JP6125273B2 - 窒化ホウ素成形体、その製造方法及び用途 - Google Patents

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Description

本発明は、窒化ホウ素成形体及び該窒化ホウ素成形体を用いた放熱部材に関するものである。
パワーデバイス、両面放熱トランジスタ、サイリスタ、CPU等の発熱性電子部品においては、使用時に発生する熱を如何に効率的に放熱するかが重要な課題となっている。従来から、このような放熱対策としては、(1)発熱性電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層を高熱伝導化する、(2)発熱性電子部品又は発熱性電子部品を実装したプリント配線板を電気絶縁性の熱インターフェース材(ThermalInterface Materials)を介してヒートシンクに取り付ける、ことが一般的に行われてきた。プリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材としては、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂にセラミックス粉末を添加して硬化させた放熱部材が使用されている。
近年、発熱性電子部品内の回路の高速・高集積化、及び発熱性電子部品のプリント配線板への実装密度の増加に伴って、電子機器内部の発熱密度は年々増加している。そのため、従来にも増して高い熱伝導率を有する放熱部材が求められてきている。さらに、従来のような厚み方向又は面方向の一方向だけの放熱だけではなく、厚み方向及び面方向への両方向への高い放熱性が求められている。
以上のような背景により、(1)高熱伝導率、(2)高絶縁性等、電気絶縁材料として優れた性質を有している六方晶窒化ホウ素(hexagonal Boron Nitride)粉末が注目されている。しかし、窒化ホウ素は、面内方向(a軸方向)の熱伝導率が400W/(m・K)であるのに対して、厚み方向(c軸方向)の熱伝導率が2W/(m・K)であり、結晶構造と鱗片形状に由来する熱伝導率の異方性が大きい。さらに、窒化ホウ素粉末を樹脂に充填すると、粒子同士が同一方向に揃って配向する。そのため、例えば、熱インターフェース材の製造時に、窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)と熱インターフェース材の厚み方向が垂直になり、窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)の高熱伝導率を十分に活かすことができなかった。
特許文献1では、熱伝導性シートに接する部材の熱伝導性シート側の面に、所定のRzを有する凹凸を形成することで、熱伝導性シートをパワーモジュールに組み込んだ際に、熱伝導性シートに接する部材との界面付近において熱伝導性シート中の鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート厚み方向と概ね一致するように配向させる方法が提案されている。しかしながら、特許文献1の方法では熱伝導性シート中の鱗片状窒化ホウ素をランダムに配向させることは困難であり、熱伝導率の異方性は低減できなかった。
特許文献2では、少なくともフォルステライト及び窒化ホウ素を主成分として含み、窒化ホウ素が一方向に配向している焼結体であるセラミックス部材、セラミックス部材を用いて形成されるプローブホルダ、及びセラミックス部材の製造方法が提案されている。しかしながら、特許文献2の方法では鱗片状窒化ホウ素の配向度がI.O.P.(The Index of Orientation Performance)が0.07以下と配向度が大きいため、熱伝導率の異方性は低減できなかった。
