以下に、添付図面を参照して、本発明にかかる金属板接合装置および金属板接合方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる金属板接合装置の一構成例を示すブロック図である。なお、図1には、本実施の形態1にかかる金属板接合装置10が設置される熱間圧延ラインの一部分が図示されている。以下では、図1を参照しつつ、まず、金属板接合装置10を適用した熱間圧延ラインの概略構成を説明し、つぎに、金属板接合装置10の構成を説明する。
図1に示すように、本実施の形態1にかかる金属板接合装置10は、熱間圧延ラインの粗圧延部1と仕上圧延部2との間に設置される。具体的には、熱間圧延ラインの搬送経路3における鋼板の搬送方向(図1の破線矢印参照)に沿って、粗圧延部1と、金属板接合装置10と、仕上圧延部2とが配置される。なお、搬送経路3は、複数の搬送ロール等を用いて実現される。
粗圧延部1は、加熱炉(図示せず)によって加熱された鋼スラブを板状に粗圧延して鋼板を得る。粗圧延後の鋼板は、搬送経路3に沿って粗圧延部1から金属板接合装置10へ搬送される。金属板接合装置10は、トランスバース方式の誘導加熱法によって鋼板を順次誘導加熱し、誘導加熱後の各鋼板の対向端部同士(先尾端部同士)を、溶接材を用いて加熱接合する。これによって、金属板接合装置10は、複数の鋼板を帯状に一体化した一連の鋼板を得る。このような一連の鋼板は、搬送経路3に沿って金属板接合装置10から仕上圧延部2へ搬送される。
仕上圧延部2は、上述したように金属板接合装置10によって帯状に接合された一連の鋼板を仕上圧延して、所望の厚さの熱延鋼板を得る。この場合、仕上圧延部2は、一連の鋼板を形成する複数の鋼板を連続して仕上圧延するエンドレス圧延を行う。仕上圧延部2は、このエンドレス圧延を行うことによって、複数の鋼板を切れ目なく連続して仕上圧延できるとともに、圧延稼働中の仕上圧延部2の入側に仕上圧延前の鋼板を停滞させてしまう事態を防止できる。この結果、仕上圧延部2は、複数の鋼板を能率よく仕上圧延できる。なお、仕上圧延後の熱延鋼板は、仕上圧延部2の出側から送出され、その後、熱間圧延ラインによる各種処理が適宜施される。
つぎに、本実施の形態1にかかる金属板接合装置10の構成を説明する。金属板接合装置10は、搬送経路3に沿って搬送される複数の鋼板を加熱接合する装置であり、図1に示すように、切断部11と、誘導加熱部12と、電気溶接部16と、押圧部17,18と、制御部19とを備える。また、図1に示す熱間圧延ラインの搬送経路3に沿って、粗圧延部1の後段に切断部11が配置され、切断部11の後段に、押圧部17と、誘導加熱部12および電気溶接部16と、押圧部18とが配置される。
切断部11は、各鋼板の先尾端部を切断成形する。具体的には、切断部11は、複数の刃11cが設けられた切断ローラ11a,11bを備える。切断ローラ11a,11bは、図1に示すように、搬送経路3を挟んで鋼板の板厚方向に配置されて対をなす。また、切断ローラ11a,11bの各外周面には、各刃11cが、切断ローラ11a,11bの回転軸を中心にして互いに点対称に配置される。切断部11は、このような切断ローラ11a,11bをその外周方向に回転させつつ、切断ローラ11a,11bの各刃11cによって鋼板の先尾端部をその板厚方向に挟み込む。これによって、切断部11は、鋼板の先尾端部をその板厚方向に切断(剪断)する。切断部11は、順次搬送される各鋼板の先尾端部に対して、上述した切断処理を繰り返し、これによって、各鋼板の先尾端部同士の各対向面を互いに係合可能な形状に成形する。このように先尾端部が切断成形された各鋼板は、搬送経路3に沿って切断部11から誘導加熱部12側へ順次搬送される。
誘導加熱部12は、トランスバース方式の誘導加熱法によって加熱対象体を誘導加熱する。図2は、図1に示す誘導加熱部を鋼板の搬送方向から見た図である。図1、2に示すように、誘導加熱部12は、コイル13a,13bと、コア14と、電源15とを備える。コイル13a,13bは、搬送経路3を挟んで鋼板の板厚方向に対向し且つ各コイル軸方向を互いに略同じ方向にするように配置される。また、コイル13a,13bは、電源15に対して直列に接続される。これらのコイル13a,13bの各々には、電源15から略同じ量の交流電流が供給される。コア14は、図2に示すようにコイル13a,13bを巻回されるC型コアである。コア14は、電磁鋼板等の磁性体を用いて形成され、巻回したコイル13a,13bによる交番磁界の磁束を強化し且つ整える。なお、このようなコア14に巻回されたコイル13a,13bは、上述したように対向配置されてコイル対13をなす。電源15は、高周波または中周波の交流電流をコイル対13に供給する。
このような構成を有する誘導加熱部12において、コイル対13の各コイル13a,13bは、電源15から供給された交流電流に応じて、鋼板をその板厚方向に貫通する交番磁界を発生させる。誘導加熱部12は、図2の実線矢印に示されるように、先行板4および後行板5の先尾端部に対し、このコイル対13による交番磁界を印加する。なお、鋼板の板幅方向について、コイル対13のサイズ、すなわち、コイル13a,13bの各サイズは、図2に示すように、先行板4および後行板5の先尾端部の板幅に比して長く、先行板4および後行板5の先尾端部は、コイル対13の内側におさまる。このため、コイル対13による交番磁界は、先行板4および後行板5の先尾端部の全板幅に亘って印加される。誘導加熱部12は、このように先行板4および後行板5の先尾端部に交番磁界を印加することによって、先行板4および後行板5の先尾端部に渦電流を誘導し、この渦電流に由来するジュール熱によって、先行板4および後行板5の先尾端部を誘導加熱する。誘導加熱部12は、搬送経路3に沿って先行板4および後行板5の先尾端部が搬送される都度、上述したように先尾端部を誘導加熱する。
ここで、上述した先行板4および後行板5は、搬送経路3に沿って搬送される複数の鋼板のうちの2つである。先行板4は、搬送経路3上において先行する鋼板であり、後行板5は、先行板4に後続する鋼板である。先行板4の尾端部および後行板5の先端部は、図1に示すように、鋼板の搬送方向に互いに対向する。一方、先行板4および後行板5の鋼種は特に問わないが、本実施の形態1において、先行板4および後行板5は、例えば、シリコン(Si)、マンガン(Mn)クロム(Cr)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)等の易酸化性の合金元素を所定量以上含有する合金鋼であってもよい。
電気溶接部16は、先行板4および後行板5の先尾端部を電気溶接によって接合する。図3は、本実施の形態1にかかる金属板接合装置の電気溶接部の一構成例を示す模式図である。なお、図3には、鋼板の板厚方向から見た電気溶接部16の構成が図示されている。図3に示すように、電気溶接部16は、溶接材送給ローラ16a,16bと、電極P1〜P6と、溶接電源16e〜16gとを備える。
溶接材送給ローラ16a,16bは、先行板4および後行板5の先尾端部を挟んで、その板幅方向の両端部に各々配置される。図3に示すように、溶接材送給ローラ16aは、回動することによって、先行板4および後行板5の先尾端部のうちの一方の板幅端部4a,5a間に溶接材16cを送給する。溶接材送給ローラ16bは、回動することによって、先行板4および後行板5の先尾端部のうちの他方の板幅端部4b,5b間に溶接材16dを送給する。なお、溶接材送給ローラ16a,16bは、駆動機構(図示せず)等の作用によって回動する。このような溶接材送給ローラ16a,16bは、上述した誘導加熱部12による誘導加熱後の先行板4の尾端部における両板幅端部4a,4bと、同様の誘導加熱後の後行板5の先端部における両板幅端部5a,5bとの各間に溶接材16c,16dを各々送給する溶接材送給部を構成する。
