図1(a)は、本発明の被検査対象物である印刷物(H)の一例を示す平面図である。紙、カード等印刷可能な基材(1)上に、盛り上がりを有する光輝性画線が複数配列されることで形成された、印刷模様(2)が付与されている。印刷模様(2)は、星型の潜像部(3)とその周囲である背景部(4)から成る。
図1(b)は、潜像部(3)を示す拡大図であり、図1(c)は、背景部(4)を示す拡大図である。図1(b)及び図1(c)に示すように、潜像部(3)を構成する複数の画線(3a)は、第1の方向(X1)に複数配列され、背景部(4)を構成する画線(4a)は、第1の方向(X1)とは異なる第2の方向(X2)に複数配列される。
例えば、図1では第1の方向(X1)と第2の方向(X2)は90度異なる方向としている。
潜像部(3)と背景部(4)を形成する盛り上がりを有する光輝性画線の配列方向が異なることで、印刷物(H)を正面から観察した場合、潜像部(3)及び背景部(4)は、いずれも光の反射の影響を受けにくいため、ベタに近い印刷領域として視認される。
また、斜めから観察した場合、潜像部(3)と背景部(4)の一方が、光を反射して明るく視認され、他方が光を反射せず暗く視認されることで、反射光の差により星形の潜像部(3)が視認可能となる。
盛り上がりを有する光輝性画線は、光輝性のインキ、又は、光輝性材料を混合したインキを用いて形成する。光輝性のインキは、パールインキ、金、銀インキ等のメタリックインキ、透明インキ等、入射した光のうち、正反射光が観察できるような材料であれば特に限定はない。また、有色でも無色でも良い。
なお、印刷模様(2)の構成についての詳細は、本出願人が先に出願している特許第3718712号「真偽判別可能な印刷物及びその作製方法」及び特WO2003/013871号「真偽判別可能な印刷物及びその作製方法」に記載されているので、省略する。
図2は、印刷物(H’)に欠陥部(K)がある不良品を示す平面図である。
本発明における欠陥部(K)とは、印刷模様(2)において、画線が欠ける、画線の幅やインキ膜厚が変化する、画線同士が繋がる、非画線領域にインキが付着する等、潜像部(3)と背景部(4)を構成する画線構成が、良品の仕様とは異なる状態となった領域のことである。
欠陥部(K)を有する印刷物(H’)は、斜めから視認した際に、潜像部(3)及び/又は(4)が視認できない、一部が欠けて視認される等、所望の視認条件下において、潜像部(3)及び/又は背景部(4)を明瞭に視認することができなくなる。
そこで、本発明においては、図1に示すように、盛り上がりを有する光輝性画線の配列方向が異なる、少なくとも二つ以上の領域を有する印刷模様(2)において、画線を一つずつ区別して撮像することが可能な、印刷物(H)の検査方法を提供する。
次に、本発明の検査方法を行う、検査装置(M)について、図3の構成を示す模式図を用いて説明する。検査装置(M)は、ラインカメラ(5)、同軸落射照明(6)、搬送部(7)、制御部(8)、画像処理部(9)及び判定部(10)を少なくとも備える。
検査装置(M)は、印刷物(H)を搬送部(7)に載置した後、モータ(図示せず)等により搬送部(7)を駆動することで、同軸落射照明(6)の下方へ印刷物(H)を通過させる。次に、印刷物(H)からの反射光をラインカメラ(5)で撮像した後、画像処理部(9)で撮像画像を基に、印刷物(H)の検査を実施し、最後に判定部(10)において印刷物(H)の良否判定を行う。
次に、検査装置(M)の構成について、詳細に説明する。
ラインカメラ(5)は、印刷物(H)の良否検査を行うため検査対象となる入力画像を撮像する手段であり、図示しない受光素子、レンズ、撮像時のトリガ信号を出力するセンサ、エンコーダ等の画像入力手段から構成される。
ラインカメラ(5)は、印刷物(H)の搬送経路を介して搬送部(7)と対向し、ラインカメラ(5)の受光素子と、後述する同軸落射照明(6)と平行となる位置へ配置する。その際、ラインカメラ(5)の受光面と、印刷物(H)の表面が平行となるように配置する。なお、ラインカメラ(5)には、ラインカメラ(TELEDYNE DALSA社製「S3−24−02K40」)等、公知のラインカメラを用いる。また、ラインカメラ(5)は一つに限らず、検査対象である印刷物(H)の大きさや、ラインカメラ(5)の解像度に合わせて、複数台配置しても良い。
