JP6072967B1 - リン酸カルシウム焼結体粒子の製造方法 - Google Patents

リン酸カルシウム焼結体粒子の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】使用態様に拘わらず気泡発生なる事象を引き起こさない、小粒径のリン酸カルシウム焼結体粒子群の提供。【解決手段】略球状のセラミック粒子からなるセラミック粒子群であって、セラミック粒子の粒子径10〜700nm、且つセラミック粒子群の粒子径の変動係数20%以下であり、セラミック粒子がリン酸カルシウム焼結体粒子であり、且つセラミック粒子群がアルカリ金属元素及び炭酸カルシウムを実質的に含有しない。【選択図】図5

Description

本発明は、新規なリン酸カルシウム焼結体粒子、その製造方法及びその用途に関する。
ハイドロキシアパタイト(HAp)は、高い生体親和性を示すことが知られており、バイオマテリアルをはじめとする様々な分野で活用されている。
ところで、当該HApを生体材料に用いる場合、生体内での溶解性や分解性を低減させるため、高温で焼成させて高結晶化度のハイドロキシアパタイト粒子(セラミック粒子)を作製することが提案されている。但し、この焼結の際にハイドロキシアパタイト(HAp)粒子(一次粒子)間の融着により結合が生じ、一次粒子が結合した不定形な二次粒子となり、分散性及び比表面積が低下してしまうという問題点があった。
そこで、先行特許文献1には、焼結前のセラミック原料からなる一次粒子の粒子間に融着防止剤が介在するように混合して混合粒子とし、当該混合粒子を焼結し、当該焼成後に融着防止剤を洗い流す製法が提案されている。当該製法によれば、結晶化度が高く且つ粒子径が小さいセラミック粒子群を得ることが可能となる。
特許第5043436号公報
しかしながら、本発明者らは、当該製法により得られたセラミック粒子群には、炭酸カルシウムの結晶相が含まれている知見を得た。用途、特に生体内に導入される医療機器にリン酸カルシウムを用いる際には、生体親和性発現、溶解性変化の観点より好ましくない事象が生じ得る。更には、リン酸カルシウムは、エンドトキシンを積極的に吸着する性質があり、製造過程において洗浄に使用する水、容器等にわずかに含まれるエンドトキシンの吸着は避けがたい。一方で、エンドトキシンは発熱物質として知られており、当該リン酸カルシウムを生体内導入用医療材料(例えばDDS)として用いる場合には、当該吸着されたエンドトキシンを除去する必要がある。そのため、300℃程度で加熱処理を行い、当該吸着されたエンドトキシンを分解する。しかしながら、この際、本発明者らは、当該加熱処理を行うと、元々の粒径が倍以上となるという知見を得た。特に、より微小な粒径が求められる用途にリン酸カルシウム焼成体を用いる際には、このような粒径増大は好ましくない事象である。よって、本発明は、使用態様に拘わらず、炭酸カルシウムに起因する生体親和性低下や溶解性変化が極力抑制され、且つ、より小さい粒径のリン酸カルシウム焼結体粒子群を提供することを第1の課題とする。
更には、本発明者らは、当該製法により得られたセラミック粒子群は、生体用とした場合において、細胞接着性が十分ではない場合があることを知見した。よって、本発明は、生体用とした場合に、優れた細胞接着性を奏するリン酸カルシウム焼結体粒子群を提供することを第2の課題とする。
ところで、特許文献1では、融着防止剤として、側鎖にカルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基又はアミノ基のいずれかを有する高分子化合物が使用可能であることが記載されており、具体的な化合物として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリグルタミン酸、エチレンスルホン酸、ポリメタクリル酸アルキルスルホン酸エステル、ポリアクリロイルアミノメチルホスホン酸、ポリペプチドが挙げられている。これを踏まえ、本発明者らは、炭酸カルシウム生成の原因が、融着防止剤として用いた高分子化合物の分解物である炭酸であると推定した。また、本発明者らは、鋭意研究を行い、特許文献1に記載されたような融着防止剤として特定の成分を含む場合、得られるリン酸カルシウム焼結体粒子における細胞接着性の低下を招き得るものであると推定した。よって、本発明者は、融着防止剤を使用することなく、結晶化度が高く且つ粒子径が小さく、更には優れた細胞接着性を奏するリン酸カルシウム焼結体粒子群を得る手法を検討し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
本発明(1)は、
セラミック粒子からなるセラミック粒子群であって、
前記セラミック粒子の粒子径が、10nm〜700nmの範囲内で、且つ前記セラミック粒子群の粒子径の変動係数が、20%以下であり、
前記セラミック粒子が、リン酸カルシウム焼結体粒子であり、
前記セラミック粒子群がアルカリ金属元素及び炭酸カルシウムを実質的に含有しないことを特徴とするセラミック粒子群である。
本発明(2)は、
前記セラミック粒子が略球状である、前記発明(1)のセラミック粒子群である。
本発明(3)は、
セラミック粒子からなるセラミック粒子群であって、
前記セラミック粒子の粒子径が、短軸の最大直径が30nm〜5μm、長軸が75nm〜10μmであり、c軸方向に成長し、結晶のアスペクト比(c軸長/a軸長)が、1〜30であり、先端角が斜角面を有する截頭形柱状構造のセラミック粒子であって、
前記セラミック粒子は、アルカリ金属元素及び炭酸カルシウムを実質的に含有しないことを特徴とするセラミック粒子群である。
本発明(4)は、
上記セラミック粒子が、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子である、前記発明(1)〜(3)のいずれかのセラミック粒子群である。
本発明(5)は、
前記セラミック粒子群が水洗浄されたものであり、
