JP6054085B2 - 曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板及びその製造方法 - Google Patents

曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板及びその製造方法に関する。
電気及び電子用機器の端子及びコネクタ用の材料としては、黄銅やリン青銅が一般的に使用されていたが、最近の携帯電話やノートPCなどの電子機器の小型、薄型化、軽量化の進行により、その端子及びコネクタ部品もより小型で電極間ピッチの狭いものが使用される様になっている。また、自動車のエンジン回りの使用等では、高温で厳しい条件下での信頼性も要求されている。これに伴い、その電気的接続の信頼性を保つ必要性から、強度、導電率、ばね限界値、応力緩和特性、機械加工性、耐疲労性等の特性の更なる向上が要求され、黄銅やリン青銅の素材では対応出来なくなり、その代替素材として、出願人は、特許文献1〜5に示される様なCu−Mg−P系銅合金に着目し、優れた特性を有する高品質で高信頼性の端子及びコネクタ用の銅合金板(商品名「MSP1」)を市場に提供している。
特許文献1には、Mg:0.3〜2重量%、P:0.001〜0.02重量%、C:0.0002〜0.0013重量%、酸素:0.0002〜0.001重量%を含有し、残りがCuおよび不可避不純物からなる組成、並びに、素地中に粒径:3μm以下の微細なMgを含む酸化物粒子が均一分散している組織を有する銅合金で構成されているコネクタ製造用銅合金薄板が開示されている。
特許文献2には、重量%で、Mg:0.1〜1.0%、P:0.001〜0.02%を含有し、残りがCuおよび不可避不純物からなる条材であって、表面結晶粒が長円形状をなし、この長円形状結晶粒の平均短径が5〜20μm、平均長径/平均短径の値が1.5〜6.0なる寸法を有し、かかる長円形状結晶粒を形成するには、最終冷間圧延直前の最終焼鈍において平均結晶粒径が5〜20μmの範囲内になるように調整し、ついで最終冷間圧延工程において圧延率を30〜85%の範囲内とする金型を摩耗させることの少ない伸銅合金条材が開示されている。
特許文献3には、質量%で、Mg:0.3〜2%、P:0.001〜0.1%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金条材であり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、前記銅合金条材の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界としたみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、前記測定面積の45〜55%であり、引張強さが641〜708N/mmであり、ばね限界値が472〜503N/mmである引張り強さとばね限界値が高レベルでバランスの取れたCu−Mg−P系銅合金及びその製造方法が開示されている。
特許文献4には、 質量%で、Mg:0.3〜2%、P:0.001〜0.1%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金条材であり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて前記銅合金条材の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、全結晶粒における結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の平均値が3.8〜4.2°であり、引張強さが641〜708N/mmであり、ばね限界値が472〜503N/mmであり、200℃で1000時間の熱処理後の応力緩和率が12〜19%である銅合金条材およびその製造方法が開示されている。
特許文献5には、質量%で、Mg:0.3〜2%、P:0.001〜0.1%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金条材であり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて前記銅合金条材の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、前記測定面積の45〜55%であり、前記測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが2.2〜3.0°であり、引張強さが641〜708N/mmであり、ばね限界値が472〜503N/mmであり、1×10回の繰り返し回数における両振り平面曲げ疲れ限度が300〜350N/mmである銅合金条材およびその製造方法が開示されている。
