JP6082342B2 - 高炭素鋼線材の製造方法 - Google Patents

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本発明は、自動車等の車両や各種産業機械等で軸受の材料として用いられている高炭素鋼線材の製造方法に関する。特には、球状化時間を短縮することのできる軸受鋼の製造方法、更には球状化後の硬さを低減することのできる高炭素鋼線材の製造方法に関する。
自動車等の車両や各種産業機械等で軸受の材料として、「JIS G 4805(2008)」で規定される高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ材)が使用されていることが多い。この軸受は、一般的に、上記材料を熱間圧延して鋼線材とした後に球状化焼鈍し、切断後、所定の形状に冷間鍛造して、焼入れ焼戻し処理し、最後に仕上げ加工を施すことで製造される。
上記球状化焼鈍は、軸受製造工程における伸線加工や冷間鍛造時の加工性確保や、最終製品である軸受に求められる転動疲労特性、耐摩耗性等を確保する観点から、炭化物を球状化する処理である。しかしこの球状化焼鈍には数十時間という長時間を要する。近年の社会動向から、コスト削減やCO2排出量低減が一層求められており、これらの観点から、軸受の製造工程における球状化処理時間(以下「球状化時間」という)を短縮できる技術開発が求められている。
また、冷間鍛造時の金型寿命の向上、省電力化(消費電力量の抑制)の観点から、球状化処理後の素材硬さを低下させることも併せて求められている。
上記球状化時間を短縮した技術は、これまでにも幾つか提案されている。例えば特許文献1には、磁場印加により球状化時間を短縮した技術が示されている。詳細には、熱間圧延後の冷却中に800〜500℃の温度範囲で磁場を印加すると共に、冷却速度を10℃/s以下として、初析セメンタイトの析出を抑制し、かつパーライト中のラメラセメンタイトを分断することで、後工程である球状化処理の時間を短縮する方法が開示されている。しかしながらこの技術では、磁場印加という特殊な設備を必要とするため、結果的に生産コストの上昇を招き、球状化時間の短縮によるコスト低減効果が相殺される。また、当該開示技術の評価項目は、球状化の程度であり、鋼材の硬さ低減(以下、単に「硬さ低減」という)についてまで検討されていない。
球状化時間の短縮や省略を、制御圧延や制御冷却により行った技術も、例えば特許文献2〜4に提案されている。
具体的に特許文献2には、抽出から仕上げ圧延に至る間、全断面内の温度がA点〜Acm点の範囲内となるように制御して圧延することで球状化組織を得て、後の球状化焼鈍を省略または短縮する技術が開示されている。しかしながらこの技術では、ラピッド方式の圧延装置という特殊な装置を必要とするため、生産コストの上昇を招き、球状化時間の短縮によるコスト低減効果が相殺される。また、課題(実施例の評価項目)は球状化度であり、硬さ低減についてまでは検討されていない。
特許文献3には、Ae1〜Aem点に加熱した後、圧延材表面温度が680℃〜Aem−30℃の範囲内であり、中間冷却時にAe1以上に復熱する時間が10s以下であり、総減面率が30%以上である熱間圧延を行った後、400℃までの温度域を5℃/s以下の条件で冷却することにより、オーステナイト、セメンタイトの二相状態で加熱、圧延され、球状に近いセメンタイトとフェライトから成る組織を有する軸受鋼鋼材が得られ、球状化焼鈍の時間短縮、省略化が可能になる技術が開示されている。しかしながら、後述のとおり、本発明者らが同様の検討を行ったところ、十分な球状化組織の確保は難しかった。またこの技術は、球状化度のみを評価しており、硬さ低減についてまで検討されていない。
特許文献4には、仕上圧延条件を制御、圧延出側温度をAcm〜1150℃とした後、Ar1までを0.5℃/s以上で冷却し、更に、Ac1+20℃〜Ac1+80℃の温度に再加熱して5〜90min保持し、5℃/s以下で冷却して、球状に近いセメンタイトを存在させることで、球状化焼鈍時間の短縮が可能な技術が開示されている。しかしながら、圧延・インライン加熱後の前記5〜90minの保持と5℃/s以下の冷却は、熱間圧延工程の長時間化(生産性悪化)を招く。またこの技術も、評価が球状化度のみであり、硬さ低減についてまで検討されていない。
更に、制御圧延、制御冷却による球状化時間省略(直接球状化)技術も、例えば特許文献5〜9に提案されている。
特許文献5には、900〜1200℃で仕上圧延を行い、Ar1−30℃以下まで冷却した後、Ac1+30℃〜Ac1+70℃に加熱、冷却することで、直接球状化(オンライン球状化、球状化焼鈍省略)する技術が開示されている。この特許文献5の技術は、球状化処理を省略できる技術であり、硬さのデータが示されているが、開示されている硬さのデータは本発明の目指す値より高く、硬さ低減が十分になされていない。
特許文献6には、Ac3またはAcm以上の温度に加熱した後、仕上圧延をAr1−200℃以上、Ar1+100℃以下の温度域で、減面率15%以上となるように実施した後、Ac1以上、Ac3またはAcm以下の温度域に再加熱し、0.05℃/s以下の冷却速度で600℃以下まで冷却することで、オンラインで球状セメンタイトを得る(直接球状化)技術が開示されている。この技術も球状化処理を省略できる技術であるが、本発明の課題である硬さ低減については検討されていない。
特許文献7は、Ar1−50℃〜Ar1+50℃の温度域で減面率20%以上で仕上圧延した後、0.5℃/s以下で500℃以下まで冷却する直接球状化技術が開示されている。この技術も、球状化処理を省略できる技術であるが、本発明の課題である硬さ低減については検討されていない。
