JP6128371B2 - 核酸抽出液の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、核酸抽出液の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、簡便且つ効率的に被検試料から核酸を抽出でき、更には核酸の増幅反応を効率的に進行させることが可能な核酸抽出液を製造する方法に関する。更に、本発明は、上記核酸抽出液の製造方法に使用される核酸抽出液製造用キットに関する。
核酸が含まれる各種試料から核酸を抽出するには、細胞壁や細胞膜を破壊した後に、核酸を分離すると共に、タンパク質を変性させることが必要とされる。従来、核酸の抽出手法では、水酸化ナトリウムやフェノール等の慎重な取り扱いを要する試薬が使用されていた。また、従来、このような慎重な取り扱いを要する試薬を使用しない核酸抽出手法として、フェノールとエタノールを使用した核酸濃縮工程を行わずに、限界濾過工程を設けることにより核酸を濃縮する方法(例えば、特許文献1参照)や、プロテイナーゼKを、塩化カリウム、コール酸、チオール化合物の存在下で反応させて、硬組織由来の生体試料から核酸を抽出する手法(例えば、特許文献2参照)も提案されている。
しかしながら、これらの核酸抽出手法では、得られた核酸抽出液中に核酸増幅反応を阻害する物質が不可避的に残存するため、得られた核酸抽出液は、精製、希釈等の工程を経ずして、核酸増幅、及びその後の分析へと続く一連の反応系に供することはできないという問題点があった。当該技術分野では、被検試料から抽出した核酸を直接分析するのではなく、PCR等の核酸増幅技術を利用して増幅させた後に分析を行うことが一般的となっている。そのため、核酸増幅反応にそのまま適用可能な核酸抽出液を簡便に取得できる核酸抽出技術の開発が切望されていた。
そこで、近年、核酸増幅反応にそのまま適用可能な核酸抽出液を得る手法として、デオキシコール酸、グリコール酸、及び二価陽イオンのキレート剤を被検試料に接触させて核酸を抽出する方法が報告されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3の技術では、デオキシコール酸とグリコール酸の持つ界面活性作用を利用して細胞膜等を溶解して細胞内部の核酸を遊離させ、それと同時にグリコール酸及び二価陽イオンのキレート剤の作用により遊離された核酸を核酸分解酵素から保護し、更にはデオキシコール酸とグリコール酸を併用していることによりDNAポリメラーゼ等の酵素による核酸増幅反応が阻害されるのを抑制している。
しかしながら、特許文献3の技術では、夾雑物の少ない被検試料では、抽出処理された抽出液をそのまま核酸増幅反応に供することができても、全血、植物、加工食品等の夾雑物の多い被検試料では、以前として、抽出処理された抽出液を核酸増幅反応に供すると、反応阻害が生じるため、更なる希釈、精製等の工程が必要であった。
このような従来技術を背景として、夾雑物の多い被検試料であっても、簡便且つ効率的に、核酸増幅反応にそのまま適用可能な核酸抽出液を得る技術の開発が望まれている。
特開平5−236963号公報 特開2004−201558号公報 国際公開第2007/116450号パンフレット
本発明は、夾雑物の多い被検試料であっても、簡便且つ効率的に、核酸増幅反応にそのまま適用可能な核酸抽出液を得る技術を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、被検試料に、コール酸類、グリコール酸類、及び二価陽イオンのキレート剤を接触させて核酸を抽出した後に、更にアルブミンを添加することにより、夾雑物の多い被検試料であっても、核酸増幅反応にそのまま適用可能な核酸抽出液が簡便且つ効率的に得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成した。
即ち、本発明は、下記態様の核酸抽出液の製造方法、及び核酸抽出液製造用キットを提供する。
項1. 下記工程を含む核酸抽出液の製造方法:
リトコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のコール酸類、グリコール酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリコール酸類、並びに二価陽イオンのキレート剤を、被検試料に接触させて核酸を抽出処理する第1工程、並びに
