以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のエンジン1の冷却装置2及び自動変速機11の冷却装置21の概略構成図、図2はエンジン1及び自動変速機11の概略構成図である。
まず、エンジン1の冷却装置2を説明する。エンジンの冷却装置2は図1の上方に示している。エンジン1を出た80〜90℃程度の冷却水は、ラジエータ3を通る冷却水通路4と、ラジエータ3をバイパスするバイパス冷却水通路5とに別れて流れる。その後、2つの流れは、両通路4、5を流れる冷却水流量の配分を決めるサーモスタットバルブ6で再び合流し、さらにウォータポンプ7を経てエンジン1に戻る。サーモスタットバルブ6は、冷却水温度に応じてラジエータ3に供給される冷却水流量を制御する三方弁であって、バルブ本体6a、2つの入口ポート6b、6c及び1つの出口ポート6dを有している。2つの入口ポート6b、6cには、ラジエータ3を通る冷却水通路4とラジエータ3をバイパスする冷却水通路5とが接続され、サーモスタットバルブ6により、冷却水温度に応じてラジエータ3に供給される冷却水流量が増減されて冷却水温度が適正に保持される。
例えば、エンジン冷間始動時のようにサーモスタットバルブ6を流れる冷却水の温度が所定値未満ではエンジン1を暖めることがエンジン1の効率を良くする。このため、エンジン冷間始動時にはバルブ本体6aで入口ポート6bを遮断してラジエータ3に冷却水を流さず、入口ポート6cと出口ポート6dを連通してバイパス冷却水通路5に冷却水を流し、これによってエンジン1が冷却されないようにする。一方、高負荷時のようにサーモスタットバルブ6を流れる冷却水の温度が所定値以上となる高温域では、ノッキングの回避が必要となる。このため、高負荷時にはバルブ本体6aで入口ポート6bを開放して入口ポート6bと出口ポート6dを連通する。これによってラジエータ3に冷却水を流し、ラジエータ3で冷却された冷却水をエンジン1に供給してエンジン1を冷却する。
以下、サーモスタットバルブ6が開弁状態となる温度を「開弁温度」という。サーモスタットバルブ6は、通常、冷却水温度がある温度範囲内にあるとき、冷却水温度の上昇に伴い開度(ラジエータ側に流れる量)が徐々に増加し全開状態に到るようになっている。以下、開弁温度は、開き始めの温度や、全開になる温度、あるいは、これらの平均値等の、代表温度を意味するものとする。
次に、自動変速機11の冷却装置21を説明する。図1の下方に自動変速機11の概略縦断面図を示している。図1の下方において「FRONT」は車両前方、「REAR」は車両後方である。車両駆動装置としての自動変速機11は、トルクコンバータ13、遊星歯車式変速機構14、クラッチやブレーキの作動圧を調整したり油圧回路を切換えるためのコントロールバルブ16などで構成されている。エンジンのクランク軸10にトルクコンバータ13が、遊星歯車式変速機構14の出力軸にプロペラシャフト51が連結されている。
遊星歯車式変速機構14の詳細は図示していない。一般的には、変速機構14は変速機ケース12に軸支されて動力を伝達する軸部材、軸部材に設けられ選択的に噛合することにより所定の変速比を実現する複数組のギア対、前後進切換機構、変速比を切換えるためのクラッチとブレーキを有している。
変速機ケース12内には、軸受部やギア対の噛合部の動作を円滑にし、また摩擦による温度上昇や摩耗を抑制するために油を封入している。自動変速機11に用いる油は、オートマチック・トランスミッション・フルードと呼ばれる油である。この油は、ブレーキやクラッチを作動させる作動油としての働きのほかに、トルクコンバータ13の作動流体として動力を伝達する働きを有すると共に、ギア対や軸受部など各部への潤滑と冷却を行う。この自動変速機11に用いる油を以下「オイル」という。
図1の下方において、変速機ケース12内の鉛直下部にオイルパン17が設けられ、このオイルパン17にオイル40が貯留されている。図1の下方では、オイルパン17と変速機ケース12とを一体で記載してあるが、実際には、オイルパン17は、変速機ケース12から着脱可能である。すなわち、オイルパン17はその上方開口端にフランジを設けてあり、このフランジをボルトによって変速機ケース12に固定している。
遊星歯車式変速機構14のインプットシャフト15により駆動されるオイルポンプ18がオイルパン17内のオイル40をオイル供給通路(図示しない)を介して吸い上げ、オイル40の圧力を高め、内部のオイル通路19を介してコントロールバルブ16に送る。コントロールバルブ16はオイルポンプ18より供給されるオイル40の圧力を調整する。圧力の調整されたオイル40の一部はクラッチやブレーキの作動油として、残りはトルクコンバータ13や摺動各部に送られる。トルクコンバータ13内で温度の上昇したオイル40は、オイルポンプ18が送り込むオイルと入れ換わる。
遊星歯車式変速機構14を構成するギア対が摺動しながら回転するとき、すべり摩擦によってギア対が発熱する。このギア対が発生する熱はオイル40によって吸収されるものの、特に自動変速機をDレンジとしての車両走行中にエンジン1を高回転速度で運転した後には自動変速機11のオイル40の温度が上昇する。オイル40の温度が自動変速機11の許容温度を超えて上昇するとオイル40や摩擦材の劣化が生じるため、自動変速機11に冷却装置21を備えている。
自動変速機11の冷却装置21は、主にラジエータ3内に設けられている空冷式オイルクーラ22である。ここでは、見やすくするため、ラジエータ3と別体でオイルクーラ22を記載している。
オイルクーラ22と自動変速機11とは吐出側、戻り側のオイルクーラチューブ23、24で繋がれている。主に遊星歯車式変速機構14内で高温となったオイル40は、オイルポンプ18により吐出側チューブ23を介してオイルクーラ22に供給され、オイルクーラ22で空気との熱交換を行って冷却される。オイルクーラ22で冷却されたオイル40は戻り側チューブ24より自動変速機11に戻される。また、遊星歯車式変速機構14内で潤滑の仕事を終えたオイル40もオイルパン17に戻される。
第1実施形態の自動変速機11は遊星歯車式変速機構14を有する有段の自動変速機であるが、これに限られるものでなく、ベルト式CVT(Continuosly Variable Transmission)などの無段の自動変速機であってよい。さらに、マニュアル式の変速機であってよい。
さて、冷間状態でエンジン1を始動し車両を発進させた直後には自動変速機11のオイル温度が外気温と同じ低い状態にあり、オイル粘度は自動変速機11の暖機完了後より高い状態にある。オイル40の粘度が高いと、遊星歯車式変速機構14を構成するギア対の摺動面のすべり摩擦抵抗が増加するため、ギア同士が回転しにくくなる。ここでは、ギア同士を回転しにくくする摩擦抵抗を含めて、自動変速機11を回りにくくする要素をまとめて「自動変速機のフリクション」というとすれば、オイル40の温度が低いときに、図3に示したように自動変速機のフリクションが大きくなる。自動変速機11はエンジン1の駆動力で回転するので、自動変速機のフリクションが大きいと、その分エンジン1の燃費が悪くなる。エンジン1及び自動変速機11の全体でエンジン1の燃費を向上させるには、自動変速機11のオイル温度を車両の発進時に早期に上昇させる(つまり自動変速機11の暖機を促進させる)ことである。
この場合に、車両発進時に刺激手段で過冷却状態の蓄熱材に物理的な刺激を与えることによって蓄熱材を固相へと相転移させ、この相転移に伴う蓄熱材の潜熱の放出でオイルを速やかに温めるようにした従来構造がある。しかしながら、従来構造のように構成が複雑な刺激手段を新たに追加するのでは、コストが上昇する。
そこで本発明の第1実施形態では、自動変速機11の暖機促進のため、図1にも示したように、エンジンの冷却水と熱交換可能な熱交換器25をオイルクーラ22と並列に設ける。熱交換器25の内部には2つの通路26、27が形成されているので、一方の通路26の一端(図1で右端)にラジエータ3上流の冷却水通路4から分岐する冷却水通路31を接続する。通路26の他端(図1で左端)には冷却水通路32の一端を接続し、冷却水通路32の他端をラジエータ3下流の冷却水通路4に合流させる。他方の通路27の一端(図1で左端)にはオイルクーラ22上流の吐出側チューブ23から分岐するチューブ33を接続する。通路27の他端(図1で右端)にはチューブ34の一端を接続し、チューブ34の他端をオイルクーラ22下流の戻り側チューブ24に合流させる。熱交換器25では、一方の通路26を流れる冷却水と反対向きにオイルが他方の通路27を流れるようにする。これによって、一方の通路26を流れる高温側の冷却水と、他方の通路27を流れる低温側のオイル40との間で熱交換が行われ、冷却水から熱をもらってオイル40の温度が上昇することから、自動変速機11の暖機が促進されることとなる。この場合、熱交換器25による自動変速機の暖機促進中にもオイルの一部がオイルクーラ22に流れて冷やされる。そこで、チューブ33の分岐点よりも下流の吐出側チューブ23に、自動変速機11の暖機完了前には全閉状態を維持するサーモスタットバルブ29を設けておくことが望ましい。このサーモスタットバルブ29はサーモスタットバルブ6と同様の構成でよい。
