JP6046046B2 - 固体シンチレータおよびそれを用いた電子線検出器 - Google Patents

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Description

本発明は、固体シンチレータおよびそれを用いた電子線検出器に関する。
電子線検出器は、電子銃から試料表面に照射された電子線により、試料表面から放出された二次電子を検出するものである。電子線検出器は、たとえば、走査型電子顕微鏡(SEM)等を構成する二次電子検出器(SED)として用いられている。SEMによれば、試料の表面状態を画像で認識することが可能である。
二次電子検出器は、入射された二次電子を可視光、紫外光等に変換して発光するシンチレータと、シンチレータから発光された光を電気エネルギーに変換する光電子増倍管とを具備する。
従来、シンチレータの材質としては、特許文献1(特開2001−243904号公報)の段落[0031]に記載されるように単結晶YAGが知られている。また、特許文献2(特開2009−99468号公報)には、ZnO等の蛍光体粉末と接着剤との混合物を透明基板等の上に塗布、乾燥して形成した蛍光体層が記載されている。
特開2001−243904号公報 特開2009−99468号公報
しかしながら、単結晶YAGには、加工が困難であることから加工コストが高いという課題があった。また、蛍光体粉末と接着剤を混合して形成する蛍光体層には、透明基板等の上に均一に蛍光体を含む混合物を塗布しなければならないため製造性が悪い上、蛍光体粉末の脱粒や接着剤の劣化等が生じて耐久性が低いという課題があった。さらに、蛍光体粉末と接着剤を混合して形成する蛍光体層には、長時間使用した場合に、樹脂に内包されていたガスが樹脂の外部に放出されるという課題もあった。
このように、従来のシンチレータ、特にSEM装置用のシンチレータは、製造性が悪い、耐久性が低いという課題があった。
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、製造性がよく、耐久性が高い固体シンチレータ、およびそれを用いた電子線検出器を提供することを目的とする。
本発明の固体シンチレータは、上記課題を解決するためのものであり、希土類酸化物焼結体からなる固体シンチレータにおいて、この固体シンチレータの光出力が最大値からこの最大値の1/eになるまでに要する時間である残光時間が、200ns以下であることを特徴とする。
前記希土類酸化物焼結体は、下記一般式(1)
[化1]
Ln:Ce (1)
(式中、Lnは、Y、GdおよびLuから選ばれる1種以上の元素、Xは、Si、AlおよびBから選ばれる1種以上の元素であり、a、bおよびcは、1≦a≦5、0.9≦b≦6、2.5≦c≦13を満たす。)
で表される組成を有することが好ましい。
前記希土類酸化物焼結体は、下記一般式(2)
[化2]
・βSiO:Ce (2)
(式中、βは、0.95<β<1.05を満たす。)
で表される組成を有することが好ましい。
前記希土類酸化物焼結体は、下記一般式(3)
[化3]
α・βAl:Ce (3)
(式中、αおよびβは、1.45<α<1.55、2.45<β<2.55を満たす。)
で表される組成を有することが好ましい。
前記希土類酸化物焼結体は、下記一般式(4)
[化4]
α・βAl:Ce (4)
(式中、αおよびβは、0.45<α<0.55、0.45<β<0.55を満たす。)
で表される組成を有することが好ましい。
前記希土類酸化物焼結体は、下記一般式(5)
[化5]
α・βAl:Ce,Pr (5)
(式中、αおよびβは、0.45<α<0.55、0.45<β<0.55を満たす。)
で表される組成を有することが好ましい。
前記希土類酸化物焼結体は、下記一般式(6)
[化6]
0.8Gd・0.2Y・βSiO:Ce (6)
(式中、βは、0.95<β<1.05を満たす。)
で表される組成を有することが好ましい。
前記希土類酸化物焼結体は、平均結晶粒径が1〜20μmであることが好ましい。
前記希土類酸化物焼結体は、相対密度が99%以上であることが好ましい。
前記固体シンチレータは、光を光電子増倍管側に出力する出力面の表面粗さRaが、0.3〜10μmであることが好ましい。
本発明の電子線検出器は、上記課題を解決するためのものであり、前記固体シンチレータを用いたことを特徴とする。
