<本発明の化合物(A)>
まず、上記一般式(1)で用いられている記号について説明する。
R1は、置換基を有してもよい炭素数2〜20の炭化水素基を表し、炭化水素基は、脂肪族であっても芳香族であってもよく、また飽和又は不飽和であってよく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールアルキル基、アルケニルアリール基等が挙げられる。
アルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘプタニル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロオクタニル基、n−ノニル基、シクロノナニル基、n−デシル基等が挙げられる。
アルケニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
アルキニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−エチル−2−プロピニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、4−ペンチニル基、1−メチル−3−ブチニル基、2−メチル−3−ブチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、1−エチル−2−ブチニル基、3−ヘキシニル基、1−メチル−2−ペンチニル基、1−メチル−3−ペンチニル基、4−メチル−1−ペンチニル基、3−メチル−1−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、1−エチル−3−ブチニル基等が挙げられる。
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
アルキルアリール基の例としては、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体的には、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジブチルフェニル基、メチルナフチル基等が挙げられる。
アリールアルキル基の例としては、アリール基で置換された低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)が挙げられ、具体的にはベンジル基等が挙げられる。
アルキルアリールアルキル基の例としては、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基を置換基として有する低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)が挙げられ、具体的には、メチルベンジル基等が挙げられる。
アルケニルアリール基の例としては、低級アルケニル基(特に、炭素数1〜6のアルケニル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体的には、スチリル基、アリルフェニル基等が挙げられる。
R1が置換基を有する場合、その置換基の数及び種類は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。置換基の例としては、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン基等が挙げられる。また、製造の容易さから、置換基の数は、1〜2個が好ましい。
化合物(A)の色調及び製造の容易さの観点からは、一般式(1)のR1が、炭素数2〜10のアルキル基であることが好ましく、炭素数2〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることがより好ましく、ブチル基であることが特に好ましい。最も好ましい化合物(A)の構造は、下記一般式(2)で示される構造である。
本発明の化合物(A)は公知方法を組み合わせることにより、製造することができる。一例としては、サリチルアルデヒド、シアノ酢酸エチル及び4−置換2−アミノフェノール(4位の置換基はR1に一致)を安息香酸の存在下、例えば、120〜140℃で、8〜16時間、好ましくは125〜135℃で、10〜14時間加熱して、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。反応温度を120℃以上にすることにより、反応が十分に進行し、140℃以下にすることにより、副生物の発生を抑えることができる。また、反応時間を8〜16時間にすることにより、反応転化率はほぼ100%に達する。
本発明の化合物(A)は、他の成分と共存させることなく、単独で天然歯に近い青白色の蛍光を発する。また、本発明の化合物(A)は、他の成分と共存しても蛍光色が影響を受けにくく、例えば、ジルコニア含有粒子又はアルミナ粒子等と組み合わせても天然歯に近い青白色の蛍光を発する。したがって、本発明の化合物(A)は、青白光を発する有機蛍光色素として幅広い用途において使用することができる。例えば、画像表示装置、照明器具等の蛍光体層、紙、看板、標識等に用いられる蛍光コーティング材、蛍光塗料、蛍光インク、蛍光着色料、歯科材料等に用いることができる。さらに、本発明の化合物(A)は、口腔内環境下における耐変色性に優れる。したがって、歯科材料(例、歯科用修復材料、歯科用接着材料)に好適に用いることができる。
次に本発明の化合物(A)の使用形態ついて説明する。本発明の化合物(A)の使用形態の一例は、一般式(1)で表される化合物(A)、重合性単量体(B)、及び重合開始剤(C)を含む硬化性組成物である。当該硬化性組成物は、重合促進剤(D)、フィラー(E)などを含んでいてもよい。
硬化性組成物における化合物(A)の配合量については特に制限はなく、用途に応じて適切な蛍光強度が発揮できるように適宜決定すればよい。
例えば、硬化性組成物を歯科用修復材料に使用する場合には、化合物(A)の配合量は、硬化性組成物の全量100重量部中、0.0009〜0.05重量部が好ましく、0.002〜0.015重量部がより好ましい。化合物(A)の配合量が、0.0009重量部より少ないと、硬化物の蛍光性が天然歯と比べて弱すぎるおそれがあり、一方、化合物(A)の配合量が0.05重量部より多いと天然歯と比べて蛍光性が強くなりすぎて、審美性を損なうおそれがある。また、組成物中に含まれる成分との相互作用により、化合物(A)の保存安定性の低下が懸念される場合には、化合物(A)を含む樹脂硬化物を粉砕して得られる有機フィラーとして、歯科用修復材料組成物中に配合しても良い。
また例えば、硬化性組成物を歯科用接着材料に使用する場合には、化合物(A)の配合量は、硬化性組成物の全量100重量部中、0.05〜1.5重量部が好ましく、0.09〜1.0重量部がより好ましい。化合物(A)の配合量が、0.05重量部より少ないと、環境光安定性が低下するおそれがあり、一方、化合物(A)の配合量が1.5重量部より多いと硬化性が低下し、接着性を損なうおそれがある。
重合性単量体(B)
本発明で用いられる重合性単量体(B)は、一般工業界で使用される公知の重合性単量体が何ら制限無く用いられるが、一般には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。重合性単量体(B)におけるラジカル重合性単量体の具体例としては、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸などの有機酸のエステル類、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体などが挙げられる。硬化性組成物を歯科用途に用いる場合には、重合性単量体(B)は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、すなわち(メタ)アクリル化合物(特に、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリルアミド誘導体)であることが好ましい。なお、本発明において(メタ)アクリルの表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。
(メタ)アクリル化合物系の重合性単量体の例を以下に示す。
(I)一官能性(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミド誘導体
メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
(II)二官能性(メタ)アクリレート
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、通称BisGMA)、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(通称UDMA)などが挙げられる。
