以下、図面に基づいて、本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の一例に係る重量のある旋回体の旋回装置の要部断面図、図2は図1の要部拡大図、図3は、その全体を示す概略斜視図である。
図3を参照して、この旋回装置12は、半導体製造装置(親装置)14の蓋体(重量のある旋回体)16を開閉(旋回)させるためのものである。半導体製造装置14にあっては、その製造工程で定期的に製品の出し入れや清掃のために重量のある蓋体16を装置上面14Aに対して(鉛直位置を越えて)180度開閉させる必要がある。
蓋体16は、大きなものでは、数トンに達し、非常に重量がある。蓋体16は、フレーム18と該フレーム18に取付けられた蓋体本体20とで主に構成されている。フレーム18は、駆動シャフト(旋回軸)22に片持ち状態で取付けられた2本のアーム部材18A、18Bと、該アーム部材18A、18Bの先端部を連結する連結部材18Cとで構成されている。なお、駆動シャフト22は、支持部材23のヒンジ機構H1に回転自在に支持されている。前記蓋体本体20は、この連結部材18Cに固定され、2本のアーム部材18A、18Bとほぼ並行に延在されている。
フレーム18がほぼ水平のときに丁度、半導体製造装置14の上面14Aを閉塞し、駆動シャフト22が回転することで、蓋体16全体が開いていくように構成されている。すなわち、蓋体16は、全閉状態(水平位置:開度0度)から、ほぼ直立した半開状態(鉛直位置:開度90度)を超え、全開状態(水平位置:開度180度)の位置まで開けることができる。なお、蓋体16を閉めるときは、駆動シャフト22を逆に回転させることにより、開度180度の位置から同じ軌跡を逆に辿り、該蓋体16を閉めることができる。本実施形態においては、開度90度が鉛直位置となるように、半導体製造装置14が設置されている。
図1、図2を参照して、この旋回装置12は、第1モータ24、および該第1モータ24によって駆動される第1駆動系34の第1ベベルピニオン(第1歯車)26と、第2モータ28および該第2モータ28によって駆動される第2駆動系36の第2ベベルピニオン(第2歯車)30と、第1ベベルピニオン26と第2ベベルピニオン30の動力が同時に伝達される第1、第2駆動系兼用の単一の共通ベベルギヤ(動力伝達部材)32を備えている。
第1駆動系34を駆動する第1モータ24と、第2駆動系36を駆動する第2モータ28は、独立した電源駆動系にて別々の駆動が可能である。第1駆動系34と第2駆動系36は、構造的には全く同一であるため、以下、第1駆動系34に着目して説明する。
第1駆動系34は、前記第1モータ24、前段減速機構38、中間減速機構40、および最終減速機構42を備える。
前記第1モータ24は、3相の誘導モータである。この実施形態では、該第1モータ24には、いわゆるインバータ制御機構は設けられていない。安全のため、ブレーキ機構(図示略)は第1モータ24の反負荷側に付設されているが、本実施形態を実施するに当たっては、特にブレーキ機構は必要としない。
前段減速機構38と中間減速機構40は、共に偏心揺動型の遊星歯車機構で構成されている。二つの減速機構38、40は、容量(大きさ)が異なるだけで、同一の構造を有しているため、ここでは、便宜上、図2を参照しながら中間減速機構40に対して付された符号を用いて、両減速機構38、40の構成を説明する。
(前段減速機構38の図示せぬ出力軸と連結された)中間減速機構40の入力軸44には、キー46を介して揺動体48が連結されている。揺動体48には、2つの偏心体50が互いに180度の位相差で設けられている。各偏心体50の外周には、ころ軸受52を介して外歯歯車54が組み付けられている。外歯歯車54は、内歯歯車56に内接噛合している。内歯歯車56は、この実施形態ではケーシング58と一体化された内歯歯車本体56Aと、該内歯歯車本体56Aに支持された支持ピン56Bと、該支持ピン56Bに回転自在に組み付けられ当該内歯歯車56の内歯を構成する外ローラ56C等で構成されている。内歯歯車56の内歯の数(外ローラ56Cの数)は、外歯歯車54の外歯の数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
外歯歯車54には、内ローラ孔60が形成されており、該内ローラ孔60を内ローラ62の被せられた内ピン64が遊嵌している。内ピン64は、該中間減速機構40の出力軸66の一部であるフランジ部66Aに圧入されている。
中間減速機構40の出力軸66は、中空部66Bを有するホローシャフトとされ、該中空部66B内に最終減速機構42の入力軸68が挿入されている。
中間減速機構40の出力軸66と最終減速機構42の入力軸68は、スプライン70を介して円周方向に連結されている。なお、最終減速機構42の入力軸68は、段部68Aを有している。この段部68Aは、中間減速機構40の出力軸66の端部に当接している。また、出力軸66の段部66Cには、負荷側への移動が拘束された連結ブロック72が当接しており、入力軸68は、この連結ブロック72を介してボルト74によって反負荷側に引き寄せられている。これにより、最終減速機構42の入力軸68は、中間減速機構40の出力軸66に対し、軸方向いずれの側にも移動不能に連結されている。
なお、中間減速機構40の出力軸66と最終減速機構42の入力軸68は、一対の円錐ころ軸受76、78によってケーシング58に支持されている。
最終減速機構42の入力軸68の先端には、前記第1ベベルピニオン(第1駆動系の第1歯車)26が直切り形成されている。
図1に戻って、第2駆動系36も、第2モータ28、前段減速機構80、中間減速機構82、および最終減速機構84を備える。具体的な構成は、第1駆動系34と同一である。第2駆動系36の最終減速機構84は、第1駆動系34の第1ベベルピニオン26に対応する第2ベベルピニオン30(第2駆動系の第2歯車)を有している。
第1ベベルピニオン26と第2ベベルピニオン30は、それぞれ共通ベベルギヤ32に同時に噛合している。すなわち、この共通ベベルギヤ32は、第1駆動系34と第2駆動系36の一部を兼用しており、本実施形態における「第1歯車と第2歯車の動力が同時に伝達される動力伝達部材」に相当している。共通ベベルギヤ32は、キー86を介して旋回装置12の前記駆動シャフト22に連結されている。
