JP6049533B2 - 抗ウイルス剤及びこれを含む医薬品等 - Google Patents

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Description

この発明は、梅酢ポリフェノールなどの梅酢由来成分を有効成分とする抗ウイルス及びこれを含む医薬品等に関する。
梅果実の薬効は昔から知られており、中でも下痢や吐き気止めなど消化管機能への改善作用がよく知られている(非特許文献1を参照。)。梅果実は、クエン酸やポリフェノールを生理活性物質として含んでおり、従来から、これらの成分が消化管機能への改善作用に関係していると考えられてきた。
このうち、クエン酸は、その酸性によって微生物やウイルスの殺菌・消毒作用を発揮すると考えられてきた。ただ、強力な酸性を持つ胃液中の塩酸でさえも腸内では中和されてしまことを考えるならば、有機酸であるクエン酸も腸内では恐らく中和されており、クエン酸が腸内で酸性環境をつくりだすような酸として存在し、働いていることは恐らくあり得ないと考えられる。
そこで、近年、梅の機能性成分、特にポリフェノール成分の解析が進み、その性質が明らかになった。具体的には、ポリフェノール類は腸内のpH 環境でも安定しており、その抗菌性が明らかになった。なお、ポリフェノールは、梅果実中に約1,000 ppm程度存在していることが知られている(非特許文献2及び3を参照。)。
発明者らは、このポリフェノールについて長年に渡って研究を進めている。その結果、梅干製造時に副産物として大量に発生し、処理費用を支払って処理している梅酢から、果実由来のポリフェノール(梅酢ポリフェノール)を大量製造する製造法を開発し、その化学分析や健康増進作用について既に特許出願している(特許文献1を参照。)。なお、この梅酢ポリフェノールは、その製造工程中に、梅果実由来の遊離のクエン酸や梅干製造のために大量に添加された食塩が除去されている。そのため、梅酢ポリフェノールは、ポリフェノールそのものの活性を調べるには最適の素材である。
また、発明者らは、梅酢ポリフェノールについて、ラット急性毒性試験、ラット28日間亜急性毒性試験、マウス90日間慢性毒性試験、UMUテスト及びマウス小核試験などの変異原性試験などの安全性試験を実施し、梅酢ポリフェノールの安全性が極めて高いことを明らかにしている(非特許文献4を参照。)。
また、発明者らは、梅酢から得られるポリフェノール抽出物、及びこれを使用する肥満や糖尿病の治療、予防に有効的なα−アミラーゼ阻害作用及びα−グルコシダーゼ阻害作用を有する酵素阻害剤、食品組成物、特定保健用食品組成物、医薬部外品組成物、医薬組成物に関する特許を既に出願している(特許文献1を参照。)。さらに、発明者らは、梅酢から得られるポリフェノール抽出物の血圧上昇抑制作用を見出して既に特許出願している(特許文献2を参照。)。加えて、発明者らは、梅酢から得られるポリフェノール抽出物を含む抗菌物質及びこれを含む医薬品などについても既に特許出願している(特許文献3を参照。)。
しかし、安全性や抗菌性が確認されている梅酢ポリフェノールの抗ウイルス性については研究されておらず、これを含む抗ウイルスや医薬品等についても研究されていなかった。
なお、発明者らの研究のほかにも、梅果汁の濃縮物によるインフルエンザウイルスの増殖抑制作用の報告があるが(非特許文献5を参照。)、この梅果汁濃縮物はポリフェノール類が含有されておらず、加熱濃縮をする際副次的に生成するフルフラール類が抗ウイルス作用の本体であるとしている。また、梅果実に含まれるリグナン誘導体のインフルエンザウイルス増殖抑制作用が報告されているが(特許文献4を参照。)、発明者の梅酢ポリフェノール中には痕跡程度しか含有されていないことが判明している。さらに、由来とする植物は異なるが、サツマイモ茎葉ポリフェノール抽出物(特にカフェ酸誘導体)のインフルエンザウイルス抑制作用(特許文献5を参照。)、柿渋の抗ノロウィルス作用(非特許文献6を参照。)などが研究されている。
特開2009−137929号公報 特開2012−171936号公報 特開2013−043835号公報 特開2011−246419号公報 特開2011−105611号公報
中薬大辞典、小学館、1990.6 三谷 隆彦、ウメ(Prunus mume. Sieb. et Zucc.)中のフェノール性化合物、果樹試験研究推進協議会会報 16,33(2010) 中林良彦ら、梅酢ポリフェノールの抗菌作用に関する研究 平成24年日本農芸化学会総会 志賀 勇介,土田 辰典,原 雄大,岸田 邦博,前田 正信,宮下 和久,藤原 真紀,山西 妃早子,矢野 史子,三谷 隆彦、「梅酢ポリフェノール抽出物の安全性の検討」、近畿大学生物理工学部紀要No.28 p31-40 2011年 Sangchai Yingsakmongkon et al., "In Vitro Inhibition of Human Influenza A Virus Infection by Fruit-Juice Concentrate of Japanese Plum(Prunus mume SIEB. et Zucc)", Biol. Pharm. Bull. 31(3)511-515(2008) 「渋柿の抗ノロウイルス作用の発見」、[online]、広島大学、[2013年2月22日検索]、インターネット<URL: http://www.hiroshima-u.ac.jp/gsbs/kenkyu_syokai/shimamoto/>
この発明は、梅加工食品を製造する際に生じる梅酢の利用をより促進するとともに、安全で抗ウイルス活性の強い抗ウイルス剤を提供することを課題とする。また、強い抗ウイルス活性を備えた医薬品及び医薬部外を提供することも課題とする。
発明者らは、鋭意検討の結果、梅酢ポリフェノール、梅酢ポリフェノールの加水分解物、及び梅酢ポリフェノールの構成成分である梅酢ポリフェノールアグリコンが高い抗ウイルス活性を備えていることを見出してこの発明を完成させた。
すなわち、この発明の抗ウイルスは、有効成分として含梅酢ポリフェノールを含み、 クエン酸を含まないものである。また、この発明の医薬品及び医薬部外は、この発明の抗ウイルス剤を含むものである。
