1.第1実施形態
<スタック構造体の構成>
ここでは、本発明に係るスタック構造体の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
スタック構造体1は、固体酸化物形燃料電池(SOFC;Solid Oxide Fuel Cell)に用いられる構造体である。なお、本実施形態では、図1に示すように、x,y,z座標系が設定されている。
スタック構造体1は、複数のセル100と、マニホールド200と、接合材300とを備えている。
<セル>
各セル100は、燃料電池セルである。図1に示すように、各セル100は、マニホールド200に設けられる。セル100は、互いに間隔を隔てて並べられる。図2及び図4に示すように、セル100のx軸方向(長手方向)において燃料ガスが流入する側の端部10a(流入側端部)は、接合材300によってマニホールド200に接合される。セル100のx軸方向において燃料ガスが排出される側の端部10b(排出側端部)は、自由端となっている。このように支持基板10がマニホールド200に配置されるスタック構造は、一般的に「片持ちスタック構造体」と表現される。
図2に示すように、セル100は、実質的に平板状に形成されている。セル100の長手方向、短手方向及び厚み方向は、それぞれx軸方向、y軸方向及びz軸方向に対応している。
セル100は、x軸方向の長さL1がy軸方向の長さL2より長くなるように形成されている。x軸方向の長さL1は特に制限されないが、50mm以上且つ500mm以下の範囲内に設定することができる。y軸方向の長さL2は特に制限されないが、10mm以上且つ100mm以下の範囲内に設定することができる。z軸方向の長さL3は特に制限されないが、1mm以上且つ5mm以下の範囲内に設定することができる。
図2に示すように、各セル100は、複数の発電素子部Aと、支持基板10と、シール膜20とを有する。
各発電素子部Aは、燃料極、固体電解質膜、及び空気極を有する。各発電素子部Aは、燃料極、固体電解質膜、及び空気極の順に積層された積層焼成体である。ここでは、燃料極は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ;イットリア安定化ジルコニア)とから構成される。固体電解質膜は、例えば、YSZ(8YSZ;イットリア安定化ジルコニア)から構成される。空気極は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成される。
複数の発電素子部Aは、支持基板10に設けられる。複数(例えば4個)の発電素子部Aは、電気的に直列に接続される。
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料から構成された焼成体である。支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)で構成される。
支持基板10は、発電素子部Aを支持する。具体的には、支持基板10の両主面には、複数の発電素子部Aが、x軸方向に所定の間隔を隔てて設けられている。
支持基板10の内部には、複数(例えば6個)の燃料ガス流路11(貫通孔)が形成されている。各燃料ガス流路11は、x軸方向に延びている。各燃料ガス流路11は、y軸方向(幅方向)に所定の間隔を隔てて形成されている。
シール膜20は、支持基板10の外表面を覆う。シール膜20は、緻密質材料によって構成することができる。緻密質材料としては、例えば、YSZ、ScSZ、ガラス、スピネル酸化物などが挙げられる。シール膜20は、各発電素子部Aの固体電解質膜と同じ材料によって構成されていてもよい。この場合、シール膜20は、各発電素子部Aの固体電解質膜と一体的に形成されていてもよい。
<マニホールド>
マニホールド200は、複数のセル100それぞれに燃料ガスを供給するためのものである。図3及び図4に示すように、マニホールド200は、実質的に直方体状の筐体である。マニホールド200では、高さ方向(上方)、短手方向(幅方向)、及び長手方向が、x軸方向、y軸方向、及びz軸方向に各別に対応している。
図3及び図4に示すように、マニホールド200は、基部210と、支持板220(上壁)とを有している。基部210は、金属例えばステンレス鋼等から構成されている。基部210は、底部と、底部を取り囲む側壁とを有している。底部と側壁とによって、上方に向けて開口する開口部が形成される。
支持板220は、金属例えばステンレス鋼等から構成されている。支持板220は、基部210上に配置される。具体的には、支持板220は、基部210の側壁の先端部に配置され、基部210の開口部を塞いでいる。このように、支持板220が基部210の開口部を塞ぐことによって、マニホールド200には、内部空間S1が形成される(図4を参照)。すなわち、内部空間S1は、基部210(底部及び壁部)と支持板220とによって構成される。この内部空間S1には、燃料ガスが導入される。