第1工程で得られた抽出液にアルブミンを添加する第2工程。
項2. 更に、第1工程において、被検試料にタンパク質分解酵素を接触させる、項1に記載の核酸抽出液の製造方法。
項3. 更に、第1工程において、被検試料に界面活性剤を接触させる、項1又は2に記載の核酸抽出液の製造方法。
項4. 更に、第2工程において、第1工程で使用した二価陽イオンのキレート剤により捕捉される二価の金属塩を添加する、項1乃至3のいずれかに記載の核酸抽出液の製造方法。
項5. 更に、第2工程において、緩衝剤を添加する、項1乃至4のいずれかに記載の核酸抽出液の製造方法。
項6. 被検試料が全血である、項1乃至5に記載の核酸抽出液の製造方法。
項7. リトコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のコール酸類、グリコール酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリコール酸類、二価陽イオンのキレート剤、並びにアルブミンを含む、核酸抽出液製造用のキット。
項8. リトコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のコール酸類、グリコール酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリコール酸類、並びに二価陽イオンのキレート剤を含む第1試薬と、
アルブミンを含む第2試薬と、
を含む、項7に記載の核酸抽出液製造用のキット。
項9. リトコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のコール酸類、グリコール酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリコール酸類、二価陽イオンのキレート剤、並びに界面活性剤を含む第1-1試薬と、
タンパク質分解酵素を含む第1-2試薬と、
アルブミン、上記第1-1試薬に含まれる二価陽イオンのキレート剤により捕捉される二価の金属塩、及び緩衝剤を含む第2試薬と、
を含む、項7又は8に記載の核酸抽出液製造用のキット。
本発明によれば、全血、植物、加工食品等の夾雑物が多い被検試料であっても、核酸増幅反応にそのまま適用可能な核酸抽出液が簡便且つ効率的に得ることができる。
本発明は、被検試料に含まれる生物の種を問わず効率的な核酸抽出液の調製が可能であるので、病気の診断、環境汚染等の検査、植物品種、銘柄等の特定、食品や化粧料等の微生物汚染の検査、食品や化粧料等に含まれる生物由来原料の調査等に利用することができる。更に、本発明は、犯罪捜査の迅速DNA鑑定、税関等の生物混入検査等にも応用することができる。
全血(EDTA処理後)を被検試料として、本発明の核酸抽出液の製造方法により核酸抽出液を得て、PCRによりβグロブリン遺伝子を増幅させた結果を示す図である。
1.核酸抽出液の製造方法
本発明の核酸抽出液の製造方法は、被検試料に、コール酸類、グリコール酸類、及び二価陽イオンのキレート剤を接触させて核酸を抽出処理する第1工程、及び第1工程で得られた抽出液にアルブミンを添加する第2工程を含むことを特徴とする。以下、本発明の核酸抽出液の製造方法について詳述する。
本発明において、核酸とは、DNA、RNA、及びこれらの誘導体を含む概念として用いられる。
本発明の核酸抽出液の製造方法に供される被検試料は、核酸の分離又は検出が求められているものである限り制限されるものではなく、微生物、動物、植物の別を問わず、全ての生物又はその生物片を含みうる試料が包含される。当該被検試料として、具体的には、全血、血球細胞を含む血液成分、動物組織の組織片、糞便、尿、毛髪、爪、体液、動物エキス等の動物由来試料;全草、種子、果実、種皮、茎、葉、根、樹液、花粉、植物組織片、植物エキス等の植物由来試料;土壌、海水、河川水、空気中の浮遊粒子、水道水等の環境由来試料等が例示される。また、当該被検試料は、核酸が含まれ得る限り、食品、生物製薬剤、飲料、化粧料、肥料、堆肥等の、前述の試料を配合又は加工したものであってもよい。例えば、環境由来試料は、微生物による環境汚染を検査するために利用可能であり、また、バイオレメデーションの分野において、浄化対象となる環境由来試料の汚染物質資化菌の存在の検査にも利用可能である。また、例えば、動物由来試料は、感染症の診断に使用することができる。また、例えば、植物由来試料は、遺伝子組み換え植物の有無の判定や、品種・銘柄の特定等に利用することができる。更に、食品、飲料、化粧料等の加工製品を被検試料とする場合には、当該加工製品の微生物汚染の有無の確認、配合されている生物由来原料の有無の確認やその由来の特定、遺伝子組み換え動植物由来原料の有無の確認を行うことができる。