複数の電極P1〜P6のうち、電極P1,P2は、溶接電源16eと電気的に接続される。電極P1は、後行板5の先端部のうちの板幅端部5a近傍に配置され、電極P2は、先行板4の尾端部のうちの板幅端部4a近傍に配置される。溶接電源16eは、これら一対の電極P1,P2を介して先行板4および後行板5の先尾端部に給電し、板幅端部4a,5a間に挟圧された状態の溶接材16cを通じて、この先尾端部間に電流を流す。電極P3,P4は、溶接電源16fと電気的に接続される。電極P3は、後行板5の先端部のうちの板幅端部5b近傍に配置され、電極P4は、先行板4の尾端部のうちの板幅端部4b近傍に配置される。溶接電源16fは、これら一対の電極P3,P4を介して先行板4および後行板5の先尾端部に給電し、板幅端部4b,5b間に挟圧された状態の溶接材16dを通じて、この先尾端部間に電流を流す。電極P5,P6は、溶接電源16gと電気的に接続される。電極P5は、後行板5の先端部のうち、その板幅方向の中間部5c近傍に配置される。電極P6は、先行板4の尾端部のうち、その板幅方向の中間部4c近傍に配置される。溶接電源16gは、これら一対の電極P5,P6を介して先行板4および後行板5の先尾端部に給電し、上述したように挟圧状態の溶接材16c,16dを通じて、この先尾端部間に電流を流す。上述したような溶接電源16e〜16gは、複数の電極P1〜P6を用い、先行板4および後行板5双方の板幅端部4a,4bと板幅端部5a,5bとの各間に挟圧された溶接材16c,16dに電流を流して溶接材16c,16dを通電加熱し、これによって、溶接材16c,16dを加熱溶融する通電加熱部を構成する。なお、このような通電加熱部によって溶接材16c,16dに流れる電流は、交流電流であってもよいし、直流電流であってもよい。
ここで、先行板4の板幅端部4a,4bは、先行板4の尾端部の板幅方向両端部であって、この尾端部の両角部およびその近傍を含む部分である。後行板5の板幅端部5a,5bは、後行板5の先端部の板幅方向両端部であって、この先端部の両角部およびその近傍を含む部分である。また、図3に示すように、先行板4の中間部4cは、先行板4の尾端部のうちの両板幅端部4a,4b間に挟まれた部分である。後行板5の中間部5cは、後行板5の先端部のうちの両板幅端部5a,5b間に挟まれた部分である。
一方、溶接材16c,16dは、その金属種が先行板4および後行板5の鋼種に対応して設定されればよいが、先行板4および後行板5と異なる金属種、例えば、先行板4および後行板5中に含有の合金元素と同じ合金元素であって炭素(C)以外のものを含有しない低合金の鋼材であることが望ましい。特に、先行板4および後行板5が、0.2[mass%]以上、3.5[mass%]以下のSiを含有する合金である場合、溶接材16c,16dは、Siを含有しない低合金鋼、例えば低炭素鋼であることが望ましい。また、溶接材16c,16dの形状および寸法は、先行板4の板幅端部4a,4bと後行板5の板幅端部5a,5bとの各間に挟み込まれた際に、先行板4および後行板5の先尾端部の対向端面と溶接材16c,16dとの接触面積が可能な限り小さくなるように設定されることが望ましい。例えば、溶接材16c,16dの厚みは、先行板4および後行板5の板厚に比して設定してもよいし、溶接材16c,16dの横断面形状は、円形、楕円形、矩形等にしてもよい。
押圧部17,18は、先行板4および後行板5の先尾端部同士を押圧する。具体的には、押圧部17,18は、クランプ機構および押圧機構等を用いて各々実現される。図1に示すように、押圧部17は、誘導加熱部12の入側に配置され、押圧部18は、誘導加熱部12の出側に配置される。押圧部17は後行板5をクランプし、押圧部18は先行板4をクランプする。また、押圧部17は、図1の太線矢印に示されるように、誘導加熱部12によって誘導加熱された後行板5の先端部を先行板4の尾端部に向けて押圧する。これに並行して、押圧部18は、図1の太線矢印に示されるように、誘導加熱部12によって誘導加熱された先行板4の尾端部を後行板5の先端部に向けて押圧する。すなわち、押圧部17,18は、誘導加熱後の先行板4の尾端部と誘導加熱後の後行板5の先端部とを互いに押圧する。これによって、押圧部17,18は、誘導加熱後の先行板4の両板幅端部4a,4bと誘導加熱後の後行板の両板幅端部5a,5bとの各間に溶接材16c,16d(図3参照)を挟圧する。また、押圧部17,18は、上述した溶接材16c,16dの加熱溶融後に、誘導加熱後の先行板4および後行板5の先尾端部同士を押圧して接合する。押圧部17,18は、搬送経路3に沿って搬送される複数の鋼板に対して、上述した押圧処理を順次行う。
制御部19は、切断部11、誘導加熱部12、電気溶接部16、および押圧部17,18を制御する。具体的には、制御部19は、搬送経路3上の各鋼板の搬送情報(搬送速度等)をもとに、搬送経路3における各鋼板の位置を把握する。制御部19は、把握した各鋼板の位置をもとに、切断部11、誘導加熱部12、電気溶接部16、および押圧部17,18の各動作タイミングを制御する。
例えば、制御部19は、先行板4等の鋼板の尾端部が切断部11へ搬送されるタイミングに、この尾端部を切断成形するように切断部11を制御し、後行板5等の鋼板の先端部が切断部11へ搬送されるタイミングに、この先端部を切断成形するように切断部11を制御する。一方、制御部19は、誘導加熱部12のコイル対13(図2参照)の内側に先行板4および後行板5の先尾端部が位置するタイミングに、先行板4をクランプするように押圧部18を制御し且つ後行板5をクランプするように押圧部17を制御する。制御部19は、このクランプ動作によって位置固定され且つ互いに離間した状態で対向する先行板4の尾端部と後行板5の先端部とを誘導加熱するように誘導加熱部12を制御する。また、制御部19は、この誘導加熱後の先行板4および後行板5双方の板幅端部4a,4bと板幅端部5a,5bとの各間に溶接材16c,16dを各々送給するように、電気溶接部16の溶接材送給部を制御する。この場合、制御部18は、電気溶接部16の駆動機構(図示せず)を制御して溶接材送給ローラ16a,16bの回動を制御し、この溶接材送給ローラ16a,16bの制御を通して、溶接材16c,16dの送給タイミングおよび送給量を制御する。
また、制御部19は、時間情報をもとに誘導加熱部12、電気溶接部16、および押圧部17,18の各動作を制御する。具体的には、制御部19は、互いに離間した状態の先行板4の尾端部と後行板5の先端部との誘導加熱を所定の時間、実行したタイミングに、この誘導加熱を停止するように誘導加熱部12を制御する。ついで、制御部19は、この誘導加熱の停止期間に、誘導加熱後の先行板4の尾端部と誘導加熱後の後行板5の先端部とを押圧して板幅端部4a,4bと板幅端部5a,5bとの各間に溶接材16c,16dを挟圧するように押圧部17,18を制御する。制御部19は、押圧部17,18の押圧によって先行板4の尾端部と後行板5の先端部とが溶接材16c,16dを介して互いに接続されたタイミングに、溶接材16c,16dを通電加熱するように電気溶接部16の通電加熱部を制御する。この場合、制御部19は、溶接材16c,16dの通電加熱を所定の時間、継続するように溶接電源16e〜16gを制御する。これに並行して、制御部19は、電気溶接部16が溶接材16c,16dを加熱溶融する期間、板幅端部4a,4bと板幅端部5a,5bとの各間に溶接材16c,16dを挟圧しつつ、誘導加熱後の先行板4の尾端部と誘導加熱後の後行板5の先端部とを押圧して接合するように押圧部17,18を制御する。この場合、制御部19は、電気溶接部16による溶接材16c,16dの通電加熱の継続時間以上の時間、先行板4の尾端部と後行板5の先端部との押圧を継続するように押圧部17,18を制御する。
