JP6130147B2 - 構造体及び構造体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、構造体、これを備える印刷用孔版、光学マーク部材及び構造体の製造方法に関する。
従来より、金属板(金属箔)にレーザ光を照射して所望の形状,位置に穴を開け、この穴を印刷パターンの貫通口として使用する印刷用孔版(「レーザ加工メタルマスク」等と称される。)が知られている。こうした印刷用孔版を製造する際には、高温・高エネルギーのレーザ光の照射によって貫通口の周辺に多くの金属溶融物(ドロス)が発生・飛散するため、化学エッチィングや電解研磨、サンドブラスト等の処理を施してドロスを除去している。例えば、特許文献1には、レーザ光を照射して貫通口を形成後、弾性変形可能な弾性研磨材を噴射してドロスを除去する手法が開示されている。
特開2009−34962号公報
しかしながら、こうした弾性研磨材を用いてドロスを除去する手法では、弾性研磨材のコストが高く、さらに、弾性研磨材を噴射する際の研磨材の入射角、噴射圧力、噴射速度等を詳細に調整する必要があるから、装置の機構が複雑になってしまう。また、こうしたブラスト処理を薄い金属板の一方の面のみに行うと、金属板に反りが発生してしまうことがある。
また、化学エッチィングや電解研磨によってドロスを除去する場合には、金属板の厚さが薄いと(例えば、20〜30μm程度)、エッチィング液の中で金属板も溶解してしまい、厚みにバラツキが生じたり、クラックが大量に発生して金属板が脆弱化してしまうことがある。特に金属板を印刷用孔版として使用する場合には、その厚みはインクやペーストの透過量を決めることになるから、厚みにバラツキが生じると印刷用孔版としての品質に影響を及ぼしてしまう。さらに、化学エッチィングや電解研磨では薬液を使用するため、廃液処理がコスト高や環境汚染の要因にもなり得る。
本発明は、金属からなる基材にレーザ光を照射してレーザ加工処理を施す際のドロスの基材への付着を抑制することを目的の一つとする。本発明の他の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
本発明の一実施形態に係る構造体は、金属からなる基材と、前記基材の少なくとも一部に形成されたセラミックス膜と、を備え、前記セラミックス膜が形成された部分にレーザを照射することにより前記基材に所定のレーザ加工処理が施されてなる。
本発明の一実施形態に係る印刷用孔版は、上述した一実施形態に係る構造体を備え、前記所定のレーザ加工処理は印刷パターンとしての貫通口の形成処理である。
本発明の一実施形態に係る光学マーク部材は、上述した一実施形態に係る構造体を備え、前記所定のレーザ加工処理は光学マーク認識用の光学マークとしての貫通口又は凹部の形成処理である。ここで、光学マーク認識用の光学マークには、バーコードやQRコード(登録商標)等が含まれる。
本発明の一実施形態に係る構造体の製造方法は、金属からなる基材を準備する工程と、前記基材の少なくとも一部にセラミックス膜を形成する工程と、前記セラミックス膜が形成された部分にレーザを照射することにより前記基材に所定のレーザ加工処理を施す工程と、を備える。
本発明の様々な実施形態によって、金属からなる基材にレーザ光を照射してレーザ加工処理を施す際のドロスの基材への付着を抑制することができる。
本発明の一実施形態に係る構造体の断面を模式的に表す模式図。 実施例1及び実施例2のドロスの発生状況を示す写真。 実施例3のドロスの発生状況を示す写真。 比較例のドロスの発生状況を示す写真。 実施例1の開口部を拡大した写真。 実施例3の開口部を拡大した写真。 比較例の開口部を拡大した写真。
本発明の様々な実施形態について添付図面を参照して説明する。これらの図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の参照符号を付し、その同一又は類似の構成要素についての詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る構造体10の断面を模式的に表す模式図である。一実施形態における構造体10は、図示するように、金属からなる基材12と、この基材12の一方の面に形成されたセラミックス膜14とを備え、セラミックス膜14が形成された面に対してレーザを照射することにより、基材12に印刷パターンとしての図示しない貫通口が形成されている。なお、図1は、本発明の一実施形態における構造体10の構成を模式的に表すものであり、その寸法は必ずしも正確に図示されていない点に留意されたい。
