以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
<第1実施形態>
図1〜図2Bは、第1実施形態に係るワーク保持用の治具の各部の構成の説明に供する図であり、図3〜図5Bは、第1実施形態に係るワーク保持用の治具を使用した膜電極接合体の製造方法の説明に供する図であり、図6A、図6Bは、対比例に係るワーク保持用の治具の説明に供する図である。
図1〜図2Bに示すように、本実施形態に係るワーク保持用の治具10(以下、単に「治具」とも記載する)は、ワークwを吸着して保持する吸着面21を備える多孔部材20と、ワークwに作用させる吸引力を発生させる基部40、および多孔部材20の外周側部22と向かい合う位置に配置されるとともに多孔部材20を保持する側壁50を備えるハウジング30と、を有している。さらに、この治具10は、多孔部材20の外周側部22とハウジング30の側壁50との間に設けられ、多孔部材20の熱膨張変形に伴う当該多孔部材20の外周側部22と側壁50との干渉による吸着面21の変形を防止する変形防止部60を有している。
図1に示すように、治具10の使用に際して、治具10が備える多孔部材20の吸着面21上には所定のワークwを載置する。治具10は、多孔部材20の吸着面21を介してワークwに吸引力を作用させることによってワークwに位置ずれが生じることを防止して、位置決めした状態でワークwを安定的に保持することを可能にするものである。
治具10は、例えば、ワークwを保持した状態でワークwに各種の加工や処理を実施したり、ワークwを保持した状態で当該治具10とともにワークwを搬送したりするために使用することができる。本実施形態では、後述するように、燃料電池の構成要素である膜電極接合体の製造に治具10を使用した例を示す(図5Bを参照)。ただし、治具10は、少なくとも多孔部材20の吸着面21上においてワークwを一時的、または所定の期間にわたって保持することを目的として使用される限りにおいてその用途は特に限定されない。
治具10に保持するワークwとしては、所定の吸引力によって吸着面21上において保持することが可能な部材であれば材質や形状は特に限定されない。本実施形態では、膜電極接合体を構成する電解質膜93と、電解質膜93に転写させる触媒インク94がそれぞれ塗布された基材91、92をワークwとしている(図4A〜図5Bを参照)。
図2A、図2Bに示すように、ハウジング30は、当該ハウジング30の底部を構成する基部40と、その基部40から所定の高さで伸びて形成された側壁50とが一体的に形成されている。ハウジング30は、平面視した際の外形形状が略矩形となるように形成している。側壁50の内側には開口部51が形成されている。多孔部材20は、当該多孔部材20の吸着面21がハウジング50の開口部51に面するように配置されている。
側壁50は、多孔部材20の外周側部22の周囲を取り囲むように配置されている。基部40は、多孔部材20の吸着面21の裏面側に所定の間隔を空けて配置されている。
多孔部材20は、ハウジング30の側壁50と多孔部材20の外周側部22との間が気密になるようにハウジング30に取り付けられている。これにより、多孔部材20とハウジング30の基部40との間に区画されるチャンバ41(空間)の気密性が維持されている。
図2Bに示すように、側壁50にはチャンバ41に連通する連通口52を設けている。この連通口52には空気等の流体が流通可能なダクト71を設置している。図1に示すように、ダクト71には所定の吸引手段70を連結している。吸引手段70を作動させることにより、ダクト71を介してチャンバ41内の空気を吸引することができる(空気の吸引を図2B中の矢印aで示す)。吸引手段70には、流体の吸気や排気等に一般的に用いられる流体ポンプ等を使用することができる。チャンバ41内の空気を吸引すると、多孔部材20の吸着面21に載置したワークwに対して吸引力が作用する。
図1に示すように、ダクト71には所定の弁73を設置することができる。この弁73を開閉操作することにより、チャンバ41内の空気の吸引量を調整することができる。
ハウジング30に連通口52を設ける位置、およびダクト71を設置する位置は、図示する位置に限定されず、ハウジング30内の空気を吸引することによって多孔部材20の吸着面21に吸引力を生じさせることが可能な限りにおいて変更することが可能である。
なお、ワークwに作用させる吸引力を発生させる方法は、吸引手段70などによってチャンバ41内を減圧する方法に限定されず、多孔部材20の吸着面21上においてワークwを保持し得る吸引力を発生させることが可能な範囲で変更することが可能である。例えば、治具10の周囲の雰囲気を加圧して、ハウジング30の外部と内部とに差圧を形成し、その差圧によって吸引力を発生させる方法、多孔部材10に静電気を付与して静電吸引力を発生させる方法、磁性部材により磁気吸引力を発生させる方法などを採用することができる。