これら以外に、特許文献6には、高導電性および高強度を維持しながら、通常の曲げ加工性だけでなくノッチング後の曲げ加工性にも優れ、且つ、耐応力緩和特性に優れた安価な銅合金板材およびその製造方法として、0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、その銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とし、純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度をI0{420}とすると、I{420}/I0{420}>1.0を満たし、銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度をI0{220}とすると、1.0≦I{220}/I0{220}≦3.5を満たす結晶配向を有する銅合金板材が開示されている。
特開平9−157774号公報 特開平6−340938号公報 特許第4516154号公報 特許第4563508号公報 特開2012−007231号公報 特開2009−228013号公報
特許文献1〜5に基づく優れた品質を有するCu−Mg−P系銅合金板は、出願人の商品名「MSP1」として製造及び販売されており、めっき処理、機械加工(主にプレスや曲げ加工)等が施された後に、端子及びコネクタ材料として広範に使用されている。
最近の電気及び電子用機器の端子及びコネクタ部品には、自動車等での振動が大きく、高温、高湿の過酷な使用環境下においても、端子及びコネクタ部品の固着力を低下させることなく、高い電気的接続信頼性が要求されており、素材としてのCu−Mg−P系銅合金板にも、固着力を保持する為に必要な曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性につき更なる向上が求められている。
本発明では、出願人の商品名「MSP1」を改良し、その優れた諸特性を保持しながら、曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板及びその製造方法を提供することを目的とする。
従前より、本発明者らは、X線、或いは、SEM・EBSD法にて、出願人の商品名「MSP1」の銅合金組織表面の各結晶方位面に着目して種々の解析を実施しており、それらを基に鋭意検討の結果、質量%で、Mg:02〜12%、P:0001〜02%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金板において、圧延面に平行な表面のSEMによるEBSD測定での結晶方位解析において、ステップサイズ1.0μmにて測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなした場合に、Brass方位密度が4〜19%であり、Copper方位密度が2〜13%であり、全結晶粒径が10μm以下であり、結晶粒径5μm以下の結晶粒の面積割合が75%以上であると、残留ひずみが少なく、圧延時の異方性も弱められ、結晶組織も緻密になり、優れた曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性が発揮されることを見出した。
この場合、Brass方位密度が4〜19%、Copper方位密度が2〜13%であることにより、曲げ加工後のばね限界値特性が良くなり、全結晶粒径が10μm以下であり、結晶粒径5μm以下の結晶粒の面積割合が75%以上であることにより、曲げ加工後の耐疲労特性が良くなるとの知見を得ている。
また、本発明者らは、溶解・鋳造、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、仕上げ冷間圧延、テンションアニーリングをこの順序で行い、次の(1)〜(3)の条件にて、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、テンションアニーリングを実施することにより、本発明の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板が最適に製造されることも見出した。
(1)所定成分の銅合金を溶解・鋳造して銅合金鋳塊板を作製し、その銅合金鋳塊板の熱間圧延を、圧延開始温度;700℃〜800℃、総熱間圧延率;80%以上、1パス当りの平均圧延率;15%〜30%にて実施し、冷間圧延を、圧延率;50%以上にて実施することにより、Brass方位密度、Copper方位密度、結晶粒径がそれぞれの上述の規定値に収まる素地を作る。
(2)連続焼鈍を、温度;300℃〜550℃、時間;0.1分〜10分にて実施することにより、焼鈍での再結晶化を極力抑えて、Brass方位密度、Copper方位密度、結晶粒径をそれぞれの上述の規定値の近傍に収める。特に、Brass方位密度を2〜25%、Copper方位密度を0.5〜20%として、次のテンションアニーリングにて、規定値に収まり易くする。
(3)テンションアニーリングを、ラインテンション;10N/mm〜100N/mm、速度;10〜80m/min、温度;200〜350℃にて実施することより、銅合金板表面の組織を緻密化し、圧延時の異方性を最小化して、Brass方位、Copper方位、結晶粒径をそれぞれの上述の規定値内に収める。