特許文献8や特許文献9には、Ac1以上に加熱した後変形を加える熱間加工において、圧延途中で、上記特許文献8ではAr1以下であり且つAr1−200℃以上の温度域まで冷却し、上記特許文献9ではAe1以下であり且つAr1を超える温度域まで冷却し、その後いずれも、15%以上の塑性変形を加えることで、発生する変形熱によってAc1以上、Ac3あるいはAcm以下の温度域に到達させることを少なくとも2回以上繰り返す、直接球状化技術が開示されている。これらの技術も、球状化処理を省略できる技術であるが、本発明の課題である硬さ低減については検討されていない。
特開平10−298641号公報 特開平11−286724号公報 特開2009−275263号公報 特開2009−102677号公報 特開2000−192147号公報 特開2005−120432号公報 特開2004−190127号公報 特開昭59−136423号公報 特開昭60−149723号公報
上記の通り、従来技術は、球状化時間を短縮できる技術であるが、特殊設備が必要であったり、生産性悪化の問題がある。また、本発明者らが同様の検討を行ったが、十分な球状化組織が得られない場合もあった。更に、硬さ低減の観点から従来技術をみた場合、硬さ低減の検討をしていないか、検討しているものであっても本発明の目指す硬さまで低減されておらず、本発明で課題とする金型寿命向上などに寄与できるものではない。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、コストや環境負荷の観点から、製造時の球状化時間の短縮化を図ることのできる高炭素鋼線材の製造方法を確立すること、また、上記球状化時間の短縮化と共に、高炭素鋼線材の硬さを十分に低減でき、冷間鍛造時の金型寿命の向上や製造時の省電力化を図ることのできる高炭素鋼線材の製造方法を確立することにある。
前記課題を解決し得た本発明の高炭素鋼線材の製造方法は、
C:0.95〜1.10%(%は質量%を意味する。以下同じ)、
Si:0.15〜0.70%、
Mn:1.15%以下(0%を含まない)、
Cr:0.90〜1.60%、
P:0.050%以下(0%を含まない)、
S:0.050%以下(0%を含まない)、
Al:0.100%以下(0%を含まない)、
Ti:0.015%以下(0%を含まない)、
N:0.025%以下(0%を含まない)、および
O:0.0025%以下(0%を含まない)
を含む鋼材を、Ac1点以下550℃以上の温度域に加熱し、該温度域で熱間加工を行う熱間加工工程;および
前記熱間加工後に、0.1℃/s以上の平均冷却速度で少なくとも500℃まで冷却する冷却工程;
を含むところに特徴を有する。
前記課題を解決し得た本発明の高炭素鋼線材の別の製造方法は、
C:0.95〜1.10%(%は質量%を意味する。以下同じ)、
Si:0.15〜0.70%、
Mn:1.15%以下(0%を含まない)、
Cr:0.90〜1.60%、
P:0.050%以下(0%を含まない)、
S:0.050%以下(0%を含まない)、
Al:0.100%以下(0%を含まない)、
Ti:0.015%以下(0%を含まない)、
N:0.025%以下(0%を含まない)、および
O:0.0025%以下(0%を含まない)
を含む鋼材を、Ac1点以下550℃以上の温度域に加熱し、該温度域で熱間加工を行う熱間加工工程;
前記熱間加工後に、Ac1点超1000℃未満の温度域まで10℃/s以上の平均昇温速度で加熱する昇温工程;および
前記昇温後に、0.01℃/s以上の平均冷却速度で少なくとも500℃まで冷却する冷却工程;
を含むところに特徴を有する。
前記鋼材は、更に、下記(a)〜(e)の少なくともいずれかに属する1種以上の元素を含んでいてもよい。
(a)Cu:0.25%以下(0%を含まない)、Ni:0.25%以下(0%を含まない)、およびMo:0.25%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素
(b)Nb:0.5%以下(0%を含まない)、V:0.5%以下(0%を含まない)、およびB:0.005%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素
(c)Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)、Li:0.02%以下(0%を含まない)、およびZr:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素
(d)Pb:0.5%以下(0%を含まない)、Bi:0.5%以下(0%を含まない)、およびTe:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素
(e)As:0.02%以下(0%を含まない)
本発明の高炭素鋼線材の製造方法によると、コストや環境負荷の観点から、製造時の球状化時間の短縮化を図ることができる。併せて、高炭素鋼線材の硬さを十分に低減でき、冷間鍛造時の金型寿命の向上や製造時の省電力化を図ることができる。
本発明者らは、前記課題を解決するため、まず球状化焼鈍の時間短縮を図ることのできる高炭素鋼線材の新たな製造方法(以下「製造方法1」ということがある)を確立すべく、鋭意研究を重ねた。球状化焼鈍により十分に球状化された組織を得るには、この球状化焼鈍時の加熱でパーライトなどの板状炭化物が十分に球状化し、かつ上記加熱後の冷却時にパーライトの再析出を抑制する必要がある。具体的に、球状化焼鈍工程が「800℃に加熱し、該温度で一定時間保持後に、室温まで徐冷するパターン」の場合、800℃までの加熱および該温度での保持中に板状炭化物を球状化させると共に、室温までの徐冷時にパーライトの再析出を抑制する必要がある。その上で、球状化時間を短縮するには、上記加熱・保持における板状炭化物の球状化促進がまず必要であり、また徐冷時のパーライト再析出の抑制には、該徐冷時のγ→α+θ変態の促進が必要であると考えた。
