JP6149524B2 - 下地調整材 - Google Patents

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Description

本発明は、一般建築物の屋上やルーフバルコニー等の下地表面に防水シート等の防水層を施工する際、その下地表面を容易に平坦及び平滑に調整し、その上に防水層を施工することが可能なアスファルト系下地調整材に関する。
特許文献1にはアルミナセメント、石膏および高炉スラグを含む水硬性成分とアスファルト、減水剤および増粘剤とを含む下地調整材が開示されており、広範囲の温度領域において、下地調整材として十分な流動性と流動保持時間を保持して施工作業性に優れているのみならず、施工翌日の開放が可能な早期開放性を有することが示されている。
特許文献2にはアルミナセメントを含む水硬性成分とハイドロジェンポリシロキサンシリコーンオイルを含む水硬性組成物、とゴムアスファルトエマルションを混合した防水性を有する下地調整材が開示されており、長期貯蔵安定性を有するために、ゴムアスファルトエマルジョンと混合して、硬化時間及び流動性が安定し、十分な仮防水性を有し、水和硬化速度が速く、作業性及び施工性が安定していることが示されている。
特開2001−139845号公報 特開2005−239490号公報
天候に左右され易い屋外施工現場においては、気温が急激に変化しても、下地をより容易に平坦及び平滑に調整し、且つより短時間で次工程の施工に取り掛かるために、温度依存性が小さい優れた流動性を有し、且つ速硬性と適度な可使時間を有する下地調整材が求められている。しかしながら、流動化剤や凝結調整剤等の化学混和剤のみでこれらの特性をバランス良くコントロールするのは困難であった。
そこで、本発明は、一般建築物の屋上やルーフバルコニー等の下地表面に防水シート等の防水層を施工する際、その下地表面を容易に平坦及び平滑に調整し、その上に短時間で次工程の防水層を施工することが可能で、温度依存性が小さい優れた流動性を有し、且つ速硬性と適度な可使時間を有する下地調整材を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明者らは、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、細骨材と、流動化剤と、凝結調整剤とを含む水硬性組成物、及び改質アスファルトエマルジョンを含む下地調整材を用いることによって、一般建築物の屋上やルーフバルコニー等の下地表面に防水シート等の防水層を施工する際、その下地表面を容易に平坦及び平滑に調整し、その上に短時間で次工程の防水層を施工することが可能で、温度依存性が小さい優れた流動性を有し、且つ速硬性と適度な可使時間を有する下地調整材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、水硬性組成物及び改質アスファルトエマルジョンを含む下地調整材であって、水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、細骨材、流動化剤、及び凝結調整剤を含み、アルミナセメントは、ブレーン比表面積が1500〜3800cm/gであり、且つ平均粒子径が13〜30μmであり、細骨材は、細骨材全体を基準として、粒子径が2000μm以上の粒子を含まず、粒子径が600μm以上であり且つ1180μm未満である粒子の質量割合が10質量%以下であり、粒子径が300μm以上であり且つ600μm未満である粒子の質量割合が60〜80質量%であり、粒子径が150μm以上であり且つ300μm未満である粒子の質量割合が15〜35質量%であり、水硬性成分100質量部に対して細骨材70〜300質量部であり、改質アスファルトエマルジョンは、水硬性組成物100質量部に対して40〜100質量部である下地調整材を提供する。
本発明の下地調整材によれば、一般建築物の屋上やルーフバルコニー等の下地表面に防水シート等の防水層を施工する際その下地表面を容易に平坦及び平滑に調整し、その上に短時間で次工程の防水層を施工することが可能で、温度依存性が小さい優れた流動性を有し、且つ速硬性と適度な可使時間を有する。このように、本発明の下地調整材において、温度依存性が小さい優れた流動性を有し、且つ速硬性と適度な可使時間を有する理由は必ずしも明らかではないがその理由の一つとして、本発明者らは下地調整材に含まれる各成分が相互に作用するとともに、特に特定のアルミナセメントと特定の細骨材との組み合わせによって生じる作用が、温度依存性が小さい優れた流動性や、速硬性及び適度な可使時間を有することに寄与していると考える。
