I.概要
本発明の例示的な実施形態は、疾患病態生理学のような広く様々な生物プロセス、及び疾患プロセスを可能にする因子を含む、そのような生物プロセスの根底にある鍵となる分子駆動体を理解するためのツールである照合性生物学プラットフォーム(「プラットフォーム」)を用いて行うことができる方法を組み込んでいる。いくつかの例示的な実施形態は、プラットフォームの少なくとも一部分又はその全体を組み込むことができるシステムを含む。いくつかの例示的な方法は、プラットフォームの少なくともいくらか又は全体を採用することができる。プラットフォームを含むいくつかの例示的な実施形態の目標及び目的は、説明を目的として、以下に全般的に概説する。
i)生物プロセスの全体的な病態生理学と関係する、生物プロセス(例えば疾患プロセス)の重要な成分の駆動体としての具体的な分子サインを創出するため;
ii)生物プロセスに関する分子サイン又は差分マップを作成するため(これは、ある生物学的状態(例えば疾患状態)対別の生物学的段階(例えば正常状態)を区別する差分分子サインを同定し、2の生物学的状態間の変化(例えば正常状態から疾患状態へ)の機構を仲裁するサイン又は分子実体の理解を進める助けになることがある);並びに
iii)生物プロセスの外部制御のための潜在的介入標的(例えばハブを潜在的治療標的として用いるため)又は問題の生物プロセスについての潜在的バイオマーカー(例えば予後及び/又は治療診断的(theranostics)使用における疾患特異的バイオマーカー)としての分子活性の「ハブ」の役割を調べるため。
プラットフォームを含むいくつかの例示的な方法は、以下の特徴の1以上を含み得る:
1) 生物プロセスと関連する細胞を用いる、1以上のモデル、好ましくはin vitroモデルにおける生物プロセス(例えば疾患プロセス)及び/又は生物プロセスのコンポーネント(例えば疾患生理学及び病態生理学)のモデリング。例えば、細胞は、問題の生物プロセスに通常参加するヒト由来細胞であってよい。モデルは、生物プロセスに特異的な様々な細胞の合図/状態/変動(例えば疾患)を含み得る。理想的に、モデルは、生物学的(疾患)状態の静的評価の代わりに、様々な(疾患)状態及びフラックスコンポーネントを表す。
2)当該技術において認められている任意の手段を用いるmRNA及び/又はタンパク質サインのプロファイリング。例えば、定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)及び質量分析法(MS)のようなプロテオミクス分析。このようなmRNA及びタンパク質のデータセットは、環境/変動に対する生体反応を表す。当てはめることが可能である場合に、リピドミクス、メタボロミクス及びトランスクリプトミクスのデータも、問題の生物プロセスについての補助的又は代替の尺度として統合してよい。SNP分析は、プロセスにおいて時折用いることができる別のコンポーネントである。これは、例えば、SNP又は特定の変異が、生物プロセスに対して何らかの影響を有するかを調べるために助けとなることがある。これらの変数を用いて、静的な「スナップ写真」又は動的プロセスを表すもののいずれかとして生物プロセスを表すことができる。
3)それらに限定されないが、生物エネルギープロファイリング、細胞増殖、アポトーシス及び細胞小器官機能を含む、合図及び変動に対する1以上の細胞応答をアッセイすること。真の遺伝子型-表現型関連は、ATP、ROS、OXPHOS、Seahorseアッセイのような機能モデルを採用することにより顕在化される。このような細胞応答は、mRNA/タンパク質発現の対応する状態(複数可)及び上記の2)における任意のその他の関連する状態に応答する、生物プロセス(又はそのモデル)における細胞の反応を表す。
4)3)において得られた機能アッセイデータを2)で得られたプロテオミクス及びその他のデータと統合し、因果性により駆動されるタンパク質の関連を、人工知能ベース(AIベース)のインフォーマティクスシステム又はプラットフォームを採用することにより決定すること。このようなAIベースのシステムは、生物プロセスに関する現存の知見を頼ることなく、2)及び/又は3)で得られたデータセットに基づき、好ましくは該データセットだけに基づく。好ましくはデータ点の全てが、統計的又は人工的にカットオフされない。代わりに、全ての得られたデータを、タンパク質の関連を決定するためのAIシステムに供給する。統合プロセスのある目標又は出力は、異なる生物学的状態(例えば疾患対正常状態)の間の1以上の差分ネットワークである(あるいは、本明細書において「デルタネットワーク」、又は場合によって「デルタ-デルタネットワーク」ということがある)。
5)AIベースのインフォーマティクスプラットフォームからの出力をプロファイリングして、潜在的治療標的及び/又はバイオマーカーとしての各活性ハブを探索すること。このようなプロファイリングは、得られたデータセットに基づいて、いずれの実際のウェットラボ実験を行うことなく、完全にin silicoで行うことができる。
6)活性ハブを、分子及び細胞技術を採用することにより検証すること。ウェットラボ細胞ベースの実験による出力のポストインフォーマティクス検証は任意である、これらは、完全な照合を創出する助けとなる。
上で概説した任意の又は全てのアプローチを、具体的な応用の性質に少なくとも部分的に依存する任意の生物プロセスに関する任意の具体的な応用において用いることができる。つまり、上で概説した1以上のアプローチは、省略又は改変してよく、1以上のさらなるアプローチを、具体的な応用に依存して採用してよい。
プラットフォームを説明する様々な模式図を提供する。特に、プラットフォームを用いて治療を同定するための例示的なアプローチの説明を、図1に示す。がんのシステムバイオロジーと、統合された多重生理的双方向型出力調節の帰結の説明を、図2に示す。MIMSを用いる生物学的関連性の系統的照合の説明を、図3に示す。照合性生物学的クエリーを可能にするためのがんネットワークのモデリングの説明を、図4に示す。
照合性生物学プラットフォーム及びプラットフォームにおいて採用する技術の説明を、図5及び6に示す。データ収集、データ統合及びデータマイニングを含む、プラットフォームのコンポーネントの模式図を、図7に示す。MIMSを用いる系統的照合及び「オーミクス」カスケードからの応答データの収集の模式図を、図8に示す。
図14は、例示的方法10の高レベルフローチャートであり、例示的方法を行うために用いることができる例示的システムのコンポーネントを示す。最初に、モデル(例えばin vitroモデル)を、生物プロセス(例えば疾患プロセス)及び/又は生物プロセスのコンポーネント(例えば疾患生理学及び病態生理学)について、生物プロセスと通常関連する細胞を用いて確立する(ステップ12)。例えば、細胞は、生物プロセス(例えば疾患)に通常参加するヒト由来細胞であってよい。細胞モデルは、生物プロセス(例えば疾患)に特異的な様々な細胞の合図、状態及び/又は変動を含んでよい。理想的に、細胞モデルは、生物プロセスの静的評価の代わりに、生物プロセス(例えば疾患)の様々な(疾患)状態及びフラックスコンポーネントを表す。比較細胞モデルは、対照細胞又は正常(例えば非疾患)細胞を含んでよい。細胞モデルのさらなる説明を、以下の項III.A及びIVに示す。
第一データセットは、複数の遺伝子の発現レベルを表す情報(例えばmRNA及び/又はタンパク質サイン)を含む生物プロセスについての細胞モデルから(ステップ16)、任意の既知のプロセス又はシステム(例えば定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)及び質量分析法(MS)のようなプロテオミクス分析ツール)を用いて得られる。
第三データセットは、生物プロセスについての比較細胞モデルから得られる(ステップ18)。第三データセットは、比較細胞モデルからの比較細胞における複数の遺伝子の発現レベルを表す情報を含む。
本発明の方法のあるいくつかの実施形態では、これらの第一及び第三データセットは、本明細書において、生物システムと関連する細胞(比較細胞を含む全ての細胞)における複数の遺伝子の発現レベルを表す「第一データセット」と総称する。
第一データセット及び第三データセットは、1以上のmRNA及び/又はタンパク質サイン分析システム(複数可)から得ることができる。第一及び第三データセットにおけるmRNA及びタンパク質データは、環境及び/又は変動に対する生物学的反応を表すことができる。当てはめることが可能な場合に、リピドミクス、メタボロミクス及びトランスクリプトミクスのデータも、生物プロセスについての追加又は代替の尺度として統合してよい。SNP分析は、プロセスにおいて時折用いることができる別のコンポーネントである。これは、例えば、一塩基多型(SNP)又は特定の変異が、生物プロセスに対して何らかの影響を有するかを調べるための助けとなることがある。データ変数を用いて、静的な「スナップ写真」又は動的プロセスを表すもののいずれかとして生物プロセスを表すことができる。細胞における複数の遺伝子の発現レベルを表す情報を得ることに関するさらなる記載を、以下の項III.Bに示す。
第二データセットは、生物プロセスについての細胞モデルから得られ、細胞の機能活性又は応答を表す情報を含む(ステップ20)。同様に、第四データセットは、生物プロセスについての比較細胞モデルから得られ、比較細胞の機能活性又は応答を表す情報を含む(ステップ22)。
本発明の方法のあるいくつかの実施形態では、これらの第二及び第四データセットは、本明細書において、生物システムと関連する細胞(比較細胞を含む全ての細胞)の機能活性又は細胞応答を表す「第二データセット」と総称する。
1以上の機能アッセイシステムを用いて、細胞若しくは比較細胞の機能活性又は応答に関する情報を得ることができる。合図及び変動に対する機能細胞応答に関する情報は、それらに限定されないが、生物エネルギープロファイリング、細胞増殖、アポトーシス及び細胞小器官機能を含んでよい。プロセス及び経路についての機能モデル(例えばアデノシン三リン酸(ATP)、活性酸素種(ROS)、酸化的リン酸化(OXPHOS)、Seahorseアッセイなど)を採用して、真の遺伝子型-表現型関連を得ることができる。機能活性又は細胞応答は、mRNA/タンパク質発現の対応する状態(複数可)及び任意のその他の関連する用いた状態又は変動に応答する、生物プロセス(又はそのモデル)における細胞の反応を表す。細胞の機能活性又は応答を表す情報を得ることに関するさらなる情報を、以下の項III.Bに示す。
方法は、細胞及び対照細胞における生物プロセスのコンピュータにより実行されるモデルを作成するステップも含む。例えば、複数の遺伝子の発現レベルと機能活性又は細胞応答との間の因果関係の1以上の(例えば集合の)ベイズネットワークを、細胞モデル(「作成した細胞モデルネットワーク」)について、第一データセット及び第二データセットから作成できる(ステップ24)。作成した細胞モデルネットワークは、個別に又は集合的に、関係に関する定量的確率的有向性情報を含む。作成した細胞モデルネットワークは、第一データセット及び第二データセットからの情報以外に、遺伝子発現及び/又は機能活性若しくは細胞応答の間の既知の生物学的関係に基づかない。1以上の作成した細胞モデルネットワークは、コンセンサス細胞モデルネットワークと総称することができる。
複数の遺伝子の発現レベルと機能活性又は細胞応答との間の因果関係の1以上の(例えば集合の)ベイズネットワークは、比較細胞モデル(「作成した比較細胞モデルネットワーク」)について、第一データセット及び第二データセットから作成できる(ステップ26)。作成した比較細胞モデルネットワークは、個別に又は集合的に、関係に関する定量的確率的有向性情報を含む。作成した細胞ネットワークは、第一データセット及び第二データセットにおける情報以外に、遺伝子発現及び/又は機能活性若しくは細胞応答の間の既知の生物学的関係に基づかない。1以上の作成した比較モデルネットワークは、コンセンサス細胞モデルネットワークと総称することができる。
作成した細胞モデルネットワーク及び作成した比較細胞モデルネットワークは、人工知能ベースの(AIベースの)インフォーマティクスプラットフォームを用いて創出できる。作成した細胞モデルネットワークの創出、作成した比較細胞モデルネットワークの創出及びAIベースのインフォーマティクスシステムに関するさらなる詳細を、以下の項III.C及び図2A〜3の記載に示す。
多くの異なるAIベースのプラットフォーム又はシステムを採用して、定量的確率的有向性情報を含む因果関係のベイズネットワークを作成できることに注目すべきである。本明細書で記載するあるいくつかの例は、一つの具体的な商業的に利用可能なシステム、すなわちGNS(Cambridge、MA)からのREFS(商標)(リバースエンジニアリング/フォワードシミュレーション(Reverse Engineering/Forward Simulation))を採用するが、実施形態は限定されない。いくつかの実施形態の実行に適切なAIベースのシステム又はプラットフォームは、入力変数(例えば第一及び第二データセット)の間の因果関係を、入力データのみに基づいて、任意の潜在的、確立された及び/又は検証された生物学的関係についての以前に存在する知見を考慮することなく確立するための数学的アルゴリズムを採用する。
例えば、REFS(商標)AIベースのインフォーマティクスプラットフォームは、実験的に導いた未処理(元の)又は最小限に処理された入力生物学的データ(例えばジェネティクス、ゲノミクス、エピジェネティクス、プロテオミクス、メタボロミクス及び臨床データ)を利用し、何兆もの計算を迅速に行って、完全システムにおいて分子がどのように互いに相互作用するかを決定する。REFS(商標)AIベースのインフォーマティクスプラットフォームは、in silicoのコンピュータにより実行される細胞モデル(例えば作成した細胞モデルネットワーク)を、根底にある生物システムを定量的に表す入力データに基づいて創出することを狙いとするリバースエンジニアリングプロセスを行う。さらに、根底にある生物システムについての仮説を、発展させ、コンピュータにより実行される細胞モデルに基づいて迅速にシミュレートして、関連する信頼水準を伴う仮説に関する予測を得ることができる。
このアプローチを用いて、生物システムは、定量的なコンピュータにより実行される細胞モデルにより表され、該モデルにおいて、「介入」は、生物システム(例えば疾患)の詳細な機構、効果的な介入方策及び/又はどの患者が所定の処置計画に対して応答するかを決定する臨床的バイオマーカーを学習するためにシミュレートされる。従来のバイオインフォーマティクス及び統計的アプローチは、既知の生物学のモデリングに基づくアプローチと同様に、典型的に、これらのタイプの洞察を提供することができない。
作成した細胞モデルネットワーク及び作成した比較細胞モデルネットワークが創出された後に、これらを比較する。作成した細胞モデルネットワークの少なくともいくつかに存在し、且つ作成した比較細胞モデルネットワークに存在しないか又は少なくとも1の有意に異なるパラメータを有する1以上の因果関係が同定される(ステップ28)。このような比較は、差分ネットワークの創出をもたらす。比較、同定及び/又は差分(デルタ)ネットワーク創出は、差分ネットワーク創出モジュールを用いて実行してよく、これは、以下の項III.D及び図26の記載に関してさらに詳細に記載する。
いくつかの実施形態では、入力データセットは、1の細胞型及び1の比較細胞型からであり、これは、1の細胞型に基づいて細胞モデルネットワークの集合を、1の比較対照細胞型に基づいて別の比較細胞モデルネットワークの集合を創出する。差分は、1の細胞型のネットワークの集合と、比較細胞型(複数可)のネットワークの集合との間で行ってよい。
他の実施形態では、入力データセットは、複数の細胞型(例えば2以上のがん細胞型)及び複数の比較細胞型(例えば2以上の正常非がん性細胞型)からである。細胞モデルネットワークの集合を、各細胞型及び各比較細胞型について個別に作成してよく、且つ/又は複数の細胞型及び複数の比較細胞型からのデータを、それぞれの複合データセットに組み合わせてよい。複合データセットは、複数の細胞型に対応するネットワークの集合(複合データ)と、複数の比較細胞型に対応する別のネットワークの集合(比較複合データ)とを生成する。差分は、比較複合データについてのネットワークの集合と、複合データについてのネットワークの集合との間で行ってよい。
いくつかの実施形態では、差分は、2の異なる差分ネットワークの間で行ってよい。この出力は、デルタ-デルタネットワークということがあり、図26に関して以下に記載する。
定量的関係の情報を、作成した細胞モデルネットワークにおいて各関係について同定できる(ステップ30)。同様に、作成した比較細胞モデルネットワークにおける各関係についての定量的関係の情報を同定できる(ステップ32)。関係に関する定量的情報は、因果性を示す方向、関係に関する統計的不確定性の尺度(例えば曲線下面積(AUC)統計的測定)及び/又は関係の強さの量的大きさの表現(例えば倍数)を含み得る。作成した細胞モデルネットワークにおける様々な関係は、定量的関係の情報を用いてプロファイリングして、潜在的治療標的及び/又はバイオマーカーとしてのネットワークにおける各活性ハブを探索できる。このようなプロファイリングは、作成した細胞モデルネットワークからの結果に基づいて、いずれの実際のウェットラボ実験を行うことなく、完全にin silicoで行うことができる。
いくつかの実施形態では、ネットワークにおける活性ハブは、分子及び細胞技術を採用することにより検証できる。ウェットラボ細胞ベースの実験を用いる出力のこのようなポストインフォーマティクス検証は、行う必要はないが、完全な照合を創出する助けとなることがある。図15は、例示的なAIベースのインフォーマティクスシステム(例えばREFS(商標)AIベースのインフォーマティクスシステム)の機能性、並びにAIベースのシステムと照合性生物学プラットフォーム(「プラットフォーム」)のその他の要素又は部分との間の相互作用の単純化した高レベル図を模式的に示す。図15Aでは、薬物投与量、処置投与量、タンパク質発現、mRNA発現及び任意の多くの関連する機能的尺度(例えばOCR、ECAR)のような生物プロセスについてのモデル(例えば疾患モデル)から得られた様々なデータセットを、AIベースのシステムに供給する。図15Bに示すように、入力データセットから、AIシステムは、生物プロセス(例えば疾患)における分子機構を駆動する変数(タンパク質、脂質及び代謝産物)を含む「ネットワークフラグメント」のライブラリーを、ベイズフラグメント数え上げと呼ばれるプロセスにおいて創出する(図15B)。
図15Cでは、AIベースのシステムは、ライブラリーにおけるネットワークフラグメントの部分集合を選択し、フラグメントから初期試行ネットワークを構築する。AIベースのシステムは、また、ライブラリーにおけるネットワークフラグメントの異なる部分集合を選択して、別の初期試行ネットワークを構築する。最終的に、初期試行ネットワークの集合(例えば1000ネットワーク)が、ライブラリーにおけるネットワークフラグメントの異なる部分集合から創出される。このプロセスは、パラレルアンサンブルサンプリングということがある。集合における各試行ネットワークは、ライブラリーからさらなるネットワークフラグメントを加える、減じる且つ/又は置換することにより進化又は最適化される。さらなるデータが得られる場合、さらなるデータは、ライブラリーにおけるネットワークフラグメントに組み込むことができ、各試行ネットワークの進化により試行ネットワークの集合に組み込むことができる。最適化/進化プロセスの完了後に、試行ネットワークの集合は、作成した細胞モデルネットワークと記載できる。
図15Dに示すように、作成した細胞モデルネットワークの集合を用いて、生物システムの挙動をシミュレートしてよい。シミュレーションは、条件の変化に対する生物システムの挙動を予測するために用いることができ、これは、ウェットラボ細胞ベース又は動物ベースの実験を用いて実験的に検証できる。また、作成した細胞モデルネットワークにおける関係の定量的パラメータは、シミュレートした変動を各ノードに個別に適用しながら、作成した細胞モデルネットワークにおける他のノードに対する影響を観察することにより、シミュレーション機能性を用いて抽出できる。さらなる詳細は、以下の項III.Cに示す。
AIベースのインフォーマティクスシステムの自動化リバースエンジニアリングプロセス(図2A〜2Dに示す)は、細胞の不偏で系統的なコンピュータベースのモデルである作成した細胞モデルネットワークの集合を創出する。
リバースエンジニアリングは、データにおける分子測定と、対象の表現型成果(表現型アウトカム)との間の確率的有向ネットワーク接続を決定する。分子測定における変動により、これらの実体の間の確率的因果関係及び終点の変化を学習できる。プラットフォームの機械学習性の性質によっても、常に進化しているデータセットに基づく交差トレーニング及び予測が可能になる。
データにおける分子測定間のネットワーク接続は、「確率的」である。これは部分的には、接続が、コンピュータアルゴリズムにより「学習された」観察されたデータセット間の相関関係に基づくことがあるからである。例えば、タンパク質Xの発現レベル及びタンパク質Yの発現レベルが、正又は負に相関するならば、データセットの統計分析に基づいて、因果関係を割り当てて、タンパク質XとYとの間のネットワーク接続を確立できる。このような推定因果関係の信頼性は、p値(例えばp<0.1、0.05、0.01など)により測定できる接続の見込みによりさらに定義され得る。
データにおける分子測定の間のネットワーク接続は、「有向性」である。これは部分的に、リバースエンジニアリングプロセスにより決定される分子測定間のネットワーク接続が、接続された遺伝子/タンパク質間の関係の原因及び結果を反映して、あるタンパク質の発現レベルの上昇が、接続が刺激性又は阻害性であるかに依存して、他のタンパク質の発現レベルの上昇又は下降を引き起こし得るからである。
データにおける分子測定の間のネットワーク接続は、「定量的」である。これは部分的に、プロセスにより決定される分子測定間のネットワーク接続が、現存するデータセット及びそれと関連する確率的尺度に基づいてin silicoでシミュレートされることがあるからである。例えば、分子測定の間の確立されたネットワーク接続において、所定のタンパク質(又はネットワークにおける「ノード」)の発現レベルを理論的に増加又は減少させ(例えば1、2、3、5、10、20、30、50、100倍以上)、ネットワークにおけるその他の接続されたタンパク質に対するその影響を定量的にシミュレートすることが可能である。
データにおける分子測定の間のネットワーク接続は、「不偏」である。これは少なくとも部分的に、全てのデータ点が統計的又は人工的にカットオフされず、これもまた部分的に、ネットワーク接続が、問題の生物プロセスについての以前に存在する知見を参照することなく、入力データ単独に基づくからである。
データにおける分子測定の間のネットワーク接続は、「体系的」及び(不偏)である。これは部分的に、全ての入力変数のうちの全ての潜在的接続が、例えばペアワイズ様式で体系的に探索されているからである。このような体系的調査を実行するための演算力に対する依存性は、入力変数の数が増加するにつれて指数関数的に増加する。
一般的に、約1,000ネットワークの集合は、全ての測定された実体のうちの確率的定量的因果関係を予測するために、通常、十分である。ネットワークの集合は、データにおける不確定性を捕捉し、各モデル予測についての信頼性の数的指標の算出を可能にする。予測は、ネットワークの集合を一緒に用いて作成され、ここでは、集合における個別のネットワークからの予測における相違が、予測における不確定性の程度を表す。この特徴により、モデルから作成した臨床応答の予測についての信頼性の数的指標の割り当てが可能になる。
モデルを一旦リバースエンジニアリングに付すと、さらなるシミュレーションクエリーを、モデルの集合について実行して、疾患状態のような問題の生物プロセスについての重要な分子駆動体を決定する。
正常及び糖尿病状態を表す例示的in vitroモデルを構築するために採用するコンポーネントの略図を、図9に示す。疾患病態生理学と関連するタンパク質の因果関係ネットワークを作成するために用いる例示的インフォーマティクスプラットフォームREFS(商標)の模式図を、図10に示す。糖尿病対正常状態、及びMIMSでの処置により正常状態に回復した糖尿病ノードにおける差分ネットワークの作成のための例示的アプローチの模式図を、図11に示す。糖尿病対正常状態における代表的差分ネットワークを、図12に示す。対象のノード及び関連するエッジの模式図(ノード1が中心)と、各エッジと関連する細胞機能性とを、図13に示す。
上で発明を全般的に記載したが、以下の項は、全般的な発明の様々な態様及び要素について、本発明の方法を用いて分析できる1以上の具体的な生物システムと関連させて、より詳細に記載する。しかし、以下で説明の目的のために用いる具体的な生物システムは、限定しないことに注意されたい。これに対して、生物システムの任意の変更、改変及び均等物を含むその他の明らかな生物システムは、主題のプラットフォームテクノロジーを用いて同様に分析できることを意図する。
II.定義
本明細書で用いる場合、具体的に定義することを意図するが、本明細書の他の項で既に定義されていないあるいくつかの用語を、以下で定義する。
冠詞「a」及び「an」は、1又は1より多く(すなわち少なくとも1)の冠詞の文法的目的物のことをいうために用いられる。例えば、「要素(an element)」は、1の要素又は1より多い要素を意味する。
用語「含む(including)」は、「含むがそれに限定されない」との句を意味するために本明細書において用いられ、この句と交換可能に用いられる。
用語「又は」は、文脈がそうでないことを明らかに示さない限り、用語「及び/又は」を意味するために本明細書において用いられ、この用語と交換可能に用いられる。
用語「のような」は、「それに限定されないが・・のような」との句を意味するために本明細書において用いられ、この句と交換可能に用いられる。
「代謝経路」は、ある化合物を別の化合物に変形させ、細胞機能のための中間体及びエネルギーを提供する一連の酵素媒介反応のことをいう。代謝経路は、直鎖状又は環状又は分岐状であり得る。
「代謝状態」は、健常又は疾患の状態に関連する様々な化学的及び生物学的指標により測定される、所定の時点での特定の細胞、多細胞又は組織の環境の分子内容のことをいう。
用語「マイクロアレイ」は、紙、ナイロン若しくはその他の型のメンブレン、フィルタ、チップ、ガラススライド又は任意のその他の適切な固体支持体のような基材上に合成された別個のポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリペプチド(例えば抗体)又はペプチドのアレイのことをいう。
用語「障害」及び「疾患」は、包括的に用いられ、体の任意の部分、器官若しくは身体(又はそれらの任意の組み合わせ)の正常構造又は機能からの任意の逸脱のことをいう。具体的な疾患は、生物学的、化学的及び物理的変化を含む特徴的症状及び徴候により顕れ、それらに限定されないが、人口統計、環境、雇用、遺伝及び医療履歴の因子を含む様々なその他の因子としばしば関連する。あるいくつかの特徴的な徴候、症状及び関連する因子は、様々な方法により定量して、重要な診断情報を得ることができる。
用語「発現」は、ポリペプチドが、DNAのようなポリヌクレオチドから生成されるプロセスを含む。プロセスは、mRNAへの遺伝子の転写と、ポリペプチドへのこのmRNAの翻訳とを含み得る。この用語を用いる文脈に依存して、「発現」は、RNA、タンパク質又はそれらの両方の生成のことをいうことがある。
用語「遺伝子の発現レベル」又は「遺伝子発現レベル」は、mRNA並びにプレmRNA新生転写産物(複数可)、転写産物プロセシング中間体、成熟mRNA(複数可)及び分解産物のレベル、又は細胞における遺伝子によりコードされるタンパク質のレベルのことをいう。
用語「モジュレーション」は、応答のアップレギュレート(すなわち活性化又は刺激)、ダウンレギュレート(すなわち阻害又は抑制)又はこれらの二つの組み合わせ若しくは別々のことをいう。「モジュレーター」は、モジュレートする化合物又は分子であり、例えばアゴニスト、アンタゴニスト、アクチベータ、刺激物質、サプレッサー又は阻害物質であり得る。
用語「トロラミン」は、本明細書で用いる場合、トロラミンNF、トリエタノールアミン、TEALAN(登録商標)、TEAlan 99%、トリエタノールアミン、99%、トリエタノールアミン、NF又はトリエタノールアミン、99%、NFのことをいう。これらの用語は、本明細書において交換可能に用いられる。
用語「ゲノム」は、生物学的実体(細胞、組織、器官、身体、生物)の遺伝情報の全体のことをいう。これは、DNA又はRNA(例えばあるいくつかのウイルスにおいて)のいずれかにコードされる。ゲノムは、遺伝子及びDNAの非コード配列の両方を含む。
用語「プロテオーム」は、所定の時間にゲノム、細胞、組織又は生物により発現されるタンパク質の完全な集合のことをいう。より具体的には、この用語は、定義された条件下で所定の時間に所定の型の細胞又は生物において発現するタンパク質の完全な集合のことをいうことがある。プロテオームは、例えば遺伝子の選択的スプライシング及び/又は翻訳後修飾(例えばグリコシル化又はリン酸化)によるタンパク質バリアントを含み得る。
用語「トランスクリプトーム」は、所定の時間に1の細胞又は細胞の集団において生成されるmRNA、rRNA、tRNA及びその他の非コードRNAを含む転写されたRNA分子の完全なセットのことをいう。この用語は、所定の生物における転写産物のセットの合計、又は特定の細胞型に存在する転写産物の具体的なサブセットに用いることができる。所定の細胞株(変異を除く)に大まかに固定されるゲノムと違って、トランスクリプトームは、外部環境条件とともに変動しうる。これは、細胞における全てのmRNA転写産物を含むので、トランスクリプトームは、転写減衰のようなmRNA分解現象を例外として、任意の所定の時間に能動的に発現される遺伝子を反映する。
発現プロファイリングともいうトランスクリプトミクス研究は、所定の細胞集団におけるmRNAの発現レベルを、DNAマイクロアレイ技術に基づくハイスループット技術をしばしば用いて調べる。
用語「メタボローム」は、単一生物のような生物学的試料の中で、所定の条件下で所定の時間に見出される小分子代謝産物(例えば代謝中間体、ホルモン及びその他のシグナル伝達分子、並びに二次代謝産物)の完璧な集合のことをいう。メタボロームは、動的であり、一秒ごとに変化し得る。
用語「リピドーム」は、単一生物のような生物学的試料の中で、所定の条件下で所定の時間に見出される脂質の完璧な集合のことをいう。リピドームは、動的であり、一秒ごとに変化し得る。
用語「インタラクトーム」は、研究中の生物システム(例えば細胞)における分子相互作用の全集合のことをいう。これは、定方向性のグラフとして表示できる。分子相互作用は、異なる生化学的ファミリー(タンパク質、核酸、脂質、炭水化物など)に属する分子間で、及び所定のファミリー内でも生じうる。プロテオミクスの点で述べる場合に、インタラクトームは、タンパク質-タンパク質相互作用ネットワーク(PPI)又はタンパク質相互作用ネットワーク(PIN)のことをいう。別の網羅的に研究された型のインタラクトームは、タンパク質-DNAインタラクトーム(転写因子(及びDNA又はクロマチン調節タンパク質)及びそれらの標的遺伝子により形成されるネットワーク)である。
用語「細胞出力」は、1以上の遺伝子についての転写のレベル(例えばRT-PCR、qPCR、マイクロアレイなどにより測定可能)、1以上のタンパク質の発現レベル(例えば質量分析法又はウェスタンブロットにより測定可能)、1以上の酵素若しくはタンパク質の絶対活性(例えば基質変換速度により測定可能)又は相対的活性(例えば最大活性と比較した%値として測定可能)、1以上の代謝産物若しくは中間体のレベル、酸化的リン酸化のレベル(例えば酸素消費速度又はOCRにより測定可能)、解糖のレベル(例えば細胞外酸性化速度又はECARにより測定可能)、リガンド-標的結合若しくは相互作用の程度、細胞外分泌分子の活性などを(限定することなく)含む、細胞状態に関するパラメータ、好ましくは測定可能なパラメータの収集物を含む。細胞出力は、所定数の標的遺伝子若しくはタンパク質などについてのデータを含むか、又は全ての検出可能な遺伝子若しくはタンパク質についての全体的な評価を含み得る。例えば、質量分析法は、所定の試料又は細胞集団において発現される全ての検出可能なタンパク質を、いずれの具体的なタンパク質が試料又は細胞集団において発現され得るかについて予め知見を得ることなく、同定及び/又は定量するために用いることができる。
本明細書で用いる場合、「細胞システム」は、均質又は不均質な細胞の集団を含む。システム内の細胞は、自然又は生理的環境の下でin vivoで増殖しているか、又は例えば制御された組織培養環境においてin vitroで増殖してよい。システム内の細胞は、相対的に均質(例えば70%、80%、90%、95%、99%、99.5%、99.9%以上均質)であるか、或いはin vivoにおいて密接して増殖することが通常見出される細胞型、又は例えば傍分泌若しくはその他の長距離細胞間通信によりin vivoで互いに相互作用し得る細胞型のような2以上の細胞型を含有してよい。細胞システム内の細胞は、がん細胞株、不死化細胞株若しくは正常細胞株を含む樹立細胞株に由来するか、或いは初代細胞又は生体組織若しくは器官から新鮮に単離された細胞であってよい。
細胞システムにおける細胞は、栄養分、気体(酸素又はCO2など)、化学物質又は細胞挙動に影響する条件を規定し得るタンパク性/非タンパク性刺激物質を提供し得る「細胞環境」と典型的に接触している。細胞環境は、規定された化学成分を含む化学的培地及び/又はあまり規定されていない組織抽出物若しくは血清成分であってよく、細胞が増殖するための特定のpH、CO2含量、圧力及び温度を含んでよい。代わりに、細胞環境は、特定の細胞システムについてin vivoで見出される自然又は生理的環境であってよい。
あるいくつかの実施形態では、細胞環境は、生物システム又はプロセスの側面をシミュレートする、例えば疾患状態、プロセス若しくは環境をシミュレートする条件を含む。このような培養条件は、例えば、高血糖、低酸素又は富乳酸状態を含む。多数のその他のこのような条件を、本明細書で記載する。
あるいくつかの実施形態では、特定の細胞システムについての細胞環境は、細胞表面上の受容体若しくはリガンドの型及びそれらのそれぞれの活性、炭水化物若しくは脂質分子の構造、膜極性若しくは流動性、あるいくつかの膜タンパク質のクラスタリングの状態などのような細胞システムのあるいくつかの細胞表面の特徴も含む。これらの細胞表面の特徴は、異なる細胞システムに属する細胞のような近くの細胞の機能に影響することがある。あるいくつかのその他の実施形態では、しかし、細胞システムの細胞環境は、細胞システムの細胞表面の特徴を含まない。
細胞環境は、改変されて「改変細胞環境」になることができる。改変は、細胞環境への1以上の「外部刺激成分」の添加を含む、細胞環境において見出される任意の1以上の成分の変化(例えば増加又は減少)を含み得る。環境変動又は外部刺激成分は、細胞環境にとって内因性であるか(例えば細胞環境が、いくらかのレベルの刺激物質を含有し、それを超えるものを加えて、そのレベルを増加させる)、又は細胞環境にとって外因性であってよい(例えば刺激物質が、改変の前に細胞環境にほとんど存在しない)。細胞環境は、外部刺激成分を加えることに起因する二次的変化によりさらに改変されることがある。なぜなら、外部刺激成分は、細胞システムにより細胞環境に分泌される分子を含む、細胞システムの細胞出力を変化させることがあるからである。
本明細書で用いる場合、「環境変動」と本明細書においていうこともある「外部刺激成分」は、細胞機能に影響し得る任意の外部の物理的及び/又は化学的刺激を含む。これは、任意の大きい若しくは小さい有機又は無機分子、自然若しくは合成の化学物質、温度シフト、pH変化、放射線、光(UVA、UVBなど)、マイクロ波、音波、電流、変調若しくは未変調磁場などを含み得る。
用語「多次元細胞内分子(MIM)」は、体により自然に生成され、且つ/又はヒトの少なくとも1の細胞に存在する内因性分子の単離バージョン又は合成されたバージョンである。MIMは、細胞に侵入でき、細胞への侵入は、分子の生物活性部分が細胞に完全に侵入する限り、細胞への完璧又は部分的な侵入を含む。MIMは、細胞内にシグナル伝達及び/又は遺伝子発現機構を誘導することができる。MIMは、分子が、治療及び担体、例えば薬物送達の効果の両方を有するので、多次元である。MIMは、分子が、疾患状態においてある様式で作用し、正常状態において異なる様式で作用するので、多次元でもある。例えば、CoQ-10の場合、VEGFの存在下でのメラノーマ細胞へのCoQ-10の投与は、Bcl2のレベルの減少を導き、これは、次いで、メラノーマ細胞の発癌性能力の減少を導く。これとは対照的に、正常線維芽細胞において、CoQ-10とVEFGとの同時投与は、Bcl2のレベルに対して影響しない。
一実施形態では、MIMは、エピシフターでもある。別の実施形態では、MIMは、エピシフターでない。別の実施形態では、MIMは、上記の機能の1以上により特徴付けられる。別の実施形態では、MIMは、上記の機能の2以上により特徴付けられる。さらなる実施形態では、MIMは、上記の機能の3以上により特徴付けられる。まだ別の実施形態では、MIMは、上記の機能の全てにより特徴付けられる。当業者は、本発明のMIMが、2以上の内因性分子の混合物を包含することも意図し、ここで、混合物は、上記の機能の1以上により特徴付けられることを認識する。混合物における内因性分子は、混合物がMIMとして機能するような比率で存在する。
MIMは、脂質ベース又は非脂質ベースの分子であり得る。MIMの例は、それらに限定されないが、CoQ10、アセチルCo-A、パルミチルCo-A、L-カルニチン、例えばチロシン、フェニルアラニン及びシステインのようなアミノ酸を含む。一実施形態では、MIMは、小分子である。本発明の一実施形態では、MIMは、CoQ10でない。MIMは、本明細書で詳細に記載する任意のアッセイを用いて当業者が日常的に同定できる。MIMは、米国特許出願第12/777,902号(米国特許出願公開第2011-0110914号)(その内容全体は、本明細書に参照により明示的に組み込まれている)にさらに詳細に記載されている。
本明細書で用いる場合、「エピメタボリックシフター」(エピシフター)は、代謝シフトを健常(又は正常)状態から疾患状態(及びその逆)へモジュレートし、それによりヒトにおける細胞、組織、器官、身体及び/若しくはホストの健康を維持又は再確立する分子である。エピシフターは、組織微小環境における正常化を実現できる。例えば、エピシフターは、細胞に添加又は細胞から排除された場合に、細胞の微小環境(例えば代謝状態)に影響できる任意の分子を含む。当業者は、本発明のエピシフターが、2以上の分子の混合物を包含することも意図し、ここで、混合物は、上記の機能の1以上により特徴付けられることを認識する。混合物における分子は、混合物がエピシフターとして機能するような比率で存在する。エピシフターの例は、それらに限定されないが、CoQ-10;ビタミンD3;フィブロネクチンのようなECM成分;TNFa若しくは任意のインターロイキン、例えばIL-5、IL-12、IL-23のような免疫モジュレーター;血管新生因子;及びアポトーシス因子を含む。
一実施形態では、エピシフターは、MIMでもある。一実施形態では、エピシフターは、CoQ10でない。エピシフターは、本明細書で詳細に記載する任意のアッセイを用いて当業者が日常的に同定できる。エピシフターは、米国特許出願第12/777,902号(米国特許出願公開第2011-0110914号)(その内容全体は、本明細書に参照により明示的に組み込まれている)にさらに詳細に記載されている。
本出願において明示的に定義していないその他の用語は、当業者により理解される意味を有する。
III.プラットフォームテクノロジーの例示的ステップ及びコンポーネント
説明の目的のみのために、カスタム構築したがんモデルから得られたデータを統合するため、及びがんの病原性を駆動する新規なタンパク質/経路を同定するための例示的な利用性として、主題のプラットフォームテクノロジーの以下のステップを、以下のように記載できる。この分析から得られる関係マップは、がん処置の標的及びがんと関連する診断/予後マーカーを提供する。しかし、主題のプラットフォームテクノロジーは、任意の生物システム又はプロセスについて全般的な適用性を有し、いずれの特定のがん又はその他の具体的な疾患モデルにも限定されない。
さらに、以下の記載は、いくつかの部分において別個のステップとして示すが、これは説明の目的及び単純化のためであり、したがって、実際には、このようなステップの厳格な順序及び/又は境界を意味しない。さらに、本発明のステップは、別々に行ってよく、本明細書で提供する発明は、個別のステップのそれぞれを別々に、及び残りのステップとは独立して行うことができる主題のプラットフォームテクノロジーの1以上(例えば任意の1、2、3、4、5、6又は7全てのステップ)のステップの組み合わせを包含することを意図する。
本発明は、本発明の別々のコンポーネント及び実施形態としてのプラットフォームテクノロジーの全ての態様を含むことも意図する。例えば、作成したデータセットは、本発明の実施形態であることを意図する。さらなる例として、作成した因果関係ネットワーク、作成したコンセンサス因果関係ネットワーク及び/又は作成したシミュレーションした因果関係ネットワークも、本発明の実施形態であることを意図する。生物システムにおいて固有であると同定された因果関係は、本発明の実施形態であることを意図する。さらに、特定の生物システムについてカスタム構築したモデルも、本発明の実施形態であることを意図する。例えば、例えばがん、肥満症/糖尿病/心血管疾患についての細胞モデルのような疾患状態若しくはプロセスについてのカスタム構築したモデル、又は薬物の毒性(例えば心毒性)についてのカスタム構築したモデルも、本発明の実施形態であることを意図する。
A.カスタムモデル構築
プラットフォームテクノロジーにおける第一ステップは、生物システム又はプロセスについてのモデルの確立である。生物システム又はプロセスの例は、がんである。任意のその他の複雑な生物プロセス又はシステムと同様に、がんは、多重の固有の側面により特徴付けられる複雑な病理的状態である。例えば、その高い増殖速度のために、多くのがん細胞は、低酸素状態で増殖するように適合され、解糖がアップレギュレートされ、酸化的リン酸化代謝経路が低減している。その結果、がん細胞は、潜在的薬物による処置のような環境変動に対して、同じ処置に応答する正常細胞による反応と比較して、異なる反応をすることがある。つまり、正常細胞の応答と比較して、薬物処置に対するがんの固有の応答を解読することは興味深いことである。このために、カスタムがんモデルを確立して、in vivoでの腫瘍内のがん細胞の状態を密接に近似した細胞培養条件を創出することによりがん細胞の環境、例えばin vivoでの腫瘍内をシミュレートするか、又はがん細胞の異なる増殖状態を単離することによりがんの増殖の様々な側面を模倣することができる。
あるこのようながん「環境」又は増殖ストレス状態は、固形腫瘍内で典型的に見出される状態である低酸素である。低酸素は、当該技術において認められている方法を用いて細胞において誘導できる。例えば、低酸素は、細胞システムを、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業的気体ミックスで満たすことができるモジュラーインキュベータチャンバ(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc. Del Mar、CA)に入れることにより誘導できる。所定の期間の後、例えば低酸素処置の24時間後に、さらなる外部刺激成分(例えば0、50又は100μMでのCoQ10)あり及びなしで、影響を測定できる。
同様に、細胞の乳酸処置は、in vivoでの腫瘍環境において存在する高い解糖活性の細胞環境を模倣する。乳酸により誘導されるストレスは、約12.5 mMの最終乳酸濃度にて、所定の時間、例えば24時間目にて、さらなる外部刺激成分(例えば0、50又は100μMでのCoQ10)あり又はなしで調べることができる。
高血糖は、糖尿病において通常見出される状態である。しかし、高血糖は、がんの増殖の一つの側面もある程度模倣する。なぜなら、多くのがん細胞は、エネルギーの一次的供給源としてグルコースに依存するからである。対象細胞を典型的な高血糖状態に曝露することは、10%培養グレードグルコースを適切な培地に加え、培地中のグルコースの最終濃度を約22 mMにすることを含むことがある。
がんの増殖の異なる側面を反映する個別の状態は、カスタム構築したがんモデルにおいて別々に調べるか、且つ/又は一緒に組み合わせてよい。一実施形態では、がん増殖/状態の異なる側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50以上の条件の組み合わせを、カスタム構築したがんモデルにおいて調べる。一実施形態では、個別の条件と、さらに、がん増殖/状態の異なる側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50以上の条件の組み合わせとを、カスタム構築したがんモデルにおいて調べる。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1と5の間、1と10の間、1と20の間、1と30の間、2と5の間、2と10の間、5と10の間、1と20の間、5と20の間、10と20の間、10と25の間、10と30の間又は10と50の間の異なる条件であってもよい。
本明細書で以下に列挙するものは、細胞を処置するために用いることができる状態のいくつかの例示的な組み合わせである。その他の組み合わせは、実行される具体的な照合性生物学的評価に依存して容易に打ち立てることができる。