この発明の抗ウイルスは、高い抗ウイルス活性を備えていることが確認されているため、医薬品として投与して消化管や尿路などで異常繁殖したウイルスを除去することが期待できる。しかも、この発明の抗ウイルスは食品由来であるため高い安全性を有していることが保証されており、長期間に渡って使用できることが期待できる。また、この発明の抗ウイルスは、梅干製造時に発生する梅酢を利用することができる。
図1(a)は、梅酢ポリフェノールの単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に対する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。また、図1(b)は、梅酢ポリフェノールのHSV-1に対するウイルス不活化作用を測定した結果を示すグラフである。 図2は、梅酢ポリフェノールの単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)に対する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。 図3(a)は、梅酢ポリフェノールのA型インフルエンザウイルスA0PR8株に対する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。また、図3(b)は、梅酢ポリフェノールのA0PR8株に対するウイルス不活化作用を測定した結果を示すグラフである。 図4(a)は、梅酢ポリフェノールのポリオウイルス1型(PV-1)に対する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。また、図4(b)は、梅酢ポリフェノールのPV-1に対するウイルス不活化作用を測定した結果を示すグラフである。 図5は、梅酢ポリフェノールのコクサッキーB群5型ウイルス(CBV-5)に対する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。 図6(a)は、梅酢ポリフェノールのネコカリシウイルス(FCV)に対する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。また、図6(b)は、梅酢ポリフェノールのFCVに対するウイルス不活化作用を測定した結果を示すグラフである。 図7(a)は、HEp-2細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用を測定した結果を示すグラフである。また、図7(b)は、MDCK細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用を測定した結果を示すグラフである。 図8は、加水分解物の単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に対する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。 図9は、加水分解物のA型インフルエンザウイルスA0PR8株に対する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。 図10は、加水分解物のポリオウイルス1型(PV-1)に対する抗ウイルス作用を測定した結果を示すグラフである。
1.抗ウイルス剤
この発明の抗ウイルス剤は、梅酢から得られる梅酢ポリフェノールを有効成分として含 み、クエン酸を含まないものである。以下に、その詳細について説明する。
(1)梅酢ポリフェノール
梅酢に含まれる梅酢ポリフェノールは多種類あり、その構造はアグリコン部分がヒドロキシ桂皮酸である配糖体、ヒドロキシ桂皮酸と糖・有機酸とのエステル体など、ヒドロキシ桂酸の誘導体が大部分を占める。このような梅酢ポリフェノールは、例えば、特許文献1に記載の方法で製造できる。なお、特許文献1で製造された梅酢ポリフェノール抽出物に含まれるポリフェノールの濃度を正確に測定することはできない。しかし、標準物質として没食子酸を使用するフォーリン−チオカルト法により測定した場合、梅酢ポリフェノール抽出物にポリフェノールは、10〜15%程度含まれていることが分かっている。
(2)梅酢ポリフェノール加水分解物
梅酢ポリフェノール加水分解物は、アルカリ、酸、アミラーゼやエステラーゼなどの酵素を使用する公知の方法によって、梅酢ポリフェノールを糖や有機酸とアグリコン部分(梅酢ポリフェノールアグリコン)とに加水分解したものである。加水分解条件は特に限定する必要はないが、アグリコン部分が全面的に破壊されてしまう条件は好ましくない。
(3)梅酢ポリフェノールアグリコン
梅酢ポリフェノールアグリコンは、梅酢ポリフェノール加水分解物から、糖や有機酸を除去し、アグリコン部分を精製したもののことである。精製方法は、例えば、加水分解物を合成吸着剤(例えば三菱化学社製ダイヤイオンHP20など)から成るカラムクロマトグラフィーにかけ、脱イオン水でカラムを洗浄後、カラムに吸着した梅酢ポリフェノールアグリコンをメタノールやエタノールなどで溶出し、溶出液を濃縮乾固するなどの方法が挙げられる。
なお、梅酢ポリフェノール、液体であっても固体であってもよく、単独で又は別の物質と組み合わせて混合物として使用してもよい。混合物として使用する場合には、スプレードライ、凍結乾燥、デキストリンなどの造形剤の添加処理などをしたものであってもよい。また、液体である場合には、限外ろ過などの公知の方法によって濃縮して使用すれば、不要な成分、例えば、糖分、塩分、有機酸などを除去することもできる。
また、梅酢ポリフェノール等は、多数種のポリフェノールを含んでいる。そのため、これらの中から特定のポリフェノールを、ろ過、カラム処理、溶剤洗浄などの公知の手段によって選別処理してから使用してもよい。
2.医薬品など
この発明の医薬品及び医薬部外は、この発明の抗ウイルス剤を含んでいるものである。なお、医薬品及び医薬部外における抗ウイルス剤の含有量は、使用する抗ウイルス剤の抗ウイルス力やその用途等を勘案して自由に設定することができる。
(1)医薬品