本発明の下地調整材は、以下の態様であることが好ましい。本発明の下地調整材は、以下の態様を適宜組み合わせることがより好ましい。
水硬性成分は、水硬性成分100質量%中にアルミナセメント30〜70質量%、ポルトランドセメント20〜60質量%、石膏1〜20質量%含むことが好ましい。これにより、速硬性や適度な可使時間をより向上することができる。
水硬性成分100質量部に対して、流動化剤0.01〜2.00質量部含むことが好ましい。これにより、流動性や適度な可使時間をより向上することができる。
凝結調整剤は、凝結促進剤及び凝結遅延剤からなり、水硬性成分100質量部に対して、凝結促進剤0.01〜2.00質量部、凝結遅延剤0.01〜2.00質量部含むことが好ましい。これにより、流動性や速硬性、適度な可使時間をより向上することができる。
改質アスファルトエマルジョンは、改質アスファルトエマルジョン100質量%中に固形分40〜70質量%含むことが好ましい。これにより、一層優れた流動性や速硬性、適度な可使時間を有する下地調整材とすることができる。
本発明によれば、一般建築物の屋上やルーフバルコニー等の下地表面に防水シート等の防水層を施工する際、アスファルト系下地調整材を用いてその下地表面を容易に平坦及び平滑に調整し、その上に短時間で次工程の防水層を施工することが可能で、温度依存性が小さい優れた流動性を有し、且つ速硬性と適度な可使時間を有する下地調整材を提供することができる。
アルミナセメントの粒子径―積算篩上質量%曲線を示す図である。
<下地調整材>
本発明の下地調整材の好適な実施形態について以下に説明する。本実施形態の下地調整材は、一般建築物の屋上やルーフバルコニー等の下地表面に施工するアスファルト系下地調整材であり、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、細骨材と、流動化剤と、凝結調整剤とを含む水硬性組成物、及び改質アスファルトエマルジョンを含む下地調整材である。
以下、本実施形態の下地調整材に含まれる各成分について詳細に説明する。
<水硬性組成物>
アルミナセメントは、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、主成分がモノカルシウムアルミネート(CA)であるものが好ましい。本実施形態の下地調整材に含まれるアルミナセメントのブレーン比表面積は1500〜3800cm/gであり、好ましくは1800〜3700cm/gであり、より好ましくは2000〜3600cm/gであり、さらに好ましくは2300〜3500cm/gであり、特に好ましくは2500〜3400cm/gでありである。ここで、アルミナセメントのブレーン比表面積は、JIS R 2521:1995に準拠して求められる。
また、アルミナセメントのブレーン比表面積が上記範囲であり、且つアルミナセメントの平均粒子径が13.0〜30.0μmであり、好ましくは13.5〜25.0μmであり、より好ましくは14.0〜22.0μmであり、さらに好ましくは14.5〜20.0μmであり、特に好ましくは15.0〜18.0μmである。アルミナセメントのブレーン比表面積及び平均粒子径が上記範囲であることにより、温度依存性が小さい優れた流動性や、速硬性及び適度な可使時間を有することに寄与する。
さらに、アルミナセメント全体を基準として、アルミナセメントの各粒子径における積算篩上質量割合(粒子径―積算篩上質量%)は、粒子径96μm以上である粒子の質量割合が0を超えて6.0質量%であり、且つ粒子径64μm以上である粒子の質量割合が1.5〜20質量%であり、且つ粒子径48μm以上である粒子の質量割合が6.0〜30質量%であり、且つ粒子径32μm以上である粒子の質量割合が18〜50質量%であることが好ましく、粒子径96μm以上である粒子の質量割合が0.1〜5.5質量%であり、且つ粒子径64μm以上である粒子の質量割合が2.0〜17質量%であり、且つ粒子径48μm以上である粒子の質量割合が7.0〜27質量%であり、且つ粒子径32μm以上である粒子の質量割合が19〜48質量%であることがより好ましく、粒子径96μm以上である粒子の質量割合が0.2〜5.0質量%であり、且つ粒子径64μm以上である粒子の質量割合が3.0〜14質量%であり、且つ粒子径48μm以上である粒子の質量割合が8.0〜23質量%であり、且つ粒子径32μm以上である粒子の質量割合が20〜42質量%であることがさらに好ましく、粒子径96μm以上である粒子の質量割合が0.3〜4.5質量%であり、且つ粒子径64μm以上である粒子の質量割合が4.0〜12質量%であり、且つ粒子径48μm以上である粒子の質量割合が9.0〜22質量%であり、且つ粒子径32μm以上である粒子の質量割合が20〜37質量%であることが特に好ましい。アルミナセメントの粒子径の質量割合が上述の範囲であることにより、温度依存性が小さい優れた流動性や、速硬性及び適度な可使時間を有することをより確実にする。
