以下に、添付図面を参照して、本発明にかかる連続鋳造機の制御装置および制御方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、各図面間において同一構成部分には同一符号を付している。
(連続鋳造機)
まず、本発明の実施の形態にかかる制御装置を適用した連続鋳造機について説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる連続鋳造機の制御装置の一構成例を示す図である。図1には、本発明の実施の形態にかかる制御装置10を適用した連続鋳造機1が図示されている。本実施の形態における連続鋳造機1は、溶鋼9から鋳片を連続的に鋳造する設備であり、図1に示すように、溶鋼9を所定の形状に固めるモールド2と、溶鋼9の貯蔵および供給を適宜行うタンディッシュ3と、タンディッシュ3からモールド2内に溶鋼9を
注入する溶鋼注入ノズル4と、溶鋼注入ノズル4の開度を調整するアクチュエータ7と、モールド2から引き抜いた溶鋼9(鋳片)を支持しつつ出口側へ送出する複数のピンチロール8と、モールド2内の溶鋼9の湯面レベルを制御する制御装置10とを備える。
モールド2は、溶融金属の一例である溶鋼9を所定の形状に固める鋳型である。図1には、本発明を説明し易くするために、モールド2の断面の概略構造が図示されている。図1に示すように、モールド2には、入口側(タンディッシュ3側)から出口側(ピンチロール8側)に亘って貫通する矩形状等の貫通孔が形成されている。モールド2は、自身の貫通孔内に適宜注入された液状の溶鋼9を水冷等によって順次冷却し、これにより、この液状の溶鋼9から所定の形状(例えば矩形状等)の鋳片を順次鋳造する。
タンディッシュ3は、図1に示すように、モールド2の上方に配置される。また、タンディッシュ3の底部には、溶鋼注入ノズル4が設けられる。タンディッシュ3は、取鍋(図示せず)から注ぎ込まれた溶鋼9を貯蔵する。このようなタンディッシュ3内に滞留した溶鋼9は、溶鋼注入ノズル4を通じてモールド2内に適宜注入される。
溶鋼注入ノズル4は、タンディッシュ3からモールド2内に溶鋼9を注入するノズルであり、図1に示すように、スライディングノズル5と浸漬ノズル6とを用いて構成される。スライディングノズル5は、固定板と摺動板とを備え、タンディッシュ3の底部に設けられる。このスライディングノズル5の開度は、溶鋼注入ノズル4の開度であり、アクチュエータ7の作用によって摺動板等を動作させることにより、調整される。浸漬ノズル6は、スライディングノズル5を介してタンディッシュ3と連通するように、スライディングノズル5の下部に設けられる。浸漬ノズル6は、図1に示すように、モールド2内の溶鋼9中に浸漬するように配置される。浸漬ノズル6は、タンディッシュ3からスライディングノズル5を経て流入した溶鋼9をモールド2内に注入する。
アクチュエータ7は、溶鋼注入ノズル4の開度を調整するものである。具体的には、アクチュエータ7は、油圧サーボ系等を用いて構成され、図1に示すように、駆動軸等を介してスライディングノズル5と接続される。アクチュエータ7は、スライディングノズル5の摺動板の位置を制御することにより、スライディングノズル5の開度すなわち溶鋼注入ノズル4の開度を調整する。アクチュエータ7は、スライディングノズル5の開度を増減等して調整することにより、タンディッシュ3から溶鋼注入ノズル4を通じてモールド2内に注入される溶鋼9の流量を制御する。
上述したようにタンディッシュ3から溶鋼注入ノズル4を通じてモールド2内に注入された溶鋼9は、その外壁面とモールド2内壁面のモールドパウダーとを接触させつつ、モールド2によって冷却される。これにより、モールド2内の溶鋼9は、モールド2内壁面のモールドパウダーとの接触部分を凝固させて凝固シェルを形成する。このような凝固シェルを形成した溶鋼9は、外壁部分が凝固し且つ内部に液相部分を有する鋳片である。
ピンチロール8は、モールド2の下方に、鋳片の搬送経路に沿って複数配置される。複数のピンチロール8およびガイドロール(図示せず)は、モールド2によって所定の形状に鋳造された溶鋼9すなわち鋳片を支持しつつ、モールド2の貫通孔出口から下方(図1の太線矢印参照)へ鋳片を順次引き抜く。
制御装置10は、本発明の実施の形態において連続鋳造機1に適用した制御装置であり、連続鋳造機1のモールド2内における溶鋼9の湯面レベルを制御する。具体的には、図1に示すように、本発明の実施の形態にかかる制御装置10は、湯面レベル計11と、溶鋼流量制御部12とを備える。
湯面レベル計11は、連続鋳造機1のモールド2内に溶鋼注入ノズル4を介して注入された溶鋼9の湯面レベルを測定する湯面レベル測定部として機能する。湯面レベル計11は、渦流センサ等を用いて構成され、図1に示すように、モールド2の貫通孔内の所定位置に設置される。湯面レベル計11は、タンディッシュ3から溶鋼注入ノズル4を通じてモールド2内に注入された溶鋼9のモールド2内における高さ位置を湯面レベルとして測定する。湯面レベル計11は、モールド2内の溶鋼9の湯面レベル(以下、単に「湯面レベル」と適宜略す)を測定する都度、得られた湯面レベルを示す湯面レベル信号を溶鋼流量制御部12に送信する。