一実施形態における基材12は、鉄鋼、各種のステンレス鋼(例えばSUS304,SUS316など)、ニッケル、ニッケル合金、真鍮、青銅、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属や合金、さらには複数の同一素材、あるいは複数の異なる素材を貼り合わせた構造からなる。また、基材12は電鋳により形成されたものでもよく、また樹脂製の片面銅張板等の他素材と張り合わせたものでも構わない。さらに、一実施形態における基材12の形状は、板状、箔状、巻物状、金網状、多孔質状、その他立体形状など、用途、用法に応じた様々な形状とすることが可能である。
基材12の厚みは、この基材12上に形成するセラミックス膜14の形成方法や印刷パターン(貫通口)を形成する際のレーザ加工の種類・方法、構造体10の用途に応じて、適宜選択することができる。例えば、基材12がステンレス鋼板(SUS304)であって印刷パターン(貫通口)をYAGレーザで形成する印刷用孔版である場合、基材12の厚みは1mm未満とするのが好ましく、0.5mm未満とするのが更に好ましい。また、基材12が同様にステンレス鋼板(SUS304)であって印刷パターン(貫通口)をCOレーザで形成する印刷用孔版である場合、基材12の厚みは1mm以上であっても差し支えない。一方、セラミックス膜14をロール・ツー・ロール方式の成膜装置を用いて形成する場合には、各種ロール(巻き出しロール、搬送ロール、及び、巻き取りロール)におけるつづら折り等を考慮すると、基材12の厚みは、0.1mm未満とするのが好ましい。
一実施形態におけるセラミックス膜14は、図1に示すように、基材12の一方の面に形成される。なお、セラミックス膜14を基材12の両方の面に形成しても構わない。一実施形態におけるセラミックス膜14は、例えば、非晶質炭素膜である。非晶質炭素膜は、公知の様々な方法で形成され得る。例えば、直流プラズマCVD法、高周波プラズマCVD法、大気圧プラズマ・準大気圧プラズマCVD法、ECRプラズマ法、スパッタリング法などのプラズマPVD法、又はこれらの組み合わせ等の様々な公知のドライプロセスを例示することができるがこれらに限定されない。他の実施形態におけるセラミックス膜14としては、SiO、TiO,TiN、TiC、AlN、Al2O(酸化アルミニウム)、TiAlN、TiCN又はSiC等の各種公知の硬質セラミックス皮膜を挙げることができる。こうした各種セラミクス皮膜は、公知の乾式プロセスであるプラズマプロセスや、湿式プロセスであるゾル−ゲル法などを用いて簡便に形成することができる。
一実施形態において、構造体10を印刷用孔版として用いる場合には、電界を利用して形成されるセラミックス膜14は、ロール・ツー・ロール方式の成膜装置を用いて形成するのが好ましい。即ち、印刷用孔版では、基材12の厚みがインクやペーストの透過量を制御することになるから、基材12の厚みは全体的に均一であることが求められる。しかし、基材に電圧を印加して電界により成膜するバッチ処理方式のプラズマ成膜装置を用いて基材12にセラミックス膜14を形成すると、基材12の周辺部等に電界が集中し、電界が集中する周辺部等に形成されるセラミックス膜14の厚みが中央部に比べて厚くなってしまう傾向があり、特に基材12の面積が大きい場合には顕著となる。一方、セラミックス膜14を、ロール・ツー・ロール方式の成膜装置を用いて形成すると、基材12が連続的に処理されるため、セラミックス膜14の均一な厚みでの形成を、比較的容易に行うことができる。この場合、ロール状の基材12(金属フィルム)にセラミックス膜14を連続的に形成した後、必要な部分を切り出して使用すればよく、生産性にも優れる。
一実施形態におけるセラミックス膜14は、例えば、炭素(C)、水素(H)、及びケイ素(Si)を主成分とする非晶質炭素膜(a−C:H:Si膜)とすることができる。この場合、Siの含有量は、例えば、0.1〜50原子%であり、好ましくは、10〜40原子%である。こうした非晶質炭素膜をプラズマCVD法を用いて形成する場合には、原料となる反応ガスとしては、例えば、テトラメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、及びテトラメチルシクロテトラシロキサン等を用いることができる。
