近年における電子機器装置や機械装置の高機能化、薄型化、小型化の進展は、当該装置を構成する電子部品、機構部品などの基幹部品の高機能化、高密度化、薄型化、小型化に関する技術の進歩が支えている。
一般に、高密度でかつ小型の部品の製造方法として、平板状基板を用いて多層構成にしたり、基板表面に2次元の微細加工を施す方式や多層構成において3次元の微細加工を施す方式が、汎用されている。また、部品製造過程においては、基板面の洗浄、酸化被膜の除去、化学的エッチングやメッキなどの液体表面処理、等が不可欠な工程として採用されている。
部品の高機能化、高密度化、薄型化、小型化は、今後もますます進展していくことが予想される。このため、液体表面処理の技術においても、処理量のバラツキや偏りをなくすことが求められている。
液体表面処理は、処理基板と処理液とを接触させる方式により、浸漬方式と噴霧方式とに大別される。浸漬方式は、処理基板全体を処理液中に浸漬して処理する方式であり、噴霧方式は、処理液を処理基板に噴霧して処理する方式である。
処理基板全面において均一に液体表面処理するためには、処理基板と処理液とが均一に接触することが前提条件であった。浸漬方式では、原理的にこの条件は満足されることになるが、噴霧方式では、処理液を処理基板に噴霧して処理するために、噴霧ノズルの構造やノズル配置、時間あたりの噴霧量などを最適化することが必要である。
液体表面処理は、固体表面における液体との接触による化学反応である。処理基板の表面近傍では、処理基板面と処理液との接触によって当該処理液の構成成分が消費されて濃度が低下し、一方、処理液の変性物資や反応生成物の濃度は増大する。この結果、処理液組成が変化する。従って、反応速度を一定に維持するためには、処理液の攪拌と拡散によって、処理基板表面に対して新液が絶えず供給される必要がある。即ち、液体表面処理反応の制御のためには、処理液温度、処理時間、処理液組成、処理液量を適切に制御することに加えて、処理液を効果的に拡散することが重要である。
処理液の拡散を効率化する手段として、浸漬方式においては、空気を反応槽に導入するエアレーションで処理液を攪拌することや、処理基板を支持体ごと機械的に揺動させることが知られている。一方、噴霧方式においては、処理液が連続的にノズルから供給されるため、基板上では順次に処理液の交換が起こり、噴霧自体が攪拌効果を有すると言える。
また、液体表面処理においては、処理基板を処理液中で保持する機構が不可欠である。浸漬方式では、一般には、支持体としてのクリップで処理基板端部を挟む方式、処理基板を固定する溝などが形成された収納箱を支持体として保持する方式、などが汎用されてきた。
このような支持体を使用する場合、処理基板の支持体への取付操作、及び、処理後の支持体からの取外操作が不可避である。このため、一般に、工業生産装置ではこうした操作が機械化されている。また、工業生産装置では、液体表面処理工程に付随して、前処理工程、後処理工程が実施されるのが常である。従って、各工程間で処理基板を搬送することが必要となる。連続生産する場合は、通常、戻り機構が付与された搬送装置が不可欠となる。
この点に関して、近年、ロールコンベア方式の導入が拡大してきた。これは、進行方向に複数個のロールが平行配置されていて、全体が同期して同方向に回転する力と処理基板と回転ロールとの間の摩擦力とによって、処理基板を一方から他方にロールの回転とともに移動させる方式である。この方式では、ロールコンベアが、処理基板を支持する支持体としての機能を奏すると同時に、当該処理基板を搬送する機能も合わせ持つ。
ロールコンベア方式は、処理基板の取付操作及び取外操作が不要で、装置自体も比較的簡素であるという利点がある。但し、ロールコンベア方式と噴霧方式とを併用する場合には、噴霧位置ごとに処理液供給量の偏りが生じることを抑制するために、例えば処理基板の進行方向および直角方向に複数の噴霧ノズルを分布させることが必要である。また、処理基板の両面を同時処理する場合には、移動する処理基板の上下に、複数の噴霧ノズルが配置される必要がある。
工業生産においては、処理液の管理も重要である。具体的には、処理液の温度管理に加えて、構成成分に関して減少成分の濃度調整、処理液中に蓄積した反応生成物やダストなどの不純物除去、などが重要である。処理液は、循環させて再利用する場合が多い。特に高価な処理液を使用する場合には、経済性の観点から循環させて再利用することが普通に行われている。そのため、処理液をためておく貯槽の設置が必要とされ、貯槽と反応槽との間で処理液が循環される。