燃料ガスは、導入管230を介して、外部から内部空間S1に導入される。導入管230は、金属例えばステンレス鋼等から構成されている。導入管230は、マニホールド200の支持板220に、接合・固定されている。具体的には、導入管230は、支持板220に形成された貫通孔(図示しない)に挿入された状態で、支持板220に溶接される。
上記の構成を有するマニホールド200は、図3、図4、及び図5に示すように、複数のセル100を支持する。具体的には、マニホールド200の支持板220が、複数のセル支持孔221を有している。各セル支持孔221は、マニホールド200の外側(外部空間)と内部空間S1とを連通するように、支持板220に形成されている。より具体的には、各セル支持孔221は、支持板220をx軸方向(高さ方向)に貫通している(図4を参照)。各セル支持孔221は、z軸方向(長手方向)に所定の間隔を隔てて形成されている(図3及び図5を参照)。また、各セル支持孔221は、y軸方向(短手方向)にも所定の間隔を隔てて形成されている(図3を参照)。
図4に示すように、各セル支持孔221には、各セル100が配置される。詳細には、各セル100の燃料ガス流路11が内部空間S1に連通するように、各セル支持孔221には、各セル100の流入側端部10aが挿入される。
図5に示すように、各セル支持孔221をマニホールド200の外側(外部空間)から見た場合(x軸に沿って見た場合)、各セル支持孔221は、一方向に長く形成され、且つ両端部が円弧状に形成されている。すなわち、各セル支持孔221は、長円形状に形成されている。各セル支持孔221は、y軸方向の長さL4(長手方向の長さ)がz軸方向の長さL5(短手方向の長さ・幅方向の長さ)より長くなるように形成されている。
各セル支持孔221におけるy軸方向の長さL4は、各セル100の流入側端部10aの外面におけるy軸方向の長さL2よりも大きい。各セル支持孔221のy軸方向の長さL4及び各セル100のy軸方向の長さL2の差は、例えば0.1mm以上且つ1.0mm以下の範囲内である。
また、各セル支持孔221におけるz軸方向の長さL5は、各セル100の流入側端部10aの側面におけるz軸方向の長さL3よりも大きい。各セル支持孔221のz軸方向の長さL5及び各セル100のz軸方向の長さL3の差は、例えば0.1mm以上且つ1.0mm以下の範囲内である。
すなわち、図5に示すように、各セル100の流入側端部10aが、各セル支持孔221に挿入された状態では、各セル支持孔221の内面と各セル100の流入側端部10aの外面との間には、隙間Gが形成される。隙間Gは、セル100の方向rに沿って、セル100の外周面周りに形成される。隙間Gは、全周にわたって一定であってもよいが一定でなくてもよい。この隙間Gには、接合材300が配置される。
<接合材>
接合材300は、例えば、結晶化ガラスで構成される。結晶化ガラスとしては、例えば、SiO2−B2O3系、SiO2−CaO系、MgO−B2O3系、又はSiO2−MgO系のものが用いられる。なお、結晶化ガラスとしては、SiO2−MgO系のものが最も好ましい。
ここで用いられる結晶化ガラスは、全体積に対する「結晶相が占める体積」の割合(結晶化度)が60%以上であり、且つ全体積に対する「非晶質相及び不純物が占める体積」の割合が40%未満のガラスである。なお、接合材300の材料として、非晶質ガラス、ろう材、セラミックス等が採用されてもよい。
接合材300は、マニホールド200の内部空間S1の燃料ガスと、マニホールド200及び複数のセル100の外側の外部空間の空気との混合を防止する。具体的には、図4、図5、及び図6に示すように、接合材300は、マニホールド200と各セル100との間に配置され、マニホールド200と各セル100とを接合する。これにより、接合材300は、内部空間S1(燃料ガスに曝される空間)と外部空間(空気に曝される空間)とを区画する。すなわち、接合材300は、シール材として機能する。
なお、図4、図5、及び図6では、説明を容易にするために、各部材の形状が誇張して描かれている。
図4及び図6に示すように、接合材300は、マニホールド200の各セル支持孔221と各セル100との隙間Gを、マニホールド200及び各セル100の外側から塞ぐように、隙間Gに充填される。
具体的には、図6に示すように、接合材300は、充填部301と、溜まり部302とを有する。充填部301は、隙間Gに配置される。充填部301は、x軸方向において、隙間Gの外部空間側(隙間Gの上部)に充填される。充填部301は、各セル100の流入側端部10aの外面、及びマニホールド200の各セル支持孔221の内面に接触して、両者を接合・固定する。