同軸落射照明(6)は、印刷物(H)の良否検査を行うため検査対象となる入力画像を撮像する際に、印刷物(H)にライン状の光を照射し、照射光と同軸の正反射光を得る手段であり、光源(R)、ロッドレンズ(6L)、ハーフミラー(J)等から構成される。
同軸落射照明(6)には、エリアカメラ用とラインカメラ用がある。平行度の高い、ライン状の光が照射及び撮像できる環境であれば、どちらを用いても良いが、撮像面積の小さいラインカメラ用の方が、照射面積を小さくできる。なお、本発明における平行度とは、図3に示すように、同軸落射照明(6)の光源(R)から放射される光(L1)が、ロッドレンズ(6L)を介して、どのくらい広がったかを示す、広がり度合いのことである。この、広がり度合いが小さいことを平行度が高いと言い、広がり度合いが大きいことを、平行度が低いと言う。
例えば、図3においては、放射される光(L1)と、ロッドレンズ(6L)を介した光(L2)は、平行となっている。よって、二つの角度に差がないことから、広がり度合いなく、平行度が高いと言える。よって、潜像部(3)を構成する微細な印刷画線(3a)一本ごとに、平行度の高い光を照射可能となることから、好ましい。
同軸落射照明(6)は、ラインカメラ(5)と印刷物(H)の間に配置する。その際、同軸落射照明(6)の照射光及び反射光の光軸と、ラインカメラ(5)で受光する光軸が同軸上となるように配置する。なお、同軸落射照明(6)には、同軸落射照明(シーシーエス社製「LNSPV−400SW」)等、公知の同軸落射照明を用いる。
搬送部(7)は、印刷物(H)の良否検査を行うため検査対象となる入力画像をラインカメラ(5)で撮像するために、印刷物(H)を載置及び搬送する手段であり、印刷物(H)を載置する台、載置台をラインカメラ(5)の受光面に対し、平行に一定速度で駆動するモータ等の駆動手段で構成される。
搬送部(7)は、印刷物(H)の搬送経路を介してラインカメラ(5)と対向する位置に配置する。
搬送方向(v1)と同一方向に配置された搬送部(7)をモータ(図示せず)によって駆動させることで、印刷物(H)は、平坦性を維持した状態で、検査装置(M)内を一枚ずつ搬送することが可能となる。
搬送部(7)は、撮像条件の安定化を図るために、撓みや歪みが発生しない素材を用いて、印刷物(H)を固定する機構を具備する。
印刷物(H)の搬送時には、ばたつきが発生してラインカメラ(5)から正確な入力画像を取得できない場合がある。よって、搬送時においては、印刷物(H)を搬送部(7)に固定することが、好ましい。例えば、搬送部(7)に複数の吸引孔を設けて、搬送部(7)に載置した印刷物(H)を吸引しながら印刷物(H)を搬送しても良い。さらには、搬送部(7)上に、印刷物(H)の上面を押さえる器具を取り付けても良い。
なお、図3において搬送部(7)をテーブルとして図示しているが、ラインカメラ(5)によって印刷物(H)を一枚ずつ撮像して入力画像を取得可能な構成であればテーブルに限らず、例えば搬送ベルトやグリッパー等で印刷物(H)を搬送し、入力画像を撮像する方式や、印刷物(H)を固定した状態で、ラインカメラ(5)を移動させる構成としても良い。
制御部(8)は、ラインカメラ(5)で撮像した、印刷物(H)の良否検査を行うための検査対象となる入力画像を、画像処理部(9)への転送と、検査装置(M)における各部の制御を行う手段であり、ラインカメラ(5)を制御するカメラ制御手段、撮像するタイミングとなるトリガ信号等の信号の送受信を行う通信手段、撮像画像を画像処理部(9)へ転送する転送手段で構成される。なお、制御部(8)には、ラインカメラ用電源(TELEDYNE DALSA社製「PL315A」)等、公知の制御装置を用いる。
画像処理部(9)は、制御部(8)より転送された入力画像と、あらかじめ基準として登録した良品判定を行う際の基準となる、しきい値データとを比較するために、定量化する手段であり、演算手段、演算手段から判定部(10)に演算結果を転送する転送手段、記憶手段から構成される。
演算手段は、印刷物(H)の検査方法に用いる各画像の入力と、入力した各画像及び/又は記憶手段に記憶した画像及びデータを用いて、演算を行う。記憶手段は、印刷物(H)の検査方法に用いる各画像、各基準値等検査に必要なデータを記憶する。
判定部(10)は、画像処理部(9)での演算結果を基に、あらかじめ基準として登録した、良否判定を行う際の基準となる判定データと比較をし、入力画像があらかじめ設定したしきい値以内であるか否かの良否判定を行う手段である。