現行の浸漬方式や噴霧方式においては、処理基板上での処理量のバラツキや偏りが大きい。その主たる原因は、処理基板上での「反応の場」が均一でないことであると考えられる。
ここで、「反応の場」とは、処理液組成、処理液温度、処理液の流量、処理液の流速、処理液の攪拌や拡散の状況、などで決まる反応環境を意味する。特に、処理基板の近傍における「反応の場」が重要である。この「反応の場」を的確に制御するためには、当該「反応の場」の各要素を計測することが必要であると考えられていた。
浸漬方式の場合、処理基板の表裏において処理液と処理基板との均一接触が確保できるという利点がある。また、処理液組成、処理液温度、処理液量、処理時間等の計測が容易であるという利点もある。
しかしながら、エアレーションや処理基板揺動という項目については、好適な判断指標を設定することが難しく、結果的に、処理基板の全面に亘って攪拌ないし拡散の効果が均一であるか否かを確認することが十分にできていない。実際、工業生産において、均一な表面処理が必ずしも実現できていないのだが、それは、浸漬方式において当該攪拌ないし拡散の効果が十分に調整できていないことに起因している。
一方、噴霧方式の場合、処理基板に絶えず処理液が噴霧され、処理基板上で常に処理液の交換がなされるため、攪拌および拡散は常に十分に行われると考えられる。この方式では、多数の噴霧ノズルを用いて空間的に離れた場所から処理液を噴霧するために、例えばコンピュータシミュレーションを援用する等して、各ノズルからの出射処理液量の最適化及び各ノズルの配置の最適化が図られている。
しかしながら、出射処理液量を真に最適化することは難しく、実際には、処理液の過剰供給下で処理が実施されている場合が多い。結果的に、処理基板に噴霧される処理液の組成等において処理基板の位置毎の相違が生じてしまって、実際、工業生産において、均一な表面処理が必ずしも実現できていない。
処理量のバラツキや偏りのない均一処理を行うことは、素材となる基板の厚みを正確に調整したり、基板上のどの位置でも精密な微細加工を可能にするための前提条件である。
また、反応速度の的確な制御は、薄い加工層を精密に液体表面処理するための必須要件である。
本発明は、以上の知見に基づいて創案されたものである。本発明の目的は、処理量に関するバラツキや偏りが顕著に低減される表面処理装置を提供することである。
本発明は、所定の厚みの板状ないしフィルム状の被処理体の表裏両面に処理液を接触させて表面処理を実施する表面処理装置であって、上面壁と、下面壁と、前記被処理体が導入ないし排出される開口と、を有する反応容器と、前記反応容器の上面壁に設けられ、前記反応容器の内部に向けて処理液を下向きに供給する処理液下向き供給部と、前記反応容器の下面壁に設けられ、前記反応容器の内部に向けて処理液を上向きに供給する処理液上向き供給部と、を備えたことを特徴とする表面処理装置である。
本発明によれば、反応容器内に導入される被処理体に対して、上方からも下方からも処理液を供給することができるため、被処理体の表面(上面)と裏面(下面)とで処理量(処理速度)の均一が図られる。また、被処理体への処理液の供給を連続的に行うことによって、従来の浸漬方式と同様に、被処理体と処理液との均一接触が確保できる一方、従来の噴霧方式と同様に、絶えず新しい処理液が被処理体に供給されるため、付加的に攪拌を実施する必要がない。
また、処理液下向き供給部によって被処理体の表面(上面)に与えられる処理液の供給圧と処理液上向き供給部によって被処理体の裏面(下面)に与えられる処理液の供給圧とのバランスを調整することにより、被処理体を処理液中に浮遊した状態ないしそれに近い状態とすることが可能であり、その場合、反応容器内において被処理体を無接点状態で支持することができ、表裏全面の表面処理が可能となる。
本発明において、処理液下向き供給部の上面壁における開口の位置と、処理液上向き供給部の下面壁における開口の位置とは、鉛直方向に対応していることが好ましい。この場合、被処理体の表面(上面)にかかる処理液の供給圧と被処理体の裏面(下面)にかかる処理液の供給圧とのバランスの調整が容易である。