1.培地のみ
2.50μM CTL補酵素Q10(CoQ10)
3.100μM CTL補酵素Q10
4.12.5 mM乳酸
5.12.5 mM乳酸+50μM CTL補酵素Q10
6.12.5 mM乳酸+100μM CTL補酵素Q10
7.低酸素
8.低酸素+50μM CTL補酵素Q10
9.低酸素+100μM CTL補酵素Q10
10.低酸素+12.5 mM乳酸
11.低酸素+12.5 mM乳酸+50μM CTL補酵素Q10
12.低酸素+12.5 mM乳酸+100μM CTL補酵素Q10
13.培地+22 mMグルコース
14.50μM CTL補酵素Q10+22 mMグルコース
15.100μM CTL補酵素Q10+22 mMグルコース
16.12.5 mM乳酸+22 mMグルコース
17.12.5 mM乳酸+22 mMグルコース+50μM CTL補酵素Q10
18.12.5 mM乳酸+22 mMグルコース+100μM CTL補酵素Q10
19.低酸素+22 mMグルコース
20.低酸素+22 mMグルコース+50μM CTL補酵素Q10
21.低酸素+22 mMグルコース+100μM CTL補酵素Q10
22.低酸素+12.5 mM乳酸+22 mMグルコース
23.低酸素+12.5 mM乳酸+22 mMグルコース+50μM CTL補酵素Q10
24.低酸素+12.5 mM乳酸+22 mMグルコース+100μM CTL補酵素Q10
対照として、1以上の正常細胞株(例えばTHLE2及びHDFa)を同様の条件下で培養して、がんに固有のタンパク質又は経路(以下を参照されたい)を同定する。対照は、上記の比較細胞モデルであり得る。
単一がん細胞型とは反対に、同じ又は異なる起源の多重がん細胞(例えば、がん系統PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7)をがんモデルに含めてよい。あるいくつかの状況では、異なるがん細胞(例えばHepG2及びPaCa2)の間でのクロストーク又はECS実験を、いくつかの相互関係する目的のために実行してよい。
クロストークを含むいくつかの実施形態では、細胞モデルに対して実行する実験は、別の細胞システム又は集団(例えば膵臓がんPaCa2)による、規定された処置条件(例えば高血糖、低酸素(虚血))下でのある細胞システム又は集団(例えば肝癌細胞HepG2)の細胞状態又は機能のモジュレーションを測定するように設計される。典型的な背景に従って、第一細胞システム/集団を、候補分子(例えば小分子薬物、タンパク質)又は候補条件(例えば低酸素、高グルコース環境)のような外部刺激成分と接触させる。それに応答して、第一細胞システム/集団は、そのトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及び/又はインタラクトームを変化させ、細胞の内部及び外部の両方で容易に検出できる変化を導く。例えば、トランスクリプトームの変化は、複数の標的mRNAの転写レベルにより測定でき、プロテオームの変化は、複数の標的タンパク質の発現レベルにより測定でき、メタボロームの変化は、所定の代謝産物に特異的に設計されたアッセイにより、複数の標的代謝産物のレベルにより測定できる。代わりに、メタボローム及び/又はプロテオームの上記の変化は、少なくともあるいくつかの分泌代謝産物又はタンパク質に関して、第二細胞システム/集団のトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及びインタラクトームのモジュレーションを含む第二細胞システム/集団に対するそれらの影響により測定することもできる。よって、実験を用いて、第一細胞システム/集団により分泌される対象の分子(複数可)の、第二細胞システム/集団に対する、異なる処置条件下での影響を同定できる。実験を用いて、第一細胞システム(外部刺激成分処置に応答した)から別の細胞システムへのシグナル伝達の結果としてモジュレートされた任意のタンパク質を、例えばプロテオミクスの差分スクリーニングにより同定することもできる。同じ実験背景を、逆の背景に適合して、2の細胞システム間の相互の影響も評価できるようにすることもできる。一般的に、この型の実験について、細胞株対の選択は、起源、疾患状態及び細胞機能のような因子に大きく基づく。
2細胞システムは、この型の実験背景に典型的に含まれるが、同様の実験を、2を超える細胞システムのために、例えばそれぞれの別個の細胞システムを別々の固体支持体上に固定化することにより設計することもできる。
カスタムモデルが一旦構築されると、患者ごとの遺伝子の違いのような1以上の「変動」を、又はあるいくつかの薬物若しくはプロドラッグによる処置あり/なしでシステムに適用できる。図15Dを参照されたい。疾患関連がん細胞及び疾患関連正常対照細胞に対する影響を含む、システムに対するこのような変動の影響は、以下の項III.Bで記載するような当該技術において認められているか又は専有の様々な手段を用いて測定できる。
例示的な実験では、がん系統PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7並びに正常細胞株THLE2及びHDFaは、高血糖、低酸素及び富乳酸状態のそれぞれ、並びにこれらの状態の2若しくは3の全ての組み合わせで、環境変動、具体的には補酵素Q10での処置に加えて、又はそれなしで調整される。
カスタム構築した細胞モデルを確立して、本発明のプラットフォームテクノロジーのステップ全体を通して用い、本明細書で記載するステップを行うことにより、生物システムにおいて固有の因果関係を最終的に同定できる。しかし、生物プロセスについての初期の「第一世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために用いるカスタム構築した細胞モデルは、例えばさらなるがん若しくは正常細胞株及び/又はさらなるがん状態の導入により、経時的に継続的に進化又は拡大できることを当業者は理解する。進化した細胞モデルからのさらなるデータ、すなわち細胞モデルの新しく加えた部分(複数可)から収集したデータを、収集できる。拡大又は進化した細胞モデルから、すなわち細胞モデルの新しく加えた部分(複数可)からの新しいデータを、次いで、「第一世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために以前に用いたデータセットに導入して、より堅牢な「第二世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成できる。生物システムに固有の新しい因果関係を、次いで、「第二世代」コンセンサス因果関係ネットワークから同定できる。このようにして、細胞モデルの進化は、コンセンサス因果関係ネットワークの進化をもたらし、それにより、生物システムのモジュレーターについての新しく且つ/又はより信頼できる洞察をもたらす。
カスタム構築した細胞モデルのさらなる例を、以下に詳細に記載する。
B.データ収集
一般的に、2の型のデータを、任意のカスタム構築したモデルシステムから収集できる。一方の型のデータ(データの第一セット、データの第三セット)は、通常、DNA、RNA、タンパク質、脂質などのようなあるいくつかの巨大分子のレベルと関係する。この範疇の例示的なデータセットは、プロテオミクスのデータ(例えば試料からの全ての又は実質的に全ての測定可能なタンパク質の発現に関する定性的及び定量的データ)である。他方の型のデータは、全般的に、第一の型のデータの変化に起因する表現型の変化を反映する機能性データ(例えばデータの第二セット、データの第四セット)である。
第一の型のデータに関して、いくつかの例の実施形態では、定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)及びプロテオミクスを行って、細胞mRNA及びタンパク質発現の変化を、定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)及びプロテオミクスによりプロファイリングする。トータルRNAは、商業的なRNA単離キットを用いて単離できる。cDNA合成の後に、血管新生、アポトーシス及び糖尿病のような疾患領域又は細胞プロセスについての特異的な商業的に入手可能なqPCRアレイ(例えばSA Biosciencesからのもの)を採用して、製造者の使用説明に従うことにより、所定の遺伝子セットをプロファイリングできる。例えば、Biorad cfx-384増幅システムは、全ての転写プロファイリング実験のために用いることができる。データ収集(Ct)の後に、対照に対する最終的な倍数変化を、製造業者のプロトコールに概説されるようにδCt法を用いて決定できる。プロテオミクス試料分析は、後の項で記載するようにして行うことができる。
主題の方法は、同様の特徴の何百もの試料の大規模ハイスループット定量的プロテオミクス分析を採用してよく、細胞出力差分を同定するために必要なデータをもたらす。
この目的のために適切な、多数の当該技術において認められている技術が存在する。例示的な技術、すなわち質量分析法と組み合わせたiTRAQ分析について、以下に簡単に記載する。
定量的プロテオミクスアプローチは、ペプチド同定及び定量のための8プレックスiTRAQ試薬を用いる安定同位体標識と2D-LC MALDI MS/MSとに基づく。この技術を用いる定量は、相対的であり、ペプチド及びタンパク質には、参照試料に対する存在量の比率が割り当てられる。多重iTRAQ実験における共通参照試料は、多重iTRAQ実験にわたる試料の比較を容易にする。
例えば、この分析スキームを実行するために、6の一次試料及び2の対照プール試料を、製造者の提案に従って、一つの8プレックスiTRAQミックスに組み合わせることができる。8の試料のこの混合物を、次いで、二次元液体クロマトグラフィー、一次元の強カチオン交換(SCX)及び二次元の逆相HPLCにより分画し、次いで、質量分析に供することができる。
採用できる例示的実験室手順の簡単な概要を、本明細書に示す。
タンパク質抽出:細胞は、プロテアーゼ阻害剤(Thermo Scientific Haltプロテアーゼ阻害剤EDTAフリー)を含む8 M尿素溶解緩衝液を用いて溶解し、10分ごとに5秒間ボルテックスしながら氷上で30分間インキュベートできる。溶解は、5秒パルスで超音波処理することにより完了できる。細胞可溶化液は、14000×gにて15分間(4℃)遠心分離して、細胞破片を取り除くことができる。ブラッドフォードアッセイを行って、タンパク質濃度を決定できる。各試料からの100ugのタンパク質を還元し(10mMジチオトレイトール(DTT)、55℃、1h)、アルキル化し(25 mMヨードアセトアミド、室温、30分)、トリプシン(1:25w/w、200 mM重炭酸トリエチルアンモニウム(TEAB)、37℃、16h)で消化できる。
セクレトーム試料調製:1)一実施形態では、細胞を、血清フリー培地で培養できる。馴化培地を凍結乾燥機により濃縮し、還元し(10mMジチオトレイトール(DTT)、55℃、1h)、アルキル化し(25 mMヨードアセトアミド、室温にて30分間インキュベート)、次いでアセトン沈殿により脱塩できる。濃縮馴化培地からの等量のタンパク質を、トリプシン(1:25w/w、200 mM重炭酸トリエチルアンモニウム(TEAB)、37℃、16h)で消化できる。
一実施形態では、細胞を血清含有培地で培養できる。培地の容量は、3k MWCO Vivaspinカラム(GE Healthcare Life Sciences)を用いて低減させて、次いで、1×PBS(in vitrogen)を用いて再構築できる。血清アルブミンは、製造者の使用説明に従い、これに馴化培地の適用に最適化するための緩衝液交換の改変を加えて、AlbuVoidカラム(Biotech Support Group, LLC)を用いて全ての試料から排除できる。
iTRAQ 8プレックス標識:各実験セットにおける各トリプシン消化物からの分割量を一緒にプールして、プールした対照試料を創出できる。各試料及びプールした対照試料からの等量の分割量を、製造者のプロトコール(AB Sciex)に従ってiTRAQ 8プレックス試薬により標識できる。反応物を併せ、真空乾燥させ、0.1%ギ酸を加えることにより再懸濁し、LC-MS/MSにより分析できる。
2D-ナノLC-MS/MS:全ての標識したペプチド混合物を、オンライン2D-ナノLCにより分離し、エレクトロスプレータンデム質量分析法により分析できる。実験は、ナノエレクトロスプレーイオン源を備えたLTQ Orbitrap Velos質量分析計と接続したEksigent 2DナノLCウルトラシステム(Thermo Electron、Bremen、Germany)で行うことができる。
ペプチド混合物は、5 cm SCXカラム(PolyLC、Columbia、MDからの300μm ID、5μm、PolySULFOETHYL Aspartamideカラム)に、4μL/分の流れで注入し、C18トラップカラム(New Objective、Woburn、MAからの2.5 cm、100μm ID、5μm、300ÅProteoPep II)に10イオン交換溶出区分で溶出し、H2O/0.1%FAで5分間洗浄できる。分離は、次いで、300 nL/分にて120分間、2〜45%のB(H2O/0.1%FA(溶媒A)及びACN/0.1%FA(溶媒B))の勾配を用いて、15 cm融解石英カラム(New Objective、Woburn、MAからの75μm ID、5μm、300ÅProteoPep II)上でさらに行うことができる。
フルスキャンMSスペクトル(m/z 300〜2000)は、Orbitrapにおいて、30,000の解像度で取得できる。最も強いイオン(10まで)を、高エネルギーCトラップ解離法(HCD)を用いてフラグメンテーションのために逐次的に単離し、30秒間、動的に除外できる。HCDは、1.2 Daの単離幅で実行できる。得られたフラグメントイオンは、orbitrapにおいて、7500の解像度で走査できる。LTQ Orbitrap Velosは、基本1.0.1のXcalibur 2.1により制御できる。
ペプチド/タンパク質同定及び定量:ペプチド及びタンパク質は、SwissProtデータベースに対するMascot検索エンジンを用いてProteome Discovererソフトウェア(Thermo Electron)を用いる自動化データベース検索により同定できる。検索パラメータは、MS許容値について10 ppm、MS2許容値について0.02 Da及び2までの誤った切断を許容する完全トリプシン消化を含み得る。カルバミドメチル化(C)は、固定改変として設定できる。酸化(M)、TMT6及び脱アミド化(NQ)は、動的改変として設定できる。ペプチド及びタンパク質同定は、Mascot有意性閾値(p<0.05)を用いてフィルタできる。フィルタは、99%信頼水準のタンパク質同定(1% FDA)を可能にできる。
Proteome Discovererソフトウェアは、レポーターイオンに対して補正係数を適用でき、全ての定量チャネルが存在するわけでないならば、全ての定量値を拒絶できる。相対的タンパク質定量は、平均強度での標準化により達成できる。
第二の型のデータに関して、いくつかの例示的な実施形態では、がん及び正常モデルの生物エネルギープロファイリングは、Seahorse(商標)XF24分析器を採用して、解糖及び酸化的リン酸化成分を理解することができる。
具体的に、細胞を、Seahorse培養プレート上に最適密度にて播種できる。これらの細胞を、100μlの培地又は処置に播種し、5%CO2の37℃のインキュベータに放置できる。2時間後に、細胞が24ウェルプレートに接着した場合に、さらなる150μlの培地又は処置溶液のいずれかを加え、プレートを培養インキュベータに一晩放置できる。この2ステップ播種手順により、培養プレート内での細胞の均等な分布が可能になる。酸素及びpHセンサを含有するSeahorseカートリッジは、非CO2インキュベータ中で37℃にて校正液中で一晩水和できる。3のミトコンドリア薬物を、カートリッジの3のポートに典型的に装填する。複合体III阻害剤であるオリゴマイシン、脱共役剤であるFCCP及び複合体I阻害剤であるロテノンを、カートリッジのポートA、B及びCにそれぞれ装填できる。全てのストック薬物は、非緩衝DMEM培地中で10倍濃度で調製できる。カートリッジは、ミトコンドリア化合物と、非CO2インキュベータ中で約15分間まずインキュベートした後にアッセイできる。Seahorse培養プレートを、通常の増殖培地中で見出される濃度のグルコースを含有するDMEMベースの非緩衝培地で洗浄できる。細胞に、630 μlの非緩衝培地を重層し、非CO2インキュベータ中で平衡化した後に、予め校正したカートリッジを含むSeahorse機器に入れることができる。機器は、ベースラインを得るために、混合、待機及び測定のサイクルを含む3〜4ループを運転した後に、ポートからの薬物の注入を開始できる。次の薬物を導入する前に2ループを行うことができる。
OCR(酸素消費速度)及びECAR(細胞外酸性化速度)は、7μlチャンバ中の電極により記録し、seahorse培養プレートに対してカートリッジを押すことにより創出できる。
C.データ統合及びin silicoモデル作成
関連するデータセットが一旦得られると、データセットの統合及びコンピュータにより実行される統計モデルの作成を、AIベースのインフォーマティクスシステム又はプラットフォーム(例えばREFS(商標)プラットフォーム)を用いて行ってよい。例えば、例示的なAIベースのシステムは、代謝終点(ECAR/OCR)の鍵となる駆動体としてのタンパク質の関連のシミュレーションベースのネットワークを生成できる。図15を参照されたい。REFS(商標)システムに関するいくつかの背景の詳細は、Xingら、「Causal Modeling Using Network Ensemble Simulations of Genetic and Gene Expression Data Predicts Genes Involved in Rheumatoid Arthritis」、PLoS Computational Biology、第7巻、第3版、1〜19頁(2011年3月)(e100105)及びPeriwalの米国特許第7,512,497号(これらのそれぞれの内容全体は、完全に、本明細書に参照により明示的に組み込まれている)で見出すことができる。本質において、上で記載したように、REFS(商標)システムは、入力変数(例えばタンパク質発現レベル、mRNA発現レベル及びSeahorse培養プレートで測定されるOCR/ECAR値のような対応する機能性データ)のうちで因果関係を確立するための数学的アルゴリズムを採用するAIベースのシステムである。このプロセスは、いずれの潜在的で、確立された且つ/又は検証された生物学的関係についての以前に存在する知見を考慮することなく、入力データ単独のみに基づく。
特に、本発明のプラットフォームの著しい利点は、AIベースのシステムが、生物プロセスに関する当該技術におけるいずれの現存する知見も頼りにする又は考慮することなく、細胞モデルから得られたデータセットに基づくことである。さらに、好ましくは、いずれのデータ点も統計的又は人工的にカットオフされず、代わりに全ての得られたデータが、タンパク質の関連を決定するためのAIシステムに供給される。したがって、プラットフォームから作成した、得られる統計モデルは、不偏である。なぜなら、これらはいかなる既知の生物学的関係も考慮しないからである。
具体的に、プロテオミクス及びECAR/OCRからのデータは、AIベースの情報システムに入力でき、該システムは、上記のようにデータの関連に基づいて統計モデルを構築する。タンパク質の関連のシミュレーションベースのネットワークを、次いで、以下の方法を用いる処置及び状態を含む、それぞれの疾患対正常シナリオについて導く。
作成した(例えば最適化されたか又は進化した)ネットワークについての例示的プロセスの詳細な記載は、図16を参照して以下に示す。上記のように、プロテオミクスからのデータ及び機能性細胞データを、AIベースのシステムに入力する(ステップ210)。未処理データ又は最小限に処理したデータであり得る入力データを、前処理(標準化(例えば分位関数又は内部標準を用いる)を含み得る)する(ステップ212)。前処理は、欠落データ値の入力(例えばK-最近傍(K-NN)アルゴリズムを用いることによる)も含み得る(ステップ212)。
前処理データを用いて、ネットワークフラグメントライブラリーを構築する(ステップ214)。ネットワークフラグメントは、測定変数(入力データ)の全ての可能な小さい集合(例えば2〜3メンバーの集合又は2〜4メンバーの集合)のうちで定量的で継続的な関係を規定する。フラグメントにおける変数間の関係は、線形、ロジスティック、多項、優性又は劣性ホモ接合性などであってよい。各フラグメントにおける関係に、候補の関係がどの程度入力データを与えられる見込みがあるかを反映するベイズ確率スコアが割り当てられ、その数学的複雑さについて関係にペナルティを科す。入力データから推断される全ての可能なペアワイズ及び三方向関係(及びいくつかの実施形態では、四方向関係も)を評点することにより、ライブラリー中の最も見込みのあるフラグメントが同定できる(見込みのあるフラグメント)。関係の定量的パラメータは、入力データに基づいて演算して、各フラグメントについて記憶する。それらに限定されないが、線形回帰、ロジスティック回帰、(分散分析)ANOVAモデル、(共分散分析)ANCOVAモデル、非線形/多項回帰モデル及びノンパラメトリック回帰さえを含む様々な型のモデルを、フラグメント数え上げにおいて用いることができる。モデルパラメータについての先行仮説は、モデルにおいて用いるパラメータの数に関するガル分布又はベイズ情報量基準(BIC)ペナルティを仮定できる。ネットワーク干渉プロセスでは、初期試行ネットワークの集合における各ネットワークが、フラグメントライブラリー中のフラグメントの部分集合から構築される。初期試行ネットワークの集合における各初期試行ネットワークは、フラグメントライブラリーからのフラグメントの異なる部分集合を用いて構築される(ステップ216)。
Xingら、「Causal Modeling Using Network Ensemble Simulations of Genetic and Gene Expression Data Predicts Genes Involved in Rheumatoid Arthritis」、PLoS Computational Biology、第7巻、第3版、1〜19頁(2011年3月)(e100105)に基づくベイズネットワーク及びネットワークフラグメントの根底にある数学的表現の概要を、以下に示す。
ランダム変数X=X
1,…,X
nを用いる多変量システムは、多数のパラメータΘを含む多変量確率分布関数P(X
1,…,X
n;Θ)により特徴付けることができる。多変量確率分布関数は、因数分解して、ローカル条件的確率分布の積:
であるそのKi親変数に鑑みて、その非下行性変数から独立している)により表すことができる。因数分解の後に、各ローカル確率分布は、それ自体のパラメータΘiを有する。
多変量確率分布関数は、異なる様式で因数分解でき、各具体的な因数分解及び対応するパラメータは、別個の確率的モデルである。各具体的な因数分解(モデル)は、各変数Xiについての頂点と、ローカル条件的分布
における変数間の従属を表す頂点間の有向エッジとを有する有向非巡回グラフ(DAG)により表すことができる。DAGの部分グラフ(それぞれ頂点と関連する有向エッジとを含む)は、ネットワークフラグメントである。
モデルは、最も見込みのある因数分解と入力データに鑑みて最も見込みのあるパラメータとを決定することにより進化又は最適化される。これは、「ベイズネットワークを学習する」、又は言いかえると、入力データのトレーニングセットに鑑みて、入力データと最もよく一致するネットワークを見出すと記載できる。これは、入力データに関して各ネットワークを評価するスコアリング関数を用いることにより達成される。
ベイズフレームワークを用いて、入力データに鑑みて因数分解の見込みを決定する。ベイズ法則は、データDに鑑みたモデルMの事後確率P(D|M)が、データP(D)の確率がモデルにわたって一定であると仮定した場合、モデル仮定に鑑みたデータの事後確率P(D|M)
に、モデルの事前確率P(M)
を乗じた積に比例するとしている。これは、以下の等式で表される:
モデルを仮定するデータの事後確率は、パラメータの先行分布にわたるデータ見込みの積分である:
全てのモデルが等しい見込みを有する(すなわちP(M)が定数である)と仮定して、データDに鑑みたモデルMの事後確率は、以下のように各ローカルネットワークフラグメントMiについてのパラメータにわたる積分の積に因数分解できる:
上記の等式において、最高次の項にかかる定数項を省略していることに注意されたい。いくつかの実施形態では、モデルの事後確率P(D|M)の負の対数をとるベイズ情報量基準(BIC)を用いて、以下のように各モデルを「評点」できる:
(式中、モデルMについての合計スコアS
totは、各ローカルネットワークフラグメントについてのローカルスコアS
iの総計である)。BICは、各個別のネットワークフラグメントを決定するための式をさらに与える:
(式中、κ(Mi)は、モデルMiにおけるフィッティングパラメータの数であり、Nは、試料の数(データ点)である)。SMLE(Mi)は、ネットワークフラグメントについての尤度関数の負の対数であり、これは、各ネットワークフラグメントについて用いた関数の関係から算出できる。BICスコアについて、スコアが低いほど、モデルが入力データにフィットする見込みがより高い。
試行ネットワークの集合は、グローバルに最適化され、これは、ネットワークを最適化又は進化させると記載できる(ステップ218)。例えば、試行ネットワークは、メトロポリスモンテカルロサンプリングアルゴリズムに従って進化及び最適化できる。シミュレーテッドアニーリングを用いて、ローカル変換により集合中の各試行ネットワークを最適化又は進化させることができる。例のシミュレーテッドアニーリングプロセスでは、各試行ネットワークを、ライブラリーからのネットワークフラグメントを加えることにより、試行ネットワークからネットワークフラグメントを削除することにより、ネットワークフラグメントを置換することにより、又はネットワークトポロジーを変化させることにより変化させ、次いで、ネットワークについての新しいスコアを算出する。一般的にいうと、スコアが改善されると変化を維持し、スコアが悪化すると変化を拒絶する。「温度」パラメータは、スコアを悪化させるいくつかのローカルな変化の維持を可能にし、これは、いくつかの極小を回避して最適化プロセスを支援する。「温度」パラメータは、経時的に減少して、最適化/進化プロセスが収束することを可能にする。
ネットワーク干渉プロセスの全体又は一部分は、試行の異なるネットワークについて並行して実行できる。各ネットワークは、別のプロセッサ及び/又は別の演算デバイス上で最適化できる。いくつかの実施形態では、最適化プロセスは、並行して運転する何十万ものプロセッサを組み込んだスーパーコンピュータ上で実行できる。情報は、並行するプロセッサで実行される最適化プロセスのうちで共有できる。
最適化プロセスは、全体的なスコアについて閾値標準に合致できなかった集合からの任意のネットワークをはずすネットワークフィルタを含んでよい。はずされたネットワークは、新しい初期ネットワークで置き換えることができる。さらに、「スケールフリー」でない任意のネットワークも、集合からはずすことができる。ネットワークの集合を最適化又は進化させた後に、結果は、作成した細胞モデルネットワークの集合と命名でき、これは、作成したコンセンサスネットワークと総称することができる。
D.定量的関係情報を抽出するため及び予測のためのシミュレーション
シミュレーションを用いて、作成した細胞モデルネットワークにおける各関係に関する定量的パラメータ情報を抽出できる(ステップ220)。例えば、定量的情報抽出のためのシミュレーションは、ネットワークにおける各ノードを10倍変動(増加又は減少)させることと、モデルにおけるその他のノード(例えばタンパク質)についての事後分布を算出することとを含み得る。終点を、t検定により、群あたり100試料の仮定及び0.01有意性カットオフと比較する。t検定統計値は、100のt検定の中央値である。このシミュレーション技術を用いることにより、予測の強さを表すAUC(曲線下面積)及び終点を駆動するノードのin silicoの大きさを表す倍数変化が、ネットワークの集合における各関係について作成される。
ローカルコンピュータシステムの関係定量モジュールを採用して、AIベースのシステムを駆動して変動を行い、AUC情報及び倍数情報を抽出するようにできる。抽出された定量的情報は、親ノードを子ノードに接続する各エッジについての倍数変化及びAUCを含み得る。いくつかの実施形態では、カスタム構築されたRプログラムを用いて、定量的情報を抽出してよい。
いくつかの実施形態では、作成した細胞モデルネットワークの集合は、シミュレーションにより用いて、状態の変化に対する応答を予測でき、これは、後で、ウェットラボ細胞ベース又は動物ベースの実験により検証できる。
AIベースのシステムの出力は、定量的関係パラメータ及び/又はその他のシミュレーション予測であり得る(222)。
E.差分(デルタ)ネットワークの作成
差分ネットワーク創出モジュールを用いて、作成した細胞モデルネットワークと作成した比較細胞モデルネットワークとの間の差分(デルタ)ネットワークを作成できる。上記のように、いくつかの実施形態では、差分ネットワークは、作成した細胞モデルネットワーク及び作成した比較細胞モデルネットワークにおける関係の定量的パラメータの全てを比較する。差分ネットワークにおける各関係についての定量的パラメータは、比較に基づく。いくつかの実施形態では、差分は、様々な差分ネットワーク間で行うことができ、これは、デルタ-デルタネットワークと命名できる。デルタ-デルタネットワークの例を、実施例の項で図26に関して以下に記載する。差分ネットワーク創出モジュールは、PERLで記述されたプログラム又はスクリプトであってよい。
F.ネットワークの可視化
ネットワークの集合及び差分ネットワークについての関係の値は、ネットワーク可視化プログラム(例えば複合ネットワーク分析及び可視化のための、Cytoscape consortiumからのサイトスケープオープンソースプラットフォーム)を用いて可視化できる。ネットワークの視覚的表示において、各エッジ(例えばタンパク質を接続する各線)の太さは、倍数変化の強さを表す。エッジは、また、因果性を表して有向性であり、各エッジは、関連する予測信頼水準を有する。
G.例示的コンピュータシステム
図17は、AIベースのインフォーマティクスシステムと通信するため、差分ネットワークを作成するため、ネットワークを可視化するため、データを保存して格納するため、及び/又はユーザと対話するためにいくつかの実施形態において採用できる例示的コンピュータシステム/環境を示す。上で説明したように、AIベースのインフォーマティクスシステムについての計算は、例示的なコンピュータシステムと直接的又は間接的に対話する、何十万もの並行したプロセッサを有する別のスーパーコンピュータで行ってよい。環境は、関連する末端デバイスを有する演算デバイス100を含む。演算デバイス100は、プログラム可能であり、本明細書で教示する様々な方法又は方法の一部を行うための実行可能コード150を実装する。演算デバイス100は、ハードドライブ、CD-ROM又はその他の持続的コンピュータ読み取り可能媒体のような記憶デバイス116を含む。記憶デバイス116は、オペレーティングシステム118及びその他の関連するソフトウェアを格納できる。演算デバイス100は、メモリ106をさらに含むことができる。メモリ106は、コンピュータシステムメモリ又はDRAM、SRAM、EDO RAMなどのようなランダムアクセスメモリを含んでよい。メモリ106は、その他の型のメモリ又はそれらの組み合わせも含んでよい。演算デバイス100は、記憶デバイス116及び/又はメモリ106に、実行可能コード150のそれぞれの部分を遂行して処理するための命令を格納してよい。
実行可能コード150は、AIベースのインフォーマティクスシステム190と通信するため、差分ネットワークを作成するため(例えば差分ネットワーク創出モジュール)、定量的関係情報をAIベースのインフォーマティクスシステムから抽出するため(例えば関係定量モジュール)、及びネットワークを可視化するため(例えばサイトスケープ)のコードを含んでよい。
いくつかの実施形態では、演算デバイス100は、AIベースのインフォーマティクスシステム190(例えばREFSを実行するためのシステム)と直接的又は間接的に通信してよい。例えば、演算デバイス100は、ネットワークを介してデータファイル(例えばデータフレーム)をAIベースのインフォーマティクスシステム190に転送することにより、AIベースのインフォーマティクスシステム190と通信してよい。さらに、演算デバイス100は、AIベースのインフォーマティクスシステム190に対してインタフェース及び命令を与える実行可能コード150を有してよい。
いくつかの実施形態では、演算デバイス100は、入力データセットについてのデータを与える1以上の実験用システム180と直接的又は間接的に通信してよい。データを作成するための実験用システム180は、質量分析ベースのプロテオミクス、マイクロアレイ遺伝子発現、qPCR遺伝子発現、質量分析ベースのメタボロミクス及び質量分析ベースのリピドミクス、SNPマイクロアレイ、一連の機能アッセイ並びにその他のin vitro生物学プラットフォーム及び技術のためのシステムを含み得る。
演算デバイス100は、プロセッサ102も含み、メモリ106に格納されたソフトウェア並びにシステムハードウェア、末端デバイス及び/又は末端ハードウェアを制御するためのその他のプログラムを実行するための1以上のさらなるプロセッサ(複数可)102’を含んでよい。プロセッサ102及びプロセッサ(複数可)102’はそれぞれ、シングルコアプロセッサ又はマルチコア(104及び104’)プロセッサであり得る。演算デバイスにおける基盤及び資源を動的に共有できるように、仮想化を演算デバイス100において採用してよい。仮想化プロセッサも、実行可能コード150及び記憶デバイス116におけるその他のソフトウェアとともに用いてよい。プロセスが、複数よりもむしろ1のみの演算資源を用いているように見せるように、仮想計算機114を用意して、複数のプロセッサ上で実行されるプロセスを取り扱ってよい。複数の仮想計算機も、1のプロセッサとともに用いることができる。
ユーザは、演算デバイス100と、コンピュータモニタのような視覚的表示デバイス122により対話でき、これは、ユーザインタフェース124又は任意のその他のインタフェースを表示できる。表示デバイス122のユーザインタフェース124を用いて、未処理データ、ネットワークの視覚的な図などを表示できる。視覚的表示デバイス122は、例示的実施形態のその他の側面又は要素も表示できる(例えば記憶デバイス116のアイコン)。演算デバイス100は、キーボード又はマルチポイントタッチインタフェース(例えばタッチスクリーン)108及びポインティングデバイス110(例えばマウス、トラックボール及び/又はトラックパッド)のようなユーザから入力を受け取るためのその他のI/Oデバイスを含み得る。キーボード108及びポインティングデバイス110は、視覚的表示デバイス122及び/又は演算デバイス100と、有線及び/又は無線接続により接続されてよい。
演算デバイス100は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)又はインターネットを介して、それらに限定されないが、標準的な電話線、LAN若しくはWANリンク(例えば802.11、T1、T3、56kb、X.25)、ブロードバンド接続(例えばISDN、フレームリレー、ATM)、無線接続、コントローラエリアネットワーク(CAN)又は上記のいずれか若しくは全てのある組み合わせを含む様々な接続によりネットワークデバイス126とインタフェースで連結するためのネットワークインタフェース112を含んでよい。ネットワークインタフェース112は、ビルトインネットワークアダプタ、ネットワークインタフェースカード、PCMCIAネットワークカード、カードバスネットワークアダプタ、無線ネットワークアダプタ、USBネットワークアダプタ、モデム又は通信及び本明細書で記載する操作を行うことができる任意の型のネットワークと演算デバイス100がインタフェースにより連結することを可能にするために適切な任意のその他のデバイスを含んでよい。
さらに、演算デバイス100は、ワークステーション、デスクトップコンピュータ、サーバ、ラップトップ、手持ち式コンピュータ又は通信ができ、且つ本明細書で記載する操作を行うのに十分なプロセッサ力及びメモリ容量を有するその他の形の演算若しくは電気通信デバイスのような任意のコンピュータシステムであってよい。
演算デバイス100は、任意のバージョンのMICROSOFT WINDOWSオペレーティングシステム、Unix及びLinuxオペレーティングシステムの異なるリリース、Macintoshコンピュータ用の任意のバージョンのMACOS、任意の内蔵オペレーティングシステム、任意のリアルタイムオペレーティングシステム、任意のオープンソースオペレーティングシステム、任意の専有のオペレーティングシステム、携帯式演算デバイス用の任意のオペレーティングシステム、又は演算デバイスにおいて実行でき、本明細書で記載する操作を行うことができる任意のその他のオペレーティングシステムのような任意のオペレーティングシステム118を実行できる。オペレーティングシステムは、ネイティブモード又はエミュレートモードで実行できる。
IV.生物システムについてのモデル及びその使用
A.生物システムについてのモデルの確立
本質的に全ての生物システム又はプロセスは、異なる細胞型及び/又は器官系のうちで複雑な相互作用を含む。ある細胞型又は器官における重要な機能の変動は、別の相互作用している細胞型及び器官に対する二次的影響を導くことがあり、このような下流の変化は、次に、初期の変化に帰還し、さらなる合併症を引き起こすことがある。よって、所定の生物システム又はプロセスを、細胞型又は器官の対の間の相互作用のようなそのコンポーネントまで詳細に吟味し、これらのコンポーネントの間の相互作用を体系的に調べて、生物システム又はプロセスのより完璧で全体的な視点を得ることが有益である。
したがって、本発明は、生物システムについての細胞モデルを提供する。このために、出願人は、主題の発見プラットフォームテクノロジーにおいて採用されているいくつかの例示的な生物システムについての細胞モデルを構築した。出願人は、主題の発見プラットフォームテクノロジーを用いて細胞モデルを用いる実験を実行して、生物システムにおいて固有の因果関係を含むコンセンサス因果関係ネットワークを作成し、それにより、特定の生物システム又はプロセスにとって重要な「モジュレーター」又は重要な分子「駆動体」を同定した。
プラットフォームテクノロジー並びにそのコンポーネント、例えばカスタム構築した細胞モデル及び細胞モデルから得られたデータセットのある重要な利点は、生物システム又はプロセスについて作成した初期の「第一世代」コンセンサス因果関係ネットワークが、例えばさらなる細胞株/型及び/又はさらなる条件を加えることにより、経時的に、継続的に進化又は拡大できることである。進化した細胞モデルからのさらなるデータ、すなわち細胞モデルの新しく加えた部分(複数可)からのデータを収集できる。拡大又は進化した細胞モデルから、すなわち細胞モデルの新しく加えた部分(複数可)から収集した新しいデータを、次いで、「第一世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために以前に用いたデータセットに導入して、より堅牢な「第二世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成できる。生物システムに固有の新しい因果関係を、次いで、「第二世代」コンセンサス因果関係ネットワークから同定できる。このようにして、細胞モデルの進化は、コンセンサス因果関係ネットワークの進化をもたらし、それにより、生物システムのモジュレーターについての新しく且つ/又はより信頼できる洞察をもたらす。このようにして、細胞モデル、細胞モデルからのデータセット及び細胞モデルからプラットフォームテクノロジーを用いて作成した因果関係ネットワークの両方を、プラットフォームテクノロジーから得られた以前の知見の上に常に進化及び構築できる。
したがって、本発明は、プラットフォームテクノロジーにおいて採用する細胞モデルから作成したコンセンサス因果関係ネットワークを提供する。これらのコンセンサス因果関係ネットワークは、第一世代コンセンサス因果関係ネットワークであり得るか、又は多重世代コンセンサス因果関係ネットワーク、例えば第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20以上の世代のコンセンサス因果関係ネットワークであり得る。さらに、本発明は、プラットフォームテクノロジーにおいて採用する細胞モデルから作成したシミュレートされたコンセンサス因果関係ネットワークを提供する。これらのシミュレートされたコンセンサス因果関係ネットワークは、シミュレートされた第一世代コンセンサス因果関係ネットワークであり得るか、又はシミュレートされた多重世代コンセンサス因果関係ネットワーク、例えば第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20以上の世代のシミュレートされたコンセンサス因果関係ネットワークであり得る。本発明は、本発明の任意のコンセンサス因果関係ネットワークから作成したデルタネットワーク及びデルタ-デルタネットワークをさらに提供する。
生物システム又はプロセスについてのカスタム構築したモデルは、生物システムと関連する1以上の細胞を含む。生物システム/プロセスについてのモデルを確立して、生物システムの環境、例えばがん細胞のin vivoでの環境を、生物システム又はプロセスの特徴的側面を模倣する条件(例えば細胞培養条件)を創出することによりシミュレートできる。
単一細胞型とは反対に、同じ又は異なる起源の複数の細胞を細胞モデルに含めてよい。一実施形態では、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50以上の異なる細胞株又は細胞型が、細胞モデルに含まれる。一実施形態では、細胞は、全て同じ型、例えば全て乳がん細胞又は植物細胞であるが、異なる樹立細胞株、例えば乳がん細胞又は植物細胞の異なる樹立細胞株である。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1と5の間、1と10の間、2と5の間又は5と15の間の異なる細胞株又は細胞型であってもよい。
本発明の細胞モデルに含むことができる細胞型の例は、限定することなく、ヒト細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、酵母、細菌又は真菌を含む。一実施形態では、細胞モデルの細胞は、がん細胞又は細菌若しくはウイルスに感染した細胞のような疾患細胞を含み得る。一実施形態では、細胞モデルの細胞は、糖尿病、肥満症又は心血管疾患状態に関与する細胞、例えば大動脈平滑筋細胞若しくは肝細胞のような疾患関連細胞を含み得る。当業者は、特定の生物学的状態/プロセス、例えば疾患状態/プロセスに関与するか又は関連する細胞及び任意のこのような細胞を、本発明の細胞モデルに含むことができることを認識している。
本発明の細胞モデルは、1以上の「対照細胞」を含んでよい。一実施形態では、対照細胞は、未処置又は未変動細胞であり得る。別の実施形態では、「対照細胞」は、正常、例えば非疾患細胞であり得る。一実施形態では、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50以上の異なる対照細胞が、細胞モデルに含まれる。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1と5の間、1と10の間、2と5の間又は5と15の間の異なる対照細胞株又は対照細胞型であってもよい。一実施形態では、対照細胞は、全て同じ型であるが、その細胞型の異なる樹立細胞株である。一実施形態では、対照として、1以上の正常、例えば非疾患細胞株を、細胞モデルの初代細胞と同様の条件下で培養し、且つ/又は同じ変動に曝露して、生物学的状態又はプロセスに固有のタンパク質又は経路を同定する。
本発明のカスタム細胞モデルは、生物学的状態又はプロセスの特徴的側面を模倣する条件を含むこともできる。例えば、in vivoでの腫瘍環境におけるがん細胞又は心血管疾患に罹患した患者の大動脈平滑筋細胞の状態を密接に近似する細胞培養条件を選択できる。いくつかの場合では、条件は、ストレス状態である。様々な状態/ストレス要因を、本発明の細胞モデルにおいて採用してよい。一実施形態では、これらのストレス要因/状態は、細胞システムにとっての「変動」、例えば外部刺激を構成してよい。ある例示的なストレス状態は、例えば固形腫瘍において典型的に見出される状態である低酸素である。低酸素は、当該技術において認められている方法を用いて誘導できる。例えば、低酸素は、細胞システムを、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業的気体ミックスで満たすことができるモジュラーインキュベータチャンバ(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc. Del Mar、CA)に入れることにより誘導できる。所定の期間の後、例えば低酸素処置の24時間後に、さらなる外部刺激成分(例えば0、50又は100μMでのCoQ10)あり及びなしで、影響を測定できる。同様に、乳酸処置は、高い解糖活性の細胞環境を模倣する。乳酸により誘導されるストレスは、約12.5 mMの最終乳酸濃度にて、所定の時間、例えば24時間目にて、さらなる外部刺激成分(例えば0、50又は100μMでのCoQ10)あり又はなしで調べることができる。高血糖は、糖尿病及びがんにおいて見出される状態である。対象の細胞を処置するために用いることができる典型的な高血糖状態は、培地中のグルコースの最終濃度を約22 mMにするために適切な培地に加えた10%培養グレードグルコースを含む。高脂血症は、例えば肥満症及び心血管疾患で見出される状態である。高脂血症状態は、細胞を、0.15 mMパルミチン酸ナトリウムを含有する培地で培養することによりもたらすことができる。高インスリン血症は、例えば糖尿病において見出される状態である。高インスリン血症状態は、細胞を、1000 nMインスリンを含有する培地で培養することにより誘導できる。
