次に、本発明の実施形態について説明するが、まずエンジンに関する全体的な構造例をその燃焼制御例と共に説明し、次に排気ガス浄化触媒の劣化診断例について説明し、最後に、排気ガス浄化触媒を構成するHC吸着部と酸化触媒部とのいずれが劣化しているかを特定することについて説明することとする。
(エンジンの全体構造)
図1は、本発明に係るエンジンの全体構成図を示している。エンジン1は、車両に搭載されると共に、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンであって、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面にはリエントラント形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
これら吸排気弁21、22をそれぞれ駆動する動弁系において、排気弁側には、当該排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える油圧作動式の可変機構(以下、VVM(Variable Valve Motion)と称する)が設けられる。排気弁22は、通常モードでは排気行程中において一度だけ開弁され、特殊モードでは排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行うように動作する。
前記シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に各気筒11a内の吸入空気を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。前記インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、基本的には圧縮行程上死点付近で、燃焼室14aに燃料を直接噴射供給するようになっている。
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、吸入空気の過給を行う大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62とが配設されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、大型及び小型ターボ過給機61、62のコンプレッサ61a、62aと、該コンプレッサ61a、62aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、前記各気筒11aの燃焼室14aへの吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。このスロットル弁36は、基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。
前記吸気通路30における前記サージタンク33とスロットル弁36との間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型コンプレッサ62aよりも下流側部分)と、前記排気通路40における前記排気マニホールドと小型ターボ過給機62の小型タービン62bとの間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりも上流側部分)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50によって接続されている(高圧EGR装置)。このEGR通路50は、EGRクーラ52及び排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための排気ガス還流弁51aとが配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。このクーラバイパス通路53には、クーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのクーラバイパス弁53aが配設されている。
この高圧EGR装置とは別に、低圧EGR装置として、吸気通路30における大型ターボ過給機61の大型コンプレッサ61aよりも上流側部分と、排気通路40におけるDPF42よりも下流側部分とは、排気通路40に設けられたEGR取り出し部55を介して排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路54によって接続されている。また、EGR通路54は、排気ガスを冷却するためのEGRクーラ54b及び低圧EGR弁54aとが配設されて構成されている。また、EGR取り出し部55より下流の排気通路40には排気絞り弁58が配設されており、前記EGR弁54aと排気絞り弁58の開度を運転状態に応じて制御することによって、低圧EGR装置における排気ガスの吸気通路30への還流量の調整を行う。
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、小型ターボ過給機62のタービン62b、大型ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中のHC、COを酸化浄化する排気浄化触媒41と、ディーゼルパティキュレートを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFという。)42と、サイレンサ46とが配設されている。なお、排気浄化触媒41及びDPF42は1つのケース内に収容されている。
図2は排気浄化触媒41を部分的に拡大したものである。排気浄化触媒41は、コージェライト製のハニカム構造体からなる担体41aと、この担体41aに形成された貫通孔の壁面に担持された酸化触媒部41bと、HC吸着部41cとを備えている。HC吸着部41cは、約0.5mmの径を有する多数の細孔が形成されたゼオライトからなる結晶であり、冷間始動時等の低温時には、排気ガス中のHC分子がゼオライトの細孔にトラップされることにより吸着され、高温時には、吸着されたHC分子が振動してゼオライトの細孔から飛び出すことにより、放出される。また、酸化触媒部41bは、白金(Pt)やパラジウム(Pd)等の触媒金属からなり、所定温度に加熱されて活性化することにより、エンジンから排出される排気ガス中のHC、COを酸化浄化するとともに、HC吸着部41cから放出されたHCをも酸化浄化する機能を備えている。すなわち、この排気浄化触媒41は、冷間始動時などの排気浄化触媒が活性化しておらずHCを十分に浄化することができない時にHCを一時的に吸着し、排気浄化触媒が活性化した後に吸着されているHCを放出して浄化する機能を備えている。