良否の判定を行う手段としては、各種フィルタ処理、特徴点抽出、パターンマッチング等の公知の画像処理手段を使用する。
なお、判定部(10)における判定結果は、制御部(8)に転送した後、制御部(8)と接続したモニタ(図示せず)やプリンタ(図示せず)によって出力可能とする構成や、排紙部(図示せず)を検査装置(M)に設けて、印刷物(H)の自動選別を行う構成としても良い。
次に、図4に示すフローチャートに準じて、前述した検査装置(M)を用いた印刷物(H)の検査方法について説明する。
まず、ステップ(以下、「S」という。)1では、照射方向設定工程とし、あらかじめ印刷模様(2)の検査対象となる領域を構成する光輝性画線の検査項目に対応して、光輝性画線の配列方向と、同軸落射照明(6)からのライン状の照射光が直交になるように撮像条件を設定する。
例えば、検査対象となる領域を潜像部(3)とし、光輝性画線の検査項目を、潜像部(3)が明瞭に出現するか否かとした場合、潜像部(3)を構成する画線の配列方向と、照明光が直交になるように設定し、検査対象となる領域を背景部(4)とした場合、背景部(4)を構成する画線の配列方向と、同軸落射照明(6)からのライン状の照明光が直交になるように設定する。以下、一例として、潜像部(3)の検査方法を説明する。
図5は、S1を示す模式図である。印刷物(H)を構成する画線を、潜像部(3)を構成する画線(3a)のみで構成されているとして考えた場合、画線(3a)の配列方向(v1a)が、同軸落射照明(6)におけるロッドレンズ(6L)の長手方向(v2)と直交する方向であるとき、盛り上がりを有する光輝性画線の、立体的な画線形状の影響を抑えて、画線表面全体の正反射光を撮像することが可能となる。以下、同軸落射照明(6)において、ロッドレンズ(6L)の長手方向(v2)を「幅方向」と言う。
図6は、盛り上がりを有する光輝性画線の撮像原理を示す模式図である。図6(a1)及び図6(a2)は、画線(3a)と同軸落射照明(6)の幅方向(v2)が直交する方向である場合を示し、図6(b1)及び図6(b2)は、画線(3a)と同軸落射照明(6)の幅方向が平行する方向である場合を示す。
図6(a1)及び図6(b1)は、それぞれ印刷物(H)を正面から見た図であり、図6(a2)及び図6(b2)は、それぞれ印刷物(H)を横方向(E1)から見た図である。なお、前述のとおり、ラインカメラ(5)の受光素子の配列方向(v3)と、同軸落射照明(6)は、平行に配置されている。
図6(a1)及び図6(a2)に示すように、画線(3a)と同軸落射照明(6)の幅方向が直交する方向である場合、同軸落射照明(6)からのライン状の照射光は、盛り上がりを有する画線(3a)の表面全体で反射される。それにより、多くの反射光が、ラインカメラ(5)の受光素子に入ることから、複数の画線(3a)の一本一本が明瞭に区別して撮像された画像として撮像することが可能となる。
一方、図6(b1)及び図6(b2)に示すように、画線(3a)と同軸落射照明(6)の幅方向が平行する方向である場合、同軸落射照明(6)からのライン状の照射光は、盛り上がりを有する画線(3a)の頂点のみで反射される。それにより、ラインカメラ(5)の受光素子には少ない反射光しか入らないことから、複数の画線(3a)の一本一本を明瞭に区別して撮像することはできず、全体が暗いベタ画像として撮像される。
よって、印刷模様(2)において、潜像部(3)を構成する画線(3a)の配列方向と、同軸落射照明(6)からの照射光を直交となるように撮像条件を設定することで、潜像部(3)を構成する画線(3a)一本一本を区別して明瞭に撮像することが可能となる。
本発明における直交とは、厳密に直交である必要がなく、プラスマイナス10度程度であれば、本願発明の効果を得ることが可能である。ただし、潜像部(3)を構成する画線(3a)の配列方向と、同軸落射照明(6)からの照射光が、90度となる撮像条件の場合と、潜像部(3)を構成する画線(3a)の配列方向と、同軸落射照明(6)からの照射光が、80度となる撮像条件の場合においては、90度となる撮像条件の方が、撮像画像において、潜像部(3)を構成する画線を明るく、一本一本を明瞭に撮像することが可能となり、好ましい。よって、本願発明の効果を得ることが可能となるように、前述したプラスマイナス10度程度の範囲内で、適宜調整を行う。
