本発明の実施形態に係る光学特性測定システム、光学特性計測方法及び光学系について添付図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
(構成および機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係る光学特性測定システムの構成図である。
光学特性測定システム1は、被検物体Oからベクトル波として生じる信号光の複素振幅分布を求めることによって、被検物体Oの光学的な評価情報を取得するシステムである。そのために、光学特性測定システム1は、光学系2、光学特性算出部3及び表示装置4を有する。
光学系2は、位相が互いに異なる複数の変調量で変調された参照光としての複数の参照ベクトル波を、被検物体Oからの透過光又は反射光としての被検ベクトル波と、対応する偏光成分ごとにそれぞれ合成することによって複数の変調量及び異なる偏光方位に対応する複数の偏光の強度を取得するように構成されている。
複数の参照ベクトル波は、互いに直交する偏光方位を有する第1の複数の偏光成分をそれぞれ含むベクトル波である。また、被検ベクトル波は、互いに直交する偏光方位を有する第2の複数の偏光成分を含むベクトル波である。
また、光学系2は、ベクトル波を互いに異なる複数のタイミングにおいて複数の変調量で時間的に変調することによって複数の参照ベクトル波を順次生成するように構成されている。加えて、光学系2は、第1の複数の偏光成分間において互いに異なる変調量で第1の複数の偏光成分を変調することによって複数の参照ベクトル波を生成するように構成されている。
更に、光学系2は、複数の変調量及び各偏光方位に対応する複数の偏光を、偏光方位間で合成された状態で検出するよう構成されている。つまり、光学系2では、被検ベクトル波と参照ベクトル波を合成した合成ベクトル波の強度が取得される。
図1は、上述したような機能が得られるように光学素子を配置した光学系2の一例を示している。具体的には、光学系2は、ベクトル波生成系5、被検ベクトル波変調系6、参照ベクトル波変調系7、合波検出系8及び試料ステージ9を有している。
尚、図1に示す例では、被検物体Oに互いに直交する2成分を有するベクトル波としての偏光を入射させ、被検物体Oを透過した透過光としての信号光が被検ベクトル波とされる。被検物体Oを反射した反射光としての信号光を被検ベクトル波とする場合には、被検物体Oからの反射光を参照ベクトル波とともに入射できる位置に合波検出系8を配置すればよい。
ベクトル波生成系5は、被検ベクトル波を得るために情報を記録して被検物体Oに入射させるベクトル波及び位相変調前における参照ベクトル波を生成するためのシステムである。ベクトル波生成系5は、例えば、レーザ光源5A、第1の1/2波長板(HWP: half-wave plate)5B、ビームエクスパンダ(BE: beam expander)5C、第1の偏光ビームスプリッタ(PBS: polarizing beam splitter)5D、第2のHWP5E及びミラー5Fを図示されたように配置することによって構成することができる。BE5Cは、対物レンズ5G、空間フィルタ(SF: spatial filter)5H及びコリメータレンズ5Iを光路Lに沿って直列に配置することによって構成することができる。
被検ベクトル波変調系6は、被検物体Oに入射させるベクトル波の直交する2成分にそれぞれ2次元(2D: two dimensional)情報を空間変調によって記録するシステムである。被検ベクトル波変調系6は、空間光変調器(SLM: spatial light modulator)等の任意の光学素子を用い構成することができる。
図2は、図1に示す被検ベクトル波変調系6の構成例を示す図である。
図2に示すように、被検ベクトル波変調系6は、光路Lに沿って第3のHWP6A、第1のSLM(SLM1)6B、第4のHWP6C及び第2のSLM(SLM2)6Dを直列配置して構成することができる。そして、第1のSLM(SLM1)6Bによりベクトル波の一方の成分に2D情報を記録し、第2のSLM(SLM2)6Dによりベクトル波の他方の成分に2D情報を記録することができる。
被検ベクトル波変調系6において情報が記録されたベクトル波は、試料ステージ9に設置された被検物体Oに向けて照射される。尚、図1は、ベクトル波の平行ビームが被検物体Oに向けて照射される例を示しているが、ベクトル波を絞って被検物体Oに向けてスポット照射するようにしてもよい。
図3は、図1に示す被検物体Oにベクトル波をスポット照射する場合の例を示す図である。
図3に示すように2種類のサイズを有する4つのリレーレンズ9A、9B及び2つの対物レンズ10を、被検物体Oを挟んで対称となるように対向配置することによって被検物体Oにベクトル波をスポット照射することができる。一方、被検物体Oを透過した被検ベクトル波を平行ビームにすることができる。このようなスポット照射によって被検物体Oを、情報記録ディスク等の円盤状の回転体とすることができる。
試料ステージ9に設置される被検物体Oとしては、偏光ホログラフィック記録方式による情報記録媒体の候補となる偏光感受性を有する物質で構成される物体が典型的である。但し、情報記録媒体の候補に限らず、動く生体細胞や液晶パネル等の複屈折分布が時間的に変化する任意の物体を被検物体Oとして試料ステージ9に設置することができる。
参照ベクトル波変調系7は、ベクトル波生成系5において生成されたベクトル波を構成する複数の偏光成分の各位相を、時間的に互いに異なる複数の変調量で偏光成分ごとに変調する光学系である。換言すれば、参照ベクトル波変調系7は、ベクトル波生成系5において生成された参照ベクトル波の位相変調を、時間的に位相変調量を変えながら行うことによって、位相変調量が異なる複数の参照ベクトル波を順次生成する光学系である。
参照ベクトル波変調系7は、例えば図1に示すように、第2のPBS7A、第1の1/4波長板(QWP: quarter-wave plate)7B、第1の圧電変換器(PZT: piezoelectric transducer) (PZT1)7C、第2のQWP7D及び第2の圧電変換器(PZT2)7Eを配置することによって構成することができる。