(III)三官能性以上の(メタ)アクリレート
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタンなどが挙げられる。
前記重合性単量体は、いずれも、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明に用いられる重合性単量体(B)の配合量は特に限定されず、硬化性組成物の用途に応じて適宜決定すればよい。例えば、硬化性組成物を歯科用修復材料に用いる場合には、重合性単量体(B)の配合量は、硬化性組成物の全量100重量部中、5〜70重量部が好ましく、7〜50重量部がより好ましい。重合性単量体(B)の配合量が、5重量部より少ないと、ペーストが硬くなり、操作性が悪くなるおそれがある。一方、重合性単量体(B)の配合量が70重量部より多いと硬化物の機械的強度を損なうおそれがある。
なお、本発明の硬化性組成物に、歯質、金属、セラミックスなどに対する接着性を付与させる場合、これらの被着体に対する接着性を有する機能性モノマーを重合性単量体として含有させることが好ましい。
歯質、卑金属に対する接着性を付与する機能性モノマーとして、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェートなどのリン酸基を有するモノマー、及び11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸などのカルボン酸基を有するモノマーが挙げられる。
貴金属に対する接着性を付与する機能性モノマーとして、例えば、10−メルカプトデシル(メタ)アクリレート、6−(4−ビニルベンジル−n−プロピル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオン、特開平10−1473号公報に記載のチオウラシル誘導体や特開平11−92461号公報に記載の硫黄元素を有する化合物が挙げられる。
さらに、セラミックス、陶材、歯科用コンポジットレジンに対する接着性を付与する機能性モノマーとして、例えば、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12、例、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等〕、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12、例、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等〕等のシランカップリング剤が挙げられる。
機能性モノマーの配合量は、重合性単量体(B)100重量部中、1〜80重量部が好ましく、3〜50重量部がより好ましい。機能性モノマーの配合量が1重量部より少ないと、十分な接着性が得られないおそれがある。一方、機能性モノマーの配合量が80重量部より多いと硬化性が低下し、十分な接着性が得られないおそれがある。
重合開始剤(C)
本発明に用いられる重合開始剤(C)は、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用できる。特に、光重合及び化学重合の重合開始剤が、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用される。
光重合開始剤としては、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物などが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられる(ビス)アシルホスフィンオキサイド類のうち、アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルホスフィンオキサイド類としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
これら(ビス)アシルホスフィンオキサイド類の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが特に好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩としては、例えば、チオキサントン、2−クロルチオキサンセン−9−オン、2−ヒドロキシ−3−(9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1−メチル−9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1,3,4−トリメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
これらチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩の中でも、特に好適なチオキサントン類は、2−クロルチオキサンセン−9−オンであり、特に好適なチオキサントン類の第4級アンモニウ厶塩は、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドである。
上記光重合開始剤として用いられるケタール類の例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるα−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが特に好ましい。
上記光重合開始剤として用いられるクマリン化合物の例としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリン、3−ベンゾイル−5,7−ジメトキシクマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイルクマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3,5−カルボニルビス(7−メトキシクマリン)、3−ベンゾイル−6−ブロモクマリン、3,3’−カルボニルビスクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3−カルボキシクマリン、3−カルボキシ−7−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−6−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−8−メトキシクマリン、3−アセチルベンゾ[f]クマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−6−ニトロクマリン、3−ベンゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、7−ジメチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−ジエチルアミノ)クマリン、7−メトキシ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−(4−ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3−(4−エトキシシンナモイル)−7−メトキシクマリン、3−(4−ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3−(4−ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3−[(3−ジメチルベンゾチアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3−[(1−メチルナフト[1,2−d]チアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3,3’−カルボニルビス(6−メトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−アセトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−ジメチルアミノクマリン)、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジブチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾイミダゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジオクチルアミノ)クマリン、3−アセチル−7−(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)、3,3’−カルボニル−7−ジエチルアミノクマリン−7’−ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10−[3−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1−オキソ−2−プロペニル]−2,3,6,7−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン、10−(2−ベンゾチアゾイル)−2,3,6、7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン等の特開平9−3109号公報、特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
