実施の形態1.
図1は、実施の形態1におけるモータ制御システムの構成を示すブロック図である。図1を用いて、実施の形態1におけるモータ制御装置を用いたモータ制御システムについて説明する。なお、以下においては、モータ制御システムのうち、特にトグル機構を用いた射出成形機の例について説明するが、トグル機構を用いたプレス成形機などであっても同様に実現することができる。また、本発明は、この実施の形態1により限定されるものではない。
実施の形態1のモータ制御システムは、図1に示すとおり、モータ制御装置1と、駆動装置2と、モータ3と、検出器4と、動力伝達機構5と、型開閉機構6とを備える。なお、以下において、モータ3、検出器4、動力伝達機構5、及び型開閉機構6のことを、駆動機構と称する。
モータ制御装置1は、駆動装置2に接続され、駆動装置2に対し、モータ3の参照信号であるモータ指令を出力する。モータ指令は、後述するモータ3の指令位置や指令速度など、モータ3の動作を規定するための指令情報のことである。実施の形態1において、モータ制御装置1は、モータ3の位置決めなどを指令するコントローラである。
また、モータ制御装置1は、ハードウェア構成として、記憶部100と、演算部200とを備える。記憶部100は、ROM(Read Only Memory)等のメモリであって、データやプログラムを記憶する。演算部200は、モータ制御装置1の全体の動作を制御する中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)である。演算部200は、記憶部100に記憶されたデータやプログラムを用いて、モータ3を制御する。モータ位置判定部101とモータ指令生成部102は、演算部200が記憶部100に記憶されたプログラムを実行することによって、モータ制御装置1内にソフトウェア的に実現される。
モータ位置判定部101は、モータ3の回転位置の情報であるモータ位置に基づいて、モータ位置が所定位置PHを通過したか否かなどを判定する。モータ指令生成部102は、モータ位置判定部101の判定結果に基づいて、モータ指令を生成する。
駆動装置2は、モータ3に接続され、モータ3を駆動するための駆動電流を出力する。実施の形態1において、駆動装置2は、サーボアンプである。モータ3は、駆動装置2から入力された駆動電流に基づいて動作する。実施の形態1において、モータ3は、サーボモータである。検出器4は、モータ3の有する軸に取り付けられ、モータ3の回転位置及び回転速度を検出する。実施の形態1において、検出器4は、ロータリエンコーダである。駆動装置2は、検出器4が接続されており、検出器4が検出したモータ3の回転位置及び回転速度が入力される。駆動装置2は、この回転位置及び回転速度がモータ制御装置1から入力されたモータ指令に追従するように、駆動電流をモータ3に供給する。また、駆動装置2は、検出器4が検出したモータ3の回転位置及び回転速度の情報を、モータ位置判定部101に出力する。
動力伝達機構5は、モータ3と型開閉機構6に接続され、モータ3から受けた駆動力を型開閉機構6に伝達する。型開閉機構6は、動力伝達機構5から伝達されたモータ3の駆動力により、後述するとおり金型7を開閉させる。
図2は、実施の形態1におけるモータ制御システムの構成を示す模式図である。なお、図2は、モータ制御システムの駆動機構について図示し、モータ制御装置1及び駆動装置2の図示を省略している。
動力伝達機構5は、図2に示すとおり、プーリ51と、タイミングベルト52と、プーリ53とを備える。動力伝達機構5は、モータ3から受けた駆動力を、プーリ51、タイミングベルト52、及びプーリ53を介して型開閉機構6に伝達する。
型開閉機構6は、案内部材61と、可動部材62と、リンク機構63と、可動盤64と、固定盤65と、後部固定盤66と、タイバー67とを備える。案内部材61は、直線形状に設けられ、可動部材62の移動を案内する。実施の形態1において、案内部材61は、ボールネジである。可動部材62は、案内部材61に取り付けられ、モータ3の駆動力に基づいて案内部材61に沿って移動可能に設けられる。実施の形態1において、可動部材62は、クロスヘッドである。
リンク機構63は、一端側が可動部材62に接続されるとともに他端側が可動盤64に接続され、可動部材62の動きを可動盤64に伝達する。リンク機構63は、複数のリンク部材601及びこれらのリンク部材601を連結する複数のジョイント602を備える。複数のリンク部材601は、複数のジョイント602により、互いに回転可能に接続されている。実施の形態1において、リンク機構63は、トグル機構である。トグル機構とは、リンク機構の一種であって、モータの駆動力を増幅し、大きな力を得るために用いられる倍力機構の一種である。
可動盤64は、一方の面がリンク機構63と接続し、他方の面が固定盤65と対向するように設けられている。固定盤65は、型開閉機構6全体の位置が変化しないように、図示しない架台構造物に固定されている。
後部固定盤66は、案内部材61などを固定するための盤である。後部固定盤66は、型開閉機構6全体の位置が変化しないように、図示しない架台構造物に固定されている。タイバー67は、後部固定盤66、可動盤64、及び固定盤65を接続するための部材であり、後部固定盤66と固定盤65に固定されるとともに可動盤64を支持し、型開閉の動作中において可動盤64の移動を案内する。
なお、固定盤65と後部固定盤66は、モータ3が駆動してもその駆動力が直接的には伝わらないように構成されている。
金型7は、可動側金型71と固定側金型72とを備える。可動側金型71は可動盤64に、固定側金型72は固定盤65に、それぞれ取り付けられている。金型7は、可動側金型71と固定側金型72が接触した状態において、これらの間に所定の隙間73が形成されるように構成されている。
図3は、実施の形態1におけるモータ制御システムの構成を示す模式図であって、リンク機構63が伸びきった状態を示す図である。なお、図3は、モータ制御システムの駆動機構について図示し、モータ制御装置1及び駆動装置2の図示を省略している。一方、前述の図2は、実施の形態1におけるモータ制御システムのうち、リンク機構63が縮みきった状態を示している。図2及び図3を用いて、実施の形態1のモータ制御システムにおいて、射出成形機の成形品を得るための動力伝達機構5及び型開閉機構6の動作を説明する。
駆動装置2が駆動電流によりモータ3を駆動した場合、モータ3の駆動により発生した回転運動の駆動力は、動力伝達機構5のプーリ51、タイミングベルト52、及びプーリ53により型開閉機構6の案内部材61に伝達され、さらに、ボールネジである案内部材61により並進運動に変換され、可動部材62を移動させる。
ここで、可動部材62が移動した場合、リンク機構63は、各リンク部材601がジョイント602を介して接続されているため、可動部材62から受ける力により各リンク部材601がジョイント602を中心として回転する。リンク機構63は、このリンク部材601の回転に従って、全体として伸縮運動をする。このため、可動部材62の動きが各リンク部材601を伝わって可動盤64に伝達し、リンク機構63は、可動部材62と同じ方向に可動盤64を移動させる。
リンク機構63は、図2において、完全に縮みきった状態である。図2の状態において、可動部材62は、案内部材61の根元側(紙面左側の後退方向)にある。モータ3の駆動により可動部材62が図2の状態から案内部材61の先端側(紙面右側の前進方向)へ向かって前進移動(紙面右側の前進方向に移動)した際、リンク機構63は、可動部材62の移動に伴って伸長する。このとき、可動部材62に取り付けられた可動側金型71も、可動部材62の移動に連動して前進移動する。
一方、リンク機構63は、図3において、完全に伸びきった状態である。可動部材62が可動域のうちの最も先端側へと移動した場合、リンク機構63は、図3に示すとおり完全に伸びきった状態となる。リンク機構63が完全に伸びきった状態において、可動側金型71は、図3に示すとおり固定側金型72と接触する。この状態において、可動側金型71と固定側金型72の間に形成された隙間73に原材料となる樹脂を充填し、固化させることにより成形品を得る。
その後、モータ3の駆動により可動部材62が図3の状態から案内部材61の根本側へ向かって後退移動した際、リンク機構63は、可動部材62の移動に伴って収縮する。このとき、可動部材62に取り付けられた可動側金型71も、可動部材62の移動に連動して後退移動する。