即ち、本発明の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板は、質量%で、Mg:02〜12%、P:0001〜02%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金板であり、圧延面に平行な表面のSEMでの観察によるEBSD測定法での結晶方位解析において、ステップサイズ1.0μmにて測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなした場合に、Brass方位密度が4〜19%であり、Copper方位密度が2〜13%であり、全結晶粒径が10μm以下であり、結晶粒径5μm以下の結晶粒の面積割合が75%以上であることを特徴とする。
Mgは、Cuの素地に固溶して導電性を損なうことなく、強度を向上させる。また、Pは、溶解鋳造時に脱酸作用があり、Mg成分と共存した状態で強度を向上させる。これらMg、Pは、上記範囲内で含有することにより、その特性を有効に発揮することができる。
Brass方位密度が4〜19%であり、Copper方位密度が2〜13%であることにより、曲げ加工後のばね限界値特性が良くなる。Brass方位密度が4%未満、或いは、Copper方位密度が2%未満であると、残留歪が多く異方性も強くなる。Brass方位密度が19%を超える、或いは、Copper方位密度が13%を超えると、残留歪が多く異方性も強くなり、強度も低下する傾向が見られる。
本発明にて、SEMでの観察によるEBSD法でのBrass方位密度、Copper方位密度の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするBrass方位(理想方位から15°以内)か否か、対象とするCopper方位密度(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるBrass方位密度(結晶方位の面積率)、Copper方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
また、全結晶粒径が10μm以下であり、結晶粒径5μm以下の結晶粒の面積割合が75%以上であることにより、結晶粒が最適範囲となり、表面が緻密化され曲げ加工後の耐疲労特性が良くなる。面積比率が75%未満であると、表面の緻密化が充分ではなく、期待する効果は得られない。この場合、面積比率とは、測定面積内の全結晶粒に占める粒径が5μm以下の結晶粒の割合である。
本発明にて、結晶粒径は、銅合金板の板面(圧延面)を研磨した後にエッチングし、その面を光学顕微鏡で観察して、JIS H0501の伸銅品結晶粒度試験方法により測定した。
本発明の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板は、各種の電気及び電子用機器の端子及びコネクタ用の素材として適しているが、プレスフィット端子の素材として使用されることが好ましい。
プレスフィット端子は、銅合金板にプレス打ち抜き加工、曲げ加工等を施して所定の端子形状に形成後、めっき処理がなされ、端子の案内部より各種電子機器の基板に形成されたスルーホール内に圧入保持される。その際に、接触荷重が発生するので、機械的な保持力が増大して安定した電気的接続を得ることができるが、厳しい使用環境下にて挿抜が少なく、基板に対する高い保持力が要求される。
本発明のCu−Mg−P系銅合金板は、優れた曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性を有しており、基板に対する高い保持力が要求されるプレスフィット端子の素材として最適である。
また、本発明の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板は、更に、0.0002〜0.0013質量%のCと0.0002〜0.001質量%の酸素を含有することを特徴とする。
Cは、純銅に対して非常に入りにくい元素であるが、微量に含まれることにより、Mgを含む酸化物が大きく成長するのを抑制する作用がある。しかし、その含有量が0.0002質量%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.0013質量%を越えて含有すると、固溶限度を越えて結晶粒界に析出し、粒界割れを発生させて脆化し、曲げ加工中に割れが発生することがあるので好ましくない。より好ましい範囲は、0.0003〜0.0010質量%である。
酸素は、Mgとともに酸化物を作り、この酸化物が微細で微量存在すると、打抜き金型の摩耗低減に有効であるが、その含有量が0.0002質量%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.001質量%を越えて含有するとMgを含む酸化物が大きく成長するので好ましくない。より好ましい範囲は0.0003〜0.0008質量%である。
