以下、図面を参照しながら、実施形態を詳細に説明する。
図1は、実施形態に従ったアンテナ設計装置の機能的構成図である。
図1に示したアンテナ設計装置100は、アンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失を加味して、アンテナ設計を実行する装置である。
後述するように、アンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失を加味したアンテナ設計を実行する場合には、アンテナ設計装置100は、アンテナおよび整合回路を含むモデルのアンテナ特性を実施形態に従った解析的手法により算出する。
また、実施形態によっては、アンテナ設計装置100は、アンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失に加えて、アンテナ素子と波源(信号源)との間の給電線路の損失を加味してアンテナ設計を実行する。
アンテナ素子と波源である送受信モジュールとを接続する線路には、損失が含まれ得る。例えば、携帯情報端末装置が薄型化すると、線路の厚さも薄くなり得る。線路の損失は、線路の厚さが薄くなるに従って大きくなるため、アンテナの放射効率ηは、線路の損失の影響を受けて劣化し得る。そこで、アンテナに接続予定の給電線路の厚さ如何によっては、線路の損失を考慮してアンテナ設計を実行する必要がある。
後述するように、アンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失に加えて、線路の損失を加味してアンテナ設計を実行する場合には、アンテナ設計装置100は、アンテナ、整合回路、および線路を含むモデルのアンテナ特性を実施形態に従った解析的手法により算出する。
アンテナ設計装置100には、入力部110、記憶部120、処理部130、および表示部140が含まれる。
入力部110は、アンテナ設計に必要な各種データを入力するための装置である。入力部110は、例えば、キーボードやマウス等である。
入力部110を介して入力される各種データには、モデルの形状、モデルの材質、波源、回路部品、解析条件、および解析出力項目に関するデータが含まれる。
モデルの材質に関するデータは、例えば、導電率、誘電率、透磁率、および各種損失等に関するデータである。解析条件に関するデータは、例えば、解析する周波数の上限および下限、周波数の刻み、および高速処理設定の有無等に関するデータである。解析出力項目に関するデータは、例えば、Sパラメータ(Scattering parameter)、放射効率、およびトータル効率に関するデータである。また、解析出力項目に関するデータには、アンテナインピーダンスおよび整合素子のインピーダンスも含まれ得、実施形態によっては、線路の特性インピーダンスおよび伝達係数も含まれ得る。
なお、放射効率とは、アンテナおよび整合回路を含むモデルでは、波源側の整合回路の挿入位置でアンテナ(給電されたアンテナ素子)に入る正味の電力とアンテナからの放射電力との比である。また、アンテナ、整合回路、および線路を含むモデルでは、放射効率とは、波源側の線路の挿入位置でアンテナ(給電されたアンテナ素子)に入る正味の電力とアンテナからの放射電力との比である。線路および整合回路を含まないアンテナ単体のモデルでは、放射効率は、アンテナ(給電されたアンテナ素子)に入る正味の電力とアンテナからの放射電力との比である。
また、トータル効率とは、波源からの全入力電力とアンテナ(給電されたアンテナ素子)からの放射電力との比を指す。
記憶部120は、処理部130による処理データが格納されるアンテナ特性ファイル121および計算処理データファイル123を含む記憶装置である。
アンテナ設計装置100が線路の損失をも加味してアンテナ設計を実行する実施形態では、記憶部120は、線路特性ファイル122をさらに含み得る。
また、実施形態によっては、記憶部120は、整合素子データファイル124をさらに含む。整合素子データファイル124には、例えば、回路部品メーカー等により市販されている整合素子の各種データが格納される。格納される整合素子の各種データの一例としては、整合素子の種別、整合素子の静電容量またはインダクタンス、整合素子のサイズ、寄生インダクタンスまたは寄生静電容量、損失抵抗、耐圧、および価格等に関するデータが挙げられる。
記憶部120は、例えば、Read Only Memory(ROM)、Random Access Memory(RAM)、およびハードディスクドライブ(HDD)等である。
処理部130は、実施形態に従ったアンテナ設計処理を実行する装置である。処理部130は、例えば、Central Processing Unit(CPU)である。
表示部140は、入力部110への入力を促す表示を行い、および処理部130による処理結果を表示する装置である。表示部140は、例えば、液晶ディスプレイ装置である。
処理部130には、アンテナ特性シミュレーション処理部131およびアンテナ特性計算処理部133が含まれる。アンテナ設計装置100が線路の損失をも加味してアンテナ設計を実行する実施形態では、処理部130には、線路特性計算処理部132がさらに含まれる。
アンテナ特性シミュレーション処理部131には、整合回路なしアンテナモデル作成部131a、シミュレーション実行部131b、およびシミュレーション結果判定部131cが含まれる。
整合回路なしアンテナモデル作成部131aは、入力部110を介して入力された入力データに従って、整合回路を含まないアンテナモデルを作成する。
すなわち、アンテナ設計装置100がアンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失を加味してアンテナ設計を実行する実施形態では、整合回路なしアンテナモデル作成部131aは、複数のアンテナ素子を含むアンテナ単体モデルを作成する。また、アンテナ設計装置100がアンテナ素子と波源との間の線路の損失をも加味してアンテナ設計を実行する実施形態では、整合回路なしアンテナモデル作成部131aは、複数のアンテナ素子を含むアンテナ単体モデル、および該アンテナに線路を接続したアンテナモデルを作成する。
シミュレーション実行部131bは、整合回路なしアンテナモデル作成部131aにより作成されたアンテナモデルに対するシミュレーションを実行する。
シミュレーション実行部131bにより実行されるシミュレーションは、例えば、モーメント法、有限要素法、および有限差分時間領域法等を用いた電磁界シミュレーションである。
シミュレーション実行部131bのシミュレーションによって、整合回路を含まないアンテナモデルに対するアンテナ特性が取得される。取得されるアンテナ特性には、入力部110を介した入力により設定された周波数ごとのインピーダンス、Sパラメータ、放射効率、およびトータル効率が含まれる。これらのアンテナ特性は、記憶部120のアンテナ特性ファイル121に格納される。
シミュレーション結果判定部131cは、アンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失を加味したアンテナ設計を実行する場合には、アンテナ単体モデルのアンテナ特性が所望の規格を満たすか否かを判定する。線路の損失をも加味してアンテナ設計を実行する実施形態では、シミュレーション結果判定部131cは、アンテナおよび線路を含むアンテナモデルのアンテナ特性が所望の規格を満たすか否かを判定する。
シミュレーション結果判定部131cによる判定結果は、アンテナ特性ファイル121に格納される。
線路特性計算処理部132は、アンテナ素子と波源との間の線路の損失をも加味したアンテナ設計を実行するためにアンテナ設計装置100に備えられ得る。
線路特性計算処理部132は、入力部110を介した入力に従い作成された線路のモデルに対する特性を計算する。
線路特性計算処理部132には、線路モデル作成部132aおよび線路特性計算部132bが含まれる。
線路モデル作成部132aは、入力部110を介した入力により設定された線路のデータおよび基板のデータを取得して、線路モデルを作成する。線路のデータには、線路の長さおよび幅に関するデータが含まれる。基板のデータには、基板の比誘電率、誘電正接、厚さ、導体の高さ、および誘電率等に関するデータが含まれる。
線路特性計算部132bは、線路モデル作成部132aにより作成された線路モデルについて、入力部110を介した入力により設定された周波数ごとの線路の特性インピーダンス、伝達係数(減衰定数および位相定数)を計算する。
線路特性計算部132bにより計算された線路の特性インピーダンス、伝達係数(減衰定数および位相定数)に関する各データは、線路特性ファイル122に格納される。
アンテナ特性計算処理部133は、入力部110を介した入力に従い作成された、整合回路を含むアンテナモデルのアンテナ特性を実施形態に従った計算方法を用いて計算し、計算されたアンテナ特性が所望の規格を満たすか否かを判定する。
以下の説明において、「整合回路を含むアンテナモデル」あるいは「整合回路付きアンテナモデル」とは、アンテナ設計装置100がアンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失を加味してアンテナの設計を実行する実施形態では、アンテナおよび整合回路を含むモデルを指す。また、「整合回路を含むアンテナモデル」あるいは「整合回路付きアンテナモデル」とは、アンテナ設計装置100がアンテナ素子と波源との間の線路の損失をも加味してアンテナの設計を実行する実施形態では、アンテナ、線路、および整合回路を含むモデルを指す。
アンテナ特性計算処理部133による処理は、整合回路を含まないアンテナモデルのアンテナ特性が所望の規格値を満たさない場合に実行される。
すなわち、アンテナ設計装置100がアンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失を加味してアンテナ設計を実行する実施形態では、アンテナ特性計算処理部133による処理は、アンテナ単体モデルのアンテナ特性が所望の規格値を満たさない場合に実行される。また、アンテナ設計装置100がアンテナ素子と波源との間の線路の損失をも加味してアンテナ設計を実行する実施形態では、アンテナ特性計算処理部133による処理は、アンテナおよび線路を含むアンテナモデルのアンテナ特性が所望の規格値を満たさない場合に実行される。
実施形態によっては、シミュレーション結果判定部131cによる判定の結果、整合回路を含まないアンテナモデルの対象周波数でのトータル効率が所望の規格値未満である場合に、アンテナ特性計算処理部133による処理が実行される。
実施形態によっては、シミュレーション結果判定部131cによる判定結果に関係なく、アンテナ特性計算処理部133による処理が実行される。例えば、アンテナ単体の特性、整合回路を構成する各整合素子の特性、および線路の特性が任意の手段により取得されている場合、アンテナ特性計算処理部133は、取得されているこれらの特性を用いて処理を実行する。
アンテナ特性計算処理部133には、整合回路付きアンテナモデル作成部133a、アンテナ特性計算部133b、および計算結果判定部133cが含まれる。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合回路を含むアンテナモデルを作成する。
すなわち、アンテナ設計装置100がアンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失を加味してアンテナ設計を実行する実施形態では、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、アンテナおよび整合回路を含むアンテナモデルを作成する。また、アンテナ設計装置100がアンテナ素子と波源との間の線路の損失をも加味してアンテナ設計を実行する実施形態では、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、アンテナ、整合回路、および線路を含むアンテナモデルを作成する。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、アンテナ特性ファイル121に格納されたアンテナ単体のアンテナ特性をインポートする。すなわち、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、対象となる周波数ごとのアンテナインピーダンス、Sパラメータ、および放射効率に関する各データをインポートする。