溶鋼流量制御部12は、モールド2内の溶鋼9の湯面レベルに基づいて、モールド2内への溶鋼9の注入流量を制御する。詳細には、溶鋼流量制御部12は、湯面レベル計11から湯面レベル信号を入力され、この入力された湯面レベル信号によって示される湯面レベルを取得する。また、溶鋼流量制御部12は、予め設定された湯面レベルの目標値を有する。この目標値は、モールド2内の溶鋼9の目標とする湯面レベルである。溶鋼流量制御部12は、湯面レベル計11から取得した湯面レベル(測定値)と予め設定された湯面レベルの目標値との偏差を示す偏差信号S1を生成する。ついで、溶鋼流量制御部12は、生成した偏差信号S1に対してPI制御を行い、これにより、スライディングノズル5の開度を制御するための開度指令値を算出する。この際、溶鋼流量制御部12は、湯面レベル計11による湯面レベルの測定値と湯面レベルの目標値とが等しくなるように、スライディングノズル5の開度指令値を算出する。
また、溶鋼流量制御部12は、生成した偏差信号S1に基づき、モールド2内の溶鋼9のバルジング性湯面レベル変動を外乱として補償するための外乱補償値を算出する。その後、溶鋼流量制御部12は、上述したように算出した開度指令値と外乱補償値とを加算処理し、これにより、バルジング性湯面レベル変動の補償を加味した開度指令値を算出する。溶鋼流量制御部12は、この算出した開度指令値をアクチュエータ7に出力し、この開度指令値に応じた駆動をアクチュエータ7に行わせる。これにより、溶鋼流量制御部12は、この開度指令値によって指令する開度に、スライディングノズル5の開度を制御する。溶鋼流量制御部12は、このようにスライディングノズル5の開度を制御することにより、タンディッシュ3から溶鋼注入ノズル4を経てモールド2内に注入される溶鋼9の注入流量を制御する。このような溶鋼9の注入流量の制御を通して、溶鋼流量制御部12は、モールド2内の溶鋼9の湯面レベルを制御する。
本実施の形態において、図1に示す湯面レベル計11、溶鋼流量制御部12、アクチュエータ7、およびスライディングノズル5は、モールド2内の溶鋼9の湯面レベルに関するフィードバックループを構成する。このため、モールド2内に流入する溶鋼5の流量(注入流量)またはモールド2から鋳片として引き抜かれる溶鋼9の流量(引き抜き量)が何らかの要因によって変動しても、本実施の形態におけるフィードバックループにより、モールド2内の溶鋼9の湯面レベルをその目標値に制御することができる。
(溶鋼流量制御部)
つぎに、図1を参照しつつ、上述した溶鋼流量制御部12の構成を詳細に説明する。図1に示すように、溶鋼流量制御部12は、減算器13と、PI制御部14と、外乱補償器15と、加算器16とを備える。
減算器13は、湯面レベル計11によって測定された溶鋼9の湯面レベルと湯面レベルの目標値との偏差を出力する。具体的には、減算器13は、湯面レベル計11から湯面レベル信号を受信し、受信した湯面レベルによって示されるモールド2内の溶鋼9の湯面レベルを取得する。ついで、減算器13は、溶鋼流量制御部12に予め設定された湯面レベルの目標値と湯面レベル計11からの湯面レベル(測定値)との偏差を減算処理によって
算出し、算出した偏差を示す偏差信号S1を生成する。その都度、減算器13は、生成した偏差信号S1をPI制御部14と外乱補償器15とに送信する。
PI制御部14は、湯面レベルの目標値と湯面レベル計による湯面レベルの測定値との偏差を示す偏差信号S1に基づいて、スライディングノズル5の開度制御に用いる開度指令値を算出する開度制御部として機能する。具体的には、PI制御部14は、減算器13から偏差信号S1を受信し、受信した偏差信号S1に対してPI制御を行うことにより、スライディングノズル5の開度指令値を算出する。この際、PI制御部14は、偏差信号S1によって示される偏差が零となるように、すなわち、モールド2内の溶鋼9の湯面レベルが湯面レベルの目標値と等しくなるように、スライディングノズル5の開度指令値を算出する。PI制御部14は、上述したように開度指令値を算出する都度、算出した開度指令値を示す開度制御信号S2を加算器16に送信する。
外乱補償器15は、連続鋳造機1におけるバルジングに起因して発生するモールド2内の溶鋼9のバルジング性湯面レベル変動を外乱として補償するためのものである。具体的には、外乱補償器15は、減算器13によって生成出力された偏差信号S1からバルジング性湯面レベル変動の周波数(バルジング周波数)を検知する。バルジング性湯面レベル変動は、上述したように、モールド2から引き抜かれた溶鋼9(鋳片)のバルジングに起因する湯面レベルの周期的な変動である。
これに並行して、外乱補償器15は、上述した減算器13からの偏差信号S1から、連続鋳造機1におけるバルジング周波数として指定した複数の指定周波数の各指定周波数信号を抽出する。本実施の形態において、これら複数の指定周波数は、連続鋳造機1内に発生するバルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内における複数の周波数として指定され、外乱補償器15に予め設定される。また、外乱補償器15は、上述したスライディングノズル5の開度制御の無駄時間に相当する位相と90度とを加算した特定位相分、これら複数の指定周波数の各指定周波数信号の位相を指定周波数別に各々進ませ、これにより、これら各指定周波数信号の各位相進み信号を生成する。続いて、外乱補償器15は、このように生成した各位相進み信号のうち、偏差信号S1から検知したバルジング周波数に等しい指定周波数をもつ1以上の位相進み信号をもとに、バルジング性湯面レベル変動を補償する外乱補償値を算出する。外乱補償器15は、このように外乱補償値を算出する都度、算出した外乱補償値を示す外乱補償信号S3を加算器16に送信する。
なお、スライディングノズル5の開度制御の無駄時間は、上述した湯面レベル計11、溶鋼流量制御部12、アクチュエータ7、およびスライディングノズル5によって構成されるフィードバックループ内に生じる無駄時間である。例えば、モールド2内の溶鋼9の湯面レベルの測定に掛かる湯面レベル計11の測定時間、アクチュエータ7によってスライディングノズル5の開度を調整する際に掛かるアクチュエータ7およびスライディングノズル5の動作時間等が、上述した無駄時間に含まれる。