上述のクマリン化合物の中でも、特に、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)及び3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)が好適である。
上記光重合開始剤として用いられるアントラキノン類の例としては、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるベンゾインアルキルエーテル類の例としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
上記光重合開始剤として用いられるα−アミノケトン類の例としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等が挙げられる。
これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、α−ジケトン類、及びクマリン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す硬化性組成物が得られる。
本発明に用いられる重合開始剤(C)のうち化学重合開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。上記の化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるケトンパーオキサイドとしては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド及びシクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるハイドロパーオキサイドとしては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及び1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるジアシルパーオキサイドとしては、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるジアルキルパーオキサイドとしては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシケタールとしては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン及び4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレリックアシッド−n−ブチルエステル等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシエステルとしては、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,2,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタラート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート及びt−ブチルパーオキシマレリックアシッド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシジカーボネートとしては、ジ−3−メトキシパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート及びジアリルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルパーオキサイドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルパーオキサイドが特に好ましく用いられる。
本発明に用いられる重合開始剤(C)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体(B)100重量部に対して、重合開始剤(C)を0.001〜30重量部含有してなることが好ましい。重合開始剤(C)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、機械的強度及び/又は接着力の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上である。一方、重合開始剤(C)の配合量が30重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な機械的強度及び/又は接着強度が得られなくなるおそれがあり、さらには組成物からの析出を招くおそれがあり、より好適には20重量部以下である。
重合促進剤(D)
本発明の組成物は、重合促進剤(D)を含むことが好ましい。本発明に用いられる重合促進剤(D)としては、アミン類、スルフィン酸及びその塩、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN−メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル及び4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるスルフィン酸及びその塩としては、例えば、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられ、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが特に好ましい。
重合促進剤(D)として用いられるバルビツール酸誘導体としては、バルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジフェニルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5−エチルバルビツール酸、5−イソプロピルバルビツール酸、5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−n−ブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロペンチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−1−エチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、5−メチルバルビツール酸、5−プロピルバルビツール酸、1,5−ジエチルバルビツール酸、1−エチル−5−メチルバルビツール酸、1−エチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジエチル−5−ブチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−メチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−オクチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−ヘキシルバルビツール酸、5−ブチル−1−シクロヘキシルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸及びチオバルビツール酸類、ならびにこれらの塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属類が好ましい)が挙げられ、これらバルビツール酸類の塩としては、例えば、5−ブチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5−トリメチルバルビツール酸ナトリウム及び1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸ナトリウム等が例示される。
