JP6028878B2 - 水まわり用ガラス部材 - Google Patents
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一方、水まわり用ガラスを頻繁に清掃することなく放置すると、水まわり用ガラスの表面に汚れが溜まる。この汚れが目立つと、概観が悪くなるばかりか水まわり用ガラスの透明性が失われ、窓や鏡等としての機能が損なわれる恐れがある。水まわり用ガラスは、汚れが付着した場合であっても、汚れが目立たない表面を有することも求められている。すなわち、水まわり用ガラスは、汚れが落ちやすく、かつ付着した汚れが目立ちにくい表面を有すること、つまり高い防汚性が求められている。
特表2002−543035号公報(特許文献3)には、ソーダ含有性のガラス基板に非晶質炭素(DLC)コーティングを行なうことで、ガラス基板上の汚れや腐食を減少させることが記載されている。非晶質炭素(DLC)コーティングは、少なくとも一つの高四面体非晶質炭素(ta−C)層を含んでおり、この高四面体非晶質炭素(ta−C)層は密度が高く、高い割合のsp3炭素−炭素結合を有することが好ましいことが記載されている。
特許文献2では、優れた外観を得ることについて記載されているものの、長期間にわたって防汚性を持続させることについて検討されていない。
特許文献3及び4の方法は、毎日複数回水に曝される環境が想定されていない。また、そうした環境において、長期間にわたって防汚性を持続させることについて検討されていない。
また、本発明は、前記水まわり用部材の製造方法を提供する。この製造方法は、容器内に設けられた基材支持部に水まわり用ガラスを配置する工程と、前記容器内を減圧する工程と、前記容器内に原料を導入し、前記容器内を所定圧力に調整する工程と、前記原料をプラズマ化して前記アモルファスカーボン層の密度を1.1g/cm 3 より大きく2.0g/cm 3 未満の範囲とすることが可能な程度に該プラズマ中のラジカルを多くした高密度プラズマを生成する高密度プラズマ生成工程と、前記基材支持部に電圧を印加する工程と、前記高密度プラズマを前記水まわり用ガラスの表面に堆積させ、前記水まわり用ガラスの表面に膜厚が4nm以上20nm以下であり、前記アモルファスカーボン層が形成される前後の色差(ΔE)を前記膜厚で除算した値(X)が0.2よりも大きく0.9未満であるアモルファスカーボン層を形成する工程と、を含む。
本発明において、基材は、水まわり用ガラスである。つまり前述した水を用いる場所で用いられるガラスである。水まわり用ガラスの表面性状は、特に限定されるものではなく、光沢を有する鏡面、梨地、ヘアラインなどを適用することができる。
本発明において、アモルファスカーボン層は、炭素原子および水素原子を含む非晶質の化合物を含む。アモルファスカーボン層は、炭素原子を主に含む。ここで、「炭素を主に含む」とは、アモルファスカーボン層における炭素原子量が50atm%よりも多いことを指す。アモルファスカーボン層における炭素原子量は、より好ましくは60atm%以上である。
本発明において、アモルファスカーボン層の膜厚は、例えば4nm以上である。より好ましくは7nm以上である。これにより、間接的に、微量な紫外線が照射される環境においても、耐侯性すなわち防汚耐久性を得ることが可能となる。また、本発明のアモルファスカーボン層の膜厚は、例えば20nm以下である。より好ましくは18nm以下である。これにより、透明性の高い水まわり用ガラス部材を得ることが可能となる。
また、本発明において、「防汚耐久性」あるいは「耐候性」とは、長期間に亘って微量な紫外線が照射されながら水道水、洗剤などがかかるという、屋内水周り環境を模擬した状況下でも防汚性が維持される性質を示す(長期間にわたる水垢除去性)。
本発明による屋内水まわり環境で用いられる水まわり用ガラス部材においては、アモルファスカーボン層の厚さが、例えば4nm以上20nm以下と薄い。そのため、XRRを用いて膜厚を測定することが好ましい。XRRを用いると、アモルファス構造であるアモルファスカーボン層と基材との界面の判別が可能である。XRRを用いる場合、上述の密度を求める方法と同様の方法にて求めることができる。
