特許文献7は既設の鋼製の構造部材(既設鋼材)を使用状態のまま利用し、この構造部材に新設の鋼材を組み合わせることで、新たな構造物の構造部材として完成させているが、ここでの方法は既設の構造部材の一部区間の補強に留まり、既設の構造部材の全長を新たな構造部材として利用している訳ではない。
また既設の構造部材(既設鋼材)が仮設構造物の一部として一時的に設置される仮設部材である場合には、完成する構造物の構造部材として存置することが可能な部位であっても、既設鋼材は撤去(回収)を前提に設置されることから、撤去作業とその後の構造部材の設置作業が重複するため、撤去作業と設置作業のいずれかが無駄になると言える。
本発明は上記背景より、既設の構造部材(既設鋼材)に新設の鋼材を組み合わせることで、既設の構造部材を全長に亘って新たな構造部材として完成させ、既設鋼材の撤去(回収)を不要にする既設鋼材を利用した構造部材を提案するものである。
請求項1に記載の発明の既設鋼材を利用した構造部材は、構造物の構築位置に設置されている既設鋼材と、この既設鋼材に組み合わせられる新設鋼材と、この新設鋼材に包囲された領域の少なくとも一部に充填されるコンクリート、もしくはモルタルを備え、
前記新設鋼材は前記既設鋼材を一方向に挟み込むように配置されながら、前記既設鋼材に組み合わせられて閉鎖形の、もしくは開放形の断面形状を形成する2本の鋼材構成材から構成され、前記コンクリート、もしくはモルタルは前記既設鋼材と前記新設鋼材の双方に付着して一体化していることを構成要件とする。
請求項1における構造物は例えば開削トンネル、暗渠等の地下(地中)構造物の他、逆打ち工法で構築される構造物の地下階部分、あるいは地上階部分等であり、主として土留め工法等で構築される仮設構造物を利用して構築される新設の構造物全般を指す。この他、構造物には既設構造物の一部を改修して新設構造物を構築する場合の新設構造物も含まれるため、既設鋼材は仮設で一時的に設置される場合と新設構造物の構築位置に既に設置されている場合がある。
既設鋼材が仮設部材の場合、既設鋼材は例えば土留め壁の支保工として使用される構造部材を指し、具体的には地中に挿入、もしくは設置される矢板、連続壁等の土留め壁の内周面に設置される腹起し、または腹起し間に架設される切梁等が既設鋼材として利用されるが、既設鋼材の種類はこれらに限られない。既設鋼材が水平材であるか鉛直材であるかは問われない。既設鋼材は仮設構造物、または既設構造物の一部として設置されながら、新設構造物の一部として取り込まれ、新設鋼材と組み合わせられることで、新設構造物の構造部材として完成する。
新設鋼材は既設鋼材の周囲には、既設鋼材を包囲するように、または挟み込むように配置され、新設鋼材に包囲された領域の少なくとも一部にコンクリート、もしくはモルタル(以下、本項目中、コンクリート等と言う)が充填されることにより構造物の構造部材を構成する。「新設鋼材に包囲された領域」とは、新設鋼材が既設鋼材を包囲するように配置される場合の新設鋼材に包囲された領域、または新設鋼材が既設鋼材を挟み込むように配置される場合の新設鋼材に挟まれた領域を言う。「少なくとも一部」とは、新設鋼材2に包囲された(挟まれた)領域の内の少なくとも一部の領域を指し、既設鋼材1を包囲する領域である場合(図9)と、既設鋼材1とは無関係に新設鋼材1に包囲された領域である場合(図10)がある。
新設鋼材2が既設鋼材1を包囲するように配置される場合、構造部材4は図5〜図8に示すように閉鎖形の断面形状になり、新設鋼材2が既設鋼材1を挟み込むように配置される場合、構造部材4は基本的に図9に示すように開放形の断面形状になる。新設鋼材2が既設鋼材1を挟み込むように配置される場合でも、図4に示すように既設鋼材1が構造部材4の外部に露出し、新設鋼材2と共に構造部材4の外殻40を構成するように新設鋼材2と組み合わせられる場合には、構造部材4は閉鎖形の断面形状になる。「構造部材4の外殻40」は構造部材4の内、コンクリート3等を除外した骨格を指す。