加算器16は、PI制御部14によるスライディングノズル5の開度指令値と外乱補償器15による外乱補償値とを加算してアクチュエータ7に出力するものである。具体的には、加算器16は、PI制御部14から出力された開度制御信号S2を受信し、且つ、外乱補償器15から出力された外乱補償信号S3を受信する。ついで、加算器16は、この開度制御信号S2によって示される開度指令値に、この外乱補償信号S3によって示される外乱補償値を加算する。これにより、加算器16は、バルジング性湯面レベル変動の補償を加味したスライディングノズル5の開度制御を行う開度制御信号S4を生成する。すなわち、加算器16は、PI制御部14からの開度制御信号S2を、外乱補償器15からの外乱補償信号S3に示される外乱補償値を加味した開度制御信号S4に補正する。加算器16は、開度制御信号S4を生成する都度、生成した開度制御信号S4をアクチュエー
タ7に送信する。
上述したアクチュエータ7は、加算器16からの開度制御信号S4に基づき、モールド2内のバルジング性湯面レベル変動の補償を加味しつつ、スライディングノズル5の開度を調整する。すなわち、PI制御部14は、アクチュエータ7に出力した開度制御信号S4によって示される開度指令値に基づき、スライディングノズル5の開度を制御する。外乱補償器15は、アクチュエータ7に出力した開度制御信号S4によって示される外乱補償値に基づき、モールド2内の溶鋼9のバルジング性湯面レベル変動を補償する。
(外乱補償器)
つぎに、上述した溶鋼流量制御部12の外乱補償器15の構成を詳細に説明する。図2は、本発明の実施の形態における外乱補償器の一構成例を示す図である。図2に示すように、本発明の実施の形態における外乱補償器15は、周波数検知部151と、指定周波数信号抽出部152と、位相進み処理部153と、出力加算部154とを備える。
周波数検知部151は、湯面レベルの目標値と湯面レベル計11による湯面レベルの測定値との偏差を示す偏差信号S1の中から、バルジング性湯面変動の周波数すなわちバルジング周波数を検知する。具体的には、周波数検知部151は、図1に示した減算器13によって出力された偏差信号S1を受信し、受信した偏差信号S1に含まれる複数の周波数の中からバルジング周波数を検知する。この際、周波数検知部151は、この偏差信号S1に含まれる複数の周波数のうち、信号強度が所定の閾値以上であり且つバルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内にある周波数を、バルジング周波数として検知する。周波数検知部151は、図1に示した連続鋳造機1のモールド2内の溶鋼9にバルジング性湯面レベル変動が発生した場合、すなわち、減算器13からの偏差信号S1に1以上のバルジング周波数が含まれる場合、偏差信号S1からバルジング周波数として検知した1以上の周波数を示す信号を出力加算部154に送信する。
指定周波数信号抽出部152は、予め設定された複数の指定周波数の各指定周波数信号を偏差信号S1から抽出するものであり、図2に示すように、偏差信号S1の中から各指定周波数信号を指定周波数別に通過させる複数(本実施の形態では5つ)の指定周波数通過フィルタ152a〜152eによって構成される。
指定周波数通過フィルタ152a〜152eは、各々、バルジング周波数として予め指定した指定周波数をもつ信号(指定周波数信号)を最も強く通過させるバンドパスフィルタ等を用いて構成される。例えば、指定周波数通過フィルタ152a〜152eの各々は、設定の角周波数ω、ラプラス演算子s、および調整用係数A,Bを用いた次式(1)の伝達関数G1(s)によって表されるフィルタである。
これらの指定周波数通過フィルタ152a〜152eは、各々、図1に示した減算器13によって出力された偏差信号S1を取り込む。指定周波数通過フィルタ152aは、取り込んだ偏差信号S1のうち、予め設定された指定周波数f1をもつ指定周波数信号S11を通過させる。これにより、指定周波数通過フィルタ152aは、この偏差信号S1から指定周波数信号S11を抽出する。これと同様に、指定周波数通過フィルタ152bは、取り込んだ偏差信号S1のうち、予め設定された指定周波数f2をもつ指定周波数信号S12を通過させ、これにより、この偏差信号S1から指定周波数信号S12を抽出する
。指定周波数通過フィルタ152cは、取り込んだ偏差信号S1のうち、予め設定された指定周波数f3をもつ指定周波数信号S13を通過させ、これにより、この偏差信号S1から指定周波数信号S13を抽出する。指定周波数通過フィルタ152dは、取り込んだ偏差信号S1のうち、予め設定された指定周波数f4をもつ指定周波数信号S14を通過させ、これにより、この偏差信号S1から指定周波数信号S14を抽出する。指定周波数通過フィルタ152eは、取り込んだ偏差信号S1のうち、予め設定された指定周波数f5をもつ指定周波数信号S15を通過させ、これにより、この偏差信号S1から指定周波数信号S15を抽出する。
上述したように偏差信号S1から指定周波数信号S11〜S15を各々抽出する都度、指定周波数通過フィルタ152a〜152eは、抽出した指定周波数信号S11〜S15を位相進みフィルタ153a〜153eに各々送信する。これにより、指定周波数通過フィルタ152a〜152eは、位相進みフィルタ153a〜153eの各位相進み処理の周波数を指定周波数f1〜f5に各々指定する。例えば、指定周波数通過フィルタ152aは、位相進みフィルタ153aへの指定周波数信号S11の出力により、この位相進みフィルタ153aによる位相進み処理の対象信号の周波数を指定周波数f1に指定する。
