDXと、Y方向の凹凸変位量に基づくY方向のファスナ深さDYとをそれぞれを求める。ここで、凹凸変位量に基づいてファスナ深さDを求める様子を図6に示す。なお、本実施形態では、位置補正によって、レーザ変位センサ29の測定範囲の中心がファスナ110の軸中心に一致しているため、ファスナ110の頭部112aの凹凸変位量は、受信した凹凸変位量において一定の範囲を占める。ファスナ110が正常に装着されている場合には、図6(a)に示すように、X方向およびY方向の凹凸変位量において、ファスナ110の頭部112aの表面の変位は略一定の値となる。一方、ファスナ110が傾いて打ち込まれたなど正常に装着されていない場合には、図6(b)に示すように、X方向およびY方向の少なくとも一方の凹凸変位量において(図6(b)では両方)、ファスナ110の頭部112aの表面の変位が大きく変化することになる。ファスナ深さD(DX,DY)の算出は、このような凹凸変位量において、外板104の変位量の代表値(例えば、最大値など)と、ファスナ110の頭部112aの変位量の代表値(例えば、最大値など)との差分を、X、Y方向でそれぞれ求めることにより行う。本実施形態では、2方向の凹凸変位量を用いることにより、ファスナ110の頭部112aの傾きの見逃しなどを防止することができ、1方向の凹凸変位量のみを用いるものに比べて精度のよい検査を行うことができる。
次に、算出したファスナ深さDがいずれも上述した基準範囲内にあるか否かを判定し(ステップS170)、ファスナ深さDが基準範囲内にあると判定すると、ファスナ110の装着状態がOKである旨の検査結果を検査箇所であるファスナ装着位置に対応付けて記憶部65に記憶し(ステップS180)、ファスナ深さDが基準範囲内にないと判定すると、ファスナ110の装着状態がNGである旨の検査結果をファスナ装着位置に対応付けて記憶部65に記憶する(ステップS190)。検査結果を記憶すると、次のファスナ110(未検査のファスナ110)があるか否かを判定し(ステップS200)、次のファスナ110があると判定すると、ステップS120に戻り処理を繰り返す。一方、次のファスナ110がないと判定すると、検査結果をディスプレイ68に表示して(ステップS210)、ファスナ装着状態検査処理を終了する。なお、検査結果は一つのファスナ110の検査が完了する度に表示してもよいし、検査結果がNGとなったファスナ110が発生する度に表示してもよい。
以上説明した実施形態の検査システム10によれば、カメラ26を有する検査ユニット30をファスナ110の装着位置情報に基づく検査位置に移動させてから、カメラ26で検査箇所(ファスナ110の頭部112aを含む外板104の表面)を撮影し、撮影画像に基づいて検査ユニット30(機器取付部21a)を位置決めするから、検査位置に対する検査ユニット30の位置決めを精度よく行うことができる。また、撮影画像に含まれるファスナ110の軸中心が画像中心に一致するよう検査ユニット30(機器取付部21a)の位置を補正するから、簡易な処理で検査ユニット30の位置決めをより確実に行うことができる。さらに、検査ユニット30には、レーザ変位センサ29と、レーザ変位センサ29の計測範囲の中心位置が光軸上の位置となるようカメラ26とを取り付けてあり、検査ユニット30の位置決めを行ってから、レーザ変位センサ29で計測した検査面の凹凸変位量に基づいてファスナ110の装着状態を検査するため、ファスナ110の一定の位置(軸中心位置)を含む凹凸変位量をもって装着状態を検査することができるから、検査バラツキを抑えて精度のよい検査を行うことができる。さらに、ライン状に凹凸変位量を計測する2次元のレーザ変位センサ29を計測範囲が直交するように2つ取り付けて、ファスナ110の頭部112aの表面における2方向の凹凸変位量を計測するから、ファスナ110の頭部112aの傾きなどの見逃しを防止して、検査精度をさらに向上させることができる。
また、検査ロボット20は、ファスナ110の2点の中心位置P、Qを結ぶ直線S上に検査位置を設定可能な仕様であるから、検査位置に機器取付部21aを移動させたときに、外板104の表面(正常に装着されたファスナ110の頭部112aの表面)に対してカメラ26を垂直な位置とすることができる。このため、機器取付部21aの位置の補正量を精度よく算出して検査ユニット30(レーザ変位センサ29)の位置補正を適切に行うことができる。また、検査結果をファスナ110の装着位置に対応付けて記憶するから、検査結果を容易に参照することができ、例えば、装着状態がNGのファスナ110の位置を容易に確認することができる。さらに、カメラ26は、機器取付部21aに固定された第1プレート22に取り付け、レーザ変位センサ29は、第1プレート22にロッド23を介して固定された第2プレート24に取り付けるから、カメラ26やレーザ変位センサ29などの検査機器を検査ロボット20にコンパクトに配置することができる。また、検査ユニット30(カメラ26やレーザ変位センサ29)を検査ロボット20に搭載するから、安定した検査を行うことができる。