可動部材62が可動域のうちの最も根本側へと移動した場合、リンク機構63は、図2に示すとおり縮みきった状態となる。リンク機構63が縮みきった状態において、可動側金型71は、図2に示すとおり固定側金型72と接触しない。図2に示すように可動側金型71を固定側金型72から離間させた状態において、金型7から成形品を取り出す。
以下において、可動盤64及び可動側金型71の前進移動及び後退移動のことを、可動盤64及び可動側金型71の並進運動と称する。モータ3を駆動して可動部材62を前進移動させ、可動側金型71を固定側金型72に接触させることを、金型7を閉じると称する。モータ3を駆動して可動部材62を後退移動させ、可動側金型71を固定側金型72から離間させることを、金型7を開くと称する。
このように、モータ3を駆動して可動部材62を並進運動させることにより、リンク機構63が伸縮運動をし、この伸縮運動に伴い可動盤64及び可動側金型71が並進運動をするため、金型7の開閉動作を実現することができる。
また、実施の形態1のリンク機構63は、上記のとおり、倍力機構の一種であるトグル機構である。このため、金型の開閉動作を実現するだけでなく、てこの原理を利用することでモータ3の駆動力を増幅し、トグル機構の先端に取り付けられた可動側金型71と固定型金型72の間に大きな型締力を発生させることができる。なお、トグル機構の速度増幅率は、トグル機構中のリンク長やトグル機構の姿勢、すなわちクロスヘッドの位置などに依存する。
図4は、実施の形態1におけるリンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させるためにモータ制御装置1が実行する動作を示すフローチャートである。図5は、図4のフローチャートに従って動作するモータ制御装置1のモータ指令生成部102により算出された各種モータ指令の典型的な時間プロファイル例である。図4及び図5を用いて、実施の形態1のモータ制御装置1がモータ指令を算出する動作のうち、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる場合を説明する。
なお、モータ指令は、モータ3の指令位置Pと、指令速度Vと、指令加速度Aとを有する。指令位置Pは、モータ3の参照位置となる指令である。指令速度Vは、モータ3を所定の速度で駆動する際の参照速度となる指令である。指令速度Vは、モータ3の指令位置Pの1回微分のことである。指令加速度Aは、モータ3の速度が所定の速度となるようモータ3を加速または減速する場合において、モータ3を所定の加速度で加速または減速する際の参照加速度となる指令である。指令加速度Aは、モータ3の指令位置Pの2回微分のことである。
図5においては、リンク機構63が縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長するための動作が開始される時間を0として、モータの指令位置P、指令速度V、及び指令加速度Aの時間プロファイルを図示している。
なお、本明細書において、位置の方向は、例えば図2に示されるようなリンク機構63が縮んだ状態から例えば図3に示されるようなリンク機構63が伸びた状態へと、リンク機構63が伸長するときの動作方向を正方向として説明する。逆に、リンク機構63が伸びた状態から縮んだ状態へと、リンク機構63が収縮するときの動作方向を負方向として説明する。
図4及び図5において、縮みきった状態のリンク機構63を伸長させる際、モータ制御装置1は、停止状態で動作を開始してからモータ位置が所定位置PHを通過するまでの加速初期は小さい正方向の加速度+A1でモータ3を加速し、所定位置PHを通過後、加速度+A1よりも大きい正方向の加速度+A2でモータ3を加速する。モータ制御装置1は、速度が+Vmaxになるようにモータ3を加速する。所定の時間の経過後、今度は負方向の加速度−A2でモータ3を減速し、モータ3を停止させる。これにより、図5に示されるようなモータ指令のパターンが得られる。
なお、モータ位置とは、リンク機構63が縮みきった状態と伸びきった状態との間で変化する際に移動する可動部材62の位置のうち、可動部材62の移動方向における案内部材61上の位置に対応するモータ3の回転位置である。このため、以下において、例えば、モータ位置が所定位置PHを通過したか否かを判定することは、可動部材62が所定の位置を通過したか否かを判定することと同等であるものとして説明する。
なお、駆動装置2は、モータ位置がモータ指令に追従するようにモータ3を制御する。このため、モータ位置と指令位置Pは、厳密に言うとモータ位置が指令位置Pよりもわずかに小さい値となるものの、両者の値はほぼ等しいと見なせる。図4及び図5においては、説明を分かりやすくするため、モータ位置と指令位置Pはほぼ等しいとみなして所定位置PHを記載している。
まず、図4のステップST1において、ユーザは、モータ位置のうち、図2に示すリンク機構63が縮みきった状態に対応するモータ位置PSと、図3に示すリンク機構63が伸びきった状態に対応するモータ位置PEと、をモータ制御装置1に入力する。また、ユーザは、モータ位置PSとモータ位置PEの間のモータ位置である所定位置PHをモータ制御装置1に入力する。
さらに、ユーザは、正方向の加速度+A1、正方向の加速度+A2、及び負方向の加速度−A2をモータ制御装置1に入力する。ここで、正方向の加速度+A2は正方向の加速度+A1よりも大きい値、すなわち(+A1)<(+A2)を満たす値であるとする。また、ユーザは、モータ3及びリンク機構63が動作可能な最大の速度である正方向の最大速度+Vmaxをモータ制御装置1に入力する。
図4のステップST2において、モータ制御装置1は、以降計算に必要となる前回指令速度Vb、前回指令位置Pbの初期値として、それぞれ、前回指令速度Vb=0、前回指令位置Pb=PSを設定し、これらのパラメータを初期化する。前回指令速度Vb及び前回指令位置Pbについてのこれらの値は、リンク機構63が縮みきった状態でモータ3が停止していることに対応している。
ステップST3においては、リンク機構63が縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長するための動作を開始するか否かを判断する。この判断は、例えば、モータ制御装置1よりもさらに上位のシーケンスコントロールが決定する。
ステップST3で動作を開始しないと判断した場合、再度ステップST3に移行し、動作を開始するまで待ち続ける。開始すると判断した場合、ステップST4に移行する。
なお、ステップST4から後述のステップST12までの動作は、所定のサンプリング周期Tsで実行され、このサンプリング周期Tsごとに、モータ指令生成部102が指令位置Pを算出するものとする。
ステップST4において、モータ位置判定部101は、検出器4が検出したモータ3の回転位置の情報から、モータ3のモータ位置を算出する。
ステップST5において、モータ位置判定部101は、算出したモータ位置が所定位置PHを通過したか否かを判定し、判定結果をモータ指令生成部102に出力する。通過していないと判定した場合、すなわちP<PHであると判定した場合、ステップST6に移行し、モータ指令生成部102は、モータ3の加速動作時の指令加速度Aを、+A2よりも小さな正方向の加速度+A1とする。一方、通過したと判定した場合、すなわちP>PHであると判定した場合、ステップST7に移行し、モータ指令生成部102は、モータ3の加速動作時の指令加速度Aを、+A1よりも大きな正方向の加速度+A2とする。
ステップST6、またはステップST7の処理が完了すると、ステップST8に移行し、モータ指令生成部102は、指令加速度A、サンプリング周期Ts、及び前回指令速度Vbを用いて、次の(式1)からモータ3の指令速度Vを算出する。
V=A・Ts+Vb (式1)
ステップST9において、モータ指令生成部102は、算出した指令速度Vが正方向の最大速度+Vmaxより大きいか否かを判断する。算出した指令速度Vが正方向の最大速度+Vmaxより大きいと判断した場合、ステップST10に移行し、モータ指令生成部102は、指令速度Vを正方向の最大速度+Vmaxとする。算出した指令速度Vが正方向の最大速度+Vmax以下である場合、またはステップST10の処理が完了した場合、ステップST11に移行し、モータ指令生成部102は、指令速度V、サンプリング周期Ts、及び前回指令位置Pbを用いて、次の(式2)からモータ3の指令位置Pを算出する。
P=V・Ts+Pb (式2)