本発明において、水まわり用ガラスの表面にアモルファスカーボン層が形成される前後の色差(以下、ΔEとも言う)は2以上であることが好ましい。さらに好ましくは4以上である。
本発明者らは、色差ΔEとアモルファスカーボン層の膜質との間に密接な関係があることを見出した。具体的には、色差ΔEを所定値以上に大きくすることで、アモルファスカーボン層の膜質を高めることができることを見出した。具体的には、同じ膜厚の場合には、色差が高い膜のほうが、色差が低い膜よりも膜質が良好であることを見出した。膜質を高めることにより、微量の紫外線が照射される環境においてもアモルファスカーボン層の分解を抑制して、耐侯性を得ることが可能となる。また、本発明のΔEは12以下であることが好ましく、さらに好ましくは10以下である。これにより、透明性の高い水まわり用ガラス部材を得ることが可能となる。
ΔEは、分光測色計などを用いて測定することが可能である。ΔEは、下記の方法で求めることができる。まず、基材である水まわり用ガラスのL* 0、a* 0、b* 0をそれぞれ測定する。次に、水まわり用ガラスの表面にアモルファスカーボン層を形成した水まわり用ガラス部材のL*、a*、b*を測定する。その後、下記式を用いてΔEを求める。
ΔL*=L*−L* 0
Δa*=a*−a* 0
Δb*=b*−b* 0
ΔE={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2
本発明において、アモルファスカーボン層の透明度を表すパラメータとして、水まわり用ガラスの表面にアモルファスカーボン層が形成される前後の色差(ΔE)をアモルファスカーボン層の膜厚で除算した値(以下、Xともいう)を用いる。透明度Xは以下の式で表される。
X(nm−1)=ΔE/アモルファスカーボン層の膜厚(nm)
透明度Xとは、アモルファスカーボン層の単位膜厚あたりの色差である。すなわち、透明度とは、膜質の指標である。例えば、膜質が良好な場合には、単位膜厚あたりの色差ΔEが大きくなる。膜質が悪い場合には、単位膜厚あたりの色差ΔEは小さい。
本発明者らは、アモルファスカーボン層において、同じ色差、同じ膜厚、あるいは同じ密度であっても、膜質が異なる場合があることを見出した。透明度X、密度、膜厚を所定範囲内とすることで、ガラス本来の透明性を確保しつつ、良好な膜質のアモルファスカーボン層を設け、長期間にわたり防汚性、防汚耐久性を発現させることが可能となる。
一方で、アモルファスカーボン層において透明性を高める、すなわちアモルファスカーボン層を設けたことによる外観変化を抑制するためには、Xが小さい値であることが好ましい。しかし、Xが小さすぎる場合は、アモルファスカーボン層の膜質が低くなり、耐侯性が得られない恐れがある。本発明において、透明度Xは、例えば0.8以下である。好ましくは、透明度Xは0.7以下である。これにより、透明性を得ることが可能となる。
本発明において、アモルファスカーボン層の密度は好ましくは2.0g/cm3未満であり、より好ましくは1.9g/cm3以下である。
一般に、アモルファスカーボン層は疎水性であり、水との接触角が高いことが知られている。一方で、長期間に亘って微量な紫外線が照射されると、アモルファスカーボン層の炭素−炭素結合の一部が切断され、酸素や水と新たに炭素‐酸素結合あるいは炭素‐水素結合が形成される。本発明者らは、アモルファスカーボン層の密度が2.0g/cm3未満に小さい場合には、アモルファスカーボン層の接触角を経年的に小さくすることができることを見出した。例えば、アモルファスカーボン層の接触角が低くなると、その表面が疎水性から親水性に変化する。そして、接触角が小さくなると、表面に付着した水滴の濡れ性が向上する。その結果、水膜に含まれる単位面積当たりの水量が減少する。そのため、表面の広い範囲に薄く水滴が広がり、水垢が目立ち難くなる。つまり、アモルファスカーボン層の密度を所定値よりも小さくすることで、長期間の使用などにより汚れが蓄積された場合であっても、汚れが目立ち難くなることを、本発明者らは新たに見出した。本発明にかかる屋内の水まわり環境で用いられる水まわり部材においては、アモルファスカーボン層の密度を所定値よりも低くしているため、汚れを目立ち難くすることができる。