前記水洗浄後の前記セラミック粒子群の粒子径を基準としたとき、前記水洗浄後に空気中常圧下にて300℃で加熱した際の粒子径の変化率が±20%である、前記発明(1)〜(4)のいずれかのセラミック粒子群である。
本発明(6)は、
前記発明(1)〜(5)のいずれかのセラミック粒子群を用いて得られたものであることを特徴とする生体内導入用医療材料である。
本発明(7)は、
前記発明(6)記載の生体内導入用医療材料を一材料として得られた医療機器である。
本発明(8)は、
セラミック粒子からなるセラミック粒子群の製造方法において、
焼結前のセラミック原料である一次粒子を含有する水系媒体を凍結して凍結体を得た後に当該凍結体を解凍させて解凍体を得る前工程と、
前記解凍体から前記水系媒体を除去して得られた前記一次粒子を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程により得られた焼成体を粉砕して前記セラミック粒子群を得る粉砕工程と
を含み、
前記セラミック粒子が、リン酸カルシウム焼結体粒子であり、
前記前記セラミック粒子群がアルカリ金属元素及び炭酸カルシウムを実質的に含有しないことを特徴とするセラミック粒子群の製造方法である。
本発明(9)は、
前記セラミック粒子が、略球状である、前記発明(8)の製造方法である。
本発明(10)は、
上記セラミック粒子の粒子径が、10nm〜700nmの範囲内である、前記発明(8)又は(9)の製造方法である。
本発明(11)は、
前記セラミック粒子が、
粒子径が、短軸の最大直径が30nm〜5μm、長軸が75nm〜10μmであり、c軸方向に成長し、結晶のアスペクト比(c軸長/a軸長)が、1〜30であり、先端角が斜角面を有する截頭形柱状構造である、前記発明(8)の製造方法である。
本発明(12)は、
前記セラミック粒子が、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子である、前記発明(8)〜(11)のいずれかの製造方法である。
本発明(13)は、
前記セラミック粒子群が生体内導入用医療材料である、前記発明(8)〜(12)のいずれかの製造方法である。
本発明(14)は、
前記セラミック粒子群が医療機器用である、前記発明(13)の製造方法である。
本発明によれば、炭酸カルシウムの結晶相が混入しない、結晶性が高く且つ粒子径が小さいセラミック粒子群を提供することが可能となる。また、本発明によれば、優れた細胞接着性を示すセラミック粒子群を提供することが可能となる。更には、理由は定かでないが、本発明に係るリン酸カルシウム焼成体は、エンドトキシンを除去するために300℃にて加熱しても、殆ど粒径が変化しない。よって、本発明によれば、より小さい粒径のリン酸カルシウム焼結体粒子群を得ることが可能となる。
図1は、実施例1で得られたハイドロキシアパタイト(HAp)焼結体粒子のX線回折測定の結果を示すチャートである。 図2は、実施例2で得られたハイドロキシアパタイト(HAp)焼結体粒子のX線回折測定の結果を示すチャートである。 図3は、比較例で得られたハイドロキシアパタイト(HAp)焼結体粒子のX線回折測定の結果を示すチャートである。 図4は、実施例1で得られたハイドロキシアパタイト(HAp)焼結体粒子群のSEM写真である。 図5は、実施例1で得られたハイドロキシアパタイト(HAp)焼結体粒子群のSEM写真である。 図6は、実施例2で得られたハイドロキシアパタイト(HAp)焼結体粒子群のSEM写真である。 図7は、実施例2で得られたハイドロキシアパタイト(HAp)焼結体粒子群のSEM写真である。 図8は、実施例1に係るハイドロキシアパタイト焼結体粒子群を用いて製造された供試材のSEM写真である。 図9は、実施例2に係るハイドロキシアパタイト焼結体粒子群を用いて製造された供試材のSEM写真である。 図10は、比較例に係るハイドロキシアパタイト焼結体粒子群を用いて製造された供試材のSEM写真である。 図11は、実施例1に係るハイドロキシアパタイト焼結体粒子群を用いて製造された供試材の染色画像である。 図12は、実施例2に係るハイドロキシアパタイト焼結体粒子群を用いて製造された供試材の染色画像である。 図13は、従来製法を用いて製造されたハイドロキシアパタイト焼結体粒子のFTIRスペクトルである。 図14は、従来製法を用いて製造されたハイドロキシアパタイト焼結体粒子のFTIRスペクトルである。
以下、本発明に係るリン酸カルシウム粒子群の製造方法を説明し、次いで、当該製造方法により得られたセラミック粒子群を説明し、次いで、当該セラミック粒子群の用途について説明する。
≪1.セラミック粒子群の製造方法≫
<1−1.原料>
焼成前のセラミック原料であるリン酸カルシウム(CaP)としては、具体例として、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))、リン酸三カルシウム(Ca(PO)、メタリン酸カルシウム(Ca(PO)、Ca10(PO、Ca10(POCl等が挙げられる。ここで、当該リン酸カルシウム(CaP)は、湿式法や、乾式法、加水分解法、水熱法等の公知の製造方法によって、人工的に製造されたものであってもよく、また、骨、歯等から得られる天然由来のものであってもよい。
<1−2.プロセス>
(1−1.一次粒子生成工程)
以下、本発明に係るリン酸カルシウム粒子群の製造方法において、一次粒子が略球状及び略ロッド状である場合を例示するが、これには限定されず、製造可能なあらゆる形状の一次粒子を適用可能である。
・略球状セラミック粒子の一次粒子生成工程