ハウジング30の側壁50には、多孔部材20を位置決めして支持するための位置決め用の溝部53を設けている。この位置決め用の溝部53には、多孔部材20の外周側部22に形成された凸状の突起27が嵌め込まれている。
ハウジング30を構成する材料は、多孔部材20を支持することが可能な剛性を少なくとも備えていれば特に制限はないが、好ましくは、熱が付与された際に過度な変形が生じないような金属材料である。例えば、SUS、チタン、ステンレス、鉄−ニッケル合金等を使用することができる。
図2Aに示すように、多孔部材20は、ハウジング30に対して取り付けた際の平面視が矩形となるような外形形状を有している。多孔部材20は所定の厚みを有する板状に形成されている。なお、便宜上、多孔部材20の外周側部22のうち、変形防止部60に対向するように配置された各外周側部を第1外周側部23、第2外周側部24と称し、ハウジング30の側壁50に対向するように配置された各外周側部22を第3外周側部25、第4外周側部26と称する。
図2Bに示すように、第3外周側部25には、ハウジング30の側壁50に設けられた位置決め用の溝部53に配置される突起27を形成している。第4外周側部26にもハウジング30の側壁50に設けられた所定の溝部53に配置される突起27を形成しているが、この突起27の図示は省略する。多孔部材20は、第3外周側部25および第4外周側部26に形成された各突起27をハウジング30の側壁50に形成された位置決め用の溝部53にそれぞれ嵌合させることによってハウジング30に取り付けられている。なお、突起27は、位置決め用の溝部53に対して圧接されることのないように、位置決め用の溝部53よりも小さく形成している。
多孔部材20は、当該多孔部材20の内部および外部を貫通する複数の孔28を有している。図中において、多孔部材20の孔28は、理解を容易にするために多孔部材20の内部を直線状に貫通する形状で示している。
多孔部材20を構成する材料としては、所定の吸着面21が表面に形成されており、かつ、この吸着面21上に載置されたワークwに対して各孔28を介して吸引力を作用させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、焼結性炭素によって形成されたポーラスカーボンや、セラミック多孔質体などの公知の多孔体を使用することができる。
多孔部材20の厚みや外形寸法等は特に制限されず、ワークwを保持することが可能な限りにおいて変更することが可能である。孔28の径や、孔28の数等についてもワークwを保持することが可能であれば特に制限されない。
治具10が備える変形防止部60は、治具10にワークwを保持した状態で、ワークwに対して種々の加工を施した際に、多孔部材20の吸着面21に歪みが発生してしまうことを防止するために設けられている。図6A、図6Bに示す対比例を参照して、吸着面21に歪みが発生する原理および変形防止部60の機能を説明する。
対比例に係る従来の治具150には変形防止部60が設けられていない。また、この治具150においては、多孔部材152がハウジング153から脱落しないように、多孔部材152の外周側部154はハウジング153の側壁155に固定されている。
図6Aに示すように、ワークwは多孔部材152の吸着面151上において重ねて配置する。そして、ワークwを多孔部材152の吸着面151に保持した状態で、図6Bに示すように、熱プレス機122を使用して熱圧着を施す。この際、ワークwのみならず、多孔部材152にも熱が付与されるため、多孔部材152には熱膨張変形が発生する。熱膨張変形が発生すると、多孔部材152の外周側部154は、当該外周側部154を固定したハウジング153の側壁155に対して押し付けられる(図中矢印pで外周側部154の押し付けを示す)。その結果、多孔部材152の外周側部154とハウジング153の側壁155との干渉によって、多孔部材152の外形形状が変形し、多孔部材152の吸着面151には、図示するような凸状の歪みが発生してしまう。このような歪みが生じた吸着面151上においてワークwを保持すると、ワークwにも歪み生じる。そして、熱プレス機122をワークwの表面全体に押し当てることができず、ワークwの外周縁付近では熱圧着が十分に行われず、圧着性の低下が招かれてしまう。