本発明において、アモルファスカーボン層の密度は、XRRにより以下の方法を用いて測定する。測定装置として、例えば試料水平型多目的X線回折装置 Ultima IV(リガク社製)や水平型X線回折装置SmartLab(リガク社製)を使用することができる。測定条件として、CuKα線、測定角度(0.2〜4°)を用いる。この条件でX線散乱強度の測定データを得る。得られた測定データに対し、データ解析ソフトを用いて密度を測定する。データ解析ソフトとして、例えば(株)リガク製X線反射率解析ソフト GlobalFit [Ver. 1.3.3]を用いることができる。データ解析ソフトにて、膜厚、密度、界面ラフネスをパラメータとしてシミュレーションを行い、シミュレーションデータを得る。X線散乱強度の測定データとシミュレーションデータのX線散乱強度の値が近くなるように、最小二乗法によってフィッティングを行うことによって各パラメータの最適値を求め、膜厚、密度、界面ラフネスの値を求める。
なお、後述するように、基材の表面粗さが大きい場合、基材にうねりなどがある場合、あるいは、基材の形状などによって、上記方法での密度の測定精度が確保できない場合がある。具体的には、基材が金属やプラスチックの場合や、水栓などの複雑な形状の場合、上記方法で精度よい測定が困難な場合がある。そのような場合には、上記方法以外の方法で膜厚を測定し、RBS「高分解能ラザフォード後方散乱分光法」(HR−RBS:High Resolution Rutherford Backscattering Spectrometry)により測定した面密度を膜厚で除して密度を算出することができる。
アモルファスカーボン層に紫外線が照射されると、アモルファスカーボンの炭素‐炭素結合が切断されて、炭素は酸素や水と新たな結合(炭素‐酸素結合や炭素‐水素結合)を形成する。この反応が進行すると、一部の炭素原子はアモルファスカーボン層との結合が完全に切断されて、二酸化炭素やメタンのような低分子化合物となり、アモルファスカーボン層から放出される。その結果、アモルファスカーボン層に含まれる炭素原子の数が減少、すなわちアモルファスカーボン層が薄くなり、最終的にはアモルファスカーボン層が消失する。これを抑制するために、本発明では、アモルファスカーボン層の密度を特定の値以上とし、かつアモルファスカーボン層の膜厚を特定の値以上とする。あるいは、後述するように水素原子の量を特定の量よりも少なくする。これにより、例えば、アモルファスカーボン層に含まれる炭素原子の数を多くすることができる。このため、紫外線照射によって、アモルファスカーボン層に含まれる炭素原子の数が少し減少したとしても、十分な数の炭素原子が残存しているため、アモルファスカーボン層の消失を抑制することができる。したがって、耐侯性を得ることができると考えられる。
本発明において、アモルファスカーボン層の水素原子の量は、好ましくは3atm%より多い。より好ましくは15atm%以上、さらに好ましくは21atm%以上である。これにより、アモルファスカーボン層の防汚性を高めることが可能となる。また、アモルファスカーボン層の水素原子の量は、好ましくは42atm%よりも少ない。より好ましくは38atm%以下、さらに好ましくは35atm%以下である。これにより、アモルファスカーボン層の耐侯性を高めることが可能となる。
本発明のアモルファスカーボン層に含まれる水素原子の量は、弾性反跳粒子検出法(Elastic Recoil Detection Analysis。以下、ERDAと言う)により測定する。測定装置として、例えば高分解能RBS分析装置HRBS1000(KOBELCO社製)を使用することができる。測定条件は、加速電圧:500keV、イオン種:窒素イオンとする。反跳水素粒子のエネルギー検出範囲は、38keVから68keVまでとする。この条件で測定データを得る。得られる測定データの一例を図3に示す。測定データは、横軸に入射窒素イオンのエネルギー、縦軸に反跳水素粒子の収量をプロットしたグラフである。得られる測定データを専用解析ソフト(例えば、analysisIB、KOBELCO社製)により解析する。