JP6040133B2 - 立向上進ガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents
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Description
かかる溶接方法によれば、ストレート運棒においても、5.0mm以下の脚長とする溶接において、アーク安定性に優れるとともに、1パスで良好なビード形状が得られる。なお、ストレート運棒とは、ウィーヴィングを行うことなく直線状に溶接する運棒のことである。
本発明は、ガスシールドアーク溶接用チタニヤ系フラックス入りワイヤを使用した立向上進ガスシールドアーク溶接方法である。そして、溶接方法は、ワイヤ全質量に対しTiO2:4.5〜8.0質量%を含有するフラックス入りワイヤを使用し、トーチ傾斜角度:55〜85°、溶接電流:100〜180A、ワイヤ突出し長さ:5〜30mmを溶接条件とするものである。
まず、フラックス入りワイヤについて説明する。
本発明に用いるフラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対しTiO2を4.5〜8.0質量%含有する。フラックス入りワイヤの成分は、TiO2を前記所定量含有すればその他の成分については特に規定されるものではない。その他の成分としては、例えばC、Si、Al、Na、Kなどが挙げられ、これらを含有する場合は、C:0.03〜0.10質量%、Si:0.8〜1.3質量%、Al:0.10〜0.50質量%、NaとKとの合計:0.03〜0.15質量%であることが好ましい。
<TiO2:4.5〜8.0質量%>
適正なTiO2量添加は、溶融金属の垂れを抑える効果が得られ、良好なビード形状が得られる。ワイヤ全質量当たりのTiO2の含有量が4.5質量%未満では、溶融金属の垂れを抑えるスラグ成分量が不足し、凸ビードとなる。一方、8.0質量%を超えると、スラグ量が多いため、アークがスラグに当たり、アーク不安定となりビード揃いが悪くなる。したがって、TiO2含有量は4.5〜8.0質量%とする。TiO2含有量は溶融金属の垂れを抑えるスラグ成分量を増加させる観点から、5.0質量%以上であると好ましい。また、スラグ量をより適度にする観点から、7.0質量%以下であると好ましい。
ワイヤ全質量当たりのC量を調整することで、より適正なアーク安定性が確保でき、より良好なビード形状が得られる。ワイヤ全質量当たりのCの含有量が0.03質量%以上であれば、アーク安定性がより改善され、ビード形状がより良好となる。一方、0.10質量%以下であれば、スパッタ発生量が減少する。したがって、C含有量は0.03〜0.10質量%が好ましい。C含有量はアーク安定性をより向上させる観点から、0.04質量%以上であるとより好ましい。また、スパッタ発生量をより減少させる観点から、0.07質量%以下であるとより好ましい。
適正なSi量添加は、溶融金属の垂れを抑える効果が得られ、より良好なビード形状が得られる。ワイヤ全質量当たりのSi含有量が0.8質量%以上であれば、溶融金属の垂れを抑える効果が大きく、ビード形状がより良好となる。一方、1.3質量%以下であれば、機械的性質の吸収エネルギー値がより良好となる。したがって、Si含有量は0.8〜1.3質量%が好ましい。Si含有量は溶融金属の垂れを抑える効果をより大きくする観点から、0.9質量%以上であるとより好ましい。また、機械的性質の吸収エネルギー値をより良好なものとする観点から、1.1質量%以下であるとより好ましい。なお、SiはSi単体と、SiO2の化合物中のSi換算値の総量である。
適正なAl量添加は、溶融金属の垂れを抑える効果が得られ、より良好なビード形状が得られる。ワイヤ全質量当たりのAlの含有量が0.10質量%以上であれば、溶融金属の垂れを抑えるスラグ成分量が増え、ビード形状がより良好となる。一方、0.50質量%以下であれば、スパッタ発生量が減少する。したがって、Al含有量は0.10〜0.50質量%が好ましい。Al含有量は溶融金属の垂れを抑えるスラグ成分量をより増やす観点から、0.25質量%以上であるとより好ましい。
適正なNa,K源の添加は、良好なアーク安定性が得られる効果があり、より良好なビード形状が得られる。ワイヤ全質量当たりのNa+Kの含有量が0.03質量%以上であれば、アーク安定性がより改善され、ビード形状がより良好となる。一方、0.15質量%以下であれば、耐吸湿性が向上する。したがって、NaとKとの合計の含有量は0.03〜0.15質量%が好ましい。NaとKとの合計の含有量はアーク安定性をさらに改善する観点から、0.05質量%以上であるとより好ましい。また、耐吸湿性をより向上させる観点から、0.12質量%以下であるとより好ましい。なお、Na,Kは、それぞれNa,K単体と、Na,Kの化合物中のNa,K換算値の総量である。
