以下に、本発明にかかるカーボンナノチューブの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
(実施の形態)
まず、本発明の実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、2層カーボンナノチューブの割合が10%以上かつ50%未満であるとともに3層以上の多層カーボンナノチューブの割合が10%以下である。そして、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、空気雰囲気下、5℃/分で昇温した時の最も大きなDTA曲線ピーク温度が750℃以上である。そして、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、カーボンナノチューブの平均直径が2.0nm以下である。本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、2層カーボンナノチューブのみの平均直径が2.0nm以下かつ、単層カーボンナノチューブのみの平均直径が1.8nm以下である。本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、カーボンナノチューブの直径分布の標準偏差が1.0nm未満である。そして、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、波長が514nmの光によるラマンスペクトル測定においてDバンドの高さに対するGバンドの高さの比の値(G/D比)が100以上である。
ここで、カーボンナノチューブは、グラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状をなしており、グラファイト層1層を筒状に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、グラファイト層2層に重ねた状態で筒状に巻いたものを2層カーボンナノチューブ、3層以上を重ねて巻いたものを多層カーボンナノチューブという。
本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体であって、2層カーボンナノチューブの割合が10%以上かつ50%未満であるとともに3層以上の多層カーボンナノチューブの割合が10%以下であり、空気雰囲気下、5℃/分で昇温した場合の最も大きなDTA曲線ピーク温度が750℃以上であり、カーボンナノチューブの平均直径が2.0nm以下であるカーボンナノチューブ集合体は、同じ直径の単層カーボンナノチューブだけからなるカーボンナノチューブ集合体よりも導電性に優れる。ここで、直径とは、特に断らない限り、2層以上の層数を有するカーボンナノチューブの場合は、最外層の径(カーボンナノチューブの外径)を示す。
本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体の導電性が良好な理由は、次のとおりであると考える。カーボンナノチューブに電気が流れる際、通常、カーボンナノチューブのグラファイト層のπ電子が電気の担い手となっていると考えられている。したがって、空間あたりのグラファイト層の占める割合が多いほど、電気を多く流すことが可能となる。単層カーボンナノチューブは中空状の化合物であるため、直径が大きくなるほど電気の流れない無駄な空間の割合が大きくなる。したがって、カーボンナノチューブの直径は小さい方が単位体積当たりの電流量が多くなるため、導電材料用途には向いている。また、2層カーボンナノチューブはグラファイト層が2重になっているため、同じ直径の単層カーボンナノチューブよりも空間あたりのグラファイト層の占める割合が多くなる。このため、同じ直径の単層カーボンナノチューブと比較し、2層カーボンナノチューブの方が多くの電流を流すことができる。
また、通常、単層カーボンナノチューブは、半導体型と金属型が2:1の比率で混ざっている。これに対し、2層カーボンナノチューブは、グラファイト層が2層あるうちの内層と外層のどちらか一方が金属型である場合、全体としては金属型に近い電気的挙動を示す。結果として、2層カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブだけの場合よりも、金属型に近い電気的挙動を示す本数の割合が多くなり、導電性がよくなると言われている。本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、同じ直径の単層カーボンナノチューブと比較し、多くの電流を流すことができる2層カーボンナノチューブの方を10%以上50%未満の割合で含むため、同じ直径の単層カーボンナノチューブだけからなるカーボンナノチューブ集合体よりも導電性に優れる。
一方、2層カーボンナノチューブは、グラファイト層が2層ある分、重量や光吸収量が同直径の単層カーボンナノチューブよりも大きくなるため、軽量効果または光透過性能のどちらかまたは両特性を併せて必要とされる用途の場合は、カーボンナノチューブの使用重量に対する導電性向上効果と、軽量効果や光透過性能とのバランスを考慮して、2層カーボンナノチューブの割合を10%以上50%未満の範囲内で調整すればよい。例えば、軽量効果が期待される例として、カーボンナノチューブの撚糸や束線を、軽量化電線、軽量化配線に適用する場合であり、透過率が必要とされる例として、カーボンナノチューブを含む導電膜を透明導電膜に適用する場合や、塗料にカーボンナノチューブを含ませて静電防止塗料に適用する場合である。
また、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、層数が少ない単層カーボンナノチューブを含むため、同じ重量でも2層以上の多層カーボンナノチューブのみからなるカーボンナノチューブ集合体や多層カーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体よりも本数が多くなる。このため、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、樹脂やゴムとのコンポジットとして用いる場合もネットワークを組みやすく、コンポジットや導電助剤に適用しても良好な性能を発揮し、本実施の形態のカーボンナノチューブ集合体における層数の割合と直径分布を有するものが、最も良好となる。
また、コンポジット用途だけでなく、薄膜として使用する用途においても、薄膜を形成するカーボンナノチューブのネットワーク構造は重要で、同じ重量で薄膜を形成した際でも、単層カーボンナノチューブと2層カーボンナノチューブの比率が異なれば、薄膜を形成するカーボンナノチューブの本数が異なり、透過性を必要とする用途では、本数が少なすぎると導電性が低下するため、本発明のカーボンナノチューブ集合体が最も適したカーボンナノチューブ集合体となる。
そして、通常、カーボンナノチューブは結晶性が高く、層数が多いほど強度が強くなる。本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、2層カーボンナノチューブが含まれている分、強度が強いため、分散または混練を伴う用途にもカーボンナノチューブの破断が少ない状態で分散または混練が可能となる。したがって、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、分散または混練を伴う用途にも良好な導電性をもつ材料として使用可能である。
本実施の形態の、2層カーボンナノチューブの割合が10%以上かつ50%未満であるとは、計上した2層カーボンナノチューブの本数を、計上した全カーボンナノチューブの本数で割った後、100倍した値が10以上50未満ということである。本実施の形態では、単層カーボンナノチューブと3層以上の多層カーボンナノチューブの割合も同様に計算し、具体的には、3層以上の多層カーボンナノチューブの割合が10%以下である、とは、計上した3層以上の多層カーボンナノチューブの本数を、計上した全カーボンナノチューブの本数で割った後、100倍した値が10以下であるということである。
カーボンナノチューブの本数の計上の方法として、たとえば、透過電子顕微鏡でカーボンナノチューブの層数が観察できる倍率で観察した1視野内で、カーボンナノチューブが1視野の総面積の30%以上を占める状態で100本の直径と層数を計測し、1視野で100本以上計測できない場合は100本になるまで複数の視野から測定する。この場合、1視野中で数えることのできるカーボンナノチューブは全て測定する。カーボンナノチューブ1本とは、視野中でカーボンナノチューブの一部でも見えていれば1本と計上し、必ずしもカーボンナノチューブの両端が見えている必要はない。また、視野中で2本と認識されていても、視野外でつながっていて1本となっていることもあり得るが、その場合は2本と計上する。なお、透過電子顕微鏡で計測するカーボンナノチューブの本数は、もちろん100本に限らず、100本を超えていてもよい。
カーボンナノチューブのみを透過電子顕微鏡で観測できない場合は、混合物のまま観測すればよい。例えば、樹脂やエラストマーに混合されている場合は、ミクロトーム等でスライスして、樹脂またはエラストマーごと測定してもよいし、加工する装置がない場合は、破砕し、破断面から飛び出しているカーボンナノチューブを観測してもよい。
本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体に含まれる2層カーボンナノチューブの割合は、前述の理由により10%以上50%未満であるが、割合が10%よりも高いほど導電性がよくなる。すなわち、カーボンナノチューブ集合体に含まれる2層カーボンナノチューブの割合が、20%以上50%未満である場合にはよりよく、30%以上50%未満である場合にはさらによく、40%以上50%未満である場合には導電性材料用途として最も好適となる。
また、カーボンナノチューブは層数が増えるほど剛直性が増していく。多層カーボンナノチューブが多く混ざると分散性への影響も出てしまい、最終製品としたときの物性も変化するため、分散性を考慮すると、3層以上の多層カーボンナノチューブは、少ない方がよく、10%未満であることが好ましい。そして、分散性を高める場合には、3層以上の多層カーボンナノチューブは、5%未満であるとさらに好ましく、最も好ましくは1%未満である。