ステップST12において、モータ指令生成部102は、モータ3の減速動作を開始するタイミングか否かを判定する。具体的には、モータ指令生成部102は、現在のモータ位置から減速動作を開始した場合に、当該減速動作後に停止したモータ3のモータ位置が、ちょうどモータ位置PEになるタイミングか否かを判定する。つまり、ステップST8で算出した指令速度Vと、後述する減速動作時の負方向の加速度−A2とを用いて、減速動作に必要な移動量、すなわち、速度Vから速度0に減速度A2(加速度−A2)で減速動作をする際の移動量V^2/A2を算出し、この値と現時点における指令位置Pとの合計がPEに一致した場合、減速動作を開始する。この場合、モータ指令生成部102は、次の(式3)が成立するか否かを計算することにより、上記判定を行う。
P+V^2/A2=PE (式3)
ステップST12で減速動作を開始するタイミングでないと判定した場合、ステップST13に移行し、モータ指令生成部102は、前回指令速度VbをステップST8で算出した指令速度Vの値で更新するとともに、前回指令位置PbをステップST11で算出した指令位置Pの値で更新する。そして、ステップST4に戻り、モータ制御装置1は、次のサンプリング周期TsにおけるステップST4以降の動作を、更新した指令速度V及び指令位置Pを用いて再度実行する。
ステップST12で減速動作を開始するタイミングであると判定した場合、ステップST14に移行し、モータ指令生成部102は、モータ3の減速動作時の指令加速度Aを、負方向の加速度−A2とする。
ステップST14の処理が完了すると、ステップST15に移行する。なお、ステップST15から後述のステップST17までの動作も、所定のサンプリング周期Tsで実行する。
ステップST15において、モータ指令生成部102は、減速動作時の指令加速度A(=−A2)、サンプリング周期Ts、及び前回指令速度Vbを用いて、上記の(式1)からモータ3の指令速度Vを算出する。また、モータ指令生成部102は、指令速度V、サンプリング周期Ts、及び前回指令位置Pbを用いて、上記の(式2)からモータ3の指令位置Pを算出する。
ステップST16において、モータ位置判定部101は、検出器4が検出したモータ3の回転位置の情報から、モータ3のモータ位置を算出する。
ステップST17において、モータ位置判定部101は、算出したモータ位置が、リンク機構63が伸びきった状態に対応するモータ位置PEに一致するか否かを判定し、判定結果をモータ指令生成部102に出力する。一致しないと判定した場合、すなわちP<PEであると判定した場合、ステップST18に移行し、モータ指令生成部102は、前回指令速度VbをステップST15で算出した指令速度Vの値で更新するとともに、前回指令位置PbをステップST15で算出した指令位置Pの値で更新する。そして、ステップST15に戻り、モータ制御装置1は、次のサンプリング周期TsにおけるステップST15以降の動作を、更新した指令速度V及び指令位置Pを用いて再度実行する。
ステップST17で一致すると判定した場合、すなわちP=PEであると判定した場合、リンク機構63は、図3に示すような伸びきった状態となっている。これにより、モータ制御装置1は、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させるためのモータ指令を算出する処理を終了する。
このとき、ステップST3で動作が開始された時間から、ステップST17でP=PEとなる時間までの、各サンプリング周期Tsにおける指令位置Pが算出される。この指令位置Pは、図5に示される指令位置であり、モータ3がモータ位置PSからモータ位置PEに至るまでのモータ3のモータ位置の軌跡である。
次に、リンク機構63を伸びきった状態から縮みきった状態へと収縮させる場合を説明する。図6は、実施の形態1におけるリンク機構を伸びきった状態から縮みきった状態へと収縮させるためにモータ制御装置が実行する動作を示すフローチャートである。図7は、図6のフローチャートに従って動作するモータ制御装置のモータ指令生成部により算出された各種モータ指令の典型的な時間プロファイル例である。図6及び図7を用いて、実施の形態1のモータ制御装置1がモータ指令を算出する動作のうち、リンク機構63を伸びきった状態から縮みきった状態へと収縮させる場合を説明する。
なお、図7においては、リンク機構63が伸びきった状態から縮みきった状態へと収縮するための動作が開始される時間を0として、モータの指令位置P、指令速度V、及び指令加速度Aの時間プロファイルを図示している。
図6及び図7において、伸びきった状態のリンク機構63を収縮させる際、モータ制御装置1は、動作を開始してから加速時間taが経過するまで、速度が0から−Vmaxになるように負方向の加速度−A3でモータ3を加速し、その後、一定速時間tcの間、一定速度−Vmaxを維持する。さらに、一定速時間tcを経過してから指令位置Pが所定位置PHを通過するまでの減速時間td1の間は、大きい正方向の加速度+A3でモータ3を減速し、所定位置PHを通過してから減速時間td2を経過するまでの間は、加速度+A3よりも小さい正方向の加速度+A4でモータ3を減速し、モータ3を停止させる。これにより、図7に示されるようなモータ指令のパターンが得られる。
図6のステップST21において、ユーザは、モータ位置のうち、図2に示すリンク機構63が縮みきった状態に対応するモータ位置PSと、図3に示すリンク機構63が伸びきった状態に対応するモータ位置PEと、をモータ制御装置1に入力する。また、ユーザは、モータ位置PSとモータ位置PEの間のモータ位置である所定位置PHをモータ制御装置1に入力する。なお、モータ位置PS、モータ位置PE、及び所定位置PHは、上記のリンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる場合と共通のものとして良い。
さらに、ユーザは、負方向の加速度−A3、正方向の加速度+A3、及び正方向の加速度+A4をモータ制御装置1に入力する。ここで、正方向の加速度+A4は正方向の加速度+A3よりも小さい値、すなわち(+A4)<(+A3)を満たす値であるとする。また、ユーザは、モータ3及びリンク機構63が動作可能な最大の速度である負方向の最大速度−Vmaxをモータ制御装置1に入力する。
ステップST22において、モータ指令生成部102は、図7に示す指令パターンの加速時間ta、一定速時間tc、減速時間td1、及び減速時間td2を、次の(式4)から(式7)により算出する。
ta=Vmax/A3 (式4)
td2=√((PH−PS)/A4) (式5)
td1=(Vmax−A4・td2)/A3 (式6)
tc=(PE−PS−(1/2・ta・Vmax+1/2・td1・Vmax+1/2・A3・td1^2+1/2・A4・td1^2))/Vmax (式7)
図6のステップST23において、モータ制御装置1は、前回指令速度Vb、前回指令位置Pb、動作を開始してからの経過時間tの初期値として、それぞれ、前回指令速度Vb=0、前回指令位置Pb=PE、経過時間t=0を設定し、これらのパラメータを初期化する。前回指令速度Vb、前回指令位置Pb、及び経過時間tについてのこれらの値は、リンク機構63が伸びきった状態でモータ3が停止していることに対応している。
ステップST24においては、金型7を開くための型開き動作を開始するか否かを判断する。例えば、型開き動作を開始するか否かの判断は、モータ制御装置1よりもさらに上位のシーケンスコントロールが決定する。
ステップST24で型開き動作を開始しないと判断した場合、再度ステップST24に移行し、動作を開始するまで待ち続ける。開始すると判断した場合、ステップST25に移行する。
なお、ステップST24から後述のステップST28までの動作は、所定のサンプリング周期Tsで実行され、このサンプリング周期Tsごとに、モータ指令生成部102が指令位置Pを算出するものとする。また、モータ指令生成部102は、算出した指令位置Pをモータ位置判定部101に出力する。
ステップST25において、モータ位置判定部101は、指令位置Pが所定の位置を通過したか否かを判定し、判定結果をモータ指令生成部102に出力する。具体的には、モータ位置判定部101は、上記の(式4)から(式7)により算出した加速時間ta、一定速時間tc、減速時間td1、及び減速時間td2を用いて、動作を開始してからの経過時間tが、次の(式8)から(式11)を満たすか否かを判定する。
0≦t<ta (式8)
ta≦t≦(ta+tc) (式9)
(ta+tc)<t≦(ta+tc+td1) (式10)
(ta+tc+td1)<t≦(ta+tc+td1+td2) (式11)
なお、モータ位置判定部101は、指令位置Pではなく、前回指令位置Pbが所定位置PHを通過したか否かを判定するようにしてもよい。