一実施形態におけるセラミックス膜14は、例えば、炭素(C)、水素(H)、及びチタン(Ti)を主成分とする非晶質炭素膜(a−C:H:Ti膜)とすることもできる。こうした非晶質炭素膜をプラズマCVD法を用いて形成する場合には、原料となる反応ガスとしては、例えば、チタンクロライド(TiCl)、チタンアイオダイド(TiI)、チタンイソプロポキシド(Ti(OC)等のTiを含むガスと、アセチレン、エチレン、メタンなどの炭化水素系のガスを混合したガスを用いることができる。
こうした非晶質炭素膜は、後述するフッ素含有シランカップリング剤を定着性良く保持できるように、SiやTiに加えて、又は、SiやTiに代えて、様々な元素を含有させることができる。例えば、非晶質炭素膜は、C、H、及びSiにさらに酸素原子(O)を含有させて形成することができる。例えば一実施形態において、非晶質炭素膜中のOの含有量は、Siを含む主原料ガスと酸素との総流量に占める酸素の流量割合を調整することによって変更される。主原料ガスと酸素との総流量に占める酸素の流量割合は、例えば0.01〜12%、好ましくは0.5〜10%となるように調整される。また、一実施形態における非晶質炭素膜は、C、H、Si、及びOにさらに窒素(N)を含有させて形成することができる。また、一実施形態における非晶質炭素膜は、C、H、及びSiに窒素(N)を含有させて形成することができる。例えば一実施形態において、Nは、a−C:H:Si膜又はa−C:H:Si:O膜に窒素プラズマを照射することにより、膜中に含有させることができる。また、例えば、非晶質炭素膜は、C、H、及びTiにさらに酸素原子(O)を含有させて形成することができる。この場合、C、H、及びTiからなる非晶質炭素膜を予め形成した後、酸素プラズマを照射する方法、又は、非晶質炭素膜を形成するプロセスにおいて酸素を混合しながら非晶質炭素膜を形成する方法等を採用することができる。また、一実施形態における非晶質炭素膜は、C、H、Ti、及びOにさらに窒素(N)を含有させて形成することができる。また、一実施形態における非晶質炭素膜は、C、H、及びTiに窒素(N)を含有させて形成することができる。Nは、a−C:H:Ti膜又はa−C:H:Ti:O膜に窒素プラズマを照射することにより、膜中に含有させることができる。
また、予め形成したSiやTiを含有しない非晶質炭素膜に、酸素プラズマ及び窒素プラズマの一方又は両方をプラズマ照射することによって、a−C:H:O膜、a−C:H:N膜、又はa−C:H:O:N膜を形成することができる。このプラズマ照射は、非晶質炭素膜の成膜装置と同じ成膜装置内において、真空をブレイクすることなく、非晶質炭素膜の成膜と連続的に又は一括して行うことができる。さらに例えば、固形のSiターゲットやTiターゲットなどを用いる物理蒸着法(PVD法)を採用する場合、真空雰囲気にて所定のガス圧・流量のスパッタリングガス(例えば、アルゴンガス等の不活性ガス)が導入された成膜装置に基材12を設置し、SiターゲットやTiターゲットと炭素ターゲットとを同時にスパッタリングすることで、水素フリーのSi及び/又はTiを含む非晶質炭素膜を形成することができる。さらにSiターゲットやTiターゲットをスパッタリングするガスに、アセチレンなどの炭化水素系のガス、酸素(O)、窒素(N)又はそれらの混合ガスを混合することで、反応性スパッタリング法により、ケイ素、チタン、炭素と水素、さらには酸素又は窒素との生成物からなる非晶質炭素膜を形成することもできる。
一実施形態におけるセラミックス膜14としての非晶質炭素膜に酸素又は窒素を含有させた場合、非晶質炭素膜の水に対する濡れ性(例えば、水性インクに対する濡れ性)を向上させることができる。この結果、例えば、非晶質炭素膜を印刷用孔版のスキージ側の面に形成することで、スキージング時のインクの濡れ広がりを助長し、インクの濡れ性不足に起因する印刷物におけるボイド(気泡)の発生、インク中へのボイドの巻き込みによる印刷物のカスレ、ピンフォールの発生等を抑制することができる。
一実施形態において、Si及びTiの少なくとも一方を含む非晶質炭素膜をプライマー薄膜として形成した後に、例えば非晶質炭素膜からなる層を更に形成し、この層を酸素ガスを用いてエッチィング除去して、露出したプライマー薄膜に酸素プラズマによる酸素の照射を行うことも可能である。また、必要に応じて、上述した主原料ガスに、アルゴン、水素、窒素などのキャリアガスを混合することも可能である。基材12が熱による変形、損傷を受けやすい部材である場合(例えば、クッション層として樹脂からなる層が塗布された金属板等)には、ドライプロセスにおいて冷却装置を使用したり、成膜時間を非常に短くしたりすることで、基材12が高温になることを防止することもできる。
