以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
図1は、実施形態1に係る回転式圧縮機(1)の縦断面図である。この圧縮機(1)は、揺動ピストン式圧縮機であり、冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続されるものである。
上記圧縮機(1)はケーシング(10)を備え、このケーシング(10)の内部には、上記冷媒回路の冷媒を圧縮する圧縮機構(20)と、該圧縮機構(20)を駆動する電動機(30)とが収容されている。
上記ケーシング(10)は、縦長円筒状の密閉容器で構成されており、円筒状の胴体部(11)と、該胴体部(11)の上側開口部を閉塞する有底円筒状の上側鏡板部(12)と、上記胴体部(11)の下側開口部を閉塞する有底円筒状の下側鏡板部(13)とを備えている。
上側鏡板部(12)及び下側鏡板部(13)は、椀状の底部(12a,13a)と該底部(12a,13a)の外周端から軸方向へ延びる円筒部(12b,13b)とが一体に形成された部材である。各鏡板部(12,13)の円筒部(12b,13b)の内径は、上記胴体部(11)の外径とほぼ同一寸法である。上側鏡板部(12)の円筒部(12b)は胴体部(11)の上端部に嵌合する状態で固定され、下側鏡板部(13)の円筒部(13b)は胴体部(11)の下端部に嵌合する状態で固定されている。
上記圧縮機構(20)及び上記電動機(30)は、上記胴体部(11)の内周面に固定されている。
上記電動機(30)は、共に円筒状に形成されたステータ(31)及びロータ(32)を備えている。上記ステータ(31)は、上記ケーシング(10)の胴体部(11)に固定されている。このステータ(31)の中空部に上記ロータ(32)が配置されている。このロータ(32)の中空部には、該ロータ(32)を貫通するように駆動軸(35)が固定されており、ロータ(32)と駆動軸(35)が一体で回転するようになっている。
この駆動軸(35)は、上下に延びる主軸部(35a)を有し、この主軸部(35a)の下端寄りに偏心部(35b)が一体に形成されている。この偏心部(35b)は、主軸部(35a)よりも大径に形成され、その軸心は主軸部(35a)の軸心に対して所定距離だけ偏心している。
また、主軸部(35a)の下端部には遠心ポンプ(36)が設けられている。この遠心ポンプ(36)は、ケーシング(10)の底部に形成される油溜め部の潤滑油に浸漬している。そして、この遠心ポンプ(36)は、上記駆動軸(35)の回転に伴って潤滑油を駆動軸(35)内の給油路(図示省略)へ汲み上げた後で、圧縮機構(20)の各摺動部へ供給する。
上記圧縮機構(20)は、環状に形成された固定側の部材(21)であるシリンダ(22)と、シリンダ(22)の軸方向一方端(上端)に固定されるフロントヘッド(23)及びシリンダ(22)の軸方向他方端(下端)に固定されるリアヘッド(24)(シリンダヘッド(23,24))を有している。これらの部材(22〜24)は、上側から下側に向かってフロントヘッド(23)、シリンダ(22)及びリアヘッド(24)の順に積層され、軸方向に延びる複数のボルトによって締結されている。
上記駆動軸(35)は、上記圧縮機構(20)を上下に貫通している。フロントヘッド(23)とリアヘッド(24)には、駆動軸(35)を偏心部(35b)の上下両側で支持する軸受け部(23a,24a)が形成されている。
シリンダ(22)は、上端がフロントヘッド(23)によって閉塞される一方、下端がリアヘッド(24)に閉塞され、シリンダ(22)の内部の空間がシリンダ室(40)を構成している。該シリンダ室(40)には、該シリンダ室(40)の中で偏心回転運動をするように、上記駆動軸(35)の偏心部(35b)に摺動自在に外嵌されたピストン(25)が収容されている。圧縮機構(20)の横断面図である図2に示すように、ピストン(25)の外周面には、該外周面から径方向外側へ延びるブレード(26)が一体に形成されている。
シリンダ(22)には、平面視で円形の溝が形成されている。この円形溝は、一対のブッシュ(28,28)を収容するブッシュ溝(27)になっている。このブッシュ溝(27)には、平面視で半月状に形成された一対のブッシュ(28,28)がブレード(26)を挟むような状態で内嵌されている。
上記シリンダ室(40)は、上記ブレード(26)によって低圧側シリンダ室(40a)と高圧側シリンダ室(40b)とに区画されている。上記シリンダ(22)には、その外周壁に、低圧側シリンダ室(40a)に連通する吸入ポート(41)が駆動軸(35)の軸心と直角の方向に沿って形成されている。
上記フロントヘッド(23)には、高圧室(40b)に連通するフロント側吐出ポート(42)が駆動軸(35)の軸心と平行な方向に沿って形成されている(図1では省略)。このフロント側吐出ポート(42)は、フロント側吐出弁(43)(図3(A)参照)で開閉されるようになっている。
上記フロントヘッド(23)の上面には、フロント側吐出ポート(42)及びフロント側吐出弁(43)を覆うようにフロントマフラ(44)が取り付けられている。フロントマフラ(44)は、その内部に区画されるフロント側マフラ空間(45)が、上部の吐出開口(44a)を通じてケーシング(10)の内部空間に連通するように、開放型に形成されている。つまり、フロントマフラ(44)が「開放型」であるとは、フロント側マフラ空間(45)の冷媒が、該フロントマフラ(44)から吐出開口(44a)を通ってケーシング(10)の内部空間へ直接に流出する構成を意味している。また、フロントマフラ(44)には、その周壁面とフロントヘッド(23)との間に、フロント側マフラ空間(45)に溜まる油をケーシング(10)の底部の油溜め部に戻すための隙間(図示せず)が形成されている。