前記電子線検出器は、光電子増倍管を具備したことが好ましい。
前記電子線検出器は、SEM装置に用いられることが好ましい。
本発明の固体シンチレータは、短残光特性を示し、製造性がよく、耐久性が高い。
本発明の電子線検出器は、この固体シンチレータを用いるため、信頼性が非常に高い。
本発明に係る固体シンチレータが用いられるSEM装置の概略を説明する図。 本発明に係る固体シンチレータが用いられる二次電子検出部の一例を示す図。 本発明に係る固体シンチレータの一例を示す図。 固体シンチレータの残光時間の測定方法の一例を示す図。
[固体シンチレータ]
本発明の固体シンチレータは、希土類酸化物焼結体からなる。この希土類酸化物焼結体は、希土類酸化物の多結晶体である。すなわち、本発明の固体シンチレータは、希土類酸化物の多結晶体である。
はじめに、本発明の固体シンチレータが用いられる装置について説明する。図1は、本発明に係る固体シンチレータが用いられるSEM装置の概略を説明する図である。図2は、本発明に係る固体シンチレータが用いられる二次電子検出部の一例を示す図である。図3は、本発明に係る固体シンチレータの一例を示す図である。
図1に示されるように、SEM装置(走査型電子顕微鏡装置)1では、電子銃12から放出された電子線19が、集束レンズ13、走査コイル14、および対物レンズ15をこの順番に介した後、測定試料16に照射されるようになっている。測定試料16に電子線19が照射されると、測定試料16の表面から二次電子20が発生する。
測定試料16の近傍には二次電子検出部17が設けられている。この二次電子検出部17は、図2に示されるように、二次電子20を入力面31で受光し、出力面32から光を出射する固体シンチレータ21と、固体シンチレータ21から出射された光を検出する光電子増倍管12とから構成されている。なお、固体シンチレータ21は、図3に示されるように、円柱状になっている。
この二次電子検出部17には、測定試料16に対して+10kV程度の高電圧が付加されている。このため、測定試料16の表面から発生した二次電子20は、高電圧に引き寄せられて二次電子検出部17を構成する固体シンチレータ21の入力面31に衝突し、固体シンチレータ21内に侵入する。固体シンチレータ21は、二次電子20の侵入により発光して出力面32から光を出射し、この出射された光は、光電子増倍管22で検出されて電気信号に変換される。この電気信号が、モニター18に送られることにより、モニター18に測定試料16の二次電子像が表示される。
なお、図2には、二次電子検出部17が、固体シンチレータ21と光電子増倍管22とからなる構成を示した。しかし、二次電子検出部17は、固体シンチレータ21の前にコレクタと呼ばれる補助電極が設けられた構造であってもよいし、固体シンチレータ21と光電子増倍管22との間にライトガイドが設けられた構造であってもよい。
このようなSEM装置1では、測定試料16の表面から発生した二次電子20に基づいて、固体シンチレータ21が発光し、この光が光電子増倍管22で検出される。このため、SEM装置1において鮮明な二次電子像を得るためには、固体シンチレータ21が短時間発光すること、すなわち、固体シンチレータ21が短残光であることが好ましい。SEM装置1では、電子線19が断続的に放出され、測定試料16の表面から二次電子20が断続的に発生するため、固体シンチレータ21が短残光であると、二次電子20による発光を高い頻度で繰り返すことができ、精度の高い画像を得ることができるからである。
また、SEM装置1では、測定試料16や固体シンチレータ21は、1×10−3Pa以下の真空中に維持された試料室内に配置される。真空中でないと二次電子20の検出が正確でなくなるからである。このため、SEM装置1では、固体シンチレータ21の構造や性質が真空中で安定していることが要求される。
一般的に、固体シンチレータ21の材質としては、樹脂中に有機発光物質を溶かした固体シンチレータ、蛍光体粉末を樹脂中に分散させた固体シンチレータ、発光する無機単結晶体からなる固体シンチレータ、発光する無機多結晶体からなる固体シンチレータ等が知られている。これらのうち、樹脂を用いた固体シンチレータは、SEM装置1で長期間使用すると樹脂からガスが発生し、試料室内を真空に保てないため、電子線検出器の測定精度に不具合が生じる。このため、SEM装置1に用いられる固体シンチレータ21としては、ガスを発生しないという観点から、発光する無機単結晶体からなる固体シンチレータ、または発光する無機多結晶体からなる固体シンチレータが好ましい。
