以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、排気ガス還流制御装置により制御されるエンジン1の概略構成を示す。
このエンジン1は、車両に搭載されたディーゼルエンジンであって、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面には深皿形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。また、シリンダヘッド12には、吸気弁21及び排気弁22のリフト量を調整する可変バルブリフト機構(以下、VVLという)が設けられている。このVVLは、吸気弁21及び排気弁22を、全閉状態又は略全閉状態になるように、それぞれのリフト量を調整することができる。
また、前記シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に吸入空気を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。前記インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、圧縮行程上死点付近で燃焼室14aに燃料を直接噴射供給するようになっている。
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、吸入空気の過給を行う大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62とが配設されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、上流側から順に、詳しくは後述する大型及び小型ターボ過給機61,62のコンプレッサ61a,62aと、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、吸気シャッタ弁36とが配設されている。吸気シャッタ弁36は、基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、小型及び大型ターボ過給機62,61のタービン62b,61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
この排気浄化装置41は、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、フィルタという)41bとを有しており、上流側から、この順に並んでいる。酸化触媒41a及びフィルタ41bは1つのケース内に収容されている。前記酸化触媒41aは、白金又は白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO2及びH2Oが生成する反応を促すものである。この酸化触媒41aが触媒を構成する。また、前記フィルタ41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するものである。尚、フィルタ41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。
大型ターボ過給機61は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ61aと、排気通路40に配設された大型タービン61bとを有している。大型コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間に配設されている。一方、大型タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと酸化触媒41aとの間に配設されている。
小型ターボ過給機62は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ62aと、排気通路40に配設された小型タービン62bとを有している。小型コンプレッサ62aは、吸気通路30における大型コンプレッサ61aの下流側に配設されている。一方、小型タービン62bは、排気通路40における大型タービン61bの上流側に配設されている。小型ターボ過給機62は、相対的に小型のものであり、大型ターボ過給機61は、相対的に大型のものである。すなわち、大型ターボ過給機61の大型タービン61bの方が小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりもイナーシャが大きい。
大型ターボ過給機61及び小型ターボ過給機62は、ターボ過給機の一例である。大型コンプレッサ61a及び小型コンプレッサ62aは、コンプレッサの一例である。大型タービン61b及び小型タービン62bは、タービンの一例である。
吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン62bと大型タービン61bとが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン61b,62bが排気ガス流により回転し、これら大型及び小型タービン61b,62bの回転により、該大型及び小型タービン61b,62bとそれぞれ連結された前記大型及び小型コンプレッサ61a,62aがそれぞれ作動する。大型又は小型コンプレッサ61a,62aによって、吸入空気の過給が行われる。
そして、吸気通路30には、小型コンプレッサ62aをバイパスする吸気バイパス通路63が接続されている。この吸気バイパス通路63には、該吸気バイパス通路63へ流れる空気量を調整するための吸気バイパス弁63aが配設されている。この吸気バイパス弁63aは、無通電時には全閉状態(ノーマルクローズ)となるように構成されている。これにより、吸気バイパス弁63aが故障したときに、吸気が吸気バイパス通路63を介して循環することによる小型コンプレッサ62aの過回転を防止することができる。