そして、球状化焼鈍を施したときに、このような冶金現象の制御が可能な、熱間圧延材(球状化焼鈍に供する鋼材、鋼線材)、具体的には、上記冶金現象の制御が可能な熱間圧延材の組織を得るべく、該熱間圧延材(鋼線材)の製造条件について検討を行った。その結果、従来技術では検討されていなかったAc1点以下という極めて低い温度で、加熱・熱間加工を行うことにより、組織の微細化およびひずみの付与を図ればよいことを見出した。以下ではまず、本発明の最大の特徴であるAc1点以下での加熱・熱間加工について説明する。
[Ac1点以下550℃以上の温度域に加熱し、該温度域で熱間加工を行う熱間加工工程]
Ac1点以下での加熱・熱間加工により球状化が促進される理由について、詳細な解明は未だであるが、下記のようなメカニズムにより組織変化が生じ、球状化時間短縮に有効に作用していると考えられる。
Ac1点以下の低い温度で加熱・熱間加工(熱間圧延等)を行うと、極めて微細なフェライト+球状化セメンタイトが主体で、一部、層状パーライトが残存した組織が得られる。この微細組織は、相変態、析出の駆動力上昇、炭素と合金元素の拡散促進という点から、球状化焼鈍時のα→γ→αの変態促進に有効であると考えられる。この球状化焼鈍時のα→γ→αの変態が有効であることは後述する。また、一部に層状組織が残存しても、低温での熱間加工により鋼線材にひずみが付与されるため、球状化時の昇温により炭化物の分断や球状化が容易に進み、かつ変態も促進されると考えられる。
上記の通り、本発明の組織が微細であり、またひずみが蓄えられていることに起因して、球状化焼鈍時のα→γ→αの変態が促進される。該変態のうち、α→γ変態の促進は板状炭化物の球状化を促し、またγ→α変態の促進は、パーライトの再生成(再析出)を抑制すると考えられる。
上記本発明に対して従来技術の製造条件では、球状化の促進が困難であることを、組織の観点から以下に説明する。まず、従来行われてきたAcm点以上に高温加熱・熱間加工を行う方法では、得られる熱間加工材の組織が、フィルム状初析セメンタイトを含むパーライト主体の組織となる。前記フィルム状のセメンタイトや層状のセメンタイトは、分断・球状化に時間を要する。球状化促進のために球状化温度を高くすると、冷却時に再生パーライトが生成しやすくなる。よって結果的に、短時間の球状化処理は困難であり、また、後述する十分低い硬さを実現することも困難である。
また、Ac1点〜Acm点の温度域に加熱してから熱間加工を行う場合、球状セメンタイトは存在するが、パーライトまたは板状のセメンタイトが混在した組織になりやすい。該パーライトや板状のセメンタイトは、本発明の製造条件で実施(Ac1点以下の温度域で加熱および熱間加工)の場合に生じうるパーライト等と異なり、粗大であり、かつひずみが導入されていないため、球状化焼鈍時に分断・球状化されにくい。よってこの場合も、短時間の球状化処理は困難であり、後述する十分低い硬さを実現することも困難である。
Acm点以上の温度域やAc1点〜Acm点の温度域で加熱・熱間加工を行う従来技術(例えば前述した特許文献6等)では、パーライトや板状セメンタイトの少ない球状化組織が得られると示されている。しかし上述の通り、パーライトや板状セメンタイトが少なからず存在する。また、本発明の条件で実施(Ac1点以下の温度域で加熱および熱間加工)の場合に生じうるパーライト等と異なり、組織サイズが大きく、かつ加工によるひずみも導入されない。そのため、球状化処理時の変態、析出、拡散が生じ難くなり、徐冷時にパーライトの再析出が生じやすいと推察される。これに対し本発明では、Ac1点以下の低い温度で加熱・熱間加工を行うことにより、従来技術と比べて組織サイズが小さく、かつ加工によりひずみが導入される。これにより、粒状のフェライトやセメンタイトの析出が促進されて、パーライト、即ち、板状のフェライト・セメンタイトの層状組織の析出が抑制されると考えられる。
本発明は、上述の通り、Ac1点以下の低い温度で加熱・熱間加工を行う点に特徴がある。上記加熱を行う温度(加熱温度:T1)と上記熱間加工を行う温度(熱間加工温度:T2)の上限は、好ましくは(Ac1点−20℃)以下、より好ましくは(Ac1点−50℃)以下である。尚、上記Ac1点は、従来より知られている下記式(1)から求めることができる。
Ac1(℃)=723−10.7×(%Mn)−16.9×(%Ni)+29.1×(%Si)+16.9×(%Cr)+290×(%As)+6.38×(%W)…(1)
上記式(1)における(%元素)は、鋼線材中の各元素の含有量(質量%)を示す。
また、上記加熱温度・熱間加工温度(T1およびT2)の下限は、熱間加工時における変形抵抗の増大の抑制や、断線・破壊の防止といった観点から、550℃以上とする必要がある。熱間加工時の層状組織の分断・球状化を促進する観点からは、上記温度の上限を、650℃以上とすることが好ましく、より好ましくは680℃以上である。
熱間加工として、熱間圧延の他、熱間鍛造、熱間押出等が挙げられる。熱間圧延時には、上記熱間加工温度(T2)として、後述する実施例に示す通り、仕上げ圧延温度を制御すればよい。
上記加熱温度(T1)に到達後は、直ちに熱間加工を行ってもよいし、上記加熱温度(T1)に到達後から熱間加工まで保持してもよい。また、上記加熱温度(T1)と熱間加工温度(T2)は、同一、または、上記温度範囲内で異なっていてもよい。