上記の様な層数比率になる合成は、例えば、本発明に示す様に3種以上の炭素原料を用いることによって合成できる。合成原理は完全には解明できていないが、十分に炭素源が触媒に供給されるため、合成するのに単層カーボンナノチューブよりも多くの炭素源を消費する2層カーボンナノチューブが合成さる比率が増加したものと思われる。また、一般的に、キャリアガスの水素濃度比を減らすと、多層カーボンナノチューブが生成しやすくなる傾向も併せて利用して更に微調整することもできるが。キャリアガスの水素濃度比の調整だけでは、触媒表面の水素原子のエッチング量や、触媒粒子の成長速度など、複数の条件が同時に変化してしまうため、キャリアガスだけでは層数のコントロールが難しい。
また、本実施の形態のカーボンナノチューブ集合体は、先に述べた理由から、直径は小さい方が好ましく、平均直径が2.0nm以下である。本実施の形態のカーボンナノチューブ集合体の平均直径は、1.8nm以下が好ましい。一方、単層カーボンナノチューブだけの平均直径は、1.8nm以下であることが好ましく、2層カーボンナノチューブだけの平均直径は2.0nm以下であることが好ましい。より好ましくは、単層カーボンナノチューブだけの平均直径は1.6nm以下であり、2層カーボンナノチューブだけの平均直径は1.8nm以下であることが好ましい。
本実施の形態のカーボンナノチューブ集合体の強度、弾性率を利用する用途の場合には、下限はカーボンナノチューブを合成可能な大きさまでである。また、本実施の形態のカーボンナノチューブ集合体の導電性を利用する用途の場合には、カーボンナノチューブのバンドギャップが大きくなりすぎると導電性に影響が出てくるため、単層カーボンナノチューブの下限はせいぜい1.0nmまでである。この場合の2層カーボンナノチューブについては、特に制限はなく、カーボンナノチューブが合成できる最低限の直径まで利用可能である。
カーボンナノチューブ集合体の平均直径を比較的細くする方法は、一般的には、例えば気層流動法であれば、導入する触媒の濃度を低くする方法や、炭素原料を多目に導入することにより、早めに分解する炭素原料の量を増やし、触媒粒子が大きく成長する前にカーボンナノチューブの成長させ始める方法などが有効に利用できる。また、キャリアガスの水素濃度を変化させることによって、化合物の分解速度と触媒表面の水素原子のエッチング量を調整することによってカーボンナノチューブの直径を調整することも可能であるが、この方法は、数種の条件が同時に変化するため、平均直径と水素濃度の傾向は一概にはどのように調製すると良いとは言い難いため、合成条件に応じてその都度調整するのが良い。
また、カーボンナノチューブ集合体の平均直径が前述のとおりであったとしても、直径分布があまりにも広い場合は、直径の非常に大きなカーボンナノチューブが混ざることとなり、導電性が低下する。このため、本実施の形態のカーボンナノチューブ集合体の直径分布の標準偏差は、1.0nm以内であることが好ましい。そして、本実施の形態のカーボンナノチューブ集合体の直径分布の標準偏差は、より好ましくは0.8nm以内であり、さらに好ましくは0.6nm以内であり、最も好ましくは0.5nm以下である。本実施の形態のカーボンナノチューブ集合体の直径分布は、前述の理由により小さい方が導電性の良好なカーボンナノチューブ集合体となるため好ましい。なお、この標準偏差は、前述の直径の評価方法と同様の方法で評価した100本以上のカーボンナノチューブの直径に基づき算出した標準偏差である。
直径分布を小さくする方法としては、例えば、気相流動法で液体噴霧ノズルを利用して触媒を導入する場合は、ミスト状に噴霧された触媒溶液の液滴の粒径分布が小さくなるようにノズルを調整すると良いし、基盤法によっての触媒粒子調製なら、基盤を加熱する際の温度プロファイルを調整することで、粒度分布の小さくなる条件を探すことができる。
本発明の実施の形態にかかるカーボンナノチューブにおいては、波長が514nmの光によるラマンスペクトル測定におけるG/D比が100以上である。波長が514nmの光によるラマンスペクトル測定におけるG/D比は、カーボンナノチューブの純度または結晶性の高さを示しており、G/D比は、高ければ高いほど好ましい。ラマン分光分析におけるGバンドはカーボンナノチューブのグラファイト層由来のものであり、Dバンドは、カーボンナノチューブ以外のアモルファスカーボン等の不定形炭素、またはカーボンナノチューブのグラファイト層の欠損やアモルファス部分等の由来である。カーボンナノチューブ集合体の不純物は少ない方が材料として使用する場合に、カーボンナノチューブだけの性能を発揮しやすく、カーボンナノチューブの結晶性は高い方が、カーボンナノチューブの性能も高くなるためである。本発明の実施の形態にかかるカーボンナノチューブにおいては、波長が514nmの光によるラマンスペクトル測定におけるG/D比が100以上であるため、不純物が少なく、高い性能を示す。
本発明において高いG/D比を有するカーボンナノチューブ集合体が合成できるのは、十分な炭素源が供給されていることに一因があると考えられるが、炭素源は多ければ良いというわけではなく、条件に合った適度な量が供給されなければ、副反応が進行し、G/D比が低下する要因となる。単純に単一もしくは2種の化合物だけを炭素源とした場合は、コントロールが難しく、本発明の他のパラメーターを満たすカーボンナノチューブが合成できても、G/D比が低くなることが多い。好適に本発明のカーボンナノチューブ集合体を準備するには、3種以上の化合物を炭素源として用いるのが好ましい。
本実施の形態にかかるカーボンナノチューブは、空気雰囲気下、5℃/分で昇温した場合の最も大きなDTA曲線ピーク温度が750℃以上である。本実施の形態にかかるカーボンナノチューブは、一般的な示差熱分析による方法を用いて、空気雰囲気下、約1〜2mgのカーボンナノチューブ集合体を白金パン上で5℃/分の速度で昇温しつつ加熱して得られるDTA曲線の最大強度を示すピークの頂点温度が750℃以上である。ここで、空気雰囲気下とは、示差熱分析装置に100cc/分の速度で空気を送り込みつつ測定した状態をいう。空気を送り込む方法に特に指定はなく、空気を送り込む装置についても特に指定はないが、たとえば、空気を送り込む装置として、ベビーコンプレッサーやダイヤフラムポンプなどを用いることが可能である。送り込む空気の流量は、流量計を設置して量を調整するとよい。示差熱分析の装置は、株式会社リガク、島津製作所、メトラー・トレド株式会社などから購入可能である。
通常、DTA曲線のピーク温度が高温度であるほど、カーボンナノチューブの結晶性が高く、不純物量も少ないため、良好な導電材料として使用でき、ピーク温度は高温度であるほど好ましい。本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、DTA曲線のピーク温度が750℃以上であるため、導電材料として好適である。また、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、製造条件によっては、DTA曲線のピーク温度が800℃以上であるため、さらに優れた導電材料として機能する。DTA曲線のピーク温度が高い理由は、定かではないが、分解温度の異なる3種以上の炭素原料の分解が時間差で起こり、炭素源がカーボンナノチューブの成長に消費されても、次々と新たな炭素源が供給されるため、欠損の少ないカーボンナノチューブ集合体が合成されるのではないかと考えている。また、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、熱重量分析によって求められる触媒の残留質量が5wt%以下と少なく、不純物量が少ないため、導電材料としても良好である。
したがって、本実施の形態のカーボンナノチューブ集合体を用いることにより、非常に導電性の高いカーボンナノチューブ成形体を製造することができる。カーボンナノチューブ集合体は、高い機械強度も有するため、好適には非常に導電性が高く、かつ、強度的にも優れたカーボンナノチューブ成形体を製造することができる。カーボンナノチューブ成形体とは、カーボンナノチューブ集合体が成形または加工により、賦形された状態にあるものすべてのことをいう。また、成形または加工とは、カーボンナノチューブ集合体の形状が変わる操作や工程を経過するすべての操作を示す。カーボンナノチューブ成形体の例としては、カーボンナノチューブ集合体からなる糸、チップ、ペレット、シート、ブロック等が挙げられる。これらを組み合せたものや、さらに成形または加工を施した結果物もカーボンナノチューブ成形体とする。
成形方法としては、カーボンナノチューブ集合体を含む液を濾過、蒸発等の方法で脱液し、フィルム状、膜状あるいはシート状に成形する方法や、カーボンナノチューブ集合体を含む液を型に入れた後、分散媒を蒸発させる方法がある。また、カーボンナノチューブ集合体をプレス機によって圧縮する方法や、刃物で削るあるいは切る等の方法も用いることができる。その他、カーボンナノチューブ集合体を含む液中のカーボンナノチューブを凝集させるなどの方法も好適に用いることが可能である。カーボンナノチューブ集合体を含む液中のカーボンナノチューブを凝集させる方法は、分散媒の種類によっても変わるが、例えば分散媒が水であるならば、有機溶媒中にカーボンナノチューブ集合体を含む液を投入するなどの方法がある。
本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、カーボンナノチューブ以外の物質と混合し、または、分散させて、組成物として用いることができる。本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、導電性および機械強度に優れるため、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体を含む組成物は、非常に導電性が高い組成物となる。また、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、機械強度に優れるため、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体を含む組成物は、強度に優れた組成物となる。また、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、熱伝導性に優れるため、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体を含む組成物は、熱伝導性に優れた組成物となる。また、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、導電性および機械強度に優れるため、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体を含む組成物は、導電性が高く、かつ、強度に優れた組成物となる。