ステップST26において、モータ指令生成部102は、モータ位置判定部101の判定結果に応じて指令加速度Aを算出する。具体的には、モータ指令生成部102は、上記の(式8)を満たす場合には次の(式12)により、上記の(式9)を満たす場合には次の(式13)により、上記の(式10)を満たす場合には次の(式14)により、上記の(式11)を満たす場合には次の(式15)により、それぞれ指令加速度Aを算出する。
A=−A3 (式12)
A=0 (式13)
A=+A3 (式14)
A=+A4 (式15)
ステップST27において、モータ指令生成部102は、指令加速度A、サンプリング周期Ts、及び前回指令速度Vbを用いて、上記の(式1)からモータ3の指令速度Vを算出する。
ステップST28において、モータ指令生成部102は、指令速度V、サンプリング周期Ts、及び前回指令位置Pbを用いて、上記の(式2)からモータ3の指令位置Pを算出する。
ステップST29において、モータ指令生成部102は、経過時間tが(ta+tc+td1+td2)に一致するか否かを判定する。一致しないと判定した場合、すなわちt<(ta+tc+td1+td2)であると判定した場合、ステップST30に移行し、モータ指令生成部102は、経過時間tを(t+Ts)の値で更新する。さらに、前回指令速度VbをステップST27で算出した指令速度Vの値で更新するとともに、前回指令位置PbをステップST28で算出した指令位置Pの値で更新する。そして、ステップST25に戻り、モータ制御装置1は、次のサンプリング周期TsにおけるステップST25以降の動作を、更新した指令速度V及び指令位置Pを用いて再度実行する。
ステップST29で一致すると判定した場合、すなわちt=(ta+tc+td1+td2)であると判定した場合、リンク機構63は、図2に示すような縮みきった状態となっている。これにより、モータ制御装置1は、リンク機構63を伸びきった状態から縮みきった状態へと収縮させるためのモータ指令を算出する処理を終了する。
このとき、ステップST24で動作が開始された時間から、ステップST29でt=(ta+tc+td1+td2)となる時間までの、各サンプリング周期Tsにおける指令位置Pが算出される。この指令位置Pは、図7に示される指令位置であり、モータ3がモータ位置PEからモータ位置PSに至るまでのモータ3のモータ位置の軌跡である。
また、モータ指令生成部102が、加速時間ta、一定速時間tc、減速時間td1、及び減速時間td2を上記の(式4)から(式7)により算出することで、リンク機構63が伸びきった状態に対応するモータ位置PEから縮みきった状態に対応するモータ位置PSへとモータ3を位置決めすることができる。
次に、実施の形態1の効果について説明する。前述のように、リンク機構63は、複数のリンク部材601がいくつかのジョイント602を介して接続されている。それぞれのリンク部材601は、一般に、熱膨張の影響によりごく僅かながらもリンク長が変わることがある。また、熱膨張によるリンク長の変化があってもリンク機構63が動作できるように、ジョイント602に意図的にガタをいくらか設けて設計することがある。ここで、ガタとは、がたつきのことであり、機械設計時に意図的に設けられたクリアランスがこのガタとなる。さらに、意図的にガタを設けようとしなくても、リンク部材601やジョイント602の製造時の工作誤差などにより、ガタが発生してしまうこともある。
一方、リンク機構63をモータ3によって駆動する場合、衝撃や振動が発生することがある。また、リンク機構63にガタが生じているときにモータ3を動作させると、衝撃や振動が大きくなりやすい。特に、モータ3を大きな加速度で駆動すると大きな衝撃が発生する。
ここで、リンク機構63が縮んだ状態においては、複数のリンク部材601間の拘束が弱いため、ガタが大きくなりやすい。反対に、ある程度リンク機構63が伸びた状態になると、複数のリンク部材601間の拘束が強くなり、ガタが小さくなるか、またはガタが生じなくなる。
そこで、実施の形態1のモータ制御装置1は、縮みきった状態のリンク機構63を伸長させる際、停止状態で動作を開始してからモータ位置が所定位置PHを通過するまでの加速初期は小さい正方向の加速度+A1でモータ3を加速する。また、伸びきった状態のリンク機構63を収縮させる際、モータ制御装置1は、指令位置Pが所定位置PHを通過してから減速時間td2を経過するまでの間は、小さい正方向の加速度+A4でモータ3を減速し、モータ3を停止させる。ここで、モータ位置が所定位置PHを通過したか否かを判定することは、可動部材62が所定の位置を通過したか否かを判定することと同等である。また、上記のとおり、駆動装置2は、モータ位置がモータ指令に追従するようにモータ3を制御するため、指令位置Pは、モータ3のモータ位置とほぼ等しいと見なせる。このため、指令位置Pが所定位置PHを通過したか否かを判定することは、可動部材62が所定の位置を通過したか否かを判定することと同等である。これにより、リンク機構63のガタが大きい状態では小さな加速度でモータ3を動作させるため、リンク機構63の駆動時の衝撃や振動を低減することができる。
また、実施の形態1のモータ制御装置1は、縮みきった状態のリンク機構63を伸長させる際、モータ位置が所定位置PHを通過後、加速度+A1よりも大きい正方向の加速度+A2でモータ3を加速する。さらに、伸びきった状態のリンク機構63を収縮させる際、モータ制御装置1は、一定速度−Vmaxを維持する一定速時間tcを経過してから指令位置Pが所定位置PHを通過するまでの減速時間td2の間は、加速度+A4よりも大きい正方向の加速度+A3でモータ3を減速する。ここで、モータ位置が所定位置PHを通過したか否かを判定すること、または指令位置Pが所定位置PHを通過したか否かを判定することは、可動部材62が所定の位置を通過したか否かを判定することと同等である。これにより、リンク機構63のガタが小さい、またはガタが解消されている状態では大きな加速度でモータ3を動作させるため、リンク機構63の駆動時間を短縮することができる。
このように、実施の形態1のモータ制御装置1は、衝撃や振動の低減とリンク機構63の高速動作とを両立できる。
また、リンク機構63において、トグル機構の速度増幅率は、上記のとおり、トグル機構中のリンク長やクロスヘッドの位置などに依存する。このため、これらを考慮して速度増幅率を算出したり、または制御装置に記憶させたりする場合、制御装置の演算リソースやメモリを多く消費し、制御装置のコストアップになってしまう。これに対し、実施の形態1のモータ制御装置1は、可動部材62または可動盤64とモータ位置との非線形関係などを予め記憶しておくためのメモリや複雑な演算処理が必要ないため、簡易な構成で実現することができる。
なお、リンク機構63のガタは、一般に、リンク機構63が縮んでいる状態の場合にしか発生しない。このため、例えば図3のようにリンク機構63が完全に伸びきった状態とならなくても、リンク機構63のガタは、リンク機構63がある程度伸びれば解消する。よって、所定位置PHの設定の具体例としては、目安として、モータ位置がモータ位置PSのときにリンク機構63の伸び量が0、モータ位置がモータ位置PEのときにリンク機構63の伸び量が最大値となると仮定した場合に、リンク機構63の伸び量が最大値の10%以下となるモータ位置に設定することが挙げられる。
なお、実施の形態1において、縮みきった状態のリンク機構63を伸長させる際、モータ位置判定部101は、検出器4が検出したモータ3の回転位置の情報からモータ3のモータ位置を算出し、算出したモータ位置が所定位置PHを通過したか否かなどを判定することを説明したが、これに限られるものではない。例えば、モータ制御装置1は、伸びきった状態のリンク機構63を収縮させる際と同様に、指令位置Pを用いて判定するようにしてもよい。上記のとおり、駆動装置2は、モータ位置がモータ指令に追従するようにモータ3を制御する。このため、指令位置Pは、モータ3のモータ位置とほぼ等しいと見なせる。この場合、モータ制御装置1は、図4のステップST4におけるモータ位置を検出する処理を省略し、ステップST5において、モータ位置判定部101が、指令位置Pまたは前回指令位置Pbが所定位置PHを通過したか否かを判定する。この場合においても、モータ位置を使用したときと同様の動作を実現することができ、また、モータ位置を使用する場合よりも簡易な構成で実現することができる。