次に、この旋回装置12の作用を説明しながら、該旋回装置12の駆動方法を説明する。
第1モータ24の図示せぬモータ軸が回転すると、前段減速機構38の図示せぬ入力軸が回転する。既に説明したように、前段減速機構38の構造は、中間減速機構40の構造と同一であり、減速機構38、40の作用も同一であるため、便宜上、中間減速機構40の符号を参照しながら二つの減速機構38、40の作用を説明する。
入力軸44が回転すると、揺動体48が一体的に回転する。揺動体48が回転すると、2つの偏心体50が180度の位相差で偏心回転し、ころ軸受52を介して2枚の外歯歯車54がそれぞれ180度の位相差で揺動する。各外歯歯車54は、内歯歯車56に内接噛合している。このため、外歯歯車54は、1回揺動する毎に内歯歯車56に対して1歯分だけ円周方向の位相がずれる(自転する)。この自転成分が内ローラ62および内ピン64を介して出力軸66のフランジ部66Aに伝達される。これにより、1/(外歯歯車の歯数)の減速比の減速が実現できる。なお、外歯歯車54の揺動成分は、内ローラ62および内ローラ孔60の遊嵌によって吸収される。
前段減速機構38と中間減速機構40は、この順で直列に配置されているため、結局、該前段減速機構38と中間減速機構40は、第1モータ24の回転を、1/{(外歯歯車54の歯数)×外歯歯車54の歯数)}の高減速比で減速することになる。
中間減速機構40の出力軸66が回転すると、スプライン70を介して最終減速機構42の入力軸68が回転し、該入力軸68に設けられている第1ベベルピニオン26が回転する。第1ベベルピニオン26の回転動力は、共通ベベルギヤ32に伝達される。この伝達の際に、該第1ベベルピニオン26と共通ベベルギヤ32との噛合により、両者26、32の歯数比に応じた最終減速機構42の減速がさらに行われ、結局、共通ベベルギヤ32を含む第1駆動系34によって、総減速比1/2000程度の減速がなされる。なお、本発明では減速比は特に限定されない。
また、上記と全く同様の減速作用が、第2駆動系36においても行われる。
本実施形態においては、結局、以下のような駆動方法にて、旋回駆動がなされる。
以下、図4を合わせて参照しながら、詳細に説明する。
<領域A:特定の旋回角度θ1まで>
半導体製造装置14の上面14Aを閉塞した状態から蓋体16を開き始めるときは、特定の旋回角度(起点からの開き角度)θがθ1までは、第1モータ24および第2モータ28の双方の電源がオンとされ、第1駆動系34および第2駆動系36の双方が共同して蓋体16を駆動する(第1の駆動工程)。なお、この角度「θ1」は、第1モータ24のみ(1台のモータのみ)で蓋体16を駆動できる角度より大きければよく、蓋体16の重量や第1駆動系34のトルク等を考慮して適宜に設定される。
第1の駆動工程では、第1駆動系34の第1ベベルピニオン26および第2駆動系36の第2ベベルピニオン30は、双方とも、共通ベベルギヤ32の「開時駆動面」で噛合する。ここで「開時駆動面」とは、「蓋体16を開くときに第1ベベルピニオン26または第2ベベルピニオン30が共通べべルギヤ32を駆動するときに当接する駆動側の歯面」を指している。すなわち、特定の旋回角度θ1までは、第1、第2モータ24、28の駆動力は、いずれも蓋体16の開駆動に活用される。総減速比が1/2000と大きいため、蓋体16は、起点(開度0:水平の全閉の状態)から、ゆっくりと旋回を開始する。
<領域B:特定の旋回角度θ1後の駆動期>
やがて、蓋体16の旋回角度が、特定の旋回角度θ1に至ると、この実施形態では、ここで、作業員が第1モータ24または第2モータ28のいずれか(ここでは第2モータ28)の電源をオフとする(駆動態様を変えた第2の駆動工程)。蓋体16は、重量のある旋回体であり、減速比が非常に大きいことから、蓋体16の開いていく速度は遅く、したがって、作業員の手動によっても、適切な時期にオフ操作を確実に行うことができる。
領域Bでは、電源がオンの状態のまま維持されている第1モータ24は、そのまま回転を続けるため、蓋体16自体は第1駆動系34の第1ベベルピニオン26と共通ベベルギヤ32との開時駆動面での噛合が維持された状態で旋回を続ける。
一方、第2モータ28は、電源がオフとされるため、第2駆動系36の第2ベベルピニオン30の回転速度が低下し、(特定の旋回角度θ1までは共通ベベルギヤ32との開時駆動面で噛合していた)第2ベベルピニオン30は、共通ベベルギヤ32との「開時制動面」で噛合するようになる。ここで、「開時制動面」とは、「蓋体16を開くときに第1ベベルピニオン26または第2ベベルピニオン30が共通べべルギヤ32を制動するときに当接する制動側の歯面(開時駆動面と反対側の歯面)」を指している。これは、第2駆動系36が、共通ベベルギヤ32の回転によって回転させられる逆駆動状態(蓋体16の開操作から見た場合には制動状態)となることを意味している。
この逆駆動時のトルク(制動トルク)は、第2駆動系36および第2モータ28が出力側(共通べべルギヤ32側)から駆動されるときの回転抵抗に相当する。要するに、領域Bでは、蓋体16は、第2ベベルピニオン30側からの制動トルクを受けつつ、(この制動力よりも大きい)第1モータ24の駆動力によって開方向に旋回を続けることになる。
第1モータ24は、自身の駆動力のみで第2駆動系36の制動トルクに抗して蓋体16を駆動し続けることになるが、この状態での蓋体16の自重は、ほぼ全量が駆動シャフト22によって支持されており、第1モータ24が蓋体16の旋回に要するトルクは、極めて低くなっているため、1個だけの駆動でも十分に旋回を維持することが可能である。
<領域C:バックラッシ反転期>
やがて、蓋体16の旋回角度は、90度(鉛直位置)を超え、従来ならばバックラッシが反転することによって蓋体16の位置ずれが発生していた旋回角度(便宜上バックラッシ反転角度と称す)に至る。このとき、蓋体16は自重によって、第1モータ24の回転による旋回速度よりも速い速度で旋回しようとする。従来は、このときのいわゆるバックラッシの反転が、大きな音とともに蓋体16が位置ずれを起こす原因となっていた。