医薬品とは、薬事法に規定されているものであって、医療用医薬品及び一般用医薬品(OTC)の何れをも含む。また、その対象となる疾患は従来からある抗ウイルスを含む医薬品、例えば風邪薬、整腸剤、含嗽薬などであれば、特に限定することなく使用できる。さらに、その形態については、例えば、丸薬剤、液剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル錠剤、トローチ剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、懸濁液、エマルジョン剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤、坐剤、外用液剤、軟膏等の塗布剤等の非経口剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
なお、この発明の医薬品を経口剤として製造する場合には、公知の賦型剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、矯臭剤、着色剤等とともに、公知の製造方法により製造すればよい。
また、この発明の医薬品を非経口剤として製造する場合には、注射用蒸留水、生理食塩水希釈剤、ブドウ糖水溶液等の希釈剤、公知の殺菌剤、防腐剤、安定剤、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤とともに、公知の方法によって製造すればよい。
(2)医薬部外品
医薬部外品とは、薬事法に規定されているものであって、例えば、含嗽剤、脱臭剤(デオドラント剤)、育毛剤、薬用化粧品類、栄養補給薬(サプリメント)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(3)化粧品
化粧品とは、薬事法に規定されているものであって、例えば、口紅、ファンデーションなどのメークアップ化粧品、化粧水などの基礎化粧品、ヘアトニック、香水、歯磨き、シャンプー、リンス、身体を洗うための石鹸、入浴剤などのいわゆるトイレタリー製品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(4)食品
食品とは、ヒト用の一般食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品などを意味している。食品として、具体的には、かまぼこ、ちくわ、はんぺん等の水産加工製品、ソーセージ、ハム、ウインナ−等の食肉加工製品、豆腐や油揚げ、コンニャク等の農産加工製品、洋菓子、和菓子、パン、ケ−キ、ゼリ−、プリン、スナック、クッキ−、ガム、キャンディ、ラムネ等の菓子類、生めん、中華めん、そば、うどん等のめん類、ソ−ス、醤油、ドレッシング、マヨネ−ズ、タレ、ハチミツ、粉末あめ、水あめ等の調味料、カレ−粉、からし粉、コショウ粉等の香辛料、ジャム、マーマレード、チョコレ−トスプレッド、漬物、そう菜、ふりかけや、各種野菜・果実の缶詰・瓶詰等の加工野菜・果実類、チ−ズ、バタ−、ヨ−グルト等の乳製品、果実ジュ−ス、野菜ジュ−ス、乳清飲料、清涼飲料、健康茶、薬用酒類等の飲料、その他、栄養補強(栄養補助)等を目的とする健康維持のための錠剤、飲料、顆粒等の健康志向の飲食品類などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
(5)食品添加物
食品添加物とは、食品衛生法第4条第2項で定義されている「食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用するもの」はもちろん、それ以外の「食品に直接添加、混和、浸潤などしての使用はしないが、手指、機械、計量具などの殺菌や清掃に使用することなどで食品に接する可能性があるもの」、厚生労働大臣が指定した「指定添加物」、長年使用されてきた天然添加物であって品目が決められている「既存添加物」、「天然香料」、「一般飲食物添加物」の全てを含む。
(6)飼料
飼料とは、ヒト以外の動物の餌のことである。ヒト以外の動物としては、例えば、イヌ、ネコなどの愛玩動物、カナリア、インコなど観賞用鳥類、キンギョ、熱帯魚などの観賞用魚類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜、ニワトリなどの家禽、ブリ、マダイ、ヒラメなどの養殖魚などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以下に、実施例に基づいてこの発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は如何なる意味においても特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。
1.実験材料
(1)梅酢ポリフェノール及びそのアルカリ加水分解産物
梅酢ポリフェノールは、特許文献1に記載の製造方法に従って工業的製法により調製した標品(Lot.100525)を使用した。標品は実験で使用するまで1gずつに分包して、乾燥剤存在下、-15℃で冷凍保存した。そして、この標品を蒸留水5.0mlに溶かしたのち、ダルベッコのリン酸緩衝塩類溶液(pH7.4、以下PBSと省略する。)5.0mlを加えて、100 mg/mlの試料液として実験に使用した。
また、梅酢ポリフェノールのアルカリ加水分解物は、梅酢ポリフェノールの標品から次のようにして製造し、実験に使用した。まず、梅酢ポリフェノールの標品100mgにあらかじめ窒素置換した1Nの水酸化ナトリウム溶液を4ml加えて、37℃で24時間インキュベートした。反応終了後、リン酸緩衝液を0.27ml加え、さらに酢酸エチルを5ml加えて4℃、3000rpmで1分間遠心を行い抽出した。遠心後、上清を回収しその残渣に再度酢酸エチル5mlを加えて、同様に遠心し上清を回収した。この1回目と2回目の上清を混合し、60℃、窒素気下で乾固させた。この加水分解物はカフェ酸、クマル酸、フェルラ酸などを含んでおり、かなり強い酸性を示した。
そこで、加水分解物をPBSに溶かしたのちNaOHを用いてpH6まで中和してから、実験に使用した。なお、この実施例では、梅酢ポリフェノール加水分解物の濃度は、例えば、梅酢ポリフェノール10gから得られる加水分解物量を梅酢ポリフェノール加水分解物10g当量と考え、表記している。
(2)ウイルス
ウイルスは、エンベロープウイルスと非エンベロープウイルスの両方を使用した。より具体的には、エンベロープウイルスとして、A型インフルエンザウイルスA0/PR8/34 (以下、A0PR8株と省略する。) 株及び単純ヘルペスウイルス1型F株(以下、HSV-1と省略する。)と2型186株(以下、HSV-2と省略する。)を使用した。
