JP6104625B2 - 発光材料および有機el素子 - Google Patents

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Description

本発明は、発光材料およびそれを用いた有機EL素子に関する。
有機EL素子は、陰極と陽極との間に発光層を有する。発光層は、通常、ホスト材料とドーパント材料で構成される。ドーパント材料としては、蛍光材料および燐光材料が一般的に知られている。蛍光材料は内部量子効率の理論上限値が25%であるのに対して、燐光材料の内部量子効率の理論上限値は100%である。そのため、ドーパント材料として燐光材料を用いた有機EL素子は、照明やディスプレイなど様々な分野で注目されている。
ドーパント材料は、それ自身の発光能力は高いが、単独での成膜が困難な場合が多い。そのため成膜性の高いホスト材料と混合して用いるのが一般的である。燐光材料を用いた有機EL素子において、ホスト材料のS−Tギャップは、ドーパント材料のS−Tギャップよりも大きい必要がある。ここで、「S−Tギャップ」とは、一重項基底状態(S)と三重項最低励起状態(T)の断熱遷移エネルギーを意味する。そのため、青色のような短波長(高エネルギー)の光を放出する有機EL素子では、ホスト材料が大きなS−Tギャップを有することが求められる。一般に、青色燐光ドーパント材料のS−Tギャップは2.6eV程度あるいはそれ以上であるため、ホスト材料は、2.7eV程度以上のS−Tギャップを有することが求められる。
このような特性を満たし得る燐光材料用のホスト材料として、カルバゾール誘導体が注目されている。例えば、下記の4,4’−N,N’−ジカルバゾール−2,2’−ジメチル−ビフェニル(CDBP)は、S−Tギャップが2.7eV以上であり、N−カルバゾリル基を含む故にアモルファス状態が安定することが知られている(特許文献1および特許文献2参照)。また、CDBPはキャリア移動度が高いことから、高発光効率の青色燐光ドーパント用のホスト材料としての応用が期待されている。
特許第4103491号 特開2004−273128号公報
本発明者らが、ホスト材料としてCDBPを用いた有機EL素子について検討したところ、低駆動電圧では高い発光効率を示すものの、高駆動電圧における発光効率の低下を生じ易いことが判明した。このような高駆動電圧下での発光効率低下の原因についてさらに検討を進めた結果、CDBPは、正孔移動度が電子移動度に比して1/100以下と小さく、電界強度が高くなるに従って、その差がより大きくなることが判明した。
このように、CDBP等のカルバゾール化合物をホスト材料として用いた有機EL素子では、正孔移動度が電子移動度と比べて非常に小さいために、発光層の陰極側界面付近で優先的に発光が生じており、陽極側ではほとんど発光していないと考えられる。また、駆動電圧の上昇に伴ってその傾向がより顕著となるために、高駆動電圧下での発光効率の低下を生じ易いと推定される。
このような観点から、正孔輸送性と電子輸送性の両方を備えるバイポーラ性の材料がホスト材料として用いられることが好ましい。これまでも種々のバイポーラ性の有機材料が開発されているが、S−Tギャップが小さいため、青色燐光ドーパント材料として使用可能なものはほとんど得られていないのが現状である。
上記現状に鑑み、本発明は、正孔移動度と電子移動度の差が小さく、高駆動電圧においても高い発光効率を発揮し得る燐光材料用のホスト材料、および当該材料を用いた有機EL素子の提供を目的とする。
本発明者らが検討の結果、所定のカルバゾール誘導体が、所期のS−Tギャップを有し、かつ正孔移動度と電子移動度の差が小さいことを見出し、本発明にいたった。
本発明は、下記式(I)で表される化合物からなる発光材料に関する。
式(I)中、Rは水素原子または非芳香族置換基を表す。Rはベンズイミダゾリル基のベンゼン環に結合した置換基である。RおよびRはビフェニリレンのベンゼン環に結合した置換基である。RおよびRはカルバゾリル基のベンゼン環に結合した置換基である。R〜Rはそれぞれ独立に非芳香族置換基を表す。RおよびRはそれぞれ独立に、任意の置換基を表す。
式(I)中、pは0〜4の整数である。qおよびrはそれぞれ独立に0〜4の整数である。sおよびtはそれぞれ独立に0〜4の整数である。R〜Rがそれぞれ複数存在する場合、複数のR〜Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数のRおよび複数のRは、それぞれ、互いに結合して環構造を形成してもよい。
一実施形態において、本発明の発光材料は、正孔移動度と電子移動度との差が小さいことが好ましい。具体的には、正孔移動度と電子移動度のいずれか大きい方が、電子移動度と正孔移動度のいずれか小さい方の30倍以下であることが好ましい。なお、正孔移動度および電子移動度は、TOF法により求められる、電界強度500000V/cmでの値である。
さらに、本発明は、上記発光材料を用いた有機EL素子に関する。本発明の有機EL素子は、陽極と陰極との間に挟持された少なくとも1つの発光層を備え、発光層は、燐光ドーパント材料およびホスト材料を含有する。本発明の有機EL素子は、当該ホスト材料として、上記式(I)の発光材料を含有する。
一実施形態において、発光層中の前記燐光ドーパント材料は、S−Tギャップが2.6eV以上である。当該実施形態では、青色発光層を備える有機EL素子が得られる。
本発明の発光材料は、強電界下においても正孔移動度と電子移動度の差が小さく、燐光材料のホスト材料として用いられた場合は、高駆動電圧下でも高発光効率を示し得る。また、本発明の発光材料は、S−Tギャップが大きいため、特に青色燐光用ホスト材料として好適に用いられる。