また、多孔部材152の吸着面151の歪みは、熱圧着を行う場合以外にも、様々な温度環境下において治具150を使用する場合に発生し得る。したがって、一つの治具150を複数の工程にわたって使用する場合には、多孔部材152の吸着面151の歪みがより一層大きくなり、その結果、ワークwの加工品質の低下が顕著なものとなる。一方で、治具150は種々の用途に使用され得るが、例えば、その使用用途として、一般的なクランプ型(把持型)の治具などでは位置決めして保持することが困難な薄膜状のワークの保持に使用されることが考えられる。また、このようなワークとして例えば、燃料電池の構成要素となる膜電極接合体が備える電界質膜や、電解質膜に転写される触媒インクが塗布された基材などのような薄膜状のシート片が挙げられる。しかし、歪みが生じた吸着面151上においてこれらのシート片を保持すると、シート片に生じる歪みは顕著なものとなる。このため、圧着性の低下や転写性の低下に伴って膜電極接合体の性能の劣化が生じ、ひいては当該膜電極接合体を構成要素とする燃料電池の製品性能の劣化を招いてしまうという問題も生じる。
多孔部材152の吸着面151の歪みの発生を防止するために、例えば、多孔部材152とハウジング153をそれぞれ同程度の熱膨張率を備える材料によって構成したり、多孔部材152をハウジング153よりも熱膨張率の低い材料によって構成したりすることが考えられる。しかしながら、治具150を使用している間に、ワークwの加熱や冷却が繰り返されると、治具150の上部に位置する多孔部材152と治具150の下部に位置するハウジング153の基部156とで温度差が生じ、治具150全体における温度分布が均一にならない。このため、多孔部材152の吸着面151に歪みが生じることを防止することができない。
図2A、図2Bに示すように、治具10が備える変形防止部60は、ハウジング30の側壁50の剛性よりも小さな剛性を備える弾性部材61によって構成している。
弾性部材61を構成する材料としては、例えば、公知の樹脂材料によって構成されたものを使用することができ、シリコーンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ABSゴム、クロロプレンゴム、EPDMゴム、ウレタンゴムなどのゴム類、およびポリプロピレン、ポリテルペン等のエラストマーなどを使用することができる。また、ゴム類を使用する場合は、上記の材料によって構成されたものをそのままの用いることが可能であるし、ゴム類およびエラストマーを使用する場合は、それらの発泡体、中空の丸紐状または角紐状に形成したものを使用することが可能である。
なお、溶剤等に対する耐久性や耐熱性の観点より、EPDMゴム、ABSゴム、ニトリルゴムおよびブチルゴムが材料として使用されることが好ましい。これらのゴム類を使用する場合にも、中空の丸紐状または角紐状に形成したものを使用することができる。
弾性部材61の各構成材料に適度な弾性率や復元性を持たせるためにフィラー成分を添加することもできる。
図2A、図2B中において示す二点鎖線は、熱膨張変形した際の多孔部材20の外形線を示している。多孔部材20が熱膨張変形し、その外周側部22が変形防止部60をなす弾性部材61に接触すると、弾性部材61は多孔部材20の変形に追従して弾性的に変形する。したがって、多孔部材20とハウジング30との間に生じるような押し付け力は、多孔部材20と弾性部材61との間には発生しない。このため、多孔部材20に熱膨張変形が生じるような場合においても、多孔部材20の吸着面21に歪みが発生することがない。また、多孔部材20が冷却して収縮する際には、弾性部材61の弾性力(復元力)によって熱膨張変形前の元の外形寸法まで多孔部材20が変形する。
図2Aに示すように、変形防止部60は、多孔部材20の外周側部22の隣接する二辺(第1外周側部23、第2外周側部24)のそれぞれとハウジング30の側壁50との間に配置することができる。
前述したように、多孔部材20は、当該多孔部材20の第3外周側部25および第4外周側部26に形成された突起27をハウジング30の側壁50に形成された位置決め用の溝部53に嵌め込むことによってハウジング30に取り付けられている。多孔部材20とともに突起27が熱膨張変形すると、突起27が位置決め用の溝部53内から抜け出る方向の力が多孔部材20に作用する。したがって、第1外周側部23および第2外周側部24のそれぞれが変形防止部60に向かうように多孔部材20全体が移動しつつ多孔部材20の熱膨張変形が進行する。その結果、第1外周側部23および第2外周側部24のそれぞれが変形防止部60に確実に押し付けられる。また、その際に生じる押し付け力は、変形防止部60によって吸収されるため、多孔部材20に歪みが生じることをより一層好適に防止することが可能となる。
図2Aに示すように、変形防止部60を構成する弾性部材61には略L字型に形成されたものを使用している。この弾性部材61を第1外周側部23と第2外周側部24のそれぞれに向かい合わせるように配置している。ただし、例えば、第1外周側部23側に配置される弾性部材61と、第2外周側部24側に配置される弾性部材61とが別体で形成されたものを使用することも可能である。