特許文献3では、形状または熱伝導率の異方性の大きい充填材を、熱硬化性樹脂材料に混合して分散させ、前記熱硬化性樹脂を硬化させ、硬化した熱硬化性樹脂を粉砕し、充填材の分散した熱硬化性樹脂を熱可塑性樹脂と混合して成形体用樹脂組成物とし、該樹脂組成物を加熱して軟化させ所望の形状に成形する方法が提案されている。しかしながら、特許文献3の方法では、熱伝導率は最高5.8W/(m・K)と低いことに加え、一旦作成した熱硬化性樹脂を粉砕し、再度混合・軟化させる過程を経るため、不純物の混入や樹脂の軟化状態の均一性に起因する信頼性の観点で課題があった。
特許文献4では、樹脂成形を行う際の金型温度を高温化することで、無機フィラーの排熱方向をランダムにする方法が提案されている。しかしながら、特許文献4の方法では、無機フィラーの配向制御が不十分であり、熱伝導率の異方性低減が不十分であった。
特許文献5では、窒化ホウ素の製造条件を調整することで、鱗片状窒化ホウ素粒子が集合した松ぽっくり状の窒化ホウ素粉末を製造する方法が提案されている。しかしながら、特許文献5の方法では、熱伝導性シートを作成する工程の、コーティング工程や加熱プレス工程で松ぽっくり状の窒化ホウ素集合粒子の一部が配向してしまい、熱伝導率の異方性低減が不十分であった。
特許文献6では、窒化ホウ素焼結体及び複合焼結体にセラミックス粉スラリーを含浸してダストフリーとすることが提案されている。しかしながら、特許文献6の窒化ホウ素焼結体及び複合焼結体は一般に粉末成型やホットプレスを経て製造されているため窒化ホウ素の配向は避けらず、熱伝導率に異方性があった。
特許文献7では、黒鉛にシリコンや窒化ホウ素を主成分とする含浸用酸化防止液を含浸し耐酸化性を向上することが提案されているが、窒化ホウ素を対象とした技術は見当たらず、待望されている。
従来技術の放熱部材は、窒化ホウ素等のセラミックス粉末と樹脂の混合工程、押し出し成形工程やコーティング工程、加熱プレス工程等を経て製造されているため、窒化ホウ素結晶の配向を避けることが困難であるため、熱伝導率の異方性低減には限界があった。球状粒子である酸化アルミニウム粉末や酸化ケイ素粉末等を用いると配向の問題は起きにくいが、これらセラミックス粉末は熱伝導率が20〜30W/mK程度と窒化ホウ素に比べて低いことに加え、粒子が硬質であるため装置や金型を摩耗させる問題があった。また、従来技術で製造される放熱部材では、熱伝導率を高めるために窒化ホウ素等のセラミックス粉末の充填量を60体積%程度まで増加させる必要があるが、本手法はコストの増大を招くため、放熱部材のコストと性能と両立することが困難であった。
これらの課題に対し、特定のカルシウム含有率、窒化ホウ素の黒鉛化指数を有し、平均球形度を適切に制御した凝集窒化ホウ素粒子からなる、窒化ホウ素結晶の配向度が小さく、窒化ホウ素粒子間の接触性を高めた窒化ホウ素成形体に、樹脂を含浸して放熱部材を製造することで、窒化ホウ素の充填量が比較的低い場合においても、熱伝導率に優れ、熱伝導率の異方性が小さい放熱部材を作成することが可能である。しかし、このような観点に立った技術の提案は今まで見られない。
特開2011−142129号 特開2010−275149号 特開2008−248048号 特開2011−20444号 特開平9−202663号 特開2009−263147号 特開昭53−18613号
本発明は、パワーデバイスなどの発熱性電子部品の放熱部材として好適に用いられ、特にプリント配線板の絶縁層、熱インターフェース材及び自動車用両面放熱パワーモジュールに用いられる、熱伝導率に優れ、熱伝導率の異方性が小さい窒化ホウ素成形体及び該窒化ホウ素成形体を用いた放熱部材を提供することにある。
上記の課題を解決するために、本発明においては、以下の手段を採用する。
(1)成形体の高さ方向に平行方向から測定した面のX線回析の(002)回析線と(100)回析線との強度比、および上記成形体の高さ方向に垂直方向から測定した面のX線回析の(002)回析線と(100)回析線との強度比から、下式
I.O.P.=(I100/I002)par./(I100/I002)perp.