処理量の均一をより確実にするためには、処理液下向き供給部は、上面壁において、略均等に分布された複数の開口を有していて、処理液上向き供給部も、下面壁において、略均等に分布された複数の開口を有していることが好ましい。この場合には、処理液下向き供給部の上面壁における複数の開口の各位置と、処理液上向き供給部の下面壁における複数の開口の各位置とが、鉛直方向に対応していることが好ましい。また、処理量の均一を更に確実するためには、上面壁において、当該上面壁上の複数の開口を互いに連通させる溝穴が設けられており、下面壁において、当該下面壁上の複数の開口を互いに連通させる溝穴が設けられていることが好ましい。
通常、反応容器の上面壁と下面壁とは、互いに平行であるように構成される。また、処理量(処理速度)の均一のためには、処理液が反応容器内に充満することが好ましく、その観点から、上面壁と下面壁との間の高さが被処理体の所定の厚みの1を超えて50倍以下の範囲であることが好ましく、1を超えて10倍以下の範囲であることが更に好ましい。
反応容器内に供給される処理液は、回収されて循環利用されることが好ましい。処理液は、被処理体の導入用の開口からも排出されるが、下面壁に処理液を排出するための排出溝が形成されていてもよい。
また、反応容器において、被処理体が導入される導入口と、被処理体が排出される排出口とが、直線上に別個に設けられていることが好ましい。この場合、複数の被処理体を順次連続的に処理することが容易である。更には、反応容器よりも全長の長い長尺状の被処理体を連続的に処理することも可能である。
また、反応容器の導入口の近傍には、被処理体を導入口に導入させる導入用搬送装置が設けられていることが好ましい。この場合、被処理体を導入口に導入させることが容易である。
また、反応容器の排出口の近傍には、被処理体の排出口からの排出を支援する排出用搬送装置が設けられていることが好ましい。この場合、被処理体を排出口から排出させることが容易である。
また、本発明は、前記の特徴のいずれかを有する表面処理装置を用いて、所定の厚みの板状ないしフィルム状の被処理体の表裏両面に表面処理を実施する方法であって、前記処理液下向き供給部及び前記処理液上向き供給部の両方から前記反応容器内に処理液を供給し続ける処理液供給工程と、前記処理液供給工程中に、前記導入口から前記被処理体を前記反応容器内に導入する被処理体導入工程と、を備えたことを特徴とする方法である。
本発明によれば、反応容器内に導入される被処理体に対して、上方からも下方からも処理液を供給することができるため、被処理体の表面(上面)と裏面(下面)とで処理量(処理速度)の均一が図られる。また、被処理体への処理液の供給を連続的に行うことによって、従来の浸漬方式と同様に、被処理体と処理液との均一接触が確保できる一方、従来の噴霧方式と同様に、絶えず新しい処理液が被処理体に供給されるため、付加的に攪拌を実施する必要がない。
また、処理液下向き供給部によって被処理体の表面(上面)に与えられる処理液の供給圧と処理液上向き供給部によって被処理体の裏面(下面)に与えられる処理液の供給圧とのバランスを調整することにより、被処理体を処理液中に浮遊した状態ないしそれに近い状態とすることが可能であり、その場合、反応容器内において被処理体を無接点状態で支持することができ、表裏全面の表面処理が可能となる。
以下に、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態の表面処理装置の概略斜視図である。図2は、図1の表面処理装置の概略正面図である。図3は、図2のIII−III線断面図である。図4は、図3のIV−IV線断面図である。図5は、図3のV−V線断面図である。図1乃至図5に示す本実施の形態の表面処理装置100は、所定の厚みの板状ないしフィルム状の被処理体の表裏両面に処理液を接触させて表面処理を実施する装置である。
より具体的には、本実施の形態の表面処理装置100は、0.2mmの厚みの基板の表裏に約18μmの厚みの銅箔が圧着された銅張積層板を被処理体とし、過酸化水素と硫酸とを含むエッチング液を処理液として、表面処理として銅箔の薄箔化処理を実施する装置である。
図1乃至図5に示すように、本実施の形態の表面処理装置100は、金属製の厚板である上板20と、同様に金属製の厚板である台板30とが、一対の細長い金属製の薄板である側方スペーサ40を介してネジ(不図示)で結合されて構成されている。側方スペーサ40の厚みは、0.4mmとなっている。