さらに、制御部19は、誘導加熱部12による先行板4および後行板5の先尾端部の誘導加熱強度と、電気溶接部16による溶接材16c,16dの通電加熱強度とを制御する。具体的には、制御部19は、誘導加熱部12のコイル対13(コイル13a,13b)に対する交流電流の供給量を増減するように電源15を制御し、この電源15の制御を通して、コイル対13による交番磁界の強度を制御する。これによって、制御部19は、先行板4および後行板5の先尾端部に誘導する渦電流の強度を制御し、この渦電流の制御を通して、先行板4および後行板5の先尾端部の誘導加熱強度を制御する。一方、制御部19は、電気溶接部16の電極P1〜P6に対する給電量を増減するように溶接電源16e〜16gを制御し、この溶接電源16e〜16gの制御を通して、溶接材16c,16dの通電加熱強度を制御する。
つぎに、本発明の実施の形態1にかかる金属板接合方法について説明する。図4は、本実施の形態1にかかる金属板接合方法の一例を示すフローチャートである。図5は、互いに離間した状態の先行板の尾端部と後行板の先端部とを誘導加熱する状態を示す模式図である。図6は、誘導加熱後の先行板および後行板の先尾端部間に挟圧された溶接材を通電加熱する状態を示す模式図である。図7は、溶接材の加熱溶融後の先行板および後行板の先尾端部同士を接合する状態を示す模式図である。
図1に示した金属板接合装置10は、図4に示す各処理ステップを順次行って、先行板4の尾端部と後行板5の先端部とを加熱接合する。すなわち、本実施の形態1にかかる金属板接合方法において、金属板接合装置10は、図4に示すように、まず、先行板4と後行板5との対向端部、すなわち先尾端部を成形する(ステップS101)。ステップS101において、切断部11は、切断ローラ11a,11bを回転させつつ、各刃11cによって先行板4の尾端部を上下方向から挟み込み、これら各刃11cの作用によって、先行板4の尾端部をその板厚方向に切断する。ついで、切断部11は、先行板4の尾端部の場合と同様に、切断ローラ11a,11bの各刃11cによって後行板5の先端部をその板厚方向に切断する。この結果、先行板4の尾端部と後行板5の先端部との各対向面は、略直線状等、互いに係合可能な形状に成形される。
つぎに、金属板接合装置10は、先行板4の尾端部と後行板5の先端部とを誘導加熱する(ステップS102)。ステップS102において、誘導加熱部12は、先行板4の尾端部と後行板5の先端部とに対し、鋼板をその板厚方向に貫通する交番磁界を印加して、互いに離間した状態で対向する先行板4の尾端部と後行板5の先端部とを誘導加熱する。
詳細には、図5に示したように先行板4の尾端部がコイル対13の内側に位置するタイミングに、押圧部18は、先行板4をクランプして先行板4の位置を固定する。これに並行して、押圧部17は、後行板5の先端部がコイル対13の内側に位置し且つ先行板4の尾端部と所定の距離だけ離間するタイミングに、後行板5をクランプして後行板5の位置を固定する。この状態において、コイル対13は、電源15から供給された交流電流に応じて、先行板4および後行板5の先尾端部をその板厚方向に貫通する交番磁界を発生させる。このような交番磁界は、コイル対13の内側において互いに離間し且つ対向する先行板4の尾端部と後行板5の先端部とに印加される。これによって、図5に示すように、この交番磁界に由来する渦電流8aが先行板4の尾端部に誘導されるとともに、この交番磁界に由来する渦電流8bが後行板5の先端部に誘導される。誘導加熱部12は、渦電流8aのジュール熱によって先行板4の尾端部を誘導加熱するとともに、渦電流8bのジュール熱によって後行板5の先端部を誘導加熱する。なお、このステップS102の誘導加熱は、加熱接合対象の先行板4および後行板5の先尾端部に対する第1段階の加熱処理である。
ここで、先行板4の尾端部および後行板5の先端部は、上述したようにコイル対13の内側において互いに離間している。このため、渦電流8a,8bは、互いに結合せず、図5に示すように、先行板4の尾端部と後行板5の先端部とに別れて各々渦状に流れる。この場合、渦電流8a,8bは、互いに同じ方向、具体的には、コイル対13に流れる交流電流の通電方向に対して反対方向に周回する。また、渦電流8a,8bは、先行板4および後行板5の先尾端部同士の対向面近傍に集中して流れる。一方、渦電流8aは、渦状に周回するため、先行板4の板幅端部4a,4bに流れない。これと同様に、渦電流8bは、後行板5の先端部の板幅端部5a,5bに流れない。このような渦電流8a,8bのジュール熱によって、誘導加熱部12は、先行板4の尾端部のうちの中間部4cと後行板5の先端部のうちの中間部5cとを、鋼板同士の加熱接合に十分な温度、例えば先行板4および後行板5の固相線を上回る温度に加熱する(図5の斜線部参照)。
つぎに、金属板接合装置10は、上述したように互いに離間した状態の先行板4の尾端部と後行板5の先端部とに対する誘導加熱を停止する(ステップS103)。ステップS103において、制御部19は、ステップS102の誘導加熱を開始してからの経過時間が所定の時間に達したタイミングに、コイル対13に対する交流電流の供給を停止するように電源15を制御する。制御部19は、この電源15の制御を通して、コイル対13による先行板4および後行板5の先尾端部への交番磁界の印加を停止する。この制御部19の制御に基づいて、誘導加熱部12は、ステップS102の誘導加熱、すなわち、先行板4および後行板5の先尾端部に対する誘導加熱を停止する。
続いて、金属板接合装置10は、上述したステップS102による誘導加熱後の先行板4の尾端部と誘導加熱後の後行板5の先端部との板幅方向両端部間に溶接材16c,16dを送給する(ステップS104)。ステップS104において、電気溶接部16は、制御部19の制御に基づいて、誘導加熱部12による誘導加熱後の先行板4および後行板5の先尾端部間に溶接材16c,16dを送給する。具体的には、図3、6に示すように、溶接材送給ローラ16aは、誘導加熱後の先行板4の板幅端部4aと誘導加熱後の後行板5の板幅端部5aとの間に、先行板4および後行板5の側方から溶接材16cを送給する。これに並行して、溶接材送給ローラ16bは、誘導加熱後の先行板4の板幅端部4bと誘導加熱後の後行板5の板幅端部5bとの間に、先行板4および後行板5の側方から溶接材16dを送給する。
その後、金属板接合装置10は、誘導加熱後の先行板4および後行板5の板幅方向両端部間に溶接材16c,16dを挟圧する(ステップS105)。ステップS105において、押圧部17,18は、先行板4および後行板5の先尾端部に対する誘導加熱の停止期間に、誘導加熱後の先行板4の尾端部と誘導加熱後の後行板5の先端部とを押圧する。これによって、押圧部17,18は、図6に示すように、この先行板4の板幅端部4aと、この後行板5の板幅端部5aとの間に溶接材16cを挟圧するとともに、この先行板4の板幅端部4bと、この後行板5の板幅端部5bとの間に溶接材16dを挟圧する。なお、この状態において、先行板4および後行板5の先尾端部同士は、溶接材16c,16dを介して部分的に接続している。
つぎに、金属板接合装置10は、ステップS105において先行板4および後行板5の板幅方向両端部間の溶接材16c,16dを挟圧しつつ加熱溶融する(ステップS106)。ステップS106において、押圧部17,18は、上述したステップS105から継続して、板幅端部4aと板幅端部5aとの間に溶接材16cを挟圧し、且つ、板幅端部4bと板幅端部5bとの間に溶接材16dを挟圧する(図6参照)。これと同時に、電気溶接部16は、挟圧状態の溶接材16c,16dを通電加熱によって加熱溶融する。すなわち、図6に示すように、溶接電源16eは、電極P1,P2を介して先行板4および後行板5の各板幅端部4a,5aの近傍に給電し、溶接電源16fは、電極P3,P4を介して先行板4および後行板5の各板幅端部4b,5bの近傍に給電する。また、溶接電源16gは、電極P5,P6を介して先行板4および後行板5の各中間部4c,5cの近傍に給電する。この結果、溶接電源16e〜16gは、溶接材16c,16dを介して先行板4および後行板5の先尾端部に電流を流す。例えば図6に示すように、溶接電源16e,16gによる電流9aは、後行板5の板幅端部5aを通って溶接材16cに集中して流れ、その後、先行板4の板幅端部4aに流れる。このように溶接材16cに集中して電流9aが流れることにより、溶接材16cはジュール発熱し、この電流9aに由来するジュール熱により、溶接材16cは加熱溶融される。これと同時に、溶接電源16f,16gによる電流9bは、後行板5の板幅端部5bを通って溶接材16dに集中して流れ、その後、先行板4の板幅端部4bに流れる。このように溶接材16dに集中して電流9bが流れることにより、溶接材16dはジュール発熱し、この電流9bに由来するジュール熱により、溶接材16dは加熱溶融される。