上記リアヘッド(24)には、高圧室(40b)に連通するリア側吐出ポート(46)が駆動軸(35)の軸心と平行な方向に沿って形成されている(図1では省略)。このリア側吐出ポート(46)は、リア側吐出弁(47)(図3(B)参照)で開閉されるようになっている。本実施形態では、フロント側吐出ポート(42)とリア側吐出ポート(46)は、断面積が互いに等しいポートとして形成されている。これらの吐出ポート(42,46)の形状は、駆動軸(35)の中心と吐出ポート(42,46)の中心を結ぶ線分に対してほぼ直交する方向が長軸側となる、楕円形状ないし長円形状である。
上記リアヘッド(24)の下面には、リア側吐出ポート(46)及びリア側吐出弁(47)を覆うようにリアマフラ(48)が取り付けられている。リアマフラ(48)は、その内部にリア側マフラ空間(49)を区画するものであって、密閉型に形成されている。リアマフラ(48)が「密閉型」であるとは、リア側マフラ空間(49)の冷媒が該リアマフラ(48)からケーシング(10)の内部空間へ直接には流出せず、後述の連通路(50)を通ってフロント側マフラ空間(45)へ流れていく構成を意味している。
このように、本実施形態の圧縮機構(20)には、フロントヘッド(23)とリアヘッド(24)の両方に吐出ポート(42,46)が形成されている。このように圧縮機構(20)の上下両側に吐出ポート(42,46)を形成しているのは、吐出面積を大きくすることにより、圧縮機構(20)を高速で回転する場合でも圧力損失が大きくなるのを抑えるためである。
また、上記圧縮機構(20)には、フロント側マフラ空間とリア側マフラ空間を連通する複数(この実施形態では3本)の連通路(50)が形成されている。連通路(50)は、第1連通路(50a)と第2連通路(50b)と第3連通路(50c)からなり、それぞれがシリンダ(22)とフロントヘッド(23)とリアヘッド(24)を貫通している。3本の連通路(50)の合計断面積は、フロント側マフラ空間(45)の圧力とリア側マフラ空間(49)の圧力が実質的に等しくなるように定められている。具体的には、各連通路(50)の合計断面積は、リア側吐出ポート(46)の断面積の2倍以上の断面積になるように定められている。各連通路(50)の合計断面積は、リア側吐出ポート(46)の断面積の3倍以上にするのが好ましく、7倍以上にするのがより好ましい。また、上記3本の連通路(50)は、シリンダ(22)の周方向に配置されている。
なお、図3(B)に示すように、駆動軸(35)の中心とリア側吐出ポート(46)の中心を通る線分を(C1)とし、駆動軸(35)の中心を通って線分(C1)に直交する線分を(C2)とするときに、上記各連通路(50a,50b,50c)は線分(C2)に対してリア側吐出ポート(46)と対称の位置に形成されている。
また、図1,図2に示すように、シリンダ(22)には、その上端面から下端面まで貫通する油抜き孔(29)が形成されている。上記各連通路(50a,50b,50c)は、上記シリンダ(22)におけるシリンダ室(40)と油抜き孔(29)の間の部分に形成されている。
上記リアマフラ(48)は、上記リアヘッド(24)に固定される周壁部(48a)を有している。そして、図1に示すように、上記各連通路(50)は、圧縮機構(20)の軸方向に沿って視たときに、上記リアマフラ(48)の周壁部(48a)に沿って配置されている。つまり、圧縮機構(20)を軸方向に沿って視たときに、周壁部(48a)に連通路(50)が内接する配置になっている。また、リアマフラ(48)の周壁部(48a)は、リア側マフラ空間(49)に溜まる潤滑油を上記連通路に円滑に導入するガイドとなる曲面状の導入面(48b)を備えている。導入面(48b)は傾斜面であってもよい。
上記ケーシング(10)には、図1,図2に示すように、上記吸入ポート(41)に接続される吸入管(14)が取り付けられ、冷媒が吸入管(14)を通って上記圧縮機構(20)へ吸入される。
また、上記ケーシング(10)には、上記胴体部(11)の上側部分を貫通して吐出管(15)が取り付けられている。この吐出管(15)の端部は、上記ケーシング(10)の内部に開口している。上記圧縮機構(20)の吐出ポート(42,46)は、上記フロントマフラ(44)の吐出開口(44a)を通じて上記ケーシング(10)の内部の空間に連通しており、上記圧縮機構(20)から吐出された冷媒は、上記ケーシング(10)の内部空間と上記吐出管(15)を通じて上記ケーシング(10)の外へ流出する。
−運転動作−
本実施形態の圧縮機(1)において、電動機(30)を起動するとロータ(32)が回転し、その回転が駆動軸(35)を介して圧縮機構(20)のピストン(25)に伝達される。ピストン(25)は、駆動軸(35)の偏心部(35b)に装着されているので、駆動軸(35)の回転中心の周りの周回軌道上を旋回する。また、ブレード(26)がブッシュ(28)に保持されているので、ピストン(25)は自転をせずに揺動しながら公転(偏心回転)する。
圧縮機構(20)のピストン(25)が回転すると、低圧側シリンダ室(40a)の容積が拡大しながら高圧側シリンダ室(40b)の容積が縮小する動作が繰り返し行われる。そして、低圧側シリンダ室(40a)に吸入された冷媒が高圧側シリンダ室(40b)で圧縮されて吐出され、冷媒の吸入行程、圧縮行程及び吐出行程が、ピストン(25)の一回転を1サイクルとして連続的に行われる。