一方、排気通路40には、小型タービン62bをバイパスする小型排気バイパス通路64と、大型タービン61bをバイパスする大型排気バイパス通路65とが接続されている。小型排気バイパス通路64には、該小型排気バイパス通路64へ流れる排気量を調整するためのレギュレートバルブ64aが配設され、大型排気バイパス通路65には、該大型排気バイパス通路65へ流れる排気量を調整するためのウェイストゲートバルブ65aが配設されている。レギュレートバルブ64a及びウェイストゲートバルブ65aは共に、無通電時には全開状態(ノーマルオープン)となるように構成されている。
また、前記エンジン1は、その排気ガスの一部を排気通路40から吸気通路30に還流させる。具体的には、エンジン1は、高圧EGRシステム70と、低圧EGRシステム80とを有している。高圧EGRシステム70及び低圧EGRシステム80は、EGRシステムの一例である。
高圧EGRシステム70は、クーラ通路71aとバイパス通路71bとを含む高圧EGR通路71と、クーラ通路71aに設けられた高圧EGRクーラ72と、クーラ通路71aを流通する排気ガスの流量を調整するクーラEGR弁73と、バイパス通路71bを流通する排気ガスの流量を調整するバイパスEGR弁74とを有している。高圧EGR通路71は、EGR通路の一例であり、クーラEGR弁73及びバイパスEGR弁74は、高圧EGR弁の一例である。
高圧EGR通路71は、排気通路40における排気マニホールドと小型ターボ過給機62の小型タービン62bとの間の部分(つまり、小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりも上流側部分)と、吸気通路30におけるサージタンク33と吸気シャッタ弁36との間の部分(つまり、小型ターボ過給機62の小型コンプレッサ62aよりも下流側部分)とを接続している。高圧EGR通路71は、排気通路40のうち排気圧センサS5の下流側に接続されている。高圧EGR通路71は、その途中で、クーラ通路71aとバイパス通路71bとに分岐している。クーラ通路71aとバイパス通路71bとは、最終的に合流して1本の高圧EGR通路71となる。
高圧EGRクーラ72は、クーラ通路71aを流通する排気ガスをエンジン冷却水によって冷却する。
クーラEGR弁73及びバイパスEGR弁74は、高圧EGR弁が構成し、高圧EGRシステム70による排気ガスの還流量を調節する。
低圧EGRシステム80は、低圧EGR通路81と、低圧EGR通路81に設けられた低圧EGRクーラ82と、低圧EGR通路81を流通する排気ガスの流量を調整する低圧EGR弁83とを有している。
低圧EGR通路81は、排気通路40における排気浄化装置41とサイレンサ42との間の部分(つまり、大型ターボ過給機61の大型タービン61bよりも下流側部分)と、吸気通路30における大型ターボ過給機61の大型コンプレッサ61aとエアクリーナ31との間の部分(つまり、大型ターボ過給機61の大型コンプレッサ61aよりも上流側部分)とを接続している。
低圧EGR弁83は、低圧EGRシステム80による排気ガスの還流量を調節する。
尚、排気通路40における低圧EGR通路81の接続部分とサイレンサ42との間には、排気シャッタ弁43が配設されている。排気シャッタ弁43は、排気通路40の断面積を変更するものである。排気シャッタ弁43により排気通路40の断面積が小さくなる(排気シャッタ弁43の開度が小さくなる)と、排気通路40における低圧EGR通路81の接続部分の圧力が高くなって、低圧EGR通路81における排気通路40側と吸気通路30側との間の差圧が大きくなる。したがって、低圧EGR弁83の開度を調整することに加えて、排気シャッタ弁43の開度を制御することで、低圧EGRシステム80による排気ガスの還流量を調節することができる。
エンジン1には、クランク軸8の回転角度位置を検出することでエンジン1の回転数を検出するエンジン回転数センサS1が設けられている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31の下流側近傍には、吸気通路30に吸入された吸入空気の流量を検出するエアフローセンサS2が配設されている。サージタンク34には、エンジン1の気筒2に吸入されるガス温度を検出する吸入ガス温度センサS3と、エンジン1の気筒2に吸入されるガス圧を検出する吸気圧センサS4とが配設されている。
排気通路40における排気マニホールドの下流には、エンジン1より排気された排気ガスの圧力を検出する排気圧センサS5が配設されている。また、排気通路40における排気浄化装置41と低圧EGR通路81の接合部との間には、排気ガスの酸素濃度を検出する排気酸素濃度センサS6が設けられている。
このように構成されたエンジン1は、コントロールユニット100によって制御される。コントロールユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスとを備えている。コントロールユニット100は、制御部の一例である。
エンジン回転数センサS1、エアフローセンサS2、吸入ガス温度センサS3、吸気圧センサS4、排気圧センサS5及び排気酸素濃度センサS6等からの信号がコントロールユニット100に入力される。また、コントロールユニット100には、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサS7からの信号が入力される。
そして、コントロールユニット100は、前記入力信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、VVL、インジェクタ18、大型ターボ過給機61、小型ターボ過給機62、吸気シャッタ弁36、排気シャッタ弁43、クーラEGR弁73、バイパスEGR弁74及び低圧EGR弁83を制御する。
