前述した錘の落下運動を利用する動荷重試験装置では、停止材の本数や長さによって、実験の結果得られる加速度波形の形状がコントロールされている。現状では、試験場の限られたスペース内では停止材の設置可能な本数は限られており、個々の停止材の停止力は比較的強いものとなっている。よって、個々の停止材の挙動が、加速度波形の形状に大きく影響していた。
すなわち、停止材の停止力が強いために、停止材一本一本の影響が大きなものとなり、得られる加速度波形はガタついた形状となっていた(図31(a)参照)。ここで、波形のガタつきが大きいと、試験が有効と見なされるための条件を満たさないことになり、動荷重試験の結果は無効と見なされていた。そのため、動荷重試験が不成立となる確率が高いという大きな問題があった。
本発明は、以上のような従来の技術の有する問題点に着目してなされたものであり、限られた停止材の設置本数を変えることなく、一本の停止材から得られる停止力を複数段階に分けることにより、停止材一本一本の挙動を滑らかにしてスレッドの停止力として伝達することを可能とし、得られる加速度波形の形状を滑らかな曲線とすることができ、試験不成立の確率を減少させることができる動荷重試験装置を提供することを目的としている。
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]衝突時に負荷される動荷重を再現するための動荷重試験装置(10)において、
供試体を搭載した状態で一定方向に移動可能に設置されたスレッド(20)と、
前記スレッド(20)を所定速度まで加速させる加速機構と、
前記スレッド(20)が所定速度に達した後、該スレッド(20)を衝突させることで急停止させて動荷重を付与する停止機構と、を有し、
前記停止機構は、前記スレッド(20)の前方に対向する水平な両側方向に延び、かつ前後に複数並べて配置され、両端がそれぞれ掛止された状態から離脱可能であり、前記スレッド(20)の前方が順次衝突した際に、その衝撃力を吸収しながら塑性変形しつつ両端が掛止された状態から離脱する線状の停止材(40)を備えて成り、
前記スレッド(20)の前方に、その両側端部(21)が前記各停止材(40)に同時に衝突する前に、両側端部(21)より中央側の位置で前記各停止材(40)に衝突する突出部(22)を設けたことを特徴とする動荷重試験装置(10)。
[2]前記突出部(22)は、前記スレッド(20)の前方に着脱可能に固定されていることを特徴とする前記[1]に記載の動荷重試験装置(10)。
[3]前記突出部(22)は、前記停止材(40)に直接衝突する受け部(210)を備えて成り、
前記受け部(210)は、前記突出部(22)より着脱可能に構成されていることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の動荷重試験装置(10)。
[4]前記スレッド(20)の両側端部(21)は、前記停止材(40)に直接衝突する受け部(210)を備えて成り、
前記受け部(210)は、前記両側端部(21)より着脱可能に構成されており、前記突出部(22)の受け部(210)と共用部品であることを特徴とする前記[3]に記載の動荷重試験装置(10)。
[5]前記スレッド(20)は、底面側に固定された車輪(23)を介して、床面上に前後方向に延びるレール(11)上に移動可能に設置され、
前記車輪(23)はユニットとして構成され、前記スレッド(20)がレール(11)上に設置されている状態にて、該スレッド(20)の底面側に着脱可能に固定されていることを特徴とする前記[1],[2],[3]または[4]に記載の動荷重試験装置(10)。
[6]前記スレッド(20)の底面側に、前記レール(11)に対して移動可能に係合して該レール(11)からの離脱を防止する保持機構(24)を設け、
前記保持機構(24)はユニットとして構成され、前記スレッド(20)がレール(11)上に設置されている状態にて、該スレッド(20)の底面側に着脱可能に固定されていることを特徴とする前記[5]に記載の動荷重試験装置(10)。
[7]前記スレッド(20)の上面側に、前記供試体を搭載するための天板(25)を着脱可能に設け、
前記天板(25)に、前記供試体を取り付けるための複数のネジ孔(252)を、前記スレッド(20)の前後方向に対して所定角度で交差する一定方向に整列させて穿設し、
前記各ネジ孔(252)は、前記天板(25)を裏返すことにより、前記供試体が前記スレッド(20)の前後方向に対して斜めに交差する向きを左右逆向きに取り付け可能とすることを特徴とする前記[1],[2],[3],[4],[5]または[6]に記載の動荷重試験装置(10)。
[8]前記天板(25)は平面方向に2分割され、分割された各々を前記スレッド(20)の上面側に対して別々に着脱可能としたことを特徴とする前記[7]に記載の動荷重試験装置(10)。
[9]前記スレッド(20)の上面側と前記天板(25)との間に、防振用のゴムシートを介装させたことを特徴とする前記[7]または[8]に記載の動荷重試験装置(10)。
[10]前記加速機構は、前記スレッド(20)の前方に連結したワイヤーロープ(30)の先に錘(31)を固結し、該錘(31)を鉛直方向に落下させることで前記スレッド(20)を加速させるものであり、
前記スレッド(20)の前方に、前記ワイヤーロープ(30)の基端を掛止するフック(26)を設け、該フック(26)は、前後方向に延びる状態に取り付けられた胴部(261)の先端に鈎部(262)を軸心周りに回転可能に設けて成ることを特徴とする前記[1],[2],[3],[4],[5],[6],[7],[8]または[9]に記載の動荷重試験装置(10)。
[11]前記フック(26)の胴部(261)の先端側は、前記スレッド(20)の前方の取付部(260)に螺合させて固定するボルト(261a)として形成され、前記取付部(260)より突出した前記ボルト(261a)の先端に別途ナット(263)を螺合させたことを特徴とする前記[10]に記載の動荷重試験装置(10)。
[12]前記突出部(22)上に、前記フック(26)より延びるワイヤーロープ(30)を該突出部(22)の前方へ案内するガイド(270)を設けたことを特徴とする前記[10]または[11]に記載の動荷重試験装置(10)。
[13]前記スレッド(20)は、骨組材であるH形鋼(200)を組み合わせた矩形状の枠組み(201)から成り、前記H形鋼(200)は、長手方向に延びる平行な2本のフランジ(200a,200a)と、各フランジ(200a)間の中央部分を繋ぐ1本のウェブ(200b)から成り、
