本発明の合わせガラス用フィルムは、ポリビニルアセタールおよび可塑剤を含むフィルムであって、下記式(1)の条件を満たす合わせガラス用フィルムである。
0.80 < (A20N/B20N)/(A0/B0)< 1.80 (1)
[式(1)中、A0およびB0は、それぞれ、フィルムの任意の位置においてフィルム表面を532nmレーザー、アパーチャ25μmφの条件でラマン分光測定した際の、1780〜1680cm−1の領域で検出されるピークA0の面積および3100〜2500cm−1の領域で検出されるピークB0の面積を表す。A20NおよびB20Nは、それぞれ、前記ラマン分光測定をしたフィルム表面の測定位置においてフィルム表面から20Nμmの深さの位置を532nmレーザー、アパーチャ25μmφの条件でラマン分光測定した際の、1780〜1680cm−1の領域で検出されるピークA20Nの面積および3100〜2500cm−1の領域で検出されるピークB20Nの面積を表す。Nは0または自然数を表し、Nは20Nがフィルムの膜厚以下になるよう選ばれる値である。]
すなわち、ラマン分光測定において1780〜1680cm−1の領域(エリアA)、3100〜2500cm−1の領域(エリアB)の領域でピークを持ち、当該エリアBにおけるピークの面積に対するエリアAにおけるピークの面積比が、フィルム表面から内部、そして裏面にかけて一定の範囲内の変化量であるポリビニルアセタールフィルムである。
フィルムの測定はラマン分光で行われる。本発明のポリビニルアセタールのラマン測定では10倍レンズを用いてフィルムの最表面または最表面から20Nμmの深さの各位置に焦点を合わせ、532nmレーザーで照射して散乱されるラマン光を採光することで測定波長に対するエネルギー強度を算出することができる。
光が物質に入射して分子と衝突すると、光の一部が散乱する。散乱光のうち、入射光の波長と異なる波長の光(ラマン散乱光)の振動数は、分子の固有振動数となっている。この性質を利用し、ラマン散乱光の性質を調べることで、物質の分子構造や結晶構造の情報を得られる(ラマン分光測定)。
例えば、顕微ラマン分光測定では顕微鏡により焦点があった場所の分子構造情報が得られ、透明材料では焦点深度を変えることによってフィルム内部の構造情報を観測することができる。得られるデータとしては波長−エネルギー強度図が示され、ラマン分光法では紫外から近赤外域の光の散乱を通して赤外域の現象を観測することができる。
ラマン分光測定における1780〜1680cm−1領域(エリアA)のピークはカルボニル基として帰属されるものであり、一般的にポリマーの劣化や柔軟性、結晶性の指標として、さまざまな文献で用いられている(たとえば特開平05−318581号公報ではエリアAのピークの半値幅を結晶性パラメーターとして記載)。また3100〜2500cm−1の領域はCH2伸縮振動の部分にあたり、ポリビニルアセタールの主鎖および側鎖の構造ユニットとして帰属される。これらのピークの面積比は、その測定位置におけるフィルムの構成成分の分子の状態を表し、(A20N/B20N)/(A0/B0)は、フィルムの構成成分のフィルム表面における分子の状態とフィルム内部の任意の位置における分子の状態の差を示す指標となる。(A20N/B20N)/(A0/B0)が一定の範囲内である場合、フィルムの表面から裏面にかけて、エリアBに対するエリアAのピークの面積比の変化が少なく、フィルムの表面から裏面にかけての各位置におけるフィルムの構成成分の分子の状態の変化が少ないと推測される。一方、フィルムの表面から裏面にかけてラマン分析を行った場合、エリアBに対するエリアAのピークの面積比の変化がある場合には、表面からフィルム内面にかけての各位置におけるフィルムの構成成分の全体の組成はほぼ同じであっても、部分的に構成成分の分子の状態が異なっていると推測される。従って、(A20N/B20N)/(A0/B0)を一定の範囲内にすることにより、フィルム内における分子の状態のムラや歪みが小さくなり、その結果、透明性が高く、透視歪み抑制に優れ、二重像が発生しにくいと考えられる。
本発明の合わせガラス用フィルムは、上記ラマン分光で測定したフィルムの(A20N/B20N)/(A0/B0)が0.80より大きく、1.80より小さい。また(A20N/B20N)/(A0/B0)が1.60より小さいことが好ましく1.30より小さいことがより好ましい。このような範囲を満たすフィルムを用いると、透視歪み抑制に優れ、二重像が発生しにくい合わせガラスを得ることができる。
ラマン分光法で測定した合わせガラス用フィルムの(A20N/B20N)/(A0/B0)が0.80よりも小さい場合や1.80よりも大きい場合にはフィルム表面にかかる応力とフィルム内部にかかる応力の差が大きく、合わせガラスにする際にフィルム内部での応力ムラが起こり透視歪みや二重像が発生しやすい状態となると推測される。また(A20N/B20N)/(A0/B0)が1.80よりも大きい場合には耐貫通性や耐加重性といった機械的強度が劣るため、合わせガラス用フィルムとしての特性を失う。
次に、本発明で使用するポリビニルアセタールについて説明する。本発明で使用するポリビニルアセタールの平均残存水酸基量は特に限定されないが、20〜40モル%であることが好ましく、23〜38モル%であることがより好ましく、25〜36モル%であることがさらに好ましく、26〜29モル%であることが最適である。ポリビニルアセタールの平均残存水酸基量が20モル%未満となると、力学強度やガラスとの接着性が低下することがあり、また、平均残存水酸基量が40モル%を超えると、可塑剤との相溶性が著しく低下する傾向にある。