また、固体シンチレータ21が、無機単結晶体や無機多結晶体からなる場合、固体シンチレータ21は、原料となる大きな無機単結晶体や無機多結晶体から所定の大きさに切り出し易いこと、すなわち加工性の良いことが好ましい。
この加工性は、一般的に無機単結晶体よりも無機多結晶体のほうが良い。このため、SEM装置1に用いられる固体シンチレータ21としては、無機多結晶体からなる固体シンチレータが最も好ましい。
本発明の固体シンチレータ21は、このような無機多結晶体である希土類酸化物焼結体からなるとともに、短残光の固体シンチレータである。
(希土類酸化物焼結体の組成)
本発明の固体シンチレータ21はを構成する希土類酸化物焼結体は、下記一般式(1)
[化7]
Ln:Ce (1)
(式中、Lnは、Y、GdおよびLuから選ばれる1種以上の元素、Xは、Si、AlおよびBから選ばれる1種以上の元素であり、a、bおよびcは、1≦a≦5、0.9≦b≦6、2.5≦c≦13を満たす。)
で表される組成を有する。この組成を満たす希土類酸化物は焼結体を形成しやすく、製造性が向上するため好ましい。
一般式(1)で表される組成を有する希土類酸化物焼結体は、以下の一般式(2)〜(6)で表される組成を有する希土類酸化物焼結体を含む上位概念である。
希土類酸化物焼結体は、下記一般式(2)
[化8]
・βSiO:Ce (2)
(式中、βは、0.95<β<1.05を満たす。)
で表される組成を有すると、固体シンチレータの残光時間が150ns以下とより短縮されるため好ましい。
希土類酸化物焼結体は、下記一般式(3)
[化9]
α・βAl:Ce (3)
(式中、αおよびβは、1.45<α<1.55、2.45<β<2.55を満たす。)
で表される組成を有すると、固体シンチレータの残光時間が150ns以下とより短縮されるため好ましい。
希土類酸化物焼結体は、下記一般式(4)
[化10]
α・βAl:Ce (4)
(式中、αおよびβは、0.45<α<0.55、0.45<β<0.55を満たす。)
で表される組成を有すると、固体シンチレータの残光時間が150ns以下とより短縮されるため好ましい。
希土類酸化物焼結体は、下記一般式(5)
[化11]
α・βAl:Ce,Pr (5)
(式中、αおよびβは、0.45<α<0.55、0.45<β<0.55を満たす。)
で表される組成を有すると、固体シンチレータの残光時間が150ns以下とより短縮されるため好ましい。
希土類酸化物焼結体は、下記一般式(6)
[化12]
0.8Gd・0.2Y・βSiO:Ce (6)
(式中、βは、0.95<β<1.05を満たす。)
で表される組成を有すると、固体シンチレータの残光時間が150ns以下とより短縮されるため好ましい。
なお、一般式(1)〜(4)および(6)では、賦活剤としてCeを用いた例を示したが、本発明ではCeに代えてまたはCeに加えてPr等の他の希土類元素を賦活剤として用いてもよい。なお、賦活剤として用いられる希土類元素のうちでは、光出力が大きいため、Ceが最も好ましい。
(希土類酸化物焼結体の平均結晶粒径)
本発明の固体シンチレータ21はを構成する希土類酸化物焼結体は、平均結晶粒径が、通常1〜20μm、好ましくは3〜12μmである。
希土類酸化物焼結体の平均結晶粒径が、1〜20μmであると、希土類酸化物焼結体の気孔の最大径を1μm以下に小さくすることができるため、固体シンチレータの光出力が大きくなる。
一方、希土類酸化物焼結体の平均結晶粒径が1μm未満であると、希土類酸化物焼結体中の粒界の割合が大きくなるため、固体シンチレータの光出力が低下する恐れがある。
また、希土類酸化物焼結体の平均結晶粒径が20μmを超えると、粒界の三重点が大きくなり固体シンチレータの強度が低下する恐れがある。このように固体シンチレータの強度が低下すると、固体シンチレータを二次電子検出部17に組み込む際に割れ・カケが発生しやすくなる。
(希土類酸化物焼結体の相対密度)
本発明の固体シンチレータ21はを構成する希土類酸化物焼結体は、相対密度が、通常99%以上、好ましくは99.5〜100%である。