有機EL装置の層構成の一例を示す模式的断面図である。 図1の有機EL装置における有機EL素子の層構成の一例を示す模式的断面図である。 実施例の発光材料のキャリア移動度測定結果である。 比較例の発光材料(CDBP)のキャリア移動度測定結果である。 実施例および比較例の有機EL素子の発光スペクトルである。 実施例および比較例の有機EL素子の輝度を電流密度に対してプロットしたグラフである。
[化合物の構造]
本発明の発光材料は、4,4’−ビフェニリレンの4位および4’位のそれぞれに、カルバゾリル基の9位のN原子、およびベンズイミダゾリル基の1位のN原子が結合した化合物であり、下記式(I)で表される。なお、4,4’−ビフェニリレン基、カルバゾリル基およびベンズイミダゾリル基のそれぞれは、置換基を有していてもよく有していなくてもよい。
上記化合物は、正孔移動度と電子移動度の差が小さく、バイポーラ性のホスト材料として有用である。これは、ビフェニリレンに9位のN原子が結合したカルバゾリル基が化合物に正孔輸送性を持たせ、ビフェニリレンに1位のN原子が結合したN−ベンズイミダゾリル基が化合物に電子輸送性を持たせ、両者が独自の機能を相乗的に発現し得るためと推定される。
[置換基の例]
式(I)において、Rは水素原子または非芳香族置換基を表す。Rはベンズイミダゾリル基のベンゼン環に結合した置換基である。RおよびRはビフェニル骨格のベンゼン環に結合した置換基である。RおよびRはカルバゾリル基のベンゼン環に結合した置換基である。R〜Rはそれぞれ独立に非芳香族置換基を表す。RおよびRはそれぞれ独立に、任意の置換基を表す。
式(I)中、pは0〜4の整数である。qおよびrはそれぞれ独立に0〜4の整数である。sおよびtはそれぞれ独立に0〜4の整数である。R〜Rがそれぞれ複数存在する場合、複数のR〜Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数のRおよび複数のRは、それぞれ、互いに結合して環構造を形成してもよい。
<置換基R〜Rの例>
式(1)中、置換基R1は、水素または非芳香族置換基であり、R〜Rは非芳香族置換基である。非芳香族置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン置換アルキル基、ハロゲン置換アルコキシ基、アミノ基、アルキルチオ基等が挙げられる。
前記アルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖状または分岐を有するアルキル基が挙げられる。好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の、直鎖状または分岐を有する低級アルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、1−エチルプロピル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、等が挙げられる。
前記アルコキシ基としては、直鎖状または分岐を有する炭素数1〜20のアルコキシ基が挙げられる。好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の、直鎖状または分岐を有する低級アルコキシ基が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、等が挙げられる。
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。
前記ハロゲン置換アルキル基としては、1〜7個、より好ましくは1〜3個のハロゲン原子で置換された前記例示のアルキル基を挙げることができる。具体的には、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ジブロモメチル基、ジクロロフルオロメチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、2−フルオロエチル基、2−クロロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基、3−クロロプロピル基、2−クロロプロピル基、3−ブロモプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、4,4,4,3,3−ペンタフルオロブチル基、4−クロロブチル基、4−ブロモブチル基、2−クロロブチル基、5,5,5−トリフルオロペンチル基、5−クロロペンチル基、6,6,6−トリフルオロヘキシル基、6−クロロヘキシル基、ペルフルオロヘキシル基、等が挙げられる。
前記ハロゲン置換アルコキシ基としては、1〜7個、より好ましくは1〜3個のハロゲン原子で置換された前記例示のアルコキシ基を挙げることができる。具体的には、前記例示のハロゲン置換アルキル基に酸素原子(−O−)が付加されたものが挙げられる。
前記アミノ基は、無置換アミノ基(−NH)の他、1個または2個の置換基を有するものであってもよい。また、アミノ基が2個の置換基を有する場合、これらは同一でもよく、異なっていてもよい。アミノ基が置換基を有する場合、その置換基としては、前記例示の低級アルキル基が好ましい。アミノ基の具体例としては、無置換アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、ジ−n−ブチルアミノ基、ジ−n−ペンチルアミノ基、ジ−n−ヘキシルアミノ基、N−メチル−N−エチルアミノ基、N−エチル−N−n−プロピルアミノ基、N−メチル−N−n−ブチルアミノ基、N−メチル−N−n−ヘキシルアミノ基、等が挙げられる。