また、非エンベロープウイルスとして、ポリオウイルス1型Sabinワクチン株(以下、PV-1と省略する。) 、コクサッキーBウイルス5型(以下、CBV-5と省略する。)及びネコカリシウイルス(以下、FCVと省略する。)を使用した。
ここで、A型インフルエンザウイルス(オルソミキソウイルス科)は、元来は水鳥の消化器感染ウイルス(糞口感染で伝播)であるが、人では飛沫感染並びに接触感染により伝播する呼吸器感染ウイルスである。
また、単純ヘルペスウイルス(ヘルペスウイルス科)は、接触感染で伝播する体表粘膜感染ウイルスである。このうち、HSV-1は、生活環境中に常在するウイルスであり、50歳以上の年齢に限れば、日本人のほぼ100%が感染している。HSV-1は、口唇ヘルペス、角膜ヘルペス、性器ヘルペスなどの原因であるだけでなく、日本脳炎が減少した現在、ウイルス性脳炎の最大の原因でもある。なかでも、新生児に感染すると、予後の悪い重篤な新生児ヘルペスを発症させることがある。ただ、HSV-1は、体表に症状をあらわすことから、20世紀初頭の早い時期に病原体として分離され、ウイルス学的研究も古くから進められたウイルス又はウイルス病として最もよく解析されたモデルウイルスのひとつでもある。なお、HSV-2はHSV-1と同じくヘルペスウイルス科に属し、ウイルス粒子の性状も臨床的特色や疫学的特徴も似ている。しかし、近年では性器ヘルペスの主たる原因として大きな問題となってきている。
さらに、ポリオウイルス及びコクサッキーウイルス(何れもピコルナウイルス科)は、糞口感染により伝播する消化器感染ウイルスである。これらのウイルスは、ウイルス生活サイクルに人体外の自然環境(下水や河川、井戸水など)の下にある時期が含まれるため、堅固なウイルス粒子構造を持ち、一般に化学的処理や物理的処理に対して抵抗性が高い。
加えて、ネコカリシウイルス(カリシウイルス科)は、ポリオウイルスと殆ど同じウイルス粒子構造をしている。ネコカリシウイルスは、ネコでは消化器感染ではなく呼吸器感染ウイルスであるが、ノロウイルスと同じくカリシウイルス科であるため、厚生労働省ではノロウイルスの代替ウイルスとして扱われている。
(3)細胞及び細胞培養用培地
HSV-1、HSV-2、 PV-1及びCBV-5の抗ウイルス作用の測定には、ヒト由来のHEp-2細胞を使用した。また、HSV-1、 HSV-2、 PV-1及びCBV-5の感染価の測定には、アフリカミドリザル腎由来のVero細胞を使用した。また、A0PR8株の抗ウイルス作用及び感染価の測定の測定には、イヌ腎由来のMDCK細胞を使用した。FCVの抗ウイルス作用及び感染価の測定の測定には、ネコ由来のCRFK細胞を使用した。さらに、細胞障害活性(殺細胞作用 cytocidal effect)の測定には、HEp-2細胞及びMDCK細胞を使用した。なお、細胞の培養には5%ウシ胎児血清(以下、FBSと省略する。) を含むイーグル最低必須培地(以下、MEMと省略する。)を使用した。
2.実験方法
(1)ウイルス感染価の定量
ウイルスの感染価はプラーク法で定量した。具体的には以下のようにして定量した。まず、各ウイルスの感染価の定量に使用する細胞が50mm‐ディッシュの底部全体を覆うようになるまで単層培養した。つぎに、各ウイルス試料をPBSで10倍階段希釈し、その0.5mlをディッシュに接種したのち、室温で1時間ゆっくりと機械的に振盪して、ウイルスを吸着させた。
なお、ウイルスの非特異的な不活化を抑えるために、HSV-1、HSV-2、PV-1、CBV-5及びFCVに対する希釈液には0.5%FBSを、A0PR8株に対する希釈液には0.1%ウシ血清アルブミン(以下、BSAと省略する。)を、それぞれ加えた。
ウイルスを吸着させたのち、未吸着のウイルスを吸引除去し、ウイルス感染細胞を各ウイルスに適した条件で培養した。具体的には、HSV-1、HSV-2、CBV-5及びFCV感染細胞は、0.5%FBSと0.6%メチルセルロースを含むMEM中で、37℃で培養した。また、A0PR8株感染細胞は、0.6%寒天(Difco purified agar)とアセチル化トリプシン(6μg/ml)を含むMEM中で、37℃で2日間培養した。PV-1感染細胞は、0.5%FBSと0.6%メチルセルロースを含むMEM中で、35.5℃、28時間培養した。培養後、感染細胞を含むディッシュを10%ホルマリンと0.5%(w/v)クリスタルヴァイオレットを含む液で固定染色して、水洗・風乾したのち、プラークを視認により計数した。
(2)抗ウイルス作用(antiviral effects)の測定
ウイルス増殖に対する各試料の作用を具体的には次のようにして測定した。まず、各ウイルスの測定に使用する細胞が、6穴ディッシュ(直径33mm)の底面全体を覆うようになるまで単層培養した。つぎに、各ウイルスをMOI=5〜10[細胞当たり5〜10個(PFU;感染単位)]になるように6穴ディッシュの各ウェルに加え、ロッカープラットフォーム上、室温で60分間ウイルスを吸着させた。
ウイルスを吸着させたのち、6穴ディッシュの各ウェルのウイルス感染細胞に0.1%BSAを含むMEMを1.0mlずつ培養液として加えた。さらに、各ウェルに加える試料液量を変えて種々の試料濃度になるように培養液に添加したのち、各ウイルスが完全に増殖するのに必要な時間(HSV-1、HSV-2、 CBV-5及びFCVは16〜28時間、A0PR8株は12〜18時間、PV-1は約16〜24時間)培養した。
最後に、生じた子孫ウイルスをウイルスの種類に応じて定量した。具体的には、HSV-1、HSV-2、 PV-1、 CBV-5及びFCVの場合は、感染細胞を培養液とともに-80℃で2回凍結融解して温和な条件下で破砕することによって、細胞内ウイルスも細胞外に放出させ、細胞融解液中の感染性ウイルスを総子孫ウイルス量としてプラーク法で定量した。また、A0PR8株の場合は、培養上清の一部を取って、その中に放出された感染性ウイルス量をプラーク法で測定した。
なお、抗ウイルス作用は、各濃度の試料を含む培養液で産生された子孫ウイルス量を、感染細胞の培養液に各試料液を加えなかった時に産生された感染性子孫ウイルス量を対照(1.00)とする相対値で表した。
(3)ウイルス不活化作用(殺ウイルス作用 virucidal effect)の測定