ここで、相対密度とは、(アルキメデス法で測定した希土類酸化物焼結体の密度の実測値/希土類酸化物焼結体の理論密度)×100%=相対密度(%)、により求められる値である。なお、YSiO焼結体の理論密度は4.46g/cm、YAl12焼結体の理論密度は4.56g/cm、YAlO焼結体の理論密度は5.56g/cm、(Gd0.80.2SiO焼結体の理論密度は6.35g/cmとして計算する。
希土類酸化物焼結体の相対密度が、99%未満であると、すなわち、希土類酸化物焼結体中に気孔が多くあると固体シンチレータの発光が気孔で阻害されて光出力が低下する恐れがある。
(固体シンチレータの出力面の表面粗さ)
本発明の固体シンチレータ21は、光を光電子増倍管22側に出力する出力面32の表面粗さRaが、0.3〜10μmである。
固体シンチレータ21の出力面32の表面粗さRaが、0.3〜10μmであると、固体シンチレータ21からの光出力が光電子増倍管22に効率よく照射されるため好ましい。
(固体シンチレータの残光時間)
本発明の固体シンチレータは、固体シンチレータの光出力が最大値からその1/eになるまでに要する時間である残光時間(以下、単に「残光時間」という。)が、200ns(nanosecond)以下、好ましくは150ns以下である。
固体シンチレータの残光時間の測定方法について説明する。図4は、固体シンチレータの残光時間の測定方法の一例を示す図である。
図4に示されるように、固体シンチレータの残光時間の測定に用いられる残光時間測定装置5は、測定試料としての固体シンチレータ21にレーザ光41を照射するNd:YAGパルスレーザ発振器13と、レーザ光41を受光して固体シンチレータ21が照射した光42を集光する集光レンズ24(24a、24b)と、集光レンズ24で集光された光を送る光ファイバ25と、光ファイバ25から送られた光を分光処理する分光器26と、分光器26で分光された蛍光スペクトルを検出するICCD(Intensified Charge Coupled Device)27と、レーザ光41の照射から光42の検出までの時間を変化させるパルスジェネレータ28と、ICCD27で検出された蛍光スペクトルを解析するパソコン19とを備える。
固体シンチレータの残光時間の測定方法は、以下のとおりである。
はじめに、固体シンチレータとして平面を有する測定試料(希土類酸化物焼結体)21を用意する。次に、Nd:YAGパルスレーザ器23から、ピーク波長266nm、パルス長14ns、繰り返し周波数10Hzのレーザ光41を、測定試料21の平面に対して45°の角度で照射する。レーザ光41を受光することにより測定試料21から照射された光42は、測定試料21の平面の正面に配置された集光レンズ24(24a、24b)で集光され、光ファイバ25を経由して分光器26に送られる。分光器26に送られた光42は、分光されて蛍光スペクトルを生成する。得られた蛍光スペクトルは、ICCD27で検出される。
なお、レーザ光41の照射から光42の検出までの時間を、パルスジェネレータ(10Hz)28を用いて変化させ、蛍光を励起パルスと同期することで、蛍光スペクトルの時間変化が測定される。この蛍光強度の時間変化の結果は、パソコン29に送られる。パソコン29では、固体シンチレータ21の光出力が最大値からこの最大値の1/eになるまでに要する時間を測定し、この時間が残光時間として算出される。
(固体シンチレータの製造方法)
次に、固体シンチレータの製造方法について説明する。本発明の固体シンチレータの製造方法は特に限定されるものではないが、効率よく得るための方法として以下の方法が挙げられる。
はじめに、原料として、希土類酸化物蛍光体粉末を用意する。例えば、希土類酸化物焼結体としてYSiO:Ce焼結体を製造する場合は、YSiO:Ce粉末を用意する。
希土類酸化物蛍光体粉末の平均粒径は、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜8μmの範囲内である。希土類酸化物蛍光体粉末の平均粒径が0.5〜10μmの範囲内にあると、得られる希土類酸化物焼結体の平均結晶粒径を1〜20μmの範囲内に制御し易い。
ここで、希土類酸化物蛍光体粉末の平均粒径とは、電気抵抗法(Electric resistance method)により算出される値である。
また、希土類酸化物蛍光体粉末には、必要により、焼結助剤を添加してもよい。焼結助剤としては、たとえば、LiF、LiGeF、NaBF、BaF、AlF等のフッ化物、SiO、B等の酸化物を用いることができる。