この状態において、充填部301の下面は、各セル100の流入側端部10aの外面に対して、鈍角Dに形成されている。鈍角Dは、セル100の外面に沿う方向r(図5を参照)の全周において連続的に成立していてもよいが、方向rにおいて断続的に成立していてもよい。図6では、各セル100をxz平面で切断した断面における鈍角Dを、一例として、示している。これにより、充填部301の下面、及びセル100の流入側端部10aの外面によって構成される隅角部には、応力集中が発生しづらい。
溜まり部302は、隙間Gの外側において、各セル100の流入側端部10aの外面、及びマニホールド200の外面(支持板220における外部空間側の面)に接触して、両者を接合・固定する。
隙間Gのx軸方向における充填部301の下方、すなわち隙間Gの内部空間側(隙間Gの下部)には、接合材300が未充填である未充填空間S2(空間の一例)が設けられている。言い換えると、未充填空間S2は、隙間Gの接合材300とマニホールド200の内部空間S1との間に設けられている。
上記のように接合材300が隙間Gに配置された状態では、図6に示すように、充填部301(隙間Gの接合材300)が、第1領域R1においてセル100に接触し、且つ第2領域R2においてセル支持孔221に接触する。また、溜まり部302が、第3領域R3においてセル100に接触し、且つ第4領域R4において支持板220に接触する。
第1領域R1は、充填部301がセル100に接触する面である。第1領域R1は、セル100の外面に沿う方向rにおいて、セル100に接触し接着する。第2領域R2は、充填部301がセル支持孔221に接触する面である。第2領域R2は、セル100の外面に沿う方向rにおいて、セル支持孔221に接触し接着する。
第1領域R1のx軸方向の長さは、第1接触長さC1によって定義される。第2領域R2のx軸方向の長さは、第2接触長さC2によって定義される。
x軸方向において、第1領域R1における充填部301の第1接触長さC1は、第2領域R2における充填部301の第2接触長さC2と異なる(C1≠C2)。
具体的には、x軸方向において、第1接触長さC1は、第2接触長さC2よりも長い(C1>C2)。また、第2接触長さC2に対する第1接触長さC1の比(C1/C2)は、1.19以上39.40以下であることが好ましい。これらの条件を満足するように、第1接触長さC1及び第2接触長さC2は、例えば0.05mm以上且つ2.0mm以下の範囲内に設定することができるが、これに限られるものではない。
ここで、第1接触長さC1は、次のように求められる。まず、図5に示す4つの測定位置M1〜M4において、セル100の外面に垂直な断面を観察して、接合材300の充填部301がセル100と接触する領域を確認する。測定位置M1,M2は、セル100の幅方向両端に位置し、互いに対向する。測定位置M3,M4は、セル100の幅方向中央両側に位置し、互いに対向する。次に、4つの測定位置M1〜M4それぞれにおいて、充填部301がセル100と接触する接触長さを測定する。そして、4つの測定位置M1〜M4で測定された接触長さの算術平均値を第1接触長さC1とする。
第2接触長さC2は、第1接触長さC1と同様、次のように求められる。まず、図5に示す4つの測定位置M1〜M4において、セル100の外面に垂直な断面を観察して、接合材300の充填部301がマニホールド200のセル支持孔221と接触する領域を確認する。次に、4つの測定位置M1〜M4それぞれにおいて、充填部301がセル支持孔221と接触する接触長さを測定する。そして、4つの測定位置M1〜M4で測定された接触長さの算術平均値を第2接触長さC2とする。
また、隙間Gの間隔Kに対する第1接触長さC1の比(C1/K)は特に制限されないが、0.05以上であることが好ましい。これによって、ガスリークを適切に発生しにくくでき、且つセル100とセル支持孔221との接合力を適切に向上できる。隙間Gの間隔Kは、例えば0.1mm以上且つ1.0mm以下の範囲内に設定することができるが、これに限られるものではない。
なお、各サンプルのセル支持孔221の形状のばらつき、各セル100の反りのばらつき、及び各セル100の主面の厚さのばらつき等の形状精度を考慮すると、隙間Gの間隔Kを0.1mm未満に設定することは容易ではない。また、隙間Gの間隔Kを、敢えて0.1mm未満に設定しようとすると製造コストが増大するおそれがある。このため、隙間Gの間隔Kは、0.1mm以上に設定することが好ましい。
隙間Gの間隔Kは、次のように求められる。まず、図5に示す4つの測定位置M1〜M4において、セル100の外面に垂直な断面を観察して、隙間Gを確認する。次に、4つの測定位置M1〜M4それぞれにおいて、隙間Gの間隔を測定する。そして、4つの測定位置M1〜M4で測定された隙間Gの間隔の算術平均値を間隔Kとする。
第3領域R3は、溜まり部302がセル100に接触し接着する面である。第3領域R3は、セル100の外面に沿う方向rにおいて、セル100に接触し接着する。第4領域R4は、溜まり部302が支持板220に接触し接着する面である。第4領域R4は、セル100の外面に沿う方向rにおいて、支持板220に接触し接着する。
