JP6101181B2 - タービン油の寿命予測方法 - Google Patents

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Description

本発明は、タービン油の寿命予測方法に関する。
タービン油を長時間使用すると酸化が進行し、その結果、油中にスラッジが生成し、このスラッジがタービンの弁、オリフィス管、フィルタなどを閉塞し、さらに滑動部の摩耗増大の原因となることがある。このため、これら現象を未然に防ぐため、タービン油の寿命を予測することは、タービン油の給油管理の適正化による機械の故障防止、機械の寿命延長、メンテナンス費用の削減等の上で重要である。
タービン油の寿命を評価する手法として、種々のものがあり、例えば、規格化されているものとして、JIS K2514があり、酸化安定性の評価を目的としてタービン油酸化安定度試験(TOST:Turbine Oil Oxidation Stability Test)、さらに、使用油の寿命管理を目的に回転ボンベ式酸化安定度試験(RPVOT:Rotating Pressure Vessel Oxidation Test)が知られている。
また、タービン油には、基油の酸化分解を防止して油寿命を延長するために酸化防止剤が添加されており、この防止剤は、フェノール系、アミン系、有機金属系に大別され、これら防止剤の反応速度論をベースに劣化を評価する手法が構築されている例もある。
しかし、適用範囲は、フェノール系酸化防止剤を含むフェノール系タービン油のみであり、フェノール系+アミン系のコンプレックス系、あるいは複数のアミンを含むアミン系タービン油には基礎データがなく適用が難しい。
一方、潤滑油やタービン油の劣化や寿命を予測する技術に関する特許文献として、例えば、特許文献1(特開2001−173888号公報)には、実機の運転条件での潤滑油の動粘度の劣化速度を予め求めた後、潤滑油の動粘度を測定し、この測定時からある時間経過後の動粘度を劣化速度に基づいて算出し、この潤滑油に新油を補充する場合の補充率と補充間隔とを定めて補充後の潤滑油の劣化を予測することが示されている。
また、特許文献2(特開2004−212292号公報)には、新油の酸化劣化試験を行って劣化油を作り、JIS K2514に規定されるRPVOT試験によって前記劣化油のRPVOT残存率(A)を求め、前記新油及び前記劣化油の分子量分布を測定して、前記新油に含まれる酸化防止剤の分子量分布図の全ピーク面積Sで、前記劣化油に含まれる酸化防止剤の分子量分布図の所定の閾値より高分子側の増加面積ΔSを除した値(ΔS/S)を求め、前記(A)と前記(ΔS/S)との関係からスラッジ生成性を求めて、タービン油の劣化を判定する判定方法が開示されている。
特開2001−173888号公報 特開2004−212292号公報
前述のTOSTの試験方法は、一例として図3に示すように、試験管1へ水と潤滑油、銅と鉄の触媒を入れて95℃の油浴槽に浸しながら酸素を吹き込んで酸化させて、試験後の酸価や粘度、色などが時間の経過とともにどのように変化するかを調べることで評価するものである。このため、酸化安定性を評価するために1000時間程度、潤滑油の種類によっては、2000〜3000時間を要し、評価に時間がかかるという問題がある。
また、RPVOTの試験方法は、一例として図4に示すように、ボンベ式の試験容器に水と潤滑油と銅触媒を入れて、蓋をして密封した後にボンベ15に酸素を630KPa圧入して150℃の油浴槽の中で回転させ、最高圧力から175KPa圧力低下するまでの時間を測定して評価する。
前述のTSOTと比べて極めて短い試験時間であり、使用中の潤滑油の残存寿命の推定や品質の把握のような品質管理試験として一般に使用されているが、TOSTと比較して潤滑油に添加されている酸化防止剤の種類や錆止め剤の有無によっては、評価結果が実機性能と相関しない場合がある。
さらに、特許文献1は、実機の運転条件での潤滑油の動粘度の劣化速度を基に評価し、また前記特許文献2は、劣化油の分子量分布を測定してスラッジ生成性を求めて評価するものであり、劣化油の動粘度または分子量を基に判定するものである。
