以下、本発明の一実施形態に係る災害時避難設備10について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、災害時避難設備10の各構成要素の形状、寸法、材質等については本発明の説明をする上でのあくまで一例を示したものに過ぎず、本発明の範囲内であれば適宜変更可能である。
図1は、本発明の一実施形態に係る災害時避難設備10の全体斜視図である。本発明の一実施形態に係る災害時避難設備10(以下、適宜単に「災害時避難設備10」とする)は、大規模災害発生時に多数の被災者を緊急避難させる災害時避難設備であって、多数階のフロアから構成された建築構造物をなし、全体として直方体形状を有し、その各側面周囲は上から見て三角形形状をなすテーパー付の防護壁で覆われている。なお、避難者については、図5乃至図7に符号h1,h2,h3,h4,h5,・・・で示している。
災害時避難設備10の所定階数の上層階は、図3に示すように、避難者一時滞在エリア100として使用され、残りの所定階数の下層階は、後にその構造を詳しく説明する避難者徒歩移動エリア200として使用される。
災害時避難設備10の1階の一側面には、多数の避難者が一度に入ることができる避難者入口部300が設けられている。そして、避難者入口部300には後ほど詳細に説明する開閉ドア310が設けられている。
また、災害時避難設備10の縦方向に伸びる4つの角部のうち1箇所の角部には、設備の1階から屋上500に至るまで避難者が上り下りできる非常階段400(図3参照)が設けられている。そして、非常階段400の一番下にはこの非常階段400に避難者が入ることができる非常階段用扉401が設けられている。非常階段用扉401の構造は、ここでは詳細には説明しないが、外開き構造となっている。即ち、扉を開ける際に扉を避難者入口部300から外側にのみ開くことができ、内側には開かない構造となっている。なお、非常階段を利用する避難者は、例えば津波による水の水位の上昇に応じて上の階段に昇って水位の上昇から身を守るようにする。
図2は、図1に示した災害時避難設備10を上方から見た平面図である。災害時避難設備10の最上階、即ち矩形形状を有する屋上500は、多数の避難民が一時的に滞在できると共に、設備からかなり離れた総合病院に搬送する必要のあるけが人や急病人のドクターヘリのためのヘリポートとしても利用される。
また、屋上500の所定位置に太陽光を取り込むための天窓510が設けられていると共に、各階の空気を強制的に排気したり吸気したりして各階が酸欠状態にならないようにする筒形の換気用ベンチレーター515の上端部が突出している。なお、天窓510は、例えば避難者一時滞在エリア100の各フロアにも設けられている。
また、災害時避難設備10の避難者入口部300が備わった側面の屋上500には、避難者入口部300から入った多くの避難者を一度に各階に避難させるための複数台並列配置されたエレベーター600(昇降装置)の最上階部610が突出している。なお、エレベーター600は、避難者が任意の階数を選択することでその階に停止して、選択した任意の階ごとに避難者が出入りすることができるようになっている。
また、この屋上500のエレベーター600の最上階部610が突出した側と反対側の側部には複数の男子用トイレ520及び女子用トイレ530が並列配置されると共に、これら男子用トイレ520及び女子用トイレ530の上に上部水タンク540が備わっている。なお、これらの男子用トイレ520及び女子用トイレ530は、災害時避難設備10の屋上500から1階までこの屋上500に示した配置状態と同様の配置状態で各階ごとに設けられている。
また、上部水タンク540は、屋上階から1階までの各階に設けられたトイレ用の水として使用される。なお、平時の際は図3に示す水道管パイプ810によって常に水で満たされて、水道管パイプ810からの水の供給ができなくなった非常時においては貯水タンク用パイプ830を介して水で満たされるようになっている。即ち、上部水タンク540は、通常時のみならず断水時のトイレ排水用の水を供給する重要な役目を果たしている。
また、男子用トイレ520の横には、水道水を各階のフロアに供給するポンプ室550が設けられている。なお、ポンプ室550内又は各階のフロアの水道水供給パイプの適所には、飲料水や食材調理用の水として使用できるように濾過フィルター(図示せず)が備わっている。
災害時避難設備10の屋上500の周囲の設備上方から見て略三角形形状を有する4つの三角スペース560(図2参照)は、後述する貯水タンク部730のメンテナンスエリアをなし、この三角スペース560の周囲にはそれぞれ防護用フェンス561(図1及び図3参照)が設けられている。また、防護用フェンス561の一部には、このメンテナンスエリアに出入りするための施錠付きの開閉扉562が設けられている。また、メンテナンスエリアの所定部分には、貯水タンク部730内の蒸気等を排出する安全弁563と、貯水タンク部730内を清掃したりメンテナンスしたりするための作業者が手入りする作業者出入り用開閉蓋564が設けられている。
また、非常階段400の屋上出口部は、非常階段400が水で全体的に浸かっても、屋上に水が溢れ出ることなく、屋上から外側に水を流出させる水流入防止壁570が備わっている。これによって、非常階段400に沿って設けた非常階段用カバーと他の壁部700との間を、防水パッキン等を用いて水の浸入を防ぐ複雑な構造にしなくて済む。
また、図面中には示さないが、災害時避難設備10内には適当な数のディーゼルエンジンの発電機が設置されると共に、この発電機を動かす燃料(重油)が保管されており、災害発生時に電力供給のインフラが機能しなくなって外部から電力が供給されなくなっても、これらの発電機を用いて、エレベーター600の昇降装置の駆動電力や、設備上部に水を送るポンプの駆動電力、設備内の医療機器用の電力、設備内の換気を行う換気用ベンチレーター515の駆動電力、設備内の照明器具の点灯用の電力を供給できる。また、災害時避難設備10には、これらの様々なアクチュエータを制御するセンサー(図示せず)が各所に備わっているが、これらのセンサーの電源にも用いられる。
なお、屋上500の一部であってヘリポートとしての機能を損なわない場所に避難者が立ったままでいられる程度の高さを有する屋根部を設け、この屋根部の上に太陽光発電パネルを一面に設置しても良い。このような太陽光発電パネルを設けることで、これによって発電した電力を災害時避難設備10の内部の照明装置を点灯する際に利用することが可能となる。