なお、照射方向設定工程(S1)において、あらかじめ光輝性画線の配列方向がわかっている場合には、その配列方向に対して、直交となるようにライン状の照射光を調整しながら撮像条件を設定することが可能である。一方、光輝性画線の配列方向がわからない場合には、撮像条件を設定する前に、配列方向確認工程(S1−1)として、光輝性画線の配列方向を確認する。
配列方向確認工程(S1−1)においては、印刷模様(2)をスキャナで読み取り、読み取り結果であるBMP形式、TIFF形式等の配列方向確認用の反射画像を取得する。前述のとおり、画線(3a)の配列方向に対し、同軸落射照明(6)からの照射光を直交となるように設定した場合、画線(3a)は明るく(濃度が高い)撮像され、反対に、平行となるように設定した場合、画線(3a)は暗く(濃度が低い)撮像される。
取得した反射画像において、最も濃度が低い個所は、S1−1における反射画像取得時において、同軸落射照明(6)からの照射光と、光輝性画線の配列方向が直交の関係にあると言え、最も濃度が高い個所は、同軸落射照明(6)からの照射光と、光輝性画線の配列方向が平行の関係であると言える。
よって、取得した反射画像の濃度をもとに、撮像時の同軸落射照明(6)からの照射光と、光輝性画線の配列方向を確認することで、その際の角度を基準として、同軸落射照明(6)と光輝性画線の配列方向が直交となるように、適宜設定することが可能となる。
また、別の方法としては、印刷模様(2)に対して、0から90度の範囲内で、適宜間隔を開けて(例えば、5度おき)、順次同軸落射照明(6)からの照射光を照射したのち、ラインカメラで撮像し、BMP形式、TIFF形式等の配列方向確認用の反射画像を角度ごとに取得する。
取得した複数の反射画像において、最も濃度が低い画像は、S1−1における反射画像取得時において、同軸落射照明(6)からの照射光に対し、光輝性画線の配列方向が直交の関係にあると言え、最も濃度が高い画像は、平行の関係にあると言える。よって、順次取得した複数の反射画像をもとに、同軸落射照明(6)と光輝性画線の配列方向が直交となるように、適宜設定することが可能となる。
次に、照射工程(S2)とし、印刷模様(2)における検査対象とする領域に、同軸落射照明(6)から可視光を照射する。
S1後の印刷模様(2)の検査対象とする領域である潜像部(3)に対し、同軸落射照明(6)から、照射光である可視光を、潜像部(3)を構成する光輝性画線と直交となるように照射することで、潜像部(3)を構成する画線(3a)を明瞭に撮像することが可能となる。なお、S1において、検査対象とする領域を潜像部(4)とした場合、S2では、背景部(4)に対して同軸落射照明(6)から可視光を照射する。
次に、反射画像撮像工程(S3)とし、同軸落射照明(6)から照射した光の反射光をラインカメラ(5)によって検出することで、印刷物(H)に付与された印刷模様(2)を撮像した後、制御部(8)を介して画像処理部(9)に入力し、印刷模様(2)の撮像画像である反射画像を取得する。
図7は、印刷模様(2)の反射画像である第1の反射画像(P1)を示す模式図である。第1の反射画像(P1)は、複数の画素から構成される。第1の反射画像(P1)は、潜像部(3)と、背景部(4)とを有しており、潜像部(3)を構成する画線については、画線が一本一本明瞭に撮像されている。反対に、背景部(4)を構成する画線については、一本一本を明瞭に撮像することはできず、全体が暗いベタ画像として撮像されている。なお、第1の反射画像(P1)の形式は、BMP、TIFF等特に限定されるものではない
次に、判定工程(S4)とし、第1の反射画像(P1)と、あらかじめ設定した潜像である潜像部(3)が出現するか否かの基準となる基準潜像データとを比較し、その比較結果に基づいて良否判定を行う。以下、本発明においては、光輝性画線の検査項目に対応して、あらかじめ設定した良否判定の基準となるデータを総称する場合には、「基準データ」と言う。
良否判定の方法は、撮像した第1の反射画像(P1)と、図8に示す、印刷物(H)を傾けて観察した際に、潜像部(3)が明瞭に出現可能となる画線形状の基準となる画像データである、基準潜像データの画像データである基準潜像画像(P2)をパターンマッチングにより判定する方法と、撮像した第1の反射画像(P1)の濃度値と、基準潜像画像(P2)の濃度値を比較することで判定する方法の、二通りの判定方法がある。
まず、パターンマッチングによる判定方法について説明する。パターンマッチングにより判定する場合、特にアルゴリズム等の限定はないが、例えば、一般的なテンプレートマッチングを用いることが可能である。