しかしながら、本実施形態では、このとき、既に第2駆動系36の第2ベベルピニオン30は、共通ベベルギヤ32の開時制動面側で噛合するとともに、制動トルクを共通ベベルギヤ32に対して与え続けている。しかも、旋回角度θは、バックラッシ反転角度の近傍であり、未だ蓋体16の自重による開速度を速めようとする力は弱い。したがって、蓋体16が位置ずれを起こす現象を効果的に回避することができる。
蓋体16の自重による影響が次第に大きくなると、第1駆動系34の第1ベベルピニオン26は、共通ベベルギヤ32の開時制動面側での噛合に移行する。第1ベベルピニオン26が共通ベベルギヤ32の開時制動面側で噛合するようになると、その後は、第1駆動系34の回生制動力と第2駆動系36の回転抵抗による制動力にて(より速く開こうとする)蓋体16を支えながら旋回が続けられる。ここまでが、この実施形態における第2駆動工程である。この一連の作用は、作業者が特定の旋回角度θ1で第2モータ24の電源をオフとするだけで、あとは全て自動でなされる。
<領域D:第2の特定の旋回角度θ2以降>
第1駆動系34の第1ベベルピニオン26および第2駆動系36の第2ベベルピニオン30の双方が共通ベベルギヤ32の開時制動面側で噛合する状態に至った時点(蓋体16が第2の特定の旋回角度θ2まで旋回した時点)を見計らって、作業者は、第2モータ28の電源を再びオンとする(第2の駆動工程と異なる第3の駆動工程)。なお、この角度「θ2」は、鉛直位置(90度)よりも大きく、かつ第1モータ24のみ(1台のモータのみ)では蓋体16を回生制動し切れない角度より小さい角度であればよく、蓋体16の重量や第1駆動系34の回生制動力等を考慮して適宜に設定される。
第3の駆動工程に入ると、以降は、第1、第2駆動系34、36の双方が回生制動状態となって蓋体16の開方向の速度増大を抑えながら旋回が継続されることになる。この実施形態の場合、第2の駆動工程と異なる第3の駆動工程は、実質的には第1の駆動工程と同一である。これにより、蓋体16の開操作の開始から終了まで、蓋体16のバックラッシの反転による位置ずれがなく、しかも、旋回速度が殆ど変わらない駆動を行うことができる。
なお、蓋体16が180度開いた状態から0度にまで閉められるときは、上記開操作と第1、第2モータの回転方向が上記と逆になるだけで、全く同様な作用が得られる。
本実施形態によれば、第1モータ24および第2モータ28の電源を、独立して(作業者が)操作するだけで簡単にバックラッシの反転による蓋体16の位置ずれを防止することができる。
また、本実施形態では、第1駆動系34の第1ベベルピニオン(第1歯車)26の動力と、第2駆動系36の第2ベベルピニオン(第2歯車)30の動力が、共通の単一の動力伝達部材である共通ベベルギヤ32に伝達されるように構成され、かつ、この共通ベベルギヤ32が、各駆動系34、36の最終減速機構(最終段)42、84の歯車であるため、この部分でのバックラッシをなくすことにより、蓋体16の位置ずれ現象を非常に効果的に解消することができる。
また、採用されている第1、第2モータ24、28は、一般的な誘導モータであり、複雑な制御も必要としないため、低コストである。とりわけ、駆動トルクの必要な旋回開始(あるいは旋回終了付近)においては、2系統の駆動系の駆動力(あるいは回生制動力)を活用することができるため、1個当たりのモータの容量は、従来のほぼ半分で済ますことができている。したがって、低コストな上に、装置全体を小型化でき、取り扱いも容易である。本実施形態では、最終減速機構42、84が直交減速機構であるため、半導体製造装置14から第1、第2駆動系34、36が突出する距離L1を最小限に抑えることができ、この点でも、半導体製造装置14全体の小型化を実現できている。
また、前記複雑な制御を必要としないという作用効果は、単にコスト的な面だけでなく、半導体製造装置14の蓋体16の旋回装置12は、旋回の制御系から発散される電気的ノイズを極端に嫌うため、当該「電気的ノイズの低減」という意味でも有効である。
なお、上記実施形態においては、第1の駆動工程と異なる第2の駆動工程を、第2モータ28の電源をオフとする手法で実現するようにしていたが、本発明においては、この第2の駆動工程は、これ以外にもさまざまな制御手法(変形例)が考えられる。
第1に、上記実施形態では、作業者自身が、旋回の途中で「手動で」第2モータ28の電源をオフとするようにしていたが、制御手段での切り換えによって自動的にオフとされるようにしてもよい。このためには、その時点での蓋体16の旋回角度を検出あるいは確認する手段(旋回開始からの経過時間のカウントで代用してもよい)を備えた上で、前記制御手段として、『蓋体16の旋回の起点(旋回角度0度)から特定の旋回角度θ1まで、第1モータ24および第2モータ28で蓋体16の駆動シャフト(旋回軸)22を駆動する第1の駆動工程と、前記特定の旋回角度θ1以降、第1、第2モータ24、28の少なくとも一方(例えば第2モータ28)を別の駆動態様(例えばオフとする制御態様)で駆動する第2の駆動工程と、を切り換える』制御手段を、旋回装置12に備えるようにすればよい。
また、例えば、第1、第2モータのいずれかがインバータ制御機構を有している場合には、第2の駆動工程は、該インバータ制御機構を有している方のモータを、有していない方のモータに対して相対的に「減速する」ように切り換える工程としてもよい。これにより、基本的に先の実施形態と同様の作用を得ながら、当該「減速の程度」により、減速された方の駆動系での開時制動面に掛け得るトルクをより積極的に調整することができる。
また、いずれかのモータがインバータ制御機構を有している場合には、第2の駆動工程は、該インバータ制御機構を有している方のモータを、有していない方のモータに対して相対的に「増速する」ように切り換える工程としてもよい。このようにしても、結果として基本的に先の実施形態と同様の作用を得ながら、当該「増速の程度」により、相対的に遅くなった方の駆動系での開時制動面に掛け得るトルクを間接的に調整することができる。また、この一方のモータの回転速度を他方に対して増速する手法では、「第1、第2モータに負荷があまり掛かっていないとき(Bの領域)では、蓋体の旋回速度を積極的に速める」という新たな効果が得られる。これにより、蓋体が180度にまで開き切るまでの時間をより短縮することができるようになる。