アルミナセメントの各粒子径における積算篩上質量割合(粒子径―積算篩上質量%)は、レーザー回折式粒度分布測定装置[セイシン企業製、LMS−30(レーザー・マイクロ・サイザー)]を用いて測定した粒度分布より、粒子径―積算篩上質量%曲線を作成し算出することができ、平均粒子径は、粒子径―積算篩上質量%曲線より積算篩上質量%が50%となる粒子径とする。
ポルトランドセメントは、水硬性材料として一般的なものであり、いずれの市販品も使用することができる。これらのなかでも、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」で規定されるポルトランドセメントを用いることが好ましい。
石膏は、例えば、二水石膏、半水石膏及び無水石膏が挙げられ、排煙脱硫やフッ酸製造工程等で副産される石膏、又は天然に産出される石膏のいずれも使用することができる。作業性の観点から、無水石膏の使用が好ましい。
本発明では、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることにより、ポルトランドセメント単味と比べ、優れた速硬性を有する下地調整材を得ることができる。
水硬性成分は、水硬性成分100質量%中に、アルミナセメント30〜70質量%、ポルトランドセメント20〜60質量%、石膏1〜20質量%含むことが好ましく、アルミナセメント35〜65質量%、ポルトランドセメント25〜55質量%、石膏3〜18質量%含むことがより好ましく、アルミナセメント40〜60質量%、ポルトランドセメント30〜50質量%、石膏4〜16質量%含むことがさらに好ましく、アルミナセメント45〜55質量%、ポルトランドセメント35〜45質量%、石膏5〜15質量%含むことが特に好ましい。アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏が上記範囲であることにより、速硬性や適度な可使時間をより向上することができる。
細骨材は、細骨材全体を基準として、粒子径が2000μm以上の粒子を含まず、粒子径が600μm以上であり且つ1180μm未満である粒子の質量割合が10質量%以下であり、粒子径が300μm以上であり且つ600μm未満である粒子の質量割合が60〜80質量%であり、粒子径が150μm以上であり且つ300μm未満である粒子の質量割合が15〜35質量%である。
また、細骨材全体を基準として、粒子径が2000μm以上の粒子を含まず、粒子径が600μm以上であり且つ1180μm未満である粒子の質量割合が9質量%以下であり、粒子径が300μm以上であり且つ600μm未満である粒子の質量割合が63〜77質量%であり、粒子径が150μm以上であり且つ300μm未満である粒子の質量割合が18〜32質量%であることが好ましい。
また、細骨材全体を基準として、粒子径が2000μm以上の粒子を含まず、粒子径が600μm以上であり且つ1180μm未満である粒子の質量割合が8質量%以下であり、粒子径が300μm以上であり且つ600μm未満である粒子の質量割合が65〜75質量%であり、粒子径が150μm以上であり且つ300μm未満である粒子の質量割合が20〜30質量%であることがより好ましい。
細骨材の粒子径が、上述の範囲内であることにより、温度依存性が小さい優れた流動性を有することに寄与する。
細骨材の粒子径は、JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。また、本明細書において、「粒子径が2000μm未満である粒子の質量割合」とは、篩目2000μmの篩を用いたときに篩目2000μmの篩を通過した粒子の細骨材全体に対する質量割合をいう。また、「粒子径が300μm以上であり且つ600μm未満である粒子の質量割合」とは、篩目600μmの篩いを用いたときに篩目600μmの篩いを通過し、且つ、篩目300μmの篩を用いたとき、篩目300μmの篩上に残る粒子の細骨材全体に対する質量割合をいう。
このような細骨材として、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類から選択したものを好適に用いることができる。