また、本発明の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板は、Cu−Mg−P系銅合金板は、更に、0.001〜0.03質量%のZrを含有することを特徴とする。
Zrは、0.001〜0.03質量%の添加により、引張強さ及びばね限界値の向上に寄与し、その添加範囲外では、効果は望めない。
更に、本発明の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板の製造方法は、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、仕上げ冷間圧延、テンションアニーリングをこの順序で行う工程で前記銅合金板を製造するに際し、前記熱間圧延を、圧延開始温度;700℃〜800℃、総熱間圧延率;80%以上、1パス当りの平均圧延率;15%〜30%にて実施し、前記冷間圧延を、圧延率;50%以上にて実施し、前記連続焼鈍を、温度;300℃〜550℃、時間;0.1分〜3分にて実施し、テンションアニーリングを、ラインテンション;10N/mm〜100N/mm、速度;10〜80m/min、温度;200〜350℃にて実施することを特徴とする。
本発明の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板は、下記(1)〜(3)の条件にて製造することにより、目的とする効果が得られる。
(1)所定成分の銅合金を溶解・鋳造して銅合金鋳塊板を作製し、その銅合金鋳塊板の熱間圧延を、圧延開始温度;700℃〜800℃、総熱間圧延率;80%以上、1パス当りの平均圧延率;15%〜30%にて実施し、冷間圧延を、圧延率;50%以上にて実施することにより、Brass方位密度、Copper方位密度、結晶粒径がそれぞれの規定値に収まる素地を作る。
(2)連続焼鈍を、温度;300℃〜550℃、時間;0.1分〜10分にて実施することにより、焼鈍での再結晶化を極力抑えて、Brass方位密度、Copper方位密度、結晶粒径をそれぞれの上述の規定値の近傍に収める。特に、Brass方位密度を2〜25%、Copper方位密度を0.5〜20%として、次のテンションアニーリングにて、それぞれの規定値に収まり易くする。
(3)テンションアニーリングを、ラインテンション;10N/mm〜100N/mm、速度;10〜80m/min、温度;200〜350℃にて実施することより、銅合金板表面の組織を緻密化し、圧延時の異方性を最小化して、Brass方位密度、Copper方位密度、結晶粒径をそれぞれの規定値内に収める。
特に、テンションアニーリングのラインテンション、速度、温度のそれぞれの条件が規定範囲外であると、銅合金板表面の組織が緻密化されず、残留歪みも軽減されず、目的とする効果が得られない。
本発明により、曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板及びその製造方法を提供する。
本発明の製造方法でのテンションアニーリングの一実施対応例を示す概略図である。 本発明の銅合金の曲げ加工後のばね限界値の低下率の測定に使用する試験片の概略図である。 本発明の一実施対応例に使用するプレスフィット端子と基板を示す概略図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
[銅合金板の成分組成]
本発明のCu−Mg−P系銅合金板は、0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である基本組成を有する。
Mgは、Cuの素地に固溶して導電性を損なうことなく、強度を向上させる。また、Pは、溶解鋳造時に脱酸作用があり、Mg成分と共存した状態で強度を向上させる。これらMg、Pは上記の範囲で含有することにより、その特性を有効に発揮することができる。
また、本発明のCu−Mg−P系銅合金板は、上記の基本組成に対して、更に0.0002〜0.0013質量%のCと0.0002〜0.001質量%の酸素を含有するのが好ましい。
Cは、純銅に対して非常に入りにくい元素であるが、微量に含まれることにより、Mgを含む酸化物が大きく成長するのを抑制する作用がある。しかし、その含有量が0.0002質量%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.0013質量%を越えて含有すると、固溶限度を越えて結晶粒界に析出し、粒界割れを発生させて脆化し、曲げ加工中に割れが発生することがあるので好ましくない。より好ましい範囲は、0.0003〜0.0010質量%である。
酸素は、Mgとともに酸化物を作り、この酸化物が微細で微量存在すると、打抜き金型の摩耗低減に有効であるが、その含有量が0.0002質量%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.001質量%を越えて含有するとMgを含む酸化物が大きく成長するので好ましくない。より好ましい範囲は0.0003〜0.0008質量%である。