実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110を介して入力された対象周波数ごとのアンテナインピーダンス、Sパラメータ、および放射効率に関する各データをインポートする。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、インポートされたアンテナインピーダンスに基づいて、整合回路の回路構成を算出する。実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110を介して入力された整合回路の回路構成のデータを取得する。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、算出または取得された回路構成に従って、サイズや耐圧等の使用条件に適合する、整合回路を構成する整合素子を決定する。サイズや耐圧等の使用条件のデータは、入力部110を介した入力等によって予め与えられる。
実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合素子データファイル124に格納された整合素子のデータを参照することによって、整合回路を構成する整合素子を決定する。実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110を介して入力された整合素子のデータに基づいて、使用条件に適合する整合素子を決定する。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、決定された整合素子の静電容量またはインダクタンスに加えて、寄生インダクタンスまたは寄生静電容量と損失抵抗とを取得する。
寄生インダクタンスまたは寄生静電容量と損失抵抗とは、実施形態によっては、整合素子データファイル124に格納された該当する整合素子のデータを参照することによって取得される。また、実施形態によっては、入力110を介して入力されることによって、整合素子の寄生インダクタンスまたは寄生静電容量と損失抵抗とが取得される。
このように、実施形態では、整合素子の寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合回路付きのアンテナモデルが整合回路付きアンテナモデル作成部133aによって作成される。また、作成された整合回路を構成する整合素子の寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む各値は、整合素子データファイル124から取得され、または入力部110を介した入力により指定される。
したがって、実施形態に従えば、整合回路を構成する各整合素子の静電容量またはインダクタンスに加えて、寄生リアクタンスおよび損失抵抗の各モデルを個別に作成したり、それらの値を個別に設定したりする必要がない。このため、整合素子の寄生リアクタンスおよび損失抵抗を加味した整合回路付きアンテナモデルを迅速かつ効率的に作成することができる。
アンテナ設計装置100がアンテナ素子と波源との間の線路の損失をも加味してアンテナ設計を実行する実施形態では、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、線路特性ファイル122に格納された線路の特性をインポートする。すなわち、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、対象となる周波数ごとの線路の特性インピーダンス、伝達係数(減衰定数および位相定数)に関する各データをインポートする。また、実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110を介して入力された対象となる周波数ごとの線路の特性インピーダンス、伝達係数(減衰定数および位相定数)に関する各データをインポートする。整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、インポートされた特性を有する線路を含む整合回路付きアンテナモデルを作成する。
アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより作成された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性を、実施形態の計算方法に従って計算する。
すなわち、実施形態によっては、アンテナ特性計算部133bは、整合素子の損失およびアンテナ素子間の相互作用が加味された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性をシミュレーションによらない解析的手法により計算する。また、実施形態によっては、アンテナ特性計算部133bは、整合素子の損失、およびアンテナ素子間の相互作用に加えて、線路の損失が加味された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性をシミュレーションによらない解析的手法により計算する。
アンテナ特性計算部133bにより計算されるアンテナ特性には、Sパラメータ、放射効率、およびトータル効率が含まれる。
また、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデルに含まれる整合素子および線路の消費電力を計算し得る。
実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法の一例として、整合素子の損失、線路の損失、およびアンテナ素子間の相互作用を加味して、アンテナ特性計算部133bが整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性を計算する方法を以下に説明する。
図2は、例示的な整合回路付きアンテナモデルの概略的構成図である。
図2に示すように、整合回路付きアンテナモデル200は、アンテナ210を含む。アンテナ210は、第1のアンテナ素子211および第2のアンテナ素子212を含む。
第1のアンテナ素子211は、第1のアンテナ素子側線路241−1と接続され、第1のアンテナ素子側線路241−1を介して第1の整合回路231と接続される。また、第1のアンテナ素子211は、第1のアンテナ素子側線路241−1および第1の整合回路231を介して、第1の波源側線路241−2と接続される。そして、第1のアンテナ素子211は、第1のアンテナ素子側線路241−1、第1の整合回路231、および第1の波源側線路241−2を介して、接地導体220と接続され得る。第1の波源側線路241−2と接地導体220との間には、送受信モジュール等の波源(図示せず)が接続され得る。
第2のアンテナ素子212は、第2のアンテナ素子側線路242−1と接続され、第2のアンテナ素子側線路242−1を介して第2の整合回路232と接続される。また、第2のアンテナ素子212は、第2のアンテナ素子側線路242−1および第2の整合回路232を介して、第2の波源側線路242−2と接続される。そして、第2のアンテナ素子212は、第2のアンテナ素子側線路242−1、第2の整合回路232、および第2の波源側線路242−2を介して接地導体220と接続され得る。第2の波源側線路242−2と接地導体220との間には、波源が接続され得る。
図2に示すように、第1のアンテナ素子211の信号の入出力ポートを第1のポート(ポート1)と定義し、第2のアンテナ素子212の信号の入出力ポートを第2のポート(ポート2)と定義する。
図3は、図2に示した整合回路付きアンテナモデルの等価回路図である。図3には、第1のポートから第1のアンテナ素子211に給電し、第2のアンテナ素子212の給電電圧を0Vとしたケースの等価回路が一例として示されている。
図3に示すように、整合回路付きアンテナモデルの等価回路300には、アンテナ310、第1の回路320−1、第2の回路320−2、および波源330が含まれる。
アンテナ310は、第1のアンテナ素子211および第2のアンテナ素子212を含むアンテナ210の等価回路である。
第1の回路320−1は、第1のアンテナ素子側線路241−1、第1の整合回路231、および第1の波源側線路241−2の等価回路である。第2の回路320−2は、第2のアンテナ素子側線路242−1、第2の整合回路232、および第2の波源側線路242−2の等価回路である。
図4は、図3に示した第1および第2の回路の等価回路図である。図4に示した第1および第2の回路320−i(iは、1または2)は、整合回路321−i、第1の線路322−i、および第2の線路323−iを含む。整合回路321−iは、第1の整合回路231および第2の整合回路232にそれぞれ対応する。第1の線路322−iは、第1のアンテナ素子側線路241−1および第2のアンテナ素子側線路242−1にそれぞれ対応する。第2の線路323−iは、第1の波源側線路241−2および第2の波源側線路242−2にそれぞれ対応する。
図3に示されるZ01は、第1のポートの基準インピーダンスであり、Z02は、第2のポートの基準インピーダンスである。第1のポートの基準インピーダンスZ01および第2のポートのZ02は、例えば、基準インピーダンスZ0と等しく、50オーム(Ω)であり得る(Z01=Z02=Z0=50Ω)。図3に示した一例では、波源240の内部インピーダンスは、基準インピーダンスZ01と一致する。
まず、実施形態に従った整合回路付きアンテナモデルのSパラメータの計算方法を説明する。
図3において、Faは、アンテナ310単体のFパラメータ(Fundamental parameter)を指す。Fml1は、第1の回路320−1のFパラメータを指し、Fml2は、第2の回路320−2のFパラメータを指す。
アンテナ310単体のFパラメータFaは、アンテナ310単体のSパラメータSaから算出できる。アンテナ310単体のSパラメータSaは、以下の式(2)のように定義される。
アンテナ310単体のSパラメータSaの要素の内、Sa21は、第1のポートから第2のポートへの伝達係数である。第1のポートから第2のポートへの伝達係数Sa21は、第1のアンテナ素子211と第2のアンテナ素子212との間のアイソレーション特性に含まれる。
アンテナ310単体のFパラメータFaは、式(2)を用いて以下の式(3)から計算できる。
前述したように、実施形態では、アンテナ310単体のSパラメータSaは、既知の値である。すなわち、実施形態によっては、アンテナ310単体のSパラメータSaは、実施形態によっては、シミュレーション実行部131bのシミュレーションにより取得されてアンテナ特性ファイル121に格納されている。実施形態によっては、アンテナ310単体のSパラメータSaは、入力部110による入力により取得される。また、Z0の値(Z01およびZ02の値)は、入力部110を介した入力により設定される。したがって、アンテナ310単体のFパラメータFaは、既知の値であるアンテナ310単体のSパラメータSaを式(3)に代入することにより計算できる。
図4において、Fmliは、図3に示した第1の回路320−1のFパラメータFml1および第2の回路320−2のFパラメータFml2にそれぞれ対応する。Fmiは、第1および第2の整合回路321−iのFパラメータを指す。Fli1は、第1の線路322−iのFパラメータを指し、Fli2は、第2の線路323−iのFパラメータを指す。
図5は、第1の線路および第2の線路の例示的な等価回路図である。第1の線路322−iおよび第2の線路323−iを分布定数線路とみなし、第1の線路322−iおよび第2の線路323−iの線路の長さをxとすると、図5に示したような伝送線路の等価回路400で表現することができる。図5に示したように、伝送線路の等価回路400は、直列に接続されたインダクタLdx、並列に接続されたキャパシタCdx、直列の損失である抵抗Rdx、および並列の損失であるコンダクタンスGdxを含む。
図5に示した伝送線路の等価回路400の特性は、電信方程式を解くことにより与えられる。説明を明確にするために、無損失で定常状態であるケースの伝送線路を一例として説明する。図5に示したように、始端の電流および電圧をそれぞれIx1およびVx1とし、終端の電流および電圧をそれぞれIx2およびVx2とすると、以下の式(4)が成り立つ。
式(4)中のFxは、長さxの伝送線路のFパラメータである。また、Z0は、特性インピーダンスであり、Y0は、アドミタンスであり、1/Z0である。γは、伝達係数であり、伝送線路の位相定数をβとすると、次の式(5)で表される。