このように構成されたディーゼルエンジン1は、エンジン全体の制御を行うパワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。このPCM10は、メモリ、CPU、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサなどで構成されており、エアクリーナ下流の吸入空気量を検出するエアフローセンサ32、サージタンク33に取り付けられて燃焼室14aに供給される空気の圧力を検出する圧力センサ34及び吸入空気の温度を検出する吸気温度センサ35、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ36、排気ポート17の下流の排気ガス圧力を検出する排気ガス圧力センサ37、クランクシャフト15の回転角を検出することによりエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ39、排気浄化触媒41上流の排気ガス温度を検出する排気浄化触媒上流排気ガス温度センサ43、排気浄化触媒41下流の排気ガス温度を検出する排気浄化触媒下流排気ガス温度センサ44、DPF41bの上流側と下流側との圧力差ΔP(DPF上流側の圧力P1−DPF下流側の圧力P2)を検出するDPF差圧センサ45、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサ46、車両のアクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ(図示省略)等からの信号が入力され、これらの信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ18、グロープラグ19、動弁系のVVM(図示省略)、各種の弁36、51a、63a、64a、65a等のアクチュエータへ制御信号を出力するとともに、後述する排気浄化触媒劣化診断手段120により排気浄化触媒41が劣化していると判定されたときには、警報装置130を作動させるように信号を出力する。
そうして、このエンジン1は、その幾何学的圧縮比を12以上15以下(例えば14)とした、比較的低圧縮比となるように構成されており、これによって排気エミッション性能の向上及び熱効率の向上を図るようにしている。
(エンジンの燃焼制御の概要)
前記PCM10によるエンジン1の通常の制御は、主にアクセル開度に基づいて目標トルク(言い換えると、目標となる負荷)を決定し、これに対応する燃料の噴射量や噴射時期等をインジェクタ18の作動制御によって実現するものである。目標トルクは、アクセル開度が大きくなるほど大きくなるように、またエンジン回転数が2000rpm付近で最高値になるように設定され、当該目標トルクに基づいてエンジン単位回転数あたりの燃料噴射量が設定される。当該燃料噴射量は目標トルクが高くなるほど、大きくなるように設定され、エンジン単位回転、ここでは2回転毎の圧縮行程後期から膨張行程初期の間の所定タイミングに噴射する。なお、本実施形態における燃料噴射制御については、例えば、特開2012−012972に記載のエンジンのように、エンジン負荷とエンジン回転数とに応じて複数の運転領域を設定し、各運転領域に応じて、パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、アフタ噴射、ポスト噴射の5つのタイミングでの燃料噴射を制御しており、排気ガス中のNOxや煤の低減、騒音乃至振動の低減、燃費やトルクの向上を図っている。
DPF42によるPMの捕集量が所定量を超えたときには、DPF42の目詰まりによるエンジン1の背圧上昇を防止するために、膨張行程後期から排気行程の所定タイミングにインジェクタ8からエンジン1の燃焼室へポスト噴射が行われる(DPF再生処理)。このポスト噴射が行われると、未燃燃料が排気通路に排出され、この未燃燃料が排気浄化触媒41で酸化されるため、このとき生じる酸化反応熱でDPF42の温度が上昇することで、DPF42に蓄積されたPMが焼失され、これにより、DPF42が再生する。
すなわち、排気浄化触媒41は、前述したエンジンから排出される未燃燃料を酸化浄化する機能に加え、DPF42の温度を上昇させる機能をも持ち合わせていることになる。この排気浄化触媒41が、熱あるいは燃料やオイルに含まれる硫黄分による被毒等により劣化が進行した場合、前述した機能を満足できなくなるため、排気浄化触媒41が劣化したことを検出して、排気浄化触媒41の劣化を乗員に報知し交換を促す必要がある。そのため、PCM10は排気浄化触媒劣化診断手段を備えている。
図3は、排気浄化触媒劣化診断に係る全体ブロック図である。PCM10は排気浄化触媒41の劣化を診断する排気浄化触媒劣化診断手段120を備えている。この排気浄化触媒劣化診断手段120には、エアフローセンサ32、吸気圧力センサ34、吸気温度センサ35、エンジン水温センサ36、排気ガス圧力センサ37、エンジン回転数センサ39、排気浄化触媒上流排気ガス温度センサ43、排気浄化触媒下流排気ガス温度センサ44、DPF差圧センサ45、リニアO2センサ46、等の信号が入力され、これらの信号を用いて後述する排気浄化触媒劣化診断手段120による劣化診断が行われる。
排気浄化触媒劣化診断手段120は、排気浄化触媒下流排気ガス温度センサ44の検出値等に基づいて排気浄化触媒実温度パラメータを算出する排気浄化触媒実温度パラメータ検出手段80、HC吸着部41cから放出されるHC量を算出するHC放出量算出手段90、HC放出量算出手段90の信号を受けて診断温度パラメータ閾値を設定する診断温度パラメータ閾値設定手段100、排気浄化触媒実温度パラメータ検出手段80の信号と診断温度パラメータ閾値設定手段100の信号との比較によって排気浄化触媒の劣化を判定する劣化判定手段110、排気浄化触媒劣化診断手段の各種演算を行うCPU121、前記演算によって算出されるパラメータを記憶するメモリ122、を備えている。
詳細は後述するが、このようにHC放出量算出手段90の信号に基づいて診断温度パラメータ閾値(実施形態においては、正常な排気浄化触媒で発生すると予測される所定期間内の供給反応熱量Qdoc#inがこれに相当する。)と、排気浄化触媒実温度パラメータ(実施形態においては、排気浄化触媒下流排気ガス温度センサ44等の信号に基づいて検出した所定期間内の実反応熱量Qdocがこれに相当する。)と、を比較することにより排気浄化触媒の劣化を判定することで、HC吸着部から放出されるHCにより上乗せされる酸化反応熱の影響が差し引かれて、放出されるHCに起因する排気浄化触媒41の劣化誤判定は抑制される。すなわち、実施形態においては、このHC放出量に基づいて設定される診断温度パラメータ閾値設定手段100が、HC放出量の増加に伴う排気浄化触媒実温度パラメータの増加によって前記劣化判定手段が誤判定することを防止する劣化誤判定防止手段となる。
前記排気浄化触媒劣化診断手段120により排気浄化触媒が劣化していると判定されたときには、PCM10は警報装置130を作動させるように信号を出力する。
(劣化診断の制御例−メインルーチンで図4、図5)
図4、図5は、排気浄化触媒劣化診断装置の診断制御のメインルーチンを示すフローチャート(R1)である。IGがONされると、まずステップ1でIGON直後であるかが判定され、IGON直後であればメモリ122に記憶されている前回のエンジン停止直前のHC吸着総量HCads#lを読み込み(ステップ2)、HCads#lを現在のHC吸着総量HCadsとして設定する(ステップ3)。詳細は図9のHC吸着総量を算出するサブルーチンを示すフローチャートで説明するが、HC吸着部温度が所定温度以下の状態でIGOFFされた場合には、HC吸着部に所定量のHCが吸着されたままの状態となるため、HC吸着総量算出に際しては、これを加味する必要がある。そこで、IGOFF直前のHC吸着総量HCcads#lをメモリ122に記憶しておき、次にエンジン始動した時に、これをHC吸着総量HCadsの初期値として設定する。一方、ステップ1でIGON直後でないと判定された場合には、現在のHC吸着総量HCadsが読み込まれる。現在のHC吸着総量HCadsは、図9のHC吸着総量を算出するサブルーチンを示すフローチャートで説明するように、逐次演算されており、その演算結果の最新値がメモリ122に記憶されているため、この記憶されたHCadsを読み込めばよい。続いてステップ5、6では、排気浄化触媒の劣化診断の所定の診断実行条件が成立しているか否かが判断される。