弾性部材61をハウジング30に取り付ける方法は、特に限定されず、ハウジング30と弾性部材61の材質を考慮して、接着や融着などの公知の方法によって取り付けることができる。また、後述する実施形態において示すように、所定の溝部55を側壁50に形成し、この溝部55内に弾性部材61を配置することによって弾性部材61をハウジング30に取り付けることもできる(図7Bを参照)。
次に、本実施形態に係るワーク保持用の治具10を使用した膜電極接合体の製造方法を説明する。
図3に示すように、膜電極接合体の製造方法は、概説すれば、基材に触媒インクを塗布する塗布工程(S11)と、基材に塗布した触媒インクを乾燥させる乾燥工程(S12)と、基材から電解質膜に触媒インクを転写する転写工程(S13)と、を有している。
塗布工程は、治具10が備える多孔部材20の吸着面21上において基材を保持しつつ、当該基材に触媒インクを塗布する工程である。また、乾燥工程は、治具10が備える多孔部材20の吸着面21上において基材を保持しつつ、塗布した触媒インクを乾燥させる工程である。また、転写工程は、治具10が備える多孔部材20の吸着面21上において触媒インクが塗布された基材を保持しつつ、基材に電解質膜を重ねた状態で電解質膜と基材とを熱圧着することによって触媒インクを電解質膜に転写する工程である。
次に、各工程を説明する。なお、各工程において公知の方法および装置、材料等に関する説明は、一部省略して説明する。
図4Aは塗布工程を示す。塗布工程では、スキージ101(塗布具)、印刷版102、治具10を使用してペースト状に調整された触媒インク94を基材91に塗布する。塗布作業を行うのに先立って、所定の架台103上に治具10を配置する。そして、治具10が備える多孔部材20の吸着面21に基材91を載置した状態でチャンバ41内を減圧する。この操作によって基材91を吸着面21において保持する。なお、基材91に作用させる吸引力は、基材91に位置ずれが生じ得ない範囲において適宜調整することが可能である。
基材91としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート等の、ポリエステルシートなどの公知のシートが使用できる。触媒インク94としては、例えば、高分子電解質および溶剤などから構成された公知のものを使用することができる。
触媒インク94を基材91に塗布すると、触媒インク94に含まれる溶剤が揮発する。このため、多孔部材20の吸着面21からハウジング30の基部40にかけて揮発潜熱によって温度低下が生じる。
次に乾燥工程を行う。図4Bは乾燥工程を示す。乾燥工程では、乾燥炉111および治具10を使用して基材91に塗布された触媒インク94を乾燥させる。
塗布工程を終えた後、治具10から基材91を取り外すことなく、多孔部材20の吸着面21において基材91を保持した状態で治具10および基材91を乾燥炉111内の架台112に配置する。基材91を治具10から取り外す必要がないため、基材91を取り外す作業を行う際に生じ得る基材91のヨレや折れの発生を未然に防止することができる。
次に、乾燥炉111内において触媒インク94を乾燥させる。乾燥工程の開始時は、塗布工程において発生した揮発潜熱によって治具10の温度が低下した状態にある。そして、乾燥工程によって治具10が温められるため、多孔部材20の熱膨張変形は顕著なものとなる。ただし、治具10においては、当該治具10に備えられた変形防止部60によって多孔部材20の吸着面21に歪みが生じることを防止することができる。
以上の乾燥工程および塗布工程によって、アノード触媒層(またはカソード触媒層)を形成するための触媒インク94が塗布された基材91を形成することができる。また、同様の手順を行うことにより、カソード触媒層(またはアノード触媒層)を形成するための触媒インク94が塗布された基材92を形成することができる。基材92の塗布工程および乾燥工程の説明は省略する。
次に転写工程を行う。図5Aに示すように、転写工程を行うために所定の保持型121に治具10を配置する。治具10が備える多孔部材20の吸着面21上に各基材91、92と電解質膜93とを重ね合わせて配置する。その後、各基材91、92および電解質膜93に吸引力を作用させて保持する。
電解質膜93としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂膜などを使用することができる。
図5Bは転写工程を示す。転写工程では、熱プレス機122および治具10を使用して電解質膜93に触媒インク94を転写する。各基材91、92および電解質膜93を多孔部材20の吸着面21上において保持した状態で治具10の上下両側から熱プレス機122を圧接させる。この際、治具10が備える多孔部材20の温度が上昇して熱膨張変形が生じるが、治具10に備えられた変形防止部60により、多孔部材20の吸着面21に歪みが生じることを防止することができる。したがって、多孔部材20の吸着面21において保持された各基材91、92および電解質膜93に歪みが生じることはない。このため、熱プレス機122によって各基材91、92および電解質膜93の表面全体に均一に熱を付与することができ、圧着性および転写性を損なうことなく転写工程を実施することができる。