次に、成型型に希土類酸化物蛍光体を充填し、焼結工程を行う。焼結工程はHIP(熱間静水圧プレス)処理であることが好ましい。また、HIP処理の処理条件は、1200〜1900℃、かつ500〜1500atmであることが好ましい。HIP処理であれば、難焼結材である希土類酸化物蛍光体粉末を用いても、焼結助剤を用いずに相対密度99%以上の希土類酸化物焼結体を得ることができる。また、HIP処理前にCIP成形などの成形工程を行ってもよい。
なお、焼結工程においては、得られる希土類酸化物焼結体の大きさを、最終製品であるシンチレータよりも大きな焼結体インゴットとなるようにすると、焼結体インゴットの切断加工により個々のシンチレータを切り出すことができることから量産性が高いため好ましい。
次に、得られた希土類酸化物焼結体に900〜1400℃の熱処理を行う。この熱処理により、平均結晶粒径の調整や、量産化のために切断加工したときの加工歪の緩和を行うことができる。熱処理時間は5〜15時間が好ましい。
得られた希土類酸化物焼結体は、必要により表面研磨加工を行うことにより、固体シンチレータとなる。
上記固体シンチレータの製造方法によれば、平均結晶粒径や相対密度を調製した固体シンチレータを効率よく得ることができる。また、HIP処理を用いることにより、希土類酸化物焼結体の大型インゴットからの切り出し加工が可能になり、生産性の効率化も図ることができる。
固体シンチレータ21の形状としては、特に限定されず、図3に示したような円柱状の他、直方体状等の様々な形状にすることができる。
また、固体シンチレータ21のサイズとしては、固体シンチレータ21が円柱状の場合は、たとえば、厚さ0.1〜2.0mm、直径5〜20mmとする。また、固体シンチレータ21が直方体状の場合は、たとえば、厚さ0.1〜2.0mm、一片の長さ5〜20mmとする。
固体シンチレータ21の厚さが0.1mm未満であると、固体シンチレータ21の強度が不足するおそれがある。一方、固体シンチレータ21の厚さが2.0mmを超えると、発光特性が厚さ2.0mmの場合に比べて向上しない上、光の透過性が悪くなり光出力が低下する。
本発明の固体シンチレータ21は、特定の希土類酸化物焼結体からなるため、材料自体の強度が高い。また、本発明の固体シンチレータ21は、希土類酸化物焼結体の大型インゴットからの切り出し加工が容易であるため、厚さ0.1〜2.0mm程度の薄いものでも容易に作製することができる。
(本発明の固体シンチレータの効果)
本発明の固体シンチレータは、光出力が最大値からこの最大値の1/eになるまでの残光時間が200ns以下と短残光であり、優れた特性を示す。
また、本発明の固体シンチレータは、加工性が良いので製造性も良好である。
さらに、本発明の固体シンチレータは、樹脂との混合物ではないことから、使用中にガスが発生したり樹脂が劣化したりすることがないため、シンチレータとしての信頼性が非常に高い。
また、本発明の固体シンチレータは、平均結晶粒径や相対密度を調整することにより、希土類酸化物焼結体の強度が高いため、取り扱い性をも向上させることができる。
[電子線検出器]
本発明の電子線検出器は、本発明の固体シンチレータを用いたものである。本発明の電子線検出器は、たとえば、図2に示される二次電子検出部17である。
図2に示されるように、電子線検出器としての二次電子検出部17は、固体シンチレータ21と、固体シンチレータ21から出射された光を検出する光電子増倍管12とから構成されている。すなわち、電子線検出器としての二次電子検出部17は、光電子増倍管12を具備している。
本発明の電子線検出器としての二次電子検出部17は、図1に示されるように、たとえば、SEM装置1に用いられる。
(本発明の電子線検出器の効果)
本発明の電子線検出器は、本発明の固体シンチレータ21を用いるため、電子線検出器としての信頼性が非常に高い。
すなわち、本発明の電子線検出器は、本発明の固体シンチレータ21の構成部材として樹脂を用いないため、真空下においても固体シンチレータ21からガスが発生しない。このため、本発明の電子線検出器は、試料室内を真空にしなければならないSEM装置1の構成部品として特に好適である。なお、本発明の電子線検出器はSEM装置1に限らず、電子線を使う検出器として幅広く用いることができる。
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
(実施例1〜3)