また、このステップS106において、溶接電源16f〜16gは、電流9a,9bに由来するジュール熱によって、溶接材16c,16dとともに、先行板4の板幅端部4a,4bと後行板5の板幅端部5a,5bとを通電加熱する。すなわち、先行板4の板幅端部4aおよび後行板5の板幅端部5aは、電流9aに由来するジュール熱によって、鋼板同士の加熱接合に十分な温度、例えば先行板4および後行板5の固相線を上回る温度に加熱される。同様に、先行板4の板幅端部4bおよび後行板5の板幅端部5bは、電流9bに由来するジュール熱によって、鋼板同士の加熱接合に十分な温度に加熱される。なお、このステップS106の通電加熱は、加熱接合対象の先行板4および後行板5の先尾端部に対する第2段階の加熱処理である。
続いて、金属板接合装置10は、上述したステップS106における溶接材16c,16dの加熱溶融を継続しつつ、先行板4の尾端部と後行板5の先端部とを押圧して接合する(ステップS107)。ステップS107において、押圧部17,18は、溶接電源16f〜16gが溶接材16c,16dを加熱溶融する期間、先行材4および後行材5の先尾端部同士を押圧し続ける。さらに、押圧部17,18は、溶接電源16f〜16gが先行板4および後行板5の板幅端部4a,4b,5a,5bを通電加熱する期間、この先尾端部同士の押圧を継続する。これら両期間の押圧作用によって、溶融状態の溶接材16cは、先行板4および後行板5の板幅端部4a,5a間の全領域に流れ広がるとともに、この板幅端部4a,5a同士の対向端面に存在する酸化物を、先行板4および後行板5の先尾端部同士の接合面外へ洗い流す。これと同様に、溶融状態の溶接材16dは、先行板4および後行板5の板幅端部4b,5b間の全領域に流れ広がるとともに、この板幅端部4b,5b同士の対向端面に存在する酸化物を、先行板4および後行板5の先尾端部同士の接合面外へ洗い流す。
また、押圧部17,18は、上述した両期間、先行板4および後行板5の先尾端部同士を押圧し続けることにより、この先尾端部同士をその全板幅に亘って接合する。すなわち、図7に示すように、押圧部17,18は、先行板4および後行板5の先尾端部同士の押圧により、溶接材16cを介して先行板4の板幅端部4aと後行板5の板幅端部5aとを接合するとともに、溶接材16dを介して先行板4の板幅端部4bと後行板5の板幅端部5bとを接合する。これに続いて、押圧部17,18は、先行板4および後行板5の先尾端部のうち、上述したステップS102の誘導加熱によって既に適温に加熱された状態の中間部4c,5c同士を押圧する。なお、中間部4c,5cは、上述した溶接材16c,16dの溶融変形後に、互いに接触可能になる。押圧部17,18は、このような中間部4c,5c同士を押圧によって接合する。この結果、金属板接合装置10は、図7に示すように、先行板4および後行板5の先尾端部同士をその板幅方向の全領域に亘って良好に加熱接合する。
その後、金属板接合装置10は、この先行板4および後行板5の先尾端部同士の加熱接合を完了する。具体的には、制御部19は、ステップS107の押圧から所定の時間が経過したタイミングに、先行板4および後行板5の先尾端部同士の押圧を停止して、先行板4および後行板5のクランプを解除するように押圧部17,18を制御する。また、制御部19は、ステップS106の通電加熱の開始から所定の時間が経過したタイミングに、先行板4および後行板5の先尾端部に対する給電を停止するように溶接電源16e〜16gを制御する。なお、上述したように先尾端部同士の加熱接合が完了した先行板4および後行板5は、図1に示した搬送経路3に沿って仕上圧延部2側へ搬送される。
このような金属板接合装置10は、搬送経路3(図1参照)に沿って順次搬送される複数の鋼板に対し、上述したステップS101〜S107の各処理ステップを行う。これによって、金属板接合装置10は、これら複数の鋼板の各対向端部同士をその全板幅に亘って確実に加熱接合する。この結果、金属板接合装置10は、これら複数の鋼板を帯状に一体化した一連の鋼板を得る。
ここで、上述したステップS101〜S107においては、加熱接合対象の先行板4および後行板5として、Si、Mn、Cr、Ti、Al等の易酸化性の合金元素を所定量以上含有する合金鋼を用いた場合、溶接材16c,16dとして、先行板4および後行板5に含有の合金元素と同じ合金元素であって炭素以外のものを含有しない低合金の鋼材を用いればよい。例えば、先行板4および後行板5として、0.2[mass%]以上、3.5[mass%]以下のSiを含有する合金鋼を用いた場合、溶接材16c,16dとして、Siを含有しない低炭素鋼等の低合金鋼を用いればよい。
以上、説明したように、本発明の実施の形態1では、互いに離間した状態で対向する先行板の尾端部と後行板の先端部とを誘導加熱し、この誘導加熱後の尾端部の両板幅端部と先端部の両板幅端部との各間に溶接材を挟圧しつつ、複数の電極から各板幅端部間の溶接材を通じて先行板の両板幅端部と後行板の両板幅端部とに電流を流して、これら挟圧状態の各溶接材を加熱溶融し、これに並行して、先行板および後行板の先尾端部同士を押圧している。
このため、先行板および後行板の先尾端部に対する第1段階の加熱処理、すなわち先尾端部の誘導加熱によって、この先尾端部のうちの板幅端部を除く対向部分(図7等に示す中間部4c,5c)を、先行板および後行板の固相線を上回る温度に高温化できる。また、この誘導加熱後の先尾端部の各板幅端部間に挟圧された溶接材に集中して電流を流すことができ、この溶接材の挟圧と溶融との相乗作用によって、先尾端部の各板幅端部間の全領域に溶接材を流し込めるとともに、板幅端部同士の対向端面に存在する酸化物を先尾端部同士の接合面外へ流し出すことができる。さらには、各板幅端部間の溶接材の溶融変形後に、既に第1段階の加熱処理によって高温化した先尾端部の中間部同士を押圧して接合できる。これらの結果、先尾端部同士をその板幅方向の全領域に亘って接合できるとともに、板幅端部同士の接合界面に介在する溶接材の延性等の塑性によって、先尾端部同士の接合強度を向上できる。さらには、先尾端部同士の接合界面の酸化物(例えば易酸化性の合金元素含有の酸化物)を起点として生じた割れの進行を、この溶接材の塑性によって止めることができる。以上より、易酸化性の合金元素含有の酸化物に影響されることなく、複数の鋼板の先尾端部同士をその全板幅に亘って確実に加熱接合できることから、たとえ易酸化性の合金元素を含有する合金鋼同士の加熱接合であっても、先尾端部同士の接合部分の破断を抑制することができる。
本発明の実施の形態1にかかる金属板接合装置および金属板接合方法を用いることによって、易酸化性の合金元素を含有する鋼板であるか否かを問わず、搬送される複数の鋼板の先尾端部同士を順次、その全板幅に亘って良好に加熱接合することができる。これによって、これら複数の鋼板を一体的に連続した一連の鋼板に能率よく加工できるとともに、この一連の鋼板における各鋼板同士の十分な接合強度を確保して、この一連の鋼板の破断を抑制できる。このような一連の鋼板は、例えば、複数の鋼板を途切れることなく連続して仕上圧延するエンドレス圧延に有用である。
また、本発明の実施の形態1では、先行板および後行板の先尾端部の対向端面と溶接材との接触面積が可能な限り小さくなるように溶接材の形状および寸法を設定している。このため、先行板および後行板の各板幅端部間に溶接材を挟圧した際、各板幅端部間の対向端面に印加される溶接材からの面圧を強化することができる。これによって、各板幅端部間の対向端面上の酸化物を溶接材によって容易に押し破ることができる。この結果、溶融・挟圧状態の溶接材の流れとともに、各板幅端部同士の接合面外へ酸化物を一層容易に流し出せることから、先尾端部同士の接合強度の向上と、その接合部分の破断進行の抑止との両効果を促進できる。