まず、「一次粒子」とは、セラミック粒子群の製造工程の焼結前に、セラミック原料{リン酸カルシウム(CaP)、ハイドロキシアパタイト(HAp)等}によって形成された粒子のことを意味する。即ち、セラミック粒子の製造工程において、初めて形成された粒子のことを意味する。また狭義には単結晶粒子のことを意味する。尚、特許請求の範囲及び明細書において「一次粒子」とは、非晶質(アモルファス)、低結晶性の状態のもの、及びその後に焼結を行なった焼結体の状態のものをも含む意味である。これに対して「二次粒子」とは、複数の「一次粒子」同士が、融着等の物理的結合、Van der Waals力や静電的相互作用又は共有結合等の化学的結合によって、結合して形成された状態の粒子を意味する。特に一次粒子同士の結合の個数、結合後の形状等は限定されるものではなく、2つ以上の一次粒子が結合したもの全てを意味する。また、特に「単結晶一次粒子」とは、セラミック原料の単結晶からなる一次粒子、もしくは前記単結晶からなる一次粒子がイオン的相互作用にて集合化した粒子塊を意味する。尚、前記「イオン的相互作用にて集合化した粒子塊」とは、水もしくは有機溶媒を含む媒体にて分散させた場合にイオン的相互作用で自己集合する粒子塊であって、焼結により粒子間が溶融して多結晶化した二次粒子を含まないものである。
当該一次粒子生成工程は、それ自体公知であり、上記一次粒子を生成することができる工程であれば特に限定されるものではなく、製造するセラミックの原料により適宜選択の上、採用すればよい。例えば、常温下において水酸化カルシウムスラリーにリン酸を滴下すれば、リン酸カルシウム(CaP)の粒子が沈殿する。
本発明に係るセラミック粒子群の製造方法は、上記の一次粒子生成工程によって生成した一次粒子からなる一次粒子群を、融着等を防止しながら焼結してセラミック粒子群を製造するものである。よって、当該一次粒子生成工程によって生成された一次粒子の状態(粒子径、粒度分布)が、最終生産物であるセラミック粒子の状態(粒子径、粒度分布)にそのまま反映される。したがって、粒子径が微細(ナノメートルサイズ)で且つ粒子径が均一な(粒度分布が狭い)セラミック粒子群を製造しようとする場合においては、当該一次粒子生成工程において粒子径が微細(ナノメートルサイズ)で且つ粒子径が均一な(粒度分布が狭い)一次粒子群を生成しておく必要がある。
かかる場合の好ましい一次粒子の粒子径(平均粒子径及び粒度分布)としては、10nm〜700nmが好ましく、15nm〜450nmが更に好ましく、20nm〜400nmが最も好ましい。また、一次粒子からなる一次粒子群の粒子径の変動係数が、20%以下であることが好ましく、18%以下であることがさらに好ましく、15%以下であることが最も好ましい。尚、一次粒子の粒子径及び変動係数は、動的光散乱法又は電子顕微鏡を用い、少なくとも100個以上の一次粒子について粒子径を測定して計算すればよい。
尚、「変動係数」は、標準偏差÷平均粒子径×100(%)で計算することができる粒子間の粒子径のバラツキを示す値である。
上記のような微細(ナノメートルサイズ)で且つ粒子径が均一な(粒度分布が狭い)一次粒子群を生成する方法については、特に限定されるものではなく、例えば、特開2002−137910号公報、特許第5043436号公報、Journal of Nanoscience and Nanotechnology Vol. 7, 848-851, 2007に記載された方法を挙げることができる。
また、本工程には、生成した一次粒子を水等で洗浄する工程、遠心分離、ろ過等で一次粒子を回収する工程が含まれていてもよい。
・略ロッド状セラミック粒子の一次粒子生成工程
略ロッド状セラミック粒子{粒子の粒子径が、短軸の最大直径が30nm〜5μm、長軸が75nm〜10μmであり、c軸方向に成長し、結晶のアスペクト比(c軸長/a軸長)が、1〜30であり、先端角が斜角面を有する截頭形柱状構造のセラミック粒子}の一次粒子生成工程は、それ自体公知であり、例えば、特開2002−137910号公報、Journal of Nanoparticle Research (2007) 9:807-815に記載された方法を挙げることができる。
また、本工程には、生成した一次粒子を水等で洗浄する工程、遠心分離、ろ過等で一次粒子を回収する工程が含まれていてもよい。
(凍結工程)
凍結工程は、焼結前のリン酸カルシウム(CaP)を含有する水系媒体を凍結する工程である。ここで、水系媒体は、水を主成分(好適には液体媒体の全質量を基準として90質量%以上)をした液体媒体である。好適には、水のみであり、他に水と混和性のある液体(アルコール等)を適宜添加してもよい。また、一次粒子であるリン酸カルシウム(CaP)を製造した液、即ち、リン酸源とカルシウム源とを水に溶解させることにより得られた液をそのまま凍結させてもよい。ここで、凍結温度は、特に限定されないが、好適には、−1〜−269℃である。さらに好適には、−5〜−196℃である。また、凍結時間は、特に限定されないが、好適には、1分〜24時間である。
(解凍工程)
解凍工程は、前記凍結工程にて得た凍結体を、凍結体の水系媒体の融点を超える温度下に配し、当該水系媒体を融解させる工程である。
(分離工程)
分離工程は、前記解凍工程にて融解した、リン酸カルシウムを含有する水系媒体から、リン酸カルシウムを分離する工程である。分離手法としては、解凍後の沈殿を濾取する手法であってもよく、遠心分離捕集する手法であってもよい。
(焼成工程)
当該焼結工程は、上記分離工程によって得られた、リン酸カルシウム一次粒子組成物を焼結温度に曝して、当該組成物に含まれる一次粒子をセラミック粒子(焼結体粒子)にする工程である。理由は定かでないが、特許文献1のような融着防止剤を使用せずとも、前記の凍結・解凍工程を得て焼成させた場合、焼結工程における高温条件に曝された場合であっても一次粒子同士の融着を防止することができるというものである。ここで、当該焼結工程における焼結温度は、セラミック粒子の結晶性が所望の硬度となるように適宜設定すればよく、例えば、300〜1000℃が好適である。また、当該焼結工程における昇温速度は、例えば、1〜20℃/minが好適である。更には、当該焼結工程における焼結時間は、セラミック粒子の硬度等を基準に適宜設定すればよく、例えば、0.5〜3時間が好適である。尚、当該焼結工程に用いる装置等は特に限定されるものではなく、製造規模、製造条件等に応じて市販の焼成炉を適宜選択の上、採用すればよい。