ここでいうカーボンナノチューブ以外の物質とは、例えば樹脂、金属、ガラス、有機溶媒、水などのことである。また、カーボンナノチューブ以外の物質としては、接着剤やセメント、石膏、セラミックスのようなものもある。また、これらの物質は、単独で使用しても、2種類以上組み合わせて使用してもよい。
また、ここでいう分散とは、カーボンナノチューブが、上記のカーボンナノチューブ以外の物質中に確率論的に散らばっている状態をいう。また、カーボンナノチューブが1本ずつほぐれている状態である場合、バンドルを組んだ状態である場合、あるいは、様々な太さのバンドルが混ざっている場合であっても、上記物質全体の中に確率論的に散らばっていれば、カーボンナノチューブが分散していると表現する。
また、ここでいう混合とは、カーボンナノチューブ集合体が上記カーボンナノチューブ以外の物質に不均一に散らばっている状態や、単に、カーボンナノチューブ集合体と固体状態の上記物質とを混ぜ合わせただけの状態をいう。
組成物中のカーボンナノチューブの含有量については、混合する場合は、特に量的制限はなく、望みの割合で混合することが可能である。カーボンナノチューブ以外の物質の種類にもよるが、分散させる場合には、好適には、組成物中に本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体を0.01〜20重量%含有させることができる。そして、より好ましくは、組成物中の本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体の含有量は、0.01〜10重量%であり、さらに好ましくは0.01〜5重量%であり、その中でも0.05〜1重量%が最も好適である。目的にもよるが、カーボンナノチューブを多く入れすぎるとカーボンナノチューブ組成物の強度が低下する場合があるからである。
上記カーボンナノチューブ以外の物質のうち、樹脂としては、カーボンナノチューブを混合または分散できれば特に制限はなく、天然樹脂でも合成樹脂でも使用することができる。また、合成樹脂としては、熱硬化性樹脂も、熱可塑性樹脂も好適に使用できる。熱可塑性樹脂は、得られた成形体の衝撃強度に優れ、かつ成形効率の高いプレス成形や射出成形が可能であるため好ましい。
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール(レゾール型)樹脂、ユリア・メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体、および、2種類以上ブレンドした樹脂などを使用することができる。また、耐衝撃性向上のために、上記熱硬化性樹脂に、エラストマー、合成ゴム、天然ゴムもしくはシリコーン等の柔軟成分を添加した樹脂であってもよい。
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノール(ノボラック型など)樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂;ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑エラストマー、これらの共重合体または変性体、およびこれらの樹脂を2種類以上ブレンドした樹脂などを用いることができる。また、耐衝撃性向上のために、上記熱可塑性樹脂にその他のエラストマー、合成ゴム、天然ゴムもしくはシリコーン等の柔軟成分を添加した樹脂であってもよい。
ここで、ポリエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ジカルボン酸とグリコールとの重縮合物、環状ラクトンの開環重合物、ヒドロキシカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とグリコールとの重縮合物などがある。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4−ジカルボキシレートなど、およびこれらの共重合体や混合物がある。
スチレン系樹脂とは、スチレンおよび/またはその誘導体(総称して芳香族ビニル系単量体と称する場合がある)から生成した単位を含有する樹脂のことである。芳香族ビニル系単量体の1種または2種以上を重合してもよいし、共重合可能な他の単量体の1種または2種以上を共重合してもよい。また、ゴム強化したスチレン系樹脂も好ましく用いられる。ゴム強化したスチレン系樹脂としては、芳香族ビニル系単量体を含有する(共)重合体がゴム質重合体に一部グラフトした構造をとるものと、非グラフト構造をとるものとの2種類の形態がある。スチレン系樹脂の具体例としては、PS(ポリスチレン)、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、AS樹脂、AES樹脂、ABS樹脂、MBS(メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体)(“/”は共重合を意味する)樹脂、ASA(アクリロニトリル/スチレン/アクリルゴム共重合体)樹脂などがある。
ポリアミドとしては、特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン9T(Tはテレフタル酸)、ナイロン66/6、ナイロン66/6T、ナイロン66/6I(Iはイソフタル酸)、ナイロン6/6T、ナイロン6/6T、ナイロン12/6T、ナイロン6T/6I、ナイロン66/6T/6I、ナイロン66/6/6T、ナイロン66/6/6I、ナイロン6T/M5T(Mはメチルペンタジアミン)、ポリメタキシリレンアジパミド、および、これらの共重合体ないし混合物などを好ましく使用することができる。
ポリカーボネートとしては、特に限定されないが、例えば、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる粘度平均分子量が10000〜1000000の範囲内の芳香族ホモポリカーボネートまたはコポリカーボネートがある。
カーボンナノチューブ含有樹脂組成物に高い難燃性または高い成形性を付与する場合には、樹脂としてフェノール系樹脂などを用いることもできる。かかるフェノール系樹脂とは、少なくともフェノール性水酸基を有する成分を単独もしくは共重合されたものを指し、例えば各種フェノール樹脂(フェノールノボラック、クレゾールノボラック、オクチルフェノール、フェニルフェノール、ナフトールノボラック、フェノールアラルキル、ナフトールアラルキル、フェノールレゾールなど)や変性フェノール樹脂(アルキルベンゼン変性(特にキシレン変性)、カシュー変性、テルペン変性など)などを挙げることができる。
その他、ポリビニルアルコールに代表されるポリアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニルに代表されるポリカルボン酸系樹脂、ポリアクリル酸エステルの様なアクリル樹脂や、ポリアクリロニトリルの様な樹脂も挙げられる。また、アクリル系、シリコーン系、酢酸ビニル樹脂、ビニルエーテル樹脂等のビニル系などの接着剤、粘着剤も挙げることができる。
上記カーボンナノチューブ以外の物質として、金属も適用可能であり、カーボンナノチューブを混合または分散できれば特に制限はなく、アルミニウム、銅、銀、金、鉄、ニッケル、亜鉛、鉛、スズ、コバルト、クロム、チタン、タングステンなどを単独または複合して使用できる。上記カーボンナノチューブ以外の物質として、ガラスも適用可能であり、カーボンナノチューブを混合または分散できれば特に制限はなく、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ほう酸ガラスなどが挙げられる。
上記カーボンナノチューブ以外の物質と本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体とを混合または分散する方法は、例えば、カーボンナノチューブ以外の物質を溶融させた状態で攪拌しながらカーボンナノチューブ集合体を混ぜ込む方法や、上記カーボンナノチューブ以外の物質の粉体とカーボンナノチューブ集合体の粉体とを混合させた状態で、上記物質を溶融後、凝固させる等の方法を用いることができる。
また、カーボンナノチューブ以外の物質として、有機溶媒を適用することもできる。有機溶媒は、カーボンナノチューブ集合体を混合または分散できれば特に制限はなく、アルコール、芳香族化合物、脂肪族化合物、グリコール化合物、アミド化合物、エステル化合物、エーテル化合物など種々の有機化合物が使用可能である。これらの化合物は単一で用いても混合して用いても構わない。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ペプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノールなどがある。芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、フェノール、ピリジン、チオフェン、フランなどがある。脂肪族化合物としては、ペンタン、ヘキサン、ペプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどがある。グリコール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどがある。アミド化合物としては、ジメチルホルムアミド、エチルメチルホルムアミド、ジメチルアセチルアミドなどがある。エステル化合物としては、ギ酸エステル(ギ酸メチル、ギ酸エチルなど)、酢酸エステル(酢酸エチル、酢酸メチルなど)、酪酸エステル(酪酸メチル、酪酸エチルなど)などがある。エーテル化合物としては、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフランなどがある。また、これらの化合物の異性体、誘導体なども用いることができる。その他、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、超臨界二酸化炭素、二硫化炭素なども用いることができる。