特に、0.2[mass%]以上、3.5[mass%]以下のSiを含有する合金鋼を先行板および後行板として用いた場合、これら先行板および後行板の各板幅端部間に挟圧する溶接材として、低炭素鋼等の低合金鋼を用いている。これによって、溶融・挟圧状態の溶接材の流れとともに、各板幅端部同士の接合面外へSiの酸化物を容易に流し出すことができる。この結果、Siの酸化物に影響されることなく、複数の鋼板の先尾端部同士をその全板幅に亘って確実に加熱接合できるとともに、Siの酸化物を起点とする先尾端部同士の接合部分の破断進行を確実に止めることができる。
つぎに、本発明の実施例1について説明する。本実施例1では、加熱接合対象の先行板4および後行板5(図1、3等を参照)として、易酸化性の合金元素(C、Si、Mn)を含有する合金鋼を用いた。一方、溶接材16c,16dとして、鋼中の炭素の含有量が0.01[%C]である低炭素鋼を用いた。また、溶接材16c,16dの横断面の寸法は、5[mm]×15[mm]とした。このような条件の下、図1に示した熱間圧延ラインの搬送経路3に沿って、先行板4および後行板5を順次搬送し、この先行板4および後行板5の先尾端部に対して、図4に示したステップS101〜S107の処理ステップを行った。
具体的には、上述した合金鋼のスラブを、加熱炉(図示せず)による加熱処理後に粗圧延部1によって粗圧延した。これによって、板厚が40[mm]であり、板幅が1800[mm]であり、長さが100[m]であり、温度が1060[℃]の先行板4および後行板5を得た。ついで、先行板4および後行板5の先尾端部を切断部11によって切断して、この先尾端部同士の対向端面を互いに係合可能である滑らかな形状に成形した(ステップS101参照)。
つぎに、誘導加熱部12および押圧部17,18の作用によって、先行板4の尾端部と後行板5の先端部とを互いに離間した状態で誘導加熱した(ステップS102参照)。この結果、先行板4の先端部のうちの両板幅端部4a,4bの間に挟まれた中間部4cと、後行板5の尾端部のうちの両板幅端部5a,5bの間に挟まれた中間部5cとを1440〜1490[℃](本合金鋼の固相線を上回る温度)の状態にした。この時、先行板4の板幅端部4a,4bおよび後行板5の板幅端部5a,5bの各温度は、図5に示した渦電流8a,8bの通電経路の特徴に起因して十分に上がらず、本合金鋼の固相線を下回った。例えば、先行板4の板幅端部4a,4bのうち、その角部から距離100[mm]までの部分の温度は、1400[℃]以下に留まっていた。このことは、後行板5の板幅端部5a,5bについても同様であった。
続いて、誘導加熱後の先行板4の板幅端部4a,4bと後行板5の板幅端部5a,5bとの各間に、上述した条件の溶接材16c,16dを送給した(ステップS104参照)。ついで、押圧部17,18による先行板4および後行板5の先尾端部同士の押圧によって、板幅端部4a,5a間に溶接材16cを挟圧するとともに、板幅端部4b,5b間に溶接材16dを挟圧した(ステップS105参照)。その後、直ちに、先行板4および後行板5の先尾端部の各所定位置に複数の電極P1〜P6を押し付け、これら複数の電極P1〜P6からの電流を、溶接材16c,16dを通して先尾端部に流した(図6参照)。この場合、電極P1〜P6からの電流は、板幅端部4a,5a間の溶接材16cと板幅端部4b,5b間の溶接材16dとに集中して流れ、この電流由来のジュール熱によって、溶接材16c,16dを加熱溶融した。さらには、挟圧・溶融状態の溶接材16c,16dを介して双方の板幅端部4a,4b,5a,5bに電流が流れ、この電流由来のジュール熱によって、板幅端部4a,4b,5a,5bを通電加熱した。この結果、板幅端部4a,4b,5a,5bは、1500[℃]以上の高温状態になった(ステップS106参照)。これらを継続しつつ、押圧部17,18によって先行板4および後行板5の先尾端部同士を押圧して接合した(ステップS107参照)。
以上のようにして、先行板4および後行板5の先尾端部同士をその全板幅に亘って接合し、この結果、先行板4と後行板5とをその搬送方向に連結した一連の鋼板を得た。本実施例1では、このような一連の鋼板を複数製造し、含有する合金元素の組成別に4つのサンプル#1〜#4に分類した。また、サンプル#1〜#4の比較例として、一連の鋼板のサンプル#5〜#8を製造した。なお、サンプル#5〜#8の加熱接合方法では、溶接材16c,16dを用いず、ステップS102の誘導加熱のみによって先行板4および後行板5の先尾端部を加熱して押圧接合した。これ以外の方法は、サンプル#1〜#4と同様にした。
本実施例1では、加熱接合後のサンプル#1〜#8の各々を仕上圧延部2(図1参照)によって仕上圧延し、この仕上圧延時の破断発生率を評価した。サンプル#1〜#8の破断発生率の評価結果を表1に示す。なお、この破断発生率は、発生した破断数を仕上圧延の合計回数(圧延総数)によって除して算出した。また、表1において、「低炭素溶接材使用」の記載は、上述した実施の形態1にかかる金属板接合方法に準拠した加熱方法であることを意味する。すなわち、「低炭素溶接材使用」の記載に対応するサンプルは、実施の形態1にかかる金属板接合方法に従って加熱接合されたものである。一方、「第1段階の加熱のみ」の記載は、先行板4および後行板5の先尾端部を加熱する工程がステップS102の誘導加熱のみの加熱方法であることを意味する。また、表1の「成分」は、鋼板中の合金元素(C、Si、Mn)の含有量を示している。
表1に示すように、サンプル#1、#5のSi含有量は0.1[%Si]とし、サンプル#2、#6のSi含有量は0.2[%Si]とし、サンプル#3、#7のSi含有量は0.5[%Si]とし、サンプル#4、#8のSi含有量は1.2[%Si]とした。また、C含有量およびMn含有量は、全サンプル#1〜#8について共通にし、各々、0.12[%C]、0.8[%Mn]とした。
上述したようなサンプル#1〜#8のうち、サンプル#1〜#4を比較した結果、実施の形態1にかかる金属板接合装置10および金属板接合方法によって鋼板同士を加熱接合した場合は、Si含有量が0.1[%Si]から1.2[%Si]に上昇しても、仕上圧延時の破断発生率を実用的なレベルに低く抑制できることが判った。特に、サンプル#3、#4の結果から判るように、Si含有量が多量(0.5[%Si]、1.2[%Si])であっても、実施の形態1にかかる金属板接合装置10および金属板接合方法によれば、仕上圧延時の破断発生率を3%に抑制できた。
これに対し、サンプル#5〜#8を比較した場合、誘導加熱のみによる鋼板同士の加熱接合では、Si含有量の増加に伴って仕上圧延時の破断発生率は増大した。特に、Si含有量が0.2[%Si]以上の場合、この破断発生率は20[%]以上という高い値となった。このSi含有量が0.2[%Si]以上の場合(サンプル#6〜#8)の破断発生率は、上述したサンプル#1〜#4と比較して判るように、極めて高いものであった。
以上より、本実施例1では、実施の形態1にかかる金属板接合装置10を用い、実施の形態1にかかる金属板接合方法に従って鋼板同士を加熱接合することによって、たとえ鋼板中のSi含有量が多量(1.0[%Si]強)であっても、仕上圧延時における鋼板同士の接合部分の破断を抑止できることが判った。なお、鋼板中のSi含有量は、一連の鋼板の仕上圧延し易さの観点から、3.5[%Si]以下にすることが望ましい。何故ならば、鋼板中のSi含有量が3.5[%Si]を上回る場合、鋼板自体の延性が著しく低下し、この結果、鋼板を圧延し難くなるからである。