フラックス入りワイヤの残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えば、P,S,Ni,Cr,Mo,V,Nb,Sn等が挙げられ、それぞれ0.05質量%以下含有しても問題ない。
また、強度を調節するために、Mnを1.0〜3.0質量%、スラグ形成剤としてZrを0.01〜0.50質量%、Al2O3を0.01〜0.20質量%添加してもよい。
フラックス入りワイヤの製造方法としては、帯鋼の長さ方向にフラックスを散布してから包み込むように円形断面に成形し伸線する方法や、太径の鋼管にフラックスを充填して伸線する方法がある。しかしながら、いずれの方法でも本発明には影響しないため、いずれの方法で製造しても良い。さらにシームが有るものと無いものがあるが、これもいずれでも良い。外皮の成分については何ら規定する必要はないが、コスト面と伸線性の面から軟鋼の材質を用いるのが一般的である。また、表面に銅めっきを施す場合もあるが、めっきの有無は問わない。
<トーチ傾斜角度:55〜85°>
溶接電流が100A未満では、アーク不安定となり溶接ビードが不揃いとなる。一方、溶接電流が180Aを超えると、溶着量が多くなるため、小脚長溶接が達成されない。したがって、溶接電流は100〜180Aとする。好ましい下限は110A、好ましい上限は150Aである。溶接電流が110A以上であると、アークが安定しビード形状が良好となる。したがって、溶接電流は110A以上であると好ましい。また、150A以下であると溶着量が適正化され、小脚長溶接が容易となる。したがって、溶接電流は150A以下であると好ましい。
図2に示すように、ワイヤ突き出し長さLとはチップ3の先端から母材2までの距離をいう。
ワイヤ突出し長さは、適正なワイヤ突出し長さとすることでワイヤ送給量が調整され、小脚長溶接に対し適正な溶着量が達成できる。ワイヤ突出し長さが5mm未満では、溶接においてトーチノズルにスパッタが溜まり易く、安定した溶接が実施不可能である。一方、ワイヤ突出し長さが30mmを超えると、溶着量が多くなるため、小脚長溶接が達成されない。したがって、ワイヤ突出し長さは5〜30mmとする。好ましい下限は10mm、好ましい上限は20mmである。ワイヤ突出し長さが10mm以上であると、アーク安定性が良好となる。したがって、ワイヤ突出し長さは10mm以上であると好ましい。また、ワイヤ突出し長さが20mm以下であると、溶着量が適正化され小脚長溶接が容易となる。したがって、ワイヤ突出し長さは20mm以下であると好ましい。
<溶接金属の脚長:5.0mm以下>
図3は、溶接金属の脚長を示す模式図である。脚長(上脚長および下脚長の両方)の狙い値は、熱歪みの観点から5.0mm以下とする。脚長が5.0mmより大きいと、入熱増加に伴い溶接箇所が歪んでしまう。したがって、脚長は5.0mm以下とする。脚長は入熱増加をより抑制する観点から、好ましくは4.0mm以下である。
<ギャップ:0〜1mm>
ギャップが1mm以下であれば、小脚長すみ肉溶接が達成されやすく、溶接箇所に歪みが発生しにくい。また、溶融金属が垂れにくく良好なビード形状が達成されやすい。したがって、ギャップは0〜1mmが好ましい。
板厚が3mm以上であれば、アーク力および入熱で鋼板裏に溶融金属が抜ける可能性がない。したがって、板厚は3mm以上が好ましい。なお、より好ましくは5mm以上である。
ワイヤ径が1.0mm以上であれば、ワイヤが座屈しにくい。一方、ワイヤ径が1.2mm以下であれば、低い溶接電流でもアークが安定しやすいため、良好なビード形状が達成されやすい。したがって、ワイヤ径は1.0〜1.2mmが好ましい。
ワイヤ全質量あたりのフラックス充填率が10質量%以上であれば、アークの安定性がより良好となると共にスパッタ発生量が減少し、溶接作業性が向上する。一方、25質量%以下であれば、ワイヤの断線が発生したり、フラックスの充填中に粉がこぼれ落ちたりする等の事態が生じにくく、生産性が劣化しにくい。したがって、フラックス充填率は10〜25質量%が好ましい。
本発明の溶接方法では、フラックス入りワイヤの運棒をストレート運棒にして溶接することが好ましい。この場合にも、5.0mm以下の脚長とする溶接において、アーク安定性に優れるとともに、1パスで良好なビード形状が得られる。ただし、ストレート運棒に限らず、他の運棒の場合であっても、好適に溶接することが可能である。