本実施形態の下地調整材における細骨材の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、70〜300質量部であり、好ましくは75〜200質量部であり、さらに好ましくは80〜160質量部であり、特に好ましくは85〜140質量部である。
細骨材の含有量を上記範囲とすることにより、温度依存性が小さい優れた流動性を有することに寄与する。
流動化剤は、減水効果を有し、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、リグニンスルホン酸系、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸系等の市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にメラミンスルホン酸系の市販の流動化剤を用いることが好ましい。
本実施形態の下地調整材における流動化剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜2.00質量部、より好ましくは0.05〜1.50質量部、さらに好ましくは0.08〜1.00質量部、特に好ましくは0.10〜0.50質量部である。
流動化剤の含有量を上記範囲とすることにより、流動性をより向上することができる。
凝結調整剤は、水硬性成分の水和反応を調整するために用いられる。凝結調整剤としては、水硬性成分の水和反応を促進する凝結促進剤と水硬性成分の水和反応を遅延する凝結遅延剤があり、使用する水硬性成分の配合に応じてこれらの成分や添加量を適宜選択する。
凝結遅延剤としては、公知の水和を遅延する成分を用いることができる。一例として、オキシカルボン酸類等の有機酸や、グルコース、マルトース、デキストリン等の糖類、重炭酸ナトリウムやリン酸ナトリウム等を、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸及びトロパ酸等の芳香族オキシ酸を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩及びカリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩及びマグネシウム塩等)を挙げることができ、ナトリウム塩がより好ましい。また、特に、クエン酸ナトリウムが、凝結遅延効果、入手容易性及び価格の面から好ましく、重炭酸ナトリウムと併用することが更に好ましい。
本実施形態の下地調整材における凝結遅延剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜2.00質量部、より好ましくは0.05〜1.00質量部、さらに好ましくは0.08〜0.75質量部、特に好ましくは0.10〜0.50質量部である。
凝結遅延剤の含有量を上記範囲とすることにより、適度な可使時間をより向上することができる。
凝結促進剤としては、公知の水和を促進する成分を用いることができる。例えば、リチウム塩、硫酸アルミニウム及び塩化カルシウムを好適に用いることができ、これらを数種組み合わせて使用することができる。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム及び水酸化リチウム等の無機リチウム塩や、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム及びクエン酸リチウム等の有機酸有機リチウム塩を挙げることができる。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性及び価格の面から好ましい。
凝結促進剤としては、下地調整材の特性を妨げない粒子径のものを用いることが好ましく、粒子径は50μm以下にすることが好ましい。特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒子径は好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下である。リチウム塩の粒子径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくない。
本実施形態の下地調整材における凝結促進剤は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜2.00質量部、より好ましくは0.10〜1.20質量部、さらに好ましくは0.30〜1.00質量部、特に好ましくは0.50〜0.80質量部である。