圧電変換器としては、例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT: lead zirconate titanate)からなるピエゾ素子を用いて反射面が入力信号に応じて微動するように構成されたピエゾミラーを用いることができる。この場合、ピエゾミラーに制御信号として所定の時間変化を伴う電圧を印加することによって、ピエゾミラーで反射する偏光の光路長を時間的に変化させることができる。尚、ピエゾミラーの代わりに、電動ステージに設置したミラーを用いることもできる。
従って、第1の圧電変換器(PZT1)7Cと第2の圧電変換器(PZT2)7Eに互いに異なる電圧を印加することによって、参照ベクトル波を偏光成分ごとに互いに異なる変調量で位相変調することができる。また、第1の圧電変換器(PZT1)7Cに印加する電圧を時間的に変化させることによって、第1の圧電変換器(PZT1)7Cで反射する参照ベクトル波の一方の偏光成分を、時間的に異なる変調量で位相変調することができる。同様に、第2の圧電変換器(PZT2)7Eで反射する参照ベクトル波の他方の偏光成分を、時間的に異なる変調量で位相変調することができる。つまり、時間的に変調量が異なり、かつ偏光成分間でも変調量が異なる複数の参照ベクトル波を順次生成することができる。
合波検出系8は、被検物体Oを透過して生じた被検ベクトル波と参照ベクトル波変調系7において位相変調された参照ベクトル波とを合成して検出するシステムである。すなわち、被検ベクトル波と参照ベクトル波とを合成して得られる合成ベクトル波の強度が合波検出系8において測定される。合波検出系8は、例えば図1に示すように、ビームスプリッタ(BS: beam splitter)8A及び撮像素子8Bで構成することができる。図示された例では、撮像素子8Bとして相補型金属酸化膜半導体(CMOS: complementary metal oxide semiconductor)センサが用いられている。合波検出系8において取得された合成ベクトル波の強度は、光学特性算出部3に出力される。
光学特性算出部3はプログラムを読み込ませたコンピュータや回路によって構成することができる。光学特性算出部3は、光学系2において取得された、複数の変調量及び異なる偏光方位に対応する複数の偏光の強度に基づいて、少なくとも観測位置における被検ベクトル波の複数の偏光成分の各振幅、すなわち複素振幅を求める機能を有する。光学特性算出部3では、被検ベクトル波の観測位置における複素振幅分布の他、複素振幅分布に基づく様々な被検物体Oの光学的な物性に応じた情報を求めることができる。
例えば、光学特性算出部3では、観測位置における被検ベクトル波の複素振幅に基づく演算によって、複数の観測位置における被検ベクトル波の空間的な複素振幅を求めることができる。更に、被検ベクトル波の空間的な複素振幅と、被検物体Oに入射させたベクトル波の複素振幅の変化量を、被検物体Oの評価情報として取得することができる。つまり、光学特性算出部3では、ディジタルホログラフィにより、観測位置における被検ベクトル波の複素振幅から様々な情報を計算によって求めることが可能である。
ここで、被検ベクトル波の複素振幅分布の計算方法の一例について説明する。被検ベクトル波の複素振幅分布は、異なる位相変調量で位相変調された複数の参照ベクトル波と被検ベクトル波の合成ベクトル波の複素振幅の測定値に基づいて解析的に計算することができる。
スカラー波は、変位がスカラー量で表される波であるのに対して、ベクトル波は、変位がベクトル量で表される波である。スカラー波及びベクトル波はいずれも、複数の方向に進行する平面波の重ね合わせとして表現することができる。但し、ベクトル波の場合、式(1-1)、式(1-2)及び式(1-3)に示すように、互いに直交するx軸、y軸及びz軸方向の平面波の各成分U
x(x, y; z), U
y(x, y; z), U
z(x, y; z)の重ね合わせとして表現することができる。
但し、式(1-1)、式(1-2)及び式(1-3)において、A
x(k
x, k
y), A
y(k
x, k
y), A
z(k
x, k
y)は、それぞれ平面波U
x, U
y, U
zの振幅を、φ
x(k
x, k
y), φ
y(k
x, k
y), φ
z(k
x, k
y)は、それぞれ平面波U
x, U
y, U
zの位相を、k
x, k
y, k
zは、それぞれ波動ベクトルのx, y, z成分を示す。尚、平面波U
x, U
y, U
zの振幅A
x, A
y, A
zは、式(2-1)を満たす。また、波動ベクトルのz成分は、式(2-2)を満たす。但し、式(2-2)においてλは波長を示す。
従って、x軸方向及びy軸方向を、観測面内を通る直交する2つのベクトル成分の方向とし、z軸方向を観測面に垂直な方向とした場合の被検ベクトル波の観測位置z
0における複素振幅ベクトルU
S(x, y, z
0)は、式(3)に示すようにx軸及びy軸方向に進行する平面波の観測位置z
0における強度U
x(x, y; z
0), U
y(x, y; z
0)を成分として表すことができる。
一方、異なる変調量で位相変調された各参照ベクトル波の観測位置z
0における複素振幅ベクトルU
R,n(x, y, z
0)は、式(4)に示すようにx軸方向及びy軸方向の各成分を用いて表すことができる。
但し、式(4)においてU
R,x(x, y; z
0), U
R,y(x, y; z
0)は既知の係数、Nは変調量の変更回数に相当する観測データ数、nは0からN-1までの整数、m
x, m
yはそれぞれ式(5-1)及び式(5-2)に示すナイキスト条件を満たし、かつ任意に決定された互いに異なる自然数である。
式(5)及び式(6)を満たすために必要な観測データ数Nは、N≧5となる。また、mx, myは任意の自然数とすることができる。mx, myを大きな値に設定する程、被検ベクトル波の複素振幅分布の計算精度の向上に繋がる。逆に、mx, myを小さな値に設定する程、計算量の低減に繋がる。計算精度及びデータ処理量を考慮すると、N回の観測データの取得中において被検物体Oの位置と物性値が一定であると見なせ、かつ、十分に除振された環境下では、(mx, my)=(1, 2)又は(mx, my)=(2, 1)に設定することが現実的である。