前記H形鋼(200)同士を組み合わせるに際して、一方のH形鋼(200)の端部が突き合わせる側の他方のH形鋼(200)の上下のフランジ(200a)間の窪みに嵌るように、前記端部のフランジ(200a)の一部を組み合う形状に切り欠いて溶接することを特徴とする前記[1],[2],[3],[4],[5],[6],[7],[8],[9],[10],[11]または[12]に記載の動荷重試験装置(10)。
[14]前記車輪(23)を含むユニットは、前記スレッド(20)の底面側に位置決めされた状態で着脱可能に固定されるケーシング(231)を備え、
前記ケーシング(231)は、その上面部(232)より互いに離隔して平行に対向する一対の側壁(233,233)が垂下して成り、
前記車輪(23)は、予め回転軸(23a)に回転可能に軸支された単品として構成され、該回転軸(23a)の両端が、前記各側壁(233)間に対して水平な両側方向に延びる位置決めされた状態で着脱可能に枢支されることを特徴とする前記[5]に記載の動荷重試験装置(10)。
次に、前述した解決手段に基づく作用を説明する。
前記[1]に記載の動荷重試験装置(10)によれば、一定方向に移動可能に設置したスレッド(20)上に供試体を搭載し、この供試体を搭載した状態のスレッド(20)を加速機構により所定速度まで加速させる。ここで所定速度は、動荷重試験において要求される最大衝撃力等を元にして予め算出する。
そして、前記スレッド(20)が所定速度に達した後、該スレッド(20)を停止機構によって急停止させることにより、動荷重試験において所望の条件を満たす動荷重を付与する。停止機構は、スレッド(20)の前方を衝突させる線状の停止材(40)から成り、複数の停止材(40)を、スレッド(20)の前方が対向する水平な両側方向に沿って延ばし、かつ前後に複数並べて配置させる。
各停止材(40)は、両端がそれぞれ掛止された状態から離脱可能に配置され、スレッド(20)の前方が順次衝突した際に、その衝撃力を吸収しながら塑性変形しつつ両端が掛止された状態から離脱する。この離脱時の抵抗力が停止力に置き換えられて、スレッド(20)が進行するにつれ接触する停止材(40)の本数が増え、停止力が増大していく。
停止機構により付与された動荷重の経時的な変化は、例えば解析装置により加速度波形としてグラフ化される。かかる加速度波形を、予め規定された理想波形に如何に近づけるかが重要となる。停止材(40)の長さや本数、配置によって、得られる加速度波形の形状が調整されるが、限られたスペースで試験を行う関係上、停止材(40)の設置可能な本数は限られており、個々の停止材(40)の停止力は比較的強いものとなっている。
従って、個々の停止材(40)の挙動が波形形状に大きく影響するが、停止材(40)の強度や設置本数を変えることなく、本動荷重試験装置(10)では、停止材(40)に衝突させるスレッド(20)の方を工夫している。すなわち、スレッド(20)の前方に、その両側端部(21)が各停止材(40)に同時に衝突する前に、両側端部(21)より中央側の位置で各停止材(40)に先に衝突する突出部(22)を設けている。
スレッド(20)に突出部(22)を設けたことにより、スレッド(20)が各停止材(40)に衝突する際、先ず突出部(22)が停止材(40)の中央側に衝突し、次に両側端部(21)が停止材(40)に衝突することになる。このように、一本の停止材(40)から得られる停止力を複数段階に分けることにより、停止材(40)一本一本の挙動を滑らかにしてスレッド(20)の停止力として伝達することが可能となる。その結果、得られる加速度波形の形状を、試験の規格条件を満たす滑らかな曲線の理想波形とすることができる。
前記[2]に記載の動荷重試験装置(10)によれば、前記突出部(22)は、スレッド(20)の前方に着脱可能に固定されている。これにより、突出部(22)をスレッド(20)から簡単に取り外すことができ、交換ないし保守点検を容易に行うことができる。
前記[3]に記載の動荷重試験装置(10)によれば、前記突出部(22)は、停止材(40)に直接衝突する受け部(210)を備えて成り、この受け部(210)は、突出部(22)より着脱可能に構成されている。このように、突出部(22)自体において、試験回数が増す毎に破損したり摩耗する受け部(210)だけを別途交換することができる。
また、前記[4]に記載したように、スレッド(20)の両側端部(21)も、停止材(40)に直接衝突する受け部(210)を備えて成り、この受け部(210)も、両側端部(21)より着脱可能に構成して、なおかつ前記突出部(22)の受け部(210)と共用部品にすると良い。これにより、スレッド(20)の両側端部(21)においても、受け部(210)だけを別途交換することができる。また、受け部(210)を共用部品とすることで、部品の製造コストを低減することができる。
前記[5]に記載の動荷重試験装置(10)によれば、スレッド(20)は、底面側に固定された車輪(23)を介して、床面上に前後方向に延びるレール(11)上に移動可能に設置される。車輪(23)はユニットとして構成され、スレッド(20)がレール(11)上に設置されている状態にて、該スレッド(20)の底面側に着脱可能に固定されている。
これにより、スレッド(20)をレール(11)から持ち上げたり外すことなく、スレッド(20)から車輪(23)を含むユニットを簡単に取り外すことができ、交換ないし保守点検を容易に行うことができる。なお、後述するが前記[14]に記載したように、ユニット全体の着脱とは別に、ユニットから車輪(23)のみ着脱できるようにしても良い。
前記[6]に記載の動荷重試験装置(10)によれば、スレッド(20)の底面側に、レール(11)に対して移動可能に係合して該レール(11)からの離脱を防止する保持機構(24)を設ける。これにより、試験の際に、スレッド(20)がレール(11)から浮き上がって脱落する事態を防止することができる。また、保持機構(24)は、スレッド(20)がレール(11)上に設置されている状態で、該スレッド(20)の底面側に着脱可能に固定されている。これにより、保持機構(24)の交換ないし保守点検も容易に行うことができる。
前記[7]に記載の動荷重試験装置(10)によれば、スレッド(20)の上面側に、供試体を搭載するための天板(25)を着脱可能に設け、天板(25)に、供試体を取り付けるためのネジ孔(252)を穿設する。このネジ孔(252)は、スレッド(20)の前後方向に対して供試体を所定角度に交差する向きに取り付ける位置に配され、天板(25)を裏返すことで供試体を左右逆向きに取り付けることができる。これにより、供試体の取り付け向きを変える際に、左右逆向きにするための特別な治具等を用いることなく、天板(25)を裏返すだけで簡単に対応することができる。
また、前記[8]に記載したように、天板(25)を平面方向に2分割して、分割された各々をスレッド(20)の上面側に対して別々に着脱可能にすると良い。これにより、天板(25)を裏返す際の大きさおよび重量が半減され、容易に裏返したり保守点検を行うことができる。