以上のように各工程を実施することによって、触媒層−電界質膜が一体化された膜電極接合体を製造することができる。
治具10を、塗布工程、乾燥工程、転写工程の各工程にわたって使用する場合においても、当該治具10が備える多孔部材20の吸着面21に歪みが生じることを防止することができるため、一つの治具10を複数の工程において使い回すことができる。また、各工程において同一の治具10に対して各基材91、92および電解質膜93を位置合わせすることになるため、各基材91、92および電解質膜93の位置合わせを行う際に、それぞれの位置が大きくずれることがない。従来は熱圧着を行う際に、各基材91、92および電解質膜93を熱プレス機に対してそれぞれ高精度に位置決めして配置する必要があったため、位置ずれが生じ易く、また位置決めに掛かる手間も甚大なものとなっていた。これに対して、本実施形態に係る治具10を使用した膜電極接合体の製造方法によれば、各工程間で行われる位置合わせの際に生じる位置ずれを抑えることでき、位置合わせを簡単かつ迅速に行うことができる。
以上のように本実施形態に係る治具10によれば、多孔部材20に熱膨張変形が生じた場合においても、多孔部材20の外周側部22とハウジング30の側壁50との間に設けられた変形防止部60によって多孔部材20の吸着面21に歪みが生じてしまうことを防止することができる。このため、多孔部材20の吸着面21に保持したワークwの加工品質を好適に維持することができる。
また、治具10が備える変形防止部60を、ハウジング30の側壁50の剛性よりも小さな剛性を備える弾性部材61によって構成している。弾性部材61が多孔部材20の熱膨張変形に追従して弾性的に変形するため、多孔部材20と弾性部材61との間で生じる押し付け力を緩和させることができ、多孔部材20の吸着面21に歪みが発生することを好適に防止することができる。
また、多孔部材20を矩形の外形形状に形成し、変形防止部60を多孔部材20の外周側部22の隣接する二辺のそれぞれとハウジング30の側壁50との間に配置している。このため、多孔部材20の外周側部22が変形防止部60に向かうように多孔部材20を熱膨張変形させることができる。これにより、変形防止部60に外周側部22を確実に押し付けて、その際に生じる押し付け力を変形防止部60に吸収させることができる。その結果、多孔部材20に歪みが生じることを好適に防止することができる。
また、治具10を使用した膜電極接合体の製造方法によれば、各基材91、92と電解質膜93とを熱圧着する際に、多孔部材20の吸着面21に歪みが生じてしまうことを防止することができる。このため、多孔部材20の吸着面21に保持した各基材91、92および電解質膜93の加工品質の低下に伴う膜電極接合体の性能劣化が発生してしまうことを好適に防止することができる。
また、塗布工程、乾燥工程、転写工程の各工程にわたって治具10を使用する膜電極接合体の製造方法によれば、各工程において同一の治具10に対して各基材91、92および電解質膜93を位置合わせすることになるため、各基材91、92および電解質膜93の位置合わせを行う際に、それぞれの位置が大きくずれることがない。このため、各工程間で行われる位置合わせの際に生じる位置ずれを抑えることでき、位置合わせを簡単かつ迅速に行うことができる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るワーク保持用の治具を説明する。上述した第1実施形態において説明した部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
図7A、図7Bには、第2実施形態に係る治具200をそれぞれ示す。先に説明した第1実施形態に係る治具10では、多孔部材20の吸着面21に歪みが生じることを防止する変形防止部60として、弾性部材61を使用していた。一方、本実施形態では、変形防止部60は、多孔部材20の外周側部22とハウジング30の側壁50との間に形成される隙間63によって構成している。このような点において第1実施形態と相違する。
図7Bに示すように、ハウジング30の側壁50は、多孔部材20の外周側部22と当該側壁50との間に変形防止部60をなす隙間63を形成するように多孔部材20を支持する溝部55(以下、「支持用の溝部」と記載する)を有している。
