以下、メンテナンス装置を備えた液体噴射装置の一例として、液体を噴射する液体噴射ヘッドを備え、媒体に対して液体噴射ヘッドから液体を噴射して画像を形成(印刷)するインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」ともいう)の一実施形態について、図を参照しながら説明する。
図1に示すように、液体噴射装置の一例であるプリンター11における略矩形箱状をなすフレーム12内には、その長手方向に沿って媒体の一例である用紙Sを印刷時に支持するための支持部材13が延設されている。そして、用紙Sが、フレーム12に設けられた紙送りモーター14の駆動に基づき、図示しない紙送り機構によってこの支持部材13上を支持部材13の短手方向に搬送されるとともに、印刷終了後に支持部材13上から搬送されてプリンター11から排出される。この排出される用紙Sが支持部材13上を搬送される際の搬送方向を副走査方向Yともいう。
また、フレーム12内には、この支持部材13の長手方向に沿ってガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、該ガイド軸15の軸線方向に沿って往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。すなわち、キャリッジ16にはガイド軸15の軸線方向に貫通するように支持孔16aが形成されるとともに、該支持孔16aにガイド軸15が挿通される。従って、キャリッジ16はガイド軸15の軸線方向に沿って往復移動可能に支持される。
フレーム12にはガイド軸15の両端部と略対応する位置に、駆動プーリー17a及び従動プーリー17bが回転自在に支持されている。駆動プーリー17aにはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモーター18の出力軸が連結されるとともに、駆動プーリー17aと従動プーリー17bとの間には一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が掛け渡されている。従って、キャリッジ16は、ガイド軸15にガイドされながら、キャリッジモーター18の駆動力により無端状のタイミングベルト17を介してガイド軸15の軸線方向に往復移動する。なお、このキャリッジ16の移動方向を主走査方向Xともいう。
キャリッジ16には支持部材13と所定の隙間を開けて対向するように液体噴射ヘッド19が備えられるとともに、この液体噴射ヘッド19の支持部材13と対向する面側には液体の一例であるインクを噴射する複数のノズル29(図3(b)参照)の開口が設けられている。一方、キャリッジ16には液体噴射ヘッド19に対してインクを供給するためのインクカートリッジ20が着脱可能に装着されている。
インクカートリッジ20内のインクは、インクカートリッジ20から液体噴射ヘッド19へと供給され、液体噴射ヘッド19に備えられた不図示の加圧部(たとえば圧電素子)により、該液体噴射ヘッド19の各ノズル29から支持部材13上を搬送される用紙Sに噴射されて印刷が行われる。
さらに、フレーム12内には、キャリッジ16の主走査方向Xへの移動領域のうち、液体噴射ヘッド19が搬送される用紙Sと対峙しない非印刷領域(ホームポジション領域)において、非印刷時に液体噴射ヘッド19のノズル29から排出される廃液としての廃インクを回収するための廃液回収装置23が設けられている。
この廃液回収装置23には、液体噴射ヘッド19のノズルから強制的に噴射されることによって排出されるインクを受容可能な開口部41を有する液体受容部としてのフラッシングボックス40(以降「FLボックス40」と記す)と、吸引部としての吸引ポンプ25とが備えられている。そして、このFLボックス40に受容されたインクは廃液チューブ24を介して吸引ポンプ25により吸引されることによって、不図示の廃液タンクに貯留されて回収される。また、廃液回収装置23には、FLボックス40の開口部41を覆うことが可能な蓋部材31が備えられている。本実施形態では、このFLボックス40、蓋部材31、および吸引ポンプ25によってメンテナンス装置30が構成されている。