ポリビニルアセタールの平均アセタール化度は限定されないが、50〜78モル%であることが好ましく、60〜74モル%であることがより好ましく、65〜73モル%であることがさらに好ましい。ポリビニルアセタールの平均アセタール化度が50モル%未満となると、可塑剤との相溶性が著しく低下することがあり、また、平均アセタール化度が78モル%を超えると、フィルムの力学強度が低下する傾向にある。
ポリビニルアセタールの平均残存ビニルエステル基量は特に限定されないが、0.01〜15モル%であることが好ましく、0.01〜10モル%であることがより好ましく、0.01〜5モル%であることがさらに好ましい。平均残存ビニルエステル基量が0.01モル%未満となると、工業的に安価に生産することが困難であり、また、平均残存ビニルエステル基量が15モル%を超えると、フィルムを長期間使用するときにビニルエステル基が加水分解し、発生するカルボン酸によりフィルムが着色しやすくなる傾向にある。
本発明で使用するポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールを原料として製造されるが、ポリビニルアルコールは、従来から公知の手法、すなわちビニルエステル化合物を重合し、得られた重合体をけん化することによって得られ、ビニルエステル化合物を重合する方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法など、従来から公知の方法を適用できる。重合に用いられる重合開始剤としてはアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などを適宜選択できる。けん化反応は、従来から公知のアルカリ触媒または酸触媒を用いた加アルコール分解、加水分解などが適用できる。中でも、メタノールを溶剤としNaOHを触媒として用いるけん化反応が簡便であり最も好ましい。
ビニルエステル化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニルなど、従来から公知のカルボン酸ビニルエステルが挙げられ、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
また、ビニルエステル化合物を重合する場合に、本発明の主旨に反しない限り他の単量体と共重合させることもできる。他の単量体の例としては、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレンなどのα−オレフィン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、その4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、その4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸エステルまたはマレイン酸無水物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの単量体は通常、ビニルエステル化合物に対して10モル%未満の割合で用いられる。
本発明に用いられるポリビニルアセタールの原料となるポリビニルアルコールの粘度平均重合度は特に限定されず、用途に応じて適宜選択される。ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は150〜3000が好ましく、200〜2500がより好ましく、1000〜2500がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの粘度平均重合度が150より小さいと、フィルムにした場合に強度が不足することがあり、ポリビニルアルコールの粘度平均重合度が3000より大きいと、得られる樹脂の取り扱い性が悪くなることがある。ポリビニルアセタールの重合度は、通常、原料となるポリビニルアルコールの重合度と同じであり、好ましい範囲も同様である。
本発明に用いられるポリビニルアセタールは、例えば、次のような方法によって得ることができるが、これに限定されない。まず、濃度3〜30質量%のポリビニルアルコールの水溶液を、80〜100℃の温度範囲に調整し、その温度を10〜60分かけて徐々に冷却する。水溶液の温度が−10〜30℃まで低下したところで、アルデヒドおよび酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら、30〜300分間アセタール化反応を行う。その後、反応液を30〜200分かけて、30〜80℃の温度まで昇温し、その温度を1〜6時間保持する。次に反応液を、好適には室温まで冷却し水洗した後、必要に応じてアルカリなどの中和剤を添加して中和、水洗、乾燥することにより、本発明で用いられるポリビニルアセタールが得られる。
アセタール化反応に用いる酸触媒としては特に限定されず、有機酸および無機酸のいずれでも使用可能であり、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。中でも塩酸、硫酸、硝酸が好ましい。
アセタール化反応に用いるアルデヒドは特に限定されないが、炭素数1〜8のアルデヒドが好ましい。炭素数1〜8のアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。中でも炭素数4〜6のアルデヒド、特にn−ブチルアルデヒドが、得られるポリビニルアセタールの透明性やガラスとの接着性の点で、好ましく用いられる。すなわち、ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルブチラールが特に好ましい。