図4〜図8、図10に示すように新設鋼材2が既設鋼材1を包囲するように、もしくは既設鋼材1を挟み込むように配置され、新設鋼材2が単独で、もしくは既設鋼材1と共に閉鎖形の断面形状の構造部材4の外殻40を構成する場合には、外殻40がコンクリート3等を周囲から拘束する形になるため、構造部材4の成方向(高さ方向)と幅方向にコンクリート3等のせん断力に対する靱性を高め、コンクリート3等のせん断耐力を向上させる効果がある。
既設鋼材1と新設鋼材2、及びコンクリート3等から構成される構造部材4が閉鎖形であるか開放形であるかは、完成する構造部材4の用途、機能、もしくは構造部材4に持たせるべき断面性能等に応じて、または既設鋼材1の断面形状に応じて決められる。既設鋼材1は仮設の場合もあることから、任意の断面形状を有するため、既設鋼材1の断面形状に応じて新設鋼材2の断面形状が決められ、新設鋼材2の断面形状に応じて構造部材4の断面形状が決められる。
コンクリート3等は新設鋼材2に包囲された領域の少なくとも一部に充填され、既設鋼材1と新設鋼材2(鋼材構成材21)に一体化することにより外力に対しては既設鋼材1と新設鋼材2と一体となって挙動し、外力に抵抗する。特に新設鋼材2が既設鋼材1に溶接、もしくはボルト接合等により接合されれば、既設鋼材1と新設鋼材2、及びコンクリート3等の3者の一体構造化の程度が強まる。
コンクリート3と並列的な関係にあるモルタルはコンクリート3中に混入される粗骨材が不在であることで、新設鋼材2の内周側にコンクリート3等との付着力を高めるための後述の補強材6が突設される場合にも、新設鋼材2の内周側への充填性がよい点で、コンクリート3に代わる材料としての有用性がある。またモルタルへの繊維混入等によりコンクリート3に劣らない程度の高い圧縮強度を得ることができることからも、コンクリート3に代わる材料としての利用可能性が高い。
構造部材4が閉鎖形の断面形状に形成される場合、構造部材4の外形(外殻40)は図4に示すように新設鋼材2と既設鋼材1から、または図5〜図8に示すように新設鋼材2から構成されるから、既設鋼材1の一部、または新設鋼材2を構成する複数本の鋼材構成材21の内、少なくともいずれかの鋼材構成材21の一部にコンクリート3等を充填するための充填孔と、充填空間内の空気を排出させるための排出孔が形成される。コンクリート3等が新設鋼材2に包囲された、対象とする充填領域に充填しきったとき、コンクリート3等は排出孔から排出されるため、排出孔はコンクリート3等の充填状況を確認するための孔を兼ねる。図9に示すように構造部材4の外殻40が開放形の断面形状に形成される場合には、鋼材構成材21に充填孔と排出孔を形成することは必要ないが、隣接する鋼材構成材21、21間にコンクリート3等の充填領域を区画するためのせき板が配置され、せき板の一部、またはせき板と鋼材構成材21との間に充填孔と排出孔が形成される。
構造部材4が閉鎖形であるか、開放形であるかを問わず、新設鋼材2を構成する鋼材構成材21は既設鋼材1側の面において既設鋼材1の周囲に充填(打設)されるコンクリート3等に付着することによりコンクリート3等に一体化する。前記のように新設鋼材2が既設鋼材1に溶接等によって接合されることもあるが、コンクリート3等には既設鋼材1も一体化するため、既設鋼材1と新設鋼材2とコンクリート3等の3者が一体化し、構造部材4は3者が一体となった合成構造の部材として完成する。既設鋼材1が水平材であれば、構造部材4も梁や桁等の水平材として利用され、既設鋼材1が鉛直材であれば、構造部材4も柱や杭等の鉛直材として利用される。