また、廃液回収装置23には、液体噴射ヘッド19に対してノズル29を囲むように当接した状態で、吸引ポンプ25または不図示の他の吸引ポンプの吸引動作によってノズル29からインクを排出させるキャップ21や、液体噴射ヘッド19に付着した不要なインクを拭き取るワイパー22などを有するメンテナンス機構が備えられている。これらのメンテナンス機構は、FLボックス40を有するメンテナンス装置30とともに、液体噴射ヘッド19からのインクの噴射特性を回復させるヘッドメンテナンスを行う。
本実施形態のメンテナンス装置30は、メンテナンス機構の動作に用いられるモーターなどの駆動源の回転動力が伝達されることによって、蓋部材31をFLボックス40に対して移動させる移動機構を備えている。すなわち、移動機構は、液体噴射ヘッド19からインクが強制的に噴射される場合、図1に示すように蓋部材31を副走査方向Yと反対方向に移動させてFLボックス40の開口部41を開放する開蓋位置に配置させる。一方、液体噴射ヘッド19からインクが強制的に噴射されない場合、蓋部材31をFLボックスが露出しないように副走査方向Yへ移動させてFLボックス40を覆う閉蓋位置に配置させる(図4参照)。
次に、図2、図3(a),(b)、および図4を参照して、本実施形態のメンテナンス装置30の構成について説明する。なお、図2は、FLボックス40を支持するとともに蓋部材31を移動可能に支持する支持フレーム32を、図1と略同じ方向から見たメンテナンス装置30の斜視図であって、蓋部材31が開蓋位置に配置された状態で示されている。また、図3(a),(b)は、支持フレーム32の一部が除去された状態で図示されている。また、図4は、図2と同じ方向から見たメンテナンス装置30の斜視図であって、蓋部材31が閉蓋位置に配置された状態で示されている。
図2および図3(a),(b)に示すように、メンテナンス装置30は、FLボックス40を支持するとともに、蓋部材31を副走査方向Yに沿って移動可能に支持する支持フレーム32を備えている。すなわち、支持フレーム32は略直方体形状を有するとともに、その液体噴射ヘッド19と対峙する側となる上側に、液体噴射ヘッド19に対して近づいたり離れたりするように上下移動が可能なボックス保持部材35が備えられ、このボックス保持部材35にFLボックス40が支持されている。
そして、FLボックス40には、同じく支持フレーム32にその一部が支持された廃液チューブ24が接続され、この接続された廃液チューブ24を介して、吸引ポンプ25の吸引力がFLボックス40に伝わる構成とされている。また、ボックス保持部材35に設けられたパイプ部位36とFLボックス40との間を連通させるように連通チューブ26が接続され、パイプ部位36からFLボックス40内への大気(空気)の流入が可能とされている。
また、支持フレーム32の主走査方向Xの両側端部には、その上端部において副走査方向Yに沿って延設されたガイドレール部32A,32Bが、それぞれ設けられている。一方、蓋部材31は略矩形形状を有するとともに、その主走査方向Xの両端部においてガイドレール部32A,32Bと係合する溝部が形成され、これら溝部がガイドレール部32A,32Bと係合しつつ摺動することによって、蓋部材31は副走査方向Yに沿って往復移動可能とされている。
本実施形態では、蓋部材31を移動させる移動機構が、クランク52とクランクロッド53を備えるクランク機構や、小径歯車54および大径歯車55をピニオンとするラックアンドピニオン機構などによって構成され、支持フレーム32内に組み込まれている。そして、クランク機構が備えるクランク52のクランク軸51が支持フレーム32の主走査方向X側に位置する側面部から外側に突出するように設けられ、このクランク軸51が回転させられることによって、蓋部材31を副走査方向Yに沿って往復移動させるように構成されている。