尚、上記加熱温度(T1)までの昇温の条件は特に問わず、一般的に行われている条件で昇温すればよい。
[前記熱間加工後に、0.1℃/s以上の平均冷却速度で少なくとも500℃まで冷却する冷却工程]
更に、熱間加工後の平均冷却速度、即ち、熱間加工温度(T2)から少なくとも500℃までの平均冷却速度:CR1(熱間圧延の場合は、仕上げ圧延温度(T2)から少なくとも500℃までの平均冷却速度)は、0.1℃/s以上とする。上記平均冷却速度が遅すぎると、加工によるひずみが抜ける上、層状に残った炭化物が安定化し、球状化焼鈍時に板状炭化物が残存、生成しやすくなるためである。上記平均冷却速度は、好ましくは0.2℃/s以上、より好ましくは0.3℃/s以上である。尚、上記平均冷却速度の上限は特に定めないが、現実的には1000℃/s程度が上限になると思われる。
上記平均冷却速度での冷却は、少なくとも500℃まで行えばよく、500℃よりも低い温度域の冷却条件は特に限定されない。
本発明者らは更に、上記製造方法1で達成できる、球状化時間の短縮化と共に、硬さを十分に低減させることができ、冷間鍛造時の金型寿命の向上や製造時の省電力化を実現できる高炭素鋼線材の新たな製造方法(以下「製造方法2」ということがある)も確立すべく、鋭意研究を行った。
球状化時間の短縮の実現は、製造方法1の説明の通り、Ac1点以下という極めて低い温度での加熱・熱間加工が有効であり、製造方法2では、更に、その後に昇温工程を設けることによって、硬さ低下も実現できることを見出した。以下、製造方法2の条件を規定した理由について説明する。
製造方法2における「Ac1点以下550℃以上の温度域に加熱し、該温度域で熱間加工を行う熱間加工工程」は、製造方法1における「Ac1点以下550℃以上の温度域に加熱し、該温度域で熱間加工を行う熱間加工工程」と同じであるため、説明を省略する。即ち、Ac1点以下550℃以上の温度域で行う理由や、温度の好ましい上下限値等は、製造方法1で述べた通りである。
以下では、製造方法2において、球状化時間の短縮と共に硬さを低減するための方法に重点を置いて説明する。
球状化焼鈍後に低い硬さを実現するには、フェライト粒径の粗大化、セメンタイトの球状化や粗大化が有利であることは古くから知られている。球状化焼鈍後に低い硬さを得るには、該焼鈍で上記組織形態に変化するような熱間加工材の組織(圧延組織)とする必要がある。
この観点から、上記熱間加工材の組織制御を行うべく、該熱間加工材の製造条件について検討を行った。その結果、鋼材の加熱および熱間加工を、Ac1点以下550℃以上の温度域で行った後、Ac1点超1000℃未満の温度域(T3)まで10℃/s以上の平均昇温速度(HR)で加熱する工程、および前記昇温工程後に、0.01℃/s以上の平均冷却速度(CR2)で少なくとも500℃まで冷却する冷却工程を経れば、球状化焼鈍の短縮を実現でき、かつ球状化焼鈍後に低い硬さを示す組織が得られることを見出した。以下、上記条件を設定した理由について説明する。
[Ac1点超1000℃未満の温度域まで10℃/s以上の平均昇温速度(HR)で加熱する工程]
製造方法2では、上記熱間加工工程の後、Ac1点超1000℃未満の温度域まで10℃/s以上の平均昇温速度(HR)で加熱する工程を含む。該製造工程が組織に与える影響について未だ解明できていないものの、下記のような組織変化が生じて、特性向上を実現できていると考えられる。
Ac1点以下の加熱・熱間加工は、球状化が促進され、球状化時間の短縮には有効である。しかし、Ac1点以下の加熱・熱間加工のままでは組織が微細であるため、球状化焼鈍後の組織も微細化しやすい傾向にあり、これが硬さ上昇の要因になる。この問題の解消手段として、上述の変態促進の要点である「微細組織」と「球状化セメンタイト」のうち、「微細組織」を粗大化しながら、「球状化セメンタイト」を残存させることが考えられる。本発明では、上記微細組織の粗大化(微細組織の解消)のために粒成長を促す。その際、Ac1点超の温度域(昇温温度:T3)まで昇温させることによって、α→γ→α変態を活用して効率的かつ均一な粒成長を実現でき、微細組織の解消を図ることができると思われる。尚、Ac1点以下の温度で保持することにより粒成長を図ることも可能であるが、変態を活用できないため微細組織の解消に非常に時間を要し、現実的でない。
一方、上記昇温温度(T3)が高すぎると、過度な粗粒化や炭化物の固溶が生じ、球状化時間の短縮や硬さの低下を図ることができない。よって、本発明では昇温温度(T3)の上限を1000℃未満とする。上記昇温温度(T3)は、好ましくは(Ac1点+20℃)以上、より好ましくは(Ac1点+30℃)以上であり、好ましくは900℃以下、より好ましくは850℃以下である。
上記昇温温度(T3)に到達後は、直ちに下記の通り、0.01℃/s以上の平均冷却速度で少なくとも500℃まで冷却してもよいし、上記昇温温度(T3)で例えば30分以内の範囲内で保持してから、下記の冷却を行うこともできる。
上記昇温温度(T3)までの昇温速度、即ち、熱間加工温度(T2)から上記昇温温度(T3)までの平均昇温速度:HR(前記熱間加工が熱間圧延である場合、仕上げ圧延温度(T2)から上記昇温温度(T3)までの平均昇温速度)を速めることによって、炭化物が固溶しにくい状態で粒成長を促進させることができる。よって、本発明では上記平均昇温速度を10℃/s以上とする。好ましくは20℃/s以上、より好ましくは50℃/s以上である。尚、上記平均昇温速度の上限は、実現性の観点から、おおよそ1000℃/s程度となる。