ステップ5〜ステップ9は、劣化診断を実行するための条件判定を示すものである。すなわち、概略的に述べると、ステップ5〜8は、排気ガス浄化触媒41に対して十分に未燃燃料が供給される状態であるか否かの条件判定となっている。また、ステップ9は、排気ガス浄化触媒41が十分に活性化しているか否かの判定となる。
具体的には、ステップS5においては、冷間始動時であるか否かが判別される。すなわち、冷間始動時では、排気ガス中の未燃成分が多くなる状態となるので、このステップ5での判別でYESのときは、ステップ9に移行される。
ステップ5での判別でNOのときは、ステップ6において、HC吸着部41cからの単位時間当たりのHC放出量△HCdesが第1所定値(例えば0.01g)以上であるか否かが判別される。このステップ6での判別でYESのときは、さらに、ステップ7において、HC吸着部41cでのHC総吸着量HCadsが第2所定値(例えば0.5g)以上であるか否かが判別される。このステップ7の判別でYESのときは、HC吸着部41cからのHC放出量が多く、かつこの放出量が多い状態が継続して行われる状態であるとして、ステップ9に移行される。なお、HC放出量△HCdesの算出(推定)手法については後述する。
前記ステップ6の判別でNOのとき、あるいはステップ7の判別でNOのときは、それぞれ、ステップ8に移行して、排気浄化触媒41への単位時間当たりの供給HC総量△HCsumおよびエンジンから排出される単位時間当たりのCO排出量△COexhの加算値(△HCsum+△COexh)が、第3所定値(例えば0.13g)以上であるか否かが判別される。このステップ8の判別でYESのときは、ステップ9に移行される。なお、排気浄化触媒41への単位時間当たりの供給HC総量△HCsumは、後述するようにエンジン排出HC量ΔHCexhと、HC放出量ΔHCdesと、を足し合わせることにより算出されるものである。このとき、エンジン排出HC量ΔHCexhはエンジンの状態、例えばアクセル開度等によって変化するため、アクセル開度が所定範囲内で安定しているときに、本劣化診断を行うことが好ましい。
前記ステップ8の判別でNOのときは、排気ガス浄化触媒41に供給される未燃燃料量が少ないときであって、劣化診断を行うには適さない状態であるとして、ステップ1に戻る。
上述したように、ステップ5の判別でYESのとき、ステップ6および7の判別がそれぞれYESのとき、あるいはステップ8の判別でYESのときは、排気ガス浄化触媒41に供給される未燃燃料量が多くなる状態であることが確認された状態である。このときは、ステップ9において、排気ガス浄化触媒41の直下流側温度T2dummyが、活性化温度となる所定温度(例えば160℃)以上であるか否かが判別される。このステップ9の判別でNOのときは、劣化診断に必要な温度にまで排気ガス浄化触媒41の温度が上昇していないときであるので、このときはステップ1に戻る。なお、ステップ9は、排気ガス温度が所定温度以上であるか否かの判定に対応しており、このため、ステップ9の判定を、排気ガス浄化触媒41付近に配設された温度センサ43あるいは44で検出される排気ガス温度が、所定温度以上であるか否かを判定するものとしてもよい。
上記ステップ9の判別でYESのときは、図5に示すステップ17移行の処理によって、排気ガス浄化触媒41が劣化しているか否かの診断が実行される。以下図5について説明する。
まず、ステップ17で、正常な排気浄化触媒で単位時間当たりに発生すると推測される供給反応熱量ΔQdoc#in(後述する図6のルーチン(R2)により逐次算出されている単位時間当たりの供給反応熱量。)、実際に排気浄化触媒で単位時間当たりに発生した反応熱量である反応熱量ΔQdoc(後述する図7のルーチン(R3)により逐次算出されている単位時間当たりの反応熱量。)の値が読み込まれる。そして、このΔQdoc#in及びΔQdocを、前回の反応熱量の積算値であるQdoc及び前回の供給反応熱量の積算値であるQdoc#inに加算して、これを最新の反応熱量積算値Qdoc及び現在の供給反応熱量Qdoc#inとすることを、積算時間が60sを超えるまで繰り返す(ステップ17〜19)。なお、QdocとQdoc#inの初期値は、診断を開始する前に予めゼロに設定されている(後述するステップ18で説明するように、診断終了時に0にリセットされているため。)。ΔQdoc及びΔQdoc#inといった瞬時値は、運転状態の変化等によって増減しやすいため、本実施形態においてはΔQdoc及びΔQdoc#inの所定期間内の積算値であるQdoc及びQdoc_inを用いて診断を行うようにしている。なお、前述したように、本実施形態においては、Qdocが排気浄化触媒実温度パラメータ、Qdoc#inが診断温度パラメータ閾値に相当する。続いて、図6を用いてΔQdoc算出方法、図7を用いてΔQdoc#in算出方法を説明する。
図6は、単位時間当たりの供給反応熱量ΔQdoc#inを算出するサブルーチンのフローチャートである。まず、ステップ911で、エンジン回転数センサ39より検出されるエンジン回転数NE、各種センサ信号に基づいて算出されるピストン上死点における筒内圧力Pcyl(圧縮端圧力)、ピストン上死点における筒内温度Tcyl、筒内O2濃度が読み込まれる。前記筒内圧力Pcyl及び筒内温度Tcyl算出方法については特に限定されないが、筒内圧力Pcyl及び筒内温度Tcylは幾何学的圧縮比、吸気温、大気圧(又は吸気圧)、エンジン水温、有効圧縮比、エンジン負荷、燃料噴射量、燃料噴射圧等の、エンジンの運転に係るパラメータと相関があるため、これらのパラメータを各種センサを用いて検出あるいは推定し、該検出値あるいは推定値に対して予め実験等により定めた関数あるいはマップを用いて算出すればよい。具体的には、吸気温が高いほど、エンジン水温が高いほど、有効圧縮比が高いほど、又は、エンジン負荷が高いほど、筒内圧力Pcyl及び筒内温度Tcylは高くなるように算出する。
また、前記筒内O2濃度算出方法についても特に限定されないが、例えば、エアクリーナ31を通る新気量をエアフローセンサ32により検出し、予めメモリ122に記憶された新気のO2濃度と前記新気量とリニアO2センサ46より検出される排気O2濃度とEGR通路上下流の圧力センサ等から算出されるEGRガス量とに基づいて吸気O2濃度を算出し、予めメモリ122に記憶されたエンジン運転状態に応じて設定した体積効率等に基づいて充填量を算出し、排気ガス圧力センサ37等に基づき筒内残留排気ガス量を算出し、リニアO2センサ46より筒内残留排気ガスO2濃度を推定し、前記充填量と前記筒内残留排気ガス量と前記吸気O2濃度と前記筒内残留排気ガスO2濃度とに基づいて筒内O2濃度を算出すればよい。