その一方で、熱交換器25を設けることは、自動変速機11に暖機促進機能を付与することになるので、オイル高温時の冷却機能は、熱交換器25を設けていない場合より低下(不足)することとなる。このため、オイルの過剰な昇温を回避するには、オイルクーラ22のサイズを大きくすることであるが、オイルクーラ22のサイズを大きくすることは、コストアップとなる。
そこで本実施形態では、オイル高温時の冷却機能を強化するため、オイルパン17及び変速機ケース12の少なくとも一部に伝熱部材41を複数配置する。伝熱部材41の一端はオイルパン17及び変速機ケース12の外面からオイルパン17及び変速機ケース12の外部に突出(露出)させる。これは、特にオイル高温時に伝熱部材41を介してのオイルパン17及び変速機ケース12からの放熱性能を高めるためである。なお、図1に示したオイルパン17及び変速機ケース12の厚さは便宜上のもので、実際の厚さを示すものでない。図1では各伝熱部材41の内部の状態は示していない。
ここで、伝熱部材41の伝熱特性は、伝熱部材41自体の温度により伝熱部材41自体の温度が高くなるほど熱を伝え易くなるよう変化するものである。詳細にはオイルパン17及び変速機ケース12に配置する各伝熱部材41は、図4にも示したように中空金属部材42にパラフィンワックスなどの蓄熱材43(媒体)を封入することによって構成されている。このため、伝熱部材41自体の温度により中空金属部材42内での蓄熱材43の移動の容易さが変化することによって、伝熱部材41の伝熱特性が変化する。
具体的には、蓄熱材43は、蓄熱材43の融点である所定温度以下のとき固体であり、所定温度を超えるとき相変化して液体となる。つまり、蓄熱材43が固体の状態では、中空金属部材42内で移動しにくくなる(蓄熱材43の移動量が相対的に減る)。蓄熱材43の移動量が減ると熱移動量も減る。一方、蓄熱材43が液体の状態になると、中空金属部材42内で移動し易くなる(蓄熱材43の移動量が相対的に増加する)。蓄熱材43の移動量が増加するほど熱移動量が大きくなる。
なお、伝熱部材41の中空金属部材42の材質は、オイルパン17を構成する金属部材(例えばFe、Al、Mgなどの金属部材)及び変速機ケース12を構成する金属部材(例えばアルミ合金部材)より熱伝導性がよいもの(例えば錫)が好ましい。
ここで、変速機ケース12に配置している伝熱部材41で代表させて、伝熱部材41による放熱と断熱の切換の仕組みを図4を用いて説明する。
図4は、3つの異なる状態で伝熱部材41に収納されている蓄熱材43がどのように状態を変化させるのかを示している。図4では上下方向が鉛直方向であり、伝熱部材41の全体形状は水平方向に長いカプセル状であるとする。さらに、伝熱部材41の一端(図4で左端)が変速機ケース12の外面12aから外気に突出しているものとする。
まず、図4上段に示す(a)は車両の発進直後で自動変速機を暖機している状態を示している。自動変速機の暖機途中のオイルは例えば約80℃である。このとき、蓄熱材43の温度は蓄熱材43の融点(所定温度)より低いため、全て固体となって鉛直下方に存在し、鉛直上方には気体が存在する領域(気体ゾーン)が形成されている。このとき、固体の蓄熱材43を介して熱が移動する(熱伝導)ため、固体の蓄熱材43は伝熱部分として機能する。その一方で、気体ゾーンでは気体が自然対流することで熱を移動する(熱伝達)が、その熱移動量はわずかであるため、気体ゾーンは熱が伝わらない断熱部分として機能する。従って、固体の蓄熱材43を介しての熱の移動よりも気体ゾーンによる断熱のほうが優勢となるように蓄熱材43の種類や体積を定めてやれば、伝熱部材41全体としては、伝熱部材41が断熱部材として機能する。自動変速機の暖機途中には自動変速機から熱が自動変速機の外部(外気)に逃げないようにする必要があるところ、伝熱部材41が断熱部材として機能するので、自動変速機の発生する熱を変速機ケース12から外気に逃すことが防止されることとなる。
次に、図4中段に示す(b)はエンジンを高回転速度で運転することによりDレンジにある自動変速機を高回転速度で運転した後の状態を示している。自動変速機を高回転速度で運転した後に高温の熱が発生しているときには自動変速機のオイルは例えば約110℃まで上昇する。このときの高温の熱は変速機ケース12に蓄えられる。このとき、変速機ケース12が蓄える熱を受けて蓄熱材43の温度が融点(所定温度)を超えて上昇するため蓄熱材43の全てが固体から液体へと相変化する。このとき、蓄熱材43は融解熱として周囲から熱を奪う。さらに、液体となった蓄熱材43を介して自動変速機の発生する熱が変速機ケース12から外気へと逃される(放熱)。この場合、固体から液体に相変化するときの溶解熱は、液体から気体に相変化するときの気化熱よりも小さく、かつ液体の移動は気体ほど容易でない。従って、液体が内部(変速機ケース12で囲まれた位置)から外部(外気に接する位置)まで移動しなければ、変速機ケース12から外気への熱の移動量も限られたものとなる。しかしながら、都合の良いことにエンジン1は爆発圧力や慣性力に起因する加振源を有するので、クランクシャフトの回転に伴い周期的に振動する。このエンジンからの振動を受けて周期的に、あるいは車輪からの振動を受けて自動変速機が振動する。すなわち、自動変速機の振動を受けて液体となった蓄熱材43が加振される。この加振によって、液体となった蓄熱材43が内部(変速機ケース12で囲まれた位置)から外部(外気に接する位置)へ(図4では左方向に)あるいは外部から内部へ(図4では右方向)と容易に移動する。液体となった蓄熱材43の内部から外部への移動によって変速機ケース12の熱が外気へと運ばれ、熱を放出した液体の蓄熱材43が今度は外部から内部へと戻されるのである。これは、液体の蓄熱材43の流れによって熱が移動するので、熱伝達である。熱伝達では、変速機ケース12の温度と外気の温度との温度差に比例して熱が移動するため、液体の蓄熱材43の移動量が大きくなれば、その分、熱移動量が大きくなる。こうした液体の蓄熱材43の対流(移動)によって熱移動が活発に行われることから、伝熱部材41が放熱部材として機能し、変速機ケース12から外気への放熱が促進されることとなる。
図4下段に示す(c)はエンジン及び自動変速機を搭載する車両を停止している状態を示している。停車中に一時的にエンジンを停止するアイドルストップが行われると、自動変速機も作動を停止する。この作動停止で自動変速機の温度が低下してゆき、自動変速機のオイルが例えば約80℃まで低下したとする。これに合わせて変速機ケース12の温度が低下するので、蓄熱材43の温度も低下し、蓄熱材43は再び液体から固体へとその全てが相変化し、鉛直上方に気体が存在する領域(気体ゾーン)を形成する。つまり、伝熱部材41は図4上段に示す(a)と同様の状態となる。停車中には変速機ケース12から熱が変速機ケース12の外部に逃げないようにする必要があるところ、伝熱部材41が断熱部材として機能する。これによって、変速機ケース12が蓄えている熱を変速機ケース12から外気に逃すことが防止され、自動変速機が保温される。
オイルパン17に設けている伝熱部材41の蓄熱材についても図示しないが、図4と同様に働くこととなる。
このように、熱交換器25の追加によってオイル高温状態での自動変速機の放熱性が低下することを考慮し、放熱と断熱とを切換可能な機能を有する伝熱部材41を配置することによって熱交換可能な変速機ケース12及びオイルパン17を構成する。熱交換可能な変速機ケース12及びオイルパン17とすることで、特にオイル高温状態での放熱性が良くなるようにしているわけである。これによって、熱交換器25を追加したからといって自動変速機の暖機からオイル高温状態までの自動変速機の冷却性能及び潤滑性能に不都合が出ることはないので、従来のオイルポンプ18及びオイルクーラ22をそのまま用いることができる。
ラジエータ3上流の冷却水通路4から分岐する冷却水通路31には、冷却水の温度によって開閉し得るサーモスタットバルブ45(流量調整手段)を介装する。