本実施の形態において、指定周波数通過フィルタ152a〜152eに各々設定される指定周波数f1〜f5は、連続鋳造機1のモールド2内の溶鋼9に周期的に発生するバルジング性湯面レベル変動の周波数帯域(発生周波数帯域)内から選択的に指定される複数の周波数である。このような指定周波数f1〜f5は、バルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内の0.1[Hz]以下刻みに変化する複数の周波数であることが望ましい。例えば、連続鋳造機1のバルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域が0.09[Hz]〜0.13[Hz]である場合、この発生周波数帯域を0.01[Hz]刻み(0.1[Hz]以下刻みの一例)に分ける5つの周波数0.09[Hz]、0.10[Hz]、0.11[Hz]、0.12[Hz]、0.13[Hz]が、指定周波数f1〜f5として各々指定される。
また、上述したように0.1[Hz]以下刻みの指定周波数f1〜f5が各々設定された指定周波数通過フィルタ152a〜152eは、自身の指定周波数から−0.1[Hz]以下または+0.1[Hz]以上外れた周波数の信号を5[dB]以上減衰させるようなパラメータ設定にすることが望ましい。
位相進み処理部153は、上述した指定周波数信号抽出部152によって偏差信号S1から指定周波数別に抽出された複数の指定周波数信号の各位相を特定位相分、各々進ませる位相進み処理を行うものである。本実施の形態において、位相進み処理部153は、図2に示すように、上述した指定周波数通過フィルタ152a〜152eに各々対応する5つの位相進みフィルタ153a〜153eによって構成される。
位相進みフィルタ153a〜153eは、各々、指定した位相を特定位相分、進ませることが可能なフィルタ、例えば、低次元で演算負荷が小さい微分フィルタを用いて構成される。本実施の形態において、位相進みフィルタ153a〜153eの各々を構成する微分フィルタは、設定の角周波数ω、ラプラス演算子s、角周波数調整係数α、および調整用係数Cを用いた次式(2)の伝達関数G2(s)によって表される。
これらの位相進みフィルタ153a〜153eは、複数の指定周波数通過フィルタ152a〜152eによって抽出された各指定周波数信号S11〜S15の位相を特定位相分、指定周波数別に進ませ、これにより、各指定周波数信号S11〜S15の各位相進み信号S21〜S25を生成する。
具体的には、位相進みフィルタ153aは、指定周波数f1が設定された指定周波数通過フィルタ152aと対をなすフィルタであり、指定周波数通過フィルタ152aによって偏差信号S1から抽出された指定周波数信号S11を取り込む。位相進みフィルタ153aは、この取り込んだ指定周波数信号S11に対し、上述したスライディングノズル5の開度制御の無駄時間に相当する位相と90度とを加算した特定位相分、位相を進ませる位相進み処理を行う。すなわち、位相進みフィルタ153aは、指定周波数通過フィルタ152aによって指定された周波数の信号の位相を、上述した特定位相分、進ませる。この位相進み処理により、位相進みフィルタ153aは、上述した特定位相分の位相進みを指定周波数信号S11に与えた信号である位相進み信号S21を生成する。位相進みフィルタ153aは、このような位相進み処理を実行する都度、生成した位相進み信号S21を出力加算部154に送信する。
残りの位相進みフィルタ153b〜153eは、上述した位相進みフィルタ153aと同様に、指定周波数通過フィルタ152b〜152eからの指定周波数信号S12〜S15に対して指定周波数別の位相進み処理を行う。
すなわち、位相進みフィルタ153bは、指定周波数f2が設定された指定周波数通過フィルタ152bと対をなすフィルタであり、指定周波数通過フィルタ152bからの指定周波数信号S12の位相を、上述した特定位相分、進ませて位相進み信号S22を生成する。位相進みフィルタ153cは、指定周波数f3が設定された指定周波数通過フィルタ152cと対をなすフィルタであり、指定周波数通過フィルタ152cからの指定周波数信号S13の位相を、上述した特定位相分、進ませて位相進み信号S23を生成する。位相進みフィルタ153dは、指定周波数f4が設定された指定周波数通過フィルタ152dと対をなすフィルタであり、指定周波数通過フィルタ152dからの指定周波数信号S14の位相を、上述した特定位相分、進ませて位相進み信号S24を生成する。位相進みフィルタ153eは、指定周波数f5が設定された指定周波数通過フィルタ152eと対をなすフィルタであり、指定周波数通過フィルタ152eからの指定周波数信号S15の位相を、上述した特定位相分、進ませて位相進み信号S25を生成する。位相進みフィルタ153b〜153eは、位相進み処理を実行する都度、生成した位相進み信号S22〜S25を出力加算部154に送信する。
ここで、上述した位相進みフィルタ153a〜153eを表す上式(2)の伝達関数G2(s)に含まれる角周波数調整係数αは、位相進みフィルタ153a〜153eによって指定周波数信号S11〜S15に各々与える位相進みを示す値である。すなわち、角周波数調整係数αは、上述したスライディングノズル5の開度制御の無駄時間に相当する位相と90度とを加算した特定位相に相当する。このような角周波数調整係数αは、指定周波数f1〜f5の各々について上記の無駄時間分の位相を加味しつつ適切に設定されて、各位相進みフィルタ153a〜153eの伝達関数G2(s)に与えられる。この結果、位相進みフィルタ153a〜153eは、指定周波数信号S11〜S15に与える各位相進みを、指定周波数f1〜f5に応じて各々適切に設定することが可能となる。