続いて、ステップ912で、着火遅れ時間zが算出される。ここでの着火遅れ時間zは、燃料を噴射してから該燃料が着火するまでの時間遅れを指しており、例えば、予混合燃焼においては圧縮行程で所定の時間間隔を空けて複数回噴射される燃料噴射が終了してから上死点(TDC)近傍で自着火による燃焼が発生するまでの時間、拡散燃焼においてはメイン噴射を開始してから燃焼が開始するまでの時間を表す。この着火遅れ時間zは、前記筒内圧力Pcyl、前記筒内温度Tcyl、前記エンジン回転数(エンジン回転数センサ39の検出値)、前記筒内O2濃度等に基づいて算出することができる。すなわち、筒内圧力Pcylが高いほど、筒内温度Tcylが高いほど、自着火が起こりやすくなるために着火遅れ時間は短くなり、回転数が高くなるほど混合気が高温となる時間が短くなるために着火遅れ時間は長くなり、筒内O2濃度が小さい(EGR率が高い)ほど、燃焼しにくくなるために着火遅れ時間は長くなる。具体的には、次に示す着火遅れ時間zの関係式z=A×PcylB×exp(1/Tcyl)C×NED×O2cylEより算出できる。このA、B、C、D、Eは、定数であり、予め実験等により求めればよい。
次に、ステップ913で、前記着火遅れ時間zに基づいて単位時間当たりのエンジン排出HC量ΔHCexhを算出する。具体的には、この着火遅れ時間zが長く、膨張行程の、狙いの燃焼タイミングより遅いタイミングでの着火となる場合には、燃料の燃焼が不完全となり、エンジンから排出されるHCが多くなるため、着火遅れ時間zが大きくなるほどΔHCexhが大きくなるように予め実験あるいは理論値より定めたマップもしくは関数により、ΔHCexhを算出する。続いてステップ914で、HC放出量算出手段90より検出されたHC吸着部からの単位時間当たりのHC放出量ΔHCdesを読み込む。なお、HC放出量ΔHCdes算出方法については、後述する図10を用いて説明する。続いて、ステップ915でエンジン排出HC量ΔHCexhと、HC放出量ΔHCdesと、を足し合わせることにより、排気浄化触媒41への単位時間当たりの供給HC総量ΔHCsumを算出する。続いて、ステップ916で供給HC総量ΔHCsumが正常な排気浄化触媒41に供給されたときに発生すると予測される反応熱量ΔQHCsumを算出する。ΔQHCsumは、予め実験あるいは理論値より求めた供給HC総量(ΔHCsum)と反応熱量のマップ、あるいはHC量(ΔHCsum)を変数とする関数により算出すればよい。
次に、ステップ917で、前記着火遅れ時間zに基づいて単位時間当たりのエンジン排出CO量ΔCOexhを算出する。具体的には、この着火遅れ時間zが長く、膨張行程の、狙いの燃焼タイミングより遅いタイミングでの着火となる場合には、燃料の燃焼が不完全となり、エンジンから排出されるCOが多くなるため、着火遅れ時間zが大きくなるほどΔCOexhが大きくなるように予め実験あるいは理論値より定めたマップもしくは関数により、ΔCOexhを算出する。続いて、ステップ918で、ΔCOexhが正常な排気浄化触媒に供給されたときに発生すると予測される反応熱量ΔQCOexhを算出する。ΔQCOexhは、予め実験あるいは理論値より求めたCO量(ΔHCsum)と反応熱量のマップ、あるいはCO量(ΔHCsum)を変数とする関数により算出すればよい。そして、ステップ919で、算出したΔQHCsumと、ΔQCOexhと、を足し合わせることにより、単位時間当たりの供給反応熱量ΔQdoc#inが算出され、図5のステップ17で最新の供給反応熱量ΔQdoc#inを取込むため、これを最新値としてメモリ122に記憶する(ステップ920)。
このように、HC放出量を加味して排気浄化触媒に供給されるHC供給総量ΔHCsumを算出し、このHC供給総量ΔHCsumに基づき単位時間当たりの供給反応熱量ΔQdoc#inを算出することで、正常な排気浄化触媒で発生する予測される単位時間当たりの供給反応熱量ΔQdoc#inをより正確に算出でき、後述するΔQdocの積算値である所定期間内の供給反応熱量Qdoc#inをより正確に算出できる。また、ΔQdoc#inの算出に際して、エンジン排出CO量による酸化反応熱量を加味しているため、ΔQdoc#in及びQdoc#inがより正確に算出される。
次に、図7を用いて単位時間当たりの反応熱量ΔQdoc(実際に排気浄化触媒で発生した反応熱量)検出方法について説明する。
図7は、単位時間当たりの反応熱量ΔQdocを検出するサブルーチンのフローチャートである。まず、ステップ930で、排気浄化触媒上流排気ガス温度センサ43より検出される排気浄化触媒上流排気ガス温度T1、排気浄化触媒下流排気ガス温度センサ44より検出される排気浄化触媒下流排気ガス温度T2、後述するHC放出量算出手段90と兼用する排気ガス流量検出手段71より検出される排気ガス流量Vexhを読み込む。なお、排気ガス流量Vexhは後述するHC吸着可能率算出手段91aが備える排気ガス流量検出手段71による検出値を読み込めばよい。
次に、ステップ931で、排気浄化触媒による酸化反応が起こらない状態、すなわち触媒酸化反応温度を含まない排気浄化触媒下流排気ガス予測温度T2dummyを推定する。この排気浄化触媒下流排気ガス予測温度T2dummyの推定方法については特に限定されないが、本実施形態においては、排気浄化触媒が劣化し酸化反応が起こらないダミー触媒を搭載した車両にて予め実験により求められた特性(排気管、排気浄化触媒の熱容量、熱伝達率など)を基に設定されたT1を変数とする応答関数により推定する。このとき、排気ガスがT1を検出する排気浄化触媒上流排気ガス温度検出手段71設置部からT2を検出する排気浄化触媒下流排気ガス温度検出手段72設置部まで移動するまでのむだ時間を考慮することが好ましく、このようにむだ時間を考慮することで、後述するステップ933において排気浄化触媒で発生した反応熱量Qdocを算出するためにT2dummyとT2との差を算出する際に、T2dummyとT2検出時との排気ガス移動位置を一致させることができるため、より正確に反応熱量Qdocを算出することができる。
次に、ステップ932で、排気ガス流量Vexhに基づいて排気ガス質量Mexh及び排気ガス比熱Cexhが推定され、ステップ933で、Mexh、Cexh、T2とTdummyの差(T2−T2dummy)を演算することにより、単位時間当たりの反応熱量ΔQdocが算出され、図5のステップ17で最新の単位時間当たりの反応熱量ΔQdocを取込むため、所定のメモリに更新、記憶する(ステップ934)。
このようにT2dummyとT2との差から排気浄化触媒における酸化反応熱量を算出することにより、酸化反応以外の要因による温度増加の影響を差し引くことができるため、より正確に酸化反応熱量のみを算出することができる。すなわち、排気浄化触媒下流排気ガス温度センサ44の検出値であるT2には排気浄化触媒での酸化反応熱以外の温度変化要因、例えば、排気ガスの状態や排気浄化触媒ケースへの伝熱の影響が含まれている。そこで、本実施形態においては、まず、酸化反応熱以外の温度変化要因のみが含まれる、言い換えると酸化反応熱の温度変化のみを含まない排気浄化触媒下流排気ガス温度T2dummyを推定し、T2からこのT2dummyを引いた温度T2−T2dummyを排気浄化触媒下流の排気ガス温度として、単位時間当たりの反応熱量ΔQdocを算出して、酸化反応熱以外の温度変化要因を差し引くようにしている。