個別の状態は、本発明のカスタム構築した細胞モデルにおいて別々に調べることができ、且つ/又は一緒に組み合わせることができる。一実施形態では、生物システムの異なる特徴的側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50以上の条件の組み合わせを、カスタム構築した細胞モデルにおいて調べる。一実施形態では、個別の条件と、さらに、生物システムの異なる特徴的側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、40、50以上の条件の組み合わせとを、カスタム構築した細胞モデルにおいて調べる。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1と5の間、1と10の間、1と20の間、1と30の間、2と5の間、2と10の間、5と10の間、1と20の間、5と20の間、10と20の間、10と25の間、10と30の間又は10と50の間の異なる条件であってもよい。
カスタム細胞モデルが一旦構築されると、患者ごとの遺伝子の違いのような1以上の「変動」を、又はあるいくつかの薬物若しくはプロドラッグによる処置あり/なしでシステムに適用できる。図15Dを参照されたい。細胞モデルシステムに対するこのような変動の影響は、以下の項III.Bで記載するような当該技術において認められているか又は専有の様々な手段を用いて測定できる。
カスタム構築した細胞モデルは、変動、例えば「環境変動」又は「外部刺激成分」に曝露できる。「環境変動」又は「外部刺激成分」は、細胞環境にとって内因性であるか(例えば細胞環境が、いくらかのレベルの刺激物質を含有し、それを超えるものを加えて、そのレベルを増加させる)、又は細胞環境にとって外因性であってよい(例えば刺激物質/変動が、改変の前に細胞環境にほとんど存在しない)。細胞環境は、環境変動又は外部刺激成分を加えることに起因する二次的変化によりさらに改変されることがある。なぜなら、外部刺激成分は、細胞システムにより細胞環境に分泌される分子を含む、細胞システムの細胞出力を変化させることがあるからである。環境変動又は外部刺激成分は、細胞機能に影響し得る任意の外部物理的及び/又は化学的刺激を含み得る。これは、任意の大きい若しくは小さい有機又は無機分子、自然若しくは合成の化学物質、温度シフト、pH変化、放射線、光(UVA、UVBなど)、マイクロ波、音波、電流、変調若しくは未変調磁場などを含み得る。環境変動又は外部刺激成分は、遺伝子改変若しくは変異の導入、又は遺伝子改変/変異を引き起こす媒体(例えばベクター)も含み得る。
(i)クロストーク細胞システム
2以上の細胞システムの間の相互作用を調べることが望まれるあるいくつかの状況では、「クロストーキング細胞システム」を、例えば第一細胞システムの改変細胞環境を第二細胞システムと接触させて、第二細胞システムの細胞出力に影響を与えることにより形成してよい。
本明細書で用いる場合、「クロストーク細胞システム」は、少なくとも1の細胞システムの細胞環境が第二細胞システムと接触して、第二細胞システムにおける少なくとも1の細胞出力が変化又は影響を受ける2以上の細胞システムを含む。あるいくつかの実施形態では、クロストーク細胞システム内の細胞システムは、互いに直接接触できる。他の実施形態では、細胞システムはいずれも、互いに接触しない。
例えば、あるいくつかの実施形態では、クロストーク細胞システムは、第一細胞システムがインサートにおいて増殖し、第二細胞システムが対応するウェル区画において増殖しているトランスウェルの形であってよい。2の細胞システムは、同じ又は異なる培地と接触でき、いくらか又は全ての培地成分を交換できる。一方の細胞システムに加える外部刺激成分は、他方の細胞システムに拡散する機会を有する前に一方の細胞システムにより実質的に吸収及び/又は分解される。代わりに、外部刺激成分は、2の細胞システム内で最終的に平衡に近づくか又は到達できる。
あるいくつかの実施形態では、クロストーク細胞システムは、別々に培養された細胞システムの形を採用してよく、各細胞システムは、それ自体の培地及び/若しくは培養条件(温度、CO2含量、pHなど)又は同様若しくは同一の培養条件を有することができる。2の細胞システムは、例えば、馴化培地を一方の細胞システムから採取し、別の細胞システムと接触させることにより接触させてよい。2の細胞システム間の細胞同士の直接の接触も、所望により行うことができる。例えば、2の細胞システムの細胞は、所望により任意の点で共培養でき、共培養された細胞システムを、少なくとも一方の細胞システムの細胞が選別可能なマーカー又は標識(例えば安定的に発現される蛍光マーカータンパク質GFP)を有する場合に、例えばFACS選別により、後で分離できる。
同様に、あるいくつかの実施形態では、クロストーク細胞システムは、単純に共培養であってよい。一方の細胞システムにおける細胞の選択的処置は、その細胞システムにおける細胞をまず処置した後に、処置細胞を、共培養において、別の細胞システムにおける細胞とともに培養することにより行うことができる。共培養クロストーク細胞システム背景は、例えば第一細胞システムを外部刺激成分により刺激した後に、第一細胞システムにおける細胞表面の変化により引き起こされる第二細胞システムに対する影響を研究することが望まれる場合に役に立つことがある。
本発明のクロストーク細胞システムは、一方又は両方の細胞システムの細胞出力に対するあるいくつかの所定の外部刺激成分の影響を探索するために特に適切である。第一細胞システム(刺激がこれと直接接触する)に対するこのような刺激の一次的影響は、第一細胞システムと外部刺激との接触の前後の細胞出力(例えばタンパク質発現レベル)を比較することにより決定でき、これは、本明細書で用いる場合、「(有意な)細胞出力差分」ということがある。第一細胞システムの改変細胞環境(例えばそのセクレトーム)により媒介される、第二細胞システムに対するこのような刺激の二次的な影響も、同様に測定できる。ここでは、例えば第二細胞システムのプロテオームの比較を、第一細胞システムに対する外部刺激処置ありの第二細胞システムのプロテオームと、第一細胞システムに対する外部刺激処置なしの第二細胞システムのプロテオームとの間で行うことができる。観察されるいずれの有意な変化(プロテオーム又は対象の任意のその他の細胞出力における)は、「有意な細胞クロストーク差分」ということがある。
細胞出力測定(例えばタンパク質発現)を行う際に、絶対発現量又は相対的発現レベルのいずれかを用いてよい。例えば、第二細胞システムの相対的タンパク質発現レベルを測定するために、第一細胞システムに対する外部刺激あり又はなしでの第二細胞システムにおける任意の所定のタンパク質の量を、適切な対照細胞株及び混合した細胞株と比較し、倍数増加又は倍数減少の値を得ることができる。このような倍数増加(例えば少なくとも1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、75又は100以上の倍数増加)又は倍数減少(例えば少なくとも0.95、0.9、0.8、0.75、0.7、0.6、0.5、0.45、0.4、0.35、0.3、0.25、0.2、0.15、0.1若しくは0.05倍、又は90%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%若しくは5%未満への減少)についての所定の閾値レベルを用いて、有意な細胞クロストーク差分を選択してよい。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1.5と5倍の間、2と10倍の間、1と2倍の間又は0.9と0.7倍の間であってもよい。
本出願を通して、例えば上記のもののようなリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限であってもよい。
説明のために、心血管疾患モデルの側面を模倣するために確立したある例示的な2細胞システムにおいて、心臓平滑筋細胞株(第一細胞システム)を低酸素状態(外部刺激成分)で処置し、腎臓細胞を心臓平滑筋の馴化培地と接触させることにより得られる腎臓細胞株(第二細胞システム)におけるプロテオーム変化を、従来の定量的質量分析法を用いて測定できる。これらの腎臓細胞における有意な細胞クロストーキング差分は、適当な対照(例えば低酸素状態で処置していない同様に培養した心臓平滑筋細胞からの馴化培地と接触させた、同様に培養した腎臓細胞)との比較に基づいて決定できる。
全ての観察される有意な細胞クロストーキング差分が、生物学的有意性のあるものではない。主題の照合性生物学的評価を適用する任意の所定の生物システムに関して、いくつか(又は全てであってもよい)の有意な細胞クロストーキング差分は、争点の具体的な生物学的問題について「決定的」であってよく、例えば疾患状態(治療的介入の潜在的な標的)を引き起こす原因であるか、又は疾患状態についてのバイオマーカー(潜在的な診断又は予後因子)のいずれかであってよい。
このような有意なクロストーキング差分は、主題の方法のエンドユーザにより選択されるか、又はDAVID有効比較経路分析プログラム若しくはKEGG経路分析プログラムのようなバイオインフォーマティクスソフトウェアプログラムにより選択されてよい。あるいくつかの実施形態では、1より多いバイオインフォーマティクスソフトウェアプログラムを用い、2より多いバイオインフォーマティクスソフトウェアプログラムからのコンセンサスの結果が好ましい。
本明細書で用いる場合、細胞出力の「差分」は、細胞出力の任意の1以上のパラメータにおける相違(例えばレベルの増加又は減少)を含む。例えば、タンパク質発現レベルの点で、外部刺激成分による処置の前後の細胞システムと関連する出力のような2の細胞出力の間の差分は、質量分析ベースのアッセイ(例えばiTRAQ、2D-LC-MSMSなど)のような当該技術において認められている技術を用いることにより測定及び定量できる。
(ii)がん特異的モデル
生物システム又はプロセスの例は、がんである。任意のその他の複雑な生物プロセス又はシステムと同様に、がんは、多重の固有の側面により特徴付けられる複雑な病理的状態である。例えば、その高い増殖速度のために、多くのがん細胞は、低酸素状態で増殖するように適合され、解糖がアップレギュレートされ、酸化的リン酸化代謝経路が低減している。その結果、がん細胞は、潜在的薬物による処置のような環境変動に対して、同じ処置に応答する正常細胞による反応と比較して、異なる反応をすることがある。つまり、正常細胞の応答と比較して、薬物処置に対するがんの固有の応答を解読することは興味深いことである。このために、カスタムがんモデルを確立して、適当ながん細胞株を選択し、疾患状態又はプロセスの特徴的側面を模倣する細胞培養条件を創出することによりがん細胞の環境、例えばin vivoでの腫瘍内をシミュレートできる。例えば、細胞培養条件は、in vivoでの腫瘍内のがん細胞の状態を密接に近似するか、又はがん細胞の異なる増殖状態を単離することによりがんの増殖の様々な側面を模倣するように選択できる。
単一がん細胞型とは反対に、同じ又は異なる起源の複数のがん細胞(例えば、がん系統PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7)をがんモデルに含めてよい。一実施形態では、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50以上の異なるがん細胞株又はがん細胞型が、がんモデルに含まれる。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1と5の間、1と10の間、2と5の間又は5と15の間の異なるがん細胞株又は細胞型であってもよい。
一実施形態では、がん細胞は、全て同じ型、例えば全て乳がん細胞であるが、異なる樹立細胞株、例えば乳がんの異なる樹立細胞株である。
がんモデルに含むことができるがん細胞型の例は、限定することなく、肺がん、乳がん、前立腺がん、メラノーマ、有棘細胞癌、結腸直腸がん、膵臓がん、甲状腺がん、子宮内膜がん、膀胱がん、腎臓がん、固形腫瘍、白血病、非ホジキンリンパ腫を含む。一実施形態では、薬物耐性がん細胞は、がんモデルに含まれる。がんモデルに含むことができる細胞株の具体例は、限定することなく、PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7細胞を含む。多数のがん細胞株が当該技術において知られており、このようながん細胞株のいずれも、本発明のがんモデルに含むことができる。
本発明の細胞モデルは、1以上の「対照細胞」を含んでよい。一実施形態では、対照細胞は、未処置又は未変動細胞であり得る。別の実施形態では、「対照細胞」は、正常、例えば非がん性細胞株であり得る。多数の正常非がん性細胞株のいずれの1も細胞モデルに含むことができる。一実施形態では、正常細胞は、THLE2及びHDFa細胞の1以上である。一実施形態では、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50以上の異なる正常細胞型が、がんモデルに含まれる。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1と5の間、1と10の間、2と5の間又は5と15の間の異なる正常細胞株又は細胞型であってもよい。一実施形態では、正常細胞は、全て同じ型、例えば全て健常上皮又は乳房細胞であるが、異なる樹立細胞株、例えば上皮又は乳房細胞の異なる樹立細胞株である。一実施形態では、対照として、1以上の正常非がん性細胞株(例えばTHLE2及びHDFa)を、細胞モデルのがん細胞と同様の条件下で培養し、且つ/又は同じ変動に曝露して、がんに固有のタンパク質又は経路を同定する。
カスタムがんモデルは、がん性の状態若しくはプロセスの特徴的側面を模倣する細胞培養条件を含むこともできる。例えば、細胞培養条件は、in vivoでの腫瘍環境におけるがん細胞の状態を密接に近似するか、又はがん細胞の異なる増殖状態を単離することによりがんの増殖の様々な側面を模倣するように選択できる。いくつかの場合では、細胞培養条件は、ストレス状態である。
あるこのようながん「環境」又はストレス状態は、固形腫瘍において典型的に見出される状態である低酸素である。低酸素は、当該技術において認められている方法を用いて細胞において誘導できる。例えば、低酸素は、細胞システムを、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業的気体ミックスで満たすことができるモジュラーインキュベータチャンバ(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc. Del Mar、CA)に入れることにより誘導できる。所定の期間の後、例えば低酸素処置の24時間後に、さらなる外部刺激成分(例えば0、50又は100μMでのCoQ10)あり及びなしで、影響を測定できる。
同様に、細胞の乳酸処置は、in vivoでの腫瘍環境において存在する高い解糖活性の細胞環境を模倣する。乳酸により誘導されるストレスは、約12.5 mMの最終乳酸濃度にて、所定の時間、例えば24時間目にて、さらなる外部刺激成分(例えば0、50又は100μMでのCoQ10)あり又はなしで調べることができる。
高血糖は、糖尿病において通常見出される状態である。しかし、高血糖は、がんの増殖の一つの側面もある程度模倣する。なぜなら、多くのがん細胞は、エネルギーの一次的供給源としてグルコースに依存するからである。対象細胞を典型的な高血糖状態に曝露することは、10%培養グレードグルコースを適切な培地に加え、培地中のグルコースの最終濃度を約22 mMにすることを含むことがある。
がんの増殖の異なる側面を反映する個別の状態は、カスタム構築したがんモデルにおいて別々に調べるか、且つ/又は一緒に組み合わせてよい。一実施形態では、がん増殖/状態の異なる側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50以上の条件の組み合わせを、カスタム構築したがんモデルにおいて調べる。一実施形態では、個別の条件と、さらに、がん増殖/状態の異なる側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50以上の条件の組み合わせとを、カスタム構築したがんモデルにおいて調べる。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1と5の間、1と10の間、1と20の間、1と30の間、2と5の間、2と10の間、5と10の間、1と20の間、5と20の間、10と20の間、10と25の間、10と30の間又は10と50の間の異なる条件であってもよい。
カスタムモデルが一旦構築されると、患者ごとの遺伝子の違いのような1以上の「変動」を、又はあるいくつかの薬物若しくはプロドラッグによる処置あり/なしでシステムに適用できる。図15Dを参照されたい。疾患関連がん細胞及び疾患関連正常対照細胞に対する影響を含む、システムに対するこのような変動の影響は、以下の項III.Bで記載するような当該技術において認められているか又は専有の様々な手段を用いて測定できる。
例示的な実験では、がん系統PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7並びに正常細胞株THLE2及びHDFaを、高血糖、低酸素及び富乳酸状態のそれぞれ、並びにこれらの条件の2若しくは3の全ての組み合わせにおいて、そして環境変動、具体的には補酵素Q10での処置あり若しくはなしで調整する。本明細書で以下に列挙するものは、補酵素Q10処置の変動あり又はなしで、がん細胞モデルのがん細胞及び/又は対照(例えば正常)細胞を処置するために用いることができる、条件のこのような例示的な組み合わせである。その他の組み合わせは、実行される具体的な照合性生物学的評価に依存して容易に打ち立てることができる。
1.培地のみ
2.50μM CTL補酵素Q10
3.100μM CTL補酵素Q10
4.12.5 mM乳酸
5.12.5 mM乳酸+50μM CTL補酵素Q10
6.12.5 mM乳酸+100μM CTL補酵素Q10
7.低酸素
8.低酸素+50μM CTL補酵素Q10
9.低酸素+100μM CTL補酵素Q10
10.低酸素+12.5 mM乳酸
11.低酸素+12.5 mM乳酸+50μM CTL補酵素Q10
12.低酸素+12.5 mM乳酸+100μM CTL補酵素Q10
13.培地+22 mMグルコース
14.50μM CTL補酵素Q10+22 mMグルコース
15.100μM CTL補酵素Q10+22 mMグルコース
16.12.5 mM乳酸+22 mMグルコース
17.12.5 mM乳酸+22 mMグルコース+50μM CTL補酵素Q10
18.12.5 mM乳酸+22 mMグルコース+100μM CTL補酵素Q10
19.低酸素+22 mMグルコース
20.低酸素+22 mMグルコース+50μM CTL補酵素Q10
21.低酸素+22 mMグルコース+100μM CTL補酵素Q10
22.低酸素+12.5 mM乳酸+22 mMグルコース
23.低酸素+12.5 mM乳酸+22 mMグルコース+50μM CTL補酵素Q10
24.低酸素+12.5 mM乳酸+22 mMグルコース+100μM CTL補酵素Q10
あるいくつかの状況では、異なるがん細胞(例えばHepG2及びPaCa2)の間でのクロストーク又はECS実験を、いくつかの相互関係する目的のために実行してよい。クロストークを含むいくつかの実施形態では、細胞モデルに対して実行する実験は、別の細胞システム又は集団(例えば膵臓がんPaCa2)による、規定された処置条件(例えば高血糖、低酸素(虚血))下でのある細胞システム又は集団(例えば肝癌細胞HepG2)の細胞状態又は機能のモジュレーションを測定するように設計される。典型的な設定に従って、第一細胞システム/集団を、候補分子(例えば小分子薬物、タンパク質)又は候補条件(例えば低酸素、高グルコース環境)のような外部刺激成分と接触させる。それに応答して、第一細胞システム/集団は、そのトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及び/又はインタラクトームを変化させ、細胞の内部及び外部の両方で容易に検出できる変化を導く。例えば、トランスクリプトームの変化は、複数の標的mRNAの転写レベルにより測定でき、プロテオームの変化は、複数の標的タンパク質の発現レベルにより測定でき、メタボロームの変化は、所定の代謝産物に特異的に設計されたアッセイにより、複数の標的代謝産物のレベルにより測定できる。代わりに、メタボローム及び/又はプロテオームの上記の変化は、少なくともあるいくつかの分泌代謝産物又はタンパク質に関して、第二細胞システム/集団のトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及びインタラクトームのモジュレーションを含む第二細胞システム/集団に対するそれらの影響により測定することもできる。よって、実験を用いて、第一細胞システム/集団により分泌される対象の分子(複数可)の、第二細胞システム/集団に対する、異なる処置条件下での影響を同定できる。実験を用いて、第一細胞システム(外部刺激成分処置に応答した)から別の細胞システムへのシグナル伝達の結果としてモジュレートされた任意のタンパク質を、例えばプロテオミクスの差分スクリーニングにより同定することもできる。同じ実験背景を、逆の背景に適合して、2の細胞システム間の相互の影響も評価できるようにすることもできる。一般的に、この型の実験について、細胞株対の選択は、起源、疾患状態及び細胞機能のような因子に大きく基づく。
2細胞システムは、この型の実験背景に典型的に含まれるが、同様の実験を、2を超える細胞システムのために、例えばそれぞれの別個の細胞システムを別々の固体支持体上に固定化することにより設計することもできる。
カスタム構築したがんモデルを確立して、本発明のプラットフォームテクノロジーのステップ全体を通して用い、本明細書で記載するステップを行うことにより、生物システムにおいて固有の因果関係を最終的に同定できる。しかし、初期の「第一世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために用いるカスタム構築したがんモデルは、例えばさらなるがん若しくは正常細胞株及び/又はさらなるがん状態の導入により、経時的に継続的に進化又は拡大できることが当業者により理解される。進化したがんモデルからのさらなるデータ、すなわちがんモデルの新しく加えた部分(複数可)からのデータを、収集できる。拡大又は進化したがんモデルから、すなわちがんモデルの新しく加えた部分(複数可)から収集した新しいデータを、次いで、「第一世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために以前に用いたデータセットに導入して、より堅牢な「第二世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成できる。がん状態に固有の(又は変動に対するがん状態の応答に固有の)新しい因果関係を、次いで、「第二世代」コンセンサス因果関係ネットワークから同定できる。このようにして、がんモデルの進化は、コンセンサス因果関係ネットワークの進化をもたらし、それにより、がん状態の決定的駆動体(又はモジュレーター)についての新しく且つ/又はより信頼できる洞察をもたらす。
(iii)糖尿病/肥満症/心血管疾患細胞モデル
生物システム又はプロセスのその他の例は、糖尿病、肥満症及び心血管疾患である。がんと同様に、糖尿病、肥満症及び心血管疾患の関連する疾患状態は、多重の固有の側面により特徴付けられる複雑な病理的状態である。糖尿病/肥満症/心血管疾患の病原性を駆動するタンパク質/経路を同定することは、興味深い。正常細胞の応答と比較した薬物処置に対する糖尿病/肥満症/心血管疾患と関連する細胞の固有の応答を解読することも興味深い。このために、カスタム糖尿病/肥満症/心血管モデルを確立して、適当な細胞株を選択し、疾患状態又はプロセスの特徴的側面を模倣する細胞培養条件を創出することにより、疾患関連細胞が経験する環境をシミュレートできる。例えば、細胞培養条件は、高血糖、高脂血症、高インスリン血症、低酸素又は富乳酸状態を密接に近似するように選択できる。
糖尿病/肥満症/心血管疾患と関連する任意の細胞を、糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルに含めてよい。糖尿病/肥満症/心血管疾患と関連する細胞の例は、例えば、脂肪細胞、筋管、肝細胞、大動脈平滑筋細胞(HASMC)及び近位尿細管細胞(例えばHK2)を含む。単一がん細胞型とは反対に、同じ又は異なる起源の複数の細胞型を糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルに含めてよい。一実施形態では、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50以上の異なる細胞型が、糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルに含まれる。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1と5の間、1と10の間、2と5の間又は5と15の間の異なる細胞型であってもよい。一実施形態では、細胞は、全て同じ型、例えば全て脂肪細胞であるが、異なる樹立細胞株、例えば異なる樹立株化脂肪細胞である。糖尿病/肥満症/心血管疾患状態に関与する多数のその他の細胞型が当該技術において知られており、このような細胞のいずれも、本発明の糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルに含むことができる。
本発明の糖尿病/肥満症/心血管疾患細胞モデルは、1以上の「対照細胞」を含んでよい。一実施形態では、対照細胞は、未処置又は未変動疾患関連細胞、例えば高脂血症又は高インスリン血症状態に曝露していない細胞でもよい。別の実施形態では、「対照細胞」は、上皮細胞のような非疾患関連細胞である。多数の非疾患関連細胞のいずれの1も細胞モデルに含むことができる。一実施形態では、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50以上の異なる非疾患関連細胞型が、細胞モデルに含まれる。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1と5の間、1と10の間、2と5の間又は5と15の間の異なる非疾患関連細胞株又は細胞型であってもよい。一実施形態では、非疾患関連細胞は、全て同じ型、例えば全て健常上皮又は乳房細胞であるが、異なる樹立細胞株、例えば上皮又は乳房細胞の異なる樹立細胞株である。一実施形態では、対照として、1以上の非疾患関連細胞株を、細胞モデルの疾患関連細胞と同様の条件下で培養し、且つ/又は同じ変動に曝露して、糖尿病/肥満症/心血管疾患に固有のタンパク質又は経路を同定する。
カスタム糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルは、糖尿病/肥満症/心血管疾患状態又はプロセス(の病態生理学を表す)の特徴的側面を模倣する細胞培養条件も含むこともできる。例えば、細胞培養条件は、in vivoでのその環境における糖尿病/肥満症/心血管疾患に関連する細胞の状態を密接に近似するか、又は糖尿病/肥満症/心血管疾患の様々な側面を模倣するように選択できる。いくつかの場合では、細胞培養条件は、ストレス状態である。
糖尿病/肥満症/心血管疾患の病態生理学を表す例示的な条件は、例えば、低酸素、富乳酸状態、高血糖、高脂血症及び高インスリン血症の任意の1以上を含む。低酸素は、当該技術において認められている方法を用いて細胞において誘導できる。例えば、低酸素は、細胞システムを、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業的気体ミックスで満たすことができるモジュラーインキュベータチャンバ(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc. Del Mar、CA)に入れることにより誘導できる。所定の期間の後、例えば低酸素処置の24時間後に、さらなる外部刺激成分(例えば0、50又は100μMでのCoQ10)あり及びなしで、影響を測定できる。
同様に、細胞の乳酸処置は、高い解糖活性の細胞環境を模倣する。乳酸により誘導されるストレスは、約12.5 mMの最終乳酸濃度にて、所定の時間、例えば24時間目にて、さらなる外部刺激成分(例えば0、50又は100μMでのCoQ10)あり又はなしで調べることができる。高血糖は、糖尿病において見出される状態である。対象細胞を典型的な高血糖状態に曝露することは、10%培養グレードグルコースを適切な培地に加え、培地中のグルコースの最終濃度を約22 mMにすることを含むことがある。高脂血症は、肥満症及び心血管疾患において見出される状態である。高脂血症状態は、細胞を、0.15 mMパルミチン酸ナトリウムを含有する培地で培養することによりもたらすことができる。高インスリン血症は、糖尿病において見出される状態である。高インスリン血症状態は、細胞を、1000 nMインスリンを含有する培地で培養することにより誘導できる。
糖尿病/肥満症/心血管疾患の病態生理学を表すさらなる条件は、例えば、炎症、小胞体ストレス、ミトコンドリアストレス及びペルオキシソームストレスの任意の1以上を含む。細胞において炎症様状態を創出するための方法は、当該技術において知られている。例えば、炎症状態は、細胞を、TNFアルファ及び/又はIL-6の存在下で培養することによりシミュレートできる。小胞体ストレスをシミュレートする条件を創出するための方法も、当該技術において知られている。例えば、小胞体ストレスをシミュレートする条件は、細胞を、タプシガルジン及び/又はツニカマイシンの存在下で培養することにより創出できる。ミトコンドリアストレスをシミュレートする条件を創出するための方法も、当該技術において知られている。例えば、ミトコンドリアストレスをシミュレートする条件は、細胞を、ラパマイシン及び/又はガラクトースの存在下で培養することにより創出できる。ペルオキシソームストレスをシミュレートする条件を創出するための方法も、当該技術において知られている。例えば、ペルオキシソームストレスをシミュレートする条件は、細胞を、アブシジン酸の存在下で培養することにより創出できる。
糖尿病/肥満症/心血管疾患の異なる側面を反映する個別の条件は、カスタム構築した糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルにおいて別々に調べることができ、且つ/又は一緒に組み合わせることができる。一実施形態では、糖尿病/肥満症/心血管疾患の異なる側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50以上の条件の組み合わせを、カスタム構築した糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルにおいて調べる。一実施形態では、個別の条件と、さらに、糖尿病/肥満症/心血管疾患の異なる側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50以上の条件の組み合わせを、カスタム構築した糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルにおいて調べる。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば1と5の間、1と10の間、1と20の間、1と30の間、2と5の間、2と10の間、5と10の間、1と20の間、5と20の間、10と20の間、10と25の間、10と30の間又は10と50の間の異なる条件であってもよい。
カスタム細胞モデルが一旦構築されると、患者ごとの遺伝子の違いのような1以上の「変動」を、又はあるいくつかの薬物若しくはプロドラッグによる処置あり/なしでシステムに適用できる。図15Dを参照されたい。糖尿病/肥満症/心血管疾患関連細胞に対する影響を含むシステムに対するこのような変動の影響は、以下の項III.Bで記載するような当該技術において認められているか又は専有の様々な手段を用いて測定できる。
例示的な実験では、脂肪細胞、筋管、肝細胞、大動脈平滑筋細胞(HASMC)及び近位尿細管細胞(HK2)のそれぞれは、高血糖、低酸素、高脂血症、高インスリン血症及び富乳酸状態のそれぞれ、並びに2、3、4及び5の全ての条件の全ての組み合わせで、環境変動、具体的には補酵素Q10での処置あり若しくはなしで調整される。がんモデルの関係において上記する条件の例示的な組み合わせに加えて、本明細書で以下に列挙するものは、変動、例えば補酵素Q10処置あり又はなしで、糖尿病/肥満症/心血管疾患細胞モデルの糖尿病/肥満症/心血管疾患関連細胞(及び/又は対照細胞)を処置するために用いることができるいくつかのさらなる例示的な条件の組み合わせである。これらは、例示的であることのみを意図し、当業者は、糖尿病/肥満症/心血管疾患の病態生理学を表す個別及び/又は組み合わせでの上記の条件のいずれも細胞モデルにおいて採用して、出力データセットを生成できることを認識している。その他の組み合わせは、実行される具体的な照合性生物学的評価に依存して容易に打ち立てることができる。
1.培地のみ
2.50μM CTL補酵素Q10
3.100μM CTL補酵素Q10
4.0.15 mMパルミチン酸ナトリウム
5.0.15 mMパルミチン酸ナトリウム+50μM CTL補酵素Q10
6.0.15 mMパルミチン酸ナトリウム+100μM CTL補酵素Q10
7.1000 nMインスリン
8.1000 nMインスリン+50μM CTL補酵素Q10
9.1000 nMインスリン+100μM CTL補酵素Q10
10.1000 nMインスリン+0.15 mMパルミチン酸ナトリウム
11.1000 nMインスリン+0.15 mMパルミチン酸ナトリウム+50μM CTL補酵素Q10
12.1000 nMインスリン+0.15 mMパルミチン酸ナトリウム+100μM CTL補酵素Q10
あるいくつかの状況では、異なる疾患関連細胞(例えばHASMCとHK2細胞又は肝臓細胞と脂肪細胞)の間でのクロストーク又はECS実験を、いくつかの相互関係する目的のために実行してよい。クロストークに関与するいくつかの実施形態では、細胞モデルに対して実行する実験は、別の細胞システム又は集団(例えば脂肪細胞)による、規定された処置条件(例えば高血糖、低酸素、高脂血症、高インスリン血症)下でのある細胞システム又は集団(例えば肝臓細胞)の細胞状態又は機能のモジュレーションを測定するように設計される。典型的な背景に従って、第一細胞システム/集団を、候補分子(例えば小分子薬物、タンパク質)又は候補条件(例えば低酸素、高グルコース環境)のような外部刺激成分と接触させる。それに応答して、第一細胞システム/集団は、そのトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及び/又はインタラクトームを変化させ、細胞の内部及び外部の両方で容易に検出できる変化を導く。例えば、トランスクリプトームの変化は、複数の標的mRNAの転写レベルにより測定でき、プロテオームの変化は、複数の標的タンパク質の発現レベルにより測定でき、メタボロームの変化は、所定の代謝産物に特異的に設計されたアッセイにより、複数の標的代謝産物のレベルにより測定できる。代わりに、メタボローム及び/又はプロテオームの上記の変化は、少なくともあるいくつかの分泌代謝産物又はタンパク質に関して、第二細胞システム/集団のトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及びインタラクトームのモジュレーションを含む第二細胞システム/集団に対するそれらの影響により測定することもできる。よって、実験を用いて、第一細胞システム/集団により分泌される対象の分子(複数可)の、第二細胞システム/集団に対する、異なる処置条件下での影響を同定できる。実験を用いて、第一細胞システム(外部刺激成分処置に応答した)から別の細胞システムへのシグナル伝達の結果としてモジュレートされた任意のタンパク質を、例えばプロテオミクスの差分スクリーニングにより同定することもできる。同じ実験背景を、逆の背景に適合して、2の細胞システム間の相互の影響も評価できるようにすることもできる。一般的に、この型の実験について、細胞株対の選択は、起源、疾患状態及び細胞機能のような因子に大きく基づく。
2細胞システムは、この型の実験背景に典型的に含まれるが、同様の実験を、2を超える細胞システムのために、例えばそれぞれの別個の細胞システムを別々の固体支持体上に固定化することにより設計することもできる。
カスタム構築した糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルを確立して、本発明のプラットフォームテクノロジーのステップ全体を通して用い、本明細書で記載するステップを行うことにより、糖尿病/肥満症/心血管疾患状態に固有の因果関係を最終的に同定できる。しかし、がんモデルとちょうど同様に、初期の「第一世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために用いるカスタム構築した糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルは、例えばさらなる疾患関連細胞株及び/又はさらなる疾患関連条件を導入することにより、経時的に継続的に進化又は拡大できることが当業者により理解される。進化した糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルからのさらなるデータ、すなわちがんモデルの新しく加えた部分(複数可)からのデータを、収集できる。拡大又は進化したモデルから、すなわちモデルの新しく加えた部分(複数可)から収集した新しいデータを、次いで、「第一世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために以前に用いたデータセットに導入して、より堅牢な「第二世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成できる。糖尿病/肥満症/心血管疾患状態に固有の(又は変動に対する糖尿病/肥満症/心血管疾患状態の応答に固有の)新しい因果関係を、次いで、「第二世代」コンセンサス因果関係ネットワークから同定できる。このようにして、糖尿病/肥満症/心血管疾患モデルの進化は、コンセンサス因果関係ネットワークの進化をもたらし、それにより、糖尿病/肥満症/心血管疾患状態の決定的駆動体(又はモジュレーター)についての新しく且つ/又はより信頼できる洞察をもたらす。
B.照合性生物学的評価のための細胞モデルの使用
本発明で提供する方法及び細胞モデルは、任意の数の「照合性生物学的評価」のために用いるか、又はそれに適用できる。照合性生物学的評価のための本発明の方法の使用は、生物システムの「モジュレーター」又は決定的細胞プロセス「駆動体」の同定を容易にする。
本明細書で用いる場合、「照合性生物学的評価」は、生物システムの1以上のモジュレーター、例えば環境変動若しくは外部刺激成分と関連する決定的細胞プロセス「駆動体」(例えば生物学的経路、経路の鍵となるメンバー、又は経路のメンバーの鍵となる調節因子の活性の増加又は減少)、又は生物システム若しくはプロセスにおいて固有の因果関係の同定を含んでよい。「照合性生物学的評価」は、同定された決定的細胞プロセス駆動体が、環境変動又は外部刺激成分と関連する下流の事象のために必要及び/又は十分であるかを試験又は検証するように設計されたさらなるステップ(in vivo動物モデル及び/又はin vitro組織培養物実験を含む)をさらに含んでよい。
あるいくつかの実施形態では、照合性生物学的評価は、疾患状態の診断又は段階分けであり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば決定的細胞プロセス駆動体(例えば生物システム若しくはプロセスにおいて固有のクロストーク差分又は因果関係)は、疾患マーカー、又は治療的介入が対象とできる治療標的のいずれかである。主題の照合性生物学的評価は、理論的にいずれの疾患状態についても好適であるが、腫瘍学/がん生物学、糖尿病、肥満症、心血管疾患及び神経状態(特に、限定することなく、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋委縮性側索硬化症(ALS)及び加齢関連神経変性のような神経変性疾患)のような領域において特に有用であることが見出されることがある。
あるいくつかの実施形態では、照合性生物学的評価は、薬物の効力の決定であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば決定的細胞プロセス駆動体(例えば生物システム若しくはプロセスにおいて固有のクロストーク差分又は因果関係)は、成功した薬物の顕著な特徴であってよく、次いで、同じ疾患状態を処置するためのさらなる薬剤、例えばMIM又はエピシフターを同定するために用いてよい。
あるいくつかの実施形態では、照合性生物学的評価は、感染(例えば細菌又はウイルス感染)の防止又は処置のための薬物標的の同定であり、同定された決定的細胞プロセス駆動体(例えば生物システム若しくはプロセスにおいて固有の細胞クロストーク差分又は因果関係)は、マーカー/指標又は感染状態の原因である鍵となる生体分子であってよく、次いで、抗感染薬剤を同定するために用いてよい。
あるいくつかの実施形態では、照合性生物学的評価は、所定の疾患プロファイルに対する薬剤、例えば薬物の分子効果の評価であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば決定的細胞プロセス駆動体(例えば生物システム若しくはプロセスにおいて固有の細胞クロストーク差分又は因果関係)は、1以上の生物学的経路の活性、若しくは経路(複数可)の鍵となるメンバー、若しくは経路(複数可)のメンバーの鍵となる調節因子の活性の増加又は減少であってよく、次いで、例えば所定の疾患についての薬剤の治療効力を予測するために用いてよい。
あるいくつかの実施形態では、照合性生物学的評価は、細胞、組織、器官又は生物に対する薬剤、例えば薬物の毒性プロファイルの評価であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば決定的細胞プロセス駆動体(例えば生物システム若しくはプロセスにおいて固有の細胞クロストーク差分又は因果関係)は、毒性、例えば細胞毒性の指標であってよく、次いで、薬剤の毒性プロファイルを予測又は同定するために用いてよい。一実施形態では、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば決定的細胞プロセス駆動体(例えば生物システム若しくはプロセスにおいて固有の細胞クロストーク差分又は因果関係)は、薬物又は候補薬物の心毒性の指標であってよく、次いで、薬物又は候補薬物の心毒性プロファイルを予測又は同定するために用いてよい。
あるいくつかの実施形態では、照合性生物学的評価は、疾患を引き起こす原生動物、真菌、細菌、プロテスト、ウイルス若しくは毒素のような生物兵器により引き起こされる疾患又は障害を防止或いは処置するための薬物標的の同定であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば決定的細胞プロセス駆動体(例えば生物システム若しくはプロセスにおいて固有の細胞クロストーク差分又は因果関係)は、マーカー/指標又は前記疾患若しくは障害の原因である鍵となる生体分子であってよく、次いで、生体防御剤を同定するために用いてよい。
あるいくつかの実施形態では、照合性生物学的評価は、抗加齢化粧品のような抗加齢剤についての標的の同定であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば決定的細胞プロセス駆動体(例えば生物システム若しくはプロセスにおいて固有の細胞クロストーク差分又は因果関係)は、加齢プロセス、特に皮膚の加齢プロセスのマーカー又は指標であってよく、次いで、抗加齢剤を同定するために用いてよい。
抗加齢化粧品についての標的を同定するために本発明の方法において用いる一つの例示的な加齢についての細胞モデルにおいて、細胞モデルは、例えばUV光(環境変動又は外部刺激成分)で処置した加齢上皮細胞、及び/又は新生児細胞(これも場合によってUV光で処置される)を含む。一実施形態では、加齢についての細胞モデルは、細胞クロストークシステムを含む。抗加齢化粧品についての標的を同定するために確立された一つの例示的な2細胞クロストークシステムにおいて、加齢上皮細胞(第一細胞システム)を、UV光(外部刺激成分)で処置し、処置した加齢上皮細胞の馴化培地と接触した新生児細胞から得られる新生児細胞(第二細胞システム)における変化、例えばプロテオミクスの変化及び/又は機能の変化を測定してよく、例えば、プロテオーム変化を、従来の定量的質量分析法により測定してよいか、又は加齢において固有の因果関係を、データから作成した因果関係ネットワークから同定してよい。
V.プロテオミクス試料分析
あるいくつかの実施形態では、主題の方法は、同様の特徴の何百もの試料の大規模ハイスループット定量的プロテオミクス分析を採用し、細胞出力差分を同定するために必要なデータを提供する。