上記カーボンナノチューブ組成物の中でも、固形状のものについては圧縮、裁断、粉砕、伸張、穿穴などの操作による成形または加工によって、賦形することができ、また、溶融後に特定の形で再び固形状にすることにより、成形体とすることができる。
また、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体を、有機溶媒や水などの液状の分散媒にカーボンナノチューブ集合体を分散させて、カーボンナノチューブ組成物を製造してもよい。以下、カーボンナノチューブ集合体を、有機溶媒や水などの液状の分散媒にカーボンナノチューブ集合体を分散させてなるカーボンナノチューブ祖生物をカーボンナノチューブ分散液、あるいは、分散液と称する。
上記液状の分散媒と本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体とを混合する方法として、単に混ぜた後、スクリュー、棒などで攪拌する方法が好適であり、振とう方法も好ましい。また、上記液状の分散媒と本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体とを分散する方法として、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、粉砕ミル、超音波ホモジナイザーを用いる方法が好適である。また、上記の方法を組み合わせるのも好適である。
カーボンナノチューブ集合体を液状の分散媒に分散させて、カーボンナノチューブ分散液とする場合、界面活性剤、各種高分子材料等の添加剤を含有させることも好ましい。上記の界面活性剤やある種の高分子材料は、カーボンナノチューブの分散能や分散安定化能等を向上させるために役立つからである。
界面活性剤は、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤に分けられるが、本実施の形態では、いずれの界面活性剤を用いることも可能である。界面活性剤は、単独で、もしくは、2種以上を混合して用いることができる。
イオン性界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、および、陰イオン性界面活性剤に分けられる。陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがある。両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤などがある。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤などがある。これらの陰イオン性界面活性剤の中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れるため、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤;ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤がある。これらの非イオン性界面活性剤の中でも、分散能、分散安定能および高濃度化に優れるため、芳香族系非イオン性界面活性剤が好ましく、この中でもポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
界面活性剤以外でも、各種高分子材料を、カーボンナノチューブ分散液に添加することができる。例えば、カーボンナノチューブ分散液に添加可能である高分子材料として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマー;カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(Na−CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、シクロアミロース、キトサン等の糖類ポリマー等がある。またポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーおよびそれらの誘導体もカーボンナノチューブ分散液に添加可能できる。これらの中でも、カーボンナノチューブの導電特性を効率的に発揮することができるため、導電性ポリマーおよびそれらの誘導体を使用することが好ましい。
カーボンナノチューブ分散液の製造方法には特に制限はなく、例えば、カーボンナノチューブ集合体、添加剤および分散媒を塗装製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、アトライター、デゾルバー、ペイントシェーカー、ジューサーミキサー、ミルサ―等)を用いて混合することによって、分散液を製造することができる。
特に優れた導電性を要求される用途や、透明電極の導電層膜に利用する場合は、塗布前のカーボンナノチューブ分散液を、遠心分離またはフィルター濾過によってサイズ分画することが好ましい。分散液を遠心分離すると、未分散のカーボンナノチューブや、過剰量の添加剤、カーボンナノチューブ合成時に混入する可能性のある金属触媒などが沈殿するため、遠心上清を回収すれば、不純物などは沈殿物として除去でき、カーボンナノチューブの再凝集の防止と分散液の安定性の向上とを可能にする。さらに、強力な遠心力で遠心分離を行った場合は、カーボンナノチューブを太さや長さによってサイズ分画することができ、フィルムの光透過率を向上させることができる。
遠心分離する際の遠心力は、100G以上の遠心力であればよく、好ましくは、1000G以上、より好ましくは10,000G以上である。上限としては特に制限はないが、汎用超遠心機の性能により200,000G以下であることが好ましい。
また、フィルター濾過に用いるフィルターは、0.05μmから5.0μmの間で適宜選択することができる。フィルター濾過を行うことによって、未分散のカーボンナノチューブや、カーボンナノチューブ合成時に混入する可能性のある不純物等のうち比較的サイズの大きいものを除去することができる。
このようにサイズ分画する場合においては、サイズ分画後の組成が望みの範囲となるようにカーボンナノチューブ分散液を調製する。
本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、導電性に優れるため、基材上に本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体を含む上記カーボンナノチューブ組成物を用いて導電層を形成し複合体とする場合も、非常に導電性のよい複合体ができる点で有効である。本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、使用量が少なくても十分な導線性を有するため、特に基材が透明な基材であり、透明性と導電性を共に必要とする複合体に適用する場合、透明性も高くでき、特に有効である。以下、カーボンナノチューブ集合体を用いてなる複合体の基材が透明性を有するフィルムである場合は、複合体のことを透明導電性フィルムという。
前述したカーボンナノチューブ分散液を基材に塗布することによってカーボンナノチューブ組成物を用いて導電層を形成することができる。その方法に特に制限はなく、公知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどが利用できる。最も好ましい塗布方法は、ロールコーティングである。
塗布は、何回行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせてもよい。分散液の分散媒が揮発性の場合は、風乾、加熱、減圧などの方法により不要な分散媒を除去することができ、これによって、カーボンナノチューブは、3次元編目構造を形成し、基材に固定化される。その後、液中の成分である界面活性剤、各種高分子材料等の添加剤を適当な溶媒を用いて除去することも好ましい。この添加剤除去を行うことによって、電荷の分散が容易になるため、導電層の導電性を向上させることができる。界面活性剤、各種高分子材料等の添加剤を除去するための溶媒としては、界面活性剤、各種高分子材料等の添加剤を溶解するものであれば特に制限はなく、水性溶媒でも非水性溶媒でもよい。具体的には、添加剤を除去するための溶媒が水性溶媒であれば、水やアルコール類が挙げられ、非水性溶媒であれば、クロロホルム、アセトニトリルなどが挙げられる。
導電層の導電性を向上させたい場合、カーボンナノチューブ組成物中のカーボンナノチューブ量を増やすことも可能である。また、少ないカーボンナノチューブ量で、より導電性を向上させたい場合は、カーボンナノチューブがカーボンナノチューブ組成物中に均一に分散し、かつ、バンドルが細いほどよい。そして、バンドルがほぐれ、カーボンナノチューブが1本ずつの状態で分散していることがより好ましい。バンドルの太さについては、前述した分散方法の分散時間や添加剤として加えた界面活性剤、各種高分子材料等の種類を変えることで調製が可能である。
導電層を形成するためのカーボンナノチューブ集合体の分散媒は、水系溶媒および有機溶媒のいずれでもよい。有機溶媒としては、前述した有機溶媒を用いることができる。これらのなかでも透明電極の導電層膜を形成するための分散媒としては、水、アルコール、トルエン、アセトンおよびエーテルから選ばれた溶媒、またはそれらを組み合わせた溶媒を含有する分散媒が好ましい。水系溶媒が必要である場合、および後述するようにバインダーを用いる場合であって、そのバインダーが無機ポリマー系バインダーの場合には、水、アルコール類、アミン類などの極性溶媒が使用される。また、後述するようにバインダーとして常温で液状のものを用いる場合には、それ自体を分散媒として用いることもできる。
上述の分散液における各成分の配合割合は、以下のとおりである。カーボンナノチューブ分散液は、液中、カーボンナノチューブ集合体を0.01重量%以上含有していることが好ましく、0.1重量%以上含有していることがより好ましい。カーボンナノチューブ集合体の濃度の上限としては、通常20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下である。