そして、nの値を0からN-1まで変化させることにより、位相変調量を時間的に変化させることができる。また、mx, myの値を異なる値とすることにより、参照ベクトル波の偏光成分を互いに異なる変調量で位相変調することができる。
但し、位相変調量は、式(4)が満たされるようにnの値の変化とともにステップ状に特定の値に決定される。そこで、光学特性算出部3は、式(4)で示す変調量で被検ベクトル波が順次位相変調されるように、撮像素子8B、第1の圧電変換器(PZT1)7C及び第2の圧電変換器(PZT2)7Eを制御する機能を備えている。
すなわち、光学特性算出部3は、撮像素子8Bによる撮像タイミングと同期して、第1の圧電変換器(PZT1)7C及び第2の圧電変換器(PZT2)7Eにそれぞれ式(4)に示す各位相変調量に対応する電圧をステップ状に変化させながら順次印加するように構成される。撮像素子8Bによる撮像及び位相変調量の変化は、間欠的に行ってもよいし、連続的に行ってもよい。
参照ベクトル波の位相変調量を連続的に変化させる場合には、第1の圧電変換器(PZT1)7C及び第2の圧電変換器(PZT2)7Eを撮影間隔に応じた所定の速度で移動させることになる。具体的には、撮像素子8Bにおける撮像間隔をΔt、第1の圧電変換器(PZT1)7C及び第2の圧電変換器(PZT2)7Eに入射する偏光成分の波長をλとすると、第1の圧電変換器(PZT1)7C及び第2の圧電変換器(PZT2)7Eの移動速度V1, V2は、それぞれ、V1=mxλ/(2NΔt), V2=myλ/(2NΔt)とすればよいことになる。
式(3)及び式(4)のように被検ベクトル波及び参照ベクトル波を表すと、被検ベクトル波と、nの値に対応する変調量で変調された参照ベクトル波とを重ね合わせた合成ベクトル波の強度I
n(x, y)は、式(6)で表される。
そうすると、式(6)は、N個の式となるため、未知数を計算することが可能となる。つまり、参照ベクトル波の位相を偏光成分ごとにシフトさせて合成撮像することにより、被検ベクトル波の観測位置z0における複素振幅US(x, y, z0)を求めることが可能となる。被検ベクトル波の観測位置z0における複素振幅US(x, y, z0)の具体的な計算方法としては、様々な計算方法が考えられる。
一例として、離散的フーリエ変換(DFT: discrete Fourier transform)を伴う計算によれば、観測位置z
0における被検ベクトル波の各成分の強度U
x(x, y; z
0), U
y(x, y; z
0)は、それぞれ式(7-1)及び式(7-2)により算出することができる。
但し、式(7-1)及び式(7-2)において記号*は、複素共役を示す。
このため、式(7-1)及び式(7-2)に例示される計算式によって、被検ベクトル波の観測位置z0における複素振幅US(x, y, z0)を求めることができる。被検ベクトル波の観測位置z0における複素振幅US(x, y, z0)が得られると、計算機上の計算によって被検ベクトル波の任意の観測位置zにおける複素振幅US(x, y, z)を求めることが可能となる。
具体的には、観測位置z
0における被検ベクトル波の各成分の複素振幅U
x(x, y; z
0), U
y(x, y; z
0)を2次元空間的にフーリエ変換(FT: Fourier transform)することによって、平面波に展開することができる。FTの結果は、式(8-1)及び式(8-2)となる。
式(8-1)及び式(8-2)により、被検ベクトル波を平面波に展開したときの各平面波の振幅Ax, Ay及び位相φx, φyを計算することができる。この結果、任意の観測位置zにおける被検ベクトル波の各成分の強度Ux(x, y; z), Uy(x, y; z)を求めることができる。
このように、光学特性算出部3において求められた被検物体Oの光学特性を示す情報及び光学系2の撮像素子8Bにおいて撮像された画像データは表示装置4に表示させることができる。
(動作および作用)
次に光学特性測定システム1の動作および作用について説明する。
図4は、図1に示す光学特性測定システム1により被検物体Oを透過した被検ベクトル波の複素振幅及び被検物体Oの光学的な評価情報を取得するための流れを示すフローチャートである。
まずステップS1において、時間的に異なる変調量で順次位相変調された複数の参照ベクトル波と被検物体Oからの被検ベクトル波とを重ね合わせた合成ベクトル波の強度分布が光学系2において順次検出される。
具体的には、レーザ光源5Aから波長405nmの半導体レーザ等のレーザ光が照射され、第1のHWP5Bにより45度直線偏光が生成される。生成された45度直線偏光は、BE5Cにより平行ビームに拡大される。平行ビームとなった45度直線偏光は、第1のPBS5Dに入射して互いに直交する2つの直線偏光に分離される。
第1のPBS5Dを直進した直線偏光は、電界成分の振動方向が入射面に平行なp(parallel)偏光となって第2のHWP5Eに入射する。そして、第2のHWP5Eにおいて偏光方位が45度となった直線偏光が位相変調前の参照ベクトル波としてベクトル波生成系5から出力される。
一方、第1のPBS5Dで反射した直線偏光は、電界成分の振動方向が入射面に垂直なs(senkrecht)偏光となってミラー5Fに反射する。そして、ミラー5Fに反射したs偏光は、情報の記録用のベクトル波としてベクトル波生成系5から出力される。
ベクトル波生成系5から出力されたs偏光は、被検ベクトル波変調系6に入射する。被検ベクトル波変調系6に入射したs偏光は、第3のHWP6Aにおいて45度直線偏光となって反射型の第1のSLM(SLM1)6Bに入射する。
第1のSLM(SLM1)6Bでは、45度直線偏光のp偏光成分が第1の2D入力データに対応するパターンで空間的に位相変調される。これにより、入力パターンに従って45度直線偏光のp偏光成分の位相が画素ごとに変調される。すなわち、45度直線偏光のp偏光成分に第1の2D入力データが空間的な2D位相変調分布として記録される。
尚、2D入力データは、2次元的に異なる画素分布を有する2D画像データに限らず、音声、テキストデータ或いは画像データ等の任意の情報を2D画像データとして事前にコード化したデータであってもよい。