また、実施の形態1において、伸びきった状態のリンク機構63を収縮させる際、モータ位置判定部101は、モータ指令生成部102が算出した指令位置Pが所定の位置を通過したか否かを判定することを説明したが、これに限られるものではない。例えば、モータ制御装置1は、縮みきった状態のリンク機構63を伸長させる際と同様に、モータ位置判定部101がモータ位置を算出し、算出したモータ位置が所定位置PHを通過したか否かなどを判定するようにしてもよい。この場合においても、指令位置Pを使用したときと同様の効果を奏することができる。
なお、実施の形態1において、縮みきった状態のリンク機構63を伸長させる際、モータ3の加速度は、図5に示すとおり、所定位置PHを通過する前は小さい正方向の加速度+A1とした。そして、所定位置PHを通過すると+A1よりも大きい正方向の加速度+A2として、ステップ的に変化させて大きくする例を説明した。また、伸びきった状態のリンク機構63を収縮させる際、モータ3の加速度は、図7に示すとおり、所定位置PHを通過する前は大きい正方向の加速度+A3とした。そして、所定位置PHを通過すると+A3よりも小さい正方向の加速度+A4として、ステップ的に変化させて小さくする例を説明した。しかし、モータ3の加速度は、これらステップ的に変化させる場合に限られるものではない。例えば、所定位置PHを通過する前後で、直線、または時間に関する多項式や三角関数などの曲線を用いて、加速度+A1から加速度+A2に、または加速度+A3から加速度+A4に、滑らかに変化させるモータ指令を生成するように構成してもよい。
なお、実施の形態1において、縮みきった状態のリンク機構63を伸長させる際、正方向の加速度+A1、正方向の加速度+A2、及び負方向の加速度−A2を使用することを説明した。また、伸びきった状態のリンク機構63を収縮させる際、負方向の加速度−A3、正方向の加速度+A3、及び正方向の加速度+A4を使用することを説明した。これらのパラメータの値は、共通のものとして良い。例えば、正方向の加速度+A1は正方向の加速度+A4と、正方向の加速度+A2は正方向の加速度+A3と、負方向の加速度−A2は負方向の加速度−A3と、それぞれ同じ大きさの値を使用しても良い。
さらに、実施の形態1において、縮みきった状態のリンク機構63を伸長させる際、または伸びきった状態のリンク機構63を収縮させる際について説明を行ったが、これらに限られるものではない。すなわち、縮みきった状態から多少伸びた状態のリンク機構63を伸長させる際、または伸びきった状態から多少縮んだ状態のリンク機構63を収縮させる際においても、ガタの大きさが変化する位置を通過するのであれば、言うまでもなく、同様の構成及び動作により同様の効果を奏することができる。
実施の形態2.
実施の形態1においては、モータ制御装置1がリンク機構63を伸縮させる際に、所定位置PHを通過する前後でモータ3の加速度の大きさを変更することにより、ガタによる衝撃や振動の低減と高速動作とを両立することについて説明した。しかし、衝撃や振動を低減しつつ、さらに高速にリンク機構63を動作させるためには、ガタが生じている領域では加速度を小さくし、ガタが解消したら直ちに加速度を大きくする必要がある。このためには、実施の形態1において説明した所定位置PHを、リンク機構63にちょうどガタが発生し、または解消する境界のモータ位置付近に設定する必要がある。実施の形態2では、より高速な動作を実現するために、この所定位置PHを正確に算出するモータ制御装置について説明する。
図8は、実施の形態2におけるモータ制御システムの構成を示す模式図である。図8を用いて、実施の形態2におけるモータ制御装置を用いたモータ制御システムについて説明する。なお、実施の形態2において、実施の形態1と同一の名称及び符号を付しているものは、同一または同等の構成を表すものとして説明を省略し、異なる部分を重点的に説明する。また、本発明は、この実施の形態2により限定されるものではない。
実施の形態2におけるモータ制御システムのモータ制御装置1aは、図8に示すとおり、ハードウェア構成として、記憶部100aと、演算部200aとを備える。記憶部100aは、ROM等のメモリであって、演算部200aがモータ3を制御するためのデータやプログラムを記憶する。演算部200aは、モータ制御装置1aの全体の動作を制御する中央処理装置(CPU)である。実施の形態2の通常動作指令生成部10aと、試験運転指令生成部11と、モータ指令選択部12とは、実施の形態1の場合と同様に、演算部200aが記憶部100aに記憶されたプログラムを実行することによって、モータ制御装置1a内にソフトウェア的に実現される。
通常動作指令生成部10aは、モータ位置判定部101と、モータ指令生成部102aとを備える。それぞれの動作等は、実施の形態1で説明したものと基本的に同じであり、モータ位置判定部101が、モータ位置が所定位置PHを通過したか否かなどを判定し、モータ指令生成部102aが、モータ位置判定部101の判定結果に基づいてモータ指令を生成する。
実施の形態1と異なる点として、実施の形態2のモータ指令生成部102aは、所定位置PHを、後述する試験運転指令生成部11が生成した境界モータ位置Phから算出する。境界モータ位置Phとは、リンク機構63にちょうどガタが発生し、または解消する境界に対応するモータ位置のことである。
試験運転指令生成部11は、試験運転モータ指令生成部111と、試験データ記憶部112と、境界モータ位置算出部113とを備える。試験運転モータ指令生成部111は、モータ指令のうち、境界モータ位置Phを算出するための試験運転をモータ3に実行させるモータ指令を生成する。
試験データ記憶部112には、駆動装置2から、モータ3が試験運転を実行したときに検出器4が検出したモータ3の回転位置及び回転速度の情報と、モータ3に供給された駆動電流の電流値の情報と、が入力される。試験データ記憶部112は、モータ3が試験運転を実行したときの回転位置の情報であるモータ位置と電流値とを時間同期して記憶するメモリである。境界モータ位置算出部113は、試験データ記憶部112が記憶したデータに基づいて、境界モータ位置Phを算出する。
モータ指令選択部12は、通常動作指令生成部10aと試験運転指令生成部11のどちらのモータ指令を駆動装置2に出力するかを選択する。
図9は、実施の形態2のモータ制御装置が実行する動作を示すフローチャートである。図10は、図9のフローチャートに従って動作するモータ制御装置の試験運転指令生成部により算出された各種モータ指令の典型的な時間プロファイル例である。図9及び図10を用いて、実施の形態2のモータ制御装置1aがモータ指令を算出する動作を説明する。
なお、図9のフローチャートの処理は、一定のサンプリング周期ごとに行うのではなく、すなわちオンラインではなく、バッチ的に処理を行う。また、図10においては、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる試験運転が開始される時間を0として、モータの指令位置P、指令速度V、及び指令加速度Aの時間プロファイルを図示している。
図9のステップST41において、モータ制御装置1aは、モータ指令選択部12のスイッチを変更し、試験運転指令生成部11が生成したモータ指令を出力するように切り替える。
ステップST42において、試験運転モータ指令生成部111は、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させるためのモータ指令を算出する。具体的なモータ指令のパターンの典型例は、図10に示すとおり、加速動作時と減速動作時の加速度がすべて等しい、等加速度パターンである。実施の形態2において、試験運転モータ指令生成部111は、図10に示す指令パターンのモータ指令を算出する。モータ制御装置1aは、このモータ指令を出力し、モータ3を駆動する。
ステップST43において、試験データ記憶部112には、駆動中のモータ3のモータ位置と、駆動装置2がモータ3に供給している駆動電流の電流値の情報と、が駆動装置2から入力される。試験データ記憶部112は、このモータ位置と電流値とを時間同期して記憶する。例えば、試験データ記憶部112は、モータ位置と電流値とを所定のサンプリング周期毎にメモリに記憶することにより、時間同期して記憶する。
ステップST44において、境界モータ位置算出部113は、試験データ記憶部112に記憶されたモータ位置に基づいて、モータ3の試験運転が完了したか否かを判断する。ステップST44で試験運転が完了していないと判断した場合、再度ステップST44に移行し、試験運転が完了するまで待ち続ける。試験運転が完了したと判断した場合、ステップST45に移行する。なお、試験運転が完了した場合、リンク機構63は、縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長して停止している。