上板20の下面と、台板30の上面と、一対の側方スペーサ40の各々の内側面と、によって囲まれた直方体状の空間が、反応容器10を構成している。すなわち、上板20の下面が反応容器10の上面壁を構成しており、台板30の上面が反応容器10の下面壁を構成している。反応容器10の高さは、側方スペーサ40の厚みに対応して、0.4mmである。
図1乃至図3に示すように、反応容器10の前後面は開口しており、前面の開口が被処理体が導入される導入口11となっており、後面の開口が被処理体が排出される排出口12となっている。図1乃至図3に示すように、導入口11と排出口12とは、直線上に整列配置されている。反応容器10の長さ(導入口11から排出口12までの長さ)は、本実施の形態では、27cmとなっており、反応容器10の横幅(一対の側方スペーサ40の各々の内側面間の距離)は、25cmとなっている。
図3乃至図5に示すように、上板20には、2つの処理液下向き供給部21、22が形成されており、台板30には、2つの処理液上向き供給部31、32が形成されている。
図3及び図4に示すように、処理液下向き供給部21は、上面壁において、長さ方向に導入口11から10cm(単なる一例である)の位置に、横幅方向に等間隔に(横幅方向に側方スペーサ40の右方内側面から1.5cm、5.5cm、9.5cm、13.5cm、17.5cm、21.5cmの位置に(単なる一例である))整列する6つの開口を有している。当該開口は、鉛直方向に延びる6つのノズル流路21nの下端開口に対応している。6つのノズル流路21nの上端部は、横幅方向に延びる分配流路21dによって接続されている。上板20の上面には、処理液供給管に接続される接続口21cが設けられており、当該接続口21cと分配流路21dとが鉛直方向に延びる注入流路21pによって連通されている。さらに、本実施の形態では、上面壁の6つの開口(6つのノズル流路21nの下端開口)の領域において横幅方向に延びる溝穴21gが設けられている。この溝穴21gは、処理液の圧力を当該溝穴21g内の広い範囲で均一に維持することで被処理体をバランスよく浮遊させるために設けられている。溝穴21gの好適なサイズは、溝幅3〜7mm(例えば5mm)、深さ0.3〜1.0mm(例えば0.5mm)である。
そして、処理液上向き供給部31は、下面壁において、長さ方向に導入口11から10cm(単なる一例である)の位置に、横幅方向に等間隔に整列する6つの開口を有している。当該開口は、鉛直方向に延びる6つのノズル流路31nの上端開口に対応しており、また、処理液下向き供給部21の6つの開口とも鉛直方向に対応している(向き合っている)。6つのノズル流路31nの下端部は、横幅方向に延びる分配流路31dによって接続されている。台板30の下面には、処理液供給管に接続される接続口31cが設けられており、当該接続口31cと分配流路31dとが鉛直方向に延びる注入流路31pによって連通されている。さらに、本実施の形態では、下面壁の6つの開口(6つのノズル流路31nの上端開口)の領域において横幅方向に延びる溝穴31gが設けられている。この溝穴31gも、処理液の圧力を当該溝穴31g内の広い範囲で均一に維持することで被処理体をバランスよく浮遊させるために設けられている。溝穴31gの好適なサイズは、溝幅3〜7mm(例えば5mm)、深さ0.3〜1.0mm(例えば0.5mm)である。
略同様に、図3及び図5に示すように、処理液下向き供給部22は、上面壁において、長さ方向に導入口11から17cm(単なる一例である)の位置に、横幅方向に等間隔に(横幅方向に側方スペーサ40の右方内側面から3.5cm、7.5cm、11.5cm、15.5cm、19.5cm、23.5cmの位置に(単なる一例である))整列する6つの開口を有している。当該開口は、鉛直方向に延びる6つのノズル流路22nの下端開口に対応している。6つのノズル流路22nの上端部は、横幅方向に延びる分配流路22dによって接続されている。上板20の上面には、処理液供給管に接続される接続口22cが設けられており、当該接続口22cと分配流路22dとが鉛直方向に延びる注入流路22pによって連通されている。さらに、本実施の形態では、上面壁の6つの開口(6つのノズル流路22nの下端開口)の領域において横幅方向に延びる溝穴22gが設けられている。この溝穴22gも、処理液の圧力を当該溝穴22g内の広い範囲で均一に維持することで被処理体をバランスよく浮遊させるために設けられている。溝穴22gの好適なサイズは、溝幅3〜7mm(例えば5mm)、深さ0.3〜1.0mm(例えば0.5mm)である。
