JP6035896B2 - Fe基合金組成物 - Google Patents
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軟磁性材料の代表的な使用例としてリアクトルや柱状トランス等の変圧製品が挙げられるが、従来その磁心材料として用いられている珪素鋼(Fe-6.5Siの場合)は、高い飽和磁束密度(Bs=1.6(T))を有するものの、保磁力(Hc=119(A/m)(1.50(Oe)))が高く、軟磁気特性の点で不十分である。
珪素鋼等従来の一般的な結晶性の軟磁性材料の場合、飽和磁束密度と保磁力とはトレードオフの関係にあり、高い飽和磁束密度を保持しつつ保磁力を更に低くするといったことは難しい。
ナノ結晶軟磁性材料は、ナノスケールの結晶粒をアモルファス母相中に分散させて成るもので、従来材では実現が困難な優れた軟磁気特性を示すことから、近年研究開発や実用化が進められている。
ところがDがナノスケールまで減少したナノ結晶磁性材料では、従来の結晶質軟磁性材料とは異なる挙動を示すようになり、Dが小さくなるほどμiが高くなるとともに同図に示すようにHcが低下し、軟磁気特性が向上する。
その一つの組成例として83.3Fe-4.0Si-8.0B-4.0P-0.7Cuが開示されており、この組成のFe基ナノ結晶軟磁性材料はBs≒1.8(T),Hc≒8.0(A/m)(0.1(Oe))で高い軟磁気特性を有している。
この特許文献1では、アモルファス形成元素としてCを含有させる点、及びその含有量は5%(原子%)以下とすべき点も開示している。
その理由は、C含有量が5%を超えると軟磁気特性を劣化させるからであるとしている。
しかしながら、Cの含有量を5%以下に少なくすれば、安価なCに比べて高価な他のアモルファス形成元素であるBの含有量を多くする必要があり、ナノ結晶軟磁性材料のコストが高くなってしまう。
このFe基合金組成物は、アモルファス形成元素としてのCを5.0%を超えて多量に含有しているにも拘らず、後に明らかにされるように低い保磁力Hc及び1.6(T)を超える高い飽和磁束密度Bsを実現可能なFe基ナノ結晶合金を熱処理によって形成することができる。
CはBと原子半径が近く、アモルファス形成能に関してCはBと似たような働きをすることが期待できる。
本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
但し溶湯冷却時の冷却速度を速めることによって、Feの多量含有による結晶化は抑制することができる。
特にロール急冷法による溶湯急冷では合金溶湯を超急冷でき、含有Fe量を多くしつつ冷却による結晶化を抑制できる。
このようにしておくことで、その後の結晶化温度以上の加熱による熱処理によって得られるFe基ナノ結晶合金の軟磁気特性を効果的に高めることができる。
Fe
Feは磁性を担う主元素で、高い飽和磁束密度を確保する上では多い方が望ましい。但しFe量が多くなると合金溶湯の冷却時に結晶化し易くなってしまう。
本発明では、アモルファス形成のための他元素を除いた残量がFe含有量となる。但し高い飽和磁束密度を確保する上でFeの含有量は77〜84原子%が望ましく、80〜84原子%が更に望ましい。
Bはアモルファス形成元素で、他のアモルファス形成元素Si,Cとの相互作用でそれらと協働してアモルファス形成に寄与する。
またそれらの相互作用でアモルファス形成に寄与することから、各アモルファス形成元素の添加量に応じて特性が大きく左右される。但しBの含有量が3.0%未満であるとアモルファス形成能が著しく低下するため、本発明ではBを3.0%以上含有させる。
本発明は、高価なBの含有量を可及的に少なくすることを一つの目的としている。Cの多量含有によって可能なBの少量化を追求した結果、B含有量を3.0〜6.0%に低減できることを確認した。
本発明では、そのためにCを5.0%以上含有させるようにしている。その条件の下でSi,B,Cの比率の最適化を求めたところ、B含有量が3.0〜6.0%でもアモルファス化率をほぼ100%まで高めることが可能であることを確認した。
加えてBの含有量が6.0%を超えて多くなると、磁壁の移動を妨げるFe3BやFe2Bといった磁気的にハードな化合物相が析出し易くなり、bcc-Fe固溶体を主相とする均一なナノ結晶相が得難くなる。本発明においてBの望ましい含有量は5.0%未満である。
Siもまたアモルファス形成元素で、B,Cとの相互作用でそれらと協働してアモルファス形成に寄与する。またそれぞれの含有量に応じて特性を大きく変化させる。
本発明ではB,Cの含有量に応じてSiの含有量を少なくすることができる。但しSiは2.0%以上添加することでアモルファス形成能が改善されるため、2.0%以上含有させることが望ましい。
一方8%よりも多く含有させると飽和磁束密度とアモルファス形成能が低下し、軟磁気特性が劣化するため、上限を8.0%とする。
Pはアモルファス形成元素である。但し他のアモルファス形成元素との相互作用はあまり無く、P単独の添加量増量でアモルファス形成能を高めることができる。
PはまたCuと結合し易く、Cuとともにナノヘテロ構造を形成し、アモルファス相からbcc-Feナノ結晶を析出させるのに寄与する働きを有する。
本発明において、Pの下限を4.0%としている理由は、4.0%未満であるとアモルファス形成能が著しく低下することによる。
一方Pの上限を8.0%としているのは、8.0%を超えて多量に含有させると飽和磁束密度が低下し、軟磁気特性が劣化することによる。
Cuはアモルファス相からbcc-Feナノ結晶を析出させるのに寄与する必須元素である。
CuはPとともに結合してナノヘテロ構造のクラスターを形成してアモルファス中に微細に分散し析出する。
Cuクラスターが微細に分散していると、微細な粒径のbcc-Fe相を均一に発生分散させることができる。