ステップST45において、境界モータ位置算出部113は、試験データ記憶部112に記憶されたデータから、モータ3の加速動作中に電流値が急激に増加するタイミングを検出する。具体的な検出例としては、電流値を微分または差分した信号を算出し、この信号がある閾値を越えるタイミングを検出することが挙げられる。なお、モータ3が加速動作中か否かの判断は、指令速度Vが増加しているか否か、または指令加速度Aがある正方向の値をとっているか否かを判定することにより、行うことができる。
その後、境界モータ位置算出部113は、モータ3の加速動作中に電流が急激に増加したタイミングと時間同期するモータ位置を算出し、これを境界モータ位置Phとする。
図11は、実施の形態2において境界モータ位置を算出する処理イメージを示す模式図である。図11を用いて、図9のステップST45において境界モータ位置算出部113が境界モータ位置Phを算出する処理を説明する。
図11(a)は、試験運転指令生成部11が生成したモータ指令の指令速度V、図11(b)は、モータ3に供給された駆動電流の電流値、図11(c)は、試験運転により駆動したモータ3のモータ位置の時間変化を表している。図11(b)において、境界モータ位置算出部113は、モータ3の加速動作中に電流値が急激に増加する時点Qを検出し、この時点Qと同タイミングでのモータ位置を境界モータ位置Phとして算出する。
図9のステップST46において、境界モータ位置算出部113は、算出した境界モータ位置Phを通常動作指令生成部10aのモータ指令生成部102aに出力する。
ステップST47において、モータ制御装置1aは、モータ指令選択部12のスイッチを変更し、通常動作指令生成部10aが生成したモータ指令を出力するように切り替える。
ステップST48において、モータ指令生成部102aは、所定位置PHを境界モータ位置Phとしてモータ指令を生成する。また、モータ制御装置1aは、生成したモータ指令を出力してモータ3を制御することにより、リンク機構63を伸縮運動させる。その具体的な方法は、実施の形態1において説明したとおりである。
次に、実施の形態2の効果について説明する。実施の形態1で説明したとおり、リンク機構63のガタが大きい状態であるか、それともガタが小さい、またはガタが解消されている状態かの違いは、複数のリンク部材601間の拘束の強弱に起因する。リンク機構63に生じているガタが大きい状態でモータ3を駆動した場合、この状態では複数のリンク部材601間の拘束が弱いため、モータ3の駆動に伴い可動部材62が動作しても、モータ3の駆動力がすべてのリンク部材601に伝達されない。これは、モータ3が負荷を駆動するという観点から見ると、負荷イナーシャが相対的に小さい状態になっていると言える。
一方、リンク機構63のガタが小さい、またはガタが解消されている状態でモータ3を駆動した場合、この状態では複数のリンク部材601間の拘束が強いため、モータ3の駆動に伴い可動部材62が動作すると、モータ3の駆動力がすべてのリンク部材601、可動部材62、及び可動盤64に伝達される。これは、モータ3が負荷を駆動するという観点から見ると、負荷イナーシャが相対的に大きい状態になっていると言える。
このため、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させるようにモータ3を駆動すると、モータ3の加速動作中に負荷イナーシャが小さい値から大きい値に変化するような挙動となる。
ここで、モータトルクをT、負荷イナーシャをJ、モータ3の角加速度をα、摩擦トルクをTcとすると、剛体の回転運動に関するオイラーの運動方程式から、次の(式16)の関係が成立する。
T=J・α+Tc (式16)
さらに、モータトルクTと電流iとは、ほぼ比例関係にあるとみなせる。
つまり、リンク機構63が縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長する場合、ガタに起因して負荷イナーシャJが途中で変化するため、上記の(式16)より、モータ3の加速度を一定で動作させていてもモータ3のトルクTが途中で急変し、これにより電流iも途中で急変する。よって、この電流iが急変するポイントを、リンク機構63にちょうどガタが発生し、または解消する境界と見なすことができる。
実施の形態2において、モータ制御装置1aは、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる試験運転の際に、試験データ記憶部112が、モータ3が試験運転を実行したときのモータ位置と電流値を時間同期して記憶する。境界モータ位置算出部113は、モータ3の加速動作中に電流値が急激に増加する時点Qを検出し、時点Qにおけるモータ位置を境界モータ位置Phとして算出する。これにより、リンク機構63にちょうどガタが発生し、または解消する境界に対応するモータ位置である境界モータ位置Phを、正確に算出することができる。また、所定位置PHとしてこの境界モータ位置Phを用いることで、所定位置PHを自動的に算出し、リンク機構63にちょうどガタが発生し、または解消する境界のモータ位置付近に所定位置PHを設定することができる。
さらに、実施の形態2のモータ制御装置1aは、所定位置PHとしてこの境界モータ位置Phを用いて、実施の形態1において説明した方法と同様にリンク機構63を伸縮運動させる。ここで、実施の形態1で説明したとおり、モータ位置が所定位置PHを通過したか否かを判定すること、または指令位置Pが所定位置PHを通過したか否かを判定することは、可動部材62が所定の位置を通過したか否かを判定することと同等である。このため、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる際、動作開始時からガタが解消する位置までは小さな加速度で動作させるとともに、ガタが解消されてからは直ちに大きな加速度で動作させる。一方、リンク機構63を伸びきった状態から縮みきった状態へと収縮させる際、減速動作を開始してからガタが生じる位置の直前までは大きな加速度で動作させるとともに、ガタが生じる位置を通過すると減速動作開始時よりも小さな加速度で動作させる。よって、実施の形態2のモータ制御装置1aは、リンク機構63を伸縮運動させる際に発生する衝撃や振動を、実施の形態1の場合よりも確実に抑制することができるとともに、実施の形態1の場合と比較して、より高速な動作を実現することができる。
なお、実施の形態1において説明したように、駆動装置2は、モータ位置がモータ指令に追従するようにモータ3を制御する。このため、モータ位置と指令位置Pは、厳密に言うとモータ位置が指令位置Pよりもわずかに小さい値となるものの、両者の値はほぼ等しいと見なすことができる。よって、図9のステップST43において、試験データ記憶部112は、モータ位置と電流値を時間同期して記憶する代わりに、指令位置Pと電流値を時間同期して記憶し、境界モータ位置算出部113は、電流値が急激に増加したときの指令位置Pを境界モータ位置Phとして算出するようにしても良い。この場合においても、モータ位置を使用したときと同様の効果を奏することができる。
また、実施の形態2において、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる試験運転を行い、このときのモータ3の加速動作中の電流値と、モータ位置または指令位置Pとから境界モータ位置Phを算出する例を説明したが、これに限られるものではない。すなわち、リンク機構63を伸びきった状態から縮みきった状態へと収縮させる試験運転を行うこととしても、同様に境界モータ位置Phを算出することができる。この場合、モータ3が動作を終了して停止する前の減速動作中において、減速動作開始時はガタが生じていない状態であり、減速動作終了間際にガタが生じることになる。このため、モータ3の減速動作中の電流値の急激な減少を検出し、これと同タイミングのモータ位置、または指令位置Pを境界モータ位置Phとして算出する。電流値の急激な減少の具体的な検出例としては、電流値を微分または差分した信号を算出し、この信号がある閾値を下回るタイミングを検出することが挙げられる。この場合においても、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる試験運転を行うときと同様の効果を奏することができる。
実施の形態3.