既設鋼材1がその外周側に配置される新設鋼材2とコンクリート3等に一体化した構造の構造部材4として完成することで、外力として作用する曲げモーメントに対しては既設鋼材1と新設鋼材2が引張力を負担し、コンクリート3等が圧縮力を負担する。材軸に直交する方向のせん断力は既設鋼材1と新設鋼材2及びコンクリート3等が分担する。既設鋼材1を包囲するコンクリート3等中にはコンクリート3等自体を材軸方向に作用する引張力等に対して補強するための補強筋、または図12−(a)に示すようにコンクリート3等と新設鋼材2との一体性を向上させるための連結筋7が、あるいはコンクリート3等を材軸に直交する方向のせん断力に対して拘束するための拘束筋等が配筋されることがある。コンクリート3等を材軸方向の引張力等に対して補強する補強筋はコンクリート3等中に材軸方向に配筋される。
既設鋼材1がその断面形状を維持したまま、全長に亘って構造部材4の一部として利用されることで、既設鋼材1が仮設部材である場合に、既設鋼材1の撤去(回収)を要することなく、既設鋼材1を有効利用することが可能になり、撤去作業が不要になるか、仮設部材撤去後の新設構造部材の設置作業が不要になるため、構造物5を構築する上での作業能率が向上し、工期の短縮化が図られる。
コンクリート3等は既設鋼材1と新設鋼材2に付着することによりそれぞれに一体化するが、新設鋼材2のコンクリート3等との付着力はコンクリート3等に接触する表面積が大きい程、大きくなるから、コンクリート3等との一体化の効果を高める上では、新設鋼材2にコンクリート3等との一体性を確保する補強材6が突設されることが有効である(請求項4)。
補強材6は新設鋼材2を構成する少なくともいずれかの鋼材構成材21の既設鋼材1側の面の少なくとも一部に、鋼材構成材21の材軸方向に沿って突設される。「鋼材構成材21の材軸方向に沿って突設される」とは、補強材6が鋼材構成材21の材軸方向に連続した長さを持つ板状、もしくは棒状等の形状である場合には、補強材6の材軸方向(長さ方向)が鋼材構成材21の材軸方向(長さ方向)を向いて鋼材構成材21に溶接、ボルト接合等により突設されることを言い、鋼材構成材21の材軸方向に連続する場合と断続的に配置される場合がある。補強材21が板状等でないボルト状等の場合には、補強材6の材軸方向が鋼材構成材21の材軸方向に直交等、交差する方向を向き、鋼材構成材21の材軸方向の領域(範囲)内に複数、突設されることを言う。補強材6が板状等でない形状にはボルト状の他、板状の部材をある長さで切断した形状、ブロック状等がある。
既設鋼材1自体の周囲(表面)には、新設鋼材2内に充填されるコンクリート3等との一体性を高めるための格別な処理は施されていないことがあるため、請求項4では新設鋼材2にコンクリート3等との一体性を高めるための補強材6が突設されることで、新設鋼材2が既設鋼材1に溶接等により接合された場合に、間接的に既設鋼材1とコンクリート3等との一体化の効果が増す。例えば既設鋼材1に、コンクリート3等との間に材軸方向のずれを生じさせようとする引張力が作用したとき、引張力が既設鋼材1とコンクリート3等との付着力を超えれば、コンクリート3等が既設鋼材1から分離しようとするが、補強材6を介して新設鋼材2とコンクリート3等との一体性が確保された上で、新設鋼材2と既設鋼材1との一体性も確保されることで、コンクリート3等の新設鋼材2と既設鋼材1からの分離は回避され易くなるため、構造部材4は既設鋼材1と新設鋼材2及びコンクリート3等が一体となった構造として外力に抵抗できることになる。
補強材6はコンクリート3等との一体性を確保できる機能を発揮できれば、形態は問われず、前記した例えば新設鋼材2の材軸方向を向く板状、もしくは棒状等の他、材軸方向に交差する方向を向くボルト状等の形態がある。いずれの形態でも、補強材6が新設鋼材2の鋼材構成材21の材軸方向に沿って突設されることで、補強材6の表面に生ずる付着力が新設鋼材2とコンクリート3等を材軸方向に分離させようとする引張力に対して抵抗する。補強材6として例えば孔あき鋼板を使用した場合には、鋼板両面におけるコンクリートとの付着力に加え、孔内に存在する柱状のコンクリートの外周面と孔の内周面との間に作用する支圧力と、孔内のコンクリート両端面におけるせん断抵抗力が鋼板とコンクリートとの間に作用するせん断力に対する抵抗力として付加されることになり、せん断力に対する抵抗力が増大する利点がある。