例えば、コントロールユニット100は、エンジンの運転状態に応じて大型及び小型ターボ過給機61,62の動作を制御している。具体的には、コントロールユニット100は、吸気バイパス弁63a、レギュレートバルブ64a及びウェイストゲートバルブ65aの各開度をエンジン1の運転状態に応じて設定した開度にそれぞれ制御する。
詳しくは、図3に示す、エンジン回転数とエンジン負荷とをパラメータとするターボマップにおける低負荷且つ低回転側の領域A(エンジン負荷が所定負荷(エンジン回転数が大きいほど小さくなる)以下の領域)では、吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aが全閉とされ、ウェイストゲートバルブ65aが全閉とされる。領域Aでは、主として小型ターボ過給機62が作動する。
領域Aよりも負荷及び回転数が高い領域Bでは、吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aが全閉以外且つ全開以外の開度に調整され、ウェイストゲートバルブ65aが全閉とされる。領域Bでは、小型ターボ過給機62が排気抵抗となって、ポンピングロスが大きくなり始める運転領域である。そのため、レギュレートバルブ64aを全閉状態から開くことによって、排気ガスの一部を小型排気バイパス通路64へ流入させ、ポンピングロスを低減している。領域Bでは、小型ターボ過給機62の過給性能を十分に発揮させつつ、ポンピングロスを低減している。この領域Bを設けることによって、主として小型ターボ過給機62が作動する場合と、主として大型ターボ過給機61が作動する場合とでの過給圧の変動を和らげている。
領域Bよりも負荷及び回転数が高い領域Cでは、吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aが全開状態とされ、ウェイストゲートバルブ65aが全閉状態とされる。これにより、小型ターボ過給機62をバイパスさせて大型ターボ過給機61のみを作動させる。
領域Cよりも負荷及び回転数が高い領域Dでは、吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aが全開状態とされ、ウェイストゲートバルブ65aが全閉以外且つ全開以外の開度に調整される。領域Dでは、ウェイストゲートバルブ65aを全閉状態から開くことによって、排気ガスの一部を大型排気バイパス通路65へ流入させ、ポンピングロスを低減している。
また、コントロールユニット100は、エンジンの運転状態に応じて高圧EGRシステム70及び低圧EGRシステム80の動作を制御している。
詳しくは、コントロールユニット100は、エンジン1の運転状態に応じて、低圧EGRシステム80による排気ガスの還流量の目標値である目標低圧EGR量と、高圧EGRシステム70による排気ガスの還流量の目標値である目標高圧EGR量とを決定する。本実施形態では、コントロールユニット100は、図4に示すマップを用いて目標低圧EGR量及び目標高圧EGR量を決定する。
前記マップの高負荷ないし高回転の領域である「LP」領域は、低圧EGRシステム80のみにより排気ガスの還流が行われる領域である。そのため、クーラEGR弁73及びバイパスEGR弁74は全閉状態とされる。これは、トルクが必要な高負荷領域においては全ての排気ガスを大型及び小型ターボ過給機61,62のタービン61b,62bに導き、過給させるためである。
前記マップの中負荷ないし中回転の領域である「クーラ側HP+LP」領域は、高圧EGRシステム70のクーラ通路71aによる排気ガスの還流と、低圧EGRシステム80による排気ガスの還流とが行われる領域であり、バイパス通路71bによる排気ガスの還流は行われない(バイパスEGR弁74は全閉状態とされる)。
前記マップの低負荷ないし低回転の領域である「クーラバイパス側HP+LP」領域は、高圧EGRシステム70のバイパス通路71bによる排気ガスの還流と、低圧EGRシステム80による排気ガスの還流とが行われる領域であり、クーラ通路71aによる排気ガスの還流は行われない(クーラEGR弁73は全閉状態とされる)。
コントロールユニット100は、前記「LP」領域では、低圧EGR弁83の開度を、低圧EGRシステム80による排気ガスの還流量が目標低圧EGR量になるように制御する。
尚、低圧EGRシステム80による排気ガスの還流量は、低圧EGR弁83の開度だけでなく、排気シャッタ弁43の開度も組み合わせて調整してもよい。例えば、低圧EGR通路81の上流端における排気圧力と低圧EGR通路81の下流端における吸気圧力との差圧が小さいときには、排気シャッタ弁43の開度を絞ることによって排気圧力を高めて、差圧を大きくするようにしてもよい。
まず、コントロールユニット100は、吸入ガス温度センサS3により検出されたガス温度と吸気圧センサS4により検出されたガス圧とから、エンジン1に吸入される吸気充填量を算出する。この吸気充填量は、吸気通路30に吸入された新気量と、排気通路40から吸気通路30に還流された排気ガス(前記「LP」領域では、低圧EGR通路81により還流された排気ガス)の還流量との和であって、エンジン1に吸入される総吸入ガス量に相当する。また、コントロールユニット100は、エアフローセンサS2により検出された吸入空気量から新気量を算出する。
そして、コントロールユニット100は、前記吸気充填量(総吸入ガス量)から新気量を引くことで、排気ガスの実際の還流量である実低圧EGR量を算出し、低圧EGR弁83の開度を、実低圧EGR量が目標低圧EGR量になるようにフィードバック制御する。