前記アルキルチオ基としては、炭素数1〜30の直鎖状または分岐を有するアルキルチオ基を挙げることができる。好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の、直鎖状または分岐を有する低級アルキルチオ基が挙げられる。具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、等が挙げられる。
(置換基R〜Rの例)
カルバゾリル基のベンゼン環に結合した置換基RおよびRは、芳香族置換基であってもよく、非芳香族置換基であってもよい。非芳香族置換基の例としては、R〜Rの例として前述した各置換が挙げられる。芳香族置換基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の置換もしくは無置換のアリール基や、置換もしくは無置換の不飽和複素環基が挙げられる。前記不飽和複素環基の不飽和複素環としては、5〜10員環、好ましくは5〜6員環のものが挙げられる。具体的には、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環、等を挙げることができる。
また、前記芳香族置換基の一例として、カルバゾール環を有するものが挙げられる。例えば、本発明の発光材料を構成する化合物は、下記式(II)で表されるように、複数のカルバゾール環が連結した構造を有していてもよい。
上記式(II)において、各カルバゾール環の各ベンゼン環は、さらに任意の置換基を有していてもよい。窒素原子に結合した置換基X〜Xは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
複数のカルバゾール環が連結した構造を有する場合、本発明の発光材料を構成する化合物の例としては、上記式(II)において、窒素原子の置換基X〜Xの少なくとも1つが、下記式(III)で表される構造であるものが挙げられる。
上記式(III)におけるR〜R、ならびにp、qおよびrは、式(I)について先に例示したものと同様である。
式(II)では、複数のカルバゾール環が連結した構造として、隣接するカルバゾール環の2位と7位が結合した例を挙げたが、各カルバゾール環は、2位および7位以外で連結されていてもよい。また、カルバゾール環の連結数は3に限定されず、2個であってもよく、4個以上であってもよい。さらにカルバゾール環を構成するベンゼン環の1つに、複数のカルバゾール環が連結されていてもよい。
多数のカルバゾール環が連結された構造を採用することによって、溶液成膜に適した材料とすることもできる。また、複数のカルバゾール環のそれぞれの窒素原子上の置換基Xを上記式(III)の構造とすることによって、正孔移動度と電子移動度を適宜に調整し得る。
上記式(I)において、カルバゾリル基のベンゼン環に複数の置換基RおよびRが結合している場合(すなわち、式(I)中のsまたはtが2以上である場合)、これら複数の置換基が互いに結合して芳香族または非芳香族の環構造を形成していてもよい。また、複数の置換基が互いに結合して形成される環構造は、複素環であってもよく、例えば、下記式(IV)に例示するインドロカルバゾール構造等を形成していてもよい。
インドロカルバゾールの各ベンゼン環は、さらに置換基を有していてもよい。また、窒素原子に結合した置換基XとXは、同一であってもよく、異なっていてもよい。なお、インドロカルバゾール環の構造は、上記式(IV)に限定されず、他の幾何異性構造であってもよい。
インドロカルバゾール構造を有する場合、本発明の発光材料を構成する化合物の例としては、上記式(IV)において、窒素原子の置換基X〜Xの少なくとも1つが、上記式(III)で表される構造であるものが挙げられる。
[好ましい化合物の例]
(ビフェニルレンの置換基)
上記式(I)において、ビフェニル骨格を形成するそれぞれのベンゼン環は、少なくとも1つの置換基RおよびRを有することが好ましい。すなわち、上記式(I)において、qおよびrは1以上であることが好ましい。ビフェニル骨格を形成するベンゼン環が置換基を有する場合、立体障害等に起因して、2つのベンゼン環平面の間にねじれが生じ易く、π電子密度を調整することができる。特に、下記式(V)で表されるように、ビフェニル骨格の2位および2’位に置換基R31およびR41を有することが好ましい。
上記式(V)におけるR〜R、ならびにp,q,r,sおよびtは、式(I)について先に例示したものと同様である。R31およびR41は、RおよびRと同様に、それぞれ独立に非芳香族置換基である。式(V)において、R31およびR41は、炭素数1〜5の置換もしくは無置換アルキル基であることが好ましく、炭素数1〜5の無置換アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
ビフェニル骨格を形成するベンゼン環の2位および2’位にアルキル基を有する場合、2つのベンゼン環平面の間にねじれを生じさせるとともに、アルキル基からベンゼン環への電子が押し出が生じ、π電子密度が調整される。そのため、三重項最低励起状態(T)のエネルギーが上昇し、これに伴ってS−Tギャップが大きくなるため、青色燐光材料のホスト材料として有用な化合物が得られうる。