まず、母材やワイヤの準備、溶接装置の各種設定など、立向上進ガスシールドアーク溶接を行うための諸準備をする(溶接準備工程)。次に、トーチ傾斜角度を55〜85°に設定する(トーチ傾斜角度設定工程)。次に、ワイヤ突出し長さを5〜30mmに設定する(ワイヤ突出し長さ設定工程)。そして、100〜180Aの溶接電流をワイヤに流し(電流供給工程)、立向上進ガスシールドアーク溶接を行う。なお、溶接準備工程の後の各工程の順は特に規定されるものではなく、順不同で行えばよい。また、同時に行っても良い。
まず、帯鋼を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管に成形した。次に、オープン管に、表1、2の化学組成となるように、スラグ形成剤、脱酸剤、アーク安定剤、金属または合金、Fe粉等を所要量添加したフラックスを充填した。次に、断面を円形に加工することでフラックス入りワイヤを作製した。その後、ワイヤは冷間引き抜き加工により1.2mmのワイヤ径とした。なお、冷間加工途中に加工硬化したワイヤの軟化を目的に焼鈍を施している。
[溶接条件]
溶接電源、極性:350A仕様サイリスタ電源、DCEP
溶接姿勢:立向上進
溶接速度:300〜400mm/min
シールドガス種類:100体積%CO2
シールドガス流量:25L/min
ワイヤ直径:1.2mm
フラックス充填率:15.0質量%
鋼板:JIS G 3101 SS400 厚さ6.0mm
<脚長>
脚長は、上脚(上脚長)と下脚(下脚長)の両方を測定した(図3参照)。
歪みについては、脚長が5.0mm以下では溶接部に歪みが確認されず、脚長が5.0mmより大きい場合は溶接部に歪みが確認された。したがって、脚長が5.0mm以下の場合は「○」、脚長5.0mmより大きい場合は「×」とした。
アーク安定性については、官能にて評価した。
スパッタも少なく連続したアークが発生した場合は「◎」、連続したアークが発生した場合は「○」、アーク切れを確認した場合は「×」とした。
ビード形状については、官能にて評価した。
ビードにおいて、優れた平滑さが確認された場合は「◎」、平滑である場合は「○」、凸形状である場合は「×」とした。
総合評価として、
歪み「○」、アーク安定性「◎」、ビード形状「◎」の場合は「◎」
歪み「○」、アーク安定性「◎」、ビード形状「○」の場合、または、歪み「○」、アーク安定性「○」、ビード形状「◎」の場合は「○〜◎」
歪み「○」、アーク安定性「○」、ビード形状「○」の場合は「○」
いずれかの項目が「×」の場合は「×」
とした。
これらの結果を表3、4に示す。
一方、No.18〜26は、本発明の範囲を満たさないため、良好な結果が得られなかった。
No.20はトーチ傾斜角度が下限値未満のため、アーク力で溶融金属が下に流れ、凸ビードとなった。
No.21は溶接電流が下限値未満のため、アークが安定せず、ビードが不揃いとなった。
No.22は溶接電流が上限値を超えるため、脚長が5.0mmを超え、溶接部が歪んだ。
No.24はワイヤ突出し長さが上限値を超えるため、脚長が5.0mmを超え、溶接部が歪んだ。
No.25はTiO2の含有量が下限値未満のため、溶融金属が垂れ、凸ビードとなった。
No.26はTiO2の含有量が上限値を超えるため、スラグにアークが当たり、アークが安定せず、ビードが不揃いとなった。
2 母材
2a 上板(縦板)
2b 下板(横板)
3 チップ
A トーチ傾斜角度
L ワイヤ突き出し長さ
Claims (3)
- ガスシールドアーク溶接用チタニヤ系フラックス入りワイヤを使用した立向上進ガスシールドアーク溶接方法において、
ワイヤ全質量に対しTiO2:4.5〜8.0質量%を含有するガスシールドアーク溶接用チタニヤ系フラックス入りワイヤを使用し、
トーチ傾斜角度:55〜85°、溶接電流:100〜180A、ワイヤ突出し長さ:5〜30mmを溶接条件とし、
溶接金属の脚長が5.0mm以下であることを特徴とする立向上進ガスシールドアーク溶接方法。 - 前記ガスシールドアーク溶接用チタニヤ系フラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対して、C:0.03〜0.10質量%、Si:0.8〜1.3質量%、Al:0.10〜0.50質量%、NaとKとの合計:0.03〜0.15質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の立向上進ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記ガスシールドアーク溶接用チタニヤ系フラックス入りワイヤの運棒をストレート運棒にして溶接することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の立向上進ガスシールドアーク溶接方法。
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