(粉砕工程)
粉砕工程は、前記焼結工程後の凝集体を粉砕し、所望サイズの焼成リン酸カルシウム粒子群を得る工程である。ここで、通常、二次粒子化した焼成体は、相当程度の粉砕工程を実施しても一次粒子サイズまで微小化することはほぼ不可能である。他方、本発明の手法によると、簡素な粉砕工程でも、容易に一次粒子サイズレベルまで粉砕することが可能となる。ここで、粉砕手法は、特に限定されず、例えば、超音波処理、粉砕球を用いての粉砕処理である。尚、粉砕処理後、未粉砕のものを除去する等して、より径の小さい粒子を収集してもよい。
(洗浄工程)
洗浄工程は、焼成リン酸カルシウム粒子以外の成分、例えば、リン酸カルシウムの一次粒子を製造する際に用いた原料由来の不純物(例えば、リン酸カルシウム形成に関与しなかったカルシウムやリン酸由来の不純物、硝酸やアンモニウム由来の不純物)を洗浄する工程である。好適には、水を用いて洗浄することが好適である。尚、ハイドロキシアパタイト(HAp)焼結体粒子の場合は、pH4.0未満の条件においてハイドロキシアパタイト(HAp)焼結体粒子が溶解し易くなるため、pH4.0〜pH12.0で除去工程を行なうことが好適である。また、粉砕工程や洗浄工程を交互に行う等、この順番は問わない。
(乾燥工程)
乾燥工程は、前記粉砕工程や前記洗浄工程後、加熱する等して、溶媒を除去し、リン酸カルシウム粒子群を得る工程である。乾燥手法は、特に限定されない。
(エンドトキシン除去工程)
ここで、本工程においては、必要に応じてエンドトキシン除去工程を設けてもよい。
エンドトキシン除去工程は、例えば、空気下、常圧にて300℃加熱することにより行う工程である。リン酸カルシウム焼成体は、焼成後、上述した洗浄工程にて好適には水洗浄に付される。この際、リン酸カルシウム焼成体は、水中、保管容器や取り扱い雰囲気など環境中に僅かに存在するエンドトキシンを吸着する。ここで、このエンドトキシンは有害物質であり、リン酸カルシウム焼成体に残存していることは、特に生体材料として当該リン酸カルシウム焼成体を用いる場合には不適である。よって、当該処理を実施する。尚、当該エンドトキシン除去工程は、上述した乾燥工程を併せて行ってもよい。
ここで、本製造法によれば、従来技術と異なり、高分子化合物や金属塩等の融着防止剤を使用せずとも、微小なリン酸カルシウム焼結体粒子を製造可能である。より詳細には、本製造法によれば、製造工程において高分子化合物や異種金属元素(例えば、アルカリ金属元素、カルシウム以外のアルカリ土類金属元素、遷移金属元素等)を含む融着防止剤を製造原料に用いる従来の製造方法に比して、より結晶性を高めた(その結果、より溶解し難い)リン酸カルシウム焼結体粒子を得ることが可能となる。
≪2.本製造方法により得られるリン酸カルシウム焼結体粒子群≫
<2−1.略球状リン酸カルシウム焼結体粒子群>
本製造方法により得られる略球状リン酸カルシウム焼結体粒子群は、略球状のセラミック粒子からなるセラミック粒子群であって、前記セラミック粒子の粒子径が、10nm〜700nmの範囲内で、且つ前記セラミック粒子群の粒子径の変動係数が、20%以下であり、前記セラミック粒子が、リン酸カルシウム焼結体粒子であり、且つ、前記セラミック粒子群が炭酸カルシウムを実質的に含有しないことを特徴とするセラミック粒子群である。当該セラミック粒子群は、微粒子且つ粒子径の均一な(粒度分布が狭い)ものである。それゆえ、特に高度な分級等の付加的な操作を行なうことなく、医療用高分子材料に対してより均一に吸着させることができるという効果を奏する。しかも、炭酸カルシウムを実質的に含有しないので、生体材料として使用した際に、材料の生体親和性、溶解性が変化する事態を防止することが可能となる。
また、別の側面からは、本製造方法により得られる略球状リン酸カルシウム焼結体粒子群は、略球状のセラミック粒子からなるセラミック粒子群であって、単結晶からなる一次粒子、もしくは前記単結晶からなる一次粒子がイオン的相互作用にて集合化した粒子塊を単結晶一次粒子とすると、前記セラミック粒子群に含まれる単結晶一次粒子の割合が過半数を占め、上記セラミック粒子が、リン酸カルシウム焼結体粒子であり、且つ、前記セラミック粒子群が炭酸カルシウムを実質的に含有しないことを特徴とするセラミック粒子群である。当該セラミック粒子群は、その過半数が溶媒中で分散性の優れた単結晶からなる一次粒子、もしくは前記単結晶からなる一次粒子がイオン的相互作用にて集合化した粒子塊(単結晶一次粒子)として存在している。それゆえ、既述の医療用高分子基材への吸着がし易くなるという効果を奏する。また、一次粒子同士の結合が無いため、比表面積が高い。更には、生体内で安定性が高く、分散性に優れることから薬剤の担持及び徐放が可能な医療用材料として利用できるという効果を奏する。しかも、炭酸カルシウムを実質的に含有しないので、生体材料として使用した際に、材料の生体親和性やリン酸カルシウム本来の溶解性が維持される。なお、このように、単結晶からなる一次粒子がイオン的相互作用にて集合化した粒子塊を、セラミック粒子としてもよい。
また、当該セラミック粒子群は、上記セラミック粒子群に含まれる単結晶一次粒子の割合が、70%以上であってもよい。このような構成を採ることで、医療用高分子基材への吸着がし易くなるという効果を奏する。
また、当該セラミック粒子群は、上記セラミック粒子の粒子径が、10nm〜700nmの範囲内であってもよい。当該構成によれば、医療用高分子材料に対してより均一に吸着させることができるという効果を奏する。
また、当該セラミック粒子群は、上記セラミック粒子群の粒子径の変動係数が、20%以下であってもよい。当該構成を採ることにより、特に高度な分級等の付加的な操作を行なうことなく、医療用高分子材料に対してより均一に吸着させることができるという効果を奏する。