そして、処理液上向き供給部32は、下面壁において、長さ方向に導入口11から17cm(単なる一例である)の位置に、横幅方向に等間隔に整列する6つの開口を有している。当該開口は、鉛直方向に延びる6つのノズル流路32nの上端開口に対応しており、また、処理液下向き供給部22の6つの開口とも鉛直方向に対応している(向き合っている)。6つのノズル流路32nの下端部は、横幅方向に延びる分配流路32dによって接続されている。台板30の下面には、処理液供給管に接続される接続口32cが設けられており、当該接続口32cと分配流路32dとが鉛直方向に延びる注入流路32pによって連通されている。さらに、本実施の形態では、下面壁の6つの開口(6つのノズル流路32nの上端開口)の領域において横幅方向に延びる溝穴32gが設けられている。この溝穴32gも、処理液の圧力を当該溝穴32g内の広い範囲で均一に維持することで被処理体をバランスよく浮遊させるために設けられている。溝穴32gの好適なサイズは、溝幅3〜7mm(例えば5mm)、深さ0.3〜1.0mm(例えば0.5mm)である。
ノズル流路21n、22n、31n、32nの各々は、直径1.5mmであり(単なる一例である)、分配流路21d、22d、31d、32dの各々は、直径10mmであり(単なる一例である)、注入流路21p、22p、31p、32pの各々は、直径10mmである(単なる一例である)。
なお、本実施の形態では、横幅方向について、処理液下向き供給部21の6つの開口の位置と処理液下向き供給部22の6つの開口の位置とが、互いに千鳥状となっているが、互いに同一であってもよい。同様に、横幅方向について、処理液上向き供給部31の6つの開口の位置と処理液上向き供給部32の6つの開口の位置とが、互いに千鳥状となっているが、互いに同一であってもよい。
また、図3に示すように、本実施の形態では、下面壁において、長さ方向に導入口11の近傍と排出口12の近傍とに、処理液を排出するために横幅方向に延びる排出溝35、36が形成されている。排出溝35、36は、例えば当該排出溝35、36の両端部において台板20を鉛直方向に貫通する排出孔(不図示)に連通していてもよい。また、当該排出孔は、処理液回収管(不図示)に接続されていてもよい。
また、図2に示すように、本実施の形態では、排出されて飛散され得る処理液のための受け板(よけ板)60が設けられている(図1では図示が省略されている)。この受け板60は、表面処理装置100の側面を保護する機能も奏し、上板20及び台板30にネジで結合されている。
また、図1に示すように、本実施の形態では、台板30の下面に公知の水平度調節機構がついた脚25が取り付けられている。また、図3に示すように、反応容器10の導入口11の近傍には、被処理体を導入口に導入させる導入用搬送装置としての第1ロールコンベア装置70が配置されており、反応容器10の排出口12の近傍には、被処理体の排出口12からの排出を支援する排出用搬送装置としての第2ロールコンベア装置80が配置されている。
本実施の形態の表面処理装置100の構成は、以上の通りであるが、極めて高い表面処理の均一性を実現するべく、反応容器10の寸法精度は極めて高くなっている。具体的には、反応容器10の上下の高さを決定する側方スペーサ40の厚みが一様となるように、側方スペーサ40の上下面は精密に加工されており、下面壁となる台板20の上面と上面壁となる上板30の下面にも、平滑研磨加工が施されている。更に、側方スペーサ40の内側面についても高精度に加工されて、反応容器の横幅の均一性も確保されている。
次に、本実施の形態の表面処理装置100の作用について説明する。ここでは、0.2mmの厚みの基板の表裏に約18μmの厚みの銅箔が圧着された銅張積層板を被処理体とし、過酸化水素と硫酸とを含むエッチング液を処理液として、表面処理として銅箔の薄箔化処理を実施する場合について説明する。
処理液の具体的な成分は、例えば、過酸化水素濃度が24g/Lで、硫酸濃度が55g/Lである。また、処理液の温度は、例えば10℃に維持される。また、処理液の供給量は、全ての注入流路21p、22p、31p、32pの合計で、例えば15L/minである(全ての注入流路21p、22p、31p、32pが並列に15L/minの出力を有するポンプに接続される。