で算出されるI.O.P.(The Index of Orientation Performance)で表される配向度が0.6〜1.4であり、カルシウムの含有率が500〜5000ppm、粉末X線回折法による黒鉛化指数(GI、GraphitizationIndex)が0.8〜4.0であることを特徴とする窒化ホウ素成形体。
(2)窒化ホウ素成形体中の窒化ホウ素凝集粒子が、鱗片形状の一次粒子からなる凝集体であり、窒化ホウ素凝集粒子の平均球形度0.7以上、平均粒径が20μm以上であることを特徴とする前記(1)に記載の窒化ホウ素成形体。
(3)前記(1)又は(2)に記載の窒化ホウ素成形体に、樹脂を含浸してなることを特徴とする窒化ホウ素樹脂成形体。
(4)酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウムの群から選ばれた1種又は2種以上のセラミックス粉末を樹脂に含有することを特徴とする前記(3)に記載の窒化ホウ素樹脂成形体。
(5)前記(3)または(4)に記載の窒化ホウ素樹脂成形体を用いることを特徴とする放熱部材。
(6)前記(5)に記載の放熱部材を用いることを特徴とする自動車用両面放熱パワーモジュール。
(7)鱗片形状の一次粒子からなる凝集体であり、凝集粒子の平均球形度が0.7以上、平均粒径が20μm以上である窒化ホウ素粉末を、窒素又はヘリウム又はアルゴン雰囲気中で、1600℃以上で1時間以上焼結させることを特徴とする前記(1)に記載の窒化ホウ素成形体の製造方法。
(8)鱗片形状の一次粒子からなる凝集体であり、凝集粒子の平均球形度が0.7以上、平均粒径が20μm以上である窒化ホウ素粉末を、窒素又はヘリウム又はアルゴン雰囲気中で、1600℃以上で1時間以上焼結させた窒化ホウ素成形体に、真空含浸、3〜300MPaでの加圧含浸、又はそれらの組合せで含浸を行うことを特徴とする前記(3)に記載の窒化ホウ素樹脂成形体の製造方法。
本発明により、熱伝導率に優れ、熱伝導率の異方性が小さい窒化ホウ素成形体及び該窒化ホウ素成形体を用いた放熱部材が得られるという効果を奏する。
本発明では、窒化ホウ素の一次粒子を「窒化ホウ素一次粒子」、一次粒子同士が焼結により結合した状態で2個以上集合した状態を「窒化ホウ素凝集粒子」と定義する。焼結による結合は、走査型電子顕微鏡(例えば「JSM−6010LA」(日本電子社製))を用いて、窒化ホウ素粒子の断面の一次粒子同士の結合部分を観察することにより評価することができる。観察の前処理として、窒化ホウ素凝集粒子を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行った。観察倍率は1000倍である。また、本発明では、窒化ホウ素からなる成型体を「窒化ホウ素成型体」、樹脂を含浸させた窒化ホウ素成型体を「窒化ホウ素樹脂成形体」と定義する。
本発明の窒化ホウ素成形体及び該窒化ホウ素成形体を用いた放熱部材は、特定のI.O.P.(The Index of Orientation Performance)で表される配向度、カルシウム含有率、黒鉛化指数(GI)、窒化ホウ素凝集粒子の平均球形度及び平均粒径を有する窒化ホウ素成形体に、樹脂を含浸することにより、従来の技術では達成できなかった、熱伝導率に優れ、熱伝導率の異方性が小さい窒化ホウ素成形体及び該窒化ホウ素成形体を用いた放熱部材を得ることができるものである。
本発明の窒化ホウ素成形体は、I.O.P.(The Index of Orientation Performance)で表される配向度が0.6〜1.4、カルシウムの含有率が500〜5000ppm、黒鉛化指数(GI)が0.8〜4.0であり、窒化ホウ素凝集粒子の平均球形度0.7以上、平均粒径が20μm以上の窒化ホウ素からなる。このように設計された窒化ホウ素成形体はこれまで存在せず、これに樹脂を含浸することにより、高い熱伝導率と熱伝導率の異方性の小ささを確保するために非常に重要な因子である。
また、本発明の窒化ホウ素成形体を用いた放熱部材のもう一つの効果は、窒化ホウ素充填率を従来技術のように60体積%程度まで増大させなくても、7W/(m・K)以上の高い熱伝導率を実現できたことである。本発明者らは、窒化ホウ素の充填率が低い場合においても高熱伝導率を発現させる方法について鋭意検討した結果、特定の窒化ホウ素凝集粒子を焼結させて窒化ホウ素の結晶性を高めると同時に熱伝導ネットワークを形成させた窒化ホウ素成形体に、樹脂を含浸することにより目的を達成できることを見出したものである。