支持用の溝部55は、ハウジング30の側壁50から凹状に窪んで形成されている。多孔部材20には、この支持用の溝部55に配置されるフランジ部221を形成している。このフランジ部221を支持用の溝部55に引っ掛けて配置することにより、多孔部材20がハウジング30の側壁50から脱落することを好適に防止することができる。なお、多孔部材20の上端部には、ハウジング30の側壁50との間に隙間63を形成させる段部222を設けることができる。この隙間64も変形防止部60として機能させることが可能である。
図7Bに示すように、本実施形態に係る治具200を使用して転写工程を行う場合において、多孔部材20に熱膨張変形が発生すると、多孔部材20の外周側部22は変形防止部60をなす隙間63内に入り込むように変形する。したがって、多孔部材60の外周側部22とハウジング30の側壁50とが干渉することがなく、多孔部材20には押し付け力が付与されない。このため、第1実施形態に係る治具10を使用する場合と同様に、多孔部材20の吸着面21に歪みが生じることを好適に防止することができる。また、変形防止部60が弾性部材61によって構成された治具に比べて、治具200の部品点数を減らすことができるため、製造の容易化および製造コストの削減を図ることが可能となる。
<変形例>
図8A、図8Bには、第2実施形態の変形例に係る治具をそれぞれ示す。上述した第2実施形態では、多孔部材20の外周側部22とハウジング30の側壁50との間に形成された隙間63によって変形防止部60を構成しているが、例えば、変形防止部60は、弾性部材61と隙間63とによって構成することも可能である。
変形例に係る治具200では、図8Bに示すように、隙間63を形成するための支持用の溝部55に弾性部材61を配置している。
多孔部材20に熱膨張変形が生じると、隙間63によって多孔部材20の吸着面21に歪みが生じることを防止することができる。また、弾性部材61によっても多孔部材20の吸着面21に歪みが生じることを防止することができる。したがって、弾性部材61のみ、または隙間63のみによって変形防止部60が構成された治具に比べて、多孔部材20の吸着面21に歪みが生じることをより一層確実に防止することが可能になる。
弾性部材61が配置される位置と、隙間63が形成される位置とを入れ替えることも可能である。このような構成を採用する場合においても、多孔部材20の吸着面21に歪みが生じることを好適に防止することができる。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係るワーク保持用の治具を説明する。上述した第1、第2実施形態において説明した部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
図9Aには、第3実施形態に係る治具300を示す。本実施形態に係る治具300が備えるハウジング30の側壁50は、多孔部材20を保護するための覆い部310を有している。側壁50がこのような覆い部310を有している点において、第1、第2実施形態に係る治具と相違する。
図9Aに示すように、ハウジング30の側壁50は、多孔部材20の吸着面21よりも当該多孔部材20の厚み方向に突出した覆い部310を有している。覆い部310は、側壁50の上端部に形成している。多孔部材20は、この覆い部310よりも基部40が位置する側(図中の下側)に配置している。多孔部材20は、当該多孔部材20と弾性部材61との間の摩擦によってハウジング30に取り付けられている。
覆い部310の厚さ寸法は、例えば、図示するように、多孔部材20の吸着面21に保持する基材91の表面が覆い部310を越えて外部に露出されるような寸法で形成している。覆い部310をこのような厚さ寸法で形成することにより、覆い部310を形成した場合においても、熱プレス機122を使用して基材91の表面全体に熱を付与することが可能になる。
図9Bには、本実施形態に係る治具300の対比例が示される。図示するように、例えば、多孔部材162の吸着面161に歪みが生じることを防止するために、多孔部材162をハウジング163の側壁165の上端部に配置する構成が考えられる。このように多孔部材162を配置すれば、多孔部材162が熱膨張変形した際に、多孔部材162の外周側部164とハウジング163の側壁165とが干渉することがないため、吸着面161に歪みが生じることを防止することができる。しかし、熱プレス機122等を使用して熱圧着を行う際に、熱プレス機122が多孔部材162の外周縁部164に接触して多孔部材162に破損が生じてしまう虞がある。
これに対して、本実施形態に係る治具300によれば、ハウジング30の側壁50が備える覆い部310によって多孔部材10に熱プレス機122が接触することを防止することができる。したがって、熱プレス機122の使用によって多孔部材10の破損が招かれることのない耐久性に優れた治具300を提供することが可能となる。