以上のような処理液の供給条件の下、全ての注入流路21p、22p、31p、32pから反応容器10内へ、すなわち、処理液下向き供給部21、22及び処理液上向き供給部31、32から反応容器10内へ、処理液の供給が開始される。これにより、処理液は反応容器10内に充満していく。充満後も処理液は供給され続けるため、処理液は順次、排出溝35、36(及び排出孔)を介して回収され、適宜のフィルターを介して循環利用される。また、反応容器10の導入口11や排出口12からも、処理液が溢れて排出される。
以上のように処理液の供給が継続されている間に、第1ロールコンベア装置70によって、導入口11から被処理体(銅張積層板)が導入される。ここで、被処理体(銅張積層板)の具体的なサイズは、例えば、長さが32cm(27cm+渡り代5cm)、幅が24cm(反応容器10の幅に対して、左右それぞれ0.5cmのマージン:このマージンは、側方スペーサ40の内側面に「引っ掛かる」ことを避けるために有効)である。
第1ロールコンベア装置70による被処理体の搬送速度は、例えば、13.5cm/min(=27cm/2min)、すなわち、被処理体(銅張積層板)の先頭が反応容器10内に入り始めてから被処理体(銅張積層板)の先頭が反応容器10から出始めるまでの時間が2分、という搬送速度とされる。この場合、被処理体(銅張積層板)の全ての箇所が反応容器10内において処理液と2分間接触することとなり、表面処理時間のバラツキを顕著に低減することができる。
また、被処理体(銅張積層板)の長さが圧力容器10の長さよりも長ければ、すなわち、「渡り代」を有していれば、第1ロールコンベア装置70による被処理体(銅張積層板)の最後部の搬送が終わっていない間に、被処理体(銅張積層板)の先頭が反応容器10を通過して第2ロールコンベア装置80によって搬送され始める。このような場合、被処理体(銅張積層板)は円滑に搬送されながら連続的に表面処理を受けることができるため、処理が安定して表面処理の一層の均一化が図れる他、処理効率も極めて高くなる。
以下、本実施の形態の表面処理装置100を用いた実際の表面処理の例についての評価を説明する。当該実施例では、被処理体として、0.2mmの厚みの基板の表裏に約18μmの厚みの銅箔が圧着された銅張積層板が用いられ、そのサイズは、長さが32cm、幅が24cmであった。処理液の具体的な成分は、過酸化水素濃度が24g/Lで、硫酸濃度が55g/Lで、銅濃度が0g/Lで、処理液の温度は、10℃に維持された。また、処理液の供給量は、全ての注入流路21p、22p、31p、32pの合計で、例えば15L/minであった。そして、反応容器10への処理液の供給が継続されている間に、27cm/3.5minの搬送速度で被処理体が反応容器10内を搬送され、それによって銅箔の薄箔化処理が実施された。
処理前後の表裏の銅箔の厚みについて、図6に示すように、横5点、縦5点の合計25点が抽出されて、電気抵抗式膜厚測定器を使用した測定が行われた。図7は、その測定値を示す表である。また、比較のため、従来のスプレーマシンを用いて、同じエッチング量となるように処理が行われた。その場合の測定値が、図8に示されている。
図7の測定値、及び、図8の測定値についての標準偏差値が図9に示されている。図9に示された標準偏差値から、本実施例においては、従来のスプレーマシンのように複雑な調整を行わなくても、従来のスプレーマシンを用いた場合よりも更に優れた低いバラツキを実現できていることが分かる。
図10は、図1の表面処理装置によるエッチングレート(ER)と、従来の浸漬方式の装置によるエッチングレート(ER)と、を比較して示す表である。図10に示す通り、本実施例においては、従来の浸漬方式の装置を用いた場合よりも更に優れたエッチングレートを実現できていることが分かる。
本実施の形態によれば、反応容器10内に導入される被処理体に対して、上方からも下方からも処理液を供給することができるため、表裏全面において均等な反応条件が得られ、表面と裏面との処理量(処理速度)の均一を図ることができる。また、被処理体への処理液の供給(圧入)を連続的に行うことによって、従来の浸漬方式と同様に、被処理体と処理液との均一接触が確保できる一方、従来の噴霧方式と同様に、絶えず新しい処理液が被処理体に供給されるため、付加的に攪拌を実施する必要がない。