図9は、テンプレートマッチングを示す模式図である。テンプレートマッチングは、まず、画像処理部(9)により図9(a)に示す基準潜像画像(P2)と、検査対象である第1の反射画像(P1)を、同一の画像幅及び画像高さに変換する。以下、テンプレートマッチングについては、画像処理部(9)により行う。
次に、第1の反射画像(P1)と基準潜像画像(P2)における共通する位置の、任意の少なくとも三つの点を、各画像の基準点として設定する。
各画像は、同じ大きさであることから、各画像における四隅のうち、少なくとも三隅を基準点(Q1、Q2、Q3)とすることで、各画像の共通する位置に基準点を設定することが可能である。
なお、TIFF形式、JPEG形式、BMP形式等の一般的な画像形式では、画素が必ず縦横の直交する二つの軸方向に沿って平行に配置されるという特性を持つ。よって、各画像が、すべて画素が必ず縦横の直交する二つの軸方向に沿って平行に配置されるという特性を持つ場合は、各画像の縦横方向が自明であり、回転を考慮する必要がないため、基準点は各画像において、それぞれ一点のみでよい。
次に、基準点が一致するように、第1の反射画像(P1)と基準潜像画像(P2)を重ね合わせて、マッチングを行う。マッチングとは、複数の画素で構成された二つの画像を重ね合わせた後、重ね合う画素同士でどれくらい濃度差があるかを算出する画像処理である。濃度差が小さい方が二つの画像は似ていることから、類似度が高くなる。反対に濃度差が大きい場合、二つの画像は似ていないことから、類似度は低くなる。
例えば、図9(a)に示すように、第1の反射画像(P1)に欠陥部(K)がない場合、比較結果(A1)に濃度差(G)はないが、図9(b)に示すように、第1の反射画像(P1’)に欠陥部(K)がある場合、比較結果(A1’)に濃度差(G)が発生する。前述のとおり、濃度差が大きいほど二つの画像は似ていないことから、この濃度差(G)が所定の数値以上となる欠陥部(K)の大きさ(画素数)を閾値とし、閾値以上の濃度差(G)となった場合、印刷物(H)を、潜像部(3)が明瞭に出現しない不良品として検出する。
欠陥部(K)の大きさは、前述した潜像部(3)を構成する画線の画線幅、用いるインキ及び画線高さ等に併せて、適宜設定する。
なお、図9においては、画像全体をパターンマッチングしたが、各画像をn×mの所定のピクセルで、それぞれ複数分割した後、分割したピクセルごとにパターンマッチングを行うことも可能である。
次に、潜像判定工程における他の判定方法である、基準潜像画像(P2)の濃度値と、取得した第1の反射画像(P1)の濃度値との比較により判定する方法について説明する。
図10(a1)は、基準潜像画像(P2)を示す図であり、図10(a2)は、基準潜像画像(P2)における、X1−X2の濃度断面を示す図である。濃度断面とは、図10(a1)において点線で示す、X1−X2方向に位置する画素の濃度値を示したものである。なお、濃度値は、0(黒)から255(白)までの整数値となる。
図10(b1)は、検査対象である第1の反射画像(P1)を示す図であり、図10(b2)は、第1の反射画像(P1)における、X3−X4の濃度断面を示す図である。なお、基準潜像画像(P2)におけるX1−X2と、第1の反射画像(P1)におけるX3−X4は、画像における同じ位置の断面である。
濃度値による比較方法は、例えば、図10(a2)に示す基準潜像画像(P2)の濃度断面と、図10(b2)に示す第1の反射画像(P1)の濃度断面を比較する。なお、比較方法は、同じ位置の画素同士の濃度値を比較して行う。第1の反射画像(P1)に欠陥部(K)がない場合、各画素同士において濃度値は差がないか、又は、あらかじめ設定した正紙として許容可能な範囲内の濃度差である。
一方、図10(c1)に示すように、第1の反射画像(P1’)に欠陥部(K)がある場合、基準潜像画像(P2)の濃度断面と、図10(c2)に示す第1の反射画像(P1’)の濃度断面を比較した際、あらかじめ設定した良品として許容可能な範囲外の濃度差となった際には印刷物(H)を、潜像部(3)が明瞭に出現しない不良品として検出する。
このように、パターンマッチング又は濃度値の比較により行った判定結果に応じ、画像処理部(9)で、正損の判定をする。以上、S1からS4により、光輝性画線から成る印刷物(H)の潜像部(3)が出現するか否かを、目視ではなく機械的に検査することが、可能となる。