また、当該セラミック粒子が、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子であってもよい。当該粒子は、更に生体適合性が高く、広範な用途に利用可能なハイドロキシアパタイト焼結体で構成されている。そのため、医療用材料として特に好ましい。
また、当該セラミック粒子群は、水洗浄されたものであり、且つ、前記水洗浄後の前記セラミック粒子群の粒子径を基準としたとき、前記水洗浄後に空気中常圧下にて300℃で加熱した際の粒子径の変化率が±20%であってもよい。
<2−2.略ロッド状リン酸カルシウム焼結体粒子群>
本製造方法により得られる略ロッド状リン酸カルシウム焼結体粒子群は、ロッド状のセラミック粒子からなるセラミック粒子群であって、前記セラミック粒子の粒子径が、短軸の最大直径が30nm〜5μm、長軸が75nm〜10μmであり、c軸方向に成長し、結晶のアスペクト比(c軸長/a軸長)が、1〜30であり、先端角が斜角面を有する截頭形柱状構造のセラミック粒子であって、前記セラミック粒子が、リン酸カルシウム焼結体粒子であり、且つ、前記セラミック粒子群が炭酸カルシウムを実質的に含有しないことを特徴とするセラミック粒子群である。当該ロッド状リン酸カルシウム焼成粒子群は、接着に供する面積が従来の微粒子より格段に広いため、高分子基材との接着性を向上できるので、カテーテル等の生体親和性医療材料など、高分子表面に修飾するのに適している。しかも、炭酸カルシウムを実質的に含有しないので、生体材料として使用した際に、材料から炭酸ガスが発生する事態を防止することが可能となる。尚、高分子表面に修飾する方法としては、リン酸カルシウム(例えばハイドロキシアパタイトナノ粒子)の活性基と高分子基体、例えば、表面にカルボキシル基を有するビニル系重合性単量体をグラフト重合させたシリコーンゴム、の活性基と化学反応させて複合体とする方法や、硬化性接着剤を用いる方法、高分子基材を融点近傍まで加熱して基材に埋設させる方法等を用いることができる(これは前記の略球状リン酸カルシウム焼結体粒子群も同様)。
また、当該セラミック粒子が、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子であってもよい。当該粒子は、更に生体適合性が高く、広範な用途に利用可能なハイドロキシアパタイト焼結体で構成されている。そのため、医療用材料として特に好ましい。
また、当該セラミック粒子群は、水洗浄されたものであり、且つ、前記水洗浄後の前記セラミック粒子群の粒子径を基準としたとき、前記水洗浄後に空気中常圧下にて300℃で加熱した際の粒子径の変化率が±20%であってもよい。
<2−3.性質>
次に、本発明に係る製造方法により得られるリン酸カルシウム焼結体粒子群の性質について説明する。
本発明によれば、アルカリ金属元素及び炭酸カルシウムを実質的に含有しない、微小なリン酸カルシウム焼結体粒子群とすることが可能となる。
炭酸カルシウムを実質的に含有しないことにより、生体親和性低下や溶解性変化が抑制されたリン酸カルシウム焼結体粒子とすることが可能となる。
また、アルカリ金属元素を実質的に含有しないことにより、結晶性がより高められ、溶解し難く、更には細胞接着性に優れるリン酸カルシウム焼結体粒子とすることが可能となる。
ここで、「炭酸カルシウムを実質的に含有しない」とは、X線回折の測定結果より炭酸カルシウムが検出限界以下{具体的には、炭酸カルシウム(式量:100.09)/ハイドロキシアパタイト(式量:1004.62)=0.1/99.9(式量換算比)以下}であり、且つ、医薬部外品原料規格2006(ヒドロキシアパタイト)に準じて試験した際、気泡発生量が0.25mL以下であることをいう。
また、「アルカリ金属元素を実質的に含有しない」とは、各アルカリ金属元素に関して、リン酸カルシウム焼結体粒子全体の重量に対するアルカリ金属元素の重量が10ppm以下(好適には、1ppm以下)であることを示す。なお、分析方法としては従来公知の方法を適用可能であり、例えば、ICP−MSにより分析を行えばよい。
更には、前述のように、本発明によれば、カルシウム以外のアルカリ土類金属元素や、遷移金属元素を実質的に含有しないリン酸カルシウム焼結体粒子群とすることも可能である。
このように、カルシウム以外のアルカリ土類金属元素や、遷移金属元素を実質的に含有しないことで、結晶性がより高められ、溶解し難く、更には細胞接着性に優れるリン酸カルシウム焼結体粒子とすることが可能となる。また、遷移金属元素を実質的に含まないことで、生体への安全性をより高めることが可能となる。
なお、「アルカリ土類金属元素を実質的に含有しない」(「遷移金属元素を実質的に含有しない」)とは、上記同様に、各アルカリ土類金属元素(各遷移金属元素)に関して、リン酸カルシウム焼結体粒子全体の重量に対するアルカリ土類金属元素(遷移金属元素)の重量が10ppm以下(好適には、1ppm以下)であることを示す。なお、分析方法としては従来公知の方法を適用可能であり、例えば、ICP−MSにより分析を行えばよい。
≪用途≫
本発明に係るリン酸カルシウム焼成体粒子群は、生体親和性、生体活性が非常に高いため、医療分野において、例えば、骨充填剤、歯科用充填剤、薬物徐放剤、外用剤等の歯科用材料又は医療用材料として広く用いることができ、その他にも、食品添加物等のあらゆる用途に適用可能である。また、本発明に係る本発明に係るリン酸カルシウム焼成体粒子群は、細胞接着性に優れるため、生体内導入用医療材料(例えば、生体内留置材料)及び当該材料を一材料とする医療機器用等としても好適に利用可能である。なお、本発明に係るリン酸カルシウム焼成体粒子群のより具体的な用途としては、例えば、化粧料(豊胸促進剤、基礎化粧品、化粧品、歯磨剤等)、皮下注入剤(ダーマルフィラー等)、医療機器{創傷被覆材(特には、ヘルニアメッシュ)等}、外科用埋植医療機器{人工骨、人工関節(整形外科用インプラント)、歯科用インプラント等}、循環器用医療機器{カテーテル(カフへの担持/内面処理)、人工血管、ステント、脳塞栓用コイル}等が挙げられる。