特に好適なバルビツール酸誘導体としては、5−ブチルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、及びこれらバルビツール酸類のナトリウム塩が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるトリアジン化合物としては、例えば、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(o−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−ブトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等が例示される。
上記で例示したトリアジン化合物の中で特に好ましいものは、重合活性の点で2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンであり、また保存安定性の点で、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、及び2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンである。上記トリアジン化合物は1種又は2種以上を混合して用いても構わない。
重合促進剤(D)として用いられる銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるスズ化合物としては、例えば、ジ−n−ブチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫ジラウレートなどが挙げられる。特に好適なスズ化合物は、ジ−n−オクチル錫ジラウレート及びジ−n−ブチル錫ジラウレートである。
重合促進剤(D)として用いられるバナジウム化合物は、好ましくはIV価及び/又はV価のバナジウム化合物類である。IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等の特開2003−96122号公報に記載されている化合物が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるハロゲン化合物としては、例えば、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド等が好適に用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるアルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒドやベンズアルデヒド誘導体などが挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−メチルオキシベンズアルデヒド、p−エチルオキシベンズアルデヒド、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒドが好ましく用いられる。
重合促進剤(D)として用いられるチオール化合物としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、チオ安息香酸等が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられる亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム等が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられる亜硫酸水素塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等が挙げられる。
重合促進剤(D)として用いられるチオ尿素化合物としては、1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素、チオ尿素、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素、N,N’−ジ−n−プロピルチオ尿素、N,N’−ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリ−n−プロピルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラ−n−プロピルチオ尿素、テトラシクロヘキシルチオ尿素等が挙げられる。
本発明に用いられる重合促進剤(D)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体(B)100重量部に対して、重合促進剤(D)を0.001〜30重量部含有してなることが好ましい。重合促進剤(D)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、機械的強度及び/又は接着力の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上である。一方、重合促進剤(D)の配合量が30重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な機械的強度及び/又は接着強度が得られなくなるおそれがあり、さらには組成物からの析出を招くおそれがあり、より好適には20重量部以下である。
フィラー(E)
本発明の硬化性組成物に、実施態様によっては、さらにフィラー(E)を配合することが好ましい。このようなフィラーは、通常、有機フィラー、無機フィラー及び有機−無機複合フィラーに大別される。有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
無機フィラーの素材としては、石英、シリカ、アルミナ、ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、無機フィラーが、ジルコニア含有粒子及び/またはアルミナ粒子を含む場合には、審美性とX線造影性が両立でき、硬化性組成物を歯科用途、特に歯科用修復材料に用いた際に有用度が高まるため好ましい。無機フィラーの形状は、不定形フィラー、球状フィラー等、特に限定されず、また、フィラーの粒子径も適宜選択して使用することができる。ここで球状フィラーとは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みをおびており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーである。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記無機フィラーの平均粒子径は0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。ただし、硬化性組成物を歯科用接着材料に用いる場合には、分離沈降抑制と適度な付形性を付与させる観点から、無機フィラーの平均粒子径は、0.001〜0.2μmであることが好ましく、0.001〜0.05μmであることがより好ましい。
前記無機フィラーは、組成物の流動性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
本発明で用いられる有機−無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーにモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。前記有機−無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機−無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記有機−無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
本発明に用いられるフィラー(E)の配合量は特に限定されず、硬化性組成物の用途に応じて適宜決定すればよい。例えば、硬化性組成物を歯科用修復材料に用いる場合には、フィラー(E)の配合量は、重合性単量体(B)100重量部に対して、1〜2000重量部が好ましく、50〜1000重量部がより好ましい。また例えば、硬化性組成物を歯科用接着材料に用いる場合には、フィラー(E)の配合量は、重合性単量体(B)100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、1〜20重量部がより好ましい。
この他、硬化性組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲でpH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、抗菌剤、香料、有機溶媒(特に水溶性有機溶媒)、水等を配合してもよい。