コンクリート3等は図11、図12に示すように新設鋼材2を外周側から包囲する領域にも充填されることがあり(請求項5)、この場合、コンクリート3等が新設鋼材2を周囲から包囲することで、新設鋼材2が耐火被覆されることになるため、構造部材4の耐火性能が確保される。新設鋼材2を包囲する領域に充填されるコンクリート3等は新設鋼材2の外周側に配置されるせき板の一部に形成される充填孔から充填されることになるが、前記のように既設鋼材1、または鋼材構成材21に充填孔が形成されていれば、コンクリート3等は新設鋼材2の外周側への充填と同時に新設鋼材2の内周側へも充填される。
前記のようにコンクリート3等が充填される新設鋼材2の内周側にはコンクリート3等を補強するための補強筋、またはコンクリート3等と新設鋼材2との一体性を高めるための連結筋7が配筋されることがあるが、補強筋8は図12−(b)に示すように新設鋼材2の外周側のコンクリート3等中にも配筋されることがある(請求項6)。新設鋼材2の外周側のコンクリート3等中に配筋される補強筋8は新設鋼材2を周回する状態に配筋されることで、コンクリート3等に周方向に作用する引張力に対する補強要素になるため、コンクリート3等のひび割れを防止し、コンクリート3等の新設鋼材2からの剥離を防止し、新設鋼材2外周側のコンクリート3等と外殻40との一体性を高める働きをする。
構造物の構築位置に設置されている既設鋼材と、既設鋼材に組み合わせられる新設鋼材と、新設鋼材に包囲された領域の少なくとも一部に充填されるコンクリート、もしくはモルタルから構造部材が構成され、コンクリート、もしくはモルタルが既設鋼材と新設鋼材の双方に付着し、それぞれに一体化して構造部材が完成するため、既設鋼材をその断面形状を維持したまま、全長に亘って構造部材の一部として利用することができる。
この結果、既設鋼材が仮設部材である場合に、既設鋼材の撤去(回収)を要することなく、既設鋼材を有効利用することが可能になり、既設鋼材の撤去作業、または仮設部材撤去後の新設構造部材の設置作業が不要になるため、構造物を構築する上での作業能率が向上し、工期の短縮化を図ることが可能になる。
図1−(a)〜(c)は構造物5の構築位置に設置されている既設鋼材1を利用し、既設鋼材1に新設鋼材2を組み合わせて構造物5の構造部材4を完成させる要領の例を示している。構造部材4は基本的に既設鋼材1と、既設鋼材1に組み合わせられる新設鋼材2と、新設鋼材2に包囲された領域の少なくとも一部に充填されるコンクリート3、もしくはモルタル(以下、コンクリート3等)から構成される。新設鋼材2は既設鋼材1を周囲から包囲しながら、もしくは既設鋼材2を一方向に挟み込みながら、既設鋼材1に組み合わせられて閉鎖形の、もしくは開放形の断面形状を形成する複数本の鋼材構成材21、21から構成され、コンクリート3等が既設鋼材1と新設鋼材2の双方に付着してそれぞれに一体化する。
図1−(a)は構造物5となる地下構造物が土留め壁内に構築された開削トンネルであり、既設鋼材1が開削トンネルを構築するための土留め壁間に架設された切梁である場合に、既設鋼材1を利用して構造部材4を完成させる場合の例を示している。開削トンネルは例えば並列するシールドトンネル等の隣接構造物間等に跨って構築される。図1−(b)は(a)における既設鋼材1の部分を拡大した様子を示し、既設鋼材1を上下から挟み込むように2本の鋼材構成材21、21を既設鋼材1に組み合わせる様子を示している。(c)は既設鋼材1と新設鋼材2から構造部材4を完成させた様子を示している。
図1は既設鋼材1が構造物5である開削トンネルの側壁5a、5a間に水平材として架設されている場合の例を示しているが、既設鋼材1は鉛直材の場合もある。図1の例では既設鋼材1は新設鋼材2と組み合わせられ、構造部材4を構成したとき、構造物5の一部である梁(桁)として、またはスラブ(床版)の一部として、あるいは側壁5a、5a間の間隔を保持する間隔保持材として完成する。