また、本発明のCu−Mg−P系銅合金板は、上記の基本組成に対して、或いは、上記の基本組成に上記のC及び酸素を含む組成に対して、更に、0.001〜0.03%質量%のZrを含有するのが好ましい。
Zrは、0.001〜0.03質量%の添加により、引張強さ及びばね限界値の向上に寄与し、その添加範囲外では、効果は望めない。
[銅合金板の集合組織〕
本発明の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板は、質量%で、Mg:0.2〜1.2%、P:0.001〜0.2%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金板であり、圧延面に平行な表面のSEMでの観察によるEBSD測定法での結晶方位解析において、ステップサイズ1.0μmにて測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなした場合に、Brass方位密度が4〜19%であり、Copper方位密度が2〜13%であり、全結晶粒径が10μm以下であり、結晶粒径5μm以下の結晶粒の面積割合が75%以上である。
Brass方位密度が4〜19%であり、Copper方位密度が2〜13%であることにより、曲げ加工後のばね限界値特性が良くなる。Brass方位密度が4%未満、或いは、Copper方位密度が2%未満であると、残留歪が多く異方性も強くなり、Brass方位密度が19%を超える、或いは、Copper方位密度が13%を超えると、残留歪が多く異方性も強くなり、強度も低下する傾向が見られる。
本発明にて、EBSD法によるBrass方位密度、Copper方位密度の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするBrass方位(理想方位から15°以内)か否か、対象とするCopper方位密度(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるBrass方位密度(結晶方位の面積率)、Copper方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
また、全結晶粒径が10μm以下であり、結晶粒径5μm以下の結晶粒の面積割合が75%以上であることにより、結晶粒が最適範囲となり、表面が緻密化され曲げ加工後の耐疲労特性が良くなる。面積比率が75%未満であると、表面の緻密化が充分ではなく、期待する効果は得られない。この場合、面積比率とは、測定面積内の全結晶粒に占める粒径が5μm以下の結晶粒の割合である。
本発明にて、結晶粒径は、銅合金板の板面(圧延面)を研磨した後にエッチングし、その面を光学顕微鏡で観察して、JIS H0501(伸銅品結晶粒度試験方法)の切断法により測定した。
本発明の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板は、各種の電気及び電子用機器の端子及びコネクタ用の素材として適しているが、プレスフィット端子の素材として使用されることが好ましい。
プレスフィット端子は、銅合金板にプレス打ち抜き加工、曲げ加工等を施して所定の端子形状に形成後、めっき処理がなされ、端子の案内部より各種電子機器の基板に形成されたスルーホール内に圧入保持される。その際に、接触荷重が発生するので、機械的な保持力が増大して安定した電気的接続が得ることができるが、厳しい使用環境下にて挿抜が少なく、基板に対する高い保持力が要求される。
本発明のCu−Mg−P系銅合金板は、優れた曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性を有しており、基板に対する高い保持力が要求されるプレスフィット端子の素材として最適である。
[銅合金板の製造方法]
本発明のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板の製造方法は、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、仕上げ冷間圧延、テンションアニーリングをこの順序で行う工程で前記銅合金板を製造するに際し、前記熱間圧延を、圧延開始温度;700℃〜800℃、総熱間圧延率;80%以上、1パス当りの平均圧延率;15%〜30%にて実施し、前記冷間圧延を、圧延率;50%以上にて実施し、前記連続焼鈍を、温度;300℃〜550℃、時間;0.1分〜3分にて実施し、テンションアニーリングを、ラインテンション;10N/mm〜100N/mm、速度;10〜80m/min、温度;200〜350℃にて実施する。
即ち、Cu−Mg−P系銅合金板は、下記(1)〜(3)の条件にて製造方法することにより、所定の効果が得られる。
(1)所定成分の銅合金を溶解・鋳造して銅合金鋳塊板を作製し、その銅合金鋳塊板の熱間圧延を、圧延開始温度;700℃〜800℃、総熱間圧延率;80%以上、1パス当りの平均圧延率;15%〜30%にて実施し、冷間圧延を、圧延率;50%以上にて実施することにより、Brass方位密度、Copper方位密度、結晶粒径がそれぞれの規定値に収まる素地を作る。