本発明の化合物(A)の使用形態の一例として説明した上記の硬化性組成物は、歯科材料(例、歯科用接着材料、歯科用修復材料)、硬化型蛍光コーティング材、硬化型塗料等に有用であり、化合物(A)が天然歯に近い青白色の蛍光を発することから、歯科材料に特に好適である。
具体的には、上記の硬化性組成物は、その硬化物が高い審美性を長期にわたって示すことから、歯科用修復材料であるコンポジットレジン(例えば、充填用コンポジットレジン、歯冠材料、歯科用ミルブランク、歯科用セメント)として用いられ、特に充填用コンポジットレジン、歯冠材料、歯科用ミルブランクとして好適に用いられる。このとき、硬化性組成物の成分を2つに分けた2剤型として用いてもよい。なお、無機蛍光色素を歯科用修復材料に用いた場合には、無機蛍光色素が組成物に不溶の粒子として使用されるために、歯科用修復材料の研磨滑沢性が低下しやすい。しかしながら、本発明の化合物(A)は有機色素であるため、組成物に溶解又は微粒子として分散させることができ、研磨滑沢性に優れる歯科用修復材料を得ることが容易であるという利点も有する。
また、上記の硬化性組成物は、硬化性と環境光安定性に優れる。したがって、歯科用接着材料(例えば、2ステップ接着システム、1ステップ接着システム)として好適に用いられる。特に、蛍光色素は、特定波長の光を吸収し、別波長の光を発するものであり、硬化性組成物の光硬化性と環境光安定性に影響を与え得るものである。しかし上記の硬化性組成物は、光硬化性と環境光安定性という二律相反する特性を両立して、歯科治療に要求される高い接着性と優れた操作性を示すことができる。具体的には、高出力LED光照射器を用いた短時間照射であっても、高い光硬化性を発現し、一方で、環境光に安定なことから、操作余裕時間、及び脱灰、浸透作用に必要な歯質処理時間を十分に確保することができ、高い接着性を発現することができる。
充填用コンポジットレジン
充填用コンポジットレジンは、通常、ペースト状の材料であって、う蝕発生部位を切削し窩洞を形成した後、前記窩洞に充填し、硬化させることによって歯冠形態を復元する歯科用材料である。
歯冠材料
歯冠材料は、通常、ペースト状の材料であって、歯冠部分が大幅に欠損した症例において、積層と硬化を繰り返すことによって、口腔外で歯冠形態を再現し、支台歯、又はインプラントの上部構造として用いられる歯科用材料である。
歯科用ミルブランク
歯科用ミルブランクは、通常、ブロック状の材料であって、歯科用CAD/CAMを用いて切削することによって、歯冠形態を再現し、歯冠材料と同様に用いられる歯科用材料である。
歯科用セメント
歯科用セメントは、通常、インレーやクラウンと呼ばれる金属やセラミックス製の歯冠用修復材料を歯牙に固定する際の合着材として用いられる歯科用材料である。セメントとしては、レジンセメント及びグラスアイオノマーセメントがある。
レジンセメントにおいては、重合開始剤(C)として化学重合開始剤を用いることが好ましく、重合促進剤(D)としてアミン類並びに/又はスルフィン酸及びその塩を用いることが好ましい。従って、保存安定性の観点から、重合開始剤(C)と、重合促進剤(D)とを、それぞれ別々の容器に保存する2剤型とすることが好ましい。
グラスアイオノマーセメントは、典型的にはフルオロアルミノシリケートガラスのような無機フィラーと、ポリアクリル酸のようなポリアルケン酸とが酸−塩基反応によって反応、硬化するものである。また、重合性単量体、重合開始剤、重合促進剤を配合することによって、機械的強度を向上させたレジン強化型グラスアイオノマーセメントもあり、本発明の硬化性組成物は、レジン強化型グラスアイオノマーセメントとして構成される。グラスアイオノマーセメントは、前記ポリアルケン酸と歯質を構成するハイドロキシアパタイト中のカルシウムとが相互作用することにより、接着機能が発現すると考えられている。従って、保存安定性の観点から、ポリアルケン酸と、フルオロアルミノシリケートガラスとを、それぞれ別々の容器に保存する2剤型とすることが好ましい。また、重合開始剤(C)と、重合促進剤(D)とを、別々の容器に保存することが好ましい。
歯科用接着材料
歯科用接着材料は、歯科用修復材料等と歯質とを接着させる際などに使用される歯科材料である。歯科用接着材料は、歯質の表面に酸性モノマーと親水性モノマーと水とを含有するセルフエッチングプライマーを塗布した後、水洗することなく、架橋性モノマーと重合開始剤とを含有するボンディング材を塗布する2ステップの接着システム、及びセルフエッチングプライマーとボンディング材の機能を併せ持つ1液型の歯科用接着材料を用いた1ステップの接着システムがある。
本発明の化合物(A)の使用形態の別の一例は、化合物(A)とバインダーを含む組成物である。
バインダーとしては、樹脂、ガラス、セラミクス等の公知のもの、及びそれと同等以上の特性を有するものを、用途に応じて適宜選択して使用することができる。
当該使用形態は、画像表示装置、照明器具等の蛍光体層、粉体塗料などに有用である。
また、当該使用形態の組成物は、溶剤をさらに含んでもよい。例えば、バインダーとして樹脂を使用し、上記の組成物がさらに溶剤を含む場合には、水性塗料、溶剤型塗料、非硬化型コーティング材などに有用である。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。以下に実施例及び比較例で用いた化合物等の略称を示す。
[化合物(A)]
蛍光色素A−1:
[その他の蛍光色素]
クマリン6:3−(2−ベンゾチアゾリル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン
クマリン7:3−(2−ベンズイミダゾリル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン
LBL:2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル
[重合性単量体(B)]
BisGMA:2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン
UDMA:[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
GEDMA:1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン
8FMA:オクタフルオロペンチルメタクリレート
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
[重合開始剤(C)]
CQN:カンファーキノン
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
BAPO:ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
[重合促進剤(D)]
PDE:4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
OBA:p−n−オクチルオキシベンズアルデヒド
DEPT:N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
[フィラー(E)]
E−1:シリカジルコニア凝集粒子表面処理品
E−2:シリカジルコニア球状粒子表面処理品
E−3:アルミナ微粒子表面処理品
E−4:バリウムガラス粉表面処理品
E−5:エボニック社製「アエロジルR972」
[紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系化合物)]
TN326:2−(5−クロロ−2−ベンゾトリアゾリル)−6−tert−ブチル−p−クレゾール
<実施例1> 化合物(A)
窒素置換した3つ口フラスコに、サリチルアルデヒド10.0g(81.9mmol)、シアノ酢酸エチル9.26g(81.9mmol)、2−アミノ−4−tert−ブチルフェノール13.53g(81.9mmol)、安息香酸3.40g(27.8mmol)及び1−ペンタノール150mlを添加し、130℃で12時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を室温まで放冷し、生じた沈殿物を吸引ろ過した。ろ過したウェットケーキをヘキサン及びエタノールで洗浄後、乾燥させ、淡黄色粉末7.8gを取得した(HPLC純度95.0%、24.5mmol、収率30%)。以下に、得られた蛍光色素A−1の1H−NMRデータを示す。
1H−NMR(400MHz、CDCl3、TMS)δ: 1.399(s,9H)、7.358−7.561(m,4H)、7.636−7.679(m,2H)、7.895(d,J=2.0Hz,1H)、8.771(s,1H).