<配向度>
窒化ホウ素の熱伝導率の異方性を小さくするためには、窒化ホウ素成形体における窒化ホウ素結晶の配向度を小さくすることが必要である。本発明の窒化ホウ素成形体において、I.O.P.(The Index of Orientation Performance)で表される配向度が0.6〜1.4である。I.O.P.が0.6〜1.4の範囲以外では、窒化ホウ素成形体中の窒化ホウ素結晶が特定方向に配向するため、窒化ホウ素樹脂成形体の熱伝導率の異方性が大きくなる。配向度は、原料であるアモルファス窒化ホウ素粉末及び六方晶窒化ホウ素粉末粒子の配合量、及び窒化ホウ素凝集粒子の平均球形度によって制御することができる。
<配向度の定義及び評価方法>
窒化ホウ素結晶のI.O.P.は、成形体の高さ方向に平行方向から測定した面のX線回析の(002)回析線と(100)回析線との強度比、および上記成形体の高さ方向に垂直方向から測定した面のX線回析の(002)回析線と(100)回析線との強度比から、下式
I.O.P.=(I100/I002)par./(I100/I002)perp.から算出され、I.O.P.=1の場合は、試料中の窒化ホウ素結晶の方向がランダムであることを意味する。I.O.P.が1より小さいということは、窒化ホウ素成形体中の窒化ホウ素結晶の(100)面、すなわち窒化ホウ素結晶のa軸が、高さ方向と垂直に配向していることを意味し、I.O.P.が1を超えると、窒化ホウ素成形体中の窒化ホウ素結晶の(100)面、すなわち窒化ホウ素結晶のa軸が、高さ方向と並行に配向していることを意味する。一般に、従来技術によって製造された窒化ホウ素焼結体のI.O.P.は0.5以下又は2以上である。I.O.P.の測定は、例えば、「D8ADVANCE Super Speed」(ブルカー・エイエックスエス社製)を用いて測定できる。測定は、X線源はCuKα線を用い、管電圧は45kV、管電流は360mAである。
<カルシウムの含有率及びその評価方法>
本発明の窒化ホウ素成形体において特に重要なことは、カルシウムの含有率を500〜5000ppmとしたことである。カルシウムの含有率が500ppmより小さいと、窒化ホウ素成形体の焼結が十分進まずに粉体化するため、窒化ホウ素成形体として取り出すことができない。カルシウムの含有率が5000ppmより大きいと、窒化ホウ素樹脂成形体の熱伝導率が低下する。さらに好ましい範囲は、1000〜4500ppmである。カルシウムの含有率は、例えば、波長分散型蛍光X線分析装置「ZSX PrimusII」(RIGAKU社製)を用いて測定できる。測定の前処理として、窒化ホウ素成形体をメノウ乳鉢を用いて粉砕し、得られた窒化ホウ素粉末をプレス成型した。測定時は、X線管球はRh管球を用い、X線管電力は3.0kW、測定径はΦ=30mmである。
<黒鉛化指数(GI)>
黒鉛化指数(GI:Graphitization Index)はX線回折図の(100)面、(101)面及び(102)面のピークの積分強度比すなわち面積比を、GI=〔面積{(100)+(101)}〕/〔面積(102)〕、によって求めることがでる(J.Thomas,et.al,J.Am.Chem.Soc.84,4619(1962))。完全に結晶化したものでは、GIは1.60になるとされているが、高結晶性でかつ粒子が十分に成長した鱗片形状の六方晶窒化ホウ素粉末の場合、粒子が配向しやすいためGIはさらに小さくなる。すなわち、GIは鱗片形状の六方晶窒化ホウ素粉末の結晶性の指標であり、この値が小さいほど結晶性が高い。本発明の窒化ホウ素成形体においては、GIは0.8〜4.0が好ましい。GIが4.0より大きいということは、窒化ホウ素一次粒子の結晶性が低いことを意味し、窒化ホウ素樹脂成形体の熱伝導率が低下する。また、GIが0.8より小さいということは、窒化ホウ素一次粒子の結晶性が高いことを意味し、窒化ホウ素一次粒子の鱗片形状が発達しすぎているため、凝集構造の維持が難しくなり、窒化ホウ素樹脂成形体の熱伝導率の異方性が大きくなる。GIは原料である六方晶窒化ホウ素粉末粒子の配合量、カルシウム化合物の添加量及び焼成温度によって制御することができる。
<黒鉛化指数(GI)の評価方法>