次に、図5のメインルーチンのステップ17で、図6のサブルーチンにより算出、記憶した最新のΔQdoc#inを前回算出されたQdoc#inに加算するとともに、図7のサブルーチンより算出、記憶した最新のΔQdocを前回算出されたQdocに加算し、Qdoc#in、Qdocを最新化する。そして、これを積算時間が60s以上になるまで繰り返す(ステップ17〜19)。すなわち、ΔQdoc#in及びΔQdocはエンジンの運転状態等によって増減するため、少なくとも60s以上経過するまでQdoc及びQdoc#in算出における積算を実行することにより劣化診断精度を向上させている。
前記積算時間が60s以上である場合にはステップ20に進み、Tdummyが所定値以上であるかが判定される。すなわち、Tdummyが所定値以上(例えば200℃)である場合には、排気浄化触媒が活性化しており、排気浄化触媒が劣化していないのであれば、十分な酸化反応熱を含んだQdocが得られる状態であり、診断に適したQdocが得られたと判断してステップ21に進む。一方で、Tdummyが所定値以上でない場合には、十分なQdocが得られていないと判断して、Tdummyが所定値以上になるまでステップ17〜18におけるQdoc及びQdoc#inの積算を繰り返す。このように、十分なQdocが得られるまでQdocの積算を繰り返すことにより劣化診断精度を向上させている。
続いてステップ21で、積算時間が200s以下であるかが判定されて、200s以下であればステップ22に進み、200s以上であれば診断に適していないと判断して、ステップ26に進み診断を保留する。すなわち、Qdoc及びQdoc#inの積算時間が200sを超える場合には、Qdoc及びQdoc#in算出に用いる排気浄化触媒上流排気ガス温温度センサ43及び排気浄化触媒下流排気ガス温度センサ44の検出誤差の累積が大きくなる可能性があり、劣化診断精度が低下する可能性があるため、診断時間が200sを超える場合には診断を保留して(ステップ16)、診断を終了する。
続いて、ステップ22で、QdocがQdoc#inに対して所定以上低温側にあるか否かが判定されて、所定以上低温側であれば、排気浄化触媒での酸化反応が低下し過ぎていると判断して排気浄化触媒の劣化を判定し(ステップ23)、警報装置を作動させる(ステップ24)。一方、所定以上低温側でなければ、排気浄化触媒での酸化反応が十分に発生していると判断して、排気浄化触媒が正常であると判定する(ステップ25)。なお、前述したQdocとQdoc#inの比較に基づく劣化判定方法については特に限定されないが、例えばQdocとQdoc#inの差が所定値以上となったときに劣化と判定する、あるいは、QdocとQdoc#inの比である発熱率(=Qdoc/Qdoc#in)が所定値以下となったときに劣化と判定すればよい。
このように、HC吸着部41cから放出されるHCを含む正常な排気浄化触媒で発生すると予測される供給反応熱量Qdoc#in(診断温度パラメータ閾値)と、実際に排気浄化触媒で発生した反応熱量Qdoc(排気浄化触媒実温度パラメータ)と、を比較して、劣化判定を行うことで、放出されるHCの影響が差し引かれるため、HC吸着部から放出されるHCにより酸化反応熱が上乗せされることに起因する排気浄化触媒の劣化の誤判定は抑制される。すなわち、排気浄化触媒下流の温度センサ44で検出される排気ガス温度は、放出されるHCによる酸化反応熱の影響を含む温度であり、これを基に検出される排気浄化触媒実温度パラメータであるQdocは、放出されるHCによる酸化反応熱の影響を含む反応熱量が検出されることになる。これに対して、HC放出量を踏まえて算出した排気浄化触媒で発生すると推定される供給反応熱量Qdoc_inを診断温度パラメータ閾値として、このQdoc#inとQdocと比較して劣化判定することで、QdocとQdoc#inの双方が放出されるHCを含んだパラメータとなるため、放出されるHCによる酸化反応熱の上乗せが加味された診断を行うことができる。また、この実施形態の方法においては、HC放出量の多さに関わらず、放出されるHCに起因する劣化誤判定を抑制できるため、HC放出量が大きいときには診断を制限するといった診断実行条件を制限する必要がなく、診断頻度を確保できる。
なお、本実施形態においては、診断温度パラメータ閾値として、排気浄化触媒が正常な状態である場合の供給反応熱量Qdoc#inを用いたが、排気浄化触媒が所定水準まで劣化している状態における供給反応熱量Qdoc#inを用いてもよい。この場合、図6のサブルーチンのステップ916の供給HC総量に対する反応熱量ΔHCsum及びステップ918のエンジン排出CO量ΔCOexhに対する反応熱量の算出に用いる関数あるいはマップを、所定水準まで劣化させた排気浄化触媒を用いた実験により求めたΔHCsumと反応熱量の関係及びΔCOexhと反応熱量との関係に基づいて設定すればよく、この場合の劣化判定は、例えば、QdocとQdoc#inとの差が所定値以下となった時に劣化判定すればよい。また、本実施形態においては排気浄化触媒実温度パラメータとしてΔQdocの積算値であるQdoc、診断温度パラメータとしてΔQdoc#inの積算値であるQdoc#inを用いたが、制御を簡略化するために排気浄化触媒実温度パラメータとしてΔQdoc、診断温度パラメータ閾値としてΔQdoc#inを用いてもよく、さらに制御を簡略化するために、排気浄化触媒実温度パラメータを排気浄化触媒下流排気ガス温度センサ44の検出値T2、診断温度パラメータをHC放出量に基づいて算出した排気浄化触媒下流排気ガス温度推定値としてもよい。
また、本実施形態においては、診断温度パラメータ閾値である供給反応熱量Qdoc#inの算出に際して、単位時間当たりのHC放出量ΔHCdesを逐次読み込み(ステップ914)、ΔHCdesを含めた単位時間当たりの反応熱量ΔQHCsumを逐次算出しているが(ステップ916)、予めメモリ122に診断温度パラメータ閾値の固定値を記憶し、単位時間当たりのHC放出量ΔHCdesを積算し、予め実験等により求めた前記HC放出量積算値に対する補正係数のマップあるいは関数を用いて補正係数を算出し、前記診断温度パラメータ閾値の固定値を前記補正係数に基づき補正した診断温度パラメータ閾値と、排気浄化触媒実温度パラメータと、を比較することにより、排気浄化触媒の劣化を判定するようにしてもよい。
一方で、前述した方法により、放出されるHCによって生じる排気浄化触媒実温度パラメータ増加に起因する前記劣化判定手段の誤判定を防止する場合、単位時間当たりのHC放出量を正しく算出することが重要となる。そこで、本実施形態においては次のような方法により単位時間当たりのHC放出量を算出する。図8はHC放出量算出手段90に係るブロック図を示している。HC放出量算出手段90は、HC吸着総量算出手段91、該HC吸着総量算出手段91の信号を受けてHC放出量を設定するHC放出量設定手段92、排気浄化触媒下流排気ガス温度センサ44の信号を受けてHC吸着部温度を算出するHC吸着部温度検出手段93、該HC吸着部温度検出手段93の信号を受けて吸着部温度補正係数を算出する吸着部温度補正係数算出手段94、排気ガス圧力センサ37の信号を受けて排気浄化触媒41の入口の排気ガス圧力を算出する排気ガス圧力検出手段95、該排気ガス圧力検出手段95の信号を受けて、排気ガス圧力補正係数を算出する排気ガス圧力補正係数算出手段96、HC放出量算出手段92より設定されたHC放出量に吸着部温度補正係数算出手段94で算出された補正係数を乗算する乗算手段98、乗算手段98の演算値に排気ガス圧力補正係数算出手段96で算出された補正係数を乗算する乗算手段99を備えている。