実施の形態2においては、リンク機構63の伸縮運動中に時間同期して記憶したモータ位置と電流値、または指令位置Pと電流値に基づいて、リンク機構63にちょうどガタが発生し、または解消する境界に対応する境界モータ位置Phを算出し、この境界モータ位置Phを実施の形態1の所定位置PHとして用いることにより、実施の形態1よりも確実に衝撃や振動を抑制しながら、さらに高速な動作を実現することについて説明した。しかし、モータ3の駆動電流の電流値以外のデータを用いても、この境界モータ位置Phを算出することは可能である。実施の形態3では、電流値以外のデータを用いて境界モータ位置Phを算出するモータ制御装置について説明する。
図12は、実施の形態3におけるモータ制御システムの構成を示すブロック図である。図13は、実施の形態3におけるモータ制御システムの構成を示す模式図である。図12及び図13を用いて、実施の形態3におけるモータ制御装置を用いたモータ制御システムについて説明する。なお、実施の形態3において、実施の形態1または実施の形態2と同一の名称及び符号を付しているものは、同一または同等の構成を表すものとして説明を省略し、異なる部分を重点的に説明する。また、本発明は、この実施の形態3により限定されるものではない。
なお、図13は、モータ制御システムの駆動機構について図示し、モータ制御装置1及び駆動装置2の図示を省略している。
実施の形態3におけるモータ制御システムは、実施の形態2で説明したものと基本的に同じである。実施の形態2と異なる点として、実施の形態3におけるモータ制御システムは、図12及び図13に示すとおり、型開閉機構6の後部固定盤66に取り付けられた加速度センサ8を備える。加速度センサ8は、型開閉機構6の加速度を検出する。この加速度は、後述するとおり、リンク機構63で発生した衝撃や振動により生じる加速度である。また、加速度センサ8は、検出した加速度を、加速度信号として試験運転指令生成部11bに出力する。実施の形態3におけるモータ制御システムは、実施の形態2において境界モータ位置Phを算出するためにモータ3の駆動電流の電流値を用いた代わりに、この加速度センサ8の加速度信号を用いて境界モータ位置Phを算出する。
なお、固定盤65と後部固定盤66は、実施の形態1または実施の形態2と同様に、モータ3が駆動してもその駆動力が直接的には伝わらないように構成されている。
実施の形態3におけるモータ制御システムのモータ制御装置1bは、図12に示すとおり、ハードウェア構成として、記憶部100bと、演算部200bとを備える。記憶部100bは、ROM等のメモリであって、演算部200bがモータ3を制御するためのデータやプログラムを記憶する。演算部200bは、モータ制御装置1bの全体の動作を制御する中央処理装置(CPU)である。実施の形態3の通常動作指令生成部10bと、試験運転指令生成部11bと、モータ指令選択部12とは、実施の形態1または実施の形態2の場合と同様に、演算部200bが記憶部100bに記憶されたプログラムを実行することによって、モータ制御装置1b内にソフトウェア的に実現される。
試験運転指令生成部11bは、試験運転モータ指令生成部111と、試験データ記憶部112bと、境界モータ位置算出部113bとを備える。試験運転モータ指令生成部111は、実施の形態2と同様に、モータ指令のうち、境界モータ位置Phを算出するための試験運転をモータ3に実行させるモータ指令を生成する。
試験データ記憶部112bには、駆動装置2から、モータ3が試験運転を実行したときに検出器4が検出したモータ3の回転位置及び回転速度の情報と、加速度センサ8が検出した衝撃や振動の加速度の情報である加速度信号と、が入力される。試験データ記憶部112bは、モータ3が試験運転を実行したときのモータ位置と加速度信号とを時間同期して記憶するメモリである。境界モータ位置算出部113bは、試験データ記憶部112bが記憶したデータに基づいて、境界モータ位置Phを算出する。
通常動作指令生成部10bは、モータ位置判定部101と、モータ指令生成部102bとを備える。それぞれの動作等は、実施の形態1または実施の形態2で説明したものと基本的に同じであり、モータ位置判定部101が、モータ位置が所定位置PHを通過したか否かなどを判定し、モータ指令生成部102bが、モータ位置判定部101の判定結果に基づいてモータ指令を生成する。
また、実施の形態3のモータ指令生成部102bは、実施の形態2と同様に、所定位置PHを、試験運転指令生成部11bが生成した境界モータ位置Phから算出する。モータ指令生成部102bは、この境界モータ位置Phを境界モータ位置算出部113bが算出する方法が、上記のとおり、実施の形態2と異なる。
図14は、実施の形態3のモータ制御装置が実行する動作を示すフローチャートである。図14を用いて、実施の形態3のモータ制御装置1bがモータ指令を算出する動作を説明する。なお、図14のフローチャートの処理は、実施の形態2の図9と同様に、一定のサンプリング周期ごとに行うのではなく、すなわちオンラインではなく、バッチ的に処理を行う。
なお、図14のフローチャートは、実施の形態2の図9のフローチャートと類似しており、図9のステップST43とST45が、図14においてステップST53とステップST55に置き換わる点が異なる。このため、実施の形態2と同様の処理の説明を省略し、異なる処理について主に説明する。
図14のステップST51とステップST52において、モータ制御装置1bは、試験運転モータ指令生成部111bが生成したモータ指令を出力し、モータ3を駆動し、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる試験運転を実行させる。
ステップST53において、試験データ記憶部112bは、試験運転中のモータ3のモータ位置と加速度信号とを時間同期して記憶する。ステップST44において、モータ3の試験運転が完了したと判断した場合、ステップST55において、境界モータ位置算出部113bは、加速度信号が急激に変化するタイミングを検出する。具体的な検出例としては、加速度信号が所定値以上になるタイミングを検出することが挙げられる。境界モータ位置算出部113bは、このタイミングと時間同期するモータ位置を算出し、これを境界モータ位置Phとする。
その後、モータ制御装置1bは、ステップST56において、算出した境界モータ位置Phを所定位置PHとし、ステップST57及びステップST58において、実施の形態1または実施の形態2で説明したように、通常運転用のモータ指令を出力し、リンク機構63を伸縮運動させる。
次に、実施の形態3の効果について説明する。実施の形態1で説明したとおり、後部固定盤66は、モータ3の駆動力の影響を直接的に受けることはない。しかし、モータ3の駆動力が可動部材62やリンク機構63を介して可動盤64に伝わり、衝撃や振動が発生すると、タイバー67や可動盤64、または後部固定盤66を支える図示しない架台構造物などを通して、その衝撃や振動が後部固定盤66にも伝達する。その結果、後部固定盤66に大きな加速度が発生する。
実施の形態3の加速度センサ8は、この衝撃や振動による加速度を検出し、加速度信号を試験運転指令生成部11bに出力する。また、リンク機構63にガタが発生している状態から解消される状態へと動作する場合、モータ3の負荷イナーシャが変化するタイミングで衝撃や振動が発生する。このため、加速度センサ8の加速度信号が所定値以上になるタイミングを、リンク機構63にちょうどガタが発生し、または解消する境界と見なすことができる。