すなわち、クランク軸51の回転に伴って副走査方向Yに沿って直線移動するクランクロッド53の先端部には、主走査方向Xに沿う軸を中心に一緒に回転する小径歯車54と大径歯車55とが取り付けられている。そして、小径歯車54は支持フレーム32に設けられたラック34と噛み合うとともに、大径歯車55は蓋部材31においてガイドレール部32Aに係合する溝部が設けられた側端部31Sの下端に形成されたラック歯31Gと噛み合うように配設されている。従って、クランクロッド53の先端部の往復移動に伴って、支持フレーム32に設けられたラック34と噛み合う小径歯車54が副走査方向Yへの移動とともに回転することによって、大径歯車55も一緒に副走査方向Yへ移動しながらに回転する。この結果、大径歯車55と噛み合うラック歯31Gが形成された蓋部材31は、大径歯車55の移動と回転とに伴って副走査方向Yに沿って往復移動する。
図4に示すように、本実施形態では、このように構成された移動機構において、クランク軸51が、例えばメンテナンス機構の動作に用いられるモーターなどの駆動源の回転動力が伝達されて回転させられることによって、蓋部材31は、FLボックス40を覆う閉蓋位置に移動する。すなわち、本実施形態では、クランク軸51の半周回転KT1によって、蓋部材31は図4において二点鎖線で示すように開口部を開放した開蓋位置から、図4において実線で示すように開口部を覆った閉蓋位置に移動する。そして、クランク軸51が半周回転KT1から続けて半周回転KT2することによって、蓋部材31は、閉蓋位置から開蓋位置に移動する。
また、図3(b)に示すように、本実施形態では、支持フレーム32内には蓋部材31の移動に連動してボックス保持部材35(FLボックス40)を上下方向へ移動させる昇降機構が備えられている。すなわち、ボックス保持部材35は、リンク機構を構成するリンク棒56によって支持フレーム32に支持されるとともに、蓋部材31に設けられたカム溝31Cとの間でカム機構が構成されている。このカム機構とリンク機構とによって、ボックス保持部材35(FLボックス40)は、蓋部材31の開蓋位置から閉蓋位置側への移動に伴って、液体噴射ヘッド19に対して離れるように下方へ平行に移動して蓋部材31の移動を妨げないようにする。その後、蓋部材31が開蓋位置側から閉蓋位置に移動する際に、FLボックス40はこの昇降機構によって平行に上昇させられ、その開口部41が蓋部材31の下面に当接する。この当接によって、開口部41と蓋部材31との間は大気の流動が遮断された封止状態とされる。
次に、図5および図6〜9を参照して、FLボックス40の構成について説明する。なお、説明を容易にするため、図5では、紙面左側にFLボックス40を構成する各部材が分解された状態で図示されている。
図5に示すように、FLボックス40は、液体噴射ヘッド19から噴射されるインクを受容するため上側が略矩形形状で開口するとともに、その開口の下側に空間領域SPが形成された略有底箱体の形状を有するボックスケース42を備えている。そして、このボックスケース42の開口に沿って、エラストマーなどの弾性材料からなるシール部材43が配設されている。従って、本実施形態では、ボックスケース42に配設されたシール部材43によって、空間領域SPと連通する開口部41、すなわちFLボックス40の開口部41が形成されている。
ボックスケース42には、空間領域SPを形成する壁面部の一例である底面部42Bが、液体噴射ヘッド19と対峙する面であって最も広い面積を有する略平坦な面として形成されている。そして、底面部42Bには、開口部41側となる上側に向かって底面部42Bから略円柱形状で突出する複数(ここでは8本)のガイドピン42Pが設けられている。さらに、底面部42Bには、第1の溝部61および第2の溝部62が凹設されている。
すなわち、図6に示すように、第1の溝部61は、所定幅と所定深さを有して凹設されるとともに、底面部42Bにおいて副走査方向Yの前方側に設けられた第1の溝孔71を起点として、8つのガイドピン42Pを囲むように底面部42Bの外周縁に沿って折れ曲がった状態で延設されている。なお、第1の溝孔71は、FLボックス40(ボックスケース42)に接続された連通チューブ26と繋がっており、ボックス保持部材35に設けられたパイプ部位36から取り込まれた大気が流入する大気連通口の一例として機能する。