サーモスタットバルブ45としては、例えば周知のペレット式サーモスタットを流用すればよい。ここで、ペレット式サーモスタットを概説すると、流路に容器が流路方向に移動可能に設けられている。この容器の中に固形ワックスと弾性体である合成ゴムが収納され、容器の中央にピストンが組み込まれている。ピストンの一端は外部のフランジに固定されている。バルブは容器の外側にあり、バルブの未作動時には容器外周のスプリングで押し上げられて流路を閉じている。冷却水の温度が上昇するとワックスが膨張し、体積変化を起こす。このとき生じた圧力は合成ゴムを介してピストンに集中し、ピストンを押し上げる。ピストンはフランジに固定されているため、ピストンが押し上がると、相対的に容器が下がり、容器に固定されているバルブが開き流路が作られる。
図5はサーモスタットバルブ45をペレット式サーモスタットで構成したときの特性図で、横軸に冷却水の温度を、縦軸に上記ピストンのリフト量(バルブ開度)を採っている。図5に示したように、ペレット式サーモスタットでは、冷却水の温度が低いときにピストンのリフト量がゼロとなりバルブは全閉状態にある。所定の切換温度Tc未満の温度域で、冷却水の温度がTbの温度より上昇するほどピストンのリフト量が大きくなり、冷却水の温度が所定の切換温度Tcに到達したとき、ピストンのリフト量が最大MAX(冷却水の流量が最大)となる。冷却水の温度が所定の切換温度Tc以上の温度域ではピストンのリフト量が最大MAX(流量が最大)を維持する。一方、冷却水の温度が低下するときには、所定の切換温度Tc未満の温度域でリフト量が減少し、Taの温度でリフト量がゼロに戻る。リフト量の行きと返りが違っているのはヒステリシスである。
ここでは、サーモスタットバルブ45の例としてペレット式サーモスタットを挙げたが、これに限られない。例えば、所定の切換温度Tcでバルブが2値的に開閉する電磁バルブであってよい。
上記ピストンのリフト量が最大MAXとなるときの所定の切換温度Tcは、サーモスタットバルブ6の開弁温度のうちの最低値である60℃以上となるように設定する。
この理由は次の通りである。すなわち、上記サーモスタットバルブ6の開弁温度は60℃〜80℃である。つまり、サーモスタットバルブ6は冷却水通路を流れる冷却水が60℃付近で開き始め、80℃になると全開状態となる。このため、開弁温度のうちの最低値である60℃未満の温度域でサーモスタットバルブ45を開いて熱交換器25に冷却水を流し冷却水から熱を放出させたのでは、エンジン1の暖機完了までの時間が長引いてしまう。そこで、エンジンを暖機している間は冷却水が熱交換器25に流れることがないように、所定の切換温度Tcをサーモスタットバルブ6の開弁温度のうちの最低値である60℃以上となるように設定するのである。これによって、エンジン1の暖機完了前に水熱交換器25に冷却水を流すことよるエンジン1の暖機完了までの時間を長引かせてしまうことを回避できる。
次に、蓄熱材43はその融点未満の温度域で固体へと相変化し、その融点以上の温度域で液体へと相変化するのであるから、図4に示した自動変速機の各運転状態に応じて最適に相変化するように蓄熱材43の融点(所定温度)を定める必要がある。
まず、蓄熱材43の融点の下限をサーモスタットバルブ45の所定の切換温度Tc以上となるように設定する。
この理由は次の通りである。すなわち、オイル40の温度がサーモスタットバルブ45の切換温度Tcに到達して熱交換器25を流れる冷却水の流量が最大MAXとなるまでは、自動変速機を暖機するため、自動変速機に用いるオイル40の温度を上昇させたいという要求がある。この要求を満たすには伝熱部材41が断熱部材として働くこと、つまり蓄熱材43が固体であることが必要である。しかしながら、蓄熱材43の融点の下限をサーモスタットバルブ45の切換温度Tc未満に設定していると、自動変速機の暖機を促進したい温度域であっても蓄熱材43が液体へと相変化する。液体となった蓄熱材43が上記のように自動変速機の加振を受けて内部と外部との間を対流して熱を外気に逃す。自動変速機を早期に暖機しなければならないのに、液体の蓄熱材43の対流によって熱移動が活発に行われ変速機ケース12及びオイルパン17が蓄えている熱を外部に盛んに逃すこととなり、自動変速機の暖機完了までの時間を長引かせてしまう。そこで、自動変速機を暖機している間は蓄熱材43が液体となって熱が変速機ケース12及びオイルパン17から外気に放出されないように、蓄熱材43の融点の下限がサーモスタットバルブ45の所定の切換温度Tc以上となるように設定するのである。
次に、融点の上限をどのように設定すればよいかを考える。遊星歯車式変速機構14を構成するギア対が高速で回転するとき、ギヤ対の噛み合いによって発熱する。この発熱を抑制するため、オイル40を用いてギア対の噛み合い部の潤滑と冷却を行うわけであるが、自動変速機のフリクションが大きくなり過ぎないよう、自動変速機に許容温度を予め定めている。自動変速機の許容温度はサーモスタットバルブ45の切換温度Tcより高い温度域にある。自動変速機の許容温度は、例えば、図3に示したように、自動変速機のフリクションが最低となる温度を基準として所定の幅で設定されている。図3において、自動変速機の許容温度の下限をTlow1、上限をTup1とすると、オイル40の温度が自動変速機の許容温度上限Tup1を超えるときには、自動変速機のフリクションが却って増大し、エンジン1の燃費が悪くなり得る。この点を考慮して、蓄熱材43の融点の上限を自動変速機の許容温度上限Tup1以下となるように設定する。
この理由は次の通りである。すなわち、蓄熱材43の融点を自動変速機の許容温度上限Tup1を超える温度に設定していると、自動変速機のフリクションが却って大きくなる温度域であっても蓄熱材43は固体の状態にとどまるので、伝熱部材41が断熱部材として機能する。自動変速機のフリクションが却って大きくなる温度域では、自動変速機を冷やして許容温度に戻さなければならないのに、蓄熱材が固体の状態にとどまり、伝熱部材が断熱部材として機能したのでは自動変速機を断熱し自動変速機のフリクションを増大させてしまう。そこで、自動変速機のフリクションが却って大きくなる温度域では、蓄熱材43が液体となって熱が変速機ケース12から外気に盛んに放出し許容温度に戻るように、蓄熱材43の融点の上限が自動変速機の許容温度上限tup1以下となるように設定するのである。
蓄熱材43としてパラフィンワックスを挙げたが、これに限られるものでなく、有機系の蓄熱材であればかまわない。パラフィンワックスと別の例には市販のワックスがある。これらのワックスは多種類の物質の混合物であるため、混ぜる物質によって融点を調節することが可能である。したがって、上記融点の下限と上限の条件を満足する市販のワックスを選択するか、混ぜる物質を相違させて上記融点の下限と上限の条件を満足するワックスを新たに作製すればよい。そのほか、ナフタレン、ミリスチレン酸、ステアリン酸、ポリエチレングリコールなどを蓄熱材43として用いることができる。
実施形態では、変速機ケース12及びオイルパン17にそれぞれ複数の伝熱部材41を配置してあるが、複数配置することは必ずしも必要ない。変速機ケース12、オイルパン17にそれぞれ少なくとも1つ配置するものであってよい。すなわち、伝熱部材41の数や形状、伝熱部材41を変速機ケース12、オイルパン17に配置する位置は、任意である。例えば図1の下方では、伝熱部材41を変速機ケース12のうちオイルパン17より車両下方側の下面にのみ配置しているだけであるが、変速機ケース12の任意の位置に配置することができる。さらに説明すると、図1の下方では伝熱部材41の断面が長方形状であったが、楕円状の断面であってもかまわない。伝熱部材41の全体の形状としては、断面が六角の鉛筆状、両端が曲面で突出するカプセル状(図4参照)とする他、図6、図7に示した平板状とすることが考えられる。
ここで、図6は変速機ケース12の下面の一部を取り出した概略斜視図、図7は自動変速機オイルパン17の下面の一部を取り出した概略斜視図である。図6に示したように変速機ケース12の下面に配置する伝熱部材41を、平板状のものとしてよい。なお、図6では変速機ケース12の下面より突出(露出)した部分のみが記載されているので、上から3つの水平な割箸状の伝熱部材41がここでいう平板状の伝熱部材41のことである。この水平な割箸状の伝熱部材41の断面は長方形状であるが、楕円状であってもかまわない。図6ではさらに、変速機ケース12の下面に配置する複数の棒状の伝熱部材41を下から1番目に示している。