これら手法による寿命評価は、潤滑油の動粘度の劣化速度や分子量分布を求めなければならず工数を要し、評価精度としては充分とは言えない。
そこで、本発明は、前述の課題に鑑みて、酸化安定度試験からの試験結果を用いて、短期間で、タービン油の寿命を誤差なく精度よく予測できるタービン油の寿命予測方法を提供することを目的とする。
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、タービン油新油の酸化安定度試験を行って時間の経過とともに酸化させて劣化タービン油を生成するステップと、前記時間の経過とともに劣化する劣化タービン油を、JIS K2514に規定されるRPVOT試験によってRPVOT残存率を算出するステップと、算出された前記RPVOT残存率の低下よりRPVOT残存率低下速度を算出するステップと、RPVOT残存率低下速度の温度依存性を求めて、前記RPVOT残存率低下速度の温度補正を行うステップと、前記タービン油の循環系における高温部を選定し、前記温度補正後のRPVOT残存率低下速度を用いて、各高温部での暴露時間及び温度を基に各高温部におけるRPVOT残存率低下量を算出するステップと、各高温部でのRPVOT残存率低下量を前記循環系の全油量に対する各高温部の油量比で希釈した希釈RPVOT残存率低下量を算出するステップと、各高温部における希釈RPVOT残存率低下量を総和して総和RPVOT残存率低下量を算出するステップと、該総和RPVOT残存率低下量が所定値に達するまでの時間を基にタービン油の残存寿命を算出するステップと、を備えたことを特徴とする。
かかる発明によれば、おおきく分けて、劣化タービン油を生成し、時間経過とともに劣化する劣化タービン油に対して、JIS K2514に規定されるRPVOT試験によってRPVOT残存率を算出し、このRPVOT残存率低下速度を算出することをまず第1段階として行う。
その後に、第2段階として、RPVOT残存率の低下速度の温度依存性を求めてRPVOT残存率低下速度の温度補正を行う。
その後に、第3段階として、タービン油の循環系における各高温部における劣化を算出する。すなわち、温度及び暴露時間を基に、温度補正後のRPVOT残存率低下速度を用いて、各高温部におけるRPVOT残存率低下量を算出する。
その後に、第4段階として、各高温部の劣化を全体への劣化として換算するために流量比で希釈する。すなわち、各高温部でのRPVOT残存率低下量を循環系の全流量に対する各高温部の流量比で希釈する。
その後、第5段階として、各高温部における希釈RPVOT残存率低下量を総和して総和RPVOT残存率低下量を算出して、該総和RPVOT残存率低下量が一定の閾値、例えば、RPVOT残存率が25%に達する時間を算出して試験に供したタービン油の寿命として予測する。
以上のように、実機に使用するタービン油を、実機データを必要とせず、また、酸化防止剤の種類にも依存するようなこともなく、酸化安定度試験を行って得られた試験結果を基に、試験に供したタービン油が用いられるタービン装置においてのタービン油の寿命を予測できる。
また、本発明において好ましくは、前記RPVOT残存率低下速度は、タービン油新油の時を100%のRPVOT残存率とし、時間の経過とともに低下して25%のRPVOT残存率に至る時間を基に算出するとよい。
このように、RPVOT残存率が100%から25%に低下する時間を基にRPVOT残存率低下速度を算出するので、すなわち、RPVOT残存率25%は、寿命に達したと判定できる基準であり、その値まで低下する時間を用いるので、信頼性の高いRPVOT残存率の低下速度を算出できる。
また、本発明において好ましくは、前記RPVOT残存率低下速度の温度補正は、前記タービン油新油の酸化安定度試験を行う際の油浴槽の温度を基準温度として、該温度において算出された前記RPVOT残存率低下速度を、アレニウスの法則を用いて他の温度における補正RPVOT残存率低下速度を算出するとよい。