前述したように、実施形態では、第1の線路322−iの線路長li1、特性インピーダンスZil1、減衰定数αi1、および位相定数βi1は、既知の値である。また、および第2の線路323−iの線路長li2、特性インピーダンスZil2、減衰定数αi2、および位相定数βi2は、既知の値である。すなわち、線路長li1およびli2は、入力部110の入力によりそれぞれ取得される。また、特性インピーダンスZil1およびZil2、減衰定数αi1およびαi2、ならびに位相定数βi1およびβi2は、実施形態によっては、線路特性計算部132bの計算により取得され線路特性ファイル122に格納されており、実施形態によっては、入力部110を介した入力により取得される。
したがって、第1の線路322−iのFパラメータFli1および第2の線路323−iのFパラメータFli2は、例えば、上述の式(5)を用いてそれぞれ計算できる。
図6は、第1および第2の整合回路の例図である。
例えば、第1および第2の整合回路321−iが図6に示す3つの整合素子321a、321b、および321cを含み、それらの整合素子がパイ(π)型に接続されると仮定する。3つの整合素子321a、321b、および321cのアドミタンスをYmi1、Ymi2、およびYmi3とそれぞれ定義すると、第1および第2の整合回路321−iのFパラメータFmiは、以下の式(6)によりそれぞれ計算できる。
前述したように、実施形態では、3つの整合素子321a、321b、および321cのそれぞれのインピーダンスZmijを構成する損失抵抗RmijおよびリアクタンスXmijは、既知の値である(図6に示した一例では、jは、1〜3の整数)。すなわち、これらの値は、実施形態によっては、整合素子データファイル124に格納された整合素子のデータを参照することによって取得される。また、実施形態によっては、これらの値は、入力部110を介した入力によって取得される。そして、3つの整合素子321a、321b、および321cのそれぞれのインピーダンスZmijは、既知の値である損失抵抗RmijおよびリアクタンスXmijを用いて以下の式(7)によりそれぞれ計算できる。
また、第1および第2の整合回路321−iに含まれる各整合素子のアドミタンスYmijは、式(7)により計算されたインピーダンスZmijの値の逆数を計算することにより取得できる。
したがって、第1および第2の整合回路321−iのFパラメータFmiは、式(6)によりそれぞれ計算できる。
なお、図6に示した第1および第2の整合回路321−iは、例示であり、第1および第2の整合回路321−iに含まれる整合素子の数が3つに限定されることを意味しない。また、図6に示したようなパイ型に整合素子が接続された整合回路に第1および第2の整合回路321−iが限定されることを意味しない。第1の整合回路321−1の回路構成と第2の整合回路321−2の回路構成とが異なってもよい。
また、実施形態によっては、アンテナ特性計算部133bは、上述のような第1および第2の整合回路321−iのFパラメータFmiの計算処理に加えて、次のような計算処理を実行することも可能である。すなわち、アンテナ特性計算部133bは、整合素子のインピーダンスに加えて、ビアのインピーダンスを加味して第1および第2の整合回路321−iのFパラメータFmiを計算する。
例えば、図6に示される整合素子321aおよび整合素子321bのようにアンテナ310に対して並列に実装される整合素子は、接地ビアを介して接地導体と接続される。これらの整合素子と接続されるそれぞれの接地ビアのインピーダンスが無視できない場合、アンテナ特性計算部133bは、これらのビアのインピーダンスを加味して、整合回路付きアンテナモデル200のアンテナ特性を計算する。すなわち、アンテナ特性計算部133bは、ビアのインダクタンスおよび/または抵抗を加味して整合回路付きアンテナモデル200のアンテナ特性を計算する。
例えば、接地ビアが円筒状の形状である場合、アンテナ特性計算部133bは、接地ビアのインダクタンスLvを次の式(8)により計算する。
式(8)において、μ0は、真空の透磁率である。hは、ビア長である。rは、ビアの半径であり、ビア径をDとすると、r=D/2である。
例えば、整合素子がアンテナ310に対して並列に実装される回路構成を整合回路付きアンテナモデル作成部133aが算出または取得する場合、表示部140は、ビア長hおよびビア径Dの各値の入力を促す表示をする。そして、ビア長hおよびビア径Dの各値は、入力部110を介して入力される。アンテナ特性計算部133bは、入力されたビア長hおよびビア径Dの各値を用いてビアのインダクタンスLvを計算する。
また、例えば、接地ビアが円筒状の形状である場合、アンテナ特性計算部133bは、接地ビアの抵抗Rvを次の式(9)により計算する。
式(9)において、fは、信号周波数であり、Rv0は、ビアの直流抵抗である。また、式(9)中のfδは、次の式(10)によって表される。
式(10)において、ρは、導体の抵抗率である。tは、ビア内のメタライゼーションの厚さであり、前述のビア径Dをビアの外径とし、ビアの内径をD´とすると、t=D−D´である。
例えば、整合素子がアンテナ210に対して並列に実装される回路構成を整合回路付きアンテナモデル作成部133aが算出または取得する場合、表示部140は、ビアの外径D、ビアの内径D´、抵抗率ρ、および直流抵抗Rv0の各値の入力を促す表示をする。そして、ビアの外径D、ビアの内径D´、抵抗率ρ、および直流抵抗Rv0の各値は、入力部110を介して入力される。アンテナ特性計算部133bは、入力されたビアの外径D、ビアの内径D´、抵抗率ρ、および直流抵抗Rv0の各値を用いてビアの抵抗Rvを計算する。
アンテナ特性計算部133bは、計算されたビアのインダクタンスLvをそのビアと接続する整合素子のリアクタンスをXmijに加算する。また、アンテナ特性計算部133bは、計算されたビアの抵抗Rvをそのビアと接続する整合素子の損失抵抗をRmijに加算する。ビアのインダクタンスLvおよび/またはビアの抵抗Rvが加算された後に実行される第1および第2の整合回路321−iのFパラメータFmiの計算方法は、前述と同様である。
図3に示した第1および第2の回路320−iのFパラメータFmliは、算出された第1および第2の整合回路321−iのFパラメータFmi、第1の線路322−iのFパラメータFli1、および第2の線路323−iのFパラメータFli2を用いて以下の式(11)によりそれぞれ計算できる。
また、整合回路付きアンテナモデルの等価回路300の合成FパラメータFmlaは、算出されたアンテナ310単体のFパラメータFa、第1の回路320−1のFパラメータFml1、および第2の回路320−2のFパラメータFml2を用いて以下の式(12)により計算できる。
整合回路付きアンテナモデルの等価回路300のSパラメータSmlaは、算出された合成FパラメータFmlaを用いて以下の式(13)により算出できる。
式(13)中のS21は、整合回路付きアンテナモデル200における第1のポートから第2のポートへの伝達係数である。第1のポートから第2のポートへの伝達係数S21は、第1のアンテナ素子211と第2のアンテナ素子212との間のアイソレーション特性に含まれる。
式(13)により算出されるSパラメータSmlaは、図3に示すように、第1のポートから第1のアンテナ素子211に給電し、第2のアンテナ素子212の給電電圧を0VとしたケースのSパラメータである。
これに対して、第2のポートから第2のアンテナ素子212に給電し、第1のアンテナ素子211の給電電圧を0VとしたケースのSパラメータは、FパラメータFmlaの逆行列Fmla -1を算出し、算出されたFmli -1を用いて式(13)により算出することにより取得できる。
また、前述したように、式(13)のZ0は、基準インピーダンスであり、例えば、50Ωである。すなわち、式(13)により算出されるSパラメータSmlaは、Z01およびZ02の値が共にZ0である(Z01=Z02=Z0)ケースのSパラメータである。
これに対して、図3の第2のポートのようにアンテナ素子に給電されていないポートの基準インピーダンスの値がZ0とは異なる値のZ0´に設定されたケースのSパラメータSmla´は、以下の式(14)に示されるSパラメータの変換式により算出できる。すなわち、Z01およびZ02の値が共にZ0に設定されたケースのSパラメータSmlaを用いて、Z01またはZ02の値がZ0´であるケースのSパラメータSmla´の値を算出できる。
式(14)中のIは、単位行列を表し、W-1は、Wの逆行列を表す。また、WおよびΓは、以下の式(15)および(16)でそれぞれ表される対角行列である。
式(15)および式(16)中のZ01´は、変更後の第1のポートの基準インピーダンス、すなわち、基準インピーダンスZ0とは異なる値に変更され得る第1のポートの基準インピーダンスである。Z02´は、変更後の第2のポートの基準インピーダンスである。例えば、図3に示した整合回路付きアンテナモデルの等価回路300では、第2のポートの基準インピーダンスのZ02をZ01´に設定し得る。そこで、図3に示した整合回路付きアンテナモデルの等価回路300では、変更後の第1のポートの基準インピーダンスZ01´は、Z0であり、変更後の第2のポートの基準インピーダンスZ02´は、Z0´である。
ただし、アンテナ素子に給電されていないポートが短絡された場合、すなわちZ01´またはZ02´の値が0である場合には、Wの逆行列であるW-1は存在しない。また、アンテナ素子に給電されていないポートが開放された場合、すなわちZ01´またはZ02´の値が無限大(∞)である場合には、W-1は存在しない。そこで、Z01またはZ02の値が0または無限大である場合には、式(14)の代わりに、以下のように計算する。
まず、図3のように、第1のポートから第1のアンテナ素子211に給電し、第2のアンテナ素子212の給電電圧を0Vとしたケースでは、Z02の値が0の場合の入力インピーダンスZ´in_mlaは、以下の式(17)により算出される。また、Z02の値が無限大の場合の入力インピーダンスZ´in_mlaは、以下の式(18)により算出される。
式(17)および式(18)中のAmla、Bmla、Cmla、およびDmlaは、式(12)で示されるように、FパラメータFmlaの要素であり、計算可能な値である。
そこで、第1のポートから第1のアンテナ素子211に給電し、第2のアンテナ素子212の給電電圧を0VとしたケースでのSパラメータS´in_mlaは、式(17)または式(18)により算出された入力インピーダンスZ´in_mlaを用いて以下の式(19)により算出できる。
また、第2のポートから第2のアンテナ素子212に給電し、第1のアンテナ素子211の給電電圧を0Vとしたケースでは、Z01の値が0の場合の入力インピーダンスZ´in_maは、以下の式(20)により算出される。また、Z01の値が無限大の場合の入力インピーダンスZ´in_maは、以下の式(21)により算出される。
式(20)および式(21)中のA´mla、B´mla、C´mla、およびD´mlaは、以下の式(22)に示されるように、FパラメータFmlaの逆行列Fmla -1の要素であり、計算可能な値である。
そこで、第2のポートから第2のアンテナ素子212に給電し、第1のアンテナ素子211の給電電圧を0VとしたケースでのSパラメータS´in_mlaは、式(20)または式(21)により算出された入力インピーダンスZ´in_maを用いて前述の式(19)により算出できる。
以上のように、アンテナ特性計算部133bは、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子の損失、および線路の損失、およびアンテナ素子間の相互作用が考慮された整合回路付きアンテナモデルのSパラメータをシミュレーションによらずに取得する。すなわち、実施形態では、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデルのSパラメータを、複数のアンテナ素子を含むアンテナ単体の特性、整合回路を構成する各整合素子の特性、および線路の特性を用いて解析的手法により計算する。
したがって、実施形態に従えば、整合素子の損失、および線路の損失、およびアンテナ素子間の相互作用が考慮された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性を短時間で取得することができ、所望のアンテナ設計を効率的に行なうことができる。
