JP6079404B2 - ディスク形状品の鍛造加工方法 - Google Patents
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Description
Ni-20Cr-4Mo-13Co-3Ti-1.4Al-B-Zrの組成を有するワスパロイ(United Technologie社の商標)はその代表的なものである。
ワスパロイでは、γ′相の析出強化に加えて固溶強化と、炭化物の析出強化による複合的な強化が行われる。ワスパロイはそのために有効なMoを含んでいる。
Ni基耐熱合金はオーステナイト単相材料であるため、相変態を利用した結晶粒微細化ができず、再結晶温度以上の温度での熱間鍛造により結晶を再結晶させることで結晶粒を微細化することが行われている。
Ni基耐熱合金部材の引張強度や疲労強度に対しては、結晶粒界は転位の運動の障壁として働くため、粒界強度は粒内強度よりも大きく、従って結晶粒を微細化することが上記の引張強度等の強度向上に有効であるとされている。
これは、高温におけるクリープ変形のような歪み速度の小さい場合は粒界滑りが生じて粒界で破壊するようになること、その際に結晶粒が過剰に微細であると粒界面積が大となって粒界での破壊が生じ易くなること、等の理由によるものと考えられている。
従って高温クリープ強度に関しては結晶粒を過剰に微細化させない方が良い。
生成した再結晶粒はその後成長し、次第に大きくなって行くが、初期結晶粒が粗大であると、その結晶粒の芯部に到るまで再結晶による結晶成長が及ばずに、芯部が未再結晶部分として残り易い。
またこの型鍛造では、被処理材に付与される歪みが不均等となり易く、そして歪み不均等によって結晶粒が不均等となり易い。
但しこの特許文献1には、鍛造工程でγ′が析出することに起因して組織が過剰に微細化してしまうことの知見は開示されておらず、この点において基本的に本発明とは異なっている。
しかしながらこの特許文献2に開示のものは、目標とする組織がASTM#12〜#14の過剰微細粒を目的とする点で、またγ′析出状態の下で回転鍛造によるディスク形状品を行う点で本発明と異なる。
特に#4〜#6の組織を得るための加工条件として、請求項2は好適な条件を与える。
このときの粒成長挙動が図4(C)に示してある。
図に示しているように、結晶粒度は鍛造直後に当初の#4から#10へと急上昇し(急激変化し)、その後保持時間の経過とともに粒成長して結晶粒度が低下して行く。
図において、1030℃の下では結晶粒度は最終的に#4に収束している。
図において、Aは前鍛造(粗鍛造)としてのビレット鍛造プロセスを、Bは仕上げ鍛造としてのディスク鍛造プロセスを示している。
このビレット鍛造プロセスでは、空冷AC1後の加工品12の組織がASTM結晶粒度#4となるように鍛造パスを設計した。
尚このディスク鍛造プロセスBにおいては、均熱温度,各リヒート工程でのリヒート温度,ST処理の温度の何れも1030℃とした。
即ち鍛造工程,リヒート工程を含む全体の鍛造条件をそのように設定して、ディスク鍛造プロセスBを実行した。
また前鍛造としてのビレット鍛造プロセス終了後の加工品12についてもその組織を調べたところ、同様にその組織はASTM結晶粒度がほぼ#10の微細なものであった。
結果は結晶粒は粒成長せず、16hrの長時間保持後も結晶粒度はほぼASTM#10ないしこれに近いものであった。
これに対して1070℃に保持したときには、保持時間4hrで結晶粒度は#2となり、結晶粒は粒成長していた。尚1030℃,1070℃保持の何れにおいても、結晶粒度の測定は保持後水冷したものについて行った。
図7中(B)が1030℃保持後の組織を示しており、また(D)が1070℃保持後の組織を示している。
尚、(A)は加熱保持する前の初期組織を示している。
またビレット鍛造プロセス後においてもASTM結晶粒度がほぼ#10となっていたことから、そのピンニング粒子はビレット鍛造プロセス後において既に存在していたものと推察された。
その結果、残渣がγ′相(Ni3Al)であることが判明した。図8にそのXRD分析の結果が示してある。図中のピークは何れもγ′相(Ni3Al)特有のピークである。
尚、ビレット鍛造プロセスでは最終の鍛造工程T1-6直後に空冷AC1を行っており、その際に組織中にγ′が析出して鍛造工程T1-6後の粒成長が行われず、組織が微細化したものと考えられる。
図7(E)にその組織写真が示してある。組織中に黒く点状に表れているものがγ′相粒子である。
このことから、ビレット鍛造プロセスにおいて、最終の鍛造工程T1-6後の空冷AC1によってピンニング粒子となるγ′相が析出していたものと判断できる。
そこで組織中に析出したγ′相がどのような温度でマトリックス中に固溶するかを調べた。
具体的には、図5の空冷AC1後のビレットから得られたテストピースを用いて1030℃〜1070℃までの範囲内の温度で種々温度に加熱し保持したところ、1050℃の加熱保持によってγ′相がマトリックス中に固溶することが判明した。