同様に、オイルパン17に配置する伝熱部材41についても、全体の形状としては、断面が六角の鉛筆状、両端が曲面で突出するカプセル状(図4参照)とする他、図7に示したように平板状のものであってよい。なお、図7ではオイルパン17の下面より突出(露出)した部分のみが記載されているので、上から1番目及び上から3番目の水平な割箸状の伝熱部材41が、ここでいう平板状の伝熱部材41のことである。この水平な割箸状の伝熱部材41の断面は長方形状であるが、楕円状であってもかまわない。図7ではさらに、オイルパン17に配置する複数の棒状の伝熱部材41を上から2番目及び上から4番目に示している。
このように、伝熱部材41の全体の形状として、断面が六角の鉛筆状、両端が曲面で突出するカプセル状、板状、棒状を挙げたが、伝熱部材41の形状は、筐体であればよい。筐体とは、通常、箱状のものをいうが、ここでは、箱状に限らず、上記の鉛筆状、カプセル状、板状、棒状を全て含んだ広い概念で使用している。内部に蓄熱材を封入し得るものであれば任意の形状であってよい。
なお、図1の下方と図6、図7とで伝熱部材41の数や位置は対応していない。すなわち、図6、図7では、図1の下方に示した伝熱部材41の数や配置に関係なく、変速機ケース12、オイルパン17に配置する伝熱部材41を示している。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
第1実施形態では、変速機ケース12(ケース)の内側に変速機ケース12に軸支されて動力を伝達する軸部材と、この軸部材に設けられるギア対とを含み、このギア対の潤滑と冷却をオイルによって行う自動変速機11(車両駆動装置)と、変速機ケース12の少なくとも一部に配置される伝熱部材41とを備え、伝熱部材41は、伝熱部材41自体の温度により伝熱特性が変化する。第1実施形態によれば、伝熱部材41自体の温度により熱を伝える量が変化するため、伝熱部材41自体の温度により自動変速機11からの放熱と、自動変速機11からの放熱を遮断する断熱とを自動変速機11の温度状態に応じて切換えることができる。これによって、自動変速機11のオイルの昇温を早期に行わせることと、過剰な昇温を回避することとを簡単な構成の伝熱部材41により両立させることができる。
第1実施形態によれば、変速機ケース12(ケース)は金属部材で構成され、変速機ケース12に埋め込むことにより伝熱部材41が配置されるので、簡易な構成とすることができる。
第1実施形態によれば、伝熱部材41の伝熱特性は、伝熱部材41自体の温度が高くなるほど熱を伝え易くなるよう変化するので、自動変速機11が相対的に高温のときには自動変速機11から放熱し、自動変速機11が相対的に低温のときには自動変速機11からの放熱を遮断することができる。
第1実施形態によれば、伝熱部材41は、中空金属部材42(筐体)と中空金属部材42の内部に封入される蓄熱材43(媒体)とで構成され、伝熱部材41自体の温度により中空金属部材42内での蓄熱材43の移動の容易さが変化することによって、伝熱部材41の伝熱特性が変化するので、自動変速機11が相対的に高温のときには蓄熱材43が移動し易くなって自動変速機11から外気に放熱し、自動変速機11が相対的に低温のときには蓄熱材43が移動しにくくなって自動変速機11から外気への放熱を遮断することができる。
第1実施形態によれば、蓄熱材43(媒体)は、蓄熱材43の融点(所定温度)以下のとき固体であり、蓄熱材43の融点を超えるとき液体となるので、自動変速機11のオイル温度が相対的に低い場合に、蓄熱材43が固体となって鉛直下方に溜まり鉛直上方に気体ゾーンが生じることから伝熱部材41が全体として断熱部材として機能する。つまり、自動変速機11のオイル温度が相対的に低い場合にこの伝熱部材41による断熱部材としての働きによって、自動変速機11の暖機を促進することができる。一方、エンジンを高回転速度で運転することによりDレンジにある自動変速機11のオイル温度が相対的に高い場合に、蓄熱材43が液体となり、かつ自動変速機11の振動を受けて中空金属部材42内での蓄熱材43の移動量が相対的に増大するから伝熱部材41が今度は放熱部材として機能する。つまり、自動変速機11のオイル温度が相対的に高い場合に自動変速機11からの放熱を活発に行わせて自動変速機11を冷却することができる。また、停車により自動変速機11のオイル温度が徐々に低下したときには、中空金属部材42内の蓄熱材43が固体に相変換することで上方に気体ゾーンが生じることから伝熱部材41が全体として断熱部材として機能する。つまり、停車により自動変速機11のオイル温度が徐々に低下したときにはこの伝熱部材41による断熱部材としての働きによって、自動変速機11のオイル温度の急激な低下が抑制される(オイルの保温効果を発揮する)。この保温効果によって停車が長引いた後のコールドスタート時の燃費が向上する。
第1実施形態によれば、車両駆動装置は自動変速機11(変速機)であるので、車両発進時に自動変速機11のオイル40の昇温を早期に行わせることと、エンジンの高回転速度時に自動変速機11のオイル40の過剰な昇温を回避することとを両立させることができる。
第1実施形態によれば、自動変速機11(変速機)の駆動源であるエンジン1に冷却水を循環させてエンジン1を冷却する冷却装置2を備え、冷却装置2は、冷却水の温度がサーモスタットバルブ6の開弁温度のうちの最低値である60℃(所定の切換温度)以上で冷却水からエンジン外部へ放熱される放熱量が増加するよう冷却水通路を切換えるように構成され、自動変速機11は、エンジン1の冷却水と自動変速機11のオイル40との間で熱交換する熱交換器25と、エンジン1の冷却水の温度に応じて熱交換器25を流れる冷却水の流量を調整すると共に、冷却水の温度が所定の切換温度Tc以上のとき熱交換器25を流れる冷却水の流量が最大MAXとなるサーモスタットバルブ45(流量調整手段)とを備え、蓄熱材43の融点(所定温度)は、所定の切換温度Tc以上であるので、車両発進直後のように自動変速機11のオイル温度が相対的に低い場合に、蓄熱材43は固体に相変換することで上方に気体ゾーンが生じることから伝熱部材41が全体として断熱部材として機能する。これによって、自動変速機の暖機を促進することができ、自動変速機の暖機完了までの時間を長引かせてしまうことを回避できる。
第1実施形態によれば、蓄熱材43の融点(所定温度)は、自動変速機11(変速機)の許容温度上限Tup1(許容温度)以下であるので、オイル40の温度が相対的に高い場合に、蓄熱材43は液体に相変換することで伝熱部材41が放熱部材として機能して活発に放熱する。これによって、オイル40の高温時に自動変速機のフリクションが却って増加してしまうことを回避することができる。
第1実施形態によれば、自動変速機11(変速機)は、変速機ケース12とオイルパン17とを含み、伝熱部材41は変速機ケース及びオイルパン17(ケース、オイルパンの少なくとも一方)に配置されるので、熱交換可能な変速機ケース及びオイルパン17が構成されることから、自動変速機11が相対的に高温のときに自動変速機11のオイル温度が高くなり過ぎず、かつ車両発進時の自動変速機の暖機促進や車両停止後の自動変速機の保温効果も向上する。
第1実施形態によれば、伝熱部材41の一部が、変速機ケース12(ケース)の外面から外部に突出(露出)しているので、自動変速機11からの放熱性能を向上することができる。
(第2実施形態)
図8は第2実施形態のエンジンの冷却装置2及び自動変速機11の冷却装置21の概略構成図で、第1実施形態の図1と置き換わるものである。図1と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態では、変速機ケース12及びオイルパン17に伝熱部材41を配置した。一方、第2実施形態は、オイルパン17にのみ伝熱部材41を配置するものである。
第2実施形態でも、オイルパン17及びオイルパン17に配置する伝熱部材41について、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
(第3実施形態)
図9は第3実施形態のエンジンの冷却装置2及びファイナルドライブ61の概略構成図、図10はエンジン1、自動変速機11及びファイナルドライブ61の概略構成図で、第1実施形態の図1、図2と置き換わるものである。図1、図2と同一部分には同一の符号を付している。図9の下方にファイナルドライブ61の側面断面図を示している。図9の下方でも、「FRONT」は車両前方である。
第1実施形態では、特に車両発進時にエンジンと車両駆動装置としての自動変速機11の全体で燃費がよくなるようにした。一方、第3実施形態は、特に車両発進時にエンジンと車両駆動装置としてのファイナルドライブ61の全体で燃費がよくなるようにするものである。