次に、実施形態に従った整合回路付きアンテナモデルの放射効率の計算方法を説明する。
図3に示したPnml1は、波源330から送り出され、第1の回路320−1に入力する正味の電力である。
Pnaは、アンテナ310に入力する正味の電力であり、第1の回路における不整合による損失をPLossml1とすると、関係式Pna=Pnml1−PLossml1で表される。
Pradは、放射電力であり、誘電損および導体損等のアンテナ210に含まれる損失によって失われる電力をPLossaとすると、関係式Prad=Pna−PLossaで表される。
Pnml2は、第2の回路320−1に入力する正味の電力であり、関係式Pnml2=Pna−(PLossmla+Prad)で表される。
PLoad2は、第2のポートへ出力される電力であり、第2の回路における不整合による損失をPLossml2とすると、関係式PLoad2=Pnml2−PLossml2で表される。
図3に示したI1は、波源330より後の回路に流れる電流であり、第1の回路320−1、アンテナ310、第2の回路320−2、および第2のポート側の負荷に流れる電流である。V1は、波源330より後の回路に印加される電圧であり、第1の回路320−1、アンテナ310、第2の回路320−2、および第2のポート側の負荷に印加される電圧である。
Iaは、第1の回路320−1より後の回路に流れる電流であり、アンテナ310、第2の回路320−2、および第2のポート側の負荷に流れる電流である。Vaは、第1の回路320−1より後の回路に印加される電圧であり、アンテナ310、第2の回路320−2、および第2のポート側の負荷に印加される電圧である。
Iml2は、アンテナ310より後の回路に流れる電流であり、第2の回路320−2および第2のポート側の負荷に流れる電流である。Vml2は、アンテナ310より後の回路に印加される電圧であり、第2の回路320−2および第2のポート側の負荷に印加される電圧である。
I2は、第2の回路320−2より後の回路に流れる電流であり、第2のポート側の負荷に流れる電流である。V2は、第2の回路320−2より後の回路に印加される電圧であり、第2のポート側の負荷に印加される電圧である。
整合回路付きアンテナモデルの等価回路300において、放射効率ηは、以下の式(23)により計算できる。
式(23)中のPna、Pnml2、Pnml1、およびPrad/(Prad+PLossa)は、それぞれ以下のようにして計算できる。
まず、式(23)中のPrad/(Prad+PLossa)は、アンテナ210単体の等価回路を用いて以下のように導き出せる。
図7は、例示的なアンテナ単体モデルの等価回路図である。図7に示したアンテナ単体モデルの等価回路500において、整合回路付きアンテナモデルの等価回路300と同じ要素には、同じ参照符号がふられている。
図7において、アンテナ310単体の放射効率ηaは、以下の式(24)のように表すことができる。
また、Pnaは、式(3)で示したアンテナ310単体のFパラメータFaを用いて、以下の式(25)のように表すことができる。
ここで、アンテナ210単体モデルに対するアンテナ特性の解析においては、Z01=Z02=Z0に設定する。また、V2=Z02I2であるから、Pnaは、さらに以下の式(26)のように表すことができる。
さらに、PLoad2は、以下の式(27)のように表すことができる。
式(26)および式(27)から、PnaとPLoad2との関係は、以下の式(28)のように表すことができる。
そこで、式(23)中のPrad/(Prad+PLossa)は、式(24)および式(28)を用いて、以下の式(29)ように表すことができる。
前述したように、実施形態では、式(29)中のηaは、既知の値である。すなわち、アンテナ210単体の放射効率ηaは、実施形態によっては、シミュレーション実行部131bのシミュレーションにより取得されてアンテナ特性ファイル121に格納されている、また、実施形態によっては、アンテナ310単体の放射効率ηaは、入力部110を介した入力により取得される。また、実施形態では、式(29)中のαは、式(28)により計算可能である。
したがって、式(23)中のPrad/(Prad+PLossa)は、式(29)により計算できる。
次に、式(23)中のPnml2は、以下の式(30)のように表すことができる。
式(30)中のAml2、Bml2、Cml2、およびDml2は、第2の回路320−2のFパラメータFml2の要素であり、式(11)を示しながら前述したように計算可能である。また、整合回路付きアンテナモデル200において、アンテナ素子に給電していないポートの基準インピーダンスは、基準インピーダンスZ0であってもよく、任意の値Z0´でもよい。すなわち、図3に示した一例では、式(30)中の第2のポートの基準インピーダンスZ02は、入力部110を介した入力により与えられる既知の値である。
また、式(23)中のPnaは、以下の式(31)のように表すことができる。
式(31)中のAaml2、Baml2、Caml2、およびDaml2は、以下の式(32)で示される行列の要素である。
式(3)および式(11)を示しながら前述したように、実施形態では、FaおよびFml2は、計算可能である。したがって、実施形態では、式(31)中のAmla2、Bmla2、Cmla2、およびDmla2は、計算可能である。また、前述したように、Z02は、既知の値である。
そして、式(23)中のPnml1は、以下の式(33)のように表すことができる。
式(12)を示しながら前述したように、実施形態では、式(31)中のAmla、Bmla、Cmla、およびDmlaは、計算可能である。また、前述したように、式(31)中のZ02は、既知の値である。
以上のように、式(23)中のPrad/(Prad+PLossa)、Pnml2、Pna、およびPnml1は、式(29)、式(30)、式(31)、および式(33)を用いてそれぞれ表すことができる。
ここで、実施形態では、アンテナ210単体のモデルと整合回路付きアンテナモデル200とにおいてPrad/(Prad+PLossa)の値が不変であるとみなす。式(29)、式(30)、式(31)、および式(33)を式(23)に代入すると、|I2|2は、計算中に打ち消される。
したがって、整合回路付きアンテナモデル200の放射効率ηは、式(23)により計算できる。
なお、前述したように、整合回路付きアンテナモデル200において、アンテナ素子に給電していないポートの基準インピーダンスは、基準インピーダンスZ0でなくてもよく、任意の値が与えられ得る。すなわち、図3に示した一例では、第2のポートの基準インピーダンスZ02は、0から無限大(∞)までの任意の値を与え得る。
しかしながら、第2のポートが開放されたケースが仮定され、Z02が無限大と設定された場合には、式(30)、式(31)、および式(33)を用いて式(23)中のPnml2、Pna、およびPnml1を計算することはできない。
そこで、Z02が無限大と設定された場合には、上述した式(30)、式(31)、および式(33)を以下の式(34)、式(35)、および式(36)にそれぞれ変形する。
Z02が無限大と設定された場合の整合回路付きアンテナモデル200の放射効率ηは、式(29)、式(34)、式(35)、および式(36)を用いて以下の式(37)のように計算できる。
なお、上述では、図3に示すように、第1のポートから第1のアンテナ素子211に給電し、第2のアンテナ素子212の給電電圧を0Vとしたケースの放射効率ηの算出方法を説明した。しかしながら、第2のポートから第2のアンテナ素子212に給電し、第1のアンテナ素子211の給電電圧を0Vとしたケースの放射効率ηも、同様の方法によって算出できる。
以上のように、アンテナ特性計算部133bは、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子の損失、および線路の損失、およびアンテナ素子間の相互作用が考慮された整合回路付きアンテナモデルの放射効率ηをシミュレーションによらずに取得する。すなわち、実施形態では、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデルの放射効率ηを、複数のアンテナ素子を含むアンテナ単体の特性、整合回路を構成する各整合素子の特性、および線路の特性を用いて解析的手法により計算する。
したがって、実施形態に従えば、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子の損失、および線路の損失、およびアンテナ素子間の相互作用が考慮された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性を短時間で取得することができ、所望のアンテナ設計を効率的に行なうことができる。
最後に、実施形態に従った整合回路付きアンテナモデルのトータル効率の計算方法を説明する。
整合回路付きアンテナモデルのトータル効率ηtは、以下の式(38)により計算できる。
式(13)を示して前述したように、実施形態では、式(38)中の反射係数S11は計算可能である。また、式(23)および式(37)を示して前述したように、実施形態では、式(38)中の放射効率ηは、計算可能である。
したがって、整合回路付きアンテナモデルのトータル効率ηtは、式(38)により計算できる。
以上のように、アンテナ特性計算部133bは、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子の損失、および線路の損失、およびアンテナ素子間の相互作用が考慮された整合回路付きアンテナモデルのトータル効率ηtをシミュレーションによらずに取得する。すなわち、実施形態では、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデルのトータル効率ηtを、複数のアンテナ素子を含むアンテナ単体の特性、整合回路を構成する各整合素子の特性、および線路の特性を用いて解析的手法により計算する。
したがって、実施形態に従えば、整合素子の損失、および線路の損失、およびアンテナ素子間の相互作用が考慮された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性を短時間で取得することができ、所望のアンテナ設計を効率的に行なうことができる。
なお、上述では、整合素子の損失、線路の損失、およびアンテナ素子間の相互作用が加味された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性の計算方法を実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法の一例として説明した。しかしながら、整合素子の損失およびアンテナ素子間の相互作用が加味された整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性についても、線路に関する計算を省略する等、上述した計算方法を変形することによって計算でき、上述した効果と同様の効果が得られることは、明らかである。
実施形態に従ったアンテナ特性の計算方法が実用に耐え得る十分な計算精度を有することを、具体例を用いて以下に説明する。以下の説明では、実施形態に従った計算方法によるアンテナ特性と、電磁界シミュレーションによるアンテナ特性と比較する。電磁界シミュレーションによるアンテナ特性は、Poynting(登録商標)等の任意の電磁界シミュレーションソフトウェアに従うコンピュータによっても取得することが可能である。
なお、以下に示す具体例は、実施形態のアンテナ特性の計算方法の計算精度を説明するための一例であり、以下の具体例に示される各パラメータの値によらなければ実施形態に従った計算方法が実用に耐え得る計算精度を得られないことを意味するものではない。
図8は、計算精度の検証に用いられた整合回路付きアンテナモデルの説明図である。
図8に示す整合回路付きアンテナモデル600は、アンテナ610、接地導体620、および基板630を含む。
アンテナ610は、基板630の上面に配置され、接地導体620は、基板630の下面に配置される。基板630の上面に配置されたアンテナ610の下方には、接地導体620は存在しない。
アンテナ610は、第1のアンテナ素子611および第2のアンテナ素子612を含む。第1のアンテナ素子611および第2のアンテナ素子612は、線状のアンテナ素子ある。線状の第1アンテナ素子611および第2のアンテナ素子612の幅は、それぞれ1mmである。