このように、アレニウスの法則を用いて温度補正をした補正RPVOT残存率低下速度を求めるので、酸化安定度試験を行う際の油浴槽の温度を異ならせて、複数温度における試験を実施しなくても、異なる温度におけるRPVOT残存率低下速度を簡単に算出することができる。従って、寿命評価時間を短縮することができる。
また、本発明において好ましくは、前記タービン油新油の酸化安定度試験は、試験管に試験用のタービン油と、銅と鉄の触媒を入れ、略120℃の油浴槽に浸しながら酸素または空気を吹き込んで酸化させることを特徴とする。
このように、酸化安定度試験は、試験管に試験用のタービン油と、銅と鉄の触媒を入れ、略120℃の一定温度の油浴槽に浸しながら酸素または空気を吹き込んで酸化させるため、JIS K2514で規定されているタービン油酸化安定度試験(TOAST)に規定されている95℃より高い温度で試験するため、迅速な結果が得られる。また、加熱温度を略120℃の一定とするため水は添加しても蒸発して存在しない、最初から添加せずに行う。その他の試験方法は、前記JISの規定に準じて実施することができる。
また、本発明において好ましくは、前記酸素雰囲気で行った場合には、算出したRPVOT残存率低下速度に係数を乗じて空気雰囲気でのRPVOT残存率低下速度に換算した後に、前記アレニウスの法則を適用して前記補正RPVOT残存率低下速度を算出するとよい。
このように、酸素雰囲気での試験の方が、酸化作用が強く、劣化を早期に使用時させることができるが、実機においては、空気雰囲気における劣化であるため、より実機における劣化状態に近い結果を迅速に得ることができる。
また、本発明において好ましくは、前記タービン油の循環系における高温部は、タービン油が通過するタービン軸のジャーナル軸受、スラスト軸受、及びタービン油タンクに接続された排気通路部を含むとよい。
このように、タービン油の循環系における高温部として、タービン油が通過するタービン軸のジャーナル軸受、スラスト軸受、及びタービン油タンクに接続された排気通路部を考慮することによって、実機における使用状態を盛り込んだ寿命判定ができるようになる。
すなわち、これら高温部では熱によるタービン油の劣化が顕著に現れるため、これら部位におけるとRPVOT残存率低下速度を算出することで、実機における寿命判定を精度よく行うことが可能になる。
本発明によれば、実機に使用するタービン油を、実機データを必要とせず、また、酸化防止剤の種類にも依存するようなこともなく、酸化安定度試験を行って得られた試験結果を基に、短期間で、タービン油の寿命を誤差なく予測できる。
タービン油の寿命予測方法の第1実施形態の手順を示すフローチャートである。 タービン油の寿命予測方法を適用したタービン油の循環系の構成を示す説明図である。 本発明の酸化安定度試験の試験装置を示す説明図である。 JISに規定されているRPVOT試験装置の一例を示す概要図である。 RPVOT残存率と試験時間との関係、及びRPVOT残存率低下速度を示す説明図である。 RPVOT残存率低下速度と温度の関係、及びアレニウス法則の適用例を示す説明図である。 高温部におけるRPVOT残存率の全体流量への希釈のイメージを示す説明図である。 実機タービン油のRPVOT残存率と本発明の寿命予側方法によって導出した寿命との比較を示す説明図。 第2実施形態を示すフローチャートである。
以下、本発明に係る実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施例に係るタービン油の寿命予測方法の手順を示すフローチャートである。
図1において、まず、ステップS1で、判定しようとする未使用のタービン油新油を、酸化安定度試験装置にかけて、酸化させて劣化タービン油を生成する。
この劣化タービン油を生成する酸化安定度試験装置は、JIS K2514に規定されているTOST試験の装置を用いる。試験方法はこのJIS規定と一部相違するところはあるが、該規定に準じた方法で行われる。
TOST試験に用いられる装置の概要は、図3に示すように、試験管1、酸素吹込み管3、凝縮器5からなる酸化器7と、該酸化器7を浸す浴液が収納されて、常に一定温度に調節される図示しない油浴とによって構成されている。