本発明の一つの特徴として、夾雑物の多い被検試料であっても、簡便且つ効率的に、核酸増幅反応にそのまま適用可能な核酸抽出液が得られることが挙げられる。本発明では、夾雑物の多い被検試料から、核酸増幅反応にそのまま適用可能な核酸抽出液を直接調製するという従来の核酸抽出技術では克服できなかった問題点が解消されており、かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明に手適用される被検試料として、夾雑物が多いもの、具体的には、全血、体液、植物由来試料、加工食品が好適である。
本発明では、先ず、被検試料に、コール酸類、グリコール酸類、及び二価陽イオンのキレート剤を接触させて抽出処理することにより、被検試料から核酸を抽出する(第1工程)。
本第1工程において、コール酸類、グリコール酸類、及び二価陽イオンのキレート剤に接触させる際の被検試料の濃度については、被検試料に含まれる核酸の量等に応じて適宜設定すればよい。
本第1工程において使用されるコール酸類としては、具体的には、リトコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸及びそれらの塩が挙げられる。コール酸類に含まれる塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。本発明において、コール酸類は、リトコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸及びそれらの塩の中から1種を選択して使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明において、コール酸類として、好ましくはデオキシコール酸及びその塩、更に好ましくはデオキシコール酸ナトリウムが挙げられる。
本第1工程において、被検試料に接触させる際のコール酸類の濃度としては、例えば、0.01〜10mM、好ましくは0.05〜5mM、更に好ましくは0.05〜3mMが挙げられる。
本第1工程において使用されるグリコール酸類としては、具体的には、グリコール酸及びその塩が挙げられる。グリコール酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。本発明において、グリコール酸類は、グリコール酸及びその塩の中から1種を選択して使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明において、グリコール酸類として、好ましくはグリコール酸の塩、更に好ましくはグリコール酸ナトリウムが挙げられる。
本第1工程において、被検試料に接触させる際のグリコール酸類の濃度としては、例えば、0.1〜100mM、好ましくは0.5〜100mM、更に好ましくは1〜50mMが挙げられる。
本第1工程において使用される二価陽イオンのキレート剤としては、試料中の2価の金属イオン、特にはマグネシウムイオンと配位して錯塩を形成し得るものである限り制限されない。このようなキレート剤には、クエン酸、フィチン酸、リン酸なども適用可能であるが、好適な例として、エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと表記することもある)のナトリウム塩が挙げられる。
本第1工程において、被検試料に接触させる際の二価陽イオンのキレート剤の濃度としては、例えば、0.01〜200mM、好ましくは0.01〜100mM、更に好ましくは0.1〜50mMが挙げられる。