本発明の合わせガラス用フィルムが含有する可塑剤としては、1価カルボン酸エステル系、多価カルボン酸エステル系などのカルボン酸エステル系可塑剤;リン酸エステル系可塑剤;有機亜リン酸エステル系可塑剤;ヒドロキシカルボン酸エステル系可塑剤などのほか、ポリエステル系、ポリ炭酸エステル系、ポリエーテル系などの高分子可塑剤が挙げられる。
1価カルボン酸エステル系可塑剤としては、ブタン酸、イソブタン酸、へキサン酸、2−エチルへキサン酸、へプタン酸、オクチル酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリル酸などの1価カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールとの縮合反応により得られる化合物が挙げられる。具体的な化合物を例示すると、トリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジイソブタノエート、トリエチレングリコール−ヘキサノエート、トリエチレングリコールジ2−エチルブタノエート、トリエチレングリコールジラウレート、エチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、ジエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、PEG#400ジ2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールモノ2−エチルヘキサノエート、グリセリントリ2−エチルヘキサノエートなどが挙げられる。ここでPEG#400とは、平均分子量が350〜450であるポリエチレングリコールを表す。
多価カルボン酸エステル系可塑剤としては、アジピン酸、コハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸などの多価カルボン酸と、メタノール、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、2−エチルブタノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール、ブトキシエタノール、ブトキシエトキシエタノール、ベンジルアルコールなどの炭素数1〜12の1価アルコールとの縮合反応により得られる化合物が挙げられる。具体的な化合物を例示すると、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ2−エチルヘキシル、アジピン酸ジヘプチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジ2−エチルヘキシル、アジピン酸ジ(ブトキシエチル)、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)、アジピン酸モノ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2−エチルブチル)、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジドデシルなどが挙げられるが、これに限定されない。
リン酸系可塑剤または亜リン酸系可塑剤としては、リン酸または亜リン酸とメタノール、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、2−エチルブタノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール、ブトキシエタノール、ブトキシエトキシエタノール、ベンジルアルコールなどの炭素数1〜12のアルコールとの縮合反応により得られる化合物が挙げられる。具体的な化合物を例示すると、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸トリ(ブトキシエチル)、亜リン酸トリ(2−エチルヘキシル)などが挙げられる。
ヒドロキシカルボン酸エステル系可塑剤としては、ヒドロキシカルボン酸の1価アルコールエステル;リシノール酸メチル、リシノール酸エチル、リシノール酸ブチル、6−ヒドロキシヘキサン酸メチル、6−ヒドロキシヘキサン酸エチル、6−ヒドロキシヘキサン酸ブチル、ヒドロキシカルボン酸の多価アルコールエステル;エチレングリコールジ(6−ヒドロキシヘキサン酸)エステル、ジエチレングリコールジ(6−ヒドロキシヘキサン酸)エステル、トリエチレングリコールジ(6−ヒドロキシヘキサン酸)エステル、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(6−ヒドロキシヘキサン酸)エステル、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(2−ヒドロキシ酪酸)エステル、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(3−ヒドロキシ酪酸)エステル、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(4−ヒドロキシ酪酸)エステル、トリエチレングリコールジ(2−ヒドロキシ酪酸)エステル、グリセリントリ(リシノール酸)エステル、L−酒石酸ジ(1−(2−エチルヘキシル))、ひまし油などが挙げられる。