図2は(a)に示すように構造物5が複数層(複数階)の建物であり、下層側の下部構造51が鉄筋コンクリート造で、下部構造51に支持される上層側の上部構造52が鉄骨造である場合において、既設鋼材1が上部構造の梁、またはスラブを構成し得る位置に架設されている場合に、(b)に示すように既設鋼材1をそのまま利用し、構造部材4を梁(桁)、またはスラブとして完成させた場合の例を示す。
図3は(a)に示すように構造物5が鉄骨造の複数層の建物である場合に、既設鋼材1が下層階と上層階の境界の梁、またはスラブを構成し得る位置に架設されている場合に、(b)に示すように既設鋼材1をそのまま利用し、構造部材4を梁(桁)、またはスラブとして完成させた場合の例を示す。梁の全長が断面積との対比で短い場合には、構造部材4は構造部材4が跨る構造物の柱間、または壁間の間隔を保持する間隔保持材として機能することもある。
図4は(a)に示すように既設鋼材1が構造部材4の幅方向(水平方向)に間隔を置いて並列する、鉛直方向を向く2枚のプレート1a、1aからなる場合に、(b)に示すように新設鋼材2を構成する鋼材構成材21として水平方向を向き、既設鋼材1と共に閉鎖断面形状を形成するプレート2aを使用し、2枚の鋼材構成材21、21(プレート2a、2a)を既設鋼材1に組み合わせて箱形断面形状の構造部材4の外殻40を形成した場合の例を示す。図4〜図6では既設鋼材1が水平方向に並列する2枚のプレート1a、1aから構成されているが、既設鋼材1の構成(形態)と断面形状は任意である。新設鋼材2が2本の鋼材構成材21、21から構成されるが、既設鋼材1を水平方向に挟み込むように鋼材構成材21が既設鋼材1に組み合わせられる場合もある。
図4に示す鋼材構成材21は構造部材4の幅方向に平行な(水平な)プレート2aと、その既設鋼材1側の面に突設される後述の補強材6から構成されており、プレート2aの端部、もしくは端面は既設鋼材1のプレート1aの端面、もしくは端部に突き合わせられ、基本的には両者が溶接、もしくはボルト等により互いに接合される。この場合、プレート2aがプレート1aに接合されることにより新設鋼材2が既設鋼材1に接合され、箱形断面の構造部材4の外殻40が形成される。但し、コンクリート3等が新設鋼材2と既設鋼材1のそれぞれに付着して一体化することで、コンクリート3等を介して間接的に新設鋼材2と既設鋼材1が接合されることになるため、必ずしも新設鋼材2は既設鋼材1に直接、接合される必要はない。
コンクリート3等は新設鋼材2に包囲された領域の少なくとも一部に充填されるが、図4の例では既設鋼材1(プレート1a)が構造部材4の外殻40の一部になっていることから、コンクリート3等は図10に示すように新設鋼材2の2枚の鋼材構成材21、21(プレート2a、2a)と既設鋼材1の2枚のプレート1a、1aで区画された領域の全体に充填され、構造部材4はコンクリート3等が鋼管内に密実に充填された鋼管(鋼板)コンクリート造として完成する。コンクリート3等は鋼材構成材21(プレート2a)、または既設鋼材1(プレート1a)の一部に形成された充填孔から充填され、他のいずれかの一部に形成された排出孔から排出される。
図4はまた、鋼材構成材21(プレート2a)の既設鋼材1側の面の少なくとも一部に、コンクリート3等中に埋設され、コンクリート3等との一体性を確保する補強材6が鋼材構成材21の材軸方向に沿って突設されている場合の例を示している。補強材6は新設鋼材2とコンクリート3等との一体化を図り、構造部材4の材軸方向に作用し、新設鋼材2とコンクリート3等を分離させようとするせん断力に対する抵抗力を新設鋼材2に付与する目的で新設鋼材2に突設されるため、構造部材4の内周側となる鋼材構成材21の面に、鋼材構成材21の幅方向の中央部に1枚、もしくは幅方向に間隔を置いて複数枚、配置される。補強材6はコンクリート3等中に埋設される必要があるため、補強材6の両面側にコンクリート3等が回り込むよう、既設鋼材1(プレート1a)の内周側の面と補強材6との間には距離が確保される。