Cuのクラスターが生じていないと、bcc-Fe結晶が突然生じて一気に粗大化してしまう。
一方1.0%を超えて多量に含有させると、Fe基ナノ結晶合金の前駆体となるアモルファス相が不均質になり、これによりFe基ナノ結晶合金の形成の際に均質なナノ結晶組織が得られなくなる。
Cはアモルファス形成元素であり、Si,B等他のアモルファス形成元素との相互作用でそれらと協働してアモルファス形成に寄与する。またそれぞれの添加量に応じて特性が大きく変化する。
本発明において、Cを5.0%を超える量で含有させる理由は、アモルファス形成能を維持しつつ高価なBの添加量を効果的に減量するためには、Cを5.0%超含有させる必要があるからであり、またその上限を12.0%としているのは、それ以上Cを多く含有させるとアモルファス相からの結晶化温度が300℃を下回るようになるからである。
結晶化温度が300℃を下回る低い温度になると、結晶化のための最適温度の制御が難しくなり、そのことが結晶粒を粗大化させて磁気特性を低下させることに繋がる。
また結晶化温度が300℃を下回る低い温度になると、本発明の軟磁性合金の粉末を樹脂材と混合して射出成形し、リアクトル等のコア(磁心)を構成する際、樹脂材の溶融温度が約300℃のため、結晶化温度の低い軟磁性合金の粉末を投入すると、磁気特化が低下し、良質な射出成形コアを成形できない。
例えばスパッタリング法,真空蒸着法等の気相急冷法にて製造することもできる。但しこれらは大量生産には不向きであり、液体急冷法にて製造するのが好適である。
液体急冷法としては単ロール急冷法,双ロール急冷法等のロール急冷法やガスアトマイズ法,水アトマイズ法,遠心力アトマイズ法等のアトマイズ法を用いることが可能であるが、アモルファス化を良好に行う上で、より超急冷が可能なロール急冷法を好適に用いることができる。
凝固した合金はロールの回転方向に沿って飛行し、リボン状のアモルファス合金薄帯が得られる。
尚、結晶化温度は合金の組成によって変化するため、熱処理に先立って予め結晶化温度を測定しておく。その結晶化温度の測定は熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)にて行うことができる。
尚、単ロール急冷法による急冷は以下の条件にて行った。
雰囲気:Ar
ロール速度:25m/s (純Cuロール)
差圧:105kPa
ノズル径:0.4mm
流化量:50g
この単ロール急冷法による急冷によって生成したリボン状の薄帯は厚さが20〜30μm,幅が0.6〜0.8mm,長さが数十mであった。
具体的には、結晶化したFe又は化合物のピーク(Ic:結晶性散乱積分強度,Ia:非晶性散乱積分強度)を読み取り、そのピーク強度から結晶化率を割り出し、アモルファス化率を算出した。本実施例では、薄帯の、ロール面に接していた面と、接していない面の両方を測定し、その平均値をアモルファス化率として求めた。
結果が表1に示してある。
図1に、発明例1についてのDSCによる測定結果が示してある。
このDSC測定では、測定試料と基準物質とで構成される試料部の温度を一定のプログラムに従って変化させながら、その測定試料と基準物質との温度差を温度の関数として測定する。その温度差は単位時間当たりの熱エネルギーの入力差に比例する。
図1では390℃付近に低温側のピークが表れている。
以上のDSC測定を表1の発明例1〜発明例8及び比較例1〜比較例6のそれぞれについて行った。
そして低温側の発熱のピーク付近(発熱が始まってピークに到るまでの途中)を最高到達温度として、表1の発明例1〜発明例8及び比較例1〜比較例6の熱処理を行い、結晶化処理を行った。
その結晶化のための熱処理は、昇温速度10℃/min,最高到達温度での保持時間30minの条件で行った。
図2(ロ)に発明例1についての透過型電子顕微鏡写真を示した。
同図中(イ)は、透過型電子顕微鏡写真(ロ)中の丸い枠で囲んだ部分を拡大して模式図として表したものである。
図2(イ)中Sはbcc-Feナノ結晶(粒径数十nm程度)を表しており、またAは残存アモルファス金属相を示している。
ここで飽和磁束密度測定は、VSMにてフルループ(メジャーヒステリシスループ)を測定することにより求めた。
また保磁力Hc測定は、Hcメーターを使用し測定を行った(東北特殊鋼(株)社製の型式:K-HC1000を使用)。尚、本実施例においては、従来の珪素鋼の保磁力の半分よりも低い56(A/m)を目標値として設定した。
これらの結果が表1に併せて示してある。
尚、表1には熱処理を行ったときの熱処理温度も併せて示してある。
比較例3は、逆にB含有量が本発明の下限を下回って不足しており、Hcが高い。
このように結晶化温度が低いと、軟磁性粉末と熱可塑性樹脂との混合材を射出成形してコアを構成するといったことは実際上難しくなる。
比較例5及び比較例6は、B含有量が本発明の上限値を超えて多く、コストが高くなってしまう。
Claims (2)
- 原子%で
B:3.0〜6.0%
Si:1.3〜8.0%
P:4.0〜8.0%
Cu:0.3〜1.0%
C:5.0超〜12.0%
残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、
下記式(1)に示すアモルファス化率Xが85%以上であるFe基合金組成物。
- 原子%で
B:3.0〜6.0%
Si:1.3〜8.0%
P:4.0〜8.0%
Cu:0.3〜1.0%
C:5.0超〜12.0%
残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、
アモルファス母相中にbcc-Feナノ結晶粒が分散したナノ組織構造を有するFe基合金組成物。
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