π電子密度を適宜に調整する観点からは、式(IV)において、rおよびqが1であることが好ましい。すなわち、ビフェニリレンの2位および2’位のみに置換基R(R31)およびR(R41)を有し、3位,3’位、5位,5’位、6位および6’位は水素であることが好ましい。この場合の置換基R(R31)およびR(R41)は、前述のごとく、炭素数1〜5の無置換アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。すなわち、本発明の一形態において、発光材料を構成する化合物は、下記式(VI)で表される構造を有することが好ましい。
(ベンズイミダゾリル基上の置換基)
上記式(I)において、ベンズイミダゾリル基の2位に結合したRは、水素原子、または炭素数1〜5の置換もしくは無置換アルキル基であることが好ましい。Rが水素または低級アルキル基であれば、Tエネルギーを低下させて、S−Tギャップを大きくできるため、青色燐光材料のホスト材料として有用な化合物が得られうる。特に、Rは、水素またはメチル基であることが好ましい。
[合成方法]
上記化合物の合成方法は特に限定されず、各種公知の反応を組み合わせて、目的の化合物を得ることができる。例えば、上記式(VI)で表される化合物は、2,2’−アルキル−4,4’−ジハロゲン化ビフェニルとカルバゾールとを反応させて、ビフェニリレンに結合した一方のハロゲン(例えばヨウ素)をカルバゾリル基と置換した後、さらにベンズイミダゾールと反応させて、他方のハロゲンをベンズイミダゾリル基と置換する方法によって合成され得る。このような合成スキームによれば、4,4’−ビフェニリレンの4位および4’位のそれぞれに、カルバゾリル基の9位のN原子、およびベンズイミダゾリル基の1位のN原子が選択的に結合した化合物が得られる。
[キャリア移動度]
本発明の発光材料は、正孔移動度μと電子移動度μとの差が小さいことが好ましい。具体的には、正孔移動度と電子移動度のいずれか大きい方が、正孔移動度と電子移動度のいずれか小さい方の30倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることがさらに好ましい。ここで、正孔移動度μおよび電子移動度μは、500000V/cmの電界を付与した場合の値であり、Time of Flightキャリア移動度測定法(TOF法)により測定される。電子移動度と正孔移動度との差が小さいことによって、有機EL素子の発光層に用いられた場合に、発光層内で、正孔および電子の両方が高い移動度を有する。そのため、有機EL素子の電流密度が向上し、厚み方向で均一な発光を得ることが可能となる。
また、本発明の発光材料は、正孔移動度および電子移動度がいずれも大きいことが好ましい。具体的には、正孔移動度μおよび電子移動度μは、いずれも、1.0×10−9cm/V・s以上であることが好ましく、1.0×10−8cm/V・s以上であることがより好ましく、5.0×10−8cm/V・s以上であることがさらに好ましく、8.0×10−8cm/V・sであることが特に好ましい。
[有機EL素子]
図1は、有機EL装置の層構成の一例である。図1に示される有機EL装置は、透明基板3側から光が取り出される、「ボトムエミッション型」と称される構成である。有機EL装置1は、透明基板3上に、有機EL素子2を有し、有機EL素子は、封止部7によって封止されている。有機EL素子2は、透明電極層(陽極)4および裏面電極層(陰極)6からなる一対の電極間に、少なくとも1つの発光層を有する機能層5を備える。
機能層5は、複数の有機化合物薄膜が積層されたものである。図2は、機能層5の層構成の一例である。図2に示される有機EL素子2において、機能層5は、正孔注入層10、正孔輸送層11、発光層12、電子輸送層15、および電子注入層16を有する。すなわち、有機EL素子2において、発光層12は、透明電極層4と裏面電極層6との間に位置している。
(透明基板)
ボトムエミッション型の有機EL装置において、透明基板3は、透光性を有する材料からなるものであれば特に限定はない。図1に示すボトムエミッション方式の実施形態では、透明基板3側から光が取り出されるため、透明基板3は可視光域における透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。透明基板3としては、ガラス基板、フレキシブルな透明フィルム基板等を使用してもよい。なお、有機EL装置がトップエミッション方式を採用する場合、基板は不透明なものであってもよい。
(透明電極)
透明基板3上には、透明電極層(陽極)4が積層される。透明電極層4を構成する材料は特に限定されず、公知のものが使用できる。例えば、インジウム・スズ酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)等の材料からなるものが挙げられる。中でも、発光層12からの光の取出し効率や、電極のパターニングの容易性の観点からは、ITOあるいはIZOが好ましく用いられる。
透明電極層4には、必要に応じて、アルミニウム、ガリウム、ケイ素、ホウ素、ニオブ等の1種以上のドーパントがドーピングされていてもよい。透明電極層4の透過率は、可視光域における透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。透明電極層4は、例えば、スパッタ法やCVD法等のドライプロセスによって透明基板3上に形成される。透明電極層4の膜厚は、光の透過性や電気伝導度を考慮して適宜選択すればよいが、例えば80〜300nmであり、好ましくは100〜150nm、より好ましくは130〜150nmである。
(裏面電極層)