(2)連続焼鈍を、温度;300℃〜550℃、時間;0.1分〜10分にて実施することにより、焼鈍での再結晶化を極力抑えて、Brass方位密度、Copper方位密度、結晶粒径をそれぞれの上述の規定値の近傍に収める。特に、Brass方位密度が2〜25%、Copper方位密度が0.5〜20%として、次のテンションアニーリングにて、規定値に収まり易くする。
(3)テンションアニーリングを、ラインテンション;10N/mm〜100N/mm、速度;10〜80m/min、温度;200〜350℃にて実施することより、銅合金板表面の組織を緻密化し、圧延時の異方性を最小化して、Brass方位密度、Copper方位密度、結晶粒径をそれぞれの規定値内に収める。
特に、テンションアニーリングのラインテンション、速度、温度のそれぞれの条件が規定範囲外であると、銅合金板表面の組織が緻密化されず、残留歪みも軽減されず、所定の効果が得られない。
テンションアニーリングとは、熱を負荷しながらテンションレベリングを実施する操作であり、そのラインテンション、ライン速度、温度の各条件が重要な要素となる。
テンションレベリングとは、千鳥に並ぶロールに材料を通して繰り返し逆方向に曲げ加工するローラーレベラーに前後方向に張力を与えることにより、材料の平坦度を矯正する加工である。このテンションレベリングでは、材料に、バックテンション、ラインテンション、フロントテンションの張力が負荷される。バックテンションとは、アンコイラーと入側テンション負荷装置との間の材料に負荷される張力であり、ラインテンションとは、入側および巻取側テンション負荷装置によりローラーレベラー内の材料に負荷される張力であり、フロントテンションとはリコイラーと巻取側テンション負荷装置との間の材料に負荷される張力である。
具体的なテンションアニーリングの一例としては、図1に示すように、アンコイラー9に巻かれた銅合金板6は、テンションレベラ10の入側テンション負荷装置11を通過し、加熱炉R内のローラーレベラー13により繰り返し曲げ加工されて銅合金板7となり、巻取側テンション負荷装置12を通過後、銅合金板8となりリコイラー14に巻き取られる。この際、バックテンションB1はアンコイラー9と入側テンション負荷装置11との間の銅合金板6に負荷される。ラインテンションLは入側テンション負荷装置11と巻取側テンション負荷装置12の間の銅合金板7に負荷される(ローラーレベラー13内では均一な張力である)。フロントテンションF1はリコイラー14と巻取側テンション負荷装置12との間の銅合金板8に負荷される張力である。
表1に示す組成の銅合金を、電気炉により還元性雰囲気下で溶解し、厚さが150mm、幅が500mm、長さが3000mmの鋳塊を溶製した。この溶製した鋳塊を、表1に示す、圧延開始温度、総熱間圧延率、1パス当たりの平均圧延率にて熱間圧延を行い、銅合金板とした。この銅合金板の両表面の酸化スケールをフライスで0.5mm除去した後、表1に示す圧延率で冷間圧延を施し、表1に示す連続焼鈍を施し、圧延率が70%〜85%の仕上げ冷間圧延を実施し、表1に示すテンションアニーリングを施し、実施例1〜10及び比較例1〜7に示すCu−Mg−P系銅合金薄板を作製した。
Figure 0006054085
これらの銅合金薄板から試料を切出し、SEMを使用してEBSD法により、試料の測定領域を、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた後、各結晶粒が、対象とするBrass方位(理想方位から15°以内)か否か、対象とするCopper方位密度(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるBrass方位密度(結晶方位の面積率)、Copper方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
その結果を表2に示す。
また、各試料の結晶粒径は、銅合金板の板面(圧延面)を研磨した後にエッチングし、その面を光学顕微鏡で観察して、JIS H0501(伸銅品結晶粒度試験方法)の切断法により測定した。
その結果を表2に示す。
Figure 0006054085
次に、各試料の導電率、引張り強さ、曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性を測定した。
導電率は、JIS H0505の導電率測定方法に従って測定した。
引張り強さは、L.D.(圧延方向)およびT.D.(圧延方向および板厚方向に対して垂直な方向)の引張試験用の試験片(JIS Z2201の5号試験片)をそれぞれ5個ずつ採取し、それぞれの試験片についてJIS Z2241に準拠した引張試験を行い、平均値によってL.D.およびT.D.の引張強さを求めた。
曲げ加工後のばね限界値特性(ばね限界値の低下率)は、図2のような曲げ半径:0mm、曲げ角度A:130度、段差B:2mmに加工した曲げ試験片1を作製し、この曲げ試験片1を用いてJIS H3130の曲げモーメント試験による曲げ加工後のばね限界値を測定し、この曲げ加工後のばね限界値と先に測定した曲げ加工前のばね限界値から、曲げ加工後のばね限界値の低下率(%)=(曲げ加工前のばね限界値−曲げ加工後のばね限界値)/曲げ加工前のばね限界値×100にて、曲げ加工後のばね限界値の低下率を求めた。