次に、第1の2D入力データがp偏光成分に記録された45度直線偏光は、第1のSLM(SLM1)6Bからの反射光として第4のHWP6Cに入射する。これにより、45度直線偏光の偏光方位が90 度回転し、第1の2D入力データが記録されたp偏光成分は、s偏光成分となる。すなわち、s偏光成分に第1の2D入力データが空間的な位相変調として記録され、p偏光成分は位相変調されていない45度直線偏光が第4のHWP6Cにおいて生成される。
次に、第4のHWP6Cを透過した45度直線偏光は、反射型の第2のSLM(SLM2)6Dに入射する。第2のSLM(SLM2)6Dでは、45度直線偏光の位相変調されていないp偏光成分が第2の2D入力データに対応するパターンで空間的に位相変調される。これにより、入力パターンに従って45度直線偏光のp偏光成分の偏光方位が画素ごとに回転する。すなわち、45度直線偏光のp偏光成分に第2の2D入力データが空間的な2D位相変調分布として記録される。
この結果、第2のSLM(SLM2)6Dで反射した45度直線偏光は、s偏光成分に第1の2D入力データが記録され、p偏光成分に第2の2D入力データが記録されたベクトル波となる。このように、偏光ホログラフィック記録方式では、ベクトル波の偏光方位ごとに独立かつ並列に情報を記録することができる。
尚、第1のSLM(SLM1)6Bと、第2のSLM(SLM2)6Dとの間に2つのリレーレンズを配置し、第1のSLM(SLM1)6B上における位相パターンを第2のSLM(SLM2)6D上で結像させるようにしてもよい。
そして、第2のSLM(SLM2)6Dにおいて45度直線偏光として生成されたベクトル波は、被検物体Oに照射される。この結果、偏光感受性を有する被検物体Oにおいて光学的に異方的な構造変化が生じ、被検物体Oには、ベクトル波の偏光状態に応じた複屈折が誘起される。これにより、被検物体Oに入射したベクトル波に位相変調パターンとして記録された第1及び第2の2D入力データが偏光ホログラムとして被検物体O内に記録される。
従って、被検物体Oを透過したベクトル波は、被検物体Oに形成された複屈折分布に応じた偏光状態を有する信号光となる。そして、被検物体Oを透過した信号光は、被検ベクトル波として合波検出系8に出力される。
一方、ベクトル波生成系5から出力された45度直線偏光の参照ベクトル波は、参照ベクトル波変調系7に入射する。参照ベクトル波変調系7では、45度直線偏光となった参照ベクトル波が、第2のPBS7Aによってs偏光成分及びp偏光成分に分離される。第2のPBS7Aで反射したs偏光成分は、第1のQWP7Bを経由し、円偏光となって第1の圧電変換器(PZT1)7Cに入射する。一方、第2のPBS7Aを透過したp偏光成分は、第2のQWP7Dを経由し、円偏光となって第2の圧電変換器(PZT2)7Eに入射する。
このとき、s偏光成分及びp偏光成分に対応する各円偏光が、それぞれ式(4)のnに0等の初期値を代入した変調量で位相変調されるように光学特性算出部3から第1の圧電変換器(PZT1)7C及び第2の圧電変換器(PZT2)7Eに電圧が印加される。
このため、第1の圧電変換器(PZT1)7Cでは、s偏光成分に対応する円偏光の位相変調が行われる。同様に、第2の圧電変換器(PZT2)7Eでは、p偏光成分に対応する円偏光の位相変調が行われる。但し、式(4)におけるmx及びmyは互いに異なる自然数に設定されるため、s偏光成分に対応する円偏光の位相変調量と、p偏光成分に対応する円偏光の位相変調量は、互いに異なる変調量となる。すなわち、参照ベクトル波変調系7では、s偏光成分及びp偏光成分が互いに異なる変調量で位相変調される。
第1の圧電変換器(PZT1)7Cで反射した位相変調後の円偏光は、再び第1のQWP7Bを経由し、位相変調されたp偏光となって第2のPBS7Aを透過する。同様に、第2の圧電変換器(PZT2)7Eで反射した位相変調後の円偏光は、再び第2のQWP7Dを経由し、位相変調されたs偏光となって第2のPBS7Aで反射する。この結果、第2のPBS7Aを透過したp偏光成分と、第2のPBS7Aで反射したs偏光成分とを含む位相変調後の参照ベクトル波が、参照ベクトル波変調系7から合波検出系8に出力される。
このため、参照ベクトル波変調系7から合波検出系8のBS8Aに入射した位相変調後の参照ベクトル波は、被検ベクトル波変調系6から合波検出系8のBS8Aに入射した被検ベクトル波と合成されて撮像素子8Bに入射する。そして、位相変調後の参照ベクトル波と被検ベクトル波との合成ベクトル波が撮像素子8BであるCMOSカメラによってディジタルホログラムとして撮像される。
このような合成ベクトル波の撮像は、第1の圧電変換器(PZT1)7C及び第2の圧電変換器(PZT2)7Eを制御することによって、参照ベクトル波の2つの直交成分の各位相変調量をそれぞれ変えながら順次動的に行われる。すなわち、式(4)に示すnの値が0からN-1の範囲で順次変わるように、第1の圧電変換器(PZT1)7C及び第2の圧電変換器(PZT2)7Eの位置が順次可変制御される。
この結果、互いに異なる位相変調量に対応する複数フレームのディジタルホログラムが撮像素子8Bにおいて順次取得される。撮像素子8Bにおいて取得された合成ベクトル波のディジタルホログラムは、光学特性算出部3に出力される。
次に、ステップS2において、光学特性算出部3により、観測位置における被検ベクトル波の複素振幅が計算される。複素振幅は、合成ベクトル波のディジタルホログラムに基づく時間的なFT等の任意の演算によるデータ処理によって計算することができる。例えば、式(7-1)及び式(7-2)により観測位置における被検ベクトル波の複素振幅を計算することができる。
次に、ステップS3において、光学特性算出部3により、観測位置における被検ベクトル波の複素振幅の空間的なFTが実行される。これにより、被検ベクトル波が平面波に展開される。そして、任意の観測位置における空間的な被検ベクトル波の複素振幅が求められる。
次に、ステップS4において、光学特性算出部3により、被検ベクトル波の空間的な複素振幅と、被検物体Oに入射させたベクトル波の複素振幅の変化量が被検物体Oの評価情報として取得される。これにより、ユーザは、被検物体Oにおいて構造的な変化として形成される複屈折分布を見積もることができる。
以上のような、光学特性測定システム1は、被検物体Oからの信号光としての被検ベクトル波に位相変調された参照ベクトル波を重ね合わせて得られる干渉縞に基づいて、ディジタルホログラフィにより被検ベクトル波の2つの直交偏光成分である複素振幅分布を取得するようにしたものである。