なお、本発明の検査対象である印刷模様(2)は、印刷により基材(1)に形成している。そのため、図11に示すような、インキの転移不良、版詰まり等による、画線切れ(K1)が生じる場合がある。画線切れ(K1)が生じた場合には、潜像部(3)が、一部欠けた状態で視認されることから、印刷品質上、好ましくない。
そこで、潜像部(3)が視認可能か否かの検査に加え、潜像部(3)を構成する印刷画線に、画線切れ(K1)があるか否かを検査する検査工程をさらに設けても良い。
潜像部(3)の画線切れ(K1)を検査する場合、前述した判定工程(S4)において、第1の反射画像(P1)と、あらかじめ設定した潜像部(3)の画線切れがあるか否かの基準となるデータである基準潜像画線切れデータとを比較し、その比較結果に基づいて良否判定を行う。
画線切れ(K1)の検査においても、前述した画像チェンジを判定する判定工程(S4)と同様に、パターンマッチングにより判定する方法と、濃度値との比較により判定する方法がある。
図12は、基準潜像画線切れデータの画像データである基準潜像画線切れ画像(P3)を示す図である。基準潜像画線切れ画像(P3)は、印刷物(H)を傾けて観察した際に、潜像部(3)を構成する画線の基準となる画像データのことであり、複数の画素から構成される。
基準潜像画線切れ画像(P3)は、検査対象となる領域内の画線が一本一本明瞭であり、画線切れを検査可能な画像であれば、前述した潜像部(3)が視認可能か否かをする基準潜像画像(P2)と同じ画像を用いても良いし、異なる画像を用いることも可能である。なお、パターンマッチングにより判定する方法と、濃度値との比較により判定する方法については、前述した第1の反射画像(P1)の比較方法と同様であることから、説明を省略する。
このように、判定工程(S4)において、基準潜像画線切れ画像(P3)を用いることで、検査対象となる領域内の画線切れについて、判定を行うことが可能となる。さらには、判定工程(S4)において、第1の反射画像(P1)を、基準潜像画像(P2)及び基準潜像画線切れ画像(P3)という二つの画像とそれぞれ比較することで、潜像部(3)が視認可能か否かに加え、視認される潜像部(3)の画線切れについても判定を行うことが可能となる。
なお、本発明の検査対象である印刷模様(2)は、印刷により基材(1)に形成しているため、前述した画線切れ(K1)の他に、図13に示すような、インキの転移不良、インキの硬化不良、インキ量の増減等により、隣り合う画線同士が繋がって形成される、画線繋がり(K2)が生じる場合がある。
本発明の印刷模様(2)は、潜像部(3)と背景部(4)を構成する画線の配列方向が異なることで、基材(1)を一方又は他方に傾けた際に、潜像部(3)と背景部(4)のどちらかのみが反射することで、反射率の差により潜像部(3)が視認可能となる。よって、潜像部(3)に画線繋がり(K2)が生じた場合、その箇所は、一方に傾けた際にも、他方に傾けた際にも、常に反射し続けることとなり、潜像部(3)の視認性が低下する。
そこで、潜像部(3)が視認可能か否かの検査に加え、画線繋がり(K2)があるか否かを検査する検査工程をさらに設けても良い。
潜像部(3)の画線繋がり(K2)を検査項目とする場合、前述した照射方向設定工程(S1)において、あらかじめ潜像部(3)を構成する光輝性画線の配列方向と、同軸落射照明(6)からの照射光が平行になるように撮像条件を設定する。
図14は、画線繋がり(K2)の撮像方法を示す模式図である。印刷物(H)を構成する画線を、潜像部(3)を構成する画線(3a)のみで構成されているとして考えた場合、画線(3a)の配列方向(v1a)が、同軸落射照明(6)の幅方向(v2)と平行する方向であるとき、盛り上がりを有する光輝性画線の、立体的な画線形状の影響を抑えて、画線表面全体の反射光を撮像することが可能となる。
前述した、潜像部(3)の画線形状を検査する場合は、潜像部(3)を構成する画線一本一本を明瞭に撮影するために、画線(3a)と同軸落射照明(6)の幅方向が直交する方向となるように、照射方向を設定していた。画線繋がり(K2)は、ベタ印刷のように肉眼では視認され、常にどの方向に傾けても反射して明るく視認される。よって、潜像部(3)の画線形状を検査する場合と同様の撮像条件により潜像部(3)を撮像した場合、画線繋がり(K2)についても、反射して明るく撮像されることから、他の潜像部(3)を構成する画線と区別して撮像することができない。