具体的には、フロント側吐出ポート(42)から吐出された冷媒は、開放型のフロントマフラ(44)内に形成されたフロント側マフラ空間(45)を経て、圧縮機構(20)からケーシング(10)内の空間へ流出する。また、リア側吐出ポート(46)から吐出された冷媒は、密閉型のリアマフラ(48)内に形成されたリア側マフラ空間(49)から連通路(50)を通ってフロント側マフラ空間(45)の冷媒と合流し、圧縮機構(20)からケーシング(10)内の空間へ流出する。
本実施形態では、連通路(50)の合計断面積がリア側吐出ポート(46)の断面積の2倍以上で十分に大きいため、リア側マフラ空間(49)からフロント側マフラ空間(45)へ流れる冷媒の抵抗が小さく、圧力損失が小さい。この効果は、連通路(50)の合計断面積をリア側吐出ポート(46)の断面積の3倍以上や7倍以上にするとより高めることができる。そして、本実施形態では、フロント側マフラ空間(45)の圧力とリア側マフラ空間(49)の圧力が実質的に同じになる。したがって、フロント側吐出ポート(42)から吐出される冷媒の循環量とリア側吐出ポート(46)から吐出される冷媒の循環量が等しくなり、フロント側吐出弁(43)とリア側吐出弁(47)の挙動が実質的に同じになるので、フロント側吐出弁(43)だけが閉じ遅れることはなく、圧力脈動が大きくなるのを防止できる。
また、リア側マフラ空間(49)に吐出された冷媒は、矢印X2で示すように導入面(48b)に沿って流れ、リアマフラ(48)の周壁部(48a)に沿って配置された連通路(50)を通ってフロント側マフラ空間(45)にスムーズに流れて行く。本実施形態では、さらにリアマフラ(48)に導入面(48b)を形成しているので、冷媒が導入面(48b)に沿って連通路(50)からフロント側マフラ空間(45)へ流れやすくなり、リア側マフラ空間(49)に溜まる潤滑油も冷媒に含まれてフロント側マフラ空間(45)へ流れて行きやすくなる。したがって、リア側マフラ空間(49)には潤滑油が溜まりにくくなって、リア側マフラ空間(49)の実容積が大きい状態を維持できるので、リア側マフラ空間(49)での脈動を小さくすることができる。
また、リア側マフラ空間(49)からフロント側マフラ空間(45)に戻った潤滑油は、矢印X1に示すように、フロントマフラ(44)の周壁部に形成されている隙間(図示せず)から流出し、ケーシング(10)の底部の油溜め部に戻る。
−実施形態1の効果−
本実施形態によれば、連通路(50)の合計断面積をリア側吐出ポート(46)の断面積の2倍以上(好ましくは3倍以上、より好ましくは7倍以上)の断面積にして十分に大きくし、リア側マフラ空間(49)からフロント側マフラ空間(45)へ流れる冷媒の抵抗を小さくし、フロント側マフラ空間(45)とリア側マフラ空間(49)の圧力を実質的に同じにするようにしている。そして、フロント側吐出ポート(42)から吐出される冷媒の循環量とリア側吐出ポート(46)から吐出される冷媒の循環量を等しくし、フロント側吐出弁(43)が冷媒の逆流で閉じ遅れる問題を防止している。このようにして、フロント側吐出弁(43)とリア側吐出弁(47)の挙動が実質的に同じになるようにしているので、マフラ空間(45,49)における圧力脈動を抑えることが可能になる。
ここで、図4(A)は実施形態のリアヘッドの概略形状を示す底面図、図4(B)はフロント側及びリア側の吐出ポートの内圧と吐出弁のリフト量を示すグラフであり、図5(A)は比較例のリアヘッドの概略形状を示す底面図、図5(B)はフロント側及びリア側の吐出ポート(42,46)の内圧と吐出弁(43,47)のリフト量を示すグラフである。
比較例では、リア側吐出ポート(46)の面積に対し、連通路(50)を2本の孔で構成して断面積をリア側吐出ポート(46)の約1.5倍にしている。また、実施形態では、リア側吐出ポート(46)の面積を比較例と同じ面積に設定し、連通路(50)を3本の孔で構成して断面積をリア側吐出ポート(46)の約3.5倍にしている。このように、比較例では連通路(50)の合計断面積がリア側吐出ポート(46)の断面積の2倍よりも小さいが、実施形態では連通路(50)の断面積をリア側吐出ポート(46)の断面積の2倍以上にしている。
このように構成すると、比較例の場合には、図5(B)に示すように、フロント側吐出ポート(42)の内圧(a)とリア側吐出ポート(46)の内圧(b)の圧力差が大きく、フロント側マフラ空間(45)とリア側マフラ空間(49)にも圧力差が生じる。したがって、フロント側吐出弁(43)のリフト量(c)とリア側吐出弁(47)のリフト量(d)に差が生じ、その結果、圧力脈動が大きくなる。
これに対して、本実施形態では、図4(B)に示すように、フロント側吐出ポート(42)の圧力(a)とリア側吐出ポート(46)の圧力(b)には差がほとんどなく、フロント側マフラ空間(45)とリア側マフラ空間(49)にも圧力差はほとんど生じない。したがって、フロント側吐出弁(43)のリフト量(c)とリア側吐出弁(47)のリフト量(d)にも差がほとんど生じず、実質的に同じ挙動をする(フロント側吐出弁(43)の閉じ遅れが生じない)ので、圧力脈動も抑えられることが分かる。