線状の第1のアンテナ素子611は、直角に屈曲しており、屈曲点を境として、ポート1側の第1の直線部分611aと、ポート1側とは反対側の第2の直線部分611bとを含む。第1の直線部分611aの長さは、10mmであり、第2の直線部分611bの長さは、24mmである。
また、線状の第2のアンテナ素子612は、直角に屈曲しており、屈曲点を境として、ポート2側の第3の直線部分612aと、ポート2側とは反対側の第4の直線部分612bとを含む。第3の直線部分612aの長さは、10mmであり、第4の部分612bの長さは、11mmである。
このように、第1のアンテナ素子611の形状と第2のアンテナ素子612の形状とは異なり、アンテナ610の形状は、非対称である。
接地導体620は、矩形の表面(上面および下面)を有する金属板である。第1の直線部分611aおよび第3の直線部分612aと並行方向の接地導体620の表面の辺の長さは、100mmであり、第2の直線部分611bおよび第4の直線部分612bと並行方向の辺の長さは、50mmである。接地導体620は、完全導体とみなす。
基板630は、アンテナ610および接地導体620の間に配置される。基板630の厚さは、1mmである。基板630の比誘電率は、4.0であり、誘電損は、2GHzにおいて0.02である。
第1のアンテナ素子611のポート1側および第2のアンテナ素子612のポート2側には、整合回路がそれぞれ接続される。
図9は、図8に示した整合回路付きアンテナモデルの等価回路図である。図9に示した整合回路付きアンテナモデルの等価回路700において、アンテナ710は、アンテナ610に対応する。第1の整合回路720−1は、第1のアンテナ素子611のポート1側に接続された整合回路に対応し、第2の整合回路720−2は、第2のアンテナ素子612のポート2側に接続された整合回路に対応する。
図9に示すように、第1の整合回路720−1は、第1のアンテナ素子611と直列に接続されたインダクタを含み、そのインダクタンスは、1.2nHである。また、第1の整合回路720−1は、第1のアンテナ素子611と並列に接続されたキャパシタを含み、その容量は、2.5nFである。また、第2の整合回路720−2は、第2のアンテナ素子612と直列に接続されたインダクタを含み、そのインダクタンスは、4nHである。また、第2の整合回路720−2は、第2のアンテナ素子612と並列に接続されたインダクタを含み、そのインダクタンスは、1.6nHである。
まず、第1の検証例として、第1のポートの基準インピーダンスZ01および第2のポートの基準インピーダンスZ02を共に50Ω(Z01=Z02=Z0=50Ω)としたケースの整合回路付きアンテナモデル600のアンテナ特性について説明する。
第1の検証例にけるSパラメータの検証結果を図10〜図14を参照しながら説明する。図10〜図14の検証結果は、ポート1から第1のアンテナ素子611に給電し、ポート2から第2のアンテナ素子612への給電電圧を0Vとしたときの検証結果である。
図10は、第1の検証例におけるS11の周波数特性図である。図11は、第1の検証例におけるS11のスミスチャートである。図10および図11から理解できるように、測定周波数1500〜2500MHzにおけるポート1の反射係数S11の遷移の傾向は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。例えば、ポート1の反射係数S11の値が最も低い周波数は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とで一致し、約2000MHzである。また、測定周波数1500〜2500MHzにおけるポート1の反射係数S11の値は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。
図12は、第1の検証例におけるS22の周波数特性図である。図13は、第1の検証例におけるS22のスミスチャートである。図12および図13から理解できるように、測定周波数1500〜2500MHzにおけるポート2の反射係数S22の遷移の傾向は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。例えば、ポート2の反射係数S22の値が最も低い周波数は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とで一致し、約2000MHzである。また、測定周波数1500〜2500MHzにおけるポート2の反射係数S22の値は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。
図14は、第1の検証例におけるS21およびS12の周波数特性図である。図14から理解できるように、測定周波数1500〜2500MHzにおけるポート1からポート2への伝達係数S21およびポート2からポート1への伝達係数S12の遷移の傾向は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。例えば、伝達係数S21およびS12の値が最も高い周波数は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とで一致し、約2000MHzである。
このように、図10〜図14に示した検証結果から、実施形態の計算方法が実用に耐え得る計算精度を有する計算方法であることが理解できる。
第1の検証例にける放射効率およびトータル効率の検証結果を図15〜図18を参照しながら説明する。
図15は、第1の検証例における第1のアンテナ素子の放射効率の周波数特性図である。図16は、第1の検証例における第1のアンテナ素子のトータル効率の周波数特性図である。図15および図16に示した検証結果は、ポート1から第1のアンテナ素子611に給電し、ポート2から第2のアンテナ素子612への給電電圧を0Vとしたときの検証結果である。
図15および図16から理解できるように、測定周波数1500〜2500MHzにおける第1のアンテナ素子611の放射効率およびトータル効率の遷移の傾向は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。また、測定周波数1500〜2500MHzにおける第1のアンテナ素子611の放射効率およびトータル効率の値は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。例えば、式(23)についての説明において前述したように、実施形態に従った放射効率の計算では、アンテナ単体のモデルと整合回路付きアンテナモデルとにおいてPrad/(Prad+PLossa)の値が不変であると擬制する。図15および図16の検証例からは、こうした擬制を用いた実施形態の計算方法が実用に耐え得る計算精度を有する計算方法であることが理解できる。
図17は、第1の検証例における第2のアンテナ素子の放射効率の周波数特性図である。図18は、第1の検証例における第2のアンテナ素子のトータル効率の周波数特性図である。図17および図18に示した検証結果は、ポート2から第2のアンテナ素子612に給電し、ポート1から第1のアンテナ素子611への給電電圧を0Vとしたときの検証結果である。
図17および図18から理解できるように、測定周波数1500〜2500MHzにおける第2のアンテナ素子612の放射効率およびトータル効率の遷移の傾向は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。また、測定周波数1500〜2500MHzにおける第2のアンテナ素子612の放射効率およびトータル効率の値は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。図17および図18の検証例からは、前述の擬制を用いた実施形態の計算方法が実用に耐え得る計算精度を有する計算方法であることが理解できる。
次に、第2の検証例として、第1のポートの基準インピーダンスZ01を50Ω(Z01=Z0=50Ω)とし、第2のポートの基準インピーダンスZ02を50Ω以外の値(Z02≠Z0)としたケースの整合回路付きアンテナモデル600のアンテナ特性について説明する。
第2の検証例にけるSパラメータの検証結果を図19〜図22を参照しながら説明する。図19〜図22の検証結果は、ポート1から第1のアンテナ素子611に給電し、ポート2から第2のアンテナ素子612への給電電圧を0Vとしたときの検証結果である。また、図19および図20の検証結果は、第2のポートの基準インピーダンスZ02を0としたときの検証結果である。図21および図22の検証結果は、第2のポートの基準インピーダンスZ02を無限大としたときの検証結果である。
図19は、第2のポートの基準インピーダンスZ02を0としたケースのS11の周波数特性図である。図19から理解できるように、測定周波数1500〜2500MHzにおけるポート1の反射係数S11の遷移の傾向は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。例えば、ポート1の反射係数S11の値が最も低い周波数は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とで一致し、約2100MHzである。また、測定周波数1500〜2500MHzにおけるポート1の反射係数S11の値は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。
図20は、第2のポートの基準インピーダンスZ02を0としたケースの第1のアンテナ素子のトータル効率の周波数特性図である。
図20から理解できるように、測定周波数1500〜2500MHzにおける第1のアンテナ素子611のトータル効率の遷移の傾向は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。また、測定周波数1500〜2500MHzにおける第1のアンテナ素子611のトータル効率の値は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。
図21は、第2のポートの基準インピーダンスZ02を無限大としたケースのS11の周波数特性図である。図21から理解できるように、測定周波数1500〜2500MHzにおけるポート1の反射係数S11の遷移の傾向は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。例えば、ポート1の反射係数S11の値が最も低い周波数は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とで一致し、約2000MHzである。また、測定周波数1500〜2500MHzにおけるポート1の反射係数S11の値は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。
図22は、第2のポートの基準インピーダンスZ02を無限大としたケースの第1のアンテナ素子のトータル効率の周波数特性図である。
図22から理解できるように、測定周波数1500〜2500MHzにおける第1のアンテナ素子611のトータル効率の遷移の傾向は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。また、測定周波数1500〜2500MHzにおける第1のアンテナ素子611のトータル効率の値は、電磁界シミュレーションによるシミュレーション結果と実施形態に従った計算方法とでほぼ一致する。
以上のような図19および図21に示した検証結果から、給電されていないアンテナ素子のポートの基準インピーダンスが任意の値に設定された場合でも、実施形態の計算方法が実用に耐え得る計算精度を有する計算方法であることが理解できる。また、図20および図22に示した検証結果から、給電されていないアンテナ素子のポートの基準インピーダンスが任意の値に設定された場合でも、前述したような擬制を用いた実施形態の計算方法が実用に耐え得る計算精度を有する計算方法であることが理解できる。
上述した第1および第2の検証例の検証結果から、実施形態の計算方法が実用に耐え得る計算精度を有する計算方法であることが理解できる。
実施形態に従ったアンテナ設計処理フローの一例を以下に説明する。
図23は、実施形態に従ったアンテナ設計処理フローの例図である。