GIの測定は、例えば、「D8 ADVANCE Super Speed」(ブルカー・エイエックスエス社製)を用いて測定できる。測定の前処理として、窒化ホウ素成形体をメノウ乳鉢を用いて粉砕し、得られた窒化ホウ素粉末をプレス成型した。X線は、成型体の面内方向の平面の法線に対して、互いに対称となるように照射した。測定時は、X線源はCuKα線を用い、管電圧は45kV、管電流は360mAである。
<平均粒径>
窒化ホウ素成形体中の窒化ホウ素凝集粒子の平均粒径が20μm以上である。20μmより小さいと、球形度を維持することが困難となり、結果として窒化ホウ素樹脂成形体の熱伝導率の異方性が大きくなる。平均粒径の上限については特に制限はないが、窒化ホウ素一次粒子は鱗片形状であるため、平均粒径を3mm以上にすることは難しく、上限としては、3mm程度が実際的である。
<平均粒径の定義・評価方法>
平均粒径は、観察の前処理として、窒化ホウ素成形体を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行った。その後、走査型電子顕微鏡、例えば「JSM−6010LA」(日本電子社製)にてSEM像を撮影し、得られた断面の粒子像を画像解析ソフトウェア、例えば「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製)に取り込み、測定することができる。この際の画像の倍率は100倍、画像解析の画素数は1510万画素であった。マニュアル測定で、得られた任意の粒子100個の粒径を求めその平均値を平均粒径とした。
<平均球形度>
本発明の窒化ホウ素成形体においては、窒化ホウ素凝集粒子の平均球形度が0.7以上である。平均球形度が0.7より小さくなると、窒化ホウ素成形体中の窒化ホウ素結晶が配向し易くなり、窒化ホウ素樹脂成形体の熱伝導率の異方性が大きくなる。平均球形度の上限については、特に制限はないが、窒化ホウ素一次粒子は鱗片形状であるため、平均球形度を1.0にすることは難しく、上限としては、0.98程度が実際的である。
<平均球形度の定義・評価方法>
平均球形度は、観察の前処理として、窒化ホウ素成形体を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行った。その後、走査型電子顕微鏡、例えば「JSM−6010LA」(日本電子社製)にてSEM像を撮影し、得られた断面の粒子像を画像解析ソフトウェア、例えば「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製)に取り込み、次のようにして測定することができる。写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。周囲長(PM)に対応する真円の面積を(B)とすると、その粒子の真円度はA/Bとして表示できる。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、PM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、個々の粒子の球形度は、球形度=A/B=A×4π/(PM)2として算出することができる。この際の画像の倍率は100倍、画像解析の画素数は1510万画素であった。マニュアル測定で、得られた任意の粒子100個の球形度を求めその平均値を平均球形度とした。
<各種セラミックス粉末の平均粒径>
樹脂に添加する酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム粉末の平均粒径は、窒化ホウ素凝集粒子に比べて小さいことが好ましい。各種セラミックス粉末の適切な平均粒径は、窒化ホウ素凝集粒子の平均粒径によって変化するが、例えば窒化ホウ素凝集粒子の平均粒径が50μmの場合は、20μm以下が好ましく、10μm以下が更に好ましい。
<セラミックス粉末の平均粒径の定義・評価方法>
セラミックス粉末の平均粒径は、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、累積粒度分布の累積値50%の粒径である。粒度分布測定機としては、例えば「MT3300EX」(日機装社製)にて測定することができる。測定に際しては、溶媒には水、分散剤としてはヘキサメタリン酸を用い、前処理として、30秒間、ホモジナイザーを用いて20Wの出力をかけて分散処理させた。水の屈折率には1.33を用い、窒化ホウ素粉末の屈折率は1.80、酸化アルミニウムの屈折率は1.76、酸化ケイ素は1.45、酸化亜鉛は1.95、窒化ケイ素は2.02、窒化アルミニウムは2.16、水酸化アルミニウムは1.58を用いた。一回当たりの測定時間は30秒である。