即ち、本実施形態の検査システム10では、検査ロボット20の機器取付部21aにレーザ変位センサ29と、レーザ変位センサ29の計測範囲の中心位置が光軸上の位置となるようカメラ26とを取り付けておき、機器取付部21aを検査位置に移動させてから、カメラ26で検査面を撮影し、撮影画像に含まれるファスナ110の軸中心が画像中心に一致するよう機器取付部21aの位置を補正してから、レーザ変位センサ29で計測した検査面の凹凸変位量に基づいてファスナ110の装着状態を検査するのである。これらのことから、ファスナ110の装着状態の検査を精度よく行うことができる。また、航空機機体の主翼100に装着されるファスナ110は、数万本もの膨大な数であり、検査システム10による自動検査を可能とすることにより、検査効率を大幅に向上させることができる。
実施形態の検査システム10では、検査ロボット20を垂直多関節型のロボットとしたが、これに限られず、水平多関節型など他の型式の多軸ロボットとしてもよい。また、検査ロボット20は、2点の位置座標を与えられると、その2点を結ぶ直線上に機器取付部21a(検査ユニット30)の位置を設定可能な仕様としたが、これに限られず、検査箇所(ここではファスナ110の装着位置)に関する位置情報に基づいて、機器取付部21a(検査ユニット30)の位置を設定可能なものであれば、如何なる仕様としてもよい。
実施形態の検査システム10では、検査ロボット20のベース20aがレール31上を走行する台車32に搭載されてX軸方向への走行移動が可能なものとしたが、これに限られず、そのような台車に搭載されないもの(即ち、所定位置で固定されるもの)としてもよい。あるいは、一方向(X軸方向)への走行移動が可能なものに限られず、X軸方向とY軸方向、あるいは、X軸方向とZ軸方向など、2以上の複数の方向への走行移動が可能な台車に搭載されるものなどとしてもよい。
実施形態の検査システム10では、検査ロボット20を1台のみ有するものとしたが、これに限られず、複数台の検査ロボットを有するものとしてもよい。この場合、検査ロボット20毎に検査対象の範囲をそれぞれ定め、その範囲に含まれるファスナ110に対してファスナ装着状態検査処理をそれぞれ行うものなどとすればよい。
実施形態の検査システム10では、検査ユニット30が検査ロボット20(多軸ロボット)に搭載されるものとしたが、これに限られず、XYZ軸方向に移動が可能で且つ角度を変更可能なテーブルに搭載されるものなどとしてもよい。
実施形態の検査システム10では、2次元のレーザ変位センサ29を2つ用いて直交する2方向の凹凸変位量を計測したが、これに限られず、3方向以上の凹凸変位量を計測してもよいし、2方向の凹凸変位量が直交しないもの(任意の角度で交差するもの)としてもよい。また、2次元の変位センサを用いるものに限られず、3次元の変位センサ(3次元計測器)を用いるなど、外板104の表面の変位量やファスナ110の頭部112aの表面の変位量を計測してファスナ110の装着状態を検査できるものであれば、如何なる計測手段を用いるものとしてもよい。例えば、測定対象点(1点)の変位量だけを計測可能な計測手段を用いて、検査ロボット20のアーム21(機器取付部21a)を移動させながら計測手段に計測させることにより、ライン状に計測結果(凹凸変位量)を取得するものなどとしてもよい。
実施形態の検査システム10では、レーザ変位センサ29の計測範囲の中心位置がカメラ26の光軸上の位置となるようにしたが、これに限られず、レーザ変位センサ29の計測範囲の中心位置からX方向やY方向に所定量だけオフセットした位置がカメラ26の光軸上の位置となるようにしてもよい。この場合、オフセットした位置が中心となるような基準画像を記憶しておけばよい。
実施形態の検査システム10では、図4のファスナ装着状態検査処理において装着状態がOKかNGかの結果をファスナ装着位置に対応付けて記憶したが、これに限られず、OKかNGかの結果のうちいずれか一方のみを記憶してもよいし、撮影した画像など処理中に得られた他の情報を記憶するものなどとしてもよい。あるいは、常に記憶するものに限られず、記憶しないものとしてもよいし、検査者の指示があった場合にのみ記憶するものとしてもよい。
実施形態の検査システム10では、検査準備処理をファスナ装着状態処理中に実行することにより、ロボットコントローラ40がファスナ110の装着位置情報から検査ロボット20の駆動制御用の位置情報を生成して記憶部45に記憶したが、これに限られるものではない。例えば、検査準備処理をファスナ装着状態処理ルーチンが実行される前に実行しておくものとしてもよい。また、位置情報がロボットコントローラ40の記憶部45に予め記憶されていてもよいし、検査処理装置60の記憶部64に検査ロボット20の位置情報が記憶されておりファスナ装着状態検査処理の開始時にその位置情報をロボットコントローラ40に送信してもよい。あるいは、ファスナ装着状態検査処理において、1つのファスナ110の装着状態の検査を行う度に、次のファスナ110の装着位置情報を検査処理装置60からロボットコントローラ40に送信し、ロボットコントローラ40は装着位置情報を受信する度に位置情報を生成して検査ロボット20を駆動制御するものとしてもよい。