また、前記[9]に記載したように、スレッド(20)の上面側と天板(25)との間に、防振用のゴムシートを介装させれば、スレッド(20)の加速時におけるガタつきを抑制することができ、かかるガタつきが試験結果に悪影響を及ぼさないようにすることができる。
前記[10]に記載の動荷重試験装置(10)によれば、加速機構は、スレッド(20)の前方に連結したワイヤーロープ(30)の先に錘(31)を固結し、該錘(31)を鉛直方向に落下させることで前記スレッド(20)を加速させるものであり、簡易に構成することができ、コスト高を招くことなくスレッド(20)を確実に加速させることができる。
そして、スレッド(20)の前方に、ワイヤーロープ(30)の基端を掛止するフック(26)を設け、該フック(26)は、前後方向に延びる状態に取り付けられた胴部(261)の先端に鈎部(262)を軸心周りに回転可能に設けて成る。このようなフック(26)によれば、ワイヤーロープ(30)が捩れることを防止することができる。
また、前記[11]に記載したように、フック(26)の胴部(261)の先端側は、スレッド(20)の前方の取付部(260)に螺合させて固定するボルト(261a)として形成され、前記取付部(260)より突出したボルト(261a)の先端に別途ナット(263)を螺合させると良い。これにより、フック(26)の取り付けが万一緩んだ場合には、先ずナット(263)が外れるため、フック(26)が外れてしまう前に、取り付けの緩みを目視で容易に確認することができる。
前記[12]に記載の動荷重試験装置(10)によれば、前記突出部(22)上に、フック(26)より延びるワイヤーロープ(30)を該突出部(22)の前方へ案内するガイド(270)を設けた。スレッド(20)の加速後、等速期間以降になるとワイヤーロープ(30)が緩んでくるが、この時ワイヤーロープ(30)が突出部(22)に絡む事態を防止することができる。
さらにまた、前記スレッド(20)は、具体的には例えば、前記[13]に記載したように、骨組材であるH形鋼(200)を組み合わせた矩形状の枠組み(200)として構成すると良い。ここでH形鋼(200)は、長手方向に延びる平行な2本のフランジ(200a,200a)と、各フランジ(200a)間の中央部分を繋ぐ1本のウェブ(200b)から成る。
このH形鋼(200)同士を組み合わせるに際して、一方のH形鋼(200)の端部が突き合わせる側の他方のH形鋼(200)の上下のフランジ(200a)間の窪みに嵌るように、前記端部のフランジ(200a)の一部を組み合う形状に切り欠いて溶接すると良い。これにより、スレッド(20)の主要部を成す枠組み(201)を容易に構成することができ、必要な強度も容易に得ることができる。
また、前記[14]に記載したように、前記車輪(23)を含むユニットは、スレッド(20)の底面側に位置決めされた状態で着脱可能に固定されるケーシング(231)を備え、ケーシング(231)が、その上面部(232)より互いに離隔して平行に対向する一対の側壁(233,233)が垂下して成る場合、前記車輪(23)を、予め回転軸(23a)に回転可能に軸支された単品として構成し、該回転軸(23a)の両端を、前記各側壁(233)間に対して水平な両側方向に延びる位置決めされた状態で着脱可能に枢支すると良い。これにより、特に消耗しやすい車輪(23)だけを簡単に交換でき、その際に、左右平行等の位置決め調整を行うことなく簡単に取り付けることができる。
本発明に係る動荷重試験装置によれば、停止材の本数や長さによって得られる加速度波形の形状がコントロールされるが、限られた停止材の設置本数を変えることなく、一本の停止材から得られる停止力を複数段階に分けることにより、停止材一本一本の挙動を滑らかにしてスレッドの停止力として伝達することを可能とし、得られる加速度波形の形状を、試験の規格条件を満たす滑らかな曲線の理想波形とすることができる。
以下、図面に基づき本発明を代表する一実施の形態を説明する。
図1〜図32は、本発明の一実施の形態を示している。
本実施の形態に係る動荷重試験装置10は、衝突時に負荷される動荷重による衝撃を再現するための装置である。例えば航空機座席では、非常離着陸時においても全ての搭乗者を保護するように設計しなければならない。本動荷重試験装置10では、かかる設計を証明するための装置を例として説明する。
図1および図2に示すように、動荷重試験装置10は、供試体を搭載した状態で一定方向に移動可能に設置されたスレッド20と、スレッド20を所定速度まで加速させる加速機構と、スレッド20が所定速度に達した後、該スレッド20を衝突させることで急停止させて動荷重を付与する停止機構と、を有する。スレッド20上には、各試験条件に必要な供試体として、航空機座席27および人体ダミー28が治具を介して搭載される。
航空機座席27に関する動荷重試験には、試験Iと試験II2つの試験が知られている。試験Iは、着陸時の失速等による地面との衝突を想定したもので、最大衝撃荷重14Gが要求される。試験IIは、離陸時の地上障害物との水平衝突を想定したもので、最大衝撃荷重16Gが要求される。各試験毎に、動荷重の経時的な変化を示すグラフとして、それぞれ規格条件を満たす理想波形が予め設定される。
前記試験IIにおける理想波形は、図32に示すものとなる。図32に示す理想波形は、試験IIにおける規定条件として、最大衝撃荷重は16G、ライズタイムは0.009秒(90ms)未満、速度変化は44F/S(13.42m/s)以上と定められている。なお、供試体を含むスレッド20の総重量は、例えば2500Kg等と適宜設定すれば良い。
本動荷重試験装置10において、図1および図2に示すように、スレッド20は、所定の厚さを有し平面視で前後方向に長い矩形状の骨組材から組み立てられている。スレッド20を設置する床面上には、左右一対のレール11,11が前後方向に沿って延びるように敷設されている。このレール11上に、スレッド20は、底面側に固定された後述の車輪23を介して一定方向である前後方向に移動可能に設置される。なお、レール11は、円形断面の丸棒状に形成されている(図6参照)。
詳しく言えば、図3〜図15に示すように、スレッド20は、骨組材であるH形鋼200を組み合わせた矩形状の枠組み201を備えている。枠組み201の内側にも、前後方向、左右方向、および斜め方向に延びるようにH形鋼200がリブ202,203,204として溶接されている。
図11〜図13に示すように、H形鋼200は、長手方向に延びる平行な2本のフランジ200a,200aと、各フランジ200a間の中央部分を繋ぐ1本のウェブ200bから成る。このH形鋼200同士を組み合わせるに際して、一方のH形鋼200の端部が突き合わせる側の他方のH形鋼200の上下のフランジ200a間の窪みに嵌るように、前記端部のフランジ200aの一部を組み合う形状に切り欠いて溶接する。