<全気孔率及びその評価方法>
本発明の窒化ホウ素成形体において全気孔率は50%以上、特に60%以上であると
使用する窒化ホウ素の量を低減することができるため、窒化ホウ素樹脂成形体の電気
絶縁性及び経済性の観点から一層好ましい。気孔率の測定は、窒化ホウ素成形体の寸法と質量から求めたかさ密度(D)を窒化ホウ素の理論密度(2.28g/cm3)から下式にて求めることができる。
かさ密度(D)=質量/体積
気孔率=1−(D/2.28)
<BN純度及びその評価方法>
更に、本発明の窒化ホウ素成形体においては、そのBN純度が95質量%以上であることが好ましい。BN純度は、窒化ホウ素粉末をアルカリ分解後ケルダール法による水蒸気蒸留を行い、留出液中の全窒素を中和適定することによって測定することができる。
<窒化ホウ素成形体の焼結条件>
更に、本発明の窒化ホウ素成形体は、1600℃以上で1時間以上焼結させて、製造することが好ましい。焼結温度が1600℃より低いと、窒化ホウ素の結晶性が十分向上せず、窒化ホウ素樹脂成形体の熱伝導率が低下する恐れがある。焼結温度の上限については、特に制限はないが、経済性を考慮すると上限としては、2200℃程度が実際的である。また、焼結時間が1時間より小さいと、窒化ホウ素の結晶性が十分向上せず、窒化ホウ素樹脂成形体の熱伝導率が低下する恐れがある。焼結時間の上限については、特に制限はないが、経済性を考慮すると上限としては、30時間程度が実際的である。また、焼結は、窒化ホウ素成型体の酸化を防止する目的で、窒素又はヘリウム又はアルゴン雰囲気下で行うことが好ましい。
<窒化ホウ素成形体焼結時の昇温速度>
更に、本発明の窒化ホウ素成形体の焼結工程おいては、300〜600℃までの昇温速
度を40℃/分以下とすることが好ましい。昇温速度が40℃/分より大きいと、有機バインダーの急激な分解により窒化ホウ素凝集粒子が崩壊して、熱伝導率の熱伝導率の異方性が大きくなる恐れがある。昇温速度の上限については、特に制限はないが、経済性を考慮すると下限としては、5℃/分程度が実際的である。
<放熱部材>
次に、本発明の窒化ホウ素成形体を用いた放熱部材について説明する。本発明の放熱部材は、窒化ホウ素成形体に、樹脂を含浸し、硬化させた窒化ホウ素樹脂成形体を用いることにより、好適に製造することができる。樹脂の含浸は、真空含浸、3〜300MPaでの加圧含浸、又はそれらの組合せの含浸で行うことができる。真空含浸時の圧力は、10mmHg以下が好ましく、1mmHg以下が更に好ましい。加圧含浸では、圧力3MPa以下では窒化ホウ素成形体の内部まで樹脂が十分含浸できず、300MPa以上では設備が大規模になるためコスト的に不利である。
<樹脂>
樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル−アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム−スチレン)樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリフタルアミド、ポリアセタール等を用いることができる。特にエポキシ樹脂は、耐熱性と銅箔回路への接着強度が優れていることから、プリント配線板の絶縁層として好適である。また、シリコーン樹脂は耐熱性、柔軟性及びヒートシンク等への密着性が優れていることから熱インターフェース材として好適である。これら樹脂、特に熱硬化性樹脂には適宜、硬化剤、無機フィラー、シランカップリング剤、さらには濡れ性やレベリング性の向上及び粘度低下を促進して加熱加圧成形時の欠陥の発生を低減する添加剤を含有することができる。この添加剤としては、例えば、消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤等がある。また、樹脂が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウムの群から選ばれた1種又は2種以上のセラミックス粉末を含むと一層好ましい。窒化ホウ素凝集粒子間に、セラミックス粒子を充填することができるので、結果として窒化ホウ素樹脂成形体の熱伝導率を向上させることができる。樹脂及びセラミックス粉末含有樹脂は、必要に応じて溶剤で希釈して使用しても良い。