先にファイナルドライブ61を概説すると、図9の下方に示したように、ファイナルドライブ61も装置本体ケース62(ケース)に軸支されて動力を伝達する軸部材、軸部材に設けられる複数組のギア対などを有している。詳細には、ファイナルドライブ61は、装置本体ケース62、ピニオン軸63、リングギア67、差動歯車機構(図示しない)などから構成されている。ピニオン軸63の一端にはフランジ52を固定し、このフランジ52と、プロペラシャフト51の端部とを図示しないボルトで固定している。フランジ52とは反対側端にはピニオン64を設けている。ピニオン軸63は、装置本体ケース62に対し、軸方向の2個所の軸受部65、66を介して回転可能に支持されている。
装置本体ケース62は、上記ピニオン軸63を収容するとともに、ピニオン64に噛み合うリングギア67および、リングギア67がボルトにより取り付けられるデフケース(図示しない)を収容している。また、装置本体ケース62の底部に潤滑油70を収容している。以下、第3実施形態ではこの潤滑油を「オイル」という。
差動歯車機構のデフケースは、デフサイドギア、デフピニオン及びピニオンシャフトを収容支持して左右の駆動車軸(図示しない)に連結し、各駆動車軸の一端には左右の各車輪(図示しない)を接続している。
そして、装置本体ケース62の底部における、ピニオン64の車両後方側の近傍には、板状の仕切り部材75を設けている。この仕切り部材75は、装置本体ケース62内のオイル70が溜まる底部領域を、軸受部65、66の側とデフケースの側との二つの領域に分割するもので、上端部がピニオン64側に向けて屈曲する屈曲部75aを備えている。
エンジンの駆動によりプロペラシャフト51が回転し、この回転に伴ってピニオン軸63およびピニオン64が回転し、さらにピニオン64に噛み合っているリングギア67がデフケースとともに、車両前進時には矢印Rで示す方向に回転する。すなわち、左右の駆動車軸が連結されるデフサイドギアがデフケースに、デフサイドギアと噛み合う一対のデフピニオンがピニオンシャフトにそれぞれ回転可能に支持されている。一対のデフピニオンは駆動車軸の軸線と直交している。ピニオン軸63に与えられた駆動力は、ピニオン64及びリングギア67によって伝達方向が直角に変換され、リングギア67はピニオン64に対して所定の減速比で減速される。さらに、差動歯車機構を介して左右の駆動車軸に駆動力が伝達される。そして、通常は、デフサイドギア及びデフピニオンがデフケースと一体に回転することにより、左右の駆動車軸を同速度で回転させる。また、当該車両の旋回時には、デフピニオンが適宜回転して左右の駆動車軸を差動回転させることにより、左右の車輪の回転差を吸収して円滑な操縦性を確保する。
このような動力伝達過程において、リングギア67およびデフケースの上記した矢印R方向への回転により、装置本体ケース62内のオイル70が、矢印Aで示すように、デフケースのピニオン64と反対側を通って掻き上げられてリングギア67の頂上に達し、その後、矢印Bのようにピニオン軸63に向かって流れ、その軸受部65、66に供給されて潤滑的に厳しい軸受部65、66が潤滑される。すなわち、リングギア67の頂上から2つの軸受部65、66の間かつピニオン軸63の外周へと向かう空間を、オイル流路77として鉛直上方の装置本体ケース62の内部に設けている。リングギア67の頂上に達したオイルはオイル流路77を流れ、オイル流路77の末端である2つの軸受部65、66の間かつピニオン軸63の外周の円筒状空間78に流入する。この円筒状空間78に流れ込んだオイルは2つの各軸受部65、66に浸透して2つの各軸受部65、66を潤滑する。
各軸受部65、66を潤滑したオイルは装置本体ケース62の底部に流れ落ち、仕切り部材75よりピニオン64側の領域に、オイル溜まり76となって溜まる。これにより、仕切り部材75よりデフケース側の領域に溜まるオイルの量が、オイルの総量を仕切り部材75を設けないものと同等とした場合に、仕切り部材75よってオイル溜まり76に溜まる分だけ減少する。これによって、オイルを掻き上げる際に回転するリングギア67およびデフケースの回転抵抗を少なくすることができ、その結果、回転部分のフリクションが低減して温度上昇を抑え、自動車の走行性能の悪化を防止することができる。
また、オイル溜まり76に溜めたオイルは、ピニオン64の回転によって掻き上げられ、各部を潤滑する。
なお、破線Pで示す水平位置が、ファイナルドライブ61の静止時(エンジン停止時)でのオイルの油面位置である。この状態からリングギア67およびデフケースの回転によってオイルが鉛直上方へと掻き上げられると、デフケース側の領域に溜まるオイルの量が、掻き上げられた分減少する。その結果、デフケース側の領域のオイル面が、仕切り部材75の上端位置より下がる。しかしながら、仕切り部材75によって、ピニオン64側の領域にはオイル溜まり76が存在するので、掻き上げられてピニオン軸63側に供給されるオイルの量が少なくても、潤滑的に厳しいピニオン軸63の軸受部65、66の潤滑性能を所望に確保することができる。これでファイナルドライブ61の概説を終える。
図11はファイナルドライブ61に用いる3種類のオイルA、B、Cの粘度特性図である。横軸にオイル70の温度を、縦軸にオイル70の粘度を採っている。図11に示したように、3種類のオイルA、B、Cは、オイルの温度が高くなるほどオイルの粘度が低下する曲線特性である。この場合に、3種類のオイルの曲線特性を2つの直線l、mで近似し、2つの直線l、mが交わるときのオイル温度を特定温度Tspとする。このとき、特定温度Tst以下の温度域ではオイルは直線lの特性となる。直線lの特性では、オイルの温度が高くなるほどオイルの粘度が急激に低下する(つまりオイル温度に対するオイル粘度の感度が高い)。一方、特定温度Tstを超える温度域ではオイルは直線mの特性となる。直線mの特性では、オイルの温度が高くなってもオイルの粘度が急激には低下しない(つまりオイル温度に対するオイル粘度の感度が小さい)。このようにオイルの曲線特性を2つの直線l、mで近似することによって、2つの直線l、mが交わる場合に、「特定温度」とは、2つの直線l、mが交わるときのオイル温度のことである。言い換えると、「特定温度」とは、オイル温度に対するオイル粘度の感度が変化するときのオイル70の温度のことでもある。この特定温度Tspは、使用するオイルに依存し、使用するオイルの曲線特性が定まれば、図11に示したように2つの直線l、mを記載することによって求めることができる。
さて、冷間状態でエンジン1を始動し車両を発進させた直後にはファイナルドライブ61のオイル温度が特定温度Tstより低い状態にあり、オイル粘度はファイナルドライブ61の暖機完了後より高い状態にある(図11参照)。オイル70の粘度が高いと、ファイナルドライブ61を構成するギア対の摺動面のすべり摩擦抵抗が増加するため、ギア同士が回転しにくくなる。ここでは、ギア同士を回転しにくくする摩擦抵抗を含めて、ファイナルドライブ61を回りにくくする要素をまとめて「ファイナルドライブのフリクション」というとすれば、オイル70の温度が低いときに、ファイナルドライブのフリクションが大きくなる。ファイナルドライブ61も自動変速機11を介しエンジン1の動力で回転するので、ファイナルドライブのフリクションが大きいと、その分エンジン1の燃費が悪くなる。エンジン1及びファイナルドライブ61の全体でエンジン1の燃費を向上させるには、ファイナルドライブ61のオイル温度を車両の発進時に早期に上昇させる(つまりファイナルドライブ61の暖機を促進させる)ことである。
そこで第3実施形態では、ファイナルドライブ61の暖機促進のため、図9に示したように、オイル加熱装置81を設ける。オイル加熱装置81は、熱交換器82、オイル通路85、86、オイルポンプ87で構成する。
エンジン1の冷却水と熱交換可能な熱交換器82をラジエータ3と並列に設ける。熱交換器82の内部には2つの通路83、84が形成されているので、一方の通路83の一端(図9で右端)にラジエータ3上流の冷却水通路4から分岐する冷却水通路31を接続する。通路83の他端(図9で左端)には、冷却水通路32の一端を接続し、冷却水通路32の他端をラジエータ3下流の冷却水通路4に合流させる。
他方の通路84の一端(図9で左端)にオイル供給通路85の一端を接続する。オイル供給通路85の他端はファイナルドライブ61のオイル溜まり76に接続する。通路84の他端(図1で右端)にオイル戻り通路86の一端を接続する。オイル戻り通路86の他端はピニオン軸63の外周の円筒状空間78に接続する。熱交換器82では、一方の通路83を流れる冷却水と反対向きにオイル70が他方の通路84を流れるようにする。