界面活性剤およびその他の添加剤の含有量としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、0.1〜50重量%、より好ましくは、0.2〜30重量%である。上記添加剤とカーボンナノチューブの混合比は、(添加剤/カーボンナノチューブ)の重量比で、好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.3〜10である。カーボンナノチューブ分散液は、所望のカーボンナノチューブ濃度よりも高濃度の分散液を作製し、溶媒で薄めて所望の濃度として使用することも可能である。導電性がさほど必要で無い用途では、カーボンナノチューブの濃度を薄めて使う場合もあるし、最初から濃度が薄い状態で作成してもよい。
また、本実施の形態における分散液や、分散液にバインダーなどを添加した液は、透明基材だけでなく、あらゆる被塗布部材、例えば着色基材および繊維に塗布を施すための透明被覆液として使用可能である。例えば、クリーンルームなどの床材や壁材にコーティングすれば帯電防止床壁材として使用できる。また、繊維に塗布すれば帯電防止衣服やマット、カーテンなどとして使用できる。
上記のようにカーボンナノチューブ分散液を基材に塗布して複合体を形成後、この複合体を、透明被膜を形成しうるバインダー材料でオーバーコーティングすることも好ましい。オーバーコーティングすることにより、さらなる電荷の分散や移動が効果的に行われる。
また、実施の形態における複合体は、カーボンナノチューブ分散液中に透明被膜を形成しうるバインダー材料を含有させ、適当な基材に塗布後、必要により加熱して塗膜の乾燥ないし焼付(硬化)を行っても得ることができる。その際の加熱条件は、バインダー種に応じて適宜設定する。バインダーが光または放射線硬化性の場合には、加熱硬化ではなく、塗布後直ちに塗膜に光または放射線を照射することにより塗膜を硬化させる。放射線としては電子線、紫外線、X線、ガンマー線等のイオン化性放射線が使用でき、照射線量はバインダー種に応じて決定する。
上述のバインダー材料としては、導電性塗料に使用されるものであれば特に制限はなく、各種の有機および無機バインダー、すなわち、透明な有機ポリマーまたはその前駆体(以下、「有機ポリマー系バインダー」と称する。)、または、無機ポリマー、または、その前駆体(以下、「無機ポリマー系バインダー」と称する。)が使用できる。有機ポリマー系バインダーは熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線、電子線などの放射線硬化性のいずれであってもよい。
有機バインダーの例としては、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン10等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シリコーン系ポリマー、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、ポリケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース系ポリマー、蛋白質類(ゼラチン、カゼイン等)、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなど有機ポリマー、ならびこれらのポリマーの前駆体(モノマー、オリゴマー)がある。これらは単に溶媒の蒸発により、あるいは、熱硬化または光もしくは放射線照射による硬化により、有機ポリマー系透明被膜、もしくはマトリックス(液中に配合する場合)を形成することができる。
有機ポリマー系バインダーとして好適であるものは、放射線もしくは光によりラジカル重合硬化可能な不飽和結合を有する化合物であり、ビニル基ないしビニリデン基を有するモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。この種のモノマーとしてはスチレン誘導体(スチレン、メチルスチレン等)、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはそれらの誘導体(アルキルアクリートもしくはメタクリレート、アリルアクリレートもしくはメタクリレート等)、酢酸ビニル、アクリロニトリル、イタコン酸等がある。オリゴマーあるいはポリマーは、主鎖に二重結合を有する化合物または直鎖の両末端にアクリロイルもしくはメタクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。この種のラジカル重合硬化性バインダーを用いることによって、高硬度で耐擦過性に優れ、かつ、透明度の高い導電フィルム膜、もしくはマトリックス(液中に配合する場合)を形成することができる。
無機ポリマー系バインダーの例としては、シリカ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物のゾル、あるいは無機ポリマーの前駆体となる加水分解または熱分解性の有機リン化合物および有機ボロン化合物、有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機鉛化合物、有機アルカリ土類金属化合物などの有機金属化合物がある。加水分解性または熱分解性の有機金属化合物の具体的例は、アルコキシドまたはその部分加水分解物、酢酸塩などの低級カルボン酸塩、アセチルアセトンなどの金属錯体である。
これらの1種もしくは2種以上の無機ポリマー系バインダーを焼成すると、酸化物または複合酸化物からなるガラス質の無機ポリマー系透明被膜、もしくはマトリックス(液中に配合する場合)を形成することができる。無機ポリマー系マトリックスは、一般にガラス質であり、高硬度で耐擦過性に優れ、かつ、透明性も高い。バインダーの使用量は、オーバーコートをするのに十分な量、液中に配合する場合には塗布に適した粘性を得るのに十分な量であればよい。少なすぎると塗布がうまくいかず、多すぎても導電性を阻害しよくない。
光または放射線硬化性の有機ポリマー系バインダーとして、常温で液状のバインダーを選択することにより、バインダー自体を分散媒とすることができる。すなわち、溶媒を存在させずに100%反応系のバインダー、あるいはこれを非反応性液状樹脂成分で希釈した、無溶媒の組成物とすることができる。これによって、被膜の硬化乾燥時に溶媒の蒸発が起こらず、硬化時間が大幅に短縮され、かつ溶媒回収操作が不要となる。
カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブと界面活性剤等の分散剤、溶媒、バインダーの他に、カップリング剤、架橋剤、安定化剤、沈降防止剤、着色剤、電荷調製剤、滑剤等の添加剤を配合することができる。
また、カーボンナノチューブ分散液には、別の導電性有機材料、導電性無機材料、あるいは、これらの材料の組合せをさらに含ませることができる。
導電性有機材料や導電性無機材料として、バッキーボール、カーボンブラック、フラーレン、多種カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、VGCF、炭素繊維、ならびに、これらの粉砕物を含む粒子を用いることが好ましい。また、アルミニウム、アンチモン、ベリリウム、カドミウム、クロム、コバルト、銅、ドープ金属酸化物、鉄、金、鉛、マンガン、マグネシウム、水銀、金属酸化物、ニッケル、白金、銀、鋼、チタン、亜鉛、ならびにそれらを含む粒子も使用可能である。このうち、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ、およびそれらの混合物を使用することが好ましい。
これらの導電性材料を含有させて得た複合体、あるいはオーバーコーティングして得た複合体は、電荷の分散、または移動に非常に有利である。また、これらカーボンナノチューブ以外の導電性材料を含む層とカーボンナノチューブを含む層とを積層させてもよい。
本実施の形態のカーボンナノチューブ集合体を用いてなる透明導電性フィルムは、基材と接着させたまま使用することもできるほか、基材から剥離させ自立フィルムとして用いることもできる。自立フィルムを作製するには、透明導電性フィルム上にさらに有機ポリマー系バインダーを塗布した後、基材を剥離すればよい。また、作製時の基材を熱分解により焼失あるいは溶融させ、別の基材に透明導電性フィルムを転写して用いることもできる。その際は、作製時の基材の熱分解温度が転写する基材の熱分解温度より小さいことが好ましい。
透明導電性フィルムの厚さは、中程度の厚さから非常に薄い厚さまで種々の範囲をとることができる。例えば、本実施の形態のフィルムは、0.5nm〜1000μmの間の厚さである。フィルムの厚さは、0.005〜1000μmが好ましく、より好ましくは0.05〜500μmであり、より好ましくは1.0〜200μmであり、さらに好ましくは1.0〜50μmである。
本実施の形態におけるカーボンナノチューブ集合体を用いた透明導電性フィルムは、優れた透明性を示す。導電性フィルムは基材も含め光透過率を測定するため、以下の指標を光透過率として使用することができる。例えば、本実施の形態の透明導電性フィルムは、550nmの光源を用いて測定したときに、透明導電性フィルムの光透過率/基材の光透過率が、少なくとも0.6であることが好ましく、より好ましいくは、0.8以上さらに好ましくは、0.85以上である。また、別の好ましい指標としては、ヘーズメーターによる全光線透過率の測定を指標とすることも可能である。用途や状況によって使い分けるとよい。
透明導電性フィルムの導電性は、フィルムの表面抵抗値を測定して評価する。表面抵抗値は、JISK7149準処の4端子4探針法を用い、例えばロレスタ((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定することが可能である。高抵抗測定の際は、ハイレスター(ダイアインスツルメンツ社製)を用いて測定することが可能である。透明導電性フィルムの表面抵抗値は、105Ω/□未満であることが好ましく、104Ω/□未満であることがより好ましい。
本実施の形態におけるカーボンナノチューブ集合体を用いた透明導電性フィルムは、EMI/RFI(電磁干渉)シールド、低視認性コーティング、ポリマーエレクトロニクス(例えば、OLEDディスプレイの透明導電層、ELランプ、プラスチックチップ)など透明導電性コーティングの種々の用途に有用である。透明導電性フィルムの表面抵抗値は、導電層の膜厚を制御することにより、調整可能である。表面抵抗値は、例えば導電層の膜厚を厚くすることによって低くなる傾向にあり、導電層の膜厚を薄くすることによって高くなる傾向にある。