図3は、本発明の実施の形態における位相進みフィルタの周波数特性の一例を示す図である。例えば、位相進みフィルタ153aは、図3に示すように、指定周波数f1が0.09[Hz]である場合に位相進みを100度(=90度+無駄時間分の位相)とする特性を有する。この場合、位相進みフィルタ153aは、指定周波数信号S11の位相を1
00度進ませて位相進み信号S21を生成する。
なお、上述した位相進みフィルタ153a〜153eのみでは、フィルタ通過後の位相進み信号S21〜S25のパワーが低下する可能性がある。この対策として、位相進みフィルタ153a〜153eの前段の指定周波数通過フィルタ152a〜152eにおけるパラメータをより狭いバンド幅に設定することが有効である。これにより、上述した位相進み信号S21〜S25のパワーの低下を低減することができる。
一方、出力加算部154は、バルジング性湯面レベル変動を補償するための外乱補償値を算出するものである。具体的には、出力加算部154は、周波数検知部151から出力されたバルジング性湯面レベル変動の周波数すなわちバルジング周波数を取得する。また、出力加算部154は、位相進みフィルタ153a〜153eによって生成出力された各位相進み信号S21〜S25を取得する。その後、出力加算部154は、取得した各位相進み信号S21〜S25の中から、周波数検知部151によって検知されたバルジング周波数に等しい指定周波数をもつ位相進み信号を選択し、選択した位相進み信号の加算処理を行って外乱補償値を算出する。出力加算部154は、このように外乱補償値を算出する都度、算出した外乱補償値を示す外乱補償信号S3を、図1に示した加算器16に送信する。
(連続鋳造機の制御方法)
つぎに、本発明の実施の形態にかかる連続鋳造機1の制御方法について説明する。図4は、本発明の実施の形態にかかる連続鋳造機の制御方法の一例を示すフローチャートである。本実施の形態にかかる連続鋳造機1の制御方法において、図1に示した制御装置10は、図4に示すステップS101〜S107の各処理ステップを適宜行って、モールド2内の溶鋼9に発生したバルジング性湯面レベル変動を補償しつつ、この溶鋼9の湯面レベルを目標の湯面レベルに制御する。
詳細には、図4に示すように、制御装置10は、まず、連続鋳造機1におけるモールド2内の溶鋼9の湯面レベルを測定する(ステップS101)。ステップS101において、湯面レベル計11は、連続鋳造機1のモールド2内に溶鋼注入ノズル4を介して注入された溶鋼9の湯面レベルを測定し、得られた湯面レベルの測定値を示す湯面レベル信号を出力する。
ついで、制御装置10は、湯面レベルの偏差信号S1に基づいて溶鋼注入ノズル4の開度指令値を算出する(ステップS102)。ステップS102において、減算器13は、ステップS101によって湯面レベル計11から出力された湯面レベル信号を取得する。つぎに、減算器13は、予め設定された湯面レベルの目標値から、この湯面レベル信号によって示される湯面レベルの測定値を減算する。これにより、減算器13は、湯面レベルの目標値とステップS101による湯面レベルの測定値との偏差を算出する。その後、減算器13は、この算出した偏差を示す偏差信号S1を出力する。
また、このステップS102において、PI制御部14は、減算器13から出力された偏差信号S1を取得し、取得した偏差信号S1に基づいて、溶鋼注入ノズル4の開度制御すなわちスライディングノズル5の開度制御に用いる開度指令値を算出する。この際、PI制御部14は、減算器13から取得した偏差信号S1に対してPI制御を行う。これにより、PI制御部14は、モールド2内の溶鋼9の湯面レベルをその目標値と等しくするように、スライディングノズル5の開度指令値を算出する。その後、PI制御部14は、この算出した開度指令値を示す開度制御信号S2を出力する。
ステップS102を実行後、制御装置10は、連続鋳造機1のモールド2から引き抜か
れた溶鋼9のバルジングに起因する湯面レベルの周期的な変動であるバルジング性湯面レベル変動の周波数を、湯面レベルの偏差信号S1から検知する(ステップS103)。ステップS103において、外乱補償器15の周波数検知部151(図2参照)は、減算器13から出力された偏差信号S1を取得し、この取得した偏差信号S1から、バルジング性湯面レベル変動の周波数すなわちバルジング周波数を検知する。
この際、周波数検知部151は、偏差信号S1に対して通常の高速フーリエ変換(FFT)等の処理を行い、この結果、偏差信号S1に含まれる複数の周波数を取得する。周波数検知部151は、偏差信号S1に含まれる複数の周波数のうち、信号強度が所定の閾値以上であり且つバルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内にある周波数を、バルジング性湯面レベル変動の周波数(バルジング周波数)として検知する。すなわち、周波数検知部151は、FFT等によって偏差信号S1から取得した1種類以上の周波数の信号強度が予め設定された閾値以上であり且つ同1種類以上の周波数がバルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内にある場合、連続鋳造機1にバルジング性湯面レベル変動が発生したと判定して、同1種類以上の周波数をバルジング周波数として検知する。その後、周波数検知部151は、バルジング周波数として検知した1種類以上の周波数を出力する。