前述のように、画線(3a)と同軸落射照明(6)の幅方向が平行する方向である場合、潜像部(3)は、全体が暗いベタ画像として撮像される。一方、画線繋がり(K2)は、画線同士が繋がって形成されていることから、ベタ印刷のように、観察角度に依存することなく、どの観察角度でも反射した明るい画像として撮像される。
よって、潜像部(3)が暗く撮像される、画線(3a)と同軸落射照明(6)の幅方向が平行する撮像条件に設定することで、画線繋がり(K2)が発生した際には、暗い撮像画像内で、画線繋がり(K2)のみが明るく撮像されることから、潜像部(3)に発生した画線繋がり(K2)のみを撮像することが可能となる。
画線(3a)と同軸落射照明(6)の幅方向が平行する撮像条件に設定後、前述したS2と同様に、印刷模様(2)に同軸落射照明(6)から可視光を照射することで、潜像部(3)のうち、画線繋がり(K2)のみを明瞭に撮像することが可能となる。なお、画線繋がり(K2)が発生していない場合、潜像部(3)は全体が一様な濃度の暗い画像として撮像される。
なお、本発明における平行とは、前述した直交と同様に、厳密に平行である必要がなく、プラスマイナス10度程度であれば、本願発明の効果を得ることが可能である。ただし、潜像部(3)を構成する画線(3a)の配列方向と、同軸落射照明(6)からの照射光が、180度となる撮像条件の場合と、潜像部(3)を構成する画線(3a)の配列方向と、同軸落射照明(6)からの照射光が、170度となる撮像条件の場合においては、180度となる撮像条件の方が、撮像画像において、画線繋がり(K2)のみを明るく、明瞭に撮像することが可能となり、好ましい。よって、本願発明の効果を得ることが可能となるように、前述したプラスマイナス10度程度の範囲内で、適宜調整を行う。
撮像後の画像は、S4において、潜像部(3)の画線繋がり(K2)を検査する場合、前述した判定工程(S4)において、第1の反射画像(P1)と、あらかじめ設定した潜像部(3)の画線切れがあるか否かの基準となるデータである基準潜像画線切れデータとを比較し、その比較結果に基づいて良否判定を行う。
画線繋がり(K2)の検査においても、前述した画像チェンジしているか否かを判定する判定工程(S4)と同様に、パターンマッチングにより判定する方法と、濃度値との比較により判定する方法がある。
図15は、基準画線繋がりデータの画像データである基準画線繋がり画像(P5)を示す図である。基準画線繋がり画像(P5)は、複数の画素から構成される。
基準潜像画線繋がり画像(P5)は、検査対象となる領域内の画線が一本一本明瞭であり、画線切れを検査可能な画像であれば、前述した潜像部(3)が視認可能か否かをする基準潜像画像(P2)と同じ画像を用いても良いし、異なる画像を用いることも可能である。
このように、照射方向設定工程(S1)において、潜像部(3)が暗く撮像される、画線(3a)と同軸落射照明(6)の幅方向が平行する撮像条件に設定することで、潜像部(3)及び背景部(4)が明瞭にチェンジしているか否かについても、判定を行うことが可能となる。
照射方向設定において、画線切れを検査する場合は、同軸落射照明からの照射光が直交となるように設定し、画線繋がりを検査する場合は、平行となるように撮像条件をそれぞれ設定したが、画線切れと画線繋がりを両方検査する場合は、初めに、直交(又は平行)に設定し、画線切れ(又は画線繋がり)を検査したのち、次に、平行(又は直交)に設定し、画線繋がり(画線切れ)を検査する。このように、直交と平行に順次、画線の配列方向と照射光を設定することで、画線切れと画線繋がりの、いずれも検査をすることが、可能となる。
なお、潜像部(3)を構成する光輝性画線の画線切れの検査方法について説明したが、照射方向設定工程(S1)において、背景部(4)が暗く撮像される、画線(4a)と同軸落射照明(6)の幅方向が平行する撮像条件に設定することで、背景部(4)を構成する光輝性画線の画線切れを検査することが可能である。潜像部(3)に加え、背景部(4)を構成する光輝性画線の画線切れについても検査を行うことで、より潜像部(3)を鮮明に視認することが可能な印刷模様(2)か否かを、検査することが可能となる。
また、前述した印刷模様(2)は、潜像部(3)と背景部(4)の二つの領域から構成されていたが、本発明の検査方法を用いて、図16に示すように、一つの領域、つまり、印刷模様(2)を構成する光輝性画線の配列方向を一方向とした構成においても、検査をすることが可能である。