ポリエステル系可塑剤としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの多価カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,2−デカンジオール、1,10−デカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなどの多価アルコールを縮合重合して得られるポリエステルや、ε−カプロラクトンなどのラクトン化合物を開環重合して得られるポリエステルが挙げられる。これらポリエステルの末端構造は特に限定されず、水酸基やカルボキシル基でも良いし、また、末端水酸基や末端カルボキシル基を1価カルボン酸あるいは1価アルコールと反応させてエステル結合としたものでも良い。
ポリ炭酸エステル系可塑剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,2−デカンジオール、1,10−デカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなどの多価アルコールと、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルなどの炭酸エステルをエステル交換反応により重合して得られるポリ炭酸エステル化合物が挙げられる。これらポリ炭酸エステル化合物の末端構造は特に限定されないが、炭酸エステル基、または水酸基が好ましい。
ポリエーテル系可塑剤としては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−プロピレングリコール)、ポリ(1,3−プロピレングリコール)、ポリ(1,2−ブチレングリコール)、ポリ(1,3−ブチレングリコール)、ポリ(1,4−ブチレングリコール)、ポリ(2,3−ブチレングリコール)などの他、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコールから選ばれる2種類以上の化合物のランダム共重合体、またはブロック共重合体などが挙げられる。
可塑剤は1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。可塑剤の使用量は特に限定されないが、フィルムに含まれるポリビニルアセタール100質量部に対して1〜100質量部であることが好ましく、5〜70質量部であることがより好ましく、20〜60質量部であることがさらに好ましい。フィルム中のポリビニルアセタール100質量部に対する可塑剤の使用量が1質量部より少ないと、十分な可塑化効果が得られないことがあり、可塑剤の使用量を100質量部より多くしても、格段の可塑化効果は得られない。
本発明の合わせガラス用フィルムは、本発明の主旨に反しない限り、酸化防止剤、紫外線吸収剤、接着性改良剤、その他添加剤を含んでいても良い。
本発明の合わせガラス用フィルムに酸化防止剤を添加する場合、その種類は特に限定されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられ、中でもフェノール系酸化防止剤が好ましく、アルキル置換フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジt−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジt−ブチル−4−エチルフェノール、オクタデシル−3−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ビス(3−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メタン、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3’,5’−ジt−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)などのアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジt−ブチルアニリノ)−2,4−ビス−オクチルチオ−1,3,5−トリアジン、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルアニリノ)−2,4−ビス−オクチルチオ−1,3,5−トリアジン、6−(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビス−オクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジt−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン基含有フェノール系化合物などが挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレンなどのモノホスファイト系化合物;4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジトリデシルホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジアルキル(C12〜C15)ホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(ジフェニルモノアルキル(C12〜C15)ホスファイト)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス(2,4−ジt−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスファイトなどのジホスファイト系化合物などが挙げられる。これらの中でもモノホスファイト系化合物が好ましい。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオプロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどが挙げられる。