また、本実施形態では、3本の連通路(50)を周方向に分けて配置することにより、合計断面積の大きな連通路(50)を設ける構成を容易に実現できるし、連通路(50)を周方向に分けて配置することで機構の大型化(リアヘッド(24)の大径化)も防止できる。特に、連通路(50)をシリンダ室(40)と油抜き孔(29)の間の部分に形成する本実施形態の構成では、連通路(50)が大径であるとシリンダ室(40)と油抜き孔(29)の間の部分の幅を広げる必要が生じて機構が大型化するのに対して、本実施形態では連通路(50)を3本にしたことで1つ1つを小径化することが可能であるから、シリンダ室(40)と油抜き孔(29)の間の部分の幅を広げなくて済むことになって機構の大型化も抑えられる。
さらに、本実施形態では、リアマフラ(48)の周壁部(48a)に沿って連通路(50)を配置するとともに、リア側マフラ空間(49)に溜まる潤滑油を矢印X2に示すように連通路(50)に導入する曲面状または傾斜面状の導入面(48b)を形成している。このため、冷媒がリア側マフラ空間(49)から導入面(48b)に沿って連通路(50)を通り、リア側マフラ空間(49)へスムーズに流れていくとともに、リア側マフラ空間(49)の中にある潤滑油も冷媒と一緒にフロント側マフラ空間(45)へ流れて行きやすくなるので、リア側マフラ空間(49)に潤滑油が溜まりにくくなる。そして、リア側マフラ空間(49)の実容積を大きい状態に維持できるので、圧力脈動をより確実に抑えられる。
また、リア側マフラ空間(49)からフロント側マフラ空間(45)に戻った潤滑油が、フロントマフラ(44)の周壁部に形成されている隙間から矢印X1のように流出し、ケーシング(10)の底部の油溜め部に戻るので、油上がりが生じることも防止できる。
さらに、図7(A),(B)に示すように吐出ポートを例えばフロントヘッドにだけ設ける場合(比較例)は、吐出ポートの面積が大きくなり差圧に耐えるために吐出弁の板厚が厚くなって弁の応答性が悪くなり、過圧縮損失が大きくなるのに対して、図6(A),(B)に示す本実施形態のように吐出ポートをフロントヘッドとリアヘッドの両方に形成すると、吐出ポート1つあたりの面積が小さくなるために吐出弁の板厚を薄くでき、弁の応答性がよくなって過圧縮損失が小さくなる。また、図7(A),(B)に示すように吐出ポートが1つであると、平面視で、ピン軸(駆動軸の偏心部)とのシール確保のため、シリンダ室から外に出るポート部分が大きくなるから、シリンダ室に切り欠きを形成する必要が生じて無効空間が大きくなる(再膨張損失が大きくなる)のに対して、本実施形態では、図6(A),(B)に示すように、平面視でシリンダ室から外に出るポート部分がほとんどないので、シリンダ室に切り欠きを形成する必要が生じず、吐出ポート以外の無効空間がないので再膨張損失も小さくなる。
《発明の実施形態2》
図8に示すように、実施形態2の回転式圧縮機(100)は、ケーシング(110)と圧縮機構(130)と電動機(120)とを備えている。ケーシング(110)は、全密閉型に構成され、該ケーシング(110)内には、電動機(120)と圧縮機構(130)とが収納されている。上記回転式圧縮機(100)は、例えば、空気調和装置の冷媒回路中に設けられ、冷媒を吸入、圧縮して吐出するように構成されている。
ケーシング(110)は、円筒状の胴部(111)と、この胴部(111)の上下の端部にそれぞれ固定された鏡板(112,113)とによって構成されている。胴部(111)には、下方寄りの所定の位置に、この胴部(111)を貫通する吸入管(114)が設けられている。一方、上部の鏡板(112)には、ケーシング(110)の内外を連通する吐出管(115)と、図示しない外部電源に接続されて電動機(120)に電力を供給するターミナル(116)とが設けられている。ケーシング(110)内の上部側に電動機(120)が配置され、下部側に圧縮機構(130)が配置されている。
電動機(120)は、ステータ(121)とロータ(122)と駆動軸(123)とを備えている。ステータ(121)は、圧縮機構(130)の上方の位置でケーシング(110)の胴部(111)に固定されている。ロータ(122)は、ステータ(121)の内側に配置され、駆動軸(123)が内嵌されている。駆動軸(123)は、ロータ(122)の回転に伴って回転するようにロータ(122)に固定されている。また、駆動軸(123)は、上方から下方に向かって順に連結された主軸部(124)と偏心部(125)と副軸部(126)とを有している。主軸部(124)と副軸部(126)とは軸心が一致する一方、偏心部(125)は、主軸部(124)及び副軸部(126)の軸心から所定量だけ偏心している。主軸部(124)は、副軸部(126)よりも大径に形成され、偏心部(125)は、主軸部(124)よりも大径に形成されている。副軸部(126)の下端部には、ケーシング(110)の底部に形成される油溜め部の潤滑油に浸漬された遠心ポンプ(127)が設けられている。遠心ポンプ(127)は、上記駆動軸(123)の回転に伴って潤滑油を駆動軸(123)内の給油路(図示省略)へ汲み上げた後で、圧縮機構(130)の各摺動部へ供給する。
図9〜図11に示すように、圧縮機構(130)は、シリンダ(131)と、ピストン(132)と、フロントヘッド(133)と、リアヘッド(134)とを備えている。フロントヘッド(133)とシリンダ(131)とリアヘッド(134)とは、この順で上側から下側へ積層され、軸方向に延びる複数のボルト(図示省略)によって締結されている。符号(160)は通しボルト用のボルト穴であり、符号(161)は位置決めボルト用のネジ穴である。