さらには、図17に示すように、三つ以上の領域から構成され、各領域が互いに異なる配列方向に、印刷画線が複数配列された光輝性画線からなる印刷模様(2)についても、検査することが可能である。
例えば、図17(a)の印刷模様(2)は、2−1から2−8に示す八つの領域から構成され、各領域は、互いに異なる配列方向に光輝性画線が複数配列されて成る。図17(a)の印刷模様(2)を傾けて観察した場合、領域ごとに、光輝性画線の配列方向が異なっているため、各領域を形成する画線の反射光量に差が生じる。よって、印刷模様(2)は、領域(2−1)から、領域(2−8)と時計回りの方向に向かうに従い、色彩又は明暗が徐々に変化した模様として視認される。
なお、図17(a)の印刷模様(2)の構成についての詳細は、本出願人が先に出願している特許第4395586号「偽造防止印刷物」に記載されているので、省略する。
図17(a)の印刷模様(2)を検査する場合、印刷模様(2)を構成する全ての領域に対して、光輝性画線の検査項目に対応して、照射方向設定工程(S1)において、領域ごとに撮像条件を、領域を構成する光輝性画線の配列方向と、同軸落射照明からの照射光が直交又は平行になるように設定する。
具体的には、光輝性画線の検査項目を、画線繋がり(K2)の検査とした場合、照射方向設定工程(S1)において、八つの領域のうち、初めに検査を行う領域を適宜設定したのち、検査を行う領域における光輝性画線の配列方向と、同軸落射照明からのライン状の照射光が、平行となるように撮像条件を設定する。以下、S2からS4については、前述した手順と同様に行う。その後、残りの七つの領域についても、順次S1からS4を行う。
その際、用いる検査装置(M)における搬送部(7)は、図17(b)に示すように、矢印方向に回転機能を有するステージ(7a)をさらに設けることが、好ましい。ステージ(7a)を設けることで、印刷模様(2)における検査対象となる領域内の画線の配列方向に併せて、ステージ(7a)を回転させることで、所望の領域を簡易に撮像することが可能となる。
判定工程(S4)においては、領域ごとに設定した撮像条件により取得した、領域ごとの反射画像をもとに、図17(a)に示す、八つの領域(2−1、2−2、・・・、2−7及び2−8)が、所定の観察角度において、それぞれ視認可能か否かを判定する。
図18は、図17に示した印刷模様(2)を構成する八つの領域のうち、三つの領域(2−1、2−7及び2−8)を抽出して示す模式図である。図18(a)に示すように、光輝性画線は、領域(2−1)内においてはX3の方向に、領域(2−7)内においてはX4の方向、領域(2−8)内においてはX5の方向に、それぞれ複数配列されて成る。
図18(a)に示す、各領域(2−1、2−7、2−8)が、いずれも印刷不良が無い場合、印刷模様(2)を、各領域(2−1、2−7、2−8)を構成する光輝性画線の配列方向と同じ方向となる観察角度からそれぞれ観察すると、その領域のみが明るく視認され、他の領域は暗く視認されることで、明暗の差により、一つの領域のみが肉眼で視認可能となる。よって、印刷模様(2)は観察角度の変化により、明暗が変化して視認される。
そのことから、印刷模様(2)を構成する領域ごとの反射画像をもとに、各領域が所定の観察角度において、それぞれ視認可能か否かを判定することで、印刷模様(2)が、観察角度の変化により色彩又は明暗が変化しているか否かを、置き換えて良否判定することが、可能となる。
置き換えて判定するとは、複数の領域から成る印刷模様(2)において、領域ごとの反射画像をもとに各領域を判定した結果、全ての領域が印刷不良の無い領域であり、各領域が、領域を構成する画線の配列方向に対応した所定の観察角度において、それぞれ視認可能であると判定した場合、印刷模様(2)は、観察角度の変化により色彩又は明暗が変化していると判定することである。
従来、異なる配列方向の光輝性画線が配置された印刷模様(2)の良否判定は、作業者が、印刷模様(2)に対する観察角度を変化させながら、領域ごとに視認可能か否かを目視により判定していた。そのため、作業者が見落とすという問題が発生していたが、本発明の方法により、印刷模様(2)が複数の領域から構成されている場合でも、領域ごとの反射画像をもとに、印刷模様(2)が変化しているか否かの判定を行うことが可能となる。