プラスチック製のチューブ(Assist tube)に各試料液を一定量加え氷冷し、そこに試料の1/19量になるようにウイルス液を添加した。充分に混和した試料-ウイルス混液を30℃で5分間静置したのち、(1)のウイルス感染価の定量と同様にウイルスの非特異的な不活化を抑える成分を加えた冷たいウイルス希釈液で直ちに10倍階段希釈し、各希釈液中の感染性ウイルス量をプラーク法にて測定した。
ウイルス不活化作用は、各濃度の試料液中で保温した時の残存感染性ウイルス量を、試料液の代わりにウイルス希釈液を使用して保温した試料における残存感染性ウイルス量を対照(1.00)とする相対値で表した。
(4)細胞障害活性(殺細胞作用 cytocidal effect)の測定
まず、6穴ディッシュの各ウェルの底面全体を覆うようになるまで、HEp-2細胞又はMDCK細胞を単層培養したのち、各試料液を種々の濃度で含む培養液(0.1%BSAを含むMEM)を各ウェルに加え、37℃で24時間保温した。
つぎに、各ウェルに一定量のトリプシン-EDTA溶液を加えて、単層培養から細胞をバラバラに分散したのち、トリプシン作用の停止と細胞の安定化のために10%血清を含むMEMを一定量加え、単細胞分散液を調製した。この細胞分散液から一定量を採って、一定量のトリパンブルー液を加えて死細胞のみを染色し、総細胞数の中に占める死細胞数の割合を色素排除法で定量した。
3.実験結果と考察
(1)梅酢ポリフェノールのHSV-1に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのHSV-1に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、HEp-2細胞にHSV-1をMOI=10で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で19時間培養した。つぎに、生じた子孫ウイルスと感染細胞を培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノールを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図1(a)に示す。
なお、図1(a)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は各濃度における梅酢ポリフェノールの存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフェノールの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
図1(a)から、ウイルス収量はポリフェノール濃度に比例して対数的に減少し、梅酢ポリフェノールがHEp-2細胞でのHSV-1増殖を抑制することが確認できた。ただ、この抑制効果は、比較的高濃度のポリフェノールを必要とし、ウイルス収量を1/100以下に下げるのに10mg/ml(1重量%)という濃度を必要とすることも確認できた。また、データは示さないが、梅酢ポリフェノール濃度の上昇につれて、細胞円形化やディッシュからの剥離など細胞変性の増強も確認できた。このことから、HSV-1の持つ抗アポトーシス機能はポリフェノールによって抑制されていると考えられる。
(2)梅酢ポリフェノールのHSV-1に対するウイルス不活化作用の測定
HSV-1の持つ感染性に対するポリフェノールの不活化作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、濃度の異なる梅酢ポリフェノールを含む液にウイルス液を加え、30℃で5分間保温した。その後、感染性ウイルス量を、梅酢ポリフェノールを含まない条件下で保温した場合の感染性ウイルス量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図1(b)に示す。
なお、図1(b)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度における残存感染性ウイルス量の相対値を対数目盛りで示している。
図1(b)から、ウイルス感染価は梅酢ポリフェノール濃度に比例して4mg/mlまで対数的に減少し、梅酢ポリフェノールが効果的にHSV-1を不活化したので、この不活化は効果的であることが確認できた。また、HSV-1の感染性を1/1,000以下にまで下げるのに3mg/ml以下の濃度で充分であり、ウイルスの増殖抑制よりは低い濃度で効果的な不活化が見られた。
(3)梅酢ポリフェノールのHSV-2に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのHSV-2に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、HEp-2細胞にHSV-2をMOI=10で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で21時間培養した。つぎに、生じた子孫ウイルスと感染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノールを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図2に示す。
なお、図2の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は各濃度における梅酢ポリフェノールの存在下で産生された子孫ウイルス量と、梅酢ポリフェノールの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
図2から、ウイルス収量はポリフェノール濃度に比例して対数的に減少し、梅酢ポリフェノールがHEp-2細胞でのHSV-2増殖を抑制することが確認できた。この増殖抑制効果はHSV-2に対する効果とほぼ同程度であり、ウイルス収量を1/100以下にまで下げるのに10mg/ml(1重量%)という濃度を必要とすることも確認できた。このことから、HSV-2の抗アポトーシス機能は、HSV-1と同様に、梅酢ポリフェノールによって抑制されていると考えられる。