[前記昇温後に、0.01℃/s以上の平均冷却速度で少なくとも500℃まで冷却する冷却工程]
更に、前記昇温後の平均冷却速度、即ち、昇温温度(T3)から少なくとも500℃までの平均冷却速度:CR2は0.01℃/s以上とする。この平均冷却速度が遅すぎると、組織が粗大化しすぎて、球状化処理の加熱時に球状化が促進されず、冷却時にはパーライトが再生成しやすくなる。上記平均冷却速度(CR2)は、好ましくは0.1℃/s以上、より好ましくは0.2℃/s以上、更に好ましくは0.3℃/s以上である。上記平均冷却速度(CR2)の上限は特に定めないが、現実的には1000℃/s程度が上限になると思われる。
上記平均冷却速度(CR2)での冷却は、少なくとも500℃まで行えばよく、500℃より低い温度域の冷却は特に限定されない。
本発明は、上述した条件以外は、高炭素鋼線材(例えば軸受)の一般的な製造条件を採用すればよい。例えば、本発明の鋼線材を用いて、球状化焼鈍し、切断後、所定の形状に冷間鍛造し、焼入れ焼戻しを行い、最後に仕上げ加工を施すことで軸受を製造することができる。
球状化焼鈍条件には、設備や材料面での制約から様々なパターンがあり、条件によっては、従来技術でも効果がない場合がある(後述する実施例1を参照)。特に球状化焼鈍時の冷却速度を速めて球状化時間の短縮を図るには、この短時間での球状化に有効な、鋼線材の微細組織を低温での加熱・熱間加工で得る本発明の方が、従来技術よりも適していると思われる。
本発明の高炭素鋼線材および該鋼線材の製造に用いる鋼材の成分組成は、「JIS G 4805(2008)」で規定される高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ材2〜5)を全て含む成分範囲とする。具体的には、質量%で、C:0.95〜1.10%、Si:0.15〜0.70%、Mn:1.15%以下(0%を含まない)、Cr:0.90〜1.60%を含有する。前記SUJ材のうち、SUJ2材は、C:0.95〜1.10%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.50%以下、Cr:1.30〜1.60%を含有する。SUJ3材は、C:0.95〜1.10%、Si:0.40〜0.70%、Mn:0.90〜1.15%、Cr:0.90〜1.20%を含有する。SUJ4材は、C:0.95〜1.10%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.50%以下、Cr:1.30〜1.60%、Mo:0.10〜0.25%を含有する。SUJ5材は、C:0.95〜1.10%、Si:0.40〜0.70%、Mn:0.90〜1.15%、Cr:0.90〜1.20%、Mo:0.10〜0.25%を含有する。
上記成分組成において、本発明が課題とする球状化特性の改善の他に、転動疲労特性や被削性などの観点から様々な元素の含有量が制限されるのが通常である。本発明では、上記C、Si、Mn、Crに加えて、P:0.050%以下(0%を含まない)、S:0.050%以下(0%を含まない)、Al:0.100%以下(0%を含まない)、Ti:0.015%以下(0%を含まない)、N:0.025%以下(0%を含まない)、O:0.0025%以下(0%を含まない)も規定する。以下、各成分について説明する。
[C:0.95〜1.10%]
Cは、焼入れ硬さを増大させ、室温および高温における強度を維持して耐摩耗性を付与するために必須の元素である。従って、0.95%以上含有させる必要がある。しかしながら、C含有量が多くなりすぎると巨大炭化物が生成しやすくなり、転動疲労特性の低下を招くので、C含有量は1.10%以下に抑える。Cの含有量の好ましい下限は0.98%、好ましい上限は1.05%である。
[Si:0.15〜0.70%]
Siは、マトリックスの固溶強化および焼入れ性を向上させるために有用な元素である。このような作用を発揮させるためには、Siを0.15%以上含有させる必要がある。Si含有量の好ましい下限は0.20%、より好ましい下限は0.25%である。一方で、Si含有量が多くなり過ぎると、加工性や被削性が著しく低下するので、Si含有量は0.70%以下とする。Si含有量の好ましい上限は0.65%、より好ましい上限は0.60%である。
[Mn:1.15%以下(0%を含まない)]
Mnは、マトリックスの固溶強化および焼入れ性を向上させるために有用な元素である。しかしMn含有量が多くなり過ぎると、加工性や被削性が著しく低下する。従って、Mn含有量は1.15%以下とする。Mn含有量の好ましい上限は1.10%、より好ましい上限は1.05%である。下限については特に定めていないが、上記の固溶強化や焼入れ性向上の作用を得るには、0.10%以上含有させることが好ましい。Mn含有量のより好ましい下限は0.15%、更に好ましい下限は0.20%である。
[Cr:0.90〜1.60%]
Crは、Cと結びついて微細な炭化物を形成し、耐摩耗性を付与すると共に、焼入れ性の向上に寄与する元素である。また、Crが炭化物に濃化することで加熱時に溶けにくくなり、球状化促進に寄与する。このような作用を発揮させるためには、Crを0.90%以上含有させる必要がある。Cr含有量の好ましい下限は1.00%、より好ましい下限は1.10%である。しかし、Cr含有量が過剰になると、粗大な炭化物が生成し、転動疲労寿命が低下する。従って、Cr含有量は1.60%以下とする。Cr含有量の好ましい上限は1.55%である。
[P:0.050%以下(0%を含まない)、S:0.050%以下(0%を含まない)]