平均粒径2.0μmのYSiO:Ce蛍光体粉末を原料粉末として用意した。原料粉末を金属カプセルに充填し、1500℃、1000気圧の条件でHIP処理を行い、直径10mm×厚さ3mmのYSiO焼結体インゴットを製造した。
得られた焼結体インゴットから、厚さ1.0mmの焼結体、厚さ0.5mmの焼結体、および厚さ0.3mmの焼結体を、それぞれ切り出した。厚さ1.0mmの焼結体には大気中1100℃で8時間の熱処理を行った。また、厚さ0.5mmの焼結体には大気中1200℃で10時間の熱処理を行った。さらに、厚さ0.3mmの焼結体には大気中1300℃で9時間の熱処理を行った。
熱処理後の焼結体の表面を表面粗さRa1μm以下になるように研磨加工して固体シンチレータとした。得られた固体シンチレータのうち、厚さ1.0mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例1、厚さ0.5mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例2、厚さ0.3mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例3とした。
表1に、製造条件を示す。以下の実施例、比較例の製造条件についても表1に示す。
Figure 0006046046
(比較例1)
平均粒径3.0μmのYSiO:Ce蛍光体粉末とシリコーン樹脂とを混合し、硬化させて、YSiO:Ce蛍光体粉末95体積%とシリコーン樹脂硬化物5体積%とからなり、厚さ1.0mm×直径10mmの樹脂混合型シンチレータを調製し、比較例1とした。
(実施例4〜6)
平均粒径4.0μmのYAl12蛍光体粉末を原料粉末として用意した。原料粉末を金属カプセルに充填し、1550℃、1100気圧の条件でHIP処理を行い、直径10mm×厚さ3mmのYAl12焼結体インゴットを製造した。
得られた焼結体インゴットから、厚さ1.0mmの焼結体、厚さ0.5mmの焼結体、および厚さ0.3mmの焼結体を、それぞれ切り出した。厚さ1.0mmの焼結体には大気中1000℃で12時間の熱処理を行った。また、厚さ0.5mmの焼結体には大気中1100℃で10時間の熱処理を行った。また、厚さ0.3mmの焼結体には大気中1200℃で9時間の熱処理を行った。
熱処理後の焼結体の表面を表面粗さRa1μm以下になるように研磨加工して固体シンチレータとした。得られた固体シンチレータのうち、厚さ1.0mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例4、厚さ0.5mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例5、厚さ0.3mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例6とした。
(比較例2)
平均粒径5.0μmのYAl12:Ce蛍光体粉末とエポキシ樹脂とを混合し、硬化させて、YAl12:Ce蛍光体粉末95体積%とエポキシ樹脂硬化物5体積%とからなり、厚さ1.0mm×直径10mmの樹脂混合型シンチレータを調製し、比較例2とした。
(実施例7〜9)
平均粒径6.2μmのYAlO:Ce,Pr蛍光体粉末を原料粉末として用意した。原料粉末を金属カプセルに充填し、1650℃、1500気圧の条件でHIP処理を行い、直径10mm×厚さ3mmのYAlO:Ce,Pr焼結体インゴットを製造した。
得られた焼結体インゴットから、厚さ1.0mmの焼結体、厚さ0.5mmの焼結体、および厚さ0.3mmの焼結体を、それぞれを切り出した。厚さ1.0mmの焼結体には大気中1300℃で9時間の熱処理を行った。また、厚さ0.5mmの焼結体には大気中1200℃で8時間の熱処理を行った。また、厚さ0.3mmの焼結体には大気中1100℃で7時間の熱処理を行った。
熱処理後の焼結体の表面を表面粗さRa1μm以下になるように研磨加工して固体シンチレータとした。得られた固体シンチレータのうち、厚さ1.0mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例7、厚さ0.5mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例8、厚さ0.3mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例9とした。