続いて、制御装置10は、湯面レベルの偏差信号S1から複数の指定周波数の各指定周波数信号を抽出する(ステップS104)。これら複数の指定周波数は、バルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内の互いに異なる複数の周波数として指定されたものである。また、これら複数の指定周波数は、上述したように、バルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内の0.1[Hz]以下刻みに変化する複数の周波数であることが望ましい。ステップS104において、制御装置10は、上記したような複数(本実施の形態では5つ)の指定周波数f1〜f5の各指定周波数信号S11〜S15を、図2に示した指定周波数通過フィルタ152a〜152eによって偏差信号S1の中から指定周波数別に通過させる。これにより、指定周波数通過フィルタ152a〜152eは、偏差信号S1の中から指定周波数信号S11〜S15を各々抽出し、抽出した指定周波数信号S11〜S15を指定周波数別に出力する。
つぎに、制御装置10は、ステップS104によって抽出した指定周波数信号S11〜S15の位相進み処理を指定周波数別に実行する(ステップS105)。ステップS105において、制御装置10は、図2に示した指定周波数通過フィルタ152a〜152eによって抽出された各指定周波数信号S11〜S15の位相を、複数(本実施の形態では5つ)の位相進みフィルタ153a〜153eによって、特定位相分、指定周波数別に各々進ませる。これにより、制御装置10は、これらの指定周波数信号S11〜S15の各位相進み信号S21〜S25を生成する。なお、この特定位相は、上述したように、スライディングノズル5の開度制御の無駄時間に相当する位相と90度とを加算したものである。
詳細には、ステップS105において、位相進みフィルタ153aは、指定周波数通過フィルタ152aから出力された指定周波数信号S11の位相を特定位相だけ進ませ、これにより、この指定周波数信号S11に対応する位相進み信号S21を生成出力する。位相進みフィルタ153bは、指定周波数通過フィルタ152bから出力された指定周波数信号S12の位相を特定位相だけ進ませ、これにより、この指定周波数信号S12に対応する位相進み信号S22を生成出力する。位相進みフィルタ153cは、指定周波数通過フィルタ152cから出力された指定周波数信号S13の位相を特定位相だけ進ませ、これにより、この指定周波数信号S13に対応する位相進み信号S23を生成出力する。位相進みフィルタ153dは、指定周波数通過フィルタ152dから出力された指定周波数信号S14の位相を特定位相だけ進ませ、これにより、この指定周波数信号S14に対応
する位相進み信号S24を生成出力する。位相進みフィルタ153eは、指定周波数通過フィルタ152eから出力された指定周波数信号S15の位相を特定位相だけ進ませ、これにより、この指定周波数信号S15に対応する位相進み信号S25を生成出力する。
ステップS105を実行後、制御装置10は、ステップS105による位相進み信号S21〜S25を用いてバルジング性湯面レベル変動の外乱補償値を算出する(ステップS106)。ステップS106において、制御装置10は、ステップS105によって生成した各位相進み信号S21〜S25のうち、ステップS103によって偏差信号S1から検知したバルジング周波数に等しい指定周波数をもつ位相進み信号をもとに、バルジング性湯面レベル変動を補償する外乱補償値を算出する。
詳細には、出力加算部154は、ステップS103において周波数検知部151から出力されたバルジング周波数の検知結果を取得し、且つ、ステップS105において位相進みフィルタ153a〜153eから出力された各位相進み信号S21〜S25を取得する。出力加算部154は、位相進みフィルタ153a〜153eによって生成出力された各位相進み信号S21〜S25の中から、周波数検知部151によって検知されたバルジング周波数に等しい指定周波数をもつ位相進み信号を選択する。この際、出力加算部154は、これらの各位相進み信号S21〜S25のうちのバルジング周波数に等しい指定周波数をもつ1種類以上の位相進み信号を選択する。続いて、出力加算部154は、このように選択した1種類以上の位相進み信号の加算処理を行い、この加算処理による位相進み信号の加算値に対してゲインを乗じて、バルジング性湯面レベル変動の外乱補償値を算出する。その後、出力加算部154は、この算出した外乱補償値を示す外乱補償信号S3を出力する。
ステップS106を実行後、制御装置10は、連続鋳造機1のモールド2内における溶鋼9の湯面レベル変動の外乱補償を加味して、溶鋼注入ノズル4の開度制御、具体的にはスライディングノズル5の開度制御を実行する(ステップS107)。ステップS107において、図1に示した加算器16は、ステップS102による開度指令値とステップS106による外乱補償値とを加算する。これにより、加算器16は、バルジング性湯面レベル変動の補償を加味したスライディングノズル5の開度制御を行う開度制御信号S4を生成する。
その後、加算器16は、上述したように生成した開度制御信号S4をアクチュエータ7に出力する。これにより、バルジング性湯面レベル変動の補償を加味したスライディングノズル5の開度制御が行われる。この結果、連続鋳造機1のモールド2内に発生したバルジング性湯面レベル変動が開度制御信号S4に基づく外乱補償値によって補償される。これとともに、このモールド2内への溶鋼9の注入流量が開度制御信号S4に基づく開度指令値によって制御され、この制御を通して、モールド2内の溶鋼9の湯面レベルがその目標値に制御される。