実施の形態3において、モータ制御装置1bは、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる試験運転の際に、試験データ記憶部112bが、モータ3が試験運転を実行したときのモータ位置と加速度信号、または指令位置Pと加速度信号を時間同期して記憶し、境界モータ位置算出部113bが、モータ3の加速動作中に加速度信号が急激に増加するタイミングを検出し、このタイミングにおけるモータ位置を境界モータ位置Phとして算出する。これにより、実施の形態2と同様に、リンク機構63にちょうどガタが発生し、または解消する境界に対応する境界モータ位置Phを、正確に算出することができる。また、所定位置PHとしてこの境界モータ位置Phを用いることで、所定位置PHを自動的に算出し、リンク機構63にちょうどガタが発生し、または解消する境界のモータ位置付近に所定位置PHを設定することができる。
また、実施の形態3のモータ制御装置1bは、所定位置PHとしてこの境界モータ位置Phを用いて、実施の形態1において説明した方法と同様にリンク機構63を伸縮運動させる。ここで、実施の形態1で説明したとおり、モータ位置が所定位置PHを通過したか否かを判定すること、または指令位置Pが所定位置PHを通過したか否かを判定することは、可動部材62が所定の位置を通過したか否かを判定することと同等である。よって、実施の形態3のモータ制御装置1bは、実施の形態2と同様に、リンク機構63を伸縮運動させる際に発生する衝撃や振動を、実施の形態1の場合よりも確実に抑制することができるとともに、実施の形態1の場合と比較して、より高速な動作を実現することができる。
なお、実施の形態3において、境界モータ位置算出部113bは、図14のステップST5において加速度信号が所定値を超えるタイミングを検出し、このタイミングと時間同期するモータ位置を境界モータ位置Phとすることを説明したが、これに限られるものではない。例えば、境界モータ位置算出部113bは、試験データ記憶部112bのデータから加速度信号の極大値を抽出し、加速度信号が極大になったタイミングと時間同期するモータ位置を境界モータ位置Phとして算出してもよい。この場合においても、加速度信号が所定値を超えるタイミングを検出するときと同様の効果を奏することができる。
また、実施の形態3において、加速度センサ8は、後部固定盤66に設置される例を説明したが、これに限られるものではない。加速度センサ8は、型開閉機構6中のうちモータ3の駆動力が直接的に伝達されない箇所、またはリンク機構63が含まれる機械であればどこに設置しても良い。型開閉機構6が含まれる機械に設置する具体例としては、型開閉機構6が射出成形機に適用される場合であれば、型開閉機構6を支える図示しない架台構造物や制御盤などに設置することが挙げられる。これらの場合においても、加速度センサ8を後部固定盤66に設置するときと同様の効果を奏することができる。
さらに、実施の形態3において、衝撃や振動を検出する手段は、加速度センサ8に限られるものではない。図15は、実施の形態3におけるモータ制御システムの他の構成を示す模式図である。図15においては、加速度センサ8以外の検出手段として、音声信号を検出するマイク9を設置した例を図示している。
図15の例において、モータ制御システムは、型開閉機構6または型開閉機構6が含まれる機械の付近に設置されたマイク9を備える。なお、型開閉機構6または型開閉機構6が含まれる機械の付近とは、設置されたマイク9が型開閉機構6の発する音を検出可能な位置のことである。マイク9は、型開閉機構6の発する音の大きさを検出する。この音は、リンク機構63を伸縮運動させる際に発生する衝撃や振動に起因した音である。マイク9は、検出した音を音声信号として試験運転指令生成部11bに出力する。試験データ記憶部112bは、モータ3がリンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる試験運転を実行したときのモータ位置と音声信号、または指令位置Pと音声信号を時間同期して記憶する。境界モータ位置算出部113bは、例えば、モータ3の加速動作中に音声信号が所定値以上になるタイミングを検出する。この場合においても、加速度センサ8を用いるときと同様の効果を奏することができる。
実施の形態3において、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる試験運転を行い、このときのモータ3の加速動作中の加速度信号または音声信号と、モータ位置または指令位置Pとから境界モータ位置Phを算出する例を説明したが、これに限られるものではない。すなわち、リンク機構63を伸びきった状態から縮みきった状態へと収縮させる試験運転を行い、このときのモータ3の減速動作中の加速度信号または音声信号を用いることとしても、同様に境界モータ位置Phを算出することができる。この場合、例えば、試験データ記憶部112bは、モータ3が試験運転を実行したときのモータ位置と加速度信号、または指令位置Pと加速度信号を時間同期して記憶する。境界モータ位置算出部113bは、モータ3の減速動作中に加速度信号が所定値以上になるタイミングを検出する。
または、試験データ記憶部112bは、例えば、モータ3が試験運転を実行したときのモータ位置と音声信号、または指令位置Pと音声信号を時間同期して記憶する。境界モータ位置算出部113bは、モータ3の減速動作中に音声信号が所定値以上になるタイミングを検出する。これらの場合についても、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる試験運転を行う場合と同様の効果を奏することができる。
なお、実施の形態2と実施の形態3において、境界モータ位置Phを所定位置PHとして使用することを説明したが、これに限られるものではない。例えば、所定位置PHは、境界モータ位置Phよりも、少しマージンを持たせて若干大きく設定しても良い。少なくとも、所定位置PHは、境界モータ位置Phからリンク機構63が伸びる方向に対応するモータ位置方向に若干大きくしても、ほぼ同様の効果を得ることができる。具体的には、所定位置PHは、ある正の値のマージンM(>0)を用いて、次の(式17)から算出した値に設定しても良い。
PH=Ph+M (式17)
このように設定した場合、所定位置PHよりもリンク機構63が伸びる方向の位置においては、少なくともリンク機構63のガタが必ず解消されている。このため、この所定位置PHよりもリンク機構63が伸びる方向の位置では、モータ3を大きな加速度で動作させても衝撃や振動が発生することがなく、高速な動作を実現することができる。一方、所定位置PHよりもリンク機構63が縮む方向の位置においては、モータ3を小さな加速度で動作させることになるため、衝撃や振動の発生をより確実に抑制することができる。
さらに、実施の形態2と実施の形態3において、リンク機構63を縮みきった状態から伸びきった状態へと伸長させる試験運転、またはリンク機構63を伸びきった状態から縮みきった状態へと収縮させる試験運転を行うことについて説明を行ったが、これらに限られるものではない。すなわち、縮みきった状態から多少伸びた状態のリンク機構63を伸長させる試験運転、または伸びきった状態から多少縮んだ状態のリンク機構63を収縮させる試験運転を行うこととしても、ガタの大きさが大きく変化する境界モータ位置Phまたは所定位置PHを通過するのであれば、言うまでもなく、同様の構成及び動作により同様の効果を奏することができる。