上記駆動軸(123)は、上記圧縮機構(130)を上下に貫通している。フロントヘッド(133)とリアヘッド(134)には、駆動軸(123)の主軸部(124)と副軸部(126)とをそれぞれ支持する軸受け部(133b,134b)が形成されている。
図10に示すように、シリンダ(131)は、筒状に形成され、内周面形状が非円形に形成されている。シリンダ(131)は、駆動軸(123)の偏心部(125)の外周を覆うように設けられ、上端がフロントヘッド(133)によって閉塞される一方、下端がリアヘッド(134)によって閉塞されている。このような構成により、シリンダ(131)と偏心部(125)との間には、シリンダ室(135)が形成されている。該シリンダ室(135)には、該シリンダ室(135)の中で偏心回転するように、上記駆動軸(123)の偏心部(125)に摺動自在に外嵌されたピストン(132)が収容されている。また、シリンダ(131)とケーシング(110)の間が油抜き通路(129)になっている。
ピストン(132)は、筒状のピストン本体(132a)と、ピストン本体(132a)の外周面の1箇所から径方向外側に突出して延びる板状のブレード(132b)とを有している。ピストン本体(132a)とブレード(132b)とは、一体に形成されている。ピストン本体(132a)は、駆動軸(123)の偏心部(125)に摺動自在に外嵌され、駆動軸(123)の回転に伴ってシリンダ室(135)の内部において偏心部(125)と共に偏心回転する。一方、ブレード(132b)は、後述するブッシュ(151,152)を介してシリンダ(131)に揺動可能に保持されている。
ピストン(132)のピストン本体(132a)は、外周面形状が非円形(円形を基にして変形した異形形状)であって、いわゆる卵形に形成されている。ピストン本体(132a)の外周面は、ブレード(132b)に対して図10の右側(吸入側)の部分が、左側(吐出側)の部分よりも突出するように、円弧の組み合わせに基づいて形成されている。
上記ピストン(132)は、卵形のピストン本体(132a)の外周面が、シリンダ(131)の内周面とある一点において微小隙間となるように近接する(ピストン本体(132a)の外周面とシリンダ(131)の内周面とが実質的に接触する状態であり、以下の説明では、単に「接触」と称する)ように構成されている。
一方、シリンダ(131)の内周面形状は、円弧を組み合わせた単なる卵形のピストン(132)とは異なり、該ピストン(132)の揺動時における該ピストン(132)の外周面の包絡線に基づいた形状に形成されている。つまり、シリンダ(131)の内周面は、ピストン(132)の動作に合うように、特に吸入側の部分が、楕円形を基にして該ピストン(132)の揺動時の傾斜角度分だけ変形させた特殊な曲面形状に形成されている。
言い換えると、上記ピストン(132)の外周面及びシリンダ(131)の内周面は、実質的に全体にわたって接線の傾きが連続的に変化するとともに、その接線の傾きがピストン(132)側とシリンダ(131)側とで一致するように形成されている。この構成において「実質的に全体にわたって」としているのは、逆に言うと、ピストンの動作に影響のない範囲であれば部分的には接線の傾きが連続的に変化していなくてもよいことを意味しており、例えば後述の吸入ポート(141)と吐出ポート(142,146)の間など、実質的にシリンダ室(135)を構成しない範囲については、必ずしも接線の傾きが連続的に変化していなくてもよい。
そして、上記ピストン(132)の外周面形状及びシリンダ(131)の内周面形状は、これらの形状を単なる円形としたときよりも、ピストン(132)の動作時の圧縮行程が短くなり、吐出行程が長く短くなる形状に形成されている。言い換えると、ピストン(132)の外周面形状及びシリンダ(131)の内周面形状は、ピストン(132)が、その揺動中に下死点(図12(C)参照)に位置したときに、ブレード(132b)に対して吸入側に位置する低圧室(135a)の容積が、ブレード(132b)に対して吐出側に位置する高圧室(135b)の容積よりも大きくなる形状に形成されている。
一方、上記シリンダ(131)には、駆動軸(123)の軸方向と平行に断面円形状のブッシュ孔(131a)が貫通形成されている。ブッシュ孔(131a)は、シリンダ(131)の内周面側に形成され、且つ周方向の一部分がシリンダ室(135)と連通するように形成されている。ブッシュ孔(131a)の内部には、断面が略半円形状の一対のブッシュ(151,152)が挿入されている。ブッシュ(151,152)は、シリンダ室(135)内の吸入側に配設される吸入側ブッシュ(151)と、シリンダ室(135)内の吐出側に配設される吐出側ブッシュ(152)とから構成されている。そして、ピストン(132)のブレード(132b)は、これらのブッシュ(151,152)を介してシリンダ(131)のブッシュ孔(131a)に挿入されている。
両ブッシュ(151,152)は、フラットな面同士が対向するように配置されている。そして、両ブッシュ(151,152)の対向面の間のスペースがブレード溝(136)として形成されている。ブレード溝(136)には、ピストン(132)のブレード(132b)が挿入されている。ブッシュ(151,152)は、ブレード溝(136)にブレード(132b)を挟んだ状態で、ブレード(132b)がその面方向にブレード溝(136)を進退するように構成されている。同時に、ブッシュ(151,152)は、ブレード(132b)と一体的にブッシュ孔(131a)の中で揺動するように構成されている。