(4)梅酢ポリフェノールのA0PR8株に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのA0PR8株に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、MDCK細胞にA0PR8株をMOI=3で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で一夜培養した。つぎに、生じた子孫ウイルスと感染細胞を培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノールを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図3(a)に示す。
なお、図3(a)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は各濃度における梅酢ポリフェノールの存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフェノールの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
図3(a)から、ウイルス収量はポリフェノール濃度に比例して対数的に減少し、梅酢ポリフェノールがMDCK細胞でのA0PR8株の増殖を抑制することが確認できた。また、A0PR8株に対する梅酢ポリフェノールの増殖抑制効果はHSV-1に対する同効果よりも顕著であり、ウイルス収量を1/100以下に下げるのに必要な濃度は5mg/ml (0.5重量%)であった。
(5)梅酢ポリフェノールのA0PR8株に対するウイルス不活化作用の測定
A0PR8株の感染性に対する梅酢ポリフェノールの不活化作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、濃度の異なる梅酢ポリフェノールを含む液にウイルス液を加え、30℃で5分間保温した。その後、感染性ウイルス量を、梅酢ポリフェノールを含まない条件下で保温した場合の感染性ウイルス量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図3(b)に示す。
なお、図3(b)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度における残存感染性ウイルス量の相対値を対数目盛りで示している。
図3(b)から、ウイルス感染価は、はHSV-1の場合と同様に、梅酢ポリフェノール濃度に比例して4mg/mlまで対数的に減少し、梅酢ポリフェノールが効果的にA0PR8株を不活化することが確認できた。また、A0PR8の感染性を1/1,000以下にまで下げるのに5mg/ml以下の濃度で充分であり、この濃度はHSV-1の場合よりやや高めであるが、効果的な不活化が確認できた。
ただ、A0PR8株の不活化は、梅酢ポリフェノール濃度が5mg/mlを超えると意外なことに減弱し、15〜20mg/mlでは感染価は1/50程度まで回復した。その後、梅酢ポリフェノールの濃度に依存して検出限界以下にまで対数的にウイルスを不活化することが確認できた。
(6)梅酢ポリフェノールのPV-1に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのPV-1に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、HEp-2細胞にPV-1をMOI=10で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、35.5℃で20時間培養した。つぎに、生じた子孫ウイルスと染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノールを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図4(a)に示す。
なお、図4(a)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は各濃度における梅酢ポリフェノール存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフェノールの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
図4(a)から、ウイルス収量は8mg/mlまで梅酢ポリフェノール濃度に比例して対数的に徐々に減少し、梅酢ポリフェノールがHEp-2細胞でのPV-1増殖を抑制することが確認できた。ただ、この抑制は、HSV-1と比較して顕著に弱く、8mg/mlでもウイルス収量は1/10以下までも下がっていない。梅酢ポリフェノール濃度が、10mg/mlではウイルス収量が明白に下がっている。
(7)梅酢ポリフェノールのPV-1に対するウイルス不活化作用の測定
PV-1の持つ感染性に対するポリフェノールの不活化作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、濃度の異なる梅酢ポリフェノールを含む液にウイルス液を加え、30℃で5分間保温した。その後、感染性ウイルス量を、梅酢ポリフェノールを含まない条件下で保温した場合の感染性ウイルス量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図4(b)に示す。
なお、図4(b)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度における残存感染性ウイルス量の相対値を対数目盛りで示している。
図4(b)から、ウイルス感染価は、梅酢ポリフェノール濃度にかかわらず、殆ど減少しないことが確認できた。言い換えると、梅酢ポリフェノールは、PV-1を不活化できないことが確認できた。
(8)梅酢ポリフェノールのCBV-5に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのCBV-5に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、HEp-2細胞にCBV-5をMOI=3で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で25時間培養した。つぎに、生じた子孫ウイルスと感染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノールを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図5に示す。