この目的のために好適な、多数の当該技術において認められている技術が存在する。例示的な技術、すなわち質量分析法と組み合わせたiTRAQ分析について、以下に簡単に記載する。
iTRAQ技術を用いる相対的定量のための参照試料を提供するために、多重QCプールを創出する。各試料の分割量からなる2の別々のQCプールを、細胞#1及び細胞#2試料(これらの試料は、上清及びペレットについてそれぞれQCS1及びQCS2とQCP1及びQCP2と称する)から作成した。2の細胞株にわたるタンパク質濃度比較を可能にするために、上記のQCプールからの細胞ペレット分割量を、等容量組み合わせて、参照試料(QCP)を作成する。
定量的プロテオミクスアプローチは、ペプチド同定及び定量のための8プレックスiTRAQ試薬を用いる安定同位体標識と2D-LC MALDI MS/MSとに基づく。この技術を用いる定量は、相対的であり、ペプチド及びタンパク質には、参照試料に対する存在量の比率が割り当てられる。多重iTRAQ実験における共通参照試料は、多重iTRAQ実験にわたる試料の比較を容易にする。
この分析スキームを実行するために、6の一次試料及び2の対照プール試料を、製造者の提案に従って、113及び117試薬で標識された対照プール試料とともに1の8プレックスiTRAQミックスに組み合わせる。8の試料のこの混合物を、次いで、二次元液体クロマトグラフィー、一次元の強カチオン交換(SCX)及び二次元の逆相HPLCにより分画する。HPLC溶出物を、MALDIプレート上で直接分画し、プレートを、MDS SCIEX/AB 4800 MALDI TOF/TOF質量分析計で分析する。
さらなる情報なしで、タンパク質発現における最も重要な変化が、異なる処置条件下での同じ細胞型のうちにあるものであると仮定される。この理由のために、細胞#1及び細胞#2からの一次試料を、別々のiTRAQミックスにおいて分析する。細胞#1対細胞#2試料におけるタンパク質発現の比較を容易にするために、ユニバーサルQCP試料を、一次又は細胞株特異的QC試料(QC1及びQC2)により占められていない利用可能な「iTRAQスロット」において分析する。
採用する実験室手順の簡単な概要を、以下に示す。
A.細胞上清試料からのタンパク質抽出
細胞上清試料(CSN)について、培養培地からのタンパク質は、培養細胞から分泌されるタンパク質より大過剰に存在する。このバックグラウンドを低減する試みにおいて、顕著に豊富なタンパク質の除去を実行した。ウシ又はウマ血清タンパク質についての特異的親和性カラムが利用可能でないので、抗ヒトIgY14カラムを用いた。この抗体は、ヒトタンパク質に対するものであるが、抗体のポリクローナルの性質によりもたらされる広い特異性が、用いた細胞培養培地に存在するウシ及びウマの両方のタンパク質の排除を達成すると予期された。
200μlの分割量のCSN QC物質を、10-mL IgY14排除カラムに装填した後に、通過物質中の全タンパク質濃度を決定するための研究(ビシンコニン酸(BCA)アッセイ)を開始する。装填容量を、次いで、選択して、およそ40μgの全タンパク質を含有する排除済み画分を達成する。
B.細胞ペレットからのタンパク質抽出
細胞#1及び細胞#2の分割量を、BGMでの組織試料の分析用「標準」溶解緩衝液中で溶解し、全タンパク質含量を、BCAアッセイにより決定する。これらの代表的な細胞可溶化液のタンパク質含量を確立して、全ての細胞ペレット試料(項1.1に記載するQC試料を含む)を細胞可溶化液に処理した。およそ40μgの全タンパク質の可溶化液量を、処理ワークフローに進めた。
C.質量分析法のための試料調製
試料調製は、以下の標準的な操作手順及び構成に従う。
・タンパク質の還元及びアルキル化
・逆相カラムでのタンパク質の清浄化(細胞ペレットのみ)
・トリプシンでの消化
・iTRAQ標識
・強カチオン交換クロマトグラフィー-6の画分の収集(Agilent 1200システム)
・HPLC分画及びMALDIプレートへの滴下(Dionex Ultimate3000/Probotシステム)
D.MALDI MS及びMS/MS
HPLC-MSは、一般的に、オンラインESI MS/MS方策を採用する。BG Medicineは、同じ試料を複数回注入する必要なく、一次試料にわたって観察されるタンパク質セットのよりよい一致をもたらすオフラインLC-MALDI MS/MSプラットフォームである。全てのiTRAQミックスにわたる一回目の通過データ収集の後に(ペプチド画分はMALDI標的プレート上に保持されているので)、試料を、一回目の収集の間に得た知見から導かれる標的化MS/MS取得パターンを用いて二回目に分析できる。このようにして、同定したタンパク質の全て(理想的に、全てのタンパク質を各iTRAQミックスにおいて測定すべきである)についての最大観察頻度を達成する。
E.データ処理
BGMプロテオミクスワークフロー内のデータ処理プロセスは、各iTRAQミックスについて個別に完了した予備的ペプチド同定及び定量(項1.5.1)のような手順と、タンパク質へのペプチドの最終的な割り当て及びタンパク質の最終的な定量のようなプロセス(項1.5.2)に分けることができ、これらは、プロジェクトについてのデータ取得が完了するまで完了されない。
BGMプロテオミクスワークフロー内の主なデータ処理ステップは、次のとおりである:
・Mascot(Matrix Sciences)データベース検索エンジンを用いるペプチドの同定
・Mascot IDの社内での自動化検証
・ペプチドの定量及びタンパク質の予備的定量
・最終データセットの専門家による監督
・自動化PVTツールを用いるタンパク質の共通セットへの、各ミックスからのペプチドの最終的な割り当て
・アウトライアー除外及びタンパク質の最終的な定量
(i)個別のiTRAQミックスのデータ処理
各iTRAQミックスは、ワークフローにより処理されるので、MS/MSスペクトルを、ペプチド及びタンパク質の同定並びに定量情報の初期の評価のための専有のBGMソフトウェアツールを用いて分析する。この予備的分析の結果に基づいて、ミックスにおける各一次試料についてのワークフローの質を、BGM性能の数的指標のセットに対して判断する。所定の試料(又はミックス)が特定された最小の性能の数的指標に合格せず、さらなる数的指標が利用可能であるならば、その試料の全体を反復して、ワークフローのこの2回目の実行からのデータを最終データセットに組み込む。
(ii)ペプチド同定
MS/MSスペクトルを、ブタトリプシンのような共通混在配列により増強されたヒト、ウシ及びウマの配列を含有するUniprotタンパク質配列データベースに対して検索した。改変の完璧なリストを含むMascot検索パラメータの詳細を、表3に示す。
Mascot検索が完了した後に、自動化検証手順を用いて、特定のMascotペプチド整合を促進(すなわち検証)する。有効及び無効の整合の間の区別は、期待されるMascotスコアに対する達成されたMascotスコア、並びに順位1ペプチドと順位2ペプチドMascotスコアとの間の相違に基づく。検証のために必要とされる基準は、ペプチドが、iTRAQミックスにおける単一タンパク質と対応するいくつかのもののうちの1であるか、又はペプチドが、以前に検証されたペプチドの目録に存在するならば、いくらか緩和される。
(iii)ペプチド及びタンパク質定量
各ミックスについての検証されたペプチドのセットを利用して、各ミックスについて予備的なタンパク質定量の数的指標を算出する。ペプチド比率は、各検証されたペプチドについてのiTRAQ標識(すなわちm/z 114、115、116、118、119又は121)からのピーク面積を、参照プール(QC1又はQC2)を最もよく代表するピーク面積で除することにより算出される。このピーク面積は、両方の試料がQC受け入れ基準に合格することを条件として、113及び117ピークの平均である。予備的なタンパク質比率は、そのタンパク質と対応する全ての「有用」検証ペプチドの中央値比率を算出することにより決定される。「有用」ペプチドは、完全にiTRAQ標識され(全てのN末端がリシン又はピロGluのいずれかで標識される)、完全にシステイン標識されている(すなわち全てのCys残基がカルバミドメチル又はN末端ピロcmcでアルキル化されている)。
(iv)取得後処理
MS/MSデータ取得の全ての通過がプロジェクトにおける全てのミックスについて一旦完了すると、各一次試料からの結果を、別の試料からの結果と単純で意義のあるように比較できるようにすることを狙いとする、以下で論じる3ステップを用いて、データを校合する。
(v)タンパク質へのペプチド配列のグローバルな割り当て
タンパク質受託番号へのペプチド配列の最終的な割り当ては、専有のタンパク質検証ツール(PVT)により行う。PVT手順は、プロジェクトにおいて同定されたペプチドの全体の収集物を表す最良で最小限の冗長でないタンパク質セットを決定する。これは、均質分類からのデータを取り扱うように最適化されている自動化手順である。
上清実験についてのタンパク質の割り当ては、データベースにおける混合した分類の複雑さに対処するために、手動で監督した。自動化パラダイムは、ウシ及びウマ血清を補った培地で増殖した細胞培養物について有効でないので、いずれの所定のタンパク質の供給源のあいまいさを最小限にするために、広範な手動での監督が必要である。
(vi)ペプチド比率の標準化
各試料についてのペプチド比率は、Vandesompeleら、Genome Biology、2002、3(7)、研究0034.1-11の方法に基づいて標準化する。この手順は、細胞ペレット測定のみに適用する。上清試料について、定量的データは、ペプチド同定に対する最大の寄与が培地から来ることを考慮して、標準化しない。
(vii)タンパク質比率の最終的な算出
標準的な統計的アウトライアー除外手順を用いて、log変換データセットにおける1.96σレベルを超えるアウトライアーを、各タンパク質中央値比率の周囲から取り除く。この排除処理の後に、タンパク質比率の最終セットが(再)計算される。
VI.本発明のマーカー及びその使用
本発明は、疾患プロセスのような生物システム又は治療剤のような変動に対する生物システムの応答と関連する新規なバイオマーカーの同定に少なくとも部分的に基づく。
特に、本発明は、実施例で記載するマーカー(以下、「マーカー」又は「本発明のマーカー」)に関する。本発明は、マーカーによりコードされるか又はマーカーに相当する核酸及びタンパク質(以下、それぞれ「マーカー核酸」及び「マーカータンパク質」)を提供する。これらのマーカーは、疾患状態の診断;疾患状態の予後予測;様々な疾患状態についての薬物標的の開発;毒性、好ましくは薬物により誘導される毒性、例えば心毒性の存在についてのスクリーニング;毒性を引き起こすか若しくは毒性を引き起こす危険性がある薬剤の同定;薬物により誘導される毒性を低減若しくは妨げることができる薬剤の同定;薬物により誘導される心毒性の緩和、低減若しくは防止;並びに薬物により誘導される心毒性を予測できるマーカーの同定において特に有用である。
「マーカー」は、正常若しくは健常組織又は細胞におけるマーカーの発現レベルからのある組織又は細胞における発現レベルの変化が、がん、糖尿病、肥満症、心血管疾患のような疾患状態、又は薬物により誘導される毒性、例えば心毒性のような毒性状態と関連する遺伝子である。「マーカー核酸」は、本発明のマーカーによりコードされるか又は該マーカーに相当する核酸(例えばmRNA、cDNA)である。このようなマーカー核酸は、本発明のマーカーである遺伝子のいずれかの全体若しくは部分配列又はそのような配列の相補鎖を含むDNA(例えばcDNA)を含む。このような配列は、当業者に知られており、例えば、NIH管理pubmedウェブサイトで見出すことができる。マーカー核酸は、本発明の遺伝子マーカーのいずれかの全体若しくは部分配列又はそのような配列の相補鎖を含むRNAであって、全てのチミジン残基がウリジン残基で置き換えられているRNAも含む。「マーカータンパク質」は、本発明のマーカーによりコードされるか又は該マーカーに相当するタンパク質である。マーカータンパク質は、本発明のマーカータンパク質のいずれかの全体又は部分配列を含む。このような配列は、当業者に知られており、例えば、NIH管理pubmedウェブサイトで見出すことができる。用語「タンパク質」及び「ポリペプチド」は交換可能に用いられる。
「疾患状態又は毒性状態関連」体液は、患者の体内にて、肉腫細胞と接触するか若しくは肉腫細胞を通過するか、又は肉腫細胞から脱落した細胞若しくはタンパク質がその中を通過しうる流体である。例示的な疾患状態又は毒性状態関連体液は、血液(例えば全血、血清、血小板除去血液)を含み、以下により詳細に記載する。疾患状態又は毒性状態関連体液は、全血、血小板除去血液、リンパ液、前立腺液、尿及び精液に限定されない。
マーカーの発現の「正常」レベルは、疾患状態又は毒性状態に罹患していないヒト対象又は患者の細胞におけるマーカーの発現レベルである。
マーカーの「過剰発現」又は「より高い発現レベル」は、発現を評価するために採用したアッセイの標準誤差よりも大きい試験試料における発現レベルのことをいい、好ましくは、対照試料(例えば疾患状態又は毒性状態、例えばがん、糖尿病、肥満症、心血管疾患及び心毒性に関連するマーカーを有しない健常対象からの試料)におけるマーカーの発現レベル、好ましくは、いくつかの対照試料におけるマーカーの平均発現レベルの少なくとも2倍、より好ましくは3、4、5、6、7、8、9又は10倍である。
マーカーの「より低い発現レベル」は、対照試料(例えば疾患状態又は毒性状態、例えばがん、糖尿病、肥満症、心血管疾患及び心毒性に関連するマーカーを有しない健常対象からの試料)におけるマーカーの発現レベル、好ましくは、いくつかの対照試料におけるマーカーの平均発現レベルの少なくとも2倍、より好ましくは3、4、5、6、7、8、9又は10倍低い試験試料における発現レベルのことをいう。
「転写されたポリヌクレオチド」又は「ヌクレオチド転写産物」は、本発明のマーカーの転写及びもし存在するならばRNA転写産物の正常転写後プロセシング(例えばスプライシング)、並びにRNA転写産物の逆転写により作られた成熟mRNAの全体又は一部と相補的又は相同であるポリヌクレオチド(例えばmRNA、hnRNA、cDNA又はこのようなRNA若しくはcDNAの類似体)である。
「相補的」は、2の核酸鎖の領域の間又は同じ核酸鎖の2の領域の間の配列相補性の広い概念のことをいう。第一核酸領域のアデニン残基が、第一領域に逆平行である第二核酸領域の残基と、該残基がチミン又はウラシルであるならば、特異的水素結合を形成(「塩基対形成」)できることが知られている。同様に、第一核酸鎖のシトシン残基が、第一鎖と逆平行である第二核酸鎖の残基と、該残基がグアニンであるならば塩基対形成できることが知られている。核酸の第一領域は、同じ又は異なる核酸の第二領域と、これらの2の領域が逆平行の様式で配置されるときに、第一領域の少なくとも1のヌクレオチド残基が第二領域の残基と塩基対形成できるならば、相補的である。好ましくは、第一領域は第一部分を含み、第二領域は第二部分を含み、それにより、第一及び第二部分が逆平行の様式で配置されるときに、第一部分のヌクレオチド残基の少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、少なくとも約90%又は少なくとも約95%が第二部分におけるヌクレオチド残基と塩基対形成できる。より好ましくは、第一部分の全てのヌクレオチド残基が、第二部分におけるヌクレオチド残基と塩基対形成できる。
「相同」は、本明細書で用いる場合、同じ核酸鎖の2の領域の間又は2の異なる核酸鎖の領域の間のヌクレオチド配列類似性のことをいう。両方の領域におけるヌクレオチド残基の位置が、同じヌクレオチド残基により占められるならば、これらの領域は、その位置にて相同である。第一領域は、第二領域と、各領域の少なくとも1のヌクレオチド残基位置が同じ残基により占められるならば、相同である。2の領域の間の相同性は、同じヌクレオチド残基により占められる2の領域のヌクレオチド残基位置の割合に関して表現される。例えば、ヌクレオチド配列5’-ATTGCC-3’を有する領域と、ヌクレオチド配列5’-TATGGC-3’を有する領域とは、50%相同性を有する。好ましくは、第一領域は第一部分を含み、第二領域は第二部分を含み、それにより、これらの部分のそれぞれのヌクレオチド残基位置の少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、少なくとも約90%又は少なくとも約95%が、同じヌクレオチド残基により占められる。より好ましくは、これらの部分のそれぞれの全てのヌクレオチド残基位置が、同じヌクレオチド残基により占められる。
「本発明のタンパク質」は、マーカータンパク質及びそれらの断片;バリアントマーカータンパク質及びそれらの断片;マーカー若しくはバリアントマーカータンパク質の少なくとも15アミノ酸のセグメントを含むペプチド及びポリペプチド;並びにマーカー若しくはバリアントマーカータンパク質、又はマーカー若しくはバリアントマーカータンパク質の少なくとも15アミノ酸のセグメントを含む融合タンパク質を包含する。
本発明は、本発明のマーカータンパク質及びマーカータンパク質の断片と特異的に結合する抗体、抗体誘導体及び抗体断片をさらに提供する。本明細書でそうでないと明記しない限り、用語「抗体(antibody)」及び「抗体(antibodies)」は、自然に存在する形の抗体(例えばIgG、IgA、IgM、IgE)並びに単鎖抗体、キメラ及びヒト化抗体及び多重特異性抗体のような組換え抗体、並びに上記の全ての断片及び誘導体(該断片及び誘導体は、抗原結合部位を少なくとも有する)を広く包含する。抗体誘導体は、抗体とコンジュゲートしたタンパク質又は化学的部分を含み得る。
あるいくつかの実施形態では、本発明のマーカーは、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、CANX、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択される1以上の遺伝子(又はタンパク質)を含む。いくつかの実施形態では、マーカーは、上記の遺伝子(又はタンパク質)の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30以上の組み合わせである。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば上記の遺伝子(又はタンパク質)の1と5の間、1と10の間、1と20の間、1と30の間、2と5の間、2と10の間、5と10の間、1と20の間、5と20の間、10と20の間、10と25の間、10と30の間であってもよい。
一実施形態では、本発明のマーカーは、がんと関連するか若しくはがんに関与する遺伝子又はタンパク質である。がんに関与するこのような遺伝子又はタンパク質は、例えば、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及び/又はCANXを含む。いくつかの実施形態では、本発明のマーカーは、上記の遺伝子(又はタンパク質)の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20以上の組み合わせである。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば上記の遺伝子(又はタンパク質)の1と5の間、1と10の間、1と20の間、1と30の間、2と5の間、2と10の間、5と10の間、1と20の間、5と20の間、10と20の間、10と25の間、10と30の間であってもよい。
一実施形態では、本発明のマーカーは、薬物により誘導される毒性と関連するか若しくは該毒性に関与する遺伝子又はタンパク質である。薬物により誘導される毒性に関与するこのような遺伝子又はタンパク質は、例えば、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及び/又はTAZを含む。いくつかの実施形態では、本発明のマーカーは、上記の遺伝子(又はタンパク質)の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10の組み合わせである。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば上記の遺伝子(又はタンパク質)の1と5の間、1と10の間、1と20の間、1と30の間、2と5の間、2と10の間、5と10の間、1と20の間、5と20の間、10と20の間、10と25の間、10と30の間であってもよい。
A.心毒性関連マーカー
本発明は、薬物により誘導される心毒性と関連する新規なバイオマーカーの同定に少なくとも部分的に基づく。本発明は、補酵素Q10が、薬物により誘導される心毒性を低減又は防止できるという発見に少なくとも部分的にさらに基づく。
したがって、本発明は、毒性を引き起こすか又は引き起こす危険性がある薬剤を同定するための方法を提供する。一実施形態では、薬剤は、薬物又は候補薬物である。一実施形態では、毒性は、薬物により誘導される毒性、例えば心毒性である。一実施形態では、薬剤は、糖尿病、肥満症若しくは心血管障害を処置するための薬物又は候補薬物である。これらの方法では、試料の対(薬物処置に付していない第一試料と、薬物処置に付した第二試料)における1以上のバイオマーカー/タンパク質の量を評価する。第一試料と比較して、第二試料における1以上のバイオマーカーの発現レベルのモジュレーションは、薬物が、薬物により誘導される毒性、例えば心毒性を引き起こすか又は引き起こす危険性があることを示す。一実施形態では、1以上のバイオマーカーは、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択される。本発明の方法は、薬物により誘導される心毒性を引き起こす危険性がある薬物を同定するための当業者により用いられる任意のその他の方法とともに実施できる。
したがって、一態様では、本発明は、薬物により誘導される毒性(例えば心毒性)を引き起こすか又は引き起こす危険性がある薬物を同定するための方法であって、(i)薬物での処置の前に得られた第一細胞試料に存在する1以上のバイオマーカーの発現レベルを、(ii)薬物での処置の後に得られた第二細胞試料に存在する1以上のバイオマーカーの発現レベルと比較するステップを含み、1以上のバイオマーカーが、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択され、第一試料と比較して、第二試料における1以上のバイオマーカーの発現レベルのモジュレーションが、薬物が、薬物により誘導される毒性(例えば心毒性)を引き起こすか又は引き起こす危険性があることを示す方法を提供する。
一実施形態では、薬物により誘導される毒性は、薬物により誘導される心毒性である。一実施形態では、細胞は、心血管系の細胞、例えば心筋細胞である。一実施形態では、細胞は、糖尿病性心筋細胞である。一実施形態では、薬物は、糖尿病、肥満症若しくは心血管疾患を処置するための薬物又は候補薬物である。
一実施形態では、第一試料と比較して、第二試料におけるGRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択されるバイオマーカーの1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10全ての発現レベルのモジュレーション(例えば増加又は減少)が、薬物が、薬物により誘導される毒性を引き起こすか又は引き起こす危険性があることを示す。
薬物により誘導される毒性を低減又は防止できる薬剤を同定するための方法も、本発明により提供される。一実施形態では、薬物により誘導される毒性は、心毒性である。一実施形態では、薬物は、糖尿病、肥満症若しくは心血管障害を処置するための薬物又は候補薬物である。これらの方法では、3の試料(薬物処置に付していない第一試料、薬物処置に付した第二試料及び薬物処置と薬剤との両方に付した第三試料)における1以上のバイオマーカーの量を評価する。第一試料と比較して、第三試料における1以上のバイオマーカーの発現のほぼ同じレベルは、薬剤が、薬物により誘導される毒性、例えば薬物により誘導される心毒性を低減又は防止できることを示す。一実施形態では、1以上のバイオマーカーは、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択される。
本明細書で記載する方法を用いて、細胞膜を横切るために十分に小さい分子を特に含む様々な分子をスクリーニングして、本発明のマーカーの発現及び/又は活性を変調、例えば増加又は減少させる分子を同定できる。このようにして同定される化合物を対象に与えて、対象における薬物により誘導される毒性を低減、緩和又は防止できる。
したがって、別の態様では、本発明は、薬物により誘導される毒性を低減又は防止できる薬剤を同定するための方法であって、(i)毒性誘導性薬物での処置の前に得られた第一細胞試料に存在する1以上のバイオマーカーの発現レベルを測定するステップと、(ii)毒性誘導性薬物での処置の後に得られた第二細胞試料に存在する1以上のバイオマーカーの発現レベルを測定するステップと、(iii)毒性誘導性薬物と薬剤とでの処置の後に得られた第三細胞試料に存在する1以上のバイオマーカーの発現レベルを測定するステップと、(iv)第三試料における1以上のバイオマーカーの発現レベルを第一試料と比較するステップとを含み、1以上のバイオマーカーが、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択され、第一試料と比較して、第三試料における1以上のバイオマーカーの発現のほぼ同じレベルが、薬剤が、薬物により誘導される毒性を低減又は防止できることを示す方法を提供する。
一実施形態では、薬物により誘導される毒性は、薬物により誘導される心毒性である。一実施形態では、細胞は、心血管系の細胞、例えば心筋細胞である。一実施形態では、細胞は、糖尿病性心筋細胞である。一実施形態では、薬物は、糖尿病、肥満症若しくは心血管疾患を処置するための薬物又は候補薬物である。
一実施形態では、第一試料と比較して、第三試料におけるGRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択されるバイオマーカーの1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10全ての発現のほぼ同じレベルが、薬物が、薬物により誘導される毒性を低減又は防止できることを示す。
本発明は、必要とする対象における薬物により誘導される心毒性を緩和、低減又は防止するための方法であって、対象(例えば哺乳動物、ヒト又は非ヒト動物)に、本明細書で提供するスクリーニング法により同定された薬剤を投与し、それにより、対象における薬物により誘導される心毒性を低減又は防止するステップを含む方法をさらに提供する。一実施形態では、薬剤は、心毒性誘導性薬物で既に処置された対象に投与する。一実施形態では、薬剤は、対象を心毒性誘導性薬物で処置するのと同時に対象に投与する。一実施形態では、薬剤は、対象を心毒性誘導性薬物で処置する前に対象に投与する。
本発明は、必要とする対象における薬物により誘導される心毒性を緩和、低減又は防止するための方法であって、補酵素Q10を対象(例えば哺乳動物、ヒト又は非ヒト動物)に投与し、それにより、対象における薬物により誘導される心毒性を低減又は防止するステップを含む方法をさらに提供する。一実施形態では、補酵素Q10は、心毒性誘導性薬物で既に処置された対象に投与する。一実施形態では、補酵素Q10は、対象を心毒性誘導性薬物で処置するのと同時に対象に投与する。一実施形態では、補酵素Q10は、対象を心毒性誘導性薬物で処置する前に対象に投与する。一実施形態では、薬物により誘導される心毒性は、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択されるバイオマーカーの1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10全ての発現のモジュレーションと関連する。上記のリストに示す全ての値は、本発明の一部であることを意図する範囲の上限又は下限、例えば上記の遺伝子(又はタンパク質)の1と5の間、1と10の間、2と5の間、2と10の間又は5と10の間であってもよい。
本発明は、心毒性、例えば薬物により誘導される心毒性についての予測マーカーとして有用なバイオマーカー(例えば遺伝子及び/又はタンパク質)をさらに提供する。これらのバイオマーカーは、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZを含む。当業者は、しかし、本明細書で記載する方法を採用することにより、例えば実施例3に記載する方法を行うことによるが、心毒性を誘導することが知られている異なる薬物を用いることにより、薬物により誘導される心毒性を予測できるさらなるバイオマーカーを同定できる。本発明の例示的な薬物により誘導される心毒性のバイオマーカーを、以下にさらに記載する。
GRP78及びGRP75は、グルコース応答タンパク質とも呼ばれる。これらのタンパク質は、心筋細胞の小胞体/筋小胞体ストレス(ERストレス)と関連する。SERCA又は筋小胞体カルシウムATPアーゼは、心臓細胞のCa2+恒常性を調節する。これらのATPアーゼのいずれの混乱も、心臓機能不全及び心不全を導くことができる。本明細書で提供するデータに基づいて、GRP75及びGRP78並びにこれらの周囲のエッジは、薬物により誘導される心毒性の新規な予測因子である。
TIMPメタロプロテアーゼ阻害剤1とも呼ばれるTIMP1は、MMPとともに細胞外基質のリモデリングに関与する。TIMP1発現は、心臓の繊維症と相関し、血管内皮細胞の低酸素も、TIMP1発現を誘導する。本明細書で提供するデータに基づいて、TIMP1は、薬物により誘導される心毒性の新規な予測因子である。
ペントラキシン3とも呼ばれるPTX3は、C反応性タンパク質(CRP)のファミリーに属し、心臓の炎症状態の良好なマーカーである。しかし、血漿PTX3は、敗血症又はその他の医療状態による全身炎症応答を示すこともできる。本明細書で提供するデータに基づいて、PTX3は、心臓機能又は心毒性の新規なマーカーであり得る。さらに、ネットワークにおけるPTX3と関連するエッジは、バイオマーカーの新規なパネルを形成できる。
HSPA6とも呼ばれるHSP76は、内皮細胞及びBリンパ球において発現されることだけが知られている。心臓機能において、このタンパク質の役割は知られてない。本明細書で提供するデータに基づいて、HSP76は、薬物により誘導される心毒性の新規な予測因子であり得る。
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼファミリーAタンパク質とも呼ばれるPDIA4、PDIA1は、GRPと同様にERストレス応答に関連する。心臓機能において、これらのタンパク質の役割は知られてない。本明細書で提供するデータに基づいて、これらのタンパク質は、薬物により誘導される心毒性の新規な予測因子であり得る。
CA2D1は、カルシウムチャネル、電圧依存性、アルファ2/デルタサブユニットとも呼ばれる。電圧依存性カルシウムチャネルのアルファ-2/デルタサブユニットは、カルシウム電流密度及びカルシウムチャネルの活性化/不活性化動態を調節する。CA2D1は、心臓における興奮収縮連関において重要な役割を演じる。心臓機能において、このタンパク質の役割は知られてない。本明細書で提供するデータに基づいて、CA2D1は、薬物により誘導される心毒性の新規な予測因子である。
GPAT1は、4の既知のグリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼアイソフォームのうちの1であり、ミトコンドリア外膜に存在して、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1との相互調節を可能にする。GPAT1は、トリアシルグリセロース合成における役割と一貫して、インスリン及びSREBP-1cにより転写がアップレギュレートされ、AMP活性化タンパク質キナーゼにより鋭敏にダウンレギュレートされる。本明細書で提供するデータに基づいて、GPAT1は、薬物により誘導される心毒性の新規な予測因子である。
タファッジンとも呼ばれるTAZは、心筋及び骨格筋において高発現される。TAZは、カルジオリピンの代謝に関与し、リン脂質-リゾリン脂質トランスアシラーゼとして機能する。タファッジンは、ミトコンドリア内膜の特徴的脂質であるリン脂質カルジオリピン(CL)のリモデリングを担う。本明細書で提供するデータに基づいて、TAZは、薬物により誘導される心毒性の新規な予測因子である。
B.がん関連マーカー
本発明は、がんと関連する新規なバイオマーカーの同定に少なくとも部分的に基づく。がんと関連するこのようなマーカーは、例えば、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及び/又はCANXを含む。いくつかの実施形態では、本発明のマーカーは、上記のマーカーの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20以上の組み合わせである。
したがって、本発明は、がんを引き起こすか又は引き起こす危険性がある薬剤を同定するための方法を提供する。一実施形態では、薬剤は、薬物又は候補薬物である。これらの方法では、試料の対(薬物処置に付していない第一試料と、薬物処置に付した第二試料)における1以上のバイオマーカー/タンパク質の量を評価する。第一試料と比較して、第二試料における1以上のバイオマーカーの発現レベルのモジュレーションは、薬物が、がんを引き起こすか又は引き起こす危険性があることを示す。一実施形態では、1以上のバイオマーカーは、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される。本発明の方法は、がんを引き起こす危険性がある薬物を同定するための当業者により用いられる任意のその他の方法とともに実施できる。
一態様では、本発明は、対象におけるがんを処置するための治療の効力を評価するための方法であって、対象に処置計画の少なくとも一部を投与する前に対象から得た第一試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルを、処置計画の少なくとも一部を投与した後に対象から得られた第二試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルと比較するステップを含み、1以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択され、第一試料と比較して、第二試料における1以上のマーカーの発現レベルのモジュレーションが、治療が対象におけるがんを処置するために効力があることを示す方法を提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られた流体を含む。一実施形態では、流体は、血液、嘔吐物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収された流体、腹膜洗浄により回収された流体及び婦人科検査による流体からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られた組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生体試料における1以上のマーカーの発現レベルは、試料における転写されたポリヌクレオチド又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることは、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料におけるマーカーの発現レベルは、試料におけるタンパク質又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、タンパク質は、タンパク質と特異的に結合する試薬を用いてアッセイされる。
一実施形態では、試料における1以上のマーカーの発現レベルは、前記試料のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅反応、逆転写酵素PCR分析、一本鎖高次構造多型分析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二本鎖分析、サザンブロット分析、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析、in situハイブリダイゼーション、アレイ分析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型分析及びそれらの組み合わせ又は部分的な組み合わせからなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、試料におけるマーカーの発現レベルは、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA及び質量分析法からなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、複数のマーカーの発現レベルが決定される。
一実施形態では、対象は、環境に影響を与える化合物、手術、放射線、ホルモン治療、抗体治療、増殖因子を用いる治療、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞治療からなる群から選択される治療で処置されている。一実施形態では、環境に影響を与える化合物は、補酵素Q10分子である。
本発明は、対象ががんに罹患しているかを評価する方法であって、対象から得られた生体試料における1以上のマーカーの発現レベルを測定するステップであって、1以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択されるステップと、対象から得られた生体試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルを、対照試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルと比較するステップであって、対照試料における1以上のマーカーの発現レベルに対する対象から得られた生体試料における1以上のマーカーの発現レベルのモジュレーションが、対象ががんに罹患していることを示し、それにより、対象ががんに罹患しているかを評価する、ステップとを含む方法を提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られた流体を含む。一実施形態では、流体は、血液、嘔吐物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収された流体、腹膜洗浄により回収された流体及び婦人科検査による流体からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られた組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生体試料における1以上のマーカーの発現レベルは、試料における転写されたポリヌクレオチド又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることは、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料におけるマーカーの発現レベルは、試料におけるタンパク質又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、タンパク質は、タンパク質と特異的に結合する試薬を用いてアッセイされる。
一実施形態では、試料における1以上のマーカーの発現レベルは、前記試料のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅反応、逆転写酵素PCR分析、一本鎖高次構造多型分析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二本鎖分析、サザンブロット分析、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析、in situハイブリダイゼーション、アレイ分析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型分析及びそれらの組み合わせ又は部分的な組み合わせからなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、試料におけるマーカーの発現レベルは、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA及び質量分析法からなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、複数のマーカーの発現レベルが決定される。
一実施形態では、対象は、環境に影響を与える化合物、手術、放射線、ホルモン治療、抗体治療、増殖因子を用いる治療、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞治療からなる群から選択される治療で処置されている。一実施形態では、環境に影響を与える化合物は、補酵素Q10分子である。
本発明は、対象のがんが発展する素因があるかを予後予測する方法であって、対象から得られた生体試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルを測定するステップであって、1以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択されるステップと、対象から得られた生体試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルを、対照試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルと比較するステップであって、対照試料における1以上のマーカーの発現レベルに対する対象から得られた生体試料における1以上のマーカーの発現レベルのモジュレーションが、対象のがんが発展する素因があることを示し、それにより、対象のがんが発展する素因があるかどうかを予後予測する、ステップとを含む方法をさらに提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られた流体を含む。一実施形態では、流体は、血液、嘔吐物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収された流体、腹膜洗浄により回収された流体及び婦人科検査による流体からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られた組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生体試料における1以上のマーカーの発現レベルは、試料における転写されたポリヌクレオチド又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることは、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料におけるマーカーの発現レベルは、試料におけるタンパク質又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、タンパク質は、タンパク質と特異的に結合する試薬を用いてアッセイされる。
一実施形態では、試料における1以上のマーカーの発現レベルは、前記試料のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅反応、逆転写酵素PCR分析、一本鎖高次構造多型分析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二本鎖分析、サザンブロット分析、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析、in situハイブリダイゼーション、アレイ分析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型分析及びそれらの組み合わせ又は部分的な組み合わせからなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、試料におけるマーカーの発現レベルは、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA及び質量分析法からなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、複数のマーカーの発現レベルが決定される。
一実施形態では、対象は、環境に影響を与える化合物、手術、放射線、ホルモン治療、抗体治療、増殖因子を用いる治療、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞治療からなる群から選択される治療で処置されている。一実施形態では、環境に影響を与える化合物は、補酵素Q10分子である。