これらの酸化防止剤は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化防止剤を添加する場合、その添加量は、フィルムの質量に対して0.001〜5質量%であることが好ましく、0.01〜1質量%であることがより好ましい。酸化防止剤がフィルムの質量に対して0.001質量%より少ないと十分な酸化防止効果が得られないことがあり、また、酸化防止剤が5質量%より多くても、格段の効果は望めない。
紫外線吸収剤としては、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジt−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジt−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジt−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、4−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)−1−(2−(3−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのヒンダードアミン系紫外線吸収剤;2,4−ジt−ブチルフェニル−3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート系紫外線吸収剤などが挙げられる。
紫外線吸収剤を添加する場合、その添加量は、フィルムの質量に対して0.001〜5質量%であることが好ましく、0.01〜1質量%であることがより好ましい。紫外線吸収剤が0.001質量%より少ないと十分な紫外線吸収効果が得られないことがあり、また、紫外線吸収剤を5質量%より多くしても格段の効果は望めない。これら紫外線吸収剤は単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることもできる。
本発明の合わせガラス用フィルムの形態は、単層フィルムでも良いし、積層フィルムでも良い。
本発明の合わせガラス用フィルムの厚さは特に限定されないが、0.1mm〜2mmであることが好ましく、0.15〜1mmであることがより好ましい。積層フィルムにする場合には表面の凹凸の観点から外層は0.05mm以上であることが好ましい。
本発明の合わせガラス用フィルムは、例えば、押出成形、キャスト法による製膜、熱プレス機による製膜により製造できる。(A20N/B20N)/(A0/B0)を本発明の規定の範囲内とするためには、フィルム製造時にかかる内部応力を低減させることが重要である。(A20N/B20N)/(A0/B0)が本発明の規定の範囲内である本発明の合わせガラス用フィルムを得る方法としては、押出成形の際に特定の滑剤を用いる方法;樹脂組成物温度を特定範囲とする方法;ロール温度を特定の温度に設定する方法;押出機のスクリュセグメントを選択することによる樹脂組成物へのせん断圧力を低減させる方法;これらを組み合わせる方法などが挙げられる。
上記した特定の滑剤としては、フッ素系樹脂が好ましい。たとえばポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4,6フッ化)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体が好ましく、それらの変性物であってもよい。また、ポリビニルアセタール樹脂と屈折率が近いものが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂とのJIS K7105およびJIS K7142に準拠して測定した屈折率差が0.030以下であることが好ましく、0.010以下であることがより好ましい。上記のような滑剤を用いると、押出機およびダイで合わせガラス用フィルムにかかる応力が緩和でき、本発明の規定を満たす合わせガラス用フィルムを得ることができる。滑剤の量としては、合わせガラス用フィルムを構成する樹脂組成物に対して0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.1〜1.5質量%であることがより好ましい。
押出成形の際の樹脂組成物の温度としては、本発明の合わせガラス用フィルムを構成する樹脂組成物にせん断圧力がかかりにくい程度に流動する温度が好ましく、用いる樹脂組成物の組成にも影響されるが、150〜300℃であることが好ましく、180〜250℃であることが好ましい。
押出成形の際のロール温度としては、20〜60℃が好ましく、30〜40℃がより好ましい。具体的な製造方法としては、たとえば押出成形の際に、合わせガラス用フィルムを構成する樹脂組成物に対して滑剤0.01〜10質量%を添加し、例えば、樹脂温度を150〜300℃、ロール温度を20〜60℃とすることで作製される。