なお、この実施形態では両ブッシュ(151,152)を別体とした例について説明したが、両ブッシュ(151,152)は、一部で連結することにより一体にしてもよい。
上記構成において駆動軸(123)が回転すると、ピストン(132)は、ブレード(132b)がブレード溝(136)内を進退しながら、シリンダ側の一点(ブッシュ孔(131a)の中心)を軸心として揺動する。この揺動動作により、ピストン(132)とシリンダ(131)の内周面との接触点が図12(A)から図12(D)へ順に時計周り方向へ移動する。このとき、上記ピストン(132)(ピストン本体(132a))は駆動軸(123)の周りで揺動運動を行う。
上記ブレード(132b)は、例えば図12(C)に示すように、シリンダ室(135)を低圧室(135a)と高圧室(135b)に区画している。また、シリンダ(131)には、後述するフロントヘッド(133)に形成された吸入ポート(吸入通路)(141)とシリンダ室(135)とを連通する吸入連通路(137)が形成されている。吸入ポート(141)と吸入連通路(137)との構成については後述する。
図9に示すように、フロントヘッド(133)は、シリンダ室(135)の上端を閉塞する板状の本体部(133a)と、駆動軸(123)の主軸部(124)を支持する軸受け部(133b)とを有している。本体部(133a)と軸受け部(133b)とは一体に形成されている。フロントヘッド(133)の本体部(133a)には、低圧室(135a)に連通する吸入ポート(141)が形成されている。また、フロントヘッド(133)の本体部(133a)には、高圧室(135b)に連通するフロント側吐出ポート(142)が駆動軸(135)の軸心と平行な方向に沿って形成されている(図11参照)。フロント側吐出ポート(142)は、フロント側吐出弁(143)によって開閉されるように構成されている。
上記フロントヘッド(133)の上面には、フロント側吐出ポート(142)及びフロント側吐出弁(図示省略)を覆うようにフロントマフラ(144)が取り付けられている。フロントマフラ(144)は、その内部に区画されるフロント側マフラ空間(145)が、上部の吐出開口(図示省略)を通じてケーシング(110)の内部空間に連通するように、開放型に形成されている。
上記リアヘッド(134)は、シリンダ室(135)の下端を閉塞する板状の本体部(134a)と、駆動軸(123)の副軸部(126)を支持する軸受け部(134b)とを有している。本体部(134a)と軸受け部(134b)とは一体に形成されている。リアヘッド(134)の本体部(134a)には、高圧室(135b)に連通するリア側吐出ポート(146)が駆動軸(135)の軸心と平行な方向に沿って形成されている(図10参照)。このリア側吐出ポート(146)は、リア側吐出弁(147)によって開閉されるように構成されている。本実施形態では、フロント側吐出ポート(142)とリア側吐出ポート(146)は、断面積が互いに等しいポートとして形成されている。
上記リアヘッド(134)の下面には、リア側吐出ポート(146)及びリア側吐出弁(図示省略)を覆うようにリアマフラ(148)が取り付けられている。リアマフラ(148)は、その内部にリア側マフラ空間(149)を区画するものであって、密閉型に形成されている。
このように、本実施形態の圧縮機構(130)には、フロントヘッド(133)とリアヘッド(134)の両方に吐出ポート(142,146)が形成されている。このように圧縮機構(130)の上下両側に吐出ポート(142,146)を形成しているのは、吐出面積を大きくすることにより、圧縮機構(130)を高速で回転する場合でも圧力損失が大きくなるのを抑えられるためである。
また、上記圧縮機構(130)には、フロント側マフラ空間(145)とリア側マフラ空間(149)を連通する複数の連通路(150)が形成されている。本実施形態では、圧縮機構(130)には、第1連通路(150a)と第2連通路(150b)と第3連通路(150c)と第4連通路(150d)との4本の連通路(150)が形成されている。第1連通路(150a)〜第4連通路(150d)は、それぞれがシリンダ(131)とフロントヘッド(133)とリアヘッド(134)とを貫通している。4本の連通路(150a〜150d)の合計断面積は、フロント側マフラ空間(145)の圧力とリア側マフラ空間(149)の圧力が実質的に等しくなるように定められている。
この実施形態において、上記4本の連通路(150)は、面積が異なる2種類(複数種類)の連通路(150a〜150d)から構成されている。具体的には、連通路(150a〜150d)は、第1連通路(150a)と第4連通路(150d)が相対的に断面積の小さな小径連通路(例えば直径が6mm)であり、第2連通路(150b)と第3連通路(150c)が小径連通路よりも断面積の大きな大径連通路(例えば直径が8mm)になっている。そして、ピストン(131)の長軸側に小径連通路が配置され、ピストン(131)の短軸側に大径連通路が配置されている。
この実施形態2において、各連通路(150)の合計断面積は、リア側吐出ポート(146)の断面積の約7倍の断面積になるように定められている。断面積をこの値に定めた理由は以下の通りである。
まず、図13に示すように、吐出ポート(142,146)における冷媒が、クランク角度(上死点を0°としたときのピストン(132)の回転角度)が200°を超えた辺りから270°を超えた辺りまでの狭い範囲で速く流れ、この狭い範囲で短時間だけ冷媒の質量流速が速くなるのでリア側吐出ポート(146)のように再膨張損失に無関係な連通路(150)の断面積は大きくして抵抗を小さくし、フロント側マフラ空間(145)とリア側マフラ空間(149)の圧力差を小さくするためである。