本発明は、対象におけるがんの再発を予後予測する方法であって、対象から得られた生体試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルを測定するステップであって、1以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択されるステップと、対象から得られた生体試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルを、対照試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルと比較するステップであって、対照試料における1以上のマーカーの発現レベルに対する対象から得られた生体試料における1以上のマーカーの発現レベルのモジュレーションが、がんの再発を示し、それにより、対象におけるがんの再発を予後予測する、ステップとを含む方法をさらに提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られた流体を含む。一実施形態では、流体は、血液、嘔吐物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収された流体、腹膜洗浄により回収された流体及び婦人科検査による流体からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られた組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生体試料における1以上のマーカーの発現レベルは、試料における転写されたポリヌクレオチド又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることは、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料におけるマーカーの発現レベルは、試料におけるタンパク質又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、タンパク質は、タンパク質と特異的に結合する試薬を用いてアッセイされる。
一実施形態では、試料における1以上のマーカーの発現レベルは、前記試料のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅反応、逆転写酵素PCR分析、一本鎖高次構造多型分析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二本鎖分析、サザンブロット分析、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析、in situハイブリダイゼーション、アレイ分析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型分析及びそれらの組み合わせ又は部分的な組み合わせからなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、試料におけるマーカーの発現レベルは、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA及び質量分析法からなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、複数のマーカーの発現レベルが決定される。
一実施形態では、対象は、環境に影響を与える化合物、手術、放射線、ホルモン治療、抗体治療、増殖因子を用いる治療、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞治療からなる群から選択される治療で処置されている。一実施形態では、環境に影響を与える化合物は、補酵素Q10分子である。
本発明は、がんの対象の生存を予後予測する方法であって、対象から得られた生体試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルを測定するステップであって、1以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択されるステップと、対象から得られた生体試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルを、対照試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルと比較するステップであって、対照試料における1以上のマーカーの発現レベルに対する対象から得られた生体試料における1以上のマーカーの発現レベルのモジュレーションが、対象の生存を示し、それにより、がんの対象の生存を予後予測する、ステップとを含む方法をさらに提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られた流体を含む。一実施形態では、流体は、血液、嘔吐物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収された流体、腹膜洗浄により回収された流体及び婦人科検査による流体からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られた組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生体試料における1以上のマーカーの発現レベルは、試料における転写されたポリヌクレオチド又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることは、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料におけるマーカーの発現レベルは、試料におけるタンパク質又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、タンパク質は、タンパク質と特異的に結合する試薬を用いてアッセイされる。
一実施形態では、試料における1以上のマーカーの発現レベルは、前記試料のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅反応、逆転写酵素PCR分析、一本鎖高次構造多型分析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二本鎖分析、サザンブロット分析、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析、in situハイブリダイゼーション、アレイ分析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型分析及びそれらの組み合わせ又は部分的な組み合わせからなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、試料におけるマーカーの発現レベルは、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA及び質量分析法からなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、複数のマーカーの発現レベルが決定される。
一実施形態では、対象は、環境に影響を与える化合物、手術、放射線、ホルモン治療、抗体治療、増殖因子を用いる治療、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞治療からなる群から選択される治療で処置されている。一実施形態では、環境に影響を与える化合物は、補酵素Q10分子である。
本発明は、対象におけるがんの増悪をモニタリングする方法であって、対象に処置計画の少なくとも一部を投与する前に対象から得られた第一試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルを、処置計画の少なくとも一部を投与した後に対象から得られた第二試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルと比較するステップを含み、1以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択され、それにより、対象におけるがんの増悪をモニタリングする、方法をさらに提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られた流体を含む。一実施形態では、流体は、血液、嘔吐物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収された流体、腹膜洗浄により回収された流体及び婦人科検査による流体からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られた組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生体試料における1以上のマーカーの発現レベルは、試料における転写されたポリヌクレオチド又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることは、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料におけるマーカーの発現レベルは、試料におけるタンパク質又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、タンパク質は、タンパク質と特異的に結合する試薬を用いてアッセイされる。
一実施形態では、試料における1以上のマーカーの発現レベルは、前記試料のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅反応、逆転写酵素PCR分析、一本鎖高次構造多型分析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二本鎖分析、サザンブロット分析、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析、in situハイブリダイゼーション、アレイ分析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型分析及びそれらの組み合わせ又は部分的な組み合わせからなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、試料におけるマーカーの発現レベルは、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA及び質量分析法からなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、複数のマーカーの発現レベルが決定される。
一実施形態では、対象は、環境に影響を与える化合物、手術、放射線、ホルモン治療、抗体治療、増殖因子を用いる治療、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞治療からなる群から選択される治療で処置されている。一実施形態では、環境に影響を与える化合物は、補酵素Q10分子である。
本発明は、対象におけるがんを処置するための化合物を同定する方法であって、対象から生体試料を得るステップと、生体試料を試験化合物と接触させるステップと、対象から得られた生体試料に存在する1以上のマーカーの発現レベルを測定するステップであって、1以上のマーカーが、正の倍数変化及び/又は負の倍数変化を有するHSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択されるステップと、生体試料における1以上のマーカーの発現レベルを適当な対照と比較するステップと、生体試料に存在する負の倍数変化を有する1以上のマーカーの発現レベルを減少させ、且つ/又は生体試料に存在する正の倍数変化を有する1以上のマーカーの発現レベルを増加させる試験化合物を選択し、それにより、対象におけるがんを処置するための化合物を同定するステップとを含む方法をさらに提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られた流体を含む。一実施形態では、流体は、血液、嘔吐物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収された流体、腹膜洗浄により回収された流体及び婦人科検査による流体からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られた組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生体試料における1以上のマーカーの発現レベルは、試料における転写されたポリヌクレオチド又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることは、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料におけるマーカーの発現レベルは、試料におけるタンパク質又はその一部分をアッセイすることにより決定される。一実施形態では、タンパク質は、タンパク質と特異的に結合する試薬を用いてアッセイされる。
一実施形態では、試料における1以上のマーカーの発現レベルは、前記試料のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅反応、逆転写酵素PCR分析、一本鎖高次構造多型分析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二本鎖分析、サザンブロット分析、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析、in situハイブリダイゼーション、アレイ分析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型分析及びそれらの組み合わせ又は部分的な組み合わせからなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、試料におけるマーカーの発現レベルは、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA及び質量分析法からなる群から選択される技術を用いて決定される。
一実施形態では、複数のマーカーの発現レベルが決定される。
一実施形態では、対象は、環境に影響を与える化合物、手術、放射線、ホルモン治療、抗体治療、増殖因子を用いる治療、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞治療からなる群から選択される治療で処置されている。一実施形態では、環境に影響を与える化合物は、補酵素Q10分子である。
本発明は、がんを処置するための治療の効力を評価するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1のマーカーの発現レベルを測定するための試薬と、がんを処置するための治療の効力を評価するためのキットの使用についての説明書とを含むキットをさらに提供する。
本発明は、対象ががんに罹患しているかを評価するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1のマーカーの発現レベルを測定するための試薬と、対象ががんに罹患しているかを評価するためのキットの使用についての説明書とを含むキットをさらに提供する。
本発明は、対象のがんが発展する素因があるかを予後予測するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1のマーカーの発現レベルを測定するための試薬と、対象のがんが発展する素因があるかを予後予測するためのキットの使用についての説明書とを含むキットをさらに提供する。
本発明は、対象におけるがんの再発を予後予測するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1のマーカーの発現レベルを評価するための試薬と、がんの再発を予後予測するためのキットの使用についての説明書とを含むキットをさらに提供する。
本発明は、がんの再発を予後予測するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1のマーカーの発現レベルを測定するための試薬と、がんの再発を予後予測するためのキットの使用についての説明書とを含むキットをさらに提供する。
本発明は、がんの対象の生存を予後予測するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1のマーカーの発現レベルを測定するための試薬と、がんの対象の生存を予後予測するためのキットの使用についての説明書とを含むキットをさらに提供する。
本発明は、対象におけるがんの増悪をモニタリングするためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1のマーカーの発現レベルを測定するための試薬と、対象におけるがんの増悪を予後予測するためのキットの使用についての説明書とを含むキットをさらに提供する。
本発明のキットは、対象から生体試料を得るための手段、対照試料及び/又は環境に影響を与える化合物をさらに含んでよい。
少なくとも1のマーカーの発現レベルを測定するための手段は、試料における転写されたポリヌクレオチド若しくはその一部分をアッセイするための手段及び/又は試料におけるタンパク質若しくはその一部分をアッセイするための手段を含んでよい。
一実施形態では、キットは、複数のマーカーの発現レベルを測定するための試薬を含む。
本発明の様々な態様を、以下の小区分にさらに詳細に記載する。
C.単離核酸分子
本発明の一態様は、マーカータンパク質又はその一部分をコードする核酸を含む、単離核酸分子に関する。本発明の単離核酸は、マーカー核酸分子及びマーカー核酸分子の断片を同定するためのハイブリダイゼーションプローブとして用いるために十分な核酸分子、例えばマーカー核酸分子の増幅又は変異についてのPCRプライマーとして用いるために適切なものも含む。本明細書で用いる場合、用語「核酸分子」は、DNA分子(例えばcDNA又はゲノムDNA)及びRNA分子(例えばmRNA)並びにヌクレオチド類似体を用いて作成したDNA又はRNAの類似体を含むことを意図する。核酸分子は、一本鎖又は二本鎖であり得るが、好ましくは二本鎖DNAである。
「単離」核酸分子は、核酸分子の自然の供給源に存在する別の核酸分子から分離されたものである。一実施形態では、「単離」核酸分子は、核酸が由来する生物のゲノムDNAにおいて核酸を自然に挟む配列(すなわち核酸の5’及び3’端にある配列)(好ましくはタンパク質をコードする配列)を含まない。例えば、様々な実施形態では、単離核酸分子は、核酸が由来する細胞のゲノムDNAにおける核酸分子を自然に挟むヌクレオチド配列の約5 kB、4 kB、3 kB、2 kB、1 kB、0.5 kB又は0.1 kB未満を含有できる。別の実施形態では、cDNA分子のような「単離」核酸分子は、他の細胞性物質若しくは組換え技術により生成される場合は培養培地を実質的に含まないか、又は化学的に合成される場合は化学的前駆体若しくは他の化学物質を実質的に含まない。細胞性物質を実質的に含まない核酸分子は、約30%、20%、10%又は5%未満の異種核酸(本明細書において「混入核酸」ともいう)を有する調製物を含む。
本発明の核酸分子は、標準的な生物学的技術及び本明細書で記載するデータベース記録における配列情報を用いて単離できる。このような核酸配列の全体又は一部分を用いて、本発明の核酸分子は、標準的なハイブリダイゼーション及びクローニング技術を用いて単離できる(例えばSambrookら編、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載されるとおり)。
本発明の核酸分子は、鋳型としてのcDNA、mRNA又はゲノムDNAと、適当なオリゴヌクレオチドプライマーとを標準的なPCR増幅技術に従って用いて増幅できる。このようにして増幅された核酸は、適当なベクターにクローニングして、DNA配列分析により特徴決定できる。さらに、本発明の核酸分子の全体又は一部分に対応するヌクレオチドは、標準的な合成技術、例えば自動化DNA合成装置を用いることにより調製できる。
別の好ましい実施形態では、本発明の単離核酸分子は、マーカー核酸のヌクレオチド配列に又はマーカータンパク質をコードする核酸のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を有する核酸分子を含む。所定のヌクレオチド配列に相補的な核酸分子は、所定のヌクレオチド配列にハイブリダイズでき、それにより安定な二本鎖を形成できるように、所定のヌクレオチド配列に十分に相補的であるものである。
さらに、本発明の核酸分子は、核酸配列の一部分だけを含むことができ、ここで、全長核酸配列は、マーカー核酸を含むか、又はマーカータンパク質をコードする。このような核酸は、例えばプローブ又はプライマーとして用いることができる。プローブ/プライマーは、1以上の実質的に精製されたオリゴヌクレオチドとして典型的に用いられる。オリゴヌクレオチドは、ストリンジェントな条件下で、本発明の核酸の少なくとも約7、好ましくは約15、より好ましくは約25、50、75、100、125、150、175、200、250、300、350又は400以上の連続ヌクレオチドとハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を典型的に含む。
本発明の核酸分子の配列に基づくプローブを用いて、本発明の1以上のマーカーに対応する転写産物又はゲノム配列を検出できる。プローブは、標識基、例えば放射性同位体、蛍光化合物、酵素又は酵素補因子と結合する。このようなプローブは、例えば、対象からの細胞の試料におけるタンパク質をコードする核酸分子のレベルを測定すること、例えばmRNAレベルを検出するか又はタンパク質をコードする遺伝子が変異若しくは欠失されたかを決定することにより、タンパク質を誤って発現する細胞又は組織を同定するための診断試験キットの一部として用いることができる。
本発明は、遺伝子コードの縮重性により、マーカータンパク質をコードする核酸のヌクレオチド配列とは異なり、よって、同じタンパク質をコードする核酸分子をさらに包含する。
アミノ酸配列の変化を導くDNA配列多型が、集団(例えばヒト集団)に存在し得ることが当業者により認識される。このような遺伝子多型は、自然な対立遺伝子変動により集団内の個体のうちで存在できる。対立遺伝子は、所定の遺伝子座にて選択的に出現する遺伝子の群のうちの1である。さらに、遺伝子の全体的な発現レベルに影響し得る(例えば調節又は分解に影響することにより)、RNA発現レベルに影響するDNA多型も存在し得ることが認識される。
本明細書で用いる場合、句「対立遺伝子バリアント」は、所定の遺伝子座にて出現するヌクレオチド配列又はヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドのことをいう。
本明細書で用いる場合、用語「遺伝子」及び「組換え遺伝子」は、本発明のマーカーに相当するポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸分子のことをいう。このような天然の対立遺伝子変動は、所定の遺伝子のヌクレオチド配列において1〜5%のばらつきを典型的にもたらすことができる。選択的対立遺伝子は、対象の遺伝子を、いくつかの異なる個体において配列決定することにより同定できる。これは、様々な固体における同じ遺伝子座を同定するためのハイブリダイゼーションプローブを用いることにより容易に行うことができる。任意のそして全てのこのようなヌクレオチド変動及び自然の対立遺伝子変動の結果であり、機能活性を変化させない、得られたアミノ酸多型又は変動は、本発明の範囲内であることを意図する。
別の実施形態では、本発明の単離核酸分子は、少なくとも7、15、20、25、30、40、60、80、100、150、200、250、300、350、400、450、550、650、700、800、900、1000、1200、1400、1600、1800、2000、2200、2400、2600、2800、3000、3500、4000、4500以上のヌクレオチド長であり、ストリンジェントな条件下で、マーカー核酸又はマーカータンパク質をコードする核酸とハイブリダイズする。本明細書で用いる場合、用語「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」は、互いに少なくとも60%(65%、70%、好ましくは75%)同一のヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズしたままであるハイブリダイゼーション及び洗浄の条件について記載することを意図する。このようなストリンジェント条件は、当業者に知られており、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons, N.Y. (1989)の6.3.1〜6.3.6項で見出すことができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい非限定的な例は、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中、約45℃でのハイブリダイゼーションと、その後の0.2×SSC、0.1% SDS中、50〜65℃での1回以上の洗浄である。
集団において存在し得る、本発明の核酸分子の自然に存在する対立遺伝子バリアントに加えて、当業者は、配列変化を変異により導入でき、それにより、コードされるタンパク質の生物活性を変化させることなく、コードされるタンパク質のアミノ酸配列の変化を導くことができることをさらに認識している。例えば、「非必須」アミノ酸残基にてアミノ酸置換を導くヌクレオチド置換を作ることができる。「非必須」アミノ酸残基は、生物活性を変化させることなく野生型配列から改変できる残基であり、「必須」アミノ酸残基は、生物活性にとって必要とされるものである。例えば、様々な種のホモログの間で保存されていないか又は半保存されているだけであるアミノ酸残基は、活性にとって非必須であり得るので、改変の標的となる可能性がある。代わりに、様々な種(例えばマウス及びヒト)のホモログの間で保存されているアミノ酸残基は、活性にとって必須であることがあり、よって、改変の標的となりにくい。
したがって、本発明の別の態様は、活性にとって必須でないアミノ酸残基において変化を含有するバリアントマーカータンパク質をコードする核酸分子に関する。このようなバリアントマーカータンパク質は、自然に存在するマーカータンパク質とはアミノ酸配列が異なるが、生物活性を保持する。一実施形態では、このようなバリアントマーカータンパク質は、マーカータンパク質のアミノ酸配列と少なくとも約40%同一、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を有する。
バリアントマーカータンパク質をコードする単離核酸分子は、1以上のヌクレオチド置換、付加又は欠失を、マーカー核酸のヌクレオチド配列に導入して、1以上のアミノ酸残基置換、付加又は欠失を、コードされるタンパク質に導入することにより創出できる。変異は、部位特異的突然変異誘発及びPCR媒介突然変異誘発のような標準的な技術により導入できる。好ましくは、保存アミノ酸置換を、1以上の予測非必須アミノ酸残基にて作る。「保存アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、同様の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられるものである。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが、当該技術において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分岐側鎖(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。代わりに、変異は、飽和突然変異誘発によるようなコード配列の全体又は一部分に沿って無作為に導入でき、得られた変異体を、生物活性についてスクリーニングして、活性を保持する変異体を同定できる。突然変異誘発の後に、コードされるタンパク質を、組換え発現させ、タンパク質の活性を決定できる。
本発明は、アンチセンス核酸分子、すなわち本発明のセンス核酸に相補的、例えば二本鎖マーカーcDNA分子のコード鎖に相補的又はマーカーmRNA配列に相補的な分子を包含する。したがって、本発明のアンチセンス核酸は、本発明のセンス核酸と水素結合(すなわちアニール)できる。アンチセンス核酸は、コード鎖全体又はその一部のみ、例えばタンパク質コード領域(又はオープンリーディングフレーム)の全体又は一部に相補的であり得る。アンチセンス核酸分子は、マーカータンパク質をコードするヌクレオチド配列のコード鎖の非コード領域の全体又は一部にアンチセンスであってもよい。非コード領域(「5’及び3’非翻訳領域」)は、コード領域を挟む5’及び3’の配列であり、アミノ酸に翻訳されない。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45又は50以上のヌクレオチド長であり得る。本発明のアンチセンス核酸は、当該技術において知られる手順を用いる化学合成及び酵素ライゲーション反応を用いて構築できる。例えば、アンチセンス核酸(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド)は、自然に存在するヌクレオチドを用いて化学合成できるか、又は分子の生物学的安定性を増加するか若しくはアンチセンスとセンス核酸との間で形成される二本鎖の物理的安定性を増加させるように設計された様々に改変されたヌクレオチド、例えばホスホロチエオエート誘導体及びアクリジン置換ヌクレオチドを用いることができる。アンチセンス核酸を作成するために用いることができる改変ヌクレオチドの例は、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ-D-ガラクトシルクエオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルクエオシン、5’-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ウィブトキソシン、プソイドウラシル、クエオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、及び2,6-ジアミノプリンを含む。代わりに、アンチセンス核酸は、核酸がアンチセンス方向にサブクローニングされた(すなわち挿入された核酸から転写されるRNAが、対象の標的核酸に対してアンチセンスの方向である、以下の小区分においてさらに記載する)発現ベクターを用いて生物学的に生成できる。
本発明のアンチセンス核酸分子は、典型的に、マーカータンパク質をコードする細胞mRNA及び/又はゲノムDNAとハイブリダイズ又は結合して、それにより、例えば転写及び/又は翻訳を阻害することによりマーカーの発現を阻害するように対象に投与されるか、或いはin situで作成される。ハイブリダイゼーションは、安定二本鎖を形成するための従来のヌクレオチド相補性、又は例えばDNA二本鎖と結合するアンチセンス核酸分子の場合に、二重らせんの主溝内での特異的相互作用によることができる。本発明のアンチセンス核酸分子の投与の経路の例は、組織部位での直接注射又は疾患状態若しくは毒性状態関連体液中へのアンチセンス核酸の注入を含む。代わりに、アンチセンス核酸分子は、選択された細胞を標的にするように改変して、次いで全身投与できる。例えば、全身投与のために、アンチセンス分子は、例えば、細胞表面受容体若しくは抗原と結合するペプチド又は抗体とアンチセンス核酸分子を連結させることにより、選択された細胞表面上で発現される受容体又は抗原と特異的に結合するように改変できる。アンチセンス核酸分子は、本明細書で記載するベクターを用いて細胞に送達することもできる。アンチセンス分子の十分な細胞内濃度を達成するために、アンチセンス核酸分子を強いpol II又はpol IIIプロモーターの制御下に配置したベクター構築物が好ましい。
本発明のアンチセンス核酸分子は、α-アノマー核酸分子であり得る。α-アノマー核酸分子は、通常のαユニットとは逆に、鎖が互いに並行して走る相補的RNAと特異的二本鎖ハイブリッドを形成する(Gaultierら、1987、Nucleic Acids Res. 15:6625〜6641頁)。アンチセンス核酸分子は、2’-o-メチルリボヌクレオチド(Inoueら、1987、Nucleic Acids Res. 15:6131〜6148頁)又はキメラRNA-DNAアナログ(Inoueら、1987、FEBS Lett. 215:327〜330頁)も含み得る。
本発明は、リボザイムも包含する。リボザイムは、それに対する相補的領域を有するmRNAのような一本鎖核酸を切断できるリボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNA分子である。つまり、リボザイム(例えばHaselhoff及びGerlach、1988、Nature 334:585〜591頁に記載されるようなハンマーヘッド型リボザイム)を用いて、mRNA転写産物を触媒により切断し、それにより、mRNAによりコードされるタンパク質の翻訳を阻害できる。マーカータンパク質をコードする核酸分子に対する特異性を有するリボザイムは、マーカーに相当するcDNAのヌクレオチド配列に基づいて設計できる。例えば、活性部位のヌクレオチド配列が切断されるヌクレオチド配列に相補的な、テトラヒメナ(Tetrahymena)L-19 IVS RNAの誘導体を構築できる(Cechら、米国特許第4,987,071号;及びCechら、米国特許第5,116,742号を参照されたい)。代わりに、本発明のポリペプチドをコードするmRNAを用いて、RNA分子のプールから特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNAを選択できる(例えばBartel及びSzostak、1993、Science 261:1411〜1418を参照されたい)。
本発明は、三重らせん構造を形成する核酸分子も包含する。例えば、本発明のマーカーの発現は、マーカー核酸若しくはタンパク質をコードする遺伝子の調節領域(例えばプロモーター及び/又はエンハンサー)に相補的なヌクレオチド配列を標的にして、標的細胞内での遺伝子の転写を妨げる三重らせん構造を形成することにより阻害できる。全般的に、Helene (1991) Anticancer Drug Des. 6(6):569〜84頁;Helene (1992) Ann. N.Y. Acad. Sci. 660:27〜36頁;及びMaher (1992) Bioassays 14(12):807〜15頁を参照されたい。
様々な実施形態では、本発明の核酸分子は、塩基部分、糖部分又はリン酸主鎖にて改変して、例えば分子の安定性、ハイブリダイゼーション又は溶解性を改善できる。例えば核酸のデオキシリボースリン酸主鎖を改変して、ペプチド核酸を作成できる(Hyrupら、1996、Bioorganic & Medicinal Chemistry 4(1): 5〜23頁を参照されたい)。本明細書で用いる場合、「ペプチド核酸」又は「PNA」は、デオキシリボースリン酸が偽ペプチド主鎖により置き換えられ、4の自然のヌクレオ塩基だけが保持されている核酸模倣物、例えばDNA模倣物のことをいう。PNAの中性主鎖は、低イオン強度条件下でDNA及びRNAとの特異的ハイブリダイゼーションを可能にすることが示されている。PNAオリゴマーの合成は、Hyrupら(1996)、既出; Perry-O’Keefeら(1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:14670〜675頁に記載されるような標準的な固相ペプチド合成プロトコールを用いて行うことができる。
PNAは、治療及び診断の用途において用いることができる。例えば、PNAは、例えば転写若しくは翻訳の停止を誘導するか又は複製を阻害することにより、遺伝子発現の配列特異的モジュレーションのためのアンチセンス又はアンチジーン薬剤として用いることができる。PNAは、例えばPNA有向PCRクランプ法による遺伝子における一塩基対変異の分析において;他の酵素、例えばS1ヌクレアーゼ(Hyrup (1996)、既出)と組み合わせて用いる場合の人工的制限酵素として;又はDNA配列及びハイブリダイゼーションのためのプローブ若しくはプライマーとして(Hyrup、1996、既出; Perry-O’Keefeら、1996、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:14670〜675頁)用いることもできる。
別の実施形態では、PNAは、例えばそれらの安定性又は細胞取り込みを増大させるために、親油性又はその他のヘルパー基をPNAに結合させること、PNA-DNAキメラを形成すること又はリポソーム若しくは当該技術において知られる薬物送達のその他の技術を用いることにより改変できる。例えば、PNA-DNAキメラを作成でき、これは、PNA及びDNAの有利な特性を組み合わせることができる。このようなキメラは、DNA認識酵素、例えばRNアーゼH及びDNAポリメラーゼがDNA部分と相互作用することを可能にしながら、PNA部分が、高い結合親和性及び特異性を提供する。PNA-DNAキメラは、塩基の積み重なり、ヌクレオ塩基間の結合の数及び方向の点で選択される適当な長さのリンカーを用いて連結できる(Hyrup、1996、既出)。PNA-DNAキメラの合成は、Hyrup (1996)、既出及びFinnら(1996) Nucleic Acids Res. 24(17):3357〜63頁に記載されるようにして行うことができる。例えば、DNA鎖は、ホスホラミダイトカップリング化学及び改変ヌクレオシド類似体を用いて固体支持体上で合成できる。5’-(4-メトキシトリチル)アミノ-5’-デオキシ-チミジンホスホラミダイトのような化合物を、PNAとDNAの5’端との間の連結として用いることができる(Magら、1989、Nucleic Acids Res. 17:5973〜88頁)。PNAモノマーを、次いで、段階的様式でカップリングさせて、5’PNAセグメントと3’DNAセグメントとを有するキメラ分子を生成する(Finnら、1996、Nucleic Acids Res. 24(17):3357〜63頁)。代わりに、キメラ分子を、5’DNAセグメントと3’PNAセグメントとを用いて合成できる(Peterserら、1975、Bioorganic Med. Chem. Lett. 5:1119〜11124頁)。
他の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えば宿主細胞受容体をin vivoで標的にするため)又は細胞膜(例えばLetsingerら、1989、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:6553〜6556頁;Lemaitreら、1987、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:648〜652頁;PCT公開WO 88/09810を参照されたい)若しくは血液脳関門(例えばPCT公開WO 89/10134を参照されたい)を横切る輸送を容易にする物質のような他の懸垂基を含むことができる。さらに、オリゴヌクレオチドは、ハイブリダイゼーション誘因切断物質(例えばKrolら、1988、Bio/Techniques 6:958〜976頁を参照されたい)又はインターカレート剤(例えばZon、1988、Pharm. Res. 5:539〜549を参照されたい)で改変できる。このために、オリゴヌクレオチドは、別の分子、例えばペプチド、ハイブリダイゼーション誘因架橋剤、輸送物質、ハイブリダイゼーション誘因切断物質などにコンジュゲートできる。
本発明は、本発明の核酸に相補的な少なくとも1の領域を有する分子ビーコン核酸も含み、分子ビーコンが、試料における本発明の核酸の存在の定量のために有用になるようにする。「分子ビーコン」核酸は、相補領域の対を含み、蛍光体及びそれと会合する蛍光消光剤を有する核酸である。蛍光体及び消光剤は、相補領域が互いにアニールした場合に、蛍光体の蛍光が消光剤により消光されるような方向で核酸の異なる部分と会合している。核酸の相補領域が互いにアニールしない場合、蛍光体の蛍光は、より少ない程度で消光される。分子ビーコン核酸は、例えば、米国特許第5,876,930号に記載される。
D.単離タンパク質及び抗体
本発明の一態様は、単離マーカータンパク質及びその生物活性部分、並びにマーカータンパク質又はその断片に対する抗体を産生するための免疫原として用いるために適切なポリペプチド断片に関する。一実施形態では、天然マーカータンパク質を、適当な精製スキームにより、標準的なタンパク質精製技術を用いて細胞又は組織供給源から単離できる。別の実施形態では、マーカータンパク質全体又はセグメントを含むタンパク質又はペプチドは、組換えDNA技術により生成される。組換え発現の代わりに、このようなタンパク質又はペプチドを、標準的なペプチド合成技術を用いて化学的に合成できる。
「単離」若しくは「精製」タンパク質又はその生物活性部分は、タンパク質が由来する細胞若しくは組織供給源からの細胞性物質又はその他の混入タンパク質を実質的に含まないか、或いは化学合成される場合に、化学的前駆体又はその他の化学物質を実質的に含まない。「細胞性物質を実質的に含まない」との言い回しは、タンパク質が単離されるか又は組換え生成される細胞の細胞性成分からタンパク質が分離された、タンパク質の調製物を含む。よって、細胞性物質を実質的に含まないタンパク質は、約30%、20%、10%又は5%未満(乾燥重量で)の異種タンパク質(本明細書において「混入タンパク質」ともいう)を有するタンパク質の調製物を含む。タンパク質又はその生物活性部分が組換え生成される場合、これも、培養培地を実質的に含まないことが好ましく、すなわち培養培地は、タンパク質調製物の容量の約20%、10%又は5%未満である。タンパク質が化学合成される場合、これは、化学的前駆体又はその他の化学物質を実質的に含まないことが好ましく、すなわち、これは、タンパク質の合成に関与する化学的前駆体又はその他の化学物質から分離される。したがって、タンパク質のこのような調製物は、約30%、20%、10%、5%未満(乾燥重量で)の、対象のポリペプチド以外の化学的前駆体又は化合物を有する。
マーカータンパク質の生物活性部分は、マーカータンパク質のアミノ酸配列と十分に同一若しくはそれに由来するアミノ酸配列であって、全長タンパク質よりも少ないアミノ酸を含み、対応する全長タンパク質の少なくとも1の活性を示すアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。典型的に、生物活性部分は、対応する全長タンパク質の少なくとも1の活性を有するドメイン又はモチーフを含む。本発明のマーカータンパク質の生物活性部分は、例えば10、25、50、100以上のアミノ酸長であるポリペプチドであり得る。さらに、マーカータンパク質の他の領域が欠失したその他の生物活性部分を、組換え技術により調製して、マーカータンパク質の天然形の1以上の機能活性について評価できる。
好ましいマーカータンパク質は、実施例で記載する遺伝子のいずれかをコードする配列を含むヌクレオチド配列によりコードされる。その他の有用なタンパク質は、これらの配列の1と実質的に同一(例えば少なくとも約40%、好ましくは50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%)であり、対応する自然に存在するマーカータンパク質の機能活性を保持するが、自然の対立遺伝子変動又は突然変異誘発によりアミノ酸配列が異なる。
2のアミノ酸配列又は2の核酸のパーセント同一性を決定するために、配列を、最適比較目的のために整列させる(例えば、第一アミノ酸の配列又は核酸配列に、第二アミノ又は核酸配列との最適なアラインメントのためにギャップを導入できる)。対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置でのアミノ酸残基又はヌクレオチドを、次いで、比較する。第一配列における位置を、第二配列における対応する位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドが占める場合、これらの分子は、その位置にて同一である。好ましくは、2の配列間のパーセント同一性は、グローバルアラインメントを用いて算出される。代わりに、2の配列間のパーセント同一性は、ローカルアラインメントを用いて算出される。2の配列間のパーセント同一性は、配列により共有される同一位置の数の関数である(すなわち、%同一性=同一位置の数/位置の総数(例えばオーバーラップする位置)×100)。一実施形態では、2の配列は同じ長さである。別の実施形態では、2の配列は同じ長さでない。