一方、第2の溝部62は、互いに同じ溝幅と溝深さを有して凹設されるとともに、底面部42Bにおいて第1の溝孔71よりも中心寄りに設けられた第2の溝孔72を起点として折れ曲がった状態で、第1の溝部61の内側において複数本延設されている。本実施形態では、延設された第2の溝部62として3本の溝、すなわちA溝部62a、B溝部62b、C溝部62cが、それぞれ同じ長さで凹設されている。なお、第2の溝孔72は、FLボックス40(ボックスケース42)に接続された廃液チューブ24と繋がっており、吸引ポンプ25によって吸引される吸引口の一例として機能する。
図5に戻り、FLボックス40は、ボックスケース42の空間領域SPにおいて、この底面部42Bに対して内側(上側)から当接する当接板44が備えられている。当接板44は樹脂製あるいは金属製の薄板で形成され、第1の溝孔71と第1の溝部61、および第2の溝孔72と第2の溝部62のそれぞれの開口側(上側)を塞ぐように、ボックスケース42内の底面部42Bに対して当接した状態で、空間領域SPに挿入される。なお、当接板44には、空間領域SPへの挿入時に際して挿入姿勢を容易に判別可能なカット部位44cが設けられている。
当接板44には、複数のガイドピン42Pの各々の位置と対応する位置に丸孔44Pが設けられるとともに、第1の溝部61および第2の溝部62の所定部分の位置と対応する位置に第1の貫通孔44Aおよび3つの第2の貫通孔44Bが設けられている。そして、この丸孔44Pにガイドピン42Pが挿通されることによって、底面部42Bにおいて当接板44が位置決めされるとともに、第1の貫通孔44Aおよび3つの第2の貫通孔44Bが第1の溝部61および第2の溝部62の所定部分と重なるように位置決めされる。
すなわち、図7に示すように、第1の貫通孔44Aは、第1の溝部61の延設部分において、起点となる第1の溝孔71とは反対側の終点部分を所定部分として、この所定部分と重なるように位置決めされる。そして、第1の溝部61と当接板44とによって、大気連通口としての第1の溝孔71から第1の貫通孔44Aまでの間に連通路81が形成されるとともに、第1の貫通孔44Aは空間領域SPと連通する。
また、3つの第2の貫通孔44Bは、第2の溝部62としてのA溝部62a、B溝部62b、C溝部62cのそれぞれの延設部分において、起点となる第2の溝孔72とは反対側の終点部分を所定部分として、この所定部分と重なるように位置決めされる。そして、A溝部62a、B溝部62b、C溝部62cと当接板44とによって、吸引口となる第2の溝孔72から第2の貫通孔44Bまでの間に、同じ長さの3つの吸引通路82が形成されるとともに、各第2の貫通孔44Bは空間領域SPと連通する連通孔となる。
なお、本実施形態では、3つの第2の貫通孔44Bは空間領域SPに対して分散配置されている。すなわち、3つの第2の貫通孔44Bは、いずれも主走査方向Xの略中央であって、そのうち一つは副走査方向Yの中央に、他の2つは主走査方向Xにおける開口部41までの距離と略同じ距離分、最も近い開口部41から副走査方向Yに沿って離れた位置に設けられている。
図5に戻り、さらに、空間領域SPには、この当接板44に対して底面部42Bとは反対側の上側から当接する吸収材45が挿入されて備えられている。吸収材45は、スポンジや繊維などの多孔質性のゴムや樹脂材料などで形成され、開口部41を介して空間領域SP内に受容されたにインクを吸収して分散保持することが可能とされている。また、吸収材45には、複数のガイドピン42Pの各々に対応する位置に、ガイドピン42Pが挿通する挿通孔45Pが設けられている。
すなわち、図8に示すように、本実施形態では、吸収材45は空間領域SP内の略全体を占有する大きさを有し、挿通孔45Pにガイドピン42Pが挿入されることによって、空間領域SP内において適切に位置決めされる。この結果、吸収材45が占有する空間領域SPの略全体が受容したインクを保持可能なインク保持領域となるとともに、インク保持領域となる吸収材45が当接板44を介して底面部42Bを覆う状態となる。なお、吸収材45についても当接板44と同様に、吸収材45の空間領域SPへの挿入に際して、挿入姿勢を容易に判別可能なカット部位45cが設けられている。
図5に戻り、さらに、FLボックス40には、この吸収材45を上方から押え付けるステンレス等の金属材料からなる押え板46が備えられる。押え板46には、格子46Gと、格子46Gが交差する位置において複数のガイドピン42Pのそれぞれが挿入される挿入孔46Pと、が設けられている。そして、押え板46は、吸収材45を押え付けた状態で空間領域SPに挿入されたのち、挿入孔46Pに挿入されるガイドピン42Pによってボックスケース42に対して固定される。