そして、本実施形態においては、鉄、銅触媒9の存在下で試料のタービン油11に300mLに酸素(流量3.0±0.1L/h)を吹き込み、120±0.5℃(JIS規格では、95±0.2℃)の温度で酸化劣化させる。
タービン油1種類当たり2以上の酸化劣化時間の異なる劣化油を生成するには、JIS規格で用いる試験管より数倍多く試料を入れることができる試験管を用いて、所定時間毎に試料を所定量抜き取って酸化劣化試験を継続してもよく、又は、一つの測定タービン油当たり複数の試験管で互いに酸化劣化時間が異なる酸化劣化試料を作成してもよい。判定対象タービン油全てについて同一条件で判定きるという観点から、酸化劣化時間毎に複数の試験管で試料を用意した方が好ましい。
また、劣化時間としては任意の時間に設定することができるが、100〜200時間毎に設定することが好ましい。
判定しようとする未使用のタービン油新油、及びその後の設定時間毎の劣化タービン油に対して、それぞれ、JIS K2514に規定されているRPVOT試験を実施して、劣化状態を評価する。
具体的には、タービン油の酸化安定性を、回転ボンベ内のタービン油が加圧封入した酸素を急激に吸収し始める間までの時間で評価する。詳細はJIS規格によるが、一例として試験装置の概要を図4に示す。ボンベ15に酸素を630KPa(室温25℃)まで圧入し、これを150℃に保った恒温槽17中に入れ、ボンベ保持器19に取り付け、ボンベ15を電動機21で回転させる。ボンベ15を恒温槽17に装着した時が試験開始時になり、毎分100±5回転の速度で回転を継続し、ボンベに取り付けた圧力計23の読みが最高圧力より175KPa降下したら試験を終了する。
この圧力が最高になった時から1.75kgf/cm降下した時までの時間(RPVOT値)を求める。酸化劣化が進むにつれて、このRPVOTの値は小さくなる。よって、劣化タービン油のRPVOTの値をタービン油新油のRPVOTの値で除してパーセント表記したものを、RPVOT残存率(%)として算出する。
そして、図5に示すように、前記RPVOT残存率(%)の指標を縦軸にとり、試験時間(h)の指標を横軸にとって、判定タービン油の劣化特性グラフを作成する。図5は、判定対象としてタービン油A〜Fについての試験結果のグラフを示す。
次に、ステップS2にて、Dry−TOST寿命を求める。図5を基にこのDry−TOST寿命について説明する。
図5の縦軸のRPVOT残存率(%)が25%となる時間T0を、本明細書ではDry−TOST寿命と定義する。Dry−TOSTとは、JIS規格に規定されているTOSTの試験条件と相違するところがあり、特に120℃の試験条件(油浴槽の温度)であるため「Dry−TOST」と定義する。
図5に示すように、タービン油A〜Fのそれぞれについて、Dry−TOST寿命として、T0A、T0B、…T0Fが求められる。
次に、ステップS3において、RPVOT残存率が100%→25%への75%低下する時間T0(h)を基に、RPVOT残存率低下速度(%/h)を算出する。すなわち、RPVOT残存率の傾きを算出する。
次に、ステップS4において、ステップS3で算出したRPVOT残存率低下速度(%/h)の温度適応範囲を拡大するための温度補正を行う。すなわち、RPVOT残存率低下速度の温度依存性を求めて温度補正を行う。具体的には、アレニウスの法則を用いて補正する。
アレニウスの法則とは、化学反応速度の温度依存性を予測するものであり、部品の経年劣化の主因が温度である場合、部品の寿命はアレニウスの式「τ=A・exp(Ea/kT)」(A、Ea:故障モードごとに固有の定数、T:絶対温度、k:ボルツマン定数)で近似できる。
このアレニウスの法則を利用して、ステップS3で求めた120℃における、RPVOT残存率低下速度(%/h)を基に、130℃、110℃、100℃等の他の温度におけるRPVOT残存率低下速度(%/h)を算出して補正RPVOT残存率低下速度を求める。そして、各温度における補正RPVOT残存率低下速度を繋ぐようにして図6に示すラインXを得る。
本実施形態では120℃でのRPVOT残存率低下速度(%/h)を基にしているが、他の温度における試験結果より算出したRPVOT残存率低下速度を基にしてもよく、要はラインXの傾きがアレニウスの法則に従えばよい。