図4は補強材6としてプレート、フラットバー等の形鋼を使用し、補強材6を鋼材構成材21に溶接により突設しているが、補強材6の種類と鋼材構成材21への接合方法は問われず、補強材6には山形鋼、溝形鋼、鉄筋(異形鉄筋)、スタッド等の鋼材も使用される。補強材6はコンクリート3等中に埋設されることで、構造部材4の材軸方向のせん断力に対しては主に付着力と支圧力により抵抗する。プレート、鉄筋等のようにせん断力の作用方向と材軸方向が一致するように補強材6が配置される場合は、補強材6は材軸方向に連続的に、または断続的に配置される。スタッドの場合、補強材6は鋼材構成材21の材軸方向に間隔を置き、軸が新設鋼材2の材軸方向に直交する方向等、交差する方向を向いて配置される。この場合、補強材6は鋼材構成材21の幅方向に複数、配列(並列)することもある。
補強材6には孔あき鋼板も使用される。孔あき鋼板はプレートと同様に軸が鋼材構成材21の材軸方向を向き、連続的に、または断続的に配置される。孔あき鋼板が使用される場合には、鋼板両面におけるコンクリートとの付着力に加え、孔内に存在する柱状のコンクリートの外周面と孔の内周面との間に作用する支圧力と、孔内のコンクリート両端面におけるせん断抵抗力が鋼板とコンクリートとの間に作用するせん断力に対する抵抗力として付加され、構造部材4の材軸方向に作用するせん断力に対する抵抗力が増大する利点がある。
図5、図6は新設鋼材2の鋼材構成材21、21に既設鋼材1を周囲から包囲する形状と寸法を与え、新設鋼材2が既設鋼材1に組み合わせられたときに、各図の(b)に示すように新設鋼材2(鋼材構成材21)が閉鎖形の断面形状の構造部材4の外殻40を形成する場合の例を示す。この例では新設鋼材2を構成する2本の鋼材構成材21、21が既設鋼材1を上下から挟み込むように突き合わせられることで、鋼材構成材21、21が既設鋼材1を周囲から包囲し、鋼材構成材21、21の突き合わせ部分が互いに溶接等されることにより互いに接合され、構造部材4の外殻40を形成する。図5、図6の例でもコンクリート3等は基本的に鋼材構成材21、21に囲まれた領域に充填されるが、特に2本の鋼材構成材21、21に囲まれた領域が仕切り板等で区画される場合には、その区画された領域にのみ充填されることもある。
図5は(a)に示すように図4におけるいずれか一方の鋼材構成材21(プレート2a)の幅方向両側に、既設鋼材1のプレート1aと平行な(プレート2aに垂直な)、鉛直方向を向くプレート2b、2bを溶接し、(b)に示すように一方の鋼材構成材21が他方の鋼材構成材21(プレート2a)に組み合わせられたときに、プレート2bが他方の鋼材構成材21(プレート2a)に突き当たる長さをプレート2bに与えた形に相当する。プレート2b、2bは既設鋼材1(プレート1a)の外周側に位置し、既設鋼材1はプレート2bに内接するか、プレート2bとの間に距離が確保される。鋼材構成材21のプレート2bが既設鋼材1(プレート1a)に外接し、溶接等により接合される場合には、プレート2bがプレート1aの板厚を増し、剛性を高める働きをするため、既設鋼材1が構造部材4の一部として外力に対する抵抗要素になるときに、既設鋼材1の変形に対する安定性が高まる利点がある。
図5〜図8に示すように新設鋼材2を構成する複数本の鋼材構成材21、21が互いに突き合わせられることにより既設鋼材1を包囲する場合、鋼材構成材21の既設鋼材1側の面にコンクリート3等が充填されることで、各鋼材構成材21がコンクリート3等に一体化するため、分離している鋼材構成材21、21はコンクリート3等を介して間接的に一体化した状態になる。このため、互いに突き合わせられる鋼材構成材21、21同士は必ずしも接合される必要はないが、両鋼材構成材21、21を互いに接合する場合には、一方の鋼材構成材21のプレート2bの端面を他方の鋼材構成材21(プレート2a)の端部に突き合わせ、両者を溶接することにより、または両者間に金物を渡し、ボルトを挿通させることにより両鋼材構成材21、21が接合される。