熱交換器82との間でオイル70を循環させるため、オイル供給通路85にオイルポンプ87を備える。オイルポンプ87は、オイル溜まり76内のオイル70を吸引して吐出する。オイルポンプ87はモータ88により駆動するものとし、モータ88にはバッテリ89からの電力を供給する。オイルポンプ87の作動時にはファイナルドライブのオイル70がファイナルドライブ61と熱交換器82との間を循環する。これによって、熱交換器82では、一方の通路83を流れる高温側の冷却水と、他方の通路84を流れる低温側のオイル70との間で熱交換が行われ、冷却水から熱をもらってオイル70の温度が上昇することから、ファイナルドライブ61の暖機が促進される。ファイナルドライブ61の暖機が完了したタイミングでオイルポンプ87を停止する。ファイナルドライブ61の暖機が完了したか否かは、次のようにすればよい。すなわち、エンジンの始動開始(車両の発進)より予め定めてある所定時間が経過したときにファイナルドライブ61の暖機が完了したと判定する。もちろん、オイル70の温度を検出する温度センサを設けておき、このセンサからの信号に基づいてファイナルドライブ61の暖機が完了したか否かを判定させてもよい。
その一方、ファイナルドライブ61の早期暖機のためとはいえ、熱交換器82を設けたことによって、オイル高温時の冷却機能は、熱交換器82を設けていない場合より低下(不足)することとなる。
そこで第3実施形態では、オイル高温時の冷却機能を強化するため、装置本体ケース62の少なくとも一部に伝熱部材91を複数配置する。伝熱部材91の一端は装置本体ケース62の外面から装置本体ケース62の外部に突出(露出)させる。これは、特にオイル高温時に伝熱部材91を介しての装置本体ケース62からの放熱性能を高めるためである。なお、図9では各伝熱部材91の内部の状態は示していない。
ここで、伝熱部材91の伝熱特性は、第1実施形態の伝熱部材41と同様に、伝熱部材91自体の温度により伝熱部材91自体の温度が高くなるほど熱を伝え易くなるよう変化するものである。詳細には装置本体ケース62に配置する各伝熱部材91は、図12にも示したように中空金属部材92にパラフィンワックスなどの蓄熱材93(媒体)を封入することによって構成されている。このため、伝熱部材91自体の温度により中空金属部材92内での蓄熱材93の移動の容易さが変化することによって、伝熱部材91の伝熱特性が変化する。
具体的には、蓄熱材93は、蓄熱材93の融点である所定温度以下のとき固体であり、所定温度を超えるとき相変化して液体となる。つまり、蓄熱材93が固体の状態では、中空金属部材92内で移動しにくくなる(蓄熱材93の移動量が相対的に減る)。蓄熱材93の移動量が減ると熱移動量も減る。一方、蓄熱材93が液体の状態になると、中空金属部材92内で移動し易くなる(蓄熱材93の移動量が相対的に増加する)。蓄熱材93の移動量が増加するほど熱移動量が大きくなる。
なお、伝熱部材91の中空金属部材92の材質は、装置本体ケース62を構成する金属部材(例えばアルミ合金部材)より熱伝導性がよいもの(例えば錫)が好ましい。
ここで、装置本体ケース62に配置している伝熱部材91による放熱と断熱の切換の仕組みを図12を用いて説明する。
図12は、3つの異なる状態で伝熱部材41に収納されている蓄熱材43がどのように状態を変化させるのかを示している。図12では上下方向が鉛直方向であり、伝熱部材41の全体形状は水平方向に長いカプセル状であるとする。さらに、伝熱部材41の一端(図12で左端)が装置本体ケース62の外面62aから外気に突出しているものとする。
まず、図12上段に示す(a)は車両の発進直後でファイナルドライブを暖機している状態を示している。ファイナルドライブの暖機途中のオイルは例えば約80℃である。このとき、蓄熱材93の温度は蓄熱材93の融点(所定温度)より低いため、全て固体となって鉛直下方に存在し、鉛直上方には気体が存在する領域(気体ゾーン)が形成されている。このとき、固体の蓄熱材93を介して熱が移動する(熱伝導)ため、固体の蓄熱材93は伝熱部分として機能する。その一方で、気体ゾーンでは気体が自然対流することで熱を移動する(熱伝達)が、その熱移動量はわずかであるため、気体ゾーンは熱が伝わらない断熱部分として機能する。従って、固体の蓄熱材93を介しての熱の移動よりも気体ゾーンによる断熱のほうが優勢となるように蓄熱材93の種類や体積を定めてやれば、伝熱部材91全体としては、伝熱部材91が断熱部材として機能する。ファイナルドライブの暖機途中にはファイナルドライブから熱がファイナルドライブの外部に逃げないようにする必要があるところ、伝熱部材91が断熱部材として機能するので、ファイナルドライブの発生する熱を装置本体ケース62から外気に逃すことが防止されることとなる。
次に、図12中段に示す(b)はエンジンを高回転速度で運転することによりDレンジにある自動変速機11、プロペラシャフト51を介しファイナルドライブを高回転速度で運転している状態を示している。ファイナルドライブを高回転速度で運転した後に高温の熱が発生しているときにはファイナルドライブのオイルは例えば約110℃まで上昇する。このときの高温の熱は装置本体ケース62に蓄えられる。このとき、装置本体ケース62が蓄える熱を受けて蓄熱材93の温度が融点(所定温度)を超えて上昇するため蓄熱材93の全てが固体から液体へと相変化する。このとき、蓄熱材93は融解熱として周囲から熱を奪う。さらに、液体となった蓄熱材93を介してファイナルドライブの発生する熱が装置本体ケース62から外気へと逃される(放熱)。この場合、固体から液体に相変化するときの溶解熱は、液体から気体に相変化するときの気化熱よりも小さく、かつ液体の移動は気体ほど容易でない。従って、液体が内部(装置本体ケース62で囲まれた位置)から外部(外気に接する位置)まで移動しなければ、装置本体ケース62から外気への熱の移動量も限られたものとなる。しかしながら、都合の良いことにエンジン1は爆発圧力や慣性力に起因する加振源を有するので、クランクシャフトの回転に伴い周期的に振動する。このエンジンからの振動を受けて、あるいは車輪からの振動を受けてファイナルドライブが周期的に振動する。すなわち、ファイナルドライブの振動を受けて液体となった蓄熱材93が加振される。この加振によって、液体となった蓄熱材93が内部(装置本体ケース62で囲まれた位置)から外部(外気に接する位置)へ(図12では左方向に)あるいは外部から内部へ(図12では右方向)と容易に移動する。液体となった蓄熱材93の内部から外部への移動によって装置本体ケース62の熱が外気へと運ばれ、熱を放出した液体の蓄熱材93が今度は外部から内部へと戻されるのである。これは、液体の蓄熱材93の流れによって熱が移動するので、熱伝達である。熱伝達では、装置本体ケース62の温度と外気の温度との温度差に比例して熱が移動するため、液体の蓄熱材93の移動量が大きくなれば、その分、熱移動量が大きくなる。こうした液体の蓄熱材93の対流(移動)によって熱移動が活発に行われることから、伝熱部材91が放熱部材として機能し、装置本体ケース62から外気への放熱が促進されることとなる。
図12下段に示す(c)はエンジン、変速機及びファイナルドライブを搭載している車両が停止した状態にあることを示している。停車中に一時的にエンジンを停止するアイドルストップが行われると、自動変速機及びファイナルドライブも作動を停止する。この作動停止でファイナルドライブの温度が低下してゆき、ファイナルドライブのオイルが例えば約80℃まで低下したとする。これに合わせて装置本体ケース62の温度が低下するので、蓄熱材93の温度も低下し、蓄熱材93は再び液体から固体へとその全てが相変化し、鉛直上方に気体が存在する領域(気体ゾーン)を形成する。つまり、伝熱部材91は図12上段に示す(a)と同様の状態となる。停車中には装置本体ケース62から熱が装置本体ケース62の外部に逃げないようにする必要があるところ、伝熱部材91が断熱部材として機能する。これによって、装置本体ケース62が蓄えている熱を装置本体ケース62から外気に逃すことが防止され、ファイナルドライブが保温される。
このように、熱交換器82の追加によってオイル高温状態でのファイナルドライブの放熱性が低下することを考慮し、放熱と断熱とを切換可能な機能を有する伝熱部材91を配置することによって熱交換可能なファイナルドライブ61を構成する。熱交換可能なファイナルドライブ61とすることで、特にファイナルドライブのオイル高温状態での放熱性が良くなるようにしているわけである。これによって、熱交換器82を追加したからといってファイナルドライブの暖機からオイル高温状態までのファイナルドライブの冷却性能及び潤滑性能に不都合が出ることはない。