第3領域R3のx軸方向の長さは、第3接触長さC3によって定義される。第4領域R4のz軸方向の長さは、第4接触長さC4によって定義される。x軸方向において、第1接触長さC1に対する第3接触長さC3の比(C3/C1)は特に制限されないが、0.25以上且つ30以下とすることができる。また、x軸方向における第1接触長さC1に対する、z軸方向における第4接触長C4さの比(C4/C1)は特に制限されないが、0.05以上且つ30以下とすることができる。これらの条件を満足するように、第3接触長さC3は、例えば0.5mm以上且つ1.5mm以下の範囲内に設定することができ、第4接触長さC4は、例えば0.1mm以上且つ1.5mm以下の範囲内に設定することができる。
第3接触長さC3と第4接触長さC4は、第1接触長さC1と同様、図5に示す4つの測定位置M1〜M4それぞれにおいて測定された接触長さの算術平均値である。
<その他の構造>
図4に示すように、スタック構造体1は、集電部材400,500をさらに有している。集電部材400は、隣接するセル100の間に設けられている。詳細には、集電部材400は、一方のセル100の燃料極と、他方のセル100の空気極とを電気的に直列に接続するために、隣接するセル100の間に設けられている。集電部材400は、例えば、金属メッシュ等から構成される。また、集電部材500は、各セル100に設けられている。詳細には、集電部材500は、各セル100の表側と裏側とを電気的に直列に接続するために、各セル100に設けられている。
<スタック構造体の動作>
上記のスタック構造体1は、例えば、次のように動作する。スタック構造体1では、高温(例えば、600〜800℃)の燃料ガス(水素ガス等)が、導入管230からマニホールド200の内部空間S1へと導入される。すると、この燃料ガスが、各セル100の燃料ガス流路11に導入される。そして、燃料ガスが燃料ガス流路11を通過すると、燃料ガス流路11の排出側端部の排出口から外部へと排出される。一方で、空気(酸素を含むガス等)が、隣接するセル100間の空間において、セル100のy軸方向に通過する。
このように燃料ガス及び空気を移動させることによって、各発電素子部Aでは、酸素分圧差すなわち電位差が、固体電解質膜の表裏面間に生じる。この状態で、セル100が外部の負荷に電気的に接続されると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こる。これにより、セル100内にて電流が流れて発電状態となる。この発電状態において、セル100から電力が取り出される。
(1/2)・O2+2e−→O2− (於:空気極) …(1)
H2+O2−→H2O+2e− (於:燃料極) …(2)
<スタック構造体の組立て>
上述のスタック構造体1は、例えば、次のように組み立てられる。まず、各セル100の表面に、接合材300と親和性の高い材料(以下、「親和性材料」という。)が塗布され熱処理(結晶化処理)される。親和性材料としては、非晶質材料のペースト(例えば非晶質ガラスのペースト)を用いることができる。親和性材料には、接合材300と同じ材料を用いることができる。
具体的には、各セル100の流入側端部10aにおいてマニホールド200のセル支持孔221に対向する部分、すなわち各セル100の流入側端部10aにおける隙間内の表面に、親和性材料が、塗布され熱処理(結晶化処理)される。
より具体的には、親和性材料の塗布厚さは、例えば0.01mm以上且つ0.2mm以下の範囲内に設定されている。また、図6に示すように、セル支持孔221の長さT0に対する親和性材料の塗布長さT1の比(T1/T0)が、例えば0.012以上且つ2.0以下の範囲内になるように、親和性材料が、上記の各セル100の表面に塗布され、熱処理(結晶化処理)される。なお、この条件は、熱処理による変化を考慮して設定されている。また、塗布長さT1は、第1接触長さC1以下に設定される。
ここで、セル支持孔221の長さT0は、x方向の長さであり、親和性材料の塗布長さT1は、各セル100における隙間内の表面に塗布される親和性材料のx方向長さである。
このように予め親和性材料を塗布し熱処理(結晶化処理)しておくことによって、各セル100の第1接触長さC1を、マニホールド200のセル支持孔221の第2接触長さC2よりも大きくすることができる。
これにより、第2接触長さC2に対する第1接触長さC1の比(C1/C2)が1.19以上39.40以下になるように、第1接触長さC1を制御することができる。
また、各セル100の流入側端部10aにおける隙間外の表面にも、親和性材料が塗布される。具体的には、親和性材料の塗布厚さは、例えば0.01mm以上且つ0.2mm以下の範囲内に設定されている。また、x方向においてセル支持孔221の長さT0に対する親和性材料の塗布長さT3の比(T3/T0)が、例えば0.12mm以上且つ1.5mm以下の範囲内になるように、親和性材料が、上記の各セル100の表面に塗布され、熱処理(結晶化処理)される(図6を参照)。なお、この条件は、熱処理による変化を考慮して設定されている。また、塗布長さT3は、第3接触長さC3以下に設定される。