基材12上に形成されたセラミックス膜14が、Si、特にSiと酸素又はSiと窒素を含む非晶質炭素膜である場合には、樹脂材料より成る接着剤との親和性が高いため、基材12が印刷用孔版として製版される際、枠体やコンビネーション用に予め枠体に貼られたスクリーンメッシュ等へ接着剤を用いて確実に固定することができる。
さらに、金属からなる基材12を用いた印刷用孔版(レーザ加工メタルマスク等)においては、印刷パターン開口部における基材密着性(柔軟性)に乏しく、基材に対する相手材攻撃性が、乳剤によって形成されるスクリーン版よりも高いため、基材12を用いた印刷用孔版の印刷基板面側に、柔軟性を有し相手材攻撃性の穏やかな感光性の樹脂層を予め塗布し、印刷パターン開口部を感光マスクとして使用して樹脂層に露光現像を行うことによって、印刷用孔版の印刷パターン開口部と同様のパターンを形成して使用することも考えられる。この場合、基材12に形成されたSi、特にSiと酸素、Siと窒素を含む非晶質炭素膜は、感光性の樹脂層を形成する際にその濡れ性を助長してボイドやピンフォールの発生を抑制すると共に、形成された樹脂層との高い親和性により、樹脂層を印刷用孔版(基材12)に対してより強固に固定することが可能となる。さらに、非晶質炭素膜のUV散乱防止性により、樹脂層のUV露光を行う場合により精度よく印刷パターンを形成することが可能となる。また、一実施形態におけるSiを含む非晶質炭素膜は、一般に、脱水縮合反応によって化学結合で固定されるフッ素を含むカップリング剤との接着性が高いため、基材12が製版された後の孔版表面にフッ素を含むカップリング剤をより確実に保持することが可能となる。
一実施形態における構造体10に形成される印刷パターンは、セラミックス膜14の形成された基材12にレーザ光を照射することにより形成される。照射されるレーザ光としては、金属からなる基材12及びセラミックス膜14を溶融、消失させることができるものであれば種々のレーザ光を採用することができ、好ましくは、YAGレーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ等を挙げることができる。こうしたレーザの中でも、特に、YAGレーザを用いることが好ましい。このようなレーザの照射装置としては、住友重機械工業社製、LPKF社製等の製品が市販されており、これらの製品を用いた公知の方法で、レーザ光を用いた印刷パターンの形成を行うことが可能である。
一実施形態においては、構造体10に対するレーザ加工処理として、印刷パターンとしての貫通口を形成する処理を例示したが、本発明は、貫通口を形成する処理以外の他のレーザ加工処理に対しても適用することができる。例えば、基材12の表層にレーザマーキングにて仕様を印字する処理や、バーコードやQRコード等の刻印を形成する処理(この場合、基材12の裏面に貫通しない溝や窪み等(凹部)の加工を施すことになる場合がある)を挙げることができる。さらに、基材12に別の金属部品、金属板をレーザで溶接する処理を挙げることもできる。レーザで溶接する処理としては、例えば、印刷用レーザメタルマスクの開口部に凸型のキャップ状のザグリ部のように加工された金属部品を後付けする場合(COB(Chip On Board)メタルマスク)等が想定される。
通常、基材12にレーザ光を照射して印刷パターンを形成する場合、レーザ光を照射する側の面に比べてレーザ光が通り抜ける反対側の面の方が形成される貫通口の開口径が小さくなり、従って、形成される貫通口は、レーザ光の照射側から反対側の面に向かって先細のテーパ形状となる。このため、基材12を印刷用孔版として使用する場合、形成された貫通口(印刷パターン)に充填されるインクやペーストの透過性を確保するために、レーザ光を照射する側の面が印刷シート側の面(印刷基板面)となるように製版される。こうした貫通口の開口時にドロスが基材12の開口部の周辺に飛散し、コブ状、蒲鉾状に冷えて固着することになる。このドロスを放置したままで基材12を印刷に使用すると、印刷基板面側では基材12のドロス部分が印刷対象物(シート等)との密着を妨げ、インクのニジミ、基材12側へのインクの回り込みが発生してしまうことがある。また、基材12のスキージングされる側の面にドロスが存在すると、スキージングの妨げとなり、印刷位置精度の悪化や、基材12やスキージの劣化を引き起こす恐れが生じる。