ラジエータ3上流の冷却水通路4から分岐する冷却水通路31には、冷却水の温度によって開閉し得るサーモスタットバルブ45(流量調整手段)を介装する。
サーモスタットバルブ45の構成は第1実施形態と同じでよい。すなわち、サーモスタットバルブ45としては、例えば周知のペレット式サーモスタットを流用すればよい。
図5に示したように、ペレット式サーモスタットでは、冷却水の温度が低いときにピストンのリフト量はゼロであるため、バルブは全閉状態にある。所定の切換温度Tc未満の温度域で、冷却水の温度がTbの温度より上昇するほどピストンのリフト量が大きくなり、冷却水の温度が所定の切換温度Tcに到達したとき、ピストンのリフト量が最大MAX(冷却水の流量が最大)となる。冷却水の温度が所定の切換温度Tc以上の温度域ではピストンのリフト量が最大MAX(流量が最大)を維持する。一方、冷却水の温度が低下するときには、所定の切換温度Tc未満の温度域でリフト量が減少し、Taの温度でリフト量がゼロに戻る。リフト量の行きと返りが違っているのはヒステリシスである。
ここでは、サーモスタットバルブ45の例としてペレット式サーモスタットを挙げたが、これに限られない。例えば、所定の切換温度Tcでバルブが2値的に開閉する電磁バルブであってよい。
上記ピストンのリフト量が最大MAXとなるときの所定の切換温度Tcは、第1実施形態と同じにサーモスタットバルブ6の開弁温度のうちの最低値である60℃以上となるように設定する。これによって、エンジン1の暖機完了前に熱交換器82に冷却水を流すことよるエンジン1の暖機完了までの時間を長引かせてしまうことを回避する。
次に、蓄熱材93はその融点未満の温度域で固体へと相変化し、その融点以上の温度域で液体へと相変化するのであるから、図12に示したファイナルドライブの各運転状態に応じて最適に相変化するように蓄熱材93の融点(所定温度)を定める必要がある。
これについては、第1実施形態の蓄熱材43の融点と同様でよい。すなわち、まず、蓄熱材43の融点の下限をサーモスタットバルブ45の所定の切換温度Tc以上となるように設定する。
この理由は次の通りである。すなわち、オイル70の温度がサーモスタットバルブ45の切換温度Tcに到達して熱交換器82を流れる冷却水の流量が最大となるまでは、ファイナルドライブを暖機するため、ファイナルドライブに用いるオイル70の温度を上昇させたいという要求がある。この要求を満たすには伝熱部材91が断熱部材として働くこと、つまり蓄熱材93が固体であることが必要である。しかしながら、蓄熱材93の融点の下限をサーモスタットバルブ45の切換温度Tc未満に設定していると、ファイナルドライブの暖機を促進したい温度域であっても蓄熱材93が液体へと相変化する。液体となった蓄熱材93が上記のようにファイナルドライブの加振を受けて内部と外部との間を対流して熱を外気に逃す。ファイナルドライブを早期に暖機しなければならないのに、液体の蓄熱材93の対流によって熱移動が活発に行われ装置本体ケース62が蓄えている熱を外部に盛んに逃すこととなり、ファイナルドライブの暖機完了までの時間を長引かせてしまう。そこで、ファイナルドライブを暖機している間は蓄熱材93が液体となって熱が装置本体ケース62から外気に放出されないように、蓄熱材93の融点の下限がサーモスタットバルブ45の所定の切換温度Tc以上となるように設定するのである。
蓄熱材43の融点の下限を設定する方法はこれに限られない。例えば、蓄熱材93の融点を特定温度Tsp以上となるように設定してもかまわない。
この理由は次の通りである。すなわち、オイル70の温度が特定温度Tspに到達するまでは、ファイナルドライブのフリクションが相対的に大きいのであるから(図11参照)、ファイナルドライブを暖機するため、ファイナルドライブのオイル70の温度を上昇させたいという要求がある。この要求を満たすには伝熱部材91が断熱部材として働くこと、つまり蓄熱材93が固体であることが必要である。しかしながら、蓄熱材93の融点の下限を特定温度Tsp未満に設定していると、ファイナルドライブの暖機を促進したい温度域であっても蓄熱材93が液体へと相変化する。液体となった蓄熱材93が上記のようにファイナルドライブの加振を受けて内部と外部との間を対流して熱を外気に逃す。ファイナルドライブを早期に暖機しなければならないのに、液体の蓄熱材93の対流によって熱移動が活発に行われ装置本体ケース62が蓄えている熱を外部に盛んに逃すこととなるわけである。これでは、ファイナルドライブのフリクションが相対的に大きいままでのエンジンの運転が続き、エンジンの燃費が悪くなってしまう。そこで、ファイナルドライブを暖機している間は蓄熱材93が液体となって熱が装置本体ケース62から外気に放出されないように、蓄熱材93の融点の下限が特定温度Tsp以上となるように設定するのである。
次に、融点の上限をどのように設定すればよいかを考える。ピニオン64とリングギア67などファイナルギア61を構成するギア対が高速で回転するとき、ギヤ対の噛み合いによって発熱する。この発熱を抑制するため、オイル70を用いてギア対の噛み合い部の潤滑と冷却を行うわけであるが、ファイナルギアのフリクションが大きくなり過ぎないよう、ファイナルギアに許容温度を予め定めている。ファイナルドライブの許容温度もサーモスタットバルブ45の切換温度Tcより高い温度域にある。自動変速機の許容温度は、例えば図13に示したように、ファイナルドライブのフリクションが最低となる温度を基準として所定の幅で設定されている。図13において、ファイナルドライブの許容温度の下限をTlow2、上限をTup2とすると、オイル70の温度がファイナルドライブの許容温度上限Tup2を超えるときには、ファイナルドライブのフリクションが却って増大し、エンジン1の燃費が悪くなり得る。この点を考慮して、蓄熱材93の融点の上限をファイナルドライブの許容温度上限tup2以下となるように設定する。
この理由は次の通りである。すなわち、蓄熱材93の融点をファイナルドライブの許容温度上限tup2を超える温度に設定していると、ファイナルドライブのフリクションが却って大きくなる温度域であっても蓄熱材93は固体の状態にとどまるので、伝熱部材91が断熱部材として機能する。ファイナルドライブのフリクションが却って大きくなる温度域では、ファイナルドライブを冷やして許容温度に戻す必要があるのに、蓄熱材が固体の状態にとどまり、伝熱部材が断熱部材として機能したのではファイナルドライブのフリクションを増大させてしまう。そこで、当該フリクションが却って大きくなる温度域では、蓄熱材が液体となって熱が装置本体ケースから外気に盛んに放出し許容温度に戻るように、蓄熱材の融点の上限がファイナルドライブの許容温度上限Tup2以下となるように設定するのである。
蓄熱材93としてパラフィンワックスを挙げたが、これに限られるものでなく、有機系の蓄熱材であればかまわない。パラフィンワックスや市販のワックスは多種類の物質の混合物であるため、混ぜる物質によって融点を調節することが可能である。したがって、上記融点の(下限と上限の)条件を満足する市販のワックスを選択するか、混ぜる物質を相違させて上記融点の(下限と上限の)条件を満足するワックスを新たに作製すればよい。そのほか、ナフタレン、ミリスチレン酸、ステアリン酸、ポリエチレングリコールなどを蓄熱材93として用いることができる。
第3実施形態では、装置本体ケース62に複数の伝熱部材91を配置してあるが、複数配置することは必ずしも必要ない。装置本体ケース62に少なくとも1つ配置するものであってよい。すなわち、伝熱部材91の数や形状、伝熱部材91を装置本体ケース62に配置する位置は、任意である。
例えば、図14、図15は第3実施形態のファイナルドライブ61の装置本体ケース62をピニオン軸63に直交する面で切断したときの各概略断面図である。このうち、図14は第3実施形態の一態様を、図15は第3実施形態の他の態様を表している。なお、図14、図15はあくまで簡易なモデルを示すものであり、装置本体ケース62の断面形状や壁の厚さは実際と対応するものでない。図14に示したように、伝熱部材91を装置本体ケース62のうち下面62bにのみ配置してもよいし、図15に示したように、これに加えて側面62cにも配置してよい。さらに説明すると、図9の下方、図14、図15では伝熱部材91の断面が長方形状であったが、楕円状の断面であってもかまわない。伝熱部材91の全体の形状としては、断面が六角の鉛筆状、両端が曲面で突出するカプセル状(図12参照)とする他、図16、図17に示した平板状とすることが考えられる。