なお、図5の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は各濃度の梅酢ポリフェノール存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフェノールの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
図5から、ウイルス収量はポリフェノール濃度に比例して対数的に徐々に減少し、梅酢ポリフェノールがHEp-2細胞でのCBV-5の増殖を抑制することが確認できた。ただ、この抑制効果は、HSV-1と比較して顕著に弱いことも確認できた。
(9)梅酢ポリフェノールのFCVに対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノールのFCVに対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、CRFK細胞にFCVをMOI=10で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で17時間培養した。つぎに、生じた子孫ウイルスと染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノールを含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図6(a)に示す。
なお、図6(a)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示している。また、同図の縦軸は各濃度における梅酢ポリフェノール存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフェノールの非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
図6(a)から、FCVは梅ポリフェノールに対する感受性が高いことが確認できた。具体的には、梅酢ポリフェノール濃度が10mg/mlまではウイルス収量に比例して対数的に著しく減少するとともに、梅酢ポリフェノール濃度が10mg/ml(1重量%)ではウイルス収量は1/106以下まで下がることが確認できた。
(10)梅酢ポリフェノールのFCVに対するウイルス不活化作用の測定
FCVの持つ感染性に対するポリフェノールの不活化作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、濃度の異なる梅酢ポリフェノールを含む液にウイルス液を加え、30℃で5分間保温した。その後、感染性ウイルス量を、梅酢ポリフェノールを含まない条件下で保温した場合の感染性ウイルス量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図6(b)に示す。
なお、図6(b)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度における残存感染性ウイルス量の相対値を対数目盛りで示している。
図6(b)から、ウイルス感染価は、梅酢ポリフェノール濃度にかかわらず、殆ど減少しないことが確認できた。言い換えると、梅酢ポリフェノールは、PV-1と同様にFCVは不活化できないことが確認できた。
(11)HEp-2細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用の測定
HEp-2細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用について測定した。具体的には次のようにして測定した。まず、HEp-2細胞をコンフルエントになるまで単層培養して、単層培養状態のHEp-2細胞から培養液を除き、PBSで一度洗ったのち、濃度の異なる梅酢ポリフェノールと0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で24時間培養した。
つぎに、各ウェルから培養液を除いて、トリプシン-EDTA溶液を加え、単細胞分散液を調製したのち、トリパンブルーを加えて生細胞と死細胞を数え、総細胞数中に占める死細胞の割合を色素排除法により算出した。その結果を図7(a)に示す。
なお、図7(a)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度における死細胞数の割合を対数目盛りで示している。
図7(a)から、梅酢ポリフェノール濃度が、6mg/ml以下では死細胞の割合は未処理と同程度であり、この濃度を超えると濃度の上昇につれて死細胞の割合が増加することが確認できた。ただ、梅酢ポリフェノール濃度が10mg/mlになっても顕著な細胞死は確認できなかった。これらの結果から、梅酢ポリフェノールの細胞障害作用はそれほど強いものではなく、梅酢ポリフェノールによるウイルス増殖の抑制は試薬による細胞障害によって生じた副次的なものでなく、梅酢ポリフェノールがウイルス増殖過程自体を変調したものであると推論される。
(12)MDCK細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用の測定
MDCK細胞に対する梅酢ポリフェノールの細胞障害作用を、HEp-2細胞と同様にして測定した。その結果を図7(b)に示す。なお、図7(b)の横軸は梅酢ポリフェノール濃度を示し、同図の縦軸は各濃度における死細胞数の割合を対数目盛りで示している。
図7(b)から、梅酢ポリフェノール濃度が、8mg/ml以下では死細胞の割合は未処理と同程度であり、この濃度を超えると濃度の上昇につれて死細胞の割合が増加することが確認できた。これらの結果は、基本的にはHEp-2細胞で見られた結果と同じであり、梅酢ポリフェノールの細胞障害作用がそれほど強いものではないこと、梅酢ポリフェノールによるウイルス増殖阻害が細胞障害の結果として副次的に生じたものではないことが確認できた。