もちろん、一方のモータを減速するとともに、他方のモータを増速するようにしてもよい。モータの数も2個に限定されない。3個以上有している場合には、順に電源をオフとすることで、駆動力や制動力の急変を緩和することもできようになる。
また、一方のモータがインバータ制御機構を有している場合には、該一方のモータに対して、電流制限をかけることにより発生トルクを制限する方法を用いてもよい。これにより、トルク制限を掛けられなかったモータの負荷が必然的に大きくなり、滑りが大きくなって回転速度が低下する。一方、トルク制限を掛けられた方のモータは、受け持つトルクが小さい分(負荷が軽いため)小さな滑りで速い回転を維持することができ、結果として共通ベベルギヤの第1、第2ベベルピニオンを共通ベベルギヤの開時駆動面および開時制動面の双方にそれぞれ噛合させることができる。
なお、「一方のモータを減速する」という作用に着目するならば、(必ずしもインバータ制御機構を有していなくても、代わりに電磁ブレーキや摩擦ブレーキ等のブレーキ機構を備えてさえいれば)該ブレーキ機構を備えた一方のモータに対してのみ、制動を掛けることでも同様の作用効果を得ることができる。また、「制動の程度」により、減速された方の駆動系での開時制動面に掛け得るトルクを積極的に調整することもできる。つまり、本発明において、「モータの駆動態様を変える」とは、モータ自体を制御する態様を変える場合だけでなく、モータに付随する装置を制御することによってモータの駆動態様を変える場合も含まれる。
ところで、上記実施形態においては、第1駆動系34の第1ベベルピニオン26と第2駆動系36の第2ベベルピニオン30が、(第1、第2駆動系34、36に兼用の)単一の共通ベベルギヤ(動力伝達部材)32に同時に噛合する構成が採用されていた。しかしながら、本発明は、必ずしもこのような構成でなくても実現可能である。
この具体的な構成例を図5および図6に示す。
この実施形態では、第1モータ88、および第1駆動系90の最終段に第1ベベルピニオン(図示略)および該第1ベベルピニオンと噛合する第1ベベルギヤ92を有する第1減速機94と、第2モータ96、および第2駆動系98の最終段に第2ベベルピニオン(図示略)および該第2ベベルピニオンと噛合する第2ベベルギヤ100を有する第2減速機102を備えている。
また、第1減速機94の最終段の第1ベベルギヤ92が固定された出力軸(出力部材)95および第2減速機102の最終段の第2ベベルギヤ100が固定された出力軸(出力部材)101が、単一の被駆動部材(動力伝達部材)である駆動シャフト(旋回軸)104にキー106、108を介して連結されている。
この実施形態にあっては、第1駆動系90の第1ベベルピニオンと第1ベベルギヤ92、および、第2駆動系98の第2ベベルピニオンと第2ベベルギヤ100が、開時駆動面と開時制動面をそれぞれ独自に有していることになる。
しかし、このような構成であっても、例えば、第2駆動工程において、速度が遅くなるように駆動態様が変えられたモータ(第1モータ88または第2モータ96)が取付けられている側の駆動系では、当該駆動系のベベルピニオンとベベルギヤが該ベベルギヤの開時制動面側で当接するようになる。また、速度が変わるような制御の変更が特に行われなかった方の駆動系では、開時駆動面での当接がそのまま維持されることになる。これは、上記実施形態における第1駆動系34と第2駆動系36の共通ベベルギヤ32に対する第1ベベルピニオン26または第2ベベルピニオン30の当接態様と同等であり、被駆動部材である駆動シャフト22に対する作用とも同等である。したがって、この構成によっても、上記構成と同様の基本的な作用を得ることができる。
さらに、この実施形態に係る構成では、第1、第2減速機94、102自体は、通常の(独立した単体の)減速機を使用することができる。そのため、他の用途にも使用可能な汎用の減速機を使用することができるという大きなメリットが得られる。より具体的にメリットの例を挙げると、例えば、一般にベベルピニオンとベベルギヤの製造を行う場合、両者は「ペア」で製造される。すなわち、仕上げ工程において、微細な砥粒の存在する環境下でいわゆる馴染み運転を行い、両者の歯当たりを調整する作業等が行われる。先の実施形態では、1つのべべルギヤに2つのベベルピニオンが噛合するため、この調整作業の実行が実際には困難な場合があると考えられる。しかしながら、この実施形態では、2セットのベベルピニオンとベベルギヤの歯当たりを1セットずつ別々に調整した汎用の減速機を使用できるため、駆動系の製造が容易である。そのため、コスト的、あるいは納期的な面で、この構成の方が先の実施形態よりも、むしろ有利になる場合も多いと考えられる。
図7および図8に、さらに他の実施形態の一例を示す。
先の実施形態においては、いずれも最終段の減速機構に直交減速機構が採用されていたが、この実施形態では、最終段に、平行軸減速機構110が採用されている。第1駆動系114は第1モータ111によって駆動され、第2駆動系118は第2モータ113によって駆動される。第1駆動系114の最終段の第1スパーピニオン116、および第2駆動系118の最終段の第2スパーピニオン120がそれぞれ第1、第2歯車に相当し、第1スパーピニオン116、および第2スパーピニオン120が同時に噛合しているスパーギヤ122が、動力伝達部材に相当している。
この実施形態では、平行軸減速機構110が採用されていることから、先の実施形態よりもさらに低コストでの製造が実現できる。また、2つの第1、第2スパーピニオン116、120と1つのスパーギヤ122の噛合についても、先の実施形態のような直交系ほどは、シビアな歯当たり調整を必要としないため、この面でもより低コストな製造が可能である。