一方、制御装置10は、ステップS107を実行後、上述したステップS101に戻り、このステップS101以降の処理ステップを適宜繰り返し行う。この際、制御装置10は、連続鋳造機1が鋳片の鋳造を完了した場合、または、入力装置(図示せず)等によって処理終了の指令が入力された場合、本処理を終了する。
(実施例)
つぎに、本発明の実施例について説明する。本実施例において、図1に示した制御装置10は、複数のバルジング周波数のバルジング性湯面レベル変動が連続鋳造機1に発生している場合の湯面レベルの制御をシミュレーションした。この際、制御装置10は、連続鋳造機1のモールド2内に既に発生している溶鋼9の湯面レベル変動を示す1つの正弦波
をバルジング性湯面レベル変動(外乱)として補償しつつ湯面レベルを制御している途中に、この外乱と異なる周波数をもつバルジング性湯面レベル変動を示す別の正弦波が更なる外乱として加わった場合を想定して、湯面レベルの制御をシミュレーションした。なお、本実施例における湯面レベルの制御シミュレーションにおいて、モールド2、スライディングノズル5、および湯面レベル計11の各特性は、一般的なプロセスモデルを用いて計算されている。
図5は、本発明の実施例における湯面レベルの制御シミュレーションの結果を示す図である。図5において、上段には、連続鋳造機1に外乱として加えたバルジング性湯面レベル変動の波形が図示されている。下段には、連続鋳造機1に加えられたバルジング性湯面レベル変動を補償しつつ湯面レベルを制御したシミュレーションの結果が図示されている。
図5の上段に示すように、連続鋳造機1には、100秒より前の時点においてバルジング周波数=0.12[Hz]のバルジング性湯面レベル変動(以下、0.12[Hz]の外乱という)が加わっている。制御装置10は、この0.12[Hz]の外乱を補償しつつ、モールド2内の湯面レベルを制御した。この結果、図5の下段に示すように、モールド2内の湯面レベルは、安定した状態となった。
つぎに、連続鋳造機1には、200秒の時点において、バルジング周波数=0.10[Hz]のバルジング性湯面レベル変動(以下、0.10[Hz]の外乱という)が新たに追加された。この時点から0.10[Hz]の外乱の1.5周期程度が経過した時点に、制御装置10は、図2に示した周波数検知部151により、先の0.12[Hz]の外乱のバルジング周波数に加えて、この0.10[Hz]の外乱のバルジング周波数を更に検知する。ついで、制御装置10は、図2に示した位相進みフィルタ153a〜153eから出力された位相進み信号S21〜S25の中から、0.12[Hz]の外乱のバルジング周波数に等しい指定周波数をもつ位相進み信号と、0.10[Hz]の外乱のバルジング周波数に等しい指定周波数をもつ位相進み信号とを選択する。続いて、制御装置10は、これらの選択した2つの位相進み信号をもとに、出力加算部154によって外乱補償値を算出する。
その後、制御装置10は、0.12[Hz]の外乱と0.10[Hz]の外乱とを補償する外乱補償値を含む開度制御信号S4(図1参照)を連続鋳造機1のアクチュエータ7へ出力する。これにより、制御装置10は、0.12[Hz]の外乱および0.10[Hz]の外乱を補償しつつ湯面レベルを制御している。この結果、図5の下段に示すように、モールド2内の湯面レベルは、250秒程度の時点から安定した状態となった。すなわち、制御装置10は、互いに異なるバルジング周波数のバルジング性湯面レベル変動が発生した場合であっても、発生した複数のバルジング性湯面レベル変動を補償しながら湯面レベルを安定した状態に制御できることを確認することができた。
一方、本実施例に対する比較例として、単一のバルジング周波数のみについて対処可能な外乱補償器を備えた制御系(例えば、特許文献3参照)を構築し、この構築した制御系によって、複数のバルジング周波数のバルジング性湯面レベル変動が連続鋳造機1に発生している場合の湯面レベルの制御をシミュレーションした。この際、比較例における制御系は、0.12[Hz]の外乱を補償対象に絞っている。なお、この比較例におけるバルジング性湯面レベル変動の条件は、本実施例と同じにした。
図6は、本発明の実施例に対する比較例における湯面レベルの制御シミュレーションの結果を示す図である。図6において、上段には、連続鋳造機1に外乱として加えたバルジング性湯面レベル変動の波形が図示されている。下段には、比較例の制御系によって湯面
レベルを制御したシミュレーションの結果が図示されている。
図6に示すように、比較例の制御系は、連続鋳造機1に単一のバルジング周波数のバルジング性湯面レベル変動(具体的には0.12[Hz]の外乱)が加えられた状態において、この0.12[Hz]の外乱を補償しつつ、モールド2内の湯面レベルを安定した状態に制御した。しかし、200秒の時点において連続鋳造機1に0.10[Hz]の外乱が新たに追加された結果、図6に示すように、この時点以降、湯面レベルの変動は大きくなった。この0.10[Hz]の外乱を追加後の湯面レベルの変動は、追加された外乱のバルジング周波数が0.12[Hz]より高い側または近接する周波数ではないため、不安定な波形を示す変動にはならないが、湯面レベルの目標値を大きく超えるものであった。この比較例の制御系は、中心周波数が0.12[Hz]である狭い周波数帯域での外乱に対処するように構築されているため、図6に示すように、0.10[Hz]の外乱を補償できない。すなわち、この比較例では、複数のバルジング周波数のバルジング性湯面レベル変動が連続鋳造機1に発生した場合、発生した複数のバルジング性湯面レベル変動を十分に補償することは困難である。