図6は(a)に示すように図5における一方の鋼材構成材21に一体化しているプレート2b、2bをその幅方向(構造部材4の成方向(鉛直方向))に2分割し、分割されたプレート2b、2bを各鋼材構成材21に溶接した形に相当する。対になる鋼材構成材21、21を接合する場合、両鋼材構成材21、21は、各鋼材構成材21に一体化し、互いに突き合わせられるプレート2b、2bが互いに溶接されることにより、または両プレート2b、2bに継手プレートを跨設し、継手プレートとプレート2bを貫通するボルトを挿通させることにより互いに接合される。図5、図6では(b)に示すように鋼材構成材21のプレート2bが既設鋼材1のプレート1aに外接しているが、プレート2bとプレート1aとの間には間隔が確保され、コンクリート3等が入り込むこともある。プレート2bがプレート1aに外接する場合、両プレート2b、1aは互いに溶接等により接合される場合と、単に接触した状態になる場合がある。
図7、図8は(a)に示すように既設鋼材1が1本のH形鋼からなり、新設鋼材2を構成する各鋼材構成材21が図6の例と同様に構造部材4の幅方向に平行な(水平な)プレート2aとその幅方向両側に垂直に一体化したプレート2b、2bからなる場合に、(b)に示すように既設鋼材1を上下から挟み込み、既設鋼材1を包囲するように新設鋼材2を構成する2本の鋼材構成材21、21を既設鋼材1の周囲に配置した場合の例を示す。図7、図8共、プレート2aの既設鋼材1側の面に補強材6が突設されている場合であるが、図7は2本の鋼材構成材21、21の各プレート2a(の既設鋼材1側の面)が既設鋼材1のフランジに接触した状態で、両鋼材構成材21、21のプレート2b、2bを突き合わせた場合、図8は鋼材構成材21のプレート2aが既設鋼材1のフランジとの間にクリアランスを確保した状態で、両鋼材構成材21、21のプレート2b、2bを突き合わせた場合である。既設鋼材1は複数本のH形鋼からなる場合もある。
図7、図8の例でも対になる2本の鋼材構成材21、21を接合する場合、両鋼材構成材21、21は、構造部材4の成方向(高さ方向)を向くプレート2b、2bが互いに突き合わせられ、溶接等されることにより互いに接合され、構造部材4の外殻40を形成する。図7の例では既設鋼材1のフランジに鋼材構成材21のプレート2aが重なることで、プレート2aが既設鋼材1のフランジに溶接等により接合された場合に、既設鋼材1のフランジの板厚を増すことになるため、既設鋼材1のフランジの剛性を増し、変形(局部変形を含む)に対する安定性を高める働きをする。図8の例ではコンクリート3等が既設鋼材1を完全に被覆することで、既設鋼材1の変形(局部変形を含む)がコンクリート3等に拘束されるため、プレート2aが既設鋼材1に重ならなくても既設鋼材1を変形に対して安定させ易くなる。
鋼材構成材21のプレート2aに補強材6が突設される図7、図8の場合、鋼材構成材21、21が互いに組み合わせられたときに、補強材6と既設鋼材1との間には各図の(b)に示すように補強材6が既設鋼材1に接触せず、新設鋼材2の内部に充填されるコンクリート3等の回り込み(充填性)を阻害しない程度のクリアランスが確保される。
図9は既設鋼材1がH形鋼であり、新設鋼材2を構成する各鋼材構成材21が構造部材4の幅方向に平行なプレート2aとプレート2aの既設鋼材1側に突設された補強材6からなる場合に、新設鋼材2を構成する2本の鋼材構成材21、21が既設鋼材1を高さ方向(鉛直方向)に挟み込むように鋼材構成材21、21を既設鋼材2の周囲に配置し、(b)に示すように既設鋼材1と新設鋼材2からなる構造部材4の外殻40を開放形の断面形状に形成した場合の例を示す。図9の例は図7の例におけるプレート2aの幅方向両側のプレート2b、2bを不在にした形に相当する。