一方、一実施形態における基材12は、その表面に予めセラミックス膜14が形成されているため、基材12へのレーザ照射により発生するドロスが貫通口の周辺部に固着することを抑制することができる。このようにドロスの固着を抑制することにより、電解研磨や化学エッチィング、サンドブラスト等の特別な処理でドロスを除去する工程が不要となり、この結果、ドロスを除去する工程における薬液や物理的衝撃による基材12の損傷を抑制することが可能となる。さらに、レーザ照射装置側にドロスの除去機能やドロスの抑制機能等の特別な機構を不要とすることができる。
さらに、セラミックス膜14を基材12の表層に形成することにより、例えば、セラミックス膜14を非晶質炭素膜とする場合には、非晶質炭素膜の耐磨耗性や摺動性、軟質金属凝着防止性(例えば、はんだ、Ag、Cu、Zn、Snなどの軟質金属を含有したインクやペーストは、電子部品等の印刷分野において多用される)等の機能を付与することができる。また、基材12の用途によっては、非晶質炭素膜のUV散乱防止性やガスバリア性、耐食性等の機能を付与することも有用である。セラミックス膜14を撥水撥油性の非晶質炭素膜、または、撥水撥油性の層を上層に形成した非晶質炭素膜とした場合には、インクやペーストのニジミ、基材12への回り込みも防止可能である。前述したように、一実施形態におけるセラミックス膜14としてのSiやTiを含む非晶質炭素膜は、一般に、脱水縮合反応により化学結合で固定されるフッ素を含むカップリング剤との接着性が高いため、基材12が製版された後の印刷用孔版の表面に、前述したフッ素を含有するカップリング剤を確実に保持することができる。こうしたフッ素を含有するカップリング剤は、レーザ光による印刷パターン形成前に塗布しておくことも可能であり、印刷パターン形成後に塗布することも可能である。
レーザ光によって切断、パターン形成された部分の基材12の厚み方向の断面には、一実施形態におけるセラミックス膜14や、レーザ加工前に予め塗布されたフッ素含有カップリング剤は残存しない。しかし、レーザ光によって切断、パターン形成された基材12の金属部分はレーザ光の高温にさらされ、大量の金属酸化物が表層に形成された状態となっており、セラミックス膜14がレーザ光照射によって消失した部分については、この消失した部分を埋めるように金属酸化物か生成される。さらに、従来行われているドロス(金属酸化物)除去工程(エッチィングやブラスト処理等)が排除され金属酸化物を残存させることができるため、レーザ光照射によって形成された基材12の金属酸化層の表層に生成される水酸基などの官能基にフッ素含有カップリング剤を固定させることが可能となり、切断、パターン形成された部分の断面においても、一定の撥水性又は撥水撥油性を維持し、印刷ペーストの透過性や印刷マスクの洗浄性などを維持することができる。
レーザ加工メタルマスクは、例えば、ハンダペーストのプリント配線板等への印刷等に多用される。ハンダペースト中の錫(Sn)は、他の金属(メタルマスクの基材本体)に対して非常に凝着付着を起こし易いが、水素と炭素からなる一般的な非晶質炭素膜は、こうしたハンダペースト中の錫(Sn)の付着防止被膜として、前述したSiや他の金属元素が添加された非晶質炭素膜、その他のセラミックス膜よりも有効に機能する。しかし、水素と炭素からなる一般的な非晶質炭素膜は、炭素終端部に水素が結合した極めて不活性な表面を有し、フッ素等の撥水撥油性改質材料を含むカップリング剤等との結合を起こしにくく、その表層を撥水撥油性に改質することが困難である。この結果、ハンダペースト中にさらに含まれるフラックス成分等のメタルマスクへの付着、印刷パターン開口部からのニジミ出し防止の機能を付与しにくい。一方、一実施形態における構造体10は、セラミックス膜14が水素と炭素からなる一般的な非晶質炭素膜の場合であっても、メタルマスクの印刷パターン開口部の内壁断面及び開口部周辺に、非晶質炭素膜の消失した部分を埋めるように金属酸化物を存在させることによって、この金属酸化物を残存させた部分にフッ素等の改質材料を含むカップリング剤等を有効に結合させることが可能となる。