本発明の合わせガラス用フィルムが積層フィルムの場合、積層フィルムの製造方法は特に限定されず、共押出成形、多層射出成形又はドライラミネーションなど、従来から公知の方法で製造可能である。さらに、積層フィルムの場合にはダイ内で各層の成分を接触させるダイ内ラミネーションでも良いし、ダイ外で接触させるダイ外ラミネーションでも良い。また、押し出し温度は適宜選択されるが、150〜300℃が好ましく、180〜250℃がより好ましい。(A20N/B20N)/(A0/B0)を本発明の規定の範囲内とするためには、基本的には上記と同様の方法をとればよい。滑剤を含有させて積層フィルムを製造する際は、一部の層を構成する樹脂組成物に滑剤を含有させてもよいし、全ての層に滑剤を含有させてもよい。透視歪みと二重像をより低減させる観点からは、成形時にフィルムの外層が滑剤を含有していることが好ましい。積層フィルムは、2層からなっていてもよく、3層からなっていてもよく、4層以上からなっていてもよい。積層フィルムを構成する各層は、同一のものであってもよいし、異なっていてもよい。機能性の付与とコストのバランスの観点から、3層構成が好ましい。遮音性付与の観点からは内層の可塑剤量が外層の可塑剤量よりも1質量部以上多いことが好ましく、3質量部以上多いことがより好ましく、5質量部以上多いことがさらに好ましい。
本発明の合わせガラス用フィルムを含む合わせガラスに使用するガラスは特に限定されず、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、熱線吸収板ガラスなどの無機ガラスのほか、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートなどの従来から公知の有機ガラス等が使用でき、これらは無色、有色、あるいは透明、非透明のいずれであってもよい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、ガラスの厚さは特に限定されないが、建築用、自動車用など合わせガラスとしての実用の観点から、100mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい。
本発明の合わせガラスは、従来から公知の方法で製造することが可能であり、例えば、真空ラミネータ装置を用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、ニップロールを用いる方法等が挙げられる。また、仮圧着後に、オートクレーブ工程に投入する方法も付加的に行なうことができる。
真空ラミネータ装置を用いる場合、例えば、太陽電池の製造に用いられる公知の装置を使用し、1×10−6〜3×10−2MPaの減圧下、100〜200℃、特に130〜160℃の温度でラミネートされる。真空バッグまたは真空リングを用いる方法は、例えば、欧州特許第1235683号明細書に記載されており、例えば約2×10−2MPaの圧力下、130〜145℃でラミネートされる。
ニップロールを用いる場合、例えば、可塑化されたポリビニルアセタールの流動開始温度以下の温度で1回目の仮圧着をした後、さらに流動開始温度に近い条件で仮圧着をする方法が挙げられる。具体的には、赤外線ヒーターなどで30〜70℃に加熱した後、ロールで脱気し、さらに50〜120℃に加熱した後、ロールで圧着して接着または仮接着させる方法が挙げられる。
仮圧着後に付加的に行なわれるオートクレーブ工程は、モジュールや合わせガラスの厚さや構成にもよるが、例えば、0.1〜0.15MPaの圧力下、130〜145℃の温度で0.5〜2時間実施される。
本発明の合わせガラス用フィルムの応力ムラは複屈折率の評価を指標とできる。これらは複屈折/位相差評価システムで求めることができる。装置はWPA−100(L)で行い、LED光源を照射してワイドレンジ偏光イメージセンサーと可変波長フィルタを組み合わせることで複数の波長測定結果から光学計算アルゴリズムを用いて比較演算することにより、位相差を求め、複屈折率を得ることができる。
複屈折率は透視ひずみや二重像の抑制の観点から、値は小さいほうが良く、20nm以下であることが好ましい、さらに10nm以下であることがより好ましい。
以下、実施例等で本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等によって何ら限定されない。なお、以下の実施例において「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
実施例および比較例で得られた合わせガラス用フィルムについて、フィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪み、および二重像の有無の測定は以下の方法により評価した。
(複屈折率の測定)
複屈折/位相差評価システム(フォトニックラティス製、WPA−100)で応力ムラに関する情報を得た。この試験は位相差を2次元の面分布データとして測定でき、フィルム内部の応力把握の指標として用いた。方法は光源の偏光状態を計測し、ベースラインを取得し、実施例および比較例で得られたフィルムを50mm×50mmのサイズに切り取ったサンプルを測定位置に置いてサンプルの位相差分布を確認した。複屈折率が5以下をA、5を超えて10以下をB、10を超えて20以下をC、20を超えるものをDと評価した。
(透視歪みの測定)
JIS R3212に従って、実施例および比較例で作製した合わせガラスにつき、透視歪み試験を行った。この試験は視野を妨げる程度のものであるかどうかを調べるために行い、スクリーンに映し出された円形の最大変形量を測定した(図3)。透視歪みは、下記式(2)により求め、1以下をA、1を超えて3以下をB、3を超えるものをCと評価した
(二重像の測定)