スレッド20の前方は、後述する停止材40に衝突する部位であり、その両側端部21,21には、それぞれ停止材40に直接衝突する受け部210が設けられている。また、両側端部21,21より中央側の中間位置には、両側端部21,21が停止材40に同時に衝突する前に停止材40に衝突する突出部22が設けられている。この突出部22にも、停止材40に直接衝突する受け部210が設けられている。ここで受け部210は、両側端部21,21や突出部22に対して着脱可能に構成されている。
図7および図8に示すように、スレッド20の前方の両側端部21,21には、それぞれ前方へ出っ張る弧状断面のブラケット21aがネジで着脱可能に取り付けられている。この各ブラケット21aに対して、前記受け部210が同じくネジで着脱可能に取り付けられている。各受け部210は、焼き入れした鋳物ではなく通常の金属材により成形され、図示した馬蹄形のフランジを上下に有し、各フランジ間の窪みに停止材40が嵌る形状となっている。
前記突出部22は、その基端にネジ止め用のフランジを備えた円筒状の部材から成り、先端には前方へ出っ張る弧状断面のブラケット22aがネジで着脱可能に取り付けられている。このブラケット22aに対して、前記受け部210がネジで着脱可能に取り付けられている。突出部22の受け部210は、前述した両側端部21,21の受け部210と同一の共用部品である。突出部22は、スレッド20の前方に着脱可能に固定され、さらに、突出部22より受け部210は着脱可能に構成されている。
図9および図10に示すように、スレッド20は、底面側に固定された車輪23を介して前記各レール11上に移動可能に設置されている。車輪23には、その外周に亘りレール11に嵌合する湾曲した凹みが形成されている。車輪23はユニットとして構成されており、該ユニットは、スレッド20の枠組み201の底面側の四隅に合計4個取り付けられている。ユニットは、図14に示すように、スレッド20がレール11上に設置されている状態でも、該スレッド20の底面側に着脱できるように取り付けられている。
詳しく言えば、図16〜図20に示すように、前記ユニットは、箱状の上面部232より互いに離隔して平行に対向する一対の側壁233,233が垂下して成るケーシング231を備える。ケーシング231は、上面部232がスレッド20の枠組み201の底面側両脇にネジ止めされることで、スレッド20の底面側に位置決めされた状態で着脱可能に取り付けられている。このネジを外してからケーシング231をスレッド20に対して前後方向にずらすことで、該スレッド20がレール11上に設置されている状態でも容易に取り外すことができる。
図19に示すように、ケーシング231の各側壁233には、それぞれ下向きに開口した凹溝233aが切り欠かれており、この凹溝233aの上端奥に車輪23の回転軸23aの両端が枢支される。凹溝233aは、回転軸23aを枢支するサイドカバー234で塞がれる。車輪23は、予め回転軸23aに回転可能に軸支された単品として構成されている。車輪23の内側には環状のベアリングが設けられており、このベアリングを介して車輪23は、固定された回転軸23aに対して回転する。サイドカバー234を側方より外すことにより、車輪23はケーシング231全体の着脱とは別に、取り付け状態にあるケーシング231から単独でも取り外すことができる。
また、図9および図10に示すように、スレッド20の底面側には、レール11から浮き上がるような離脱を防止するための保持機構24が設けられている。保持機構24はユニットとして構成されており、スレッド20の枠組み201の底面側に、左右2箇所ずつ合計4個が取り付けられている。ここでユニットは、図15に示すように、スレッド20がレール11上に設置されている状態でも、該スレッド20の底面側に着脱できるように取り付けられている。
詳しく言えば、図21〜図23に示すように、前記ユニットは、左右に2分割可能なケーシング241を備える。ケーシング241は、上面部242と中段部243が一体に設けられた内側壁部241aと、該内側壁部241aに対して側方よりネジで着脱可能に組み合わされる外側壁部241bとから成る。
両側壁部241a,241bの下端縁には、それぞれ互いに対向する一対のローラー244,244が垂直な回転軸により回転可能に枢支されている。各ローラー244は、略円錐台に形成されており、それぞれの傾斜面間にレール11を載せるように挟むことで、レール11に対して移動可能に係合する。また、外側壁部241bに枢支されたローラー244の上側には、同軸上に補助ベアリング245が回転可能に枢支されている。
ケーシング241は、上面部242がスレッド20の枠組み201の底面側両脇にネジ止めされることで、スレッド20に対して着脱可能に取り付けられている。図15に示すように、ケーシング241から外側を向く外側壁部241bを取り外して分解すれば、上面部242をスレッド20から外すことができる。これにより、スレッド20がレール11上に設置されている状態でも、スレッド20から保持機構24を容易に取り外すことができる。なお、上面部242は、必ずしも平面形状とする必要はなく、取り付ける側である枠組み201の構造に合致するような段差や凹凸を設けても良い。
図3〜図5に示すように、スレッド20の上面側には、供試体を搭載するための天板25が着脱可能に設けられている。天板25には、枠組み201ないしリブ202等に固定するための第1ネジ孔251のほか、供試体を取り付けるための第2ネジ孔252がそれぞれ穿設されている。ここで第1ネジ孔251は、枠組み201ないしリブ202等の真上に位置するように、前後方向に亘り中心線を境に左右対称な位置に規則的に配置されている。なお、各図において第1ネジ孔251および第2ネジ孔252には、それぞれ一部のみに引き出し線と符号を付している。
第2ネジ孔252は、スレッド20の前後方向(に延びる中心線)に対して所定角度で交差する一定方向に整列するように穿設されている。すなわち、第2ネジ孔252は、供試体を所定角度に交差する向きに取り付けるように配されている。これは、前述した試験IIにおいては、供試体である航空機座席27を、着陸時の衝突を模擬して前方かつ側方の動荷重が加わるように斜めに搭載するためである。通常は図24に示すように、航空機座席27は前後方向に対して左右何れかに10度傾く状態に搭載される。
図24(a)に示した例では、前方に向かって右側に傾いているが、このような取り付けを特別な治具等を用いることなく容易に実現するために、天板25の第2ネジ孔252は、前方に向かって右側に10度傾いた状態で格子状に規則正しく並ぶように整列している。図24(a)に示した例とは左右逆向きの左側に傾くように搭載したい場合には、天板25の表裏が逆になるように裏返せば良い。天板25を裏返すことで、第2ネジ孔252の配置は左側に傾くことになる。