また、処理液下向き供給部21、22によって被処理体の表面(上面)に与えられる処理液の供給圧と処理液上向き供給部31、32によって被処理体の裏面(下面)に与えられる処理液の供給圧とのバランスを調整することにより、被処理体を処理液中に浮遊した状態ないしそれに近い状態とすることが可能であり、反応容器内において被処理体を無接点状態で支持することができ、表裏全面の表面処理が可能となる。
また、表面処理時に被処理体を無接点状態で支持できるので、表面処理時の被処理体の保持機構を不要にできる。特に、薄型基板のような薄い被処理体は、そりや曲がりを生じやすいため、従来の表面処理装置においては特殊な保持機構(場合によっては両端から張力を加えて保持する機構など)が必要であったが、そのような保持機構は、本実施の形態においては、もはや不要である。従って、そのような保持機構への被処理体の取り付けや取り外しの作業から解放される。
また、処理液下向き供給部21、22によって被処理体の表面(上面)に与えられる処理液の供給圧と処理液上向き供給部31、32によって被処理体の裏面(下面)に与えられる処理液の供給圧とのバランスを調整することにより、そりや曲がりを生じやすい薄型基板のような薄い被処理体であっても、そりや曲がりが強制的に平坦状に修復された状態で表面処理を実施することができる。このことも、処理量(処理速度)の均一化に貢献する。
特に、本実施の形態では、処理液下向き供給部21、22の上面壁における開口の位置と、処理液上向き供給部31、32の下面壁における開口の位置とが、鉛直方向に対応しているため、被処理体の表面(上面)にかかる処理液の供給圧と被処理体の裏面(下面)にかかる処理液の供給圧とのバランスの調整が容易である。また、本実施の形態では、処理液下向き供給部21、22の流路構成と処理液下向き供給部31、32の流路構成とが、同一(対称)となっている。このことによっても、被処理体の表面(上面)にかかる処理液の供給圧と被処理体の裏面(下面)にかかる処理液の供給圧とのバランスの調整が容易である。具体的には、全ての注入流路21p、22p、31p、32pを並列に共通のポンプに接続しても、当該ポンプの出力がある程度大きければ(15L/min程度あれば)、重力の影響を特別に考慮しなくても、被処理体の表面にかかる処理液の供給圧と被処理体の裏面にかかる処理液の供給圧との所望のバランスを十分に実現することができる。
また、本実施の形態では、各処理液供給部21、22、31、32の圧力容器10内への開口が、横幅方向に並んで設けられているため、圧力容器10内の横幅方向の処理液供給の均一性が高められている。このことも、処理量(処理速度)の均一化に貢献する。
また、本実施の形態では、反応容器10の高さが0.4mmとなっており、反応容器10は極めて狭い空間となっている。従って、表面処理時に被処理体の表裏面と接触する処理液の層は薄く、更に、処理液は連続的に圧入されるため、被処理体の表裏面近傍においては強制的な液交換が絶えず行われることとなる。このことも、処理量(処理速度)の均一化に貢献する。
処理液交換の程度(速度)は、処理液の流量を制御することによって簡単に調整することができる。例えば、処理液を供給するためのポンプの出力(ないし圧力)を制御することによって、極めて簡単に調整することができる。従って、従来の噴霧方式の装置のように、処理液を過剰に供給しなくても、有効な量の処理液だけを効率よく適切に供給することができる。
勿論、本発明の反応容器10の高さは0.4mmに限定されないが、以上の観点から、反応容器10の高さとしては、被処理体の厚みの1を超えて50倍以下の範囲であることが好ましく、1を超えて10倍以下の範囲であることが更に好ましく、1を超えて3倍以下の範囲であることが特に好ましい。これらの範囲内であれば、処理液は反応容器10内に十分に速く充満することができ、従来の噴霧方式の装置のように被処理体上で局所的な滞留が生じたり偏った流れが生じたりすることがない。また、使用される処理液の量も、従来の噴霧方式の装置と比較して格段に低減するため、処理液に関するコストを大幅に低下させることができる。