なお、上記実施形態においては、第1、第2モータおよび第1、第2駆動系は、いずれも同一の(構成および容量の)ものが使用されていた。しかしながら、本発明は、必ずしも第1、第2モータ、あるいは第1、第2駆動系は同一の構成、あるいは容量である必要はない。特に、モータの容量が異なると、駆動力あるいは旋回角度に応じて負荷が変わってきたときの両モータの滑り特性が異なってくるため、速度の変化に対する影響や、回生制動時の制動特性も異なってくる。これは、換言するならば、より1台1台の旋回装置の個別的な事情により合致した特性を得ることができるようになる可能性が高くなるということであり、設計の自由度が拡大する。また、それぞれの駆動系の構成を異ならせることにより、より好ましい作用効果が得られることもある。例えば、常に駆動している側の最終段をベベルギヤセットで構成し、電源をオフとする側の駆動系をハイポイドギヤセットあるいはウォームギヤセットで構成することにより、常に駆動している側の駆動効率を高く維持しながら、電源がオフとされた側で発生される逆駆動抵抗(制動力)をより高める設計が可能である。
なお、上記実施形態においては、電気的ノイズの発生低減、および低コスト化を意図して、特定の旋回角度θ1、θ2における駆動工程の切り換えを作業者が手動で行うようにしていたが、旋回角度θ1だけでなく、θ2における駆動工程の切り換えについても、旋回装置自体にこの切り換え機能を持たせるように制御手段を構成してもよいのは言うまでもない。
また、上記実施形態においては、いずれもバックラッシが不可避的に存在する歯車減速機構にて第1、第2駆動系が構成される例が示されていた。しかし、例えば、旋回体の駆動系が、トラクションローラによる駆動やプーリによる駆動のように、それ自体にはバックラッシがない駆動機構で構成されているような場合であっても、駆動系全体の中にキーやスプライン等が存在し、この部分でバックラッシが発生する虞がある場合にも、本発明は有効に適用可能である。
また、上記実施形態においては、旋回体が水平から水平まで180度旋回する例が示されていたが、鉛直位置を跨ぐ旋回である限り、旋回の具体的な角度は問われない。
ここで、これまでの実施形態では、「特定の旋回角度以降は、別の駆動態様で駆動するようにするように制御する」構成を採用していた。すなわち、一方の駆動系が他方の駆動系に対して、旋回角に依存して相対的に「制動」として機能するように構成していた。
しかし、本発明は、敢えて特定の旋回角度で駆動態様を切り換えなくても、例えば、第1駆動系の構成と第2駆動系の構成に適正な「差別化」を行うことにより、自動的に同様な切り換えが行われるように構成することもできる。
以下、この第1駆動系の構成と第2駆動系の構成を「差別化」するタイプの実施形態の例について詳細に説明する。
このタイプの実施形態では、例えば、先ず、第1モータによって駆動される第1駆動系と第2モータによって駆動される第2駆動系を用意し、この第1駆動系と第2駆動系の動力が(共通の)動力伝達部材に同時に伝達されるように構成する。その際、第1駆動系と第2駆動系で差別化がなされる。差別化の第1の例としては、第1駆動系の減速比と第2駆動系の減速比を異ならせる構成が考えられる。差別化の別の一例としては、第1駆動系の第1モータの容量と第2駆動系の第2モータの容量を異ならせる構成が考えられる。
これらの差別化により、駆動系のバックラッシの反転によって旋回体に位置ずれが発生するのを防止できる。
以下、減速比を異ならせることによって差別化する例から、より具体的に説明する。
この実施形態においても、基本的なハード構成としては、例えば既に説明した構成(図1〜図3の構成)を利用できる。ただし、この実施形態では、第2駆動系36の減速比G2が、第1駆動系34の減速比G1に対して、いずれかの歯車の歯数を僅かだけ(例えば1〜2だけ)多く(または少なく)することによって、僅かだけ大きくなるように設定している(減速比G1<減速比G2)。この第2駆動系36の減速比G2の減速比の変更は、具体的には第2駆動系36のどの部位の歯車の歯数を変えることによって行ってもよい。第2駆動系36の特定の歯車の歯数を変えることによって第2駆動系36全体の減速比G2がどの程度変わってくるかは、変える部分の歯車の種類および歯数によって異なる。このため、第1、第2駆動系34、36の間に発生させようとする全体の「速度差」を考慮して、適宜の部位の歯車の歯数を僅かだけ変えるようにすればよい。なお、どの程度変えるべきは、後述するように、意図する設計手法に依る。
第1駆動系34の減速比G1と第2駆動系36の減速比G2が異なっていたとしても、共通ベベルギヤ32および該共通ベベルギヤ32と一体的に回転する駆動シャフト22は、(剛体であるため)特定の回転速度で回転する。この回転速度は、さまざまな要素、例えば、減速比G1とG2の比、蓋体16に現に掛かる旋回負荷、第1、第2誘導モータ24、28の同期回転速度に対する滑り率−トルク特性等に依存して決まる。旋回負荷は、旋回開始からの旋回角度θによってリアルタイムで変化するため、第1、第2誘導モータ24、28の滑りもリアルタイムで変化し、したがって蓋体16の実回転速度もリアルタイムで変化する。
但し、第1駆動系34も第2駆動系36も駆動シャフト22を同一の方向(蓋体16の開方向)に駆動しているため、蓋体16の旋回が停滞したり、戻ったりすることはない。
第1、第2駆動系34、36の減速比G1、G2が異なる場合の代表的な設計例を以下に2つ示す。
第1の設計例は、第1、第2誘導モータ24、28の容量を、大きめに確保し、かつ減速比G1、G2の相違を比較的大きめに設定することで、旋回開始時を含め第2ベベルピニオン30を、常時、共通ベベルギヤ32と「開時制動面」で噛合させる設計である。第2の設計例は、比較的小さめの容量の第1、第2誘導モータ24、28を用い、かつ減速比G1、G2の相違を比較的小さめに設定することで、旋回負荷の高い旋回開始時には、第1、第2ベベルピニオン26、30の双方が共通ベベルギヤ32の「開時駆動面」で噛合して蓋体16の駆動に寄与する設計である。