また、「クーラ側HP+LP」領域では、コントロールユニット100は、低圧EGR弁83の開度を制御することに加えて、クーラEGR弁73の開度を、クーラ通路71aによる排気ガスの還流量が目標高圧EGR量になるような開度に制御する。すなわち、排気圧センサS5により検出された排気ガスの圧力と吸気圧センサS4により検出されたガス圧との差と前記目標高圧EGR量とに基づいて、クーラ通路71aによる排気ガスの還流量が前記目標高圧EGR量になるようなクーラEGR弁73の開度を算出し、クーラEGR弁73の開度を、その算出した開度にする。
「クーラ側HP+LP」領域における低圧EGR弁83の開度の制御は、前記「LP」領域における制御と同様である。ただし、コントロールユニット100は、「クーラ側HP+LP」領域のように、高圧EGRシステム70及び低圧EGRシステム80の両方により排気ガスの還流を行う際には、高圧EGRシステム70及び低圧EGRシステム80の全EGR量ではなく、前記総吸入ガス量から前記新気量と前記排気圧センサ5及び吸気圧センサ4に基づく差圧とクーラEGR弁73の開度(開度センサの値)とに基づき予測値として求められる実高圧EGR量とを引くことで算出した値を実低圧EGR量とみなし、該実低圧EGR量が目標低圧EGR量になるように低圧EGR弁83の開度をフィードバック制御する。
前記「クーラバイパス側HP+LP」領域では、低圧EGR弁83の開度を制御することに加えて、バイパスEGR弁74の開度を、「クーラ側HP+HP」領域におけるクーラEGR弁73と同様に制御する。また、低圧EGR弁83の制御も、前記「クーラ側HP+LP」領域における制御と同様である。
以下に、コントロールユニット100による、高圧EGRシステム70及び低圧EGRシステム80の制御動作について、さらに詳しく説明する。図5は、低圧EGRシステム80の制御を示すフローチャートである。図6は、低圧EGRを減量補正する際の各種パラメータの変化を示す図であり、(A)は、排気酸素濃度を、(B)は、排気酸素濃度の低下率Rを、(C)は、吸気酸素濃度を、(D)は、低圧EGR弁83の開度を示す。図7,8は、高圧EGRシステム70の制御を示すフローチャートである。
−低圧EGRシステム−
まず、コントロールユニット100は、ステップSTa1で、エンジン回転数センサS1よりエンジン回転数Neを、アクセル開度センサS7よりアクセル開度Accを、エアフローセンサS2よりより吸入空気量AFSを、吸入ガス温度センサS3より吸入ガス温度Tgを、吸気圧センサS4より吸気圧Paを、排気圧センサS5より排気圧Pexをそれぞれ読み込む。
コントロールユニット100は、ステップSTa2において、吸排気モデルを用いて排気酸素濃度計算値Cex’を演算する。吸排気モデルは、吸気酸素濃度及び排気酸素濃度を演算するためのモデルである。吸排気モデルは、吸気充填量と、吸入空気量と、高圧EGRシステム70により還流される排気ガスの酸素濃度及び流量と、低圧EGRシステム80により還流される排気ガスの酸素濃度及び流量とを入力として、吸気酸素濃度計算値Cin’を演算する。また、吸排気モデルは、演算した吸気酸素濃度計算値Cin’と、吸気充填量と、燃料噴射量とを入力として、排気酸素濃度計算値Cex’を演算する。尚、吸気充填量は、吸入ガス温度センサS3からの吸入ガス温度Tg及び吸気圧センサS4からの吸気圧Paに基づいて算出される。吸入空気量は、エアフローセンサS2の出力から求められる。燃料噴射量は、アクセル開度Acc及びエンジン回転数Neに基づいて演算される。
ここで、低圧EGRシステム80の制御における排気酸素濃度計算値Cex’は、低圧EGR通路81の下流端(吸気通路30側の端部)における排気ガスの酸素濃度である。この部分の排気ガスは、燃焼室14aから排気通路40及び低圧EGR通路81を介して流通してきた排気ガスである。吸排気モデルで算出される排気酸素濃度計算値Cex’は、燃焼室14a(排気ポート17)における排気ガスなので、コントロールユニット100は、排気ガスが排気ポート17から低圧EGR通路81の下流端まで流通するのに要する時間だけ前の排気酸素濃度計算値Cex’を、低圧EGR通路81の下流端の排気酸素濃度計算値Cex’として用いる。
尚、エンジン1には、排気通路40に排気酸素濃度センサS6が設けられているものの、排気酸素濃度センサS6が実際の排気酸素濃度をCex検出するまでには時間遅れがある。そのため、運転状態が変わった直後のような過渡状態においては排気酸素モデルを用いて排気酸素濃度を予測している。ただし、排気酸素濃度センサS6は、所定の時間遅れの後には実際の排気酸素濃度Cexを検出することができるため、コントロールユニット100は、排気酸素濃度計算値Cex’と、予測から所定の時間遅れ経過後の排気酸素濃度センサS6からの排気酸素濃度Cexとを比較して学習する。すなわち、コントロールユニット100は、排気酸素濃度計算値Cex’と予測から所定の遅れ時間後の排気酸素濃度Cexとに基づいて吸排気モデルを補正していく。
次に、ステップSTa3では、コントロールユニット100は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Acc(エンジン負荷PEに対応)を図4に示すマップに照らし合わせて、エンジン1に吸入される吸入ガスの目標酸素濃度である目標吸気酸素濃度Cin1と、吸気通路30と低圧EGR通路81との合流部(以下、「低圧合流部」という)における目標酸素濃度である目標合流部酸素濃度Cin2とを求める。つまり、図4に示すマップには、エンジン回転数とエンジン負荷とによって決定される運転状態(運転ポイント)ごとに目標吸気酸素濃度Cin1と目標合流部酸素濃度Cin2とが記憶されている。尚、「LP」領域においては、目標吸気酸素濃度Cin1と目標合流部酸素濃度Cin2とは同じ値である。
そして、ステップSTa4では、コントロールユニット100は、低圧EGRシステム80による排気ガスの目標還流量である目標低圧EGR量Elp0を演算する。詳しくは、コントロールユニット100は、目標合流部酸素濃度Cin2及び排気酸素濃度計算値Cex’に基づいて目標低圧EGR量Elp0を求める。