すなわち、図9に示ように、押え板46は、複数個所(ここでは8箇所)の挿入孔46Pに挿入されたガイドピン42Pの上端部が、例えば熱カシメされることによってボックスケース42に固定され、FLボックス40が形成される。換言すれば、ガイドピン42Pは、ボックスケース42の底面部42Bにおいて、押え板46の格子46Gの交差位置と対応する位置に設けられる。本実施形態では、押え板46は、開口部41において金属材料からなる格子46Gが吸収材45よりも液体噴射ヘッド19側となる上側に配設されることから、液体噴射ヘッド19からのインクの噴射の有無を電圧変化によって検出するための検出用電極として用いられる。
次に、図10(a),(b)を参照して、本実施形態のメンテナンス装置30における作用について説明する。なお、図10(a),(b)は、図3(a),(b)と同様に、支持フレーム32の一部が除去された状態で図示されている。
図10(a),(b)に示すように、メンテナンス装置30は、液体噴射ヘッド19から強制噴射されるフラッシングが行われない場合、FLボックス40に受容されたインクの蒸発を抑制するため、開蓋位置にある蓋部材31を、移動機構によって開口部41を覆う閉蓋位置に移動させる。もとより、前述するように、この蓋部材31の移動に連動して、昇降機構によってFLボックス40の上下移動が行われる。すなわち、FLボックス40は、蓋部材31の開蓋位置から閉蓋位置側への移動に伴って、蓋部材31の移動を妨げないように液体噴射ヘッド19から離れるように下方へ移動してする。その後、蓋部材31が開蓋位置側から閉蓋位置に移動する際にFLボックス40は再び上昇し、FLボックス40(ボックスケース42)の開口部41は、当接する蓋部材31の下面との間が封止された状態で、蓋部材31によって閉蓋される。
メンテナンス装置30において、この開口部41が蓋部材31によって封止された状態で、吸引ポンプ25が吸引動作されて空間領域SPが吸引される場合がある。例えば、メンテナンス機構のキャップ21における吸引ポンプの吸引動作によってノズル29からインクを排出させる際に、一緒に吸引ポンプ25の吸引動作が行われることによって、FLボックス40の空間領域SPが吸引される場合がある。このような場合、廃液チューブ24が接続されたボックスケース42における第2の溝孔72、3つの吸引通路82、および3つの第2の貫通孔44B(図7参照)を介して、空間領域SPが吸引される。この結果、空間領域SP内が負圧状態となる。
このとき、本実施形態では、3つの吸引通路82は、同じ断面積と長さで形成されているので、空間領域SPとの連通孔となる3つの第2の貫通孔44Bにおいて、吸引ポンプ25によるそれぞれの吸引力が略同じになる。また、3つの第2の貫通孔44Bが図7に示すように空間領域SPに対して分散配置されているので、空間領域SP内に発生する吸引力は偏りがなく略均一になる。
負圧になった空間領域SPに対して、封止状態にある開口部41からは大気が吸い込まれず、空間領域SPと連通する第1の貫通孔44A(図7参照)、連通路81、および第1の溝孔71を介して、パイプ部位36から空間領域SPに大気が吸い込まれることになる。この結果、空間領域SPが大気開放される。従って、本実施形態では、第1の貫通孔44Aと連通路81と第1の溝孔71とが大気開放部を構成する。
このとき、本実施形態では、空間領域SP内へ吸い込まれる大気は、底面部42Bに凹設された連通路81の流動抵抗に応じて、流速(流量)が抑制される。この結果、空間領域SPにおいて急激な圧力変化が発生しないように負圧が抑制されるとともに、大気は空間領域SPの負圧が略解消された状態になるまで流入する。