さらに、一実施形態におけるセラミックス膜14を、メタルマスク等の基材12への中間密着層(密着用の下地層)として金属基材との密着性の良いSiを含む非晶質炭素膜を形成し、このSiを含む非晶質炭素膜の上層に水素と炭素からなる一般的な非晶質炭素膜を形成した複合層とすることもできる。この場合、基材12へのレーザ光照射によって形成される印刷パターン開口部のレーザ光入射側の周辺部は、開口部付近から外側に順に、酸化された金属部、次にSiを含む非晶質炭素膜層、さらに水素と炭素からなる非晶質炭素膜層が形成された構造とすることができる。この場合、金属酸化層よりも強力にフッ素カップリング剤を固定することが可能なSiを含む非晶質炭素膜層によって印刷パターン開口部周辺が覆われるため、ハンダフラックスなどの開口部からの滲み出しをより一層抑制することが可能となる。Siを含む非晶質炭素膜の開口部付近における消失範囲は非常に小さいことから、金属酸化物上に形成される場合と比べて、より強力に耐久性良く安定的に固定されるSiを含む非晶質炭素膜上に形成されるフッ素カップリング剤層で(Siを含む非晶質炭素膜層の残っている部分で)ハンダペーストのニジミ出しを2重に食い止めることは、印刷品質を維持する上で有効な手法と言うことができる。さらに、水素と炭素からなる一般的な非晶質炭素膜が形成された部分については、高いSnの凝着付着防止機能を付与することが可能となる。
セラミックス膜14、又はその上層に必要に応じて形成されるフッ素含有カップリング剤からなる撥水撥油層は、スプレー塗装膜などに比べてnmオーダーの薄膜で均一に形成することが可能であるため、印刷用孔版の厚み(インクやペーストの透過量)に影響を与えにくい。さらにセラミックス膜14は10〜1015Ω・cm程度の体積電気抵抗率を有し電気を通しにくいが、十分薄い膜厚で基材12上に形成されるため、印刷による摩擦で発生し印刷物に対して悪影響を与える静電気を膜の厚み方向に除電することが容易である。また、セラミックス膜14の熱伝導性は金属に比べて低いため、レーザ光を照射する部分から非照射部分への熱伝導を抑制し、基材12全体の熱歪みを抑制することもできる。
なお、一実施形態におけるセラミックス膜14が印刷用孔版のスキージ面に相当する面にも形成される場合においては、例えばセラミックス膜14が非晶質炭素膜であれば、印刷用孔版のスキージングに対する耐摩耗性とスキージの摺動性、軟質金属(インク成分)凝着付着防止性を向上させることができ、非晶質炭素膜以外の他のセラミクッス膜14においても、耐摩耗性などを向上させることが可能である。
以上説明した本発明の一実施形態に係る構造体10によれば、金属からなる基材12の一方の面にセラミックス膜14を形成し、セラミックス膜14が形成された面に対してレーザを照射することにより、基材12に印刷パターンとしての貫通口を形成する。この結果、基材12にレーザ光を照射してレーザ加工処理を施す際のドロスの基材12への付着を抑制することができる。
一実施形態においては構造体10を印刷用孔版(レーザ加工メタルマスク)として用いる例を中心に説明したが、レーザ加工処理を施した金属からなる基材を用いる様々な用途に適用することができる。他の用途の具体例としては、例えば、前述したレーザ加工メタルマスクと同様に、板状の基材12にセラミックス膜14を形成した後、レーザ光を照射して多数の整列された丸型の貫通穴を設け、この貫通穴の一方の面を負圧にすることで他方の面に(マイクロ)ハンダボールを吸着させ、LSIなどの半導体チップの所定の回路部分に軟質金属であるSnを含有する電気接続用のハンダボールを搭載するジグ(ボール吸着ジグ)として用いることも有効である。さらに、同様に、板状の基材12にセラミックス膜14を形成した後、レーザ光を照射して多数の整列された所定形状のキャビティーを形成し、このキャビティーと同形状であって軟質金属であるSn等のメッキ電極が形成されたコンデンサ等の微小部品を構造体10の表層を滑走させることによって、微小部品をキャビティーに振込む「振込みジグ」、「部品整列ジグ」として用いることも有効である。
また、一実施形態における基材12が立体形状の場合の用途の具体例としては、例えば、円筒状の基材12の曲面部表層にセラミックス膜14を形成した後、レーザ光を照射して表層に凹凸パターンを形成し、グラビア印刷版や凹版、凸版等として用いる例が挙げられる。この場合であっても、印刷に多用される軟質金属を含有するペーストやスラリー等が接触することになるから、印刷用孔版として用いた場合と同様の効果を奏することができる。
さらに、一実施形態における構造体10が、光学読み取り用に供されるバーコードやQRコード(登録商標)等のレーザマーキング等の施されたものである場合、セラミックス膜14によってマーキング部分の摩滅がより一層防止され、フッ素含有カップリング剤等がさらに付与される場合には、レーザマーキングの部分や基材12に対して防汚性や耐食性をさらに付与することが可能となり、マーキングの読み取りをより確実に行うことが可能となる。
以下に述べる方法により、本発明の一実施形態における構造体がドロスの発生自体を抑制する機能を確認した。