JIS R3212に従って、実施例および比較例で作製した合わせガラスにつき、二重像試験を行った。300×300×150mmの照明箱を準備し、照明箱から試料までの距離を7mとし、試料の取り付け角度を30°としたときの内径線が1割以上歪んでいるかどうか、照明箱の中央にあるスポットの二次像がリングの内径線を超えているかどうかを測定した(図4)。この試験は透視したときの眼に幻惑を与える程度のものか否かを調べるために行った。二重像は目視で評価し、像が発生しないものをA、明らかに像が発生するものをBとした
(実施例1)
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた100LのSUS容器に、イオン交換水8100質量部、ポリビニルアルコール(以下PVAと略称する)(粘度平均重合度1700、けん化度99モル%)を660質量部仕込み(PVA濃度7.5%)、内容物を95℃に昇温して完全に溶解させた。次に、120rpmの攪拌状態で5℃まで徐々に冷却後、n−ブチルアルデヒド435質量部と20%の塩酸540mlを添加し、ブチラール化反応を150分間行った。その後、60分かけて50℃まで昇温し、120分間保持した後、室温まで冷却した。析出した樹脂をイオン交換水で洗浄後、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、再洗浄し、乾燥してポリビニルブチラール(以下PVBと略称する)を得た。得られたPVBのブチラール化度(平均アセタール化度)は69モル%、酢酸ビニル基の含有量(平均残存ビニルエステル基量)は1モル%であり、平均残存水酸基量は30モル%であった。PVBのブチラール化度、残存する酢酸ビニル基の含有量、平均残存水酸基量はJIS K6728にしたがって測定した。
上記で得られたPVBを100質量部、可塑剤として38質量部のトリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、0.048質量部の酢酸マグネシウム4水和物、0.1質量部のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(三菱レイヨン社製;メタブレンL−1000)を、樹脂温度200℃で二軸押出機を用いて混練し、ダイスにて押出成形することで、膜厚760μmのフィルムを得た。
得られたフィルムを10mm×10mmの大きさに切り取り、顕微ラマン分光測定装置(堀場製作所製 Lab Ram ARAMIS)を用いて、中央付近の位置においてフィルム表面を532nmレーザー、アパーチャ25μmφの条件でラマン分光測定し、1780〜1680cm−1の領域で検出されるピークA0の面積A0および3100〜2500cm−1の領域で検出されるピークB0の面積B0をそれぞれ求めた。前記ラマン分光測定をしたフィルム表面の測定位置においてフィルム表面から20Nμmの深さの位置をフィルムの裏面に達する位置までそれぞラマン分光測定を行い、1780〜1680cm−1の領域で検出されるピークA20Nの面積A20Nおよび3100〜2500cm−1の領域で検出されるピークB20Nの面積B20Nを求めた。Nは0または自然数を表し、20Nがフィルムの膜厚以下になるよう選ばれる値である。各ピークの面積は、ラマン分光測定ソフト(堀場製作所製 LabSpec6)での解析値を基準にした。A0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)の測定結果を表1に示す。
また、300mm×300mmの大きさに切り取った上記で得られたフィルムを、300mm×300mmの大きさ、厚さ3mmの板ガラス2枚の間に配置し、真空ラミネータ装置を用いて2×10−2MPaの減圧下、140℃でラミネートし、仮圧着後に0.1MPaの圧力下、140℃の温度で2時間オートクレーブ処理して合わせガラスを得た。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪み、二重像を評価した。評価結果を表3に示す。
(実施例2)
実施例1のフィルムと同様の組成とし実施例1と同様の方法で二軸押出機を用いて溶融混練した樹脂組成物を外層となるように、実施例1で用いたPVB100質量部に対して可塑剤として53.8質量部のトリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエートを樹脂温度200℃で二軸押出機を用いて混練した樹脂組成物を内層となるように用い、ダイスにて各層の厚さを制御し、共押出を行うことで二種三層構造のフィルムを得た。各層の厚さは内層160μm、外層300μmとなるように制御して、全体の厚さが760μmのフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表1に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(実施例3)
膜厚を300μmにした以外は実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表1に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(実施例4)
アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(三菱レイヨン社製;メタブレンL−1000)の量を0.5質量部とした以外は実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表1に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(実施例5)