また、図26に示すように、天板25を平面方向に2分割して、分割された各々の天板25A,25Bをスレッド20の上面側に対して別々に着脱可能としても良い。本実施の形態では、天板25を前後方向に延びる中心線を境にして縦方向に2分割している。分割された天板25A,25Bには、それぞれ前述の第1ネジ孔251および第2ネジ孔252が所定の位置に穿設されている。なお、天板25を分割する数は2分割に限ることなく、3分割、あるいは4分割以上としても良い。
さらに、スレッド20の上面側と天板25との間には、図示省略したが防振用のゴムシートを介装させると良い。具体的には例えば、枠組み201ないしリブ202等の上面に沿って細幅状に裁断した一般的なゴムシートを予め接着剤で固定しておくと良い。なお、ゴムシートの代わりに、弾性材をシート状に加工したものでも代用することもできる。
図1および図2に示すように、スレッド20の前後に位置する床面には、スレッド20を所定速度まで加速させる加速機構が設置されている。この加速機構は、スレッド20の前方に連結したワイヤーロープ30の先に錘31を固結し、該錘31を鉛直方向に落下させることでスレッド20を加速させるものである。スレッド20の前方には、前記ワイヤーロープ30の基端を掛止するフック26が設けられている。
スレッド20の前方には、図6〜図8に示すように、フック26(図中では省略)を取り付けるための取付部260が設けられている。取付部260は、前記枠組み201の前端縁の中央に上向きに突設されている。一方、フック26は、図25に示すように、前記取付部260に対して前後方向に延びる状態で取り付けられた胴部261の先端に、鈎部262を軸心周りに回転可能に設けて成る。
フック26の胴部261の先端側は、前記取付部260にあるネジ孔に螺合させて固定するボルト261aとして形成されている。ここで、取付部260より突出したボルト261aの先端には別途ナット263が螺合している。また、取付部260は、前記突出部22の基端の直ぐ上に位置するが、この突出部22上に、前記フック26より延びるワイヤーロープ30(の基端側)を突出部22の前方へ案内するガイド270を設けると良い。
ガイド270は、ワイヤーロープ30を前方へ向かって通すことができる形態であれば何でも良いが、具体的には例えば図25中に示したように、互いに離隔した両側壁271,271を有するブラケットとして、両側壁271,271間にワイヤーロープ30が摺接するボルト272等を架設して構成すると良い。
ワイヤーロープ30の先端は、図1および図2に示すように、各レール11の前方に向けて延ばされており、停止材40を越えた先の位置で滑車12,13に掛け渡された後、錘31が固結されている。錘31の重さは、スレッド20が停止材40に衝突する時に、供試体に規定の動荷重を負荷できる重さとする。この錘31の落下運動によりスレッド20は走行し、停止材40に衝突して停止するように設定されている。
スレッド20の後方には、図1に示すように切離装置14を介して、ウインチ15に巻き取られたワイヤーロープ16が連結されており、このワイヤーロープ16の張力によって試験前の錘31の落下が防止されている。また、ウインチ15によるワイヤーロープ16の巻き取りにより、走行前のスレッド20をレール11上にて所望の前後位置に調整して保持できるようになっている。そして、切離装置14によって、スレッド20からワイヤーロープ16を切り離すことにより、錘31を落下させてスレッド20を走行させることができる。
図1および図2に示すように、スレッド20の前方に位置する床面には、前記スレッド20が所定速度に達した後、該スレッド20を停止材40に衝突させることで急停止させて、動荷重を付与する停止機構が設置されている。ここで停止材40は、塑性変形する線状の材質から成り、具体的には例えば軟鋼線材のワイヤーが適する。停止材40の具体的な材質は試験の標準化を図るために、JIS規格のうち特定の種類(例えばJIS G SWRM8〜12)を採用すると良い。また、停止材40の寸法は、例えば標準径φ7、長さ3450〜3700Lとする。
停止材40は、各レール11の両脇に設置された支持台41上にて、スレッド20の前方に対向する水平な両側方向に延び、かつ前後に複数並べて配置される。ここで各停止材40の両端は、それぞれ掛止された状態から離脱可能であり、スレッド20の前方が順次衝突した際に、その衝撃力を吸収しながら塑性変形しつつ掛止された状態から離脱するように設定されている。左右両側の支持台41上には、それぞれ停止材40の端部を引っ掛ける一対のローラー42,43が回転可能に軸支されている。このローラー42,43間に停止材40の端部は巻き付くように掛止されている。なお、各ローラー42,43は、支持台41上で複数組みが前後に密に並ぶように配されている。
図29に示すように、一対のローラー42,43は、停止材40の軸方向の延びる直線上にて所定間隔をあけて軸支されている。停止材40の端部は、各ローラー42,43間に巻き付けられるように、一部が山型形状に予め曲げ加工されている。また、各ローラー42,43間に停止材40の端部が掛止された状態で、その上方は支持台41の上面に対向する鉄板(図示せず)にて押さえられている。かかる状態の停止機構にスレッド20が突入してくると、各停止材40は各ローラー42,43間を塑性変形しながらすり抜けていく。この時の抵抗力を停止力に置き換えている。スレッド20が進行するにつれ、接触する停止材40の本数が増え停止力が増大していく。
前記試験IIにおける動荷重の経時的な変化を、前述した図32に示す理想波形に近づけるには、各停止材40の条件出しとして配線パターンの作成が重要となる。ここで新規に停止材40の配線パターンを作成する場合は、前後に並ぶ各停止材40のうち最後の停止材40の位置の割り出し、停止材40の必要本数の割り出し、停止材40のカット長さの決定という手順となる。
先ず、最後の停止材40の位置の割り出しでは、最初の停止材40から最後の停止材40までの間隔を決める。ここで最初とは、最初にスレッド20に衝突するという意であり、最後とは、最後にスレッド20に衝突するという意である。
最初の停止材40から最後の停止材40までの距離により、ライズタイムが決まる。例えば前記試験IIにおけるライズタイムは85msが理想だが、この距離が短いと、波形のパルスの傾斜が急になり、ライズタイムが速くなり、試験条件が厳しくなる。また、間隔を空けすぎると、規定値の90msを越えてしまうことになる。