(効果)
このため、光学特性測定システム1によれば、偏光ホログラフィック記録方式により記録媒体に情報が記録される過程を把握することができる。すなわち、記録媒体の光学的に異方的な構造の変化として複屈折分布の形成過程を見積もることができる。このため、記録媒体の応答の評価を行うことが可能となる。
また、記録媒体の応答に限らず、光学的に異方的に構造が変化する被検物体Oを評価することも可能となる。具体例として、動く生体細胞や液晶パネルなど、複屈折分布が時間的に変化する被検物体Oを観察することが可能となる。
また、光学特性測定システム1によれば、単一の撮像素子8Bを用いて被検ベクトル波の2つの成分の振幅を同時かつ独立に取得することができる。従って、2つの成分に対応する振幅間において取得時間のずれがなく、より正確な複屈折分布の経時変化を求めることが可能である。
(第1の実施形態の変形例)
図1に示す例に限らず、光学系2は様々な光学素子の組合せで構成することができる。
図5は、光学特性測定システム1の光学系2を一般化して表したブロック図である。
図5に示すように、光学特性測定システム1の光学系2は、レーザ光源21、レンズ、ミラー及び波長板等の光学素子で構成される光学系22、分波器23、照明ベクトル波変調系24、参照ベクトル波変調系25及び合波検出系26を適切に配置することによって構成することができる。
具体的には、レーザ光源21から出射されたレーザ光が光学系22に入射し、光学系22において2つの偏光成分を有するベクトル波が生成される。ベクトル波は、分波器23で分波され、一方は参照ベクトル波として必要な光学系22を経由して参照ベクトル波変調系25に出力される。他方は、被検物体Oを照明する照明ベクトル波として別の光学系22を経由して照明ベクトル波変調系24に出力される。
参照ベクトル波は、参照ベクトル波変調系25において位相変調された後、必要な光学系22を経由して合波検出系26に出力される。一方、照明ベクトル波は、照明ベクトル波変調系24において位相変調された後、必要な光学系22を経由して被検物体Oに照射される。被検物体Oを透過した照明ベクトル波は、位相変調された被検ベクトル波として必要な光学系22を経由して合波検出系26に出力される。これにより、合波検出系26では、位相変調された参照ベクトル波と位相変調された被検ベクトル波とを合成して検出することができる。
参照ベクトル波は、被検物体Oへの透過前のベクトル波に限らず、被検物体Oへの透過後のベクトル波を用いて生成することもできる。
図6は、被検物体Oへの透過後のベクトル波を用いて参照ベクトル波を生成する場合における光学系2の構成を一般化して表したブロック図である。
被検物体Oへの透過後のベクトル波を用いて参照ベクトル波を生成する場合には、レーザ光源21から出射されたレーザ光が光学系22に入射し、光学系22において2つの偏光成分を有する照明ベクトル波が生成される。照明ベクトル波は、照明ベクトル波変調系24において位相変調された後、必要な光学系22を経由して被検物体Oに照射される。
被検物体Oを透過した照明ベクトル波は、位相変調された被検ベクトル波として必要な光学系22を経由して分波器23に入射する。分波器23で分波された一方のベクトル波は、位相変調された被検ベクトル波として必要な光学系22を経由して合波検出系26に出力される。
分波器23で分波され他方のベクトル波は、参照ベクトル波として必要な光学系22を経由して参照ベクトル波変調系25に出力される。そして、参照ベクトル波は、参照ベクトル波変調系25において位相変調された後、必要な光学系22を経由して合波検出系26に出力される。
これにより、合波検出系26では、位相変調された参照ベクトル波と位相変調された被検ベクトル波とを合成して検出することができる。この場合においても、照明ベクトル波の複素振幅が既知であるという条件と、参照ベクトル波が被検ベクトル波を既知の変調量で位相変調したベクトル波であるという条件とから、合成ベクトル波の複素振幅の検出結果に基づいて、被検ベクトル波の複素振幅を計算することができる。
また、図5及び図6に例示される参照ベクトル波変調系25や合波検出系26等の構成要素についても、必要な機能が得られれば任意の光学素子によって構成することができる。例えば、参照ベクトル波変調系25であれば、ベクトル波を構成する複数の偏光成分の各位相を、時間的に互いに異なる複数の変調量で偏光成分ごとに変調することが可能な任意の光学系で構成することができる。
図7は、参照ベクトル波変調系25を複数の可変リターダを用いて構成した例を示す図である。
図7に示すように、可変リターダの一例としての2つの電気光学(EO: electro-optic)素子30A,30Bを直列に配置することによって参照ベクトル波変調系25を構成することができる。具体的には2つのEO素子30A,30Bを参照ベクトル波の光路Lを軸として互いに90度回転させて配置することによって参照ベクトル波のp偏光成分とs偏光成分を独立に位相変調することができる。
一般に1つのEO素子は、印加電圧に比例してp偏光成分とs偏光成分の位相を変調するが、その比例定数はそれぞれ異なる。従って、光路Lを軸として互いに90度回転させて2つのEO素子30A,30Bを配置すれば、印加電圧を調整することによって、p偏光成分とs偏光成分の位相をそれぞれ独立に変調することができる。
尚、図7では、2つのEO素子30A,30Bを用いる例を示しているが、位相変調量の幅を増やすためにさらに複数のEO素子を追加することもできる。また、絶対位相を調整するため、位相板やミラー等の光学素子を用いて光学距離を変えるようにしても良い。
そして、光学特性算出部3からの制御によって各EO素子30A,30Bの変調量を時間的に変化させることができる。例えば、式(4)で示す変調量で参照ベクトル波のs偏光成分及びp偏光成分の各位相が変調されるように、各EO素子30A,30Bにおける変調量を光学特性算出部3からの制御信号によって制御することができる。
尚、図7には、可変リターダの一例としてEO素子を用いる場合を例示したが、液晶可変リターダや光弾性変調器等の可変リターダを用いても同様に参照ベクトル波変調系25を構成することができる。