曲げ加工後の耐疲労特性は次のようにして求めた。
圧延方向に対し平行方向の幅10mmの短冊状の試験片に対し、圧延方向に対し直角方向(G.W.)の曲げ半径R=0.8mmの45°曲げを2ヵ所実施し、曲げ加工を施した試験片を作成し、JIS Z2273に従って行った。試験片の曲げ加工部分の1ヵ所が固定端の位置になるように固定具に固定し、他端にナイフエッジを介して正弦波振動を与え疲労寿命を求めた。試験片表面の最大付加応力(固定端での応力)が462MPaでの疲労寿命(試験片が破断に至るまでの繰り返し振動回数)を測定した。測定は同じ条件下で4回行い、4回の測定の平均値を疲労寿命とした。
これらの結果を表3に示す。
次に、各銅合金薄板からプレス加工及び曲げ加工等にて図3に示す形状のプレスフィット端子21を作製し、図3に示す基板22のスルーホール23に常温で把持力(抜き荷重)250gにて挿入した。図3(b)に示すようにプレスフィット端子21が挿入された基板22を、真空度が3×10-3mmHgに保持されたパイレックス(登録商標)ガラス管に真空封入し、170℃の電気炉中で1000時間焼鈍した後常温まで冷却し、パイレックス(登録商標)ガラス管から取り出してプレスフィット端子の引き抜き荷重W1を測定し、(250−W1)/250×100にて、高温保持後の把持力の減少率を求めた。
それらの結果を表3に示す。
Figure 0006054085
表3より、本発明の実施例の銅合金板は、比較例の銅合金板に比べ、曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性が優れており、製造されたプレスフィット端子の把持力も減少率が小さいことがわかる。
即ち、本発明の製造方法で製造されたCu−Mg−P系銅合金板は、優れた曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性を有する。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、製造方法にて、冷間圧延と連続焼鈍を繰返し実施する、テンションレベリング後に歪取り焼鈍を実施する等である。
6 銅合金板
7 銅合金板
8 銅合金板
9 アンコイラー
10 テンションレベラ
11 入側テンション負荷装置
12 巻取側テンション負荷装置
13 ローラーレベラー
14 リコイラー
B1 バックテンション
F1 フロントテンション
L ラインテンション
R 加熱炉

Claims (4)

  1. 質量%で、Mg:02〜12%、P:0001〜02%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金板であり、圧延面に平行な表面のSEMでの観察によるEBSD測定法での結晶方位解析において、ステップサイズ1.0μmにて測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなした場合に、Brass方位密度が4〜19%であり、Copper方位密度が2〜13%であり、全結晶粒径が10μm以下であり、結晶粒径5μm以下の結晶粒の面積割合が75%以上であることを特徴とする曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板。
  2. 更に、0.0002〜0.0013質量%のCと、0.0002〜0.001質量%の酸素とを含有することを特徴とする請求項1に記載の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板。
  3. 更に、0.001〜0.03質量%のZrを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板。
  4. 請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の曲げ加工後のばね限界値特性及び耐疲労特性に優れたCu−Mg−P系銅合金板の製造方法であって、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、仕上げ冷間圧延、テンションアニーリングをこの順序で行う工程で前記銅合金板を製造するに際し、前記熱間圧延を、圧延開始温度;700℃〜800℃、総熱間圧延率;80%以上、1パス当りの平均圧延率;15%〜30%にて実施し、前記冷間圧延を、圧延率;50%以上にて実施し、前記連続焼鈍を、温度;300℃〜550℃、時間;0.1分〜3分にて実施し、テンションアニーリングを、ラインテンション;10N/mm〜100N/mm、速度;10〜80m/min、温度;200〜350℃にて実施することを特徴とするCu−Mg−P系銅合金板の製造方法。
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