解析条件は、変化ステップ幅100、計算回数5000回とする。アモルファスカーボン層の表面は、次のように定義する。図3に示すように測定データのグラフにおいて、入射窒素イオンのエネルギーが60.5KeV以上の領域で反跳水素粒子の収量の最大点5を始点にして、スペクトル形状に沿って近似直線6を引く。近似直線6上の反跳水素粒子の収量の最大点5の1/2の点7をアモルファスカーボン層の表面と定義する。この定義した表面(つまり、表面からの深さが0nm)から深さ1nm相当の幅ごとにこの1nmの幅に含まれる反跳水素粒子の収量の平均値を算出する。得られた1nm幅ごとの反跳水素粒子の収量の平均値と、同様に処理した水素量既知の標準試料の反跳水素粒子の収量の平均値とを比較し、アモルファスカーボン層の表面からの深さに対する水素原子の量を示すプロファイルを作成する。このような処理によって、アモルファスカーボン層の表面からの深さ1nm幅ごとに、アモルファスカーボン層の表面からの深さが0nmから30nmまでの領域における水素原子の量のプロファイルを得る。
アモルファスカーボン層に含まれる水素原子の量を特定の量以上とすることで、アモルファスカーボン層に存在する不安定な化学結合の状態にある炭素原子の量を少なくすることができると考えられる。不安定な化学結合の状態にある炭素原子とは、ダングリングボンド(未結合手)や歪みを持った化学結合を有する炭素原子を意味する。このような状態にある炭素原子は、他の化学種との反応性が高い状態にあると考えられる。しかしながら、本発明ではアモルファスカーボン層に含まれる水素原子の量を特定の量以上とすることで、アモルファスカーボン層に存在する不安定な化学結合の状態にある炭素原子の量を少なくすることができる。よって、水まわり環境における汚れ等の物質がアモルファスカーボン層に含まれる不安定な化学結合の状態にある炭素原子と化学反応することを抑制することが可能となると考えられる。以上より、アモルファスカーボン層表面への汚れの固着を防止することができ、防汚性を得ることができると考えられる。
本発明において、アモルファスカーボン層は、長期間の使用に伴い間接的に微量の紫外線の照射を受けることにより、親水化される。本発明において親水性とは、水の静的接触角が0度以上40度以下、好ましくは5度以上35度以下、より好ましくは20度以下であることを指す。これにより、アモルファスカーボン層に汚れを含む水滴が存在する場合において、水滴とアモルファスカーボン層との接触面積を広くすることができる。したがって、水滴が蒸発する際に、水滴に含まれる汚れが凝集した状態で付着することを防ぐことができる。すなわち、付着した汚れが目立ちにくくなり、防汚性を得ることが可能となる。
本発明において、アモルファスカーボン層に他の元素をドーピングすることによって、アモルファスカーボン層の表面の物性を改変することができる。
ドーピングする元素としては、チタン、クロム、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、銀、金、ニオブ、モリブデン、タングステン以外の元素から選択されることが好ましい。好ましい元素としては、ケイ素、酸素、硫黄、窒素などが挙げられる。特に、アモルファスカーボン層にケイ素および/または酸素をドープすると、アモルファスカーボン層の親水性が向上することが知られている。アモルファスカーボン層が、ケイ素および/または酸素をさらに含むことで、表面に付着した汚れをより汚れを目立ちにくくすることができる。
本発明では、アモルファスカーボン層と基材との間に、中間層が存在してもよい。中間層は、炭素、水素、ケイ素を含有することが好ましい。中間層に含まれるケイ素の量は、アモルファスカーボン層に含まれるケイ素の量よりも多い方が好ましい。このような中間層を設けることで、アモルファスカーボン層と基材の密着性を向上させることが可能となる。中間層にケイ素と炭素の結合を含むことで、アモルファスカーボン層と中間層の密着性を向上させることが可能となる。また、アモルファスカーボン層に中間層材料が混在していてもよい。