凝結促進剤の含有量を上記範囲とすることにより、速硬性や適度な可使時間をより向上することができる。
本実施形態の下地調整材における水硬性組成物は、さらに目的に応じ、本発明の特性を損なわない範囲で消泡剤、増粘剤などを適宜選択して添加することができる。
水硬性組成物に消泡剤を添加することにより、改質アスファルトエマルジョンと混合して得られる下地調整材の気泡によるピンホールを防止する上で好ましい。水硬性組成物に増粘剤を添加することにより、改質アスファルトエマルジョンと混合して得られるペースト状やスラリー状の下地調整材の流動性を確保したまま、材料分離をより十分なレベルまで抑えることができる。
消泡剤は、モルタルやコンクリートに使用できるものであれば、市販の何れのものでも使用できるが、例えば鉱油系、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質などを用いることができる。消泡剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜0.30質量部、より好ましくは0.03〜0.20質量部、さらに好ましくは0.04〜0.15質量部、特に好ましくは0.05〜0.11質量部である。消泡剤の添加量が少なすぎると好適な効果を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できない。
増粘剤は、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの市販品が挙げられる。中でもセルロース系増粘剤は価格や入手のし易さの観点から好ましい。セルロース系増粘剤には、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等があり、その種類を問わず組み合わせて用いることができる。
本実施形態の下地調整材における水硬性組成物は、一般的な混合機で混合して水硬性組成物を均質に調製することができる。混合機としては、公知の混合機を用いることができ、例えば、ナウターミキサ、リボンミキサ、オムニミキサ等を挙げることができる。
水硬性組成物は、一般的な混合機で混合して組成物を均質に調製し、粉体状態で一般に使用されているセメントの包装袋、紙袋、ポリエチレン袋、ポリビニール袋の他に、外気接触が無い金属性・有機質系の密閉容器などで貯蔵することができる。
<改質アスファルトエマルジョン>
改質アスファルトエマルジョンは、下地や上に敷設される防水層との接着性や耐クラック性を向上させるために下地調整材に含まれる。また、改質アスファルトエマルジョンを含む下地調整材は、新設防水層がアスファルト系防水層の場合、プライマーを使用しなくても新設アスファルト系防水層と高い接着力が得られ、トーチ工法の炎に対しても爆裂することなくむしろ溶融に近い状態を経てより高い接着性に寄与する。さらに、改修工事において、下地に古い防水層、特に古いアスファルト系防水層等が残存していたとしても高い接着力が得られ、上に敷設される防水層とも一体化し、良好な防水構造体を得ることができる。
改質アスファルトエマルジョンは、改質アスファルトを含む固形分を水又は含水溶媒に分散させたものであり、改質アスファルトエマルジョン100質量%中に固形分40〜70質量%含むことが好ましく、固形分45〜65質量%含むことがより好ましく、固形分50〜60質量%含むことが特に好ましい。
固形分を、上述の範囲で含有することにより、エマルジョンとしてより安定した分散状態を維持できるとともに、水硬性組成物と混和して下地調整材を調製する際に、より良好な混和性が得られる。
本実施形態の下地調整材における改質アスファルトエマルジョンの含有量は、水硬性組成物100質量部に対して、好ましくは40〜100質量部であり、より好ましくは50〜90質量部であり、さらに好ましくは55〜85質量部であり、特に好ましくは60〜80質量部である。
改質アスファルトエマルジョンの含有量を上記範囲とすることにより、温度依存性が小さい優れた流動性や、速硬性及び適度な可使時間を有することに寄与する。
改質アスファルトエマルジョンは、公知の製造方法により得られるものを用いることができ、例えば、水又は含水溶媒中で乳化剤の存在下に、アスファルトにゴム、ポリマーなどを混和して改質したアスファルト(改質アスファルト)と、ゴム及び/又はポリマーとが乳化分散しているものなどを用いることができる。また、改質アスファルトエマルジョンは、ゴム及び/またはポリマーと、加熱溶融したアスファルトにゴム及び/又はポリマーなどを混和した改質アスファルトとを乳化機を通して混合する方法などの公知の方法で製造したものを用いることができる。