単位時間当たりのHC放出量は、HC吸着総量が多いほど多くなる。また、単位時間当たりのHC放出量はHC吸着部温度と相関があり、HC吸着部温度が高いほど吸着されたHCの脱離速度が速くなるために単位時間当たりのHC放出量は多くなる。また、単位時間当たりのHC放出量は排気ガス圧力と相関があり、排気ガスが低いほど単位時間当たりのHC放出量は多くなる。すなわち、HCの吸着はゼオライト等の結晶部とHCとが化学的に結合することによってなされており、この結合が切れてHCが脱離し得る温度(沸点)に達した時にHCが放出されるため、排気ガス圧力が高くHC吸着部の圧力が高い場合には、HCが脱離し得る沸点が上昇してHCが放出されにくくなるため、単位時間当たりのHC放出量は小さくなる。そこで、HC放出量設定手段92よりHC吸着総量に対してHC放出量のベース値を設定し、HC吸着部温度補正係数算出手段よりHC吸着部温度が高いほど単位時間当たりのHC放出量が多くなるように設定されたHC吸着部温度補正係数を算出し、排気ガス圧力補正係数算出手段96より排気ガス圧力が大きいほど補正係数が小さくなるように設定された排気ガス圧力補正係数を算出し、これらの補正係数を、前記HC放出量のベース値に乗算することにより、単位時間当たりのHC放出量を算出する。
このように単位時間当たりのHC放出量と相関があるHC吸着総量、HC吸着部温度、排気ガス圧力に基づいて単位時間当たりのHC放出量を算出することで、単位時間当たりのHC放出量算出精度が向上し、これに伴い放出されるHCに起因する排気浄化触媒の劣化誤判定がより正確に防止される。
本実施形態においては、単位時間当たりのHC放出量算出に用いるパラメータであるHC吸着部温度を排気浄化触媒下流排気ガス温度センサ44検出値より推定したが、HC吸着部温度は、HC吸着部の実測温度であってもよく、HC吸着部温度と相関がある排気浄化触媒上流の排気ガス温度から推定する、あるいは、エンジンの運転状態から推定してもよい。また、制御を簡略化するためにHC吸着部温度と相関がある排気浄化触媒下流の排気ガス温度等で代用するなど、HC吸着部温度と相関があるパラメータで代用してもよい。また、本実施形態においは、単位時間当たりのHC放出量算出に際して、最も影響が大きいHC吸着総量より算出したHC放出量のベース値に対して、HC吸着部温度補正係数と、排気ガス圧力補正係数と、を乗算することにより、単位時間当たりのHC放出量を算出したが、HC吸着部温度あるいは排気ガス圧力に基づいてHC放出量のベース値を算出し、その他のパラメータに関する補正係数を乗算することにより前記HC吸着量のベース値を補正してもよく、HC吸着総量とHC吸着部温度と排気ガス圧力とから構成されるマップを用いて単位時間当たりのHC放出量を算出してもよい。
一方で、前述した方法でHC放出量を算出する場合、HC吸着総量を正しく算出することが重要となる。そこで、本実施形態においては、図9に示す方法でHC吸着総量を逐次算出する。図9はHC吸着総量HCadsを算出するサブルーチンのフローチャートである。ステップ32〜33は、吸着可能率Ea算出に係るステップであり、まずステップ31で、予めメモリ122記憶した最大HC吸着容量CTHCと同じくメモリ122に記憶されている最新のHC吸着総量とに基づいて、現在の排気浄化触媒におけるHC充填率RHCを算出する。次にステップ32で排気ガス温度T1、後述する排気ガス流量検出手段の検出値である排気ガス流量Vexh、排気ガス圧力センサ37の信号である排気ガス圧力Pexhが読み込まれ、ステップ33でHC吸着可能率Eaが算出される。続いて図10を用いてHC吸着可能率Ea算出方法の詳細を説明する。
図10はHC吸着可能率Ea算出に係るブロック図である。HC吸着可能率算出手段91aは、前回算出したHC吸着総量とメモリ122に記憶された最大HC吸着容量123とに基づいてHC充填率を算出するHC充填率算出手段911、該HC充填率算出手段911の信号を受けてHC吸着可能率のベース値を設定するHC吸着可能率設定手段912、排気浄化触媒下流温度センサ44の信号を受けてHC吸着部温度を推定するHC吸着部温度検出手段93、該HC吸着部温度検出手段の信号を受けてHC吸着部温度補正係数を算出するHC吸着部温度補正係数算出手段913、エアフローセンサ32及びエンジン回転数センサ39の信号を受けて排気ガス流量を推定する排気ガス流量検出手段71、排気ガス流量検出手段71の信号を受けて排気ガス流量補正係数を算出する排気ガス流量補正係数算出手段914、排気ガス圧力センサ37の信号を受けて排気浄化触媒入口の排気ガス圧力を検出する排気ガス圧力検出手段95、該排気ガス圧力検出手段95の信号を受けて排気ガス圧力補正係数を算出する排気ガス圧力補正係数算出手段915、HC吸着可能率設定手段912で算出されたHC吸着可能率のベース値に、前記補正係数算出手段913〜915で算出された補正係数を乗算する乗算手段916〜918、を備えている。そして、このようにして算出されたHC吸着可能率Eaの最新値はメモリ122に記憶されて、図9のHC吸着総量算出のフローチャートにおけるステップ33で読み込まれる。
HC吸着部に供給されるHC量に対して吸着できるHC量の割合であるHC吸着可能率Eaは、HC吸着算出総量と、排気ガス圧力と、HC吸着部温度と、排気ガス流量と、相関がある。すなわち、HCの吸着はHCが吸着されていない結晶部分において行われるため、HC吸着総量が多いときには、HCが吸着されていない結晶部分が少なくなるために、HC吸着可能率は小さくなる。また、前述したようにHC吸着部温度が高いほどHCが放出されやすくなるためにHCは吸着されにくくなり、HC吸着可能率は低下する。また、排気ガス流量が多くなるにつれて、排気ガスの流速が早くなり、エンジンから放出されたHCがHC吸着部を通過する時間が短くなるために、HC吸着可能率は低下する。また、排気ガス圧力が高くなるほど、吸着部の圧力が高くなることによりHCが脱離する沸点が上昇してHCが放出されにくくなり、これに伴いHCが吸着されやすくなるために、HC吸着可能率は上昇する。そこで、上述したように、HC吸着可能率算出手段91aは、前記HC吸着総量算出手段のHC吸着総量が小さいほど、HC吸着可能率を大きく算出するとともに、前記HC吸着総量算出手段のHC吸着総量が小さいほどHC吸着可能率を大きく算出し、前記HC吸着部温度検出手段のHC吸着部温度が低いほどHC吸着可能率を大きく算出し、前記排気ガス圧力検出手段の排気ガス圧力が大きいほどHC吸着可能率を大きく算出する。
すなわち、HC吸着可能率Eaと相関があるHC吸着算出総量と、排気ガス圧力と、HC吸着部温度と、排気ガス流量と、に基づいてHC吸着可能率を算出することで、HC吸着可能率がより正確に算出されて、これに伴い、HC吸着総量及びHC放出量がより正確に算出されるため、放出されるHCにより上乗せされる酸化反応熱がより正確に加味されて、放出されるHCに起因する排気浄化触媒の劣化誤判定をより正確に防止できる。