尚、本実施形態では、目標吸気酸素濃度Cin1と目標合流部酸素濃度Cin2とを1つのマップに記憶しているが、目標吸気酸素濃度Cin1と目標合流部酸素濃度Cin2とで別々のマップを用意しておいてもよい。この場合、エンジン運転状態が「LP」領域に含まれる場合には、目標吸気酸素濃度Cin1のみを求めるようにしてもよい。そして、目標低圧EGR量Elp0を目標吸気酸素濃度Cin1及び排気酸素濃度計算値Cex’に基づいて求めてもよい。
続いて、コントロールユニット100は、ステップSTa5において、排気酸素濃度計算値Cex’が所定の酸素濃度Cex1以上か否かを判定する。コントロールユニット100は、排気酸素濃度計算値Cex’が酸素濃度Cex1以上であるときには、ステップSTa6へ進む一方、排気酸素濃度計算値Cex’が酸素濃度Cex1よりも小さいときには、ステップSTa10へ進む。
ステップSTa10では、コントロールユニット100は、低圧EGRシステム80による排気ガスの還流量が目標低圧EGR量Elp0となるように低圧EGR弁83をフィードバック制御する。
まず、コントロールユニット100は、実際に低圧EGRシステム80によって還流される排気ガスの還流量である実低圧EGR量Elp1を求める。詳しくは、コントロールユニット100は、吸入ガス温度センサS3からの吸入ガス温度Tg及び吸気圧センサS4からの吸気圧Paに基づいて、エンジン1に吸入される吸気充填量Qallを算出する。そして、コントロールユニット100は、吸気充填量Qallから、エアフローセンサS2からの空気吸入量(即ち、新気量)AFS及び上述した実高圧EGR量を引くことによって、実低圧EGR量Elp1を算出する。
次に、コントロールユニット100は、実低圧EGR量Elp1が目標低圧EGR量Elp0になるように、低圧EGR弁83をフィードバック制御する。コントロールユニット100は、排気通路40側と吸気通路30側との間の差圧を差圧モデルに基づいて算出する。そして、コントロールユニット100は、目標低圧EGR量Elp0と差圧とに基づいて低圧EGR弁83の開度を求め、低圧EGR弁83を該開度に制御する。
ステップSTa5において排気酸素濃度計算値Cex’が酸素濃度Cex1以上であると判定されたときには、コントロールユニット100は、ステップSTa6において、排気酸素濃度の低下率が所定の第1閾値A以上か否かを判定する。排気酸素濃度の低下率とは、時間に対する排気酸素濃度の低下量の比率であり、換言すると、排気酸素濃度が減少するときを正とした、排気酸素濃度の変化の傾きである。排気酸素濃度は、排気酸素濃度計算値Cex’を用いる。排気酸素濃度の低下率が第1閾値A以上のときには、コントロールユニット100はステップSTa7へ進む一方、排気酸素濃度の低下率が第1閾値A未満のときには、コントロールユニット100はステップSTa10へ進む。
ステップSTa7では、コントロールユニット100は、吸気通路30の低圧合流部における吸気酸素濃度が所定濃度Cref以下か否かを判定する。吸気酸素濃度は、吸排気モデルに基づいて求められる合流部酸素濃度計算値Cin2’を用いる。合流部酸素濃度計算値Cin2’が所定濃度Cref以下のときには、コントロールユニット100はステップSTa8へ進む一方、合流部酸素濃度計算値Cin2’が所定濃度Crefよりも大きいときには、コントロールユニット100はステップSTa10へ進む。
ステップSTa8では、コントロールユニット100は、合流部酸素濃度計算値Cin2’と目標合流部酸素濃度Cin2との偏差ΔCin2が所定の第2閾値B以下か否かを判定する。偏差ΔCin2が所定の第2閾値B以下のときには、コントロールユニット100はステップSTa9へ進む一方、偏差ΔCin2が所定の第2閾値Bよりも大きいときには、コントロールユニット100はステップSTa10へ進む。
ステップSTa9では、コントロールユニット100は、低圧EGRの減量補正を行う。詳しくは、コントロールユニット100は、ステップSTa10と同様に、目標低圧EGR量Elp0と差圧とに基づいて低圧EGR弁83の開度を求める。そして、コントロールユニット100は、求めた開度を所定量だけ減量補正し、低圧EGR弁83を減量補正した開度に所定期間だけ維持する。その後、コントロールユニット100は、低圧EGR弁83を減量補正した開度に設定してから所定期間経過すると、ステップSTa10へ進み、低圧EGR弁83のフィードバック制御を行う。
このような低圧EGR弁83の減量補正を図6を参照しながら詳細に説明する。
図6(A)、(B)に示すように、排気酸素濃度が酸素濃度Cex1以上であって且つ排気酸素濃度の低下率が第1閾値A以上であること(以下、「第1条件」という)が、低圧EGR弁83の減量補正を実行する条件の1つである。排気酸素濃度が高い状態から排気酸素濃度が急減するときには、低圧EGR弁83の減量補正、即ち、低圧EGRシステム80による排気ガスの減量を行う。排気酸素濃度が高い状態から急減するときとは、例えば、車両が減速状態から加速する場合である。すなわち、第1条件は、減速状態からの加速を判定しているということができる。減速時にはアクセルペダルをOFFにしているので、排気酸素濃度は高くなっている。この状態からアクセルペダルをONにして加速すると、排気酸素濃度が一気に低下する。
排気酸素濃度が高い状態から急減するときには、図6(C)に破線で示すように、吸気酸素濃度が目標とする濃度よりもアンダーシュートしてしまう虞がある。詳しくは、吸気酸素濃度は、排気ガスを吸気通路30に還流させることで調整されている。例えば、目標とする吸気酸素濃度が同じであっても、排気酸素濃度が異なれば、還流させる排気ガスの量は異なる。排気酸素濃度が高いほど、還流させる排気ガスの量は多くなる。つまり、排気酸素濃度が高い状態というのは、多くの排気ガスを還流させている状態である。この状態から排気酸素濃度が急減すると、酸素濃度が低い排気ガスが大量に還流させられることになり、吸気酸素濃度が急低下し、目標酸素濃度よりもアンダーシュートしてしまう虞がある。