別の例として、参照ベクトル波変調系25は、複数の位相変調素子又は複数の周波数変調子を用いて構成することもできる。尚、図1に示す例は、複数の位相変調素子として第1の圧電変換器(PZT1)7C及び第2の圧電変換器(PZT2)7Eを用いて参照ベクトル波変調系25を構成した例に相当する。従って、圧電変換器以外の位相変調素子を用いても同様に参照ベクトル波変調系25を構成することができる。
図8は、複数の周波数変調子を用いて参照ベクトル波変調系25を構成した例を示す図である。
図8に示すように、周波数変調子の一例としての2つの音響光学(AO: acousto-optic)素子40A,40Bを用いて参照ベクトル波変調系25を構成することができる。具体的には、参照ベクトル波が第1のPBS41Aにより直進するp偏光成分と、反射するs偏光成分とに分波される。p偏光成分の光路L上には、第1のAO素子40Aが配置される。一方、s偏光成分は、第1のミラー42Aで反射し、第2のAO素子40Bに入射する。
そして、参照ベクトル波のp偏光成分を周波数変調するための第1のAO素子40Aと、参照ベクトル波のs偏光成分を周波数変調するための第2のAO素子40Bとを用いて、それぞれ偏光成分ごとに互いに異なる変調量で周波数変調することができる。周波数変調されたp偏光成分と第2のミラー42Bで反射した位相変調後のs偏光成分は、第2のPBS41Bにより合成される。
これにより、異なる変調量での位相変調と等価な変調を参照ベクトル波のs偏光成分及びp偏光成分に施すことができる。図8に例示されるように、参照ベクトル波変調系25では、位相を変調する代わりに位相変調と等価的に、異なる変調量で周波数変調を行うようにすることもできる。
このように、参照ベクトル波変調系25は、ベクトル波を構成する複数の偏光成分の各位相及び各周波数の少なくとも一方を、時間的に互いに異なる複数の変調量で偏光成分ごとに独立に変調する光学系で構成することができる。これにより、直交する2つの偏光成分の時間波形が、互いに直交する関数となる。
また、具体的な光学素子としては、参照ベクトル波の複数の偏光成分にそれぞれ対応する複数の可変リターダ、複数の位相変調素子又は複数の周波数変調子を用いて参照ベクトル波の複数の偏光成分をそれぞれ複数の変調量で変調する光学系によって参照ベクトル波変調系25を構成することができる。
一方、合波検出系26についても、図1に示す合波検出系8の構成例に限らず、他の光学素子で構成することができる。例えば、図1に示す合波検出系8において、BS8Aの代わりに、分波グレーティングや光ファイバカプラ等の分波器を用いてもよい。また、複数の変調量及び異なる偏光方位に対応する複数の偏光の強度を、異なる偏光方位ごとに分離された状態で検出するように合波検出系26を構成することもできる。
図9は、合成ベクトル波の偏光成分を分離された状態でそれぞれ検出するように構成した合波検出系26の例を示す図である。
図9に示すように、参照ベクトル波UR,nと被検ベクトル波USとをBS50に異なる方向から入射させることによって、p偏光成分同士及びs偏光成分同士を参照ベクトル波UR,nと被検ベクトル波USとの間で合成することができる。BS50において分波された一方の合成ベクトル波は、第1の検光子51Aに入射する。そして、第1の検光子51Aを透過したp偏光成分が第1の光検出器(PD: photo detector)52Aで検出される。同様に、BS50において分波された他方の合成ベクトル波は、第2の検光子51Bに入射する。そして、第2の検光子51Bを透過したs偏光成分が第2のPD52Bで検出される。
尚、PDとしては、フォトダイオード、電荷結合素子(CCD: Charge Coupled Device)センサ又はCMOSセンサを用いることができる。また、BS50の代わりに分波グレーティングや光ファイバカプラ等分波器を用いてもよい。
図9に示すように合成ベクトル波を偏光成分ごとに検出すると、計算によらずに、合成ベクトル波のp偏光成分及びs偏光成分の強度を検出することができる。このため、偏光成分ごとの計算によって被検ベクトル波の複素振幅を計算することが可能となる。
この場合、合成ベクトル波から偏光成分を抽出する計算が不要となるため未知数が減り、変調量を決定するための自然数mx, myをmx=myとしても被検ベクトル波の複素振幅を計算することができる。すなわち、参照ベクトル波の偏光成分間において位相又は周波数の変調量を同一にすることができる。従って、参照ベクトル波をp偏光成分とs偏光成分とに分離せずに単一の圧電変換器(PZT)で位相変調するようにしてもよい。
(第2の実施形態)
図10は本発明の第2の実施形態に係る光学特性測定システムにおいて用いられるアレイ型波長板の正面図であり、図11は、図10に示すアレイ型波長板の配置方法を示す図である。
図10に示された第2の実施形態における光学特性測定システム1Aでは、ベクトル波の互いに異なる複数の位置を複数の変調量で空間的に変調することによって複数の参照ベクトル波を生成するようにした点が図1に示す第1の実施形態における光学特性測定システム1と相違する。他の構成および作用については図1に示す光学特性測定システム1と実質的に異ならないため参照ベクトル波変調系25のみ図示し、同一の構成については説明を省略する。
光学特性測定システム1Aの参照ベクトル波変調系25は、図11に示すようにアレイ型波長板60及びアレイ型位相板61を被検ベクトル波の光路L上に配置して構成することができる。アレイ型波長板60は、図10に示すように、異なる複数の位置間において互いに異なる複数の位相差をベクトル波の複数の偏光成分間に与える波長板である。つまり、アレイ型波長板60は、2次元的に異なる特性を有する波長板である。
より具体的には、アレイ型波長板60は特性の異なる複数のサブ波長板60Aを、ベクトル波の進行方向に対して垂直な平面上において2次元的に配置して構成される。図10に示す各サブ波長板60A内におけるnは式(4)におけるnを、φ1及びφ2は参照ベクトル波の各偏光成分に与えるべきnの値ごとの位相変調量を示している。
従って、各サブ波長板60Aを|φ1-φ2|波長板とすれば、式(4)においてnを0からN-1まで変化させる場合における偏光成分間の異なる複数の位相差を、アレイ型波長板60に入射するベクトル波の異なる位置に付与することができる。すなわち、空間的に異なる偏光成分間の位相差分布を有する参照ベクトル波をアレイ型波長板60によって生成することができる。