具体的には、図14に示す連通路面積拡大効果に基づいて上記の値を定めている。図14(A)は、運転条件が中間条件である場合の連通路面積拡大効果を示すグラフ、図14(B)は、運転条件が定格条件である場合の連通路面積拡大効果を示すグラフである。図示するように、連通路(150)とリア側吐出ポート(146)の面積比が2倍程度になるまでは、損失がほぼ一定の割合で小さくなり、2倍以上になると損失低減効果が緩やかになっている。このことから、連通路(150)の断面積をリア側吐出ポート(146)の断面積の2倍以上にすると、損失を比較的小さく抑えられることがわかる。また、中間条件でも定格条件でも、連通路(150)とリア側吐出ポート(146)の面積比を約3倍にするとより好ましい結果が得られ、その面積比を約7倍にすると、それ以上面積比を大きくしても損失低減効果がほぼ一定になることから、その面積比を7倍にすると好ましいことがわかる。このことから、本実施形態では、上記面積比を7倍に設定している。
一方、上記吸入ポート(141)は、径方向通路(141a)と軸方向通路(141b)とを有している。径方向通路(141a)は、シリンダ(131)の外周面から径方向の内側向きに延びている。一方、軸方向通路(141b)は、径方向通路(141a)の内端部からシリンダ室(135)に向かって駆動軸(123)に沿って延びている。
吸入連通路(137)は、軸方向から視てシリンダ(131)の軸方向通路(141b)に重なる部分を切り欠くことによって形成されている。吸入連通路(137)は、上流側端部が軸方向通路(141b)に連通し、下流側端部がシリンダ室(135)の外周部に位置するように形成されている。また、吸入連通路(137)は、シリンダ室(135)に対向する側壁面(137a)が、シリンダ室(135)の外側において、軸方向通路(141b)から軸方向に離れるほど径方向の内側に位置する傾斜面となるように形成されている。
−運転動作−
次に、この回転式圧縮機(100)の運転動作について説明する。
電動機(120)を起動してロータ(122)が回転すると、該ロータ(122)の回転が駆動軸(123)を介して圧縮機構(130)のピストン(132)に伝達される。これによって、ピストン(132)のブレード(132b)がブッシュ(151,152)に対して往復直線運動の摺動を行い、且つブッシュ(151,152)が上記ブッシュ孔(131a)内で往復回転運動を行うことで、ピストン(132)はブレード(132b)がブッシュ孔(131a)を中心として揺動しながらピストン本体(132a)がシリンダ室(135)内で駆動軸(123)を中心として公転し、圧縮機構(130)が所定の圧縮動作を行う。
具体的に、図12において、(A)図に示す上死点から回転がわずかに進み、吸入連通路(137)のすぐ右側でシリンダ(131)の内周面とピストン(132)の外周面とが一点で接触する吸入閉じ切り状態から説明する。
この状態でシリンダ室(135)の低圧室(135a)の容積が概ね最小となる。ピストン(132)が図の右回りに公転すると(図12(B)参照)、低圧室(135a)の容積が徐々に拡大し、該低圧室(135a)に低圧の冷媒ガスが吸入連通路(137)を介して吸入される。この吸入行程において、ピストン(132)が図12(C)に示す下死点に位置したとき、ブレード(132b)に対して吸入側に位置する低圧室(135a)の容積はブレード(132b)に対して吐出側に位置する高圧室(135b)の容積よりも大きくなる。
そして、ピストン(132)が公転を続け(図12(D)参照)、低圧室(135a)の容積がさらに拡大しながらシリンダ(131)の内周面とピストン(132)の外周面との接触位置が吸入連通路(137)にまで達すると(図12(A)参照)、この低圧室(135a)は、冷媒が圧縮される高圧室(135b)となり、ブレード(132b)と接触位置を隔てて新たな低圧室(135a)が形成される。
また、上記ピストン(132)がさらに公転すると(図12(B)参照)、低圧室(135a)への冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(135b)の容積が減少し、該高圧室(135b)では冷媒が圧縮される。高圧室(135b)の圧力が圧縮機構(130)の外側空間の圧力以上に達すると、高圧室(135b)の高圧冷媒によってフロント側吐出弁及びリア側吐出弁(図示省略)が開き、高圧冷媒が高圧室(135b)からフロント側吐出ポート(142)及びリア側吐出ポート(146)を介して吐出される。この動作が繰り返される。
フロント側吐出ポート(142)から吐出された冷媒は、開放型のフロントマフラ(144)内に形成されたフロント側マフラ空間(145)を経て、ケーシング(110)内の空間へ流出する。また、リア側吐出ポート(146)から吐出された冷媒は、密閉型のリアマフラ(148)内に形成されたリア側マフラ空間(149)から断面積が異なる複数種類の連通路(150)を通ってフロント側マフラ空間(145)の冷媒と合流し、ケーシング(110)内の空間へ流出する。