溶剤としては、例えば、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール類、2−メトキシエタノール、1−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール及び2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール等のエーテルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びジイソブチルケトンケトン等のケトン類、トルエン及びキシレン等の炭化水素類が挙げられる。なお、これらの希釈剤は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
以下、本発明を実施例、比較例をあげて更に具体的に説明する。
<窒化ホウ素成形体の作成>
酸素含有量2.2%、BN純度97.1%、及び平均粒径2.8μmであるアモルファス窒化ホウ素粉末、酸素含有量0.3%、BN純度98.3%、及び平均粒径10.5μmである六方晶窒化ホウ素粉末及び炭酸カルシウム(「PC−700」白石工業社製)を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、水を添加してボールミルで5時間粉砕し、水スラリーを得た。さらに、水スラリーに対して、ポリビニルアルコール樹脂(「ゴーセノール」日本合成化学社製)を0.5質量%となるように添加し、溶解するまで50℃で加熱撹拌した後、噴霧乾燥機にて乾燥温度230℃で球状化処理を行った。なお、噴霧乾燥機の球状化装置としては、回転式アトマイザーを使用した。得られた処理物を窒化ホウ素製容器に充填し、バッチ式高周波炉にて窒素流量10L/minで焼結させた後、窒化ホウ素容器から焼結体を取り出して窒化ホウ素成形体を得た。表1に示すように、原料配合、噴霧乾燥条件、焼成条件を調整して、23種の窒化ホウ素成形体を製造した。窒化ホウ素成形体と窒化ホウ素樹脂成形体の評価結果について、表2および表3に実施例、表4および表5に比較例を示す。なお、窒化ホウ素成形体の焼結が不足して粉体化し、焼結時に使用する窒化ホウ素容器から窒化ホウ素成形体として取り出すことができない場合は、「粉体化により取出不可」とした。
Figure 0006125273
<エポキシ樹脂の真空含浸、実施例1〜17及び比較例1〜6>
得られた窒化ホウ素成形体の放熱部材としての特性を評価するため、樹脂含浸を行った。窒化ホウ素成形体を圧力1mmHgの真空中で10分間脱気した後、エポキシ樹脂(「エピコート807」三菱化学社製)と硬化剤(「アクメックスH−84B」日本合成化工社製)の混合物を真空下で窒化ホウ素成形体に注ぎ込み、20分間含浸した。その後、大気圧下で、温度150℃で60分間加熱して樹脂を硬化させ、窒化ホウ素樹脂成形体を得た。
<シリコーン樹脂の真空含浸、実施例18>
窒化ホウ素成形体を圧力1mmHgの真空中で10分間脱気した後、シリコーン樹脂(「YE5822」モメンティブパフォーマンス社製)を真空下で窒化ホウ素成形体に注ぎ込み、更に20分間含浸した。その後、大気圧下で、温度150℃で60分間加熱して樹脂を硬化させ、窒化ホウ素樹脂成形体を得た。
<エポキシ樹脂の加圧含浸、実施例19〜20>
窒化ホウ素成形体とエポキシ樹脂をビニール袋に密封し、CIP(冷間等方圧加圧成形)機を用いて樹脂を加圧含浸した。その後、大気圧下で、温度150℃で60分間加熱して樹脂を硬化させ、窒化ホウ素樹脂成形体を得た。CIP機の圧力は、表3に示すように調整した。
<セラミックス粉末含有エポキシ樹脂の加圧含浸、実施例21〜27>
セラミックス粉末としては、酸化アルミニウム(「デンカ球状アルミナ DAW03」電気化学工業社製、平均粒径3.8μm)、酸化ケイ素(「デンカ溶融シリカ FB−5D」電気化学工業社製、平均粒径4.9μm)、酸化亜鉛(「酸化亜鉛 1種」境化学工業社製、平均粒径0.5μm)、窒化ケイ素(「デンカ窒化珪素 SN−9FWS」電気化学工業社製、平均粒径0.6μm)、窒化アルミニウム(「窒化アルミニウム Hグレード」トクヤマ社製、平均粒径1.2μm)、水酸化アルミニウム(「水酸化アルミニウム C−303」住友化学社製、平均粒径0.3μm)を用いた。各種セラミックス粉末を、エポキシ樹脂(「エピコート807」三菱化学社製)に対し10質量%添加し、スリーワンモーターを用いて10分間混合した後、硬化剤(「アクメックスH−84B」日本合成化工社製)を添加してセラミックス粉末含有エポキシ樹脂を作成した。作成したセラミックス粉末含有エポキシ樹脂を用いて、段落(0042)と同様の方法で窒化ホウ素樹脂成形体を得た。