図1に、蛍光色素A−1の蛍光スペクトルを示す。なお、蛍光スペクトルは、市販の絶対量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製、C9920-12)を用い、蛍光色素A−1の最大吸収波長である360nmの励起光を用いて測定した。天然歯の蛍光ピーク波長は約450nmであり、図1より、蛍光色素A−1は、天然歯に近いピーク波長を有することがわかる。
<実施例2及び比較例1、2> 硬化性組成物
BisGMA50重量部、TEGDMA50重量部、TMDPO0.5重量部、及び表1に記載の蛍光色素0.05重量部を混合し、硬化性組成物を調製した。得られた硬化性組成物について、以下の試験例1に従って、色調を調べた。結果を表1に示す。
<試験例1> 色調
実施例2及び比較例1、2の硬化性組成物、及び蛍光色素を含まずそれ以外の成分を含む参照用の硬化性組成物をLED照射器(モリタ社製、ペンキュア2000)で光硬化させ、硬化物の試験片(10mmφ×1mm)を作製した。試験片の色(白背景のL*,a*,b*)を測定し、下式から、蛍光色素の有無による色差ΔE*を求めた。
ΔE*={(L*有−L*無)2+(a*有−a*無)2+(b*有−b*無)2}1/2
なお、色は、分光色差計(日本電色工業社製、SE6000、光源D65/2)を用いて、測定した。ΔE*は小さいほど良く、5以下が好ましく、3以下がより好ましい。
実施例2と比較例1、2の結果より、蛍光色素A−1が、公知のクマリン系蛍光色素に比べ、自然光下での硬化性組成物の黄色味を抑えることができることがわかる。
<製造例1> シリカジルコニア凝集粒子表面処理品E−1の製造
特許公開公報(特開2009−286782号公報)に記載されているシリカ系微粒子と、当該シリカ系微粒子の表面を被覆する、ジルコニウム原子、珪素原子及び酸原子を含有する酸化物とを含む非晶質の充填材100重量部に対して、25重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理し、シリカジルコニア凝集粒子表面処理品E−1を得た。
<製造例2> シリカジルコニア球状粒子表面処理品E−2の製造
市販シリカジルコニア球状粒子(Sukgyung社製、SG−SZ200、平均一次粒子径200nm)100重量部に対して、8重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理し、シリカジルコニア球状粒子表面処理品E−2を得た。
<製造例3> アルミナ微粒子表面処理品E−3の製造
市販アルミナ微粒子(日本アエロジル社製、AEROXIDE Alu C、平均一次粒子径13nm)100重量部に対して、30重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理し、アルミナ微粒子表面処理品E−3を得た。
<製造例4> バリウムガラス粉表面処理品E−4の製造
市販バリウムガラス粉(SCHOTT社製、GM27884NF180、平均一次粒子径180nm)100重量部に対して、11重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理し、バリウムガラス粉表面処理品E−4を得た。
<製造例5>
下記の各成分を常温下で混合して、重合性組成物(B’−1)を調製した。
重合性組成物(B’−1):
BisGMA 50重量部
UDMA 20重量部
TEGDMA 30重量部
CQN 0.2重量部
PDE 0.3重量部
<製造例6>
下記の各成分を常温下で混合して、重合性組成物(B’−2)を調製した。
重合性組成物(B’−2):
BisGMA 20重量部
UDMA 60重量部
TEGDMA 20重量部
BPO 1.0重量部
CQN 0.2重量部
OBA 0.3重量部
<実施例3〜9及び比較例3〜5> 硬化性組成物(歯科用修復材料)
表2に記載された配合比で、前記製造例で製造した重合性組成物(B’−1)又は重合性組成物(B’−2)に、蛍光色素を溶解又は分散させた。そこへ前記製造例で製造したフィラー(E)を添加して混合練和して均一にしたものを真空脱泡し、実施例3〜9及び比較例3〜5の歯科用修復材組成物を得た。なお、上記フィラー(E)の平均粒子径は、以下の試験例2により求めた値である。
<試験例2> フィラー(E)の平均粒子径の測定
透過型電子顕微鏡(日立製作所製、H−800NA型)を用いてフィラー(E)の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の平均粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア〔Macview(株式会社マウンテック)〕を用いて求めた。このとき、粒子の粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均粒子径(一次平均粒子径)を算出した。
得られた歯科用修復材組成物について、以下の試験例3〜6に従って、特性を調べた。結果を表2に示す。