アモルファスカーボン層を形成する方法としては、物理蒸着法(PVD法)又は化学蒸着法(CVD法)が挙げられる。PVD法としては、スパッタ法、イオンプレーティング法などが挙げられる。CVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、イオン化蒸着法などが挙げられる。
本発明において、アモルファスカーボン層はプラズマCVD法を用いて形成されるのが好ましい。
本発明では、基材表面にアモルファスカーボン層または中間層を形成する際に、基材の前処理を行うことができる。前処理は、(1)基材表面に付着した有機や無機の吸着物を除去、(2)酸化物層の除去による密着性の向上、(3)基材表面粗さの調整、(4)基材表面のプラズマによる活性化等の目的で実施される。前処理は、中間層やアモルファスカーボン層を形成する同一プロセスで行っても良いし、別プロセスとして行っても良い。
プラズマCVD法では、プラズマCVD装置を用いて、アモルファスカーボン層を形成する。本発明で利用可能なプラズマCVD装置の一例を図3に示す。プラズマCVD装置は、一般的に、アモルファスカーボン層を形成するための容器11と、容器11内を減圧するための減圧手段12と、容器内に原料を導入する原料導入部13と、容器11内に設けられ基材1を支持する基材支持部14と、基材支持部14に電圧を印加する電圧印加手段15と、原料をプラズマ化して高密度プラズマを生成するための高密度プラズマ生成手段16、とを備える。容器11内でプラズマ化された原料が基材1表面において互いに化学反応を繰り返すことにより、基材1上に堆積していき、基材1上にアモルファスカーボン層が形成されると考えられる。原料をプラズマ化するため、容器11内の温度を200℃以下の低温に保つことができる。これによって、鏡などの樹脂と複合されたガラス基材を用いることが可能となる。
(成膜装置)
アモルファスカーボン層を形成するための容器と、容器を減圧するための減圧手段と、容器内に原料を導入する原料導入部と、基材を支持する基材支持部と、基材支持部に設けられた電極板と、電極板に電圧を印加する電圧印加手段と、高密度プラズマを生成する高密度プラズマ生成手段と、を備えるプラズマCVD装置を用いた。高密度プラズマ生成手段として、アンテナと高周波電源とを用いた。
基材として、水まわり用ガラスとして用いられるソーダライムガラス板を使用した。基材表面の汚れを除去するために、イオン交換水およびエタノールによる洗浄を順次実施した。
基材を基材支持部に配置し、減圧手段により高真空状態(1Pa以下)まで減圧した。次に、酸素ガスを導入し、容器内の圧力が0.01〜2.0Paとなるように調整した。高周波出力100〜500W、基材温度100℃以下とし、基材表面の前処理を行った。
アモルファスカーボン層の原料には、アセチレンを用いた。容器内の圧力を0.001〜2Pa、および高周波電源の出力を100〜390W、電極板に印加する電圧を−12〜−2kVになるように調整して、所定の処理時間の成膜を行うことにより、基材上にアモルファスカーボン層を形成し、実施例1のサンプルを得た。このサンプルについて各評価を行った。
実施例2〜10は、実施例1に対して、容器内の圧力、高周波電源の出力、基材に印加する電圧を実施例1の記載範囲内で変更した以外は同様の方法によりサンプルを得た。このサンプルについて各評価を行った。
(密度および膜厚の測定)
各サンプルのアモルファスカーボン層の密度および膜厚は、XRRにより測定した。測定装置として、試料水平型多目的X線回折装置 Ultima IV(リガク社製)を使用した。測定条件として、CuKα線、測定角度(0.2〜4°)を用いた。この条件で各サンプルのX線散乱強度の測定データを得た。得られた測定データに対し、データ解析ソフトを用いて密度を算出した。データ解析ソフトとして、((株)リガク製X線反射率解析ソフトGlobalFit [Ver.1.3.3]を用いた。データ解析ソフトにて、膜厚、密度、界面ラフネスをパラメータとしてシミュレーションデータを得た。X線散乱強度の測定データとシミュレーションデータのX線散乱強度の値が近くなるように、最小二乗法によってフィッティングを行うことによって各パラメータの最適値を求め、膜厚、密度、界面ラフネスの値を求めた。得られた膜厚および密度を表1に示す。