更に、本第1工程では、コール酸類、グリコール酸類、及び二価陽イオンのキレート剤に加えて、タンパク質分解酵素を被検試料に接触させてもよい。このようにタンパク質分解酵素を被検試料に作用させることにより、被検試料中に混在するタンパク質を分解でき、これによって細胞の膜構造の破壊が促進され、一層効率的な核酸の抽出が可能になる。本第1工程に使用されるタンパク質分解酵素としては、被検試料中のタンパク質を分解し得る限り、その種類については制限されないが、例えば、プロテイナーゼK等が例示される。
本第1工程において、タンパク質分解酵素を被検試料に接触させる場合、被検試料に接触させる際のタンパク質分解酵素の濃度については、当該分解酵素の種類や活性等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.01〜50g/L、好ましくは0.05〜10g/L、更に好ましくは0.1〜5g/Lが挙げられる。
また、本第1工程では、上記成分に加えて、界面活性剤を被検試料に接触させてもよい。このように、面活性剤を使用することによって、被検試料から核酸を一層効率的に抽出することが可能になる。本第1工程に使用される界面活性剤としては、特に制限されるものではないが、好ましくは非イオン性界面活性剤、更に好ましくはTween 20、Triton X−100、NP−40等が例示される。
本第1工程において、界面活性剤を被検試料に接触させる場合、被検試料に接触させる際の界面活性剤の濃度については、当該界面活性剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.01〜100g/L、好ましくは0.05〜10g/L、更に好ましくは0.1〜5g/Lが挙げられる。
本第1工程における核酸抽出は、水溶液中で行われるが、本発明の効果が妨げられないことを限度として、緩衝剤、pH調整剤、安定化剤等が添加された条件で行ってもよい。
本第1工程における抽出処理の温度及び処理時間としては、例えば、10〜75℃、好ましくは20〜50℃、更に好ましくは25〜45℃の温度条件で、0.〜60分間、好ましくは1〜30分間、更に好ましくは1〜10分間が挙げられる。
また、本第1工程において、上記抽出処理後に、核酸抽出液に含まれるタンパク質を失活させるために、加熱処理に供することが望ましい。このような加熱処理は、抽出された核酸を分解することなく、タンパク質を失活し得る条件で行えばよく、具体的には、75〜100℃、好ましくは80〜98℃、更に好ましくは85〜95℃の温度条件で、0.1〜30分間、好ましくは1〜20分間、更に好ましくは2〜10分間が例示される。
斯くして本第1工程によって被検試料を処理することにより、核酸を効率的に抽出できると共に、抽出された核酸の保護が可能になる。具体的には、デオキシコール酸とグリコール酸の界面活性作用を利用して細胞膜等を溶解し、それにより細胞内部の核酸が溶液中に遊離する。それと同時に、グリコール酸及び二価陽イオンのキレート剤の作用により、遊離された核酸はDNA分解酵素等の核酸分解酵素から保護される。
次いで、上記第1工程で得られた抽出液にアルブミンを添加することにより、核酸抽出液を製造する(第2工程)。
本第2工程で使用されるアルブミンについては、その由来や製法等について制限されるものでなく、様々な動物由来のもの、動物の血清から抽出して得られたもの、遺伝子組み換え技術を用いて製造されたもの等のいずれであってもよい。好適には、牛血清由来のアルブミン(BSA)、植物アルブミン、各種動物アルブミン、糖化アルブミンが挙げられる。これらの中でも、好ましくは牛血清由来のアルブミンが例示される。
第1工程で得られた抽出液に対するアルブミンの添加量については、例えば、アルブミンの終濃度が、0.01〜100g/L、好ましくは0.1〜100g/L、更に好ましくは0.5〜50g/Lとなるように設定すればよい。
このように、アルブミンを添加することにより、夾雑物が多い被検試料から得られた抽出液をそのまま核酸増幅反応に供しても、核酸増幅反応が夾雑物により阻害されることなく、核酸を増幅させることが可能になる。
更に、本第2工程では、アルブミンに加えて、第1工程で使用した二価陽イオンのキレート剤により捕捉される二価の金属塩を添加することが望ましい。核酸増幅反応に使用されるTaq DNAポリメラーゼをはじめとするDNAポリメラーゼは、二価の金属塩(特に、マグネシウム塩)要求性であるため、二価の金属塩を添加することにより、第1工程で使用した二価陽イオンのキレート剤の影響を消去して、核酸増幅反応に供する際に好適化された条件で、特にはマグネシウムイオン濃度等を変更することなく、そのまま核酸抽出液を核酸増幅反応に供することができる。