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。上述した実施の形態1では、複数の電極を用いた通電加熱によって、先行板および後行板の先尾端部間の溶接材を加熱溶融していたが、実施の形態2では、交番磁界の印加による誘導加熱によって、先行板および後行板の先尾端部間の溶接材を加熱溶融している。
図8は、本発明の実施の形態2にかかる金属板接合装置の一構成例を示すブロック図である。図8に示すように、本実施の形態2にかかる金属板接合装置20は、上述した実施の形態1にかかる金属板接合装置10の電気溶接部16に代えて溶接材送給部26を備え、制御部19に代えて制御部29を備える。その他の構成は実施の形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
溶接材送給部26は、誘導加熱後の先行板4の尾端部における板幅方向両端部と誘導加熱後の後行板5の先端部における板幅方向両端部との各間に溶接材を送給する。図9は、本実施の形態2にかかる金属板接合装置の溶接材送給部の一構成例を示す模式図である。溶接材送給部26は、実施の形態1における電気溶接部16と同様の溶接材16c,16dの送給機能を有する。すなわち、溶接材送給部26は、図9に示すように、実施の形態1と同様の溶接材送給ローラ16a,16bを備える。このような溶接材送給部26は、図9に示すように、溶接材送給ローラ16aの回動によって、先行板4および後行板5の板幅端部4a,5a間に溶接材16cを送給し、溶接材送給ローラ16bの回動によって、先行板4および後行板5の板幅端部4b,5b間に溶接材16dを送給する。
制御部29は、切断部11、誘導加熱部12、溶接材送給部26、および押圧部17,18を制御する。この場合、制御部29は、誘導加熱部12に対する制御機能のみ、実施の形態1における制御部19と一部異なる。すなわち、制御部29は、誘導加熱部12のコイル対13(図2参照)の内側において互いに離間した状態で対向する先行板4の尾端部と後行板5の先端部とを誘導加熱するように、誘導加熱部12を制御する。その後、制御部29は、互いに離間した状態の先行板4の尾端部と後行板5の先端部との誘導加熱を所定の時間、実行したタイミングに、この誘導加熱を停止するように誘導加熱部12を制御する。また、制御部29は、押圧部17,18の押圧による溶接材16c,16dの挟圧後に、溶接材16c,16dを介して互いに接続した状態の先行板4の尾端部と後行板5の先端部とに交番磁界を印加して溶接材16c,16dを誘導加熱するように誘導加熱部12を制御する。この場合、制御部29は、溶接材16c,16dの誘導加熱を所定の時間、継続するように誘導加熱部12を制御する。また、制御部29は、誘電加熱部12による溶接材16c,16dの誘導加熱の継続時間以上の時間、先行板4の尾端部と後行板5の先端部との押圧を継続するように押圧部17,18を制御する。
また、制御部29は、誘導加熱部12による溶接材16c,16dの誘導加熱強度を制御する。具体的には、制御部29は、実施の形態1における先行板4および後行板5の先尾端部の誘導加熱強度の制御の場合と同様に、コイル対13による交番磁界の強度を制御し、これによって、先行板4および後行板5の先尾端部に誘導する渦電流の強度を制御する。制御部29は、この渦電流の制御を通して、先行板4および後行板5の先尾端部間の溶接材16c,16dの誘導加熱強度を制御する。例えば、制御部29は、誘導加熱部12の制御により、先行板4および後行板5の先尾端部に対する第1段階の誘導加熱時に比して溶接材16c,16dに対する誘導加熱時の交番磁界を強め、これにより、第1段階の誘導加熱に比して溶接材16c,16dに対する誘導加熱を強める。なお、制御部29は、誘導加熱部12による先行板4および後行板5の先尾端部の誘導加熱強度を、実施の形態1の場合と同様に制御する。
上述したような制御部29の制御に基づいて、実施の形態2における誘導加熱部12は、先行板4および後行板5をその板厚方向に貫通する交番磁界を先行板4および後行板5の先尾端部に印加して、一方の板幅端部4a,5a間に挟圧された溶接材16cと他方の板幅端部4b,5b間に挟圧された溶接材16dとを誘導加熱する。
なお、制御部29は、実施の形態1における制御部19の場合と同様に、切断部11および押圧部17,18を制御する。また、制御部29は、実施の形態1における電気溶接部16に対する溶接材送給制御と同様に、溶接材送給部26を制御する。
つぎに、本発明の実施の形態2にかかる金属板接合方法について説明する。図10は、実施の形態2における先行板および後行板の先尾端部同士の加熱接合を説明するための模式図である。本実施の形態2にかかる金属板接合方法において、先行板4および後行板5の先尾端部間に挟圧された溶接材16c,16dの加熱方法が、実施の形態1にかかる金属板接合方法と異なる。すなわち、本実施の形態2にかかる金属板接合方法では、実施の形態1と同様にステップS101〜S105の各処理ステップ(図4参照)を行う。ステップS106、S107では、電気溶接部16による通電加熱に代えて、誘導加熱部12による誘導加熱を行う。
本実施の形態2のステップS106において、金属板接合装置20は、先行板4の板幅端部4aと後行板5の板幅端部5aとの間に挟圧した溶接材16cと、先行板4の板幅端部4bと後行板5の板幅端部5bとの間に挟圧した溶接材16dとを誘導加熱部12によって誘導加熱する。
具体的には、図10に示すように、押圧部17,18は、上述したステップS105から継続して、板幅端部4aと板幅端部5aとの間に溶接材16cを挟圧し、且つ、板幅端部4bと板幅端部5bとの間に溶接材16dを挟圧する。これと同時に、誘導加熱部12は、挟圧状態の溶接材16c,16dを誘導加熱によって加熱溶融する。すなわち、誘導加熱部12のコイル対13は、板幅端部4a,5a間の溶接材16cと板幅端部4b,5b間の溶接材16dとがともに挟圧され始めてから所定の時間が経過したタイミングに、電源15(図8参照)によって給電される。これによって、コイル対13は、ステップS103以降から停止していた先行板4および後行板5の先尾端部への交番磁界の印加を再開する。この時点において、先行板4および後行板5は、溶接材16cを介して板幅端部4a,5a同士を接続させ、且つ、溶接材16dを介して板幅端部4b,5b同士を接続させている。このような接続状態の先行板4および後行板5の先尾端部には、図10に示すように、コイル対13からの交番磁界の印加によって渦電流8cが誘導される。
渦電流8cは、例えば図10に示すように、後行板5の先端部の中央近傍から板幅端部5aに向けて弧状に流れ、続いて、板幅端部5aから挟圧状態の溶接材16cを通って先行板4の板幅端部4aに流れる。つぎに、渦電流8cは、先行板4の尾端部内において一方の板幅端部4aから他方の板幅端部4bに向けて半周し、ついで、板幅端部4bから挟圧状態の溶接材16dを通って後行板5の板幅端部5bに流れ、その後、板幅端部5bから後行板5の中央近傍に向けて弧状に流れる。このようにして、渦電流8cは、溶接材16c,16dを介して先行板4および後行板5の先尾端部間を周回する。ここで、渦電流8cは、先行板4および後行板5の一方の板幅端部4a,5a間を跨って周回する際、この板幅端部4a,5a間の溶接材16cに集中して流れる。この結果、溶接材16cはジュール発熱し、この渦電流8cに由来するジュール熱により、溶接材16cは加熱溶融される。これと同様に、渦電流8cは、先行板4および後行板5の他方の板幅端部4b,5b間を跨って周回する際、この板幅端部4b,5b間の溶接材16dに集中して流れる。この結果、溶接材16dはジュール発熱し、この渦電流8cに由来するジュール熱により、溶接材16dは加熱溶融される。
また、このステップS106において、誘導加熱部12は、渦電流8cに由来するジュール熱によって、溶接材16c,16dとともに、先行板4の板幅端部4a,4bと後行板5の板幅端部5a,5bとを誘導加熱する。すなわち、先行板4の板幅端部4aおよび後行板5の板幅端部5aは、渦電流8cに由来するジュール熱によって、鋼板同士の加熱接合に十分な温度(先行板4および後行板5の固相線を上回る温度)に加熱される。同様に、先行板4の板幅端部4bおよび後行板5の板幅端部5bは、渦電流8cに由来するジュール熱によって、鋼板同士の加熱接合に十分な温度に加熱される。なお、本実施の形態2におけるステップS106の誘導加熱は、加熱接合対象の先行板4および後行板5の先尾端部に対する第2段階の加熱処理である。