図3は、図1に示した災害時避難設備10の外壁の一部を破断して示す斜視図である。同図の破断した部分から分かるように、災害時避難設備10の避難者入口部300の開閉ドア310が開いた状態で、この避難者入口部300から多数併設された上述のエレベーター600に同時に多くの避難者が乗ることができるようになっている。
なお、図1及び図3の避難者入口部300の奥に示す多数の縦の仕切り601は、各エレベーター600の昇降用ガイドとしての構造体である。そして、エレベーター600が1階に到達していない状態においては、避難者は仕切り601の間を歩いて通り抜け、後述する避難者徒歩移動エリア200の上層階移動フロア210の最下段を歩き始めるようになっている。
また、避難者入口部300と地面の間には高さ30センチ程度の差があり、避難者がつまずくことなく避難者入口部300内に入れるように僅かなテーパーを有した複数の段差吸収板390が隙間を開けずに互いに隣接させ直列に連続して敷設されている。各段差吸収板390は、避難者入口部300の開閉を行う者が開閉ドア310を閉める際に、1人か2人程度でこれらの段差吸収板390を避難者入口部300からドア開閉の邪魔にならない別の場所にずらしたり持ち運んだりできる程度の重さと大きさを有している。
上述した段差は、避難者入口部300の開閉ドア310を閉めた際、後述する避難者入口部300の開閉ドア310の防水パッキン310aの下側と避難者入口部300の周囲の下側をしっかりと密着させるために設けたものである。そのため、開閉ドア310を閉める際は、段差吸収板390を予め別の場所に移すようになっている。
また、避難者入口部300の一方の開閉ドア310の横には非常階段用扉401が備わり、避難者入口部300の開閉ドア310が閉じられた後であっても、外部の避難者がこの非常階段用扉401を開けてエレベーター600の横に設置された非常階段400から設備内に避難できるようになっている。
図4は、図1に示した災害時避難設備10の内部構造を概略的に示す側面図である。図3の破断部及び図4から分かるように、災害時避難設備10の内部は多数階のフロアからなり、上部の所定階数のフロア110は、平坦な構造となって避難者一時滞在エリア100として使用可能であり、避難者一時滞在エリア100より下側の多数階のフロアは極めて緩やかなスロープが交互に連続して形成されて多数の避難者が楽に歩いて行くことができる避難者徒歩移動エリア200となっている。
より具体的には、図3及び図4に示す災害時避難設備10の場合、設備内上部の避難者一時滞在エリア100は、設備内上部の5フロア、即ち6階分を占め、各フロアは水平の床構造を有し、避難者が一時滞在するのに適した構造となっている。一方、避難者徒歩移動エリア200は、避難者一時滞在エリア100の下層階をなす17フロア、即ち17階分を占めている。
避難者一時滞在エリア100には、設備の規模が大きい場合、図面中には示さないが、MRI、人工透析機器、AED(自動体外式除細動器)、手術室、簡易医療処置室、負傷者及び病人用ベッド等、様々な医療機器を備えた設備内病院が設置され、避難者の内、負傷者や急病人、人工透析の必要な避難者等に適切な処置を行うようになっている。なお、AEDに関しては、設備内病院だけではなく、災害時避難設備10の各フロアに設置してある。また、設備の規模が小さい場合は診療所を設置すれば良い。
図5は、図4に示した内部構造のうち、避難者徒歩移動エリアの部分を示す平面図であり、避難者徒歩移動エリアの1階部分から2階部分までを示している。また、図6は、図4に示した内部構造のうち、避難者徒歩移動エリアの部分を示す平面図であり、避難者徒歩移動エリアの2階以上のn階からn+1階の一部までを示している。また、図7は、図6に示した避難者歩行移動エリアを立体的に示す斜視図である。図5乃至図7において、各避難者は、上述したように符号h1,h2,h3,h4,h5,・・・で示すが、実際の避難者は、図示する人数より遥かに多い人数となる。
避難者徒歩移動エリア200は、これらの図から分かるように、避難者徒歩移動エリア200をなす所定階数のフロアからなり、多数の避難者が1階ずつ徒歩で上方階に歩いて行くことができ、かつその場に留まって一時避難生活を送ることも可能な程度の傾斜角が極めて小さい上層階移動フロア210(211,212)と、上層階移動フロア210の端部に設けられ更に上層階に歩いて行くことができるその後の上層階移動フロア210に歩いて移動可能な水平折り返し部220が交互に連続して構成されている。なお、水平折り返し部220は、避難者が歩く方向をすぐに180度変えることができるヘアピンカーブ状になって、避難者はこの水平折り返し部220を介してこれに続く上層階移動フロア210に反対方向に歩いて行くことができる。また、図面中には示さないが上層階動フロア210や水平折り返し部220の適所において避難者がフロアから足を踏み外すのを防止する安全柵付きの手摺が設けられている。この手摺は、避難者が歩くのに疲れた際に掴まることができる役目も果たしている。
これらの図から分かるように、上層階移動フロア210及び水平折り返し部220によって多数の避難者が同時に歩きながら上層階に向かって避難することができる。そのため、上述したエレベーター600を利用するために待つことなく、災害時避難設備10の避難者入口部300から多数の避難者が設備内に避難することが可能となる。
避難者徒歩移動エリア200の最上部と避難者一時滞在エリア100の最下部との間には、図4に示すように、ある程度の隙間が設けられ、避難者一時滞在エリア100の最下部のフロアには所定位置に切り欠き部(ここでは図示せず)が備わっている。そして、切り欠き部と最上段の水平折り返し部220との間の一部に階段(ここでは図示せず)が設けられている。この隙間及び切り欠き部の寸法は、この部分に避難者が歩いて辿り着いた際に階段を利用してこの切り欠き部から避難者一時滞在エリア100の最下部のフロアに簡単に辿り着くことができる程度の寸法となっている。