本第2工程で使用される二価の金属塩としては、具体的には、マグネシウム塩、鉄塩、マンガン塩等が挙げられるが、好ましくはマグネシウム塩である。また、二価の金属塩は、第1工程で得られた抽出液中で、二価の金属イオンを遊離でき、核酸の安定性、その後の分析を阻害しない限り制限されないが、例えば、二価の金属塩としてマグネシウム塩を使用する場合であれば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムが好適な例として挙げられる。
二価の金属塩の抽出液中への添加量については、第1工程で添加した二価陽イオンのキレート剤の結合量に相当する量であればよく、具体的には、二価の金属塩の終濃度が、0.1〜50mM、好ましくは1〜25mM、更に好ましくは1〜10mMとなるように設定することが望ましい。
更に、本第2工程では、上記成分以外に、緩衝剤を添加してもよい。緩衝剤の添加により、その後の分析におけるpH調整を容易にし、とりわけ核酸増幅反応においては、用いるDNAポリメラーゼの至適pHへの調整が容易になると共に、第1工程で添加した試薬群の後の反応系への影響を消失させることもできる。
本第2工程で使用される緩衝剤としては、核酸の安定性及びその後の分析を阻害しない限り制限されないが、例えば、pH6〜10の範囲で緩衝能を有するもの、好ましくはTAPS(N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]−3−アミノプロパンスルホン酸)、トリス(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)緩衝剤が挙げられる。
緩衝剤の抽出液中への添加量については、当該抽出液に緩衝作用を付与できる量であればよく、具体的には、緩衝剤の終濃度が、0.01〜200mM、好ましくは0.1〜100mM、更に好ましくは10〜100mMとなるように設定することが望ましい。
斯くして本第2工程により得られた核酸抽出液は、被検試料中の核酸が抽出されており、しかもの核酸増幅反応を阻害する物質の影響が除去されているので、そのまま核酸増幅反応に供することができる。即ち、本発明で得られる核酸抽出液は、従来法において必要であった核酸抽出液の希釈等を含めた該反応阻害物質を除去する工程を設ける必要がない。これにより、操作の省力化、並びに核酸試料の損失を最小限に低減できる共に、回収できる核酸抽出液量の増加による検出感度の低下を低減できる。それ故、手間を掛けずに微量の各種検出対象を確実に検出したいとの市場の要求に応えることができる。
本発明の核酸抽出液の製造方法によって得られた核酸抽出液が適用される好適な分析反応系としては特に制限はないが、核酸増幅反応による核酸の増幅及び検出が例示される。核酸増幅反応としてはPCR、LCR(リガーゼ連鎖反応)等が例示され、汎用技術であるTaq DNAポリメラーゼによるPCRが特に好適であり、その応用範囲は広範に亘る。
2.核酸抽出液製造用キット
更に、本発明は、上記核酸抽出液の製造方法に使用される核酸抽出液の製造用キットをも提供する。
本発明のキットは、コール酸類、グリコール酸類、二価陽イオンのキレート剤、及びアルブミンを含むことを特徴とする。
本発明のキットは、上記核酸抽出液の製造方法の第1工程で使用される第1試薬と、上記核酸抽出液の製造方法の第2工程で使用される第2試薬とを個別に含むように設計される。
本発明のキットに含まれる第1試薬は、コール酸類、グリコール酸類、及び二価陽イオンのキレート剤を1つの溶液に含むものであってもよく、またこれらを2以上の溶液に別けて含むものであってもよい。操作簡便性の観点から当該第1試薬は、コール酸類、グリコール酸類、及び二価陽イオンのキレート剤を1つの溶液に含む態様であることが望ましい。
また、上記核酸抽出液の製造方法の第1工程において、タンパク質分解酵素を使用する場合、当該タンパク質分解酵素は、第1試薬において、コール酸類、グリコール酸類、及び二価陽イオンのキレート剤の少なくとも1種と共存する形態で含まれていてもよく、またこれらとは別に、タンパク質分解酵素が単独で含まれる態様であってもよい。