次に、停止材40の必要本数の割り出しでは、規定のピークG(最大衝撃荷重)を確保するために、何本の停止材40が必要であるかを、停止材40のロット毎の荷重値から算出する。これは、同一のJIS規格ないし寸法の停止材40であっても、納入ロットにより硬さのバラツキがあるためである。
そして、停止材40のカット長さの決定では、全ての停止材40がスレッド20にかかり、ピークGに達した後、停止材40が各ローラー42,43から順次抜けてスレッド20の制動力は徐々に下降し、切断した箇所の停止材40が全て抜ける長さが理想となる。なお、各工程毎の細かな計算方法は、一般的であるので詳細な説明は省略する。
その他、動荷重試験装置10は、関連設備として、図1および図2に示すように、高速度カメラ50、照明装置60、計測解析装置70、撮影解析装置80等を備えている。
高速度カメラ50は、試験中における人体ダミー28の頭の動きや安全ベルトの位置等を撮影するものである。高速度カメラ50は、支持台41の左右両側に設置され、例えば最大1000コマ/秒の性能のもの等が用いられる。なお、高速度カメラ50の代わりに、高速度ビデオを用いても良い。
照明装置60は、試験時の高速度撮影を行うための照明であり、前記高速度カメラ50の撮影範囲を照明できるように配置される。照明装置60は、例えば平均80000ルクスの照度のハロゲンランプ等が用いられる。
計測解析装置70は、試験時におけるスレッド20の速度、加速度、人体ダミー28の各部位における衝撃値等、試験の合否の判定データを計測・解析する装置であり、パソコンにより構成される。
撮影解析装置80は、試験中におけるスレッド20や人体ダミー28の動きを高速度カメラ(ビデオ)で撮影した映像に基づいて、スレッド20や人体ダミー28の試験中における実際の変位、速度、加速度を解析するものであり、パソコンにより構成される。
計測解析装置70ないし撮影解析装置80によって、前記停止機構により付与された動荷重の経時的な変化が計測される。
次に、本実施の形態に係る動荷重試験装置10の作用を説明する。
動荷重試験を実施する前に、過去の試験実績や試射の結果から試験条件に適した停止材40の配置を検討して配線パターンを作成する。ここで前述した試験IIを実施する場合、動荷重の経時的な変化が図32に示す理想波形に近づくように、最後の停止材40の位置を割り出し、停止材40の必要本数を割り出し、停止材40のカット長さを決定する。カットした停止材40は、両端を曲げ加工機で図示した山型形状に加工して、採用したワイヤー製品のロットNo毎に分けて保管する。
動荷重試験を実施するに際しては、前記配線パターンに基づき、図1に示す支持台41上に停止材40を設置する。停止材40は、スレッド20の前方に対向する水平な両側方向に延び、かつ前後に必要本数が並ぶように配置する。図29に示すように、各停止材40の両端は、それぞれ曲げ加工された部位が各ローラー42,43間に巻き付くように掛止される。なお、前後に並ぶ各ローラー42,43の上方は、支持台41の上面に対向する鉄板(図示せず)で押さえておく。
スレッド20上に供試体を搭載するには、スレッド20の上面側にある天板25に航空機座席27を取り付けて、航空機座席27に人体ダミー28を着座させた状態に取り付ける。天板25には、図3に示すように、供試体を前後方向に対して所定角度に交差する向きに取り付ける第2ネジ孔252が穿設されている。この第2ネジ孔252の配置に沿って、航空機座席27を前方かつ側方の動荷重が加わる斜め向きに容易にネジ止めすることができる。
図3に示す天板25の第2ネジ孔252の向きによれば、図24(a)に示すように、航空機座席27を前方に向かって右側に傾く状態に取り付けることができる。また、天板25を裏返せば、図24(b)に示すように航空機座席27を左右逆向きに取り付けることができる。このように、航空機座席27の取り付け向きを変える場合は、左右逆向きにするための特別な治具等を用いることなく、天板25を裏返すだけで簡単に対応することができる。
従来の天板は、その進行方向に対して、平行ないし直角に交わる方向にネジ孔が並ぶ1種類のみであった。よって、航空機座席27を天板上で進行方向に斜めに傾くように取り付ける場合には、取り付け角度に合わせてネジ孔が斜めに配置(例えば左右何れかに10度)された別の板を天板上に別途取り付ける必要があり、コストが嵩むばかりでなく、重量増加を招くという問題があった。本動荷重試験装置10の天板25によれば、このような従来技術の問題点を解消することができる。なお、天板25を取り付けるための第1ネジ孔251を第2ネジ孔252と一部兼用するようにしても良い。
また、図26に示すように、天板25を平面方向に2分割して、分割された各々をスレッド20の上面側に対して別々に着脱可能にすると良い。これにより、天板25を裏返す際の大きさおよび重量が半減され、容易に裏返したり保守点検を行うことができる。
さらに、スレッド20の枠組み201の上面側と天板25との間には、防振用のゴムシートを介装すると良い。レール11は軸方向に複数本を継ぎ足して構成されるため、スレッド20がレール11同士の接続箇所を通過する際に特にガタつきが生じやすいが、ゴムシートによりガタつきを抑制することができ、試験結果に悪影響を及ぼすことを防止することができる。
ところで、スレッド20の主要部を成す枠組み201は、H形鋼200を組み合わせて構成する。すなわち、H形鋼200を矩形状に組み合わせた枠組み201の内側に、同じくH形鋼200であるリブ202,203,204を前後方向、左右方向、および斜め方向に溶接する。図11〜図13に示すように、H形鋼200は、平行な2本のフランジ200a,200aが上下となる状態に配され、中央の1本のウェブ200bの部分が、突き合わせる側のH形鋼200の上下のフランジ200a間の窪みに嵌るように、端部のフランジ200aを組み合うように切り欠いて溶接する。これにより、スレッド20を容易に構成することができ、必要な強度も容易に得ることができる。
図9および図10に示すように、スレッド20は、車輪23を介して床面上に設置された一対のレール11,11上に移動可能に設置される。車輪23はスレッド20の底面側の四隅に合計4個取り付けられており、各車輪23はそれぞれユニットとして構成されている。かかる車輪23は、スレッド20がレール11上に設置されている状態でも、該スレッド20の底面側に着脱させることができる。
詳しく言えば、車輪23のユニットを成すケーシング231の上面部232(図18参照)をスレッド20の底面側に固定するネジを外してから、図14に示すように、ケーシング231をスレッド20に対して前後方向にずらすことで、レール11から容易に取り外すことができる。これにより、スレッド20をレール11上から持ち上げたり外すことなく、車輪23の交換ないし保守点検を容易に行うことができる。車輪23自体は、消耗品であり適宜取り替えることが必要となるが、ケーシング231からサイドカバー234を側方より外せば、ケーシング231全体の着脱とは別に、車輪23のみをケーシング231から単独でも取り外すことができる。