本実施形態では、連通路(150)の合計断面積がリア側吐出ポート(146)の断面積の約7倍で十分に大きいため、リア側マフラ空間(149)からフロント側マフラ空間(145)へ流れる冷媒の抵抗が小さく、圧力損失が小さい。そして、本実施形態では、フロント側マフラ空間(145)の圧力とリア側マフラ空間(149)の圧力が実質的に同じになる。したがって、フロント側吐出ポート(142)から吐出される冷媒の循環量とリア側吐出ポート(146)から吐出される冷媒の循環量が等しくなり、フロント側吐出弁(143)とリア側吐出弁(147)の挙動が実質的に同じになるので、フロント側吐出弁(143)だけが閉じ遅れることはなく、圧力脈動が大きくなるのを防止できる。
また、この実施形態2では、ピストン(132)を吸入側が吐出側より突出した非円形の卵形にして、ピストン(132)が下死点に位置したときに低圧室(135a)の容積が高圧室(135b)の容積よりも大きくなるようにしている。このことから、その容積変化量は、ピストン(132)が円形の場合だと下死点の位置で50%になるのに対して、本実施形態では下死点に達するよりも前に50%に到達する。このため、本実施形態の非円形のピストン(132)では、円形ピストンの場合よりもシリンダ室(135)の圧力が早く吐出圧に達し、吐出行程が長い時間で行われる。その結果、吐出ガスの流速が遅くなるので、特にフロント側吐出弁(43)の閉じ遅れが生じにくくなる。
−実施形態2の効果−
本実施形態によれば、フロント側吐出弁(143)とリア側吐出弁(147)の挙動を実質的に同じにしてマフラ空間における圧力脈動を抑えることが可能になるのに加えて、複数の連通路(150)を、面積が異なる複数種類の連通路(150a,150d)(150b,150c)で構成したことにより、圧縮機構(2)の具体的な構成に合わせて最適な面積の連通路を配置できる。そのため、圧縮機構(20)の設計の自由度を高められる。特に、ピストン(132)とシリンダ室(135)が非円形の卵形である構成において、シリンダの径方向の肉厚が小さいピストン(132)の長軸側に断面積の小さな小径連通路(150a,150d)を設け、シリンダの径方向の肉厚が大きいピストン(132)の短軸側に断面積の大きな大径連通路(150b,150c)を設けることにより、面積の異なる連通路(150)を効率よく配置できるから、油抜き通路(129)を確保しながらケーシング(110)の胴体の小径化が可能になる。
また、本実施形態によれば、ピストン(132)を非円形の卵形にしたことにより、特にフロント側吐出弁(143)の閉じ遅れを生じにくくすることができるから、フロント側吐出弁(143)とリア側吐出弁(147)の挙動を同じにしやすくなり、マフラ空間における圧力脈動を確実に抑えることが可能になる。また、吐出流速を遅くできるので、ピーク圧が抑えられることでも脈動低減効果が高められるし、冷媒の過圧縮を抑えることにより動力損失を小さくできるから圧縮機の効率が低下するのも防止できる。
また、本実施形態では、シリンダ室(135)の内周面形状を、ピストン(132)の動作時の包絡線に基づいて形成している。これに対し、例えばピストン(132)の外周面と同様にシリンダ室(135)の内周面も円弧の組み合わせにすると、ピストン(132)の揺動によりピストン(132)とシリンダ室(135)とで円弧の接線の傾きが一致しなくなる部分が生じ、シール不能になったり動作不可になったりするが、この実施形態2によれば、シリンダ室(135)側を上記形状とすることにより、ピストン(132)の円滑な動作と優れたシール性を保証できる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
例えば、上記実施形態では、本発明を揺動ピストン式圧縮機に適用した例を説明したが、本発明はローリングピストン式圧縮機に適用してもよい。ローリングピストン式圧縮機は、ブレードと環状のピストンとが別部材で、ブレードをピストンの外周面に圧接させながら、ピストンをシリンダ室の中で公転させることにより圧縮動作が行われる圧縮機である。
また、上記実施形態1では連通路(50)を3本設け、実施形態2では連通路(150)を4本設けているが、それより多くしてもよい。
また、実施形態1,2では、1シリンダ型の圧縮機構(20,130)に本発明を適用した例を説明したが、シリンダとピストンの組を上下に2つ重ねて構成する2シリンダ型の圧縮機構に本発明を適用してもよい。
また、本発明は、上下のピストンに一般に180°の位相差が付けられてフロント側とリア側で吐出タイミングの異なる2シリンダ型の圧縮機構に適用しても良いが、2シリンダ型の圧縮機構に比べて、フロント側吐出ポート(42,142)とリア側吐出ポート(46,146)から冷媒が同じタイミングで吐出される1シリンダ型の圧縮機構の方が、フロント側マフラ空間(45,145)の脈動を抑える効果がより高くなる。特に、1シリンダ型の圧縮機構では、連通路(50,150)の位置設定により、リア側吐出ポート(46,146)から流出して各連通路(50,150)に入るガスの脈動の位相をずらせるので、フロント側マフラ空間(45,145)で位相の異なる脈動を干渉させることにより、高い脈動低減効果を得ることができる。
また、上記実施形態1では、各連通路(50)がリアマフラ(48)の周壁部(48a)に沿う構成として、圧縮機構(20)を軸方向に沿って視たときに、周壁部(48a)に連通路(50)が内接する配置について説明したが、連通路(50)が周壁部(48a)に内接する位置よりもわずかに径方向外側に位置して周壁部(48a)と連通路(50)がオーバーラップする配置にしてもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。