従って、図6に示すラインXによって、酸素雰囲気条件での補正RPVOT低下速度と温度との関係が得られ、RPVOT残存率の低下速度を求めるRPVOT残存率低下速度マップの適用温度範囲を拡大することができる。
従って、酸化安定度試験を行う際の油浴槽の温度を異ならせて、複数温度における試験を実施しなくても、異なる温度におけるRPVOT残存率低下速度を簡単に算出することができる。従って、寿命評価時間を短縮することができる。
次に、ステップS5において、タービン油の循環系における高温部を選択する。本実施形態のタービン油の循環系30の構成を図2に示す。
例えば、タービン発電機のシステムにおいて、ガスタービンに使用されるタービン油は、油タンク31に溜められており、オイル供給ポンプ33によって圧送され、オイルクーラ35によって45℃程度に冷却され、その後、給油通路37を通ってタービン回転軸を支持する#1ジャーナル軸受(第1高温部)39、#2ジャーナル軸受(第2高温部)41、スラスト軸受(第3高温部)43を通過し、これら軸受を通過することでタービン油の温度上昇を生じ90〜110℃になり、さらに、排油通路(第4高温部)45を通過して油タンク31に循環されるようになっている。排油通路45においては、60〜70℃になっている。
また、油タンク31から、ガスタービンの排気キャビティー(第5高温部)47の近傍の潤滑部または冷却部を通過して循環して再び油タンク31に戻るルートについても100℃を超える温度に加熱されるため高温部として考慮している。なお、給油通路37は給油温度が約45℃のため、劣化は生じにくいため考慮していない。
次に、ステップS6では、選択された第1〜第5高温部39、41、43、45、47の各部分における温度を、個別に温度センサ49a〜49eによって検出する。または、温度センサによらずに、設計温度を用いて算出してもよい。
次に、ステップS7では、各高温部においてタービン油が高温に晒される時間を設定する。例えば、単位時間(1h)として設定する。
次に、ステップS8〜S10では、ステップS6で求めた各高温部における温度と、ステップS7で設定した暴露時間を基に、図6のRPVOT残存率低下速度マップを用いて、RPVOT残存率低下量を算出する。
ステップS8では、第1高温部39におけるRPVOT残存率低下量ΔR1(%)を算出し、ステップS9では、第2高温部41におけるRPVOT残存率低下量ΔR2(%)を算出し、ステップS10では、第3〜第5高温部を含めて第n高温部におけるRPVOT残存率低下量ΔRn(%)を算出する。
そして、次に、ステップS11では、各高温部に流れる流量(L/h)V1、V2、…Vnを、夫々の流路に設置した流量センサ51a〜51eによって検出する。または、流量センサを設置せずに、設計流量を用いて算出してもよい。また全油量V0(L)を油量計53または設計量から算出する。
次に、ステップS12では、各高温部39、41、43、45、47で劣化した各タービン油は、全油量によって希釈される。この希釈後のRPVOT残存率の低下量を、希釈RPVOT残存率低下量ΔR1'、ΔR2'、…ΔRn'を次式(1)、(2)、(3)より算出する。
ΔR1'(%/h)=ΔR1(%)×V1(L/h)/V0(L)…(1)
ΔR2'(%/h)=ΔR2(%)×V2(L/h)/V0(L)…(2)
ΔRn'(%/h)=ΔRn(%)×Vn(L/h)/V0(L)…(3)
次に、ステップS13では、各高温部における希釈RPVOT残存率低下量ΔR1'、ΔR2'、…ΔRn'の総和ΔR'(%/h)を次式(4)により算出する。
ΔR'(%/h)=ΣΔRn'(%/h)=ΔR1'+ΔR2'+…ΔRn'…(4)
前述のステップS12、S13における希釈のイメージを図7に示す。
この図7において、全油量V0に対して、第n高温部に流れる流量Vn(L/h)に対して、該高温部での暴露時間(h)を考慮して、RPVOT残存率低下量ΔRn(%)を、油量比で希釈する状態を示している。