ここで、図16は装置本体ケース62の下面62bの一部を取り出した概略斜視図、図17は装置本体ケース62の側面62cの一部を取り出した概略斜視図である。図16に示したように装置本体ケース62の下面62bに配置する伝熱部材91を、平板状のものとしてよい。なお、図16では装置本体ケース62の下面62bより突出(露出)した部分のみが記載されているので、上から3つの水平な割箸状の伝熱部材91がここでいう平板状の伝熱部材91のことである。この水平な割箸状の伝熱部材91の断面は長方形状であるが、楕円状であってもかまわない。図16ではさらに、装置本体ケース62の下面62bに配置する複数の棒状の伝熱部材91を上から3番目に示している。
同様に、装置本体ケース62の側面62cに配置する伝熱部材91についても、全体の形状としては、断面が六角の鉛筆状、両端が曲面で突出するカプセル状(図12参照)とする他、図17に示したように平板状のものであってよい。なお、図17では装置本体ケース62の下面62cより突出(露出)した部分のみが記載されているので、上から1番目及び上から3番目の水平な割箸状の伝熱部材91が、ここでいう平板状の伝熱部材91のことである。この水平な割箸状の伝熱部材91の断面は長方形状であるが、楕円状であってもかまわない。図17ではさらに、装置本体ケース62の側面62cに配置する複数の棒状の伝熱部材91を上から2番目及び上から4番目に示している。
このように、伝熱部材91の全体の形状として、断面が六角の鉛筆状、両端が曲面で突出するカプセル状、板状、棒状を挙げたが、伝熱部材91の形状は、筐体であればよい。筐体とは、通常、箱状のものをいうが、ここでは、箱状に限らず、上記の鉛筆状、カプセル状、板状、棒状を全て含んだ広い概念で使用している。内部に蓄熱材を封入し得るものであれば任意の形状であってよい。
なお、図14と図16とで、図15と図17とで伝熱部材91の数や位置は対応していない。すなわち、図16、図17では、図14、図15に示した伝熱部材91の数や配置に関係なく、装置本体ケース62の下面62b、側面62cに配置する伝熱部材91を示している。
第3実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。すなわち、第3実施形態では、装置本体ケース62(ケース)の内側に装置本体ケース62に軸支されて動力を伝達する軸部材と、この軸部材に設けられるギア対とを含み、このギア対の潤滑と冷却をオイルによって行うファイナルドライブ61(車両駆動装置)と、装置本体ケース62の少なくとも一部に配置される伝熱部材91とを備え、伝熱部材91は、伝熱部材91自体の温度により伝熱特性が変化する。第3実施形態によれば、伝熱部材91自体の温度により熱を伝える量が変化するため、伝熱部材91自体の温度によりファイナルドライブ61からの放熱と、ファイナルドライブ61からの放熱を遮断する断熱とをファイナルドライブ61の温度状態に応じて切換えることができる。これによって、ファイナルドライブ61のオイルの昇温を早期に行わせることと、過剰な昇温を回避することとを簡単な構成の伝熱部材91により両立させることができる。
第3実施形態によれば、装置本体ケース62(ケース)は金属部材で構成され、装置本体ケース62に埋め込むことにより伝熱部材91が配置されるので、簡易な構成とすることができる。
第3実施形態によれば、伝熱部材91の伝熱特性は、伝熱部材91自体の温度が高くなるほど熱を伝え易くなるよう変化するので、ファイナルドライブ61が相対的に高温のときにはファイナルドライブ61から放熱し、ファイナルドライブ61が相対的に低温のときにはファイナルドライブ61からの放熱を遮断することができる。
第3実施形態によれば、伝熱部材91は、中空金属部材92(筐体)と中空金属部材92の内部に封入される蓄熱材93(媒体)とで構成され、伝熱部材91自体の温度により中空金属部材92内での蓄熱材93の移動の容易さが変化することによって、伝熱部材91の伝熱特性が変化するので、ファイナルドライブ61が相対的に高温のときには蓄熱材93が移動し易くなってファイナルドライブ61から外気に放熱し、ファイナルドライブ61が相対的に低温のときには蓄熱材93が移動しにくくなってファイナルドライブ61から外気への放熱を遮断することができる。
第3実施形態によれば、蓄熱材93(媒体)は、蓄熱材93の融点(所定温度)以下のとき固体であり、蓄熱材93の融点を超えるとき液体となるので、ファイナルドライブ61のオイル温度が相対的に低い場合に、蓄熱材93が固体となって鉛直下方に溜まり鉛直上方に気体ゾーンが生じることから伝熱部材91が全体として断熱部材として機能する。つまり、ファイナルドライブ61のオイル温度が相対的に低い場合にこの伝熱部材91による断熱部材としての働きによって、ファイナルドライブ61の暖機を促進することができる。一方、エンジンを高回転速度で運転することによりエンジンと連れ回るファイナルドライブ61のオイル温度が相対的に高い場合に、蓄熱材93が液体となり、かつファイナルドライブ61の振動を受けて中空金属部材92内での蓄熱材93の移動量が相対的に増大するから伝熱部材91が今度は放熱部材として機能する。つまり、ファイナルドライブ61のオイル温度が相対的に高い場合にファイナルドライブ61からの放熱を活発に行わせてファイナルドライブ61を冷却することができる。また、停車によりファイナルドライブ61のオイル温度が徐々に低下したときには、中空金属部材92内の蓄熱材93が固体に相変換することで上方に気体ゾーンが生じることから伝熱部材91が全体として断熱部材として機能する。つまり、停車によりファイナルドライブ61のオイル温度が徐々に低下したときにはこの伝熱部材91による断熱部材としての働きによって、ファイナルドライブ61のオイル温度の急激な低下が抑制される(オイルの保温効果を発揮する)。この保温効果によって停車が長引いた後のコールドスタート時の燃費が向上する。
第3実施形態によれば、車両駆動装置は、ファイナルドライブ61であるので、車両発進時にファイナルドライブ61のオイル70の昇温を早期に行わせることと、エンジンの高回転速度時にファイナルドライブ61のオイル70の過剰な昇温を回避することとを両立させることができる。
第3実施形態によれば、自動変速機11(変速機)の駆動源であるエンジン1に冷却水を循環させてエンジンを冷却する冷却装置2を備え、冷却装置2は、冷却水の温度がサーモスタットバルブ6の開弁温度のうちの最低値である60℃(所定の切換温度)以上で冷却水からエンジン外部へ放熱される放熱量が増加するよう冷却水通路を切換えるように構成され、ファイナルドライブ61は、エンジン1の冷却水とファイナルドライブ61のオイル70との間で熱交換する熱交換器82と、エンジン1の冷却水の温度に応じて熱交換器82を流れる冷却水の流量を調整すると共に、冷却水の温度が所定の切換温度Tc以上のとき熱交換器82を流れる冷却水の流量が最大となるサーモスタットバルブ45(流量調整手段)とを備え、蓄熱材93の融点(所定温度)は、所定の切換温度Tc以上であるので、車両発進直後のようにファイナルドライブ61のオイル温度が相対的に低い場合に、蓄熱材93は固体に相変換することで上方に気体ゾーンが生じることから伝熱部材91が全体として断熱部材として機能する。これによって、ファイナルドライブの暖機を促進することができ、ファイナルドライブの暖機完了までの時間を長引かせてしまうことを回避できる。
第3実施形態によれば、ファイナルドライブ61のオイル70は、温度が高くなるほど粘度が低下する曲線特性であり、この曲線特性を2つの直線l、mで近似することによって2つの直線l、mが特定温度Tspで交わるとき、蓄熱材93の融点(所定温度)は、特定温度Tsp以上であるので、車両発進直後のようにファイナルドライブ61のフリクションが相対的に大きい場合に、蓄熱材93は固体に相変換することで上方に気体ゾーンが生じることから伝熱部材91が全体として断熱部材として機能する。これによって、ファイナルドライブの暖機を促進することができ、ファイナルドライブのフリクションが相対的に大きいままでのエンジンの運転が続き、エンジンの燃費が悪くなることを回避できる。
第3実施形態によれば、蓄熱材93の融点(所定温度)は、ファイナルドライブ61の許容温度上限Tup2(許容温度)以下であるので、オイル70の温度が相対的に高い場合に、蓄熱材93は液体に相変換することで伝熱部材91が放熱部材として機能して活発に放熱する。これによって、オイル70の高温時にファイナルドライブのフリクションが却って増加してしまうことを回避することができる。
第3実施形態によれば、伝熱部材91の一部が、装置本体ケース62(ケース)の外面から外部に突出(露出)しているので、ファイナルドライブ61からの放熱性能を向上することができる。