一方、FLボックス40内に受容されたインクが蒸発しないように開口部41を封止した状態において、吸引ポンプ25を動作させない場合は、空間領域SPは、大気開放部、すなわち、第1の溝孔71、連通路81、および第1の貫通孔44A(図7参照)、を介して大気と連通する状態となる。このとき、本実施形態では、連通路81が底面部42Bの外周に沿って所定の長さで延設されているので、大気連通口である第1の溝孔71から流入する大気は空間領域SPまで到達する確率が低くなる。また、連通路81は空間領域SPに対して当接板44を介して吸収材45によって覆われるので、空間領域SP側から連通路81に流入したインクは、インクが保持された吸収材45によって保湿され、その乾燥が抑制される。なお、本実施形態において、パイプ部位36は、底面部42Bよりも反重力方向側に位置するように設けられ、連通路81に流入したインクが、大気連通するパイプ部位36から流出しないように抑制する。
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)開口部41が蓋部材31によって封止された状態のFLボックス40において空間領域SPが吸引ポンプ25によって吸引された場合、大気開放部によって空間領域SPが大気開放されるので、空間領域SPに生ずる負圧の大きさが抑制される。この結果、開口部41を封止した状態にある蓋部材31の開口部41への貼り付きが抑制され、蓋部材31が開口部41の封止状態から解除不能になることが抑制される。
(2)開口部41が蓋部材31によって封止された状態のFLボックス40において、空間領域SPから第1の溝孔71までの間に備えられた連通路81によって、空間領域SP内のインクと大気とが直に接することが回避されるので、空間領域SP内のインクの乾燥を抑制することができる。
(3)空間領域SPを形成する底面部42Bに連通路81の少なくとも一部が形成されるので、FLボックス40において大気と接触する側とは反対側に位置する連通路81内に流入したインクは、その乾燥が抑制されることになる。この結果、連通路81の詰まりが抑制され、吸引ポンプ25による吸引時に連通路81を介して大気を空間領域SP内へ流入させることができる。
(4)同じ断面積と長さとを有する吸引通路82によって第2の溝孔72と接続された複数の第2の貫通孔44Bにおいて、吸引ポンプ25による吸引力が略同じになるので、空間領域SPを偏りなく略均一に吸引することが可能となる。従って、開口部41を封止した蓋部材31に対して吸引力が偏って作用することによる蓋部材31の開口部41への部分的な貼り付きが抑制され、蓋部材31が開口部41の封止状態から解除不能になることが抑制される。
(5)開口部41を介して受容されるインクが吸収された吸収材45が当接板44を介して底面部42Bを覆うので、底面部42Bに凹設された第1の溝部61または第2の溝部62に存在するインクの乾燥をインクが保持された吸収材45によって抑制することが可能となる。
(6)開口部41が蓋部材31で封止された状態でFLボックス40の空間領域SPを吸引可能なメンテナンス装置30を備えたプリンター11が得られる。
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、吸引ポンプ25によって空間領域SPが吸引された場合に、空間領域SP内への大気の流入を許容する一方向弁を備えることとしてもよい。一方向弁としては、例えば逆止弁や自己封止弁、あるいは圧力調整弁などが採用可能である。
図11(a),(b)を参照して、本変形例を説明する。
図11(a)に示すように、本変形例では、連通路81における空間領域SP側の端部となる第1の貫通孔44Aに、一方向弁の一例である逆止弁75を備える。すなわち、逆止弁75は、当接板44に設けられた第1の貫通孔44Aを吸収材45が挿入される上側から覆う略円形の弁部75Bと、弁部75Bから延設された略矩形の固定部75Aと、を備えている。そして、固定部75Aがボックスケース42に挿入された当接板44に対して、その上面側に接着等によって固定されている。
従って、図11(b)に示すように、吸引ポンプ25による吸引によって空間領域SPが吸引されると、ボックスケース42の底面部42Bに凹設された連通路81(第1の溝部61)の終点から、図11(b)において二点鎖線で示すように第1の貫通孔44Aを覆う弁部75Bを変位させて大気が吸収材45側に流入する。なお、吸収材45には、弁部75Bの変位を妨げないように、必要に応じて逃げ形状部45Hが設けられる。