なお、排気ガス流量検出手段71は、本実施形態においては、エアフローセンサ32とエンジン回転数センサを基に推定したが、インジェクタ18による燃料噴射量等のエンジンの運転状態に関わる他のパラメータを用いて推定してもよく、流量センサを用いた実測値を用いてもよい。また、本実施形態においは、HC吸着可能率算出に際して、最も影響が大きいHC充填率より算出したHC吸着可能率のベース値に対して、HC吸着部温度補正係数と、排気ガス流量補正係数と、排気ガス圧力補正係数と、を乗算することにより、HC吸着可能率を算出したが、HC吸着部温度あるいは排気ガス流量あるいは排気ガス圧力に基づいてHC吸着可能率のベース値を算出し、その他のパラメータに関する補正係数を前記HC吸着可能率のベース値に乗算することにより算出してもよく、HC充填率とHC吸着部温度と排気ガス流量と排気ガス圧力とから構成されるマップを用いてHC吸着可能率を算出してもよい。
続いて、図9のHC吸着総量算出のサブルーチンのフローチャートの説明に戻る。前述した方法で算出した吸着可能率Eaが読み込まれた(ステップ33)後、ステップ34で、HC放出量算出手段90より算出した単位時間当たりのHC放出量ΔHCdes、診断温度パラメータ閾値設定手段100が備えるエンジン排出HC量算出手段より算出されたエンジン排出HC量ΔHCexhを読み込み(ステップ35)、エンジン排出HC量ΔHCexhとHC吸着可能率Eaとを乗算した値からHC放出量ΔHCdesを減算することにより、単位時間当たりのHC吸着量ΔHCadsを算出する(ステップ36)。そして、この単位時間当たりのHC吸着量ΔHCadsを前回のHC吸着総量HCadsに加算することによりHC吸着総量を最新化し(ステップ37)、これをIGOFFするまで繰り返すことにより、HC吸着総量HCadsを逐次算出する(ステップ31〜38)。また、IGOFFする際には、IGOFF前のHCadsをメモリ142に記憶して(ステップ39)、次にエンジンを始動させた際に、メモリ142に格納されたHCads#lをHC吸着総量の初期値として設定(図4のステップ1〜3)できるようにする。
すなわち、ステップ31〜ステップ36において、単位時間当たりのHC吸着量ΔHCadsに影響する、HC吸着可能率Eaと、単位時間当たりのエンジン排出HC量ΔHCexhと、単位時間当たりのHC放出量ΔHCdesと、に基づいてΔHCadsを算出しているため、単位時間当たりのHC放出量ΔHCads、及びこのΔHCadsの積算値であるHCadsがより正確に算出されて、これに伴い単位時間当たりのHC放出量算出精度が向上し、診断温度パラメータ閾値Qdoc#in算出精度が向上する。また、ステップ39において、IGOFF直後のΔHCadsをメモリ122に記憶することにより、エンジン再始動時のHC吸着総量算出誤差が低減される。すなわち、HCが放出される温度になる前にエンジンを停止させた場合は、HC吸着部にHCが吸着されたままの状態となるため、ステップ39でエンジン停止前のHC吸着量を記憶して、次にエンジン始動させたときには、前記エンジン停止前に吸着されたHCが吸着されているものとして現在のHC吸着総量を算出するようにすることで(ステップ2)、エンジン始動直後のHC吸着総量算出値の誤差が低減されるため、HC吸着総量算出精度が向上する。
すなわち、実施形態の排気浄化触媒劣化診断方法を用いることにより、放出されるHCに起因する排気浄化触媒の劣化誤判定がより正確に防止される。
(熱劣化特性の設定例おより劣化部位の特定)
次に、図11を参照しつつ、HC吸着部41cと酸化触媒部41bとの熱劣化特性の設定例について説明する。図11は、横軸に温度、縦軸に劣化度が示される。横軸で示した温度は、ある一定の長時間継続した温度であり、実質的に熱負荷(温度×その持続時間の積分値)として把握することができる。
図11中実線で示すα線は、HC吸着部41cの熱劣化特性を示すものである。ゼオライトからなるHC吸着部41cは、熱負荷(温度)が低いうちは殆ど劣化せず、熱負荷がある程度以上になると急激に劣化度が高くなる(高温に曝されることにより、細孔構造が破壊されて、急激に劣化が進んでいくものと考えられる)。
図11中、破線で示すβ線は、酸化触媒部41bの熱劣化特性を示すものである。このβ線で示すように、酸化触媒部41bは、HC吸着部41cの場合に比して、熱負荷が相対的に小さい状態から劣化度が徐々に進行しはじめ、熱負荷が高くなるにつれて、劣化度が高まる度合いが大きくされる。酸化触媒部41bの劣化度の高まり度合いは、HC吸着部41cにおける急激な劣化度の高まり度合いに比してゆるやかである。酸化触媒部41bの劣化がゆっくりと進行するのは、貴金属の劣化は徐々に凝縮してその表面積が徐々に小さくなることに起因するものと考えられる。β線は熱負荷の増大によってやがてα線と交差するような設定とされる。α線とβ線との交差位置が符号Xで示され、そのときの温度がTXとして示される。
α線とβ線とが交差する温度TXよりも低温側では、β線で示す酸化触媒部41bの方が、α線で示すHC吸着部41cよりも劣化が進行されやすいものとなる。逆に、上記温度TXよりも高温側では、HC吸着部41cの方が酸化触媒部41bよりも劣化が進行されやすいものとなる。
HC吸着部41cの熱劣化特性をα線のように設定し、酸化触媒部41bの熱劣化特性をβ線のように設定した場合において、前述した劣化診断によって排気ガス浄化触媒41が劣化していると診断された場合(図5のステップ23に移行された場合)を考える。
図11の熱劣化特性についての説明から明かなように、劣化部位特定のために、車両の工場出荷時から現時点までの長期間について、温度TX以下の温度領域での運転継続時間が、温度TXを超える温度領域での運転継続時間よりも大きい場合(長期間である場合)は、酸化触媒部41bが劣化していると特定することが可能である。つまり、車両の工場出荷時点から現時点までの長期間に渡って、排気ガス浄化触媒41の温度を検出して、検出された温度にその持続時間を乗算することにより、そのときの熱負荷が算出される。そして、この熱負荷を、上記温度TXを境にして低温側温度領域と高温側温度領域とに分けて、検出された温度が属する温度領域について順次積算していくことにより、各温度領域について長期間に渡っての熱負荷が設定されることになる。なお、熱負荷は、例えばPCM10内の記憶手段(不揮発性メモリ)に記憶しておけばよく、車両の工場出荷時には記憶値が0に設定されている。
図12は、ユーザの相違に応じて熱負荷が相違する様子を示すものである。すなわち、ユーザAは、排気ガス浄化触媒41が比較的低温状態となるような運転状態を行う傾向が強いものとなる(低回転・低負荷運転が多いおとなしい運転)。これに対して、ユーザBは、排気ガス浄化触媒41が比較的高温状態となるような運転状態を行う傾向が強いものとなる(高回転・高負荷運転が多くなるスポーツ走行を好むような運転)。