1.基材の準備
縦30cm、横30cm、厚さ80μmの四角形のステンレス鋼(SUS304)板(表面粗さRa:0.07μm)を基材として準備した。この基材の片面にテトラメチルシランガスを原料ガスとして公知のプラズマCVD法でSiを含む非晶質炭素膜を概ね100nmの厚さで形成し、この非晶質炭素膜を形成した基材の半分の面積には、後述のレーザ光による穴あけを行った後に、市販のフッ素含有シランカップリング剤(フロロテクノロジー社のFG−5010Z130−0.2の溶液(フッ素樹脂0.02〜0.2%、フッ素系溶剤99.8%〜99.98%)を塗布して撥水撥油層を形成した。フッ素含有シランカップリング剤を塗布していない部分を実施例1とし、塗布した部分を実施例2とする。また、また、アセチレンを原料ガスとして公知のプラズマCVD法にて通常の水素と炭素からなる非晶質炭素膜を概ね70nmの厚さで形成したものを準備して実施例3とした。また、非晶質炭素膜を形成しない未処理の基材を比較例とした。
2.ドロスの発生の検証
このように準備した実施例1〜3及び比較例の基材に対し、公知の方法でYAGレーザ光にて直径80μmの穴をあけ、印刷パターンに相当する貫通口を形成した。実施例1〜3において、貫通口の開口部付近の非晶質炭素膜は、概ね円形である開口部のエッジから2〜15μm離れた部分までは熱で消失したが、その他の部分は維持された。実施例1〜3、比較例のドロスの発生状況を図2〜4に示す。図2の写真の中央から下半分が実施例1であり、図2の写真の中央から上半分が実施例2であり、図3の写真が実施例3であり、図4の写真が比較例である。図示するように、比較例(図4)については、全面に黒い金属溶融物(ドロス)の飛び散った跡が確認できる。なお、図2〜4の写真は、製造会社名:株式会社ニコン インストルメンツカンパニー、装置名:NEXIV、型式:VM−250HQ、にて撮影したものである。
図5は実施例1の開口部を拡大した写真であり、図6は実施例3の開口部を拡大した写真であり、図7は比較例の開口部を拡大した写真である。図7に示すように、比較例の開口部にはドロス(光学的に「黒い部分」として認識される部分)が多く発生しており、この比較例に比べると、各実施例のドロスの発生は極めて少ないことが確認できた。なお、図5〜7の写真は、製造会社名:株式会社ニコン インストルメンツカンパニー、装置名:NEXIV、型式:VM−250HQ、倍率:225倍、にて撮影したものである。また、開口部のエッジ周辺の非晶質炭素膜の消失については、Siを含む非晶質炭素膜(実施例1)が2〜3μmの範囲の消失に留まったのに対し、Siを含まない炭素と水素から構成される非晶質炭素膜(実施例3)は10μm程度の範囲で消失している。これは、Siを含む非晶質炭素膜が450℃〜500℃程度の耐熱性を有する一方、Siを含まない炭素と水素から構成される非晶質炭素膜は250℃〜350℃程度の耐熱性に留まることに起因していると考えられる。なお、実施例1〜3の全てについて、開口部の非晶質炭素膜が消失した部分の縁から2μm程度離れた部分、及び、この縁から1400μm離れた部分において日本分光株式会社製のラマン分光光度計(NRS−3300)にてラマン分光スペクトル解析を行ったところ、実施例1〜3の全てについて、縁から2μm離れた部分と1400μm離れた部分の双方において、同様に非晶質炭素膜を示す1450cm−1付近のピークが確認され、残存している非晶質炭素膜は正常な状態であることが確認できた。
3.撥水撥油性の検証
続いて、撥水撥油層を形成した基材(実施例2)を、IPA(イソプロピルアルコール)を満たした超音波洗浄槽に入れて5分間、超音波洗浄を行った。超音波洗浄器は、株式会社エスエヌディ製、US−20KS、発振38kHz(BLT自励発振)、高周波出力480W、を使用した。超音波洗浄は、圧電振動子からの振動によって局部的に激しい振動を発生させ、IPA中にキャビティ(空洞)が発生する。このキャビティが潰れるときに基体表面に対して大きな物理的衝撃力を発生させるので、基体に他の層等を密着させた場合の密着力等を確認するのに、超音波洗浄は簡便で好適な方法である。