得られた窒化ホウ素樹脂成形体について、成形体の高さ方向及び面方向の熱伝導率を次に示す方法に従って評価した。それらの結果について、表2および表3に実施例、表4および表5に比較例を示す。
<熱伝導率評法>
成形体の高さ方向及び面方向の熱伝導率(H;W/(m・K))は、熱拡散率(A:m2/sec)と比重(B:kg/m3)、比熱容量(C:J/(kg・K))から、H=A×B×Cとして、算出した。熱拡散率は、測定用試料として窒化ホウ素樹脂成形体を幅10mm×長さ10mm×厚み1.0mmに加工し、レーザーフラッシュ法により求めた。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(「LFA447NanoFlash」NETZSCH社製)を用いた。比重はアルキメデス法を用いて求めた。比熱容量は、DSC(「ThermoPlus Evo DSC8230」リガク社製)を用いて求めた。
Figure 0006125273
Figure 0006125273
Figure 0006125273
Figure 0006125273

実施例と比較例の対比から明らかなように、本発明の窒化ホウ素樹脂成形体を用いた放熱部材は、熱伝導率が高く、熱伝導率の異方性が小さい。
本発明の窒化ホウ素樹脂成形体を用いた放熱部材は、パワーデバイスなどの発熱性電子部品の放熱部材として好適に用いられ、特にプリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材及び自動車用両面放熱パワーモジュールに用いられる。

Claims (8)

  1. 成形体の高さ方向に平行方向から測定した面のX線回析の(002)回析線と(100)回析線との強度比、および上記成形体の高さ方向に垂直方向から測定した面のX線回析の(002)回析線と(100)回析線との強度比から、下式
    I.O.P.=(I100/I002)par./(I100/I002)perp.で算出されるI.O.P.(The Index of Orientation Performance)で表される配向度が0.6〜1.4であり、カルシウムの含有率が500〜5000ppm、粉末X線回折法による黒鉛化指数(GI、GraphitizationIndex)が0.8〜4.0であるとともに、
    窒化ホウ素成形体中の窒化ホウ素凝集粒子が鱗片形状の一次粒子からなる凝集体であり、窒化ホウ素凝集粒子の平均球形度が0.7以上、平均粒径が20μm以上であることを特徴とする窒化ホウ素成形体。
  2. 全気孔率が50%以上である請求項1に記載の窒化ホウ素成形体。
  3. 請求項1又は2に記載の窒化ホウ素成形体に樹脂を含浸してなることを特徴とする窒化ホウ素樹脂成形体。
  4. 酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウムの群から選ばれた1種又は2種以上のセラミックス粉末を樹脂に含有することを特徴とする請求項3に記載の窒化ホウ素樹脂成形体。
  5. 請求項3または4に記載の窒化ホウ素樹脂成形体を用いることを特徴とする放熱部材。
  6. 請求項5に記載の放熱部材を用いることを特徴とする自動車用両面放熱パワーモジュール。
  7. 鱗片形状の一次粒子からなる凝集体であり、凝集粒子の平均球形度が0.7以上、平均粒径が20μm以上である窒化ホウ素粉末を、窒素又はヘリウム又はアルゴン雰囲気中で、1600℃以上で1時間以上焼結させることを特徴とする請求項1に記載の窒化ホウ素成形体の製造方法。
  8. 鱗片形状の一次粒子からなる凝集体であり、凝集粒子の平均球形度が0.7以上、平均粒径が20μm以上である窒化ホウ素粉末を、窒素又はヘリウム又はアルゴン雰囲気中で、1600℃以上で1時間以上焼結させた窒化ホウ素成形体に、真空含浸、3〜300MPaでの加圧含浸、又はそれらの組合せで含浸を行うことを特徴とする請求項3に記載の窒化ホウ素樹脂成形体の製造方法。


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