これによって、多数の避難者が上層階移動フロア210の最上階にまで歩いて到達した後に、最上階の水平折り返し部220と階段を経て避難者一時滞在エリア100の一番下のフロア110に苦労することなく到達することができる。なお、切り欠き部は多数設けられているので、階段以外の場所からも、避難者が、避難者徒歩移動エリア200の最上部から避難者一時滞在エリア100の最下部に自力で乗り移ることも可能となっている。これによって、この場所で避難者がつかえることなく、避難者徒歩移動エリア200から避難者一時滞在エリア100にスムーズに移動できるようになっている。
なお、上層階移動フロア210(211,212)は、図4乃至図7から分かるように、災害時避難設備10内の一方の側に設けられた水平折り返し部221(220)と他方の側に設けられた1階分上の水平折り返し部222(220)との間を繋ぐ構造となっており、その傾斜角は極めて緩やかなものとなっている。
従って、徒歩で移動している避難者が途中で疲れた場合に上層階移動フロア210の途中であっても、他の徒歩で移動している避難者の邪魔にならないような場所で休憩することができる。また、避難者が車椅子に乗っている場合であっても、数人が交互にこの車椅子を押していくことで、車椅子に乗った避難者を避難者徒歩移動エリア200の上層階まで移動させ、その更に上の避難者一時滞在エリア100に避難させることができる。
また、避難者徒歩移動エリア200の途中階で避難者が疲れてそれ以上歩いて移動することができなくなった場合や車椅子に乗った避難者を押して行くことができなくなった場合、その途中階においてもエレベーター600を停めさせ、そこでエレベーター600に乗り込んでより上層階の避難者一時滞在エリア100に一気に避難することができる。また、エレベーター600が各階に停まることができるようにすることで、平時の際の例えばイベント開催時に利用の便を図ることができる。
また、避難者がかなりの人数となり、他の避難者がエレベーター600を利用することによって避難者一時滞在エリア100の各フロアが既にこれらの避難者で占められた場合、後から来た避難者は避難者一時滞在エリア100内に入れなくなるが、避難者徒歩移動エリア200の上層階移動フロア210や水平折り返し部220に留まることでその場で一時避難生活を送ることも可能である。
図8は、図4に示した災害時避難設備10の内部構造のうち、避難者一時滞在エリア100に設置可能な階段ユニット150を示す斜視図である。避難者一時滞在エリア100の各フロア110には上下に隣接するフロアごとに対向する位置にユニット用切り欠き部115が設けられると共に、対向するユニット用切り欠き部115間に取り外し可能に設置できる階段ユニット150が備わっている。
なお、図8においては、ユニット用切り欠き部115は各フロア110の側縁部に設けられているが、ユニット用切り欠き部115をフロア110の側縁部に設ける代わりに、フロアの中央や適当な場所に矩形状に打ち抜いた形のユニット用切り欠き部を設けても良い。
階段ユニット150は、直方体状に結合可能な複数本の棒状体151aを直方体状に結合した状態で構成された枠体151と、枠体151の内側にボルトやナットなどの締め付け具(図示せず)によってしっかりと取り付けられた階段状プレート152から構成され、上述した隣接する上下のフロアに対向配置したユニット用切り欠き部115の間に挟まれるようにしっかりと固定配置されている。
これによって、エレベーター600によって避難者一時滞在エリア100の下層階のフロア110にいる避難者がより上層階のフロアに移動したり、避難者徒歩移動エリア200から避難者一時滞在エリア100の最下層のフロア110にたどり着いた避難者がより上層階のフロアに移動したりする場合に、エレベーター600が来るのをいちいち待つ必要なく、階段ユニット150を利用して移動することが可能となる。もちろん、避難者一時滞在エリア100の上層階のフロア110にいる避難者が下層階のフロア110に移動する場合にも利用可能である。
なお、階段ユニット150の複数の棒状体151aからなる枠体151と階段状プレート152は、それぞればらして保管可能となっているため、災害が発生していない平時の際は、上述したような階段ユニット150を設置せずに複数の棒状体151aと階段状プレート152の部品ごとにばらして各フロアの一角に積み上げて保管しておいても良い。この場合、ユニット用切り欠き部115は十分な強度を有する金属製のプレート(図示せず)などで塞いでおくのが良い。
このようにすることで、避難者一時滞在エリア100の各階のフロアを平時の際においては屋内のイベント会場や屋内運動場として使うことができる。また、地域のお祭りなどの行事が悪天候により屋外で行うことができなかったりする場合に、このフロアを利用して行うことで行事の順延に伴う日程の再調整やその他スケジュールの再調整を行わずに済む。
なお、ここでいうイベントとは、コンサートや講演会、催し物、地域コミュニティーの集まり、各地方の物産展、映画上映会や撮影会等様々な行事を含む。また、屋内運動場としては、ウォーキングやランニング、高齢者のトレーニング、子供たちの遊び場など様々な用途を含む。もちろん、平時の際に災害時避難設備10のフロアの一部を貸し倉庫等に用いても良い。
図9は、図1に示した災害時避難設備10の避難者入口部300を部分的に示す斜視図である。また、図10は、図9に示した避難者入口部300の開閉ドア310を閉めた状態で部分的に示す平面図である。図1乃至図3及び図9から分かるように、避難者入口部300の開閉ドア310は2枚の細長の扉からなり、それらの各支持側端部312は、避難者入口部300の両端にそれぞれしっかりしたヒンジ構造で開閉自在に固定され、各他端部が自由端部313となっている。
そして、各自由端部313の上側と避難者入口部300の両端上方との間は、ターンバックル315によってつながり、ヒンジ部に無理な応力を発生させることなく、開閉ドア310を人の手の力で簡単に開閉できるようになっている。また、開閉ドア310の他端部同士は、図10に示すように、開閉ドア310を閉めた状態でぴったりと密着するようになっている。
各開閉ドア310の内側周囲には、図9に示すように、しっかりとした防水パッキン310aが備わっている。また、開閉ドア310の自由端部313の内側にはドア密閉用フック316が備わっている。また、避難者入口部300の少し奥まった位置に一端が固定されると共に、他端にドア密閉用フック316と係合する相手側フック317の付いたドア密閉用ワイヤ318が備わっている。そして、ドア密閉用ワイヤ318の中間部分にはドア密閉用ワイヤ318の長さを人の手で簡単に短くできるレバー付きのチェーンバインダー319が備わっている。