透明電極層4上には、機能層5が形成され、その上に裏面電極層(陰極)6が形成される。裏面電極層に用いられる材料としては、好ましくは仕事関数の小さい金属、または、その合金や金属酸化物等が挙げられる。仕事関数の小さい金属としては、アルカリ金属ではLi等、アルカリ土類金属ではMg、Ca等が例示される。また、希土類金属等からなる金属単体、あるいは、これらの金属とAl、In、Ag等の合金等が用いられることもある。さらに、特開2001−102175号公報等に開示されているように、陰極に接する有機層として、アルカリ土類金属イオン、アルカリ金属イオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む有機金属錯体化合物を用いることもできる。この場合、陰極として、当該錯体化合物中の金属イオンを真空中で金属に還元し得る金属、例えばAl、Zr、Ti、Si等もしくはこれらの金属を含有する合金を用いることが好ましい。
(機能層)
次に機能層5について説明する。機能層5は、少なくとも1層の発光層12を有する。機能層を構成する各層は、一般に、有機化合物、高分子化合物、遷移金属錯体等を含むアモルファス膜で構成される。機能層5は、一般に複数の層からなる積層構造を有している。図2では、機能層5は、正孔注入層10、正孔輸送層11、発光層12、電子輸送層15、および電子注入層16を有する。機能層5は、発光層12を有していればよく、正孔注入層10、正孔輸送層11、電子輸送層15、および電子注入層16は必要に応じて設けられる。
(発光層)
本発明の有機EL素子において、発光層12は、ホスト材料とドーパント材料を含有することが好ましい。
前記ドーパント材料としては、蛍光あるいは燐光を放出する遷移金属錯体が好適に用いられる。特に、高い発光効率を示す有機EL素子を得る観点から、ドーパント材料としては、燐光材料が好適に用いられる。燐光ドーパント材料としては、イリジウム錯体が有名である。例えば、緑色燐光を放出するドーパント材料としてはIr(ppy)等が知られており、青色燐光を放出するドーパント材料としてはFIrpic、FIr6等が知られている。
本発明の一実施形態において、前記燐光ドーパント材料は、S−Tギャップが2.6eV以上であることが好ましい。2.6evは、波長約480nmに相当するため、ドーパント材料のS−Tギャップが2.6eV以上であれば、480nmよりも短波長の青色の燐光を放出する。
発光層中のドーパント材料の含有量は特に限定されないが、0.1重量%以上が好ましく、1重量%〜50重量%がより好ましく、2重量%〜30重量%がさらに好ましく、3重量%〜20重量%が特に好ましく、3重量%〜12重量%が最も好ましい。
本発明の有機EL素子は、前記ホスト材料として、前述の式(I)で表される化合物からなる発光材料を含有する。本発明の発光材料は、良好な成膜性を示し、かつ、上記イリジウム錯体等のドーパント材料の良好な分散性を確保することができる。さらに、本発明の発光材料は、S−Tギャップが大きいため、青色燐光材料のホスト材料として好適である。
また、本発明の発光材料がホスト材料として用いられることで、高駆動電圧下においても発光効率に優れる有機EL素子とすることができる。これは、本発明の発光材料が、正孔移動度と電子移動度の差が小さいバイポーラ性を有し、発光層内において、正孔および電子の両方が高い移動度を有するために、電流密度が向上し、厚み方向で均一な発光を生じ得るためであると推測される。
本発明の有機EL素子は、ホスト材料として、式(I)で表される化合物に加えて、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の材料を含有していてもよい。ホスト材料として含まれる他の材料も、燐光ドーパント材料よりも大きなS−Tギャップを有することが好ましい。例えば、ホスト材料のキャリア密度をより高めるために、発光層中には、式(I)で表される化合物に加えて、CDBPのようなカルバゾール化合物等がホスト材料として含まれていてもよい。
発光層12中、式(I)で表される化合物の含有量は、70重量%〜98重量%が好ましく、80重量%〜97重量%がより好ましく、88重量%〜97重量%がさらに好ましい。含有量が前記範囲であれば、発光層全体としてのバイポーラ性が保たれるため、高い発光効率を有する有機EL素子とすることができる。
発光層の形成方法は特に限定されず、真空蒸着法や転写法等のドライプロセスの他、コーティング法や印刷法等のウェットプロセスを採用することができる。特に、本発明の発光材料は良好な成膜性を示すことから、真空蒸着法が好適に用いられる。真空蒸着法においては、ホスト材料とドーパント材料を共蒸着し、その際の蒸着速度を制御することにより、所望の蒸着比(ドープ濃度)を実現することができる。なお、本発明の発光材料が、前述の式(II)に示したように、分子中の多数のカルバゾール環が連結された構造を有する場合は、真空蒸着法よりもウェットプロセスの方が成膜性に優れる場合も想定される。
(正孔注入層および正孔輸送層)
図2に示すように、機能層5は、発光層12と陽極4との間に、正孔注入層10や、正孔輸送層11を有していてもよい。また、図示されていないが、正孔輸送層11と発光層12との間に、さらに電子阻止層等を有していてもよい。
正孔注入層10を構成する材料としては、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化ルテニウム、酸化マンガン等の金属酸化物や、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノ−キノジメタン(略称:F4−TCNQ)が挙げられる。さらに、三酸化モリブデンとN,N−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン(略称:NPB)との混合層を正孔注入層10として採用することができる。