Pは、偏析部での靭性、加工性を劣化させ、Sは、介在物を形成して転動疲労特性を劣化させるため、いずれも0.050%以下とする。また、「JIS G 4805(2008)」には、P、Sの上限が規定されており、いずれも0.025%以下とするのが好ましい。いずれの元素の含有量も、より好ましい上限は0.020%、更に好ましい上限は0.015%である。
[Al:0.100%以下(0%を含まない)]
Alは、窒化物を形成し、組織を微細化させ、転動疲労特性を向上させる作用を有する。この観点からは、Alを0.0040%以上含有させることもできる。一方、Alを過剰に含有させると脱炭が進んで、転動疲労特性等に不具合を生じる。従って、本発明では、Al含有量の上限を0.100%とする。好ましい上限は0.050%、より好ましい上限は0.030%、更に好ましい上限は0.020%である。
[Ti:0.015%以下(0%を含まない)]
Tiは、Alと同様に窒化物を形成するが、窒化物が比較的粗大であるため組織微細化への寄与は小さい上、転動疲労特性を劣化させる場合がある。よって、本発明では、Ti含有量の上限を0.015%とする。好ましい上限は0.010%、より好ましい上限は0.005%、更に好ましい上限は0.0020%である。
[N:0.025%以下(0%を含まない)]
Nは、固溶強化に有効な元素であって、前記したように転動疲労特性の向上にも寄与する。この観点からは、N量が0.0010%以上、更には0.0020%以上含まれていてもよい。但し、その含有量が過剰になると、歪時効による加工性の劣化などの不具合を招くため、積極的に含有させる場合でも0.025%以下とする。好ましい上限は0.020%、より好ましい上限は0.010%、更に好ましい上限は0.0050%である。
[O:0.0025%以下(0%を含まない)]
転動疲労では酸化物を主とする介在物を起点として破壊することが知られており、Oは、極力低減することが好ましい。本発明では、O含有量の上限を0.0025%とする。好ましい上限は0.0020%、より好ましい上限は0.0015%、更に好ましい上限は0.0010%である。
本発明の高炭素鋼線材および該鋼線材の製造に用いる鋼材の成分は、上記元素を含み、残部は鉄および不可避不純物である。上記鋼線材や鋼材中には、上記元素と共に、必要に応じて以下に示す元素が下記範囲内で含まれていてもよい。
[Cu:0.25%以下(0%を含まない)、Ni:0.25%以下(0%を含まない)、およびMo:0.25%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素]
Cu、Ni、Moは、いずれも焼入れ性を向上させる作用を有し、前記したように転動疲労特性の向上にも寄与する。但し、それらの含有量が過剰になると、加工性の劣化などの不具合を招くため、Cu:0.25%以下、Ni:0.25%以下、Mo:0.25%以下とする。いずれも、好ましい上限は0.20%、より好ましい上限は0.15%、更に好ましい上限は0.10%である。尚、MoはSUJ4材およびSUJ5材の必須含有元素であって、いずれも0.10〜0.25%含有される。
[Nb:0.5%以下(0%を含まない)、V:0.5%以下(0%を含まない)、およびB:0.005%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素]
Nb、V、Bは、いずれも焼入れ性を向上させる作用を有し、転動疲労特性の向上にも寄与するため、必要に応じて含有される。但し、それらの含有量が過剰になると、特性劣化を招くため、Nb:0.5%以下、V:0.5%以下、B:0.005%以下とする。Nb含有量とV含有量の好ましい上限は、それぞれ0.25%、より好ましい上限はそれぞれ0.10%、更に好ましい上限はそれぞれ0.05%である。また、B含有量の好ましい上限は0.004%、より好ましい上限は0.003%、更に好ましい上限は0.002%である。
[Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)、Li:0.02%以下(0%を含まない)、およびZr:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素]
Ca、REM(Ce、Y、La、Nd)、Mg、Li、Zrは、いずれも酸化物や硫化物の介在物を微細化する作用を有し、転動疲労特性の向上に寄与するため、必要に応じて含有される。但し、それらの含有量が過剰になると、特性劣化を招くため、Ca:0.05%以下、REM:0.05%以下、Mg:0.02%以下、Li:0.02%以下、Zr:0.2%以下とする。Ca含有量とREM含有量の好ましい上限は、それぞれ0.02%、より好ましい上限はそれぞれ0.01%、更に好ましい上限はそれぞれ0.005%である。また、Mg含有量とLi含有量の好ましい上限は、それぞれ0.01%、より好ましい上限はそれぞれ0.005%、更に好ましい上限はそれぞれ0.001%である。また、Zr含有量の好ましい上限は0.1%、より好ましい上限は0.05%、更に好ましい上限は0.01%である。
[Pb:0.5%以下(0%を含まない)、Bi:0.5%以下(0%を含まない)、およびTe:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素]
Pb、Bi、Teは、いずれも被削性を向上する作用を有し、必要に応じて含有される。但し、それらの含有量が過剰になると、熱間加工特性の劣化、疵の発生などの不具合を招くため、Pb:0.5%以下、Bi:0.5%以下、Te:0.1%以下とする。Pb含有量とBi含有量の好ましい上限は、それぞれ0.2%、より好ましい上限はそれぞれ0.1%、更に好ましい上限はそれぞれ0.05%である。また、Te含有量の好ましい上限は0.05%、より好ましい上限は0.02%、更に好ましい上限は0.01%である。