図9の例では構造部材4の外殻40が開放形の断面形状になるが、構造部材4は鋼材とコンクリート3等の合成構造で完成するため、2本の鋼材構成材21、21に挟まれた領域の少なくとも一部の領域にコンクリート3等が充填される。少なくとも既設鋼材1が完全に埋設されるように鋼材構成材21、21間にコンクリート3等が充填される場合には、コンクリート3等を介して既設鋼材1と新設鋼材2の一体化が図られるため、既設鋼材1と新設鋼材2は必ずしも直接には接合される必要がない。図9でも(b)に示すように鋼材構成材21が既設鋼材1に接触しているが、鋼材構成材21と既設鋼材1との間にはクリアランスが確保されることもある。
図10は図4に示す構造部材4の外殻40の内部にコンクリート3等を充填した様子を示す。構造部材4の外殻40の内部全体にコンクリート3等を充填する場合は、図6〜図8の例も図10と同様になる。構造部材4の外殻40の内部にコンクリート3等を充填する場合には、前記のように既設鋼材1(プレート1a)、または新設鋼材2(プレート2a、2b)の一部に充填孔が形成され、他のいずれかの一部に排出孔が形成され、コンクリート3等は排出孔から排出されることで、構造部材4の内部に密実に充填されたことが確認される。
図11、図12−(a)、(b)は図4、または図10に示す構造部材4の外殻40の外部にもコンクリート3等を充填した様子を示す。この場合、外殻40の外部には外殻40の外周面との間に距離を置き、一部にコンクリート3等の充填のための充填孔と排出孔を有するせき板が配置され、コンクリート3等は充填孔から注入され、排出孔から排出されることで、外殻40の外部に充填される。充填孔と排出孔は新設鋼材2(鋼材構成材21)の一部にも形成され、コンクリート3等は外殻40の外部と同時に外殻40の内部にも充填される。図11、図12の例では既設鋼材1と新設鋼材2を含む外殻40全体がコンクリート3等で包囲された状態になるため、外殻40に対する耐火被覆が不要になる利点がある。
図12−(a)はまた、外殻40の内部のコンクリート3等中にコンクリート3等と新設鋼材2との一体性を確保するための連結筋7を配筋した様子を、(b)は外殻40の外部のコンクリート3等中に、コンクリート3等に周方向に作用する引張力に対してコンクリート3等を補強するための補強筋8を配筋した様子を示す。補強筋8はコンクリート3等に作用する材軸方向の引張力に対する補強のために、外殻40の内部、または外部に構造部材4の材軸方向に配筋されることもある。
図12−(a)の例では新設鋼材2の内周側に補強材6が突設されていることで、構造部材4の材軸方向に作用する、新設鋼材2(外殻40)とコンクリート3等を分離させようとする引張力(せん断力)に対しては補強材6が抵抗することができるが、連結筋7が補強材6を厚さ方向に貫通して配筋されていることで、新設鋼材2とコンクリート3等と分離させようとする引張力に対する靱性が向上する。(b)の例では構造部材4の外殻40の外周に充填されたコンクリート3等に周方向に作用する引張力に対して補強筋8が抵抗するため、外殻40外周側のコンクリート3等のひび割れ及び剥落に対する安全性が向上する。
図12−(a)、(b)のいずれの例においても、外殻40外周側のコンクリート3等と外殻40との材軸方向の分離に対する安全性向上のために、新設鋼材2(鋼材構成材21)の補強材6は外殻40の外周側に突設され、外殻40外部のコンクリート3等中に埋設されることもある。
図13、図14は図6〜図8に示すような、既設鋼材1を包囲する形状の新設鋼材2(鋼材構成材21)に、新設鋼材2の外周側から内周側へコンクリート3等を充填するための、充填孔及び排出孔としての開口2cを形成した場合の既設鋼材1との組み合わせ例を示す。図13は図6〜図8における対になる鋼材構成材21、21の各プレート2b、2bの突き合わせ面側が開放した溝形(櫛形)の形状に開口2cを形成した場合、図14は各プレート2b、2bに開口2cとして孔を形成した場合である。
図13、図14の例では鋼材構成材21のプレート2bに多数の開口2cが形成されていることで、コンクリート3等の充填位置が任意に選択可能である他、複数の位置から同時に充填することも可能になる利点がある。