(比較例3)
平均粒径7.0μmのYAlO:Ce,Pr蛍光体粉末とポリカーボネートの原料とを混合し、硬化させて、YAlO:Ce,Pr蛍光体粉末95体積%とポリカーボネート5体積%とからなり、厚さ1.0mm×直径10mmの樹脂混合型シンチレータを調製し、比較例3とした。
(実施例10〜12)
平均粒径3.5μmのYAlO:Ce蛍光体粉末を原料粉末として用意した。原料粉末を金属カプセルに充填し、1850℃、1300気圧の条件でHIP処理を行い、直径10mm×厚さ3mmのYAlO:Ce焼結体インゴットを製造した。
得られた焼結体インゴットから、厚さ1.0mmの焼結体、厚さ0.5mmの焼結体、および厚さ0.3mmの焼結体を、それぞれを切り出した。厚さ1.0mmの焼結体には大気中1500℃で7時間の熱処理を行った。また、厚さ0.5mmの焼結体には大気中1400℃で6時間の熱処理を行った。また、厚さ0.3mmの焼結体には大気中1300℃で5時間の熱処理を行った。
熱処理後の焼結体の表面を表面粗さRa1μm以下になるように研磨加工して固体シンチレータとした。得られた固体シンチレータのうち、厚さ1.0mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例10、厚さ0.5mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例11、厚さ0.3mm×直径10mmの固体シンチレータを実施例12とした。
(比較例4)
平均粒径4.0μmのYAlO:Ce蛍光体粉末とメタクリル樹脂の原料とを混合し、硬化させて、YAlO:Ce蛍光体粉末95体積%とメタクリル樹脂5体積%とからなり、厚さ1.0mm×直径10mmの樹脂混合型シンチレータを調製し、比較例4とした。
(実施例13〜20)
平均粒径5.0μmの(Gd0.80.2SiO:Ce蛍光体粉末を原料粉末として用意した。原料粉末を金属カプセルに充填し、1300℃、1200気圧の条件でHIP処理を行い、直径10mm×厚さ3mmの(Gd0.80.2SiO:Ce焼結体インゴットを製造した。
得られた焼結体インゴットから、厚さ0.3mmの焼結体を切り出した。切り出した焼結体には大気中1100℃で15時間の熱処理を行った。
熱処理後の焼結体の表面を表面粗さRaが所定の数値になるように研磨加工して固体シンチレータとした。得られた固体シンチレータのうち、表面粗さRaが20μmの固体シンチレータを実施例13、表面粗さRaが10μmの固体シンチレータを実施例14、表面粗さRaが5μmの固体シンチレータを実施例15、表面粗さRaが2μmの固体シンチレータを実施例16、表面粗さRaが1μmの固体シンチレータを実施例17、表面粗さRaが0.5μmの固体シンチレータを実施例18、表面粗さRaが0.3μmの固体シンチレータを実施例19、表面粗さRaが0.1μmの固体シンチレータを実施例20とした。
実施例1〜20の固体シンチレータについて、平均結晶粒径、相対密度、光出力、および残光時間を測定した。
平均結晶粒径の測定方法は以下のとおりである。はじめに、焼結体の任意の断面において単位面積100μm×100μmの拡大写真を3か所撮り、それぞれの拡大写真に線インターセプト法を用いて長さ100μmの直線を引き、この直線上に存在する結晶の個数をカウントした。この3か所の個数の平均値を平均結晶粒径とした。
相対密度の測定方法は以下のとおりである。はじめに、アルキメデス法により焼結体の実測密度を求めた。次に、焼結体の理論密度を文献等を用いて決定した。たとえば、YSiO焼結体の理論密度を4.46g/cm、YAl12焼結体の理論密度を4.56g/cmとした。さらに、(焼結体の実測密度/焼結体の理論密度)×100%の式を用いて焼結体の相対密度を算出した。
光出力の測定方法は以下のとおりである。はじめに、固体シンチレータに管電圧40kVpのX線を曝射して、固体シンチレータの出力面からの固体シンチレータの光出力を測定した。各実施例、比較例の光出力は、実施例1の光出力を100としたときの比として算出した。
残光時間の測定方法は以下のとおりである。はじめに、図4に示される残光時間測定装置5を用い、Nd:YAGパルスレーザ発振器23から波長266nm、パルス長14ns(ナノ秒)、10Hzのレーザ光41を固体シンチレータ21に照射した。次に、固体シンチレータ21の光出力が最大値からこの最大値の1/eになるまでに要する時間を測定し、この時間を残光時間とした。