前述したように、「開時駆動面」とは、「蓋体16を開くときに第1ベベルピニオン26または第2ベベルピニオン30が共通べべルギヤ32を駆動するときに当接する駆動側の歯面」を指す。また、「開時制動面」とは、「蓋体16を開くときに第1ベベルピニオン26または第2ベベルピニオン30が共通べべルギヤ32を制動するときに当接する制動側の歯面(開時駆動面と反対側の歯面)」を指す。なお、第1、第2のいずれの設計例においても、減速比G1、G2の具体的な値は、意図する動作が実現できるように適切に設定されればよく、特に限定されない。
第1の設計例から説明する。
第1の設計例は、比較的小さな滑り率でも蓋体16を駆動できるように、第1、第2誘導モータ24、28の容量を、大きめに確保し、かつ減速比G1、G2の相違を比較的大きめに設定するものである。これにより、第1駆動系34の第1ベベルピニオン(第1歯車)26を、常時、共通ベベルギヤ(動力伝達部材)32と開時駆動面で噛合させ、かつ第2駆動系36の第2ベベルピニオン(第2歯車)30を、常時、共通ベベルギヤ32と「開時制動面」で噛合させることができる。
より具体的に説明すると、第1、第2誘導モータ24、28の容量が大きい場合、蓋体16は、比較的小さな滑り率(同期回転速度に近い回転速度)で駆動される。このため、減速比G1とG2の相違によってもたらされる第1、第2駆動系34、36の回転速度の相違がこの滑り率よりも大きくなり、第1ベベルピニオン26は共通ベベルギヤ32と開時駆動面で噛合し、第2ベベルピニオン30は共通ベベルギヤ32と開時制動面で噛合するようになる。蓋体16との速度差は第1、第2誘導モータ24、28の滑りで吸収される。
この噛合態様は、蓋体16が鉛直位置に近づいても変わらない。したがって、従来ならばバックラッシが反転してしまうような鉛直位置を越えた位置まで旋回が進行してきても、第2駆動系36の第2ベベルピニオン30が、常に、共通ベベルギヤ32に対して回生制動力を与え続けており、蓋体16が位置ずれを起こす現象を効果的に回避することができる。
蓋体16が鉛直位置を越えると、蓋体16の自重が旋回速度を速めようとする方向に働くようになるが、第2駆動系36の第2ベベルピニオン30が共通ベベルギヤ32の開時制動面で噛合して強い回生制動力を与え続けるため、蓋体16は、暴走することなくゆっくりと開操作を継続する。
このときの第1ベベルピニオン26の噛合状態(開時駆動面での噛合か、開時制動面での噛合か)は、第2駆動系36側の回生制動力の強さ、および蓋体16のそのときの旋回負荷(マイナス負荷)の強さに依る。この第1の設計例では、第1、第2誘導モータ28の容量が大きいため、第1誘導モータ24は、共通ベベルギヤ32の開時駆動面で(軽負荷で)噛合することが多いと考えられる。速度差分は、第1誘導モータ24での滑りで吸収される。もし、第2誘導モータ28の回生制動力だけでは十分な回生制動ができず、第2誘導モータ28の同期回転速度よりも実回転速度がかなり速くなるときは、第1誘導モータ24も開時制動面側で噛合するようになり、第1、第2誘導モータ24、28の双方の回生制動力にて蓋体16の支持がなされる。
いずれにしても、蓋体16の開操作に当たっては、第1、第2誘導モータ24、28の電源をオンとするだけで、特別な制御を全く行うことなく、バックラッシの反転による位置ずれの生じない旋回駆動を行うことができる。
次に、第1、第2駆動系34、36の減速比G1、G2を異ならせる場合の第2の設計例について説明する。この第2の設計例は、比較的小さめの容量の第1、第2誘導モータ24、28を用い、誘導モータの「負荷が掛かると滑り率が大きくなる特性」を、積極的に活用したものである。
すなわち、この第2の設計例では、旋回負荷の高い旋回開始時には、第1、第2ベベルピニオン26、30の双方が共通ベベルギヤ32の開時駆動面で噛合し、鉛直位置の近傍で第2駆動系36の第2ベベルピニオン30が開時制動面側で噛合し、その後は、第1、第2ベベルピニオン26、30の双方が共通ベベルギヤ32の開時制動面で噛合する。
より具体的には、第1、第2誘導モータ24、28の容量(基本的な発生トルク)があまり大きくない場合、回転速度が速く設定されている第1駆動系34の第1ベベルピニオン26は、共通ベベルギヤ32側の開時駆動面で噛合し、旋回角度θが小さいときの大きな旋回負荷を受けることによって大きく滑る。この滑りにより、第2駆動系36の第2ベベルピニオン30の回転速度を下回るほどに回転速度が低下すると、結局、第1ベベルピニオン26と第2ベベルピニオン30の双方が滑りを伴って共通ベベルギヤ32の開時駆動面で噛合するようになる。
第2誘導モータ28の滑りは、第2駆動系36の減速比が大きい分、第1誘導モータ24の滑りよりも小さい。しかし、第2駆動系36は、第1駆動系34よりも減速比が大きいため、(第2誘導モータ28の滑りが小さくて発生トルクが小さくても)第2ベベルピニオン30から共通ベベルギヤ32に伝達されるトルクはそのまま小さくはない。結局、第1ベベルピニオン26と第2ベベルピニオン30の負担する負荷がほぼ同一となるような第1、第2誘導モータ24、28の滑り率(あるいは蓋体16の回転速度)にて第1、第2駆動系34、36がバランスし、両駆動系34、36が共同して蓋体16の駆動に寄与するようになる。
しかしながら、やがて、蓋体16の旋回角度θが鉛直位置の近傍に近づくに従って、旋回負荷は急減していくため、第1誘導モータ24の滑りが僅かとなり、(先の第1の設計例と類似した状態となって)第2ベベルピニオン30は、開時制動面で噛合するようになり、共通ベベルギヤ32に対して回生制動力を与える。そして、旋回角度θが鉛直位置を越えて全開に近づいてゆくと、第1ベベルピニオン26も開時制動面で噛合するようになって、第1、第2誘導モータが共同して回生制動力を発生する状態が形成される。
この第2の設計例では、第1、第2誘導モータ24、28として、容量の小さなモータを使用することができ、小型、低コストで、取り扱いの容易な旋回装置を得ることができる。
次に、第1駆動系と第2駆動系の差別化を第1、第2誘導モータ24、28の容量の相違(基本的な発生トルクの大小)によって行う設計例(第3の設計例)について説明する。
今、例えば、基本的に一方のモータのみで蓋体16を駆動することができるような大きな容量のモータとこれより小さな容量のモータとを用意したとする(減速比は、同一でも異なっていてもよい、ここでは理解を容易にするために同一であると仮定して説明する)。