一方、本実施の形態2のステップS107において、金属板接合装置20は、上述したステップS106における溶接材16c,16dの加熱溶融を継続しつつ、先行板4の尾端部と後行板5の先端部とを押圧して接合する。具体的には、図10に示すように、押圧部17,18は、誘導加熱部12が溶接材16c,16dを加熱溶融する期間、先行材4および後行材5の先尾端部同士を押圧し続ける。さらに、押圧部17,18は、誘導加熱部12が先行板4および後行板5の板幅端部4a,4b,5a,5bを誘導加熱する期間、この先尾端部同士の押圧を継続する。これら両期間の押圧作用によって、溶融状態の溶接材16cは、先行板4および後行板5の板幅端部4a,5a間の全領域に流れ広がるとともに、この板幅端部4a,5a同士の対向端面に存在する酸化物を、先行板4および後行板5の先尾端部同士の接合面外へ洗い流す。これと同様に、溶融状態の溶接材16dは、先行板4および後行板5の板幅端部4b,5b間の全領域に流れ広がるとともに、この板幅端部4b,5b同士の対向端面に存在する酸化物を、先行板4および後行板5の先尾端部同士の接合面外へ洗い流す。また、押圧部17,18は、上述した両期間、先行板4および後行板5の先尾端部同士を押圧し続けることにより、実施の形態1の場合と同様に、この先尾端部同士をその全板幅に亘って接合する(図10参照)。
その後、金属板接合装置20は、この先行板4および後行板5の先尾端部同士の加熱接合を完了する。具体的には、制御部29は、ステップS107の押圧から所定の時間が経過したタイミングに、先行板4および後行板5の先尾端部同士の押圧を停止して、先行板4および後行板5のクランプを解除するように押圧部17,18を制御する。また、制御部29は、ステップS106の誘導加熱の開始から所定の時間が経過したタイミングに、先行板4および後行板5の先尾端部に対する交番磁界の印加を停止するように誘導加熱部12を制御する。なお、上述したように先尾端部同士の加熱接合が完了した先行板4および後行板5は、図8に示した搬送経路3に沿って仕上圧延部2側へ搬送される。このような金属板接合装置20は、搬送経路3(図8参照)に沿って順次搬送される複数の鋼板に対し、上述したステップS101〜S107の各処理ステップを行う。これによって、金属板接合装置20は、これら複数の鋼板の各対向端部同士をその全板幅に亘って確実に加熱接合する。この結果、金属板接合装置20は、実施の形態1の場合と同様に一連の鋼板を得る。
なお、本実施の形態2にかかる金属板接合方法においても、上述した実施の形態1の場合と同様に、加熱接合対象の先行板4および後行板5がSi、Mn、Cr、Ti、Al等の易酸化性の合金元素を所定量以上含有する合金鋼であれば、溶接材16c,16dは、先行板4および後行板5に含有の合金元素と同じ合金元素であって炭素以外のものを含有しない低合金の鋼材にすればよい。例えば、先行板4および後行板5として、0.2[mass%]以上、3.5[mass%]以下のSiを含有する合金鋼を用いた場合、溶接材16c,16dとして、Siを含有しない低炭素鋼等の低合金鋼を用いればよい。
以上、説明したように、本発明の実施の形態2では、誘導加熱後の先行板および後行板の先尾端部の両板幅端部間の各々に溶接材を挟圧しつつ、この先尾端部に交番磁界を印加して渦電流を誘導し、各板幅端部間の溶接材を通じて先尾端部に渦電流を流して、これら挟圧状態の各溶接材を加熱溶融するように構成し、その他を実施の形態1と同様に構成している。
このため、上述した実施の形態1の場合と同様の効果を発揮しつつ、先行板および後行板の先尾端部に対する第1段階の加熱処理と、誘導加熱後の先行板および後行板の先尾端部間に挟圧された状態の溶接材の誘導加熱(第2段階の加熱処理)とに、同一の誘導加熱部を共用できる。この結果、上述した実施の形態1の場合と同様の作用効果を享受するとともに、装置規模の小型化および装置構成の簡易化を促進することができる。
一方、互いに離間した状態の先行板および後行板の先尾端部同士を誘電加熱しつつ押し付けた場合、先行板側の渦電流と後行板側の渦電流とが瞬間的に結合し、この結果、先尾端部における渦電流の通電経路が瞬間的変化する。これに起因して、誘導加熱部の電源電圧が急激に変化することから、各コイルに過大な交流電流が流れるとともに、電源に過度な負荷変動が発生する。この結果、意図せず誘導加熱部の電源遮断が発生して先尾端部の誘導加熱に支障を来たす可能性がある。また、上述したような過度な負荷に起因して各コイルまたは電源が破損する可能性もある。
これに対し、本発明の実施の形態2では、先行板の尾端部と後行板の先端部とを互いに離間させて誘導加熱した後、この離間状態の先行板および後行板の先尾端部同士を押圧する前に、この先尾端部に対する誘導加熱を停止し、この誘導加熱の停止期間に、この離間状態の先行板の尾端部と後行板の先端部とを互いに押し付けて、第1段階の誘導加熱後の先行板および後行板の先尾端部同士を、溶接材を挟んで接続させている。このため、上述した渦電流の通電経路の瞬間的変化を引き起こすことなく、第1段階の誘導加熱後の先行板および後行板の先尾端部同士を押圧によって電気的に接続できる。これによって、誘導加熱部の意図しない電源遮断を防止できるとともに、過大な負荷変動に起因する各コイルおよび電源の破損を防止できる。この結果、電源遮断や設備破損等に起因して意図せず誘導加熱を中断することなく、先行板および後行板の先尾端部同士を安全且つ能率よく加熱接合できる。
つぎに、本発明の実施例2について説明する。本実施例2では、実施の形態2にかかる金属板接合装置20を用い、実施の形態2にかかる金属板接合方法に従って先行板4および後行板5の先尾端部同士を加熱接合した。すなわち、先行板4および後行板5の先尾端部間に挟圧した溶接材16c,16dを渦電流8c(図10参照)由来のジュール熱によって加熱溶融し、且つ、挟圧・溶融状態の溶接材16c,16dを介して双方の板幅端部4a,4b,5a,5bを渦電流8c由来のジュール熱によって誘導加熱した。なお、本実施例2において、その他の条件は、上述した実施例1と略同様とした。本実施例2においても、実施例1の場合と同様に、板幅端部4a,4b,5a,5bを1505[℃](先行板4および後行板5の固相線を上回る温度)に高温化でき、且つ、先行板4および後行板5の先尾端部同士を押圧して接合できた。
このようにして、先行板4および後行板5の先尾端部同士をその全板幅に亘って接合し、この結果、先行板4と後行板5とをその搬送方向に連結した一連の鋼板を得た。本実施例2では、このような一連の鋼板を複数製造し、含有する合金元素の組成別に5つのサンプル#11〜#15に分類した。また、サンプル#11〜#15の比較例として、一連の鋼板のサンプル#16を製造した。なお、サンプル#16の加熱接合方法では、溶接材16c,16dとして、0.8[%Si]のSiを含有する合金鋼を用いた。これ以外の方法は、サンプル#11〜#15と同様にした。なお、Si含有量が所定値以上(例えば0.2[%Si]以上)である鋼板同士を第1段階の誘導加熱のみによって加熱接合した場合、上述した実施例1の評価結果(表1参照)から判るように、仕上圧延時の破断発生率が著しく高い。このことは、本実施例2においても同様であることは明らかであるため、本実施例2では、第1段階の誘導加熱のみのサンプルを評価対象外とした。