≪製造例≫
(実施例1:球状ハイドロキシアパタイト焼成体粒子群)
脱イオン水が入った反応容器内に、撹拌しながら、硝酸カルシウム四水和物、リン酸水素二アンモニウム水溶液及びアンモニア水を添加し{カルシウム:リン酸(モル比)=5:3}、ハイドロキシアパタイトの一次粒子を得た。その後、反応容器内の上澄みを廃水容器に移した後、脱イオン水を加え、攪拌器で撹拌し、上澄みを廃棄容器に移す、という作業を2回繰り返した。その後、当該沈殿物の入った反応容器ごと、−10℃〜−25℃にて一夜冷凍した。その後、室温で解凍し、解凍後の沈殿をろ取した。その後、焼成皿に約400gの沈殿を入れ、焼成炉に入れ、1時間強かけて600℃までにし、600℃1時間保った後、1時間以上かけて冷却することで焼成を実施した。その後、焼成体へ脱イオン水を加え、30分間以上超音波照射した。そして、ポッドミルへ移し、粉砕球を入れて1時間粉砕した。粉砕終了後、手付きビーカーへ移し、目開き150μm篩を用い、未粉砕焼成体を除去した。尚、この後、脱イオン水洗浄を6回繰り返した。その後、60〜80℃で乾燥し、アルカリ金属元素を実質的に含有しない、実施例1に係るハイドロキシアパタイト焼成体を得た。
(実施例2:ロッド状ハイドロキシアパタイト焼成体粒子群)
脱イオン水が入った反応容器内に、硝酸カルシウム四水和物水溶液を撹拌しながら、リン酸水素二アンモニウム水溶液及びアンモニア水を硝酸カルシウム四水和物水溶液に滴下し{カルシウム:リン酸(モル比)=5:3}、ハイドロキシアパタイトの一次粒子を得た。その後、反応容器内の上澄みを廃水容器に移した後、脱イオン水を加え、攪拌器で撹拌し、上澄みを廃棄容器に移す、という作業を5回繰り返した。その後、当該沈殿物の入った反応容器ごと、−10℃〜−25℃にて一夜冷凍した。その後、室温で解凍し、解凍後の沈殿をろ取した。その後、焼成皿に約400gの沈殿を入れ、焼成炉に入れ、1時間強かけて600℃までにし、600℃1時間保った後、1時間以上かけて冷却することで焼成を実施した。その後、焼成体へ脱イオン水を加え、30分間以上超音波照射した。そして、ポッドミルへ移し、粉砕球を入れて1時間粉砕した。粉砕終了後、手付きビーカーへ移し、目開き150μm篩を用い、未粉砕焼成体を除去した。尚、この後、脱イオン水洗浄を7回繰り返した。その後、60〜80℃で乾燥し、アルカリ金属元素を実質的に含有しない、実施例2に係るハイドロキシアパタイト焼成体を得た。尚、当該セラミック粒子の粒子径は、短軸の平均最大直径が47nm、長軸が157nmであり、c軸方向に成長し、結晶のアスペクト比(c軸長/a軸長)が、3.1であり、先端角が斜角面を有する截頭形柱状構造のセラミック粒子であった。
(比較例)
特許第5043436号公報の実施例1に従い、比較例に係るハイドロキシアパタイト焼成体を得た。
≪X線回折試験≫
図1、図2及び図3は、それぞれ実施例1、実施例2及び比較例に係るハイドロキシアパタイト焼成体のX線回折測定の結果である。当該図から分かるように、図1では炭酸カルシウムのピークが観察されなかったのに対し、図3では炭酸カルシウムの明確なピークが観察された。また、実施例2に関しても、実施例1と同様に、炭酸カルシウムのピークが観察されないことが確認出来る。より具体的には、図1では、ハイドロキシアパタイト(PDF 74-0565)に一致するパターンのみ確認出来、一方、図3では、ハイドロキシアパタイトには存在しないピークが29.4°に観察され炭酸カルシウム(calcite : PDF 72-1937)と一致した。尚、X線回折装置及び測定条件は下記の通りである。粉末X線回析装置{理学電機(株)製、MiniFlex}を用いて、結晶構造解析を行った。XRDで使用したX線源としてはCuKα線源{λ=1.541841Å(オングストローム)}を用い、出力は30kV/15mA、スキャンスピードは1.0°/min、サンプリング幅は0.01°、測定モードは連続の条件とした。
≪外観観察試験≫
図4及び図5は、実施例1に係るハイドロキシアパタイト焼成体粒子群のSEM写真である(スケール違い)。これら写真から、実施例1に係るハイドロキシアパタイト焼成体粒子群は、略球状のハイドロキシアパタイト焼成体粒子からなるハイドロキシアパタイト焼成体粒子群であって、単結晶からなる一次粒子、もしくは前記単結晶からなる一次粒子がイオン的相互作用にて集合化した粒子塊を単結晶一次粒子とすると、前記ハイドロキシアパタイト焼成体粒子群に含まれる単結晶一次粒子の割合が過半数を占めることが分かる。また、図6及び図7は、実施例2に係るハイドロキシアパタイト焼成体粒子群のSEM写真である(スケール違い)。
≪粒径測定試験≫
実施例1及び比較例に係るハイドロキシアパタイト焼成体(エンドトキシン未不活性化)に関し、平均粒径及び標準偏差を算出(SEMにて9点の画像を取得し、画像1点中、12個の粒子の粒径を計測、合計108個の粒子の粒径を確認し、平均値及び標準偏差を算出)した。加えて、実施例1及び比較例に係るハイドロキシアパタイト焼成体(エンドトキシン未不活性化)を不活性化したものに関し、同じく平均粒径及び標準偏差を算出(SEMにて9点の画像を取得し、画像1点中、12個の粒子の粒径を計測、合計108個の粒子の粒径を確認し、平均値及び標準偏差を算出)した。尚、不活性化手順は、(1)あらかじめ乾熱滅菌(300℃、2時間)アンプルにHAp粉体を計り入れる、(2)、HApを入れたアンプルを開封状態のまま乾熱滅菌器にて、乾熱滅菌(300℃、2時間)、(3)室温まで冷却したアンプルを溶封(封管)、(4)封管済みアンプルを再度乾熱滅菌器にて、乾熱滅菌(300℃、2時間)、である。表1は、実施例1に係るハイドロキシアパタイト焼成体であり、表2は、比較例に係るハイドロキシアパタイト焼成体である。
≪発泡確認試験≫