同図に示しているように1050℃の加熱によりγ′相は固溶し、その結果組織の結晶粒度はASTM結晶粒度#3〜#4程度まで粒成長していた。
つまりは鍛造工程後の空冷で、結晶粒の粒成長を大きく抑制するほどにγ′粒子が析出することを予側できなかったことが理由と言えるが、そうした予測をすることは実際問題として難しい。
それに対してワスパロイ材の場合にはγ′相が析出して、それのピンニングにより結晶粒の粒成長が抑制される現象が生じており、そのような相異が両者で生じる理由について明確には分かっておらず、そうした中でワスパロイ材において上記のような現象が生じることを予測することは困難である。
そしてそのことによって、仕上げ鍛造により目標とするASTM結晶粒度#4〜#6の、結晶粒が過剰に微細化されていない組織が得易い。
仕上げ鍛造において最終の鍛造工程直後に空冷を行うと、そこでγ′相が析出し、結晶粒の粒成長が抑制されて組織が過剰に微細化されてしまう可能性がある。
本発明では、最終の鍛造工程後の加熱保持による粒成長工程を、従来のST処理に代わるものとして行うことができる。
尚、この最終の加熱保持による粒成長工程は種々の温度にて行うことが可能である。
この請求項2に従えば、ディスク形状品におけるASTM結晶粒度#4〜#6がより一層得やすい。
尚この場合の各リヒート工程は、2〜3hrの条件で行うことが望ましい。
以下に本発明における各化学成分の限定理由を詳述する。
Cr:15〜24%
Cr含有量を15〜24%とするのは、15%未満では耐熱性不足となり、一方24%を超えて過剰に含有させると、M23C6等炭化物が多量に発生し、延性低下することによる。
Al含有量1.00〜2.00%とするのは、1.00%未満でNi3(Al、Ti)不足による強度不足を生じ、逆に2.00%を超えて過剰に含有させると、過度のNi3Al析出により延性低下することによる。
Ti含有量を2.00〜4.00%とするのは、2.00%未満でNi3(Al、Ti)不足による強度不足を生じ、逆に4.00%を超えて過剰に含有させると、Ni3(Al、Ti)過剰となってTiC過多となり、延性低下することによる。
Mo含有量を3.00〜5.50%とするのは、3.00%未満で耐熱性不足となり、逆に5.50%を超えて過剰に含有させると、M2C等炭化物過多となって延性低下することによる。
Co含有量を10.00〜18.00%とするのは、10.00%未満であると耐熱性不足となり、逆に18.00%を超えて過剰に含有させると、析出を意図しないAl、Tiとの化合物を形成し、熱間強度不足となることによる。
B含有量を0.001〜0.020%とするのは、0.001%未満で粒界強度が不足し、目標とするクリープ特性を達成できないからであり、逆に0.020%を超えて過剰に含有させると、BN晶出による粒界強度が低下することによる。
Zr含有量を0.01〜0.15%とするのは、0.01%未満では耐熱強度が不足し、逆に0.15%を超えて過剰に含有させると、酸化物晶出量が過多となって延性低下することによる。
C含有量を0.01〜0.15%とするのは、0.01%未満ではTiC,CrC,MoC不足による強度不足を生じ、逆に0.15%を超えて過剰に含有させると、TiC,CrC,MoC過多となって延性低下することによる。
Cu:≦0.50%
Cuについては、0.50%超で低融点のNiCu化合物を生成して強度低下するため、0.50%以下に規制する。
Feについては、各種化合物生成による本来意図しない成分変化を防止するため、これを2.00%以下に規制する。
Sについては、硫化物量低減のためにこれを0.030%以下に規制する。
Siについては、SiC晶出によるC減少防止強化相であるCr,Mo,Ti炭化物を確保するため、これを0.75%以下に規制する。
Mnについては、低融点化合物抑制のため、これを1.00%以下に規制する。
Pについては、低融点化合物抑制のため、これを0.030%以下に規制する。
表1に示す化学組成のワスパロイ相当材を真空誘導炉(VIF)にて溶解し、更に真空アーク炉(VAR)にて再溶解して2.5トンのインゴットを得た。
その後、前鍛造としてのビレット鍛造プロセスAで得た図1に示す加工品14(軸方法寸法1050mm,断面幅寸法460mm)をスタート材として、仕上げ鍛造としてのディスク鍛造プロセスを実行した。
尚スタート材のASTM結晶粒度は#10であり、組織中にはγ′相が析出している。
但しこの実施例において、スタート材は図5のビレット鍛造プロセスによって得たものであっても良いし、或いは他の前鍛造によって得たものであっても良い。
また結晶粒度は#10以外であっても良いし、或いは組織中にγ′が析出していないものであっても良い。
但し結晶粒度は#4以上であることが望ましい。