ユーザAのような運転状況のときは、排気ガス浄化触媒41が劣化していると診断されたときに、低温側温度領域での熱負荷(工場出荷時から現在までの積算された熱負荷)が高温側温度領域での熱負荷よりも大きくなり、この場合は、酸化触媒部41bが劣化していると特定されることになる。逆に、ユーザBのような運転状況のときは、排気ガス浄化触媒41が劣化していると診断されたときに、低温側温度領域での熱負荷(工場出荷時から現在までの積算された熱負荷)よりも高温側温度領域での熱負荷が大きくなり、この場合は、HC吸着部41cが劣化していると特定されることになる。
図13は、上述した低温側温度領域と高温側温度領域との熱負荷同士を比較することにより、劣化部位を特定するためのフローチャートを示す。なお、図13に示すフローチャートは、例えば所定時間毎の割込み処理によって実行される。
まず、ステップ51において、排気ガス浄化触媒41の現在の温度△txが検出される。なお、検出温度としては、例えば、排気ガス浄化触媒41の上流側の温度(温度センサ43での検出温度)、下流側の温度(温度センサ44での検出温度)のいずれか一方を用いることができ、この両方の温度の相加平均値を用いることもできる。
ステップ52では、上記温度△txの持続時間△Txが算出(計測)される。この後、ステップ53において、△txと△Txとを乗算して現在の熱負荷△Qxが算出される。
ステップ54では、前記検出温度△txが、図11に示す温度TX以下であるか否かが判別される。このステップ54の判別でYESのときは、ステップ55において、低温側温度領域について、記憶されている積算された熱負荷の記憶値(前回記憶値で、車両の工場出荷時の記憶値は0である)に上記△Qxを加算して、低温側温度領域用の積算された熱負荷Q・Cが更新される。一方、ステップ54の判別でNOのときは、ステップ56において、高温側の温度領域について、記憶されている熱負荷の記憶値(前回記憶値で、車両の工場出荷時の記憶値は0である)に上記△Qxを加算して、高温側温度領域用の積算された熱負荷Q・Hが更新される。
ステップ55あるいは56の後は、ステップ57において、排気ガス浄化触媒41が劣化していると診断されたか否かが判別される(図5のステップ23に移行したか否かの判定)。このステップ57の判別でYESのときは、ステップ58において、Q・CがQ・H以下であるか否かが判別される。このステップ59の判別でYESのときは、ステップ59において、酸化触媒部41bが劣化していると特定される。ステップ58の判別でNOのときは、ステップ60において、HC吸着部41cが劣化していると特定される。
ここで、図13の制御例では、温度領域を2つに分けたが、3以上の温度領域に分けてもよい。例えば、図11に示す温度TX前後の温度を不感帯温度域として設定して、低温側温度領域をTXよりも所定分低い温度となる温度TC以下の領域として設定し、高温側温度領域を、TXよりも所定分高い温度となるTH以上の領域として設定するようにしてもよい。この場合、上記不感帯の温度領域についての熱負荷は、低温側および高温側の各温度領域の熱負荷としてそれぞれ積算させることができる。また、上記不感帯の温度領域についての熱負荷は、低温側および高温側の各温度領域の熱負荷として共に積算させないようしてもよい(不感帯温度域についての熱負荷を劣化部位の特定のために用いない設定で、不感帯の温度域では熱負荷の計算をしない設定とすることもできる)。
また、ステップ53で算出される熱負荷として、現在の温度△txとその持続時間△Txとの乗算値である△Qxとしたが、持続時間△Tx(のみ)としてもよい(制御の簡単化や制御系の負担軽減)。
さらに、劣化部位の特定のために、排気ガス中に含まれる水分量(の積算値)をも加味するようにしてもよい。このため、PCM10内の記憶手段に、温度領域毎に水分量が記憶される(車両の工場出荷時には水分量の記憶値は0にリセットされている)。具体的には、まず、排気ガス中に含まれる単位時間当たりの水分量が検出あるいは推定される。単位時間あたりの水分量は、例えば、エンジンの運転状態(特に、吸入空気量と燃料噴射量で、燃焼性に関連するエンジン温度等を加味することもできる)に基づいて算出するようにしてもよく、あるいはあらかじめ作成されたエンジン運転状態に応じた水分量をマップ化して記憶しておき、この記憶されたマップから読み出す等、適宜の手法でなし得る。
上記のようにして決定された単位時間あたりの水分量にその持続時間が乗算されて、現在の水分量が決定される(図13のステップ53における現在の熱負荷の算出に対応)。この後、現在の水分量が、現在の温度に応じて、低温側温度領域あるいは高温側温度領域のいずれかの領域に加算されて、記憶されている水分量が積算、更新される。
排気ガス浄化触媒41が劣化していると診断されたときの劣化部位の特定に際しては、前述した熱負荷Q・CとQ・Hに加えて、記憶されている水分量が加味して行われる。例えば、水分量に応じて、記憶されている熱負荷が補正される。この場合、低温側温度領域での熱負荷Q・Cが、水分量が多いほど大きくなるように補正される(水分量に応じた補正係数が大)。一方、高温側温度領域での熱負荷Q・Hも、水分量が多いほど大きくなるように補正されるが、その補正度合いは、低温側温度領域の場合よりも小さいものとされる(水分量に応じた補正係数が小)。このように、水分量をも加味することにより、劣化部位の特定をより精度よく行うことができる。
以上実施形態について説明したが、本発明は適宜の変更が可能でり、例えば次のようにしてもよい。図4に示すステップ8は、実施形態ではステップ6、7に対してオア条件として設定したが、アンド条件として設定するようにしてもよい(ステップ7の判別でYESのときを条件として、ステップ8の判別を行うようにしてもよい)。また、図4に示すステップ6と7とをオア条件として設定してもよい(HC吸着部41cへのHC総吸着量が第2所定値以上のときは、HC吸着部41cからのHC放出量にかかわらず劣化診断を実行させる)。なお、図4のステップ5〜8は、高温状態として劣化診断のために必要な時間を短縮化するためには、任意の2以上の組み合わせでもってアンド条件として設定すればよく、逆に、極力劣化診断できる機会を多く確保するには任意の2以上の組み合わせについてオア条件として設定すればよい。劣化診断に用いる診断温度パラメータ閾値を、一定値としてもよい(HC吸着部41cからのHC放出量に応じては変更しない)。
HC吸着部41cと酸化触媒部41bとの熱劣化特性は、適宜変更可能である。例えば、酸化触媒部41bにおいては、使用する貴金属量を少なくすることにより、その熱劣化特性が図11β線を図中左方にほぼオフセットしたような傾向となり、逆に貴金属量を増大させたときは、その熱劣化特性が図11中右方にほぼオフセットしたような傾向となる。つまり、熱劣化特性として、低温側温度領域においてはHC吸着部41cの方が酸化触媒部41bよりも劣化が進行しやすく、高温側温度領域においては酸化触媒部41bの方がHC吸着部41cよりも劣化しやすい設定とすることも可能である。よって、このような場合は、図13のステップ58の判別でYESのときは、HC吸着部41cが劣化していると特定されることになる(ステップ60では酸化触媒部が劣化していると特定されることになる)。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、利点あるいは効果として記載されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。