従って、アレイ型波長板60を用いれば、複数の変調量で、被検ベクトル波を空間的に異なる位置で位相変調することができる。これは、アレイ型波長板60にベクトル波を透過させることによって互いに異なる複数の変調量で位相変調された複数の参照ベクトル波を同時に生成することに相当する。
図10は、観測データ数Nを8とした場合の例を示している。このため、互いに異なる位相差を偏光成分に与える8種類のサブ波長板60Aでアレイ型波長板60が構成されている。
また、nの値(0, 1, 2, ..., N-1)に対応するN種類のサブ波長板60Aで1つの画素に対応するサブアレイ波長板60Bを構成し、サブアレイ波長板60Bを必要な画素数分だけ2次元的に配置することによってアレイ型波長板60を構成することができる。尚、空間的な等方性を向上させる観点からは、N種類のサブ波長板60Aを互いに隣接して配置し、かつ正方形に近くなるように各サブ波長板60Aを配置することが望ましい。
|φ1-φ2|波長板は、s偏光成分とp偏光成分との間に、|φ1-φ2|の位相差を与える光学素子であるが、s偏光成分とp偏光成分の位相自体を所定の位相に変調することはできない。従って、異なる|φ1-φ2|波長板間において位相ずれが生じることになる。そこで、アレイ型波長板60の後方又は前方に、異なる|φ1-φ2|波長板間における位相ずれを補償するためのアレイ型位相板61が設けられる。
アレイ型位相板61は、アレイ型波長板60の複数の位置間において生じる各偏光成分の位相差を補償する位相板である。従って、アレイ型位相板61も2次元的に異なる特性を有する位相板となる。|φ1-φ2|波長板間における位相ずれの量は、|φ1-φ2|波長板の材質に応じた特性に依存して変化する。従って、位相ずれの補償量は、実際にアレイ型波長板60にベクトル波を透過させて位相ずれ量を測定するか、或いは|φ1-φ2|波長板の特性値をパラメータとするシミュレーションによって求めることができる。
アレイ型波長板60で構成される参照ベクトル波変調系25からは、画素数×Nの参照ベクトル波が出力されることとなる。そして、参照ベクトル波変調系25から出力された複数の参照ベクトル波は、対応する画素同士で被検ベクトル波と合成される。そして、画素数×Nの合成ベクトル波が、合波検出系により検出される。
合波検出系では、図1に例示されるようにp偏光成分とs偏光成分が合成された状態で合成ベクトル波を検出することができる。或いは、図9に例示されるように、p偏光成分とs偏光成分とを別々に検出することもできる。但し、p偏光成分及びs偏光成分は、それぞれ異なる変調量に対応するN個の成分となる。
以上の第2の実施形態における光学特性測定システム1Aは、ベクトル波を構成する複数の偏光成分の各位相を、空間的に互いに異なる複数の変調量で偏光成分ごとに変調する光学系で参照ベクトル波変調系25を構成したものである。このため、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様な効果に加え、被検ベクトル波の複素振幅の計算に必要な情報を1回の撮像で取得することができるという効果を得ることができる。
尚、図示された例では、アレイ型波長板60から離れた位置にアレイ型位相板61が配置されているが、アレイ型位相板61をアレイ型波長板60に接着してもよい。更に、撮像素子をアレイ型位相板61に接着するようにしてもよい。
また、アレイ型波長板60とアレイ型位相板61とを接着しない場合には、アレイ型波長板60とアレイ型位相板61との間にリレーレンズを配置することによってアレイ型波長板60とアレイ型位相板61とを結像関係にすることが望ましい。同様に、アレイ型位相板61と撮像素子とを接着しない場合には、アレイ型位相板61と撮像素子との間にリレーレンズを配置することによってアレイ型位相板61と撮像素子とを結像関係にすることが望ましい。
或いは、アレイ型波長板60の周期性を利用して、自己結像する位置にアレイ型位相板61を配置し、アレイ型位相板61の位置に対応して自己結像する位置に撮像素子を配置するようにしてもよい。
また、アレイ型波長板60、アレイ型位相板61及び撮像素子のうちの2つが接着され、1つが離れて配置される場合には、接着された光学素子と、離れて配置される光学素子との位置関係を、リレーレンズ又は自己結像によって結像関係が形成されるようにすることが望ましい。
(第3の実施形態)
図12は本発明の第3の実施形態に係る光学特性測定システムにおいて用いられる空間選択的ミラーの作用を示す側面図であり、図13は、図12に示す空間選択的ミラーの正面図である。
図12に示された第3の実施形態における光学特性測定システム1Bでは、ベクトル波を複数の変調量で空間的に位相変調する方法が図10に示す第2の実施形態における光学特性測定システム1Aと相違する。他の構成および作用については図10に示す光学特性測定システム1Aと実質的に異ならないため参照ベクトル波変調系25及び合波検出系26のみ図示し、同一の構成については説明を省略する。
光学特性測定システム1Bでは、参照ベクトル波を、被検ベクトル波に対して傾斜させて被検ベクトル波と合成された状態で検出することによって、参照ベクトル波が複数の変調量で空間的に位相変調される。すなわち、参照ベクトル波を被検ベクトル波に対して斜め方向に傾けて合成し、かつ合成位置に合波検出系26の撮像素子やPDを配置して合成ベクトル波を検出すると、参照ベクトル波の光路長が位置に応じて変化する。このため、参照ベクトル波の各偏光成分を空間的かつ連続的に位相変調することができる。従って、位相変調量としては、各画素に対応する領域内における位相変調量の平均値等の代表値とすることができる。
従って、光学特性測定システム1Bの参照ベクトル波変調系25は、参照ベクトル波を被検ベクトル波に対して傾斜させた状態で、被検ベクトル波との合成位置に向けて照射する光学系となる。図12は参照ベクトル波のp偏光成分及びs偏光成分をそれぞれ一体型の空間選択的ミラー70を用いて別々に被検ベクトル波に向けて斜め方向に反射できるようにした参照ベクトル波変調系25の構成例を示している。