これによって、各開閉ドア310を完全に閉めた後に各開閉ドア310のドア密閉用フック316をドア密閉用ワイヤ318の相手側フック317に引っ掛けた後、チェーンバインダー319を用いてドア密閉用ワイヤ318の長さを短くすることで、各開閉ドア310の防水パッキン310aと避難者入口部300の周囲をぴったりと密着させて設備外部の水が避難者入口部300から設備内に浸入しないようになっている。
災害時避難設備10の避難者入口部300がこのような開閉ドア310を有することと、災害時避難設備10の避難者入口部300を除いた部分が水浸入防止構造(液密構造)となっていることとが相俟って、災害時避難設備10を沿岸部に設置した場合、例えば大地震に伴う津波が到来したり、この津波の到来に伴う周辺部の河川の堤防が決壊して氾濫したりすることで災害時避難設備10がその屋上近傍まで水に浸かっても、災害時避難設備10の内部の避難者一時滞在エリア100や避難者徒歩移動エリア200に水が浸入するのを防止する。
続いて、災害時避難設備10の壁部分700について説明する。災害時避難設備10の壁部分700は、図1乃至図3に示す外観構造となっている。そして、内部構造は図11に示すようになっている。なお、図11は、図1に示した災害時避難設備10の周囲の壁部分700の一部断面図である。
図1乃至図3及び図11から分かるように、災害時避難設備10の壁部分700は、第1の壁面710と、これと所定の間隔を隔てて設けられた第2の壁面720と、この間にできた空間に備わる貯水タンク部730、断熱材740、換気扇750、各種送水パイプ800等を有している。
より具体的には、災害時避難設備10の避難者一時滞在エリア100と避難者徒歩移動エリア200の周囲は第1の壁面710で覆われている。また、第1の壁面710の外側に、第1の壁面710と所定間隔隔てて第2の壁面720が備わっている。なお、災害時避難設備10を設置した状態で上方から見て、第2の壁面720は、第1の壁面710に対して各壁面710,720の上端縁部が三角形状となるように、平面状からなる第1の壁面710の幅方向両端部から第2の壁面720が所定の角度をなしてテーパー状に延在している。
第1の壁面710は、例えば1枚の鉄板を例えば各階ごとに張り付けて形成されている。一方、第2の壁面720は、互いに所定間隔だけ隔てた内側壁面721と外側壁面722とからなり、これら壁面の間に所定長さを有する金属製の棒状補強体725を複数本等間隔で配置した状態で構成されている。そして、第2の壁面720の隣接する棒状補強体725同士の間に形成された空間には、断熱材740が第2の壁面720の全面に亘って挿入されている。
第1の壁面710と第2の壁面720は、これらにより災害時避難設備10の内部の避難者一時滞在エリア100及び避難者徒歩移動エリア200を完全に取り囲むようになっており、かつ災害時避難設備100が屋上付近までに水に浸かってもこれらの壁面の間から上記2つのエリアに水が浸入しないようになっている。即ち、開閉ドア310にも防水パッキン310aが備わっているので、避難者入口部300を開閉ドア310で閉めて防水パッキン310aにより避難者入口部300を密閉状態にすることで、災害時避難設備10がその屋上近傍まで水に浸かっても災害時避難設備10の避難者一時滞在エリア100と避難者徒歩移動エリア200に水が浸入しない構造を災害時避難設備10は有している。
また、第1の壁面710と第2の壁面720の内側壁面721との間には貯水タンク部730が備わっている。即ち、災害時避難設備10の4つの側面にはそれぞれ貯水タンク部730が備わり、これら4つの貯水タンク部730は、災害時避難設備10のちょうど下側の地下基礎部分において図示しない連結パイプやエルボーで連通され、各貯水タンク部730の水位が常に一定になるようにしている。これによって、上水道から水道管パイプ810に水道水を適量だけ継続して流し続けることで、災害時避難設備10の周囲に火災が発生しても、各貯水タンク部730に溜まった水が循環することで、災害時避難設備10の周囲を覆う4つの第2の壁面720の温度を常に均一に極力低く保つことができる。これによって、災害時避難設備10の内部にいる避難者に火災の熱の悪影響が及ばないようにできる。
なお、第1の壁面710及び第2の壁面720並びに貯水タンク部730の一部又は全部を金属板の代わりに透明度の高い強化プラスチック等を用いて構成しても良い。これによって、災害時避難設備10の避難者一時滞在エリア100や避難者徒歩移動エリア200に太陽光を取り入れることができる。
各貯水タンク部730の上面には、上述したように内部に溜まった蒸気を排出する安全弁563が設けると共に、各貯水タンク部730内を清掃する作業者が手入りする作業者出入り用開閉蓋564が設けられている。
第1の壁面710と第2の壁面720との間の空間において貯水タンク部730の側方には、図3に点線で示すと共に図10に断面で示すように、水道管パイプ810、排水パイプ820、及び貯水タンク用パイプ830からなる送水パイプ800が、災害時避難設備10の上下方向に延在して取り付けられている。また、第1の壁面710には、各フロアの換気を行う換気扇750が備わっている。なお、換気扇750の部分若しくは各フロアの適所に必要に応じて動作する空気清浄機を備えるとより好ましい。
水道管パイプ810は、インフラとして整備されている一般の上水道の水道管と連結しており、水道水の水圧を利用して災害時避難設備10の屋上500に設けた上部水タンク540やポンプ室550、第1の壁面710と第2の壁面720との間に備わる貯水タンク部730に水を供給するようになっている。そして、水道管パイプ810の下端は、災害時避難設備10の下側の地下基礎部分に埋設され、適当なエルボーを介してこの設備下側で上水道の供給管と繋がっている。なお、上水道のインフラが機能しているときは、この水道管パイプ810を介して設備内の各階に水を供給するようになっている。
なお、水道管パイプ810又は貯水タンク部730の適所には貯水タンク730の水位を一定に保つように上水道から水道管パイプ810に供給される水の供給を制御する調整弁(図示せず)が備わっている。