図23に示したアンテナ設計処理フローは、アンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失に加えて、アンテナと波源との間の線路の損失を加味して、アンテナ設計装置100がアンテナ設計を実行するケースの処理フローの一例である。図23に示したアンテナ設計処理フローの内、線路の設計に関わる処理を除けば、アンテナ素子間の相互作用および整合素子の損失のみを加味してアンテナ設計装置100がアンテナ設計を実行するケースの処理フローの一例となる。
step101において、整合回路なしアンテナモデル作成部131aは、入力部110を介して入力されたモデルの条件データに従って、アンテナ単体のモデルを作成する。また、整合回路なしアンテナモデル作成部131aは、入力部110を介して入力されたモデルの条件データに従って、アンテナおよび線路を含むモデルを作成する。整合回路なしアンテナモデル作成部131aにより作成されるアンテナには、複数のアンテナ素子が含まれる。前述したように、入力部110を介して入力されるモデルの条件データには、モデルの形状、モデルの材質、波源、回路部品、解析条件、および解析出力項目に関するデータが含まれる。
線路モデル作成部132aは、入力部110を介して入力されたモデルの条件データに従って、線路のモデルを作成する。
step102において、シミュレーション実行部131bは、整合回路なしアンテナモデル作成部131aにより作成された、アンテナ単体モデルに対してシミュレーションを実行し、アンテナ特性を取得する。また、シミュレーション実行部131bは、整合回路なしアンテナモデル作成部131aにより作成された、アンテナおよび線路を含むモデルに対してシミュレーションを実行し、アンテナ特性を取得する。
具体的には、シミュレーション実行部131bは、アンテナに含まれる第1のアンテナ素子に給電し、第2のアンテナ素子の給電電圧を0Vにしたケース1のアンテナ特性をシミュレーションにより取得する。また、シミュレーション実行部131bは、アンテナに含まれる第2のアンテナ素子に給電し、第1のアンテナ素子の給電電圧を0Vにしたケース2のアンテナ特性をシミュレーションにより取得する。
シミュレーション実行部131bによるシミュレーションにおいて、アンテナ素子に給電されていないポートの基準インピーダンスは、入力部110を介して入力された任意の設定値であってよい。
また、式(14)および式(29)等を示して前述したように、実施形態に従った整合回路付きアンテナモデルのアンテナ特性の計算処理には、給電されていないアンテナ素子のポートの基準インピーダンスと給電されたアンテナ素子のポートの基準インピーダンスとが同じ値であるケースのアンテナ特性が用いられる。そこで、こうした計算処理に用いるために、シミュレーション実行部131bは、給電されていないアンテナ素子のポートの基準インピーダンスと給電されたアンテナ素子のポートの基準インピーダンスとが同じ値であるケースのシミュレーションをも実行する。
シミュレーション実行部131bが取得するアンテナ特性には、入力部110の入力により設定された周波数ごとのインピーダンス、Sパラメータ、放射効率、およびトータル効率が含まれる。シミュレーション実行部131bにより取得されたアンテナ単体のモデルに対するケース1および2のアンテナ特性は、アンテナ特性ファイル121にそれぞれ格納される。
線路特性計算部132bは、線路モデル作成部132aにより作成された線路のモデルを用いて線路の特性を計算する。計算される線路の特性には、入力部110の入力により設定された周波数ごとの線路のインピーダンス、伝達係数(減衰定数および位相定数)が含まれる。線路特性計算部132bにより計算された線路の特性は、線路特性ファイル122に格納される。
step103〜step111では、アンテナに含まれるアンテナ素子毎の繰り返しの処理が実行される。
具体的には、step104では、シミュレーション結果判定部131cは、シミュレーション実行部131bにより取得された、アンテナおよび線路を含むモデルの第1のアンテナ素子(i=1)のトータル効率ηtが所望の規格値以上であるか否かを判定する。すなわち、シミュレーション結果判定部131cは、ケース1での第1のアンテナ素子のトータル効率ηtが所望の規格値以上であるか否かを判定する。
step104においてトータル効率ηtが所望の規格値以上であると判定される場合(step104で“NO”)には、アンテナ設計処理は、step111に進む。
step104においてトータル効率ηtが所望の規格値未満であると判定される場合(step104で“YES”)には、アンテナ設計処理は、step105に進む。
step105において、表示部140は、整合回路を含むアンテナモデルを設計するためのツール画面を表示する。
図24は、整合回路付きアンテナモデル設計ツールの表示画面の一例である。
図24に示すように、表示画面800には、アンテナ特性ファイル121のファイル名を表示する領域810、ならびにアンテナおよび線路を含むモデルに追加される整合素子の特性を表示する領域820を含む。また、表示画面800には、追加された整合素子を含む整合回路付きアンテナモデルに対する計算結果を表示する領域830が含まれる。
アンテナに含まれるアンテナ素子毎のアンテナ特性ファイル121のファイル名が入力部110を介して入力されると、入力されたアンテナ素子毎のアンテナ特性ファイルのファイル名が領域810に表示される。整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力されたアンテナ特性ファイル121に格納された周波数ごとのアンテナインピーダンス、Sパラメータ、および放射効率をインポートする。
実施形態によっては、アンテナ素子毎のアンテナ特性が入力部110を介して個別に入力される。入力されたアンテナ特性は、領域810にそれぞれ表示される。整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、個別に入力されたアンテナ特性をインポートする。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、実施形態によっては、インポートされたアンテナ単体モデルのSパラメータに基づいて、各アンテナ素子に接続される整合回路の所望の回路構成を算出する。また、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、実施形態によっては、入力部110を介して入力された各整合回路の回路構成のデータを取得する。整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより算出または取得された各整合回路の回路構成は、表示部140によりツール画面上に表示されるように構成してもよい。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、算出または取得された回路構成に従って、使用条件に適合する、各整合回路を構成する整合素子を決定する。整合素子の使用条件は、入力部110を介した入力によって整合回路付きアンテナモデル作成部133aに予め取得されている。
実施形態によっては、各整合回路を構成する整合素子の特性が入力部110を介して入力され、入力された整合素子の特性が領域820に表示される。例えば、整合素子がコンデンサの場合には、静電容量、等価直列インダクタンス(Equivalent Series Resistance、ESR)、等価直列抵抗(Equivalent Series Inductance、ESL)が入力され、入力されたこれらの特性が領域820に表示される。整合素子がインダクタの場合には、インダクタンス、付随静電容量、付随抵抗が入力され、入力されたこれらの特性が領域820に表示される。整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110を介して入力された整合素子を使用条件に適合する整合素子として決定する。
また、実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合素子データファイル124に格納された整合素子のデータを参照することによって使用条件に適合する整合素子を決定する。
整合素子の種別がコンデンサの場合、整合素子データファイル124には、整合素子名、メーカー名、サイズ、静電容量、等価直列インダクタンス、等価直列抵抗、耐圧、および価格に関するデータが含まれる。
コンデンサには、静電容量の他に、損失抵抗成分である等価直列抵抗と寄生リアクタンス成分である等価直列インダクタンスとが含まれる。実施形態では、コンデンサの静電容量に加えて等価直列インダクタンスおよび等価直列抵抗を加味して、整合回路付きのアンテナモデルのアンテナ特性を計算する。そこで、等価直列インダクタンスおよび等価直列抵抗に関するデータが整合素子データファイル124に格納されるようにする。
整合素子の種別がインダクタの場合、整合素子データファイルには、整合素子名、メーカー名、サイズ、インダクタンス、付随静電容量、付随抵抗、耐圧、および価格に関するデータが含まれる。
インダクタには、インダクタンスの他に、損失抵抗成分である付随抵抗と寄生リアクタンス成分である付随静電容量とが含まれる。実施形態では、インダクタのインダクタンスに加えて付随静電容量および付随抵抗を加味して、整合回路付きのアンテナモデルのアンテナ特性を計算する。そこで、付随静電容量および付随抵抗に関するデータが整合素子データファイル124に格納されるようにする。
整合素子データファイルを参照して使用条件に適合する整合素子を決定する場合には、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、まず、整合素子データファイル124を静電容量またはインダクタンスについて昇順または降順に並べ替える。また、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、静電容量またはインダクタンスが同じ整合素子が存在する場合には、整合素子の価格について昇順または降順に並べ替える。そして、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合素子データファイル124の中から、サイズおよび耐圧が整合素子の使用条件に適合する整合素子を選択する。サイズおよび耐圧が同じ整合素子が整合素子データファイル124中に存在する場合には、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、価格の値が小さい整合素子を選択する。
各整合回路を構成する整合素子が整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより決定されると、決定された整合素子の種別、静電容量またはインダクタンス、損失抵抗、および寄生リアクタンスが領域820に表示される。
実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより算出または取得された整合回路が、アンテナに対して整合素子が並列に実装される回路である場合、表示部140は、アンテナに対して並列に実装される整合素子と接続するビア長hおよびビア径Dの各値の入力を促す表示をする。
アンテナに対して並列に実装される整合素子と接続するビア長hおよびビア径Dの各値は、入力部110を介して入力される。アンテナ特性計算部133bは、入力されたビア長hおよびビア径Dの各値を用いて、ビアのインダクタンスを計算する。計算されたビアのインダクタンスをそのビアと接続する整合素子のリアクタンスに加算する。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、線路特性ファイル122に格納された周波数ごとの線路のインピーダンス、減衰定数、および位相定数をインポートする。
各アンテナ素子に接続される各線路の長さは、入力部110を介して入力される。実施形態によっては、周波数ごとの線路の特性インピーダンス、減衰定数α、および位相定数βは、入力部110を介して入力される。また、実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、線路特性ファイル122に格納された周波数ごとの線路の特性インピーダンス、減衰定数、および位相定数をインポートする。