乳化剤としては、公知のものを用いることができ、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性の界面活性剤やポリビニルアルコールなどの保護コロイドなどを挙げることができる。
改質アスファルトエマルジョンにおいて、ゴム成分としては、天然ゴム、エチレンプロピレンジエン共重合ゴム、エチレンブテン共重合ゴム、ポリイソプレン、イソプレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体(例えば、SBS、SBRなど)、スチレン・イソプレンブロック共重合ゴム、及びこれらの水素添加物、メタクリレートとブタジエンの共重合体、アクリレートとブタジエンの共重合体、アクリルニトリルとブタジエンの共重合体、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリイソブレチン、ブチルゴム、ポリウレタンなど及びこれらのカルボキシル基やグリシジル基などの官能基を導入した変性物などであり、ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン、エチレン・アクリレート共重合体、エチレン・メタクリレート共重合体、酢酸ビニール・アクリレート共重合体、酢酸ビニール・メタアクリレート共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル・脂肪酸ビニルエステル共重合体、酢酸ビニルとマレイン酸、フマール酸、イタコン酸などのジエステルの共重合体、アルキルメタクリレート・アルキルアクリレート共重合体、スチレン・アルキルアクリレート共重合体、エチレン・アルキルアクリレート共重合体、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、など及びこれらの重合体にカルボキシル基、マレイン酸などの酸変性などの官能基を導入した変性物などである。
アスファルトとしては、天然アスファルトやアスファルタイトなど天然に産するもの、ストレートアスファルト、ブローンアスファルト、カットバックアスファルト等の石油アスファルト、又はこれらのアスファルトの混合物などを好ましく用いることができる。また、アスファルトはプロセスオイル、潤滑油などのオイル、アンスラセンオイル、パイン油、クレオソート油などを少量添加したものを用いることができる。さらに、老化防止剤を添加することもできる。
本実施形態の下地調整材は、水硬性組成物と改質アスファルトエマルジョンを均質に混合して調製し、一般建築物の屋上やルーフバルコニー等の下地表面に防水シート等の防水層を施工する際、アスファルト系下地調整材を用いてその下地表面を容易に平坦及び平滑に調整し、その上に短時間で次工程の防水層を施工することができる。また、本発明の特性を損なわない範囲で水硬性組成物と改質アスファルトエマルジョンにさらに水を加えて混合することもできる。
本実施形態の下地調整材は、施工条件に応じて鏝やゴムベラ、場合によってはローラー刷毛等を用い、1〜10mm程度の厚さに下地調整材をより容易に平坦及び平滑に施工することができる。その際、流動性の指標となる下地調整材のフロー値は、23℃の条件下では、200〜240mmが好ましく、205〜230mmがさらに好ましい。35℃の条件下では、210〜250mmが好ましく、215〜240mmがさらに好ましい。また、温度依存性の小さい流動性の指標となる下地調整材のフロー比は、0.90〜1.10が好ましく、0.95〜1.05がより好ましい。
さらに、本実施形態の下地調整材は、短時間で次工程の施工に取り掛かることを可能とするために、速硬性と適度な可使時間を有している。適度な可使時間(施工可能時間)の指標となる可使時間(hr)は、23℃の条件下では、2.5hr以下が好ましく、2hr以下がより好ましい。35℃の条件下では、2hr以下が好ましく、1.5hr以下がより好ましい。速硬性の指標となる硬化時間(hr)は、23℃の条件下では、2〜5hrが好ましく、2〜4hrがより好ましい。35℃の条件下では、1〜2.5hrが好ましく、1〜2hrがより好ましい。ここで、施工終了後にできるだけ早く硬化することが好ましいことから、可使時間と硬化時間が同じであってもかまわない。上述のhrは、hour又はhoursの略字である。