また、排水パイプ820は、災害発生時に何らかのトラブルにより下層階に水が浸入した場合にこの水を排出するためのもので、下層階の各階毎にここでは図示しない配水管が備わると共に、排水パイプ820の途中には下層階から吸い上げた水をパイプ上端に設けた排水口まで送るポンプ821(図3参照)が適所に備わっている。
また、貯水タンク用パイプ830は、貯水タンク部730内の水をタンク下部から災害時避難設備10の各階及び屋上500まで送るためのもので、図面中には詳細には示さないが、上方に延在する貯水タンク用パイプ830の各階ごとにその階に水を供給する水供給用分岐部が備わっている。また、貯水タンク用パイプ830の途中には、貯水タンク部730の下部から吸い上げた水を災害時避難設備10の各階及び屋上500まで送るポンプ831(図3参照)が適所に備わっている。
貯水タンク用パイプ830の下端近傍には、例えば3つの送水口835(図1及び図3参照)が備わっている。送水口835は、災害時避難設備10の近くで火災が発生した際にこれを消火するための消防用水として用いたり、上水道のインフラが機能しなくなった場合に災害時避難設備10の貯水タンク内の水をこの設備の近隣住民に提供したりするための役目を果たす。なお、図中では、送水口835が直接露出して描かれているが、実際にはこの送水口835は、通常開閉可能なカバーで塞がれ、送水口835を使用する際、このカバーを開けて送水作業を行うようになっている。
そして、各階及び屋上500まで送られた水は、各階ごとに必要に応じて濾過フィルター(図示せず)で濾過した後に飲料水や食材調理用の水、屋上500の下側の適当な階に設けられ医療設備の整った設備内病院の水等として用いられたり、濾過せずそのままシャワー用の水、簡易ユニットバス用の水に用いられたりする。
続いて、災害時避難設備10の避難者一時滞在エリア100の設備配置構造について例示的に説明する。屋上から1階下のフロア110は、通常倉庫として利用する。これによって、災害時避難設備10の周囲が火災になったり、これに伴う火災旋風が生じたりしても、その熱の悪影響が屋上から避難者一時滞在エリア100に避難している人々に及ばないようにする。
更にその1階下のフロア110は施設内病院とする。このように施設内病院を屋上近くに設置することで、例えばエレベーター600が機能しない場合であっても、ヘリポートにドクターヘリが到着した際に緊急医療のために搬送の必要な避難者をドクターヘリに迅速に乗せることができる。
その更に1階下のフロア110は、例えばシャワー室や子供や母親と乳幼児、高齢者等、手厚いケアを必要とする避難者の滞在フロアとする。なお、上述した避難者一時滞在エリア100の設備配置構造はあくまで一例を示したものに過ぎず、それ以外に様々な設備配置構造が考えられることは言うまでもない。
上述した設備内病院に関しては、災害が発生した際のみならず平時においても常時利用できるようにするのが好ましい。これにより、例えば持病のある人達がこの設備内に病院に平時の際から通院することで、各人のカルテを作って保管しておくことができ、災害発生時にこれらの人たちが災害時避難設備に避難してきた後、一時滞在期間中持病が悪化しないように適切な医療処置を受けることができる。
また、平時の際から災害時避難設備内の設備内病院に併設して日帰り風呂やマッサージルーム、リラクゼーションルーム、コンビニエンスストア、共働き家庭の親の帰宅時までの待機児童の一時的な預かり所などを常時営業するようにしておいても良い。これにより平時の際の災害時避難設備の有効活用を図ることができると共に、災害時避難設備自体の存在や場所を、この設備が設置された都市や市町村の住民や勤労者に予め広く知っておいてもらうことができる。
このような場合、上述した設備内病院や各種店舗に災害時避難設備の利用の仕方をポスター等で貼っておくことで、平時におけるこの設備の利用者が、災害発生時にこの設備を初めて利用する人たちのガイド(案内人)としての役目を果たすことができる。
そして、大地震や巨大台風の到来、長期に亘る集中豪雨、異常な寒波の到来に伴う予想外の豪雪、近隣の火山の噴火等の規模が大きい災害が生じた際には、本発明に係る災害時避難設備の有する優れた機能を発揮することが可能となる。
具体的には、災害時避難設備を沿岸部の都市や市町村に設置した場合、大地震に伴う津波の到来や堤防の決壊による近隣の河川の氾濫からこの地域の住民や勤労者を避難させて守ることができる。また、内陸部で津波の影響を受けない都市や市町村であっても、直下型地震などの発生に伴う周辺の広範囲に亘る火災やこれに伴う火災旋風の発生時に、この地域の住民や勤労者を避難させて守ることができる。
また、火山の周辺の都市や市町村にこの災害時避難設備を設置しておけば、いつ何時発生するか分からない火山の噴火やこれに伴う周囲の広範囲に亘る火山灰の堆積などからこの地域の住民や勤労者を避難させて守ることができる。また、巨大台風の到来、長期に亘る集中豪雨、異常な寒波の到来に伴う予想外の豪雪に対しても事前に避難準備しておくことができる。
続いて、上述した災害時避難設備を設置した場合における災害発生時の実際の避難の仕方について説明する。大地震や近隣の火山の噴火等の大規模な災害が発生した際、都市や市町村単位でそこで暮らす住民や勤労者などの概算の人数やハザードマップなどのその地域特有の状況を分析した資料からこれに見合った大きさの災害時避難設備を予め設置しておく。
そして、平時の際は上層階の避難者一時時滞在エリアの各フロアをイベント会場や屋内運動場、その地域の様々な催し物の会場として利用し、その地域に暮らす人々のコミュニティーの場として活用することで、災害発生時に緊急避難場所として広く人々に周知徹底しておくと共に、知り合いを多く作ることで、その地域の人同士の互いの信頼関係を予め築いておく。
そして、災害時避難設備が設置してある都市や市町村に上述した災害が発生すると、避難者は、公共交通機関が利用できる場合はそれを利用し、公共交通機関が完全に機能しなくなった場合は徒歩でこの災害時避難設備に向かう。この際、平時からこの設備を利用している者がいると、この設備の存在を知らない人たちや初めて利用する人たちを案内しながら誘導して避難できるので都合が良い。
避難者が災害時避難設備の避難者入口部にたどり着いたら、まだ体力的に余力のある避難者はエレベーターを使わず、エレベーターが避難者入口部のフロアまで降りてきていないことを確認して、エレベーター乗降口の間を歩いて通り抜け、避難者入口部の幅方向半分の奥に形成された設備内の避難者徒歩移動エリアの最も下に配置された上層階移動フロアを歩いて行き、水平折り返し部に達したら次の上層階移動フロアを更に歩いて行き、これを繰り返すことで避難者徒歩移動エリアの上側に位置する避難者一時滞在エリアに向かう。