本実施例2では、加熱接合後のサンプル#11〜#16の各々を仕上圧延部2(図8参照)によって仕上圧延し、この仕上圧延時の破断発生率を評価した。サンプル#11〜#16の破断発生率の評価結果を表2に示す。なお、本実施例2における破断発生率は、上述した実施例1と同様の方法によって算出した。また、表2において、「0.8%Si溶接材使用」の記載は、溶接材16c,16dとして、0.8[%Si]のSiを含有する合金鋼を用い、このこと以外を実施の形態2にかかる金属板接合方法に準拠した加熱方法であることを意味する。なお、表2中の「低炭素溶接材使用」および「成分」は、実施例1における表1と同様の意味をもつ。
表2に示すように、サンプル#11、#12、#16のC含有量は0.12[%C]とし、サンプル#13〜#15のC含有量は0.13[%Si]とした。また、サンプル#11のSi含有量は0.8[%Si]とし、サンプル#12、#16のSi含有量は1.5[%Si]とし、サンプル#13のSi含有量は2.1[%Si]とし、サンプル#14のSi含有量は3.4[%Si]とし、サンプル#15のSi含有量は3.6[%Si]とした。なお、Mn含有量は、全サンプル#11〜#16について共通にし、0.8[%Mn]とした。
上述したようなサンプル#11〜#16のうち、サンプル#11〜#15を比較した結果、次のことが判った。すなわち、実施の形態2にかかる金属板接合装置20および金属板接合方法によって鋼板同士を加熱接合した場合は、Si含有量が0.8[%Si]から3.4[%Si]に上昇しても、仕上圧延時の破断発生率を実用的なレベルに低く抑制できた。しかし、サンプル#15の結果から判るように、Si含有量が3.6[%Si]まで増加した場合、たとえ実施の形態2にかかる金属板接合装置20および金属板接合方法によって鋼板同士を加熱接合した場合であっても、仕上圧延時の破断発生率は25[%]という高い値となった。
一方、サンプル#11〜#14とサンプル#16とを比較した場合、Si含有量が0.8[%Si]である合金鋼を溶接材16c,16dとして用いた鋼板同士の加熱接合では、溶接材16c,16dが低炭素鋼である場合に比して、仕上圧延時の破断発生率が極めて高くなることが判った。この破断発生率の上昇は、加熱接合対象の鋼板中に含有の易酸化性の合金元素と同じ合金元素Siが溶接材16c,16dに含有されているため、鋼板の板幅端部同士の接合界面からSi酸化物を排除し切れず、この接合界面に残存したSi酸化物に起因して、板幅端部の破断の進行を抑止できなかったから生じたと考えられる。
以上より、本実施例2では、実施の形態2にかかる金属板接合装置20を用い、実施の形態2にかかる金属板接合方法に従って鋼板同士を加熱接合することによって、たとえ鋼板中のSi含有量が多量(例えば3.4[%Si])であっても、仕上圧延時における鋼板同士の接合部分の破断を抑止できることが判った。また、一連の鋼板の仕上圧延し易さの観点と、仕上圧延時の破断の進行し易さの観点とから、鋼板中のSi含有量を3.5[%Si]以下にすることが望ましいことを確認できた。
なお、上述した実施の形態1では、溶接材の通電加熱に用いる複数の電極を先行板の尾端部と後行板の先端側とに分けて接触配置していたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、溶接材を通電加熱するための溶接電源に接続される一対の電極のうち、一方の電極を先行板の尾端部または後行板の先端部に接触配置すれば、他方の電極は溶接材に接触配置してもよい。例えば図11に示すように、溶接電極16eに接続される一対の電極P1,P2のうち、一方の電極P1が後行板5の先端部に接触配置された場合、他方の電極P2は、溶接材16cに接触配置すればよい。同様に、溶接電極16fに接続される一対の電極P3,P4のうち、一方の電極P3が後行板5の先端部に接触配置された場合、他方の電極P4は、溶接材16dに接触配置すればよい。
また、上述した実施の形態1では、溶接材16c,16dの通電加熱のために、3つの溶接電源16e〜16gと、その各々に対して対をなす6つの電極P1〜P6とを用いていたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、溶接材16c,16dの通電加熱に用いる溶接電源の配置数は、特に3つに限定されず、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。また、電極の配置数は、溶接電源毎に対をなしていれば、特に6つに限定されず、2つであってもよいし、4つ以上の偶数であってもよい。
さらに、上述した実施の形態1,2では、先行板4および後行板5の先尾端部のうち、一方の板幅端部4a,5a間の全領域に溶接材16cを送給し、他方の板幅端部4b,5b間の全領域に溶接材16dを送給していたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、一方の板幅端部4a,5a間の一部領域に溶接材16cを送給してもよいし、他方の板幅端部4b,5b間の一部領域に溶接材16dを送給してもよいし、これらの組合せであってもよい。例えば図12に示すように、先行板4および後行板5の斜め上方から、溶接材送給ローラ16aの回動作用によって、板幅端部4a,5a間の一部領域に溶接材16cを送給してもよい。また、先行板4および後行板5の斜め上方から、溶接材送給ローラ16bの回動作用によって、板幅端部4b,5b間の一部領域に溶接材16dを送給してもよい。この場合、溶接材送給ローラ16a,16bは、溶接材16c,16dの各送給経路に対応して、適切な位置に必要数、配置すればよい。
また、上述した実施の形態1,2では、先行板4の板幅端部4aと後行板5の板幅端部5aとの間に溶融状態の溶接材16cを流し広げ、先行板4の板幅端部4bと後行板5の板幅端部5bとの間に溶融状態の溶接材16dを流し広げていたが、これに限らず、先行板4および後行板5の先尾端部間の全領域に亘って溶融状態の溶接材16c,16dを流し広げてもよい。すなわち、先行板4および後行板5の先尾端部のうち、板幅端部4a,5a間および板幅端部4b,5b間のみならず、中間部4c,5c間にも溶接材16c,16dを溶かし広げてもよい。このような全領域に流れ広がる溶接材16c,16dによって、この先尾端部の全領域から、合金元素の酸化物を接合面外へ流し出してもよい。
さらに、上述した実施の形態1,2では、Si含有の鋼板同士の加熱接合に低炭素鋼からなる溶接材を用いるという鋼板と溶接材との組み合わせを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、Si、Mn、Cr、Ti、Al等の易酸化性の合金元素を含有する合金鋼である加熱接合対象の鋼板に対し、この含有合金元素と同じ合金元素であって炭素(C)以外のものを含有しない低合金の鋼材を溶接材として用いればよい。例えば、Si含有の鋼板同士の加熱接合に、Siを含有せず且つCを含有する低合金の鋼材を溶接材として用いてもよいし、SiおよびCを含有しない低合金の鋼材を溶接材として用いてもよい。
また、上述した実施の形態1,2では、一対のコイル13a,13bおよび単一のコア14を備えた誘導加熱部12を例示したが、これに限らず、誘導加熱部12は、鋼板をその板厚方向に貫通する交番磁界を用いて鋼板を誘導加熱するものであれば、コイルおよびコアの各保有数は問わない。例えば、誘導加熱部12は、搬送経路3を挟んで鋼板の板厚方向に対向する複数対のコイルを備えてもよいし、これら複数対のコイルに対応して、複数のコアを備えてもよい。
さらに、上述した実施の形態1,2では、本発明にかかる金属板接合装置を熱間圧延ラインに適用した場合を例示したが、これに限らず、本発明にかかる金属板接合装置は、熱間圧延ライン以外の鉄鋼材加工ラインまたは鉄鋼材処理ラインに適用してもよい。
また、上述した実施の形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。例えば、加熱接合対象の金属板は、上述したように鋼板であってもよいし、交番磁界によって渦電流を誘起可能な金属板であれば、銅板または鉄板等の鋼板以外の金属板であってもよい。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明に含まれる。