下地調整材のフロー値が上記範囲であることにより、流動性に優れ、良好な施工性を奏することができる。また、下地調整材のフロー比が上記範囲であることにより、温度依存性の小さい優れた流動性を有することができる。さらに、下地調整材の可使時間と硬化時間が上記範囲であることにより、速硬性と適度な可使時間を有し、短時間で次工程の施工に取り掛かることができる。
ここで、下地調整材の「フロー値」とは、JASS 15M−103「社団法人日本建築学会:セルフレベリング材の品質基準」に記載の試験方法に準拠して20℃及び35℃で測定した値(単位:mm)をいう。また、「フロー比」とは、35℃でのフロー値を、23℃でのフロー値で除した値をいう。「可使時間」とは、調製直後の下地調整材のフロー値から80%以下のフロー値となるまでの時間をいう。「硬化時間」とは、10mm厚みになるようにプラスチック容器に調製直後の下地調整材を流し込んで養生し、ゴム硬度計(高分子計器(株)製、CS型)を用いて、下地調整材の表面硬度を計測し、下地調整材を流し込んでから硬度が90となるまでの時間をいう。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
以下に実験例を挙げて本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
(実験例1)
水硬性成分100質量部に対し、細骨材、流動化剤、凝結調整剤及び消泡剤を表3に示す質量部で配合して水硬性組成物を調製し、改質アスファルトエマルジョンを該水硬性組成物100質量部に対し、表3に示す質量部で配合して下地調整材を調製した。また、表3において、水硬性成分であるアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏は、各質量部の合計が100質量部になるように配合した。下地調整材の混練は、温度23℃及び温度35℃の条件下で、攪拌機(ヤマト科学社製、ラボスターラーLR400D)を用いて700rpmで3分間行った。混練直後にフロー値を測定し、その後可使時間及び硬化時間を23℃及び35℃の条件下で測定した。
[使用材料]
(1)水硬性成分
・アルミナセメントA(ブレーン比表面積:3950cm/g、平均粒子径:12.2μm、粒子径―積算篩上質量%:表1及び図1に示す。)
・アルミナセメントB(ブレーン比表面積:2900cm/g、平均粒子径:16.5μm、粒子径―積算篩上質量%:表1及び図1に示す。)
・早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積:4580cm/g)
・石膏(天然無水石膏、ブレーン比表面積4470cm/g)
Figure 0006149524
表1に示されるアルミナセメントの各粒子径における積算篩上質量割合(粒子径―積算篩上質量%)は、レーザー回折式粒度分布測定装置[セイシン企業製、LMS−30(レーザー・マイクロ・サイザー)]を用いて粒度分布を測定し、得られた粒度分布より、粒子径―積算篩上質量%曲線を作成し算出した。粒子径−積算篩上質量%曲線は図1に示す。平均粒子径は、粒子径―積算篩上質量%曲線より積算篩上質量%が50%となる粒子径とした。
(2)細骨材
・細骨材(珪砂、JIS篩を使用して測定した細骨材の粒度構成を表2に示す。)
Figure 0006149524
(3)流動化剤
・メラミンスルホン酸系流動化剤(日本シーカ社製)
(4)凝結調整剤
・凝結促進剤(炭酸リチウム、平均粒子径3.5μm)
・凝結遅延剤A(クエン酸ナトリウム)
・凝結遅延剤B(重炭酸ナトリウム)
(5)消泡剤
・鉱油系消泡剤(〔鉱油、特殊非イオン性界面活性剤を含む〕、ADEKA社製)
(6)改質アスファルトエマルジョン(宇部興産社製、主成分としてアスファルト、ブタジエン・スチレン共重合物、水を含む、固形分52%)
Figure 0006149524
[物性の評価方法]
調製した各実施例及び各比較例の下地調整材のフロー値、可使時間及び硬化時間を測定した。測定結果は、表4に示すとおりであった。各測定は、以下に示す方法で行った。
(1)フロー値の測定方法
JASS 15M−103「社団法人日本建築学会:セルフレベリング材の品質基準」に記載の試験方法に準拠して、下地調整材をそれぞれ23℃及び35℃で調製し、直ぐに各温度で測定した。
(2)可使時間の測定方法
上述のフロー値の測定にて、23℃及び35℃で調製した下地調整材を一定時間静置し、所定の時間毎にフロー値を測定し、調製直後のフロー値から80%以下となるまでの時間を可使時間として測定した。
(3)硬化時間の測定方法