実施形態の検査システム10では、航空機機体の主翼100に装着されるファスナ110の装着状態を検査したが、これに限られず、主翼100以外の胴部や尾翼などに装着されるファスナの装着状態を検査してもよい。あるいは、ファスナ110の装着状態を検査するものに限られず、航空機機体の外板104の変形や損傷などの外観状態を検査したり、複合材料である外板104の接着異常(剥離)などの内部状態を検査したりするなど、航空機の検査を行うものであれば如何なる検査を行うものとしてもよい。例えば、内部状態を検査する場合には、検査ユニット30が計測手段として超音波センサを有し、外板104に超音波を発したときの反射波を計測して検査するものとすればよい。あるいは、そのような例に限られず、磁気や温度、圧力、振動などを計測手段で計測して検査するものなどとしてもよい。
実施形態の検査システム10では、検査ユニット30に計測手段(レーザ変位センサ29)を設けたが、これに限られず、検査ユニットに計測手段を設けることなくカメラ26のみ(リングライト27を含んでもよい)を設けてもよい。このようにしても、検査ユニットを検査位置に移動させ、移動させた状態でカメラ26で画像を撮影し、その画像に基づいて検査ユニットの位置決めを行うことができるから、検査位置にカメラ26を精度よく移動させることができる。なお、カメラ26の位置決めだけを行う場合、例えば、図4のファスナ装着状態検査処理においてステップS100〜S140の処理だけを行うものなどとすればよい。また、この場合、カメラ26の撮影画像に基づいて、検査箇所の外観検査を行うものなどとしてもよい。この場合も、位置決めをしてからカメラ26で画像を撮影することで、適切な位置で画像を撮影することができるから、検査精度を向上させることができる。
実施形態の検査システム10では、検査ロボット20を用いたファスナ装着状態の検査処理に必要な機能をロボットコントローラ40と検査処理装置60が分担して備えるものとしたが、分担の内訳は一例であり上述した実施形態に限られるものではない。例えば、検査機器を制御するためのカメラ制御部43やセンサ制御部44をロボットコントローラ40に設けたが、検査処理装置60に設けるものなどとしてもよい。あるいは、ロボットコントローラ40と検査処理装置60とに分担させるものに限られず、ロボットコントローラ40と検査処理装置60とを単一のコンピュータとして構成するものとしてもよい。
ここで、実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。本実施形態のカメラ26が本発明の「カメラ」に相当し、図4のファスナ装着状態検査処理のステップS100の処理を実行する検査処理装置60(主制御部61)とファスナ110の装着位置情報から検査ロボット20(検査ユニット30)の検査位置情報を生成するロボットコントローラ40(主制御部41)が「位置情報取得手段」に相当し、生成された検査位置情報に基づいて検査ロボット20の各部の駆動を制御するロボットコントローラ40(主制御部41と駆動制御部42)が「移動制御手段」に相当し、カメラ26を制御するロボットコントローラ40(カメラ制御部43)が「カメラ制御手段」に相当し、ファスナ装着状態検査処理のステップS120〜S140の処理を実行する検査処理装置60(主制御部61と画像処理部62)とステップS130で送信された位置補正指示(位置補正量)に基づいて検査ロボット20の機器取付部21aの位置を補正するロボットコントローラ40(主制御部41と駆動制御部42)が「位置決め手段」に相当する。また、レーザ変位センサ29が「計測手段」に相当し、レーザ変位センサ29を制御するロボットコントローラ40(主制御部41とセンサ制御部44)が「計測制御手段」に相当し、ファスナ装着状態検査処理のステップS150〜S190の処理を実行する検査処理装置60(主制御部61と検査処理部63)が「検査手段」に相当する。さらに、検査ロボット20が「多軸ロボット」に相当し、ファスナ装着状態検査処理のステップS180、S190の処理で検査結果が記憶される検査処理装置60の記憶部64が「記憶手段」に相当する。なお、実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施形態は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。