step106において、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより作成されたアンテナモデルのアンテナ特性を図2〜図7を参照しながら前述した計算方法に従って計算する。計算されるアンテナ特性には、Sパラメータ、放射効率η、およびトータル効率ηtが含まれる。アンテナ特性計算部133bによる計算結果は、計算処理データファイル123に格納される。
また、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデルに含まれる線路および整合素子のそれぞれの消費電力を計算する。アンテナ特性計算部133bによる計算結果は、計算処理データファイル123に格納される。
図24に示すように、アンテナ特性計算部133bにより計算された整合回路付きアンテナモデルのSパラメータ、放射効率η、およびトータル効率ηtは、表示部140によって表示画面800の領域830に表示される。
step107において、計算結果判定部133cは、アンテナ特性計算部133bにより計算されたトータル効率ηtが所望の規格値以上であるか否かを判定する。
step107においてトータル効率ηtが所望の規格値以上であると判定される場合(step107で“NO”)には、アンテナ設計処理は、step111に進む。
step107においてトータル効率ηtが所望の規格値未満であると判定される場合(step107で“YES”)には、アンテナ設計処理は、step108に進む。
step108では、計算結果判定部133cは、計算処理データファイル123に格納されている、各整合回路を構成する整合素子の消費電力を表示部140に表示させる。実施形態によっては、計算結果判定部133cは、各整合回路を構成する整合素子の消費電力を、アンテナ設計装置100に接続された印刷装置(図示せず)に印刷させる。
また、step108では、各整合回路を構成する整合素子を交換する処理が実行される。step108における整合素子の交換処理の詳細を図25に示す。
図25は、整合素子の交換処理フローの例図である。
step201において、計算結果判定部133cは、全ての整合回路のn個(nは1以上の整数)の整合素子を消費電力が大きい順に並べ替え、並べ替えられた整合素子に1からnまでの整合素子番号を昇順に振る。また、計算結果判定部133cは、整合素子番号のカウント値jを1に設定する。
step202において、計算結果判定部133cは、カウント値jと同じj番の整合素子番号の整合素子と同一の静電容量またはインダクタンスであり、かつj番の整合素子番号の整合素子よりも損失抵抗が小さい整合素子を探索する。実施形態によっては、計算結果判定部133cは、整合素子データファイル124の中から該当する整合素子を探索する。
step202において該当する整合素子が存在する場合(step202で“YES”)、step203の処理に進む。
step203において、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合回路に含まれるj番の整合素子番号の整合素子を、計算結果判定部133cにより探索された整合素子に交換する。
step204において、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより整合素子が交換された整合回路を含むアンテナモデルのアンテナ特性を前述した実施形態に従った計算方法により計算する。
step205において、計算結果判定部133cは、整合素子が交換された整合回路を含むアンテナモデルのトータル効率ηtが所望の規格値以上であるか否かを判定する。
step205においてトータル効率ηtが所望の規格値以上であると判定される場合(step205でNO”)には、アンテナ設計処理は、図23のstep111に進む。
step205においてトータル効率ηtが所望の規格値未満であると判定される場合(step205で“YES”)には、アンテナ設計処理は、step206に進む。
step202において該当する整合素子が存在しない場合(step202で“NO”)には、アンテナ設計処理は、step206に進む。
step206において、計算結果判定部133cは、カウント値jを1つインクリメントする。そして、step207において、カウント値jが全ての整合回路の整合素子数n以下であるか否かを判定する。
step207においてカウント値jが整合回路を構成する整合素子の数n以下であると判定される場合(step207で“YES”)には、step203に戻り、アンテナ設計処理は継続される。
step207においてカウント値jが整合回路を構成する整合素子の数nを越えると判定される場合(step207で“NO”)には、アンテナ設計処理は、図23のstep109に進む。
図23のstep109において、計算結果判定部133cは、線路の線路長変更の可否の入力を促す表示を表示部140にさせる。そして、計算結果判定部133cは、入力部110を介して入力された線路の線路長変更の可否に従って、整合回路付きアンテナモデルに含まれる線路の線路長を変更可能か否かを決定する。
step109において線路の線路長が変更可能でない場合(step109で“NO”)には、アンテナ設計処理は、step112に進む。
step109において線路の線路長が変更可能である場合(step109で“YES”)には、アンテナ設計処理は、step110に進む。
step110では、計算結果判定部133cは、計算処理データファイル123に格納されている、整合回路付きアンテナモデルを構成する各線路の消費電力を表示部140に表示させる。実施形態によっては、計算結果判定部133cは、整合回路付きアンテナモデルを構成する各線路の消費電力を、アンテナ設計装置100に接続された印刷装置(図示せず)に印刷させる。
また、step110では、整合回路付きアンテナモデルを構成する各線路の線路長を変更する処理が実行される。step110における線路の線路長の変更処理の詳細を図26に示す。
図26は、線路の線路長の変更処理フローの例図である。
step301において、計算結果判定部133cは、整合回路付きアンテナモデルを構成するm個(mは1以上の整数)の線路を消費電力が大きい順に並べ替え、並べ替えられた線路に1からmまでの線路番号を昇順に振る。また、計算結果判定部133cは、線路番号のカウント値kを1に設定する。
step302において、計算結果判定部133cは、カウント値kと同じ線路番号を有する線路の線路長を短くする。計算結果判定部133cにより変更された線路長の長さは、例えば、その線路によって接続される回路素子同士が互いに接触しない長さである。
step303において、計算結果判定部133cは、線路長の短縮に起因する線路のインピーダンスの位相変化に伴い、線路に接続された回路素子の変更が必要か否かを判定する。
step303において回路素子の変更が不要であると判定される場合(step303で“YES”)には、アンテナ設計処理は、step305に進む。
step303において回路素子の変更が必要であると判定される場合(step303で“NO”)には、アンテナ設計処理は、step304に進む。
step304では、回路素子の変更処理が実行される。step304において実行される回路素子の変更処理は、例えば、前述した整合回路付きアンテナモデル作成部133aによる整合回路の回路構成の算出処理および整合素子の選択処理である。
step305において、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、step302における線路長の変更およびstep304における回路素子の変更に基づいて、線路長が変更された整合回路付きアンテナモデルを再作成する。アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより再作成されたアンテナモデルのアンテナ特性を図2〜図7を参照しながら前述した計算方法に従って計算する。
step306において、計算結果判定部133cは、線路長が変更された整合回路付きアンテナモデルのトータル効率ηtが所望の規格値以上であるか否かを判定する。
step306においてトータル効率ηtが所望の規格値以上であると判定される場合(step306で“NO”)には、アンテナ設計処理は、図23のstep111に進む。
step306においてトータル効率ηtが所望の規格値未満であると判定される場合(step306で“YES”)には、アンテナ設計処理は、step307に進む。
step307において、計算結果判定部133cは、カウント値kを1つインクリメントする。そして、step308において、カウント値kが整合回路付きアンテナモデルを構成する線路の数m以下であるか否かを判定する。
step308においてカウント値kが線路数m以下であると判定される場合(step308で“YES”)には、step302に戻り、アンテナ設計処理は継続される。
step308においてカウント値jが線路の数mを越えると判定される場合(step308で“NO”)には、アンテナ設計処理は、図23のstep112に進む。
図23のstep111では、アンテナ素子のカウント値iを1つインクリメントする。そして、第2のアンテナ素子(i=2)についてstep104〜step110の繰り返しの処理が実行される。
第2のアンテナ素子(i=2)についての繰り返しの処理が実行されると、step112に進み、アンテナ設計処理は終了する。
step103〜step111の繰り返し処理中にトータル効率が規格値以上であるとすべてのアンテナ素子に対して判定されて、step112に進んだ場合には、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより作成されたアンテナモデルに基づいて、アンテナの試作または製造が行なわれる。
一方、step109の処理の後にstep112に進んだ場合およびstep308の処理後にstep112に進んだ場合には、実施形態によっては、step101に戻って入力部110により入力されるアンテナモデルのサイズや位置などの基本的な設計条件データが変更され、実施形態に従ったアンテナ設計処理が再度行われる。また、実施形態によっては、step105に戻り、整合素子のサイズ等の整合素子の使用条件が変更され、実施形態に従ったアンテナ設計処理が再度行われる。
なお、図23〜図26を参照しながら前述したアンテナ設計処理フローは、一例にすぎず、実施形態がこれに限定されることを意図するものではない。例えば、前述したアンテナ設計処理フローに以下の変更を追加することも可能である。
まず、アンテナ設計処理フローのstep101では、入力部110は、アンテナモデルの条件データとして、前述した各種データに加えて、整合回路の回路構成に関するデータを入力する。
step105では、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110により入力された整合回路の回路構成に関するデータに従って、寄生リアクタンス成分および損失抵抗成分を含まない整合素子により構成される整合回路のモデルを作成する。そして、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、作成された整合回路付きのアンテナモデル対するシミュレーションをシミュレーション実行部131bに実行させ、最適な回路定数を取得する。
整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、シミュレーション実行部131bにより取得された回路定数に従って、整合回路を構成する整合素子を決定する。実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、整合素子データファイルを参照して整合素子を決定する。また、実施形態によっては、整合回路付きアンテナモデル作成部133aは、入力部110を介して入力された整合素子のデータに基づいて整合素子を決定する。
step106では、アンテナ特性計算部133bは、整合回路付きアンテナモデル作成部133aにより決定された整合素子により構成される整合回路を含むアンテナモデルのアンテナ特性を、前述した実施形態に従った計算方法によって計算する。
また、前述した実施形態では、アンテナ設計装置100が実行するアンテナ設計方法を説明した。しかしながら、前述したアンテナ設計装置100が有する構成および処理機能を、アンテナ設計プログラムというソフトウェアによって実現することも可能である。したがって、アンテナ設計装置100が実行するアンテナ設計処理と同様のアンテナ設計処理を、アンテナ設計プログラムを実行するコンピュータによって実現することも可能である。