ステップS13で算出した各高温部における希釈RPVOT残存率低下量を総和して、最終的なRPVOT残存率の低下速度を算出した。単位時間(1時間)当たりの希釈RPVOT残存率低下量のため、実質的には低下速度を示している。
次に、ステップS14では、ステップS13の式(4)によって算出された最終的なRPVOT残存率低下速度ΔR'(%/h)を用いて、寿命を75%/ΔR'(%/h)によって算出して求める。
すなわち、式(4)によって求めた最終的なRPVOT残存率の低下速度ΔR'(%/h)を用いて、RPVOT残存率が25%に低下するまでの時間を算出して、該時間を寿命として予測することができる。
以上のように、本実施形態においては、寿命予測手法の大きな流れとして、RPVOT残存率低下速度を算出する第1段階(ステップS1〜S3)と、その後に、RPVOT残存率低下速度の温度補正を行う第2段階(ステップS4)と、その後に、タービン油の循環系における各高温部におけるRPVOT残存率低下量を算出する第3段階(ステップS5〜S10)と、その後に、各高温部の劣化を全体への劣化として希釈換算する第4段階(ステップS11〜S12)と、その後、各高温部における希釈RPVOT残存率低下量を総和して総和RPVOT残存率低下量を算出して、該総和RPVOT残存率低下量が一定の閾値、例えば、RPVOT残存率が25%に達する時間を算出してタービン油の寿命として算出する第5段階(ステップS13、14)からなっている。
図8に、実機タービン油のRPVOT残存率の低下状態と、本実施形態の寿命予側方法によって導出した寿命との比較結果を示す。
図8は、横軸に実機タービンの運転時間(h)をとり、縦軸にRPVOT残存率(%)をとり、実測値として示したデータ点は、RPVOT残存率の低下状態を示している。実機に用いられたタービン油を実際に抽出した試験した結果を表している。
予測値は、本実施形態の寿命予測方法によって導出した寿命時間である。その比較結果より、実機におけるタービン油の劣化に大きな誤差なく寿命を予測できたことが確認できた。
(第2実施形態)
次に、図6、9を参照して寿命予測方法の第2実施形態を説明する。
第1実施形態においては、タービン油新油の酸化安定度試験を行って時間の経過とともに酸化させて劣化タービン油を生成するステップとして、前記Dry−TOSTの手法によって酸化劣化させている。すなわち、120℃の油浴に浸された試験管1へ、酸素吹込み管3から酸素を供給して酸化させていたが、実機においては酸素雰囲気下での酸化劣化ではなく、空気雰囲気下での酸化劣化であるが、酸化劣化のタービン油を迅速に生成できることから、酸素の吹きこみが行われている。
そこで、本実施形態においては、実機の使用環境に近づけるために空気雰囲気での判定を行う。
図1のフローチャートのステップS1における劣化タービン油の生成においては、第1実施形態と同様に酸素雰囲気で酸化させるが、空気雰囲気の状態におけるRPVOT残存率低下速度を求めるために、図6に示すマップのようにラインXは、酸素雰囲気条件での補正RPVOT低下速度と温度との関係を示し、このラインXの値に対して、係数αを乗じてラインYを生成し、空気雰囲気条件での補正RPVOT残存率低下速度と温度との関係を得るようにする。
酸素雰囲気条件下で温度範囲を拡大して得られたラインXの関係を維持しつつ、係数α分だけ低下速度を悪化させる方向に移動させる補正をする。
予測手順においては、図1のフローチャートに示すように、ステップS4において、アレニウスの法則を用いて酸素雰囲気条件下で温度範囲を拡大してラインXの関係を得る。
次のステップS20で、ラインXを係数α分だけ低下速度を小さくさせる方向に移動させる補正をして、空気雰囲気条件での補正RPVOT残存率低下速度と温度との関係を示すラインYを得る。
その後は、このラインYの関係を基に、判定対象のタービン油の寿命を予測する手法は第1実施形態と同様である。
本実施形態によれば、120℃での加熱、および酸素吹きこみにより、酸化劣化のタービン油を迅速に生成できることは第1実施形態と同様であるが、それとともに、RPVOT残存率低下速度の算出においては、空気雰囲気条件に換算したラインYの関係を基に算出されるため、実機に沿ったタービン油の寿命判定が行うことができる。そのため、判定時間を長期化せずに、実機に沿った精度のよい寿命予測が可能になる。