例えば、EMI/RFIシールドの導電性コーティングの表面抵抗値は、104Ω/□未満であれば一般に許容される。EMI/RFIシールドの導電性コーティングの表面抵抗値は、好ましくは約101〜103Ω/□範囲内である。透明性の低視認性コーティングの表面抵抗値は、通常103Ω/□未満であり、好ましくは102Ω/□未満であれば一般に許容される。ポリマーエレクトロニクスおよび元々導電性を持つポリマー(ICP)の場合、表面抵抗値は、通常104Ω/□未満、好ましい表面抵抗値は10−2〜100Ω/□の範囲内である。したがって、透明導電性フィルムの表面抵抗は、104Ω/□未満が好ましい。
本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体を得る方法は、単層カーボンナノチューブと2層カーボンナノチューブを別々に合成したのち、本実施の形態の比率になるよう混合した場合でも、ある程度の導電性向上の効果はあると考えられる。カーボンナノチューブは、純度が高いものほどバンドル化しやすく、バンドルを組んだ状態でも構わない用途に用いるか、バンドルをうまくほぐして分散させることができるなら、別々に合成したカーボンナノチューブを混ぜて使用しても構わない。通常、別々に合成したカーボンナノチューブを均一に混合するのは難しく、単層どうし、2層どうしがそれぞれバンドルを組んでいると、ナノレベルの均一性がマクロ側に近づいた物性になり、ナノ物質を使うメリットが減じてしまう。また、プロセス中に混合操作が入ると混合中にカーボンナノチューブが切断されて導電性が低下してしまう場合も多いため、はじめから本実施の形態の比率になるように合成されたカーボンナノチューブ集合体を用いることが最も好ましい。
本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体を得る合成法は、アーク法、レーザーアブレーション法、CVD法のいずれの方法をとっても構わない。このうち、CVD法は、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブを得やすく、CVD法のうち、気相流動CVD法を用いることが最も望ましい。
また、本発明のカーボンナノチューブ集合体を得る方法として気相流動CVD法による合成が好ましい理由は、触媒の直径をコントロールしやすく、複数の炭素原としての化合物を同時に導入することが可能であるからである。気相流動CVD法では通常、均質なカーボンナノチューブ集合体を得るために1種の炭素原としての化合物を用いて合成することが多いが、2種の炭素原としての化合物を同時に使用してカーボンナノチューブの直径制御を行う方法もしばしば行われている。
しかしながら、通常、気相流動CVD法では、ガスの流し方や合成容器の形状によって差異はあるが、触媒も炭素原も同じ方向に浮遊しながら合成(カーボンナノチューブの成長)が進むため、ある程度合成が進むと触媒周囲の炭素源がなくなってしまう。そのため、炭素原としての化合物が1種、または2種だけであると、分解した炭素源の触媒への供給速度が途中から追いつかなくなり、若干の欠損を含むカーボンナノチューブになりやすい。水素ガスの導入などでカーボンナノチューブの成長量を抑制することによって化合物の急速な分解による炭素源の急速な枯渇を防ぐなどによって結晶性を向上させたり、過剰に炭素原料を導入するなどによって結晶性を向上させたりするための若干の工夫はできるが、水素ガスの大量導入は触媒の不活化を起こしているため、カーボンナノチューブの収量減少を引き起こし、炭素原としての化合物の大量導入は副反応を増加させ、カーボンナノチューブ自体の結晶性は向上するかもしれないが、カーボンナノチューブ集合体としての純度は低下し、複反応の影響による触媒の不活化もともなうため、カーボンナノチューブが成長する条件範囲内で、これらの工夫によって結晶性をコントロールできる幅には制限がある。また、触媒を担体に保持した状態で浮遊させることによって、炭素原と触媒の浮遊速度に差を持たせて触媒に長時間炭素源を供給できるような工夫もなされているが、この方法はカーボンナノチューブの層数と直径のコントロールが難しい。
したがって、簡便な方法でカーボンナノチューブの直径、結晶性、層数を全て本発明の状態にコントロールすることは、従来の方法では難しいが、本発明では、炭素源としての化合物を、3種以上併せて使用することによって、本発明のカーボンナノチューブ集合体を得ることが可能となった。
本発明のカーボンナノチューブ集合体が、3種以上の化合物を炭素源として同時に使用することによって好適に得ることができる理由は、分解温度の異なる化合物が時間差で分解し、カーボンナノチューブが結晶性の高い状態で成長するのに必要な炭素源が長時間適度に供給し続けられるようになったためであると考えている。
3種以上の化合物を選択する際に、無作為に選択したとしても、異なる化合物であれば、完全分解するまでの速度が全く同じであることはあまりないため、無作為でも多少の効果はあるが、通常カーボンナノチューブ集合体は非常に高温で合成されるため、選択の仕方によってはほぼ同時に同じ領域で分解してしまい、副反応を併発する可能性も高い。したがって、分解温度の異なる3種以上の化合物の選択の仕方は、合成容器内の位置と化合物の分解量を考慮した際に、分解した後の炭素源濃度に濃度ムラが少なくなるように、且つなるべく広い範囲で炭素源が供給され続けるように選ぶべきではあるが、そのようなデータを事前に準備することは、多大な労力を必要とするため、以下の様な分類の異なる群の中からそれぞれ1種ずつ選択し、合計3種以上になるように選択すると本発明のカーボンナノチューブ集合体を得ることが容易となる。
また、気相流動CVD法による合成は、炭素源を2種だけ使用する場合でも本実施の形態にかかるカーボンナノチューブを合成できる。さらに、炭素源として3種以上の化合物を併せて使用することによって、高結晶性のカーボンナノチューブを合成できる。
ここで、化合物とは、一般的な炭素原子を含む有機化合物を意味し、炭素源とは、触媒を介してカーボンナノチューブを成長させるために使用される、炭素原子を含む分子または原子またはその集合体を意味する。気相流動CVD法の場合、炭素源としての化合物が1種だけであると、分解した炭素源と触媒がほぼ同時に同領域に浮遊しながら移動していくため、カーボンナノチューブの成長に使われていると考えられている炭素源分解物がある程度消費されると、その領域にある炭素源分解物の密度が低下し、触媒に炭素源分解物が供給されにくくなる。この結果、カーボンナノチューブの成長が止まってしまう場合や、成長しても炭素源分解物が少ないため欠損の多いカーボンナノチューブになってしまう場合がある。これに対し、2種の炭素源があれば、1つ目の炭素源による炭素源分解物が消費されてしまっても、2つ目の炭素源による炭素源分解物が供給されるため、カーボンナノチューブには欠損が生じにくい。さらに3つ目の炭素源があると、炭素源分解物が十分に供給されるため、カーボンナノチューブにさらに欠損が生じにくい。
また、炭素源として使用する有機化合物は、分解速度の異なる物質を選ぶのがよい。異なる有機化合物であれば、基本的に全く同じ速度で分解するものはほとんどないため、無作為に2種または3種以上選んでも効果はある。さらに、以下の大きく分けた分類の中から一つずつ選ぶとさらに効果的である。その分類とは、メタン、アミン群(トリエチルアミン、ジエチルアミン、ヘキシルアミンなど、およびそれらの誘導体)、脂肪族系炭化水素群(エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン等直鎖上炭化水素およびエチレン、プロペンの様に部分的に不応和結合をもつものやシクロヘキサン、メチルシクロヘキサンの様な環状構造を有するもの)、芳香族置換化合物群(トルエン、キシレン、フェノール、アニリン、クレゾール、安息香酸、クメンなどおよびこれらの誘導体)、芳香族多環化合物群(ビフェニル、トリフェニルなど)、縮合環化合物(ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレンなど、および、それらの誘導体)、脂肪族系ヘテロ環化合物群(アゾリジン、オキソラン、チオラン、アジナン、オキサン、チアン、アゼパン、オキセパン、チエパン、モルホリンなどおよびそれらの誘導体)、芳香族系ヘテロ環化合物群(アゾール、オキソール、チオール、ピリジン、ピリリウムイオン、チオピリリウムイオン、アゼピン、オキセピン、チエピン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、チアジン、プリン、プテリジンなどおよびそれらの誘導体)である。ただし、有機化合物は多種多様な形態が構築可能で、これらの分類に明確に当てはまらない化合物群が無数に考えられる。このため、これらの分類の構成ユニットの組み合わせである場合は、中間の性質をもつ部類と考えるとよい。また、選んだ化合物が固体である場合は、別途選択した液状の化合物に溶かした状態で合成装置に導入するのもよいし、昇華によって導入してもよい。
また、本発明に使用する炭素源としての化合物は、少なくとも1種を常温常圧で液状の化合物を使用するのが好ましい。その理由としては、次のように考えている。
カーボンナノチューブ集合体の合成は基本的には、非常に高温で行うのが普通であり、分解温度の異なる化合物を選択しても、分解速度が速すぎて、分解位置をずらしにくい。常温常圧で液体状態の化合物が合成炉内で気体状態に変わる状態変化を伴うため、初めから気体状態の化合物に比べて、カーボンナノチューブ合成に使用される炭素源に変化するまでの時間として、状態変化に伴う余分なエネルギーを必要とする分だけ分解が遅くなる。この時間差を利用することによって、3種以上の化合物どうしの分解速度に、より顕著に差をつけることが可能になるため、化合物同士の分解時間を効果的にずらすことができるようになると考えられる。
同様の考え方によって、炭素源としての化合物3種以上の内、少なくとも1種は常温常圧で気体状態の化合物を使用するのが好ましい。
ここで、常温常圧で固体状態の化合物を使用する場合は、昇華によって合成装置に導入する場合は、気体状態になって導入されるため気体状態から分解すると考えてよい。