外層におけるアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(三菱レイヨン社製;メタブレンL−1000)の量を0.5質量部とした以外は実施例2と同様の方法により二種三層構造のフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表1に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(実施例6)
アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(三菱レイヨン社製;メタブレンL−1000)の量を0.5質量部とした以外は実施例3と同様の方法によりフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表1に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(実施例7)
アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(三菱レイヨン社製;メタブレンL−1000)の量を1.5質量部とした以外は実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表1に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(実施例8)
外層におけるアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(三菱レイヨン社製;メタブレンL−1000)の量を1.5質量部とした以外は実施例2と同様の方法により二種三層構造のフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表2に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(実施例9)
アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(三菱レイヨン社製;メタブレンL−1000)の量を1.5質量部とした以外には実施例3と同様の方法によりフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表2に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(実施例10)
n−ブチルアルデヒドを340重量部とした以外は実施例1と同様の方法によりPVBを合成した。得られたPVBのブチラール化度は52モル%、酢酸ビニル基の含有量は1モル%であり、ビニルアルコール基の含有量は47モル%であった。また実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表2に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(実施例11)
n−ブチルアルデヒドを514重量部とした以外は実施例1と同様の方法によりPVBを合成した。得られたPVBのブチラール化度は78モル%、酢酸ビニル基の含有量は1モル%であり、ビニルアルコール基の含有量は21モル%であった。また実施例1と同様の方法によりフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表2に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(比較例1)
実施例1と同様の方法により得られたPVB100質量部、可塑剤として38質量部のトリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、0.048質量部の酢酸マグネシウム4水和物を、樹脂温度200℃で二軸押出機を用いて混練し、ダイスにて押出成形することで、膜厚760μmのフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表2に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(比較例2)
比較例1のフィルムと同様の組成とし比較例1と同様の方法で二軸押出機を用いて溶融混練した樹脂組成物を外層となるように、実施例1で用いたPVB100質量部に対して可塑剤として53.8質量部のトリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエートを樹脂温度200℃で二軸押出機を用いて混練した樹脂組成物を内層となるように用い、ダイスにて各層の厚さを制御し、共押出を行うことで二種三層構造のフィルムを得た。各層の厚さは内層160μm、外層300μmとなるように制御して、全体の厚さが760μmのフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表2に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(比較例3)
膜厚を300μmにした以外は比較例1と同様の方法によりフィルムを得た。得られたフィルムのラマン分光測定でのA0、B0、A20N、B20Nおよび(A20N/B20N)/(A0/B0)を表2に示す。またフィルムの複屈折率、合わせガラスにしたときの透視歪みおよび二重像の測定を行った。評価結果を表3に示す。
(A20N/B20N)/(A0/B0)の比が本発明の要件を満たす実施例のフィルムはフィルム状態で複屈折率が20.0以下であり、合わせガラスにした際に透視歪み、二重像が抑制された。また実施例から複屈折率が5nm以下のフィルムについては、透視歪みが1以下、二重像も問題がなかった。