なお、避難者が避難者徒歩移動エリアを利用したりエレベーターを利用したりして避難者一時滞在エリアが先に来た避難者で既に占められている場合、後に来た避難者は、避難者徒歩移動エリア内の適当な場所で一時的な避難生活を送る。避難者徒歩移動エリアの上層階移動フロアは、上述したように非常に緩やかな上がり勾配となっているので、上層階移動フロアにおいても苦痛を感じることなく一時的な避難生活を送ることができる。
また、車椅子に乗った避難者であっても、上層階移動フロアは非常に緩やかな上がり勾配となっているので、1人又は数人の補助者が車椅子を押して避難者一時滞在エリアに向かうことができる。なお、平時の際にこの災害時避難設備をコミュニティーセンターとして利用していれば、一緒に歩いて移動する避難者同士の連帯感がより一層高まり、見ず知らずの者同士であっても気軽に助け合うことができるようになる。
高齢者や足腰の弱った避難者、妊婦や小さい子供などの避難者、遠方から徒歩でたどり着いて疲労が溜まっている避難者は、エレベーターを利用して災害時避難設備の上部の避難者一時滞在エリアに一気に避難する。このようにエレベーターを利用する避難者と避難者徒歩移動エリアを歩いて移動する避難者の二派に分かれることで、極めて多くの避難者を災害時避難設備内に迅速かつ効率良く避難させることができる。
なお、避難者徒歩移動エリアの途中階で避難者が疲れてそれ以上歩いて行くことができなくなった場合や車椅子に乗った避難者を押して行くことができなくなった場合、その途中階においてもエレベーターを停めさせ、そこでエレベーターに乗り込んでより上層階の避難者一時滞在エリアに一気に避難することができる。
これによって、災害時避難設備が沿岸地域の都市や市町村に設置された場合で大きな津波の到来の予想警報が出された場合や、災害時避難設備が内陸部の都市や市町村に設置された場合であって直下型地震により大規模な火災が広範囲に及んだりこれに伴う火災旋風が発生したりする場合や、災害時避難設備が火山の近くの都市や市町村に設置された場合で火山の噴火がより激しくなった場合などにおいても、同時に多数押し掛けた避難者がパニックになることなく、災害時避難設備内に落ち着いて避難することができる。
続いて、本発明に係る災害時避難設備の作用について説明する。本発明に係る災害時避難設備によると、大地震等の災害が発生した際、このような災害時避難設備を沿岸部の都市や市町村にその人口に応じた規模で設置することにより、大きな津波等の到来に備えて多数の人が一度に避難することができる。また、このような災害時避難設備を内陸部の都市や市町村にその人口に応じた規模で設置することにより、例えば直下型地震に伴う火災が広範囲に及んだりこれに伴う火災旋風が発生したりしても多数の人が一度に避難することができる。
また、地球温暖化の影響により近年我が国に頻繁に到来する巨大台風に対して、土砂崩れや河川の氾濫に伴う家屋崩壊の危険のある地域の住民を巨大台風の進路予測に応じて予めこの災害時避難設備に避難させておくことができる。これは、巨大台風の到来のみならず、短期間に集中豪雨が続いて土砂崩れや河川の氾濫に伴う家屋崩壊の危険のある地域に対しても適用できる。また、近年の異常気象に伴う予想外の降雪量による積雪にも対処できる。
また、いつ何時発生するか分からない火山の噴火に対してもその周辺の都市や市町村にこの災害時避難設備を設置しておくことで、火山の噴火の兆候が見られた場合や噴火の初期段階において周辺住民がこの災害時避難設備に避難しておくことで、火山の噴火自体や火山灰の堆積等の被害から周辺住民の安全や健康を守ることができる。
また、都市や市町村の多数の住民や勤労者、観光客などを規模の大きい災害時避難設備の1箇所に集中して避難させることで、避難している人たちの安否確認や現状報告などの緊急情報が従来のように錯綜して混乱が生じることなく、一本化して必要な災害対策部署と正確かつ迅速に連絡をとることができる。
また、災害時避難設備の規模が大きいため、上空などから良く目立ち、緊急の医療処置が必要なけが人や急病人をドクターヘリで被災していない地域の総合病院などに搬送することができる。
また、例えば災害時避難設備の上層階に設備内病院を設けておくことで、けが人や急病人に対して必要な医療処置を迅速に行うことができ、ドクターヘリなどで緊急搬送が必要な重度のけが人や急病人のみに対する救出搬送を優先的に行うことができる。
また、災害が発生していない平時の際には、様々なイベント会場や屋内運動場などとして利用することが可能である。また、予め日程が決められ屋外で行う予定のお祭りなどが悪天候でできなくなっても、災害時避難設備のフロアを利用することで、開催日時などを順延する煩雑なスケジュール調整を行う必要がない。
また、災害が発生していない平時の際には、災害時避難設備の設置された市町村のコミュニティーセンターとしての役目を果たすことができ、その市町村内の住民のつながりを平時から密にし、災害発生時に互いに助け合う意識を高めることができる。
また、本発明に係る災害時避難設備の周囲に第1の壁面と第2の壁面が備わっていることで、災害時避難設備を沿岸部の都市や市町村に設置した場合、大きな津波が到来しても、設備内にいる避難者の安全を確保することができる。また、災害時避難設備を内陸部の都市や市町村に設置した場合、例えば直下型地震に伴う火災が広範囲に及んだりこれに伴う火災旋風が発生したりしても、この炎や煙が設備内に入らないようにし、設備内の避難者の安全を確保することができる。
また、本発明に係る災害時避難設備の第1の壁面と第2の壁面との間に貯水タンク部が設けられていると、平時の際からこの貯水タンク部に水を満たしておくことで、大規模な災害が発生して上水道などのインフラが機能しなくなった場合であっても、この貯水タンク部内の水を利用することで、設備内の避難者の飲料水や食材調理用の水、トイレ用水、シャワー水などの生活用水、設備内病院において用いる水などに利用できる。
また、本発明に係る災害時避難設備の第2の壁面の裏側に断熱材が備わることで、直下型地震の発生等により災害時避難設備の周囲において火災が広範囲に及んだりこれに伴う火災旋風が発生したりしても、この火災や火災旋風によって生じる熱による悪影響が断熱材と貯水タンク部内の水との相乗効果によって設備内の避難者に及ばないようにできる。