以上、説明したように、本発明の実施の形態では、連続鋳造機のモールド内にノズルを介して注入された溶鋼の湯面レベルを測定し、湯面レベルの目標値と測定値との偏差を示す偏差信号から、バルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内の指定した複数の指定周波数の各指定周波数信号を抽出し、抽出した各指定周波数信号の位相を、ノズルの開度制御の無駄時間に相当する位相と90度とを加算した特定位相分、各々進ませて、各指定周波数信号の各位相進み信号を生成し、生成した各位相進み信号のうち、上記の偏差信号から検知したバルジング周波数に等しい指定周波数をもつ1種類以上の位相進み信号をもとに、バルジング性湯面レベル変動の外乱補償値を算出し、この算出した外乱補償値と上記の偏差信号に基づいて算出したノズルの開度指令値とを加算して、バルジング性湯面レベル変動の補償を加味したノズルの開度制御を行う開度制御信号を生成出力している。
このため、バルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内の互いに異なる複数の周波数を位相進みフィルタの周波数に指定して、上述した特定位相分の位相進みを、湯面レベルの偏差信号から抽出した複数の指定周波数信号の各々に与えることができる。これにより、ノズルの開度制御の無駄時間を考慮しつつ、複数のバルジング周波数の各別に外乱補償のゲインをより強める適切な位相進みを設定することができる。さらには、連続鋳造機に発生したバルジング性湯面レベル変動のバルジング周波数を適切に捉え、捉えたバルジング周波数別にバルジング性湯面レベル変動を補償可能な外乱補償値を算出できるとともに、この算出した外乱補償値をノズルの開度制御に適用することができる。以上の結果、連続鋳造機に単一周波数のバルジング性湯面レベル変動が発生した場合は勿論、連続鋳造機に複数の周波数のバルジング性湯面レベル変動が連続的、断続的または同時に発生した場合であっても、連続鋳造機における全てのバルジング性湯面レベル変動を可能な限り抑制しつつ、モールド内の溶鋼の湯面レベルを目標値に精度高く制御することができる。
また、本発明の実施の形態では、バルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内の0.1[Hz]以下刻みに変化する複数の周波数を複数の指定周波数としている。このため、連続鋳造機に現に発生しているバルジング性湯面レベル変動のバルジング周波数をより適切に捉えることができる。これにより、連続鋳造機における全てのバルジング性湯面レベル変動をより適切に補償でき、この結果、湯面レベルの制御の高精度化を促進することができる。
なお、上述した実施の形態では、PI制御方法によってモールド2内の溶鋼9の湯面レベルを目標値に制御していたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、モールド2内の溶鋼9の湯面レベルは、湯面レベルの目標値と測定値との偏差に基
づいてスライディングノズル5の開度指令値を算出する方法によって制御されればよく、例えばPID制御等、PI制御以外の制御方法によって目標値に制御してもよい。この場合、上述したPI制御部14を、PID制御等、PI制御以外の制御方法によって開度指令値を算出する開度制御部に置き換えればよい。
また、上述した実施の形態では、スライディングノズル5の開度指令値を算出した後に、バルジング性湯面レベル変動の外乱補償値を算出していたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明では、バルジング性湯面レベル変動の外乱補償値を算出した後に、スライディングノズル5の開度指令値を算出してもよいし、これら外乱補償値の算出と開度指令値の算出とを並行して行ってもよい。
さらに、上述した実施の形態では、バルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内の互いに異なる5つの周波数(指定周波数f1〜f5)を指定し、指定した5つの周波数に対応して、5つの指定周波数通過フィルタ152a〜152eと5つの位相進みフィルタ153a〜153eとを設けていたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、バルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域内から指定される指定周波数は、5つに限らず、複数(2つ以上)であればよい。このような指定周波数の値および指定数は、バルジング性湯面レベル変動の発生周波数帯域幅と、この発生周波数帯域内から指定される各指定周波数の刻み幅(例えば0.1[Hz]以下刻みの刻み幅)とによって決定すればよい。また、本発明において、指定周波数通過フィルタおよび位相進みフィルタは、これら複数の指定周波数に対応して、指定周波数の指定数と同じ数、設けられればよい。
また、上述した実施の形態では、湯面レベルを制御される溶融金属の一例として溶鋼9を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、湯面レベルを制御される溶融金属の素材は、鋼であってもよいし、鋼以外の鉄合金であってもよいし、銅またはアルミニウム等の鉄合金以外の金属であってもよい。
また、上述した実施の形態または実施例による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明が限定されることはなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。