図27は、実施形態に従ったアンテナ設計プログラムを実行するコンピュータのハードウェア構成図である。
図27に示すように、コンピュータ900には、入力装置901、読み取り装置902、通信インタフェース903、ハードディスク(HDD)904、Central Processing Unit(CPU)905、Random Access Memory(RAM)906、Read Only Memory(ROM)907、表示装置908、およびバス909が含まれる。コンピュータ900に含まれる装置901〜908は、バス909によって相互に接続される。
入力装置901は、コンピュータ900のユーザが行なった操作を検出する装置であり、例えば、マウスおよびキーボードである。
読み取り装置902は、磁気ディスク、光ディスク、および光磁気ディスク等の可変記録媒体に含まれるプログラムおよびデータを読み出す装置であり、例えば、Compact Disc/Digital Versatile Disc(CD/DVD)ドライブである。通信インタフェース903は、Local Area Network(LAN)等の通信ネットワークにコンピュータ900を接続するためのインタフェースである。HDD904は、CPU905が実行するプログラムおよびデータを記憶する記憶装置である。
実施形態に従ったアンテナ設計プログラムは、可変記録媒体に記録されたアンテナ設計プログラムを読み取り装置902が読み取ることによって、HDD904にインストールされる。または、実施形態に従ったアンテナ設計プログラムは、他のコンピュータ装置(図示せず)に格納されたアンテナ設計プログラムを通信インタフェース903を介してコンピュータ900が取得することによって、HDD904にインストールされる。
CPU905は、アンテナ設計プログラムをHDD904からRAM906に読み出してアンテナ設計プログラムを実行することによって、実施形態に従ったアンテナ設計処理を実行する処理装置である。
RAM906は、HDD904から読み出されたアンテナ設計プログラムの実行途中結果を記憶するメモリである。ROM907は、定数データ等を記憶する読み出し専用メモリである。
表示装置908は、CPU905の処理結果等を表示する装置であり、例えば、液晶ディスプレイ装置である。
以上の説明のように、整合素子の損失およびアンテナ素子間の相互作用が加味されたアンテナ特性は、アンテナ単体の特性、整合素子の特性を用いて解析的手法により計算される。また、整合素子の損失およびアンテナ素子間の相互作用に加えて、線路の損失が加味されたアンテナ特性は、アンテナ単体の特性、整合素子の特性、および線路の特性を用いて解析的手法により計算される。
したがって、実施形態に従ったアンテナ特性計算方法に従えば、シミュレーションにより取得する場合と比較して、アンテナ素子間の相互作用や上述のような回路素子の損失が加味されたアンテナ特性を短時間で取得することができ、所望のアンテナ設計を迅速かつ効率的に行なうことができる。
また、実施形態では、整合素子の損失およびアンテナ素子間の相互作用が加味されたアンテナモデルのトータル効率が所望の規格値を満足するように、アンテナモデルに含まれる回路素子がアンテナ設計処理中に適宜変更される。また、実施形態では、整合素子の損失、線路の損失、およびアンテナ素子間の相互作用が加味されたアンテナモデルのトータル効率が所望の規格値を満足するように、アンテナモデルに含まれる回路素子がアンテナ設計処理中に適宜変更される。
したがって、実施形態に従ったアンテナ特性計算方法に従えば、上述のようなアンテナ素子間の相互作用や回路素子の損失が加味されたアンテナ設計処理を効率的に行なうことができる。
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
複数のアンテナ素子を含むアンテナと、前記複数のアンテナ素子にそれぞれ接続される整合回路であって、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子により構成される前記整合回路とを含むアンテナモデルを作成し、
前記アンテナの特性および前記整合素子の特性を取得し、
作成された前記アンテナモデルの特性を、取得された前記アンテナの特性および前記整合素子の特性を用いて計算し、
計算された前記アンテナモデルの特性が所望の規格値を満たすか否かを判定し、
判定された結果を表示する
処理をコンピュータが実行するアンテナ設計方法。
(付記2)
前記アンテナの特性は、前記アンテナのSパラメータを含み、前記整合素子の特性は、前記整合素子のインピーダンスを含み、前記アンテナモデルの特性は、前記アンテナモデルのSパラメータを含み、
前記コンピュータは、前記アンテナのSパラメータを用いて前記アンテナのFパラメータを計算し、前記整合素子のインピーダンスを用いて前記整合回路のFパラメータを計算し、計算された前記アンテナのFパラメータおよび前記整合回路のFパラメータを用いて前記アンテナモデルのSパラメータを計算する、付記1に記載のアンテナ設計方法。
(付記3)
前記アンテナモデルの特性は、前記アンテナモデルのトータル効率を含み、
前記コンピュータは、前記アンテナの放射効率および前記アンテナの損失の和と前記放射効率との比が、前記アンテナ単体のモデルと前記アンテナモデルとで同じであるとみなして、前記アンテナモデルの前記トータル効率を計算する、付記2に記載のアンテナ設計方法。
(付記4)
前記整合素子が前記アンテナに対して並列に実装される場合、前記コンピュータは、前記整合素子と接続されるビアのインダクタンスを計算し、計算された前記ビアのインダクタンスを用いて前記アンテナモデルの特性を計算する、付記1〜3の何れか一項に記載のアンテナ設計方法。
(付記5)
前記コンピュータは、前記整合回路を構成する前記整合素子を、前記整合素子の使用条件に関するデータを含む整合素子データファイルを参照することにより選択する、付記1〜4の何れか一項に記載のアンテナ設計方法。
(付記6)
前記コンピュータは、前記アンテナモデルの特性が前記所望の規格値を満さないと判定する場合には、前記整合素子の消費電力を表示する、付記1〜5の何れか一項記載のアンテナ設計方法。
(付記7)
前記コンピュータは、
前記アンテナおよび前記整合回路に加えて、前記複数のアンテナ素子にそれぞれ接続される線路を含むアンテナモデルを作成し、
前記線路の特性を取得し、
作成された前記アンテナモデルの特性を、前記アンテナの特性および前記整合素子の特性に加えて、前記線路の特性を用いて計算する、
付記1に記載のアンテナ設計方法。
(付記8)
複数のアンテナ素子を含むアンテナと、前記複数のアンテナ素子にそれぞれ接続される整合回路であって、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子により構成される前記整合回路とを含むアンテナモデルを作成する整合回路付きアンテナモデル作成部と、
前記アンテナの特性および前記整合素子の特性を取得し、取得された前記アンテナの特性および前記整合素子の特性を用いて前記整合回路付きアンテナモデル作成部により作成された前記アンテナモデルの特性を計算するアンテナ特性計算部と、
前記アンテナ特性計算部により計算された前記アンテナモデルの特性が所望の規格値を満たすか否かを判定する計算結果判定部と、
前記計算結果判定部により判定された結果を表示する表示部と、
を含むアンテナ設計装置。
(付記9)
前記アンテナの特性は、前記アンテナのSパラメータを含み、前記整合素子の特性は、前記整合素子のインピーダンスを含み、前記アンテナモデルの特性は、前記アンテナモデルのSパラメータを含み、
前記アンテナ特性計算部は、前記アンテナのSパラメータを用いて前記アンテナのFパラメータを計算し、前記整合素子のインピーダンスを用いて前記整合回路のFパラメータを計算し、計算された前記アンテナのFパラメータおよび前記整合回路のFパラメータを用いて前記アンテナモデルのSパラメータを計算する、付記8に記載のアンテナ設計装置。
(付記10)
前記アンテナモデルの特性は、前記アンテナモデルのトータル効率を含み、
前記アンテナ特性計算部は、前記アンテナの放射効率および前記アンテナの損失の和と前記放射効率との比が、前記アンテナ単体のモデルと前記アンテナモデルとで同じであるとみなして、前記アンテナモデルの前記トータル効率を計算する、付記9に記載のアンテナ設計装置。
(付記11)
前記整合素子が前記アンテナに対して並列に実装される場合、前記アンテナ特性計算部は、前記整合素子と接続されるビアのインダクタンスを計算し、計算された前記ビアのインダクタンスを用いて前記アンテナモデルの特性を計算する、付記8〜10の何れか一項に記載のアンテナ設計装置。
(付記12)
前記整合回路付きアンテナモデル作成部は、前記整合回路を構成する前記整合素子を、前記整合素子の使用条件に関するデータを含む整合素子データファイルを参照することにより選択する、付記8〜11の何れか一項に記載のアンテナ設計装置。
(付記13)
前記計算結果判定部は、前記アンテナモデルの特性が前記所望の規格値を満さないと判定する場合には、前記整合素子の消費電力を前記表示部に表示させる、付記8〜12の何れか一項記載のアンテナ設計装置。
(付記14)
前記整合回路付きアンテナモデル作成部は、前記アンテナおよび前記整合回路に加えて、前記複数のアンテナ素子にそれぞれ接続される線路を含むアンテナモデルを作成し、
前記アンテナ特性計算部は、前記線路の特性を取得し、作成された前記アンテナモデルの特性を、前記アンテナの特性および前記整合素子の特性に加えて、前記線路の特性を用いて計算する、
付記8に記載のアンテナ設計装置。
(付記15)
複数のアンテナ素子を含むアンテナと、前記複数のアンテナ素子にそれぞれ接続される整合回路であって、寄生リアクタンスおよび損失抵抗を含む整合素子により構成される前記整合回路とを含むアンテナモデルを作成し、
前記アンテナの特性および前記整合素子の特性を取得し、
作成された前記アンテナモデルの特性を、取得された前記アンテナの特性および前記整合素子の特性を用いて計算し、
計算された前記アンテナモデルの特性が所望の規格値を満たすか否かを判定し、
判定された結果を表示する
処理をコンピュータに実行させるアンテナ設計プログラム。
(付記16)
前記アンテナの特性は、前記アンテナのSパラメータを含み、前記整合素子の特性は、前記整合素子のインピーダンスを含み、前記アンテナモデルの特性は、前記アンテナモデルのSパラメータを含み、
前記コンピュータは、前記アンテナのSパラメータを用いて前記アンテナのFパラメータを計算し、前記整合素子のインピーダンスを用いて前記整合回路のFパラメータを計算し、計算された前記アンテナのFパラメータおよび前記整合回路のFパラメータを用いて前記アンテナモデルのSパラメータを計算する、付記15に記載のアンテナ設計プログラム。
(付記17)
前記アンテナモデルの特性は、前記アンテナモデルのトータル効率を含み、
前記コンピュータは、前記アンテナの放射効率および前記アンテナの損失の和と前記放射効率との比が、前記アンテナ単体のモデルと前記アンテナモデルとで同じであるとみなして、前記アンテナモデルの前記トータル効率を計算する、付記16に記載のアンテナ設計プログラム。
(付記18)
前記整合素子が前記アンテナに対して並列に実装される場合、前記コンピュータは、前記整合素子と接続されるビアのインダクタンスを計算し、計算された前記ビアのインダクタンスを用いて前記アンテナモデルの特性を計算する、付記15〜17の何れか一項に記載のアンテナ設計プログラム。
(付記19)
前記コンピュータは、前記整合回路を構成する前記整合素子を、前記整合素子の使用条件に関するデータを含む整合素子データファイルを参照することにより選択する、付記15〜18の何れか一項に記載のアンテナ設計プログラム。
(付記20)
前記コンピュータは、前記アンテナモデルの特性が前記所望の規格値を満さないと判定する場合には、前記整合素子の消費電力を表示する、付記15〜19の何れか一項記載のアンテナ設計プログラム。
(付記21)
前記コンピュータは、
前記アンテナおよび前記整合回路に加えて、前記複数のアンテナ素子にそれぞれ接続される線路を含むアンテナモデルを作成し、
前記線路の特性を取得し、
作成された前記アンテナモデルの特性を、前記アンテナの特性および前記整合素子の特性に加えて、前記線路の特性を用いて計算する、
付記15に記載のアンテナ設計プログラム。