また、上記核酸抽出液の製造方法の第1工程において界面活性剤を使用する場合、当該界面活性剤は、第1試薬において、コール酸類、グリコール酸類、及び二価陽イオンのキレート剤の少なくとも1種と共存する形態で含まれていてもよく、またこれらとは別に、界面活性剤が単独で含まれる態様であってもよい。
更に、上記核酸抽出液の製造方法の第1工程において、緩衝剤、pH調整剤、安定化剤等を添加する場合には、これらの添加成分が上記第1試薬に含まれていてもよい。
本発明のキットに含まれる第2試薬は、アルブミンを含有する。
また、上記核酸抽出液の製造方法の第2工程において、第1試薬に含まれる二価陽イオンのキレート剤に捕捉される二価の金属塩を添加する場合、当該二価の金属塩は、第2試薬において、アルブミンと共存する形態で含まれていてもよく、またアルブミンとは別に、二価の金属塩が単独で含まれる態様であってもよい。
更に、上記核酸抽出液の製造方法の第2工程において、緩衝剤を添加する場合、当該緩衝剤は、第2試薬において、アルブミンと共存する形態で含まれていてもよく、またアルブミンとは別に緩衝剤が単独で含まれる態様であってもよい。
本発明のキットの好適な一態様として、第1試薬が、コール酸類、グリコール酸類、及び二価陽イオンのキレート剤を含む試薬からなり、第2試薬が、アルブミンを含む試薬からなるキット;好ましくは、第1試薬が、コール酸類、グリコール酸類、二価陽イオンのキレート剤、及び必要に応じて界面活性剤を含む第1-1試薬、並びにタンパク質分解酵素を含む第1-2試薬からなり、第2試薬が、アルブミン、及び必要に応じて二価の金属塩及び/又は緩衝剤を含む試薬からなるキットが例示される。
本発明のキットに含まれる各成分の濃度については、上記核酸抽出液の製造方法の使用時の濃度を充足できる範囲で適宜設定される。
また、本発明のキットには、必要に応じて、その他に必要になる試薬や、上記核酸抽出液の製造方法を実施するための実験手順書等が含まれていてもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例1:全血から核酸抽出液の製造
EDTA処理した全血からDNA抽出液を調製し、得られたDNA抽出液に含まれるβグロビン遺伝子の検出を行った。
<試薬の調製>
第1-1試薬として、10mMのデオキシコール酸ナトリウム、0.35Mのグリコール酸、100mMのEDTA・2Na、0.5g/LのTween 20、及び0.5g/LのTriton X−100を含む水溶液を調製した。
第1-2試薬として、0.1mAUのプロテイナーゼK(ロッシュ社製)を含む水溶液を調製した。
第2試薬として、1.0g/Lの牛血清アルブミン(BSA)、25mMのMgCl、0.5mMのTASP緩衝剤を含む水溶液(pH9.5)を調製した。
<全血から核酸抽出液の調製>
第1-1試薬10μlと第1-2試薬10μlを混合し、20μlの混合液(第1試薬)を得た。次いで、EDTAで処理した全血1μlを0.2mlのマイクロチューブに入れ、更に上記で得られた第1試薬20μlを添加して撹拌した後に、72℃で6分間インキュベートし、続いて94℃で3分間インキュベートした。
次いで、上記処理を行ったマイクロチューブに、第2試薬10μlを添加し、撹拌することにより、核酸抽出液を調製した。
また、比較のために、第1-1試薬と第1-2試薬の代わりに同量の滅菌水、第2試薬の代わりに同量の滅菌水、又は第1-1試薬、第1-2試薬及び第2試薬の代わりに同量の滅菌水を使用して、上記と同様に処理して核酸抽出液を調製した。
<DNAの増幅>
上記で調製した核酸抽出液を室温まで冷却し、PCRによりβグロビン遺伝子を増幅させた。PCR反応は、フォワードプライマーGH20(5'-GAAGAGCCAAGGACAGGTAC-3';配列番号1)、リバースプライマーGH21(5'-GGAAAATAGACCAATAGGCAG-3';配列番号2)をプライマーセットとして用いた。PCR反応液は、×10 Reaction Buffer(Ex Taq Buffer(+Mg2+)、タカラバイオ社製)を5μL、2.5mMのdNTPsを5μL、10pmol/μLのプライマー各1μL、5U/μLのEx Taq(タカラバイオ社製)を0.5μL、上記で調製した核酸試料を5μLに、滅菌水を加えて、全量50μLとして調製した。反応は、94℃で60秒での変性の後、94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、72℃で60秒の伸長を1サイクルとし、35サイクル行った後、72℃で240秒の最終伸長反応で、反応を終了させた。次に、PCR反応で得られた各増幅産物を常法に基づき電気泳動に供し、核酸断片を可視化した。