2の配列間のパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成できる。2の配列の比較のために利用される数学的アルゴリズムの好ましい非限定的な例は、Karlin及びAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873〜5877頁におけるように改変されたKarl及びAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264〜2268頁のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、Altschulら(1990) J. Mol. Biol. 215:403〜410頁のBLASTN及びBLASTXプログラムに組み込まれている。BLASTヌクレオチド検索は、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いて行って、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索は、BLASTPプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて行って、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的のためのギャップを含むアラインメントを得るために、ギャップドBLASTと呼ばれる新しいバージョンのBLASTアルゴリズムを、Altschulら(1997) Nucleic Acids Res. 25:3389〜3402頁に記載されるようにして利用でき、これは、プログラムBLASTN、BLASTP及びBLASTXについてのギャップドローカルアラインメントを行うことができる。代わりに、PSI-Blastを用いて、分子間の離れた関係を検出する反復検索を行うことができる。BLAST、ギャップドBLAST及びPSI-Blastプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えばBLASTX及びBLASTN)のデフォルトパラメータを用いることができる。http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照されたい。配列の比較のために利用される数学的アルゴリズムの別の好ましい非限定的な例は、Myers及びMiller、(1988) CABIOS 4:11〜17頁のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120残基重みテーブル、ギャップ長ペナルティ12、ギャップペナルティ4を用いることができる。ローカル配列類似性の領域の同定及びアラインメントのために有用なまだ別のアルゴリズムは、Pearson及びLipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444〜2448頁に記載されるFASTAアルゴリズムである。ヌクレオチド又はアミノ酸配列を比較するためにFASTAアルゴリズムを用いる場合、PAM120残基重みテーブルを、例えば、kタプル値2とともに用いることができる。
2の配列間のパーセント同一性は、ギャップを許容するか又はせずに、上記のものと同様の技術を用いて決定できる。パーセント同一性の算出において、厳密な一致のみを計数する。
本発明は、マーカータンパク質若しくはそのセグメントを含むキメラ又は融合タンパク質も提供する。本明細書で用いる場合、「キメラタンパク質」又は「融合タンパク質」は、異種ポリペプチド(すなわちマーカータンパク質以外のポリペプチド)と作動可能に連結したマーカータンパク質全体又は一部(好ましくは生物活性部分)を含む。融合タンパク質のうちで、用語「作動可能に連結した」は、マーカータンパク質又はそのセグメントと異種ポリペプチドとが、互いにインフレームで融合されることを示すことを意図する。異種ポリペプチドは、マーカータンパク質又はセグメントのアミノ末端又はカルボキシル末端と融合できる。
ある有用な融合タンパク質は、GST融合タンパク質であり、ここでは、マーカータンパク質又はセグメントは、GST配列のカルボキシル末端と融合する。このような融合タンパク質は、本発明の組換えポリペプチドの精製を容易にできる。
別の実施形態では、融合タンパク質は、異種シグナル配列を、そのアミノ末端に含有する。例えば、マーカータンパク質の天然シグナル配列を取り除き、別のタンパク質からのシグナル配列で置き換えることができる。例えば、バキュロウイルスエンベロープタンパク質のgp67分泌配列を、異種シグナル配列として用いることができる(Ausubelら編、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、NY、1992)。真核異種シグナル配列のその他の例は、メリチン及びヒト胎盤アルカリホスファターゼ(Stratagene; La Jolla、California)の分泌配列を含む。別の例では、有用な原核異種シグナル配列は、phoA分泌シグナル(Sambrookら、既出)及びプロテインA分泌シグナル(Pharmacia Biotech; Piscataway、New Jersey)を含む。
まだ別の実施形態では、融合タンパク質は、免疫グロブリン融合タンパク質であり、ここでは、マーカータンパク質の全体又は一部が、免疫グロブリンタンパク質ファミリーのメンバーに由来する配列と融合されている。本発明の免疫グロブリン融合タンパク質は、医薬組成物に組み込むことができ、対象に投与して、リガンド(可溶性又は膜結合性)と細胞表面のタンパク質(受容体)との相互作用を阻害し、それによりin vivoでのシグナル伝達を抑制できる。免疫グロブリン融合タンパク質を用いて、マーカータンパク質の同族リガンドのバイオアベイラビリティに影響を与えることができる。リガンド/受容体相互作用の阻害は、増殖性及び分化性障害を処置するため並びに細胞生存をモジュレートする(例えば促進又は阻害する)ために、治療上有用であり得る。さらに、本発明の免疫グロブリン融合タンパク質は、免疫原として用いて、対象のマーカータンパク質に対する抗体を生成し、リガンドを精製し、スクリーニングアッセイにおいて、リガンドとのマーカータンパク質の相互作用を阻害する分子を同定できる。
本発明のキメラ及び融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技術により生成できる。別の実施形態では、融合遺伝子は、自動化DNA合成機を含む従来の技術により合成できる。代わりに、遺伝子断片のPCR増幅は、2の連続遺伝子断片間の相補性突出を生じさせるアンカープライマーを用いて行って、その後、これらをアニールし、再増幅して、キメラ遺伝子配列を作成できる(例えばAusubelら、既出を参照されたい)。さらに、融合部分(例えばGSTポリペプチド)を既にコードする多くの発現ベクターが、商業的に入手可能である。本発明のポリペプチドをコードする核酸は、融合部分が本発明のポリペプチドとインフレームで連結されるようにこのような発現ベクターにクローニングできる。
シグナル配列を用いて、マーカータンパク質の分泌及び単離を容易にすることができる。シグナル配列は、疎水性アミノ酸のコアにより典型的に特徴付けられ、1以上の切断事象において分泌中に成熟タンパク質から一般的に切断される。このようなシグナルペプチドは、分泌経路を通過するにつれて、成熟タンパク質からのシグナル配列の切断を可能にするプロセシング部位を含有する。よって、本発明は、シグナル配列を有するマーカータンパク質、融合タンパク質又はそれらのセグメント、及びシグナル配列がタンパク質分解により切断されたこのようなタンパク質(すなわち切断生成物)に関する。一実施形態では、シグナル配列をコードする核酸配列は、発現ベクターにおいてマーカータンパク質又はそのセグメントのような対象のタンパク質に作動可能に連結できる。シグナル配列は、発現ベクターで形質転換した真核宿主からのようにタンパク質の分泌を駆動し、シグナル配列は、その後又は同時に切断される。タンパク質は、次いで、当該技術において認められている方法により細胞外培地から容易に生成できる。代わりに、シグナル配列は、GSTドメインのような精製を容易にする配列を用いて対象のタンパク質に連結できる。
本発明は、マーカータンパク質のバリアントにも関する。このようなバリアントは、アゴニスト(模倣物)又はアンタゴニストのいずれかとして機能できる改変アミノ酸配列を有する。バリアントは、突然変異誘発、例えば分散点突然変異又はトランケーションにより作成できる。アゴニストは、タンパク質の自然に存在する形の生物活性と実質的に同じ又はその部分集合を保持できる。タンパク質アンタゴニストは、タンパク質の自然に存在する形の1以上の活性を、例えば対象のタンパク質を含む細胞シグナルカスケードの下流又は上流のメンバーと競合的に結合することにより、阻害できる。よって、特異的生物学的効果は、限定された機能のバリアントを用いる処置により誘引できる。タンパク質の自然に存在する形の生物活性の部分集合を有するバリアントを用いる対象の処置は、タンパク質の自然に存在する形を用いる処置と比べて、対象における副作用がより少ないことが可能である。
アゴニスト(模倣物)又はアンタゴニストのいずれかとして機能するマーカータンパク質のバリアントは、本発明のタンパク質の変異体、例えばトランケーション変異体のコンビナトリアルライブラリーを、アゴニスト又はアンタゴニスト活性についてスクリーニングすることにより同定できる。一実施形態では、バリアントのまだらな(variegated)ライブラリーは、核酸レベルでのコンビナトリアル突然変異誘発により作成され、まだらな遺伝子ライブラリーによりコードされる。バリアントのまだらなライブラリーは、例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物を、潜在的タンパク質配列の縮重セットが個別のポリペプチドとして又は代わりにより大きい融合タンパク質のセット(例えばファージディスプレイのために)として発現可能であるように、遺伝子配列に酵素によりライゲーションさせることにより生成できる。縮重オリゴヌクレオチド配列からマーカータンパク質の潜在的バリアントのライブラリーを生成するために用いることができる様々な方法がある。縮重オリゴヌクレオチドを合成するための方法は、当該技術において知られている(例えばNarang、1983、Tetrahedron 39:3頁;Itakuraら、1984、Annu. Rev. Biochem. 53:323頁;Itakuraら、1984、Science 198:1056頁;Ikeら、1983 Nucleic Acid Res. 11:477頁を参照されたい)。
さらに、マーカータンパク質のセグメントのライブラリーを用いて、バリアントマーカータンパク質又はそのセグメントのスクリーニング及びその後の選択のためのポリペプチドのまだらな集団を作成できる。例えば、コード配列断片のライブラリーは、対象のコード配列の二本鎖PCR断片を、ヌクレアーゼで、ニックが1分子あたり約1回だけ生じる条件下で処置し、二本鎖DNAを変性し、DNAを再生して、異なるニックを有する生成物からのセンス/アンチセンス対を含み得る二本鎖DNAを形成し、再形成された二本鎖から、S1ヌクレアーゼでの処置により一本鎖部分を取り除き、得られた断片ライブラリーを発現ベクターにライゲーションすることにより作成できる。この方法により、様々なサイズの対象のタンパク質のアミノ末端及び内部の断片をコードする発現ライブラリーを導くことができる。
点突然変異又はトランケーションにより作られたコンビナトリアルライブラリーの遺伝子生成物をスクリーニングするため、及び選択された特性を有する遺伝子生成物についてcDNAライブラリーをスクリーニングするためのいくつかの技術が、当該技術において知られている。大きい遺伝子ライブラリーをスクリーニングするための、ハイスループット分析に適する最も広く用いられている技術は、遺伝子ライブラリーを複製可能な発現ベクターにクローニングすることと、適当な細胞を、得られたベクターのライブラリーで形質転換することと、コンビナトリアル遺伝子を、所望の活性の検出が、生成物が検出される遺伝子をコードするベクターの単離を容易にする条件下で発現させることとを典型的に含む。ライブラリーにおける機能的変異体の頻度を増大させる技術である再帰的アンサンブル突然変異誘発(REM)を、スクリーニングアッセイと組み合わせて用いて、本発明のタンパク質のバリアントを同定できる(Arkin及びYourvan、1992、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:7811〜7815頁;Delgraveら、1993、Protein Engineering 6(3):327〜331頁)。
本発明の別の態様は、本発明のタンパク質に対する抗体に関する。好ましい実施形態では、抗体は、マーカータンパク質又はその断片と特異的に結合する。本明細書で交換可能に用いられる用語「抗体(antibody)」及び「抗体(antibodies)」は、免疫グロブリン分子並びに免疫グロブリン分子の免疫活性部分を含むその断片及び誘導体のことをいう(すなわち、そのような部分は、マーカータンパク質のような抗原と特異的に結合する抗原結合部位、例えばマーカータンパク質のエピトープを含有する)。本発明のタンパク質と特異的に結合する抗体は、タンパク質と結合するが、試料、例えば生体試料におけるその他の分子(タンパク質を自然に含有する)と実質的に結合しない抗体である。免疫グロブリン分子の免疫活性部分の例は、それらに限定されないが、単鎖抗体(scAb)、F(ab)及びF(ab’)2断片を含む。
本発明の単離タンパク質又はその断片は、免疫原として用いて、抗体を作成できる。全長タンパク質を用いることができるか、又は代わりに、本発明は、免疫原として用いるための抗原性ペプチド断片を提供する。本発明のタンパク質の抗原性ペプチドは、本発明のタンパク質のうちの1のアミノ酸配列の少なくとも8(好ましくは10、15、20又は30以上)のアミノ酸残基を含み、ペプチドに対して産生された抗体が、タンパク質と特異的免疫複合体を形成するようにタンパク質の少なくとも1のエピトープを包含する。抗原性ペプチドが包含する好ましいエピトープは、タンパク質の表面にある領域、例えば親水性領域である。疎水性配列分析、親水性配列分析又は同様の分析を行って、親水性領域を同定できる。好ましい実施形態では、単離マーカータンパク質又はその断片を免疫原として用いる。
免疫原を典型的に用いて、ウサギ、ヤギ、マウス又はその他の哺乳動物若しくは脊椎動物のような適切な(すなわち免疫適格性の)対象を免疫することにより抗体を調製する。適当な免疫原性調製物は、例えば、組換え発現又は化学合成タンパク質又はペプチドを含有できる。調製物は、フロイントの完全若しくは不完全アジュバントのようなアジュバント、又は同様の免疫刺激剤をさらに含有できる。好ましい免疫原組成物は、例えば本発明のタンパク質の組換え発現のために非ヒト宿主細胞を用いて作られた免疫原組成物のように、他のヒトタンパク質を含有しないものである。このようにして、得られる抗体組成物は、本発明のタンパク質以外のヒトタンパク質と結合しないか又は結合が低減される。
本発明は、ポリクローナル及びモノクローナル抗体を提供する。用語「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」は、本明細書で用いる場合、特定のエピトープと免疫反応できる抗原結合部位を1種だけ含有する抗体分子の集団のことをいう。好ましいポリクローナル及びモノクローナル抗体組成物は、本発明のタンパク質に対する抗体について選択されたものである。特に好ましいポリクローナル及びモノクローナル抗体調製物は、マーカータンパク質又はその断片に対する抗体だけを含有するものである。
ポリクローナル抗体は、適切な対象を、本発明のタンパク質を免疫原として用いて免疫することにより調製できる。免疫された対象における抗体価を、固定化ポリペプチドを用いる酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)のような標準的な技術により経時的にモニタリングできる。免疫化の後の適当なとき、例えば特異的抗体価が最も高いときに、抗体生成細胞を対象から得て、Kohler及びMilstein (1975) Nature 256:495〜497頁により元々記載されたハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら、1983、Immunol. Today 4:72頁を参照されたい)、EBV-ハイブリドーマ技術(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss, Inc.、1985中のColeら、77〜96頁を参照されたい)又はトリオーマ技術のような標準的な技術によりモノクローナル抗体(mAb)を調製するために用いることができる。ハイブリドーマを生成するための技術は公知である(全般的にCurrent Protocols in Immunology、Coliganら編、John Wiley & Sons、New York、1994を参照されたい)。本発明のモノクローナル抗体を生成するハイブリドーマ細胞は、ハイブリドーマ培養物上清を、対象のポリペプチドと結合する抗体について、例えば標準的なELISAアッセイによりスクリーニングすることにより検出される。
モノクローナル抗体分泌ハイブリドーマを調製する代わりに、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体は、組換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(例えば抗体ファージディスプレイライブラリー)を、対象のポリペプチドでスクリーニングすることにより同定して単離できる。ファージディスプレイライブラリーを作成及びスクリーニングするためのキットは、商業的に入手可能である(例えばPharmacia組換えファージ抗体システム、カタログ番号27-9400-01;及びStratagene SurfZAPファージディスプレイキット、カタログ番号240612)。さらに、抗体ディスプレイライブラリーの作成及びスクリーニングにおいて用いるために特に適する方法及び試薬の例は、例えば米国特許第5,223,409号;PCT公開WO 92/18619;PCT公開WO 91/17271;PCT公開WO 92/20791;PCT公開WO 92/15679;PCT公開WO 93/01288;PCT公開WO 92/01047;PCT公開WO 92/09690;PCT公開WO 90/02809;Fuchsら(1991) Bio/Technology 9:1370〜1372頁;Hayら(1992) Hum. Antibod. Hybridomas 3:81〜85頁;Huseら(1989) Science 246:1275〜1281頁;Griffithsら(1993) EMBO J. 12:725〜734頁で見出すことができる。
本発明は、本発明のタンパク質と特異的に結合する組換え抗体も提供する。好ましい実施形態では、組換え抗体は、マーカータンパク質又はその断片と特異的に結合する。組換え抗体は、それらに限定されないが、ヒト及び非ヒトの部分の両方を含むキメラ及びヒト化モノクローナル抗体、単鎖抗体並びに多重特異性抗体を含む。キメラ抗体は、マウスmAbに由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有するもののような、異なる部分が異なる動物種に由来する分子である。(例えばCabillyら、米国特許第4,816,567号;及びBossら、米国特許第4,816,397号(これらは、本明細書に参照によりそれらの全体が組み込まれている)を参照されたい)。単鎖抗体は、抗原結合部位を有し、単一ポリペプチドからなる。これらは、当該技術において知られている技術により、例えば、Ladnerら、米国特許第4,946,778号(これは、本明細書に参照によりその全体が組み込まれている);Birdら、(1988) Science 242:423〜426頁;Whitlowら、(1991) Methods in Enzymology 2:1〜9頁;Whitlowら、(1991) Methods in Enzymology 2:97〜105頁;及びHustonら、(1991) Methods in Enzymology Molecular Design and Modeling: Concepts and Applications 203:46〜88頁に記載される方法を用いて生成できる。多重特異性抗体は、異なる抗原と特異的に結合する少なくとも2の抗原結合部位を有する抗体分子である。このような分子は、当該技術において知られている技術により、例えばSegal、米国特許第4,676,980号(この開示は、本明細書に参照によりその全体が組み込まれている);Holligerら、(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444〜6448頁;Whitlowら、(1994) Protein Eng. 7:1017〜1026頁及び米国特許第6,121,424号に記載される方法を用いて生成できる。
ヒト化抗体は、非ヒト種からの1以上の相補性決定領域(CDR)と、ヒト免疫グロブリン分子からのフレームワーク領域とを有する非ヒト種からの抗体分子である。(例えばQueen、米国特許第5,585,089号(この開示は、本明細書に参照によりその全体が組み込まれている)を参照されたい)。ヒト化モノクローナル抗体は、当該技術において知られている組換えDNA技術により、例えばPCT公開WO 87/02671;欧州特許出願第184,187号;欧州特許出願第171,496号;欧州特許出願第173,494号;PCT公開WO 86/01533;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願第125,023号;Betterら(1988) Science 240:1041〜1043頁;Liuら(1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439〜3443頁;Liuら(1987) J. Immunol. 139:3521〜3526頁;Sunら(1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:214〜218頁;Nishimuraら(1987) Cancer Res. 47:999〜1005頁;Woodら(1985) Nature 314:446〜449頁;及びShawら(1988) J. Natl. Cancer Inst. 80:1553〜1559頁);Morrison (1985) Science 229:1202〜1207頁;Oiら(1986) Bio/Techniques 4:214頁;米国特許第5,225,539号;Jonesら(1986) Nature 321:552〜525頁;Verhoeyanら(1988) Science 239:1534頁;並びにBeidlerら(1988) J. Immunol. 141:4053〜4060頁に記載される方法を用いて生成できる。
より具体的に、ヒト化抗体は、例えば、内因性免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子を発現できないが、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子を発現できるトランスジェニックマウスを用いて生成できる。トランスジェニックマウスを、通常の様式で、選択された抗原、例えば本発明のマーカーに相当するポリペプチドの全体又は一部で免疫する。抗原に対するモノクローナル抗体を、従来のハイブリドーマ技術を用いて得ることができる。トランスジェニックマウスが保有するヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、B細胞分化の間に再構成され、その後、クラススイッチ及び体細胞変異を受ける。よって、このような技術を用いて、治療上有用なIgG、IgA及びIgE抗体を生成できる。ヒト抗体を生成するためのこの技術の概要について、Lonberg及びHuszar (1995) Int. Rev. Immunol. 13:65〜93頁を参照されたい。ヒト抗体及びヒトモノクローナル抗体を生成するこの技術の詳細な議論並びにこのような抗体を生成するためのプロトコールについて、例えば米国特許第5,625,126号;米国特許第5,633,425号;米国特許第5,569,825号;米国特許第5,661,016号;及び米国特許第5,545,806号を参照されたい。さらに、Abgenix, Inc.(Freemont、CA)のような企業は、上記と同様の技術を用いて選択された抗原に対するヒト抗体を提供することに従事している。
選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は、「誘導選択」と呼ばれる技術を用いて作成できる。このアプローチでは、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えばマウス抗体を用いて、同じエピトープを認識する完全ヒト抗体の選択を誘導する(Jespersら、1994、Bio/technology 12:899〜903頁)。
本発明の抗体は、生成(例えば対象の血液又は血清から)又は合成の後に単離でき、公知の技術によりさらに精製できる。例えば、IgG抗体を、プロテインAクロマトグラフィーを用いて精製できる。本発明のタンパク質に特異的な抗体は、例えば親和性クロマトグラフィーにより選択又は(例えば部分的に精製)又は精製できる。例えば、組換え発現及び精製された(又は部分的に精製された)本発明のタンパク質は、本明細書で記載するようにして生成され、例えばクロマトグラフィーカラムのような固体支持体と共有結合又は非共有結合によりカップリングさせる。次いで、カラムを用いて、多数の異なるエピトープに対する抗体を含有する試料から、本発明のタンパク質に特異的な抗体を親和性精製でき、それにより、実質的に精製された抗体組成物、すなわち混入抗体を実質的に含まないものを作成できる。実質的に精製された抗体組成物により、この文脈において、抗体試料が、最大で30%(乾燥重量で)だけの、本発明の所望のタンパク質のもの以外のエピトープに対する混入抗体を含有し、好ましくは試料の最大で20%、まだより好ましくは最大で10%、最も好ましくは最大で5%(乾燥重量で)が混入抗体である。精製抗体組成物は、組成物における抗体の少なくとも99%が、本発明の所望のタンパク質に対するものであることを意味する。
好ましい実施形態では、本発明の実質的に精製された抗体は、本発明のタンパク質のシグナルペプチド、分泌配列、細胞外ドメイン、膜貫通若しくは細胞質ドメイン、又は細胞膜と特異的に結合してよい。特に好ましい実施形態では、本発明の実質的に精製された抗体は、本発明のタンパク質のアミノ酸配列の分泌配列又は細胞外ドメインと特異的に結合する。より好ましい実施形態では、本発明の実質的に精製された抗体は、マーカータンパク質のアミノ酸配列の分泌配列又は細胞外ドメインと特異的に結合する。
本発明のタンパク質に対する抗体を用いて、親和性クロマトグラフィー又は免疫沈降のような標準的な技術によりタンパク質を単離できる。さらに、このような抗体を用いて、マーカータンパク質又はその断片(例えば細胞可溶化液又は細胞上清中)を検出して、マーカーの発現レベル及びパターンを評価できる。抗体は、診断的に用いて、臨床検査手順の一部として組織又は体液(例えば疾患状態又は毒性状態関連体液)におけるタンパク質レベルをモニタリングして、例えば、所定の処置計画の効力を決定することもできる。検出は、抗体誘導体の使用により容易にでき、該誘導体は、検出可能な物質とカップリングした本発明の抗体を含む。検出可能な物質の例は、様々な酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料及び放射活性材料を含む。適切な酵素の例は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ又はアセチルコリンエステラーゼを含み、適切な補欠分子族複合体の例は、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンを含み、適切な蛍光材料の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド又はフィコエリスリンを含み、発光材料の例は、ルミノールを含み、生物発光物質の例は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン及びエクオリンを含み、適切な放射活性材料の例は、125I、131I、35S又は3Hを含む。
本発明の抗体は、がんを処置するための治療剤として用いることもできる。好ましい実施形態では、本発明の完全ヒト抗体は、ヒトがん患者、特にがんを有するものの治療処置のために用いられる。別の好ましい実施形態では、マーカータンパク質又はその断片と特異的に結合する抗体は、治療処置のために用いられる。さらに、このような治療抗体は、細胞毒、治療剤又は放射活性金属イオンのような治療部分とコンジュゲートした抗体を含む抗体誘導体又は免疫毒素であってよい。細胞毒素又は細胞毒性剤は、細胞にとって有害な任意の物質を含む。その例は、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール及びピューロマイシン並びにそれらの類似体又はホモログを含む。治療剤は、それらに限定されないが、代謝拮抗剤(例えばメトトレキセート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシルデカルバジン)、アルキル化剤(例えばメクロレタミン、チオテパクロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)及びロムスチン(CCNU)、シクロフォスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC及びシス-ジクロロジアミン白金(II) (DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン類(例えばダウノルビシン(以前のダウノマイシン)及びドキソルビシン)、抗生物質(例えばダクチノマイシン(以前のアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン及びアントラマイシン(AMC))及び有糸分裂阻害剤(例えばビンクリスチン及びビンブラスチン)を含む。
本発明のコンジュゲート抗体は、伝統的な化学的治療剤に限定されると解釈されない薬物部分について、所定の生物応答を改変するために用いることができる。例えば、薬物部分は、所望の生物活性を有するタンパク質又はポリペプチドであり得る。このようなタンパク質は、例えば、リボソーム阻害タンパク質(Betterら、米国特許第6,146,631号(この開示は、本明細書にその全体が組み込まれている)を参照されたい)、アブリン、リシンA、シュードモナス外毒素若しくはジフテリア毒素のような毒素、腫瘍壊死因子、アルファ-インターフェロン、β-インターフェロン、神経増殖因子、血小板由来増殖因子、組織プラスミノゲンアクチベータのようなタンパク質、又は例えばリンホカイン、インターロイキン-1(「IL-1」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」)若しくはその他の増殖因子のような生物応答改変物質を含み得る。
このような治療部分を抗体にコンジュゲートするための技術は、公知であり、例えば、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy、Reisfeldら(編)、243〜56頁中のArnonら、「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」(Alan R. Liss, Inc. 1985);Controlled Drug Delivery (第2版)、Robinsonら(編)、623〜53中のHellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」(Marcel Dekker, Inc. 1987);Monoclonal Antibodies ’84: Biological And Clinical Applications、Pincheraら(編)、475〜506頁中のThorpe、「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review」(1985);Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy、Baldwinら(編)、303〜16頁中の「Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」(Academic Press 1985)、及びThorpeら、「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates」、Immunol. Rev.、62:119〜58頁(1982)を参照されたい。
したがって、一態様では、本発明は、実質的に精製された抗体、抗体断片及び誘導体(これらは全て本発明のタンパク質、好ましくはマーカータンパク質と特異的に結合する)を提供する。様々な実施形態では、本発明の実質的に精製された抗体又はその断片若しくは誘導体は、ヒト、非ヒト、キメラ及び/又はヒト化抗体であり得る。別の態様では、本発明は、非ヒト抗体、抗体断片及び誘導体(これらは全て本発明のタンパク質、好ましくはマーカータンパク質と特異的に結合する)を提供する。このような非ヒト抗体は、ヤギ、マウス、ヒツジ、ウマ、ニワトリ、ウサギ又はラット抗体であり得る。代わりに、本発明の非ヒト抗体は、キメラ及び/又はヒト化抗体であり得る。さらに、本発明の非ヒト抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり得る。まださらなる態様では、本発明は、モノクローナル抗体、抗体断片及び誘導体(これらは全て本発明のタンパク質、好ましくはマーカータンパク質と特異的に結合する)を提供する。モノクローナル抗体は、ヒト、ヒト化、キメラ及び/又は非ヒト抗体であり得る。
本発明は、検出可能物質とコンジュゲートした本発明の抗体と、使用についての説明書とを含有するキットも提供する。本発明のまだ別の態様は、本発明の抗体を含む医薬組成物である。一実施形態では、医薬組成物は、本発明の抗体と、薬学的に許容される担体とを含む。
E.予測医学
本発明は、診断アッセイ、予後アッセイ、薬理ゲノミクス及びモニタリング臨床試験を予後(予測)の目的のために用いて、それにより個体を予防的に処置する予測医学の分野に関する。したがって、本発明の一態様は、1以上のマーカータンパク質又は核酸の発現レベルを測定して、個体において疾患若しくは薬物により誘導される毒性が発展する危険性があるかを決定するための診断アッセイに関する。このようなアッセイは、予後又は予測の目的のために用いて、それにより、障害の開始前に個体を予防的に処置できる。
本発明のまだ別の態様は、臨床試験における本発明のマーカーの発現又は活性に対する薬剤(例えば障害若しくは薬物により誘導される毒性を阻害又は処置若しくは妨げるために投与される薬物或いはその他の化合物{すなわち、そのような処置が有し得る任意の薬物により誘導される毒性効果を理解するため})の影響をモニタリングすることに関する。これらの及びその他の薬剤は、以下の項においてさらに詳細に記載する。
F.診断アッセイ
生体試料におけるマーカータンパク質又は核酸の存在又は非存在を検出するための例示的方法は、生体試料(例えば毒性関連体液又は組織試料)を試験対象から得るステップと、生体試料を、ポリペプチド又は核酸(例えばmRNA、ゲノムDNA又はcDNA)を検出できる化合物又は物質と接触させるステップとを含む。本発明の検出方法は、よって、mRNA、タンパク質、cDNA又はゲノムDNAを、例えば生体試料においてin vitroで及びin vivoで検出するために用いることができる。例えば、mRNAの検出のためのin vitro技術は、ノーザンハイブリダイゼーション及びin situハイブリダイゼーションを含む。マーカータンパク質の検出のためのin vitro技術は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット、免疫沈降及び免疫蛍光を含む。ゲノムDNAの検出のためのin vitro技術は、サザンハイブリダイゼーションを含む。mRNAの検出のためのin vivo技術は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ノーザンハイブリダイゼーション及びin situハイブリダイゼーションを含む。さらに、マーカータンパク質の検出のためのin vivo技術は、対象に、タンパク質又はその断片に対する標識抗体を導入することを含む。例えば、抗体は、対象におけるその存在及び場所を標準的なイメージング技術により検出できる放射活性マーカーで標識できる。
このような診断及び予後アッセイの全般的な原理は、マーカー及びプローブを含有し得る試料又は反応混合物を、適当な条件下で、マーカーとプローブとが相互作用して結合することを可能にするのに十分な時間にわたって調製することと、よって、取り出して、且つ/又は反応混合物中で検出できる複合体を形成することとを含む。これらのアッセイは、様々な方法で実行できる。
例えば、このようなアッセイを実行するためのある方法は、マーカー又はプローブを、基材とも呼ばれる固相支持体上に固定することと、固相上に固定された標的マーカー/プローブ複合体を反応の最後に検出することとを含み得る。このような方法の一実施形態では、マーカーの存在及び/又は濃度についてアッセイされる対象からの試料を、担体又は固相支持体上に固定できる。別の実施形態では、逆の状況が可能であり、ここでは、プローブを固相に固定し、対象からの試料がアッセイの非固定成分として反応することを可能にすることができる。
アッセイ成分を固相に固定するための多くの確立された方法が存在する。これらは、限定することなく、ビオチン及びストレプトアビジンのコンジュゲーションにより固定されるマーカー又はプローブ分子を含む。このようなビオチン化アッセイ成分は、当該技術において知られる技術(例えばビオチン化キット、Pierce Chemicals、Rockford、IL)を用いてビオチン-NHS(N-ヒドロキシ-スクシンイミド)から調製し、ストレプトアビジン被覆96ウェルプレート(Pierce Chemical)のウェルに固定化できる。あるいくつかの実施形態では、固定化されたアッセイ成分を有する表面は、前もって調製して保存できる。
このようなアッセイのためのその他の適切な担体又は固相支持体は、マーカー又はプローブが属する分子のクラスと結合できる任意の材料を含む。公知の支持体又は担体は、それらに限定されないが、ガラス、ポリスチレン、ナイロン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン、デキストラン、アミラーゼ、自然及び改変セルロース、ポリアクリルアミド、はんれい岩及びマグネタイトを含む。
上記のアプローチを用いてアッセイを実行するために、非固定化成分を、第二成分が固定された固相に加える。反応が完了した後に、複合体を形成していない成分を、形成されたいずれの複合体も固相上に固定化されたままになる条件下で取り除く(例えば洗浄により)。固相に固定されたマーカー/プローブの複合体の検出は、本明細書で概説するいくつかの方法において達成できる。
好ましい実施形態では、非固定アッセイ成分である場合にプローブを、検出及びアッセイの読出しの目的のために、本明細書で論じ、且つ当業者に公知の検出可能な標識で直接又は間接的に標識できる。
例えば、蛍光エネルギー転移(例えばLakowiczら、米国特許第5,631,169号;Stavrianopoulosら、米国特許第4,868,103号を参照されたい)の技術を利用することにより、いずれの成分(マーカー又はプローブ)のさらなる操作又は標識なしで、マーカー/プローブ複合対形成を直接検出することも可能である。第一「ドナー」分子上の蛍光体標識は、適当な波長の入射光での励起の際に、放射される蛍光エネルギーが第二「アクセプター」分子上の蛍光標識により吸収され、これが次いで吸収したエネルギーにより蛍光を発することができるように選択される。代わりに、「ドナー」タンパク質分子は、トリプトファン残基の自然の蛍光エネルギーを単純に利用できる。標識は、異なる波長の光を放射して、「アクセプター」分子標識が「ドナー」のものと区別できるように選択される。標識間のエネルギー転移の効率は、分子を隔てる距離に関係するので、分子間の空間的関係が評価できる。結合が分子間で生じる状況では、アッセイにおける「アクセプター」分子標識の蛍光放射が最大であるはずである。FET結合事象は、当該技術において公知の標準的な蛍光分析検出手段により簡便に測定できる(例えば蛍光計を用いて)。
別の実施形態では、マーカーを認識するためのプローブの能力の決定は、いずれのアッセイ成分(プローブ又はマーカー)も標識することなく、リアルタイム生体分子相互作用分析(BIA)のような技術を利用することにより達成できる(例えばSjolander, S.及びUrbaniczky, C.、1991、Anal. Chem. 63:2338〜2345頁及びSzaboら、1995、Curr. Opin. Struct. Biol. 5:699〜705頁を参照されたい)。本明細書で用いる場合、「BIA」又は「表面プラズモン共鳴」は、生体特異的相互作用をリアルタイムで、いずれの相互作用物質を標識することもなく研究するための技術である(例えばBIAcore)。結合表面での質量変化(結合事象を示す)は、表面近くの光の屈折率の変化をもたらし(表面プラズモン共鳴(SPR)の光学的現象)、生体分子間のリアルタイム反応を示すものとして用いることができる検出可能なシグナルをもたらす。
代わりに、別の実施形態では、同様の診断及び予後アッセイを、液相における溶質としてのマーカー及びプローブを用いて実行できる。このようなアッセイでは、複合体を形成したマーカー及びプローブを、複合体を形成していない成分から、それらに限定されないが、分画遠心分離、クロマトグラフィー、電気泳動及び免疫沈降を含むいくつかの標準的な技術のいずれかにより分離する。分画遠心分離では、マーカー/プローブ複合体を、複合体を形成していないアッセイ成分から、異なるサイズ及び密度に基づく複合体の異なる沈降平衡により、一連の遠心分離ステップにより分離できる(例えばRivas, G.及びMinton, A.P.、1993、Trends Biochem Sci. 18(8):284〜7頁を参照されたい)。標準的なクロマトグラフィー技術も、複合体を形成していない分子から複合体を形成している分子を分離するために利用できる。例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーは、カラムのフォーマットでの適当なゲルろ過樹脂の利用により、分子をサイズに基づいて分離し、例えば、比較的大きい複合体は、比較的小さい複合体を形成していない成分から分離できる。同様に、複合体を形成していない成分と比較して相対的に異なるマーカー/プローブ複合体の電荷特性を活用して、複合体を形成していない成分を複合体から、例えばイオン交換クロマトグラフィー樹脂の利用により区別できる。このような樹脂及びクロマトグラフィー技術は、当業者に公知である(例えばHeegaard, N.H.、1998、J. Mol. Recognit. Winter 11(1〜6):141〜8頁; Hage, D.S.及びTweed, S.A. J Chromatogr B Biomed Sci Appl 1997年10月10日;699(1〜2):499〜525頁を参照されたい)。ゲル電気泳動を採用しても、未結合の成分から複合体を形成したアッセイ成分を分離できる(例えばAusubelら編、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York、1987〜1999を参照されたい)。この技術では、タンパク質又は核酸複合体は、例えばサイズ又は電荷に基づいて分離される。電気泳動プロセス中の結合相互作用を維持するために、非変性ゲルマトリクス材料及び還元剤の非存在下での条件が典型的に好ましい。具体的なアッセイ及びその成分についての適当な条件は、当業者に公知である。
具体的な実施形態では、マーカーmRNAのレベルは、生体試料におけるin situ及びin vitroフォーマットの両方で、当該技術において知られる方法を用いて決定できる。用語「生体試料」は、対象から単離された組織、細胞、生物学的流体及びその単離物、並びに対象内に存在する組織、細胞及び流体を含むことを意図する。多くの発現検出法は、単離RNAを用いる。in vitro法には、mRNAの単離に不利なように選択することのないいかなるRNA単離技術も、細胞からのRNAの精製に利用することができる(例えばAusubelら編、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York 1987〜1999を参照されたい)。さらに、多数の組織試料を、例えばChomczynskiの一ステップRNA単離プロセス(1989、米国特許第4,843,155号)のような当業者に公知の技術を用いて容易に処理できる。
単離mRNAは、それらに限定されないが、サザン若しくはノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析及びプローブアレイを含むハイブリダイゼーション又は増幅アッセイにおいて用いることができる。mRNAレベルの検出のためのある好ましい診断方法は、単離mRNAを、検出される遺伝子によりコードされるmRNAとハイブリダイズできる核酸分子(プローブ)と接触させることを含む。核酸プローブは、全長cDNAでも、例えば、長さが少なくとも7、15、30、50、100、250又は500ヌクレオチドであり、且つストリンジェントな条件下で、本発明のマーカーをコードするmRNA又はゲノムDNAと特異的にハイブリダイズするのに十分であるオリゴヌクレオチドのようなその一部分でもよい。本発明の診断アッセイにおいて用いるためのその他の適切なプローブは、本明細書で記載する。プローブとのmRNAのハイブリダイゼーションは、問題のマーカーが発現されていることを示す。
あるフォーマットでは、mRNAは、固体表面上に固定化され、例えば単離mRNAをアガロースゲル上で泳動し、mRNAをゲルからニトロセルロースのようなメンブレンに移すことにより、プローブと接触させる。代替のフォーマットでは、プローブ(複数可)を固体表面上に固定化し、mRNAをプローブ(複数可)と、例えばAffymetrix遺伝子チップアレイにおいて接触させる。当業者は、既知のmRNA検出法を、本発明のマーカーによりコードされるmRNAのレベルの検出において用いるために容易に適合させることができる。