各サンプルの色差の測定には、分光測色計(型番:CM−2600d、コニカミノルタ社製)を用いた。観察光源は、F2を用いた。測定器に白色校正板にて校正を実施した。まず、アモルファスカーボン層を形成する前に、基材のL* 0、a* 0、b* 0をそれぞれ測定した。次に、作製したサンプルのL*、a*、b*を測定した。その後、下記式を用いてΔEを求めた。
ΔL*=L*−L* 0
Δa*=a*−a* 0
Δb*=b*−b* 0
ΔE={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2
得られたΔEを表1に示す。また、得られたΔEと得られた膜厚を用いて、下記の式から透明度Xを求めた。得られた透明度Xを表1に示す。
X(nm−1)=ΔE/アモルファスカーボン層の膜厚(nm)
さらに、透明性を次のように評価した。色差ΔEが10以下かつ透明度Xが0.8以下のものを◎(非常に良好)、ΔEが12以下またはXが0.8以下のものを○(良好)、ΔEが12より大またはXが0.9以上のものを×(不良)と判定した。
防汚耐久性の評価は、JIS−A−1415に準拠したサンシャインカーボンアーク式ウェザーメーター試験の後、サンプルの外観評価を行うことにより行った。装置は、WEL−SUM−HC(H)(スガ試験機社製)を用いた。ランプは、サンシャインカーボンアークランプ、試験時間は50時間および100時間の2種類とした。50時間あるいは100時間の中で、102分間光照射後に18分間光照射及び水噴霧を行う合計120分のサイクルを繰り返した。試験後のサンプルに対して、防汚性の評価を行った。
防汚性の評価は、次のように行った。
アモルファスカーボン層の表面に、水道水を20μl滴下し、24時間放置することにより、サンプル表面に水垢を形成した。水垢を形成したサンプルを以下の条件で評価した。洗剤をアモルファスカーボン層の表面に適量塗布し、スポンジのウレタンフォーム面を用いて、アモルファスカーボン層の表面に対して5回往復摺動させた。洗剤として、浴室清掃用の中性洗剤を用いた。その後、サンプル表面の洗剤を流水で洗い流し、エアダスターで水分を除去した。サンプル表面に水垢が残存しているかを目視で判断した。試験時間50および100時間のサンプルで水垢が残存していないものを◎(非常に良好)、試験時間50時間のサンプルのみ水垢が残存していないものを○(良好)、試験時間50および100時間のサンプルとも水垢が残存しているものを×(不良)と判定した。結果を表1に示す。水垢の落ちやすさを示すものは、アモルファスカーボン層が紫外線で消失せずに残存していることを示す。したがって、紫外線照射後の水垢の落ちやすさを評価することで、耐侯性すなわち防汚耐久性を評価した。
得られた各サンプルに紫外線を照射したのち、サンプルの表面に水垢を形成し、この水垢の目立ちにくさを評価した。まず、低圧水銀ランプを備えた光表面処理装置PL21−200(セン特殊光源社製)を用いて、サンプル表面に紫外線を照度30mW/cm2にて、3分間照射した。このサンプル表面に水道水を散布することで、サンプル表面に水垢を形成した。1回当りの水道水の散布は、流量1L/minで1分間行った。水道水を168回散布した後に、水垢の目立ちにくさを評価した。水垢の目立ちにくさを目視により評価した。168回散布後に水垢がほとんど目立たないものを◎、目立ちにくいものを○、168回散布後に水垢が目立つものを×、と判定した。結果を表1に示す。
上述の汚れの目立ちにくさを評価したサンプルについて、水の静的接触角を測定することで、親水性の持続性を評価した。水の静的接触角の測定には、接触角計(CA−X150、協和界面科学製)を用いた。結果を表1に示す。
比較例1は、実施例1に対して、高周波電源の出力値を400Wとした以外は、実施例1と同様の方法にてサンプルを得た。
比較例2は、実施例1に対して、高周波電源の出力値を0Wとした以外は、実施例1と同様の方法にてサンプルを得た。
比較例3は、実施例1に対して、真空容器内の圧力を実施例1の記載範囲内で調整し、高周波電源の出力値を0W、基材に印加する電圧を−10kVとした以外は、実施例と同様の方法にてサンプルを得た。
2 アモルファスカーボン層