23℃及び35℃で調製した下地調整材を各温度条件で10mm厚みになるようにプラスチック容器に流し込んで養生し、ゴム硬度計(高分子計器(株)製、CS型)を用いて、下地調整材の表面硬度を計測し、下地調整材を流し込んでから硬度が90となるまでの時間を硬化時間として測定した。
Figure 0006149524
表4に示すとおり、ブレーン比表面積が3950cm/gであり、且つ平均粒子径が12.2μmのアルミナセメントAを含み、細骨材含有量が水硬性成分100質量部に対して100質量部であるNo.1−1は、各温度条件におけるフロー値及びフロー比は良好な値を示したが、可使時間及び硬化時間は、各温度条件で遅い値を示した。ブレーン比表面積が3950cm/gであり、且つ平均粒子径が12.2μmのアルミナセメントAを含み、細骨材含有量が水硬性成分100質量部に対して122質量部であるNo.1−2は、各温度条件におけるフロー値及びフロー比は良好な値を示したが、可使時間及び硬化時間は、各温度条件で遅い値を示した。ブレーン比表面積が2900cm/gであり、且つ平均粒子径が16.5μmのアルミナセメントBを含み、細骨材含有量が水硬性成分100質量部に対して67質量部であるNo.1−3は、35℃の温度条件におけるフロー値が低く、フロー比も低下した。ブレーン比表面積が2900cm/gであり、且つ平均粒子径が16.5μmのアルミナセメントBを含み、細骨材含有量が水硬性成分100質量部に対して100質量部であるNo.1−4は、各温度条件におけるフロー値及びフロー比は良好な値を示し、可使時間及び硬化時間も、各温度条件で良好な値を示した。ブレーン比表面積が2900cm/gであり、且つ平均粒子径が16.5μmのアルミナセメントBを含み、細骨材含有量が水硬性成分100質量部に対して122質量部であるNo.1−5は、各温度条件におけるフロー値及びフロー比は良好な値を示し、可使時間及び硬化時間も、各温度条件で良好な値を示した。
以上より、No.1−4及びNo.1−5のように、特定のアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、特定の細骨材と、流動化剤と、凝結調整剤とを含む水硬性組成物、及び改質アスファルトエマルジョンを含む下地調整材は、温度依存性が小さい優れた流動性を有し、且つ速硬性と適度な可使時間を有することが確認された。すなわち、一般建築物の屋上やルーフバルコニー等の下地表面に防水シート等の防水層を施工する際、その下地表面を容易に平坦及び平滑に調整し、その上に短時間で次工程の防水層を施工することができる。

Claims (5)

  1. 水硬性組成物及び改質アスファルトエマルジョンを含む下地調整材であって、
    前記水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、細骨材、流動化剤、及び凝結調整剤を含み、
    前記アルミナセメントは、ブレーン比表面積が1500〜3800cm/gであり、且つ平均粒子径が13〜30μmであり、
    前記細骨材は、細骨材全体を基準として、粒子径が2000μm以上の粒子を含まず、粒子径が600μm以上であり且つ1180μm未満である粒子の質量割合が10質量%以下であり、粒子径が300μm以上であり且つ600μm未満である粒子の質量割合が60〜80質量%であり、粒子径が150μm以上であり且つ300μm未満である粒子の質量割合が15〜35質量%であり、前記水硬性成分100質量部に対して細骨材70〜300質量部であり、
    前記改質アスファルトエマルジョンは、水硬性組成物100質量部に対して40〜100質量部である
    下地調整材。
  2. 前記水硬性成分は、水硬性成分100質量%中にアルミナセメント30〜70質量%、ポルトランドセメント20〜60質量%、石膏1〜20質量%含む、
    請求項1記載の下地調整材。
  3. 前記水硬性成分100質量部に対して、流動化剤0.01〜2.00質量部含む、
    請求項1又は請求項2記載の下地調整材。
  4. 前記凝結調整剤は、凝結促進剤及び凝結遅延剤からなり、
    前記水硬性成分100質量部に対して、凝結促進剤0.01〜2.00質量部、凝結遅延剤0.01〜2.00質量部含む、
    請求項1〜3のいずれか1項記載の下地調整材。
  5. 前記改質アスファルトエマルジョンは、改質アスファルトエマルジョン100質量%中に固形分40〜70質量%含む
    請求項1〜4のいずれか1項記載の下地調整材。
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