一方、空間領域SPが吸引されない状態では、弁部75Bは、図11(b)において実線で示すように第1の貫通孔44Aを覆う状態になっており、連通路81側から大気が吸収材45側に流入しないように抑制される。
本変形例によれば、上記実施形態による効果(1)〜(6)に加えて、以下の効果が得られる。
(7)逆止弁75によって、空間領域SPが吸引される状態では空間領域SPへの大気の流入が許容される一方、空間領域SPが吸引されない状態では空間領域SPへの大気の流入が抑制される。従って、開口部41が蓋部材31によって封止された状態のFLボックス40において、空間領域SP内のインクが大気との接触によって乾燥することを抑制することができるとともに、吸引時において空間領域SP内への大気の流入を許容して発生する負圧の大きさを抑制することができる。
・上記実施形態において、大気開放部を構成する連通路81は、ボックスケース42の内側に一部が形成され、他はボックスケース42の外側に凹設される構成とされてもよい。あるいは、連通路81は、ボックスケース42の内側の底面部42Bに凹設される替わりに、ボックスケース42の外側に凹設される構成とされてもよい。
・上記実施形態において、大気開放部は、ボックスケース42において連通路81が設けられることなく、大気連通口となる第1の溝孔71と第1の貫通孔44Aとが直に連通する構成であってもよい。
・上記実施形態において、FLボックス40に設けられた空間領域SPにおいて、必ずしも吸収材45を備えなくてもよい。あるいは、吸収材45は、空間領域SPの全体でなく一部に挿入されるようにしてもよい。
・上記実施形態において、ボックスケース42の底面部42Bに形成された複数の吸引通路82は、必ずしも同じ断面積と長さとを有さなくてもよい。例えば断面積が異なっていたり、または長さが異なっていたりしてもよい。この場合、各吸引通路を流れる流体(空気あるいはインク)の流路抵抗が同じになることが好ましい。あるいは、必ずしも吸引通路82が形成されずに第2の溝孔72と第2の貫通孔44Bとが直に連結される構成であってもよい。
・上記実施形態において、第1の溝部61あるいは第2の溝部62は、底面部42Bに限らず、空間領域SPを形成する壁面部であれば、例えば底面部42Bに繋がる側壁部など、どの壁面部に形成されていてもよい。もとより、複数の壁面部に渡って形成されていてもよい。
・上記実施形態において、複数の第2の貫通孔44Bの形成位置は、空間領域SPと連通する位置であれば何処に形成されていても差し支えない。
・上記実施形態において、FLボックス40には必ずしも当接板44を備えなくてもよい。例えば、連通路がボックスケース42の外側に形成される構成や、吸収材45によって底面部42Bに凹設された溝部の開口側を塞ぐことが可能な構成であれば、当接板44は不要である。
・上記実施形態において、プリンター11は、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置であってもよい。なお、液体噴射装置から微小量の液滴となって吐出される液体の状態としては、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体は、液体噴射装置から噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状体を含むものとする。また、物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなども含むものとする。液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造等に用いられる電極材や色材等の材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置がある。また、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサー等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置であってもよい。また、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置であってもよい。