本発明によれば、実機に使用するタービン油を、実機データを必要とせず、また、酸化防止剤の種類にも依存するようなこともなく、酸化安定度試験を行って得られた試験結果を基に、短期間で、タービン油の寿命を誤差なく精度良く予測できるので、タービ機器におけるタービンの寿命予測および該予測に基づいて、タービン油の交換等を行うタービン油の管理への適用に有効である。
1 試験管
3 酸素吹込み管
7 酸化器
9 鉄、銅触媒
15 ボンベ
17 恒温槽
23 圧力計
30 タービン油の循環系
31 油タンク
33 オイル供給ポンプ
35 オイルクーラ
37 給油通路
39 #1ジャーナル軸受(第1高温部)
41 #2ジャーナル軸受(第2高温部)
43 スラスト軸受(第3高温部)
45 排油通路(第4高温部)
47 排気キャビティー(第5高温部)
49a〜49e 温度センサ
51a〜51 流量センサ
X 酸素雰囲気条件での補正RPVOT低下速度と温度との関係を示すライン
Y 空気雰囲気条件での補正RPVOT低下速度と温度との関係を示すライン

Claims (6)

  1. タービン油新油の酸化安定度試験を行って時間の経過とともに酸化させて劣化タービン油を生成するステップと、
    前記時間の経過とともに劣化する劣化タービン油を、JIS K2514に規定されるRPVOT試験によってRPVOT残存率を算出するステップと、
    算出された前記RPVOT残存率の低下よりRPVOT残存率低下速度を算出するステップと、
    RPVOT残存率低下速度の温度依存性を求めて、前記RPVOT残存率低下速度の温度補正を行うステップと、
    前記タービン油の循環系における高温部を選定し、前記温度補正後のRPVOT残存率低下速度を用いて、各高温部での暴露時間及び温度を基に各高温部におけるRPVOT残存率低下量を算出するステップと、
    各高温部でのRPVOT残存率低下量を前記循環系の全油量に対する各高温部の油量比で希釈した希釈RPVOT残存率低下量を算出するステップと、
    各高温部における希釈RPVOT残存率低下量を総和して総和RPVOT残存率低下量を算出するステップと、
    該総和RPVOT残存率低下量が所定値に達するまでの時間を基にタービン油の残存寿命を算出するステップと、
    を備えたことを特徴とするタービン油の寿命予測方法。
  2. 前記RPVOT残存率低下速度は、タービン油新油の時を100%のRPVOT残存率とし、時間の経過とともに低下して25%のRPVOT残存率に至る時間を基に算出することを特徴とする請求項1に記載のタービン油の寿命予測方法。
  3. 前記RPVOT残存率低下速度の温度補正は、前記タービン油新油の酸化安定度試験を行う際の油浴槽の温度を基準温度として、該温度において算出された前記RPVOT残存率低下速度を、アレニウスの法則を用いて他の温度における補正RPVOT残存率低下速度を算出することを特徴とする請求項1記載のタービン油の寿命予測方法。
  4. 前記タービン油新油の酸化安定度試験は、試験管に試験用のタービン油と、銅と鉄の触媒を入れ、略120℃の一定温度の油浴槽に浸しながら酸素または空気を吹き込んで酸化させることを特徴とする請求項3に記載のタービン油の寿命予測方法。
  5. 前記酸素雰囲気で行った場合には、算出したRPVOT残存率低下速度に係数を乗じて空気雰囲気でのRPVOT残存率低下速度に換算した後に、前記アレニウスの法則を適用して前記補正RPVOT残存率低下速度を算出することを特徴とする請求項4に記載のタービン油の寿命予測方法。
  6. 前記タービン油の循環系における高温部は、タービン油が通過するタービン軸のジャーナル軸受、スラスト軸受、及びタービン油タンクに接続された排気通路部を含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のタービン油の寿命予測方法。
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