ここで車輪23は、予め回転軸23aに回転可能に軸支された単品として構成されており、該回転軸23aの両端を、前記各側壁233間に対して水平な両側方向に延びる位置決めされた状態で着脱可能に枢支することができる。これにより、特に消耗しやすい車輪23だけを簡単に交換でき、その際に、車輪23の左右平行等の位置決め調整を行うことなく簡単に取り付けることができる。
また、図9および図10に示すように、スレッド20の底面側には、レール11に対して移動可能に係合して該レール11からの離脱を防止する保持機構24を設ける。これにより、試験の際に、スレッド20がレール11から浮き上がって脱落する事態を確実に防止することができる。また、保持機構24は、スレッド20がレール11上に設置されている状態でも、該スレッド20の底面側に着脱させることができる。
保持機構24も前記車輪23と同様に消耗品であり、適宜取り替えることが必要となる。そこで、保持機構24のユニットを成すケーシング241(図23参照)のうち、図15に示すように、外側を向く外側壁部241bを取り外して分解すれば、スレッド20から保持機構24を容易に取り外すことができる。これにより、スレッド20をレール11上から持ち上げたり外すことなく、保持機構24の交換ないし保守点検も容易に行うことができる。
その他、スレッド20に関する準備としては、スレッド20や供試体である航空機座席27、人体ダミー28の適所に動荷重試験で使用する加速度センサ等の各種センサを取り付け、各センサの係数を所定の値に設定する。ここで各センサの配線は、計測解析装置70の指定のチャンネルに接続する。また、試験時の高速度撮影を行う高速度カメラ50を支持台41の左右両側に設置し、さらに、その側方には照明装置60を設置して、前記高速度カメラ50の撮影範囲を所定の明るさで照射する。
スレッド20の準備が整ったら加速機構による発射準備を行う。図1に示すように、スレッド20の後方に切離装置14を介してワイヤーロープ16を連結し、ウインチ15で適宜巻き取りスレッド20を所定の発射位置まで移動させる。スレッド20の前方にフック26(図25参照)を介してワイヤーロープ30を連結し、ワイヤーロープ30の先に錘31を固結する。そして、前記切離装置14によってスレッド20からワイヤーロープ16を切り離すことにより、錘31を鉛直方向に落下させてスレッド20を発射させる。このように加速機構は、簡易に構成することができ、コスト高を招くことなくスレッド20を確実に加速させることができる。
図25に示すように、前記フック26は、スレッド20の前方に固定した胴部261に対して、ワイヤーロープ30を引っ掛ける鈎部262が軸心周りに回転可能である。これにより、スレッド20の走行中にワイヤーロープ30が捩れることを防止することができる。また、フック26の胴部261の先端側はボルト261aになっており、スレッド20の前方にある取付部260に螺合させて固定する。ここで取付部260より突出したボルト261aの先端にナット263を螺合させておく。フック26の取り付けが万一緩んだ場合、先ずナット263が外れるため、取り付けの緩みを目視で容易に確認することができる。
そして、図1において、切離装置14によりスレッド20からワイヤーロープ16を切り離し、錘31を鉛直方向に落下させると、スレッド20はレール11上を走行し所定速度まで加速する。ここで所定速度は、動荷重試験において要求される最大衝撃力等を元にして予め算出しておく。この値に基づき錘31の重さやスレッド20の総重量等も決められる。そして、スレッド20が所定速度に達した後、停止機構を成す各停止材40に衝突して急停止することにより、動荷重試験において所望の条件を満たす動荷重が付与される。
図27および図28は、それぞれスレッド20が各停止材40に衝突した際の停止材40の変化の様子を示している。各図(a)は、スレッド20の突出部22が最前列にある停止材40に衝突した瞬間であり、各図(b)は、スレッド20の突出部22が各停止材40に順次衝突しつつも、両側端部21は未だ停止材40に衝突していない状態である。各図(c)は、スレッド20の両側端部21も停止材40に衝突し始めた状態である。そして、各図(d)では、スレッド20の両側端部21が各停止材40に順次衝突しつつある状態である。なお、図中において、各停止材40の両端の位置の変化は省略して記載している。
図29は、個々の停止材40における動荷重の働き方を示している。図中において、スレッド20が衝突する前の停止材40上に並ぶA点〜F点は、スレッド20が衝突するとA’点〜F’点の位置に変化する。停止材40における動荷重は、衝突当初は停止材40が外側のローラー43に巻き付くことにより、荷重が働く(25%)。次に図中のD点において、外側のローラー43から内側のローラー42への巻き付けに変わるため、ここで大きな動荷重が働く(50%)。そして、図中のE点において巻き付いていたものを直線に伸ばす動荷重が働く(25%)。従って、D点を通り過ぎると75%の荷重が失われるため、D点が動荷重の抜け位置となる。
このように、各停止材40は、両端がそれぞれ掛止されたローラー42,43間から離脱可能であり、スレッド20の前方が順次衝突すると、その衝撃力を吸収しながら塑性変形しつつ両端がローラー42,43間に掛止された状態から離脱する。この離脱時の抵抗力が停止力に置き換えられて、スレッド20が進行するにつれ接触する停止材40の本数が増え、停止力が増大していく。
また、各停止材40の停止力は、スレッド20が移動する毎に変化する。すなわち、停止材40の角度αが増すのに比例して、停止材40に受ける荷重も増加することになる。なお、図29では従来技術のように、スレッド20の前方に突出部22がなく、両側端部21,21が停止材40に対して同時に衝突する例を示すが、停止材40と各ローラー42,43との関係は共通する。
スレッド20が停止すると、各センサからの出力データや高速度カメラ50で撮影された画像を計測解析装置70や撮影解析装置80に転送して解析を行う。各停止材40との衝突により付与された動荷重の経時的な変化は、計測解析装置70により加速度波形としてグラフ化される。かかる加速度波形を、図32に示す予め規定された理想波形に如何に近づけるかが重要となる。停止材40の本数や長さによって、得られる加速度波形の形状がコントロールされているが、限られたスペースで試験を行う関係上、停止材40の設置可能な本数は限られており、個々の停止材40の停止力は比較的強いものとなっている。