燃料噴射量は煤排出を抑えるように設定されており、吸気酸素濃度が目標酸素濃度よりもアンダーシュートしてしまうと、燃料噴射量も目標量よりも減量される。その結果、アクセルペダルの踏み込み量に応じたトルクを発生させることができず、乗員に違和感を与えてしまう。
ここで、高圧EGRシステム70によって吸気酸素濃度のアンダーシュートが生じたとしても、高圧EGRシステム70は吸気通路30のうち燃焼室14aに比較的近い部分に排気ガスを還流させるため、アクセル操作とアンダーシュートによるトルク不足とのタイムラグがあまりない。そのため、トルク不足を生じるとしても、乗員に与える違和感は小さい。しかしながら、低圧EGRシステム80は、吸気通路30のうち大型コンプレッサ61aよりも上流側部分に排気ガスを還流させており、燃焼室14aまでの距離が遠い。そのため、吸気酸素濃度のアンダーシュートが生じてからトルク不足が現れるまでのタイムラグが長い。つまり、アクセル操作からトルク不足までのタイムラグが長いので、乗員に大きな違和感を与えてしまう。
そこで、排気酸素濃度が高い状態から急減する場合には、低圧EGR弁83の減量補正を実行して、低圧EGRシステム80による排気ガスの還流量を一時的に減量する。
さらに、吸気酸素濃度が所定濃度Cref以下であること(以下、「第2条件」という)と、実際の吸気酸素濃度と目標吸気酸素濃度との偏差が所定の第2閾値B以下であること(以下、「第3条件」という)も、低圧EGR弁83の減量補正を実行する条件である。
仮に吸気酸素濃度が高ければ、吸気酸素濃度がアンダーシュートしても、アンダーシュート量が吸気酸素濃度全体に与える影響は比較的小さい。それに対して、吸気酸素濃度が低い場合には、アンダーシュート量が吸気酸素濃度全体に与える影響は比較的大きい。そこで、吸気酸素濃度が所定濃度Cref以下であることを低圧EGR弁83の減量補正を実行する条件の1つとしている。
また、実際の吸気酸素濃度が目標吸気酸素濃度に或る程度近づくまでは、アンダーシュートに与える影響は少ない。そのため、実際の吸気酸素濃度(合流部酸素濃度計算値Cin2’)が目標吸気酸素濃度(目標合流部酸素濃度Cin2)に或る程度近づくまでは通常のフィードバック制御を行う。これにより、実際の吸気酸素濃度をできる限り早く、目標吸気酸素濃度に近づけることができる。そこで、実際の吸気酸素濃度と目標吸気酸素濃度との偏差が所定の第2閾値B以下であることを低圧EGR弁83の減量補正を実行する条件の1つとしている。尚、実際の吸気酸素濃度と目標吸気酸素濃度との偏差が所定の第2閾値B以下となったときに低圧EGR弁83の減量補正が開始されるので、実際の吸気酸素濃度と目標吸気酸素濃度との偏差が所定の第2閾値B以下であることは減量補正の開始トリガでもある。
続いて、低圧EGR弁83の開度について説明する。
例えば、減速している状態から加速する場合には、アクセルペダルがOFF状態からON状態にされる。それに伴い、低圧EGR弁83のフィードバック制御が実行される。低圧EGR弁83の弁開度は、低圧合流部における目標吸気酸素濃度(目標合流部酸素濃度Cin2)及び排気酸素濃度(排気酸素濃度計算値Cex’)に基づいて求められた目標低圧EGR量と、吸気通路30と排気通路40との差圧とに基づいて求められる。アクセルペダルがOFF状態からON状態になった直後は、排気酸素濃度が高いので、低圧EGR弁83は、図6(D)に示すように、全閉状態から全開状態に調整される。
アクセルペダルがOFF状態のときには、排気酸素濃度は、酸素濃度Cex1よりも高い。アクセルペダルがON状態になると、少し遅れて排気酸素濃度が低下し始める。排気酸素濃度が低下し始めると、排気酸素濃度の低下率が上昇する。排気酸素濃度の低下が急激な場合は、排気酸素濃度の低下率が第1閾値A以上となる。これにより、減量補正の第1条件が成立する。
このとき、低圧EGR弁83の開度は、排気酸素濃度の低下に応じて小さくなるように制御される。
一方、低圧合流部における吸気酸素濃度は、アクセルペダルがOFF状態のときには高く、所定濃度Crefよりも高い。そして、アクセルペダルがON状態となって、排気酸素濃度が低下すると、それに応じて吸気酸素濃度も低下していく。やがて、吸気酸素濃度は、所定濃度Cref以下となる。これにより、減量補正の第2条件が成立する。吸気酸素濃度がさらに低下すると、やがて、実際の吸気酸素濃度(合流部酸素濃度計算値Cin2’)と目標吸気酸素濃度(目標合流部酸素濃度Cin2)との偏差が第2閾値B以下となる。これにより、減量補正の第3条件が成立する。
減量補正の第1〜第3条件が成立すると、低圧EGR弁83の減量補正が実行される。つまり、低圧EGR弁83の開度が所定量だけ減量される。開度が減量された状態は、所定期間維持される。
仮に減量補正がされなければ、低圧EGR弁83は、目標吸気酸素濃度及び排気酸素濃度に応じたフィードバック制御が継続される。その結果、低圧EGR弁83の開度は、図6(D)中の破線のように制御される。しかしながら、排気酸素濃度の低下に応じた理想的な低圧EGR弁83の開度は、図6(D)の一点鎖線である。フィードバック制御では、応答遅れ等があるため、破線で示すような開度の制御となってしまう。その結果、吸気酸素濃度は、図6(C)中の破線で示すように目標吸気酸素濃度をアンダーシュートしてしまう。
それに対し、低圧EGR弁83の減量補正がなされることによって、低圧EGR弁83の開度は強制的に減量させられる。その結果、排気ガスの還流量が減るので、吸気酸素濃度の低下が緩やかになる。そのため、吸気酸素濃度の目標吸気酸素濃度への収束も緩やかになり、アンダーシュートが低減される。