(13)梅酢ポリフェノール加水分解物のHSV-1に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノール加水分解物のHSV-1に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、HEp-2細胞にHSV-1をMOI=17で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢ポリフェノール加水分解物と0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で20時間培養した。つぎに、生じた子孫ウイルスと感染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノール加水分解物を含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図8に示す。
なお、図8の横軸は梅酢ポリフェノール加水分解物の濃度を示している。また、同図の縦軸は各濃度におけるポリフェノール加水分解物の存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフェノール加水分解物の非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
図8から、ウイルス収量はポリフェノール加水分解物濃度に比例して対数的に減少し、梅酢ポリフェノールと同様に、梅酢ポリフェノール加水分解産物もHEp-2細胞でのHSV-1増殖を抑制することが確認できた。また、この抑制効果は、ウイルス収量を1/100以下にまで下げるのに10mg当量/ml(1重量%)という濃度を必要とし、梅酢ポリフェノールとほぼ同等の抗ウイルス活性があることが確認できた。
(14)梅酢ポリフェノール加水分解物のA0PR8株に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノール加水分解物のA0PR8株に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、MDCK細胞にA0PR8株をMOI=1.4で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢ポリフェノール加水分解物と0.1%BSAとを含むMEM中で、37℃で14.5時間培養した。つぎに、生じた子孫ウイルスと感染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノール加水分解物を含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図9に示す。
なお、図9の横軸は梅酢ポリフェノール加水分解物の濃度を示している。また、同図の縦軸は各濃度における梅酢ポリフェノール加水分解物の存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフェノール加水分解物の非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
図9から、ウイルス収量は8mg/mlまで梅酢ポリフェノール加水分解物に比例して対数的に徐々に減少し、梅酢ポリフェノール加水分解物がMDCK細胞でのA0PR8株の増殖を抑制することが確認できた。ただ、この抑制作用は比較的高濃度のポリフェノールでなければ生じず、ウイルス収量を1/100以下にまで下げるのに8mg当量/ml(0.8重量%)以上という高い濃度を必要とすることが確認できた。
(15)梅酢ポリフェノール加水分解物のPV-1に対する抗ウイルス作用の測定
梅酢ポリフェノール加水分解物のPV-1に対する抗ウイルス作用を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、HEp-2細胞にPV-1をMOI=10で吸着させたのち、濃度の異なる梅酢ポリフェノール加水分解物と0.1%BSAとを含むMEM中で、35.5℃で20時間培養した。つぎに、生じた子孫ウイルスと感染細胞とを培養液とともに凍結融解して回収・定量し、梅酢ポリフェノール加水分解物を含まない条件下での回収量を対照(1.00)とする相対値で表した。その結果を図10に示す。
なお、図10の横軸は、梅酢ポリフェノール加水分解物の濃度を示している。また、同図の縦軸は、各濃度における試料存在下で産生された子孫ウイルスの量と、梅酢ポリフェノール加水分解物の非存在下で産生された子孫ウイルス量との相対値を対数目盛りで示している。
図10から、ウイルス収量は梅酢ポリフェノール加水分解物濃度に比例して8mg当量/mlまでは対数的に徐々に減少し、梅酢ポリフェノール加水分解物がHEp-2細胞でのPV-1増殖を抑制することが確認できた。増殖抑制効果は、梅酢ポリフェノールとほぼ同程度であった。
この発明の抗ウイルスは、梅干製造時に副産物として発生する梅酢から容易に調製することができ、安価であり、高い安全性が確認されている。そのため、従来からある抗ウイルスよりもより広い分野で応用可能である。

Claims (8)

  1. 梅酢ポリフェノールを有効成分として含み、クエン酸を含まない抗ウイルス剤。
  2. インフルエンザウイルスを対象とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
  3. ヘルペスウイルスを対象とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
  4. ポリオウイルスを対象とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
  5. コクサッキーウイルスを対象とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
  6. カリシウイルスを対象とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
  7. 請求項1〜6の何れかに記載の抗ウイルス剤を含む抗ウイルス用医薬品。
  8. 請求項1〜6の何れかに記載の抗ウイルス剤を含む抗ウイルス用医薬部外品。
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