第1誘導モータ24よりも第2誘導モータ28の方が容量が大きい誘導モータであるとすると、この場合、大きな容量の第2誘導モータ28は、小さな容量の第1誘導モータ24と同じトルクを受け持つ場合に滑りが小さい(速い回転速度で回転できる)。
第1、第2誘導モータ24、28の電源をオンとすることで蓋体16の駆動が開始されると、容量が大きな第2誘導モータ28は、滑りを伴いながらも、蓋体16の旋回負荷を受け止め、同期回転速度よりも(小さな)滑りの分だけ遅い回転速度で蓋体16を駆動する。即ち蓋体16は、基本的に第2誘導モータ28の滑りで規定される回転速度で旋回する。
このとき、容量の小さな第1誘導モータは、同じトルクを出力するには、より遅い回転速度とならなければならない状況にある。しかるに、共通ベベルギヤ32は、それよりも速い回転速度で現に回転している。第1誘導モータ24は、この回転速度(滑り率)では、共通ベベルギヤ32をより速く回転させるだけのトルクを出力することはできない。一方、共通ベベルギヤ32の側は、(第2駆動系36での駆動により)第1ベベルピニオン26を駆動し得る大きな回転トルクで回転している。したがって、第1ベベルピニオン26は、結局、共通ベベルギヤ32の開時制動面で噛合し、むしろ共通べべルギヤ32側から回転トルクを受けることになる。これは、蓋体16の開操作に対し、抵抗となる状態で(回生制動を発生する状態)で回転することを意味する。
鉛直位置に近づき、旋回負荷が変わっても(軽くなっても)旋回負荷が正である限り、第1ベベルピニオン26が開時制動面側で噛合するという状況は変わらない。鉛直位置を越えて従来ならばバックラッシが反転するような位置にまで蓋体が旋回してきた場合、従来ならば、進行方向後側に存在していたバックラッシ分の位置ずれが発生したが、本実施形態では、旋回負荷が反転したときに、第1ベベルピニオンは既に共通べべルギヤ32の開時制動面側で噛合しているため(バックラッシはなく)、直ちに回生制動を増大させ得る状況にある。そのため、このように容量の異なる二つのモータを用いても、位置ずれが発生するのを、第1駆動系34側の回生制動によって回避することができる。なお、鉛直位置を過ぎて蓋体16の自重の影響が大きくなると、第1誘導モータ24および第2誘導モータ28の双方に対して回生制動が掛かるようになる。
このように、減速比の相違の差別化、およびモータ容量の差別化のいずれの差別化においても、上記第1〜第3設計例にあっては、電気的な制御を全く行う必要がない。すなわち、蓋体16の旋回開始時に第1、第2誘導モータ24、28の電源をオンとし、旋回終了時にオフとするだけで、蓋体16の開操作の開始から終了まで、蓋体16のバックラッシの反転による位置ずれがなく、しかも、蓋体16を十分にコントロールできる旋回を行うことができる。
なお、蓋体16を閉めるときは、上記開操作と第1、第2誘導モータ24、28の回転方向が逆になり、旋回開始位置と旋回終了位置が上記とは逆になるだけで、全く同様な作用が得られる。
また、本実施形態では、第1駆動系34の第1ベベルピニオン(第1歯車)26の動力と、第2駆動系36の第2ベベルピニオン(第2歯車)30の動力が、共通の単一の動力伝達部材である共通ベベルギヤ(単一の歯車)32に伝達されるように構成され、かつ、この共通ベベルギヤ32が、各駆動系34、36の最終減速機構(最終段)42、84の歯車であるため、この部分でのバックラッシをなくすことにより、蓋体16の位置ずれ現象を非常に効果的に解消することができる。
また、本実施形態では、最終減速機構42、84が直交減速機構であるため、半導体製造装置14から第1、第2駆動系34、36が突出する距離L1を最小限に抑えることができ、この点でも、半導体製造装置14全体の小型化を実現できている。
さらに、採用されている第1、第2誘導モータ24、28は、一般的な誘導モータであり、旋回のための制御を全く必要としないため、低コストである。また、この特別な制御を必要としないという作用効果は、単にコスト的な面だけでなく、半導体製造装置14の蓋体16の旋回装置12は、旋回の制御系から発散される電気的ノイズを極端に嫌うため、当該「電気的ノイズの低減」という意味でも有効である。
なお、以上の説明では、減速比を異ならせる設計例について2例、モータ容量を異ならせる設計例について1例のみを掲げていたが、本発明は、必ずしもこれらの設計例のみに限定されるものではない。特に、モータ容量による差別化にあっては、蓋体16の旋回負荷が「大きな正」の値から「小さな正」、「0」、「負」の値へと変化するものであり、また、誘導モータの滑りの度合い(回転速度)がこの旋回負荷に依存すると共に、依存の程度(滑り−負荷特性)が、モータ容量ごとに異なるものであるため、これらの特性を利用して2つの駆動系に速度差を発生させる設計は、具体的にはこのほかにも種々の設計が考えられる。
さらに、本発明では、速度比による差別化とモータ容量による差別化を組み合わせるようにしてもよく、この場合、設計の自由度は格段に広がり、無駄がなく(小さな容量の誘導モータを使用でき)、かつ鉛直位置近傍でより確実に制動を効かせることもできるようになる。
なお、本発明においては、誘導モータの数(駆動系の数)も2個(2系統)に限定されない。例えば、3個の誘導モータを有している場合には、1個の共通べべルギヤにそれぞれのベベルピニオンを同時に噛合させるようにすればよい。この場合、全ての駆動系に減速比、あるいは容量についての差別化をしてもよく、特に差別化されていないグループがあってもよい。あるいは、この「1対の誘導モータ」については減速比による差別化、この「1対の誘導モータ」については容量による差別化、というように組み合わせてもよい。これにより、一層きめ細かく旋回体をコントロールできるようになるだけでなく、1個当たりの誘導モータの容量をさらに低減することができるようになる。
なお、このような減速比やモータ容量で差別化する場合においても、先の図5、図6を用いて説明したような、2つの減速機を共通の駆動シャフト(旋回軸)に連結する構成や、図7、図8を用いて説明したような、最終段に、平行軸減速機構を使用する構成を同様に採用することができる。