また、本実施の形態によれば、導入口11及び排出口12の近傍に処理液を排出するための排出溝35、36(及び排出孔)が設けられているため、被処理体の導入ないし排出に影響を及ぼすことなく、装置外に処理済みの処理液を効率的に排出でき、導入口11及び排出口12からの処理液の溢れ出しを抑制することができる。このことは、装置の周囲環境の汚染や悪臭発生を顕著に抑制する。また、全体を密閉系に近い構成とすることができるため、回収する処理液への装置の周囲環境からのダスト等の混入を防止することができ、処理液の循環中のフィルタリング(不純物除去)に関するコストを抑制することもできる。
また、本実施の形態によれば、反応容器10において、被処理体が導入される導入口11と、被処理体が排出される排出口12とが、直線上に別個に設けられている。このため、複数の被処理体を順次連続的に処理することが容易である。更には、反応容器10よりも全長の長い長尺状の被処理体を連続的に処理することも可能である。
そして、本実施の形態によれば、反応容器10の導入口11の近傍に導入用搬送装置としての第1ロールコンベア装置70が設けられているため、被処理体を導入口11に導入させることが容易である。本実施の形態の表面処理装置100では、圧入されている処理液中を被処理体が移動するのにかかる抵抗は、極めて小さい。そのために、導入口11から導入された被処理体は、その導入時の運動エネルギーを維持して、排出口12まで自動的に移動することができる。
また、本実施の形態によれば、反応容器10の排出口12の近傍に排出用搬送装置としての第2ロールコンベア装置80が設けられているため、被処理体を排出口12から排出させることが容易である。
導入用搬送装置は、被処理体を上下方向に精密に位置決めして、狭空間である反応容器10の導入口11に的確に被処理体を導入できれば、ロールコンベア装置でなくてもよい。同様に、排出用搬送装置についても、上下方向に精密に位置決めされた被処理体の排出を支援できれば、ロールコンベア装置でなくてもよい。
圧入されている処理液中を被処理体が移動することで当該被処理体の表面処理が実施される場合、圧力容器10の長さを調整する他、被処理体の搬送速度を調整することによっても、処理量を調整することができる。このような調整により、薄型基板への微小量の処理であっても、目標数値通りの処理を実現することが可能となる。
なお、本実施の形態の表面処理装置100は、被処理体の片面のみの処理にも適用可能である。その場合、例えば、被処理体の裏面に保護膜や保護フィルムが設けられた状態で表面処理が実施される。
また、本実施の形態の表面処理装置100は、台板20と上板30と側方スペーサ40とがネジによって結合されているため、簡単に分解することができ、側方スペーサ40の交換が容易である。従って、厚さや幅の異なる被処理体に対して、より適切な厚さ乃至幅の側方スペーサ40を選択して利用することが容易である。
また、本実施の形態の表面処理装置100は、全体として十分に小型であるので、複数台直列に連結することによって、前処理工程や後処理工程を含めた生産ラインの構築が容易である。更に、従来では考えられなかった装置の多段設置すら可能であり、その場合には工場の面積利用効率が大幅に向上する。
本実施の形態の表面処理装置100が処理対象とする被処理体としては、半導体製造に用いられるウェハ、液晶デバイス製造に用いられるガラス基板、プリント配線基板製造に用いる各種基板などが挙げられる。表面処理の態様は、エッチングによる薄箔化に限られず、種々のパターン形成であってもよい。
本発明は、以上の実施の形態に限定されない。例えば、処理液下向き供給部21、22及び処理液上向き供給部31、32の流路の詳細、特に圧力容器10に対する開口の数や配置は、適宜に調整され得る。長さ方向についての当該開口の位置は、導入口11ないし排出口12に近寄り過ぎていると、導入口11ないし排出口12からの処理液の漏れ出しが多くなってしまうので、その点には留意が必要である。前記の実施の形態のように横幅方向に整列した開口を長さ方向について2箇所に設ける場合、長さ方向に略1/4と略3/4との位置に設けることが好ましい。
導入口11ないし排出口12からの処理液の漏れ出しを抑制するには、反応容器10の高さに対して、被処理体の側面と側方スペーサ40の内側面との間の隙間(マージン)を大きくしておくことが好ましい。但し、多少のそりや曲がりがある処理基板であっても導入ないし排出が可能であるようにしておくことが望ましい。