また、本発明に係る災害時避難設備の第2の壁面が、第1の壁面に対して災害時避難設備を設置した状態で、上方から見て各壁面の上端縁部が三角形状となるように、平面状からなる前記第1の壁面の幅方向両端部から前記第2の壁面が所定の角度をなしてテーパー状に延在している構造を有することで、沿岸部に設置した災害時避難設備に大地震の発生に伴う津波が到来したり、周辺部の河川の堤防が決壊したりして災害時避難設備がある程度の高さまで水に浸かった場合、瓦礫等が流れてきて災害時避難設備にぶつかっても、瓦礫が水の流れにより再びこの設備から離れるように流れ去っていく。これによって、瓦礫が災害時避難設備に引っかかったままとなって設備の一部に過大な力を及ぼして設備が壊れるのを防止できる。
また、本発明に係る災害時避難設備が第1の壁面と第2の壁面との間の所定位置に、災難避難設備まで供給される公共の上水道をこの設備の最上部及び各フロアに供給するための水道管パイプを有することで、上水道から水道管パイプを介して災害時避難設備の飲料水やトイレを流す水などを確保すると共に、災害時の発生前に貯水タンク部内を水で満たしておくことができる。
また、本発明に係る災害時避難設備が貯水タンク部の下方部分から災害時避難設備の上部にポンプを介して水を吸い上げて供給する貯水タンク用パイプを有することで、災害発生時に避難者が設備内に一時滞在する際に必要となる飲料水や調理用の水、トイレを流す水、シャワー用の水、設備内病院で使用する水などを貯水タンク部内に溜まった水で補うことができる。これによって、水道に関するインフラが機能しなくなった場合であっても、災害時避難設備内に一時滞在する多数の避難者の生活に支障が生じないようにする。
また、本発明に係る災害時避難設備が災害時避難設備内に浸入した水を災害時避難設備の外部にポンプを介して排出する排水パイプを有することで、大地震によって発生した津波や堤防の決壊に伴う河川の氾濫により災害時避難設備がある程度の高さまで水に浸かり、何らかのトラブルにより災害時避難設備の内部に水が浸入した場合であっても、排水パイプを利用してこの浸入した水を災害時避難設備の外部に迅速に排出することができ、被災者の一時滞在生活に支障を及ぼさないようにする。
また、本発明に係る災害時避難設備の外壁部の下側部分には、被災者が災害時避難設備に一度に多人数入ることができる避難者入口部が設けられ、避難者入口部には防水パッキンが内側に付いたドアと、壁面の防水パッキンと対応する位置に設けられた相手側防水パッキンとが重なり合うようにドアを閉めて外部から災害時避難設備内への水の浸入を防止する構造となっているので、大地震によって発生した津波や堤防の決壊に伴う河川の氾濫によりこれらの水が押し寄せる前にドアをしっかりと閉めることで、ドアの防水パッキンによって避難者入口部がドアで密閉され、災害時避難設備のその他の水浸入防止構造と相俟って災害時避難設備が屋上近くまで水に浸かっても、災害時避難設備内の避難者一時滞在エリアや避難者徒歩移動エリアに水が浸入するのを防止する。
また、本発明に係る災害時避難設備の外側にはドアを閉じた状態で被災者が避難者一時滞在エリアまで歩いて行くことができる階段が備わっていることで、避難者の大部分を災害時避難設備内に避難させて津波や河川の氾濫に伴う水の浸入を防止するために避難者入口部のドアをしっかりと閉めた後であっても、その後に遅れて災害時避難設備にたどり着いた避難者がこの階段を利用して災害時避難設備の上層階に直接避難することができる。
また、本発明に係る災害時避難設備に地上から避難者一時滞在エリアまでの避難者の搬送を可能とする昇降装置が備わっていることで、災害時避難設備の避難者徒歩移動エリア内の上層階移動フロアを徒歩で上がっていく体力や自信がない高齢者や妊婦、幼児たちがこの昇降装置を利用して避難者一時滞在エリアの各フロアに一気に避難することができる。
また、本発明に係る災害時避難設備の避難者一時滞在エリアの各フロアには上下に隣接するフロアごとに対向する位置に切り欠き部が設けられると共に、対向する切り欠き部間に取り外し可能に設置できる階段ユニットが備わり、階段ユニットは、直方体状に結合可能な複数本の棒状体と、複数の棒状体を直方体状に結合した状態でその内側に取付け可能な階段状プレートからなり、複数の棒状体と階段状プレートは、それぞればらして保管可能となっていることで、平時の際はこの階段ユニットを分解して避難者一時滞在エリアの各フロアの所定箇所に邪魔にならないように保管しておくと共に、フロアの切り欠き部を鉄板等で覆っておき、災害発生時に階段ユニット組み立て、上下に隣接するフロアの切り欠き部にこの階段ユニットを取り付けることで、避難者一時時滞在エリアの各フロアを行き来できるようにする。
これにより、平時の際は、各フロアをイベントの会場や屋内運動場として有効活用できると共に、災害発生時に各フロア間の人の行き来を行い易くする。特に、昇降装置が何らかのトラブルにより使えなくなった際に、階段ユニットを備えた効果を最大限発揮させる。
続いて、上述した実施形態に係る災害時避難設備の具体的な設置場所とその設置場所ごとの大きさ(寸法関係)について説明する。なお、以下の寸法関係や建物の階数、避難者の収容人数等についてはあくまで一例を示したものに過ぎず、本発明の作用を発揮する範囲内で適宜変更可能である。
最初に、本実施形態に係る災害時避難設備を内陸部の直下型地震が起こり易い活断層に近い都市部や市町村部に設けた場合を説明する。
この場合の災害時避難設備は、例えば各避難フロアの広さの概略寸法が16m×16mで、設備の高さが32m、合計16段相当のフロアから構成されているとする。また、直方体形状の各側面に設けられた2つのテーパー状の壁面を有する貯水タンク部の部分は、避難フロアから最大で2m突出しているとする。なお、実際には、避難者入口部を設けた壁面の部分に非常階段が設置されている関係上、三角スペースの底辺部分に相当する長さがその分短くなるので、この避難者入口部のある壁面に関しては、その先端をその分少し長く突出させるものとする。なお、1階あたり高さは2mと通してあるが、平時のイベント等の開催時の便宜を図るために、これとは異なり、1階あたりの高さを2.5m〜3m程度にしても良い。