<試験例3> 蛍光色調
得られた歯科用修復材組成物をLED照射器(モリタ社製、ペンキュア2000)で光硬化させ、硬化物の試験片(10mmφ×1mm)を作製した。また、人抜去歯を研磨し、厚さ1mmの人歯試験片を作製した。約20cmの距離から、ブラックライト(波長365nm)を照射した状態で、硬化物試験片及び人歯試験片を写真撮影した。得られた写真に映し出されている硬化物試験片像の色(白背景のL*硬,a*硬,b*硬)を測定し、同様に測定した人歯試験片の色(白背景のL*歯,a*歯,b*歯)との色差ΔE*を下式より求めた。
ΔE*={(L*硬−L*歯)2+(a*硬−a*歯)2+(b*硬−b*歯)2}1/2
なお、色は、分光色差計(日本電色工業社製、SE6000、光源D65/2)を用いて、測定した。ΔE*は小さいほど良く、5以下が好ましく、3以下がより好ましい。
<試験例4> 色調
試験例1と同様にして得られた硬化物の試験片(10mmφ×1mm)を作製した。試験片の色(白背景のL*,a*,b*)を測定し、下式から、蛍光色素の有無による色差ΔE*を求めた。
ΔE*={(L*有−L*無)2+(a*有−a*無)2+(b*有−b*無)2}1/2
なお、色は、分光色差計(日本電色工業社製、SE6000、光源D65/2)を用いて、測定した。ΔE*は小さいほど良く、3以下が好ましく、2以下がより好ましい。
<試験例5> 耐変色性
試験例1と同様にして得られた硬化物の試験片(10mmφ×1mm)を作製した。試験片を37℃水中に4週間浸漬し、浸漬前後の色(白背景のL*,a*,b*)を測定し、下式から色差ΔE*を求めた。
ΔE*={(L*前−L*後)2+(a*前−a*後)2+(b*前−b*後)2}1/2
なお、色は、分光色差計(日本電色工業社製、SE6000、光源D65/2)を用いて、測定した。ΔE*は小さいほど良く、5以下が好ましく、3以下がより好ましい。
<試験例6> 研磨滑沢性
得られた歯科用修復材料組成物をステンレス製の金型(厚さ1mm、直径15mm)に充填した。上下面をスライドガラスで圧接し、両面から各2分間LED照射器(モリタ社製、ペンキュア2000)で光照射して硬化させた。硬化物を金型から取り出した後、800番の耐水研磨紙で研磨し、この研磨面を、技工用ポリッシングボックス(KAVO社製、EWL80)を用いて、3000回転/分でバフ研磨を20秒行った。研磨材はポーセニーハイドン(東京歯材社製)を用いた。この面の光沢を光沢度計(日本電色工業製VG−107)で測定し、鏡の光沢を100としたときの割合(光沢度)を算出した。なお、測定の角度は、60度とした。光沢度は、高いほど良く、80以上が好ましく、85以上がより好ましい。
実施例3、8、9と比較例3〜5の結果より、蛍光色素A−1を含む歯科用修復材料組成物が、色調および耐変色性に優れる硬化物を提供できることがわかる。
<製造例7>
下記の各成分を常温下で混合して、重合性組成物1を作製した。
MDP 15重量部
BisGMA 40重量部
HEMA 35重量部
GEDMA 5重量部
8FMA 5重量部
エタノール 20重量部
水 20重量部
フィラー E−5 10重量部
DEPT 2重量部
PDE 1.5重量部
CQN 2重量部
BAPO 1.5重量部
<実施例10〜12及び比較例6,7> 硬化性組成物(歯科用接着材料:1ステップ接着システム)
製造例7の重合性組成物1から、表3に示す実施例10〜12及び比較例6,7の1ステップ型歯科用接着材組成物を調製し、以下の試験例7〜10に従って評価を行った。なお、比較例7では、歯科用接着材組成物の環境光安定性を向上させるために使用されている紫外線吸収剤TN326を配合した。
<製造例8>
下記の各成分を常温下で混合して、重合性組成物2を作製した。
MDP 5重量部
BisGMA 40重量部
HEMA 35重量部
NPG 20重量部
フィラー E−5 10重量部
DEPT 0.5重量部
PDE 2.0重量部
CQN 0.8重量部
BAPO 1.0重量部
<実施例13〜15及び比較例8,9> 硬化性組成物(歯科用接着材料:2ステップ接着システム)
製造例8の重合性組成物2から、表4に示す実施例13〜15及び比較例8,9の2ステップ型歯科用接着材組成物のボンディング材組成物を調製し、以下の試験例7〜10に従って評価を行った。なお、比較例9では、歯科用接着材組成物の環境光安定性を向上させるために使用されている紫外線吸収剤TN326を配合した。
<試験例7> 環境光安定性
暗室内において、色温度変換フィルム及び紫外線フィルタが挿入されたキセノンランプの下で、照度が8000ルクスとなるような高さに混和皿(クラレノリタケデンタル社製、品番「#912(TB)」)を置き、歯科用接着材組成物を1滴滴下した。なお、1ステップ型歯科用接着材組成物については、表面をエアブローすることで、組成物の流動性が無くなるまで乾燥した。一定時間の間、試料を光に曝した後、試料の滴下された混和皿を照射域から取り出して、直ちに試料が物理的に均一であるか検査し、均一性を保持した時間を操作余裕時間とした。