低圧EGR弁83の開度が減量されてから所定期間経過すると、開度のフィードバック制御が再開される。フィードバック制御が再開されるときには、排気酸素濃度が大きく低下しているので、低圧EGR弁83の開度も小さい。そのため、低圧EGR弁83の実際の開度が目標開度を上回ったとしても、その偏差は小さく、それによる吸気酸素濃度のアンダーシュートも小さい。
こうして、低圧EGR弁83の減量補正を行う結果、吸気酸素濃度のアンダーシュートが低減される。
−高圧EGRシステム−
続いて、高圧EGRシステムの制御について説明する。
まず、コントロールユニット100は、ステップSTb1において各種センサの値を読み込み、ステップSTb2において吸排気モデルを用いて排気酸素濃度計算値Cex’を演算することは、低圧EGRシステムのステップSTa1,STa2と同様である。
ただし、高圧EGRシステム70の制御における排気酸素濃度計算値Cex’は、高圧EGR通路71の下流端(吸気通路30側の端部)における排気ガスの酸素濃度である。この部分の排気ガスは、燃焼室14aから排気通路40及び高圧EGR通路71を介して流通してきた排気ガスである。吸排気モデルで算出される排気酸素濃度計算値Cex’は、燃焼室14a(排気ポート17)における排気ガスなので、コントロールユニット100は、ステップSTb2では、排気ガスが排気ポート17から高圧EGR通路71の下流端まで流通するのに要する時間だけ前の排気酸素濃度計算値Cex’を、高圧EGR通路71の下流端の排気酸素濃度計算値Cex’として用いる。
次に、ステップSTb3では、コントロールユニット100は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Acc(エンジン負荷PEに対応)より、図4に示すマップに従って、エンジン1に吸入される吸入ガスの目標酸素濃度である目標吸気酸素濃度Cin1を求める。
コントロールユニット100は、続くステップSTb4において、エンジン運転状態が図4のマップにおける「クーラ側HP+LP」領域又は「クーラバイパス側HP+LP」領域内か否かを判定する。そして、コントロールユニット100は、エンジン運転状態が「クーラ側HP+LP」領域又は「クーラバイパス側HP+LP」領域内に含まれる場合には、ステップSTb5へ進む一方、エンジン運転状態が「クーラ側HP+LP」領域及び「クーラバイパス側HP+LP」領域の何れにも含まれない場合には、ステップSTb1へ戻る。
そして、ステップSTb5では、コントロールユニット100は、高圧EGRシステム70による排気ガスの目標還流量である目標高圧EGR量Ehp0を設定する。詳しくは、コントロールユニット100は、前記目標低圧EGR量Elp0、目標吸気酸素濃度Cin1及び排気酸素濃度計算値Cex’に基づいて目標高圧EGR量Ehp0を求める。
それに加えて、目標高圧EGR量Ehp0は、低圧合流部において目標低圧EGR量Elp0により目標合流部酸素濃度Cin2に調整された吸気が吸気通路30と高圧EGR通路71との合流部(以下、「高圧合流部」という)に到達するまでの時間遅れを考慮して補正される。つまり、低圧合流部は、吸気通路30において高圧合流部よりも上流に位置するので、低圧EGR通路81を介して還流される排気ガスは、低圧合流部から高圧合流部まで流通した後に、高圧EGR通路71を介して還流される排気ガスと混合される。そこで、目標高圧EGR量Ehp0を、低圧合流部から高圧合流部まで流通するのに要する時間だけ現時点よりも前の実低圧EGR量Elp1と現時点の目標低圧EGR量Elp0との偏差分だけ補正する。この補正は、低圧合流部の吸気が高圧合流部に到達すると推定される時間だけ継続される。
続いて、コントロールユニット100は、ステップSTb6において、排気酸素濃度計算値Cex’が所定の酸素濃度Cex2以上か否かを判定する。コントロールユニット100は、排気酸素濃度計算値Cex’が酸素濃度Cex2以上であるときには、ステップSTb8へ進む一方、排気酸素濃度計算値Cex’が酸素濃度Cex2よりも小さいときには、ステップSTb11へ進む。この酸素濃度Cex2は、低圧EGRシステム80の制御で用いた酸素濃度Cex1と同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
コントロールユニット100は、ステップSTb7において、排気酸素濃度の低下率が所定の第3閾値C以上か否かを判定する。排気酸素濃度は、排気酸素濃度計算値Cex’を用いる。排気酸素濃度の低下率が第3閾値C以上のときには、コントロールユニット100はステップSTb8へ進む一方、排気酸素濃度の低下率が第3閾値C未満のときには、コントロールユニット100はステップSTb11へ進む。この第3閾値Cは、低圧EGRシステム80の制御で用いた第1閾値Aと同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
ステップSTb8では、コントロールユニット100は、高圧EGR量の上限値E0を過給圧に応じて設定する。具体的には、過給圧が低いほど、上限値E0は小さくなる。そして、ステップSTb9において、コントロールユニット100は、目標高圧EGR量Ehp0が上限値E0より大きいか否かを判定する。目標高圧EGR量Ehp0が上限値E0よりも大きいときには、コントロールユニット100はステップSTb10へ進み、目標高圧EGR量Ehp0を上限値E0で置き換える。一方、目標高圧EGR量Ehp0が上限値E0以下のときには、コントロールユニット100はステップSTb11へ進む。
ステップSTb11では、コントロールユニット100は、低圧EGRシステムの制御において、低圧EGR弁83の減量補正を行ったか否かを判定する。コントロールユニット100は、減量補正を行った場合には、ステップSTb12へ進む一方、減量補正を行っていない場合には、ステップSTb15へ進む。