ここで、親和性材料の塗布長さT3は、各セル100における隙間外の表面に塗布される親和性材料のx方向長さである。
このように予め親和性材料を、各セル100に塗布し、熱処理(結晶化処理)しておくことによって、各セル100における接合材300の第3接触長さC3を制御することができる。
例えば、第1接触長さC1を第3接触長さC3より小さくする場合は、塗布長さT1を塗布長さT3より短くする。また、第1接触長さC1及び第3接触長さC3を実質的に同じにする場合は、塗布長さT1及び塗布長さT3を実質的に等しくする。さらに、第1接触長さC1を第3接触長さC3より大きくする場合は、塗布長さT1を塗布長さT3より長くする。
このように塗布長さT1及び塗布長さT3を制御し、且つ後述する接合材300の充填時の調整を行うことによって、次の熱処理後に、第1接触長さC1に対する第3接触長さC3の比(C3/C1)を、0.25以上且つ30以下の範囲内に制御できる。
次に、複数のセル100が、スタック状に整列された状態で、所定の治具等を用いて固定される。続いて、複数のセル100がスタック状に整列・固定された状態で、複数のセル100の流入側端部10aが、マニホールド200における複数のセル支持孔221に、各別に挿入される。
続いて、接合材300が、マニホールド200及び各セル100の外側から隙間Gを塞ぐように供給されると、充填部301及び溜まり部302が形成される。このときに、セル100に塗布された塗布長さT1の親和性材料に対する接合材300の濡れ性が、マニホールド200のセル支持孔221の内表面に対する接合材300の濡れ性よりも高いため、図6に示すように、第1接触長さC1が第2接触長さC2よりも長くなる。また、セル100に塗布された塗布長さT3の親和性材料に対する接合材300の濡れ性が、マニホールド200の外表面に対する接合材300の濡れ性と異なるため、図6に示すように、第3接触長さC3と第4接触長さC4とがそれぞれ調整される。
最後に、接合材300例えば非晶質材料のペーストに対して、熱処理(結晶化処理)が施される。この熱処理によって非晶質材料の温度が結晶化温度に到達すると、非晶質材料の内部において結晶相が生成され、接合材300が結晶化する。この結果、非晶質材料が固化・セラミックス化し、結晶化ガラスとなる。この状態において、第1接触長さC1、第2接触長さC2、第3接触長さC3、及び/又は第4接触長さC4に関する上記の条件を、満足している。
これにより、この結晶化ガラスで構成される接合材300によって、各セル100の流入側端部10aがマニホールド200の各セル支持孔221に接合・固定される。言い換えると、各セル100の流入側端部10aが、接合材300によって、マニホールド200の支持板220に接合・支持される。その後、上述した所定の治具が複数のセル100から取り外され、スタック構造体1が完成する。
<特徴>
(1)本スタック構造体1は、セル100と、マニホールド200と、接合材300とを備える。マニホールド200は、セル100が挿入されるセル支持孔221を有する。接合材300は、セル100とセル支持孔221との隙間Gに配置される充填部301を有する。接合材300は、セル100とセル支持孔221とを接合する。
このような構成を有するスタック構造体1では、セル100の外面に垂直な断面において、充填部301とセル100との第1接触長さC1は、充填部301とセル支持孔221との第2接触長さC2と異なっており、第2接触長さC2よりも大きい。
この場合、接合材300が、上記の隙間Gによって隙間Gの間隔方向(幅方向)に熱膨張しにくくなるので、クラックが発生しても、このクラックは成長しづらい。すなわち、ガスリークを発生しにくくできる。
また、x軸方向において、第1領域R1における接合材300の第1接触長さC1と、第2領域R2における接合材300の第2接触長さC2とが異なっている。このため、第1接触長さC1と第2接触長さC2とが同じである場合と比較して、局所的なクラックの発生を抑制できる。
例えば、第1接触長さC1と第2接触長さC2とが同じである場合には、内部空間S1側における接合材300の端面は、セル100及びセル支持孔221に対して実質的に直角に形成される。このため、セル100及びマニホールド200に熱膨張及び熱収縮等が発生すると、接合材300の端面がセル100及びセル支持孔221に接する部分に、応力集中が発生するおそれがある。