また、本発明のカーボンナノチューブ集合体における、カーボンナノチューブの層数は、合成に使用する炭素源としての化合物の導入量で調整可能であり、多く導入すれば2層カーボンナノチューブの比率が多くなり、減らせば単層カーボンナノチューブの比率が多くなる。ここで、炭素源としての化合物の種類が、2種以下の場合は、大量に導入しても、合成容器内での分解物の量が同時に増えすぎて副反応が起こってしまう可能性が高く、2層カーボンナノチューブの比率を増やしにくい。逆に導入量を減らした場合は、炭素源の量が少なすぎて、結晶性の低い欠損の多いカーボンナノチューブ集合体が多くできてしまう。炭素源としての化合物を3種以上用いることによって、炭素源の供給に時間差を生じさせ、適度に調整することが可能となる。
また、炭素源としての化合物の分解速度は合成に用いるキャリアガス中の水素濃度を変化させることによっても調整することが可能であり、キャリアガスとしては、水素と不活性ガスの混合ガスを用いるのが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノンが挙げられるが、入手の容易さから窒素やアルゴン、ヘリウムが好適に使用でき、副反応の起こりにくさの点でアルゴンやヘリウムが好ましく、熱伝導性の関係でアルゴンが最も好ましい。キャリアガス中の水素濃度を下げると、化合物が分解しやすくなって炭素源の供給速度が増加し、2層カーボンナノチューブの比率が増える傾向がある。水素ガスの適切な濃度としては、体積分率で20%以上95%以下で行うのが好ましく、水素濃度が低すぎると化合物の分解が早すぎて純度の高いカーボンナノチューブ集合体が得にくく、水素濃度が高すぎると、触媒の不活化が顕著で、2層カーボンナノチューブが成長しにくくなる。
本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、上述したように、気相流動CVD法で合成するのが好ましい。さらに、本実施の形態にかかるカーボンナノチューブ集合体は、触媒(その前駆体を含む)および反応促進剤を含む液体状の炭素原をスプレー等で霧状にして、高温の加熱炉(電気炉等)に導入することによって、カーボンナノチューブ集合体を流動する気相中で合成する方法が最も好ましい。この方法が良い理由は、常温常圧で液体状態の炭素源に触媒や反応促進剤を溶かして、同時にまとめて導入することができる。触媒を液体状の炭素源に溶かして、同時にまとめて導入することができ、スプレー方法や濃度の調整によって、容易に触媒粒径をコントロールすることができるためである。上記炭素源と、触媒(その前駆体を含む)および反応促進剤を含む原料液と、をスプレーする方法としては、特に制限はないが、キャリアガスなどを使って原料液をスプレーする二流体ノズルを用いたスプレー方式が簡便で好ましく用いられる。
前述のように、触媒は液体状の炭素源としての化合物に溶解させて反応容器に導入可能であるため、前記記載の液体状の炭素源としての化合物に溶解させることができる金属触媒が好ましい。その例としては、有機化合物を配位子とした金属錯体であり、中でもシクロペンタジエニルアニオンを配位子としたメタロセン錯体が、カーボンナノチューブの合成を阻害しにくいため好ましく、より具体的には、フェロセン、コバルトセン、ニッケロセン、ジルコノセン、チタノセンなどが挙げられ、効率が最も良いという点で、フェロセンを用いるのが好ましい。また、フェロセンを主とし、コバルトセンなど、他のメタロセンを助触媒として添加した溶液を用いるのも好ましい。
また、合成する際の、触媒、3種以上の炭素源としての化合物それぞれの比率は、炭素源として2種以下の化合物を用いた先行技術を参考にするとよい、3種目の炭素源として導入した化合物の導入炭素数に等しい炭素数になるように、1種目または2種目の炭素源の化合物の導入量を減らし、その後、微調整するとよい。
前記方法によって合成されたカーボンナノチューブ集合体は、好適には熱重量分析による触媒残量が5%以下となる。より好適な合成条件下では3%以下となり更に好適な条件下では2%以下、最も好適条件下では1%以下も可能であるが、炭素源として用いる化合物によっては、調整が難しく、5%以上を超える場合もあり、その際は、得られたカーボンナノチューブ集合体を空気雰囲気下で600℃以上700℃以下の温度で焼成したのち、希塩酸でカーボンナノチューブ集合体を洗浄することによって触媒を取り除くことができる。焼成の温度は650℃付近が最も好ましいが、触媒が取り除けないようであれば更に温度を上げると良い。
本発明のカーボンナノチューブ集合体は、熱重量分析による触媒残量が5%以下であるが、カーボンナノチューブ集合体中の触媒残差は、樹脂等にカーボンナノチューブ集合体を混合したコンポジットを形成した際に、クラックの原因となることも多く、また、触媒残差はカーボンナノチューブではないため、カーボンナノチューブとは異なる、目的に合わない物性を裁量に付与してしまうことも多く、触媒残差は少ないほど好ましい。より好ましくは3%以下であり、更に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下であり、少ないほど好ましい。触媒残差は合成装置の触媒導入量を減らせば基本的に減らすことができるが、単位時間当たりの合成効率が低下する。
本実施の形態において、CVD法によってカーボンナノチューブを合成する場合、CVD反応場の雰囲気となるキャリアガスは、水素であるか、水素と不活性ガスで構成された混合型キャリアガスであることが好ましい。キャリアガスが水素のみの場合は、触媒導入量に対する炭素源導入量を変化させることによって、導入された触媒粒子に対する炭素源分解物の量を変化させることができ、その結果、合成されるカーボンナノチューブの層数の割合がコントロールできる。そして、炭素源の導入量だけでなく、キャリアガス中の水素の割合を変化させることによって、カーボンナノチューブ合成用の触媒の活性の度合いと、導入した炭素源の分解量(分解速度)とを調整して、カーボンナノチューブ集合体中の2層カーボンナノチューブの割合をコントロールする方法が、不純物量の量を減らせるため、より好ましい。また、カーボンナノチューブ集合体の合成効率の観点から、キャリアガス中の水素の含有率は5体積%以上95体積%以下が好ましく用いられ、さらに好ましくは10体積%以上80体積%以下が好適であり、より好ましくは、25体積%以上55体積%以下である。また、キャリアガスにおける不活性ガスは、経済的観点では窒素が好ましく用いられる。気体分子は構成原子数や種類によって熱伝導率が異なるが、熱伝導性の観点では、カーボンナノチューブ合成する際にカーボンナノチューブの構造をコントロールしやすいため、アルゴン、ヘリウムを用いることが望ましい。
本実施の形態において、炭素源となる有機化合物は、少なくとも1種は、常温常圧で液体状の炭素源を用いるのが好ましく、この炭素源としては芳香族炭化水素が望ましい。この芳香族炭化水素として、単環式、縮合環式およびそれらの誘導体のいずれもが使用可能である。このような単環式の芳香族炭化水素として、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物を含む)、トリメチルベンゼン(1,2,3−、1,2,4−、1,3,5−トリメチルベンゼンおよびこれらの混合物を含む)がある。これらの中でも、ベンゼン、トルエン、キシレンが純度の高いカーボンナノチューブ集合体を合成するのに適しており、その中でも、扱いやすいため、トルエンまたはキシレンを用いることが望ましい。
以下、本実施の形態を実施例にもとに、さらに具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本実施の形態の理解を容易にするためのものであり、これらの実施例に制限されるものではない。すなわち、本実施の形態の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本実施の形態に含まれるものである。
[直径および層数評価法]
透過型電子顕微鏡として、JEOL社JEM−2100Hを使用した。加速電圧120kVでCNTを観察し、100本以上のカーボンナノチューブの直径(2層カーボンナノチューブの場合には外層の直径)と層数を測定して統計的に解析した。なお、以下の実施例において単純にSW含有率、2層含有率等と表記した場合には、100本以上中の単層や2層の本数の割合のことを示す。
[ラマン分光分析]
レーザーラマン分光光度計として、日本分光株式会社製NRS−2100レーザーラマン分光光度計を使用し、アルゴンガスレーザー(波長514.5nm)を励起光源として測定した。
[熱重量分析]
株式会社リガク社製、示差熱天秤TG8120を用い、空気流量100cc/分、昇温速度5℃/分で20℃から900℃まで昇温し重量減少曲線を測定後、TGA曲線を算出した。
[透明導電性評価]
分散液としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を用いて、カーボンナノチューブの濃度が0.05重量%のカーボンナノチューブ分散水溶液を、超音波分散装置にて調製し、PETフィルム(ルミラーU46、15cm×10cm、光透過率は91%であった)上にバーコーター(No.3〜10)を用いて塗布成膜したのち、得られた膜を水で洗浄してカーボンナノチューブ膜を得た。このカーボンナノチューブ膜の導電性は、表面抵抗値を(株)ダイアインスツルメンツ社製抵抗率計ロレスタGP MCP−T610を用いて測定した。また透過率は、日本電色工業株式会社製ヘイズメーターNDH4000を使用して、CNT膜が基材上に密着した状態でJIS K7105に準じて基材ごと測定した。
<カーボンナノチューブの合成>
図1に示す縦型のCNT製造装置を使用して、以下の実施例1〜4のカーボンナノチューブ集合体を製造した。図1は、実施例にかかるカーボンナノチューブ集合体を合成するための装置概略図である。
図1に示す合成装置100は、ムライト製反応管2の外周に設けられ、通電により発熱し、発生した熱によってムライト製反応管2内を過熱する電気炉1、内径52mm、直径60mm、長さ1500mm、内有効加熱長さ1100mmのカーボンナノチューブを合成するムライト製反応管2、第1炭素源を含む液状原料を霧状に噴出する液状原料スプレー3、ムライト製反応管2に供給する原料の流量を調整するスプレーガス流量計4、第1キャリアガスの流量を調整する第1キャリアガス流量計5、第2キャリアガスの流量を調整する第2キャリアガス流量計6、ムライト製反応管2内に原料および触媒を導入するマイクロフィーダー7、合成されたカーボンナノチューブとカーボンナノチューブ以外の合成生成物とを分離してカーボンナノチューブを回収する回収フィルター8、第2炭素源の流量を調整する第2炭素源流量計9、第1キャリアガスと第2キャリアガスと第2炭素源を混合するガス混合器10とによって構成される。