(正孔輸送層)
正孔輸送層を構成する材料としては、アリールアミン系化合物、イミダゾール系化合物、オキサジアゾール系化合物、オキサゾール系化合物、トリアゾール系化合物、カルコン系化合物、スチリルアントラセン系化合物、スチルベン系化合物、テトラアリールエテン系化合物、トリアリールアミン系化合物、トリアリールエテン系化合物、トリアリールメタン系化合物、フタロシアニン系化合物、フルオレノン系化合物、ヒドラジン系化合物、カルバゾール系化合物、N−ビニルカルバゾール系化合物、ピラゾリン系化合物、ピラゾロン系化合物、フェニルアントラセン系化合物、フェニレンジアミン系化合物、ポリアリールアルカン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリフェニレンビニレン系化合物等が挙げられる。
特に、アリールアミン化合物を含有する正孔輸送層は、アリールアミン化合物がラジカルカチオン化し易いため、正孔輸送層から発光層への正孔輸送効率を効果的に上昇させることができる。正孔輸送層材料を構成し得るアリールアミン化合物の中でも、トリアリールアミン誘導体が好ましく、特に4、4‘−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(「α―NPD」、または「NPB」と称される場合がある)が特に好ましい。
(電子輸送層および電子注入層)
図2に示すように、機能層5は、発光層12と陰極6との間に、電子注入層16や電子輸送層15を有していてもよい。また、図示されていないが、電子輸送層15と発光層12との間に、さらに正孔阻止層等を有していてもよい。正孔阻止層を構成する材料としては、例えば、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(通称:バトクプロイン、BCP)等が挙げられる。
電子輸送層15を構成する材料としては、トリス(8−ヒドロキシ−キノリナト)アルミニウム(略称:Alq)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、1,3−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]ベンゼン(Bpy−OXD)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(Bphen)、2,2’,2’’−(1,3,5−ベンジントリイル)−トリス(1−フェニル−1−H−ベンゾイミダゾール)(TPBi)、2−(4−ビフェニル)−5−(4−tert−ブチフフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、ビス(2−メチルl−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq)、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、等が挙げられる。
電子注入層16を構成する材料としては、Li等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;1種以上の前記金属を含む合金;前記金属の酸化物、ハロゲン化物、および炭酸化物;ならびにこれらの混合物が挙げられる。具体的には、8−ヒドロキシキノリノラト(リチウム)(Liq)、フッ化リチウム(LiF)、等が挙げられる。
図2に示す有機EL素子2は、透明基板3上に形成された透明電極層4上に、真空蒸着法等の手法により、正孔注入層10、正孔輸送層11、発光層12、電子輸送層15、電子注入層16、および裏面電極層6を順次積層することにより製造することができる。このようにして製造された有機EL素子2は、封止部7によって封止され、有機EL装置1となる。
なお、図2では、機能層5が5つの層からなる構成について説明したが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。例えば、正孔注入層10、正孔輸送層11、電子輸送層15、電子注入層16の一部または全部が省略された構成でもよい。また、前述のごとく、発光層12の前後に正孔阻止層や電子阻止層が設けられていてもよい。
機能層5を構成する各層の成膜方法については特に制限はなく、真空蒸着法やコーティング法、印刷法等の適宜の方法によって形成することができる。
本発明の有機EL素子は、発光層内の正孔移動度と電子移動度が同程度の値をとるため、高い発光効率を示す。本発明の有機EL素子は、消費電力の少ない省エネルギーの光源になり、ディスプレイ装置や照明装置などに有効に適用できる。
以下に、化合物の合成例および有機EL素子の作製例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
[実施例1]化合物(A)の合成およびキャリア移動度測定
本実施例では、下記の化合物(A)を合成し、S−Tギャップの測定およびキャリア移動度の測定を行った。
<化合物の合成>