なお、第3実施形態では、変形防止部60が弾性部材61によって構成された治具300を示したが、変形防止部60が隙間63によって構成された治具や、変形防止部60が弾性部材61と隙間63とによって構成された治具に覆い部310を設けることも可能である。
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係るワーク保持用の治具を説明する。上述した第1〜3実施形態において説明した部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
図10A、図10Bには、第4実施形態に係る治具400をそれぞれ示す。先に説明した第1〜第3実施形態に係る治具では、多孔部材20が板状に構成されたものを使用している。一方、本実施形態では、多孔部材420は、ロール状に巻き取りされたものを使用している。このような点において第1〜第3実施形態に係る治具と相違する。
図10A、図10Bに示すように、多孔部材420は、所定のシャフト430に巻き付けた状態で使用されている。シャフト430は、中空状に形成されている。また、シャフト430には、図示省略するが、シャフト430の内部と外部とを貫通する貫通孔が形成されている。そして、シャフト430にはダクト71を連結している。ダクト71を介してシャフト430の内部を吸引することによって、シャフト430に巻き付けられた多孔部材420の吸着面421に吸引力を作用させることが可能になっている。
シャフト430の内部を吸引すると、シャフト430の内部と連通するように配置されたチャンバ41内が減圧されて、多孔部材420の吸着面21においてワークを保持することができる。図示省略するが、ハウジング30は、多孔部材420との間に気密なチャンバ41を区画するように、多孔部材420の下面側を支持するように配置している。
本実施形態に係る治具400をワークwに熱圧着等を施すための加工に使用する場合においても、多孔部材420の吸着面421に歪みが生じることを防止することができ、ワークの加工品質の低下が招かれることを好適に防止することができる。
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態に係るワーク保持用の治具を説明する。上述した第1〜4実施形態において説明した部材については同一の符号を付してその説明を省略する。
図11A、図11Bには、第5実施形態に係る治具500をそれぞれ示す。先に説明した第1〜第4実施形態に係る治具では、外形が略矩形に形成されたハウジングを使用している。一方、本実施形態では、外形が円形に形成されたハウジング530を使用している。このような点において第1〜第4実施形態に係る治具と相違する。
図11A、図11Bに示すように、ハウジング530の外形形状は、円形に形成することが可能である。また、多孔部材520の外形形状は、ハウジング530の外形形状に合わせて円形に形成することができる。本実施形態において示すように、多孔部材520およびハウジング530の外形形状は、製品仕様等に応じて任意の形状に設計することが可能である。例えば、円形以外にも、三角形、台形、菱型等の各形状にハウジング530や多孔部材520を形成することが可能である。
変形防止部60は、多孔部材520の外周側部522とハウジング530との間に一定の間隔を空けて配置された複数個の弾性部材61によって構成している。ただし、前述した実施形態において説明したような隙間63によって変形防止部60を形成することも可能である。
本実施形態に係る治具500をワークwに熱圧着等を施すための加工に使用する場合においても、多孔部材520の吸着面521に歪みが生じることを防止することができ、ワークの加工品質の低下が招かれることを好適に防止することができる。
以上、複数の実施形態および変形例に基づいて本発明に係るワーク保持用の治具を説明したが、本発明は特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
本発明に係るワーク保持用の治具を膜電極接合体の製造方法である転写法に使用した形態を説明したが、当該治具は、例えば、膜電極接合体の製造方法である直接塗布法に使用することもできる。直接塗布法に使用する場合には、電解質膜にガスケットを接合する際のワークの保持、電解質膜に溶媒インクを塗布する際のワークの保持、溶媒インクを乾燥させる際のワークの保持などに使用することができる。また、例えば、膜電極接合体にガス拡散層を熱圧着する工程などにおいて各種のワークを保持するためにワーク保持用の治具を使用することも可能である。
さらに、ワーク保持用の治具は、燃料電池の製造以外にも、例えば、シリコンウエハー等に対して研磨加工を行う際のワークの保持、粉末成形体のセラミックスシート等の搬送および加工時の保持などに使用することができ、所定のワークの保持を目的とする限りにおいてその使用用途は特に限定されない。