実施例1及び2並びに比較例に係るハイドロキシアパタイト焼成体について、医薬部外品原料規格2006「ヒドロキシアパタイト」に収載の純度試験(4)炭酸塩に示された手順に準じて試験実施した。具体的には、常温(20℃)にてサンプル1.0gを秤量し、水5mLを加え振り混ぜ、アスピレーターを用いて1時間減圧し脱気した。脱気後、濃塩酸(35.0質量%)2mLを加え、発泡の有無を確認した。その結果、実施例により得られたHApでは、発泡は確認できなかった(気体発生量が0.25ml未満)。他方、比較例により得られたHApでは、生じた泡で上澄みが白濁するほど発泡した。
≪細胞接着試験≫
<供試材の製造>
(洗浄処理)
円形のポリエチレンテレフタラート(PET)製シート(直径9mm、厚さ0.1mm)に対し、アルコール処理(アルコール(エタノール、2―プロパノールなど)中5分間超音波照射)を実施した。
(リンカー導入工程)
洗浄処理を施したPET製シート両面に対してコロナ放電処理(100V、片面15秒)を施した。コロナ放電処理後のPET製シートとアクリル酸(和光純薬工業製)10mlを20ml試験管に入れ、試験管内を真空ポンプにて減圧し、脱気操作を行った。減圧状態のまま試験管を溶封し、温度60℃の水浴中で60分間、グラフト重合を行なった。当該処理後、基材表面上に付着しているアクリル酸ホモポリマーを除去するため、水中、室温で60分間、撹拌した後、基材表面を水洗し、続いてエタノールで洗浄した。
(焼結ハイドロキシアパタイト微粒子固定化処理)
上記処理後、基材を1%の焼結ハイドロキシアパタイト微粒子(実施例1、実施例2又は比較例に係る焼結ハイドロキシアパタイト微粒子)の分散液中(分散媒:エタノール)、20℃で30分間静置した。その後、5分間超音波照射し、基材を取り出し、20℃常圧にて乾燥し、供試材を得た。
<細胞接着・細胞形態評価>
作製した供試材を用いて、細胞接着・細胞形態評価試験を実施した。尚、試験に先立ち、供試材をエタノール洗浄し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)ならびに培地(MEM α(無血清))で洗浄した後(3回)、培地に浸して、使用までインキュベート(37℃,5%CO)した。そして、以下の手順で細胞培養を実施した。まず、48穴プレートに培地(200μL/穴)及び供試材(試験用シート)を入れた。その後、骨芽細胞様細胞(MC3T3−E1(subclone14))の懸濁液を入れ(約1×10細胞/200μL/穴)、3時間培養した。
(細胞観察)
図8〜10は、各々、実施例1、実施例2及び比較例に係るハイドロキシアパタイト焼結体粒子群を用いて製造された供試材のSEM写真である。当該写真に基づき、細胞の集合状態、細胞形態、細胞密度を判断した。その結果を表3に示す。なお、細胞密度に関しては、「+」の数が多いほど、細胞密度が高いことを示す。また、供試材それぞれの平均被覆率は、SEM写真から算出している。
(染色観察)
続いて、以下の手順で染色観察を実施した。まず、試験用シートをPBSで洗浄して非接着細胞を除去して、固定処理(4%PFA)及び界面活性剤処理(0.5%Triton X−100/PBS)を行い、次いで、AlexaFluor(商標)488標識Acti−stainを添加した後、封入剤(核染色色素DAPI入り)で封入した。蛍光顕微鏡(Nikon、ECLIPSE TiーS)で、488nmのレーザー線を照射し、アクチン線維の染色により細胞形態を確認した。405nmのレーザー線を照射し、細胞核の染色を確認した。その結果を図11及び図12に示す。図11及び図12は、実施例1及び実施例2に係るハイドロキシアパタイト焼結体粒子群を用いて製造された供試材において、アクチン由来の蛍光画像と細胞核由来の蛍光画像とを合成した画像である。当該図から分かるように、実施例1及び実施例2に係るハイドロキシアパタイト焼結体粒子群を用いた場合、アクチン線維が十分に発達しているため優れた細胞接着性を示すことが確認でき、また、殆どの細胞は大きく伸長した細胞形態を示すことも確認できた。
以上の結果から、本発明に係るリン酸カルシウム微粒子は、細胞の形態が多角形で、かつ、細胞間接着を顕著に促進していることが確認出来た。これより本発明により得られるリン酸カルシウム微粒子は、細胞の形態的分化を促進することが明らかとなった。
≪結晶性≫
粉末X線回析装置{理学電機(株)製、MiniFlex600}を用いて、結晶構造解析を行った。XRDで使用したX線源としてはCuKα線源{λ=1.541841Å(オングストローム)}を用い、出力は30kV/15mA、スキャンスピードは10.0°/min、サンプリング幅は0.02°、測定モードは連続の条件とした。なお、結晶子の平均サイズτ(nm)は次に示すシェラーの式で与えられる。
(シェラーの式) τ=Kλ/βcosθ
なお、Kは形状因子で0.9とした。λはX線波長で、βはトップピークの半値幅、θはトップピークのブラッグ角を指す。結晶子の平均サイズτ(nm)は、X線回折の測定値より上式を用いて算出した。
実施例1に係るリン酸カルシウム微粒子の結晶子の平均サイズτは11.6nmであり、比較例に係るリン酸カルシウム微粒子の結晶子の平均サイズτは12.1nmであった。従って、本発明により得られるリン酸カルシウム微粒子は、より結晶性が高いものと理解される。
(参考)
上述の実施例においては、比較例として、特許第5043436号公報の実施例1に従い得られた、即ち、融着防止剤として炭酸カルシウムを用いて得られたハイドロキシアパタイト焼成体を使用した。
ここで、特許第5043436号公報の製造方法において、融着防止剤として「炭酸源を含有する成分」を用いない場合について検討する。
図13及び図14は、それぞれ、特許第5043436号公報の製造方法において、融着防止剤として、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウムを使用した場合の、焼成ハイドロキシアパタイト粒子におけるFTIRスペクトル(チャート)である。当該図から分かるように、炭酸カルシウムのピークが確認できた。