環境光下での操作余裕時間は、一般的に20秒以上であれば、臨床において問題なく使用でき、25秒以上であることがより好ましく、30秒以上であることが最も好ましい。
<試験例8> ビッカース硬度
歯科用接着材組成物をステンレス製の金型(寸法4mmφ×4mm)に充填後、上下をスライドガラスで圧接し、歯科用高出力型LED照射器「ペンキュア2000」(株式会社モリタ製)で片面20秒間、光照射して硬化させた。なお、1ステップ型歯科用接着材組成物については、表面をエアブローすることで、組成物の流動性が無くなるまで乾燥した。硬化物を金型から取り出した後、ビッカース硬度試験機(島津社製)を用いて、荷重HV0.2の条件下、光照射表面のビッカース硬度を測定した。ビッカース硬度の値が、大きい方が好ましい。
<試験例9> 光硬化時間
歯科用接着材組成物0.015gを、ガラス製のプレパラート上に接着させた4mm孔のワッシャー内に滴下した。なお、1ステップ型歯科用接着材組成物については、表面をエアブローすることで、組成物の流動性が無くなるまで乾燥した。ワッシャー内の歯科用接着材組成物に、レコーダー(横河電気製作所社製、商品コード「Type3066」)に接続した熱電対(岡崎製作所社製、商品コード「SKC/C」)を浸し、プレパラートの下方から歯科用高出力型LED照射器(モリタ社製、商品名「ペンキュア2000」)を用いて光照射した。光照射開始から硬化により発熱ピークトップが生じるまでの時間を光硬化時間(秒)とした。光硬化時間は、10秒以内であることが好ましい。
<試験例10> 引張り接着
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨して、象牙質の平坦面を露出させたサンプルを得た。得られたサンプルを流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)でさらに研磨した。研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規制した。
1ステップ型歯科用接着材組成物については、組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、20秒間放置した後、表面をエアブローすることで、塗布した組成物の流動性が無くなるまで乾燥した。一方、2ステップ型歯科用接着材組成物については、メガボンドプライマー(クラレノリタケデンタル社製)を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、20秒間放置した後、表面をエアブローすることで、プライマーの流動性が無くなるまで乾燥し、次いで、試作ボンディング材組成物を、前記プライマーを塗布・乾燥した歯面に重ね塗りした。続いて、歯科用高出力型LED照射器(モリタ社製、商品名「ペンキュア2000」)にて標準モードで10秒間光照射することにより、塗布した組成物を硬化させた。
得られた組成物の硬化物の表面に歯科充填用コンポジットレジン(クラレノリタケデンタル社製、商品名「クリアフィルAP−X」(登録商標))を塗布し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記コンポジットレジンの塗布面を平滑にした。続いて、前記離型フィルムを介して、前記コンポジットレジンに対して前記歯科用高出力型LED照射器「ペンキュア2000」を用いて標準モードで20秒間光照射し、前記コンポジットレジンを硬化させた。
得られた歯科充填用コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレノリタケデンタル社製、商品名「パナビア21」(登録商標))を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着して試験片とした。試験片は、全部で10個作製した。次いで、試験片を、サンプル容器内の蒸留水に浸漬した状態で、37℃に設定した恒温器内に24時間放置した後、取り出して、接着強度を測定した。接着強度(引張接着強度)の測定には万能試験機(インストロン社製)を用い、クロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定した。接着強度の数値は、10個の試験片についての測定値の平均値とした。
表3の結果からわかるように、化合物(A)を1ステップ型歯科用接着材組成物に配合することによって、ビッカース硬度は微増し、光硬化時間、引張り接着強さともほとんど変化せず、環境光安定性は大幅に向上した。また、表4の結果からわかるように、化合物(A)を2ステップ型歯科用接着材組成物のボンディング材に配合することによって、ビッカース硬度は微増し、光硬化時間、引張り接着強さともほとんど変化せず、環境光安定性は大幅に向上した。以上のことから、本発明の化合物(A)を配合した歯科用接着材組成物は、二律相反する特性である高い硬化性と優れた環境光安定性を有する接着材組成物であることがわかる。