N,N’−ジメチルプロピレン尿素(4ml)中に、2,2’−ジメチル−4,4’−ジヨードビフェニル(以下、化合物(11)と称する):4.97g、カルバゾール:1.59g、ヨウ化銅(I):91.7mg、18−クラウン6−エーテル:127mg、および炭酸カリウム:1.00gを含有する混合溶液を、窒素雰囲気下にて、170℃で11時間撹拌した後、室温まで放冷した。得られた混合物を酢酸エチルで希釈し、1%塩酸水溶液、水と飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。さらに、シリカゲルクロマトグラフィー(n−ヘキサン/塩化メチレン=10/1)により精製して、白色個体の化合物(12)を2.42g(収率45%)得た。
化合物(12)について、H−NMRを測定したところ、次の結果が得られた。
H−NMR(400MHz、CDCl);δ=8.16(d、2H)、7.70(s、1H)、7.62(d、1H)、7.50−7.41(m、6H)、7.32−7.26(m、3H)、6.96(d、1H)、2.15(s、3H)、2.13(s、3H)。
次に、無水ジメチルスルホキシド(22.5ml)中に、化合物(12):2.29g、ベンゾイミダゾール:1.72g、(1S,2S)−(+)−N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン:207mg、ヨウ化銅(I):139mg、およびリン酸カリウム:4.12gを含有する混合溶液を、窒素雰囲気下にて、150℃で11時間撹拌した後、室温まで放冷した。得られた混合物を塩化メチレンで希釈し、1%塩酸水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。さらに、シリカゲルクロマトグラフィー(n−ヘキサン/塩化メチレン=3/1、n−ヘキサン/酢酸エチル=3/1、1/1)により精製して、白色個体の化合物(A)を1.58g(収率71%)得た。
化合物(A)についてH−NMRを測定したところ、次の結果が得られた。
H−NMR(400MHz、CDCl);δ=8.21(s、1H)、8.17(d、2H)、7.92(m、1H)、7.67(m、1H)、7.53−7.29(m、14H)、2.29(s、3H)、2.24(s、3H)。
<S−Tギャップの測定>
上記で得られた化合物(A)を、77Kの2−MeTHF溶媒中に分散させた。この化合物の燐光スペクトルを測定したところ、T状態の零点振動準位からS状態の零点振動準位への遷移と帰属されるピークが、410nmの位置に現われた。この発光ピークに相当するエネルギギャップ3.02eVが、S−Tギャップと帰属された。
<キャリア移動度の測定>
キャリア移動度は、Organic Photorecepters for Imagong Systems(P.M.Borsenberg、D.S.Weiss著、Marcel Dekker社、1993年)に記載されている、Time of Flight(TOF)キャリア移動度測定法により測定した。測定の詳細は下記の通りである。
ITOガラス基板上に、真空蒸着法により、対象化合物を膜厚2.9〜5.7μm(蒸着速度:0.5nm/sec)で形成した。次にこの化合物層上に金を9nm厚(蒸着速度:0.02nm/sec)で真空蒸着して、電極を形成した。この手順により得られたITO/化合物(A)/Auからなる素子をTOF測定用素子とした。
このTOF測定用素子の金電極側に、波長337nmのパルスレーザーを照射し、キャリア、すなわち、正孔と電子を金電極側界面に発生させ、金電極とITO電極の間に電界Fを印加した際のキャリア移動(正孔移動あるいは電子移動)によって生じた電流(いわゆる光誘起電流)の時間変化をオシロスコープで測定した。なお、この測定においては、金電極を陽極、ITO電極を陰極とした場合は正孔が移動し、金電極を陰極、ITO電極を陽極とした場合は電子が移動するため、正孔移動度と電子移動度とを独立に測定することができる。
上記オシロスコープで測定した光誘起電流が急激に低下するまでの時間に着目し、これを移動時間τとした。印加した電界強度F、移動時間τ、化合物の膜厚dを次の式に代入し、キャリア移動度μを評価した。
μ=d/(Fτ)
[比較例1]CDBPのキャリア移動度測定
上記キャリア移動度の測定において、対象化合物を、下記の4,4’−N,N’−ジカルバゾール−2,2’−ジメチル−ビフェニル(CDBP)に変更して、ITO/CDBP(膜厚:2.1μm〜3.7μm)/Au(90nm)からなるTOF測定用素子を作製し、上記実施例1と同様にしてキャリア移動度を測定した。
[実施例2]有機EL素子の作製および評価
パターニングされたITO電極(膜厚80nm)を有するガラス基板上に、以下の手順で、2mm×2mmの発光領域を有するボトムエミッション型評価素子を作製した。
ITO電極(陽極)上に、三酸化モリブデン(MoO)を蒸着し、正孔注入層(膜厚0.75nm)を形成した。正孔注入層の上に、N,N−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン(NPB)を真空蒸着し、正孔輸送層(膜厚60nm)を形成した。
次に、正孔輸送層の上に、燐光ドーパント材料とホスト材料を共蒸着して、発光層(20nm)を形成した。燐光ドーパント材料として前述のFIrpic(S−Tギャップ:2.6eV)、ホスト材料として上記実施例1の化合物(A)を用い、蒸着比は、重量比で、ドーパント材料:ホスト材料=8:92とした。
発光層の上に、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)を真空蒸着し、正孔阻止層(膜厚10nm)を形成した。次に、正孔阻止層上に、トリス(8−ヒドロキシ−キノリナト)アルミニウム(Alq)を真空蒸着し、電子輸送層(膜厚30nm)を形成した。電子輸送層の上に、LiFを真空蒸着し、電子注入層(膜厚1nm)を形成した。電子注入層の上に、陰極として、アルミニウムを100nmの膜厚で成膜した。