[As:0.02%以下(0%を含まない)]
Asは、鋼材の脆化を招く有害元素であり、極力低減するのが好ましい。但し、必要以上の低減はコスト増を招くため工業上好ましくない。従って、As:0.02%以下とする。好ましい含有量の上限は0.01%、より好ましい上限は0.005%、更に好ましい上限は0.002%である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。即ち、下記では、実施例としてJIS規格のSUJ2を使用し評価したが、本発明はSUJ2のみでなく、JIS規格のSUJ3〜5に相当する軸受鋼鋼材全般に活用可能である。また下記では、熱間圧延で評価を行ったが、熱間圧延に限らず、熱間/温間での伸線、鍛造、押出等の加工工程にも適用可能である。
[実施例1]
表1に示す(化学)成分組成(残部は鉄および不可避不純物)を満たす鋼材(SUJ2)を、連続鋳造により製造した。得られた鋳片を、分塊圧延して155mm角の鋼片を作製した後、表2または表3に示す加熱温度(T1)まで加熱してから熱間圧延を実施した。仕上げ圧延温度(T2)は、表2または表3に示す通りである。この際、下記パターンA〜Cのいずれかで加熱・熱間加工(熱間圧延)を実施した。
パターンA:従来より一般的に行われている、Acm点以上に加熱して熱間加工するパターン
パターンB:従来開発技術として検討例の多い、加熱温度と、熱間加工温度(表2および表3では仕上げ圧延温度)とを、Ac1点〜Acm点の間とするパターン
パターンC:本発明で規定する条件、即ち、Ac1点以下550℃以上の温度域に加熱し、該温度域で熱間加工を行うパターン。尚、表3のNo.22とNo.25は、熱間加工後の平均冷却速度が規定の範囲を外れた例である。
上記熱間圧延の後、コンベア上に巻き取り搬送しながら制御冷却を行った。具体的には、該冷却時の仕上げ圧延温度(T2)から500℃までの平均冷却速度(CR1)を、表2または表3に示す通り1℃/s、0.1℃/s、0.01℃/sのいずれかとした。
得られた圧延線材を用いて、下記2種類の条件で球状化焼鈍を実施した。
通常条件:785℃×6h→平均冷却速度10℃/hで680℃まで冷却
短縮条件:785℃×6h→平均冷却速度30℃/hで680℃まで冷却
球状化焼鈍後の線材の圧延方向に垂直な断面(線材横断面)のD(線材の直径)/4位置にて組織観察を行い、球状化度を評価した。この球状化度は、ASTM A892−06に規定の方法でLamellar Contentを求めて評価した。該Lamellar Contentは、LC1〜LC6の6段階で示され、LC1が最も球状化度が高く、LC(数値)で示される数値が高くなるほど球状化度は低い。本実施例では、上記短縮条件で球状化焼鈍を行ったときの球状化度が、1(LC1)の場合を合格とし、2以上(LC2以上)の場合を不合格とした。この評価結果を表2または表3に、上記球状化焼鈍条件(通常条件、短縮条件)別に示す。尚、表2や表3では「LC」を省略して数値のみ示している。
表2および表3より次のことがわかる。即ち、従来より一般に行われているパターンA(Acm点以上の高温加熱)の場合(No.1〜10)、いずれも、球状化焼鈍を短縮条件で行った場合の球状化が十分でなかった。尚、仕上げ圧延温度(T2)がより高温であるほど球状化が十分でなく、一方、仕上げ圧延温度(T2)が低い方が、従来の知見のとおり球状化度は改善される傾向にあったが、球状化は十分ではなかった。
次にパターンB(加熱温度と熱間加工温度がAc1点〜Acm点の間)の場合(No.11〜19)では、球状化焼鈍を通常条件で行った場合は球状化度が良好であったが、短縮条件では球状化が十分でなかった。尚、このパターンBでは、上記加熱温度(T1)と熱間加工温度(T2)がより低い方が、球状化焼鈍を短縮条件で行った場合の球状化度に改善の傾向がみられたが不十分であった。
上記パターンAやパターンBに対し、本発明の条件であるパターンCで加熱・熱間加工を行った場合(No.20〜39)には、No.22とNo.25を除き、球状化焼鈍を通常条件で行った場合は勿論のこと、短縮条件で行った場合にも十分に球状化された組織が得られた。上記No.22とNo.25は、熱間加工後の冷却時の平均冷却速度が小さすぎたため、球状化焼鈍時に板状炭化物が残存、生成しやすくなり、球状化が不十分となった。
[実施例2]
実施例1と同じ表1に示す鋼材(SUJ2)を、連続鋳造により製造した。得られた鋳片を、分塊圧延して155mm角の鋼片を作製した後、表4または表5に示す加熱温度(T1)まで加熱してから熱間圧延を実施した。仕上げ圧延温度(T2)は、表4または表5に示す通りである。尚、一部の例では、熱間圧延後、更に表5に示す平均昇温速度(HR)で、昇温温度(T3)まで昇温させた。この際、下記パターンA〜Dのいずれかで加熱・熱間加工(熱間圧延)(一部の例では更に昇温)を実施した。
パターンA:従来より一般的に行われている、Acm点以上に加熱して熱間加工するパターン
パターンB:従来開発技術として検討例の多い、加熱温度と、熱間加工温度(表4および表5では仕上げ圧延温度)とを、Ac1点〜Acm点の間とするパターン
パターンC:Ac1点以下550℃以上の温度域に加熱し、該温度域で熱間加工を行うが、Ac1点超1000℃未満の温度域までの昇温は行わないパターン
パターンD:本発明で規定する条件、即ち、Ac1点以下550℃以上の温度域に加熱し、該温度域で熱間加工を行うと共に、Ac1点超1000℃未満の温度域(T3)まで規定の平均昇温速度で昇温させるパターン。尚、表5のNo.31〜34は、平均昇温速度(HR)または昇温温度(T3)が規定の範囲を外れた例である。