一方で、第1接触長さC1と第2接触長さC2とが異なる場合、内部空間S1側における接合材300の端面が、セル100又はセル支持孔221に対して実質的に鈍角に形成される。すなわち、接合材300の端面がセル100又はセル支持孔221に接する片側の隅角部は、応力集中が発生しづらくなる。このため、第1接触長さC1と第2接触長さC2とが同じである場合と比較して、局所的なクラックが発生しづらくなり、ガスリークを発生しにくくできる。
また、第1接触長さC1と第2接触長さC2とが異なる場合は、第1接触長さC1と第2接触長さC2とが同じである場合と比較して、第1接触長さC1と第2接触長さC2との差分長さによって、接合力を向上することができる。
(2)本スタック構造体1では、第1接触長さC1が、第2接触長さC2よりも長い。
これにより、上述したように、ガスリークを発生しにくくでき、且つセル100とセル支持孔221との接合力を向上できる。
(3)本スタック構造体1では、上記の第1接触長さC1及び上記の第2接触長さC2のいずれか他方に対する、上記の第1接触長さC1及び上記の第2接触長さC2のいずれか一方の比は、1.19以上39.40以下が好ましい。
このように構成することによって、ガスリークを適切に発生しにくくでき、且つセル100とセル支持孔221との接合力を適切に向上できる。
(4)本スタック構造体1では、上記の第1領域R1及び上記の第2領域R2のいずれか一方の面積は、第1領域R1及び第2領域R2のいずれか他方の面積よりも大きいことが好ましい。
このように構成することによって、ガスリークを発生しにくくでき、且つセル100とセル支持孔221との接合力を向上できる。
(5)本スタック構造体1では、上記の隙間Gに配置された接合材300と、マニホールド200の内部空間S1との間には、未充填空間S2が設けられていることが好ましい。
この場合、上述したように、隙間Gに未充填空間S2が設けられていても、セル100とマニホールド200とを、確実に接合することができる。これにより、接合材300を上記の隙間G全体に充填してはじめて、セル100とマニホールド200との接合力を確保する場合と比較して、接合材300の充填量を容易に管理できる。すなわち、支持基板10とセル支持孔221とを容易に接合できる。
2.第2実施形態
次に、第2実施形態に係るスタック構造体の構成について説明する。上述した第1実施形態と第2実施形態の相違点は、接合材300aの充填部301aの構成にある。以下においては、当該相違点について主に説明する。
図7は、セル100の外面に垂直な断面図である。接合材300aは、充填部301aと溜まり部302とを有する。
充填部301aは、第1領域R1においてセル100に接触する。充填部301aは、第2領域R2においてセル支持孔221に接触する。第1接触長さC1は、第2接触長さC2と異なっており、第2接触長さC2よりも短い。
そのため、充填部301aの内面F1をセル100の外面F2に対して斜めに傾けることができるとともに、充填部301aの内面F1をセル支持孔221の内周面F3に対して斜めに傾けることができる。従って、第1接触長さC1と第2接触長さC2が同じである場合に比べて、充填部301aの内面F1とセル100の外面F2との境界付近や充填部301aの内面F1とセル支持孔221の内周面F3との境界付近における応力集中が抑えられる。その結果、充填部301aにおけるクラックの発生が抑えられるため、接合材300aを介したガスリークが抑制される。
第1接触長さC1に対する第2接触長さC2の比(C2/C1)は、1.09以上39.20以下であることが好ましい。これによって、充填部301aにクラックが発生することをより抑制できる。
第1接触長さC1に対する第2接触長さC2の比は、接合材300aを隙間Gに充填する前にセル支持孔221の内周面F3に予め塗布される親和性材料の塗布長さT2によって調整することができる。
第1接触長さC1は特に制限されないが、接合材300のガスシール性を考慮すると、セル支持孔221の長さT0の5%以上であることが好ましい。第2接触長さC2は特に制限されないが、接合材300のガスシール性を考慮すると、セル支持孔221の長さT0の5%以上であることが好ましい。
隙間Gの間隔Kに対する第2接触長さC2の比(C2/K)は特に制限されないが、0.07以上であることが好ましい。これによって、ガスリークを適切に発生しにくくでき、且つセル100とセル支持孔221との接合力を適切に向上できる。
隙間Gの間隔Kに対する第2接触長さC2の比は、接合材300aを隙間Gに充填する前にセル支持孔221の内周面F3に予め塗布される親和性材料の塗布長さT2によって調整することができる。
隙間Gの間隔Kは、例えば0.1mm以上1.0mm以下とすることができるが、これに限られるものではない。
3.第3実施形態
次に、第3実施形態に係るスタック構造体の構成について説明する。上述した第1実施形態と第3実施形態の相違点は、接合材300bが充填部301bのみからなる点にある。以下においては、当該相違点について主に説明する。
図8は、セル100の外面に垂直な断面図である。接合材300bは、充填部301bのみを有する。