表2に、固体シンチレータの平均結晶粒径、相対密度、光出力、および残光時間、ならびに、固体シンチレータの出力面の表面粗さRaの測定結果を示す。
Figure 0006046046
表から分かる通り、実施例にかかる残光時間はいずれも200ns以下、さらには150ns以下と、従来の樹脂混合型と同等の特性を示した。
以上のように実施例にかかる固体シンチレータは光出力が同等であり、その上でシンチレータの構成部材として樹脂を使わないため、使用中のガスの発生をなくすことができる。そのため、長期信頼性が高く、取り扱い性のよい固体シンチレータを提供することができる。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
1 SEM装置
5 残光時間測定装置
12 電子銃
13 集束レンズ
14 走査コイル
15 対物レンズ
16 測定試料
17 二次電子検出部
18 モニター
19 電子線
20 二次電子
21 固体シンチレータ
22 光電子増倍管
23 Nd:YAGパルスレーザ発振器
24、24a、24b 集光レンズ
25 光ファイバ
26 分光器
27 ICCD
28 パルスジェネレータ
29 パソコン
31 入力面
32 出力面
41 レーザ光
42 光

Claims (10)

  1. 希土類酸化物焼結体からなる固体シンチレータにおいて、上記希土類酸化物焼結体は、下記一般式(2)
    [化2]
    ・β SiO :Ce (2)
    (式中、β は、0.95<β <1.05を満たす。)で表される組成を有し、この固体シンチレータの光出力が最大値からこの最大値の1/eになるまでに要する時間である残光時間が、200ns以下であることを特徴とする固体シンチレータ。
  2. 希土類酸化物焼結体からなる固体シンチレータにおいて、上記希土類酸化物焼結体は、下記一般式(4)
    [化4]
    α・βAl:Ce (4)
    (式中、αおよびβは、0.45<α<0.55、0.45<β<0.55を満たす。)で表される組成を有し、この固体シンチレータの光出力が最大値からこの最大値の1/eになるまでに要する時間である残光時間が、200ns以下であることを特徴とする固体シンチレータ。
  3. 希土類酸化物焼結体からなる固体シンチレータにおいて、上前記希土類酸化物焼結体は、下記一般式(5)
    [化5]
    α・βAl:Ce,Pr (5)
    (式中、αおよびβは、0.45<α<0.55、0.45<β<0.55を満たす。)で表される組成を有し、この固体シンチレータの光出力が最大値からこの最大値の1/eになるまでに要する時間である残光時間が、200ns以下であることを特徴とする固体シンチレータ。
  4. 希土類酸化物焼結体からなる固体シンチレータにおいて、上前記希土類酸化物焼結体は、下記一般式(6)
    [化6]
    0.8Gd・0.2Y・βSiO:Ce (6)
    (式中、βは、0.95<β<1.05を満たす。)
    で表される組成を有し、この固体シンチレータの光出力が最大値からこの最大値の1/eになるまでに要する時間である残光時間が、200ns以下であることを特徴とする固体シンチレータ。
  5. 前記希土類酸化物焼結体は、平均結晶粒径が1〜20μmであることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の固体シンチレータ。
  6. 前記希土類酸化物焼結体は、相対密度が99%以上であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の固体シンチレータ。
  7. 光を光電子増倍管側に出力する出力面の表面粗さRaが、0.3〜10μmであることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の固体シンチレータ。
  8. 請求項1ないしのいずれか1項に記載の固体シンチレータを用いたことを特徴とする電子線検出器。
  9. 光電子増倍管を具備したことを特徴とする請求項記載の電子線検出器。
  10. SEM装置に用いられることを特徴とする請求項ないしのいずれか1項に記載の電子線検出器。
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