従って、個々の停止材40の挙動が波形形状に大きく影響するが、停止材40の強度や設置本数を変えることなく、本動荷重試験装置10では、停止材40に衝突させるスレッド20の方を工夫している。すなわち、スレッド20の前方に、その両側端部21が各停止材40に同時に衝突する前に、両側端部21より中央側の位置で各停止材40に先に衝突する突出部22を設けている。
このような突出部22を設けたことにより、スレッド20が各停止材40に衝突する際、先ず突出部22が停止材40の中央側に衝突し、次に両側端部21が停止材40に衝突することになる。すなわち、一本の停止材40から得られる停止力を複数段階に分けることにより、停止材40一本一本の挙動を滑らかにしてスレッド20の停止力として伝達することが可能となる。その結果、得られる加速度波形の形状を、試験の規格条件を満たす滑らかな曲線の理想波形とすることができる。
図30は、従来技術のスレッドが停止材40に衝突する際の模式図(a)と、本実施の形態に係るスレッド20が停止材40に衝突する際の模式図(b)である。どちらの例でも、停止材40の張力Tは常に一定であるため、それぞれ次の式で停止力Fを算出することができる。なお2倍するのは、左右両側に各ローラー42,43が配されているためである。
[図30(a)の場合]
F0=2×Tcosθ0 (またはF0=2×Tsinα(角度αは図29参照))
[図30(b)の場合]
この場合、停止材40は大きく分けて2つの挙動に分けられるために、以下の2式の合計として求められる。
・停止材40がスレッド20の突出部22に衝突してから側端部21に衝突する前まで
F1=2×Tcosθ1 (またはF1=2×Tsinα(角度αは図29参照))
・停止材40がスレッド20の側端部21に衝突した後
F2=2×Tcosθ2 (またはF2=2×Tsinα(角度αは図29参照))
なお、θ1≧θ2であるため、F1≦F2の関係が成り立つ。
図30(a)において、スレッド20の突出部22と内側のローラー42との距離L(図29参照)が200mm程度で、スレッド20が約100mm進んだ場合、停止材40とスレッド20の角度θの変化量は約27度となる。
また、図30(b)において、スレッド20の側端部21と内側のローラー42との距離Lが800mm程度で、スレッド20が約100mm進んだ場合、停止材40とスレッド20の角度θの変化量は約7度となる。
このように両条件を比較すると、スレッド20の移動量に対して、停止材40とスレッド20のなす角度の変化量に大きな違いが発生している。これにより、従来の構造(図30(a))よりも本実施の形態の構造(図30(b))の方が、停止材40の影響をスムーズに受けることができる。すなわち、図30(a)の場合の実際の加速度波形を図31(a)、図30(b)の場合の実際の加速度波形を図31(b)にそれぞれ示すが、両者を比較すれば明らかなように、前者の加速度波形はガタついた形状となるのに対して、後者の加速度波形は滑らかな形状となる。
その他、実際の加速度波形の形状を図32に示す理想波形に近づけるためには、以下の方法で調整することができる。すなわち、加速度波形の立ち上がりからピークまでの傾斜角度を急にするには(ライズタイムを速くする)、停止材40の本数を変えずに配線の間隔を詰めたり、あるいはスレッド20の速度を速くする。逆に、立ち上がりからピークまでの傾斜角度を緩やかにするには(ライズタイムを遅くする)、停止材40の本数を変えずに配線の間隔を空けたり、あるいはスレッド20の速度を遅くすれば良い。
加速度波形のピーク時以降の加速度下降の度合いに関しては、早くGを下げる場合(下がる傾斜をきつくする)には、停止材40の切断長さを短くしたり、スレッド20の速度を上げる、スレッド20の総重量を増やすこと等が考えられる。逆に、遅くGを下げる場合(下がる傾斜を緩くする)には、停止材40の切断長さを長くしたり、スレッド20の速度を下げる、スレッド20の総重量を減らすこと等が考えられる。
さらに、狙いのピークGを上げる場合には、停止材40の本数を増やしてもGは上がるが、この場合はスレッド20の総重量や速度を変更した時よりも、顕著に波形の形状が大きく変わってしまうため、通常の微調整はスレッド20の重量で調整する。ただし、減らすウエイトが無かったり、大幅な変更の場合には、停止材40の本数を増やすか、減らす等して調整する。
また、本動荷重試験装置10によれば、スレッド20の突出部22は、枠組み201の前方に対して着脱可能に固定されている。これにより、突出部22をスレッド20から簡単に取り外すことができ、交換ないし保守点検を容易に行うことができる。図25に示すように、突出部22は、停止材40に直接衝突する受け部210を備えており、この受け部210は、突出部22より着脱可能に構成されている。よって、試験回数が増す毎に破損したり摩耗する受け部210だけを別途交換することができる。
同様に、スレッド20の両側端部21も、停止材40に直接衝突する受け部210を備えており、この受け部210も、両側端部21より着脱可能に構成され、なおかつ前記突出部22の受け部210と共用部品となっている。これにより、スレッド20の両側端部21においても、受け部210だけを別途交換することができる。また、受け部210が共用部品であるため、部品の製造コストを低減することができる。なお、従来のスレッドの両側端部にある受け部は、焼き入れした鋳物で構成しており、堅すぎて割れてしまう脆さがあったが、今回の受け部210は焼き入れしない代わりに摩耗しやすくなっても、消耗品として適宜交換すれば良い。
さらに、図25に示すように、前記突出部22上には、フック26より延びるワイヤーロープ30を該突出部22の前方へ案内するガイド270を設けると良い。前記スレッド20の加速後、等速期間以降になるとワイヤーロープ30が緩んでくるが、この時ワイヤーロープ30がガイドによって前方へ案内されるようにすれば、ワイヤーロープ30が直ぐ下方に垂れて突出部22に絡む事態を防止することができる。
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば本実施の形態では、航空機座席27を対象とする動荷重試験について説明したが、他の様々な乗物の衝突時の再現試験に適用することができる。また、加速機構としては、前述した錘31の落下を利用したものではなく、油圧制御や空圧制御を利用してスレッド20を発射するように構成したものを採用しても良い。
また、スレッド20の具体的な形状、停止材40の長さや配置等は、図示したものに限定されることはない。特に、スレッド20における突出部22は、停止材40に衝突した際に左右のバランスが崩れないように中央に1つ設けることにしたが、要はスレッド20の両側端部21が衝突する前に停止材40に衝突し、衝突を複数回に分けることができる構成であれば良い。