空間選択的ミラー70は、図12及び図13に示すように、s偏光用の反射面及びp偏光用の反射面を互いに異なる傾斜角度で互いに異なる位置に有するミラー部と、被検ベクトル波を透過させる透過部とを設けて形成することができる。従って、参照ベクトル波は予めp偏光成分とs偏光成分とに分波された状態で、それぞれ空間選択的ミラー70のp偏光用の反射面及びs偏光用の反射面に入射する。
s偏光用の反射面は、s偏光用の反射面で反射した参照ベクトル波のs偏光成分が、透過部を透過した被検ベクトル波と、合成位置において合成される傾斜角度となっている。同様に、p偏光用の反射面は、p偏光用の反射面で反射した参照ベクトル波のp偏光成分が、透過部を透過した被検ベクトル波と、合成位置において合成される傾斜角度となっている。
従って、空間選択的ミラー70のp偏光用の反射面及びs偏光用の反射面にそれぞれ参照ベクトル波のp偏光成分及びs偏光成分を入射させると、参照ベクトル波のp偏光成分及びs偏光成分が合成位置において被検ベクトル波と合成される。
但し、被検ベクトル波の進行方向に対して参照ベクトル波のp偏光成分及びs偏光成分が傾斜している。このため、光路長の相違により合成位置において参照ベクトル波のp偏光成分及びs偏光成分が空間的に位相変調される。すなわち、被検ベクトル波の進行方向に垂直な平面において位置ごとに異なる変調量で参照ベクトル波のp偏光成分及びs偏光成分が位相変調される。
尚、空間選択的ミラー70のように一体化されたミラーに限らず、参照ベクトル波のp偏光成分用のミラーと、参照ベクトル波のs偏光成分用のミラーとを別々に配置して参照ベクトル波変調系25を構成することもできる。この場合、被検ベクトル波をp偏光成分とs偏光成分とに分波して、偏光成分ごとに参照ベクトル波と合成するようにしてもよい。
また、参照ベクトル波のp偏光成分及びs偏光成分を、それぞれ被検ベクトル波との合成位置に向けて斜めに進行させることが可能であれば、ミラーに限らず、BSや分波器等の他の光学素子を適切に配置することによって参照ベクトル波変調系25を構成することができる。
以上のような第3の実施形態における光学特性測定システム1Bによれば、第2の実施形態における光学特性測定システム1Aと同様な空間的な位相変調による効果を得ることができる。また、簡易な構成で、参照ベクトル波の空間的な位相変調を行うことができる。
(第4の実施形態)
図14は本発明の第4の実施形態に係る光学特性測定システムに用いられる光学系の構成図である。
図14に示された第4の実施形態における光学特性測定システム1Cでは、被検ベクトル波の複素振幅の計算に用いられる合成ベクトル波の各位相変調量に対応する各偏光成分の強度が、それぞれ分離された状態で別々にPDで検出されるようにした点が、図10に示す第2の実施形態における光学特性測定システム1Aと相違する。他の構成および作用については図10に示す光学特性測定システム1Aと実質的に異ならないため、参照ベクトル波の位相変調、位相変調された参照ベクトル波と被検ベクトル波の偏光成分ごとの合波及び合波されたベクトル波の検出を行うための光学系のみ図示し、同一の構成については説明を省略する。
光学特性測定システム1Cでは、複数の変調量及び各偏光方位に対応する複数の偏光が、偏光方位及び複数の変調量ごとに分離された状態で検出される。従って、検出すべき偏光成分の数だけPD等の撮像素子が設けられる。そして、各撮像素子において検出される偏光が、必要な変調量で位相変調され、かつ必要な偏光方位となるように波長板、PBS及びBS等の光学素子が配置される。
以上のような第4の実施形態における光学特性測定システム1Cは、被検ベクトル波を複数の偏光成分に分波して、分波された複数の偏光成分を空間的に異なる位置において異なる変調量で位相変調するようにしたと言うこともできる。従って、第4の実施形態における光学特性測定システム1Cによれば、第2の実施形態における光学特性測定システム1Aと同様な空間的な位相変調による効果を得ることができる。また、汎用性の高い光学素子の組合せによって簡易に参照ベクトル波の位相変調を行うことができる。
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
例えば、各実施形態において、参照ベクトル波の位相変調に代えて、或いは位相変調に加えて、参照ベクトル波の周波数変調を行うことができる。すなわち、ベクトル波を構成する複数の偏光成分の各位相及び各周波数の少なくとも一方を、互いに異なる複数の変調量で時間的又は空間的に変調することによって複数の参照ベクトル波を生成することができる。
また、複数の可変リターダをベクトル波の光路L上に配置した光学系やアレイ型波長板60のように、ベクトル波を構成する複数の偏光成分の各位相及び各周波数の少なくとも一方を、時間的又は空間的に互いに異なる複数の変調量で偏光成分ごとに変調する光学系は、様々な用途に用いることができる。
また、各計算式は一例であり、解析手法に応じた式を用いることができる。例えば、式(7-1)及び式(7-2)のN-1を2(N-1)とするなど、式の立て方によっては式(4)におけるmx, myを自然数でない値に決定することができる場合もある。
また、上述した各実施形態では、被検物体Oの位置及び物性値の変化が無視できることを前提として説明したが、被検物体Oが動く場合や光学異方性等の被検物体Oの物性値が変化する場合には、観測データ数Nを多くすることによって,被検物体Oの位置又は物性値の変化を複素振幅分布の変化として間接的に観測することが可能である。
また、複素振幅分布の経時変化は、予め定めた観測データ数N毎に求めるだけでなく、計測時間中に観測データが取得される都度、順次取得済みの全ての観測データ数をNとして求めることもできる。計測時間中に順次取得されるデータを用いて複素振幅分布の経時変化を求める場合には、被検ベクトル波の2成分と参照ベクトル波の2成分との間の位相差を利用して被検物体Oの位置又は物性値の変化を捉えることができる。
例えば、参照ベクトル波のp偏光成分の位相をπ/4ずつ変化させた場合に、被検ベクトル波のp偏光成分の位相がπ/8ずつ変化していれば、被検物体Oの変化に起因して被検ベクトル波のp偏光成分の位相がπ/8ずつ変化したことになる。従って、参照ベクトル波に与えた位相変化量と、観測された被検ベクトル波の位相変化量との差分を求めることにより、被検物体Oの位置や物性値等の経時変化を求めることができる。