ここでは先ず鍛造プロセスの開始当初に加熱処理H3を行う。ここではその加熱処理H3として、スタート材(被処理材)を1070℃に加熱して4時間保持し、その後温度を1030℃に落として3時間保持し、γ′相を固溶化させる処理を行った。
尚このディスク鍛造プロセスでは、その後γ′相が析出しない温度の範囲内で設定した下限温度(これ以下に温度低下させるとγ′相が析出する恐れのある温度)、ここでは900℃と加熱処理H3の際の1070℃よりも低い温度で設定した上限温度(ここでは1030℃)との間に被処理材を保持しつつ処理を行った。
引続いて第2鍛造工程T3-2を実行した。この第2鍛造工程T3-2は断面形状が8角形状であったものを軸直角方向に力を加えて変形させ、断面円形に形状を整える整形工程である。即ち第2鍛造工程T3-2で被処理材を円柱形状に形状を整えた(尚以降の各鍛造工程では被処理材は断面円形状に保たれ、最終的に円板形状のディスク形状品となる)。引続いて第2リヒート工程R3-2を実行し、被処理材を再び1030℃に加熱して3時間保持した。
続いて第4鍛造工程T3-4を実行し、被処理材を据込鍛造して320mmHとし、引続いて第4リヒート工程R3-4を実行し、被処理材を1030℃に加熱して3時間保持した。
その後に最終鍛造工程T3-6を実行し、被処理材を据込鍛造して190mmHとした。
この粒成長工程H4は、最終鍛造工程T3-6の実行によって微細化した結晶粒を、加熱保持することにより粒成長させる工程である。
ここではASTM結晶粒度#4を目標として加熱保持による粒成長を行った。
尚、加熱保持の時間と結晶粒度の粒成長との関係を予め求めておき、実際には結晶粒度が#4に到達するような時間で加熱処理を終了した。
その後成形品を加熱炉から取り出して室温までの空冷AC3を行った。
ここで最終の粒成長工程H4は、具体的には成形品を1030℃に加熱し、3時間保持することで行った。
この実施例では、最終の粒成長処理H4の後の空冷AC3によりγ′相が析出し、そのピン止め効果による結晶粒の粒成長抑制によって、空冷後の室温状態でASTM結晶粒度が#4近くに保持される。
しかるにこの実施例では、最終鍛造工程T3-6に続く加熱処理である粒成長処理がそのままST処理としての意味を有することになる。
尚空冷AC3により析出したγ′相を、その後改めて1050℃若しくはそれ以上の温度に加熱して固溶化させるST処理を別途に行うといったことも可能である。
尚結晶粒度の測定は、各工程後の組織を光学顕微鏡で撮影し、写真中一定面積内にある結晶粒の数により結晶粒度を求めた(6視野の平均)。
上記粒成長工程H4としての加熱処理の後においては時効処理を行う。時効処理は例えば840〜850℃,4〜5hrの条件で1段目の時効処理を行い、また750〜770℃,10〜18hrの条件で2段目の時効処理を行うことができる。
例えばディスク鍛造プロセスにおける当初の、γ′固溶化のための加熱処理を1050℃或いはそれ以上の様々な温度に設定することが可能であるし、また最終の粒成長工程H4も、目的とする結晶粒度に応じて加熱温度や保持時間等を様々に変化させることが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
12 加工品
11 スタート材
14 加工品
Claims (3)
- 質量%で
Cr:15〜24%
Al:1.00〜2.00%
Ti:2.00〜4.00%
Mo:3.00〜5.50%
Co:10.00〜18.00%
B:0.001〜0.020%
Zr:0.01〜0.15%
C:0.01〜0.15%
Cu:≦0.50%
Fe:≦2.00%
S:≦0.030%
Si:≦0.75%
Mn:≦1.00%
P:≦0.030%
残部Ni及び不可避的不純物の組成を有するNi基耐熱合金から成る被処理材を、仕上げ鍛造において、圧縮変形を加える鍛造工程を同一個所に少なくとも2回以上繰り返す自由逐次鍛造にてディスク形状に鍛造成形するディスク形状品の鍛造加工方法であって、
前記仕上げ鍛造の開始当初に、前記被処理材を1050℃以上の温度で4hr以上保持し、γ′相を固溶化させる加熱処理を行い、その後1050℃よりも低い温度に且つγ′相が析出しない温度の範囲内に前記被処理材を保持しつつ最終の鍛造工程までを実行し、自由逐次鍛造による仕上げ鍛造を行うことを特徴とするディスク形状品の鍛造加工方法。 - 請求項1において、前記仕上げ鍛造で、開始温度1000〜1030℃,終止温度900℃以上の条件で行う鍛造工程と、1000〜1030℃の温度条件で行うリヒート工程とを交互に繰り返すことを特徴とするディスク形状品の鍛造加工方法。
- 請求項1,2の何れかにおいて、前記最終の鍛造工程の後において、ディスク形状に成形された成形品を、γ′が析出する温度まで温度低下させることなく該成形品を加熱状態に保持し、該成形品の結晶粒を粒成長させる粒成長工程を実行することを特徴とするディスク形状品の鍛造加工方法。
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