さらには、先の旋回角度に依存した制御に係る実施形態を採用する場合を含め、図9〜図11に示されるような構成を採用することもできる。
図9(A)、(B)に示した例では、基本構成は、図5、図6で説明した構成と共通している。なお、先の実施形態と実質的に同様の部分には、同一の符号を用い、重複説明は省略する。具体的には、第1駆動系90を有する第1減速機94と、第2駆動系98を有する第2減速機102とを備え、第1減速機94の(ホロー構造の)出力軸(出力部材)95と第2減速機102の出力軸(出力部材)101が、駆動シャフト(旋回軸)104(22相当)に連結される構成をベースとしている。
ここで、当該旋回装置12が組み込まれている半導体製造装置(親装置)14の蓋体16は、設置面F上に構築した支持部材23を介して自立している。支持部材23は、ヒンジ機構H1を有している。具体的には、支持部材23に設けられた貫通孔に駆動シャフト104が挿通され、支持部材23との滑り接触により、あるいは軸受を介して駆動シャフト104が回転自在に支持されている。また、この図9の実施形態では、第1減速機94および第2減速機102は、駆動シャフト104の両端に組み付けられ、旋回のための駆動力(または制動力)を該駆動シャフト104の両側から提供している。すなわち、蓋体16のフレーム18のアーム部材18A、18Bを挟んで、駆動シャフト104を、両側から駆動または制動している。このため、(図5、図6の例のように)該駆動シャフト104が一端側から強く捻られることがなく、したがって、蓋体16が旋回に伴って傾いたりすることがなく、機構的により円滑な旋回が可能である。
図10(A)、(B)に示した例も、やはり図5、図6を用いて説明した構成、すなわち、2つの減速機を共通の駆動シャフト(旋回軸)104に連結する構成をベースとしている。しかし、この実施形態では、第1減速機94および第2減速機102自体が、当該旋回装置の組み込まれている半導体製造装置(親装置)14の壁面14Aにプレート152を介して固定され、かつ、該第1減速機94および第2減速機102のそれぞれのホロー構造の出力軸95、101が、短い駆動シャフト104を一体回転可能に支持している。
この結果、第1減速機94および第2減速機102は、蓋体(旋回体)16のヒンジ機構H2を構成している。この構成は、蓋体16を第1、第2減速機94、102がもともと有しているホロー構造の出力軸95、101の軸受機構(図6参照)を、駆動シャフト104のヒンジ機構H2として利用するものであり、先の実施形態における支持部材23に形成したような旋回装置12側での駆動シャフト104のヒンジ機構H1を省略できるようになる分、より低コスト化が可能である。
また、図11(A)、(B)は、図10の変形例を示している。この例では、当該旋回装置12の組み込まれている半導体製造装置(親装置)14が、一般に蓋体16に近い上部に真空引きをするチャンバ14Bが設けられていて、変形を嫌うことを考慮している。すなわち、第1減速機94および第2減速機102を、当該旋回装置12が組み込まれている半導体製造装置14のより強度の高いベース部(特定の部分)14Cに連結した土台160上に固定したL字状の支持脚162を介して、該半導体製造装置14にそれぞれ固定するようにしている。この第1減速機94および第2減速機102の支持脚162への固定により、該第1減速機94および第2減速機102自体が、ヒンジ機構H2を構成するときの固定部が形成される。
第1減速機94および第2減速機102が、ヒンジ機構H2を構成する場合は、該第1減速機94および第2減速機102を固定した周辺は、蓋体16の自重や旋回トルクの反力により、変形し易いが、この構成により、変形を嫌うチャンバ14Bには、蓋体16の自重や旋回トルクの反力が掛からないため、該チャンバ14Bが変形するのを最小限に抑えることができる。
なお、上記駆動系の「差別化」を行う実施形態においては、第1、第2駆動系は、いずれも歯数以外は同一の構成のものが使用されていた。しかしながら、この場合の第1、第2駆動系は必ずしも同一の構成である必要はない。例えば、駆動により寄与する側と制動により寄与する側が決まっている場合等にあっては、駆動により寄与する側の駆動系の一部をベベルギヤセットで構成し、制動により寄与する側の駆動系の一部をハイポイドギヤセットあるいはウォームギヤセットで構成することにより、全体の駆動効率を高く維持しながら、回生制動状態に入ったときの制動力をより高める設計が可能である。
さらに、上記実施形態においては、(旋回角度に依存して駆動態様を変更する実施形態を含めて、いずれも)第1、第2モータとして「誘導モータ」を用いることで、該誘導モータの有する「滑り量(回転速度)によって発生するトルクが異なる特性」や、「負荷側からの強制的な速度変更を滑りによって吸収する特性」等を有効に活用し、特に、制御系を全く有しない旋回装置を低コストで構築することに寄与させていた。しかし、本発明に係る第1、第2モータは、必ずしも「誘導モータ」でなければならないものではない。また、本発明の第1、第2モータは、必ずしもモータ自体が滑りを吸収する機能を有していなければならないものでもない。例えば、滑りを吸収するという点に関しては、駆動系内に流体継手やパウダクラッチのような滑りを許容する機構を介在させれば、(モータ自体に滑り吸収機能がなくても)問題なく、2つの駆動系の速度差を吸収することは可能である。また、第1、第2モータのいずれか一方が誘導モータでなくても(滑りを許容しないモータであっても)他方が誘導モータであれば、第1、第2駆動系の速度差を十分吸収可能である。また、いずれかまたは双方の駆動系に何らかの「制御系」を持たせるならば、双方とも誘導モータでなくても(例えば磁石モータのようなものであっても)、また、駆動系に滑りを吸収可能な機構を特に有しなくても、本発明の意図する作用効果を実現することは可能である。すなわち、本発明は、第1、第2モータの駆動に、(第1、第2モータが誘導モータの場合を含め)補助的に何らかの制御を行うことを禁止するものではない。