(実施例1〜4)
実施例1〜4の各種合成条件を表1に示す。
マイクロフィーダー7には、第1炭素源として常温常圧で液体状態の化合物:有機遷移金属化合物であるフェロセン(和光純薬工業株式会社製 商品名 farocene(98%)):有機硫黄化合物であるチオフェン(関東化学株式会社製 商品名 thiophene 特級(98%))の混合比が、重量比で100:4:1である触媒液を貯留した。実施例1〜4では、第1炭素源としてトルエンを使用し、実施例5では、第1炭素源としてトルエン/デカリン(東京化成工業株式会社製 商品名 Decahydronaphthalene (cis- and trans- mixture)>99.0%(GC))を使用した。実施例1,2,3では、第2炭素源としてエチレン(高千穂化学工業株式会社製 商品名C2H4(99.999%))を使用し、第3炭素源としてメタン(株式会社リキッドガス製 商品名 高純度メタン(99.99%))を使用し、第2炭素源流量計9およびガス混合器10を経由させて後述する表1の各条件となるように流量制御を行った。実施例4では、エチレンおよびメタンのうち、メタンを第2炭素源として使用し、第3炭素源としてデカリンを使用した。キャリアガスは流量計4を通してアルゴンまたは水素ガスを2流体ノズルのスプレーガスを兼ねて導入したものと、流量計5を経由してアルゴンまたは水素またはアルゴン/水素混合ガスをキャリアガスとして導入した。また、上記原料液はスプレーノズル3からスプレーすることによって合成容器に導入し、電気炉1に囲まれた反応管2中で気相流動CVD法を行なった。生成物はフィルター8によって回収した。導入した各種キャリアガスと炭素源ガスの反応管内での線速度、および触媒液の種類と導入量、反応管の温度を表1に示す。
そして、水素ガスを第1キャリアガスおよびスプレーガスとして使用し、アルゴンを第2キャリアガスとして使用した。スプレーガス流量計4、第1キャリアガス流量計5および第2キャリアガス流量計6を用いて、アルゴン:水素の混合比を体積比で7:3(実施例1,4)、5:5(実施例2)、3:7(実施例3)の状態で、合計流量を流量7L/分に制御した混合型キャリアガスとして流通させた。そして、1200℃に加熱された電気炉中のムライト製反応管2に、上記の原料を含む触媒液をフィードレート17.5μL/分の流速でスプレーすることによって気相流動CVD合成を行った。第2炭素源のエチレンガス流量を0〜10sccmに制御し、メタン流量を0〜140ccで制御して合成した。生成物は、回収フィルター8で捕集した。
(比較例1〜6)
一方、実施例と比較するための比較例1〜6の各種合成条件を表2に示す。
比較例では、マイクロフィーダー7には、第1炭素源であるトルエン(比較例1〜3,6)またはデカリン(比較例4,5)、有機遷移金属化合物であるフェロセンおよび有機硫黄化合物であるチオフェンを混合した原料液を貯留した。比較例1,2では、メタンを第2炭素源として使用し、第3炭素源は使用しなかった。比較例3〜6では、エチレンを第2炭素源として使用し、第3炭素源は使用しなかった。
そして、比較例1,2,5では、水素ガスを第1キャリアガスおよびスプレーガスとして使用し、アルゴンを第2キャリアガスとして使用した。比較例1,2,5では、スプレーガス流量計4、第1キャリアガス流量計5および第2キャリアガス流量計6を用いて、アルゴン:水素の混合比を表2に示す状態で混合型キャリアガスとして流通させ、1200℃に加熱された電気炉中のムライト製反応管2に、上記の原料液をフィードレート17.5μL/分(比較例1)、7.5μL/分(比較例2)、50.0μL/分(比較例5)の流速でスプレーすることによって気相流動CVD合成を行った。比較例3,4,6では、水素ガスのみをキャリアガスおよびスプレーガスとして流通させ、1200℃に加熱された電気炉中のムライト製反応管2に、上記の原料液をフィードレート5.0μL/分(比較例3)、8.0μL/分(比較例4)、5μL/分(比較例6)の流速でスプレーすることによって気相流動CVD合成を行った。
実施例1〜4および比較例1〜6の条件で合成されたカーボンナノチューブ集合体のG/D比、TEM観察の結果によって得られた単層カーボンナノチューブの含有率(ここでいう含有率は、前述した方法による本数の比率である)、2層カーボンナノチューブの含有率、フィルム化した際の透過率88%でのカーボンナノチューブ膜の表面抵抗値を表3に示す。表3には、カーボンナノチューブの平均直径と、直径分布の標準偏差と、空気雰囲気下、5℃/分で昇温した時の最も大きなDTA曲線ピーク温度とについても示す。
表3に示すように、比較例1〜6のカーボンナノチューブ集合体は、いずれも、表面抵抗値が700Ω/□を超えた値を示す。また、比較例1,2,5は、波長が514nmの光によるラマンスペクトル測定におけるG/D比は、100未満となった。
特に、単層カーボンナノチューブおよび2層カーボンナノチューブの双方を含む比較例1,2,5,6のカーボンナノチューブ集合体については、表面抵抗値が1200Ω/□を超え、導電性が劣る結果となった。
このうち、比較例1のカーボンナノチューブ集合体は、DTAピーク温度が760℃と高いにもかかわらず、表面抵抗値は1200Ω/□と高くなっている。比較例1のカーボンナノチューブ集合体は、平均直径が2μmを超え、単層カーボンナノチューブのみの平均直径が1.8nmを超え、さらに、2層カーボンナノチューブのみの平均直径が2.0nmを超えていることが認められる。
比較例2のカーボンナノチューブ集合体は、DTAピーク温度が800℃と高いにもかかわらず、表面抵抗値は1500Ω/□とさらに高くなる。比較例2のカーボンナノチューブ集合体は、平均直径が2nmを超え、さらに、2層カーボンナノチューブのみの平均直径が2.0nmを大きく超えていることが認められる。
比較例5のカーボンナノチューブ集合体は、表面抵抗値が1700Ω/□と非常に高い。比較例5のカーボンナノチューブ集合体は、DTAピーク温度430℃と低く、単層カーボンナノチューブのみの平均直径が1.8nmを超えており、さらに、2層カーボンナノチューブのみの平均直径も2.0nmを超えていることが認められる。そして、比較例5のカーボンナノチューブ集合体は、触媒等の残留物質も、44.0wt%と特に高い。
比較例6のカーボンナノチューブ集合体は、DTAピーク温度が780℃と高いにもかかわらず、表面抵抗値は1200Ω/□と高い。比較例6のカーボンナノチューブ集合体は、平均直径が2.0nm未満であるものの、2層カーボンナノチューブが4%しか含んでおらず、さらに、2層カーボンナノチューブのみの平均直径が2.0nmを超えていることが認められる。そして、比較例6のカーボンナノチューブ集合体は、触媒等の残留物質も、6.3wt%と比較的高い。
そして、比較例3のカーボンナノチューブ集合体は、DTAピーク温度が795℃と高いものの、表面抵抗値は700Ω/□に留まる。比較例3のカーボンナノチューブ集合体は、単層カーボンナノチューブのみから構成され、平均直径が2.0nmを超えていることが認められる。そして、比較例1のカーボンナノチューブ集合体は、触媒等の残留物質も、5.8wt%と高い。
さらに、比較例4のカーボンナノチューブ集合体は、表面抵抗値は850Ω/□に留まる。比較例4のカーボンナノチューブ集合体は、平均直径が2.0nm未満であり、単層カーボンナノチューブの平均直径が1.8nm未満であり、2層カーボンナノチューブの平均直径が2.0nm未満であるものの、2層含有率が8%と低く、さらにDTAピーク温度も720℃と低いことが認められる。そして、比較例4のカーボンナノチューブ集合体は、触媒等の残留物質も、12.0wt%と比較的高い。
これに対し、これらの実施例1〜4のカーボンナノチューブ集合体は、フィルム化した際の透過率88%でのカーボンナノチューブ膜の表面抵抗値が700Ω/□未満となり、非常に高い導電性を示す。そして、実施例1〜4のカーボンナノチューブ集合体は、触媒等の残留物質がいずれも5wt%以下と非常に低い値を示す。
そして、実施例1〜4のカーボンナノチューブ集合体は、いずれも、2層カーボンナノチューブの含有率が10%以上かつ50%未満であるとともに、3層以上の多層カーボンナノチューブの割合が10%以下である。そして、実施例1〜4のカーボンナノチューブ集合体は、カーボンナノチューブの平均直径が2.0nm以下である。そして、本実施例1〜4にかかるカーボンナノチューブ集合体は、2層カーボンナノチューブのみの平均直径が2.0nm以下、かつ、単層カーボンナノチューブのみの平均直径が1.8nm以下であり、直径分布の標準偏差が1.0nm未満である。そして、実施例1〜4のカーボンナノチューブ集合体は、DTA曲線ピーク温度が750℃以上である。さらに、実施例1〜4のカーボンナノチューブ集合体は、いずれも、514nm光によるラマンスペクトル測定においてGバンドとDバンドの高さ比(G/D比)が100以上である。実施例1〜4では、2種以上のキャリアガスを併せて使用するとともに原料の炭素源として少なくとも1種が常温常圧で液体状である2種または3種以上の化合物を併せて使用した気相流動CVD法を用いることによって、カーボンナノチューブの直径、層数および結晶性を上記のように制御した高い導電性を示すカーボンナノチューブ集合体を合成することができる。
特に、2層カーボンナノチューブの割合が40%以上50%であり、カーボンナノチューブ集合体の平均直径が1.8nm以下であり、単層カーボンナノチューブだけの平均直径が1.6nm以下であり、2層カーボンナノチューブだけの平均直径が1.86nmであり、カーボンナノチューブ集合体の直径分布の標準偏差が0.5nm以下であり、DTA曲線のピークが800℃以上である実施例1は、表面抵抗値が600Ω/□以下となり、実施例1〜4の中で最も高い導電性を示すとともに、触媒等の残留物質が0.7wt%以下と特に低い値を示す。
このように、2層カーボンナノチューブの割合が10%以上かつ50%未満であるとともに3層以上の多層カーボンナノチューブの割合が10%以下であり、空気雰囲気下において、5℃/分で昇温した場合の最も大きなDTA曲線ピーク温度が750℃以上であって、カーボンナノチューブの平均直径が2.0nm以下である本実施1〜5にかかるカーボンナノチューブ集合体は、導電性に優れており、この実施例1〜5にかかるカーボンナノチューブ集合体を含む樹脂組成物、導電性エラストマーならび分散液も、高い導電性を示すものとなる。