その後、開口部を含む任意の10点における接触角を測定したところ、この10点における水(純水)との接触角の平均値が概ね110°であることが確認され、フッ素含有シランカップリング剤からなる撥水撥油層が基材、及び非晶質炭素膜上に連続性を持って形成され、且つ基材に固定されていることが確認できた。なお、各接触角の測定は、携帯式接触角計PG−X(モバイル接触角計)、Fibro system社製を使用し、室温25℃、湿度30%の環境にて行った。接触角測定に使用した水は純水である。本実施例により、貫通口の断面、及び非晶質炭素膜のレーザ光による消失部分は、基材であるSUS板が熱により酸化された状態であるが、印刷用孔版として用いた場合の印刷基板面は、フッ素による低表面自由エネルギーの面が形成されていることが確認できた。
10 構造体
12 基材
14 セラミックス膜

Claims (17)

  1. 金属からなる基材と、
    前記基材の少なくとも一部に形成されたセラミックス膜と、
    を備え、
    前記セラミックス膜が形成された部分にレーザを照射することにより前記基材に所定のレーザ加工処理が施されてなり、
    前記所定のレーザ加工処理は印刷パターンとしての貫通口の形成処理である印刷用孔版
  2. 前記セラミックス膜は、前記基材に前記所定のレーザ加工処理が施された部分において、少なくとも一部が消失している請求項1記載の印刷用孔版
  3. 前記基材は、前記セラミックス膜が消失している部分において金属酸化物が形成されている請求項2記載の印刷用孔版
  4. 前記セラミックス膜は、非晶質炭素膜である請求項1ないし3いずれか記載の印刷用孔版
  5. 前記非晶質炭素膜は、Si、Ti、O、Nの少なくとも一つを含有する請求項4記載の印刷用孔版
  6. 前記セラミックス膜及び/又は前記基材上に形成されフッ素含有カップリング剤からなる撥水撥油層を備える請求項1ないし5いずれか記載の印刷用孔版
  7. 前記セラミックス膜は、前記基材に前記所定のレーザ加工処理が施された部分において、少なくとも一部が消失し、
    前記基材は、前記セラミックス膜が消失している部分において金属酸化物が形成され、
    前記撥水撥油層は、少なくとも前記基材の前記金属酸化物が形成されている部分に形成されてなる、
    請求項6に記載の印刷用孔版
  8. 前記フッ素含有カップリング剤は、フッ素含有シランカップリング剤である請求項7記載の印刷用孔版
  9. 金属からなる基材と、
    前記基材の少なくとも一部に形成されたセラミックス膜と、
    を備え、
    前記セラミックス膜が形成された部分にレーザを照射することにより前記基材に所定のレーザ加工処理が施されてなり、
    前記セラミックス膜は、前記基材に前記所定のレーザ加工処理が施された部分において、少なくとも一部が消失しており、
    前記基材は、前記セラミックス膜が消失している部分において金属酸化物が形成されている、構造体。
  10. 前記所定のレーザ加工処理は、貫通口の形成処理、凹部の形成処理、溶接処理のうち少なくとも一つを含む請求項9記載の構造体。
  11. 前記セラミックス膜は、非晶質炭素膜である請求項9又は10記載の構造体。
  12. 前記非晶質炭素膜は、Si、Ti、O、Nの少なくとも一つを含有する請求項11記載の構造体。
  13. 前記セラミックス膜及び/又は前記基材上に形成されフッ素含有カップリング剤からなる撥水撥油層を備える請求項9ないし12いずれか記載の構造体。
  14. 前記セラミックス膜は、前記基材に前記所定のレーザ加工処理が施された部分において、少なくとも一部が消失し、
    前記基材は、前記セラミックス膜が消失している部分において金属酸化物が形成され、
    前記撥水撥油層は、少なくとも前記基材の前記金属酸化物が形成されている部分に形成されてなる、
    請求項13記載の構造体。
  15. 前記フッ素含有カップリング剤は、フッ素含有シランカップリング剤である請求項13又は14記載の構造体。
  16. 請求項9ないし15いずれか記載の構造体を備え、前記所定のレーザ加工処理は光学マーク認識用の光学マークとしての貫通口又は凹部の形成処理である光学マーク部材。
  17. 金属からなる基材を準備する工程と、
    前記基材の少なくとも一部にセラミックス膜を形成する工程と、
    前記セラミックス膜が形成された部分にレーザを照射することにより前記基材に所定の
    レーザ加工処理を施し、前記基材に前記所定のレーザ加工処理が施された部分において前記セラミックス膜の少なくとも一部を消失させる工程と、
    を備え
    前記基材は、前記セラミックス膜が消失している部分において金属酸化物が形成されている、構造体の製造方法。
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