充填部301bは、第1領域R1においてセル100に接触する。充填部301bは、第2領域R2においてセル支持孔221に接触する。第1接触長さC1は、第2接触長さC2と異なっており、第2接触長さC2よりも長い。
そのため、充填部301bの内面F1とセル100の外面F2との境界付近や充填部301bの内面F1とセル支持孔221の内周面F3との境界付近における応力集中が抑えられる。その結果、充填部301bにおけるクラックの発生が抑えられるため、接合材300bを介したガスリークが抑制される。
第2接触長さC2に対する第1接触長さC1の比(C1/C2)は、1.19以上39.40以下であることが好ましい。これによって、充填部301bにクラックが発生することをより抑制できる。
第2接触長さC2に対する第1接触長さC1の比は、接合材300bを隙間Gに充填する前にセル100の外面F2に予め塗布される親和性材料の塗布長さT1によって調整することができる(図6参照)。
第1接触長さC1は特に制限されないが、接合材300のガスシール性を考慮すると、セル支持孔221の長さT0の5%以上であることが好ましい。第2接触長さC2は特に制限されないが、接合材300のガスシール性を考慮すると、セル支持孔221の長さT0の5%以上であることが好ましい。
隙間Gの間隔Kに対する第1接触長さC1の比(C1/K)は特に制限されないが、0.05以上であることが好ましい。これによって、ガスリークを適切に発生しにくくでき、且つセル100とセル支持孔221との接合力を適切に向上できる。
隙間Gの間隔Kに対する第1接触長さC1の比は、接合材300bを隙間Gに充填する前にセル100の外面F2に予め塗布される親和性材料の塗布長さT1によって調整することができる。
隙間Gの間隔Kは、例えば0.1mm以上1.0mm以下とすることができるが、これに限られるものではない。
なお、図8に示す例では、充填部301bの外面F4が、マニホールド200の支持板220の外面F5と面一であるが、これに限られるものではない。例えば、充填部301bの外面F4は、隙間Gの内部に向かって凹状であってもよい
4.第4実施形態
次に、第4実施形態に係るスタック構造体の構成について説明する。上述した第2実施形態と第4実施形態の相違点は、接合材300cが充填部301cのみからなる点にある。以下においては、当該相違点について主に説明する。
図9は、セル100の外面に垂直な断面図である。接合材300cは、充填部301cのみを有する。
充填部301cは、第1領域R1においてセル100に接触する。充填部301cは、第2領域R2においてセル支持孔221に接触する。第1接触長さC1は、第2接触長さC2と異なっており、第2接触長さC2よりも短い。
そのため、充填部301cの内面F1とセル100の外面F2との境界付近や充填部301cの内面F1とセル支持孔221の内周面F3との境界付近における応力集中が抑えられる。その結果、充填部301cにおけるクラックの発生が抑えられるため、接合材300cを介したガスリークが抑制される。
第1接触長さC1に対する第2接触長さC2の比(C2/C1)は、1.09以上39.20以下であることが好ましい。これによって、充填部301cにクラックが発生することをより抑制できる。
第1接触長さC1に対する第2接触長さC2の比は、接合材300cを隙間Gに充填する前にセル支持孔221の内周面F3に予め塗布される、親和性材料の塗布長さT2によって調整することができる(図7参照)。
第1接触長さC1は特に制限されないが、接合材300のガスシール性を考慮すると、セル支持孔221の長さT0の5%以上であることが好ましい。第2接触長さC2は特に制限されないが、接合材300のガスシール性を考慮すると、セル支持孔221の長さT0の5%以上であることが好ましい。
隙間Gの間隔Kに対する第2接触長さC2の比(C2/K)は特に制限されないが、0.07以上であることが好ましい。これによって、ガスリークを適切に発生しにくくでき、且つセル100とセル支持孔221との接合力を適切に向上できる。
隙間Gの間隔Kに対する第2接触長さC2の比は、接合材300cを隙間Gに充填する前にセル100の外面F2に予め塗布される親和性材料の塗布長さT1によって調整することができる。
隙間Gの間隔Kは、例えば0.1mm以上1.0mm以下とすることができるが、これに限られるものではない。
なお、図9に示す例では、充填部301cの外面F4が、マニホールド200の支持板220の外面F5と面一であるが、これに限られるものではない。例えば、充填部301cの外面F4は、隙間Gの内部に向かって凹状であってもよい。
以下において本発明に係るセルの実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