試料におけるmRNAマーカーのレベルを測定するための代替の方法は、例えばRT-PCR(Mullis、1987、米国特許第4,683,202号に示される実験の実施形態)、リガーゼ連鎖反応(Barany、1991、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:189〜193頁)、自家持続配列複製法(Guatelliら、1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:1874〜1878頁)、転写増幅システム(Kwohら、1989、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:1173〜1177頁)、Q-ベータレプリカーゼ(Lizardiら、1988、Bio/Technology 6:1197)、ローリングサークル複製(Lizardiら、米国特許第5,854,033号)又は任意のその他の核酸増幅法による核酸増幅のプロセスと、その後の当業者に公知の技術を用いる増幅分子の検出とを含む。これらの検出スキームは、核酸分子が非常に少数で存在するならば、このような分子の検出のために特に有用である。本明細書で用いる場合、増幅プライマーは、遺伝子の5’又は3’領域(とそれぞれのマイナス鎖、又はその逆)とアニールでき、それらの間に短い領域を含有する核酸分子の対と定義される。一般的に、増幅プライマーは、約10から30までのヌクレオチド長であり、約50から200までのヌクレオチド長の領域を挟む。適当な条件下で適当な試薬を用いて、このようなプライマーは、プライマーにより挟まれるヌクレオチド配列を含む核酸分子の増幅を許容する。
in situ法のために、mRNAを前の検出から単離する必要はない。このような方法では、細胞又は組織試料は、既知の組織学的方法を用いて調製/処理される。試料を次いで支持体、典型的にガラススライド上に固定化し、次いで、マーカーをコードするmRNAとハイブリダイズできるプローブと接触させる。
マーカーの絶対発現レベルに基づいて決定を行う代わりに、決定は、マーカーの標準化した発現レベルに基づいてよい。マーカーの絶対発現レベルを、その発現をマーカーでない遺伝子、例えば構成的に発現されるハウスキーピング遺伝子の発現と比較することにより補正することにより発現レベルを標準化する。標準化のために適切な遺伝子は、アクチン遺伝子又は上皮細胞特異的遺伝子のようなハウスキーピング遺伝子を含む。この標準化により、ある試料、例えば患者試料における発現レベルを、別の試料、例えば非疾患若しくは非毒性試料と比較すること、又は異なる供給源からの試料間で比較することが可能になる。
代わりに、発現レベルは、相対的発現レベルとして得ることができる。マーカーの相対的発現レベルを測定するために、マーカーの発現レベルを、正常対疾患又は毒性細胞単離物の10以上の試料、好ましくは50以上の試料について、問題の試料の発現レベルの決定前に決定する。多数の試料においてアッセイした遺伝子のそれぞれの平均発現レベルを決定し、これを、マーカーについてのベースライン発現レベルとして用いる。試験試料について決定したマーカーの発現レベル(発現の絶対レベル)を、次いで、マーカーについて得られた平均発現値で除する。これにより、相対的発現レベルが得られる。
好ましくは、ベースライン決定において用いる試料は、非疾患又は非毒性細胞からである。細胞供給源の選択は、相対的発現レベルの使用に依存する。正常組織で見出される発現を平均発現スコアとして用いることは、アッセイされたマーカーが疾患又は毒性特異的(正常細胞に対して)であるかを検証することを支援する。さらに、より多くのデータが蓄積されるにつれ、平均発現値を改訂し、蓄積されたデータに基づいて改良された相対的発現値を得ることができる。疾患細胞又は毒性細胞からの発現データは、疾患又は毒性状態の重症度を等級付けするための手段を提供する。
本発明の別の実施形態では、マーカータンパク質が検出される。本発明のマーカータンパク質を検出するための好ましい物質は、このようなタンパク質又はその断片と結合できる抗体、好ましくは検出可能な標識を有する抗体である。抗体は、ポリクローナル又はより好ましくはモノクローナルであり得る。インタクトな抗体又はその断片若しくは誘導体(例えばFab又はF(ab’)2)を用いることができる。プローブ又は抗体に関する用語「標識」は、プローブ又は抗体に検出可能な物質をカップリング(すなわち物理的に連結する)することによるプローブ又は抗体の直接標識化、並びに直接標識される別の試薬との反応性によるプローブ又は抗体の間接的標識化を包含することを意図する。間接的標識化の例は、蛍光標識された二次抗体を用いる一次抗体の検出、及びビオチンが蛍光標識されたストレプトアビジンにより検出できるようにビオチンでDNAプローブの端を標識することを含む。
細胞からのタンパク質は、当業者に公知の技術を用いて単離できる。採用するタンパク質単離方法は、例えば、Harlow及びLaneに記載されるようなものであり得る(Harlow及びLane、1988、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York)。
様々なフォーマットを採用して、試料が、所定の抗体と結合するタンパク質を含有するかを決定できる。このようなフォーマットの例は、それらに限定されないが、酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット分析及び酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を含む。当業者は、既知のタンパク質/抗体検出法を、細胞が本発明のマーカーを発現するかの決定において用いるために容易に適合できる。
あるフォーマットでは、抗体又は抗体断片若しくは誘導体を、ウェスタンブロット又は免疫蛍光技術のような方法において用いて、発現されたタンパク質を検出できる。このような使用では、抗体又はタンパク質のいずれかを固体支持体上に固定化することが一般的に好ましい。適切な固相支持体又は担体は、抗原又は抗体と結合できる任意の支持体を含む。公知の支持体又は担体は、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、自然及び改変セルロース、ポリアクリルアミド、はんれい岩及びマグネタイトを含む。
当業者は、抗体又は抗原を結合するために適切な多くのその他の担体を知っており、そのような支持体を本発明で用いるために適合できる。例えば、疾患又は毒性細胞から単離されたタンパク質は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で泳動し、ニトロセルロースのような固相支持体上に固定化できる。支持体を、次いで、適切な緩衝液で洗浄した後に、検出可能に標識した抗体での処置を行うことができる。固相支持体を次いで緩衝液で再び洗浄して、未結合の抗体を取り除くことができる。固体支持体上の結合した標識の量を、次いで、従来の手段により検出できる。
本発明は、生体試料におけるマーカータンパク質又は核酸の存在を検出するためのキットも包含する。このようなキットを用いて、対象が、ある疾患又は薬物により誘導される毒性に罹患しているか又はそれが発展する危険性が増加しているかを決定できる。例えば、キットは、生体試料におけるマーカータンパク質又は核酸を検出できる標識化合物又は物質と、試料におけるタンパク質又はmRNAの量を測定するための手段(例えばタンパク質若しくはその断片と結合する抗体、又はタンパク質をコードするDNA若しくはmRNAと結合するオリゴヌクレオチドプローブ)とを含むことができる。
抗体ベースのキットについて、キットは、例えば(1)マーカータンパク質と結合する第一抗体(例えば固体支持体と結合している)と、場合によって(2)タンパク質又は第一抗体のいずれかと結合し、検出可能な標識とコンジュゲートしている第二の異なる抗体とを含むことができる。
オリゴヌクレオチドベースのキットについて、キットは、例えば(1)マーカータンパク質をコードする核酸配列とハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、例えば検出可能に標識されたオリゴヌクレオチド、又は(2)マーカー核酸分子を増幅するために有用なプライマーの対とを含み得る。キットは、例えば緩衝剤、保存剤又はタンパク質安定化剤も含み得る。キットは、検出可能な標識を検出するために必要な成分(例えば酵素又は基質)をさらに含むことができる。キットは、アッセイして試験試料と比較できる対照試料又は一連の対照試料も含有できる。キットの各成分は、個別の容器内に封入でき、様々な容器の全てを、キットを用いて行うアッセイの結果を解釈するための使用説明とともに、単一包装内に入れることができる。
G.薬理ゲノミクス
本発明のマーカーは、薬理ゲノミクスマーカーとしても有用である。本明細書で用いる場合、「薬理ゲノミクスマーカー」は、その発現レベルが患者における特定の臨床的薬物応答又は感受性と相関する、客観的生化学マーカーである(例えばMcLeodら(1999) Eur. J. Cancer 35(12): 1650〜1652頁を参照されたい)。薬理ゲノミクスマーカー発現の存在又は量は、患者の予測される応答、及びより具体的には、特定の薬物若しくは薬物のクラスを用いる治療に対する患者の疾患又は毒性細胞と関連する。患者における1以上の薬理ゲノミクスマーカーの発現の存在又は量を評価することにより、患者にとって最も適当な又は成功の程度がより大きいと予測される薬物治療を選択できる。例えば、患者における特定の腫瘍マーカーによりコードされるRNA若しくはタンパク質の存在又は量に基づいて、患者に存在する見込みがある特定の腫瘍の処置について最適化された薬物又は処置の経過を選択できる。よって、薬理ゲノミクスマーカーの使用は、各がん患者について、異なる薬物又は計画を試すことなく、最も適当な処置を選択又は設計することを許容する。
薬理ゲノミクスの別の態様は、体が薬物に対して作用する様式を改変する遺伝子状態に対処する。これらの遺伝薬理学的状態は、希な欠損又は多型のいずれかとして生じることができる。例えば、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損は、一般的な遺伝性酵素異常症であり、主な臨床的合併症は、酸化体薬物(抗マラリア薬、スルホンアミド、鎮痛薬、ニトロフラン)の摂取及びソラマメの消費の後の溶血である。
説明のための実施形態として、薬物代謝酵素の活性は、薬物作用の強度及び持続期間の両方の主な決定因子である。薬物代謝酵素(例えばN-アセチルトランスフェラーゼ2(NAT 2)及びチトクロムP450酵素であるCYP2D6及びCYP2C19)の遺伝子多型の発見は、いくらかの患者が、なぜ、薬物の標準的で安全な用量を摂取した後に期待される薬物効果を得なかったり、又は激化した薬物応答及び重篤な毒性を示したりするかを説明する。これらの多型は、集団における2の表現型、高代謝群(EM)及び低代謝群(PM)において発現される。PMの普及率は、異なる集団のうちで異なる。例えば、CYP2D6をコードする遺伝子は、非常に多型性であり、いくつかの変異がPMにおいて同定されており、これらの変異の全てが機能的CYP2D6の非存在を導く。CYP2D6及びCYP2C19の低代謝群は、非常に頻繁に、標準的な用量を受けた場合に激化した薬物応答と副作用とを経験する。代謝産物が活性治療部分であるならば、CYP2D6により形成された代謝産物モルヒネにより媒介されるコデインの鎮痛効果について証明されているように、PMは治療応答を示さない。その他の極端なものは、標準的な用量に対して応答しないいわゆる超迅速代謝群である。最近、超迅速代謝群の分子基礎が、CYP2D6遺伝子増幅によることが同定された。
よって、個体における本発明のマーカーの発現レベルを測定して、それにより、個体の治療又は予防的処置のための適当な薬剤(複数可)を選択できる。さらに、遺伝薬理学的研究を用いて、薬物代謝酵素をコードする多型対立遺伝子の遺伝子型決定を、個体の薬物応答性表現型の同定のために用いることができる。用量決定又は薬物選択のために用いる場合に、この知見は、有害反応又は治療の失敗を回避でき、よって、本発明のマーカーの発現のモジュレーターを用いて対象を処置する場合に、治療又は予防的効率を増大させることができる。
H.臨床試験のモニタリング
本発明のマーカーの発現レベルに対する薬剤(例えば薬物化合物)の影響をモニタリングすることは、基本的薬物スクリーニングにおいてだけでなく、臨床試験においても用いることができる。例えば、マーカー発現に影響する薬剤の有効性は、がん、糖尿病、肥満症、心血管疾患及び心毒性のようなある疾患、又は薬物により誘導される毒性についての処置を受ける対象の臨床試験においてモニタリングできる。好ましい実施形態では、本発明は、薬剤(例えばアゴニスト、アンタゴニスト、ペプチド模倣物、タンパク質、ペプチド、核酸、小分子又はその他の候補薬物)を用いる対象の処置の有効性をモニタリングするための方法であって、(i)薬剤の投与の前に対象から投与前試料を得るステップと、(ii)投与前試料における本発明の1以上の選択されたマーカーの発現レベルを検出するステップと、(iii)対象からの1以上の投与後試料を得るステップと、(iv)投与後試料におけるマーカー(複数可)の発現レベルを検出するステップと、(v)投与前試料におけるマーカー(複数可)の発現レベルを、1以上の投与後試料におけるマーカー(複数可)の発現レベルと比較するステップと、(vi)それに従って、対象への薬剤の投与を変更するステップとを含む方法を提供する。例えば、処置の経過中のマーカー遺伝子(複数可)の発現の増加は、投与量が無効であることと、投与量の増加が望ましいこととを示し得る。逆に、マーカー遺伝子(複数可)の発現の減少は、処置の効力があることと、投与量を変化する必要がないこととを示し得る。
H.アレイ
本発明は、本発明のマーカーを含むアレイも含む。アレイを用いて、アレイにおける1以上の遺伝子の発現をアッセイできる。一実施形態では、アレイを用いて、組織における遺伝子発現をアッセイして、アレイにおける遺伝子の組織特異性を確かめることができる。このようにして、約7600までの遺伝子を発現について同時にアッセイできる。これにより、1以上の組織で特異的に発現される一群の遺伝子を示すプロファイルを得ることが可能になる。
このような定性的決定に加えて、本発明は、遺伝子発現の定量を可能にする。よって、組織特異性だけでなく、組織における一群の遺伝子の発現レベルを確かめることができる。よって、遺伝子は、それらの組織発現自体及びその組織での発現レベルに基づいて群分けできる。これは、例えば、組織間又は組織のうちの遺伝子発現の関係を確かめることにおいて有用である。よって、ある組織を変動させ、第二組織における遺伝子発現に対する影響を決定できる。この関係において、生物学的刺激に応答する別の細胞型に対するある細胞型の影響を決定できる。このような決定は、例えば遺伝子発現レベルでの細胞-細胞相互作用の影響を知るために有用である。ある細胞型を処置するために治療的に薬剤を投与するが、別の細胞型に対して望ましくない効果を薬剤が有するならば、本発明は、望ましくない影響の分子的基礎を決定するためのアッセイを提供し、よって、打ち消す薬剤を同時投与するか又はそうでなければ望ましくない影響を処置する機会をもたらす。同様に、単一細胞型のうちでさえ、望ましくない生物学的影響を分子レベルにて決定できる。よって、標的遺伝子以外の発現に対する薬剤の影響を確かめて打ち消すことができる。
別の実施形態では、アレイを用いて、アレイにおける1以上の遺伝子の発現の時間経過をモニタリングすることができる。これは、本明細書で開示するように様々な生物学的状況において、例えば薬物により誘導される毒性の発展、薬物により誘導される毒性の増悪、及び薬物により誘導される毒性と関連する細胞変形のようなプロセスにおいて起こり得る。
アレイは、同じ細胞又は異なる細胞における他の遺伝子の発現に対するある遺伝子の発現の影響を確かめるためにも有用である。これは、例えば、最終的又は下流の標的を調節できない場合に、治療的介入のための代替の分子標的の選択を提供する。
アレイは、正常及び異常細胞における1以上の遺伝子の差分発現パターンを確かめるためにも有用である。これは、診断又は治療的介入のための分子標的として役に立ち得る一群の遺伝子を提供する。
VII.試料を得るための方法
本発明の方法において有用な試料は、本発明のマーカーを発現する任意の組織、細胞、生検又は体液試料を含む。一実施形態では、試料は、組織、細胞、全血、血清、血漿、頬掻爬物、唾液、脳脊髄液、尿、便又は気管支肺胞洗浄液であり得る。好ましい実施形態では、組織試料は、疾患状態又は毒性状態試料である。より好ましい実施形態では、組織試料は、がん試料、糖尿病試料、肥満症試料、心血管試料又は薬物により誘導される毒性試料である。
体の試料は、対象から、例えば、生検の使用により又はある領域を掻爬若しくはふき取ることにより又は体液を吸引するために針を用いることによることを含む、当該技術において知られる様々な技術により得ることができる。様々な体の試料を収集するための方法は、当該技術において公知である。
本発明のマーカーを検出及び定量するために適切な組織試料は、新鮮、凍結であるか又は当業者に知られる方法に従って固定され得る。適切な組織試料は、好ましくは、切片にされ、さらなる分析のために顕微鏡スライド上に置かれる。代わりに、固形試料、すなわち組織試料は、可溶化及び/又はホモジナイズして、その後、可溶性抽出物として分析できる。
一実施形態では、新鮮な得られた生検試料を、例えば液体窒素又はジフルオロジクロロメタンを用いて凍結する。凍結試料を、例えばOCTを用いる切片化のために載せ、クリオスタット中で連続的に切片にする。連続切片を、ガラス顕微鏡スライド上で収集する。免疫組織化学的染色のために、スライドを、例えばクロム-ミョウバン、ゼラチン又はポリ-L-リシンでコーティングして、切片をスライドに確実に留めることができる。別の実施形態では、試料を固定し、切片化の前に包埋する。例えば、組織試料を、例えばホルマリン中で固定し、逐次的に脱水し、例えばパラフィンに包埋できる。
試料が一旦得られると、本発明のマーカーを検出及び定量するために適切な、当該技術において知られる任意の方法を用いることができる(核酸又はタンパク質レベルのいずれかで)。このような方法は、当該技術において公知であり、それらに限定されないが、ウェスタンブロット、ノーザンブロット、サザンブロット、免疫組織化学、ELISA、例えば増幅ELISA、免疫沈降、免疫蛍光、フローサイトメトリー、免疫細胞化学、質量分析、例えばMALDI-TOF及びSELDI-TOF、核酸ハイブリダイゼーション技術、核酸逆転写法、並びに核酸増幅法を含む。具体的な実施形態では、本発明のマーカーの発現は、タンパク質レベルで、例えばこれらのタンパク質と特異的に結合する抗体を用いて検出する。
試料は、本発明のマーカーを抗体結合のためにアクセスしやすくするために改変する必要がある場合がある。免疫細胞化学又は免疫組織化学的方法の特定の態様では、スライドを、前処置緩衝液に移し、場合によって加熱して抗原のアクセスしやすさを増加できる。前処置緩衝液中での試料の加熱は、細胞の脂質二重膜を迅速に破壊し、抗原を、抗体結合のためによりアクセスしやすいようにする(新鮮な検体の場合であるが、固定検体において典型的に生じることではないことがある)。用語「前処置緩衝液」及び「調製緩衝液」は、本明細書において交換可能に使用され、特に本発明のマーカーの抗体結合のためのアクセスしやすさを増加させることにより、免疫染色のための細胞学又は組織学的試料を調製するために用いる緩衝液のことをいう。前処置緩衝液は、pH特異的塩溶液、ポリマー、洗浄剤、或いは例えばエチルオキシル化アニオン若しくは非イオン界面活性剤、アルカノエート又はアルコキシレートのような非イオン若しくはアニオン界面活性剤或いはこれらの界面活性剤のブレンド又は胆汁酸塩の使用さえ含み得る。前処置緩衝液は、例えば、0.1%から1%のデオキシコール酸、ナトリウム塩の溶液又はナトリウムラウレス-13-カルボキシレート(例えばSandopan LS)又は及びエトキシル化アニオン錯体の溶液であってよい。いくつかの実施形態では、前処置緩衝液は、スライド保存緩衝液として用いることもできる。
当該技術において知られる抗原賦活化法を含む、本発明のマーカータンパク質を抗体結合のためによりアクセスしやすくするための任意の方法を、本発明の実施において用いることができる。例えばBibboら(2002) Acta. Cytol. 46:25〜29頁;Saqiら(2003) Diagn. Cytopathol. 27:365〜370頁;Bibboら(2003) Anal. Quant. Cytol. Histol. 25:8〜11頁(これらのそれぞれの全体の内容は、本明細書に参照により組み込まれている)を参照されたい。
マーカータンパク質のアクセスしやすさを増加させる前処置の後に、試料を、適当なブロッキング剤、例えば過酸化水素のようなペルオキシダーゼブロッキング試薬を用いてブロックしてよい。いくつかの実施形態では、試料を、タンパク質ブロッキング試薬を用いてブロックして、抗体の非特異的結合を妨げることができる。タンパク質ブロッキング試薬は、例えば精製カゼインを含み得る。抗体、特に本発明のマーカーと特異的に結合するモノクローナル又はポリクローナル抗体を、次いで、試料とインキュベートする。当業者は、より正確な予後又は診断を、いくつかの場合において、患者試料における本発明のマーカータンパク質上の複数のエピトープを検出することにより得ることができることを認識している。よって、特定の実施形態では、本発明のマーカーの異なるエピトープに対する少なくとも2の抗体を用いる。1より多い抗体を用いる場合、これらの抗体は、個別の抗体試薬として単一試料に逐次的に、又は抗体カクテルとして同時に加えることができる。代わりに、各個別の抗体は、同じ患者からの別々の試料に加えて、得られたデータをプールできる。
抗体結合を検出するための技術は、当該技術において公知である。本発明のマーカーとの抗体結合は、抗体結合のレベルと、したがって、マーカータンパク質発現レベルとに相当する検出可能なシグナルを生じる化学試薬の使用により検出できる。本発明の免疫組織化学又は免疫細胞化学的方法の一つにおいて、抗体結合は、標識ポリマーとコンジュゲートした二次抗体の使用により検出する。標識ポリマーの例は、それらに限定されないが、ポリマー-酵素コンジュゲートを含む。これらの複合体における酵素は、抗原-抗体結合部位での色素原の沈着を触媒し、それにより対象のバイオマーカーの発現レベルに対応する細胞染色をもたらすために典型的に用いられる。特に興味がある酵素は、それらに限定されないが、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)及びアルカリホスファターゼ(AP)を含む。
本発明のある具体的な免疫組織化学又は免疫細胞化学的方法では、本発明のマーカーと結合する抗体は、二次抗体とコンジュゲートしたHRP標識ポリマーの使用により検出される。抗体結合は、モノクローナル又はポリクローナル抗体と結合する種特異的プローブ試薬と、種特異的プローブ試薬と結合する、HRPとコンジュゲートしたポリマーとの使用により検出することもできる。スライドを、任意の色素原、例えば色素原3,3-ジアミノベンジジン(DAB)を用いて抗体結合のために染色し、次いで、ヘマトキシリンと、場合によって水酸化アンモニウム又はTBS/Tween-20のような青み付け剤とを用いて対比染色する。その他の適切な色素原は、例えば、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)を含む。本発明のいくつかの態様では、細胞検査技師及び/又は病理学者がスライドを顕微鏡で検討して、細胞染色、例えば蛍光染色(すなわちマーカー発現)について検討する。代わりに、試料を、自動化顕微鏡観察により、又は陽性染色細胞の同定を容易にするコンピュータソフトウェアで支援された人員により検討できる。
抗体結合の検出は、抗マーカー抗体を検出可能な物質とカップリングさせることにより容易にすることができる。検出可能な物質の例は、様々な酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料及び放射活性材料を含む。適切な酵素の例は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ又はアセチルコリンエステラーゼを含み、適切な補欠分子族複合体の例は、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンを含み、適切な蛍光材料の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド又はフィコエリスリンを含み、発光材料の例は、ルミノールを含み、生物発光物質の例は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン及びエクオリンを含み、適切な放射活性材料の例は、125I、131I、35S、14C又は3Hを含む。
本発明の一実施形態では、上記のようにして凍結試料を調製し、その後、例えばTris緩衝生理食塩水(TBS)を用いて適当な濃度に希釈した本発明のマーカーに対する抗体を用いて染色する。一次抗体は、スライドを、ビオチン化抗免疫グロブリン中でインキュベートすることにより検出できる。このシグナルは、場合によって増幅して、抗原のジアミノベンジジン沈殿を用いて可視化できる。さらに、スライドは、例えばヘマトキシリンを用いて対比染色して、細胞を可視化できる。
別の実施形態では、固定及び包埋試料を、本発明のマーカーに対する抗体で染色し、凍結切片について上記のようにして対比染色する。さらに、試料は、場合によって、シグナルを増幅するための物質で処置して、抗体染色を可視化できる。例えば、ビオチン-チラミドのペルオキシダーゼ触媒沈着を用いることができ、これは、次いで、ペルオキシダーゼとコンジュゲートしたストレプトアビジンと反応する(触媒シグナル増幅(CSA)システム、DAKO、Carpinteria、CA)。
組織ベースのアッセイ(すなわち免疫組織化学)は、本発明のマーカーの検出及び定量の好ましい方法である。一実施形態では、本発明のマーカーの存在又は非存在を、免疫組織化学により決定できる。一実施形態では、免疫組織化学分析は、マーカーを欠く細胞が染色されないように低濃度の抗マーカー抗体を用いる。別の実施形態では、本発明のマーカーの存在又は非存在は、マーカータンパク質を欠く細胞が重度に染色されるように高濃度の抗マーカー抗体を用いる免疫組織化学法を用いて決定される。染色されない細胞は、変異マーカーを含有し、且つ抗原として認識可能なマーカータンパク質を生成できないか、又はマーカーレベルを調節する経路が調節解除され、極わずかなマーカータンパク質の定常状態発現がもたらされた細胞である。
当業者は、本発明の方法を実施するために用いる特定の抗体の濃度は、結合のための時間、本発明のマーカーについての抗体の特異性のレベル及び試料調製の方法のような因子に依存して変動することを認識している。さらに、複数の抗体を用いる場合、要求される濃度は、抗体を試料に適用する順序、例えばカクテルとして同時又は個別の抗体試薬として逐次的により影響され得る。さらに、本発明のマーカーとの抗体結合の可視化のために用いる検出化学も、所望のシグナル対ノイズ比が得られるように最適化されなければならない。
本発明の一実施形態では、プロテオミクス法、例えば質量分析法を、本発明のマーカータンパク質を検出及び定量するために用いる。例えば、血清のような生体試料をタンパク質結合チップに塗布することを含むマトリクス支援レーザ脱離/イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)又は表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間型質量分析法(SELDI-TOF MS) (Wright, G.L., Jr.ら(2002) Expert Rev Mol Diagn 2:549頁;Li, J.ら(2002) Clin Chem 48:1296頁;Laronga, C.ら(2003) Dis Markers 19:229頁;Petricoin, E.F.ら(2002) 359:572頁; Adam, B.L.ら(2002) Cancer Res 62:3609頁;Tolson, J.ら(2004) Lab Invest 84:845頁;Xiao, Z.ら(2001) Cancer Res 61:6029頁)を用いて、PY-Shc及び/又はp66-Shcタンパク質を検出及び定量できる。質量分析法は、例えば、米国特許第5,622,824号、米国特許第5,605,798号及び米国特許第5,547,835号(これらのそれぞれの全体の内容は、本明細書に参照により組み込まれている)に記載されている。
他の実施形態では、本発明のマーカーの発現は、核酸レベルで検出される。発現を評価するための核酸ベースの技術は、当該技術において公知であり、例えば、対象からの試料におけるマーカーmRNAのレベルを測定することを含む。多くの発現検出法は、単離RNAを用いる。mRNAの単離に不利なように選択することのないいかなるRNA単離技術も、本発明のマーカーを発現する細胞からのRNAの精製に利用することができる(例えばAusubelら編(1987〜1999) Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley & Sons、New York)を参照されたい)。さらに、多数の組織試料を、例えばChomczynskiの一ステップRNA単離プロセス(1989、米国特許第4,843,155号)のような当業者に公知の技術を用いて容易に処理できる。
用語「プローブ」は、本発明のマーカーと選択的に結合できる任意の分子、例えばヌクレオチド転写産物及び/又はタンパク質のことをいう。プローブは、当業者が合成できるか、又は適当な生物学的調製物から導くことができる。プローブは、標識されるように特異的に設計できる。プローブとして利用できる分子の例は、それらに限定されないが、RNA、DNA、タンパク質、抗体及び有機分子を含む。
単離mRNAは、それらに限定されないが、サザン若しくはノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析及びプローブアレイを含むハイブリダイゼーション又は増幅アッセイにおいて用いることができる。mRNAレベルの検出のためのある好ましい方法は、単離mRNAを、マーカーmRNAとハイブリダイズできる核酸分子(プローブ)と接触させることを含む。核酸プローブは、全長cDNAでも、例えば、長さが少なくとも7、15、30、50、100、250又は500ヌクレオチドであり、ストリンジェントな条件下で、マーカーゲノムDNAと特異的にハイブリダイズするのに十分であるオリゴヌクレオチドのようなその一部分でもよい。
一実施形態では、mRNAは、固体表面上に固定化され、例えば単離mRNAをアガロースゲル上で泳動し、mRNAをゲルからニトロセルロースのようなメンブレンに移すことにより、プローブと接触させる。代替の実施形態では、プローブ(複数可)を固体表面上に固定化し、mRNAをプローブ(複数可)と、例えばAffymetrix遺伝子チップアレイにおいて接触させる。当業者は、既知のmRNA検出法を、マーカーmRNAのレベルの検出において用いるために容易に適合させることができる。
試料におけるマーカーmRNAのレベルを測定するための代替の方法は、例えばRT-PCR(Mullis、1987、米国特許第4,683,202号に示される実験の実施形態)、リガーゼ連鎖反応(Barany、1991、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:189〜193頁)、自家持続配列複製法(Guatelliら、1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:1874〜1878頁)、転写増幅システム(Kwohら、1989、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:1173〜1177頁)、Q-ベータレプリカーゼ(Lizardiら、1988、Bio/Technology 6:1197)、ローリングサークル複製(Lizardiら、米国特許第5,854,033号)又は任意のその他の核酸増幅法による核酸増幅のプロセスと、その後の当業者に公知の技術を用いる増幅分子の検出とを含む。これらの検出スキームは、核酸分子が非常に少数で存在するならば、このような分子の検出のために特に有用である。本発明の具体的な態様では、マーカー発現は、定量的蛍光RT-PCR(すなわちTaqMan(商標)システム)により評価される。このような方法は、本発明のマーカーに特異的なオリゴヌクレオチドプライマーの対を典型的に用いる。既知の配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計する方法は、当該技術において公知である。
本発明のマーカーの発現レベルは、メンブレンブロット(例えばノーザン、サザン、ドットなどのようなハイブリダイゼーション分析で用いられる)又はマイクロウェル、試験管、ゲル、ビーズ若しくは繊維(又は結合した核酸を含む任意の固体支持体)を用いてモニタリングできる。米国特許第5,770,722号、米国特許第5,874,219号、米国特許第5,744,305号、米国特許第5,677,195号及び米国特許第5,445,934号(これらは、本明細書に参照により組み込まれている)を参照されたい。マーカー発現の検出は、溶液中の核酸プローブを用いることも含み得る。
本発明の一実施形態では、マイクロアレイを用いて、本発明のマーカーの発現を検出する。マイクロアレイは、異なる実験間の再現性のために、この目的のために特に適切である。DNAマイクロアレイは、多数の遺伝子の発現レベルの同時測定のためのある方法を提供する。各アレイは、固体支持体と結合した再現可能なパターンの捕捉プローブからなる。標識されたRNA又はDNAを、アレイ上の相補的プローブとハイブリダイズさせ、次いで、レーザ走査により検出する。アレイ上の各プローブについてのハイブリダイゼーション強度を決定して、相対的遺伝子発現レベルを表す定量的値に変換する。米国特許第6,040,138号、米国特許第5,800,992号及び米国特許第6,020,135号、米国特許第6,033,860号並びに米国特許第6,344,316号(これらは、本明細書に参照により組み込まれている)を参照されたい。高密度オリゴヌクレオチドアレイは、試料における多数のRNAの遺伝子発現プロファイルを決定するために特に有用である。
マーカーの量及び/又は本発明のマーカーの量の数学的関係を用いて、疾患状態又は毒性状態について処置されている対象における疾患状態、例えばがん、糖尿病、肥満症、心血管疾患又は毒性状態、例えば薬物により誘導される毒性若しくは心毒性の再発の危険性、疾患状態又は毒性状態について処置されている対象の生存性、疾患状態又は毒性状態が攻撃性であるか、疾患状態又は毒性状態処置するための処置計画の効力などを、当業者に知られる回帰分析の方法を含み得る本発明の方法を用いて算出できる。例えば、適切な回帰モデルは、それらに限定されないが、CART(例えばHill, T及びLewicki, P. (2006)「STATISTICS Methods and Applications」StatSoft、Tulsa、OK)、Cox(例えばwww.evidencebased-medicine.co.uk)、指数、正規及び対数正規(例えばwww.obgyn.cam.ac.uk/mrg/statsbook/stsurvan.html)、ロジスティック(例えばwww.en.wikipedia.org/wiki/Logistic_regression)、パラメトリック、ノンパラメトリック、セミパラメトリック(例えばwww.socserv.mcmaster.ca/jfox/Books/Companion)、線形(例えばwww.en.wikipedia.org/wiki/Linear_regression)又は加法(例えばwww.en.wikipedia.org/wiki/Generalized_additive_model)を含む。
一実施形態では、回帰分析は、マーカーの量を含む。別の実施形態では、回帰分析は、マーカーの数学的関係を含む。まだ別の実施形態では、マーカーの量の回帰分析及び/又はマーカーの数学的関係は、さらなる臨床的及び/又は分子的共変数を含んでよい。このような臨床的共変数は、結節状態、腫瘍段階、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、処置計画、例えば化学療法及び/又は放射線療法、臨床転帰(例えば再発、疾患特異的生存、治療の失敗)、並びに/或いは診断後の時間、治療開始後の時間及び/又は処置完了後の時間の関数としての臨床転帰を含む。
VIII.キット
本発明は、疾患状態、例えばがん、糖尿病、肥満症、心血管疾患又は毒性状態、例えば薬物により誘導される毒性若しくは心毒性、疾患状態若しくは毒性状態の再発、或いは疾患状態若しくは毒性状態について処置されている対象の生存の予後予測のための組成物及びキットも提供する。これらのキットは、以下の1以上を含む:本発明のマーカーと特異的に結合する検出可能な抗体、染色のための対象の組織試料を得る且つ/又は調製するための試薬、及び使用についての説明書。
本発明のキットは、場合によって、本発明の方法を行うために有用なさらなる成分を含んでよい。例えば、キットは、相補的核酸をアニールするか又は抗体が、それと特異的に結合するタンパク質と結合するために適切な流体(例えばSSC緩衝液)、1以上の試料区画、本発明の方法の性能を記載する説明材料及び組織特異的対照/標準物質を含んでよい。
IX.スクリーニングアッセイ
本発明の標的は、それらに限定されないが、本明細書で列挙する遺伝子及び/又はタンパク質を含む。本明細書において出願人が記載する実験の結果に基づいて、疾患状態又は毒性状態においてモジュレートされる鍵となるタンパク質は、細胞骨格成分、転写因子、アポトーシス応答、ペントースリン酸経路、生合成経路、酸化的ストレス(酸化促進物質)、膜改変及び酸化的リン酸化代謝を含む、異なる経路若しくは分子の群と関連するか、又は異なる経路若しくは分子の群に分類できる。したがって、本発明の一実施形態では、マーカーは、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、CANX、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択される1以上の遺伝子(又はタンパク質)を含み得る。一実施形態では、マーカーは、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択される1以上の遺伝子(又はタンパク質)を含み得る。いくつかの実施形態では、マーカーは、上記の遺伝子(又はタンパク質)の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30以上の組み合わせである。
同定されたマーカーのモジュレーターを同定するために有用なスクリーニングアッセイを以下に記載する。
本発明は、本発明のマーカーの発現及び/又は活性をモジュレートすることにより、疾患状態若しくは毒性状態を処置又は妨げるために有用なモジュレーター、すなわち候補若しくは試験化合物又は薬剤(例えばタンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、ペプトイド、小分子又はその他の薬物)を同定するための方法(本明細書において「スクリーニングアッセイ」ともいう)も提供する。このようなアッセイは、典型的に、本発明のマーカーと1以上のアッセイ成分との間の反応を含む。その他の成分は、試験化合物自体又は試験化合物の組み合わせのいずれか、及び本発明のマーカーの自然の結合パートナーであってよい。本明細書で記載するもののようなアッセイにより同定される化合物は、例えば、疾患状態若しくは毒性状態の攻撃性をモジュレート、例えば阻害、軽減、処置又は妨げるために有用であり得る。
本発明のスクリーニングアッセイにおいて用いる試験化合物は、自然及び/又は合成化合物の系統的ライブラリーを含む任意の利用可能な供給源から得ることができる。試験化合物は、生物学的ライブラリー;ペプトイドライブラリー(ペプチドの機能性を有するが、酵素分解に対して耐性であるがそれにもかかわらず生物活性を維持する新規な非ペプチド主鎖を有する分子のライブラリー;例えばZuckermannら、1994、J. Med. Chem. 37:2678〜85を参照されたい);空間的にアドレス可能な並列固相又は液相ライブラリー;デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法;「ワンビードワンコンパウンド」ライブラリー法;並びに親和性クロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法を含む、当該技術において知られるコンビナトリアルライブラリーにおける多数のアプローチのいずれによっても得ることができる。生物学的ライブラリー及びペプトイドライブラリーアプローチは、ペプチドライブラリーに限定されるが、他の4のアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマー又は小分子の化合物ライブラリーに用いることができる(Lam、1997、Anticancer Drug Des. 12:145頁)。
分子ライブラリーを合成するための方法の例は、例えば、DeWittら(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6909頁;Erbら(1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422頁;Zuckermannら(1994). J. Med. Chem. 37:2678頁;Choら(1993) Science 261:1303頁;Carrellら(1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059頁;Carellら(1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061頁;及びGallopら(1994) J. Med. Chem. 37:1233頁で見出すことができる。
化合物のライブラリーは、溶液中(例えばHoughten、1992、Biotechniques 13:412〜421頁)、或いはビーズ(Lam、1991、Nature 354:82〜84頁)、チップ(Fodor、1993、Nature 364:555〜556頁)、細菌及び/若しくは胞子(Ladner、米国特許第5,223,409号)、プラスミド(Cullら、1992、Proc Natl Acad Sci USA 89:1865〜1869頁)又はファージ(Scott及びSmith、1990、Science 249:386〜390頁;Devlin、1990、Science 249:404〜406頁;Cwirlaら、1990、Proc. Natl. Acad. Sci. 87:6378〜6382頁;Felici、1991、J. Mol. Biol. 222:301〜310頁;Ladner、既出)上で提示できる。
本発明のスクリーニング法は、疾患状態細胞又は毒性状態細胞を試験化合物と接触させるステップと、細胞において本発明のマーカーの発現及び/又は活性をモジュレートする試験化合物の能力を決定するステップとを含む。本発明のマーカーの発現及び/又は活性は、本明細書で記載するようにして決定できる。
別の実施形態では、本発明は、本発明のマーカー又はその生物活性部分の基質である候補若しくは試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。まだ別の実施形態では、本発明は、本発明のマーカー又はその生物活性部分と結合する候補又は試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。マーカーと直接結合する試験化合物の能力を決定することは、例えば、マーカーへの化合物の結合が、複合体中の標識されたマーカー化合物の検出により決定できるように放射性同位体又は酵素標識と化合物とをカップリングさせることにより達成できる。例えば、化合物(例えばマーカー基質)は、131I、125I、35S、14C又は3Hで直接又は間接的に、及び放射線放出により直接計数又はシンチレーション計数により検出される放射性同位体で標識できる。代わりに、アッセイ成分は、例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ又はルシフェラーゼ、及び生成物への適当な基質の変換の決定により検出される酵素標識で酵素により標識できる。
本発明は、上記のスクリーニングアッセイにより同定される新規な薬剤にさらに関する。したがって、本明細書で記載する同定された薬剤を、適当な動物モデルにおいてさらに用いることは、本発明の範囲内である。例えば、本明細書で記載するようにして同定された、本発明のマーカーの発現及び/又は活性をモジュレートできる薬物を、動物モデルにおいて用いて、そのような薬剤を用いる処置の効力、毒性又は副作用を決定できる。代わりに、本明細書で記載するようにして同定された薬剤を、動物モデルにおいて用いて、そのような薬剤の作用機序を決定できる。さらに、本発明は、上記の処置のための、上記のスクリーニングアッセイにより同定された新規な薬剤の使用に関する。
本発明の例示
[実施例1]
プラットフォームテクノロジーを採用するがんコンセンサス及びシミュレーションネットワークの構築
本実施例では、上で詳細に記載したプラットフォームテクノロジーを採用して、カスタム構築したin vitroがんモデルから得られたデータを統合し、それにより、がんの病原性を駆動する新規なタンパク質/経路を同定した。この分析から得られた相関マップにより、がん処置の標的、及びがんと関連する診断/予後マーカーが得られる。
本研究の設計を図18に示す。簡単に述べると、2のがん細胞株(PaCa2、HepG2)及び1の正常細胞株(THLE2)を、がん細胞がin vivoで経験する環境をシミュレートする7の条件に供した。具体的に、細胞を、高血糖状態、低酸素状態、乳酸状態、高血糖+低酸素組み合わせ状態、高血糖+乳酸組み合わせ状態、低酸素+乳酸組み合わせ状態又は高血糖+低酸素+乳酸組み合わせ状態に曝露した。異なる条件は、以下のようにして創出した:
--高血糖状態は、22 mMグルコースを含有する培地で細胞を培養することにより創出した。
--低酸素状態は、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業的気体ミックスで満たしたモジュラーインキュベータチャンバ(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc. Del Mar、CA)に細胞を入れることにより誘導した。
--乳酸状態は、12.5 mM乳酸を含有する培地で細胞を培養することにより創出した。
--高血糖+低酸素組み合わせ状態は、22 mMグルコースを含有する培地で細胞を培養することにより創出し、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業的気体ミックスで満たしたモジュラーインキュベータチャンバに細胞を入れた。
--高血糖+乳酸組み合わせ状態は、22 mMグルコース及び12.5 mM乳酸を含有する培地で細胞を培養することにより創出した。
--低酸素+乳酸組み合わせ状態は、12.5 mM乳酸を含有する培地で細胞を培養することにより創出し、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業的気体ミックスで満たしたモジュラーインキュベータチャンバに細胞を入れた。
--高血糖+低酸素+乳酸組み合わせ状態は、22 mMグルコース及び12.5 mM乳酸を含有する培地で細胞を培養することにより創出し、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業的気体ミックスで満たしたモジュラーインキュベータチャンバに細胞を入れた。
上記の各条件に曝露した上記の細胞を含む細胞モデルを、補酵素Q10で処置することにより細胞を環境変動に曝露することにより、さらに照合した。具体的に、0、50又は100μMでの補酵素Q10で細胞を処置した。
細胞試料と、各条件及び各補酵素Q10処置ありでのそれぞれの細胞株についての培地試料とを、処置の24時間及び48時間後を含む処置後の様々な時間にて回収した。
さらに、2の異なるがん細胞PaCa2及びHepG2細胞の間のクロストーク実験を行い、ここでは、PaCa2及びHepG2細胞を共培養した。この共培養アプローチは、細胞外セクレトーム(ECS)実験という。第一細胞システム(PaCa2)を、まず、トランスウェル型増殖チャンバのウェルのインサートに播種した。6ウェルプレートを用いて、よりよい統計分析ができるようにした。第一細胞システムをインサートに播種するときに、インサートを別々の6ウェルプレートに入れた。第二細胞システム(HepG2)を、一次トレイ上に播種した。第一細胞システムを含有するインサートトレイと、第二細胞システムを含有する一次トレイとを、37℃にて一晩インキュベートした。各細胞システムを、各細胞に特異的な培地で増殖させた(代わりに、ここで、各細胞システムを、両方の細胞型の増殖を支持するように適合された培地で増殖させることができる)。二日目に、所定の処置を、培地交換により行った。具体的に、第一細胞システムを含有するインサートを、第二細胞システムを含有する一次トレイに入れた。トレイを、次いで、所定の時間、例えば24時間又は48時間インキュベートした。同じ条件について二つの反復ウェルを設定し、細胞をプールして、2D分析のために十分な材料を得た。培地(1 mlの分割量)、インサートからの細胞及び一次トレイのウェルからの細胞を、別々の試料として採集した。実験を三重に反復して実行して、よりよい統計分析力を得た。
クロストーク実験も、「培地交換」実験によって実行した。具体的に、第一細胞システム(PaCa2)からの培養培地又は「セクレトーム」を、上記の変動又は調整の後の24時間又は48時間後に回収し、次いで、第二細胞システム(HepG2)に24〜48時間加えた。第二細胞システムからの最終の培養培地又は「セクレトーム」を、次いで、回収した。全ての最終セクレトームを、プロテオミクス分析に供した。
定量的プロテオミクスによる全細胞タンパク質発現における変化のアイプロファイリング(iProfiling)を、各条件について及び各「環境変動」、すなわち補酵素Q10処置ありでの各細胞株から回収した細胞及び培地試料について、詳細な説明において上記した技術を用いて行った。定量的プロテオミクスによる全細胞タンパク質発現における変化のアイプロファイリングは、各処置ありで各条件にて各共培養細胞株について回収した細胞及び培地試料について同様に行った。
さらに、がん、正常細胞及び補酵素Q10変動あり又はなしで各条件に曝露したクロストーク実験における細胞の生物エネルギープロファイリングを、本質的に製造者により推奨されるようにしてSeahorse分析器を採用することにより作成した。OCR(酸素消費速度)及びECAR(細胞外酸性化速度)を、seahorse培養プレートに対して押されたカートリッジを用いて創出される7μlチャンバ中の電極により記録した。
各条件にて及び各変動ありで各細胞株(クロストーク実験における細胞を含む)について収集したプロテオミクスデータ、並びに各条件にて及び各変動ありで各細胞株について収集した生物エネルギープロファイリングデータを、全て入力し、REFS(商標)システムにより処理した。Paca2、HepG2、THLE2及びクロストーク実験についての未処理データを、次いで、標準的命名法を用いて組み合わせた。15%を超えるプロテオミクスデータが欠損している遺伝子を、フィルタにかけて除いた。データ補完ストラテジーを開発した。例えば、反復内誤差モデルを用いて、反復ありの実験条件からのデータを補完した。10近傍に基づくK-NNアルゴリズムを用いて、反復なしのデータを補完した。異なるREFS(商標)モデルを、3の生物システムを一緒にしたものについて、Paca2システムだけについて、又は表現型データと連結したHepG2システムだけについて構築した。
シミュレーションネットワークにおいて親ノードを子ノードに接続する各エッジについての曲線下面積及び倍数変化を、Rプログラミング言語を用いるカスタム構築したプログラムにより抽出した(ここで、Rプログラミング言語は、統計的演算及びグラフィックのためのオープンソースソフトウェア環境である)。
Rプログラムからの出力を、オープンソースプログラムであるサイトスケープに入力して、コンセンサスネットワークの視覚的な図を作成した。
構築した全てのモデルのうちで、70%フラグメント頻度での例示的なタンパク質相互作用REFSコンセンサスネットワークを、図21に示す。
図21に示すコンセンサスネットワークにおける各ノードは、詳細な説明において上で詳細に記載するように、LDHAの発現を4倍増加又は減少させて、REFS(商標)を用いるシミュレーションネットワークを作成することによりシミュレートした。
図21に示す例示的コンセンサスネットワークにおいて高いレベルでのPARK7及びPARK7と関連する注釈のタンパク質に対するシミュレートしたLDHA発現変化の影響を調べた。2のがん細胞株、すなわちPaca2及びHepG2においてLDHAシミュレーションに対して応答性のタンパク質を、REFS(商標)を用いて同定した(図22を参照されたい)。数は、具体的なタンパク質発現レベル倍数変化を表す。
上記の方法を用いて同定されるタンパク質接続を検証するために、シミュレーションネットワークにおいてLDHAの最近傍にあると同定されたマーカーを、ニューラルネットワークを利用して実験出力とネットワーク間の分子連結を決定するソフトウェアプログラムであるIPAに、以前に発表された文献に基づいて入力した。IPAプログラムの出力を、図23に示し、ここでは、灰色の形のマーカーは、プラットフォームにより作成したシミュレーションネットワークにおいてLDHAの最近傍であると同定されたものであり、塗りつぶしていない形のマーカーは、以前に発表された文献における既知の知見に基づいてIPAにより同定された接続である。
照合性生物学プラットフォームテクノロジーからの出力において同定されたマーカー(図21に示す)、すなわちDHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1及びCANXは、IPAにより作成したネットワーク内(図23に示す)で、TP53及びPARK7のような公知のがんマーカーと接続されることが観察された。照合性生物学プラットフォームの使用により同定された因子が、科学文献に発表された既知の因子と接続性を共有するという事実は、照合性生物学プラットフォームの使用により創出されたネットワークの正確性を実証した。さらに、照合性生物学プラットフォーム出力の使用により創出されたLDHAサブネットワーク内のネットワーク関連は、分子成分間の連結が相互作用するノード間の機能的有向性をもたらさないIPAネットワークとは対照的に、各因子の有向性の影響の存在を証明した。よって、コンピュータモデルを創出し、その後、シミュレーション及び差分ネットワーク分析を行うためのデータ作成、統合及びリバースエンジニアリングのために不偏のアプローチを採用することにより、照合性生物学発見プラットフォームは、がん病態生理学における今まで未知の機構を理解することを可能にし、これは、疾患病態生理学のよく確立された科学的理解と一致する。
図19は、アイプロファイリングからのタンパク質発現データに基づく、下流ノードに対するCoQ10処置の影響を示す(pubmedタンパク質受託番号は、図19に列挙する)。タンパク質受託番号P00338は、LDHAである。プロテオミクスデータのウェットラボ検証を、LDHA発現について、HepG2細胞において行った(図20を参照されたい)。図20に示すように、LDHA発現レベルは、HepG2を50 μM CoQ10又は100 μM CoQ10で24又は48時間処置した場合に減少した。
公知のがんマーカーTP53、Bcl-2、Bax及びカスパーゼ3について、これらのマーカーの発現レベルに対するCoQ10処置の影響のウェットラボ検証を、SKMEL 28細胞において行った(図24及び図25を参照されたい)。
[実施例2]
プラットフォームテクノロジーを採用するがんデルタ-デルタネットワークの構築
本実施例では、上で詳細に記載したプラットフォームテクノロジーを採用して、カスタム構築したin vitroがんモデルから得られたデータを統合し、それにより、がんの病原性を駆動する新規なタンパク質/経路を同定した。この分析から得られた相関マップにより、がん処置の標的、及びがんと関連する診断/予後マーカーが得られる。
簡単に述べると、4のがん系統(PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7)及び2の正常細胞株(THLE2及びHDFa)を、がん細胞がin vivoで経験する環境をシミュレートする様々な条件に供した。具体的に、細胞を、高血糖状態、低酸素状態及び乳酸での処置のそれぞれに別々に曝露した。例えば、高血糖状態は、22 mMグルコースを含有する培地で細胞を培養することにより創出した。低酸素状態は、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業的気体ミックスで満たしたモジュラーインキュベータチャンバ(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc. Del Mar、CA)に細胞を入れることにより誘導した。乳酸処置のために、各細胞株を、0又は12.5 mM乳酸で処置した。上記の3の条件のそれぞれに別々に細胞を曝露することに加えて、細胞を、2又は3全ての条件の組み合わせにも曝露した(すなわち高血糖と低酸素状態;高血糖状態と乳酸;低酸素状態と乳酸;及び高血糖と低酸素状態と乳酸)。
上記の細胞を含む細胞モデル(各細胞の型は、上記の各条件に曝露した)を、補酵素Q10で処置することにより細胞を環境変動に曝露することにより、さらに照合した。具体的に、0、50μM又は100μMでの補酵素Q10で細胞を処置した。
細胞試料と、各条件(又は条件の組み合わせ)に補酵素Q10処置あり及びなしで曝露したそれぞれの細胞株についての細胞からのセクレトームを含有する培地試料とを、処置の24時間及び48時間後を含む処置後の様々な時間にて回収した。
さらに、2の異なるがん細胞PaCa2及びHepG2細胞の間のクロストーク実験を行い、ここでは、PaCa2及びHepG2細胞を共培養した。この共培養アプローチは、細胞外セクレトーム(ECS)実験という。第一細胞システム(PaCa2)を、まず、トランスウェル型増殖チャンバのウェルのインサートに播種した。6ウェルプレートを全般的に用いて、よりよい統計分析ができるようにした。第一細胞システムをインサートに播種するときに、インサートを別々の6ウェルプレートに入れた。第二細胞システム(HepG2)を、一次トレイ上に播種した。第一細胞システムを含有するインサートと、第二細胞システムを含有する一次トレイとを含有する6ウェルプレートを、37℃にて一晩インキュベートした。各細胞システムを、それぞれの細胞特異的培地で増殖させた(代わりに、ここで、各細胞システムを、両方の細胞型の増殖を支持するように適合された培地で増殖させることができる)。二日目に、所定の処置を、培地交換により行った。具体的に、第一細胞システム及び第一細胞システムのそれぞれの培地を含有するインサートを、第二細胞システム及び第二細胞システムのそれぞれの培地を含有する一次トレイに入れた。全ての共培養の場合では、しかし、共培養細胞を、共培養の前の第一日の間は別々ではあるが同じ「がん状態」(例えば高血糖、低酸素、乳酸又はそれらの組み合わせ)に曝露した。つまり、インサート中の第一細胞システムと、トレイ中の第二細胞システムとを、「共培養」の状況に移す前に同じ条件に曝露した。トレイを、次いで、所定の時間、例えば24時間又は48時間インキュベートした。同じ条件について二つの反復ウェルを設定し、細胞をプールして、その後のプロテオミクス分析のために十分な材料を得た。セクレトームを含有する培地(1 ml分割量)、インサートからの細胞及び一次トレイのウェルからの細胞を、別々の試料として採集した。実験を三重に反復して実行して、よりよい統計分析力を得た。
クロストーク実験も、「培地交換」実験によって実行した。具体的に、第一細胞システム(PaCa2)からの培養培地又は「セクレトーム」を、変動又は調整の後の24時間又は48時間後に回収し、次いで、第二細胞システムに24〜48時間加えた。第二細胞システムからの最終の培養培地又は「セクレトーム」を、次いで、回収した。全ての最終セクレトームを、プロテオミクス分析に供した。
細胞システムを上記の「がん状態」、変動(すなわち補酵素Q10処置)及び/又は共培養物実験からの対にした細胞のセクレトームにおいて生成した条件に曝露した後に、細胞の応答を、次いで、細胞システムからの様々な読出しの分析により分析した。読出しは、プロテオミクスデータ、具体的に、細胞内タンパク質発現及び細胞培養培地に分泌されたタンパク質、並びに機能的データ、具体的に細胞生物エネルギーを含んだ。
定量的プロテオミクスによる全細胞タンパク質発現における変化のアイプロファイリングを、各条件(又は条件の組み合わせ)に「環境変動」すなわち補酵素Q10処置あり又はなしで曝露した各細胞株(正常及びがん細胞株)について、詳細な説明において上記した技術を用いて行った。
さらに、各条件(又は条件の組み合わせ)に「環境変動」すなわち補酵素Q10処置あり又はなしで曝露した各細胞株(正常及びがん細胞株)の生物エネルギープロファイリングを、本質的に製造者により推奨されるようにしてSeahorse分析器を採用することにより作成した。酸素消費速度(OCR)及び細胞外酸性化速度(ECAR)を、seahorse培養プレートに対して押されたカートリッジを用いて創出される7μlチャンバ中の電極により記録した。
各条件(複数可)で各変動あり/なしでの各細胞株について収集したプロテオミクスデータ、並びに各条件(複数可)で各変動あり/なしでの各細胞株について収集した生物エネルギープロファイリングデータを、次いで、REFS(商標)システムにより処理した。「複合がん変動ネットワーク」を、全てのがん細胞株(それぞれ、各具体的条件(及び条件の組み合わせ)に曝露し、さらに変動(CoQ10)に曝露した)から得られた組み合わせたデータから作成した。「複合がん未変動ネットワーク」は、全てのがん細胞株(それぞれ、各具体的条件(及び条件の組み合わせ)に、変動なしで(CoQ10なしで)曝露した)から得られた組み合わせたデータから作成した。同様に、「複合正常変動ネットワーク」を、全ての正常細胞株(それぞれ、各具体的条件(及び条件の組み合わせ)に曝露し、さらに変動(CoQ10)に曝露した)から得られた組み合わせたデータから作成した。「複合正常未変動ネットワーク」は、全ての正常細胞株(それぞれ、各具体的条件(及び条件の組み合わせ)に、変動なしで(CoQ10なしで)曝露した)から得られた組み合わせたデータから作成した。
次に、「シミュレーション複合ネットワーク」(本明細書において「シミュレーションネットワーク」ともいう)を、上記の4の複合ネットワークのそれぞれについてREFS(商標)を用いて作成した。これを達成するために、所定のコンセンサス複合ネットワークにおける各ノードをシミュレートして(10倍増加又は減少させることにより)、シミュレーションネットワークを、詳細な説明において上で詳細に記載するようにして、REFS(商標)を用いて作成した。
シミュレーションネットワークにおいて親ノードを子ノードに接続する各エッジについての曲線下面積及び倍数変化を、Rプログラミング言語を用いるカスタム構築したプログラムにより抽出した(ここで、Rプログラミング言語は、統計的演算及びグラフィックのためのオープンソースソフトウェア環境である)。
最後に、デルタネットワークを作成した(デルタネットワークは、2のシミュレーション複合ネットワーク間の差分を表す)。デルタネットワークを、シミュレーション複合ネットワークから作成した。補酵素Q10に応答するがん対正常差分ネットワーク(デルタ-デルタネットワーク)を作成するために、図26に示すようにして、PERLプログラミング言語を用いるカスタム構築したプログラムにより、連続的比較ステップを行った。
まず、がん未処置(T0)及びがん処置(T1)ネットワークを、Rプログラムを用いて比較し、固有のがん処置T1ネットワークを分離した(図26における濃い灰色の半月形を参照されたい)。これは、がんT1∩(交点)がんT0「デルタ」ネットワークを表す。このデルタネットワーク内でのタンパク質相互作用/関連は、補酵素Q10処置に対する固有のがん応答を表すと見ることができる。
同様に、正常未処置(T0)及び正常処置(T1)ネットワークを、Rプログラムを用いて比較し、固有の正常処置T1ネットワークを分離した(図26における淡い灰色の半月形を参照されたい)。これは、正常T1∩正常T0「デルタ」ネットワークを表す。このデルタネットワーク内でのタンパク質相互作用/関連は、補酵素Q10処置に対する固有の正常細胞応答と見ることができる。
最後に、固有のがんT1ネットワーク(図26における濃い灰色の半月形を参照されたい)と固有の正常T1ネットワーク(図26における淡い灰色の半月形を参照されたい)とを、Rプログラムを用いて比較し、補酵素Q10に応答して、がん単独に固有であり、正常細胞に存在しないネットワークを作成した(図26を参照されたい)。タンパク質相互作用/関連のこの収集物は、補酵素Q10処置の際に正常細胞に存在しない、がん細胞内の固有の経路を表す。タンパク質相互作用/関連のこの収集物は、「デルタ-デルタネットワーク」と呼ばれる。なぜなら、これは、がん細胞からの差分マップと正常対照細胞からの差分マップとの比較から生成される差分マップであるからである。
PERL及びRプログラムからの出力を、オープンソースプログラムであるサイトスケープに入力して、デルタ-デルタネットワークの視覚的な図を作成した。
本明細書で記載する方法を用いて同定されるデルタ-デルタネットワークは、がん処置のための標的を同定するために非常に有用である。例えば、図27に示すデルタ-デルタネットワークに従って、タンパク質AはOCR3(酸化的リン酸化の測定値)を阻害し、ECAR3(解糖の測定値)を増大させる。この相互作用はがん細胞において固有であるので(なぜなら、デルタ-デルタネットワークは、補酵素Q10処置の際に正常細胞に共通して存在する任意の相互作用を減じているからである)、タンパク質Aの発現を阻害することは、解糖ベースのエネルギー代謝(これは、がん代謝経路の顕著な特徴である)を低減し、細胞を、酸化的リン酸化ベースのエネルギー代謝(これは、正常細胞とより密接に関連する表現型である)に向かってシフトさせると期待される。よって、補酵素Q10及びタンパク質A阻害剤を用いる組み合わせ治療は、がん細胞のエネルギー代謝プロファイルを、正常細胞に似たものにシフトすることにより少なくとも部分的に、がんを処置するために有効であると期待される。
本発明の照合性生物学プラットフォームテクノロジーの利点を、因果関係ネットワークに由来するサブネットワークを、分子ネットワークと、ニューラルネットワークを利用して実験出力間の分子連結を決定するソフトウェアプログラムであるIPAを用いて、以前に発表された文献に基づくネットワークと比較する実質的な例の使用によりさらに説明する。照合性生物学プラットフォームを用いて作成したPARK7を含有する原因のサブネットワーク(図29に示す)を、実質的な例として用いる。照合性生物学プラットフォームからのPARK7ネットワークの全ての分子サインをIPAに組み込んで、既知の/現存する文献の証拠に基づくネットワークを作成した。照合性生物学出力とIPAの使用により作成したものとの間のネットワーク出力を、次いで、比較した。
照合性生物学プラットフォームテクノロジーからの出力により同定された6のマーカー(図29に示す)、すなわち図27〜29におけるA、B、C、X、Y及びZは、IPAにより作成したネットワーク(図28)内でTP53と接続されることが観察された。6のマーカーのうち、A、B及びCは、HSPA1A/HSPA1Bと同様に、がんと関連することが文献において報告されている。X、Y及びZをがん状態の「ハブ」又は鍵となる駆動体として同定し、よって、新規ながんマーカーとして同定する。さらに、MIF1及びKARSも、がん状態の「ハブ」又は鍵となる駆動体として同定し、よって、新規ながんマーカーとして同定した。照合性生物学プラットフォームの使用により同定された因子が、科学文献に発表された既知の因子と接続性を有するという事実は、照合性生物学プラットフォームの使用により創出されたネットワークの正確性を実証した。さらに、照合性生物学プラットフォーム出力の使用により創出されたPARK7サブネットワーク内のネットワーク関連(図29に示す)は、分子実体の間の連結が相互作用するノード間の機能的有向性をもたらさないIPAネットワーク(図28に示す)とは対照的に、各因子の有向性の影響の存在を証明した。さらに、照合性生物学プラットフォームからの出力(図29に点線として示す)は、PARK7を介する潜在的機構を導くこれらのコンポーネントの関連を証明した。タンパク質C、タンパク質A及びPARK7のその他のノードは、がん代謝の鍵となる駆動体であることが観察された(図27)。
本実施例により証明されるように、コンピュータモデルを創出し、その後、シミュレーション及び差分ネットワーク分析を行うためのデータ作成、統合及びリバースエンジニアリングのために不偏アプローチを採用することにより、発見照合性生物学プラットフォームは、がん病態生理学における今まで未知の機構を理解することを可能にし、これは、疾患病態生理学のよく確立された科学的理解と一致する。
[実施例3]
プラットフォームテクノロジーを採用する糖尿病/肥満症/心血管疾患デルタ-デルタネットワークの構築
本実施例では、上の詳細な説明で詳細に記載したプラットフォームテクノロジーを採用して、カスタム構築した糖尿病/肥満症/心血管疾患(CVD)モデルから得られたデータを統合し、糖尿病/肥満症/CVDの病原性を駆動する新規なタンパク質/経路を同定した。この分析から得られた相関マップにより、糖尿病/肥満症/CVD処置の標的、及び糖尿病/肥満症/CVDと関連する診断/予後マーカーが得られる。
5の初代ヒト細胞株、すなわち脂肪細胞、筋管、肝細胞、大動脈平滑筋細胞(HASMC)及び近位尿細管細胞(HK2)を、これらの疾患関連細胞がin vivoで経験する環境をシミュレートする5の条件のうちの1に供した。具体的に、5の細胞株のそれぞれを、以下の条件のそれぞれに別々に曝露した:高血糖状態、高脂血症状態、高インスリン状態、低酸素状態及び乳酸への曝露。高血糖状態は、22 mMグルコースを含有する培地で細胞を培養することにより誘導した。高脂血症状態は、0.15 mMパルミチン酸ナトリウムを含有する培地で細胞を培養することにより誘導した。高インスリン状態は、1000 nMインスリンを含有する培地で細胞を培養することにより誘導した。低酸素状態は、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業的気体ミックスで満たしたモジュラーインキュベータチャンバ(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc. Del Mar、CA)に細胞を入れることにより誘導した。各細胞株は、0又は12.5 mM乳酸でも処置した。
さらに、細胞の2の異なる対、すなわちHASMC細胞(細胞システム1)とHK2細胞(細胞システム2)又は肝臓細胞(細胞システム1)と脂肪細胞(細胞システム2)の間のクロストーク実験を行い、ここでは、対にした細胞を共培養した。この共培養アプローチは、細胞外セクレトーム(ECS)実験という。第一細胞システム(例えばHASMC)を、まず、トランスウェル型増殖チャンバのウェルのインサートに播種した。6ウェルプレートを用いて、よりよい統計分析ができるようにした。第一細胞システムをインサートに播種するときに、インサートを別々の6ウェルプレートに入れた。第二細胞システム(例えばHK2)を、一次トレイ上に播種した。第一細胞システムを含有するインサートトレイと、第二細胞システムを含有する一次トレイとを、37℃にて一晩インキュベートした。各細胞システムを、各細胞に特異的な培地で増殖させた(代わりに、ここで、各細胞システムを、両方の細胞型の増殖を支持するように適合された培地で増殖させることができる)。二日目に、所定の処置を、培地交換により行った。具体的に、第一細胞システムを含有するインサートを、第二細胞システムを含有する一次トレイに入れた。トレイを、次いで、所定の時間、例えば24時間又は48時間インキュベートした。同じ条件について二つの反復ウェルを設定し、細胞をプールして、2D分析のために十分な材料を得た。培地(1 ml分割量)、インサートからの細胞及び一次トレイのウェルからの細胞を、別々の試料として採集した。実験を三重に反復して実行して、よりよい統計分析力を得た。
クロストーク実験も、「培地交換」実験によって実行した。具体的に、第一細胞システムであるHASMCからの培養培地又は「セクレトーム」を、変動又は調整の後の24時間又は48時間後に回収し、次いで、第二細胞システムである脂肪細胞に24〜48時間加えた。第二細胞システムからの最終の培養培地又は「セクレトーム」を、次いで、回収した。全ての最終セクレトームを、プロテオミクス分析に供した。
上記の各条件に曝露した上記の細胞を含む細胞モデルを、補酵素Q10で処置することにより「環境変動」に細胞を曝露することにより、さらに「照合」した。具体的に、0、50μM又は100μMでの補酵素Q10で細胞を処置した。
各細胞株、条件及び補酵素Q10処置についての細胞試料を、処置の24時間及び48時間後を含む処置後の様々な時間にて回収した。あるいくつかの細胞及びあるいくつかの条件について、培地試料も回収して分析した。
定量的プロテオミクスによる全細胞タンパク質発現における変化のアイプロファイリングを、各条件にて各「環境変動」、すなわち補酵素Q10処置ありでの各細胞株について回収した細胞及び培地試料について、詳細な説明において上記した技術を用いて行った。
各条件及び各変動ありで上で列挙する各細胞株について収集したプロテオミクスデータ、並びに各条件及び各変動ありで各細胞株について収集した生物エネルギープロファイリングデータを、次いで、REFS(商標)システムにより処理した。複合変動ネットワークを、変動(CoQ10)に曝露した1の具体的条件(例えば高血糖)について全ての細胞株から得られた組み合わせデータから作成した。複合未変動ネットワークを、変動なし(CoQ10なし)で同じ1の具体的条件(例えば高血糖)について全ての細胞株から得られた組み合わせデータから作成した。同様に、複合変動ネットワークを、変動(CoQ10)に曝露した第二の対照条件(例えば正常糖血症)について全ての細胞株から得られた組み合わせデータから作成した。複合未変動ネットワークを、変動なし(CoQ10なし)で同じ第二の対照条件(例えば正常糖血症)について全ての細胞株から得られた組み合わせデータから作成した。
上記のコンセンサス複合ネットワークにおける各ノードをシミュレートして(10倍増加又は減少させることにより)、シミュレーションネットワークを、詳細な説明において上で詳細に記載するようにして、REFS(商標)を用いて作成した。
シミュレーションネットワークにおいて親ノードを子ノードに接続する各エッジについての曲線下面積及び倍数変化を、Rプログラミング言語を用いるカスタム構築したプログラムにより抽出した(ここで、Rプログラミング言語は、統計的演算及びグラフィックのためのオープンソースソフトウェア環境である)。
デルタネットワークを、シミュレートした複合ネットワークから作成した。補酵素Q10に応答する糖尿病/肥満症/心血管疾患状態対正常状態の差分ネットワーク(デルタ-デルタネットワーク)を作成するために、図30に示すようにして、PERLプログラミング言語を用いるカスタム構築したプログラムにより、比較のステップを行った。
具体的に、図30に示すように、処置T1は補酵素Q10処置のことをいい、NG及びHGは、条件としての正常及び高血糖のことをいう。NG∩HGデルタネットワークにおけるNGからの固有のエッジを、HG∩HGT1デルタネットワークにおけるHGT1の固有のエッジと比較した。NGとHGT1との交点におけるエッジはHGエッジであり、これは、T1を用いてNGに回復される。T1を用いてNGに回復したHGエッジを、NG∩HGデルタネットワークに重ね合わせた(図31におけるより濃い色の円形で示す)。
具体的に、正常糖血症(NG)状態のシミュレートした複合マップと、高血糖(HG)状態のシミュレートした複合マップとを、カスタム構築したPerlプログラムを用いて比較して、正常糖血症状態の固有のエッジを作成した。補酵素Q10処置なしでの高血糖状態(HG)のシミュレートした複合マップと、補酵素Q10処置ありでの高血糖状態(HGT1)のシミュレートした複合マップとを、カスタム構築したPerlプログラムを用いて比較して、補酵素Q10処置ありの高血糖状態(HGT1)の固有のエッジを作成した。正常糖血症状態(NG)からの固有のエッジと補酵素Q10処置ありの高血糖状態(HGT1)からの固有のエッジとの交点におけるエッジを、Perlプログラムを用いて同定した。これらのエッジは、補酵素Q10の処置により高血糖状態から正常糖血症状態に回復される因子/ネットワークを表す。補酵素Q10処置を用いて正常に回復される高血糖エッジのデルタ-デルタネットワークを、正常糖血症∩高血糖デルタネットワークと重ね合わせた。重ね合わせたネットワークの見本を図31に示す。図31は、補酵素Q10に応答する例示的な糖尿病/肥満症/心血管疾患状態対正常状態の差分ネットワーク(デルタ-デルタネットワーク)である。図31におけるより濃い色の円形は、補酵素Q10の処置により高血糖状態から正常糖血症状態に回復した、同定されたエッジである。図31におけるより淡い色の円形は、同定された固有の正常高血糖エッジである。
PERL及びRプログラムからの出力を、オープンソースプログラムであるサイトスケープに入力して、デルタ-デルタネットワークの視覚的な図を作成した。
高血糖対正常糖血症状態について上に記載した実験と同様に、補酵素Q10処置なしでの高脂血症状態のシミュレートした複合ネットワーク(上記の全ての糖尿病/肥満症/心血管関連細胞からのデータを組み合わせる)と、補酵素Q10処置ありでの高脂血症状態のシミュレートした複合ネットワーク(上記の全ての糖尿病/肥満症/心血管関連細胞からのデータを組み合わせる)とを、Perlプログラムを用いて比較して、補酵素Q10処置ありでの高脂血症状態の固有のエッジを作成した。正常脂血状態からの固有のエッジと補酵素Q10処置ありでの高脂血症状態からの固有のエッジとの交点におけるエッジを、Perlプログラムを用いて同定した。これらのエッジは、補酵素Q10の処置により高脂血症状態から正常脂血状態に回復される因子/ネットワークを表す。補酵素Q10処置を用いて正常に回復される高脂血症エッジのデルタ-デルタネットワークを、正常脂血∩高脂血症デルタネットワークと重ね合わせた。重ね合わせたネットワークの見本を図32に示す。図32におけるより濃い色の円形は、補酵素Q10の処置により高脂血症状態から正常脂血状態に回復した、同定されたエッジである。図32におけるより淡い色の円形は、同定された固有の正常脂血エッジである。FASNは、高脂血症を正常脂血状態に回復する補酵素Q10の影響をモジュレートするシグナル伝達経路のある重要な因子として同定された。
脂肪酸合成酵素-FASNのような脂肪酸を合成する酵素は、肥満症、インスリン耐性又は脂質異常症のようなヒト代謝の変化のほぼ全ての側面に関与している。FASN阻害剤は、分子機構は未知であるが、肥満症の処置のための筆頭の分子として提案されている(Mobbsら2002)。セルレニン及び合成化合物C75-FASN阻害剤は、食物摂取の低減において効果があり、体重低減を実現することが示されている(Loftusら2000)。
FASNが、上記のプラットフォームテクノロジーにより、図32に示すように、糖尿病を正常状態に回復する補酵素Q10の影響をモジュレートするシグナル伝達経路におけるある重要な因子として同定されたという事実は、このデルタ-デルタネットワークの正確性を実証した。よって、このデルタ-デルタネットワークにおいて同定されるその他の新規な因子は、さらなる調査のための潜在的な治療因子又は薬物標的である。
[実施例4]
プラットフォームテクノロジーを採用する薬物により誘導される心毒性のモデルの構築
本実施例では、上の詳細な説明で詳細に記載したプラットフォームテクノロジーを採用して、カスタム構築した心毒性モデルから得られたデータを統合し、病原性/薬物の毒性を駆動する新規なタンパク質/経路を同定した。この分析から得られた相関マップにより、毒性バイオマーカーが得られる。
健常な心臓では、収縮機能は、脂肪酸及び炭水化物酸化の均衡に依存する。取り込み、利用、細胞小器官生合成及び非脂肪組織(心臓及び肝臓)における分泌における慢性的な不均衡は、ミトコンドリア損傷及び機能不全の中心であり、薬物により誘導される心毒性における鍵となる当事者であると考えられる。今回、本出願人らは、タンパク質及び脂質サインを、細胞生物エネルギー及びミトコンドリア膜機能を具体的に視野に入れた機能終点アッセイと組み合わせたシステムアプローチについて記載する。過剰の脂肪酸及び高血糖を補った糖尿病並びに正常心筋細胞を含むin vitroモデルを、薬物のパネルで処置して、毒性のサイン及び潜在的機構を創出した。本出願人らは、(i)ミトコンドリアエネルギー代謝遺伝子の発現を制御する転写ネットワークの調節解除;(ii)糖尿病性心筋細胞におけるGPAT1及びタファジンの誘導と、それによるミトコンドリア膜におけるデノボリン脂質合成及びリモデリングの開始;並びに(iii)取り込み、脂肪酸酸化及びATP合成に影響する、糖尿病性心筋細胞における脂肪酸の運命の変化を含む様々なレベルにてエネルギー代謝成分を破壊することによりミトコンドリアの不安定化における薬物の様々な影響を証明した。さらに、本出願人らは、ウェットラボ生物学の性能とAIベースのデータマイニングプラットフォームとを組み合わせて、ベイズモデルに基づく因果関係ネットワークを作成した。正常細胞機能の喪失の原因であるタンパク質及び脂質のネットワークを用いて、細胞保護機構からの薬物により誘導される毒性の機構を識別した。この新規なアプローチは、毒性の機構を理解するための強力な新しいツールとして役に立ち、改変された表現型を修正するより安全な治療の開発を可能にする。
ヒト心筋細胞を、疾患関連細胞がin vivoで経験する糖尿病環境をシミュレートする条件に供した。具体的に、細胞を、高血糖状態及び高脂血症状態に曝露した。高血糖状態は、22 mMグルコースを含有する培地で細胞を培養することにより誘導した。高脂血症状態は、1mM L-カルニチン、0.7mMオレイン酸及び0.7mMリノール酸を含有する培地で細胞を培養することにより誘導した。
上記の各条件に曝露した上記の細胞を含む細胞モデルを、さらに、心毒性を引き起こすことが知られている糖尿病薬物(T)、レスキュー分子(R)又は糖尿病薬物とレスキュー分子との両方(T+R)で処置することにより細胞を「環境変動」に曝露することにより、さらに「照合」した。具体的に、細胞を、糖尿病薬物で処置するか、又は0、50μM若しくは100μMでのレスキュー分子である補酵素Q10で処置するか、又は糖尿病薬物とレスキュー分子補酵素Q10との両方で処置した。
各変動処置ありでの各条件からの細胞試料を、処置の6時間後を含む処置後の様々な時間にて回収した。あるいくつかの条件について、培地試料も回収して分析した。
定量的プロテオミクスによる全細胞タンパク質発現における変化のアイプロファイリングを、各条件について及び各「環境変動」、すなわち糖尿病薬物処置、補酵素Q10処置又はその両方ありで回収した細胞及び培地試料について、詳細な説明において上記した技術を用いて行った。転写プロファイリング実験を、Biorad cfx-384増幅システムを用いて行った。データ収集(Ct)の後に、対照に対する最終倍数変化を、製造者のプロトコールにて概説されているδCt法を用いて決定した。リピドミクス実験を、質量分析法を用いて行った。酸素消費速度OCRのような機能アッセイを、本質的に製造者により推奨されるようにしてSeahorse分析器を採用することにより測定した。OCRを、seahorse培養プレートに対して押されたカートリッジを用いて創出される7μlチャンバ中の電極により記録した。
図35に示すように、糖尿病性心筋細胞(高血糖及び高脂血症に調整された心筋細胞)におけるヒトミトコンドリアエネルギー代謝遺伝子の転写ネットワーク及び発現を、変動及び未変動処置の間で比較した。具体的に、ヒトミトコンドリアエネルギー代謝遺伝子の転写ネットワーク及び発現のデータを、糖尿病薬物(T)で処置した糖尿病性心筋細胞と、未処置糖尿病性心筋細胞試料(UT)との間で比較した。ヒトミトコンドリアエネルギー代謝遺伝子の転写ネットワーク及び発現のデータを、糖尿病薬物及びレスキュー分子である補酵素Q10との両方で処置した糖尿病性心筋細胞(T+R)と、未処置糖尿病性心筋細胞試料(UT)との間で比較した。未処置糖尿病性心筋細胞からのデータと比較して、あるいくつかの遺伝子の発現及び転写は、糖尿病性心筋細胞を糖尿病薬物で処置した場合に変化した。レスキュー分子補酵素Q10は、糖尿病薬物の毒性の影響を逆にし、遺伝子の発現及び転写を正常化することが証明された。
図36Aに示すように、心筋細胞を、正常糖血症(NG)又は高血糖(HG)状態のいずれかで培養し、糖尿病薬物単独(T)又は糖尿病薬物及びレスキュー分子補酵素Q10の両方(T+R)のいずれかで処置した。各条件及び各処置についてのGPAT1及びTAZのタンパク質発現レベルを、ウェスタンブロッティングを用いて試験した。GPAT1及びTAZはともに、高血糖状態及び糖尿病薬物処置の心筋細胞においてアップレギュレートされた。高血糖状態の心筋細胞を糖尿病薬物及びレスキュー分子補酵素Q10の両方で処置した場合、GPAT1及びTAZのアップレギュレートされたタンパク質発現レベルは、正常化された。
図37Aに示すように、ミトコンドリア酸素消費速度(%)実験を、高血糖状態の心筋細胞試料について行った。高血糖状態の心筋細胞は、心毒性を引き起こすことが知られている糖尿病薬物T1で処置しなかった(UT)か、処置したか、心毒性を引き起こすことが知られている糖尿病薬物T2で処置したか、糖尿病薬物T1及びレスキュー分子補酵素Q10の両方(T1+R)で処置したか、又は糖尿病薬物T2及びレスキュー分子補酵素Q10の両方(T2+R)で処置した。未処置対照試料と比較して、ミトコンドリアOCRは、高血糖状態の心筋細胞を糖尿病薬物T1又はT2で処置した場合に減少した。しかし、ミトコンドリアOCRは、高血糖状態の心筋細胞を、糖尿病薬物及びレスキュー分子補酵素Q10の両方(T1+R又はT2+R)で処置した場合に正常化された。
図37Bに示すように、ミトコンドリアATP合成実験を、高血糖状態の心筋細胞試料について行った。高血糖状態の心筋細胞を、糖尿病薬物で処置しなかった(UT)か、処置した(T)か、又は糖尿病薬物及びレスキュー分子補酵素Q10の両方(T+R)で処置した。未処置対照試料と比較して、ミトコンドリアATP合成は、高血糖状態の心筋細胞を糖尿病薬物(T)で処置した場合に抑えられた。
図38に示すように、収集したプロテオミクスのデータに基づいて、薬物処置によりダウンレギュレートされるタンパク質を、GOタームを用いてアノテートした。ミトコンドリアエネルギー代謝に関与するタンパク質は、高血糖状態の心筋細胞を、心毒性を引き起こすことが知られている糖尿病薬物で処置した場合に、ダウンレギュレートされた。
各条件について及び各変動ありで収集されたプロテオミクス、リピドミクス、転写プロファイリング、機能アッセイ及びウェスタンブロッティングのデータを、REFS(商標)システムにより処理した。複合変動ネットワークを、各変動(例えば糖尿病薬物、CoQ10又はそれらの両方)に曝露した1の具体的条件(例えば高血糖又は高脂血症)から得られた組み合わせデータから作成した。複合未変動ネットワークを、変動なし(未処置)で同じ1の具体的条件(例えば高血糖又は高脂血症)から得られた組み合わせデータから作成した。同様に、複合変動ネットワークを、各変動(例えば糖尿病薬物、CoQ10又はそれらの両方)に曝露した第二の対照条件(例えば正常糖血症)について得られた組み合わせデータから作成した。複合未変動ネットワークを、変動なし(未処置)で同じ第二の対照条件(例えば正常糖血症)から得られた組み合わせデータから作成した。
上記のコンセンサス複合ネットワークにおける各ノードをシミュレートして(10倍増加又は減少させることにより)、シミュレーションネットワークを、詳細な説明において上で詳細に記載するようにして、REFS(商標)を用いて作成した。
シミュレーションネットワークにおいて親ノードを子ノードに接続する各エッジについての曲線下面積及び倍数変化を、Rプログラミング言語を用いるカスタム構築したプログラムにより抽出した(ここで、Rプログラミング言語は、統計的演算及びグラフィックのためのオープンソースソフトウェア環境である)
デルタネットワークを、シミュレートした複合ネットワークから作成した。糖尿病薬物に応答する薬物により誘導される毒性状態対正常状態の差分ネットワーク(デルタネットワーク)を作成するために、図39に示すようにして、PERLプログラミング言語を用いるカスタム構築したプログラムにより、比較のステップを行った。
具体的に、図39に示すように、UTは、高血糖状態における未処置対照心筋細胞のタンパク質発現ネットワークのことをいう。処置Tは、高血糖状態における糖尿病薬物処置心筋細胞のタンパク質発現ネットワークのことをいう。UT∩TデルタネットワークにおけるTからの固有のエッジを、図40に示す。
具体的に、高血糖状態における未処置心筋細胞のシミュレートした複合マップと、高血糖状態における糖尿病薬物処置心筋細胞のシミュレートした複合マップとを、カスタム作成したPerlプログラムを用いて比較して、高血糖状態における糖尿病薬物処置心筋細胞の固有のエッジを作成した。PERL及びRプログラムからの出力を、オープンソースプログラムであるサイトスケープに入力して、デルタネットワークの視覚的な図を作成した。図40に示すように、ネットワークは、高血糖状態における心筋細胞/心毒性モデルにおいて糖尿病薬物対未処置により駆動されるデルタネットワークを表す。
図40に示す薬物により誘導される毒性状態対正常状態の差分ネットワークから、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1のような薬物により誘導される心毒性の病態生理学を駆動するタンパク質を同定した。これらのタンパク質は、他の心毒性誘導性薬物の同定のためのバイオマーカーとして機能できる。これらのタンパク質は、心毒性を緩和できる薬剤の同定のためのバイオマーカーとしても機能できる。
本実施例で記載する実験は、変動膜生物学及び薬物処置に曝露した糖尿病性心筋細胞における遊離脂肪酸の運命の変化が、薬物により誘導される毒性の中心の一片であることを証明する。データ統合及びネットワーク生物学により、心毒性の理解が増進し、心毒性を予測できる新規なバイオマーカーの同定が可能になる。
参照による組み込み
本出願を通して引用され得る全ての引用文献の内容(参照文献、特許、特許出願及びウェブサイトを含む)は、参考文献が本明細書で引用されているかのごとく、それらの全体が参照により明示的に本明細書に組み込まれている。本発明の実施は、そうでないと示さない限り、当該技術において公知のタンパク質形成の従来の技術を採用する。
均等物
本発明は、本発明の精神又は本質的特徴から逸脱することなく、その他の具体的な形で具体化できる。上記の実施形態は、よって、本明細書で記載する本発明を限定するよりむしろ、全ての点において説明するとみなされる。本発明の範囲は、よって、上記の記載によるよりもむしろ添付の特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲の意味及び均等性の範囲内の全ての変更は、よって、本発明に包含することを意図する。