陰極を形成後、不活性下のグローボックスに、蒸着成膜後の有機EL素子を移動し、ガラスキャップに2液性硬化樹脂を塗布し、基板とキャップを貼り合わせた。樹脂の硬化完了後、貼り合わせた基板を大気圧下に取り出し、電流を通電して、電流−電圧−輝度(I−V−L)特性および発光強度スペクトルを測定した。
[比較例2]CDBPを使用した有機EL素子の作製および評価
ホスト材料として、化合物(A)に代えてCDBPが用いられたこと以外は、実施例2と同様にして、有機EL素子の作製および評価を行った。
[評価結果]
<化合物のキャリア移動度>
図3に実施例1(化合物(A))のキャリア移動度、図4に比較例1(CDBP)のキャリア移動度の測定結果を示す。比較例1のCDBP(図4)では、電界強度Fが400(V/cm)1/2=160000V/cmから900(V/cm)1/2=810000V/cmの全ての領域において、電子移動度の方が正孔移動度よりも30倍以上大きい値を示した。電界強度が大きくなるに従って、両者の差が大きくなる傾向がみられ、電界強度Fが707(V/cm)1/2=500000V/cmの場合、正孔移動度は電子移動度の約800倍となっていた。
一方、実施例1の化合物(A)(図3)では、測定範囲において、電子移動度、正孔移動度ともに、10−6cm/Vs程度であった。キャリア移動度は、CDBPと同等以下であるが、電子移動度と正孔移動の差はみられず、電界強度Fを高くても、電子移動度と正孔移動度の差が大きくなることはなく、電界強度Fが160000V/cmから810000V/cmの全ての領域において、正孔移動度は電子移動度の10倍未満であった。この結果から、本発明の発光材料を構成する化合物は、電子輸送性と正孔輸送性の両方を有するバイポーラ性の材料であるといえる。
<発光スペクトルおよびI−V−L特性>
図5に、実施例2および比較例2の有機EL素子の、駆動電圧10Vにおける発光スペクトルを示す。いずれの有機EL素子も、470nmに発光ピーク強度を有する青色の燐光を放出し、FIrpicの光励起発光スペクトルと同じ形状のスペクトルが得られた。また、実施例2の有機EL素子は、測定範囲(駆動電圧0〜12V)において、スペクトル形状に変化がみられなかった。
駆動電圧10Vにおける輝度は、比較例2が1426cd/mであったのに対して、実施例2は3163cd/mであり、本発明の有機EL素子の輝度は、CDBPをホスト材料に用いた有機EL素子の2倍以上であった。
図6に、実施例2および比較例2の有機EL素子の電流発光効率を示す。比較例2の素子は、電流密度0.02mA/cmにおいて最大電流発光効率11.8cd/Aを示したのに対して、実施例2の素子は、電流密度0.2mA/cmにおいて最大電流発光効率15.2cd/Aを示した。これらの結果から、本発明の有機EL素子は、CDBPをホスト材料に用いた従来の有機EL素子よりも高い発光効率を示し、特に高電流密度(高駆動電圧)における発光特性に優れることが示された。
2 有機EL素子
4 透明電極層(陽極)
5 機能層
6 裏面電極層(陰極)
12 発光層

Claims (6)

  1. 下記式(I)で表される発光材料:
    式(I)中、
    は水素原子または非芳香族置換基を表し、
    はベンズイミダゾリル基のベンゼン環に結合した置換基であり、RおよびRはビフェニリレンのベンゼン環に結合した置換基であり、RおよびRはカルバゾリル基のベンゼン環に結合した置換基であり、
    〜Rはそれぞれ独立に非芳香族置換基を表し、少なくともビフェニル骨格の2位および2’位には、それぞれ置換基R およびR が存在し、ビフェニル構造の2位および2’位の前記置換基R およびR は、それぞれ独立に、炭素数1〜5の置換または無置換アルキル基であり、およびRはそれぞれ独立に、任意の置換基を表し、
    pは0〜4の整数であり、qおよびrはそれぞれ独立に〜4の整数であり、sおよびtはそれぞれ独立に0〜4の整数であり、
    〜Rがそれぞれ複数存在する場合、複数のR〜Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、
    複数のRおよび複数のRは、それぞれ、互いに結合して環構造を形成してもよい。
  2. 前記式(I)中、qおよびrは1であり、ビフェニル構造の2位および2’位の前記置換基RおよびRは、いずれもメチル基である、請求項に記載の発光材料。
  3. 前記式(I)中、Rが、水素原子、または炭素数1〜5の置換もしくは無置換アルキル基である、請求項1または2に記載の発光材料。
  4. 電界強度500000V/cmにおいてTOF法により求めた正孔移動度と電子移動度のいずれか大きい方が、電子移動度と正孔移動度のいずれか小さい方の30倍以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の発光材料。
  5. 陽極;陰極;および前記陽極と前記陰極との間に挟持された少なくとも1つの発光層、を備え、
    前記発光層は、燐光ドーパント材料およびホスト材料を含有し、
    前記ホスト材料が、請求項1〜のいずれか1項に記載の発光材料である、有機EL素子。
  6. 前記燐光ドーパント材料のS−Tギャップが2.6eV以上である、請求項に記載の有機EL素子。
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