(サンプルNo.1〜No.14の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1〜No.14の燃料電池スタック構造体を作製した。サンプルNo.1〜No.14は、図8に示した構成を有する。
まず、長さ200mm、幅50mm、厚み2mmのセルを準備した。セルの外面は、YSZシール膜によって覆われている。セルの内部には、燃料流路が形成されている。
次に、セルの一端部の外面全周に親和性材料としての非晶質材料のペーストを塗布した後、熱処理(850℃、1時間)することによって親和性材料を結晶化した。この際、セルの長手方向における親和性材料の塗布長さをサンプルごとに調整することによって、表1に示すように、接合材の充填部とセルとの第1接触長さC1と、充填部とセル支持孔との第2接触長さC2とをサンプルごとに変更した。
次に、セル支持孔を有するステンレス鋼製のマニホールドを準備して、セルの一端部をセル支持孔に挿入した。
次に、接合材としての非晶質材料のペーストをセルとセル支持孔の隙間に充填した後、熱処理(850℃、1時間)することによって接合材を結晶化した。
(サンプルNo.15〜No.28の作製)
以下のようにして、サンプルNo.15〜No.28の燃料電池スタック構造体を作製した。サンプルNo.15〜No.28は、図9に示した構成を有する
まず、長さ200mm、幅50mm、厚み2mmのセルを準備した。セルの外面は、YSZシール膜によって覆われている。セルの内部には、燃料流路が形成されている。
次に、セル支持孔を有するステンレス鋼製のマニホールドを準備した。
次に、セル支持孔の内周面全周に親和性材料としての非晶質材料のペーストを塗布した後、熱処理(850℃、1時間)することによって親和性材料を結晶化した。この際、セルの長手方向における親和性材料の塗布長さをサンプルごとに調整することによって、表2に示すように、接合材の充填部とセルとの第1接触長さC1と、充填部とセル支持孔との第2接触長さC2とをサンプルごとに変更した。
次に、セルの一端部をセル支持孔に挿入した。
次に、接合材としての非晶質材料のペーストをセルとセル支持孔の隙間に充填した後、熱処理(850℃、1時間)することによって接合材を結晶化した。
(接合材の観察)
まず、各サンプルにおいて、セルの幅方向両端の2箇所とセルの幅方向中央両側の2箇所とにおけるセルの外面に垂直な断面を露出させた。
次に、各サンプルの4つの断面を走査型電子顕微鏡(日本電子社製、型式JSM6610LV)を用いて観察することによって、接合材の充填部とセルとの第1接触長さC1と、充填部とセル支持孔との第2接触長さC2と、セルとセル支持孔との隙間の間隔Kとを算出した。第1接触長さC1、第2接触長さC2及び間隔Kは、4つの断面それぞれにおける測定値の算術平均値である。算出結果を表1及び表2にまとめて示す。
(接合材形成後のガスリーク試験)
各サンプルの燃料流路の出口をゴムキャップで封止した後、加圧した燃料ガスをマニホールドに導入した。
次に、各サンプルを液体中に浸漬させて、接合材から気泡が発生するか否かを目視で観察した。表1及び表2では、気泡が発生したサンプルが「リークあり」と評価され、気泡が発生しなかったサンプルが「リークなし」と評価されている。
(熱サイクル試験後のガスリーク試験)
各サンプルの燃料流路に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を2時間で常温から750度まで上昇させた後、4時間で常温まで低下させる工程を10サイクル繰り返した。
次に、各サンプルの燃料流路の出口をゴムキャップで封止した後、加圧した燃料ガスをマニホールドに導入した。
次に、各サンプルを液体中に浸漬させて、接合材から気泡が発生するか否かを目視で観察した。表1及び表2では、気泡が発生したサンプルが「リークあり」と評価され、気泡が発生しなかったサンプルが「リークなし」と評価されている。
表1及び表2に示すように、第1接触長さC1が第2接触長さC2と異なるサンプルNo.3〜14,17〜28では、接合材形成後における接合材からのガスリークを抑制できた。これは、第1接触長さC1と第2接触長さC2が同じであるサンプルNo.1,2,15,16に比べて、充填部の内面とセルの外面との境界付近や充填部の内面とセル支持孔の内周面との境界付近における応力集中を抑えられたためである。
また、表1に示すように、第1接触長さC1が第2接触長さC2よりも長いサンプルNo.3〜14のうち、第2接触長さC2に対する第1接触長さC1の比(C1/C2)を1.19以上39.40以下としたサンプルNo.3〜12では、熱サイクル試験後においても接合材からのガスリークを抑制できた。
また、表2に示すように、第1接触長さC1が第2接触長さC2よりも短いサンプルNo.17〜28のうち、第1接触長さC1に対する第2接触長さC2の比(C2/C1)を1.09以上39.20以下としたサンプルNo.17〜26では、熱サイクル試験後においても接合材からのガスリークを抑制できた。