このように、特許第5043436号の製法に従う場合、融着防止剤として「炭酸源を含有する成分」を用いない場合でも、焼成したハイドロキシアパタイト粒子の表面には、炭酸カルシウム皮膜が形成される。本発明者らは、その理由について、以下のように考察した。
特許第5043436号の記載によれば、焼成は、大気雰囲気下で行われるものと考えられる。ここで、融着防止剤として、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム)やアルカリ土類金属(カルシウム)を含有する成分を用いた場合、焼成過程にて、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物が形成される。ここで、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物は塩基性であるため、大気中の二酸化炭素と中和反応する。更に、融着防止剤として、アルカリ金属塩を用いた場合、粒子の表面付近にて、ハイドロキシアパタイトの結晶を構成するカルシウムとアルカリ金属とがイオン交換する。その結果、ハイドロキシアパタイトの表面には、大気中の二酸化炭素由来の炭酸根と、融着防止剤由来のカルシウム又はイオン交換により表面に生じたカルシウムと、の反応により炭酸カルシウムが発生する。

Claims (22)

  1. セラミック粒子からなるセラミック粒子群であって、
    前記セラミック粒子の粒子径が、10nm〜700nmの範囲内であり、
    前記セラミック粒子が、リン酸カルシウム焼結体粒子であり、
    前記セラミック粒子群がアルカリ金属元素及び炭酸カルシウムを実質的に含有しないことを特徴とするセラミック粒子群。
  2. 前記セラミック粒子群の粒子径の変動係数が、20%以下である、請求項1記載のセラミック粒子群。
  3. 前記セラミック粒子が略球状である、請求項1又は2記載のセラミック粒子群。
  4. セラミック粒子からなるセラミック粒子群であって、
    前記セラミック粒子の粒子径が、短軸の最大直径が30nm〜5μm、長軸が75nm〜10μmであり、c軸方向に成長し、結晶のアスペクト比(c軸長/a軸長)が、1〜30であり、截頭形柱状構造のセラミック粒子であって、
    前記セラミック粒子が、リン酸カルシウム焼結体粒子であり、
    前記セラミック粒子は、アルカリ金属元素及び炭酸カルシウムを実質的に含有しないことを特徴とするセラミック粒子群。
  5. 上記セラミック粒子が、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子である、請求項1〜のいずれか一項記載のセラミック粒子群。
  6. 前記セラミック粒子群が水洗浄されたものであり、
    前記水洗浄後の前記セラミック粒子群の粒子径を基準としたとき、前記水洗浄後に空気中常圧下にて300℃で加熱した際の粒子径の変化率が±20%である、請求項1〜のいずれか一項記載のセラミック粒子群。
  7. 請求項1〜のいずれか一項記載のセラミック粒子群を用いて得られたものであることを特徴とする生体内導入用医療材料。
  8. 請求項記載の生体内導入用医療材料を一材料として得られた医療機器。
  9. 請求項1〜6のいずれか一項記載のセラミック粒子群を用いて得られたものであることを特徴とする医療用材料。
  10. 請求項1〜6のいずれか一項記載のセラミック粒子群を用いて得られたものであることを特徴とする歯科用材料。
  11. 請求項1〜6のいずれか一項記載のセラミック粒子群を用いて得られたものであることを特徴とする化粧料。
  12. セラミック粒子からなるセラミック粒子群の製造方法において、
    焼結前のセラミック原料である一次粒子を含有する水系媒体を凍結して凍結体を得た後に当該凍結体を解凍させて解凍体を得る前工程と、
    前記解凍体から前記水系媒体を除去して得られた前記一次粒子を焼成する焼成工程と、
    前記焼成工程により得られた焼成体を粉砕して前記セラミック粒子群を得る粉砕工程と
    を含み、
    前記セラミック粒子が、リン酸カルシウム焼結体粒子であり、
    記セラミック粒子群がアルカリ金属元素及び炭酸カルシウムを実質的に含有しないことを特徴とするセラミック粒子群の製造方法。
  13. 上記セラミック粒子の粒子径が、10nm〜700nmの範囲内である、請求項12記載の製造方法。
  14. 前記セラミック粒子群の粒子径の変動係数が、20%以下である、請求項12又は13記載の製造方法。
  15. 前記セラミック粒子が略球状である、請求項12〜14のいずれか一項記載の製造方法。
  16. 前記セラミック粒子が、
    粒子径が、短軸の最大直径が30nm〜5μm、長軸が75nm〜10μmであり、c軸方向に成長し、結晶のアスペクト比(c軸長/a軸長)が、1〜30であり、截頭形柱状構造である、請求項12記載の製造方法。
  17. 前記セラミック粒子が、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子である、請求項1216のいずれか一項記載の製造方法。
  18. 前記セラミック粒子群が生体内導入用医療材料である、請求項1217のいずれか一項記載の製造方法。
  19. 前記セラミック粒子群が医療機器用である、請求項18記載の製造方法。
  20. 前記セラミック粒子群が医療用材料用である、請求項12〜17のいずれか一項記載の製造方法。
  21. 前記セラミック粒子群が歯科用材料用である、請求項12〜17のいずれか一項記載の製造方法。
  22. 前記セラミック粒子群が化粧料用である、請求項12〜17のいずれか一項記載の製造方法。
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