3 中間層
11 容器
12 減圧手段
13 原料導入部
14 基材支持部
15 電圧印加手段
16 高密度プラズマ生成手段
17 排気口
18 圧力調整手段
19 真空ポンプ
20 電極板
21 電源
22 アンテナまたは電極
23 電源
Claims (11)
- 屋内水まわり環境で用いられる水まわり用ガラス部材であって、
ガラス基材と、
前記ガラス基材の表面に設けられ、炭素原子を主に含むアモルファスカーボン層と、
を備え、
前記アモルファスカーボン層は、
密度が1.1g/cm3より大きく2.0g/cm3未満であり、
膜厚が4nm以上20nm以下であり、
前記アモルファスカーボン層が形成される前後の色差(ΔE)を前記膜厚で除算した値(X)が0.2よりも大きく0.9未満であることを特徴とする
水まわり用ガラス部材。 - 前記アモルファスカーボン層が形成される前後の色差(ΔE)を前記膜厚で除算した値(X)が0.3以上0.7以下である、請求項1に記載の水まわり用ガラス部材。
- 前記アモルファスカーボン層が形成される前後の色差(ΔE)が2以上12以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の水まわり用ガラス部材。
- 前記アモルファスカーボン層は、前記膜厚が7nm以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水まわり用ガラス部材。
- 前記アモルファスカーボン層は、前記色差が4以上10以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水まわり用ガラス部材。
- 前記アモルファスカーボン層は、ケイ素および酸素のうちの少なくともいずれかをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水まわり用ガラス部材。
- 前記基材と前記アモルファスカーボン層との間に設けられた中間層をさらに備えた、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水まわり用ガラス部材。
- 水まわり用ガラスの表面にアモルファスカーボン層が形成された水まわり用ガラス部材の製造方法において、
容器内に設けられた基材支持部に水まわり用ガラスを配置する工程と、
前記容器内を減圧する工程と、
前記容器内に原料を導入し、前記容器内を所定圧力に調整する工程と、
前記原料をプラズマ化して前記アモルファスカーボン層の密度を1.1g/cm 3 より大きく2.0g/cm 3 未満の範囲とすることが可能な程度に該プラズマ中のラジカルを多くした高密度プラズマを生成する高密度プラズマ生成工程と、
前記基材支持部に電圧を印加する工程と、
前記高密度プラズマを前記水まわり用ガラスの表面に堆積させ、前記水まわり用ガラスの表面に膜厚が4nm以上20nm以下であり、前記アモルファスカーボン層が形成される前後の色差(ΔE)を前記膜厚で除算した値(X)が0.2よりも大きく0.9未満であるアモルファスカーボン層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、水まわり用ガラスの製造方法。 - 前記高密度プラズマは、誘導結合型プラズマ、表面波プラズマ、ヘリコン波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴プラズマ、ペニングイオンゲージ放電プラズマ、ホローカソード放電プラズマのいずれか1つ以上であることを特徴とする、請求項8に記載の水まわり用ガラス部材の製造方法。
- 前記高密度プラズマは、誘導結合型プラズマであることを特徴とする、請求項8または9に記載の水まわり用ガラス部材の製造方法。
- 前記高密度プラズマは、前記容器内に配置されたアンテナに電力を供給し、前記原料をプラズマ化することにより生成されることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の水まわり用ガラス部材の製造方法。
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