そして、設備内部の下層部分に設けた避難者徒歩移動エリアとその上層部分に設けた避難者一時滞在エリアは、上述の通り合計で16段相当のフロアから構成されている。なお、貯水タンク部の周囲を覆う上述したテーパー状の外壁部の内側には断熱材が全体に亘って取り付けられている。
以上のような構成によると、1フロアあたり16m×16m=256m2の面積となる。そして、災害発生時に避難者がフロアに座るのに必要なスペースとして、1m2あたり4名の避難者が椅子に腰掛けたりして一時避難できるとすると、1フロアあたり256m2×4=1024、即ち1024人の避難者を収容できる。そして、この建物の設備が16階のフロアを上下に有しているとすると、1024人×16=16384人、即ち約1.6万人の避難者を一度に収容できる。これにより、例えば地震多発エリアの都市や市町村に居住する多くの人々を収容することができる。なお、ここでいう上層階移動フロアの傾斜具合は16mの距離を歩いて1mの高さだけ上がる程度、即ち1mの距離を歩いて6.25cmの高さだけ上がる程度であるので、避難者が容易に歩いて行けることが分かる。
また、直方体形状を有する災害時避難設備4つの側面に備わる貯水タンク部には、多量の水を貯めることができる。具体的には上述した寸法関係から換算すると、8m×2m=16m2、16m2×32m=512m3、512m3×4=2048m3、2048m3−16m2×2m(避難者入口部によって除かれる容積)=2016m3の水を各壁面の4つの貯水タンク部に合計して貯めておくことができる。
この多量な貯水量及びテーパー状の壁面の裏側に取り付けた断熱材の効果で、周辺の建物やプラント設備等に火災が発生してこれが周辺の広範囲に及んだりこれに起因して火災旋風が発生したりしても、これらの貯水と断熱材の効果により、災害時避難設備内の避難者に直接火災の熱による影響を及ぼすことがなく、これらの避難者の安全を確保することができる。
特に内陸部の直下型地震の場合、都市部や人々の生活する居住地域において、特に近隣にプラントなどの工場や倉庫がある場合、それらの建物が崩壊して大規模な火災となる可能性があるので、本発明のような火災やこれに基づく熱風、煙、火災旋風等から避難民の安全や健康を守る非常に効果がある。
次いで、本実施形態に係る災害時避難設備を沿岸部に設置する場合について説明する。南海トラフ地震が起こった場合、30mを超える高さの津波が到来すると予想されている。そのため、この沿岸部に設置する災害時避難設備は、内陸部に設置する災害時避難設備よりも規模が大きく、全体的に大きな避難設備となっている。具体的には、災害時避難設備が、例えば各避難フロアの広さの概略寸法が25m×25mで、設備の高さが50m、合計25段相当のフロアから構成されているとする。また、直方体形状の各側面に設けられた2つのテーパー状の壁面を有する貯水タンク部の部分は、避難フロアから最大で3m突出しているとする。なお、実際には、避難者入口部を設けた壁面の部分に非常階段が設置されている関係上、三角スペースの底辺部分に相当する長さがその分短くなるので、この避難者入口部のある壁面に関しては、その先端をその分少し長く突出させるものとする。
なお、この場合の災害時避難設備においても、内陸部に設置する災害時避難設備と同様に外壁部の内側に貯水タンク部を備えていることが、津波が到来せずに、周辺の火災のみが発生した時に効果を生じさせる。この場合、テーパー状の外壁部の内側に断熱材が全体に亘って取付けられているのが良い。
以上のような構成によると、1フロアあたり25m×25m=625m2の面積となる。そして、災害発生時に避難者がフロアに座るのに必要なスペースとして、1m2あたり4名の避難者が椅子に腰掛けたり座ったりして一時避難できるとすると、1フロアあたり625m2×4=2500人、フロア数は25フロアあるので、2500×25=62500、即ち約6万2千人の避難者を一度に収容できる。なお、ここでいう上層階移動フロアの傾斜具合は25mの距離を歩いて1mの高さだけ上がる程度、即ち1mの距離を歩いて4cmの高さだけ上がる程度であるので、避難者が容易に歩いて行けることが分かる。
直方体形状を有する災害時避難設備4つの側面に備わる貯水タンク部には、多量の水を貯めることができる。具体的には上述した寸法関係から換算すると、12.5m×3m=37.5m2、37.5m2×50m=1875m3、1875m3×4=7500m3、7500m3−37.5m2×2m(避難者入口部によって除かれる容積)=7425m3の水を各壁面の4つの貯水タンク部に合計して貯めておくことができる。
この多量な貯水量及びテーパー状の壁面の裏側に取り付けた断熱材の効果で周辺の建物やプラント設備等に火災が発生してこの火災が広範囲に及んだりこれに伴う火災旋風が発生したりしても、これらの貯水と断熱材の効果により、災害時避難設備内に避難している直接火災の熱による影響を及ぼすことがなく、これらの避難者の安全を確保することができる。
また、前述した30mクラスの巨大津波が到達したり、津波の到来により近くの堤防が決壊して近くの河川が氾濫したりして、災害時避難設備の下側部が水に浸かっても、設備内の避難者を守ることができる。
また、災害時避難設備がテーパー状の外壁部を有することで、上述した場合において災害時避難設備の下側部が水に浸かって瓦礫等が流れてきても、災害時避難設備にこの瓦礫が引っかかったままとならず流れ去って離れていくので、瓦礫による災害時避難設備の破損を防止し、設備内の人々の安全を守ることができる。
なお、以上説明した災害時避難設備の構成要素の寸法、形状、材質、個数は、上述した記載に限定されるものではなく、各自治体の人口や危険地域の状況に応じて各自治体が発行するハザードマップなどに基づき適宜変更可能である。
また、例えば例えば各避難フロアの広さの概略寸法が10m×10mで、設備の高さが20m、合計10段相当のフロアから構成されている小型の災害時避難設備を各都市や市町村の広範囲に亘って複数箇所設置しても良い。なお、ここでいう上層階移動フロアの傾斜具合は10mの距離を歩いて1mの高さだけ上がる程度、即ち1mの距離を歩いて10cmの高さだけ上がる程度であるので、避難者が容易に歩いて行けることが分かる。
これによって、近隣住民が最も近い災害時避難設備に避難することができ、高齢者や妊婦、子供にとっても身体的負担を掛けずに済み避難し易い。また、この程度の大きさの災害時避難設備であれば、各都市や市町村の各所に点在する私有地や遊休地を有効活用することができる。