上記熱間圧延または昇温の後、コンベア上に巻き取り搬送しながら制御冷却を行った。具体的には、該冷却時の仕上げ圧延温度から500℃までの平均冷却速度(CR2)を、表4または表5にも示す通り1℃/s、0.1℃/s、0.01℃/sのいずれかとした。
得られた圧延線材を用いて、下記2種類の条件で球状化焼鈍を実施した。
通常条件:785℃×6h→平均冷却速度10℃/hで680℃まで冷却
短縮条件:785℃×6h→平均冷却速度30℃/hで680℃まで冷却
球状化焼鈍後の線材の圧延方向に垂直な断面(線材横断面)のD(線材の直径)/4位置にて、実施例1と同様に組織観察を行い、球状化度を評価した。また上記D/4の位置にてビッカース硬さ試験を行い、線材の硬さ評価を行った。試験条件は、荷重:1kg、測定数:4点とした。また、硬さ評価では、通常条件で185Hv以下、短縮条件で190Hv以下を合格とした。これらの結果(球状化度、硬さ)を、上記球状化焼鈍条件(通常条件、短縮条件)別に表4および表5に示す。
表4および表5より次のことがわかる。即ち、従来より一般に行われているパターンA(Acm点以上の高温加熱)の場合(No.1〜11)、球状化焼鈍を短縮条件とした場合の球状化が十分でないだけでなく、球状化焼鈍を、通常条件、短縮条件のいずれで実施した場合も、硬さの低下が不十分となった。
次にパターンB(加熱温度と熱間加工温度がAc1点〜Acm点の間)の場合(No.12〜17)では、球状化焼鈍を短縮条件とした場合に、球状化が不十分となった。また球状化焼鈍が通常条件の場合は、硬さが低下する傾向がみられたが、短縮条件とした場合には、硬さの低下が不十分であった。
パターンCの場合(No.18〜21)は、球状化焼鈍を通常条件で行った場合は勿論のこと、短縮条件で行った場合にもほぼ十分に球状化されたが、球状化焼鈍で硬さを低下させる観点からは、下記パターンDの通り、熱間加工後にAc1点超に昇温させる工程を加えるのがよいことがわかる。パターンD(No.22〜48)では、No.31〜34を除き、球状化焼鈍を通常条件で行った場合は勿論のこと、短縮条件で行った場合にも十分に球状化され、かつ、球状化焼鈍を短縮条件で行った場合にも硬さを十分に低下できていることがわかる。No.31は、昇温温度(T3)までの平均昇温速度(HR)が遅かったため、短縮条件で球状化焼鈍時の球状化がやや不十分であり、また球状化焼鈍後の硬さの低下が不十分であった。No.32〜34は、昇温温度(T3)が高すぎたため、短縮条件で球状化焼鈍時の球状化が不十分となり、また球状化焼鈍後の硬さの低下が不十分となった。

Claims (6)

  1. C:0.95〜1.10%(%は質量%を意味する。以下同じ)、
    Si:0.15〜0.70%、
    Mn:1.15%以下(0%を含まない)、
    Cr:0.90〜1.60%、
    P:0.050%以下(0%を含まない)、
    S:0.050%以下(0%を含まない)、
    Al:0.100%以下(0%を含まない)、
    Ti:0.015%以下(0%を含まない)、
    N:0.025%以下(0%を含まない)、および
    O:0.0025%以下(0%を含まない)
    を含む鋼材を、Ac1点以下550℃以上の温度域に加熱し、該温度域で熱間加工を行う熱間加工工程;
    前記熱間加工後に、Ac1点超1000℃未満の温度域まで10℃/s以上の平均昇温速度で加熱する昇温工程;および
    前記昇温後に、0.01℃/s以上の平均冷却速度で少なくとも500℃まで冷却する冷却工程;
    を含むことを特徴とする高炭素鋼線材の製造方法。
  2. 前記鋼材は、更に、Cu:0.25%以下(0%を含まない)、Ni:0.25%以下(0%を含まない)、およびMo:0.25%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素を含む請求項に記載の製造方法。
  3. 前記鋼材は、更に、Nb:0.5%以下(0%を含まない)、V:0.5%以下(0%を含まない)、およびB:0.005%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素を含む請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記鋼材は、更に、Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)、Li:0.02%以下(0%を含まない)、およびZr:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素を含む請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
  5. 前記鋼材は、更に、Pb:0.5%以下(0%を含まない)、Bi:0.5%以下(0%を含まない)、およびTe:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上の元素を含む請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
  6. 前記鋼材は、更に、As:0.02%以下(0%を含まない)を含む請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
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