ステップSTb12では、コントロールユニット100は、前記減量補正を行ったことによって低圧合流部における酸素濃度が目標合流部酸素濃度Cin2よりも増加した増加量ΔCin2を、エアフローセンサS2からの空気吸入量AFSに基づいて求める。
続いて、コントロールユニット100は、ステップSTb13において、増加量ΔCin2が所定の第4閾値D以上か否かを判定する。増加量ΔCin2が第4閾値D以上のときには、コントロールユニット100はステップSTb14へ進む一方、増加量ΔCin2が第4閾値Dよりも小さいときには、コントロールユニット100はステップSTb15へ進む。
ステップSTb14では、コントロールユニット100は、目標高圧EGR量Ehp0を補正する。具体的には、目標高圧EGR量Ehp0は、元の目標高圧EGR量Ehp0に補正値ΔEhpを追加した値に補正される。補正値ΔEhpは、増加量ΔCin2に対応する高圧EGR量である。尚、目標高圧EGR量Ehp0を補正する際には、前記上限値E0による制限は解除される。つまり、補正後の目標高圧EGR量Ehp0は、上限値E0を超え得る。
尚、補正値ΔEhpは、増加量ΔCin2に対応する高圧EGR量であってもよい。例えば、補正値ΔEhpは、増加量ΔCin2の50%に対応する高圧EGR量であってもよい。
続く、ステップSTb15では、コントロールユニット100は、吸気圧センサS4からの吸気圧Pa及び排気圧センサS5からの排気圧Pexに基づいて算出した差圧と、目標高圧EGR量Ehp0とに基づいて高圧EGR弁(クーラEGR弁73又はバイパスEGR弁74)の開度を求め、高圧EGR弁をその開度に設定する。
このように、高圧EGR量には上限値が設定される。これにより、酸素不足による失火が抑制される。
詳しくは、上限値が設定されるのは、排気酸素濃度が酸素濃度Cex2以上であって且つ排気酸素濃度の低下率が第3閾値C以上であるときである。これは、排気酸素濃度が高い状態から急減するときであり、例えば、減速している状態から加速する場合である。減速状態では排気酸素濃度が高いので、吸気酸素濃度を所望の値にするためには大量の排気ガスを還流させる必要がある。この状態から加速すると、排気酸素濃度が急激に低下する。つまり、酸素濃度が低い排気ガスが大量に還流される。一方、吸気圧センサS4又は排気圧センサS5の検出誤差や、吸気圧又は排気圧の変動(特に排気圧の変動)によって高圧EGR量の調整量に誤差が生じる場合がある。そのため、酸素濃度が低い排気ガスが大量に還流され得る状況において、高圧EGR量が各種誤差に起因して目標値よりも多くなると、吸気の酸素不足に陥り、失火してしまう虞がある。
そこで、減速状態からの加速が検出されたときには、高圧EGR量に上限値を設定し、高圧EGR量が本来必要な量よりも多くなってしまうことを防止している。
したがって、本実施形態の排気ガス還流制御装置は、エンジン1における排気通路40と吸気通路30とを接続する高圧EGR通路71、及び、該高圧EGR通路71に設けられたクーラEGR弁73及びバイパスEGR弁74を有し、該排気通路40から該吸気通路30へ排気ガスを還流させる高圧EGRシステム70と、前記排気通路40と前記吸気通路30の差圧と前記クーラEGR弁73及びバイパスEGR弁74の開度とに基づいて前記吸気通路30への排気ガスの還流量を制御するコントロールユニット100とを備え、前記コントロールユニット100は、排気ガスの還流量を制御することによって吸気酸素濃度を調整しており、減速状態から加速するときには、前記還流量に上限値を設定して該還流量が該上限値を超えないように制御する。
前記の構成によれば、減速状態から加速するときには、排気ガスの還流量に上限値を設定して該還流量が上限値を超えないようにする。これにより、各種センサの検出誤差や吸気圧又は排気圧の変動があったとしても、還流量が上限値以下に設定される。その結果、失火を防止することができる。
さらに、前記コントロールユニット100は、過給圧が低いほど空燃比を低下させるように構成されており、前記上限値を過給圧が低いほど低下させる。
前記の構成によれば、過給圧が低いほど空燃比が低下し、新気量が少なくなる。つまり、過給圧が低いほど失火が生じやすい環境となる。そこで、制御部は、過給圧が低いほど前記上限値を低下させる。これにより、過給圧が低いほど排気ガスの還流量が低い値に制限される。その結果、過給圧が低い状況でも失火を防止することができる。
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
前記実施形態では、エンジン1には、高圧EGRシステム70と低圧EGRシステム80とが設けられているが、これに限られるものではない。例えば、エンジン1は、高圧EGRシステム70及び低圧EGRシステム80の何れか1つだけ有する構成であってもよい。
また、エンジン1には、2つのターボ過給機が設けられているが、ターボ過給機は1つであっても、3つ以上であってもよい。
また、前記上限値は、過給圧に応じて調整されているが、これに限られるものではない。例えば、上限値は、一定の値であってもよい。
さらに、低圧EGRの減量補正は、低圧EGR弁83の開度を所定量だけ減量した状態を所定期間維持しているが、所定期間は任意に設定することができる。例えば、所定期間の維持がなくてもよい。すなわち、低圧EGR弁83の開度を所定量だけ減量して、次の制御周期にはフィードバック制御を再開してもよい。
なお、前記実施形態における低圧EGRシステム80による排気ガスの還流量のフィードバック制御は一例であり、制御内容はこれに限られるものではない。低圧EGRシステム80による排気ガスの還流量のフィードバック制御できる限り、任意の制御内容を採用することができる。