<結果>
得られた結果を図1に示す。上記第1試薬(第1-1試薬と第1-2試薬の混合液)と上記第2試薬を使用した条件では、βグロビン遺伝子を明確に検出できた。これに対して、上記第1試薬及び第2試薬の一方又は双方を滅菌水に置き換えた場合には、βグロビン遺伝子を検出することはできなかった。具体的には、上記第1試薬のみを使用した場合には、夾雑物が多く、極めて薄いバンドしか検出されなかった。また、上記第2試薬のみを使用した場合には、即ち、滅菌水での熱処理により核酸を抽出して第2試薬を添加しても、極めて薄いバンドしか検出されなかった。
この結果から、デオキシコール酸、グリコール酸、及びEDTAを用いて、核酸抽出を行うだけでは、核酸抽出液に含まれる夾雑物によってPCRによるDNA増幅反応が阻害されるが、更に核酸の抽出処理後にアルブミンを添加することにより、DNA増幅反応の阻害を抑制できることが確認された。即ち、本実験結果から、被検試料に、デオキシコール酸、グリコール酸、及び二価陽イオンのキレート剤を接触させて核酸を抽出した後に、更にアルブミンを添加することにより、全血のような夾雑物の多い被検試料であっても、核酸増幅反応にそのまま適用可能な核酸抽出液を調製できることが明らかとなった。

Claims (7)

  1. 被検試料が全血であり、下記工程を含む核酸抽出液の製造方法:
    リトコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のコール酸類、グリコール酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリコール酸類、二価陽イオンのキレート剤、並びにタンパク質分解酵素を、被検試料に接触させて核酸を抽出処理する第1工程、並びに
    第1工程で得られた抽出液にアルブミンを添加する第2工程。
  2. 更に、第1工程において、被検試料に界面活性剤を接触させる、請求項1に記載の核酸抽出液の製造方法。
  3. 更に、第2工程において、第1工程で使用した二価陽イオンのキレート剤により捕捉される二価の金属塩を添加する、請求項1に記載の核酸抽出液の製造方法。
  4. 更に、第2工程において、緩衝剤を添加する、請求項1に記載の核酸抽出液の製造方法。
  5. 血から核酸抽出液を製造するためのキットであって、リトコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のコール酸類、グリコール酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリコール酸類、二価陽イオンのキレート剤、タンパク質分解酵素、並びにアルブミンを含む、核酸抽出液製造用のキット。
  6. リトコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のコール酸類、グリコール酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリコール酸類、二価陽イオンのキレート剤、並びにタンパク質分解酵素を含む第1試薬と、
    アルブミンを含む第2試薬と、
    を含む、請求項に記載の核酸抽出液製造用のキット。
  7. リトコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のコール酸類、グリコール酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリコール酸類、二価陽イオンのキレート剤、並びに界面活性剤を含む第1−1試薬と、
    タンパク質分解酵素を含む第1−2試薬と、
    アルブミン、上記第1−1試薬に含まれる二価陽イオンのキレート剤により捕捉される二価の金属塩、及び緩衝剤を含む第2試薬と、
    を含む、請求項に記載の核酸抽出液製造用のキット。
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